(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120207
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】セメントキルン抽気ダストの水洗処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/77 20060101AFI20230822BHJP
C04B 7/60 20060101ALI20230822BHJP
B01D 53/48 20060101ALI20230822BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20230822BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20230822BHJP
B01D 53/76 20060101ALI20230822BHJP
B01D 53/44 20060101ALI20230822BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20230822BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230822BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B01D53/77
C04B7/60 ZAB
B01D53/48
B01D53/68 100
B01D53/64
B01D53/76
B01D53/44 120
B01D53/68 120
B09B3/80
B09B5/00 N
F27D17/00 105K
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085734
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2019047359の分割
【原出願日】2019-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】池田 寛史
(72)【発明者】
【氏名】中田 英喜
(57)【要約】
【課題】セメントキルン抽気ダストの水洗処理で発生する排水における六価セレンの溶出率を低減させ、且つ溶出率の変動が少ない効率的な水洗処理方法を提供すること。
【解決手段】セメントキルン抽気ダストの水洗処理において、セメントキルンから抽気した排ガスに同伴してセメントキルン内から取り出されたセメントキルン抽気ダストのうち、遊離石灰量が28質量%以下であるセメントキルン抽気ダストのみを選別して水洗する。前記セメントキルン抽気ダストの遊離石灰量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I-01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して測定された値である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンから抽気した排ガスに同伴してセメントキルン内から取り出されたセメントキルン抽気ダストのうち、遊離石灰量が28質量%以下であるセメントキルン抽気ダストのみを選別して水洗する、セメントキルン抽気ダストの水洗処理方法であって、
前記セメントキルン抽気ダストの遊離石灰量が、セメント協会標準試験方法のJCAS I-01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して測定された値である、セメントキルン抽気ダストの水洗処理方法。
【請求項2】
前記セメントキルン抽気ダストの遊離石灰量が28質量%を超える場合に、抽気率を上げる工程を含む、請求項1に記載のセメントキルン抽気ダストの水洗処理方法。
【請求項3】
前記抽気率を上げる工程において、抽気率を6.9~7.6%とする、請求項1又は2に記載のセメントキルン抽気ダストの水洗処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルン抽気ダストの水洗処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカー原料中の塩素、アルカリ、硫黄の量が多くなると、これらがセメントキルン内の比較的温度の低い部分で凝縮してコーティングを形成するため、製造上のトラブルの原因となる。これを避けるために、セメントキルンの窯尻部分から排ガスの一部を抽気して、セメントキルン内を循環する塩素、アルカリ、硫黄の量を低減することが行われる。抽気においては、塩素、アルカリ、硫黄の含有量が多い抽気ダストが必然的に同伴するため、これを減容するために水洗処理が行われている。
【0003】
しかし、このような抽気ダストには、有害物質、特にセレンが含まれており、水洗処理の排水に溶出したセレンを除去する必要がある。通常は、凝集沈殿法や酸化還元法などの一般的な重金属処理法が適用されているが、六価セレン(セレン酸)は反応性が低く処理が難しい。そのため、排水に溶出した全セレンに占める六価セレンの割合が変動すると、処理後の排水中のセレン濃度も変動することになる。したがって、処理後の排水中のセレン濃度を安定して一定の濃度以下とするためには薬剤の所要量を増加させる必要があり、処理コストが増大するという問題を抱えている。
【0004】
抽気ダストの水洗処理において、セレンを安定に処理する技術としては、水洗処理時に所定の酸化還元電位になるよう鉄化合物を添加する方法が知られている(特許文献1)。また、処理水をイオン交換樹脂に供給してセレンを回収除去する方法(特許文献2)、希土類化合物を含む吸着剤と接触させる方法(特許文献3)、硫化物とバリウム塩を添加してセレンを不溶化する方法(特許文献4)、水洗処理の排水に曝気処理を行う方法(特許文献5)が知られている。その他、水洗前の処理技術として、特許文献6には抽気ダストを予めマイクロ波等で加熱して、セレンを不溶化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-136873号公報
【特許文献2】特開2011-189300号公報
【特許文献3】特開2013-150963号公報
【特許文献4】特開2014-161802号公報
【特許文献5】特開2014-171923号公報
【特許文献6】特開2015-147191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの技術はほとんどが水洗処理で発生した排水の処理技術であり、抽気ダストの水洗処理時の六価セレンの溶出を低減するものではない。したがって、抽気ダストのロットによって溶出セレン中の六価セレンの比率が予期せず変動すると、処理コストが増加するという問題を解決できない。さらに、特許文献6の方法では、水洗処理前のセレンを不溶化できたとしても、加熱処理設備を新設する必要があり、安価な処理に繋がるものではない。
このように、特殊な設備を設けることなく、抽気ダストの水洗処理で発生する排水における、溶出した全セレンに占める六価セレンの割合(以下、「六価セレンの溶出率」という場合がある。)を低減し、それによって排水中のセレン濃度の変動を抑制する方法は、これまでに見出されていなかった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、セメントキルン抽気ダストの水洗処理で発生する排水における六価セレンの溶出率を低減させ、且つ溶出率の変動が少ない効率的な水洗処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、セメントキルン抽気ダストの水洗処理で発生する排水に溶出する全セレンにおける四価セレン(亜セレン酸)と六価セレン(セレン酸)の比率は、共存成分の含有量の影響を強く受けることを見出した。特に、共存成分として含まれる遊離石灰の含有量の影響が最も支配的であることを見出し、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、セメントキルン抽気ダストの水洗処理において、遊離石灰量が30質量%未満であるセメントキルン抽気ダストのみを水洗処理する、セメントキルン抽気ダストの水洗処理方法である。
【0010】
また、本発明は、遊離石灰量が30質量%未満であるセメントキルン抽気ダストを選別する工程、及び/又はセメントキルン抽気ダストの遊離石灰量が30質量%未満となる条件で抽気する工程を含む上記セメントキルン抽気ダストの水洗処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水洗処理方法によれば、セメントキルン抽気ダストを、遊離石灰量を測定して選別するという簡便な操作で、水洗処理で発生する排水における六価セレンの溶出率を効果的に低減でき、且つ溶出率の変動も少なくすることができる。これにより、セメントキルン抽気ダストの水洗処理におけるコストの削減に繋げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明のセメントキルン抽気ダストの水洗処理方法は、セメントキルン抽気ダストのうち、遊離石灰量が30質量%未満の抽気ダストのみを水洗処理することを特徴とする。
【0013】
セメントキルン抽気ダストとは、セメントキルンで発生する排ガスの一部を窯尻部分から抽気して、セメントキルン内を循環する塩素、アルカリ、硫黄の量を低減する工程で、抽気した排ガスを冷却する際に発生する、抽気ガスに同伴してセメントキルン内から取り出されたダスト(粉状物)のことである。
【0014】
セメントキルンから抽気した排ガス中には、塩素、アルカリ、硫黄のほかに、セレン、鉛等の重金属類もガス状になって含まれ、また、遊離石灰の含有量が高い仮焼原料が微粒子として含まれる。そのため、セメントキルン抽気ダスト中には、揮発成分である塩素、アルカリ、硫黄、重金属類と、仮焼原料由来の遊離石灰やその他成分が共存する。この共存割合は、使用原料が一定であれば、セメントキルンのガスの流れに応じて、抽気する部位や抽気量によって変化する。
【0015】
本発明では、遊離石灰量が30質量%未満のセメントキルン抽気ダストのみを選別して水洗処理することが肝要であり、これにより、六価セレンの溶出を効果的に低減できる。ここで、セメントキルン抽気ダストの遊離石灰量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I-01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して測定できる。遊離石灰量が30質量%以上になると、六価セレンの溶出率が急増するため好ましくない。30質量%未満であれば、実用上問題の無いレベルまで六価セレンの溶出率を低減できるため、セメントキルン抽気ダスト中の遊離石灰量の境界値は、0~30質量%の範囲で設定しても構わない。遊離石灰量は0~29質量%であることが好ましく、0~28質量%であることが更に好ましい。
【0016】
セメントキルン抽気ダスト中の遊離石灰量を30質量%未満とすることで、六価セレンの溶出率を低減できる理由は明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
(1)抽気ダストに存在する可溶性のセレンとして、SeO2(四価)、SeO3(六価)、SeCl4(四価)、Na2SeO3(四価)、Na2SeO4(六価)、K2SeO3(四価)、K2SeO4(六価)、CaSeO3(四価)、CaSeO4(六価)が考えられ、これらは注水時に速やかに溶解して電離する。
(2)酸化還元状態図を考慮すると、四価の陰イオン(SeO3-、HSeO3
2-)と六価の陰イオン(SeO4
2-)が共存する場合、平衡論的には液相のpHが高いほど六価セレンが安定となりやすい。このため、遊離石灰が多い系ではpHが高くなり、六価セレンの比率が増すものと考えられる。
(3)上記において、セメントキルン抽気ダストに遊離石灰が少量でも含まれていると、液中の水酸化カルシウム濃度は飽和となりやすい。そのため、遊離石灰量が30質量%未満の場合と、30質量%以上の場合とで、液相のpHに顕著な差があるわけではない。しかし、注水時のセレン化合物の溶解および電離は極めて短時間で進むため、遊離石灰量が多いほど、セレンの陰イオン近傍のpHが高い状態となりやすく、このために六価セレンが生じやすいものと推察される。
(4)一方、注水時に生じた陰イオンの一部は、固体粒子の表面に吸着するが、この固体粒子の表面積や組成も遊離石灰量により変化すると考えられる。具体的には、遊離石灰量が多いほど、水酸化カルシウムや硫酸カルシウム(石膏)が析出し、仮焼原料の一部も反応することで、表面積が増加する。これは、六価セレンの液相濃度を抑制する方向に働くものと推察される。
(5)以上のとおり、遊離石灰の作用には、六価セレンの溶出を促す作用(3)と液相濃度を抑制する作用(4)とがあり、おそらく後者は遊離石灰量が一定量を超えると頭打ちになる。これによって、遊離石灰量が30質量%を境界として、六価セレンの溶出率が急増する現象が生じるものと推察される。
【0017】
本発明においては、回収したセメントキルン抽気ダストの遊離石灰量を上述の方法で測定し、含有量が30質量%未満のものを選別して水洗処理するが、セメントキルン抽気ダストの遊離石灰量が30質量%未満となるよう抽気条件を調整しておくことが好ましい。これにより、回収したセメントキルン抽気ダストのうち、六価セレンの溶出が少なく低コストで水洗処理できるものの割合を増やすことができる。
【0018】
具体的な抽気条件としては、抽気する部位(一般的には、サスペンションプレヒーター部からロータリーキルン入口までのいずれかの場所)や抽気率(単位時間に流れるキルン排ガス容量に対する、単位時間に抽気される抽気ガス容量の割合)の調整が挙げられるが、抽気率の調整の方が容易であるため好ましい。抽気率の適正値は、各セメントキルンによって異なり、また、使用原料によっても異なるが、一般的に、抽気率を増加させると遊離石灰量が低下する傾向にある。
【実施例0019】
以下に、本発明について実施例及び比較例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0020】
〔1.抽気ダストの採取とセレン溶出量の分析〕
2つのセメントキルン設備から合計20種のセメントキルン抽気ダストの試料を採取した。試料はいずれもロータリーキルン入口フッド部近傍から排ガスを抽気した際に同伴したセメントキルン抽気ダストである。各セメントキルン抽気ダストについて、遊離石灰量をセメント協会標準試験方法のJCAS I-01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して、また、セレン含有量をJIS R 5202「セメントの化学分析方法」に準拠して、それぞれ測定した。また、セレンの溶出量は、セメントキルン抽気ダスト140gと蒸留水1400gを2Lビーカーで30分混合し、5Cろ紙でろ過したろ液をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定することにより算出した。この際、四価セレンは共沈法により回収して定量し、全セレン量から四価セレン量を減ずることで六価セレン溶出量を算出した。この六価セレン溶出量をセレン含有量で除して、六価セレン溶出率(%)を求めた。各試料の遊離石灰量および六価セレン溶出率を表1に示す。
【0021】
【0022】
表1に示した結果から、セメントキルン抽気ダスト中の遊離石灰量が30質量%以上になると、六価セレン溶出率が急増することが分かる。また、遊離石灰量が30質量%未満の領域では六価セレン溶出率の変動が少ないことが分かる。これらのことから、セメントキルン抽気ダストを遊離石灰量によって選別し、遊離石灰量が少ないものについて水洗処理を行えば、六価セレンの溶出率が低く、その変動範囲も小さくなることがわかる。これにより、効率的に水洗処理を行うことが可能となり、処理コストの削減につなげることができる。
【0023】
次に、同じセメントキルン設備から採取した試料のうち、抽気率が異なるものを、上記表1の中から抜粋して表2に示す。
【0024】
【0025】
表2より、抽気率が高い条件ではセメントキルン抽気ダスト中の遊離石灰量が少なくなり、抽気率が低い条件ではセメントキルン抽気ダスト中の遊離石灰量が少なくなる傾向であることが分かる。すなわち、セメントキルン抽気ダストの遊離石灰量が30質量%未満となるよう抽気条件を調整することにより、回収したセメントキルン抽気ダストのうち、六価セレンの溶出が少なく低コストで水洗処理できるものの割合を増やすことができる。
【0026】
以上のとおり、本発明の水洗処理方法によれば、セメントキルン抽気ダストを、含有する遊離石灰量を測定して選別するという簡便な操作で、水洗処理で発生する排水における六価セレンの溶出率を効果的に低減できる。また、セメントキルン抽気ダスト中の遊離石灰量が30重量部未満となるよう抽気条件を調整することで、回収したセメントキルン抽気ダストのうち、六価セレンの溶出が少なく低コストで水洗処理できるものの割合を増やすことができる。これらにより、セメントキルン抽気ダストの処理コストの削減に繋げることができる。