IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日清製粉グループ本社の特許一覧

特開2023-120092卵加工食品の製造方法及び卵加工食品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120092
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】卵加工食品の製造方法及び卵加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20230822BHJP
【FI】
A23L15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023300
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老原 脩
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD30
4B042AD40
4B042AE03
4B042AE10
4B042AH09
4B042AK10
4B042AP02
4B042AP14
4B042AP23
(57)【要約】
【課題】卵炒め等の卵加工食品について、ふんわりした外観を安定的に得ることができる製造方法を提供する。卵のふんわりした外観に優れている卵加工食品を提供する。
【解決手段】卵由来タンパク質を含む分散液と98℃以上の水性液体とを混合して、卵成分と水の合計量に対し、卵由来タンパク質の含有量が5.5質量%以上12質量%以下である調理前の卵含有混合液を調製し、得られた調理前の卵含有混合液を加熱調理に用いる、卵加工食品の製造方法。また当該製造方法を用いた、卵加工食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵由来タンパク質を含む分散液と98℃以上の水性液体とを混合して、卵成分と水の合計量に対し、卵由来タンパク質の含有量が5.5質量%以上12質量%以下である調理前の卵含有混合液を調製し、得られた調理前の卵含有混合液を加熱調理に用いる、卵加工食品の製造方法。
【請求項2】
加熱調理に用いる調理前の卵含有混合液の温度が30℃以上55℃以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記分散液におけるタンパク質含有量が卵成分と水の合計量に対し、6.0質量%以上12.3質量%以下である、請求項1又は2に記載の卵加工食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法で製造した卵加工食品。
【請求項5】
体積15cm3以上の凝固卵片の合計質量が50質量%以上80質量%以下の卵炒めである、請求項4に記載の卵加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵加工食品の製造方法及び卵加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、卵加工食品としては、カニ玉等の、野菜や肉類、魚介類等の具材と卵を炒めた卵炒めや、汁物、椀物、雑炊、丼もの等の卵とじ等が知られている。これらの卵加工食品は、そのふんわりした外観が好まれ、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの惣菜等に用いられている。
【0003】
卵加工食品の製造方法について、特許文献1には、卵およびゲル化剤を含む卵液を60~75℃に加熱後、成型機で成型することを特徴とする卵加工食品の製造方法が記載されている。同文献には、当該方法により、食感のよい卵加工食品を大量生産できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-37446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、消費者のニーズの多様化により、卵炒め等の卵加工食品では、従来より一層ふんわりした外観を安定して得られる製造方法が求められている。
これに対し、従来の特許文献1は、ふんわりした外観を安定的に得るための製造方法について、一切考慮したものではない。
【0006】
本発明の課題は、卵炒め等の卵加工食品においてふんわりした形状が安定的に得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、卵由来タンパク質を含む分散液を熱した水性液と混合して所定のタンパク質含有量の卵含有混合液とし、これを加熱調理に用いることで、上記の課題が達成できることを見出した。
【0008】
本発明は、卵由来タンパク質を含む分散液と98℃以上の水性液体とを混合して卵由来タンパク質の含有量が5.5質量%以上12質量%以下である調理前の卵含有混合液を調製し、得られた調理前の卵含有混合液を加熱調理に用いる、卵加工食品の製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記製造方法で製造される卵加工食品、特に好適には、体積15cm3以上の凝固卵片の合計量が50質量%以上80質量%以下である、卵炒めを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の卵加工食品の製造方法によれば、卵炒め等の卵加工食品について、ふんわりした外観を安定的に得ることができる。また本発明の卵加工食品は、ふんわりした外観に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は、卵由来タンパク質を含む分散液と98℃以上の水性液体とを混合して卵由来タンパク質の含有量が卵成分と水の合計量に対し、5.5質量%以上12質量%以下である調理前の卵含有混合液を調製し、得られた調理前の卵含有混合液を加熱調理に用いる、卵加工食品の製造方法を提供するものである。
【0012】
まず卵由来タンパク質を含む分散液を説明する。この分散液は、調理前の卵含有混合液を得るためのものであり、98℃以上の水性液と混合したときに卵由来タンパク質量が5.5質量%以上12質量%以下である調理前の卵含有混合液を好適に与えるものである。
上記の分散液に含まれる卵由来タンパク質源としては、全卵のほか、卵黄、卵白、これらを任意の比率で混合した混合物が挙げられる。また加熱により凝固するものであれば、酵素処理、加糖、加塩、冷蔵、冷凍、乾燥、殺菌等の各種加工処理を経て得られた全卵、卵黄、卵白等であってもよい。また卵としては、鶏卵のほか、ウズラ卵、アヒル卵、ダチョウ卵等も挙げられるが、鶏卵が好ましい。卵由来タンパク質を含む分散液は、卵由来タンパク質源として、卵黄及び卵白を含むことが、色味に優れ、卵炒め等の用途に適している点や、食味向上の点で好適である。また、卵由来タンパク質を含む分散液は液卵を含むことが、製造効率や食味向上の点で好ましい。液卵とは、鶏卵の殻を除いた全卵、卵黄、卵白のほか、それらについて上記各種加工処理を施したもののうち、液状のものを指す。本明細書では、卵由来タンパク質源を「卵成分」と記載する場合もある。
【0013】
分散液に含まれる卵由来タンパク質は、未凝固のタンパク質であることが好適である。卵由来タンパクが未凝固であるとは、例えば58℃以上の加熱が3分以上なされていないことを指すことが好適であり、1分以上なされていないことを指すことがより好適である。
【0014】
分散液における卵由来タンパク質の量は、卵成分と水の合計量に対し、6.0質量%以上12.3質量%以下であることが好適である。分散液における卵由来タンパク質の量が6.0質量%以上であることで、後述する通り、卵由来タンパク質量が5.5質量%以上であり、且つ後述する好適な温度の調理前の卵含有混合液が首尾よく得られる。また、分散液における卵由来タンパク質の量が12.3質量%以下であることは、製造コストの点やふんわりとした外観を得る点で好ましい。この観点から、分散液における卵由来タンパク質の量は、卵成分と水の合計量に対し、7.0質量%以上12.0質量%以下であることが更に一層好適である。上記の通り、ここでいう卵由来タンパク質の量は、分散液中の水及び卵成分の合計量に対する量とする。従って、分散液が、調味料等や穀粉類、肉、魚介類、野菜等といった、水及び卵成分以外の他の成分を含む場合、当該他の成分の量は、分散液中の卵由来タンパク質含有量の計算に含めない。
【0015】
卵由来タンパク質は、分散液中に分散して存在している。この分散液としては、卵由来タンパク質源をそのまま撹拌するか、必要に応じて水性液等を加えて撹拌してなるものを用いることができる。水性液としては水等が挙げられる。撹拌としては、撹拌器や箸等を用いて手動で撹拌してもよいし、ミキサー、ブレンダー、シェイカーやその他の撹拌装置を使って撹拌してもよい。
【0016】
分散液は、卵成分(卵由来タンパク質源)及び水以外の成分を含有していてもよい。その様な成分としては、後述する副原料が挙げられる。分散液中の卵成分(卵由来タンパク質源)以外の固形分は、卵成分(卵由来タンパク質源)の固形分100質量部に対し、30質量部以下であることが好適であり、25質量部以下であることがより好適である。固形分とは、水分を除いた量を指す。
【0017】
卵由来タンパク質を含む分散液は、98℃以上の水性液と混合する。水性液としては、水又は調味液を挙げることができる。調味液としては、食塩、醤油、糖類、出汁、アミノ酸、エキスなどの従来公知の調味料を水で混合したものが挙げられる。水性液における水の割合は例えば60質量%以上が好適に挙げられ、70質量%以上がより好適であり、80質量%以上が更に一層好ましく、90質量%以上であることもある。当該水性液は、卵由来タンパク質を実質的に非含有であることが製造効率の点で好ましい。当該水性液が卵由来タンパク質を実質的に非含有であるとは、水性液中の卵由来タンパク質の量が0.5質量%以下であることを意味することが好ましく、0.1質量%以下であることを意味することがより好ましい。
【0018】
分散液と水性液との混合は常圧で行うことが製造効率の点で好ましく、この点から、水性液の温度は、100℃以下であることが好ましい。また、水性液と混合する直前の分散液の温度は望ましい温度の調理前混合卵液を首尾よく得る点から、例えば3~30℃が好適に挙げられ、4~25℃がより好適である。
【0019】
98℃以上の水性液と卵由来タンパク質を含む分散液は、両者を混合してなる調理前の卵含有混合液において、卵由来タンパク質量が所定範囲内であることが重要である。本発明者は、卵炒め等の卵加工食品の外観について鋭意検討した。その結果、卵加工食品のふんわりした外観は、凝固卵片がある程度大きいことと、全体において一定の大きさ以上の凝固卵片が多いことが関係していることを知見した。更に検討した結果、加熱調理に供する卵含有混合液を熱した水性液を用いて調製し、その際に卵含有混合液中の卵由来タンパク質量が所定量以上であると、短時間の加熱で大きな凝固卵片が得やすいことを見出した。
【0020】
具体的には、本発明では調理前の卵含有混合液における卵由来タンパク質含有量は卵成分と水の合計量に対し、5.5質量%以上である。これを満たすことで、短時間の加熱によって、大きな凝固卵片が容易に得られる。また本発明では調理前の卵含有混合液における卵由来タンパク質含有量は、12質量%以下であることで、熱した水性液を用いて従来よりもふんわりとした食感が得られるという効果を発揮することができる。これらの点から、調理前の卵含有混合液において、卵由来タンパク質含有量は卵成分と水の合計量に対し、5.5質量%以上12質量%以下であることが好ましく、6質量%以上11.5質量%以下であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、卵含有混合液における上記卵由来タンパク質含有量は、水と卵成分との合計量中の卵由来タンパク質の割合とする。従って、例えば卵含有混合液に調味料、穀粉類、肉や魚介類、野菜など、水及び卵以外のその他の成分が含まれていても、これらその他の成分の量は、タンパク質含有量を求める際の分母には含めない。
【0021】
98℃以上の水性液と卵由来タンパク質を含む分散液を混合して得られる卵含有混合液の温度は、60℃未満であることが好適であり、58℃未満であることがより好適であり、特に好適には30℃以上55℃以下である。卵含有混合液の温度が60℃未満、特に30℃以上55℃以下であることで、加熱調理に至るまでの卵由来タンパク質の凝固を抑制しつつ、加熱調理に供したときの凝固を適度に速めて特に安定的にふんわりした形状の凝固卵片を得ることができる。この観点から、卵由来タンパク質を含む分散液を混合して得られる卵含有混合液の温度は、35℃以上55℃以下であることがより好ましい。ここでいう卵含有混合液の温度は、卵含有混合液調製時から加熱調理に供するまでの時点のいずれかにおいて上記の温度であればよいが、加熱調理に供する直前の温度であることが好適である。
【0022】
調理前の卵含有混合液とは、当該液中の卵由来タンパク質が未凝固の状態であることを指すことが好適である。ここでいう未凝固の状態とは、58℃以上、3分以上の加熱を経ていないことを指すことが好ましく、58℃以上、1分以上の加熱を経ていないことを指すことがより好適である。
【0023】
上記の点から、分散液100質量部に対し、98℃以上の水性液の量は100質量部以下となるように調整することが好適である。この場合、得られる調理前の卵含有混合液を、より容易に未凝固の状態としやすいためである。また、分散液100質量部に対し、98℃以上の水性液の量は5質量部以上となるように調整することが調理前の卵含有混合液を30℃以上とする点から、好適である。これらの点から、98℃以上の水性液の量は分散液100質量部に対し、10質量部以上100質量部以下となることがより好ましい。
【0024】
上記で得られた卵含有混合液は、加熱調理に供する。ここでいう調理とは、加熱調理を指し、炒め調理、炒め以外の焼き調理、茹で調理、卵とじを含めた煮調理、蒸し調理、フライ調理等が挙げられるが、卵炒め、卵とじを好適に得る点から、炒め調理、又は煮調理であることがふんわりした外観が得やすい点で好ましく、とりわけ炒め調理であることがふんわりした外観が得られる効果に優れる点で好ましい。
【0025】
98℃以上の水性液と上記分散液とを混合してなる未凝固状態の卵含有混合液を調製してから、加熱調理に供するまでにかかる時間は、30秒以上であることが製造性の点で好ましいが、特に60秒以上であることが所定の温度・タンパク質濃度の卵含有混合液を調製することによる効果が高い点から好適である。また、作業性の点から、卵含有混合液を調製してから加熱調理に供するまでの時間は30分以下であることが好ましく、15分以下であることがより好ましい。特に好ましくは卵含有混合液が、上記の時間の間、上記の好適な温度条件であることが望ましい。つまり上記の時間の間、60℃未満であることが好適であり、58℃未満であることがより好適であり、特に好適には30℃以上55℃以下である。
【0026】
炒め調理、具体的には卵炒めの方法は、特に限定されず、調理器具における加熱面を熱して、調理前の卵含有混合液を投入して炒める方法であればよい。
【0027】
例えば炒め方法としては、卵含有混合液が前記加熱面に接してから放置した後に該加熱面から卵を剥がすことを繰り返す方法が挙げられる。加熱面は180℃以上270℃以下であることが、ふんわりした外観を得やすい点で好適である。また、卵含有混合液が前記加熱面に接してから剥がすまでの時間や、一たん剥がしてから再度加熱面から剥がす時間は、5秒以上20秒未満の間であることが、ふんわりした外観を得る点でより好適である。
【0028】
調理器具としては、鍋、ホットプレート、フライパン、蒸気釜、IH釜、炒め機等が挙げられる。卵含有混合液を加熱面から剥がす作業には、加熱面に沿って且つ加熱面に対して相対的に移動するスクレイパーを用いることが好ましい。ここでいう相対的に移動するとは、スクレイパーが移動せずに加熱面をスクレイパーに対して移動させる場合を含む意図である。なお、スクレイパーは手動のヘラであってもよく、例えば手動等で卵の剥がし工程を行っても構わない。
【0029】
大量生産の場合には、例えば、調理器具として鍋を用い、鍋を縦方向に延びる軸周りに回転させると共に、鍋内に当該縦方向の軸と交差する軸(以下横向きの軸とも言う)周りに回転する撹拌体を設け当該撹拌体が鍋底と対向する位置にスクレイパーを有している加熱装置を用いてもよい。この場合、例えば、鍋を平面視すると半径に対応する位置に撹拌体が存在するようにしてもよい。
上記加熱装置を用いる場合、炒め工程において、加熱面上で所定時間放置された卵は、当該時間経過後に鍋底から剥がされる、この剥がし工程の際には、鍋の加熱面が縦方向の回転軸周りに回転するとともに、撹拌体が横向きの軸周りに回転する。2つの軸の回転はスクレイパー(撹拌体)によって掻き上げられる卵が加熱面におけるスクレイパー(撹拌体)と近接する側から、離間する側に送り出されるようになされることが好ましい。スクレイパーの形状としては、例えば横向きの軸周りに回転するらせん状のものが挙げられる。このような加熱装置は、たとえば再表2020/084815号公報等に記載されている。剥がし作業がなされた卵は加熱面で上記時間、更に放置されることが繰り返されることが好適である。
【0030】
炒め工程は、凝固卵の塊の中心部の温度が85℃以上となるまで行うことが好ましい。凝固卵の塊の中心部の温度は芯温ともいう。凝固卵の塊の中心部の位置とは、外部に露出しない位置であって、食品分野における技術常識の範囲内で定められ、目視により判断される。凝固卵の塊の中心部の温度は、前述した中心部の位置に針状プローブ温度計を差し込むことで測定できる。凝固卵の塊は、1つの凝固卵片であってもよく、複数の凝固卵片の凝集塊であってもよい。好ましくは、温度測定対象となる凝固卵の塊は、平面視における長さ、幅および高さがいずれも1cm以上であることが好ましい。平面視における長さとは、塊の平面視像を横断する最長線分の長さをいい、幅とは、前記平面視像における当該最長線分と直交する方向の長さを指す。塊の中心部とは、高さ方向における塊の略中心部であり、且つ、当該高さ位置における水平面と平行な断面における位置も、略中心であることが好ましい。卵炒めにおける温度測定対象となる凝固卵の塊の位置に限定はないが、ランダムに選択した3つ以上の塊の中心部の温度の最低温度とする。中心部の温度は、攪拌を停止した状態で測定する。
【0031】
上記製造方法においては、炒め工程で鍋に投入された卵含有混合液は、調理器具の加熱面上で熱せられる。調理器具に投入する卵含有混合液の量は、加熱面1cm2当たり卵含有混合液が0.1g~20gであることが、後述する体積の凝固卵片が後述の質量割合である卵炒めを首尾よく得られる点から好ましい。
【0032】
本発明で得られる卵加工食品、特に卵炒めは、複数の凝固卵片を有し、体積が15cm3以上である凝固卵片の合計が、卵炒め中、50質量%以上80質量%以下であることがふんわりした焦げ付きの少ない外観を得る点で好適である。体積が15cm3以上である凝固卵片の合計が、50質量%以上であることで大きな凝固卵片が好適に多いことから特にふんわりした外観を与えることができる。また体積が15cm3以上である凝固卵片の合計が、80質量%以下であることで焦げ付きを抑制しやすいほか、効率的に加熱できる利点がある。本発明では、98℃以上に熱した水性液を用いて所定のタンパク質含有量の卵含有混合液を用いることから上記の数値範囲を持たす卵加工食品を首尾よく製造することができる。
一層外観を向上させる観点から、卵加工食品は、体積が15cm3以上である凝固卵片の合計が、55質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。凝固卵片の体積は後述する通り、メスシリンダーを用いて測定できる。
【0033】
上記でいう凝固卵片とは、卵含有混合液を炒め調理等の加熱調理により加熱して凝固させたものである。凝固卵片は、粒状、板状、塊状、不定形状等のいずれであってもよい。
【0034】
凝固卵片は、定形を有しない液状又は流動状の卵とは異なり、一定の形状を有している。
凝固卵片と、液状又は流動状の卵との区別方法は次の通りである。水平面から30cm上方に離間した位置に、水平に保持したステンレス製の篩(網目の孔が0.2cm×0.2cm)を設置し、その上に凝固卵を互いに離間した状態で置いて、その状態で30分間静置し、残った部分を凝固卵片とする。凝固卵は、網目の上に戴置した状態で上方から下方に投影した面積が最大となるように網目上に戴置する。残った部分は30分間静置した後に持ち上げた瞬間の部分とする。持ち上げた凝固卵片は、具材を含有しない場合は直ちに秤に載せたメスシリンダーに入れ体積及び質量を測定するものとする。また、後述する通り、凝固卵片が具材を含有する場合、凝固卵片をステンレス製のバットなどに移して具材を除去した後に、秤に載せたメスシリンダーに入れ体積及び質量を測定するものとする。
また前記の残った部分の重さが0.1g以上のものを凝固卵片とし、重さが0.1g未満の場合には、凝固卵片に含めないものとする。
また、凝固卵片か否かの判定や、その質量及び体積の測定は、卵炒め(卵加工食品)が出来上がってから品温10℃まで真空冷却後、室温に静置し、品温が室温となってから測定するものとする。冷凍状態の卵炒め(卵加工食品)を測定に供する場合は、電子レンジにて出力600W、重量1gにつき1秒の加熱時間にて解凍し、完全に解凍した後に上記と同様の測定に供するものとする。
【0035】
卵炒め等の卵加工食品において、凝固卵片は、他の凝固卵片と互いに隣接した状態となっており、卵加工食品が卵以外の具材を有する場合には、当該具材を含有するか又は隣接した状態となっている。なお、凝固卵片が具材を含有するとは、例えば具材と卵が結着した状態となっている例が挙げられる。
【0036】
凝固卵片が具材を含有する場合、凝固卵片の重さ及び体積は、凝固卵片の表面に密着した具材及び凝固卵片内部の具材をピンセット等で取り外し、測定するものとする。具材を取り外す際に凝固卵片が分離した際は分離分も含め、分離前の凝固卵片を1つとして体積を測定するものとする。
このような具材の処理方法を行う対象例としては、例えばカニ玉、中華風卵炒め等の、具材と液卵とを混合した状態で加熱処理を行う料理が挙げられる。また、例えば卵を単独で炒めた後に加熱した卵を取りだし、ついで、別の具材を卵と別に炒めて、次いで炒めた具材に炒めた卵を投入して混合して調理した場合等においても、必要に応じ、凝固卵片と具材の分離操作を行う。
【0037】
上述した通り、凝固卵片の体積はメスシリンダーにて測定でき、例えば後述する実施例の記載の方法にて測定できる。凝固卵片は、箸やピンセット等で持ち上げて、秤の上に乗せたメスシリンダーに収容した状態で体積及び質量を測定する。凝固卵片を前記の網目上からメスシリンダー内に移動させる間に、凝固卵片の一部が欠けた場合には、分離分も含めて体積を測定する。
【0038】
卵由来タンパク質源以外の卵加工食品の原料(副原料)としては、穀粉類;調味料(糖類含む);油脂類;野菜や肉、キノコ類などの卵以外の具材、水等が挙げられる。これらは卵由来タンパク質を含む分散液に含有させてもよく、98℃以上の水性液に含有させてもよく、分散液と水性液を混合した卵含有混合液に添加してもよい。
【0039】
卵加工食品は穀粉類を含有していると、ふわふわした食感が得やすい点やふんわりした外観、食感が冷蔵・冷凍後も維持可能である点から好ましい。穀粉類としては、穀粉及び澱粉が挙げられる。穀粉としては、例えば、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、ワキシーコーン、馬鈴薯粉、タピオカ粉、甘藷粉等が挙げられる。澱粉としては、前記の穀粉を由来とする澱粉及びその加工澱粉が挙げられ、該加工澱粉としては、未加工澱粉にエーテル化、エステル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施したものが挙げられる。エーテル化にはヒドロキシプロピル化が含まれ、エステル化にはアセチル化が含まれる。ここでいう「澱粉」は、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。澱粉は食感の好ましさから、ワキシーコーン澱粉、タピオカ澱粉若しくは馬鈴薯澱粉又はこれらの加工澱粉が好ましく、また冷凍耐性から、加工澱粉が好ましく、架橋澱粉がより好ましく、特に、アセチル化リン酸架橋澱粉が特に好ましい。
【0040】
上記の穀粉類を含有することの利点を得る点や食感・食味の点から、卵加工食品は、穀粉類を0.5~6質量%含有することが好ましく、1~4質量%含有することがより好ましい。更に詳細に言えば、穀粉類を用いる場合、その使用量は、食感などから、卵由来タンパク質100質量部に対し、4~65質量部が好ましく挙げられ、8~48質量部がより好ましい。
【0041】
卵加工食品は卵に由来しない油脂を含有してもよい。卵加工食品は卵炒め料理である場合、油脂を含有することで、焦げやすさが抑制され、上記所定体積の凝固卵片が上記割合範囲内である卵炒めが一層得やすくなる。油脂としては、菜種油、オリーブ油、米油、ゴマ油、ヤシ油、コーン油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、ヒマワリ油、紅花(サフラワー)油、パーム分別油(パームオレイン等)、バターオイル、中鎖脂肪酸油、魚油等の各種動植物性油脂が挙げられる。油脂は常温(25℃)で液状であることが卵加工食品の品温が室温程度でもふんわりした食感を維持できる点から好ましい。卵加工食品やそれを構成する凝固卵片は、油脂を1~40質量%含有することが好ましく、3~30質量%含有することがより好ましい。
【0042】
卵加工食品は、野菜やキノコ類、豆腐、豚肉、牛肉、鶏肉などの肉類、エビやカニ、魚等の魚介、天かす、薬味等の卵以外の具材を含有していてもよい。上述した通り、卵加工食品におけるこれらの具材の含有の形態としては、凝固卵片とは別に具材が含まれる形態、及び、凝固卵片中に具材が含まれる形態が挙げられる。また、卵加工食品に他の具材を含有する場合、当該他の具材を前もって加熱しておいてもよく、未加熱状態であってもよい。
【0043】
本発明は、卵加工食品においてふんわりした形状が安定して得られる特性を生かして、各種の炒め物料理、例えばカニ玉のほか、トマトやその他の野菜、魚介類や肉類等との卵の炒め物料理や丼もの等の卵炒め料理(本明細書中、単に「卵炒め」ともいう。)のほか、汁物、椀物、雑炊等の卵とじ部分や、親子丼の具、天津丼の具、かつ丼の具等の卵とじ丼の具等の卵とじ料理(本明細書中、単に「卵とじ」ともいう。)、卵焼き、オムライス、オムレツ等の卵焼き料理に用いることができる。
なお、卵加工食品には、プリンや茶わん蒸し等、型を用いて卵含有液を凝固する食品と、型を用いずに製造する食品があるが、本発明は上述した卵炒め、卵とじ等、型を用いずに凝固させる食品に適用することが、ふんわりした形状が安定して得られるという本発明の効果を発揮する点で好ましい。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1~6、比較例1〕
全卵(10℃、タンパク質含有量12.3質量%)を、撹拌手段として、ホイッパーを用いて10秒間撹拌して、表1に記載の温度及びタンパク質含有量の分散液を得た。この分散液100質量部と、98~100℃の熱水とを表1に記載の量比で混合して、卵由来タンパク質含有量が表1に記載の値である卵含有混合液を得た。
【0046】
卵含有混合液から以下のようにして卵炒めを得た。卵含有混合液を調製してから炒め調理に供するまでの時間は1分間であり、卵炒めに供する際の卵含有混合液の温度は表1の通りであった(以下の実施例、比較例も同様)。
フライパン(加熱面の半径18.5cm)内にごま油23.8gを入れて、フライパン及びごま油を200℃に熱した後、卵含有混合液500gを投入し、当該温度でフライパンを加熱しながら投入から12秒後にヘラを用いて前記フライパンの内表面から卵を剥がした。フライパンの内表面から卵を剥がしてから12秒後に再度卵を剥がす行為を繰り返し行って、卵炒めを得た。凝固卵の塊の芯温が85℃まで上昇した時点で加熱を終了させた。芯温は上記好ましい大きさの塊の中心部の温度として測定した。
【0047】
なお、凝固卵片の体積は、秤に載せたメスシリンダー(容量500ml、内径50mm)に水200mlを入れて凝固卵片をメスシリンダーに投入し、体積増加分を測定することで行った。各実施例における凝固卵片一つ当たりの体積は80cm3以下であった。
また得られた卵炒めは10名の訓練されたパネラーにて下記評価基準にて評価させ、その平均点を下記表1に示した。得られた結果を表1に示す。
【0048】
<評価基準>
5点: 凝固卵片が適度に大きく、中華料理の卵炒めに適したふんわり感を感じさせる。
4点: 凝固卵片が適度に大きく、中華料理の卵炒めに適したふんわり感をやや感じさせる。
3点: 凝固卵片の大きさがやや細かいが許容範囲。
2点: 凝固卵片が中華料理の卵炒めに適したふんわり感を感じさせる大きさでない。
1点: 凝固卵片が中華料理の卵炒めに適したふんわり感を感じさせる大きさでなく、かつ食感がボソボソする。
【0049】
〔実施例7~13、比較例2~8〕
全卵(10℃、タンパク質含有量12.3質量%)と25℃の水を表1に記載の量比で混合し、撹拌手段として、ホイッパーを用いて10秒間撹拌して、表1に記載の温度及びタンパク質含有量の分散液を得た。この分散液100質量部に対し、98℃~100℃の熱水を表1に記載の量比で混合して、タンパク質含有量が表1に記載の値である卵含有混合液を得た。
得られた卵含有混合液を実施例1~6、比較例1と同様の評価に供した。結果を下記表1に示す。
【0050】
〔実施例14〕
熱水100質量部の代わりに調味液(水100質量部、中華だし5質量部、塩2質量部を混合したもの)107質量部を98℃~100℃に熱したものを用いた以外は実施例9と同様にして、卵炒めを作製し、同様の評価に供した。結果を下記表1に供する。
【0051】
〔実施例15〕
98℃~100℃に熱した調味液(水性液)と分散液を混合させた際にカニかまぼこを調味液と分散液の合計100質量部に対し、10質量部添加したほかは、実施例15と同様にして、卵炒めを作製し、同様の評価に供した。結果を下記表1に供する。
【0052】
〔実施例16〕
98℃~100℃に熱した調味液(水性液)と分散液を混合させた際に、加工澱粉(アセチル化リン酸架橋ワキシーコーン澱粉)を調味液と分散液の合計100質量部に対し、3質量部添加した以外は、実施例15と同様にして、卵炒めを作製し、同様の評価に供した。結果を下記表1に供する。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の通り、各実施例では、所定の卵由来タンパク質含有量を満たす卵含有混合液を用いることで、得られた卵加工食品はふんわりした外観という点で高い評価が得られた。各実施例で得られた卵炒めは、体積15cm3以上の凝固卵片の合計質量が50質量%以上80質量%以下であった。一方、卵由来タンパク質含有量が5.5質量%未満である各比較例では、卵含有混合液の温度に関わらず、大きな凝固卵片が得難く、ふんわりした外観が得られなかった。
また卵含有混合液の温度が30℃以上55℃以下である実施例1~3では卵由来タンパク質含有量が大きくなるにつれ、評価が高くなる一方で、30℃未満である実施例4~6はタンパク質含有量が大きくなっても外観評価は低下した。この傾向は実施例10~12でも同様であった。このことから、卵含有混合液の温度が30℃以上55℃以下であることも、得られる卵加工食品の外観向上に寄与することが判る。