(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012048
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】パターン形成方法および感光性ハードマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20230118BHJP
【FI】
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115453
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】中林 肇
(72)【発明者】
【氏名】山地 智仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 一希
(72)【発明者】
【氏名】浅子 竜一
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197CA10
2H197CE01
2H197CE10
2H197DB06
2H197GA01
2H197HA03
2H197JA12
2H197JA14
2H197JA17
2H197JA27
(57)【要約】
【課題】EUV露光を行う場合に短時間でパターン形成することができるパターン形成方法、および感光性ハードマスクを提供する。
【解決手段】パターン形成方法は、基板の表面に遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクを形成することと、感光性ハードマスクにEUV光を所望のパターンで露光することと、露光の際の熱により露光領域に状態変化を生じさせることと、状態変化が生じた領域と、状態変化が生じていない領域のいずれか一方を選択的に除去することとを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクを形成することと、
前記感光性ハードマスクにEUV光を所望のパターンで露光することと、
露光の際の熱により露光領域に状態変化を生じさせることと、
前記状態変化が生じた領域と、前記状態変化が生じていない領域のいずれか一方を選択的に除去することと、
を有するパターン形成方法。
【請求項2】
前記状態変化は、相転移または組成変化である、請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記遷移金属酸化物膜を構成する遷移金属酸化物は、4価遷移金属酸化物である、請求項2に記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記4価遷移金属酸化物は、HfO2またはZrO2である、請求項3に記載のパターン形成方法。
【請求項5】
前記遷移金属酸化物膜がアモルファス相のHfO2膜であり、前記露光領域は結晶化温度以上に加熱されて結晶相に相転移する、請求項4に記載のパターン形成方法。
【請求項6】
前記遷移金属酸化物膜を構成する遷移金属酸化物は、低融点多価酸化物である、請求項2に記載のパターン形成方法。
【請求項7】
前記低融点多価酸化物は、WOx、MoOx、VOxのいずれかである、請求項6に記載のパターン形成方法。
【請求項8】
前記遷移金属酸化物膜がアモルファス相のMoOx膜または結晶相のMoOx膜であり、前記アモルファス相のMoOx膜の場合は、前記露光領域は結晶化温度以上に加熱されて結晶相に相転移し、前記結晶相のMoOx膜の場合は、前記露光領域は融点以上に加熱され急冷されることによりアモルファス相に相転移する、請求項7に記載のパターン形成方法。
【請求項9】
前記選択的に除去することは、ドライエッチングまたはウエットエッチングにより行う、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項10】
前記感光性ハードマスクを構成する前記遷移金属酸化物膜の厚さtは、露光されるEUV光の消衰長さをλとした場合に、λ≦t≦3λの範囲である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のパターン形成方法。
【請求項11】
加工対象膜およびハードマスクが形成された基板の表面に、遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクを形成することと、
前記感光性ハードマスクにEUV光を所望のパターンで露光することと、
露光の際の熱により露光領域に状態変化を生じさせることと、
前記状態変化が生じた領域と、前記状態変化が生じていない領域とのいずれか一方を選択的に除去して、前記感光性ハードマスクにパターンを形成することと、
前記感光性ハードマスクの前記パターンを前記ハードマスクに転写することと、
前記パターンが転写された前記ハードマスクをマスクとして前記加工対象膜をエッチングし、前記加工対象膜にパターンを形成することと、
を有するパターン形成方法。
【請求項12】
EUV光が所望のパターンで露光され、現像されることによりパターンが形成される感光性ハードマスクであって、
遷移金属酸化物膜からなり、EUV光が露光された際に、露光の際の熱により露光領域に状態変化が生じ、前記状態変化が生じた領域と、前記状態変化が生じていない領域のいずれか一方が選択的に除去されることにより前記パターンが形成される、感光性ハードマスク。
【請求項13】
前記状態変化は、相転移または組成変化である、請求項12に記載の感光性ハードマスク。
【請求項14】
前記遷移金属酸化物膜を構成する遷移金属酸化物は、4価遷移金属酸化物である、請求項13に記載の感光性ハードマスク。
【請求項15】
前記4価遷移金属酸化物は、HfO2またはZrO2である、請求項14に記載の感光性ハードマスク。
【請求項16】
前記遷移金属酸化物膜がアモルファス相のHfO2膜であり、前記露光領域は結晶化温度以上に加熱されて結晶相に相転移する、請求項15に記載の感光性ハードマスク。
【請求項17】
前記遷移金属酸化物膜を構成する遷移金属酸化物は、低融点多価酸化物である、請求項13に記載の感光性ハードマスク。
【請求項18】
前記低融点多価酸化物は、WOx、MoOx、VOxのいずれかである、請求項17に記載の感光性ハードマスク。
【請求項19】
前記遷移金属酸化物膜がアモルファス相のMoOx膜または結晶相のMoOx膜であり、前記アモルファス相のMoOx膜の場合は、前記露光領域は結晶化温度以上に加熱されて結晶相に相転移し、前記結晶相のMoOx膜の場合は、前記露光領域は融点以上に加熱され急冷されることによりアモルファス相に相転移する、請求項18に記載の感光性ハードマスク。
【請求項20】
前記感光性ハードマスクを構成する前記遷移金属酸化物膜の厚さtは、露光されるEUV光の消衰長さをλとした場合に、λ≦t≦3λの範囲である、請求項12から請求項19のいずれか一項に記載の感光性ハードマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パターン形成方法および感光性ハードマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化に対応した次世代露光技術として、13.5nmと非常に短い波長を用いるEUV(extreme ultraviolet)を用いるものが検討されている。EUV露光装置によるパターン形成においては、感光材料として化学増幅型レジストが用いられている。また、化学増幅型レジストのEUVに対する感度を上げ、露光時間を短縮するために種々の提案がなされている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、EUV露光を行う場合に短時間でパターン形成することができるパターン形成方法、および感光性ハードマスクを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るパターン形成方法は、基板の表面に遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクを形成することと、前記感光性ハードマスクにEUV光を所望のパターンで露光することと、露光の際の熱により露光領域に状態変化を生じさせることと、前記状態変化が生じた領域と、前記状態変化が生じていない領域のいずれか一方を選択的に除去することと、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、EUV露光を行う場合に短時間でパターン形成することができるパターン形成方法、および感光性ハードマスクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】感光性ハードマスクにパターンを形成するパターン形成方法を説明するためのプローチャートである。
【
図2】感光性ハードマスクにパターンを形成するパターン形成方法を示す工程断面図である。
【
図3】HfO
2およびZrO
2の光子エネルギーと消衰長さとの関係と、13.5nm光(91eV)の消衰長さを示す図である。
【
図4】感光性ハードマスクを構成する遷移金属酸化物膜の膜厚が露光に用いられるEUV光の消衰長さλよりも小さい場合の露光領域の状態を説明する断面図である。
【
図5】感光性ハードマスクを構成する遷移金属酸化物膜の膜厚が露光に用いられるEUV光の消衰長さλよりも大きすぎる場合の露光領域の状態を説明する断面図である。
【
図6】遷移金属酸化物膜がHfO
2膜の場合のネガ型パターニングの一例を説明するための図である。
【
図7】遷移金属酸化物がMoO
3(MoO
x)の場合のネガ型パターニングの一例を説明するための図である。
【
図8】遷移金属酸化物がMoO
3(MoO
x)の場合のポジ型パターニングの一例を説明するための図である。
【
図9】遷移金属酸化物がMoO
3(MoO
x)の場合のネガ型パターニングおよびポジ型パターニングにおける露光領域の温度変化と相転移の状態を模式的に示す図である。
【
図10】感光性ハードマスクを用いて加工対象膜にパターンを形成するパターン形成方法を説明するためのフローチャートである。
【
図11】感光性ハードマスクを用いて加工対象膜にパターンを形成するパターン形成方法を説明するための工程断面図である。
【
図12】従来の化学増幅型レジストを用いて加工対象膜にパターンを形成する場合を説明するための工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して実施形態について説明する。
【0009】
<感光性ハードマスクのパターン形成方法>
まず、感光性ハードマスクに対し、EUV露光および現像を行ってパターンを形成する方法について説明する。
図1は感光性ハードマスクにパターンを形成するパターン形成方法を説明するためのプローチャート、
図2はそのパターン形成方法を示す工程断面図である。
【0010】
まず、基板100の表面に遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスク101を形成する(ステップST1、
図2(a))。
【0011】
遷移金属酸化物としては、例えば、HfO2やZrO2のような4価遷移金属酸化物や、WOx、MoOx、VOxのような低融点多価酸化物を挙げることができる。感光性ハードマスク101は、例えば、スパッタリングのような物理蒸着(PVD)や、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)のような薄膜形成技術により形成することができる。感光性ハードマスク101を構成する遷移金属酸化物としては、EUV光が照射されることにより状態変化が生じるものが用いられる。状態変化としては、相転移(相変化)や組成変化を挙げることができる。
【0012】
次に、遷移金属酸化物膜である感光性ハードマスク101にEUV光102を所望のパターンで露光し、露光領域103を形成する(ステップST2、
図2(b))。この際の露光はマスクを介して行われる。
【0013】
次に、露光による熱により露光領域103に状態変化を生じさせ、露光領域103を状態変化領域104とする(ステップST3、
図2(c))。この状態変化は、EUV光102のエネルギーが熱となって露光領域103が加熱されることによってなされる。これにより露光パターンが形成される。なお、露光領域103の外側には熱伝導により熱拡散領域103aが形成されるが、この部分は状態変化温度以下として状態変化を生じないようにすることができる。
【0014】
次に、感光性ハードマスク101において、状態変化領域104と、露光されておらず状態が変化していない非状態変化領域105のいずれか一方を選択的に除去する(ステップST4、
図2(d))。この工程では、状態変化領域104と非状態変化領域105との除去特性の違いにより選択的除去が実現される。これにより露光パターンが現像され、感光性ハードマスクにパターンが形成される。なお、
図2(d)の例では、状態変化領域104を除去して除去領域106を形成するポジ型の例を示しているが、非状態変化領域105を除去するネガ型であってもよい。状態変化領域104または非状態変化領域105の除去は、例えば、ドライエッチングまたはウエットエッチングにより行うことができる。
【0015】
従来の化学増幅型レジストを用いた感光プロセスでは、EUV光を露光した際に、高エネルギーの光子がレジスト中に入射され、励起により発生した電子が光酸発生材(PAG;Photo Acid Generator)を活性化させることによりプロセスが進行する。このとき電子の発生数は少なく、感光材料の感度が低いため、露光時間が長くなり、スループットが低いという課題がある。この課題を克服するために、化学増幅型レジストのEUVに対する感度を上げ、露光時間を短縮する種々の提案がなされている。例えば、化学増幅型レジストにEUV光の吸収が大きい金属元素をドープすることにより、光子による励起で発生する電子数を増倍させる等の感度の改善を図る技術が広く試行されている。しかし、これらの効果も限定的であり、根本的に露光時間を短くできる感光性材料が求められている。
【0016】
そこで、本実施形態では、無機材料である遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクを用い、従来のような化学反応による感光プロセスではなく、上述したような、EUV光を露光した際に発生する熱による状態変化を利用した感光プロセスを行う。
【0017】
EUV光は電磁波の中でX線に近い波長を持ち、露光に使用される波長13.5nmのEUV光(13.5nm光)は、91eVと高いエネルギーを有する。この高いエネルギーの光子は、無機材料からなる膜に入射されると構成原子の価電子を励起するが、そのエネルギーは最終的に結晶格子に渡され熱となる。本実施形態では、この熱を利用して無機材料膜である遷移金属酸化物膜中に局所的な温度上昇を生じさせ、材料の状態変化を生じさせる。
【0018】
化学増幅型レジストを用いた化学反応による感光プロセスでは、化学反応にEUV光のエネルギーの極一部が使用されるだけであり、残りのエネルギーは熱として散逸させていた。これに対し、本実施形態では、従来熱として散逸させていたEUV光のエネルギーのほぼ全てを利用して状態変化を生じさせるため、本質的にエネルギー効率が高い。このため、露光時間を短くすることができる。
【0019】
また、無機材料の単位格子は、一般的な高分子感光材に比較して小さく、HfO2の場合では単位格子の辺長が0.5nm程度であり、化学増幅型レジストにおいて問題となる分子サイズに由来するパターン幅のゆらぎを抑制することができる。また、露光した際の熱は熱拡散により露光領域から外側へ広がるが、適度な熱拡散はパターン幅の統計的なゆらぎの効果を低減する。
【0020】
さらに、状態変化した露光領域を除去するか、非露光領域を除去するかのいずれかで、ポジ型とネガ型の両方を選択することができ、自由度が高い。
【0021】
<感光性ハードマスク>
次に、感光性ハードマスクについて詳細に説明する。
上述したように、感光性ハードマスクは遷移金属酸化物により構成される。遷移金属酸化物としては、例えば、半導体分野において多用されているHfO
2やZrO
2のような4価遷移金属酸化物や、WO
x、MoO
x、VO
xのような低融点多価金属酸化物を挙げることができる。遷移金属酸化物は、露光に用いられるEUV光である13.5nm光の消衰長さ(光強度が1/eに減衰する長さ)が小さく、HfO
2およびZrO
2の場合は、
図3(a)、(b)に示すように、消衰長さはそれぞれ31.5nmおよび70.6nmとなる。また、WO
xおよびMoO
xであるWO
3およびMoO
3の13.5nm光の消衰長さも18nmおよび69nmと短い。すなわち、遷移金属酸化物は13.5nm光の消衰長さが18~70nm程度と短く、その短い距離で光エネルギーが急激に減衰し、そのエネルギーが熱に変換されて状態変化を生じさせる。これに対して、PMMAのような高分子材料は13.5nm光の消衰長さは0.2μm程度であり、格子のエネルギー損失はその数倍程度の空間的広がりをもって生じる。
【0022】
感光性ハードマスクを構成する遷移金属酸化物膜の膜厚に関しては、
図4に示すように、膜厚tが露光に用いられるEUV光の消衰長さλよりも小さいと、EUV光が遷移金属酸化物膜で十分に減衰せずに露光領域103の下に存在する下地膜107に到達し、熱拡散によりパターンが肥大化してしまうおそれがある。また、下地膜107の熱伝導率が大きいと、膜厚tが消衰長さλより小さいことにより、EUV光の露光により発生した熱が下地膜に散逸して露光領域103を十分に昇温できず、状態変化領域が十分に形成され難いこともあり得る。一方、
図5に示すように、膜厚tが消衰長さλよりも大きすぎると、感光性ハードマスク101の途中でEUV光が消衰して露光領域103が部分的にしか形成されず、状態変化領域を十分に形成できず、現像不良となってしまう。適切に状態変化領域を形成する観点からは、感光性ハードマスク101を構成する遷移金属酸化膜の膜厚tは、消衰長さλ以上でλよりあまり大きくならない値であることが好ましく、λ≦t≦3λの範囲が好ましい。膜厚tは消衰長さλとほぼ等しいことがより好ましい。
【0023】
上記の遷移金属酸化物のうち、HfO2やZrO2のような4価遷移金属酸化物と、WOx、MoOx、VOxのような低融点多価酸化物とでは特性が異なる。
【0024】
4価遷移金属酸化物であるHfO2やZrO2の場合、融点が2700℃程度と高いためEUV光の露光により溶融させることはできないが、1000℃程度以下で相転移が生じるので、その相転移を利用する。
【0025】
例えばHfO
2膜の場合、
図6に示すようにネガ型パターニングを行うことができる。まず、常温スパッタやALD等により、as depo状態でアモルファス相であるHfO
2膜(a-HfO
2膜)201を形成し(
図6(a))、EUV光(13.5nm光)202をパターン露光し、露光領域203を形成する(
図6(b))。203aは熱拡散領域である。露光領域203は露光の際の熱により結晶化温度Tc以上に加熱されて結晶相に相転移(状態変化)した相転移領域204となり、露光パターンが形成される(
図6(c))。次に、アモルファス相の非相転移領域をウエットエッチングまたはドライエッチングにより選択的に除去して除去領域206を形成し(現像し)、ネガ型パターニングを行う(
図6(d))。具体的には、DHFやBHFによるウエットエッチングでは、アモルファス相のほうが結晶相よりもエッチレートが高く、選択的にアモルファス相をエッチングするネガ型パターニングが実現される。アモルファス相の選択エッチングは、HFガスとTiCl
4ガスを用いたドライエッチングによっても実現することができる。
【0026】
なお、露光領域の結晶相を選択的にエッチングすることにより、ポジ型パターニングを行ってもよい。
【0027】
遷移金属酸化物としてZrO2を用いた場合は、as depo状態で結晶相(低温相)となるが、ZrO2には高温相が存在するため、露光部位の加熱温度を高温相への相転移温度以上とすることにより、露光部位を高温相に相転移させる。そして、低温相と高温相のエッチレートの違いにより、いずれかを選択的に除去することができる。
【0028】
低融点多価酸化物であるWOx、MoOx、VOxの場合、融点は800~1500℃程度であり、HfO2やZrO2に比べて低い。特に、MoOxであるMoO3の融点は795℃と極めて低い。MoO3はスパッタにより成膜することができ、スパッタ時の基板温度を常温にすることによりas depoにおいてアモルファス相となり、基板温度を200℃以上とすることでas depoにおいて結晶相となる。これらにより、ネガ型パターニングとポジ型パターニングを行うことができる。
【0029】
MoO
3膜のネガ型パターニングは、
図7に示すように行うことができる。まず、常温スパッタにより、as depo状態でアモルファス相であるMoO
3膜(a-MoO
3膜)211を形成し(
図7(a))、EUV光(13.5nm光)212をパターン露光し、露光領域213を形成する(
図7(b))。213aは熱拡散領域である。露光領域213は露光の際の熱により結晶化温度Tc以上に加熱されて結晶相に相転移した相転移領域214となり、露光パターンが形成される(
図7(c))。次に、アモルファス相の非相転移領域をウエットエッチングまたはドライエッチングにより選択的に除去して除去領域216を形成し(現像し)、ネガ型パターニングを行う(
図7(d))。
【0030】
MoO
3膜のポジ型パターニングは、
図8に示すように行うことができる。まず、200℃以上のスパッタにより、as depo状態で結晶相であるMoO
3膜(c-MoO
3膜)221を形成し(
図8(a))、EUV光(13.5nm光)222をパターン露光し、露光領域223を形成する(
図8(b))。223aは熱拡散領域である。露光領域223は融点Tm以上に加熱されて溶融し、その後露光がOFFされることにより露光領域223が急冷されて溶融状態がクエンチされ、アモルファス相の相転移領域224となり、露光パターンが形成される(
図8(c))。次に、アモルファス相である相転移領域224をウエットエッチングまたはドライエッチングにより選択的に除去して除去領域226を形成し(現像し)、ポジ型パターニングを行う(
図8(d))。
【0031】
なお、ネガ型パターニングの際には、アモルファス相のMoO
3膜にEUV光が露光され、
図9(a)に示すように、露光領域が相対的に低温の結晶化温度Tc以上に加熱され、徐冷される。これにより露光領域が結晶相となる。一方、ポジ型パターニングの際には、結晶相のMoO
3膜にEUV光が露光され、
図9(b)に示すように、露光領域が相対的に高温の溶融温度Tm以上に加熱されることにより溶融され、露光がOFFされた際に急冷される。これにより露光領域がアモルファス相となる。
【0032】
また、アモルファス相が非相転移領域であり、結晶相が相転移領域の例において、エッチング方法を調整して、除去する部分を結晶相の相転移領域に変えることによりポジ型パターニングとしてもよい。アモルファス相が相転移領域であり、結晶相が非相転移領域の例において、エッチング方法を調整して、除去する部分を結晶相の非相転移領域に変えることによりネガ型パターニングとしてもよい。
【0033】
以上、MoO3膜を例にとって説明したが、WOx膜であるWO3膜、VOx膜であるVO3膜の場合についても同様にパターニングを行うことができる。ただし、WO3、VO3はMoO3よりも融点が高いので、溶融時にはEUV光の照射時間を長くする必要がある。
【0034】
また、低融点多価酸化物であるWOx、MoOx、VOxについて、EUV光の露光の際の状態変化としては、以上説明した相転移に限らず、組成変化を用いることもできる。WOx、MoOx、VOxは価数が変化し得る酸化物である。したがって、これらのいずれか、例えばMoO3を感光性ハードマスクとして用い、一例としてこれに隣接して例えば還元作用のある層を設けることにより、EUV光を露光した際の熱により隣接する還元作用のある層との反応により露光領域のMoO3が還元され、組成変化を生じさせることができる。
【0035】
<感光性ハードマスクを用いてEUV露光によるパターニングを行う利点>
次に、遷移金属酸化膜を用いてEUV露光によるパターニングを行う利点について詳細に説明する。
【0036】
第1の利点は、露光時間を短縮できる点である。
遷移金属酸化物膜にEUV光を露光する場合の露光時間については、材料の物性値等から簡単な試算を行うことができる。無機薄膜である遷移金属酸化物膜に入射したEUV光はその膜中の消衰長さで決まる体積を局所的に加熱する。遷移金属酸化物膜として用いるHfO2、ZrO2、WO3、MoO3は、1.2~2.4×106J/m3K程度の熱容量を有する。また、EUV露光時の基板(ウエハ)上の熱負荷は3W/cm2程度であることが知られている(Laser Focus World 2019年8月29日 "EUV
lithography revisited")。上述のように熱による相転移を利用してパターニングを行う場合、露光領域を相転移に必要な温度に上昇させるが、露光領域の温度上昇はパワーにより決定されるため、ドーズ量は少なくてよく、したがって露光時間は短くてよい。上記パラメータを用いた断熱的な簡易な試算では、EUV光の露光時間が数ミリ秒で、遷移金属酸化物膜を、アモルファス相を結晶化するのに必要な1000℃程度に加熱することが可能である。EUV光の露光時間が1ミリ秒のときのドーズ量は試算によれば3mJ/cm2となるが、この値は従来の化学増幅型レジストを用いたEUV光の露光時のドーズ量である70mJ/cm2の1/20以下となる。すなわち、遷移金属酸化物膜で構成される感光性ハードマスクにEUV光を露光して相転移を生じさせるパターニング方法を用いることにより、露光時間を従来の化学増幅型レジストを用いた場合の1/20にでき、スループットを大きく改善することができる。
【0037】
第2の利点は、熱拡散によりパターン端を平滑化してラインエッジラフネス(LER)を低減できる点である。
無機薄膜である遷移金属酸化物膜では、EUV光が露光されて局所加熱された際に、膜中では熱伝導による熱拡散により露光領域外に高温領域が拡大する。しかし、遷移金属酸化物であるHfO2、ZrO2等の材料は、熱拡散率が1×10-6m2/sec程度であり、露光領域外に広がった高温領域は相転移温度未満となり、パターニング形状に影響を与えない。一方で、ナノメータースケールの微細パターンの形成に対して十分に早い熱拡散が生じ、その効果により露光領域およびその外側の高温領域の温度は均一化する。これにより、成膜した際の遷移金属酸化物膜の不均質な構造に由来したパターン端の形状の乱れ(LER)を平滑化する効果が期待できる。
【0038】
<エッチング対象膜のパターン形成>
次に、以上説明した感光性ハードマスクを用いた加工対象膜のパターン形成方法について説明する。
【0039】
図10は感光性ハードマスクを用いて加工対象膜にパターンを形成するパターン形成方法を説明するためのフローチャート、
図11はそのパターン形成方法を示す工程断面図である。
【0040】
最初に、加工対象膜を有する基板300上に遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスク304を形成する(ステップST11、
図11(a))。基板300としては、半導体基体(Si基体)301上に、加工対象膜302が形成され、その上にハードマスク303が形成されたものが例示される。加工対象膜302としては、絶縁膜やメタル膜を用いることができる。ハードマスク303としては、加工対象膜302に対してエッチング選択比が確保できる材料が選択され、例えば、SiO
2、SiN、TiN、アモルファスカーボン等が用いられる。エッチング選択比により、複数のハードマスクを用いて加工のマージンを確保してもよい。
【0041】
次に、上述したステップST2~ST4の手順で感光性ハードマスク304に対し、UVE露光および現像を行ってパターンを形成する(ステップST12、
図11(b))。
【0042】
次に、パターニングされた感光性ハードマスク304をマスクとして、ハードマスク303をエッチングし、ハードマスク303に感光性ハードマスク304のパターンを転写する(ステップST13、
図11(c))。
【0043】
次に、パターンが転写されたハードマスク303をマスクとして、加工対象膜302をエッチングし、加工対象膜302にパターンを形成する(ステップST14、
図11(d))。
【0044】
このように遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクを加工対象膜のパターニングに用いることにより、上述のような、露光パターンを形成する際に露光時間を短くできる等の効果が得られる他、加工対象膜をパターニングする際のマスク数を低減できる効果も得られる。
【0045】
従来の化学増幅型レジストのような有機材料の場合、エッチングにより加工対象膜をパターニングする際にエッチング耐性が低い。このため、例えば
図12(a)~(e)に示すように、基体401上に加工対象膜402、ハードマスク403を形成し、さらにアモルファスカーボン膜404を形成した基板400を用い、その上に化学増幅型レジスト膜405を形成してパターニングする必要がある。すなわち、化学増幅型レジスト膜405に対し、UVE露光および現像を行ってパターンを形成した後、そのパターンをアモルファスカーボン膜404に転写し、次いで、転写パターンをさらにハードマスク403に転写した後、加工対象膜402をパターニングする必要がある。
【0046】
これに対して、遷移金属酸化物膜からなる感光性ハードマスクは、従来の化学増幅型レジストのような有機材料に比べてエッチング耐性が高い。このため、上述したように、感光性ハードマスクのパターンを直接ハードマスクに転写し、そのハードマスクの転写パターンにより加工対象膜をパターニングすることができる。
【0047】
<他の適用>
以上、実施形態について説明したが、今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0048】
例えば、上記実施形態では、感光性ハードマスクを構成する遷移金属酸化物として、HfO2、ZrO2、WOx、MoOx、VOxを用いた例を示したが、これに限らず他の遷移金属酸化物を用いることもできる。
【符号の説明】
【0049】
100,300;基板
101,303;感光性ハードマスク
102,202,212,222;EUV光
103,203,213,223;露光領域
104;状態変化領域
105;非状態変化領域
201;a-HfO2膜
204,214,224;相転移領域
211;a-MoO3膜
221;c-MoO3膜
302;加工対象膜
303;ハードマスク