(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119528
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】研磨装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/30 20120101AFI20230821BHJP
B24B 37/005 20120101ALI20230821BHJP
B24B 37/12 20120101ALI20230821BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20230821BHJP
B24B 49/04 20060101ALI20230821BHJP
B24B 37/013 20120101ALI20230821BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
B24B37/30 E
B24B37/005 A
B24B37/12 D
B24B49/12
B24B49/04 Z
B24B37/013
H01L21/304 621D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022498
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】永井 大智
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA19
3C034BB73
3C034BB93
3C034CA02
3C034CA22
3C034CB04
3C034DD20
3C158AA07
3C158AB04
3C158AC02
3C158BA01
3C158BA02
3C158BA07
3C158BB08
3C158BC01
3C158CB01
3C158DA06
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EA13
3C158EB01
5F057AA16
5F057AA20
5F057BA11
5F057BB03
5F057CA12
5F057DA03
5F057FA13
5F057FA19
5F057GB02
5F057GB13
(57)【要約】
【課題】ワークを精度良く研磨可能な研磨装置を提供する。
【解決手段】CMP装置1は、研磨ヘッド10に保持されたワークWをプラテン2上の研磨パッド5に押し当てて研磨する研磨装置であって、ワークWを保持可能なチャック19と、ワークW面内の厚みバラつきを測定する厚みセンサ7と、チャック19の周方向に沿って並設されて、エアにより膨張してワークWの一部を研磨パッド5に向けて押圧可能な第2のエアバッグ16A~16Dと、ワークWの周方向の厚みバラつきに対応したワークWを偏荷重状態で研磨する際の研磨レートが予め記憶され、第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラ6と、を備え、コントローラ6は、厚みセンサ7が取得したワークW面内の厚みバラつきに対応する研磨レートを呼び出し、研磨レートを実現するように各第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアを調整して、ワークWを偏荷重状態で研磨する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置であって、
前記ワークを保持可能なチャックと、
前記ワーク面内の厚みバラつきを測定する厚みセンサと、
前記チャックの周方向に沿って並設されて、エアにより膨張して前記ワークの一部を前記研磨パッドに向けて押圧する複数の部分押圧部と、
前記ワークの周方向の厚みバラつきに対応した前記ワークを偏荷重状態で研磨する際の研磨レートが予め記憶され、各部分押圧部に供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記厚みセンサが取得した前記ワーク面内の厚みバラつきに対応する前記研磨レートを呼び出し、前記研磨レートを実現するように各部分押圧部に供給されるエアを調整して、前記ワークを偏荷重状態で研磨することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記偏荷重状態で研磨して前記ワーク内の最大厚み及び最小厚みが略一致する研磨時間である偏荷重研磨終点予想時間を算出し、前記偏荷重研磨終点予想時間に至るまで前記偏荷重状態での研磨を行うことを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記厚みセンサが取得した前記ワークの周方向の厚みを縦軸、研磨時間を横軸にそれぞれ設定したグラフにおいて、研磨が進むにつれて減少する前記ワーク内の最大厚み位置における厚みの変遷及び最小厚み位置における厚みの変遷からそれぞれ導出される複数の近似式が交わる研磨時間を前記偏荷重研磨終点予想時間として算出することを特徴とする請求項2に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記偏荷重研磨終点予想時間経過後に、前記ワークを略均一な荷重状態で研磨することを特徴とする請求項2又は3に記載の研磨装置。
【請求項5】
研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置を用いた研磨方法であって、
前記研磨装置は、
前記ワークを保持可能なチャックと、
前記ワーク面内の厚みバラつきを測定する厚みセンサと、
前記チャックの周方向に沿って並設されて、エアにより膨張して前記ワークの一部を前記研磨パッドに向けて押圧する複数の部分押圧部と、
前記ワークの周方向の厚みバラつきに対応した前記ワークを偏荷重状態で研磨する際の研磨レートが予め記憶され、各部分押圧部に供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラと、
を備え、
前記厚みセンサが、前記ワークの周方向の厚みバラつきを測定する工程と、
前記コントローラが、前記厚みセンサが取得した前記ワーク面内の厚みバラつきに対応する前記研磨レートを呼び出し、前記研磨レートを実現するように各部分押圧部に供給されるエアを調整して、前記ワークを偏荷重状態で研磨する工程と、
を含むことを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを研磨する研磨装置及び研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、シリコンウェハ等(以下、「ワーク」という)を研磨して平坦化するCMP装置が知られている。
【0003】
特許文献1記載の研磨装置は、化学的機械的研磨、いわゆるCMP(Chemical Mechanical Polishing)技術を適用した研磨装置である。このCMP装置は、研磨ヘッドに装着されたワークを研磨パッドに押圧してワークを研磨するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワークの裏面が研磨ヘッドのチャックに保持され、ワークの表面を研磨パッドに押圧して研磨する裏面基準研磨では、ワークに作用する圧力分布がワークの周方向に略均一に設定されるため、ワークの結晶方位に起因して研磨後のワーク形状に傾きが生じたり、初期膜厚が周方向に不均一なワークを均一な厚みに研磨できない場合があった。
【0006】
さらに、研磨前のワークの初期膜厚はワーク毎に異なるところ、各ワークを平坦に研磨するために最適な研磨レート等を初期膜厚に応じてワーク毎に設定することは煩雑であるという問題があった。
【0007】
そこで、ワークを精度良く研磨するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る研磨装置は、研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置であって、前記ワークを保持可能なチャックと、前記ワーク面内の厚みバラつきを測定する厚みセンサと、前記チャックの周方向に沿って並設されて、エアにより膨張して前記ワークの一部を前記研磨パッドに向けて押圧する複数の部分押圧部と、前記ワーク面内の厚みバラつきに対応した前記ワークを偏荷重状態で研磨する際の研磨レートが予め記憶され、各部分押圧部に供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記厚みセンサが取得した前記ワークの周方向の厚みバラつきに対応する前記研磨レートを呼び出し、前記研磨レートを実現するように各部分押圧部に供給されるエアを調整して、前記ワークを偏荷重状態で研磨する。
【0009】
この構成によれば、複数の部分加圧部をそれぞれ膨張・収縮させることにより、ワークに作用する圧力分布をワークの周方向において自在に調整可能なため、ワークの結晶方位や不均一な初期膜厚を考慮してワークの周方向において圧力分布を対応させ、研磨面内において異なる研磨圧力をワークに作用させることとなり、ワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【0010】
さらに、コントローラが、厚みセンサが測定したワーク面内の厚みバラつきを減少させる研磨レートを呼び出し、複数の部分押圧部が、その研磨レートでワークを偏荷重状態で研磨するため、ワークの初期膜厚に関わらずワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る研磨方法は、研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置を用いた研磨方法であって、前記研磨装置は、前記ワークを保持可能なチャックと、前記ワーク面内の厚みバラつきを測定する厚みセンサと、前記チャックの周方向に沿って並設されて、エアにより膨張して前記ワークの一部を前記研磨パッドに向けて押圧する複数の部分押圧部と、前記ワークの周方向の厚みバラつきに対応した前記ワークを偏荷重状態で研磨する際の研磨レートが予め記憶され、各部分押圧部に供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラと、を備え、前記厚みセンサが、前記ワーク面内の厚みバラつきを測定する工程と、前記コントローラが、前記厚みセンサが取得した前記ワークの周方向の厚みバラつきに対応する前記研磨レートを呼び出し、前記研磨レートを実現するように各部分押圧部に供給されるエアを調整して、前記ワークを偏荷重状態で研磨する工程と、を含む。
【0012】
この構成によれば、複数の部分加圧部をそれぞれ膨張・収縮させることにより、ワークに作用する圧力分布をワークの周方向において自在に調整可能なため、ワークの結晶方位や不均一な初期膜厚を考慮してワークの周方向において圧力分布を対応させ、研磨面内において異なる研磨圧力をワークに作用させることとなり、ワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【0013】
さらに、コントローラが、厚みセンサが測定したワークの周方向の厚みバラつきを減少させる研磨レートを呼び出し、複数の部分押圧部が、その研磨レートでワークを偏荷重状態で研磨するため、ワークの初期膜厚に関わらずワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ワークを精度良く平坦に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るCMP装置を模式的に示す斜視図。
【
図3】第1のエアバッグ及び第2のエアバッグの位置関係を示す平面図。
【
図4】ワーク及び第2のエアバッグの位置関係を示す平面図。
【
図5】(a)は第1のエアバッグによる圧力分布を示す模式図であり、(b)は第1のエアバッグ及び第2のエアバッグによる圧力分布を示す模式図である。
【
図6】4つの第2のエアバッグをそれぞれ膨張・収縮させた際にワークWに作用した圧力を計測した画像。
【
図7】任意のピーク位置に所望の圧力を作用させる場合に、第2のエアバッグに供給するエアの圧力を算出する過程を示す模式図。
【
図8】(a)は実施例1、2及び比較例1におけるX軸上の研磨除去量を示すグラフであり、(b)は実施例1、2及び比較例1におけるY軸上の研磨除去量を示すグラフである。
【
図9】(a)は実施例3、4及び比較例2におけるX軸上の研磨除去量を示すグラフであり、(b)は実施例3、4及び比較例2におけるY軸上の研磨除去量を示すグラフである。
【
図10】(a)は実施例5におけるX軸上のワークの厚みを示すグラフであり、(b)は実施例5におけるY軸上のワークの厚みを示すグラフである。
【
図11】(a)は実施例5におけるX軸上の研磨除去量を示すグラフであり、(b)は実施例5におけるY軸上の研磨除去量を示すグラフである。
【
図12】実施例5の各工程におけるワークの厚みバラつきレンジを示すグラフである。
【
図13】(a)は実施例6で研磨したワークを模式的に示す平面図であり、(b)はワークにおけるX軸及びY軸上の厚みを示すグラフである。
【
図14】
図13(b)に示すワークにおいて、中心からの距離が80mmの位置における周方向の厚みバラつきを示すグラフである。
【
図15】
図14に示すワークを一様荷重状態で研磨した場合のワークの厚みが変化する様子を示すグラフである。
【
図16】(a)はX軸上に設定した研磨レート(20±5nm/秒)を模式的に示すグラフであり、(b)は
図14に示すワークを
図16(a)に示す研磨レートで研磨した場合のワークの厚みが変化する様子を示すグラフである。
【
図17】(a)はX軸上に設定した研磨レート(20±10nm/秒)を模式的に示すグラフであり、(b)は
図14に示すワークを
図17(a)に示す研磨レートで研磨した場合のワークの厚みが変化する様子を示すグラフである。
【
図18】実施例6において、偏荷重状態で研磨した後に一様荷重状態で研磨した場合のワークの厚みが変化する様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0017】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0018】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るCMP装置1を模式的に示す斜視図である。CMP装置1は、ワークWの一面を平坦に研磨するものである。CMP装置1は、プラテン2と、研磨ヘッド10と、を備えている。ワークWは、例えば、シリコンウェハであるがこれに限定されるものではない。
【0020】
プラテン2は、円盤状に形成されており、プラテン2の下方に配置された回転軸3に連結されている。回転軸3がモータ4の駆動によって回転することにより、プラテン2は
図1中の矢印D1の方向に回転する。プラテン2の上面には、研磨パッド5が貼付されており、研磨パッド5上に図示しないノズルから研磨剤と化学薬品との混合物であるCMPスラリーが供給される。
【0021】
研磨ヘッド10は、プラテン2より小径に形成されており、研磨ヘッド10の上方に配置された回転軸10aに連結されている。回転軸10aが図示しないモータの駆動によって回転することにより、研磨ヘッド10は、
図1中の矢印D2の方向に回転する。研磨ヘッド10は、図示しないヘッド移動機構によって垂直方向及び水平方向に移動可能に構成されている。研磨ヘッド10は、ワークWを研磨する際に下降して研磨パッド5にワークWを押圧する。
【0022】
CMP装置1の動作は、コントローラ6によって制御される。コントローラ6は、CMP装置1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。コントローラ6は、例えばコンピュータであり、CPU、メモリ等により構成される。なお、コントローラ6の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作するものにより実現されても良い。
【0023】
次に、研磨ヘッド10の構造について説明する。
図2は、研磨ヘッド10の要部を模式的に示す縦断面図である。
【0024】
研磨ヘッド10は、回転軸10aに接続されたヘッド本体11を備えている。ヘッド本体11は、回転伝達部12を介してベース部材13に連結されており、ヘッド本体11、回転伝達部12及びベース部材13は、回転軸10aと共に回転する。
【0025】
ベース部材13の上方には、ボルトB1を介してPPS製のプレートホルダ14が締結されている。これにより、研磨ヘッド10に入力される回転駆動力が、ベース部材13を介してプレートホルダ14に伝達される。
【0026】
プレートホルダ14とヘッド本体11との間に、第1のエアバッグ15と、第2のエアバッグ16と、が介装されている。
【0027】
第1のエアバッグ15は、略円環状に形成されている。第1のエアバッグ15は、図示しない圧縮空気源から圧空ライン15aを介して供給されるエアによって膨張、収縮自在である。圧縮空気源から供給されるエアの圧力は、コントローラ6により制御される図示しないレギュレータによって調整される。第1のエアバッグ15は、供給されるエアの圧力に応じてプレートホルダ14全体を加圧することで、ワークW全体が研磨パッド5に押圧される研磨圧力を調整する。
【0028】
第2のエアバッグ16は、4つ設けられている。また、第2のエアバッグ16は、第1のエアバッグ15内に収容されている。
図3に示すように、4つの第2のエアバッグ16は、略円状にそれぞれ形成され、平面から視て研磨ヘッド10の回転中心まわりに略同心円上に配置されている。
【0029】
図4に示すように、4つの第2のエアバッグ16は、ワークWの中心を通り互いに直交するX軸又はY軸の各軸上であって正の領域及び負の領域に1つずつ配置されている。以下、4つの第2のエアバッグ16をそれぞれ区別する場合には、オリフラOFに近いY軸上の負の領域に配置された第2のエアバッグ16の符号の末尾に「a」を付し、第2のエアバッグ16Aを基準として平面から視て時計回りの順に第2のエアバッグ16の符号の末尾に「B」、「C」、「D」を付す。なお、第2のエアバッグ16の設置数は4に限定されず、3以下であっても5以上であっても構わない。
【0030】
第2のエアバッグ16は、図示しない圧縮空気源から圧空ライン16aを介して供給されるエアによって膨張、収縮自在である。圧縮空気源から供給されるエアの圧力は、コントローラ6により制御される図示しないレギュレータによって調整される。第2のエアバッグ16は、供給されるエアの圧力に応じて、直下に位置するプレートホルダ14の一部を加圧することで、ワークWが研磨パッド5に押圧される研磨圧力をワークWの周方向において局所的に変化させる。また、第2のエアバッグ16が、高剛性のヘッド本体11の下面に固定されて下方に向けて膨張可能に構成されていることにより、例えば、膨張可能な第1のエアバッグ15の下面に第2のエアバッグ16が積層される場合と比べて、第2のエアバッグ16の膨張、収縮を容易に制御することができる。
【0031】
図2に戻り、ベース部材13の下方には、ポーラスチャック17が設けられている。ポーラスチャック17は、アルミナ製のチャックテーブル18と、多孔質アルミナ製のチャック19と、を備えている。
【0032】
チャックテーブル18は、ボルトB2を介してベース部材13に締結されている。これにより、研磨ヘッド10に入力される回転駆動力が、ベース部材13を介してポーラスチャック17に伝達される。
【0033】
チャック19は、チャックテーブル18の下面に埋設されている。チャック19は、ライン18aを介して図示しない真空源、冷却水源に接続されている。真空源を起動させることにより、ポーラスチャック17の保持面17aにワークWが吸着保持される。また、冷却水源から供給される冷却水は、室温と略等しく温調されており、研磨後にチャック19を通水することでチャック19を冷却する。
【0034】
このようにして、研磨ヘッド10は、ワークWの裏面がチャック19に吸着保持された状態でワークWの表面が研磨パッド5に押し当てられ、第1のエアバッグ15及び第2のエアバッグ16の膨張に伴ってワークWに荷重が伝わることにより、ワークWは、研磨面としての保持面17aの形状が転写されるように研磨される(裏面基準研磨)。保持面17aは、ラップ加工によって約1μm以下の平坦度に設定されている。
【0035】
プラテン2の下方には、厚みセンサ7が設けられている。厚みセンサ7は、ワークWの厚みを非接触で測定する。厚みセンサ7は、例えば、分光干渉式の膜厚測定器であって、ワークWで反射した反射光を受光して、リアルタイムでワークWの厚みを測定する。
【0036】
具体的には、厚みセンサ7は、その光軸がプラテン2及び研磨パッド5に設けられた透明な観察窓8を通過してワークWに至るように配置されている。厚みセンサ7は、ワークWに向けて、例えば波長400~800nmの白色のモニター光を照射する。また、厚みセンサ7は、ワークWで反射した反射光を受光する。なお、厚みセンサ7は、観察窓8に対して垂直に光を照射するものに限定されず、光路が反射部材等で屈折されても構わない。観察窓8は、透光性を示すものであれば良く、例えばアクリル製である。
【0037】
ワークWの表面及び裏面でそれぞれ反射した反射光は互いに干渉し、ワークWの厚み(光路長)に応じて干渉の仕方が変化する。厚みセンサ7は、ワークWからの反射光を波長に応じて分解し、波長と反射光の強度との関係を示す分光波形を生成して、この分光波形に基づいて研磨中のワークWの厚みを算出する。なお、分光波形に基づいてワークWの厚みを算出する方法としては、例えば、高速フーリエ変換(FFT)解析や、分光波形を予め記憶されたワークWの厚みに応じた理論波形と比較するものが考えられる。
【0038】
このようにして、プラテン2が1回転する度にモニター光が観察窓8を通過して、厚みセンサ7がワークWの厚みを測定する。また、ヘッド移動機構が観察窓8に対して研磨ヘッド10を水平移動させて、観察窓8と研磨ヘッド10との相対位置を調整することにより、厚みセンサ7が厚みを測定するワークW内のモニター位置を変更することができる。
【0039】
また、研磨ヘッド10のヘッド移動機構及びプラテン2の回転軸3には、回転角度を検出可能なドグセンサがそれぞれ設けられており、研磨ヘッド10の回転速度とプラテン2の回転速度の位相差に応じて、ワークW内でのモニター位置の周方向に沿った移動量(モニター角の移動量)を任意に変更することができる。なお、厚みセンサ7は、上述した構成に限定されず、ワークW面内の厚みバラつきを測定可能なものであれば、如何なるものであっても構わない。
【0040】
次に、第1のエアバッグ15又は第2のエアバッグ16によってワークWに付与させる荷重を調整する手順について説明する。
【0041】
まず、
図5(a)に示すように、第1のエアバッグ15による荷重(以下、「通常荷重」という)では、チャック平坦度に応じたフラットな圧力分布が得られる。このような通常荷重の圧力分布は、ワークWの周方向において略均一に形成されるため、例えば、結晶方位に起因して研磨後に傾きが生じたり初期膜厚が不均一なワークWを略均一な厚みに研磨するには適当とは言い難い。
【0042】
第2のエアバッグ16A~16Dに供給するエアの圧力をそれぞれ調整することにより、ワークWに作用する圧力分布を変更することができる。
図6(a)~(i)は、ニッタ株式会社製 面圧分布測定システム「I-SCAN」を用いて、第1のエアバッグ15を収縮させた状態で第2のエアバッグ16A~16Dを膨張・収縮された場合に、ワークWに作用した圧力を測定した画像であり、明るい領域ほど強い圧力が作用していることを示す。なお、
図6(a)~(i)に示す画像は、底面から視たワークWに作用した圧力分布を示しており、
図4とはX軸の正負の向きが逆転している。
【0043】
図6(a)は、第2のエアバッグ16C、16Dに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(b)は、第2のエアバッグ16Cに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(c)は、第2のエアバッグ16B、16Cに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(d)は、第2のエアバッグ16Dに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(e)は、第2のエアバッグ16A~16Dの何れにもエアを供給していない場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(f)は、第2のエアバッグ16Bに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(g)は、第2のエアバッグ16A、16Dに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(h)は、第2のエアバッグ16Aに圧力12psiのエアを供給した場合にワークWに作用した圧力を示し、
図6(i)は、第2のエアバッグ16A、16Bに圧力8.5psiのエアをそれぞれ供給した場合にワークWに作用した圧力を示す。
【0044】
図6(b)、(d)、(f)、(h)に示すように、第2のエアバッグ16A~16Dの何れか1つを加圧した場合には、加圧された第2のエアバッグ16A~16Dの直下及びその周辺に作用する圧力が増加する。
【0045】
また、
図6(a)、(c)、(g)、(i)に示すように、第2のエアバッグ16A~16Dのうち隣り合う2つを加圧した場合には、加圧された2つの第2のエアバッグ16A~16Dの直下及びその周辺並びにそれらの間に作用する圧力が増加する。
【0046】
このようにして、ワークWの周方向において圧力分布を移動させる場合には、
図7に示すように、ワークWの周方向における圧力分布が最大となるピーク位置Pの座標に応じて、ピーク位置Pに作用させたい圧力Fをベクトル分解し、ピーク位置Pを挟んで隣り合う2つの第2のエアバッグ16A~16Dにそれぞれ供給するエアの圧力を算出する。
【0047】
すなわち、
図7に示すように、第2のエアバッグ16C、16Dの間にピーク位置Pを設定する場合、ピーク位置P及び原点Oを結んだ線分とX軸との成す角度をΘとすると、第2のエアバッグ16Cに加圧する圧力をFsinΘ、第2のエアバッグ16Dに加圧する圧力をFcosΘに設定する。例えば、角度Θを60度、ピーク位置Pに作用させる圧力を12psiに設定する場合には、第2のエアバッグ16Cに供給されるエアの圧力を10.4psi、第2のエアバッグ16Dに供給されるエアの圧力を6psiにそれぞれ設定する。
【0048】
このようにして、
図5(b)に示すように、第2のエアバッグ16による荷重(以下、「部分荷重」という)では、通常荷重時とは異なる形状の圧力分布が得られる。すなわち、部分荷重の圧力分布は、ワークWの周方向において不均一に形成される。これにより、通常荷重と部分荷重とを組み合わせることにより、ワークWの結晶方位や初期膜厚に応じて適切な圧力分布を設定し、研磨後の膜厚が略均一なワークWを得ることができる。
【0049】
なお、第2のエアバッグ16は、第1のエアバッグ15内に収容されているため、第1のエアバッグ15が膨張した状態で、第2のエアバッグ16を膨張させる場合、第2のエアバッグ16に供給されるエアの圧力は、第1のエアバッグ15に供給されるエアの圧力より大きく設定される。
【0050】
具体的には、第1のエアバッグ15に供給されるエアの圧力をPall、ワークWの面積をSw、第1のエアバッグ15の面積をSa、ポーラスチャック17がワークWを加圧する圧力をWPとすると、第2のエアバッグ16にそれぞれ供給されるエアの圧力Pzは、Pz>Pall=(Sw/Sa)*WPの関係式を満たすように設定される。
【0051】
このように、第2のエアバッグ16A~16Dが、平面から視て第1のエアバッグ15に重なるように配置されているため、第1のエアバッグ15によるワークWの周方向において均一な圧力分布と第2のエアバッグ16A~16DによるワークWの周方向において不均一な圧力分布とを組み合わせて、ワークWに作用する圧力分布を容易に調整することができる。
【0052】
また、通常荷重及び部分荷重の組み合わせは同時であっても先後であっても構わない。例えば、ワークWは、オリフラOF周辺は特異点となり、研削加工及び研磨加工において除去量が局所的に増加する現象(ダレ)が生じることがある。そこで、第1のエアバッグ15のみを膨張させてワークWを研磨する通常研磨の後に、第1のエアバッグ15を収縮させた後に、第2のエアバッグ16B~16Dを順に膨張させて、オリフラOF周辺を除くワークWを研磨することにより、オリフラOF周辺を除いたワークW全面を研磨することにより、オリフラOF周辺のダレを解消することができる。
【実施例0053】
次に、LiTaO3(タンタル酸リチウム)から成るワークWに対して、通常荷重でCMP研磨を行った場合(比較例1)、及び通常荷重及び部分荷重を組み合わせてCMP研磨を行った場合(実施例1、2)について説明する。
【0054】
比較例1及び実施例1、2での研磨条件を表1に示し、比較例1及び実施例1、2におけるX軸上(Y座標:0)の研磨除去量の分布を
図8(a)に示し、Y軸上(X座標:0)の研磨除去量の分布を
図8(b)に示す。なお、表1中の「Zone3」、「Zone4」は、それぞれ第2のエアバッグ16C、16Dに対応する。
【表1】
【0055】
図8(a)、(b)によれば、比較例1では、X座標が負の領域(特に、―25mm以下)における研磨除去量が、X座標が正の領域における研磨除去量より相対的に大きく、また、Y座標が負の領域(特に、―25mm以下)における研磨除去量が、Y座標が正の領域における研磨除去量より相対的に大きいため、ワークW面内における研磨除去量に偏りが生じていることが分かる。
【0056】
一方、実施例1では、第1のエアバッグ15による通常荷重に加えて、第2のエアバッグ16C、16Dによる部分荷重を行うことにより、X座標が正の領域の研磨除去量及びY座標が正の領域における研磨除去量がそれぞれ増加して、ワークW面内における研磨除去量の偏りが緩和されていることが分かる。
【0057】
また、実施例2では、第2のエアバッグ16C、16Dに供給されるエアの圧力をさらに加圧することにより、X座標が正の領域における研磨除去量及びY座標が正の領域における研磨除去量がさらに増加し、X座標が正の領域における研磨除去量が、X座標が負の領域における研磨除去量より相対的に大きく、Y座標が正の領域における研磨除去量が、Y座標が負の領域における研磨除去量より相対的に大きいため、ワークW面内における研磨除去量の偏りが、比較例1とは対照的であることが分かる。
【0058】
次に、SiC(炭化ケイ素)から成るワークWに対して、通常荷重でCMP研磨を行った場合(比較例2)、及び通常荷重及び部分荷重を組み合わせてCMP研磨を行った場合(実施例3、4)について説明する。
【0059】
比較例2及び実施例3、4での研磨条件を表2に示し、比較例2及び実施例3、4におけるX軸上(Y座標:0)の研磨除去量の分布を
図9(a)に示し、Y軸上(X座標:0)の研磨除去量の分布を
図9(b)に示す。なお、表1中の「Zone4」は、第2のエアバッグ16Dに対応する。
【表2】
【0060】
図9(a)、(b)によれば、比較例2では、X座標が負の領域における研磨除去量が、X座標が正の領域における研磨除去量より相対的に大きい傾向にあり、ワークW面内における研磨除去量に偏りが生じていることが分かる。
【0061】
一方、実施例3では、第1のエアバッグ15による通常荷重に加えて、第2のエアバッグ16Dによる部分荷重を行うことにより、X座標が正の領域における研磨除去量が増加し、ワークW面内における研磨除去量の偏りが緩和されていることが分かる。
【0062】
また、実施例4では、第2のエアバッグ16Dに供給されるエアの圧力をさらに加圧することにより、X座標が正の領域における研磨除去量がさらに増加し、X座標が正の領域における研磨除去量が、X座標が負の領域における研磨除去量より相対的に大きい傾向となり、ワークW面内における研磨除去量の偏りが、比較例2とは対照的であることが分かる。
【0063】
次に、LiTaO3から成るワークWを段階的に部分加圧して、オリフラOF周辺のダレを改善する場合(実施例5)について説明する。実施例5での研磨条件を表3に示す。なお、表3中の「Zone1」は、第2のエアバッグ16Aに相当し、「Zone2」は、第2のエアバッグ16Bに相当し、「Zone3」は、第2のエアバッグ16Cに相当し、「Zone4」は、第2のエアバッグ16Dに相当する。
【表3】
【0064】
図10(a)は、各工程におけるX軸上(Y座標:0)のワークWの厚みを示し、
図10(b)は、各工程におけるY軸上(X座標:0)のワークWの厚みを示す。また、
図11(a)は、各工程におけるX軸上(Y座標:0)の研磨除去量の分布を示し、
図11(b)は、各工程におけるY軸上(X座標:0)の研磨除去量の分布を示す。
図12は、各工程におけるワークW面内の厚みのバラつきを示すグラフである。
【0065】
図10(a)、(b)、
図12中の「研磨前」は、通常荷重によるCMP研磨前のワークWを示す。
図10(b)に示すように、オリフラOF周辺(Y座標:―50mm以下)では、ワークWの厚みが著しく減少するダレが生じていることが分かる。また、
図12に示すように、ワークW面内で0.34μm程度の厚みバラつきが生じていることが分かる。
【0066】
このようなワークWに対して、まず、第1のエアバッグ15のみを膨張させてワークWを研磨する(通常研磨)。通常研磨後のワークWは、
図10(a)、(b)に示すように、中央付近が最も薄く、外周に向かって徐々に厚くなる中凹状に研磨される。これは、保持面17aの形状を中凸状に加工することで得られる。また、
図11(a)、(b)に示すように、通常研磨の研磨除去量は、中央付近が最も大きく、外周に向かって徐々に小さい。しかしながら、
図12に示すように、ワークW面内での厚みバラつきは、通常研磨前後で顕著な変化はない。
【0067】
次に、第1のエアバッグ15を収縮させた後に、第2のエアバッグ16B~16Dを順に膨張させて、オリフラOF周辺を除くワークW全面を部分研磨する(部分研磨1)。部分研磨1では、
図11(a)、(b)に示すように、Y軸上において、オリフラOF周辺はほとんど研磨されていない上に、ワークWの中央付近と比べてワークWの中腹から周縁に亘る領域(X<-約25mm且つ約25mm<X、約25mm<Y)の研磨除去量が顕著に多いことが分かる。これにより、部分研磨1後のワークWは、
図10(a)、(b)に示すように、オリフラOF周辺を除くワークW全面が研磨され、ワークWの中凹形状が緩和される。また、
図12に示すように、ワークW面内での厚みバラつきが、0.25μmまで改善されていることが分かる。
【0068】
なお、本実施例では、部分加圧1の後に、第2のエアバッグ16A~16Dを順に膨張させてワークWをさらに研磨する2段階目の部分加圧(部分研磨2)を行っている。部分研磨2は、通常研磨で生じた中凹形状を改善してワークWを略平坦に形成ものであり、通常研磨の研磨除去量が小さく、通常研磨後のワークWの中凹が浅い場合には省略しても構わない。
【0069】
部分研磨2では、
図11(a)、(b)に示すように、ワークWの中央付近と比べてワークWの中腹から周縁に亘る領域(X<-約25mm且つ約25mm<X、Y<-約25mm且つ約25mm<Y)の研磨除去量が顕著に多いことが分かる。これにより、部分研磨2を経たワークWは、
図10(a)、(b)に示すように、ワークWの中凹形状がさらに緩和される。また、
図12に示すように、ワークW面内での厚みバラつきが、0.2μmまでさらに改善される。
【0070】
次に、ワークW毎に異なる初期膜厚のバラつきを考慮してワークWを自動で研磨する場合(実施例6)について説明する。実施例6は、厚みセンサ7がワークW面内の中心から任意の距離において周方向に沿って厚みを測定し、第1のエアバッグ15による通常荷重と第2のエアバッグ16による部分荷重とを組み合わせた偏荷重状態での研磨(偏荷重研磨モード)でワークWの周方向における厚みバラつきが十分に減少した後に、一様な荷重状態での研磨(均一研磨モード)でワークWを均一に研磨するものである。
【0071】
<厚み測定>
図13(a)に例示する研磨前のワークWは、直径200mmのシリコンウェハであって、その初期膜厚は
図13(b)に示す通りである。
図13(b)に示すように、ワークWは、中心O及びノッチNを通るY軸上(X座標:0)において厚み700μmで略平坦に形成されているのに対して、X軸上(Y座標:0)において、X座標が負の領域における厚みはX座標が正の領域における厚みより薄く、X座標に比例してワークWが厚く形成され、X軸の両端で3μmの厚みバラつきが生じている。
【0072】
ところで、ワークWの平坦度に傾きが生じている場合、ワークWの周方向の厚みは正弦波に近似することができる。したがって、
図13(a)に示すように、rをワークWの中心Oから厚みセンサ7が厚みを測定するモニター位置MPまでの距離[μm]、Θをモニター位置MPとX軸の正の領域との偏角(モニター角)[度]、ワークW内の座標(r,Θ)に位置するモニター位置MPにおける厚みをT(r,Θ)とすると、T(r,Θ)=700+(rcosΘ/100)*1.5の近似式が得られる。
図14に、r=80mmに設定した場合における、ワークWの周方向の初期膜厚を示す。
図14によれば、ワークWの初期膜厚では、モニター位置MP(80mm,0度)が最大厚み位置となり、その厚みは最大厚み701.2μmであり、モニター位置MP(80mm,180度)が最小厚み位置となり、その厚みは最小厚み698.8μmとなる。
【0073】
<偏荷重研磨モード>
X軸上で3μmの厚みバラつきが存在するワークWを所定の目標厚み(約694μm)まで略均一に研磨する場合、t=0秒で厚みセンサ7が1回目の厚み測定を座標(80mm,0度)のモニター位置MPから開始するとき、プラテン2の回転速度をVp[rpm]、研磨ヘッド10の回転速度をVh[rpm]、プラテン2の回転回数をnとすると、モニター位置MPのモニター角Θは、Θ=(Vp-Vh)*360*n/Vp[度]となる。
【0074】
図15は、プラテン2の回転速度Vpを120rpm、研磨ヘッド10の回転速度Vhを117rpm、ワークWを略均一に研磨レート20nm/秒で研磨した場合において、モニター位置MPにおける厚みT(80mm,Θ)の変化を示すグラフである。
図15中の波形において、山はΘ=0度、谷はΘ=180度にそれぞれ相当する。
図15によれば、ワークWが略均一に研磨される場合、ワークWの3μmの厚みバラつきは改善されることなくワークW全体が薄く研磨されていることが分かる。
【0075】
一方、第1のエアバッグ15及び第2のエアバッグ16Dを膨張させる等して、
図16(a)に示すようなワークW内のX方向で研磨レートに±5nm/秒の偏りを設定した場合、すなわち、X座標が負の領域における研磨レートが、X座標が正の領域における研磨レートより相対的に小さく、ワークW内のX軸の両端における研磨レートに±5nm/秒の偏りを設定してワークWを所定の目標厚み(約694μm)まで偏荷重状態で研磨する場合、
図16(b)に示すように、研磨時間が約300秒に達すると、ワークW内の厚みバラつきが減少し改善されて略平坦に研磨される。
【0076】
また、
図17(a)に示すようなワークW内のX方向で研磨レートに±10nm/秒の偏りを設定した場合、すなわち、X座標が負の領域における研磨レートが、X座標が正の領域における研磨レートより相対的に小さく、ワークW内のX軸の両端における研磨レートに±10nm/秒の偏りを設定してワークWを所定の目標厚み(約694μm)まで偏荷重状態で研磨する場合、
図17(b)に示すように、研磨時間が約150秒に達すると、ワークWの厚みバラつきが減少し改善されて略平坦になり、その後、ワークW内に厚みバラつきが再び生じていることが分かる。
【0077】
そこで、コントローラ6は、厚みセンサ7が測定したワークWの周方向の厚みバラつきに基づいて好適な研磨条件を呼び出し、その研磨条件に基づいてワークWが偏荷重状態で研磨される。コントローラ6は、ワークWに対して、
図17(a)に示すワークW内のX方向で研磨レートに±10nm/秒の偏りを生じさせる偏荷重状態での研磨を開始する。
【0078】
コントローラ6には、ワークWの周方向の厚みバラつきを改善するために好適な研磨条件が、ワークWの周方向の厚みバラつきに対応して予め記憶されている。なお、偏荷重研磨モードの研磨条件とは、予め実験等により取得された、ワークWの周方向の厚みバラつきを改善するためのX軸方向及びY軸方向の研磨レートを含む。なお、研磨レートが大きすぎると、ワークWの周方向のバラつきが急速に収束して、後述する近似式の導出に必要な数の波形の山谷が得られずに偏荷重研磨の研磨終点を精度良く予測できず、また研磨レートが小さすぎると、研磨時間が徒に長期化するため、厚みバラつきの改善の度合いと研磨時間とのバランスを考慮する等して、最適な研磨レートが設定されるのが好ましい。
【0079】
コントローラ6は、偏荷重状態で研磨してワークW内の最大厚みと最小厚みとが略一致するまでに要する研磨時間(偏荷重研磨終点予想時間)を算出し、この偏荷重研磨終点予想時間まで偏荷重状態での研磨を行う。
【0080】
具体的には、コントローラ6は、ワークWの厚みを示すグラフ中の波形に複数の山谷が生じる程度に時間が経過した後に、
図18に示すように、TをワークWの厚み、tを研磨時間とすると、波形において最大厚みに対応するモニター位置MP(80mm,0度)の厚みの変遷を結ぶ一次近似線L1(L1:T=―0.0279t+701.19)、及び最小厚みに対応するモニター位置MP(80mm,180度)の厚みの変遷を結ぶ一次近似線L2(L2:T=―0.0119t+698.8)を最小二乗法を用いて算出する。そして、コントローラ6は、各近似式L1、L2の交点から偏荷重研磨終点予想時間(約149秒)を算出し、この偏荷重研磨終点予想時間に至るまで偏荷重状態での研磨を行う。
【0081】
<均一研磨モード>
次に、コントローラ6は、ワークWのX方向における研磨レートの偏りをリセットした後に、予め記憶された研磨条件を呼び出し、厚みバラつきが改善されたワークWを同心円状に略均一に研磨する。
図18には、第1のエアバッグ15及び第2のエアバッグ16のうち必要なものを膨張させて、プラテン2の回転速度Vpを120rpm、研磨ヘッド10の回転速度Vhを117rpm、ワークWを研磨レート20nm/秒で略均一に研磨する場合を例示している。そして、厚みセンサ7がリアルタイムで測定するワークWの厚みが目標厚み(694μm)に達すると、コントローラ6は研磨を終了する。
【0082】
このようにして、本実施形態に係るCMP装置1は、研磨ヘッド10に保持されたワークWをプラテン2上の研磨パッド5に押し当てて研磨する研磨装置であって、ワークWを保持可能なチャック19と、ワークW面内の厚みバラつきを測定する厚みセンサ7と、チャック19の周方向に沿って並設されて、エアにより膨張してワークWの一部を研磨パッド5に向けて押圧可能な第2のエアバッグ16A~16Dと、ワークWの周方向の厚みバラつきに対応したワークWを偏荷重状態で研磨する際の研磨レートが予め記憶され、第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアの圧力をそれぞれ調整可能なコントローラ6と、を備え、コントローラ6は、厚みセンサ7が取得したワークW面内の厚みバラつきに対応する研磨レートを呼び出し、研磨レートを実現するように各第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアを調整して、ワークWを偏荷重状態で研磨する構成とした。
【0083】
この構成によれば、第2のエアバッグ16A~16Dをそれぞれ膨張・収縮させることにより、ワークWに作用する圧力分布をワークWの周方向において自在に調整可能なため、ワークWの結晶方位や不均一な初期膜厚を考慮してワークWの周方向において圧力分布を対応させることができ、研磨面内において異なる研磨圧力をワークWに作用させることにより、ワークWを精度良く平坦に研磨することができる。
【0084】
さらに、コントローラ6が、厚みセンサ7が測定したワークWの周方向の厚みバラつきを減少させる研磨レートを呼び出し、第2のエアバッグ16A~16Dが、その研磨レートでワークWを偏荷重状態で研磨するため、ワークWの初期膜厚に関わらずワークWを精度良く平坦に研磨することができる。
【0085】
また、本実施形態に係るCMP装置1は、コントローラ6が、偏荷重状態で研磨してワークW内の最大厚み及び最小厚みが略一致する偏荷重研磨終点予想時間を算出し、偏荷重研磨終点予想時間に至るまで偏荷重状態での研磨を行う構成とした。
【0086】
この構成によれば、ワークW内の厚みバラつきが改善されるまで偏荷重状態での研磨を行うため、過剰に研磨して厚みバラつきが反転することなく、ワークWを精度良く平坦に研磨することができる。
【0087】
また、本実施形態に係るCMP装置1は、コントローラ6が、厚みセンサ7が取得したワークWの周方向の厚みを縦軸、研磨時間を横軸にそれぞれ設定したグラフにおいて、研磨が進むにつれて減少する最大厚みに対応するモニター位置MP(80mm,0度)の厚みの変遷及び最小厚みに対応するモニター位置MP(80mm,180度)の厚みの変遷からそれぞれ導出される近似式L1、L2の交点に基づいて偏荷重研磨終点予想時間として算出する構成とした。
【0088】
この構成によれば、偏荷重研磨の初期における最大厚みと最小厚みとの厚みバラつきが減少して改善する傾向に基づいて、偏荷重研磨終点予想時間を精度良く算出することができる。
【0089】
また、本実施形態に係るCMP装置1は、コントローラ6が、偏荷重研磨終点予想時間経過後に、ワークWを略均一な荷重状態で研磨する構成とした。
【0090】
この構成によれば、偏荷重状態での研磨により厚みバラつきが改善された後に、ワークWを目標厚みまで略均一に研磨することができる。
【0091】
また、本実施形態に係るCMP装置1を用いた研磨方法は、厚みセンサ7が、ワークWの周方向の厚みバラつきを測定する工程と、コントローラ6が、厚みセンサ7が取得したワークW面内の厚みバラつきに対応する研磨レートを呼び出し、研磨レートを実現するように第2のエアバッグ16A~16Dに供給されるエアを調整して、ワークWを偏荷重状態で研磨する工程と、を含む構成とした。
【0092】
この構成によれば、第2のエアバッグ16A~16Dをそれぞれ膨張・収縮させることにより、ワークWに作用する圧力分布をワークWの周方向において自在に調整可能なため、ワークWの結晶方位や不均一な初期膜厚を考慮してワークWの周方向において圧力分布を対応させることができ、研磨面内において異なる研磨圧力をワークWに作用させることにより、ワークWを精度良く平坦に研磨することができる。
【0093】
さらに、コントローラ6が、厚みセンサ7が測定したワークWの周方向の厚みバラつきを減少させる研磨レートを呼び出し、第2のエアバッグ16A~16Dが、その研磨レートでワークWを偏荷重状態で研磨するため、ワークWの初期膜厚に関わらずワークWを精度良く平坦に研磨することができる。
【0094】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【0095】
偏荷重研磨終点予想時間を導出する際に用いられる近似式は、上述した1次近似式に限定されるものではなく、2次以上の近似式や他の近似式であっても構わない。また、偏荷重研磨終点予想時間は、上述した近似式を用いたものに限定されず。他の手法を用いて導出されても構わない。
【0096】
また、上述した実施形態では、ワークWを周方向において略均一な圧力分布で加圧する第1のエアバッグ15と、ワークWを周方向において均一でない圧力分布で加圧する第2のエアバッグ16A~16Dと、を備えているCMP装置1を例に説明したが、例えば、第2のエアバッグ16A~16Dに代えて、第1のエアバッグ15を複数のエア室に区分し、ワークWを周方向において略均一な圧力分布で加圧する場合には、全てのエア室を膨張させ、ワークWを周方向において均一でない圧力分布で加圧する場合には、少なくとも一つのエア室を膨張させるように構成しても構わない。