IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人島根大学の特許一覧

<>
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図1
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図2
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図3
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図4
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図5
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図6
  • 特開-非接触型測距装置及び方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119469
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】非接触型測距装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 9/02 20220101AFI20230821BHJP
【FI】
G01B9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022391
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達也
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
(72)【発明者】
【氏名】張 超
【テーマコード(参考)】
2F064
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064CC04
2F064EE01
2F064FF08
2F064GG02
2F064GG24
(57)【要約】
【課題】本開示では、単一光源を用いる簡便な測距装置において、周波数の掃引速度を低下させることなく測定距離の延長を実現することを目的とする。
【解決手段】本開示は、周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、前記参照光又は前記プローブ光が入射され、入射された光を異なる複数の周波数の光に複製する光複製部と、前記複数の周波数の光及び前記複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光を合波し、前記複数の周波数の光及び前記光複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光の干渉によって得られる最小のビート周波数を検出する主干渉計と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、
前記参照光又は前記プローブ光が入射され、入射された光を異なる複数の周波数の光に複製する光複製部と、
前記複数の周波数の光及び前記光複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光を合波し、前記複数の周波数の光及び前記光複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光の干渉によって得られる最小のビート周波数を検出する主干渉計と、
を備える非接触型測距装置。
【請求項2】
前記周波数掃引光の一部を2分岐するカプラと、
前記カプラで2分岐された前記周波数掃引光の一部の一方に、前記周波数掃引光のコヒーレンス時間よりも短い遅延時間τauxの遅延を発生させる遅延器と、
前記遅延器で遅延させた前記一方と前記カプラで2分岐された前記周波数掃引光の一部の他方との干渉によるビート信号の位相X(t)を取得する補助干渉計と、をさらに備え、
前記補助干渉計により取得されたビート信号の前記位相X(t)、整数N及び式(C1)を用いて、前記参照光と前記プローブ光との光経路差に相当する前記プローブ光の前記参照光に対する遅延時間τにおける前記周波数掃引光の位相X(τ)を求め、前記主干渉計で得られた最小のビート周波数における前記周波数掃引光の非線形性を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の非接触型測距装置。
【数C1】
【請求項3】
前記遅延時間τをあらかじめ推定し、式(C2)を満足する前記整数Nを用いる
ことを特徴とする請求項2に記載の非接触型測距装置。
(数C2)
τ≒Nτaux (C2)
【請求項4】
前記光複製部は、前記複数の周波数の光として、前記周波数掃引光の周波数掃引幅よりも広い周波数範囲の光周波数コムを生成する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の非接触型測距装置。
【請求項5】
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距方法において、
前記参照光又は前記プローブ光を異なる複数の周波数の光に複製すること、
前記複数の周波数の光及び複製されなかった前記参照光又は前記プローブ光を合波し、前記複数の周波数の光及び前記複製されなかった前記参照光又は前記プローブ光の干渉によって得られる最小のビート周波数を検出すること、
を行う非接触型測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、周波数掃引光を用いた非接触型測距装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正確な測距技術は大規模構造物の形状測定のような計測において重要な技術である。このような応用は多数存在し、パラボラアンテナや建築物のような人工物の形状測定、氷床の厚み計測や森林の高さ測定に代表される自然形成物の測定、等がある。特に、建物等のヘルスモニタリングや防災を目的とした大規模構造物の計測では、遠方の測定物の位置や形状を高精細に測定する需要が存在する。
【0003】
LiDAR(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)は、レーザ光を使って被測定物までの光路長を計測する非接触型測距技術である。このような技術において、周波数変調連続波(FMCW)型LiDARは単一光源で測距を行い、速度・振動検知の能力がある。FMCW型LiDARでは、光周波数を掃引し、戻り光との干渉により生じる周波数差(ビート周波数、IF)を距離に換算する。100nmの掃引帯域を有する光源を用いれば約12μmの分解能が実現できる。
【0004】
しかしながら、FMCW型LiDARでは、測定距離は光源のコヒーレンス長により数十mに限定されている。また、得られるビート周波数が受信帯域を上回る計測はできない。これは、受信帯域が一定である限り、周波数の掃引速度と測定距離の積に上限が生じることを意味する。すなわち、受信帯域が一定ならば、測定距離又は周波数の掃引速度のいずれかを犠牲にしなければならないという課題がある。なお、測定の繰り返し周波数(リフレッシュレート)は周波数の掃引速度に比例するため、周波数の掃引速度を犠牲にすることは、リフレッシュレートを犠牲することになる。以上2つの要因により、FMCW型LiDARは専ら数十m程度以内の比較的短距離の測距に限定されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Sakamoto et al. “Asymptotic formalism for ultraflat optical frequency comb generation using a Mach-Zehnder modulator,” OPTICS LETTERS Vol. 32, No. 11 p.1515 June 1, 2007
【非特許文献2】F. Ito et al., “Long-Range Coherent OFDR with Light Source Phase Noise Compensation,” JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL. 30, NO. 8, pp. 1015-1024, APRIL 15, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記課題を解決するために、本開示は、単一光源を用いる簡便な測距装置において、周波数の掃引速度を低下させることなく測定距離の延長を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示は、参照光又はプローブ光の一方から複数の周波数の光を複製し、複製した複数の周波数の光と参照光又はプローブ光の他方とを干渉させる。
【0008】
具体的には、本開示に係る非接触型測距装置は、
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距装置において、
前記参照光又は前記プローブ光が入射され、入射された光を異なる複数の周波数の光に複製する光複製部と、
前記複数の周波数の光及び前記複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光を合波し、前記複数の周波数の光及び前記光複製部に入射されなかった前記参照光又は前記プローブ光の干渉によって得られる最小のビート周波数を検出する主干渉計と、
を備える。
【0009】
具体的には、本開示に係る非接触型測距方法は、
周波数掃引光を被測定物に照射し、前記被測定物で反射されたプローブ光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することにより、前記被測定物までの距離を求める非接触型測距方法において、
前記参照光又は前記プローブ光を異なる複数の周波数の光に複製すること、
前記複数の周波数の光及び複製されなかった前記参照光又は前記プローブ光を合波し、前記複数の周波数の光及び前記複製されなかった前記参照光又は前記プローブ光の干渉によって得られる最小のビート周波数を検出すること、
を行う。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、単一光源を用いる簡便な測距装置において、周波数の掃引速度を低下させることなく測定距離の延長を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る非接触型測距装置の構成の一例を示す図である。
図2】従来のFMCW型LiDARにおける参照光及びプローブ光の周波数並びに干渉信号スペクトルを説明する図である。
図3】実施形態1に係る非接触型測距装置における参照光及びプローブ光の周波数を説明する図である。
図4】実施形態1に係る非接触型測距装置における干渉信号スペクトルを説明する図である。
図5】実施形態1に係る非接触型測距装置における参照光及びプローブ光の周波数を説明する図である。
図6】実施形態1に係る非接触型測距装置における参照光及びプローブ光の周波数を説明する図である。
図7】実施形態2に係る非接触型測距装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1にFWCW型LiDAR方式をベースとした本開示の実施形態を示す。1は周波数掃引光源、2は光を分波または合波するカプラ、3は光サーキュレータ、4はレンズ、5は被測定物、6は遅延器、7は光周波数コム発生器、8は光90度ハイブリッド、9はバランス型フォトデテクタ、10はADコンバータ、11はコンピュータ等の演算部、12はRFシンセサイザである。
【0014】
光周波数コム発生器7は本開示の光複製部として機能する。光90度ハイブリッド8、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2、ADコンバータ10-1は、本開示の光検出部として機能する主干渉計20を構成する。以下、「光検出部の受信帯域」を「受信帯域」と略記する。
【0015】
周波数掃引光源1は、周波数が線形に変調されたレーザ光を発振する。その周波数は、一定の掃引速度γ[Hz/s]で、一定の周波数掃引時間ΔTに、周波数掃引幅ΔFにわたり掃引される。本実施形態では、周波数掃引光源1から出力される光をレーザ光として説明するが、コヒーレント光であればこれに限定されない。
【0016】
カプラ2-1は、周波数掃引光源1から入力された光を2つに分岐し、一方をプローブ光として光サーキュレータ3に入力し、他方を参照光として光周波数コム発生器7に入力する。光サーキュレータ3は、カプラ2-1からのプローブ光をレンズ4に入力する。また、光サーキュレータ3は、レンズ4からの光を光90度ハイブリッド8に入力する。レンズ4は、周波数掃引光源1からのプローブ光を平面波に変換する。また、レンズ4は、被測定物5からの反射されたプローブ光を集光して光サーキュレータ3に入力する。
【0017】
光周波数コム発生器7は、入力された光に対して高次の変調側波帯を発生させるものである。光周波数コム発生器7の具体的な構成としては、例えば非特許文献1に記載がある。本実施形態では、一例として、アンプ13を介したRFシンセサイザ12の信号が光周波数コム発生器7に入力され、光周波数コム発生器7がRFシンセサイザ12からの信号に応じた周波数間隔で光周波数コムを発生させる例を示す。
【0018】
光周波数コム発生器7は、カプラ2-1から入力された参照光の周波数を含み、複数の異なる周波数で構成される光周波数コムを生成する。光周波数コム発生器7は、生成した光周波数コムを、主干渉計20の参照光として光90度ハイブリッド8に入力する。被測定物5により反射されたプローブ光は、レーザ光(参照光)と光90度ハイブリッド8において干渉する(主干渉計)。主干渉計20では、被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間を測定することができる。演算部11は、この遅延時間を用いて測距を行う。図1では、演算部11を主干渉計20に含まれる構成としているが、主干渉計20と演算部11は別々でもよい。
【0019】
具体的には、光90度ハイブリッド8は、参照光と被測定物5からの反射光とを合波したビート信号の同相成分Iを生成し、バランス型フォトデテクタ9-1に入力する。また、光90度ハイブリッド8は、90度位相シフトさせた参照光と被測定物からの反射光とを合波したビート信号の直交成分Qを生成し、バランス型フォトデテクタ9-2に入力する。
【0020】
バランス型フォトデテクタ9-1は、光90度ハイブリッド8からの入力に基づき、ビート信号の同相成分Iのアナログ電気信号を取得し、ADコンバータ10-1に入力する。バランス型フォトデテクタ9-2は、光90度ハイブリッド8からの入力に基づき、ビート信号の直交成分Qのアナログ電気信号を取得し、ADコンバータ10-1に入力する。ADコンバータ10-1は、カプラ9-1から入力されるビート信号の同相成分Iのアナログ電気信号及びカプラ9-2から入力されるビート信号の直交成分Qのアナログ電気信号をデジタル信号に変換し、演算部11に入力する。
【0021】
ここで、光周波数コム発生器7を備えない従来のFMCW型LiDARにおける参照光とプローブ光の干渉について図2を用いて説明する。すなわち、従来のFMCW型LiDARは、図1の主干渉計において、カプラ2-1からの参照光が光90度ハイブリッド8に直接入力される構成である。従来のFMCW型LiDARでは、カプラ2-1からの参照光と、参照光に対して被測定物5までの距離を往復した分だけ遅延したプローブ光とが到着し、その周波数差に相当する周波数を持つビート信号が発生する。以下、ビート信号の周波数をビート周波数IFとする。このビート周波数IFは、被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間に比例するため、測距ができる。
【0022】
ビート信号は、具体的には、光90度ハイブリッド8から出力されるビート信号のI相成分およびQ相成分を用いて複素数表示で式(1)のように表される。
(数1)
I+jQ=exp(jγτt) (1)
【0023】
演算部11は、ADコンバータ10-1から入力されるハイブリッド信号の同相成分I及び直交成分Qに基づき、式(1)からビート信号の位相を求める。ここで、τは、参照光とプローブ光との光経路差に相当するプローブ光の参照光に対する遅延時間であり、γτがビート周波数IFである。
【0024】
一般に、FMCW型LiDARの距離分解能Δzは、周波数掃引幅ΔFを用いて以下のように表される。
(数2)
Δz=c/(2ΔF) (2)
【0025】
つまり、距離分解能Δzを向上するには、周波数掃引幅ΔFを大きくする必要がある。かつ、ビート周波数IFは被測定物5までの距離により変動する遅延時間τと掃引速度γに比例する。そのため、仮に受信帯域が一定であるならば、掃引速度γと距離との積に対して限界が生じることになる。具体的には、従来のFMCW型LiDARでは、図2(B)に示すように、ビート周波数IFが受信帯域外となるビート信号は検知できず、受信帯域による測定距離の限界が生じる。なお、繰り返し周波数(リフレッシュレート)は、掃引速度γに比例するため、掃引速度γが制限されれば、リフレッシュレートも制限されることになる。
【0026】
本開示では、この受信帯域による測定距離の限界を排除するため、参照光経路に、すなわち、カプラ2-1と光90度ハイブリッド8との間に、前述した光周波数コム発生器7を導入する。
【0027】
図3に、光周波数コム発生器7で生成される光周波数コムの一例を示す。本実施形態に係る光周波数コム発生器7は、カプラ2-1から入力された参照光の周波数を含み、複数の異なる周波数で構成される光周波数コムを生成する。図3に示す光周波数コムでは、理解が容易になるように、参照光Lref1が周波数掃引光源1が周波数を掃引するレーザ光に相当し、各時刻において、参照光Lref1を中心に両側に等間隔に離れた周波数を2つずつ含む計5つの周波数で構成される例を示す。
【0028】
本実施形態に係る光周波数コムは一例であり、周波数の数はこれに限定されない。また、光周波数コムの周波数間隔は等間隔ではなく、異なっていてもよい。なお、図3に示す数程度の複数の周波数を含む光周波数コムの生成を行う光複製部には、光周波数コム発生器7に限らず、入力された光に対して側波帯を発生させうる任意の手段を採用し得る。
【0029】
本実施形態では、カプラ2-1から入力された参照光が周波数掃引光源1によって線形に掃引されるため、光周波数コムも線形に掃引される。これにより、本開示におけるカプラ2-1からの参照光は、図3に示す周波数掃引された光周波数コムとなって光90度ハイブリッド8に入射する。
【0030】
図4に、本実施形態の主干渉計20が検出するビート周波数の一例を示す。時刻τにおける光周波数コムを構成する参照光Lref1~Lref5とプローブ光Lとのビート周波数IF1~IF5について示す。ビート周波数IF1は、プローブ光Lと参照光Lref1との間のビート周波数である。ビート周波数IF2は、プローブ光Lと参照光Lref2との間のビート周波数である。ビート周波数IF3は、プローブ光Lと参照光Lref3との間のビート周波数である。ビート周波数IF4は、プローブ光Lと参照光Lref4との間のビート周波数である。ビート周波数IF5は、プローブ光Lと参照光Lref5との間のビート周波数である。
【0031】
図4に示すように、被測定物5までの伝搬により遅延を受けたプローブ光は、光周波数コムを構成する参照光のすべてと干渉し、ビート周波数IF1~IF5のビート信号が発生する。本開示では、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2などの受信帯域が、観測されるビート周波数を、プローブ光と、その最も近い周波数の参照光Lref2との干渉により得られるビート周波数IF2のみにする。
【0032】
ここで、周波数が等間隔である図5に示す光周波数コムの周波数間隔をΔfとすると最小のビート周波数はΔf/2以下となる。そのため、主干渉計20は少なくともΔf/2以下を受信帯域とすることが望ましい。図5に示すように光周波数コムの周波数間隔Δfを狭めると、最小のビート周波数の最大値Δf/2が低くなるので、受信帯域が狭い主干渉計20でも最小のビート周波数を検出可能となる。なお、周波数間隔が等間隔ではない光周波数コムの場合は、周波数間隔が最大の周波数間隔をΔfとすれば等間隔の場合と同様に説明できる。
【0033】
図5では、参照光及びプローブ光の一部分を記載しているだけであり、参照光及びプローブ光はさらに高い周波数帯域側にも線形に掃引されているものとする。光周波数コム発生器7において周波数掃引光源1の周波数掃引幅ΔFよりも十分に広い周波数帯域の光周波数コムを発生すれば、被測定物5が遠方にある場合でも、バランス型フォトデテクタ9-1及び9-2などの受信帯域を拡張することなく、いずれかの光周波数コム成分との干渉を観測することができる。このとき、どの周波数成分と干渉したかはわからないので、測距結果には周期的な曖昧さが残ることになるが、これは事前の粗測定により排除することができる。
【0034】
なお、上記構成において光周波数コム発生器7は主干渉計20手前のプローブ光経路、すなわち、光サーキュレータ3と光90度ハイブリッド8との間に配置してもよい。この場合、光周波数コム発生器7には、被測定物5で反射されたプローブ光が入力される。そのため、図6に示すように、光周波数コム発生器7は、被測定物5で反射されたプローブ光の周波数を含み、複数の異なる周波数で構成される光周波数コムを生成することになる。一方で、参照光は1つの光となる。この場合において、プローブ光に基づく光周波数コムのうち、参照光の周波数と最も近い周波数の光と参照光との干渉によるビート信号の周波数を計測することで、図1に示す構成と同様の効果を得ることができる。
【0035】
以上のように、光周波数コム発生器7の導入により、周波数の掃引速度を低下させることなく、受信帯域による測定距離の限界を排除することができる。
【0036】
(実施形態2)
図7に、FWCW型LiDAR方式をベースとした本開示の実施形態を示す。一般に周波数掃引光源は、その周波数掃引のトレースは完全に線形ではなく、一定レベルの不完全さ(非線形性)をもつ。この非線形性は、掃引速度γの揺らぎを意味するから、一定距離からのビート周波数が揺らぐことになり、式(2)で与えられた理論的な距離分解能は得られなくなる。
【0037】
そこで、この問題を解決するために、本実施形態に係る非接触型測距装置では、補助干渉計21をさらに備える。補助干渉計21は、カプラ2-4、バランス型フォトデテクタ9-3、ADコンバータ10-2及び演算部11を備える。補助干渉計21は、遅延なしの光と遅延器6による遅延時間τauxだけ遅延させた光との干渉によるビート信号の位相を取得する干渉計である。補助干渉計21でのビート信号は遅延時間τauxに相当する距離にある被測定物5から反射されたプローブ光に基づくビート信号と同一である。
【0038】
カプラ2-2は、周波数掃引光源1からのレーザ光を2分岐し、一方を主干渉計20用の光としてカプラ2-1に入力し、他方を補助干渉計21用のカプラ2-3に入力する。これにより、周波数掃引光の一部が取り出される。なお、カプラ2-1は、カプラ2-2から入力された光に対して実施形態1と同様の動作を行う。
【0039】
補助干渉計21では、カプラ2-3は、カプラ2-2から入力された光を2つに分岐し、一方をカプラ2-4に入力し、遅延器6に入力する。遅延器6は、カプラ2-3から入力された光に遅延時間τauxの遅延を発生させてカプラ2-4に入力する。カプラ2-4は、カプラ2-3から直接入力された光及び遅延器6から入力された光を合波してビート信号を生成し、さらにビート信号を2つに分岐してバランス型フォトデテクタ9-3に入力する。バランス型フォトデテクタ9-3は、カプラ2-4からのビート信号をアナログ電気信号として取得し、ADコンバータ10-2に入力する。ADコンバータ10-2は、カプラ9-3から入力されるビート信号をデジタル信号に変換し、演算部11に入力する。
【0040】
補助干渉計21のビート信号の周波数で主干渉計20のビート信号を、補助干渉計21のビート信号を用いて“リサンプリング”することにより、光源の周波数掃引の非線形性を除去することができる。
【0041】
しかし、この方法は、補助干渉計の遅延時間τauxに相当する測定距離付近でしか通用しない。すなわち、周波数掃引光源1からのレーザ光の位相は、コヒーレンス時間と呼ばれる個々の周波数掃引光源1に固有の時間においてのみ相関的であり、その時間を経過すると位相の相関は消失する。このことは、被測定物5までの距離(遅延時間)が、補助干渉計の遅延時間τauxとコヒーレンス時間以上に異なってしまうと、補助干渉計21のビート周波数と主干渉計20のビート周波数はもはや相関を持たなくなり、機能しなくなってしまう。
【0042】
そこで、本開示の第2のポイントとして、演算部11は、位相雑音補償アルゴリズムを内蔵する。この位相雑音補償アルゴリズムの原理は、非特許文献2に記載されている。演算部11は、非特許文献2で開示された方法に従ってもよい。すなわち、演算部11は、図7のADコンバータ10-2から入力されたビート信号を取得し、遅延時間τaux毎の補助干渉計21のビート信号の位相X(t)を取得する。演算部11は、補助干渉計21のビート信号の位相X(t)を用いて、式(3)に示す位相X(τ)を計算する。
【数3】
【0043】
ここで、Nは正の整数である。τは前述した遅延時間である。τ≒Nτauxが成立する。また、遅延時間τはレーザ光のコヒーレンス時間を超えてもよい。非特許文献2に記載されているように、時間τauxがレーザ光のコヒーレンス時間よりも短い場合には、遅延時間τを遅延時間τauxの整数N倍とし、遅延時間τにおける主干渉計20のビート信号の位相を式(3)で計算できる。したがって、位相X(τ)が一定値増加するごとに主干渉計20の信号をリサンプリングすれば、レーザ光のコヒーレンス時間を超える時間Nτaux近傍の遅延時間τに相当する距離の測定が可能となる。その結果、前述のコヒーレンス時間の有限性の課題を克服することができる。また、非特許文献2に記載されているように、式(3)の位相X(τ)は遅延時間τにおけるレーザ光の位相にも相当する。そのため、式(3)を用いれば、レーザ光の周波数掃引の非線形性を補正することができ、式(2)の分解能も実現することができる。前述したように、補助干渉計の遅延時間τauxは使用する周波数掃引光源1のコヒーレンス時間よりも短く設定する必要がある。
【0044】
本発明は、次に示す手順により、この位相雑音補償アルゴリズムを測距に適用する手法を開示する。まず、被測定物5までの距離を、補助干渉計の遅延τauxよりも高い精度で推定する。一般的に、周波数掃引光源のコヒーレンス長は数十m程度であり、遅延τauxも同程度のオーダーであるので、この推定は容易である。例えば、パルス法など公知の方法により、おおよその距離を事前に把握しておけばよい。
【0045】
次に、推定距離Lにある被測定物5から反射されたプローブ光の参照光に対する遅延時間をτとして、式(4)を満足する整数Mを求める。
(数4)
τ≒Mτref (4)
【0046】
さらに、式(3)を用いて位相X(τ)を計算し、これを用いてレーザ光の周波数掃引の非線形性を補正する。これにより、式(2)の原理的には理論分解能を達成することができる。
【0047】
なお、本実施形態に係る主干渉計20では、光90度ハイブリッド8を用いてハードウェアベースで処理する構成としたが、ヒルベルト変換を用いてソフトウェアベースで処理してもよい。また、本実施形態に係る補助干渉計20では、ヒルベルト変換を用いてソフトウェアベースで処理する構成としたが、光90度ハイブリッド8を用いてハードウェアベースで処理してもよい。
【0048】
本実施形態に係る演算部11はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示に係る非接触型測距装置及び方法は、情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1:周波数掃引光源
2:カプラ
3:光サーキュレータ
4:レンズ
5:被測定物
6:遅延器
7:光周波数コム発生器
8:光90度ハイブリッド
9:バランス型フォトデテクタ
10:ADコンバータ
11:演算部
12:RFシンセサイザ
13:アンプ
20:主干渉計
21:補助干渉計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7