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特開2023-119502高密度金属ナノ粒子改質BDD電極及びその製造方法、並びそれを用いたヒ素の検知方法及び検知装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119502
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】高密度金属ナノ粒子改質BDD電極及びその製造方法、並びそれを用いたヒ素の検知方法及び検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20230821BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N21/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022445
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】竹村 謙信
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 渉
(72)【発明者】
【氏名】森田 伸友
(72)【発明者】
【氏名】大曲 新矢
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043BA17
2G043EA03
2G043FA06
2G043KA09
2G043LA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、特定の高電圧印加によって、BDD電極基板上に沈着する金属ナノ粒子の密度及び粒子径を高度に制御することが可能な、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極は、金属ナノ粒子を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質してなる。前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上100nm未満の粒子が90/μm以上の密度で分散ししていることを特徴とする、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質してなる、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極であって、
前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、
前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上100nm未満の粒子が90個/μm以上の密度で分散していることを特徴とする、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素である、請求項1に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子が金ナノ粒子である、請求項1に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上の粒子数100%に対して、粒子径10nm以上100nm未満の粒子数が80%以上である請求項1~3の何れか1項に記載の、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径が、30nm以上90nm以下である請求項1~4の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子は、粒子径200nm以上の粒子数が20個/μm以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【請求項7】
金属ナノ粒子を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質してなる、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を、電気化学反応方法で製造する方法であって、
前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、
前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上100nm未満の粒子が90個/μm以上の密度で分散し、
金属イオン水系溶液に-2.0~-1.7Vの印加電圧を印加し、前記BDD電極の表面において、前記金属イオンを前記金属ナノ粒子に還元する工程を含む、
ことを特徴とする、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法。
【請求項8】
前記印加電圧を印加する時間が、30秒~120秒である、請求項7に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法。
【請求項9】
前記金属イオン水系溶液の濃度は、0.5~10質量%である、請求項7又は8に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする重金属の検知方法。
【請求項11】
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として備える、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いた重金属の検知装置。
【請求項12】
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする微生物の検知方法。
【請求項13】
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として備える、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いた微生物の検知装置。
【請求項14】
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする有機化合物の検知方法。
【請求項15】
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として備える、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いた有機化合物の検知装置。
【請求項16】
表面増強ラマン分光分析方法で分析するために用いる測定基板であって、
請求項1~6の何れか1項に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする表面増強ラマン分光分析方法用測定基板。
【請求項17】
請求項16に記載の表面増強ラマン分光分析方法用測定基板を用いることを特徴とする表面増強ラマン分光分析方法。
【請求項18】
請求項16に記載の表面増強ラマン分光分析方法用測定基板を備えることを特徴とする表面増強ラマン分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度金属ナノ粒子改質BDD(ホウ素ドープダイヤモンド)電極及びその製造方法、並びそれを用いた重金属の検知方法及び検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)が電極材料としてよく利用されている。BDD電極は、水溶液中での電位窓が非常に広いこと、バックグラウンド電流が低いこと、及び電気化学的ファウリングに抵抗性があることから、電気化学反応を利用する分析方法での使用に適している。また、BDD電極は、酸性条件下及びアルカリ性条件下並びに極端な正及び負の電位で腐食耐性を有し、高い温度及び圧力でも安定である。例えば、酸素センサとして、金属ナノ粒子改質ホウ素ドープダイヤモンドを用いた電極が開示されている(特許文献1)。
【0003】
一方、飲料水又は排水中に含まれるヒ素(As)などの有害物質を簡便に、かつ精度良く検出する方法が求められている。例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と誘導結合プラズマ分析-質量分析(ICP/MS)計とを結合させた、HPLC-ICP/MS法が挙げられる。しかし、この分析方法が特殊な方法であるため施設も限られ、また操作も面倒であるという欠点がある。電気化学的測定法は操作が簡便であり微量検出も可能であり、また、定量的な測定が可能であるという利点がある。電気化学的測定法として、ストリッピングボルタンメトリを用いた分析方法を開示している(特許文献2)。ストリッピングボルタンメトリとは、目的物質を作用電極上に電解濃縮した後,濃縮物についてボルタンメトリー測定を行い,濃縮物の溶出に伴う電解電流を測定して目的物質を定量する方法である。この方法においては、作用電極として水銀電極,炭素電極、水銀修飾炭素電極,金-アマルガム電極などの使用が開示されている。しかし、これらの電極の電位窓が低い、バックグラウンド電流が大きい等の問題があり、これらの問題を克服するために、BDD電極の表面に金を付着した電極を使用する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-501954号公報
【特許文献2】特開平6-27081号公報
【特許文献3】特開2008-216061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1と特許文献3のいずれの方法にも、電極信頼性が高い作用電極を得る目的で金属粒径、表面形状、粒子間距離を高度に制御することについて、開示がない。得られる金属粒子は粒径の不均一性や低密度などの課題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、金属ナノ粒子の電気学的還元反応による導電性BDD電極上への金属ナノ粒子沈着技術であり、特定の高電圧印加によって基板上沈着ナノ粒子の密度及び粒径を高度に制御することを目的とする。
また、本発明の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を測定基板として用いる表面増強ラマン分光分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、具体的には以下のことを特徴としている。
〔1〕 金属ナノ粒子を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質してなる、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極であって、
前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、
前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上100nm未満の粒子が90個/μm以上の密度で分散していることを特徴とする、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
〔2〕 前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素である、〔1〕に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
〔3〕 前記金属ナノ粒子が金ナノ粒子である、〔1〕に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
〔4〕 前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上の粒子数100%に対して、粒子径10nm以上100nm未満の粒子数が80%以上である〔1〕~〔3〕の何れかに記載の、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
〔5〕 前記金属ナノ粒子の平均粒子径が、30nm以上90nm以下である〔1〕~〔4〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
〔6〕 前記金属ナノ粒子は、粒子径200nm以上の粒子数が20個/μm以下である、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
〔7〕 金属ナノ粒子を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質してなる、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を、電気化学反応方法で製造する方法であって、
前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、
前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上100nm未満の粒子が90個/μm以上の密度で分散し、
金属イオン水系溶液に-2.0~-1.7Vの印加電圧を印加し、前記BDD電極の表面において、前記金属イオンを前記金属ナノ粒子に還元する工程を含む、
ことを特徴とする、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法。
〔8〕 前記印加電圧を印加する時間が、30秒~120秒である、〔7〕に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法。
〔9〕 前記金属イオン水系溶液の濃度は、0.5~10質量%である、〔7〕又は〔8〕に記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法。
〔10〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする重金属の検知方法。
〔11〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として備える、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いた重金属の検知装置。
〔12〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする微生物の検知方法。
〔13〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として備える、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いた微生物の検知装置。
〔14〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする有機化合物検知方法。
〔15〕 〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として備える、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いた有機化合物の検知装置。
〔16〕 表面増強ラマン分光分析方法で分析するために用いる測定基板であって、
〔1〕~〔6〕の何れかに記載の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いることを特徴とする表面増強ラマン分光分析方法用測定基板。
〔17〕 〔16〕に記載の表面増強ラマン分光分析方法用測定基板を用いることを特徴とする表面増強ラマン分光分析方法。
〔18〕 〔16〕に記載の表面増強ラマン分光分析方法用測定基板を備えることを特徴とする表面増強ラマン分光装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の高電圧印加によって、BDD電極基板上に沈着する金属ナノ粒子の密度及び粒子径を高度に制御することが可能な、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極及びその製造方法、並びにそれを用いた重金属の検知方法及び検知装置などを提供することができる。
また、本発明の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を測定基板として用いる表面増強ラマン分光分析方法及び分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で用いた電気化学的反応装置(高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造装置)の概略図である。
図2】実施例1で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図3】実施例1で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面において、1μm当たりの粒子数と粒径分布を示す図である。
図4】実施例2で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図5】実施例2で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面において、1μm当たりの粒子数と粒径分布を示す図である。
図6】実施例3で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図7】実施例4で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図8】比較例1で作製した金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図9】比較例1で作製した金属ナノ粒子改質BDD電極の表面において、1μm当たりの粒子数と粒径分布を示す図である。
図10】比較例2で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図11】比較例2で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面において、1μm当たりの粒子数と粒径分布を示す図である。
図12】比較例3で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図13】比較例3で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面において、1μm当たりの粒子数と粒径分布を示す図である。
図14】比較例4で作製した高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像である。
図15】実施例5で用いた電気化学的分析装置(ヒ素検知装置)の概略図である。
図16】実施例5において、得られたAs溶液についての分析結果を示す図である。
図17】比較例5において、得られたAs溶液についての分析結果を示す図である。
図18】比較例6において、得られたAs溶液についての分析結果を示す図である。
図19】実施例6と比較例7、8について、p-ニトロフェノールの表面増強ラマン分光(SERS)スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態にかかる高密度金属ナノ粒子改質BDD電極について、詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限られない。
本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含むものである。
【0011】
(高密度金属ナノ粒子改質BDD電極)
本発明の一実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極は、金属ナノ粒子を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質してなるものである。前記金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素である。前記金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上100nm未満の粒子が90個/μm以上の密度で分散していることを特徴とする、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極。
【0012】
<金属ナノ粒子>
本実施形態に係る金属ナノ粒子の金属は、金,白金,銀,パラジウム,及びイリジウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素が好ましく、金、白金、及び銀からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の金属元素であることがより好ましく、金及び白金からなる群から選ばれる1種又は2種の金属元素が更に好ましい。電気伝導率及び表面の酸化しにくさの観点から、本実施形態に係る金属ナノ粒子が金ナノ粒子であることが最も好ましい。
【0013】
本実施形態に係る金属ナノ粒子の粒径が10nm以上100nm未満であるナノ粒子は、1μm当たりの粒子数が90個以上である。粒径が20nm以上100nm未満であるナノ粒子は、1μm当たりの粒子数が90個以上であることが好ましい。
【0014】
本実施形態に係る金属ナノ粒子は、粒子径10nm以上の粒子数100%に対して、粒子径10nm以上100nm未満の粒子数が80%以上であることが好ましい。
【0015】
また、本実施形態に係る金属ナノ粒子の粒子径が100nm以上である粒子数が、30個以下であること好ましく、20個以下であることがより好ましく、10個以下であることが更に好ましい。また、粒子径が200nm以上である粒子数が、20個/μm以下であることが好ましく、10個/μm以下であることがより好ましく、3個/μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本実施形態に係る金属ナノ粒子の形状は特に限定がなく、例えば、SEM写真の上において、長軸と短軸との比で計算したアスペクト比が、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましく、1.2以下であることがもっとも好ましい。
【0017】
本形態に係る貴金属ナノ粒子は、好ましくは、後述の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法で得られるものである。好ましい製造条件も同様である。後述の電気化学反応で沈着した本形態に係る貴金属ナノ粒子は、BDD電極の上に、好適に形成される。
【0018】
<BDD電極>
本実施形態に係るBDD電極とは、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極のことである。本実施形態に係るBDD電極は、シリコン基板などの導電性基板と、その上に成膜された多結晶ダイヤモンド膜とを含む。多結晶ダイヤモンド膜に、ホウ素がドープされ、ホウ素のドープ量が1018cm-3~1022cm-3であることが好ましい。前記ホウ素ドープダイヤモン膜の厚みが1μm~10μmであり、前記ホウ素ドープダイヤモン膜の導電率(面抵抗)が1mΩcm~100mΩcmであることが好ましい。
【0019】
本実施形態に係るBDD電極は、特に限定されなく、公知の製造方法で製造したものを用いることができる。本実施形態に係るBDD電極としては、例えば、一例として、以下のようにマイクロ波熱フィラメントCVD成膜装置で作製したものが挙げられる。
【0020】
まず、基板としては、シリコン基板(Si(100))を用いる。成膜用ホウ素ドーピングソースとしては、水素希釈のトリメチルホウ素(B(CH))を適宜のホウ素/炭素(B/C)比で制御したものを用いる。
【0021】
そして、前記成膜用ソースは、その成膜用ソースに対しキャリアガスとして高純度Hガスを通してからチャンバー内に導入した。前記チャンバー内は、水素を流量1000cc/min、メタンを30cc/minで流すことにより、10Torrとなるように調整する。その後、前記チャンバー内にて、DC電源によりフィラメントを通電加熱し、フィラメント温度を2200度以上に保持する。
【0022】
前記圧力条件が安定した後、ホウ素ガスを流し、成膜速度0.1~2μm/hで成膜を行う。そして、反応時間約10~20hで厚さ約1~40μmの膜から成る導電性ダイヤモンド電極を得る。基板の温度は定常状態で約800℃である。
【0023】
(高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法)
本実施形態の、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法は、電気化学反応方法であり、金属ナノ粒子を用いてホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極の表面を改質して、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を製造する方法である。金属イオン水系溶液に-2.0~-1.7Vの印加電圧を印加し、前記BDD電極の表面において、前記金属イオンを前記金属ナノ粒子に還元する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
前記金属イオン水系溶液としては、金属イオンの無機塩又は金属イオンの金属錯体等を、水に溶解してなる、金属イオン又は金属錯体イオンなどの水溶液が挙げられる。
金属イオンの無機塩又は金属イオンの金属錯体としては、例えば、
金属が金元素である場合、K[Au(Cl)](テトラクロロ金(III)カリウム)が挙げられる。
金属が白金元素である場合、K[Pt(Cl)(NH)] (トリクロロアンミン白金酸カリウム(II))が挙げられる。
金属が銀元素である場合、AgCl(塩化銀)が挙げられる。
金属がパラジウム元素である場合、PdCl(塩化パラジウム)が挙げられる。
金属がルテニウム元素である場合、RuCl・xHO(塩化ルテニウム(III)水和物)が挙げられる。
金属がロジウム元素である場合、RhCl(塩化ロジウム)が挙げられる。
金属がイリジウム元素である場合、IrCl(塩化イリジウム(III))が挙げられる。
【0025】
以下、金属が金元素である例を用いて、本実施形態の、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の製造方法として、高密度金ナノ粒子改質BDD電極の製造方法を詳細に説明する。
【0026】
金ナノ粒子の原料である金イオンソースとして、例えば、K[Au(Cl)]などの金イオンを含む[Au(Cl)イオンの水溶液を用いる。この溶液を電解液として、BDD電極を作用電極として用いたクロノアンペロメトリーなどの電気化学装置で所定の時間還元して、金ナノ粒子をBDD電極に電着することによって高密度金ナノ粒子改質BDD電極(AuBDD)を製造することができる。金イオン溶液への印加電圧は、-2.0~-1.7Vであることが好ましく、-1.9~-1.8Vであることがより好ましい。還元時間は30~120秒であることが好ましく、40~90秒であることが好ましく、50~70秒であることがより好ましい。
【0027】
金の標準酸化電位は次の通りである。
[Au(Cl)+3e = Au+4Cl (1)
=0.782V vs.Ag/AgCl
例えば、図2には、-1.8Vで60秒間還元して金を電着させて得た高密度金ナノ粒子改質BDD電極の表面のSEM像を示す。図2に示すように、黒く映っているダイヤモンド地肌上に、金ナノ粒子を付着した部分は白く映っている。約1μm粒径の多結晶ダイヤモンド地肌上に、100nm未満の金ナノ粒子が多数、均一で付着している。
【0028】
(重金属の検知方法)
本実施形態の重金属の検知方法は、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いて、電気化学方法で、水性溶液中の重金属イオンを検知する方法である。本発明の重金属とは、比重が4以上の金属のことである。本実施形態の重金属としては、例えば、ヒ素、カドミウム、鉛、水銀、セレン、クロム、銅などが挙げられる。また、本実施形態の重金属の検知方法は、重金属の他、シアン、シアン錯化合物、アルキル水銀、PCB、有機リン、チウラム、シマジン、チオベンカルブなどを検知することができる。
以下、被検知元素としてヒ素を検知する一例(本実施形態のヒ素の検知方法)を挙げ、本実施形態の重金属の検知方法を説明する。
【0029】
本実施形態のヒ素の検知方法は、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を用いて、電気化学方法で、水性溶液中のヒ素イオンを検知する方法である。水溶液中のヒ素イオンが電気化学的に活性を有する3価イオンで存在することが好ましい。本実施形態のヒ素の検知方法は、0.5ppb(質量比、以下同じ)以上のヒ素イオンを含む水性溶液を検知対象とすることができる。検知対象が、0.5~2000ppbのヒ素イオンを含む水性溶液であることが好ましく、0.5~100ppbのヒ素イオンを含む水性溶液であることがより好ましいく、1ppb~70ppbのヒ素イオンを含む水性溶液であることが更に好ましく、1~10ppbのヒ素イオンを含む水性溶液であることが更に好ましい。
【0030】
本実施形態のヒ素の検知方法としては、例えば、以下の第1A工程~第2A工程を含む方法が挙げられる。
(第1A工程)
本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として用いて、前記作用電極の電位を-1.0~-0.4Vとし、検知対象水溶液中において、前記作用電極に電着させて電着物質を形成する工程。
なお、As(III)の標準酸化電位は次の通りである。
HAsO+3H++3e = As+2H
=-0.036V vs.Ag/AgCl(pH5.0)
【0031】
第1A工程において、電着時間が0.5~20分であることが好ましく、2~10分であることがより好ましい。
【0032】
(第2A工程)
前記作用電極の電位を正電位方向にスイープして電着物質を溶液中に溶出し、その時の電流変化を測定する工程。
第2A工程において、例えば、電流曲線を測定し、ピーク電流値を得ることができる。
第2A工程において、走査速度は、4~48mV/sであることが好ましく、12~36mVであることがより好ましい。電流曲線におけるピーク電位の位置及び電流値から、ヒ素イオンの有無を検知することができる。
【0033】
本実施形態のヒ素の検知方法は、例えば、水溶液中のヒ素イオン濃度を定量することができる。その方法は、以下の第1B~第4B工程を含む。
(第1B工程)
本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として用いて、前記作用電極の電位を-0.5~-0.2とし、検知対象水溶液中において、前記作用電極に電着させて電着物質を形成する工程。
第1B工程において、ヒ素電着時間が30秒から600秒であることが好ましく、30秒から300秒であることがより好ましい。
【0034】
(第2B工程)
前記作用電極の電位を正電位方向にスイープして電着物質を溶液中に溶出し、その時の電流変化を測定する工程。
第2B工程において、例えば、電流曲線を測定し、ピーク電流値を得ることができる。
第2B工程において、走査速度は、4mV/s~48mV/sであることがこのましく、12mV/s~36mV/sであることがより好ましい。
【0035】
(第3B工程)
種々の濃度のヒ素水溶液について上記と同様の操作を行って電流曲線を得て、このピーク電流値とヒ素濃度との関係を求める工程。
第3B工程において、例えば、このピーク電流値とヒ素濃度との関係プロットし、グラフ化して検量線を作成する。
【0036】
(第4B工程)
測定対象溶液を第1B工程と第2B工程と同様な手順で電流曲線を測定し、第3B工程で得られた検量線を用いて、測定対象溶液のヒ素濃度を求める工程。
【0037】
(重金属の検知装置)
本実施形態の重金属の検知装置は、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として含む電気化学反応装置である。本実施形態の重金属の検知装置は、更に、対極電極を含み、測定対象水系溶液に電圧を印加する電圧印加部、電流値を測定できる電流測定部を含むことが好ましい。更に、電圧を制御する制御部を含むことがより好ましい。
本実施形態の重金属の具体例、上記「重金属の検知方法」の重金属の具体例と同様である。
以下、被検知元素としてヒ素を検知する一例(本実施形態のヒ素の検知装置)を挙げ、本実施形態の重金属の検知装置を説明する。
【0038】
本実施形態のヒ素の検知装置は、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を作用電極として含む電気化学反応装置である。本実施形態のヒ素の検知装置は、更に、対極電極を含み、測定対象水系溶液に電圧を印加する電圧印加部、電流値を測定できる電流測定部を含むことが好ましい。更に、電圧を制御する制御部を含むことがより好ましい。
【0039】
本実施形態のヒ素の検知装置は、例えば、測定対象溶液容器と、作用電極、対極電極、参考電極、電源、電流測定部、電圧を制御する制御部などを含む。前記作用電極が前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の作用電極である。
また、実施例では、例として、被検知元素としてヒ素を検知する一例が挙げられたが、被検知元素は、それに限定されなく、例えば、カドミウム、鉛、水銀、セレン、銅、クロムなどの重金属の他、シアン、シアン錯化合物、アルキル水銀、PCB、有機リン、チウラム、シマジン、チオベンカルブなどが挙げられる。
【0040】
(表面増強ラマン分光分析方法及び表面増強ラマン分光装置)
本実施形態のラマン分光分析方法は、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を表面増強ラマン分光分析方法用測定基板として用いて、表面増強ラマン分光(SERS(Surface-Enhanced Raman Scattering, 以下SERS))を測定し、測定対象物質を分析する方法である。使用できる高密度金属ナノ粒子改質BDD電極として測定基板の好ましい例は、前述と同様である。
【0041】
ラマン散乱は現在においてもメディカルセンサや化学センサとしての応用に強く期待されている分析技術である。後述の実施例と比較例において、金ナノ粒子である場合の例を用いた。本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を測定基板として用いる場合、BDD基板上に金属ナノ粒子が均一かつ高密度で分散されているので、光学的には金属ナノ粒子上への分子吸着の際に生じるラマン散乱強度が急激に上昇する。
ラマン分光に用いるラマン検出器などは公知のものを用いることができる。
また、実施例では、例として、被分析試料としてp-ニトロフェノールを測定する一例が挙げられたが、被分析試料は、それに限定されなく、公知のラマン分光分析方法で測定できる物質に適用することができる。
【0042】
前記被分析試料としては、例えば、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖、炭水化物、オリゴ糖、多糖、脂肪酸、脂質、ホルモン、代謝物、サイトカイン、ケモカイン、受容体、神経伝達物質、抗原、抗体、基質、代謝物、コファクター、阻害剤、薬剤、医薬品、栄養物、プリオン、毒素、毒、爆発性物質、殺虫剤、化学兵器、生物兵器、バクテリア、ウイルス、放射性同位元素、ビタミン、複素環式芳香族化合物、発癌性物質、突然変異原、麻酔剤、アンフェタミン、バルビツール酸塩、幻覚発現物質、廃棄物および/または汚染物等が挙げられる。
【0043】
本実施形態のラマン分光分析装置は、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極を測定基板として用いることを特徴とする。今後、ラマン分光用において、「本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極」を、「本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD基板」という。測定基板に以外の各構成は、公知のラマン分光分析装置と同じである。
【0044】
本実施形態のラマン分光分析装置は、例えば、前述の本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD基板と、前記高密度金属ナノ粒子改質BDD基板へ励起光線を放射するレーザーと、前記高密度金属ナノ粒子改質BDD基板からのラマン信号を検出するラマン検出器と、を備える、装置である。前記金属ナノ粒子が金、白金、及び銀からなる群から選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましい。
【0045】
(ウイルス等の微生物の検知(測定、分析)方法及び装置)
本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)を用いて、細菌又はウイルスなどの微生物を検知(測定、分析)することができる。なお、ウイルスは生物とは言い切れないが学術的に微生物の中の非細胞性として分類され、本明細書において「微生物」を用いて記載される範囲は、ウイルスを含むものである。本実施形態の検知(測定、分析)方法及び装置において、本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)を作用電極として用いる以外は、その他の構成は、公知の方法の工程及び公知の装置と同じ構成を含むことができる。たとえば、特表2019-505180に記載のインピーダンス分析方法において、ウェルプレート底面として本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)を用いることができる。本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)は、特表2019-505180に記載のウェルプレートの基板と比べて、導電性が優れているため、本実施形態の検知(測定、分析)方法及び装置は、高い感度、高い速度で、検知(測定、分析)することができる。
【0046】
(グルコース等の有機化合物の検知(測定、分析)方法及び装置)
本実施形態のグルコースなどの有機化合物の検知(測定、分析)方法及び装置は、電気化学測定基板として、本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)を備える。本実施形態のグルコースなどの有機化合物の検知(測定、分析)方法及び装置において、本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)を用いる以外は、その他の構成は、公知の方法及び装置の構成と同じ構成を含むことができる。たとえば、本実施形態のグルコースなどの有機化合物の検知(測定、分析)方法は、本実施形態の高密度金属ナノ粒子改質BDD電極(好ましく、高密度金ナノ粒子改質BDD電極)を用いる以外に、特開2017-173317に記載のグルコース簡易装置の構成である第一の電圧を電極系に印加する第一の電圧印加工程と、第二の電圧を電極系に印加する第二の電圧印加工程と、前記第一の電圧印加工程において、酸化還元反応および電極との電子授受に寄与しうる前記酸化還元酵素の量に依存する第一のシグナルを取得する工程と、前記第二の電圧印加工程において、前記試料中の測定対象物質の量に依存する第二のシグナルを取得する工程と、を備えることができる。特開2017-173317で記載の作用電極部位と比べて、導電性が優れているため、本実施形態の検知(測定、分析)方法は、高い感度、高い速度で、検知(測定、分析)することができる。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(評価方法)
「SEM」JSM-9100、JEOL
【0049】
「粒子径の測定方法」
粒子径の測定は、画像解析ソフト「ImageJ」を使用した。
「平均粒子径の求め方」
SEM画像を撮影後、画像解析ソフト「ImageJ」でSEM画像を取り込んだ後、スケールバーに対応するピクセル数から1ピクセルの距離を単位nmで設定した。金ナノ粒子とBDDの輝度の差を利用し、閾値0.2%に設定した時に見える1μm範囲当たりの高輝度な微粒子の個数・サイズを解析した。得られた結果を元にX軸を粒子サイズ、Y軸を粒子数とし、得られたグラフより単位面積あたりにおける粒径分布を算出した。
【0050】
(使用原材料と装置)
K[AuCl]:富士フィルム和光純薬(株)製、
ヒ素イオン溶液:富士フィルム和光純薬(株)製、
p-ニトロフェノール:富士フィルム和光純薬(株)製
「電流電圧測定、制御装置」:ALS832D電気化学アナライザー ビー・エー・エス(株)
【0051】
(製造例1)
<BDD電極の作製>
まず、基板としては、シリコン基板(Si(100))を用いる。Si基板表面でのダイヤモンド核発生確率を高めるため、ナノダイヤモンド粉末にてシーディング処理を行った。成膜は熱フィラメントCVD法により行った。成膜用のガスとしては、水素およびメタンガスを用い、ホウ素源にはトリメチルホウ素ガスを用いた。チャンバー内のホウ素/炭素(B/C)比は、0.6%で調整した。水素/メタンガス比は3%であった。
前記チャンバー内は、予めロータリーポンプで真空引きの後、水素を流量1000sscm、メタンを流量30sccm、水素希釈のトリメチルホウ素ガスを1sccmmで流すことにより、10Torrとなるように調整する。その後、前記チャンバー内にて、DC電源による抵抗加熱により、フィラメント温度を2200℃以上に保持した。
【0052】
前記のガスおよびフィラメント温度の条件で、成膜速度0.3μm/hで成膜を行った。そして、反応時間約20hで厚さ約7μmの膜から成る導電性ダイヤモンド電極を得た。基板の温度は定常状態で約800℃であった。
【0053】
得られたBDD電極の膜厚、表面粗さ、表面導電率(抵抗)、ダイヤモンドの組成比、ホウ素濃度などは、上記評価法で評価した。その結果は以下に示す。
BDD電極の膜厚:7μm
粒径:1~2μm
表面抵抗率(抵抗):10mΩcm、
ホウ素濃度:1020cm-2
【0054】
<高密度金属ナノ粒子改質BDD電極の作製>
(実施例1)
図1に示すように、電気化学反応セル8において、KAuClの濃度が2%となるように調製された溶液10を入れ、作用電極(BDD)2、対極電極4、参照電極6を配置した3電極式の電気化学装置20をセットアップした。印加電圧-1.8Vで60秒の印加条件で、前記溶液10の中に存在する金イオンを高電圧印加により還元した。還元は主に作用電極上で生じるため、BDD上には金ナノ粒子が修飾され、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極AuBDD-1(以後、AuBDD-1電極と言う)が得られた。
得られたAuBDD-1電極の上における金ナノ粒子の密度や状態を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察した。その結果を図2に示す。また、上記評価方法で、SEM像から、AuBDD-1電極に沈着した金ナノ粒子の沈着密度及び粒径分布を求めた。1μm当たりの粒子数が125個であった。その結果を表1と図3に示す。
【0055】
(実施例2~4)
表1に示す印加電圧、印加時間を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、それぞれ、高密度金属ナノ粒子改質BDD電極AuBDD-2~高密度金属ナノ粒子改質BDD電極AuBDD-4(以後、AuBDD-1電極~AuBDD-4電極と言う)が得られた。実施例1と同様にSEM像と、金ナノ粒子の沈着密度及び粒径分布が得られた。その結果を表1と図4~7に示す。
【0056】
<金属ナノ粒子改質BDD電極の作製>
(比較例1~4)
表1に示す印加電圧、印加時間を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、それぞれ、金属ナノ粒子改質BDD電極cAuBDD-1~金属ナノ粒子改質BDD電極cAuBDD-4(以後、cAuBDD-1電極~cAuBDD-4電極と言う)が得られた。実施例1と同様にSEM図、金ナノ粒子の沈着密度及び粒径分布が得られた。その結果を表1と図8~14に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の中において、「1μm当たりの粒子数」は、粒子径が20nm以上1000nm以下の金ナノ粒子の数の合計である。
【0059】
<ヒ素検知方法>
(実施例5)
図15に示すように、実施例1で得られたAuBDD-1電極20を作用電極として用いたヒ素検知装置200で、被分析試料としてヒ素を含む水溶液100を、電気化学的測定方法で分析した。ヒ素を含む水溶液100のヒ素イオン(III)濃度が、0ppb(Control)から150ppbまでの被分析試料を測定した。その結果を図16に示す。
【0060】
測定条件:
使用装置:ALS832D電気化学アナライザー ビー・エー・エス(株)
作用電極:AuBDD-1
電極反応面積:
対極電極:Pt
参照電極:Ag/AgCl
測定方法:SWSV
初期電位:-0.5V
高電位:0.5V
低電位:-0.5V
電位増加分:0.012V/s
電位間隔:1mV
電着電位:-0.8V
電着時間:5分
サンプル量:3ml
【0061】
(比較例5)
製造例1で得られたBDD電極を作用電極として用いた以外は、実施例5と同様に、ヒ素を含む水溶液を、電気化学的測定方法で分析した。ヒ素を含む水溶液のヒ素イオン(III)濃度が、0ppb(Control)から1ppmまでの被分析試料を測定した。その結果を図17に示す。
【0062】
(比較例6)
比較例1(-0.8V)と比較例2(-1,2V)で得られた低密度なAuBDD(cAuBDD-1電極とcAuBDD-2電極)を作用電極として用いた以外は、実施例5と同様に、ヒ素を100ppb含む水溶液を、電気化学的測定方法で分析した。その結果を図18に示す。また、対比するために、実施例1(-1.8V)で得られたAuBDD-1電極、製造例1で得られたBDD電極の100ppb含むヒ素溶液の分析結果も記載した。
【0063】
<ラマン検知方法>
(実施例6)
実施例1で得られたAuBDD-1電極をラマン散乱測定用基板として用いて、1mMのp-ニトロフェノール溶液を滴下した際に生じる表面増強ラマン分光(SERS)分析を行った。表面増強ラマン分光スペクトルを得た。その結果を図19に示す。
(比較例7)
比較例1で得られたcAuBDD-1電極をラマン散乱測定用基板として用いた以外は、実施例6と同様な方法で、p-ニトロフェノール溶液の表面増強ラマン分光(SERS)分析を行った。表面増強ラマン分光スペクトルを得た。その結果を図19に示す。
(比較例8)
製造例1で得られたBDD電極をラマン散乱測定用基板として用いた以外は、実施例6と同様な方法で、p-ニトロフェノール溶液の表面増強ラマン分光(SERS)分析を行った。表面増強ラマン分光スペクトルを得た。その結果を図19に示す。
【0064】
(考察)
表1、図2~7の実施例1~4、図8~14の比較例1~4の結果から、最適な電圧印加範囲における金ナノ粒子の形成粒子数及び形状均一性は高い。特に-1.9V及び-1.8Vの印加電圧における粒径分布は高度な粒子合成の制御が可能であることを示唆している。
【0065】
図15~18の実施例5と比較例5、6の結果から、金ナノ粒子によるBDD表面の電気化学的反応性の向上は明らかである。更に、金ナノ粒子の密度差によって同濃度の対象サンプルから得られるピーク強度の増加が確認された。高密度かつ分散した均一な金ナノ粒子を修飾する本技術は進歩性が高い。
【0066】
図19の実施例6と比較例7と8の結果から、1284cm-1、1172cm-1、856cm-1に検出されるp-ニトロフェノール溶液のピーク強度が高密度の金ナノ粒子修飾により増加していることが見て取れた。一方でナノ粒子間距離が低密度な金ナノ粒子修飾では遠すぎるためSERSが生じていないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は金属ナノ粒子をホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極上に高度に制御した状態で沈着させることを可能とする技術である。電気化学的にはナノ素材の高密度な沈着による比表面積の上昇、金属ナノ粒子の素早い電子伝達速度による電気化学反応の高感度化が挙げられる。実施例で開示したヒ素の高感度測定など、種々の重金属等の物質の微量検知の応用に期待されている。
また、光学的には金属ナノ粒子上への分子吸着の際に生じるラマン散乱強度の急激な上昇(SERS(Surface-Enhanced Raman Scattering, 以下SERS))に対し、本発明の均一かつ高密度な金属ナノ粒子修飾が応用可能である。ラマン散乱は現在においてもメディカルセンサや化学センサとしての応用に強く期待されている。
一方で、ナノ物質合成及び制御の困難性に産業応用への大きな障壁を抱えている。本発明の金属ナノ粒子の製造方法は、制御が容易な貴金属ナノ素材の合成法は必要性が非常に高い。
【符号の説明】
【0068】
2:作用電極(BDD電極)
20:作用電極(AuBDD電極)
4、40:対極電極
6、60:参照電極
8、80:電気化学反応セル
10,100:反応溶液
20:電気化学反応装置(AuBDD製造装置)
200:電気化学反応装置(ヒ素検知装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19