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  • 特開-発光材料及び発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119817
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】発光材料及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/62 20060101AFI20230822BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20230822BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230822BHJP
【FI】
C09K11/62 ZNM
C01G15/00 D
C01G15/00 Z
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022900
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】田幡 英雄
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CC07
4H001CC13
4H001XA16
4H001XA29
4H001XA31
4H001XA47
4H001XA49
4H001XB12
4H001XB32
4H001XB62
5F142AA62
5F142AA77
5F142DA15
5F142DA46
5F142DA55
5F142DA61
5F142DA64
5F142DA72
5F142DA73
5F142EA02
5F142EA34
5F142FA28
5F142GA01
(57)【要約】
【課題】半導体ナノ粒子を含み、安定性に優れる発光材料を提供する。
【解決手段】Agを含みCuを含んでもよい第11族元素と、In及びGaの少なくとも一方を含む第13族元素と、Sを含む第16族元素と、を含む第1半導体を含む半導体ナノ粒子を含む発光材料である。半導体ナノ粒子はその表面に、少なくともGa及びSを含む第2半導体が配置され、第2半導体の表面には、ジアミン化合物が配置されて発光材料が構成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを含みCuを含んでもよい第11族元素、In及びGaの少なくとも一方を含む第13族元素、並びにSを含む第16族元素を含む第1半導体を含む半導体ナノ粒子を含む発光材料であって、
前記半導体ナノ粒子の表面には、少なくともGa及びSを含む第2半導体が配置され、
前記第2半導体の表面に、ジアミン化合物が配置される発光材料。
【請求項2】
前記第1半導体は、カルコパイライト構造を有する請求項1に記載の発光材料。
【請求項3】
前記第2半導体は、硫化ガリウムを含む請求項1又は2に記載の発光材料。
【請求項4】
前記ジアミン化合物は、下記式(1)で表される請求項1から3のいずれか1項に記載の発光材料。
【化1】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数6から20の、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基若しくは水素原子を示すか、または2つのRが互いに連結して環を形成する置換されてもよいアルキレン基を示す。但し、すべてのRが水素原子の場合を除く。nは2以上6以下の数を表す。)
【請求項5】
前記ジアミン化合物は、1,3-ジアミン化合物及び1,4-ジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子は、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光が照射されると、照射された光よりも長い波長を有する光を発する請求項1から5のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項7】
前記半導体ナノ粒子は、発光スペクトルにおける半値幅が250meV以下である光を発する請求項1から6のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の発光材料を含む波長変換部材と、発光素子とを備える発光装置。
【請求項9】
前記発光素子が発光ダイオードである請求項8に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光材料及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体粒子はその粒径が例えば10nm以下になると、量子サイズ効果が発現することが知られており、そのようなナノ粒子は量子ドット(半導体量子ドットとも呼ばれる)と呼ばれる。量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、粒径をナノサイズとしたときに離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象を指す。
【0003】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能であるため、量子ドットを含む波長変換部材を利用した白色発光装置が提案されている。量子ドットの発光効率の向上等を目的として、量子ドットの表面に有機配位子を結合させる技術が知られている。例えば、特許文献1には、量子ドットへの結合基と親水性基とを含む分子を外層に有する量子ドットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002-525394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
量子ドットを含む波長変換部材を調製する際に、量子ドットを洗浄処理すると発光量子効率が低下する場合があった。本開示の一態様は、半導体ナノ粒子を含み、安定性に優れる発光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、Agを含みCuを含んでもよい第11族元素と、In及びGaの少なくとも一方を含む第13族元素と、Sを含む第16族元素と、を含む第1半導体を含む半導体ナノ粒子を含む発光材料である。半導体ナノ粒子の表面には、少なくともGa及びSを含む第2半導体が配置され、第2半導体の表面には、ジアミン化合物が配置されて発光材料が構成される。
【0007】
第二態様は、第一態様の発光材料を含む波長変換部材と、発光素子とを備える発光装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、半導体ナノ粒子を含み、安定性に優れる発光材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】発光装置の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、蛍光体又は発光材料の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。本明細書において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。蛍光体の半値幅は、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、半導体ナノ粒子及び発光装置を例示するものであって、本発明は、以下に示す半導体ナノ粒子及び発光装置に限定されない。また、図面が示す部材の大きさ、位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0011】
発光材料
発光材料は、半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを含んで構成される。半導体ナノ粒子は、銀(Ag)を含み銅(Cu)を含んでもよい第11族元素の少なくとも1種、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む第13族元素の少なくとも1種、並びに硫黄(S)を含む第16族元素の少なくとも1種を含む第1半導体と、少なくともGa及びSを含む第2半導体とを含む。半導体ナノ粒子の表面には、第2半導体が配置され、第2半導体の表面には、ジアミン化合物が配置されて発光材料が構成される。
【0012】
表面にジアミン化合物が配置される半導体ナノ粒子を含む発光材料においては、安定性が向上する。これにより例えば、洗浄処理による発光量子効率の低下が抑制される。これは例えば、ジアミン化合物と半導体ナノ粒子との結合が、他のリガンドに比べて、より安定であるためと考えられる。
【0013】
発光材料を構成する半導体ナノ粒子は、光照射により、照射された光の波長よりも長い波長範囲に発光ピーク波長を有するバンド端発光を示す。また半導体ナノ粒子は、高いバンド端発光純度と高いバンド端発光の内部量子効率とを示す。これは例えば、半導体ナノ粒子の中心部に存在する第1半導体の結晶構造が実質的に正方晶(カルコパイライト構造)であり、半導体ナノ粒子の表面に配置される第2半導体が、Ga欠陥(例えば、Gaが不足している部分)の少ない結晶構造を有しているためと考えることができる。第2半導体は、第1半導体に比べてGaの組成比が大きい半導体であってよく、また第1半導体と比べてAgの組成比が小さい半導体であってよく、実質的にGaとSからなる半導体であってよい。また、半導体ナノ粒子では、第1半導体を含む粒子の表面に、第2半導体を含む付着物が配置されていてよく、第2半導体を含む付着物が第1半導体を含む粒子を被覆していてもよい。さらに、半導体ナノ粒子は、例えば、第1半導体を含む粒子をコアとし、第2半導体を含む付着物をシェルとして、コアの表面にシェルが配置されるコアシェル構造を有していてもよい。また、半導体ナノ粒子の表面に配置される第2半導体は、均一な組成を有していてもよいし、厚み方向に変化する組成を有していてもよい。
【0014】
第1半導体
半導体ナノ粒子を構成する第1半導体は、Agを含みCuを含んでもよい第11族元素の少なくとも1種と、In及びGaの少なくとも一方を含む第13族元素の少なくとも1種と、Sを含む第16族元素の少なくとも1種と、を含む。一般的にAg、In及びSを含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、又は斜方晶である半導体は、AgInSの組成式で表されるものとして知られている。第1半導体は、Agの一部がCuに置換され、Inの一部がGaに置換された(Ag,Cu)(In,Ga)Sで表される組成を有していてもよい。一方で、実際には、上記組成式で表される化学量論組成のものではなく、特にAg及びCuの原子数の、In及びGaの原子数に対する比((Ag+Cu)/(In+Ga))が1よりも小さくなる場合もあるし、あるいは逆に1よりも大きくなる場合もある。また、Ag及びCuの原子数とIn及びGaの原子数の和が、Sの原子数と同じにならないことがある。よって本明細書では、特定の元素を含む半導体について、それが化学量論組成であるか否かを問わない場面では、Cu-Ag-In-Ga-Sのように、構成元素を「-」でつないだ式で半導体組成を表すことがある。よって本実施形態にかかる第1半導体の組成は、例えばAg-In-Sの組成のうち、第11族元素であるAgの一部を同じく第11族元素であるCuとし、第13族元素であるInの一部又は全部を同じく第13族元素であるGaとしたCu-Ag-In-Ga-S、Cu-Ag-Ga-Sと考えることができる。
【0015】
なお、上述の元素を含む第1半導体であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、第1半導体から得られたXRDパターンを、AgInSの組成で表される半導体ナノ粒子のものとして既知のXRDパターン、又は結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターン及びシミュレーションのパターンの中に、第1半導体のパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知又はシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
【0016】
半導体ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造の第1半導体を含む半導体ナノ粒子が混在していてよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。一態様の半導体ナノ粒子では、第1半導体が実質的に正方晶からなっていてよく、正方晶に対応するピークが観察され、他の結晶構造に由来するピークは実質的に観察されなくてよい。
【0017】
第1半導体の組成における第11族元素にはAg、Cu及びAuが含まれる。第1半導体は、第11族元素として実質的にAgのみを含んでいてもよいし、Ag及びCuを含んでいてもよい。実質的にAgのみを含むとは、第11族元素の総原子数に対するAg以外の総原子数の比率が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、又は1%以下であることを意味する。
【0018】
第1半導体が第11族元素としてAg及びCuを含む場合、第1半導体の組成におけるAg及びCuの総含有率は、例えば10モル%以上30モル%以下であってよく、好ましくは15モル%以上25モル%以下であってよい。第1半導体の組成におけるIn及びGaの総含有率は、例えば、15モル%以上35モル%以下であってよく、好ましくは20モル%以上30モル%以下であってよい。第1半導体の組成におけるSの総含有率は、例えば、35モル%以上55モル%以下であってよく、好ましくは40モル%以上55モル%以下であってよい。
【0019】
第1半導体は、第11族元素の一部が置換されてアルカリ金属の少なくとも1種をさらに含んでいてもよく、実質的に第11族元素から構成されていてよい。ここで「実質的に」とは、第11族元素及びアルカリ金属の総原子数に対するアルカリ金属の総原子数の割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0020】
第1半導体が第11族元素としてAg及びCuを含む場合、第1半導体の組成においては、Agの一部がCuに置換されていると考えることができる。Agの一部がCuに置換されることでAgのみの場合と比べて、例えば、バンドギャップが狭くなって発光ピーク波長が長波長側にシフトする。例えば、第1半導体の組成におけるCuとAgの合計モル数に対するCuのモル数の比(Cu/(Cu+Ag))は0.01以上1.0未満であってよく、好ましくは0.03以上0.99以下、又は0.05以上0.5以下であってよい。また例えば、第1半導体の組成におけるCuとAgとInとGaの合計モル数に対するCuとAgの合計モル数の比((Cu+Ag)/(Cu+Ag+In+Ga))は0.1以上1.0未満であってよく、好ましくは0.2以上0.99以下であってよい。
【0021】
また、第1半導体は、実質的にAg、Cu及びアルカリ金属(以下、Mと記すことがある)を構成元素としていてもよい。ここで「実質的に」とは、Ag、Cu及びアルカリ金属、並びにAg、Cu及びアルカリ金属以外の元素の総原子数に対するAg、Cu及びアルカリ金属以外の元素の総原子数の割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。なお、アルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)が含まれる。アルカリ金属は、Agと同じく1価の陽イオンとなり得るため、第1半導体の組成におけるAgの一部を置換することができる。特にLiはAgとイオン半径が同程度であり、好ましく用いられる。第1半導体の組成において、Agの一部が置換されることで、例えば、バンドギャップが広がって発光ピーク波長が短波長にシフトする。また、詳細は不明であるが、第1半導体の格子欠陥が低減されてバンド端発光の内部量子効率が向上すると考えられる。第1半導体がアルカリ金属を含む場合、少なくともLiを含んでいてよい。
【0022】
第1半導体がAg、Cu及びアルカリ金属(M)を含む場合、第1半導体の組成におけるアルカリ金属の含有率は、例えば、0モル%より大きく30モル%未満であってよく、好ましくは、1モル%以上25モル%以下であってよい。また、第1半導体の組成におけるAgの原子数、Cuの原子数及びアルカリ金属(M)の原子数の合計に対するアルカリ金属(Ma)の原子数の比(M/(Ag+Cu+M))は、例えば、1未満であってよく、好ましくは0.8以下、0.4以下、又は0.2以下であってよい。またその比は、例えば、0より大きくてよく、好ましくは0.05以上、又は0.1以上であってよい。
【0023】
第1半導体は、In及びGaの少なくとも一方を含む第13族元素を組成に含む。第1半導体の組成における第13族元素としては、In及びGaに加えてAl、Tl等が含まれる。第1半導体は、In及びGaの少なくとも一方を含み、その一部が置換されてAl及びTlの少なくとも一方をさらに含んでいてもよく、実質的にIn及びGaから構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、In及びGa並びにAl及びTlの総原子数に対するAl及びTlの総原子数の割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0024】
第1半導体におけるIn及びGaの総原子数に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))は、例えば、0.01以上1未満であってよく、好ましくは0.1以上0.99以下であってよい。In及びGaの総原子数に対するInの原子数の比が所定の範囲であると、短波長の発光ピーク波長(例えば、545nm以下)を得ることができる。また、InとGaの総原子数に対するAgの原子数の比(Ag/(In+Ga))は、例えば、0.1以上1.2以下であってよく、好ましくは0.2以上1.1以下であってよい。また、InとGaの総原子数に対するAgとCuの総原子数の比((Ag+Cu)/(In+Ga))は、例えば、0.1以上1.2以下であってよく、好ましくは0.2以上1.0以下であってよい。Ag、In及びGaの総原子数に対するSの原子数の比(S/(Ag+In+Ga))は、例えば、0.8以上1.5以下であってよく、好ましくは0.9以上1.2以下であってよい。Ag、Cu、In及びGaの総原子数に対するSの原子数の比(S/(Ag+Cu+In+Ga))は、例えば、0.8以上1.5以下であってよく、好ましくは0.9以上1.2以下であってよい。
【0025】
第1半導体は、硫黄(S)を含む第16族元素を含む。第1半導体の組成における第16族元素としては、Sに加えてSe、Te等が含まれる。第1半導体は、Sを含み、その一部が置換されてSe及びTeの少なくとも一方の元素をさらに含んでいてもよく、実質的にSから構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、S、Se及びTeの総原子数に対するSe及びTeの総原子数の割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0026】
第1半導体は、実質的にCu、Ag、In、Ga、S及び前述のそれら一部を置換する元素から構成されてよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にCu、Ag、In、Ga、S及び前述のそれら一部を置換する元素以外の他の元素が含まれることを考慮して使用している。
【0027】
第1半導体は、例えば、以下の式(1)で表される組成を有していてよい。
(AgCu(1-p)InGa(1-r)(q+3)/2 (1)
ここで、p、q及びrは、0<p≦1、0.20<q≦1.2、0<r<1を満たす。
【0028】
一態様において、第1半導体は、Ag、In、Ga及びSを含み、InとGaの原子数の合計に対するGaの原子数の比が0.95以下あり、光照射により500nm以上590nm未満の範囲に発光ピーク波長を有し、発光ピークの半値幅が70nm以下である光を発してよい。
【0029】
一態様において、第1半導体は、InとGaの原子数の合計に対するGaの原子数の比Ga/(Ga+In)(以下、「Ga比」ともいう)が好ましくは0.2以上0.9以下であってよく、好ましくは0.25以上、0.3以上、又は0.5以上であってよく、また好ましくは0.85以下、0.8以下、又は0.75以下であってよい。また、AgとInとGaの原子数の合計に対するAgの原子数の比Ag/(Ag+In+Ga)(以下、「Ag比」ともいう)が0.05以上0.55以下であってよく、好ましくは0.25以上、又は0.3以上であってよく、また好ましくは0.5以下、又は0.3以下であってよい。さらにAgとInとGaの原子数の合計に対するSの原子数の比S/(Ag+In+Ga)は、例えば0.6以上1.6以下であってよい。
【0030】
別の一態様において、第1半導体は、Ag及びCuと、In及びGaの少なくとも一方と、Sとを含み、Ag及びCuの総原子数に対するCuの原子数の比が、0.001以上0.9以下であり、光の照射により500nm以上820nm以下の範囲に発光ピーク波長を有し、発光ピークの半値幅が70nm以下である光を発してよい。
【0031】
別の一態様において、第1半導体は、Ag及びCuの総原子数に対するCuの原子数の比が、好ましくは0.005以上0.5以下であってよい。また、Ag及びCuの総原子数に対するIn及びGaの総原子数の比が0.5以上10以下であってよく、0.8以上5以下又は0.9以上2以下であってよい。さらに、Ag及びCuの総原子数に対するSの原子数の比が1以上10以下であってよく、1.5以上8以下又は2以上3以下であってよい。
【0032】
なお、第1半導体の化学組成は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)によって同定することができる。
【0033】
第2半導体
半導体ナノ粒子は、表面に第2半導体が配置されていてよい。第2半導体は、少なくともGa及びSを含む組成を有していてよい。第2半導体は、第1半導体よりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含んでいてよい。第2半導体の組成は、第1半導体の組成に比べて、Gaのモル含有量が大きい組成を有していてよい。第1半導体の組成におけるGaのモル含有量に対する第2半導体の組成におけるGaのモル含有量の比は、例えば1より大きく5以下であってよく、好ましくは1.1以上であり、また好ましくは3以下であってよい。
【0034】
また、第2半導体の組成は、第1半導体の組成に比べて、Agのモル含有量が小さい組成を有していてよい。第1半導体の組成におけるAgのモル含有量に対する第2半導体の組成におけるAgのモル含有量の比は、例えば0.1以上0.7以下であってよく、好ましくは0.2以上であり、また好ましくは0.5以下であってよい。第2半導体の組成におけるAgのモル含有量の比は、例えば0.5以下であってよく、好ましくは0.2以下、又は0.1以下であってよく、実質的に0であってよい。ここで「実質的に」とは、第2半導体に含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、Agの原子数の割合が、例えば10%以下、好ましくは5%以下、又は1%以下であることを意味する。すなわち、第2半導体は、Ga及びSを含み、実質的にAgを含まない組成を有していてよい。
【0035】
第2半導体に含まれるGa及びSを含む半導体の組成においては、Gaの一部が、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)及びタリウム(Tl)からなる群から選択される第13族元素の少なくとも1種で置換されていてもよい。また、Sの一部が、酸素(O)、セレン(Se)、テルル(Te)及びポロニウム(Po)からなる群から選択される第16族元素の少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0036】
一態様において第2半導体は、実質的にGa及びSからなる半導体であってよい。ここで「実質的に」とは、Ga及びSを含む半導体に含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、Ga及びS以外の元素の原子数の割合が、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。すなわち、第2半導体は硫化ガリウムであってよい。本明細書における硫化ガリウムは、化学量論組成(例えば、Ga)を有していてもよいし、Ga-S、又はGaSで表される組成を有していてもよい。ここでxは整数に限らない任意の数字であり、例えば0.8以上1.5以下であってよい。
【0037】
第2半導体は、上述の第1半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成してもよい。あるいは、第2半導体の組成等が先に決定されている場合には、第1半導体のバンドギャップエネルギーがGa及びSを含む半導体のそれよりも小さくなるように、第1半導体を設計してもよい。一般にAg-In-Sからなる半導体は、1.8eV以上1.9eV以下のバンドギャップエネルギーを有する。
【0038】
具体的には、第2半導体は、例えば2.0eV以上5.0eV以下、特に2.5eV以上5.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有してよい。また、第2半導体のバンドギャップエネルギーは、第1半導体のバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV以上3.0eV以下程度、特に0.3eV以上3.0eV以下程度、より特には0.5eV以上1.0eV以下程度大きいものであってよい。第2半導体のバンドギャップエネルギーと第1半導体のバンドギャップエネルギーとの差が前記下限値以上であると、半導体ナノ粒子からの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0039】
第2半導体は、酸素(O)原子を含んでいてよい。酸素原子を含む半導体は、上述の第1半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体となる傾向にある。第2半導体における酸素原子を含む半導体の形態は明確ではないが、例えば、Ga-O-S、Ga等であってよい。
【0040】
第2半導体は、Ga及びSに加えてアルカリ金属(M)を更に含んでいてもよい。第2半導体に含まれるアルカリ金属は、少なくともリチウムを含んでいてよい。第2半導体がアルカリ金属を含む場合、アルカリ金属の原子数とGaの原子数の総和に対するアルカリ金属の原子数の比は、例えば、0.01以上1未満、又は0.1以上0.9以下であってよい。また、アルカリ金属の原子数とGaの原子数の総和に対するSの原子数の比は、例えば、0.25以上0.75以下であってよい。
【0041】
第2半導体は、Ga及びSに加えてAgを更に含んでいてもよい。第2半導体がAgを含む場合、Agの原子数とGaの原子数の総和に対するAgの原子数の比は、例えば、0.01以上1未満、又は0.1以上0.9以下であってよい。また、Agの原子数とGaの原子数の総和に対するSの原子数の比は、例えば、0.25以上0.75以下であってよい。
【0042】
第2半導体がGa及びSに加えてAgを更に含む場合、第2半導体を含む付着物は、厚み方向に均一な組成を有していてもよいし、厚み方向に変化する組成を有していてもよい。例えば、第2半導体を含む付着物は、半導体ナノ粒子の表面から内部に向かってAgの含有比が大きくなる組成を有していてもよい。
【0043】
第2半導体は、その晶系が第1半導体の晶系となじみのあるものであってよく、またその格子定数が、第1半導体の格子定数と同じ又は近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い第2半導体は、第1半導体の周囲を良好に被覆することがある。なお、ここでは第2半導体の格子定数の倍数が、第1半導体の格子定数に近いものも格子定数が近いものとする。例えば、上述の第1半導体は、一般に正方晶系であるが、これになじみのある晶系としては、正方晶系、斜方晶系が挙げられる。Ag-In-Sが正方晶系である場合、その格子定数は0.5828nm、0.5828nm、1.119nmであり、これを被覆する第2半導体は、正方晶系又は斜方晶系であって、その格子定数又はその倍数が、Ag-In-Sの格子定数と近いものであることが好ましい。あるいは、第2半導体はアモルファス(非晶質)であってもよい。
【0044】
第2半導体がアモルファス(非晶質)であるか否かは、半導体ナノ粒子を、HAADF-STEMで観察することにより確認できる。第2半導体がアモルファス(非晶質)である場合、具体的には、規則的な模様、例えば、縞模様ないしはドット模様等を有する部分が中心部に観察され、その周囲に規則的な模様を有するものとしては観察されない部分がHAADF-STEMにおいて観察される。HAADF-STEMによれば、結晶性物質のように規則的な構造を有するものは、規則的な模様を有する像として観察され、非晶性物質のように規則的な構造を有しないものは、規則的な模様を有する像としては観察されない。そのため、第2半導体がアモルファスである場合には、規則的な模様を有する像として観察される第1半導体(正方晶系等の結晶構造を有していてよい)とは明確に異なる部分として、第2半導体を観察することができる。
【0045】
また、第2半導体がGa-Sからなる場合、Gaが第1半導体に含まれるAg及びInよりも軽い元素であるために、HAADF-STEMで得られる像において、第2半導体は第1半導体よりも暗い像として観察される傾向にある。
【0046】
第2半導体がアモルファスであるか否かは、高解像度の透過型電子顕微鏡(HRTEM)で本実施形態の半導体ナノ粒子を観察することによっても確認できる。HRTEMで得られる画像において、第1半導体の部分は結晶格子像(規則的な模様を有する像)として観察され、アモルファスである第2半導体の部分は結晶格子像として観察されず、白黒のコントラストは観察されるが、規則的な模様は見えない部分として観察される。
【0047】
一方、第2半導体は、第1半導体と固溶体を構成しないものであることが好ましい。第2半導体が第1半導体と固溶体を形成すると両者が一体のものとなり、半導体ナノ粒子の表面に第2半導体が配置されることによりバンド端発光を得るという、本実施形態のメカニズムが得られなくなる。例えば、Ag-In-Sからなる第1半導体を含む半導体ナノ粒子の表面に、化学量論組成ないしは非化学量論組成の硫化亜鉛(Zn-S)が配置されても、半導体ナノ粒子からバンド端発光が得られないことが確認されている。Zn-Sは、Ag-In-Sとの関係では、バンドギャップエネルギーに関して上記の条件を満たし、type-Iのバンドアライメントを与えるものである。それにもかかわらず、前記特定の半導体からバンド端発光が得られなかったのは、第1半導体とZnSとが固溶体を形成したことによると推察される。
【0048】
半導体ナノ粒子の粒径は、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。平均粒径は、製造のしやすさとバンド端発光の内部量子効率の点より、1nm以上20nm以下の範囲が好ましく、1.6nm以上8nm以下がより好ましく、2nm以上7.5nm以下が特に好ましい。
【0049】
半導体ナノ粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めてよい。個々の粒子の粒径は、具体的には、TEM像で観察される粒子の外周の任意の2点を結び、粒子の内部に存在する線分のうち、最も長いものを指す。
【0050】
ただし、粒子がロッド形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド形状の粒子とは、TEM像において短軸と短軸に直交する長軸とを有し、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド形状の粒子は、TEM像で、例えば、長方形状を含む四角形状、楕円形状、又は多角形状等として観察される。ロッド形状の長軸に直交する面である断面の形状は、例えば、円、楕円、又は多角形であってよい。具体的にはロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の2点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指し、長方形状又は多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指す。短軸の長さは、外周の任意の2点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分の長さを指す。
【0051】
半導体ナノ粒子の平均粒径は、50,000倍以上150,000倍以下のTEM像で観察される、すべての計測可能な粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、「計測可能な」粒子は、TEM像において粒子全体の輪郭が観察できるものである。したがって、TEM像において、粒子の輪郭の一部が撮像範囲に含まれておらず、「切れて」いるような粒子は計測可能なものではない。1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子数が100以上である場合には、そのTEM像を用いて平均粒径を求める。一方、1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子の数が100未満の場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに取得し、2以上のTEM像に含まれる100以上の計測可能な粒子について粒径を測定して平均粒径を求める。
【0052】
半導体ナノ粒子において、第1半導体からなる部分は粒子状であってよく、例えば、10nm以下、特に、8nm以下、又は7.5nm未満の平均粒径を有してよい。第1半導体の平均粒径は、例えば1.5nm以上10nm以下、好ましくは1.5nm以上8nm未満、又は1.5nm以上7.5nm未満の範囲内にあってよい。第1半導体の平均粒径が前記上限値以下であると、量子サイズ効果を得られ易い。
【0053】
半導体ナノ粒子おける第2半導体からなる部分の厚みは0.1nm以上50nm以下の範囲内、0.1nm以上10nm以下の範囲内、特に0.3nm以上3nm以下の範囲内にあってよい。第2半導体の厚みが前記下限値以上である場合には、半導体ナノ粒子において第2半導体が配置されることによる効果が十分に得られ、バンド端発光を得られ易い。
【0054】
第1半導体の平均粒径及び第2半導体の厚みは、半導体ナノ粒子を、例えば、HAADF-STEMで観察することにより求めてよい。特に、第2半導体がアモルファスである場合には、HAADF-STEMによって、第1半導体とは異なる部分として観察されやすい第2半導体部分の厚みを容易に求めることができる。その場合、第1半導体の粒径は、半導体ナノ粒子について上記で説明した方法に従って求めることができる。第2半導体の厚みが一定でない場合には、最も小さい厚みを、当該半導体ナノ粒子における第2半導体の厚みとする。
【0055】
半導体ナノ粒子は、結晶構造が実質的に正方晶であることが好ましい。結晶構造は、上述と同様にX線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。実質的に正方晶であるとは、正方晶であることを示す26°付近のメインピークの高さに対する六方晶及び斜方晶であることを示す48°付近のピークの高さの比が、例えば、10%以下、又は5%以下であることをいう。
【0056】
半導体ナノ粒子は、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光が照射されると、照射された光よりも長い波長を有する光を発する。半導体ナノ粒子が発する光はバンド端発光を含んでいてよい。半導体ナノ粒子が発する光の発光ピーク波長は、例えば500nm以上820nm以下であってよい。半導体ナノ粒子が発する光の発光ピーク波長は、好ましくは500nm以上、又は600nm以上であってよく、また好ましくは590nm以下、又は820nm以下であってよい。
【0057】
半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は例えば、70nm以下、60nm以下、55nm以下、又は50nm以下であってよい。発光ピークの半値幅の下限値は例えば、10nm以上、又は20nm以上であってよい。また、発光ピークの半値幅は例えば250meV以下、210meV以下、又は190meV以下であってよい。発光ピークの半値幅の下限は例えば35meV以上、又は70meV以上であってよい。
【0058】
半導体ナノ粒子の発光は、バンド端発光に加えて欠陥発光(例えば、ドナーアクセプター発光)を含むものであってもよいが、実質的にバンド端発光のみであることが好ましい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。ここで、実質的にバンド端発光のみであるとは、発光スペクトルにおけるバンド端発光成分の純度が40%以上であることをいい、好ましくは60%以上、又は90%以上であってよい。ここで「バンド端発光成分の純度」とは、発光スペクトルのピークを、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの2つに分離し、それらの面積をそれぞれa、aとした時、下記の式で表される。なお、各々のピークの形状は正規分布と仮定する。
バンド端発光成分の純度(%) = a/(a+a)×100
【0059】
発光スペクトルがバンド端発光を全く含まない場合、すなわち欠陥発光のみを含む場合は0%、バンド端発光と欠陥発光のピーク面積が同じ場合は50%、バンド端発光のみを含む場合は100%となる。
【0060】
バンド端発光の量子効率は量子効率測定装置を用いて、励起波長450nm、温度25℃で測定し、506nmから882nmの範囲で計算された内部量子効率に上記バンド端の純度を乗じ、100で除した値として定義される。半導体ナノ粒子のバンド端発光の量子効率は、例えば10%以上であってよく、好ましくは20%以上、又は50%以上であってよい。
【0061】
半導体ナノ粒子が発するバンド端発光は、半導体ナノ粒子の粒径を変化させることによって、ピークの位置を変化させることができる。例えば、半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすると、バンド端発光のピーク波長が短波長側にシフトする傾向にある。さらに、半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすると、バンド端発光のスペクトルの半値幅がより小さくなる傾向にある。
【0062】
半導体ナノ粒子はまた、その吸収スペクトル又は励起スペクトル(蛍光励起スペクトルともいう)がエキシトンピークを示すものであることが好ましい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトル又は励起スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子であることを意味する。エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。半導体ナノ粒子の吸収スペクトル又は励起スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上1000nm以下の範囲内で観察される。エキシトンピークの有無を見るための励起スペクトルは、観測波長をピーク波長付近に設定して測定してよい。
【0063】
ジアミン化合物
半導体ナノ粒子の表面には、ジアミン化合物が配置されて発光材料が構成される。半導体ナノ粒子に対する結合力が高いジアミン化合物が、その表面に配置されることで発光材料としての安定性が向上する。ジアミン化合物は、半導体ナノ粒子の表面に結合するリガンドとして機能してよい。
【0064】
ジアミン化合物は、第2半導体の表面に配置されていてよい。半導体ナノ粒子の表面に配置されるジアミン化合物は、脂肪族ジアミン化合物であってよい。ジアミン化合物は、2つのアミノ基がそれぞれ結合する炭素原子と、アミノ基が結合した2つの炭素原子を連結する単結合、又は脂肪族基と、アミノ基が結合する炭素原子及び脂肪族基の少なくとも1つに置換する置換基と、を有する化合物であってよい。置換基としては、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基、置換されてもよい複素環基等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。置換基は、好ましくは、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいオキサアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。ジアミン化合物における置換基の置換数は、例えば1以上10以下であってよく、好ましくは2以上、又は4以下であってよい。ジアミン化合物における置換基が2以上の場合、それぞれの置換基は同一でも異なっていてもよい。また、置換基は、任意の2つの置換基が互いに連結して環を形成してもよい。
【0065】
ジアミン化合物は、2つのアミノ基がそれぞれ結合する炭素原子間を連結する炭素数が、例えば0以上4以下であってよく、好ましくは1又は2であってよい。すなわち、ジアミン化合物は、好ましくは1,3-ジアミン化合物又は1,4-ジアミン化合物であってよい。
【0066】
置換されてもよいアルキル基におけるアルキル基部分は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、環状構造と、直鎖又は分岐鎖である鎖状構造の両方を含んでいてもよい。アルキル基部分の炭素数は、例えば6から20であってよく、好ましくは10以上、又は12以上であってよく、また好ましくは18以下、又は16以下であってよい。
【0067】
置換されてもよいアルケニル基におけるアルケニル基部分は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、環状構造と、直鎖又は分岐鎖である鎖状構造の両方を含んでいてもよい。アルケニル基部分の炭素数は、例えば6から20であってよく、好ましくは10以上、又は12以上であってよく、また好ましくは18以下、又は16以下であってよい。アルケニル基における二重結合の位置は、末端であっても、末端以外の任意の位置であってもよい。アルケニル基における二重結合の数は、例えば1以上4以下であってよく、好ましくは2以下であってよい。
【0068】
置換されてもよいアルキニル基におけるアルキニル基部分は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよく、環状構造と、直鎖又は分岐鎖である鎖状構造の両方を含んでいてもよい。アルキニル基部分の炭素数は、例えば6から20であってよく、好ましくは10以上、又は12以上であってよく、また好ましくは18以下、又は16以下であってよい。アルキニル基における三重結合の位置は、末端であっても、末端以外の任意の位置であってもよい。アルキニル基における三重結合の数は、例えば1以上4以下であってよく、好ましくは2以下であってよい。
【0069】
置換されてもよいオキサアルキル基におけるオキサアルキル基は、前記置換されてもよいアルキル基における任意のメチレン基が酸素原子で置換されたものであってよい。またオキサアルキル基は、炭素数2から6のアルキレンオキシ基の2以上が連結し、一方の末端に水素原子又は炭素数1から6のアルキル基が結合して形成されるものであってもよい。オキサアルキル基の総炭素数は、例えば6以上20以下であってよく、好ましくは10以上、又は12以上であってよく、また好ましくは18以下、又は16以下であってよい。オキサアルキル基における酸素原子の置換数は、例えば2以上10以下であってよく、好ましくは4以上、又は8以下であってよい。
【0070】
置換されてもよいアリール基は、アリール基部分の炭素数が6以上20以下であってよく、好ましくは6、10、14又は18であってよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0071】
置換されてもよい複素環基における複素環基は、脂肪族複素環基であっても、芳香族複素環基であってもよい。複素環基に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子等が挙げられる。複素環基は2以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。複素環基を構成する炭素原子の総数は、2以上20以下であってよく、好ましくは2以上、又は10以下であってよい。複素環基として具体的には、例えば、エポキシ基、ピリジル基、イミダゾリル基等が挙げられる。
【0072】
置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基における置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、水酸基、チオール基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリクロロシリル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基等が挙げられる。置換数は、例えば0以上6以下であってよく、好ましくは2以下であってよい。
【0073】
ジアミン化合物における置換基は、任意の2つの置換基が互いに連結して環を形成してもよい。形成される環の員数としては、例えば3以上8以下であってよく、好ましくは5以上、又は6以下であってよい。形成される環は、炭化水素からなる脂肪族炭化水素環であってもよく、ヘテロ原子を含む脂肪族複素環であってもよい。形成される環の具体例としては、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環、テトラヒドロフラン環等が挙げられる。
【0074】
ジアミン化合物は、その置換基に由来して、その構造式中に1個または複数個の不斉炭素原子または不斉中心を含む場合があり、2種以上の立体異性体が存在する場合もある。本明細書におけるジアミン化合物は各々の立体異性体及びそれらが任意の割合で含まれる混合物をも全て包含するものである。またジアミン化合物は、その構造式中に、炭素-炭素二重結合に由来する2種以上の幾何異性体が存在する場合もある。本明細書におけるジアミン化合物は各々の幾何異性体及びそれらが任意の割合で含まれる混合物をも全て包含する。
【0075】
ジアミン化合物は、例えば下記式(1)で表される構造を有していてもよい。
【0076】
【化1】
【0077】
式(1)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数6から20の、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基若しくは水素原子を示すか、または2つのRが互いに連結して環を形成する置換されてもよいアルキレン基を示す。但し、すべてのRが水素原子の場合を除く。nは2以上6以下の数を表す。
【0078】
式(1)のRにおける置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基の詳細については、既述の通りである。式(1)におけるRは、好ましくは置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、オキサアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基若しくは水素原子であってよい。
【0079】
また、ジアミン化合物は、例えば下記式(1a)から(1g)のいずれかで表される構造を有していてもよい。
【0080】
【化2】
【0081】
式(1a)から(1g)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数6から20の、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基若しくは水素原子を示すか、または2つのRが互いに連結して環を形成する置換されてもよいアルキレン基を示す。但し、2つのRの両方が水素原子の場合を除く。
【0082】
式(1a)から(1g)のRにおける置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基の詳細については、既述の通りである。Rは、好ましくは置換されてもよいアルキル基、アルケニル基、オキサアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基若しくは水素原子であってよい。Rにおける置換されてもよいアルキル基は、好ましくは炭素数が6以上18以下、又は6以上12以下であってよい。
【0083】
ジアミン化合物は1種単独で配置されていてもよく、2種以上が組み合わされて配置されていてもよい。また、ジアミン化合物は、購入等により入手したものであってもよく、例えばガブリエル反応等の公知のアミノ化反応、シアノ基等の含窒素官能基の還元反応、加水分解反応等を利用して合成したものであってもよい。
【0084】
半導体ナノ粒子におけるジアミン化合物の含有量は、例えば半導体ナノ粒子の総質量に対して0.1質量%以上50質量%以下であってよい。ジアミン化合物の含有量は、好ましくは1質量%以上、又は20質量%以下であってよい。半導体ナノ粒子におけるジアミン化合物の含有量は、有機元素分析によって評価することができる。
【0085】
半導体ナノ粒子は、ジアミン化合物に由来して炭素原子を含んでいてもよい。半導体ナノ粒子における炭素原子の含有率は、例えば半導体ナノ粒子の総質量に対して0.05質量%以上45%質量以下であってよい。炭素原子の含有率は、好ましくは0.5質量%以上、又は0.7質量%以上であってよく、また好ましくは18質量%以下、又は16質量%以下であってよい。半導体ナノ粒子における炭素原子の含有率は、有機元素分析によって評価することができる。
【0086】
ジアミン化合物は、半導体ナノ粒子の表面の少なくとも一部に配置されていればよく、好ましくは半導体ナノ粒子の表面の少なくとも一部を被覆していてよい。ジアミン化合物による半導体ナノ粒子の表面の被覆率は、例えば10%以上であってよく、好ましくは50%以上、又は70%以上であってよい。被覆率の上限は、例えば100%以下であってよい。被覆率は、半導体ナノ粒子の表面積に対するジアミン化合物で被覆された領域の面積の比率として算出される。
【0087】
ジアミン化合物は、半導体ナノ粒子の表面に結合するリガンドであってよい。リガンドは、例えば液媒体中で、半導体ナノ粒子(QD)に結合した状態と結合していない状態との間で、以下に示すように平衡状態にあると考えられる。
【0088】
【化3】
【0089】
半導体ナノ粒子を含む発光材料を洗浄処理すると、結合していないリガンドは系中から除去される。すると、半導体ナノ粒子に結合しているリガンドの一部は脱離し、再び平衡状態になる。その結果、洗浄前に比べて半導体ナノ粒子の発光量子効率は低下すると考えられる。上式の平衡は、リガンドの半導体ナノ粒子への結合が強い程左へ偏っている。すなわち、半導体ナノ粒子への結合が強い程、洗浄によってリガンドは脱離しにくく、発光量子効率は低下しにくいと考えられる。例えば、発光量子効率保持率を下式のように定義すると、発光量子効率保持率によって、ジアミン化合物(リガンド)の半導体ナノ粒子への結合力を評価することができる。
【0090】
【数1】
【0091】
発光材料における発光量子効率保持率は、例えば50%以上であってよい。発光量子効率保持率は、好ましくは70%以上、又は80%以上であってよい。
【0092】
半導体ナノ粒子の表面には、ジアミン化合物に加えてジアミン化合物以外の表面修飾剤が配置されてもよい。表面修飾剤の具体例としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物、及び炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含酸素化合物に加えて、負の酸化数を有するリンを含む化合物(以下、「特定修飾剤」ともいう)を挙げることができる。半導体ナノ粒子の表面に配置される表面修飾剤が特定修飾剤を含んでいることで、半導体ナノ粒子のバンド端発光における量子効率がより向上する場合がある。
【0093】
特定修飾剤は、第15族元素として負の酸化数を有するPを含む。Pの酸化数は、Pに水素原子又は炭化水素基が1つ結合することで-1となり、酸素原子が単結合で1つ結合することで+1となり、Pの置換状態で変化する。例えば、トリアルキルホスフィン及びトリアリールホスフィンにおけるPの酸化数は-3であり、トリアルキルホスフィンオキシド及びトリアリールホスフィンオキシドでは-1となる。
【0094】
特定修飾剤は、負の酸化数を有するPに加えて、他の第15族元素を含んでいてもよい。他の第15族元素としては、N、As、Sb等を挙げることができる。
【0095】
特定修飾剤は、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含リン化合物であってよい。炭素数4以上20以下の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの直鎖又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特定修飾剤が、複数の炭化水素基を有する場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0096】
特定修飾剤として具体的には、トリブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリテトラデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリイソブチルホスフィンオキシド、トリペンチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド、トリテトラデシルホスフィンオキシド、トリヘキサデシルホスフィンオキシド、トリオクタデシルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0097】
シェルの表面は、特定修飾剤に加えて、その他の表面修飾剤で表面修飾されていてもよい。その他の表面修飾剤としては、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含酸素化合物等であってよい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
【0098】
その他の表面修飾剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物が好ましい。含窒素化合物としては、例えばn-ブチルアミン、イソブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミンや、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが挙げられる。特に純度の高いものが入手しやすい点と沸点が290℃を超える点から、n‐テトラデシルアミン及びオレイルアミンが好ましい。また含硫黄化合物としては、例えば、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0099】
ジアミン化合物以外の表面修飾剤は、異なる2種以上のものを組み合わせて用いてよい。例えば、上記において例示した含窒素化合物から選択される一つの化合物(例えば、オレイルアミン)と、上記において例示した含硫黄化合物から選択される一つの化合物(例えば、ドデカンチオール)とを組み合わせて用いてよい。
【0100】
発光材料は、発光材料が含む半導体ナノ粒子に起因して、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光が照射されると、照射された光よりも長い波長を有する光を発する。発光材料が発する光はバンド端発光を含んでいてよい。発光材料が発する光の発光ピーク波長は、例えば500nm以上820nm以下であってよい。発光材料が発する光の発光ピーク波長は、好ましくは500nm以上、又は600nm以上であってよく、また好ましくは590nm以下、又は820nm以下であってよい。
【0101】
発光材料の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は例えば、70nm以下、60nm以下、55nm以下、又は50nm以下であってよい。発光ピークの半値幅の下限値は例えば、10nm以上、又は20nm以上であってよい。また、発光ピークの半値幅は例えば250meV以下、210meV以下、又は190meV以下であってよい。発光ピークの半値幅の下限は例えば35meV以上、又は70meV以上であってよい。
【0102】
発光材料の発光量子効率は、量子効率測定装置を用いて、励起波長450nm、温度25℃で測定し、500nmから950nmの範囲で計算された内部量子効率として定義される。発光材料の発光量子効率は、例えば10%以上であってよく、好ましくは20%以上、又は50%以上であってよい。
【0103】
発光材料の形態は、粉体状態であってもよく、液媒体に分散された状態であってもよい。液媒体としては、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤等を用いてよい。また液媒体は、重合性化合物を含んでいてもよく、実質的に重合性化合物であってもよい。ここで、「実質的に重合性化合物である」とは、液媒体に含まれる重合性化合物以外の溶剤の含有率が、10質量%以下、又は5質量%以下であることを意味する。発光材料が分散液の状態であることで、発光量子効率の低下を抑制できる傾向がある。
【0104】
液媒体に用いる重合性化合物は、重合性基を有する液体状の化合物であればよい。重合性基としては、例えばビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基等を挙げることができる。重合性化合物として具体的には、例えばβ-カルボキシエチルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシフェニル(メタ)アクリレート、エトキシフェニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、ノナンジオールジ(メタ)アクリレ-ト等が挙げられる。
【0105】
液媒体が重合性化合物を含む場合、分散液における発光材料の濃度を分散液の吸光度で管理してもよい。具体的には、吸光度測定用の溶媒を用いて、分散液を容量で80倍に希釈した試料の450nmでの吸光度が0.50以上1.50以下になるような濃度とすることができる。これにより、発光量子効率の低下をより効果的に抑制できる傾向がある。発光材料と重合性化合物を含む分散液は、例えば、発光材料を含む波長変換材料の製造に用いることができる。
【0106】
発光材料の製造方法
発光材料は、第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子を含み、表面に第2半導体が配置された第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを接触させて、第2半導体の表面にジアミン化合物を配置させることで製造することができる。すなわち、発光材料の製造方法は、第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを接触させる接触工程を含んでいてよい。
【0107】
第2半導体ナノ粒子はその表面にジアミン化合物以外のその他の表面修飾剤が配置されていてもよい。第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを接触させることで、その他の表面修飾剤の少なくとも一部がジアミン化合物に置換されて、ジアミン化合物が第2半導体ナノ粒子の表面に配置された第3半導体ナノ粒子を含む発光材料が形成される。
【0108】
第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物の接触は、例えば第2半導体ナノ粒子の分散液とジアミン化合物とを混合することで行うことができる。また、ジアミン化合物の溶液と第2半導体ナノ粒子とを混合することで行ってもよい。
【0109】
第2半導体ナノ粒子は、銀(Ag)を含み銅(Cu)を含んでもよい第11族元素、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む第13族元素、硫黄(S)を含む第16族元素源を含む第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子を含み、その表面に、少なくともガリウム(Ga)及び硫黄(S)を含む第2半導体が配置されて構成させる。第1半導体及び第2半導体の詳細については既述の通りである。また、第2半導体ナノ粒子の製造方法については、例えば、特開2018-39971号公報、特開2018-141141号公報、国際公開第2020/162622号、特願2021-036717号、特願2021-126859号等の記載を参照することができる。
【0110】
第2半導体ナノ粒子の分散液を構成する液媒体としては、例えば、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン、キシレン等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。液媒体は1種単独で用いてもよく、2種以上の混合物であってもよい。また、ジアミン化合物の溶液を構成する液媒体は、第2半導体ナノ粒子の分散液を構成する液媒体と同様である。
【0111】
第2半導体ナノ粒子の分散液における第2半導体ナノ粒子の濃度は、例えば分散液に占める粒子の濃度が、例えば、5.0×10-7mol/L以上5.0×10-5mol/L以下、特に1.0×10-6mol/L以上、1.0×10-5mol/L以下となるように調製されてよい。ここで、粒子の濃度というのは、粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル濃度であり、分散液1Lに含まれるナノ粒子の個数を、アボガドロ数(N=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0112】
第2半導体ナノ粒子と接触させるジアミン化合物の使用量は、例えば第2半導体ナノ粒子の、粒子としての物質量10nmolに対して、例えば1μmol以上100mmol以下であってよい。ジアミン化合物の使用量は、好ましくは10μmol以上、又は0.1mmol以上であってよく、また好ましくは10mmol以下、又は1mmol以下であってよい。ここで、粒子としての物質量というのは、粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれるナノ粒子の個数を、アボガドロ数(N=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0113】
また、分散液における第2半導体ナノ粒子の濃度は、例えば450nmにおける吸光度が0.01以上1000以下となる濃度であってよい。この場合、第2半導体ナノ粒子と接触させるジアミン化合物の使用量は、分散液600μlに対して、例えば0.001mmol以上10mmol以下であってよい。
【0114】
第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物の接触温度は、例えば0℃以上100℃以下であってよく、好ましくは20℃以上、又は50℃以下であってよい。第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物の接触時間は、例えば1時間以上100時間以下であってよく、好ましくは10時間以上、又は50時間以下であってよい。
【0115】
第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを接触させて得られる第3半導体ナノ粒子には、洗浄処理、乾燥処理等の精製工程を実施してもよい。すなわち、発光材料の製造方法は、接触工程に加えて洗浄工程を含んでいてもよい。洗浄処理は、例えば半導体ナノ粒子の分散液にアルコール等の有機溶剤を添加した後、遠心分離によって第3半導体ナノ粒子を沈殿物として回収することで実施することができる。洗浄処理は1回のみでもよいし、必要に応じて複数回実施してもよい。洗浄処理を複数回実施する場合、沈殿物を適当な液媒体に分散させた後、アルコール等の有機溶剤を添加して遠心分離して沈殿物として回収すればよい。洗浄処理に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール等の炭素数1から4の低級アルコールが挙げられる。また、沈殿物を液媒体に分散させる場合、液媒体としては、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤等を用いてよい。
【0116】
洗浄処理後の第3半導体ナノ粒子を含む沈殿物には、乾燥処理を実施してもよい。乾燥処理は、例えば、真空脱気、自然乾燥、又は真空脱気と自然乾燥との組み合わせにより実施することができる。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。
【0117】
洗浄処理後の第3半導体ナノ粒子を含む沈殿物には、液媒体を添加して第3半導体ナノ粒子の分散液としてもよい。液媒体としては例えば、既述のハロゲン系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。また液媒体は、必要に応じて重合性化合物を含んでいてもよく、実質的に重合性化合物であってもよい。重合性化合物の詳細は既述の通りである。
【0118】
第3半導体ナノ粒子と重合性化合物を含む分散液は、洗浄処理後、乾燥した第3半導体ナノ粒子に重合性化合物を添加し、混合することで調製することができる。乾燥した第3半導体ナノ粒子に重合性化合物を添加することで、第3半導体ナノ粒子の発光量子効率の低下を抑制することができる。分散液における第3半導体ナノ粒子の濃度は、例えば、分散液をクロロホルム等の吸光度測定用溶媒で、体積基準で80倍に希釈した試料の450nmにおける吸光度が0.5以上1.5以下、又は1.0程度になるように調整してよい。これにより、発光効率の高い発光材料とすることができる。
【0119】
一態様において、発光材料の製法方法は、例えば、銀(Ag)を含み銅(Cu)を含んでもよい第11族元素源と、インジウム(In)およびガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む第13族元素源と、硫黄(S)を含む第16族元素源と、を含む第1混合物を熱処理して、第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子を得る第1工程と、第1半導体ナノ粒子を含む分散液と、ガリウム(Ga)を含む第13族元素源と、硫黄(S)を含む第16族元素源と、を含む第2混合物を熱処理して、表面に第2半導体が配置された第2半導体ナノ粒子を得る第2工程と、第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを接触させて表面にジアミン化合物が配置された第3半導体ナノ粒子を得る第3工程と、を含んでいてよい。
【0120】
第1工程では、銀(Ag)を含み銅(Cu)を含んでもよい第11族元素源と、インジウム(In)およびガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む第13族元素源と、硫黄(S)を含む第16族元素源と、を含む第1混合物を熱処理して、第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子を得る。
【0121】
第1混合物に含まれる第11族元素源及び第13族元素源としては、有機酸塩又は無機酸塩を用いてよい。具体的には、無機酸塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等を挙げることができる。また有機酸塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸、アセチルアセトナート塩等を挙げることができる。第11族元素源及び第13族元素源は、好ましくはこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であってよく、有機溶剤への溶解度が高く、反応がより均一に進行することから、より好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。第1混合物は、第11族元素源及び第13族元素源をそれぞれ1種単独で含んでいてもよく、それぞれ2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。また、第1混合物における第13族元素源は、In塩及びGa塩からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくともGa塩の少なくとも1種を含み、In塩の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。また、第1混合物における第11族元素源は、Ag塩及びCu塩からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくともAg塩の少なくとも1種を含み、Cu塩の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。
【0122】
第16族元素として硫黄(S)を第1半導体の構成元素とする場合には、高純度硫黄のような硫黄単体を用いることができる。あるいは、硫黄含有化合物を用いることができる。硫黄含有化合物としては、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のチオール類;ジベンジルスルフィドのようなジスルフィド類;2,4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類;1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩等のジアルキルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素、炭素数1から18のアルキル基を有する1,3-ジアルキルチオ尿素、1,1-ジアルキルチオ尿素、アルキルチオ尿素、1,1,3-トリアルキルチオ尿素、1,1,3,3-テトラアルキルチオ尿素等が挙げられる。第16族元素源としては、有機溶剤に溶解可能な硫黄含有化合物が好ましく、溶解性と反応性の観点から、1,3-ジアルキルチオ尿素が好ましく用いられる。アルキルチオ尿素のアルキル基としては、炭素数が1から12が好ましく、1から8がより好ましく、1から6がより好ましく、1から4がより好ましく、1から3がさらに好ましい。アルキルチオ尿素が複数のアルキル基を有する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0123】
第16族元素源は、少なくともSを含む。第16族元素源が含む第16族元素の総原子数に対するSの原子数の比率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は99%以上であってよい。すなわち、第16族元素源は、実質的にS源であってよい。
【0124】
第1混合物における第11族元素源、第13族元素源及び第16族元素源の含有比は、目的とする組成に応じて適宜選択してよい。その際、第11族元素源、第13族元素源及び第16族元素源の含有比は化学量論比と整合しなくてもよい。
【0125】
第1混合物は有機溶剤の少なくとも1種を含んでいてよい。第1混合物における有機溶剤としては、例えば、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミン、例えば炭素数4から20のアルキルアミンもしくはアルケニルアミン、炭素数4から20の炭化水素基を有するチオール、例えば炭素数4から20のアルキルチオールもしくはアルケニルチオール、炭素数4から20の炭化水素基を有するホスフィン、例えば炭素数4から20のアルキルホスフィンもしくはアルケニルホスフィン等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの有機溶剤は、例えば、最終的には、得られる第1半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも1種と、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶剤を使用してよい。これらの有機溶剤は他の有機溶剤と混合して用いてもよい。有機溶剤が前記チオールと前記アミンとを含む場合、アミンに対するチオールの含有体積比(チオール/アミン)は、例えば、0より大きく1以下であり、好ましくは0.007以上0.2以下である。
【0126】
第1工程の第1態様は、第11族元素源、第13族元素源、第16族元素源及び有機溶剤を含む第1混合物を準備することと、準備した第1混合物を熱処理することと、を含んでいてよい。第1工程の第1態様では、第1混合物を熱処理することで有機溶媒中に、第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子が生成する。第1混合物の熱処理の温度は例えば、230℃以上310℃以下であり、好ましくは260℃より高く310℃以下であり、より好ましくは290℃以上310℃以下である。熱処理の時間は例えば、5分間以上20分間以下であり、好ましくは5分間以上15分間以下である。混合物の熱処理は、2以上の温度で行ってもよい。例えば、30℃以上155℃以下の温度で1分間以上15分間以下加熱した後、230℃以上310℃以下の温度で5分間以上20分間以下加熱して行ってもよい。
【0127】
第1工程の第2態様は、第11族元素源、第13族元素源及び有機溶剤を含む予備混合物を準備することと、予備混合物を120℃以上300℃以下の範囲にある温度に昇温することと、昇温された予備混合物に第16族元素源を添加することと、を含んでいてよい。第1工程の第2態様では、所定の温度にまで昇温された予備混合物に第16族元素源が添加されることで、第1混合物が形成され、それが熱処理されることで有機溶媒中に、第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子が生成する。
【0128】
予備混合物が昇温されて到達する温度は、好ましくは125℃以上、130℃以上、又は135℃以上であってよく、また好ましくは175℃以下、160℃以下、又は150℃以下であってよい。昇温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下であってよく、好ましくは10℃/分以上50℃/分以下であってよい。
【0129】
第16族元素源の予備混合物への添加は、混合物中の第11族元素の総原子数に対する第16族元素の原子数の比の増加率が10/分以下となるように徐々に添加してよい。予備混合物中の第11族元素の原子数に対する第16族元素の原子数の比(第16族元素/第11族元素比)の増加率は、例えば、ある時点におけるその比をその単位時間後におけるその比から差し引き、単位時間を分換算した値で除して算出される。単位時間は例えば、1秒から1分の間で任意に選択される。予備混合物中の第11族元素の原子数に対する第16族元素の原子数の比の増加率は、ナノ粒子の粒子成長制御の点より、好ましくは0.0001/分以上2/分以下であってよく、0.0001/分以上1/分以下、0.001/分以上0.2/分以下、又は0.001/分以上0.1/分以下であってよい。また、好ましくは0.0002/分以上2/分以下、又は0.002/分以上0.2/分以下であってよい。
【0130】
第16族元素源の添加は、単位時間当たりの添加量が所要時間にわたって略同一になるように行ってよい。すなわち、第16族元素源の総添加量を、所要時間を単位時間で除した数で除して得られる単位量を単位時間当たりの添加量として添加してよい。単位時間は、例えば、1秒間、5秒間、10秒間、30秒間又は1分間とすることができる。第16族元素源は、連続的に添加されてもよく、段階的に添加されてもよい。また第16族元素源は、例えば、不活性ガス雰囲気下で予備混合物に添加されてよい。
【0131】
熱処理の雰囲気は、不活性雰囲気、特にアルゴン雰囲気または窒素雰囲気が好ましい。不活性雰囲気とすることで、酸化物の副生および第1半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止することができる。
【0132】
第1半導体ナノ粒子の生成が終了した後、得られた第1半導体ナノ粒子を処理後の有機溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製してよい。第1半導体ナノ粒子の精製は、既述の第3半導体ナノ粒子の洗浄処理と同様に実施することができる。
【0133】
第2工程では、第1半導体を含む第1半導体ナノ粒子を含む分散液と、ガリウム(Ga)を含む第13族元素源と、硫黄(S)を含む第16族元素源と、を含むナノ粒子混合物を準備して、準備したナノ粒子混合物を熱処理して表面に第2半導体が配置された第2半導体ナノ粒子を得る。
【0134】
第1半導体ナノ粒子を分散させる溶媒は、任意の有機溶媒とすることができる。有機溶媒は、表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶液とすることができる。例えば、有機溶媒は、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1つとすることができる。あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1つとすることができる。あるいは炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1つと炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1つとの組み合わせでとすることができる。含窒素化合物としては、特に、特に純度の高いものが入手しやすい点と沸点が290℃を超える点とから、n‐テトラデシルアミン、オレイルアミン等が好ましい。含硫黄化合物としては、ドデカンチオール等が好ましく挙げられる。具体的な有機溶媒としては、オレイルアミン、n‐テトラデシルアミン、ドデカンチオール、またはその組み合わせが挙げられる。
【0135】
第1半導体ナノ粒子の分散液は、分散液に占める粒子の濃度が、例えば、5.0×10-7モル/リットル以上5.0×10-5モル/リットル以下、特に1.0×10-6モル/リットル以上、1.0×10-5モル/リットル以下となるように調製してよい。分散液に占める粒子の割合が小さすぎると貧溶媒による凝集・沈澱プロセスによる生成物の回収が困難になり、大きすぎるとコアを構成する材料のオストワルド熟成、衝突による融合の割合が増加し、粒径分布が広くなる傾向にある。なお、粒子の濃度については、既述の通りである。
【0136】
第13族元素源は、例えば、第13族元素の有機塩、無機塩、有機金属化合物等である。具体的には、第13族元素を含む、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩、アセチルアセトナート錯体が挙げられ、好ましくは酢酸塩等の有機塩、または有機金属化合物である。有機塩および有機金属化合物は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによる。第13族元素源は、少なくともGaを含む。第13族元素源が含む第13族元素の総原子数に対するGaの原子数の比率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は99%以上であってよい。すなわち、第13族元素源は、実質的にGa源であってよい。
【0137】
第16族元素源は、16族元素の単体または第16族元素を含む化合物である。例えば、第16族元素として硫黄(S)を第2半導体の構成元素とする場合には、高純度硫黄のような硫黄単体を用いることができ、あるいは、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のチオール、ジベンジルスルフィドのようなジスルフィド、チオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、チオカルボニル化合物等の硫黄含有化合物を用いることができる。第16族元素源は、少なくともSを含む。第16族元素源が含む第16族元素の総原子数に対するSの原子数の比率は、例えば90%以上であってよく、好ましくは95%以上、又は99%以上であってよい。すなわち、第16族元素源は、実質的にS源であってよい。
【0138】
第16族元素として、酸素(O)を第2半導体の構成元素とする場合には、アルコール、エーテル、カルボン酸、ケトン、N-オキシド化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、セレン(Se)を第2半導体の構成元素とする場合には、セレン単体、またはセレン化ホスフィンオキシド、有機セレン化合物(ジベンジルジセレニドやジフェニルジセレニド)もしくは水素化物等の化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、テルル(Te)を第2半導体の構成元素とする場合には、テルル単体、テルル化ホスフィンオキシド、または水素化物を、第16族元素源として用いてよい。
【0139】
第13族元素源および第16族元素源を分散液に添加する方法としては、例えば、第13族元素源および第16族元素源を、有機溶媒に分散または溶解させた混合液を準備し、この混合液を分散液に少量ずつ、例えば、滴下する方法で添加してよい。この場合、混合液は、0.1mL/時間以上10mL/時間以下、特に1mL/時間以上5mL/時間以下の速度で添加してよい。また、混合液は、加熱した分散液に添加してよい。具体的には、例えば、分散液を昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度に達してから、ピーク温度を保持した状態で、混合液を少量ずつ加え、その後、降温させる方法で、第1半導体ナノ粒子の表面に第2半導体を形成してよい(スローインジェクション法)。ピーク温度は、混合液の添加を終了した後も必要に応じて保持してよい。
【0140】
ピーク温度が前記温度以上であると、第1半導体ナノ粒子を修飾している表面修飾剤が十分に脱離し、または第2半導体の生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、第2半導体の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が前記温度以下であると、第1半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、混合液の添加が開始されてからトータルで1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好な第2半導体層が形成されやすい。昇温速度および降温速度は特に限定されず、降温は、例えばピーク温度で所定時間保持した後、加熱源(例えば電気ヒーター)による加熱を停止して放冷することにより実施してよい。
【0141】
あるいは、第13族元素源および第16族元素源は、直接、全量を分散液に添加してよい。それから、第13族元素源および第16族元素源が添加された分散液を加熱することにより、第2半導体を第1半導体ナノ粒子の表面に形成して配置してよい(ヒーティングアップ法)。具体的には、第13族元素源および第16族元素源を添加した分散液は、例えば、徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度で1分間以上300分間以下保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよく、降温速度は例えば1℃/分以上100℃/分以下としてよい。あるいは、昇温速度を特に制御することなく、所定のピーク温度となるように加熱してよく、また、降温を一定速度で実施せず、加熱源による加熱を停止して放冷することにより実施してもよい。ピーク温度が前記範囲であることの有利な点は、上記混合液を添加する方法(スローインジェクション法)で説明したとおりである。
【0142】
ヒーティングアップ法によれば、スローインジェクション法で第2半導体を形成する場合と比較して、より強いバンド端発光を与える第2半導体ナノ粒子が得られる傾向にある。
【0143】
いずれの方法で第13族元素源および第16族元素源を添加する場合でも、両者の仕込み比は、第13族元素と第16族元素とからなる半導体化合物の化学量論組成比に対応させて仕込み比を決めてもよく、必ずしも化学量論組成比にしなくてもよい。仕込み比を化学量論組成比にしない場合、目的とする第2半導体の生成量よりも過剰量で原料を仕込んでもよく、例えば、第16族元素源を化学量論組成比より少なくしてよく、例えば、仕込み比を1:1(第13族:第16族)としてもよい。例えば、第13族元素源としてGa源を、第16族元素源としてS源を用いる場合、仕込み比はGaの組成式に対応した1:1.5(Ga:S)から1:1とすることが好ましい。
【0144】
また、分散液中に存在する第1半導体ナノ粒子に所望の厚さの第2半導体が配置されるように、仕込み量は、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の量を考慮して選択する。例えば、第1半導体ナノ粒子の、粒子としての物質量10nmolに対して、第13族元素および第16族元素から成る化学量論組成の化合物半導体が1μmol以上10mmol以下、特に5μmol以上1mmol以下生成されるように、第13族元素源および第16族元素源の仕込み量を決定してよい。なお、粒子としての物質量については、既述の通りである。
【0145】
半導体ナノ粒子の製造方法においては、第13族元素源として、ガリウムアセチルアセトナートを用い、第16族元素源として、硫黄単体、チオ尿素またはジベンジルジスルフィドを用いて、分散液として、オレイルアミンとドデカンチオールの混合液を用いて、硫化ガリウムを含む第2半導体を形成することが好ましい。
【0146】
また、ヒーティングアップ法で、分散液にオレイルアミンとドデカンチオールの混合液を用いると、欠陥発光に由来するブロードなピークの強度がバンド端発光のピークの強度よりも十分に小さい発光スペクトルを与える第2半導体ナノ粒子が得られる。上記の傾向は、第13族元素源としてガリウム源を使用した場合にも、有意に認められる。
【0147】
このようにして、第1半導体ナノ粒子の表面に第2半導体を配置して第2半導体ナノ粒子が形成される。得られた第2半導体ナノ粒子は、溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製および乾燥してよい。分離、精製及び乾燥の方法は、先に説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0148】
第3工程では、第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物とを接触させて表面にジアミン化合物が配置された第3半導体ナノ粒子を得る。第2半導体ナノ粒子とジアミン化合物との接触については、先に説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0149】
発光装置
発光装置は、既述の半導体ナノ粒子を含む発光材料を含む波長変換部材と、半導体発光素子とを備える。この発光装置によれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光装置の発光として利用できる。
【0150】
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm以上490nm以下程度の青紫色光又は青色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光装置を得ることができる。あるいは、半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光装置を得ることができる。
【0151】
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、3種類の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光装置を得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0152】
あるいはまた、ピーク波長が490nm以上510nm以下程度の青緑色光を発するものを用い、発光材料として青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発する発光装置を得ることができる。
【0153】
あるいはまた、半導体発光素子として可視光を発光するもの、例えば波長700nm以上780nm以下の赤色光を発光するものを用い、発光材料として、可視光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光装置を得ることもできる。
【0154】
発光材料は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体又は無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、二元系の半導体量子ドットが挙げられる。量子ドットではない蛍光体として、例えば、アルミニウムガーネット等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット系蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi:Eu系又はBaSi12:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl:Eu蛍光体、SrMgSiN:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのKSiF:Mn蛍光体、KSAF系蛍光体(例えば、KSi0.99Al0.015.99:Mn)などを用いることができる。
【0155】
発光装置において、発光材料を含む波長変換部材は、例えばシート又は板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0156】
又は、波長変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面及び側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。あるいはまた、波長変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子及び前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚みで平板状に形成された樹脂部材である。
【0157】
波長変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、波長変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート部材、板状部材又は棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)又はモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
【0158】
また、発光装置において、異なる波長の発光を示す2種類以上の発光材料を用いる場合には、1つの波長変換部材内で前記2種類以上の発光材料が混合されていてもよいし、あるいは1種類の発光材料のみを含む波長変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の波長変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0159】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等からなる群より選択される1種又は2種以上から成る半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、又は紫外線を発光する半導体発光素子は、例えば、組成がInAlGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものが挙げられる。
【0160】
本実施形態の発光装置は、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを含む発光材料を用いた発光装置は、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施形態の発光材料は、バンド端発光として半値幅の小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光装置において、青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm以上490nm以下の範囲内にある青色光を得るようにし、発光材料により、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする。また、発光装置において、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を得るようにし、発光材料によりピーク波長が430nm以上470nm以下、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにすることによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。発光装置は、例えば、直下型のバックライトとして、又はエッジ型のバックライトとして用いられる。あるいは、発光材料を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、又はロッドが、発光装置とは独立した波長変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【0161】
ここで発光装置の一例を、図面を参照して説明する。図1は発光装置100の模式断面図である。発光装置100は、基板1と、基板1に載置される複数の光源部10と、波長変換部材110と、を備える。基板1は、複数の光源部10を実装して電気的に接続するための回路基板である。基板1は、基材上に配線層が形成され、その配線層の実装部が露出するように絶縁部材が設けられている。複数の光源部10は基板1上にマトリクス状に配置され、波長変換部材110を面状に照射する。波長変換部材110は、上述した半導体ナノ粒子を含む発光材料を含む。発光装置100では、光源部10から発せられる光の一部が波長変換部材110に含まれる発光材料によって波長変換されて、光源部10からの光と波長変換された光との混色として射出される。
【実施例0162】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0163】
合成例1 1,2-ジアミン化合物の合成
<(1S,2S)-N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-ドデカニルエチレンジアミンの合成>
【0164】
【化4】
【0165】
50mlナス型フラスコにトリデカナール4.12g(20.8mmol)、(1S,2S)-1,2-ビス(2-ヒドロキシフェニル)エチレンジアミン2.44g(9.99mmol)を秤量した。トルエン31mlを加え、ディーンスターク装置で21時間還流した後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シクロヘキサン:ジクロロメタン3:2)で精製し(1S,2S)-N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-ドデカニルエチレンジアミン3.75gを得た。
【0166】
<(1R,2R)-1,2-ジドデシルエチレンジアミンの合成>
【0167】
【化5】
【0168】
(1S,2S)-N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-ドデカニルエチレンジアミン3.75gにテトラヒドロフラン26mlと36%塩酸1.9mlを加え溶解し、25℃で24時間攪拌した。氷浴で冷却し、析出物をテトラヒドロフランで洗浄し、2.07gの結晶を得た。得られた結晶1.39gに1M水酸化ナトリウム水溶液25mlを加え、100℃で1時間攪拌した。有機層をジクロロメタンで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を留去し、(1R,2R)-1,2-ジドデシルエチレンジアミン1.17gを得た。合成した1,2-ジアミンの構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0169】
H-NMR(600MHz,CDCl):δ(ppm)2.53(2H,m),1.43(4H,m),1.34~1.21(40H,m),1.18(4H,s),0.88(6H,t,J=7.0Hz)
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ(ppm)55.25,34.96,31.94,29.85,29.70,29.69,29.67,29.38,26.62,22.71,14.14
【0170】
合成例2 1,3-ジアミン化合物の合成
<2,2-ジドデシルプロパンジニトリルの合成>
【0171】
【化6】
【0172】
100ml三口フラスコに水素化リチウム0.37gを秤量し、テトラヒドロフラン31mlを加えた。氷浴で冷却し、マロノニトリル1.22gをテトラヒドロフラン6mlに溶解した液を滴下した。室温で15分間攪拌後、1-ブロモデカン9.00gをテトラヒドロフラン6mlに溶解した液を滴下した。24時間還流した後室温に冷却し、水45mlを加えた。有機層をジエチルエーテルで抽出し、水洗後NaSOで乾燥し、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-ジクロロメタン)で精製し、2,2-ジドデシルプロパンジニトリル6.33gを得た。
【0173】
<2,2-ジドデシル-1,3-プロパンジアミンの合成>
【0174】
【化7】
【0175】
100ml三口フラスコに水素化アルミニウムリチウム1.06gを秤量し、ジエチルエーテル30mlを加えた。氷浴で冷却し、2,2-ジドデシルプロパンジニトリル3.10gをテトラヒドロフラン10mlに溶解した液を滴下した。室温で20時間攪拌した後氷浴で冷却し、水2.2mlを滴下した。さらに50%水酸化ナトリウム水溶液0.2mlを加え、室温で1時間攪拌した後濾過した。濾液に無水硫酸ナトリウム20gを加え1晩攪拌し、濾過した。溶媒を留去し、2,2-ジドデシル-1,3-プロパンジアミン2.73gを得た。合成した1,3-ジアミンの構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0176】
H-NMR(600MHz,CDCl):δ(ppm)2.51(4H,s),1.34~1.20(30H,m),1.20-1.12(6H,m),1.09(4H,br s),0.88(6H,t,J=7.1Hz)
13C-NMR(150MHz,CDCl):δ(ppm)46.12,40.38,32.52,31.93,30.67,29.72,29.69,29.66,29.37,22.91,22.70,14.13
【0177】
合成例3 1,4-ジアミン化合物の合成
<11,14-テトラコサンジオンの合成>
【0178】
【化8】
【0179】
300mlナス型フラスコにマグネシウム粉末3.20gを秤量し、テトラヒドロフラン70mlを加えた。1-ブロモデカン26.98gを滴下し、室温で30分間、60℃で30分間攪拌した。室温に冷却し、テトラヒドロフラン100mlを加え析出物を溶解した後濾過し、n-デシルマグネシウムブロミド溶液を得た。
【0180】
1l四口フラスコに臭化銅(I)16.80gを秤量し、テトラヒドロフラン60mlを加えた。室温で臭化リチウム20.34gをテトラヒドロフラン70mlに溶解した液を滴下した。-100から-80℃に冷却し、n-デシルマグネシウムブロミド溶液を滴下し、30分間攪拌した。スクシニルクロリド7.56gを滴下し、室温まで温度を上げながら1晩攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液100mlを加え濾過し、水で洗浄した。濾渣を乾燥し、テトラヒドロフラン-酢酸エチルより再結晶し、11,14-テトラコサンジオン9.84gを得た。
【0181】
<11,14-テトラコサンジオールの合成>
【0182】
【化9】
【0183】
200ml三口フラスコに水素化アルミニウムリチウム1.24gを秤量し、テトラヒドロフラン20mlを加えた。氷浴で冷却し、11,14-テトラコサンジオン3.00gをテトラヒドロフラン85mlに溶解した液を滴下した。室温で15時間攪拌後、減圧しテトラヒドロフラン50mlを留去した。氷浴で冷却し、飽和硫酸ナトリウム水溶液4mlを加えた。ジエチルエーテルで抽出し、11,14-テトラコサンジオール2.88gを得た。
【0184】
<11,14-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)テトラコサンの合成>
【0185】
【化10】
【0186】
200ml三口フラスコにp-トルエンスルホン酸無水物5.63gを秤量し、テトラヒドロフラン7mlを加えた。氷浴で冷却し、ピリジン2.75gを滴下後、11,14-テトラコサンジオール1.59gをテトラヒドロフラン75mlに溶解した液を滴下した。室温で16時間攪拌後、減圧濃縮した。氷水20mlを加え、ジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン2:1)で精製し、11,14-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)テトラコサン2.69gを得た。
【0187】
<11,14-ジフタロイルアミノテトラコサンの合成>
【0188】
【化11】
【0189】
100ml三口フラスコに11,14-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)テトラコサン2.51g、フタルイミドカリウム1.71gを秤量し、N,N-ジメチルホルムアミド12.5mlを加えた。90℃で4時間攪拌後、氷水40mlを加えた。水85mlを加え、ジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去した後、残渣をヘキサンで洗浄し、11,14-ジフタロイルアミノテトラコサン1.05gを得た。
【0190】
<11,14-テトラコサンジアミンの合成>
【0191】
【化12】
【0192】
50ml三口フラスコに11,14-ジフタロイルアミノテトラコサン0.36g、ヒドラジン一水和物0.12gを秤量し、エタノール4.5mlを加えた。90℃で10時間攪拌した後、濾過、エタノールで洗浄した。濾渣をクロロホルム9mlとヘキサン6mlの混合溶媒で抽出し、溶媒を留去して11,14-テトラコサンジアミン0.21gを得た。合成した1,4-ジアミンの構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0193】
H-NMR(600MHz,CDOD):δ(ppm)2.72(2H,m),1.59-1.13(40H,m),0.89(6H,t,J=7.1Hz)
13C-NMR(150MHz,CDOD):δ(ppm)52.52,37.76,33.95,33.11,30.90,30.80,30.74,30.52,26.95,23.78,14.56
【0194】
合成例4 1,4-ジアミン化合物の合成
<7,10-ヘキサデカンジオンの合成>
【0195】
【化13】
【0196】
300mlナス型フラスコにマグネシウム粉末4.03gを秤量し、テトラヒドロフラン50mlを加えた。1-ブロモヘキサン25.33gをテトラヒドロフラン20mlに溶解した液を滴下し、室温で30分間、60℃で30分間攪拌した。室温に冷却し、テトラヒドロフラン130mlを加え析出物を溶解した後濾過し、n-ヘキシルマグネシウムブロミド溶液を得た。
【0197】
1l四口フラスコに臭化銅(I)21.13gを秤量し、テトラヒドロフラン75mlを加えた。室温で臭化リチウム25.59gをテトラヒドロフラン100mlに溶解した液を滴下した。-100から-80℃に冷却し、n-ヘキシルマグネシウムブロミド溶液を滴下し、30分間攪拌した。スクシニルクロリド9.51gを滴下し、室温まで温度を上げながら1晩攪拌した。減圧し、テトラヒドロフラン230mlを留去した後、飽和塩化アンモニウム水溶液150mlを加え濾過し、水で洗浄した。濾渣を乾燥し、テトラヒドロフラン-酢酸エチルより再結晶し、7,10-ヘキサデカンジオン10.71gを得た。
【0198】
<7,10-ヘキサデカンジオールの合成>
【0199】
【化14】
【0200】
500ml三口フラスコに水素化アルミニウムリチウム6.19gを秤量し、テトラヒドロフラン60mlを加えた。氷浴で冷却し、7,10-ヘキサデカンジオン10.40gをテトラヒドロフラン90mlに溶解した液を滴下した。室温で40時間攪拌後、氷浴で冷却し、飽和硫酸ナトリウム水溶液20ml、ジエチルエーテル70mlを加えた。室温で1時間攪拌後、濾過し、濾液と洗液を濃縮乾固し、7,10-ヘキサデカンジオール8.76gを得た。
【0201】
<7,10-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)ヘキサデカンの合成>
【0202】
【化15】
【0203】
500ml三口フラスコにp-トルエンスルホン酸無水物32.73gを秤量し、テトラヒドロフラン86mlを加えた。氷浴で冷却し、ピリジン15.87gを滴下後、7,10-ヘキサデカンジオール6.48gをテトラヒドロフラン172mlに溶解した液を滴下した。室温で16時間攪拌後、減圧濃縮した。水120mlを加え、ジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。ジエチルエーテル-ヘキサンより再結晶し、7,10-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)ヘキサデカン13.82gを得た。
【0204】
<7,10-ジフタロイルアミノヘキサデカンの合成>
【0205】
【化16】
【0206】
100ml三口フラスコに7,10-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)ヘキサデカン6.00g、フタルイミドカリウム4.90gを秤量し、N,N-ジメチルホルムアミド36mlを加えた。90℃で4時間攪拌後、氷水65mlを加えて濾過し、水70mlで洗浄した。濾渣をメタノール60mlで洗浄した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製し、7,10-ジフタロイルアミノヘキサデカン2.44gを得た。
【0207】
<7,10-ヘキサデカンジアミンの合成>
【0208】
【化17】
【0209】
50ml三口フラスコに7,10-ジフタロイルアミノヘキサデカン0.25g、ヒドラジン一水和物0.096gを秤量し、エタノール3.5mlを加えた。90℃で9時間攪拌した後、水3mlと濃塩酸を加え、pHを3とした。不溶物を濾過し、水で洗浄した。濾液と洗液を濃縮し、40%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加え、2-メチルテトラヒドロフランで抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過し、溶媒を留去して7,10-ヘキサデカンジアミン0.12gを得た。合成した1,4-ジアミンの構造はNMRにて確認した。結果を下記に示す。
【0210】
H-NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)2.68(2H,s),1.57-1.17(24H,m),0.88(6H,t,J=6.9Hz)
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ(ppm)51.49,51.47,38.25,38.11,34.62,34.60,31.87,30.32,29.48,26.17,26.11,22.65,14.10
【0211】
半導体ナノ粒子分散液の調製
特開2018-39971号公報の実施例5の記載を参考にして、オレイルアミンが表面に配置された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液を得た。
【0212】
実施例1
上記で調製したオレイルアミンが表面に配置された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液をクロロホルムで希釈して、450nmの吸光度が4.76になるように濃度を調整した分散液600μlに、合成例1で得られた1,2-ジアミン化合物の0.49mmolを加えた。窒素雰囲気下、25℃で20時間撹拌して、1,2-ジアミン化合物(リガンド)が表面に配置された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液を得た。
【0213】
窒素雰囲気下で、上記で得られた半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液100μlを遠沈管に分取し、窒素ガスを吹き付けて濃縮した。エタノール100μlを加えて振り混ぜた後、遠心分離し、上澄みを除去した。残った沈殿をクロロホルム10μlに分散し、エタノール100μlを加えて振り混ぜた後、遠心分離し、上澄みを除去する洗浄処理を2回繰り返した後、残った沈殿をクロロホルムに分散し、発光材料であるリガンド置換・洗浄された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液E1を得た。
【0214】
実施例2から4
合成例1で得られた1,2-ジアミン化合物の代わりに、合成例2から4で得られたジアミン化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2から4のリガンド置換・洗浄された半導体ナノ粒子(発光材料)のクロロホルム分散液E2からE4をそれぞれ得た。
【0215】
比較例1
合成例1で得られた1,2-ジアミン化合物の代わりに、デシルアミンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリガンド置換・洗浄された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液C1を得た。
【0216】
発光量子効率の測定
上記で得られたリガンド置換・洗浄された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液について、発光スペクトルを測定し、内部量子効率を算出し、リガンド置換・洗浄後の発光量子効率とした。なお、発光スペクトルは、量子効率測定システム(大塚電子製、商品名QE-2100)を用いて、室温(25℃)で、励起光波長450nmで行い、300nmから950nmの波長範囲で測定し、内部量子効率は500nmから950nmの波長範囲より計算した。また、リガンド置換前の発光量子効率は、実施例1から4及び比較例1においてそれぞれ用いたオレイルアミンが表面に配置された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液について、上記と同様にして測定した。
【0217】
発光量子効率保持率
実施例1から4及び比較例1で得られたリガンド置換・洗浄された半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液について、下記式により、発光量子効率保持率を求めた結果を表1に示す。
【0218】
【数2】
【0219】
【表1】
【0220】
表1より、1,4-ジアミン、1,3-ジアミン、1,2-ジアミン、モノアミンの順に、リガンドの半導体ナノ粒子への結合が強いといえる。
【符号の説明】
【0221】
1 基板
10 光源部
100 発光装置
110 波長変換部材
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-06-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを含みCuを含んでもよい第11族元素、In及びGaの少なくとも一方を含む第13族元素、並びにSを含む第16族元素を含む第1半導体を含む半導体ナノ粒子を含む発光材料であって、
前記半導体ナノ粒子の表面には、少なくともGa及びSを含む第2半導体が配置され、
前記第2半導体の表面に、ジアミン化合物が配置される発光材料。
【請求項2】
前記第1半導体は、カルコパイライト構造を有する請求項1に記載の発光材料。
【請求項3】
前記第2半導体は、硫化ガリウムを含む請求項1又は2に記載の発光材料。
【請求項4】
前記ジアミン化合物は、下記式(1)で表される請求項1から3のいずれか1項に記載の発光材料。
【化1】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立して、炭素数6から20の、置換されてもよいアルキル基、置換されてもよいアルケニル基、置換されてもよいアルキニル基、置換されてもよいオキサアルキル基、置換されてもよいアリール基及び置換されてもよい複素環基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基若しくは水素原子を示すか、または2つのRが互いに連結して環を形成する置換されてもよいアルキレン基を示す。但し、すべてのRが水素原子の場合を除く。nは2以上6以下の数を表す。)
【請求項5】
前記ジアミン化合物は、1,3-ジアミン化合物及び1,4-ジアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1から4のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子は、350nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光が照射されると、照射された光よりも長い波長を有する光を発する請求項1から5のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項7】
前記半導体ナノ粒子は、発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅が70nm以下である光を発する請求項1から6のいずれか1項に記載の発光材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の発光材料を含む波長変換部材と、発光素子とを備える発光装置。
【請求項9】
前記発光素子が発光ダイオードである請求項8に記載の発光装置。