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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119877
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】電池管理装置、電池管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20230822BHJP
   G01R 31/396 20190101ALI20230822BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230822BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/396
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022986
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 隼
(72)【発明者】
【氏名】植田 穣
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博也
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 絵里
(72)【発明者】
【氏名】河野 亨
(72)【発明者】
【氏名】若林 諒
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA21
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503DA07
5G503EA05
5G503EA09
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】劣化の進行度に対して過度に依拠することなく、電池の健全度を正確に評価することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る電池管理装置は、充電終了以後における電圧曲線の変曲点よりも前の起算時点から開始する第1期間における第1電圧変化分と、放電終了以後における電圧曲線の変曲点よりも前の起算時点から開始する第2期間における第2電圧変化分とを用いて、電池の健全性を評価する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の状態を管理する電池管理装置であって、
前記電池が出力する電圧の検出値を取得する検知部、
前記電池の状態を推定する演算部、
を備え、
前記演算部は、前記電池が充電を終了した終了時点またはそれよりも後でありかつ前記電圧の経時変化曲線の変曲点よりも前の起算時点から第1時間が経過した第1時点までの第1期間を特定し、
前記演算部は、前記電池が放電を終了した終了時点またはそれよりも後でありかつ前記経時変化曲線の変曲点よりも前の起算時点から第2時間が経過した第2時点までの第2期間を特定し、
前記演算部は、前記第1期間における前記電圧の第1変化分と、前記第2期間における前記電圧の第2変化分との間の差分、または、前記第1変化分と前記第2変化分の比率、のうち少なくともいずれかを取得し、
前記演算部は、前記差分または前記比率のうち少なくともいずれかに基づいて、前記電池の健全性を評価してその結果を出力する
ことを特徴とする電池管理装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記第1変化分と前記第2変化分を2次元座標軸上にプロットした場合における前記プロットの原点からの距離にしたがって、前記電池の経年劣化の進行度を評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記第2変化分が前記第1変化分以上であれば、前記電池の健全度が閾値以上であると評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記プロットのうち前記第1変化分が前記第2変化分以上である前記電池は、故障の予兆のある電池と判定し、
前記演算部は、前記2次元座標上において前記電池が健全であることを表す基準値から前記プロットまでの距離に応じて、前記電池の故障までの期間を評価する
ことを特徴とする請求項2記載の電池管理装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記差分または前記比率のうち少なくともいずれかが第2閾値以上である前記電池の前記健全性は、故障しているかまたは故障発生までの期間が閾値未満であると評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記第1変化分と前記第2変化分との間の関係を近似する1次関数を、前記電池の種類ごとに設定し、
前記演算部は、前記差分または前記比率のうち少なくともいずれかを前記1次関数と比較することにより、前記電池の健全性を評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記電池の種類、前記電池の特性、前記電池の属性、またはこれらの1以上の組み合わせごとに、前記1次関数の傾きまたは切片のうち少なくともいずれかを設定し、
前記演算部は、第1電池については、前記傾きまたは前記切片のうち少なくともいずれかを、前記電池が健全であると評価される範囲が第1正常範囲となるようにセットするとともに前記電池が劣化または故障していると評価される範囲が第1異常範囲となるようにセットし、
前記演算部は、劣化しているとみなす基準を前記第1電池よりも厳密にする第2電池については、前記傾きまたは前記切片のうち少なくともいずれかを、前記電池が劣化または故障していると評価される範囲が前記第1異常範囲よりも狭い第2異常範囲となるようにセットし、
前記演算部は、健全であるとみなす基準を前記第1電池よりも緩やかにする第3電池については、前記傾きまたは前記切片のうち少なくともいずれかを、前記電池が健全であると評価される範囲が前記第1正常範囲よりも広い第2正常範囲となるようにセットする
ことを特徴とする請求項6記載の電池管理装置。
【請求項8】
前記演算部は、加速試験データ、市場での運用実績データ、AIによる学習データ、のうち少なくともいずれかの結果に基づき、将来時点における前記差分または前記比率のうち少なくともいずれかを予測することにより、前記電池の健全性が基準値未満となるまでに要する期間を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項9】
前記電池管理装置はさらに、前記演算部による処理結果を提示するユーザインターフェースを備え、
前記ユーザインターフェースは、
前記電池の運用期間における前記差分または前記比率の経時変化、
前記第1変化分および前記第2変化分、
前記演算部が前記電池の状態を推定した結果、
のうち少なくともいずれかを提示する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項10】
前記演算部は、前記電池が第1充電状態であるときにおいて、前記電池が健全であるか否かを判定するために用いる、前記第1変化分と前記第2変化分との間の対応関係を取得し、
前記演算部は、前記電池が第2充電状態であるときにおいて、前記第1変化分と前記第2変化分を取得するとともに、その値を前記第1充電状態における対応する値へ変換することにより、第1変換後変化分と第2変換後変化分を計算し、
前記演算部は、前記電池が前記第2充電状態であるときは、前記第1変換後変化分と前記第2変換後変化分と前記対応関係を用いて、前記電池の健全性を評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項11】
前記演算部は、前記電池が第1温度であるときにおいて、前記電池が健全であるか否かを判定するために用いる、前記第1変化分と前記第2変化分との間の対応関係を取得し、
前記演算部は、前記電池が第2温度であるときにおいて、前記第1変化分と前記第2変化分を取得するとともに、その値を前記第1温度における対応する値へ変換することにより、第1変換後変化分と第2変換後変化分を計算し、
前記演算部は、前記電池が前記第2温度であるときは、前記第1変換後変化分と前記第2変換後変化分と前記対応関係を用いて、前記電池の健全性を評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項12】
前記演算部は、前記電池の放電電圧と充電電圧が第1電圧条件であるときにおいて、前記電池が健全であるか否かを判定するために用いる、前記第1変化分と前記第2変化分との間の対応関係を取得し、
前記演算部は、前記電池の放電電圧と充電電圧が第2電圧条件であるときにおいて、前記第1変化分と前記第2変化分を取得するとともに、その値を前記第1電圧条件における対応する値へ変換することにより、第1変換後変化分と第2変換後変化分を計算し、
前記演算部は、前記電池の放電電圧と充電電圧が前記第2電圧条件であるときは、前記第1変換後変化分と前記第2変換後変化分と前記対応関係を用いて、前記電池の健全性を評価する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項13】
前記電池は、複数の前記電池が直列または並列に接続されることにより、電池群を構成しており、
前記演算部は、前記電池の出力電圧、前記電池の出力電流、前記電池の温度、前記電池の稼働時間または稼働期間、およびこれらの履歴を取得することにより、前記電池群を監視し、
前記演算部は、前記電池群を監視した結果と、加速試験データ、市場での運用実績データ、AIによる学習データ、のうち少なくともいずれかの結果とを比較することにより、前記電池群の将来の故障を予測する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項14】
前記演算部は、前記電池を搭載した電気機器の充電ポートを介して、前記電池の出力電圧を取得し、
前記演算部は、前記充電ポートを介して取得した前記出力電圧を用いて、前記第1変化分と前記第2変化分を取得する
ことを特徴とする請求項1記載の電池管理装置。
【請求項15】
電池の状態を管理する処理をコンピュータに実行させる電池管理プログラムであって、前記コンピュータに、
前記電池が出力する電圧の検出値を取得するステップ、
前記電池の状態を推定するステップ、
を実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記電池が充電を終了した終了時点またはそれよりも後でありかつ前記電圧の経時変化曲線の変曲点よりも前の起算時点から第1時間が経過した第1時点までの第1期間を特定するステップを実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記電池が放電を終了した終了時点またはそれよりも後でありかつ前記経時変化曲線の変曲点よりも前の起算時点から第2時間が経過した第2時点までの第2期間を特定するステップを実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記第1期間における前記電圧の第1変化分と、前記第2期間における前記電圧の第2変化分との間の差分、または、前記第1変化分と前記第2変化分の比率、のうち少なくともいずれかを取得するステップを実行させ、
前記推定するステップにおいては、前記コンピュータに、前記差分または前記比率のうち少なくともいずれかに基づいて、前記電池の健全性を評価してその結果を出力するステップを実行させる
ことを特徴とする電池管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の状態を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
短時間で正確に2次電池の劣化状態を把握する技術は、電力蓄積システム、電気自動車、および他のシステムが2次電池を安全かつ最適な使用をするために重要である。加えて、この技術は2次電池の保守やメンテナンスも飛躍的に効率化させる。
【0003】
2次電池の劣化検出方法の具体例として、下記特許文献1と2が挙げられる。特許文献1は、熱シミュレーションモデルを用いて劣化状態を検知する。特許文献2は、特定の蓄電池の充電状態(State of Charge:SOC)下で、通電を停止させた状態の電圧変化(開放電圧:OCV)を取得し、その和もしくは絶対値の差に基づき電池状態を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2021/023346
【特許文献2】特開2016-176709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が記載しているようなシミュレーションを用いた劣化評価は、電池の経時的な劣化検知や劣化傾向を把握することについては正確である。しかし、それはある特定条件下における評価である。したがって、突発的な劣化および故障を引き起こす電池については検知することが困難である。
【0006】
特許文献2が記載しているOCVを用いた劣化検知は、特定の充電状態や温度などの条件下において正確である。しかし実際の運用においては、長時間の通電停止(10分)や測定環境の制約が存在する。これにより同文献記載の技術は、電池の健全性を評価するに留まっていると考えられる。また、OCVによる健全度評価は、大きく劣化が進む電池に対しては正確だが、初期の劣化や経年劣化など劣化度合いが低い電池に対しては、正確性が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、劣化の進行度に対して過度に依拠することなく、電池の健全度を正確に評価することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電池管理装置は、充電終了以後における電圧曲線の変曲点よりも前の起算時点から開始する第1期間における第1電圧変化分と、放電終了以後における電圧曲線の変曲点よりも前の起算時点から開始する第2期間における第2電圧変化分とを用いて、電池の健全性を評価する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電池管理装置によれば、劣化の進行度に対して過度に依拠することなく、電池の健全度を正確に評価することができる。本発明のその他の課題、構成、利点などについては、以下の実施形態の説明により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】所定の加速試験条件下における電池の放電電流量(Ah)を示す。
図2】健全な電池と劣化した電池それぞれの充電状態と放電状態における電圧変化を示す図である。
図3】電池の充電動作後および放電動作後それぞれの休止期間における、電池の出力電圧の経時変化を示す説明図である。
図4】実施形態1に係る電池システムの構成図である。
図5】放電後の電圧変化(ΔVdis)と充電後の電圧変化(ΔVcha)を電池ごとにプロットした分布図である。
図6】電池のΔVdisとΔVchaの値から差分(ΔVdis-ΔVcha)および比率(ΔVcha/ΔVdis)を導出するデータ例である。
図7】電池を故障までの期間に応じて区分した分布図である。
図8】電池の運用期間から将来の故障までの期間を予測する分布図である。
図9A】演算部が提示するGUIの例を示す。
図9B】演算部が提示するGUIの別例を示す。
図9C】演算部が提示するGUIの別例を示す。
図10】実施形態1に係る電池管理装置の動作を説明する図である。
図11】電池種類ごとに基準値を設定するための構成を説明する図である。
図12】電池ごとに基準値を選択した結果を示す。
図13】ΔVdisとΔVchaに対してSoC補正式を適用した計算結果を示すデータ例である。
図14】SoCを補正した場合におけるΔVdisとΔVchaプロットの変化を示す。
図15】実施形態3における電池管理装置の動作を説明するフローチャートである。
図16】ΔVdisとΔVchaに対して温度補正式を適用した際の計算結果を示すデータ例である。
図17】電池温度を補正した場合におけるΔVdisとΔVchaプロットの変化を示す。
図18】実施形態4における電池管理装置の動作を説明するフローチャートである。
図19】ΔVdisとΔVchaに対して電圧補正式を適用した際の計算結果を示すデータ例である。
図20】電池電圧を補正した場合におけるΔVdisとΔVchaプロットの変化を示す。
図21】実施形態5における電池管理装置の動作を説明するフローチャートである。
図22】実施形態6に係る電池管理装置の運用形態を示す模式図である。
図23】実施形態6に係る電池管理装置の構成例を示す図である。
図24】実施形態7に係る電池管理装置の運用形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、所定の加速試験条件下における電池の放電電流量(Ah)を示す。図1の横軸は電池を運用開始してからの経過日数、縦軸は放電電流量(Ah)である。電池は通常、経年劣化に応じ、放電可能な電流量(ここでは放電電流量(Ah)という)が減少する傾向にある。また使用時間や運用方法により電池の劣化は異なり、劣化が進行した電池は健全な電池に比べて放電電流量(Ah)が低下する特徴を持つ。
【0012】
図1に示すように、同期間の運用後であっても、電池の個体差により性能の低下が異なる。本実施形態1においては1例として実線で囲んだタイミングで健全度を検査した。健全度検査は、電池の放電電流量(Ah)の値から相対的に健全な電池と劣化が進む電池を判別する。相対的に劣化状態を判定するので、放電電流量(Ah)の変化が少ない経過日数において評価を実施することは望ましくない。したがって、電池の健全度検査は放電電流量(Ah)の変化が十分生じる任意の経過日数において実施可能すべきである。
【0013】
図1の点線が囲む領域は、運用後の電池の性能を示す。図1の実線部分において健全度を検査した際は、どの電池も同等の放電電流量(Ah)を示している。しかし、運用により性能が大きく低下する電池があることが分かる。したがって、任意の経過日数において健全度を検査し、性能低下する電池の兆候を早期段階において把握することができれば、電池が大きく劣化する前に交換することができる。また、放電電流量(Ah)の低下が少ない時点で各電池を選択し、加速試験データ、市場での運用実績データ、AIによる学習データ、のうち少なくともいずれかの結果と照らし合わせることにより、電池の劣化予測も可能である。なお、図1においては健全度検査のタイミングは1時点であるが、複数回実施してもよい。
【0014】
図2は、健全な電池と劣化した電池それぞれの充電状態と放電状態における電圧変化を示す図である。図2の横軸はSOC、縦軸は電池電圧である。図2は、電池の劣化の違いにより、同一SoCにおける充電時および放電時の電池電圧が変化することを示す。図2はさらに、劣化が進む電池ほど充電時および放電時の電圧変化(ここでは、ヒステリシスという)が大きくなることを示している。図2に示すSOCと電池電圧との間の関係から、充電もしくは放電の少なくとも一方のヒステリシスを評価することにより、電池の劣化を検知することができる。本発明において、電池のSOCは、例えばBMU(バッテリ管理ユニット)から現在の充電量を取得し、満充電時の充電量と比較することにより、相対的に決定することができる。
【0015】
図3は、電池の充電動作後および放電動作後それぞれの休止期間における、電池の出力電圧の経時変化を示す説明図である。図3上段は充電動作から休止期間へ移行する際、および放電動作から休止期間へ移行する際の電流波形を示す。図3上段の横軸は時間、縦軸は電池出力電流である。充電および充電の指令は電流指令によって実施し、電流が正(>0)なら充電、電流が負(<0)なら放電、電流が0なら休止期間となる。
【0016】
図3左下は充電動作とその後の休止期間における電池電圧の経時変化を示す。図3右下は放電動作とその後の休止期間における電池電圧の経時変化を示す。図3左下と図3右下はどちらも横軸が時間、縦軸は電池電圧である。電圧波形について、点線は運用初期に取得した健全な電池の電圧波形を示し、実線は長期運用もしくは電池の個体差により劣化が進んだ電池の電圧波形を示す。変曲点は、休止期間の電圧が飽和傾向に入る直前の点である。
【0017】
充電後の電圧変化(ΔVcha)と放電後の電圧変化(ΔVdis)について、電池が充電を終了した終了時点またはそれよりも後でかつ時間に対する電圧曲線の変曲点よりも前の起算時点と、その起算時点から第1時間が経過した第1時点との間の期間を、第1期間とする。第1期間の時間長はΔt1と表現する。電池が放電を終了した終了時点またはそれよりも後でかつ時間に対する電圧曲線の変曲点よりも前の起算時点と、その起算時点から第2時間が経過した第2時点との間の期間を、第2期間とする。第2時間の時間長は第Δt2と表現する。第1期間における電圧の変化分をΔVchaとし、第2期間における電圧の変化分をΔVdisとする。ΔVchaおよびΔVdisは、後述するように電池の健全性を評価するために用いることができる。ΔVchaおよびΔVdisは、充電後および放電後の休止期間が開始した直後の出力電圧が急変している期間において最も顕著に表れる。したがって、図3に示すような出力電圧の急変化がみられるタイミングでこれらを取得すべきである。
【0018】
次に、時間長Δt1およびΔt2の起算点および終点の取得時点にしたがって、ΔVchaおよびΔVdisの値(もしくは絶対値)の精度が変化することについて説明する。時間長Δt1およびΔt2を充電後および放電後の直後で取得し、終点を変曲点もしくは変曲点よりも充電側および放電側で取得した場合、休止期間において急峻な電圧変化を取得できるので、変化量が大きく、精度の高いΔVcha、ΔVdisが取得できる。これは1例であり、Δt1およびΔt2が十分な精度で取得できるのであれば、起算点は必ずしも充電後および放電後の直後でなくてもよく、急峻な電圧変化が取得可能な任意の時間が経過した後に取得しても構わない。終点についても、変曲点を所定の範囲を超えて取得した場合、変化量は少々小さくなるが十分にΔVcha、ΔVdisは取得できる。これらは電池の特性に依拠するので、電池種別ごとに適切なタイミングを定義すればよい。
【0019】
サンプリング周波数や測定環境に合わせて時間長Δt1およびΔt2を最適な範囲で設定してもよい。計測時間(Δt1とΔt2の時間長)については、本実施形態1においてはミリ秒から数秒の範囲(例えば1ms~5s程度)で取得することを想定しているが、測定機器や電圧取得の刻み幅に合わせて計測時間を変更してもよい。図3左下と図3右下に示すように、劣化が進む電池のΔVchaおよびΔVdisは、健全な電池のそれと比べて大きい傾向がある。したがって、健全な電池と劣化した電池の電圧波形を相対的に比較し、電池の劣化を判定することもできる。
【0020】
本実施形態1においては、ΔVdisおよびΔVchaを、充電終了または放電終了から短時間の範囲内で測定する。これは特許文献2のように、充電中および放電中に、10分程度の時間をかけてOCVを取得する場合と比較すると、測定に関する時間的制約を大幅に緩和することができる。したがって本実施形態1は、常時稼働が必要な電池装置や、車種により電池特性の異なる電気自動車などのように、OCVによる劣化検知が難しかったアプリケーションにおいても、適用することができる。
【0021】
図4は、本実施形態1に係る電池システムの構成図である。図4において、複数のサブモジュールとその制御回路を含む電池モジュール、BMU、演算処理を実施するコンピュータ(演算部)を含む電池システムは、本実施形態1の実装例として用いることができる。例えば演算部は、BMUを介して電池の出力電圧・出力電流・温度などの測定データを取得し、その測定データを用いて、本実施形態1に係る電池の健全性評価のための方法を実施することができる。
【0022】
電池システムは、BMU、直列および並列に接続された複数の電池モジュール、を備える。電池モジュールは、直列に接続された複数のサブモジュールを有し、このサブモジュールは並列に接続された複数の電池セルを含む。この電池セルは、それぞれに熱電対を有している。
【0023】
検知部は、電流センサ・温度センサ・電圧センサを介して電池セルが出力する電流・温度・電圧を検出し、その検出値を取得する。検知部が取得した電流値は、図3の起算点や充電状態および放電状態を演算部が決定するために用いる。これら検出値は、検知部が取得した後、BMUを介して測定データとして演算部へ送られる。電池モジュールは、充電中および放電中の電荷の分布を制御するためのアクティブセルバランスコントローラ(制御装置)を有する。
【0024】
図5は、放電後の電圧変化(ΔVdis)と充電後の電圧変化(ΔVcha)を電池ごとにプロットした分布図である。図5の横軸は放電後の電圧変化(ΔVdis)であり、縦軸は充電後の電圧変化(ΔVcha)である。図5は、図4で取得したΔVdisとΔVchaの値を2次元プロットしたものである。このプロットを用いて、相対的に電池の劣化もしくは故障の予兆を検知できるとともに、潜在的に故障する可能性がある電池の状態を把握することができる。
【0025】
図5の基準値(y=ax)は、健全な電池と故障の予兆がある電池を区別するために用いることができる。健全な電池は、理想的には充電時における電圧変化と放電時における電圧変化が互いに等しいので、基準値は例えば1次方程式y=xとすることができる。本実施形態1においては、基準値から各プロットまでの垂線を相対的に評価することにより、健全な電池と故障の予兆がある電池を判別する。電池の劣化状態と故障予兆状態は、(a)運用方法と電池バラツキによる経年劣化、(b)電極や電池内部の異常により電池のバランスが崩れ、故障の予兆が検知できる状態、の2種類に分けられる。これらの状態を判別する基準を以下に説明する。
【0026】
(1)基準値上かつ原点に近いほど健全な電池である。
健全な電池は通常、基準値上にプロットされ、基準値との垂線距離は0となる。したがって、基準値上にある電池は健全と判断する。加えてプロットが原点に近いほど、ヒステリシスが小さく、健全な電池と判断する。測定誤差により基準値よりも右下(ΔVdis≧ΔVcha)にプロットされる電池についても、健全な電池と評価する。右下領域を健全とみなすのは、健全な電池であれば充電によって電池にエネルギーが蓄積されるので、放電エネルギーのほうが充電エネルギーよりも大きくなる傾向があるからである。以上によれば、少なくともΔVdis≧ΔVchaであれば、その電池は健全であると評価することができる。
【0027】
(2)基準値上であるが原点から遠い電池は経年劣化が進んだ電池である。
基準値上に存在するが原点から遠いプロットは、ΔVdisとΔVchaのうち少なくともいずれかが他の電池と比較して相対的に大きくなっていることを表す。これは、電池の個体差により、ヒステリシスに差が生じていることを示す。したがって、他の電池と比較して原点からの距離が相対的に大きい電池は、経年劣化が進んでいる電池であると評価することができる。なお、原点からの距離と経年劣化の進行度は比例関係である。
【0028】
(3)基準値から逸脱し、基準値との乖離がある電池は故障の予兆がある電池である。
故障が近づく電池は図5に示すように基準値から逸脱し、故障までのサイクル数が短い電池ほど基準値からの垂線距離も大きくなる傾向がある。これは電池の電極や電池内部に何らかの異常が起き、ヒステリシスのバランスが崩れ始めていることを表す。そのため、どの箇所のプロットにおいても、基準値からの垂線の相対的な長さを判断することで相対的に故障までのサイクル数を判断することができる。したがって、基準値から逸脱(ΔVdis<ΔVcha)している電池については故障の予兆がある電池と評価する。
【0029】
続いて、故障の予兆がある電池の中でも、各プロットから基準値に引いた垂線の距離を相対的に評価することにより、故障までの期間の尺度を判別する手法を説明する。電池の故障までのサイクル数は、基準値からの垂線距離と相関があり、垂線が長い電池ほど電池のヒステリシスのバランスが崩れ、故障までのサイクル数が短くなる。これは加速試験データとも一致している。したがって、故障が近づく電池の中で相対的に基準値から引いた垂線が大きいものは故障までのサイクル数が短い電池と判断し、その距離に応じて「故障までの期間:ステージ(1)」、「故障までの期間:ステージ(2)」とそれぞれ定めることとする。これらは、健全電池として使用可能期間に応じて決定され、「故障までの期間:ステージ(1)<故障までの期間:ステージ(2)」と定義する。また、電池によって経年劣化のプロットは変化し、基準値に曲率をもつ場合がある。その際は、曲率をもつ漸近線を新たに基準値として定義し、そこからプロットまでの距離を相対的に評価することにより、故障までの期間を各ステージへ区分する。
【0030】
このように、加速試験データ、市場での運用実績データ、AIによる学習データ、のうち少なくともいずれかの結果と垂線の長さを用いて、早期に電池の性能低下を推定し、潜在的に故障する可能性が高い電池を検出することにより、電池の故障を予知することもできる。
【0031】
また、複数の電池のΔVdis、ΔVchaを取得し、基準値から各プロットまでの垂線を相対的に評価することにより、健全な電池と劣化した電池を切り分けるだけでなく、経年劣化と故障の予兆がある電池を検出することもできる。この検出方法は、経年劣化と故障の予兆を同時並行で判断してもよく、またどちらかを優先的に判断してもよい。
【0032】
図5の基準値(y=ax)における傾き(a)を電池の種類に応じて変更してもよい。電池の種類によって任意に傾きを設定することにより、故障の予兆がある電池の判定精度を向上させることができる。1例として、傾きaを1.1(=1+0.1)にする。これにより、故障の予兆がある電池と判定する範囲がa=1の場合よりも狭まるので、故障の予兆を持つ電池かどうかをより厳密に判定することができる(故障の予兆程度がごく小さい電池を誤って検出することを回避できる)。傾きaを0.9(=1-0.1)にした場合、a=1の場合よりも故障の予兆がある電池と判定する範囲が広がる。したがって、より多くの電池を故障の予兆がある電池と判断することになるので、「故障までの期間:ステージ(1)」、「故障までの期間:ステージ(2)」の電池だけでなく、潜在的に故障の可能性がある電池についても把握することができる。
【0033】
基準値(y=ax)の切片を変更することによっても、傾きを変更させた時と同等の効果を得ることができる。1例として、切片を0.2に設定した場合は、傾きを大きくした場合と同様に故障の予兆がある電池と判定する範囲が狭くなるので、故障の予兆を持つ電池か否かをより厳密に評価することになる。切片を-0.2にした場合、故障の予兆を有する電池と判定する範囲が広がるので、潜在的に故障の可能性がある電池についても把握することができる。
【0034】
このように基準値の傾きおよび切片を変更することにより、電池システムの運用に合わせて最適な故障の予兆を持つ電池の検知および判定が可能となる。傾きおよび切片の変更は、測定装置の誤差が生じた場合の補正のために利用することもできる。
【0035】
図6は、電池のΔVdisとΔVchaの値から差分(ΔVdis-ΔVcha)および比率(ΔVcha/ΔVdis)を導出するデータ例である。経年劣化および故障の予兆を有するかの判定は、上記の図5に示した2次元マッピングだけでなく、差分(ΔVdis-ΔVcha)または比率(ΔVcha/ΔVdis)のうち少なくともいずれかを用いて実施してもよい。
【0036】
図6は、電池群Aを構成する電池セルA1~Anと電池群B、 Cを構成する電池セルB1~Bn、C1~CnそれぞれのΔVdisとΔVchaを示す。図6の差分(ΔVdis-ΔVcha)および比率(ΔVcha/ΔVdis)の欄は、それぞれの電池セルのΔVdisとΔVchaを基に導出した計算結果を示す。図6は、差分もしくは比率が所定の値以上(もしくは以下)になると、劣化電池もしくは故障の予兆がある電池と判定できることを示している。
【0037】
健全な電池のΔVchaとΔVdisは使用期間に比例して段々と増加し(=経年劣化)、ΔVchaはΔVdisよりも低く(もしくは同じに)なる。したがって、差分(ΔVdis-ΔVcha)は0もしくは正(≧0)、比率(ΔVcha/ΔVdis)は1.0以下となり、これらの値から大きく外れることはない。ただし電池の特性上、ΔVdisはΔVchaよりもエネルギーが蓄積し、値が大きくなるので、比率は1.0未満でも健全と判断する。
【0038】
一方、図6の電池セルA3とAnについては、ΔVchaがΔVdisの値を上回る(差分(ΔVdis-ΔVcha)は負(<0))もしくは、比率(ΔVcha/ΔVdis)が1.0を超える。これは健全な電池と同じ期間だけ運用しているにも関わらず、ΔVchaとΔVdisとのバランスが崩れ、故障の予兆があると判断できる。
【0039】
差分(ΔVdis-ΔVcha)は正(≧0)かつ、比率(ΔVcha/ΔVdis)も1.0以下であるが、ΔVchaとΔVdisが他に比べ大きくなる電池がある。この電池は電池群の中でも経年劣化が進む電池と判断する[電池セルAm]。
【0040】
すなわち、経年劣化はΔVchaとΔVdisの値の大きさに比例し、故障の予兆のある電池は差分(ΔVdis-ΔVcha)の正負もしくは比率(ΔVcha/ΔVdis)の値によって判定できる。
【0041】
図6の電池セルA1(ΔVcha:0.3、ΔVdis:0.4)と、電池セルAm(ΔVcha:0.8、ΔVdis:0.9)を比較する。どちらも差分は正(≧0)かつ比率は1.0以下だが、同期間の運用にも関わらず、ΔVchaとΔVdisが変化している。
【0042】
特許文献2の手法は、ΔVchaとΔVdisの差分(ΔVdis-ΔVcha)により劣化を検知する。したがって、電池A1とAmとの間の差分はどちらも0.1であり、健全な電池との差を精度よく検知することができない場合がある。そこで、差分によって健全性を判断できない場合、本実施形態1においては比率(ΔVcha/ΔVdis)を用いて健全性を評価する。これにより、電池A1については比率:0.7、電池Amについては比率:0.9が得られる。したがって、電池Amは電池A1と比べ経年劣化が進んでいると判断できる。ただし比率が1.0を超えていないので、電池Amは故障の予兆がある電池状態にはないと判断する。
【0043】
このように本実施形態1においては、ΔVchaとΔVdisの差分もしくは比率を用いることにより、大きく劣化した電池および故障の予兆がある電池の検知だけでなく、経年劣化状態にある電池についても高精度で検知が可能となる。さらに、経年劣化および故障の予兆がある電池の兆候をいち早く検知できるので、早期の故障予知も可能となる。
【0044】
本実施形態1は、評価基準である差分もしくは比率の使用順序によらず、経年劣化および故障の予兆がある電池の判定が可能である。本実施例においてΔVdisとΔVchaについては小数値を用いたが、それ以外の数値で評価しても構わない。
【0045】
図7は、電池を故障までの期間に応じて区分した分布図である。図7上段は運用開始前の分布図、図7下段は運用開始後の分布図である。いずれも電池の運用期間と劣化度または故障の予兆度の関係を示している。図7の横軸は電池ID、縦軸はΔVchaとΔVdisの差分もしくは比率である。図7の左から順に、健全電池、故障までの期間:ステージ(1)、故障までの期間:ステージ(2)、として区分した。故障の予兆度は、図5で説明した、プロットと基準線との間の垂線距離に対応するので、この垂線距離を用いて各電池を区分すればよい。故障までの期間:ステージ(2)は故障までのサイクル数が特に短い電池と判断してもよい。故障までの期間については、加速試験データ、市場での運用実績データ、AIによる学習データ、のうち少なくともいずれかの結果と紐づけることでより精度高く区分することができる。
【0046】
電池IDを、ΔVchaとΔVdisとの間の差分(ΔVdis-ΔVcha)もしくは比率(ΔVcha/ΔVdis)を関連付けて分布図とすることにより、相対的に故障の予兆を有する電池の個数とその故障までの期間を把握することができる。系統用蓄電池や大型蓄電池システムを運用する際、あらかじめ故障の予兆を有する電池の限界個数の閾値を設けておくことにより、数か月前に故障までの期間が短い電池の発注や、故障の予兆を有する電池の交換も可能となる。
【0047】
図8は、電池の運用期間から将来の故障までの期間を予測する分布図である。図8は、運用期間と特定の電池の劣化進行度を示す。横軸は運用期間、縦軸はΔVchaとΔVdisとの間の差分もしくは比率である。図7と同様、範囲によって電池の故障の予兆状態の尺度が異なり、左から健全電池、故障までの期間:ステージ(1)、故障までの期間:ステージ(2)、として区分した。濃い網掛けの棒グラフは電池A、淡い網掛けの棒グラフは電池Bとする。
【0048】
ΔVdisとΔVchaの値を用いた、差分(ΔVdis-ΔVcha)もしくは比率(ΔVcha/ΔVdis)による劣化状態もしくは故障の可能性がある電池の検知は、一時的もしくは継続的に適用することができる。現在の電池の状態を判断したい場合には、現在のΔVdisとΔVchaを取得することにより、電池の経年劣化の検知や潜在的に故障の可能性がある電池を瞬時に判断できる。継続的にΔVdisとΔVchaを用いて劣化状態もしくは故障の可能性がある電池を検知する場合、過去の劣化検知データ情報を用いて現在の電池状態を評価することが可能となる。したがって、電池の劣化推移が経時的に把握でき、電池の故障推定も可能となる。本実施形態においては棒グラフを用いたが、折れ線グラフを用いてもよい。図8は後述のGUIにおいて表示することもできる。
【0049】
図9Aは、演算部が提示するGUI(Graphical User Interface)の例を示す。演算部は、システムの劣化検知および劣化予測の結果を、本GUI上に表示する。本GUIは、運用初期から現在までの電池セルの各電池セルの経年劣化および故障の予兆を有するかの判定、故障判定結果(使用継続または交換依頼)、警告、将来の故障予測年月、基準値の補正表示、電池種類、電池特徴、電池群、電池セル名、のうち少なくとも1つを表示する。実線で囲まれた棒グラフは過去の電池データを示し、点線で囲まれた棒グラフは現在取得した電池データを示す。本実施例では、運用期間に応じた電池の経年劣化について、ΔVdisとΔVchaの比率で評価しているが、ΔVdisとΔVchaの差分で評価してもよい。
【0050】
図9Bは、演算部が提示するGUIの別例を示す。図9AのGUIは電池セルの状態を提示するのに対して、図9BのGUIは電池群を構成する各電池セルの状態を提示する点が異なる。網掛けを付した電池セル(BAT(1):BAT1、BAT(2):BAT2、BAT10)については、ΔVchaとΔVdisが逸脱した電池セルであることを示す。これらの電池セルに対しては警告を表示する。
【0051】
図9Cは、演算部が提示するGUIの別例を示す。演算部は、図5で説明した2次元マッピングを用いて劣化状態もしくは故障の予兆を有するかの判定結果を、本GUI上で提示する。本GUIは、充電後の電圧変化、放電後の電圧変化、基準値、電池の基準値番号、電池群、電池セル名、運用実績、の少なくとも1つを表示する。演算結果は、図9Cの表の点線内で囲まれた内部に示される。
【0052】
図10は、本実施形態1に係る電池管理装置の動作を説明する図である。電池管理装置は、検知部と演算部を備える。演算部は、検知部が取得した電池電圧に基づきΔVchaとΔVdisを取得し、これらの間の差分または比率(図10においては比率とした)のうち少なくともいずれかを計算し、その結果を閾値と比較することにより、電池が健全であるか否かを評価する。健全性の判定基準については、図5図6で説明した手法を用いればよい。
【0053】
演算部は、差分または比率を計算する前に、検知部から充電後および放電後の電圧、電流、温度を取得し、電池が充電後の休止期間または放電後の休止期間であるかどうかを判定してもよい。電池が休止期間でない場合は、本フローチャートを終了するか、または休止期間に至るまで待機する。休止期間である場合は、差分または比率を計算する以後のステップを実施する。休止期間か否かについては、充電後であれば電池電流が正の方向から0へ向かって変化したかどうかに基づき判定し、放電後であれば電池電流が負の方向から0へ向かって変化したかどうかに基づき判定すればよい。
【0054】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、故障を検知する電池セル毎の、電池種類、電池特性、電池属性の違いを利用し、それらに基づき基準値判定コードを介して、電池の種類ごとに基準値判定を決定する。この基準値判定式の振り分けにより、経年劣化および故障の予兆を有するかどうかを電池ごと正確に把握できるので、劣化検知精度が向上する。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0055】
図11は、電池種類ごとに基準値を設定するための構成を説明する図である。演算部が備える記憶装置(DB)は、電池ごとに電池種類(SampleA_No.2_1、SampleB_No.1_6、・・・)、電池特徴([α,β]、[α,ε]、[δ]、・・・)、属性(I、IV、III、・・・)を格納しており、さらにこれらの組み合わせごとに基準値(実施形態1におけるy=ax)を格納している。演算部は、上記の分類に応じて基準値を決定し、その基準値を用いて、電池の健全性を評価する。図11においては、(I-α)や(II-θ)のように、電池の特徴と属性の組み合わせごとに基準値を決定する例を示した。
【0056】
2次電池の種類もしくは型番などは電池種類として区分する。電池種類は、電池セルレベルもしくは、電池群レベルの分類分けであってもよい。電池特徴は、電池の電極や溶液など構成要素による区分を意味し、これらは単一もしくは2つ以上の特徴を有する場合でも分類可能である。電池属性は、電池毎の反応速度による区分を意味する。
【0057】
演算部は、上記の区分に基づき、図11に示す基準値判定コードを介して電池種類ごとの基準値を決定する。基準値判定コードは、過去の劣化検知データによって構成されている。演算部は、過去の劣化検知データと最も合致する基準値を、電池種類ごとに選択する。未知の電池については、過去の劣化検知データに対して最も近い特性をもつ電池の基準値を用いればよい。未知電池の種類、属性については新たにデータベースとして基準値判定コードに蓄積してもよい。
【0058】
図12は、電池ごとに基準値を選択した結果を示す。横軸は放電後の電圧変化、縦軸は充電後の電圧変化である。経年劣化および故障の予兆がある電池の検知に用いる基準値(y=ax)は、電池種類、電池特徴、電池属性のうちいずれか1以上の組み合わせごとに選択することができる。図12の2次元プロットにおいては、基準値(II-β):y=lxから基準値(III-δ):y=kxへ更新したことを示す。変更後の基準値により、健全電池と劣化電池の切り分けがより高精度にできるようになったことが分かる。
【0059】
1例として、図12は傾きのみ更新しているが、傾きに限らず切片も変更してよい。基準値を電池種類などに応じて選択することにより、高精度に劣化状態もしくは故障の予兆を有するかの種類分けができるだけでなく、潜在的に故障の可能性がある電池の検知が可能となる。
【0060】
<実施の形態3>
本発明の実施形態3では、SoC補正式を用いてΔVchaとΔVdisを任意のSoCに対応する値へ換算することにより、現在のSoCがどのような値であっても電池の健全性を評価する手法について説明する。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0061】
特許文献2のOCVを用いた劣化検知においては、同一SOC条件下での測定が必須である。すなわち特許文献2において電池の劣化を検知するためには、常にある特定のSoCの下でOCVを取得する必要がある。そこで本実施形態3においては、電池セル(もしくは電池モジュール)側でSoCを特定の値に調整することなくΔVchaとΔVdisを取得し、その値を補正関数によって任意のSoCに対応する値へ換算する。換算後のΔVchaとΔVdisを用いて、実施形態1と同様に、電池の健全性を評価する。これにより、特定のSoC状態に依拠することなく、任意のSoCにおいて電池の健全性を評価することができる。
【0062】
図13は、ΔVdisとΔVchaに対してSoC補正式を適用した計算結果を示すデータ例である。図13上段は、任意のSoC(この例においてはSoC=60%)における充電後および放電後のΔVdisとΔVchaの測定結果を示す。図13中段は、図13上段のSoC=60%におけるΔVdisとΔVchaに対してSoC補正式(Y=Ax+B(式1))を適用することにより、SoC=40%に相当する値へ換算した結果を示す。変換式は1例であり、その他の変換式を用いてもよい。以後の実施形態における変換式も同様である。
【0063】
図13下段は、変換式を決定する方法を示す。事前に様々なSoC条件下でのΔVchaとΔVdisを取得し、これらの間の関係式を近似する方程式を特定することにより、変換式を得る。劣化した電池については、変換式の切片は変化するが傾きについては式1の関係式と同等の依存性があるとみなしてもよい。以後の実施形態における変換式についても同様である。
【0064】
図13上段と中段を比較すると、ΔVdisとΔVchaに対して変換式を適用した場合においても、劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池を判定できていることが分かる。また正常な電池についても正しく判断できている。したがって、任意のSoCにおいてΔVdisとΔVchaを取得した場合であっても、劣化検知および潜在的に故障の可能性がある電池の状態を判断することができるといえる。なお、補正前のΔVdisとΔVchaは必ずしも同じSoCにおいて取得する必要はなく、それぞれ異なるSoCにおいて取得したΔVdisとΔVchaに対して変換式を適用して、ある特定のSoCに相当する値へ換算してもよい。以後の実施形態における変換式についても同様である。
【0065】
図14は、SoCを補正した場合におけるΔVdisとΔVchaプロットの変化を示す。図14の点線プロットは補正前のデータ(SoC:60%)を示し、実線プロットは補正後のデータ(SoC:40%)を示している。横軸は放電後の電圧変化、縦軸は充電後の電圧変化である。補正後のデータは健全な電池または劣化電池のどちらに対して適用することもできる。補正後のプロットの故障の予兆を有する電池の判定は補正前と同じである。差分もしくは比率の少なくとも一方を取得することにより、精度よく劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池の検知ができる。
【0066】
本実施形態3においては、ΔVdisおよびΔVchaの測定の瞬時性に加え、測定環境(SoC)の自由度が加わった。これは、特許文献2の、充電中および放電中に10分程度かけOCVを取得する、という時間的制約に加え、SoCを統一しなくてはいけないという環境的制約(SoC)の課題を解決したことになる。
【0067】
図15は、本実施形態3における電池管理装置の動作を説明するフローチャートである。本実施形態3において演算部は、ΔVdisとΔVchaとの間の差分または比率を計算する前に、これらに対して変換式を適用する。ただし、現在のSoCが、健全性判定を実施するために用いる基準値を得た際と同じSoCであれば、変換式は必要ない。その他のステップは実施形態1と同様である。
【0068】
<実施の形態4>
本発明の実施形態4では、電池温度補正式を用いてΔVchaとΔVdisを任意の電池温度に対応する値へ換算することにより、現在の電池温度がどのような値であっても電池の健全性を評価する手法について説明する。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0069】
特許文献2のOCVを用いた劣化検知においては、同一温度においてΔVchaとΔVdisを測定することが必要である。すなわち特許文献2において電池の健全性を評価するためには、ある特定の電池温度において、ΔVchaとΔVdisを測定することが必要である。そこで本実施形態4では、電池セル(もしくは電池モジュール)側で電池温度を調整することなくΔVchaとΔVdisを取得し、その値を補正関数によって任意の電池温度に対応する値へ換算する。換算後のΔVchaとΔVdisを用いて、実施形態1と同様に、電池の健全性を評価する。これにより、特定の電池温度に依拠することなく、任意の電池温度において電池の健全性を評価することができる。
【0070】
図16は、ΔVdisとΔVchaに対して温度補正式を適用した際の計算結果を示すデータ例である。図16上段は、任意の電池温度(図16上段においては5℃)における充電後および放電後のΔVdisとΔVchaの測定結果を示す。図17中段は、図16上段の温度:5℃におけるΔVdisとΔVchaに対して温度補正式(Y=Cx+D(式2))を適用することにより、電池温度=25℃に相当する値へ換算した結果を示す。
【0071】
図16下段は、変換式を決定する方法を示す。様々な電池温度条件下においてΔVdisとΔVchaを取得し、これらの間の関係式を近似する方程式を特定することにより、変換式を得る。
【0072】
図16上段と中段を比較すると、ΔVdisとΔVchaに対して電池温度補正を適用した場合であっても、劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池の判定ができていることが分かる。また正常な電池についても正しく判断できている。したがって、異なる電池温度条件下でΔVdisとΔVchaを取得した場合であっても、劣化検知および潜在的に故障の可能性がある電池状態が判断できるといえる。
【0073】
図17は、電池温度を補正した場合におけるΔVdisとΔVchaプロットの変化を示す。図17の点線プロットは補正前のデータ(温度:5℃)を示し、実線プロットは補正後のデータ(温度:25℃)を示している。横軸、縦軸は実施形態3と同一である。補正後のデータは健全な電池または劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池のどちらにも適応できる。また、補正後のプロットの故障の予兆を有する電池の判定は補正前と同じであり、差分もしくは比率の少なくとも一方を取得することにより、精度よく劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池の検知ができる。
【0074】
本実施形態4においては、ΔVdisおよびΔVchaの測定の瞬時性に加え、測定環境(温度)の自由度が加わった。これは、特許文献2の、充電中および放電中に10分程度かけOCVを取得するという時間的制約に加え、測定環境下の温度を統一しなくてはいけないという環境的制約(温度)の課題を解決したことになる。
【0075】
図18は、本実施形態4における電池管理装置の動作を説明するフローチャートである。本実施形態4において演算部は、ΔVdisとΔVchaとの間の差分または比率を計算する前に、これらに対して変換式を適用する。ただし、現在の電池温度が、健全性判定を実施するために用いる基準値を得た際と同じ電池温度であれば、変換式は必要ない。その他のステップは実施形態1と同様である。
【0076】
<実施の形態5>
本発明の実施形態5では、電圧補正式を用いてΔVchaとΔVdisを任意の電池電圧に対応する値へ換算することにより、現在の電池電圧がどのような値であっても電池の健全性を評価する手法について説明する。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0077】
特許文献2のOCVを用いた劣化検知においては、同一電圧においてΔVchaとΔVdisを測定することが必要であった。すなわち特許文献2において電池の健全性を評価するためには、ある特定の充電電圧および放電電圧において、ΔVchaとΔVdisを測定することが必要である。そこで本実施形態4では、電池セル(もしくは電池モジュール)側で測定電圧を調整することなくΔVchaとΔVdisを取得し、その値を補正関数によって任意の電池電圧(充電電圧と放電電圧)に対応する値へ換算する。これにより、特定の電池電圧に依拠することなく、任意の電池電圧において電池の健全性を評価することができる。
【0078】
図19は、ΔVdisとΔVchaに対して電圧補正式を適用した際の計算結果を示すデータ例である。図19上段は、任意の電池電圧(図19上段においては充電電圧と放電電圧ともに5V)における充電後および放電後のΔVdisとΔVchaの測定結果を示す。図19中段は、図19上段の電池電圧5Vに対して電圧補正式(Y=Ex+F(式3))を適用することにより、電池電圧7Vに相当する値へ換算した結果を示す。
【0079】
図19下段は、変換式を決定する方法を示す。様々な電池電圧においてΔVdisとΔVchaを取得し、これらの間の関係式を近似する方程式を特定することにより、変換式を得る。
【0080】
図19上段と中段を比較すると、ΔVdisとΔVchaに対して電圧補正を適用した場合であっても、劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池の判定ができていることが分かる。また正常な電池についても正しく判断できている。したがって、異なる電池電圧下でΔVdisとΔVchaを取得した場合であっても、劣化検知および潜在的に故障の可能性がある電池の状態が判断できるといえる。
【0081】
図20は、電池電圧を補正した場合におけるΔVdisとΔVchaプロットの変化を示す。図20の点線プロットは補正前のデータ(電池電圧:5V)を示し、実線プロットは補正後のデータ(電池電圧:7V)を示している。横軸、縦軸は実施形態3~4と同一である。補正後のデータは健全な電池または劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池のどちらにも適応できる。また、補正後のプロットの故障の予兆を有する電池の判定は補正前と同じであり、差分もしくは比率の少なくとも一方を取得することにより、精度よく劣化状態もしくは故障の予兆を有する電池の検知ができる。
【0082】
本実施形態5においては、ΔVdisおよびΔVchaの測定の瞬時性に加え、測定環境(充電電圧と放電電圧)の自由度が加わった。これは、特許文献2の、充電中および放電中に10分程度かけOCVを取得するという時間的制約に加え、充放電電圧を統一しなくてはいけないという環境的制約(電圧)の課題を解決したことになる。
【0083】
図21は、本実施形態5における電池管理装置の動作を説明するフローチャートである。本実施形態4において演算部は、ΔVdisとΔVchaとの間の差分または比率を計算する前に、これらに対して変換式を適用する。ただし、現在の電池電圧が、健全性判定を実施するために用いる基準値を得た際と同じ電池電圧であれば、変換式は必要ない。その他のステップは実施形態1と同様である。
【0084】
<実施の形態6>
図22は、本発明の実施形態6に係る電池管理装置の運用形態を示す模式図である。本実施形態6においては、系統用電源用の大規模な電池システムなど長期間にわたって運用する電池システムに対し、実施形態1~5で説明した劣化検知方法と、運用実績データから得られる情報を組み合わせて、電池の劣化状態もしくは故障の予兆の有無を検知する。
【0085】
図22に示す電池システムは、電池群の運用実績データ(託送データを含む)をコンピュータ(演算部)に対して送信する。さらにデータベース(DB)上に蓄積した運用実績データをサーバコンピュータに対して送信する。サーバコンピュータは、例えば電池システムを運用するプラットフォーム事業者が提供するコンピュータである。サーバコンピュータは、電池群の測定データ(電池電圧、電池電流、電池温度)と運用実績データを用いて、劣化状態もしくは電池の故障の予兆検知や将来の劣化予測などを実施する。電池システムから測定データを受け取るコンピュータと、事業者が提供するサーバコンピュータは、統合してもよい(すなわちこれらのコンピュータを『演算部』として用いてもよい)。
【0086】
複数の電池セルを運用する電池システムの場合、電池セル毎に運用実績データが日々蓄積する。運用実績データは、属性、電圧、電流、稼働温度、経験温度、余寿命、運用期間、稼働回数、のうち少なくとも1つを含んでいる。コンピュータ(電池管理装置)は、この実績データから、必要な情報を抽出し、新たな評価シートを作成する。長期運用する電池システムにおいては、ΔVdisとΔVchaに加え、運用時の稼働温度や稼働時間(または稼働期間)が重要な指標となる。これらは、過去の運用実績データから取得してもよい。
【0087】
コンピュータが作成する評価シートは、ΔVdisとΔVcha、稼働温度、稼働期間、交換依頼、のうち少なくとも1つが含まれる。コンピュータは、評価シートのΔVdisとΔVchaから実施形態1の手法で差分(ΔVdis-ΔVcha)または比率(ΔVcha/ΔVdis)を計算する。評価シートの網掛けで表示された電池セルについては、ΔVdisとΔVchaが逸脱し交換依頼の警告をあげる例を示す。その計算結果から、電池セルの劣化状態の判断や、潜在的に故障の可能性がある電池の状態を判定する。実施形態1に加え、加速試験データの結果で閾値を設定し、市場での運用実績データ、AIを用いた学習データ、の少なくともいずれかの結果を用いて、経年劣化や潜在的に故障の予兆のある電池を検知してもよい。これら結果をユーザに警告として通知することにより、半年もしくはそれ以上前に電池の交換依頼を行うことができる。本実施形態6においてはさらに、過去の稼働温度や稼働時間(または稼働期間)を含めた劣化状態もしくは電池の故障の予兆検知を実施できる。したがって、実施形態1で示した劣化推移が把握できるので、高精度な劣化検知と電池の早期故障予知も可能となる。電池の故障を検知した後は、図9BのGUIが示すように、故障検知結果から3段階の警告を表示することでにより事前に電池セルもしくは電池群の交換が可能となる。GUIに表示される基準と同等のものを、本実施形態6の評価シートにおいて表示してもよい。
【0088】
図23は、本実施形態6に係る電池管理装置の構成例を示す図である。電池の健全度を推定するアルゴリズムをどこで実施するかに応じて、健全度の評価は例えば上記装置上で計算することもできるし、クラウドサーバ上などのネットワークを介して接続されたコンピュータ上で計算することもできる。電池が接続された装置上で計算する利点は、電池状態(電池が出力する電圧、電池が出力する電流、電池の温度、など)を高頻度で取得できることである。
【0089】
クラウドシステム上で計算した健全度評価は、ユーザが所持するコンピュータへ送信することもできる。ユーザコンピュータはこのデータを、例えばインベントリ管理などの特定用途へ提供することができる。クラウドシステム上で計算した健全度評価は、クラウドプラットフォーム事業者のデータベースへ格納し、別用途のために用いることができる。また過去の運用実績データはクラウド内のメモリへ保存しているため、ユーザが所持するコンピュータへ送信し、経時劣化を判定する際に活用することもできる。
【0090】
図23において、電池管理装置100は、電池200からの出力データおよび運用実績データを取得し、これらを用いて電池200の健全性を評価する装置である。電池管理装置100は、通信部130、演算部110、検知部120、記憶部140を備える。
【0091】
検知部120は電池200が出力する電圧V、電池の出力電流I、電池温度Tを取得する。さらに、運用実績データを取得してもよい。これらの検出値は電池自身が検出して検知部へ通知してもよいし検知部が検出してもよい。
【0092】
演算部110は、検知部120が取得した検出値を用いて、電池200の健全度を評価する。推定手順は実施形態1~5で説明したものである。通信部130は、演算部110が出力した健全度評価および実績運用データを、電池管理装置100の外部へ送信する。例えばクラウドシステムが備えるメモリに対してこれらを送信することができる。記憶部140は、ΔVchaとΔVdisの測定結果(2次元プロット)、実施形態2で説明した電池種類などに応じた基準値、実施形態3~5で説明した変換式、などを格納することができる。
【0093】
<実施の形態7>
図24は、本発明の実施形態7に係る電池管理装置の運用形態を示す。本実施形態7では、車載電池群を有する電気自動車に対して、車載器または充電ポートから得られる測定データを用いて、電池の劣化状態もしくは故障の予兆の有無を検知する方法を説明する。検知方法は以上の実施形態と同様である。電気自動車に対して、車載器または充電ポートを接続することにより、車載電池群の測定データ(電池電圧、電池電流、電池温度など)を任意のタイミングで取得することができる。車載器からは、任意のタイミングで測定データを所定の通信を介して直接取得できる。充電ポートの場合、制御信号が送れる電源装置を充電ポートへ接続し、指令を与えることにより所定の通信を介し、BMUから測定データを取得できる。取得した測定データは測定器専用のクラウド上に保管してもよい。
【0094】
本実施形態においてはさらに、測定器専用クラウドから通信を介してサーバ上のクラウドへデータを蓄積する機能を備える。劣化状態もしくは故障の可能性がある電池状態の評価を実施する際は、サーバ上のクラウドもしくは測定器専用クラウドから、過去から現在までの測定データを電池管理装置のDB内に格納する。
【0095】
これらは、オンプレミスで実施することも可能である。具体的には、車載器もしくは充電ポートにつなぐ電源装置にデータストレージをあらかじめ備え付けておくことにより、電池の測定データを取得後、瞬時にΔVchaとΔVdisを算出し、差分と比率から劣化を検知することが可能となる。ΔVchaとΔVdisが取得できればどんな車載器、電源装置であっても本実施形態は適用可能である。
【0096】
上記の手法で取得した電池のΔVdisとΔVchaから、実施形態1の手法により差分(ΔVdis-ΔVcha)または比率(ΔVcha/ΔVdis)を計算する。その計算結果から、電池セルの劣化状態、あるいは潜在的に故障の可能性がある電池状態を判定する。本実施形態においても過去データが活用できるので、車検等の定期的な車両検査時においてΔVdisとΔVchaを取得し、過去データとして蓄積することにより、経時的な電池の劣化を検知し、故障予知も実施できる。
【0097】
故障検知後の交換依頼については、図9Bに示した通り、故障検知結果から3段階の警告を表示することにより、事前に電池セルもしくは電池群の交換が可能となる。このGUIに表示される基準と同等のものを、本実施形態における電池管理装置上に表示することができる。
【0098】
クラウドシステム上で取得した電池の出力値は、ユーザが所持するコンピュータへ送信することもできる。ユーザコンピュータはこのデータを、例えばインベントリ管理などの特定用途へ提供することができる。クラウドシステム上で取得した電池データは、クラウドプラットフォーム事業者のデータベースへ格納し、別用途のために用いることができる。過去に取得した車載用蓄電池の出力データをDB内もしくはクラウド内のメモリへ保存しているので、電池からの出力データをユーザが所持するコンピュータへ送信し、健全度評価の際に活用することもできる。したがって、オンサイトでの劣化検知に加えて、データのやり取りだけで電池システムの管理が可能となる。
【0099】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0100】
以上の実施形態において、直列または並列に接続された電池セル(2次電池)によって構成された電池システムを例として説明した。電池としては例えば、LiB(リチウムイオン電池)、その他の固体電池、ナトリウム電池、などを用いることができる。いずれの電池の場合においても、ΔVdisとΔVchaを用い本発明の手法を適用することができる。
【0101】
実施形態3~5において、SoC、電池温度、電池電圧を換算する例を説明したが、これらのうち1以上を組み合わせてもよい。例えばΔVdisとΔVchaを、特定のSoCおよび特定の電池温度に対応する値へ換算してもよい。この場合は、様々なSoCと電池温度の組み合わせにおいてΔVdisとΔVchaを取得することにより、変換式をあらかじめ取得しておけばよい。
【0102】
以上の実施形態において、電池が健全であるとは、その電池の出荷時からの性能劣化が基準範囲内である(通常使用することができる)ことを意味する。電池が健全ではないとは、その電池の出荷時からの性能劣化が基準範囲を超えていることを意味する。性能劣化の原因としては、経年劣化、故障、これらの複合要因、などが考えられる。電池の健全性と劣化度(または故障度)は、出荷時性能に対する相対評価によって規定することができる。例えば健全度が100%であれば新品、劣化度が10%であれば性能が新品時から10%低下している、などの評価が可能である。
【0103】
以上の実施形態において、電池の劣化検出手順を実施する演算部は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0104】
100:電池管理装置
110:演算部
120:検知部
130:通信部
140:記憶部
200:電池
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