(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120144
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】対象細胞の濃縮方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/04 20060101AFI20230822BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230822BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20230822BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20230822BHJP
A01H 5/02 20180101ALI20230822BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C12N5/04
C12N5/10
A01H1/00 A
A01H5/10
A01H5/02
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196434
(22)【出願日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2022023027
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 開催日 2022年12月6日 集会名、開催場所 2022年度植物科学シンポジウム~植物科学で挑む、社会実装への道~(現地開催及びWeb開催) 開催場所:東京大学農学部中島董一郎記念ホール(東京都文京区弥生1丁目1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム シーズ育成タイプ、花粉による新植物育種技術の開発、受託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(71)【出願人】
【識別番号】503335179
【氏名又は名称】株式会社ファスマック
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 陽子
(72)【発明者】
【氏名】金城 行真
(72)【発明者】
【氏名】東山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】皆川 吉
(72)【発明者】
【氏名】和田 悠作
【テーマコード(参考)】
2B030
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB04
2B030AD11
2B030AD12
2B030AD14
2B030AD15
2B030CA14
4B029AA27
4B029BB12
4B029DG10
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA53
(57)【要約】
【課題】対象細胞の濃縮方法を提供すること。
【解決手段】対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させることを含む、対象細胞の濃縮方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させることを含む、対象細胞の濃縮方法。
【請求項2】
前記細胞集団が培養されている細胞集団である、請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項3】
前記対象細胞が対象物導入細胞であり、且つ前記非対象細胞が対象物非導入細胞である、請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項4】
前記細胞集団が、パーティクルボンバードメント法による核酸導入に供された細胞集団である、請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項5】
前記細胞集団が植物細胞集団である、請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項6】
前記細胞集団が花粉細胞集団である、請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項7】
前記細胞集団の前記対象細胞と前記非対象細胞とを識別し、レーザー照射対象である非対象細胞を決定することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の濃縮方法。
【請求項8】
前記細胞集団の前記対象細胞と前記非対象細胞とを色及び/又は形態で識別する、請求項7に記載の濃縮方法。
【請求項9】
前記レーザーが赤外線レーザーである、請求項1~6のいずれかに記載の濃縮方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の濃縮方法で得られた、細胞集団。
【請求項11】
花粉細胞集団である、請求項10に記載の細胞集団
【請求項12】
請求項11に記載の花粉細胞集団を受粉させることを含む、前記花粉細胞集団から伸長した花粉管を含む植物体の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の花粉細胞集団を受粉させることを含む、種子の製造方法。
【請求項14】
対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させる、処理部を備える、対象細胞の濃縮装置。
【請求項15】
コンピュータに、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させる処理を実行させる、対象細胞を濃縮するためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象細胞の濃縮方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞学的な実験において、対象細胞のみを濃縮する方法は遺伝子の働きや細胞の機能を調べる上で重要である。対象細胞を濃縮する方法としては、大きく分けて2つの方法がある。1つは対象細胞のみを選び取る方法であり、もう1つは非対象細胞を取り除く方法である。対象細胞のみを選び取る方法としては、セルソーターによる細胞分取方法がある。しかし、この方法には、セルソーターでの分取時に用いるシース液が対象細胞の種類によっては毒性があること、採取に必要な細胞数が多くロスが多いこと等の問題点がある。また、採取前と採取後で対象細胞を追跡することが難しく、そのような用途には用いることができない。対象細胞のみを選び取る方法としては、その他、ピコピペットなどで対象細胞を1個ずつ採取する方法もあるが、この方法には、高度な手技が必要であり自動化が困難であること、コンタミネーションが生じ得ること等の問題点がある。一方、非対象細胞を取り除く方法としては、抗生物質による選抜が広く用いられている。しかし、この方法には、抗生物質が効かない細胞があること、試験によっては抗生物質の作用が問題となること、抗生物質により細胞がダメージを受けてしまうこと等の問題点がある。
【0003】
上記の問題は、花粉等の植物細胞を対象とする場合に顕著である。特許文献1には、パーティクルボンバードメント法により対象核酸が導入された花粉を用いて次世代植物を得る方法が記載されている。この方法において、対象核酸が導入された花粉を濃縮することができれば、より効率的に、対象核酸の導入により遺伝子改変された次世代植物を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、対象細胞の濃縮方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射することにより、対象細胞を濃縮できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させることを含む、対象細胞の濃縮方法。
【0008】
項2. 前記細胞集団が平面培養されている細胞集団である、項1に記載の濃縮方法。
【0009】
項3. 前記対象細胞が対象物導入細胞であり、且つ前記非対象細胞が対象物非導入細胞である、項1又は2に記載の濃縮方法。
【0010】
項4. 前記細胞集団が、パーティクルボンバードメント法による核酸導入に供された細胞集団である、項1~3のいずれかに記載の濃縮方法。
【0011】
項5. 前記細胞集団が植物細胞集団である、項1~4のいずれかに記載の濃縮方法。
【0012】
項6. 前記細胞集団が花粉細胞集団である、項1~5のいずれかに記載の濃縮方法。
【0013】
項7. 前記細胞集団の前記対象細胞と前記非対象細胞とを識別し、レーザー照射対象である非対象細胞を決定することを含む、項1~6のいずれかに記載の濃縮方法。
【0014】
項8. 前記細胞集団の前記対象細胞と前記非対象細胞とを色及び/又は形態で識別する、項7に記載の濃縮方法。
【0015】
項9. 前記レーザーが赤外線レーザーである、項1~8のいずれかに記載の濃縮方法。
【0016】
項10. 項1~9のいずれかに記載の濃縮方法で得られた、細胞集団。
【0017】
項11. 花粉細胞集団である、項10に記載の細胞集団
【0018】
項12. 項11に記載の花粉細胞集団を受粉させることを含む、前記花粉細胞集団から伸長した花粉管を含む植物体の製造方法。
【0019】
項13. 項11に記載の花粉細胞集団を受粉させることを含む、種子の製造方法。
【0020】
項14. 対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させる、処理部を備える、対象細胞の濃縮装置。
【0021】
項15. コンピュータに、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させる処理を実行させる、対象細胞を濃縮するためのコンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、対象細胞の濃縮方法を提供することができる。また、本発明によれば、対象細胞の濃縮装置、対象細胞を濃縮するコンピュータプログラム等を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】試験例2で使用したマクロ((1)対象範囲や撮影カメラ、取得画像の保存先などの定義)を示す。
【
図2】試験例2で使用したマクロ((2)効果確認用のBefore画像の取得)を示す。
【
図3】試験例2で使用したマクロ((3)花粉細胞の検出、識別、レーザー照射)を示す。
【
図4】試験例2で使用したマクロ((4)効果確認用のAfter画像の取得)を示す。
【
図5】試験例2で使用したマクロ(3)のステップ(a)における処理画像を示す。
【
図6】試験例2で使用したマクロ(3)のステップ(b)における処理画像を示す。
【
図7】試験例2で使用したマクロ(3)のステップ(c)における処理画像を示す。
【
図8】試験例2で使用したマクロ(3)のステップ(d)における処理画像を示す。
【
図9】試験例2で使用したマクロ(3)のステップ(e)における処理画像を示す。
【
図10】本発明の濃縮装置の一実施形態の構成を示す概略図である。
【
図11】
図10に示された濃縮装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図13】A:試験例3の試験方法の概要を示す。B:レーザー照射により濃縮した場合の花粉管伸長を示す画像(左側:Laser irradiation (+))と、レーザー照射していない場合の花粉管伸長を示す画像(右側:Laser irradiation (-))を示す。画像中、アスタリスクは対象花粉(tdTomatoを発現する花粉)から伸びた花粉管の先端を示し、矢頭は非対象花粉から伸びた花粉管の先端を示す。画像は赤色蛍光画像と明視野画像の合成画像である。スケールバーは400μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
1.対象細胞の濃縮方法
本発明は、その一態様において、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させることを含む、対象細胞の濃縮方法(本明細書において、「本発明の濃縮方法」と示すこともある。)、に関する。以下にこれについて説明する。
【0026】
細胞集団を構成する細胞は特に制限されず、真核細胞、原核細胞等を包含し、また動物細胞、植物細胞等を包含する。細胞集団を構成する細胞としては、植物細胞が好ましい。植物細胞は、既存の細胞濃縮方法の適用についての問題点が顕著であり、本発明の濃縮方法に特に適している。
【0027】
植物細胞の由来する植物は、特に制限されない。植物としては、例えばコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物のモクレン類、単子葉類、真正双子葉類(バラ類I、バラ類II、キク類I、キク類II及びそれらの外群)を含む広い範囲の植物を挙げることができる。これらの中でも、裸子植物、被子植物等が好ましい。植物のより具体的な例としては、トマト、ピーマン、トウガラシ、ナス、タバコ等のナス類; キュウリ、カボチャ、スイカ等のウリ類; キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、シロイヌナズナ等の菜類; セルリー、パセリー、レタス等の生菜・香辛菜類; ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類; ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ、リョクトウ、ササゲ、ソラマメ等の豆類; イチゴ、メロン等のその他果菜類; ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類; サトイモ、キャッサバ、ジャガイモ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類; イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ライムギ、ミナトカモジグサ、ソバ等の穀類; アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類; トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花卉類; ベントグラス、コウライシバ等の芝類; ナタネ、ラッカセイ、セイヨウアブラナ、ナンヨウアブラギリ等の油料作物類; ワタ、イグサ等の繊維料作物類; クローバー、デントコーン、タルウマゴヤシ等の飼料作物類; リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ、キウイフルーツ等の落葉性果樹類; ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類; サツキ、ツツジ、スギ、ポプラ、パラゴムノキ、イチョウ、マツ等の木本類等が挙げられる。
【0028】
植物細胞の具体例としては、花粉、葉細胞、茎細胞、根細胞、芽細胞、花細胞、またはプロトプラスト等が挙げられる。これらの中でも、花粉が特に好ましい。
【0029】
細胞集団を構成する細胞は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0030】
本発明の濃縮方法に供される細胞集団の状態は特に制限されず、例えば、培養容器中で培養されている細胞集団、又は生体内に存在する細胞集団(例えば生体内の組織)であることができる。本発明の好ましい一態様において、細胞集団は、培養容器中で培養されている細胞集団であることができる。細胞集団は、例えば、3次元構造体を実質的に構成していない細胞集団、又は3次元構造体である細胞集団であることができる。細胞集団は、レーザー照射による濃縮の容易性等の観点から、3次元構造体を実質的に構成していない細胞集団であることが好ましい。なお、細胞の密度が高くなることに伴い、細胞が一部重なっている状態は、3次元構造体を実質的に構成していない。3次元構造体を実質的に構成していない細胞集団の典型例としては、細胞懸濁培地を培養容器に添加し、静置することにより、細胞が平面上に広がった状態又は細胞が浮遊した状態で培養された細胞集団が挙げられる。
【0031】
培養容器の材質は特に制限されず、ガラス、各種プラスチック等を採用可能である。レーザー照射による変更を抑制するという観点から、培養容器の培養表面の材質はガラスであることが好ましい。
【0032】
培養は、液体培養であることが好ましい。液体培地の方が、細胞集団の細胞を分散させやすく、レーザー処理処理による細胞濃縮に適している。
【0033】
対象細胞は、細胞集団に含まれる、濃縮対象の細胞であり、その限りにおいて特に制限されない。一方、非対象細胞は、細胞集団に含まれる、対象細胞以外の細胞であり、その限りにおいて特に制限されない。対象細胞と非対象細胞とは、識別可能である相違点を有する。当該相違点としては、色(蛍光色も含む)、形態、大きさ等が挙げられる。
【0034】
本発明の好ましい態様においては、対象細胞が対象物導入細胞であり、且つ非対象細胞が対象物非導入細胞である。
【0035】
対象物は、ある特定の物質であり、その限りにおいて特に制限されない。対象物としては、例えば核酸、タンパク質、ペプチド、色素、脂質、低分子化合物、高分子化合物等が挙げられる。これらの中でも、核酸が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい態様においては、対象細胞が対象核酸酸導入細胞であり、且つ非対象細胞が対象核酸非導入細胞である。
【0036】
対象核酸は、ある特定の塩基配列を含む核酸であって、通常、細胞に目的の形質を付与するものである。対象核酸は、DNA、RNA、人工核酸等を包含し、また1本鎖核酸、2本鎖核酸等を包含し、また線状核酸、環状核酸等を包含する。
【0037】
対象核酸としては、例えば、標的特異的ヌクレアーゼ発現カセット、ガイドRNA発現カセット、レポーター発現カセット等が挙げられる。
【0038】
標的特異的ヌクレアーゼは、ゲノムDNA上の特定部位を特異的に切断して、変異を誘導できるヌクレアーゼである限り特に制限されない。標的特異的ヌクレアーゼとしては、例えばCasタンパク質、TALENタンパク質、ZFNタンパク質などが挙げられる。
【0039】
標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットは、ゲノム編集方法の対象物の細胞内で標的特異的ヌクレアーゼを発現可能なDNAである限り特に制限されない。標的特異的ヌクレアーゼ発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された標的特異的ヌクレアーゼコード配列を含むDNAが挙げられる。具体的な配置の態様としては、例えばプロモーターの3’側直下に標的特異的ヌクレアーゼコード配列が配置されている態様(例えば、プロモーター3’末端の塩基から標的特異的ヌクレアーゼコード配列の5’末端の塩基までの間の塩基数が、100以下、好ましくは50以下である態様)が挙げられる。
【0040】
ガイドRNA発現カセットは、ゲノム編集方法の対象物内でガイドRNAを発現させる目的で用いられるポリヌクレオチドである限り特に制限されない。該発現カセットの典型例としては、プロモーター、及び該プロモーターの制御下に配置されたガイドRNA全体又は一部のコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0041】
レポーター発現カセットは、ゲノム編集方法の対象物内でレポーターを発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。該発現カセットの典型例としては、プロモーター、及び該プロモーターの制御下に配置されたレポーターコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0042】
レポーターとしては、特に制限されず、例えば特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質等が挙げられる。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、Clover、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、Orange、Apple、KusabiraOrange、Tomato、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、JRed、KillerRed、Cherry、HcRed、Plum等が挙げられる。また、レポーターには、発光(発色)タンパク質や蛍光タンパク質と、他のタンパク質との融合タンパク質や、発光(発色)タンパク質や蛍光タンパク質に公知のタンパク質タグ、公知のシグナル配列等が付加されてなるタンパク質も包含される。
【0043】
対象核酸は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
本発明の好ましい態様においては、細胞集団は、核酸導入に供された細胞集団である。核酸導入に供された結果、対象核酸が導入された細胞と、対象核酸が導入されなかった細胞が生じる。このため、核酸導入に供された細胞集団は、対象核酸導入細胞と対象核酸非導入細胞を含む。
【0045】
核酸導入の方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができる。導入方法としては、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストラン処理、リポフェクション、ナノ粒子媒介性トランスフェクション、ウイルス媒介性核酸送達等が挙げられる。また、植物が対象の場合であれば、導入方法としては、例えばパーティクルボンバードメント法; フローラル・ディップ法、フローラル・スプレー法等のアグロバクテリウム法; パーティクル・ガン法; ウイルス媒介性核酸送達等が挙げられる。導入方法としては、好ましくはパーティクルボンバードメント法が挙げられる。植物細胞(特に花粉)は、既存の細胞濃縮方法の適用についての問題点が顕著であるところ、パーティクルボンバードメント法は植物細胞への遺伝子導入(特に、ゲノム編集を目的とした遺伝子導入)に適しており、このため本発明の濃縮方法が対象とする細胞集団としてもパーティクルボンバードメント法による核酸導入に供された細胞集団が特に好ましい。
【0046】
パーティクルボンバードメント法の態様は、特に制限されない。該方法は、典型的には、微粒子に導入物(核酸)をコーティングしたもの(コーティング粒子)を、高速で対象物(細胞)に射出する工程を含む。
【0047】
微粒子の素材は、特に制限されず、例えば金、タングステン、磁性粒子すなわち四酸化三鉄などの金属が挙げられる。これらの中でも、金が好ましい。
【0048】
微粒子の粒子径は、特に制限されない。該粒子径は、例えば50 nm~5μm、好ましくは100 nm~3μm、より好ましくは200 nm~1.5μm、さらに好ましくは400 nm~800 nmである。
【0049】
微粒子への導入物のコーティング方法は、特に制限されず、公知の方法に従った方法を採用することができる。例えば、微粒子と導入物を接触させることによりコーティングすることができる。この際に、プラスミドベクターの立体構造解消のためにプラスチャージの物質(例えば、スペルミジン等のポリアミン)や、導入物の微粒子への付着や微粒子の沈殿を促進する物質(例えば、塩化カルシウム等の塩)を添加することによって、より効率的にコーティングすることができる。得られたコーティング粒子は、対象物への導入に使用する。
【0050】
コーティング粒子の射出方法は特に制限されないが、通常、一定の圧力に設定されたガスにより射出する方法が採られる。
【0051】
ガスは、不活性ガスが好ましく用いられ、例えばヘリウムガスが採用される。
【0052】
ガス圧は、好ましくは30~2200 psi、より好ましくは450~1200 psiである。
【0053】
射出後は、対象物を一定時間培養することにより、対象物内で標的特異的ヌクレアーゼが発現し、ゲノム編集が起こる。培養時間は、例えば5~72時間、好ましくは8~48時間、より好ましくは10~24時間である。
【0054】
非対象細胞へのレーザー照射で使用するレーザーの種類は、非対象細胞を不活化させることができる限りにおいて特に制限されない。ここで、不活化とは、細胞の目的の機能が喪失した状態であり、例えば花粉の場合であれば、例えば花粉管伸長能であることができる。不活化は、細胞死又は細胞分裂停止であることができる。不活化は、レーザー照射直後に起こる場合のみならず、レーザー照射後一定時間内(例えば10分以内、30分以内、1時間以内、3時間以内、6時間以内)に起こる場合も包含する。レーザーとしては、例えば赤外線レーザー、可視光レーザー、紫外線レーザー等が挙げられ、これらの中でも、不活化の効率性等の観点から赤外線レーザーが好ましい。また、レーザーは、例えばCO2レーザー、YAGレーザー、YVOレーザー、ファイバーレーザー、グリーンレーザー、UVレーザー、DUVレーザー、青色ダイオードレーザー、Dyeレーザー等であることができる。
【0055】
レーザーのスポット径は、非対象細胞にのみ照射可能な程度の径である限り特に制限されず、細胞集団の密度等に応じてその上限は異なり得る。当該スポット径は、例えば100μm以下、好ましくは70μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下、よりさらに好ましくは35μm以下、とりわけ好ましくは30μm以下である。
【0056】
レーザーの処理出力、露光時間は、レーザーの種類等に応じて、適宜設定することができる。これらの条件は、光ピンセット効果による細胞の位置ずれ、細胞培養底面の変形等を防ぎつつ、非対象細胞を不活化できる程度の条件とすることが好ましい。赤外線レーザーの場合であれば、レーザーの処理出力が例えば250~450mW(好ましくは270~400mW、より好ましくは280~350mW)、1細胞当たりの露光時間が例えば3~20ミリ秒(好ましくは5~15ミリ秒、より好ましくは8~12ミリ秒)であることができる。
【0057】
レーザー処理処理する非対象細胞は、細胞集団の対象細胞と非対象細胞とを識別することにより、決定される。このため、本発明の濃縮方法は、その一態様において、細胞集団の対象細胞と非対象細胞とを識別し、レーザー照射対象である非対象細胞を決定することを含むことができる。
【0058】
識別の指標は特に制限されず、例えば色(蛍光色も含む)、形態、大きさ等、好ましくは色、形態等であることができる。識別の簡便性、正確性等の観点から、識別の指標は色、好ましくは対象核酸由来のレポーター由来の色(例えば蛍光色)であることが好ましい。例えば、レポーター由来の色を発する細胞は対象細胞であり、レポーター由来の色を発しない細胞は非対象細胞であると判定することができる。当該判定においては、バックグラウンドを考慮して、適宜閾値を決定し、それに基づいて、レポーター由来の色を発するか否かを判定することができる。
【0059】
レーザー処理処理する非対象細胞は、通常、生細胞である。生細胞は、例えば色(蛍光色も含む)、形態、大きさ等を指標として識別することができる。識別の簡便性、正確性等の観点から、識別の指標は、生細胞又は死細胞染色に基づく色であることが好ましい。染色の方法としては、特に制限されないが、例えばFCR法(Fluorochromatic reaction)が挙げられる。
【0060】
レーザー処理処理する非対象細胞は、細胞集団中の全ての非対象細胞であることが理想的である。ただ、細胞密度が比較的高く、対象細胞と非対象細胞とが近接している場合については、対象細胞と近接している(例えば、対象細胞の中心から半径10~100μm(好ましくは20~50μm、より好ましくは25~40μm)の円の内側に一部又は全部が含まれる)非対象細胞にはレーザー照射しないことが好ましい。これにより、非対象細胞へのレーザー照射により近接する対象細胞も不活化してしまうことを防ぐことができる。
【0061】
レーザー処理する非対象細胞の数は、細胞集団中の非対象細胞の数100%に対して、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上、とりわけ好ましくは95%以上、とりわけより好ましくは98%以上である。
【0062】
レーザー照射対象である非対象細胞の決定は、画像解析により行うことができる。具体的には、例えば、細胞集団の一部又は全部の撮影像(可視光像、蛍光像)を取得し、得られた撮影像中の細胞像を画像処理して、対象細胞、非対象細胞、生細胞、対象細胞に近接する非対象細胞等を判定し、当該判定結果に基づいてレーザー照射対象である非対象細胞を決定することができる。レーザー照射対象である非対象細胞の位置情報を保存しておき、レーザー照射時にその位置情報を呼び出すことが好ましい。
【0063】
レーザー照射対象である非対象細胞を含む細胞集団の密度は、対象細胞と非対象細胞とが近接して対象細胞も不活化してしまうことを防ぐために、一定以下の密度であることが好ましい。一方で、レーザー照射効率の観点からは、一定以上の密度であることが好ましい。培養面積に対する生細胞集団の密度は、例えば10~50個/mm2、好ましくは20~35個/mm2である。また、当該密度は、より好ましくは24個/mm2以下である。ただしこの細胞密度は細胞自体の体積も考慮する必要がある。
【0064】
レーザー照射は、レーザー照射対象である非対象細胞1つずつに対して順次行う。レーザー照射と、レーザー照射対象である非対象細胞の決定とは、交互に行うこともできるが、効率性の観点からは、レーザー照射対象である全ての非対象細胞を決定してから、レーザー照射を行うことが好ましい。レーザー照射の焦点を各非対象細胞に合わせる手段としては、細胞集団(の培養容器)が保持されている部材(例えば、顕微鏡のステージ)を移動させることが好ましい。
【0065】
レーザー照射対象である非対象細胞の決定、及び非対象細胞へのレーザー照射は、顕微鏡(例えば蛍光顕微鏡等)にレーザー照射装置が接続されてなる装置を利用して実行することができる。このような装置としては、例えばIR-LEGOシステム(シグマ光機製)や、それと同様のシステムを有する他のシステムが挙げられる。装置は、本発明の濃縮方法を実行するために、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射する、処理部を備える、ことが好ましい。
【0066】
レーザー照射により非対象細胞が不活化(或いは細胞死)し、細胞集団における対象細胞の割合が高まる(すなわち対象細胞が濃縮される)。濃縮倍率(=[レーザー照射後の対象細胞の数/レーザー照射後の細胞集団の細胞の数]/[レーザー照射前の対象細胞の数/レーザー照射前の細胞集団の細胞の数])は、例えば2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上、よりさらに好ましくは6以上、とりわけ好ましくは7以上である。当該濃縮倍率の上限は特に制限されず、例えば1000、200、100、50、20、15、又は10である。
【0067】
2.対象細胞の濃縮装置
本発明は、その一態様において、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させる、処理部を備える、対象細胞の濃縮装置(本明細書において、「本発明の濃縮装置」と示すこともある。)に関する。以下に、本発明の濃縮装置について添付の図面を参照しながら説明するが、本発明の濃縮装置は、かかる実施形態のみに限定されるものではない。なお、本発明の濃縮方法について既に説明されている用語については、説明を省略するが、本発明の濃縮方法における各用語についての説明は、本発明の濃縮装置にも援用される。
【0068】
<2-1.装置の構成>
本発明の濃縮装置は、上記処理部を含む限り特に制限されない。好ましい態様において、本発明の濃縮装置は、サンプルステージ(細胞集団(を含む容器)を保持する部材)を含む顕微鏡、撮像部、及びレーザー照射装置を備える。
図10に、該好ましい態様における本発明の濃縮装置の一実施形態の構成の概略図を示す。
【0069】
図10に示された濃縮装置1は、サンプルステージ(細胞集団(を含む容器)を保持する部材)を含む顕微鏡、撮像部、及びレーザー照射装置を備える装置2を含んでいる。撮像部は、サンプルステージ上の細胞集団を撮像する。対象細胞と非対象細胞とを識別するための撮影像(蛍光撮影像等)等の光学的情報は、前記処理部を含むコンピュータシステム3に送信される。
【0070】
顕微鏡としては、対象細胞と非対象細胞とを識別可能な程度の分解能及び/又は蛍光撮影像取得能等を有する限り特に制限されず、対象細胞と非対象細胞との相違点等に応じて、適切な顕微鏡を採用することができる。顕微鏡の具体例としては、実体顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザー走査顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、二光子励起顕微鏡等の光学顕微鏡; 透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡; 原子力間顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、走査型近接場光顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡; X線顕微鏡; 超音波顕微鏡; 等が挙げられる。
【0071】
撮像部は、顕微鏡の観察像を撮像できる箇所、例えば接眼レンズ部、写真直筒、Cマウント等に配置されている。撮像部としては、静止画又は動画を撮像可能なものである限り特に制限されず、例えばデジタルカメラ、アナログカメラ、デジタルビデオカメラ、アナログビデオカメラ等が挙げられる。
【0072】
レーザー照射装置は、レーザー、例えばCO2レーザー、YAGレーザー、YVOレーザー、ファイバーレーザー、グリーンレーザー、UVレーザー、IRレーザー、DUVレーザー、青色ダイオードレーザー、Dyeレーザー等のレーザーを照射可能な装置が挙げられる。
【0073】
図10に示された濃縮装置1は、装置2と直接又はネットワークを介して接続された、処理部を備えるコンピュータシステム3を含んでいる。
【0074】
処理部は、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射する。具体的には、処理部は、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の各非対象細胞にレーザー焦点を合わせるようにサンプルステージ又はレーザー照射部を移動させ、非対象細胞にレーザー照射する、プログラムを実行する。
【0075】
好ましくは、処理部は、細胞集団の対象細胞と非対象細胞とを識別し、レーザー照射対象である非対象細胞を決定する。この場合、具体的には、処理部は、細胞集団の撮影像から、識別指標に基づいて、レーザー照射対象である非対象細胞を決定する。
【0076】
コンピュータシステム3は、コンピュータ本体3aと、入力デバイス3bと、検体情報、結果などを表示する表示部3cとを含む。コンピュータシステム3は、装置2から、細胞集団の撮影像等の光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム3のプロセッサは、前記撮影像に基づいて、各非対象細胞にレーザー焦点を合わせるようにサンプルステージ又はレーザー照射部を移動させ、非対象細胞にレーザー照射する、プログラムを実行する。
【0077】
図11は、
図10に示された濃縮装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0078】
図11に示されるように、コンピュータ本体3aは、処理部(CPU(Central Processing Unit))30と、ROM(Read Only Memory)31と、RAM(Random Access Memory)32と、ハードディスク33と、入出力インターフェイス34と、読出装置35と、通信インターフェイス36と、画像出力インターフェイス37とを備えている。処理部(CPU)30、ROM31、RAM32、ハードディスク33、入出力インターフェイス34、読出装置35、通信インターフェイス36及び画像出力インターフェイス37は、バス38によってデータ通信可能に接続されている。
【0079】
処理部(CPU)30は、ROM31に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM32にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。
【0080】
ROM31は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM31には、処理部(CPU)30によって実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
【0081】
RAM32は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM32は、ROM31及びハードディスク33に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。RAM32はまた、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、処理部(CPU)30の作業領域として利用される。
【0082】
ハードディスク33は、処理部(CPU)30に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射するためのコンピュータプログラム、細胞集団の対象細胞と非対象細胞とを識別し、レーザー照射対象である非対象細胞を決定するためのコンピュータプログラム等)などのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0083】
読出装置35は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブなどによって構成されている。読出装置35は、可搬型記録媒体40に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。
【0084】
入出力インターフェイス34は、例えば、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス34には、キーボード、マウスなどの入力デバイス3bが接続されている。操作者は、当該入力デバイス3bを使用することにより、コンピュータ本体3aにデータを入力することが可能である。
【0085】
通信インターフェイス36は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。コンピュータシステム3は、通信インターフェイス36により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。
【0086】
画像出力インターフェイス37は、LCD、CRTなどで構成される表示部3cに接続されている。これにより、表示部3cは、処理部(CPU)30から与えられた画像データに応じた映像信号を出力することができる。表示部3cは、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0087】
<2-2.装置の動作>
次に
図12を用いて、本発明の濃縮装置の動作を説明する。本発明の濃縮装置の動作は、コンピュータシステム3の処理部(CPU)30が制御する。
【0088】
初めに、処理部30は、検査者が入力デバイス3bから行う、コンピュータ本体3aに対する、装置2によって生成された細胞集団の撮影像等の光学的情報の取得を開始するための入力を受け付ける(ステップS0)。
【0089】
続いて、処理部30は、装置2によって生成された撮影像等の光学的情報を取得する(ステップS1)。
【0090】
続いて、処理部30は、ステップS1で取得された細胞集団の撮影像から、識別指標に基づいて、レーザー照射対象である非対象細胞を決定する(ステップS2)。
【0091】
続いて、ステップS2で決定されたレーザー照射対象である非対象細胞に対して、レーザー照射を行う(ステップS3)。
【0092】
処理部30は、ステップS1~S2の情報を、画像出力インターフェイス37を介して、表示部3cから出力することができる。また、処理部30は、これらの情報を、記録媒体40等に記録してもよい。
【0093】
3.対象細胞を濃縮するためのコンピュータプログラム
本発明は、その一態様において、コンピュータに、対象細胞及び非対象細胞を含む細胞集団中の非対象細胞にレーザー照射して不活化させる処理を実行させる、対象細胞を濃縮するためのコンピュータプログラム、に関する。
【0094】
上記2.に記載の各ステップの説明は、ここに援用される。
【0095】
コンピュータプログラムは、記憶媒体記憶されていてもよい。すなわち、前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に記憶される。また前記コンピュータプログラムは、クラウドサーバ等のネットワークで接続可能な記憶媒体に記憶されていてもよい。コンピュータプログラムは、ダウンロード形式の、又は記憶媒体に記憶されたプログラム製品であってもよい。
【0096】
前記記憶媒体へのプログラムの記憶形式は、前記提示装置が前記プログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記憶は、不揮発性であることが好ましい。
【0097】
4.細胞集団及びその利用
本発明は、その一態様において、本発明の濃縮方法で得られた、細胞集団(本明細書において、「本発明の濃縮細胞集団」と示すこともある。)、に関する。
本発明の濃縮細胞集団は、本発明の濃縮方法に供した細胞集団に比べて、細胞集団における対象細胞の割合が高まっている(すなわち対象細胞が濃縮されている)。また、本発明の濃縮細胞集団においては、対象細胞の細胞機能がより損なわれずに保たれている。このため、本発明の濃縮細胞集団を、対象細胞の機能発現に利用することができる。
本発明の好ましい一態様において、本発明の濃縮細胞集団は、花粉細胞集団である。この場合、花粉の花粉管伸長機能を利用して、本発明の濃縮細胞集団を受粉させることにより、当該濃縮細胞集団から伸長した花粉管を含む植物体、さらには当該植物体から得られる種子を製造することができる。当該製造方法において、受粉させる方法、種子を取得する方法は、特に制限されず、公知の方法に従って又は準じて行うことができる。
【実施例0098】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0099】
試験例1.対象核酸の導入
ベンサミアナタバコ (Nicotiana benthamiana)の花粉に対して、蛍光タンパク質発現カセットをパーティクルボンバードメント法により導入した。具体的には以下のようにおこなった。
【0100】
pUC19(addgene ID: #50005)を改変して、植物細胞で蛍光タンパク質を発現するベクターを用意した。該プラスミドDNAは、核タンパク質の遺伝子を付加した蛍光タンパク質tdTomatoを含む。該プラスミドDNAを、特許文献1に記載の方法に準じて、ベンサミアナたばこの花粉に導入した。
【0101】
対象核酸が導入された花粉は、核がCy3波長で光るため、培養後に蛍光顕微鏡でtdTomatoの発現を観察した。蛍光が検出されたディッシュについて、以下試験例2をおこなった。
【0102】
試験例2.対象核酸導入細胞の濃縮
試験例1で得られた、対象核酸が導入された花粉を含む液体培地を、非極性物質であるFDA(Fluorescien diaceatte)で処理した。FDAは細胞に取り込まれるとエステラーゼにより花粉分解され、緑色蛍光を発する極性物質FRC(Fluorescein)に変化する。このため、FDAで処理された花粉の内、正常に機能している細胞(生細胞)のみが強い緑色蛍光を発することになる。
【0103】
FDAを終濃度が0.019μMになるように花粉を懸濁した液体培地に添加し、計150μLとなるように液体培地で調整した。この懸濁培地を35mmガラスボトムディッシュ(IWAKI社製 3910-035、中心の窪み直径27mm)の中心の窪みに移した(培養面積に対する生細胞集団の密度は24.0~26.3個/mm2)。葯のかけらや植物片等は観察に影響が出るので、混入しないようにした。続いて、窪みの上に、カバーガラスを載せた。ディッシュに蓋をして、乾燥防止のためにパラフィルムでシーリングした。
【0104】
作製した花粉入りディッシュを、倒立型顕微鏡(Nikon社製、Eclipse Ti-2)にセットした。当該顕微鏡には、レーザー照射装置(シグマ光機、IR-LEGO)が連結されている。また、倒立型顕微鏡及びレーザー照射装置は、それぞれを単独で又は連動して動作制御するための処理部に連結されている。
【0105】
図1~4に示されるマクロを使用して、ディッシュ上の一部の区域について、対象核酸非導入細胞にレーザー照射した(レーザー処理出力:330mW、露光時間:10ミリ秒)。
図1~4のマクロの説明を以下に示す。
・StageArea ... 長方形の左上と右下の点を指定することで、マクロの処理範囲を設定する。
・GeneratedPoints ... StageArea で指定した範囲を区切り、多点を割り当てる(一回ごとに観察できる範囲に分割する)。
・RegionList ... Stimulation(後述)で検出した処理すべき花粉を「RegionList」という名のデータリストとして保存する。
・AFset_image ... 画像撮影時に使用するオートフォーカスを設定する。
・Capturedef_image ... 画像撮影時にどの光の波長を使用するかを設定する。
・Alternative Strage Location ... 取得した画像を指定した場所に保存する。
・Live window ... 実際の処理の様子をライブで映すウィンドウをモニター上に呼び出す。
・POINT LOOP ... 枠内の処理をGeneratedPoints に登録された多点分、実行する。
・Autofocus ... AFset_image に基づいてオートフォーカスを実行する。
・Capture ... Capturedef_imag に基づいて画像を取得する。本実施例ではDIA、FITC、Cy3 の3 波長を用いる。
・REGION LOOP ... 枠内の処理をRegionList に登録された対象(=処理すべき花粉)に対して 対象の個数分実行する。
・Stimulation ... 取得した画像に対して二値化処理を行い、処理対象と判断された花粉を RegionList に登録する。
・Move to center of Regions,CurrentRegion ... 処理する花粉(RegionList 内に登録されている)が視野の中心へ来るよう、ステージを動かす。
・Shutter_open ... IR-LEGO のシャッターを開く。
・Wait ... シャッターを開けた状態を指定時間分キープする。
・Shutter_close ... IR-LEGO のシャッターを閉める。
・ClearPoints ... 今処理している点(=視野)でRegionList に登録された花粉の情報を削除する(∵次の点の花粉をRegionList に登録するため)。
【0106】
Stimulation内での処理の詳細(ステップ(a)~(e))について以下に示す。
・ステップ(a):FITC波長で光る(=生きている)花粉1 つ1 つを認識、赤色でマークする(
図5参照)。FITC の閾値 ... 9600~65535、サイズ制限 ... 12μm ~
・ステップ(b):Cy3波長で光る核(対象核酸が導入された花粉の核)を認識、黄緑色でマークする(
図6参照)。Cy3 の閾値 ... 65535(=最大値)サイズ制限 ... 4~20μm 真円度による制限 ... 0.2~1
・ステップ(c):Cy3 発光核から半径約30μm を指定、藍色でマーク(
図7参照)。この範囲のFITC は処理しない。
・ステップ(d):ステップ(c)でマークされた範囲に入っているFITC を認識、淡い緑でマーク(これらの花粉にはレーザーを照射しない) (
図8参照)。
・ステップ(e):ステップ(d)でマークされた細胞以外のFITC を処理すべき花粉として認識、黄色でマーク(
図9参照)。Stimulation以降のマクロで、黄色マークの細胞のみを自動で検出、識別、レーザー照射した。
【0107】
レーザー照射処理前とレーザー照射処理後それぞれについて、FRC由来の蛍光(FITC波長による蛍光)と対象遺伝子由来の蛍光(Cy3波長による蛍光)を指標として、生存花粉数と、生存している対象核酸導入花粉数とを計測した。結果を表1に示す。レーザー照射による濃縮倍率は約8.3倍であった。
【0108】
【0109】
試験例3.対象核酸導入細胞の濃縮及び受粉
試験の概要を
図13Aに示す。以下に記載の条件以外については、試験例2と同様にして行った。
レーザー照射には、N. benthamiana野生型花粉と遺伝子組み換えAtUBQ10p::tdTomato花粉の1:1混合物を用いた。レーザー照射ごとに葯の半分を使用し、その後、雌しべに受粉させた。N. benthamianaの雌しべはセミインビボアッセイには細すぎるため、代わりにN. tabacumの雌しべを受粉に使用した。受粉を妨げる可能性があるため、FDA 蛍光色素は使用せず、花粉の形態、すなわち明視野下の花粉形状と CFP バンドパスフィルター (Nikon) 下の花粉自発蛍光を花粉粒の指標として用いた。N. benthamianaの花粉は、塵などの夾雑物とは異なり、強い青色の自家蛍光を示すため、花粉の形状を容易に検出することができる。tdTomato を発現している花粉を対象花粉とし、レーザー照射から除外した。野生型花粉の破壊には、焦点面におけるレーザー出力 145mW、照射時間 10ms を用いた。赤外レーザー照射後、破壊された花粉バルク集団をフィルターを通して回収し、あらかじめ除雄したN. tabacumの雌しべに受粉させた。その後、受粉した花柱をカミソリで切除し、1% (w/v) NuSieve GTG Agarose (Lonza, Switzerland) で固めた花粉発芽培地に水平に置き、続いて湿度および暗条件下で25~30℃、18~24時間培養した。雌しべの切断端から出た花粉管は倒立蛍光顕微鏡(Eclipse Ti2-E; Nikon)で観察した。
結果を
図13B及び表2に示す。本試験により、花粉管が雌しべの切断端から出現していることが確認された。受粉後、それぞれの雌しべにおける出現した花粉管の数を計測した(
図13Bおよび表2)。照射(+)と非照射(-)の花粉受粉では、tdTomatoを発現する花粉管の割合に明確な差が見られた(
図13B)。非照射の雌しべ#C1の場合、野生型花粉管36本とtdTomatoを発現する花粉管21本の合計57本の花粉管が観察された(表2)。tdTomato-発現花粉管の比率は36.8%であった。照射した雌しべ#IR1においては、野生型花粉管17本、tdTomato発現花粉管35本の合計52本の花粉管が出現した。したがって、tdTomatoを発現している花粉管の割合は67.3%であった(表2)。レーザー照射した3本の雌しべのtdTomato発現花粉管の割合は平均72.8±7.7%であり、対照実験#C1の約2倍以上であった(表2)。また、レーザー照射したバルク花粉の方がtdTomatoを発現する花粉管の割合が高く、非対象花粉の破壊が効果的であることが示唆された。これらの結果は、非対象花粉の細胞破壊により、in vitro および in vivo で選択的に対象花粉を発芽させることができることを示す。
【0110】