(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120687
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】溶射装置、溶射装置における溶融付着物の検知方法および溶射装置用電極
(51)【国際特許分類】
H05H 1/42 20060101AFI20230823BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20230823BHJP
【FI】
H05H1/42
C23C4/134
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023668
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【弁護士】
【氏名又は名称】小林 英了
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 儀彦
【テーマコード(参考)】
2G084
4K031
【Fターム(参考)】
2G084AA06
2G084BB25
2G084BB30
2G084CC23
2G084DD18
2G084DD22
2G084DD25
2G084FF14
2G084FF31
2G084GG02
2G084GG29
2G084HH07
2G084HH37
2G084HH43
2G084HH57
4K031DA04
4K031EA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知可能な溶射装置とその方法、および、メンテナンス時間を短縮可能な溶射装置用電極を提供する。
【解決手段】導電性粉体が前記第1空洞を通過する第1電極と、前記第1電極からの導電性粉体が前記第2空洞を通過する第2電極と、を備え、前記第1電極と前記第2電極との間に生じるプラズマにより導電性粉体を溶射する溶射装置であって、前記第2電極は、電極本体と、前記第2空洞が設けられており、前記第1電極からの導電性粉体が前記第2空洞を通過する、前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を有し、前記マズル部は、絶縁性部材321bと、前記絶縁性部材321bによって互いに絶縁された複数の導電性部材321cと、を有し、当該溶射装置は、前記複数の導電性部材321cにおける2以上の導電性部材が導通しているか否かによって、前記導電性粉体の溶融物の付着を検知する付着物検知部を備える、溶射装置。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1空洞が設けられており、粉体供給部からの導電性粉体が前記第1空洞を通過する第1電極と、
第2空洞が設けられており、前記第1電極からの導電性粉体が前記第2空洞を通過する第2電極と、を備え、
前記第1電極と前記第2電極との間に生じるプラズマにより導電性粉体を溶射することによってターゲット上に成膜を行う溶射装置であって、
前記第2電極は、
電極本体と、
前記第2空洞が設けられており、前記第1電極からの導電性粉体が前記第2空洞を通過する、前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を有し、
前記マズル部は、
絶縁性部材と、
前記絶縁性部材によって互いに絶縁された複数の導電性部材と、を有し、
当該溶射装置は、前記複数の導電性部材における2以上の導電性部材が導通しているか否かによって、前記導電性粉体の溶融物の付着を検知する付着物検知部を備える、溶射装置。
【請求項2】
前記電極本体は、前記マズル部が嵌まる第3空洞が設けられ、
前記マズル部は、前記第3空洞に着脱可能に嵌められる、請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記電極本体の外面から前記第3空洞の内面に貫通するネジ穴が設けられ、
前記ネジ穴を介して前記電極本体の空洞に嵌められた前記マズル部がネジ止めされる、請求項2に記載の溶射装置。
【請求項4】
前記第3空洞の内面には雌ネジが設けられ、
前記マズル部の側面には雄ネジが設けられる、請求項2に記載の溶射装置。
【請求項5】
第2実施形態
前記マズル部は、
前記雄ネジが設けられた嵌合部と、
前記嵌合部の下端面に取り付けられる、前記絶縁性部材および前記複数の導電性部材を有するセンサ部と、を有する、請求項4に記載の溶射装置。
【請求項6】
前記マズル部の先端面は円環状になっており、前記先端面は、
その内周から外周まで径方向に延びる複数の前記絶縁性部材と、
前記複数の絶縁性部材の間に設けられる前記複数の導電性部材と、を有する、請求項1乃至5のいずれかに記載の溶射装置。
【請求項7】
前記マズル部の先端面は円環状になっており、前記先端面は、
内周面に凹部が設けられた、前記複数の導電性部材のうちの1つである環状部と、
前記凹部内に設けられた、前記複数の導電性部材のうちの他の導電性部材である電極部と、
前記凹部内において、前記環状部と、前記電極部とを絶縁するように設けられた前記絶縁性部材と、を有する、請求項1,2および4のいずれかに記載の溶射装置。
【請求項8】
前記導電性部材は、銅、タングステンまたはタンタルであり、
前記絶縁性部材は、セラミックである、請求項1乃至7のいずれかに記載の溶射装置。
【請求項9】
溶射装置用の電極に対する導電性粉体の溶融物の付着を検知する方法であって、
前記電極は、
電極本体と、
前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を備え、
前記マズル部は、
絶縁性部材と、
前記絶縁性部材によって互いに絶縁された複数の導電性部材と、を有し、
前記複数の導電性部材における2以上の導電性部材が導通しているか否かによって、前記導電性粉体の溶融物の付着を検知する、溶融付着物の検知方法。
【請求項10】
電極本体と、
前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を備え、
前記マズル部は、
絶縁性部材と、
前記絶縁性部材によって互いに絶縁された複数の導電性部材と、を有する、溶射装置用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射装置、溶射装置における溶融付着物の検知方法および溶射装置用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射装置は電極間に生じるプラズマにより粉体を溶射することによってターゲット上に成膜を行うものである。粉体を溶射する際に、その溶融物が電極に付着することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53-11921120号公報
【特許文献2】特開2008-80323号公報
【特許文献3】特開昭59-202143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知可能な溶射装置、溶射装置における導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知できる方法、および、溶融物が付着した場合でも溶射装置のメンテナンス時間を短縮可能な溶射装置用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
第1空洞が設けられており、粉体供給部からの導電性粉体が前記第1空洞を通過する第1電極と、
第2空洞が設けられており、前記第1電極からの導電性粉体が前記第2空洞を通過する第2電極と、を備え、
前記第1電極と前記第2電極との間に生じるプラズマにより導電性粉体を溶射することによってターゲット上に成膜を行う溶射装置であって、
前記第2電極は、
電極本体と、
前記第2空洞が設けられており、前記第1電極からの導電性粉体が前記第2空洞を通過する、前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を有し、
前記マズル部は、
絶縁性部材と、
前記絶縁性部材によって互いに絶縁された複数の導電性部材と、を有し、
当該溶射装置は、前記複数の導電性部材における2以上の導電性部材が導通しているか否かによって、前記導電性粉体の溶融物の付着を検知する付着物検知部を備える、溶射装置が提供される。
【0006】
前記電極本体は、前記マズル部が嵌まる第3空洞が設けられ、
前記マズル部は、前記第3空洞に着脱可能に嵌められてもよい。
【0007】
前記電極本体の外面から前記第3空洞の内面に貫通するネジ穴が設けられ、
前記ネジ穴を介して前記電極本体の空洞に嵌められた前記マズル部がネジ止めされてもよい。
【0008】
前記第3空洞の内面には雌ネジが設けられ、
前記マズル部の側面には雄ネジが設けられてもよい。
【0009】
前記マズル部は、
前記雄ネジが設けられた嵌合部と、
前記嵌合部の下端面に取り付けられる、前記絶縁性部材および前記複数の導電性部材を有するセンサ部と、を有してもよい。
【0010】
前記マズル部の先端面は円環状になっており、前記先端面は、
その内周から外周まで径方向に延びる複数の前記絶縁性部材と、
前記複数の絶縁性部材の間に設けられる前記複数の導電性部材と、を有してもよい。
【0011】
前記マズル部の先端面は円環状になっており、前記先端面は、
内周面に凹部が設けられた、前記複数の導電性部材のうちの1つである環状部と、
前記凹部内に設けられた、前記複数の導電性部材のうちの他の導電性部材である電極部と、
前記凹部内において、前記環状部と、前記電極部とを絶縁するように設けられた前記絶縁性部材と、を有してもよい。
【0012】
前記導電性部材は、銅、タングステンまたはタンタルであり、
前記絶縁性部材は、セラミックであってもよい。
【0013】
本発明の別の態様によれば、
溶射装置用の電極に対する導電性粉体の溶融物の付着を検知する方法であって、
前記電極は、
電極本体と、
前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を備え、
前記マズル部は、
絶縁性部材と、
前記絶縁性部材によって互いに絶縁された複数の導電性部材と、を有し、
前記複数の導電性部材における2以上の導電性部材が導通しているか否かによって、前記導電性粉体の溶融物の付着を検知する、溶融付着物の検知方法が提供される。
【0014】
本発明の別の態様によれば、
電極本体と、
前記電極本体に着脱可能なマズル部と、を備え、
前記マズル部は、
絶縁性部材と、
前記絶縁性部材によって互いに絶縁された複数の導電性部材と、を有する、溶射装置用電極が提供される。
【発明の効果】
【0015】
導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知できる。また、溶融物が付着した場合でも溶射装置のメンテナンス時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2A】第1実施形態に係るアノード32の概略図。
【
図2B】
図2Aのマズル321をアノード本体320に嵌めた状態を示す斜視図。
【
図3A】付着物検知部10の構成を模式的に示す図。
【
図3B】付着物検知部10の構成を模式的に示す図。
【
図4A】第2実施形態に係るアノード32’の概略図。
【
図4B】
図4Aのセンサ部34を嵌合部33に取り付けた状態を示す斜視図。
【
図4C】
図4Bのセンサ部34が取り付けられた嵌合部33をアノード本体320’に嵌めた状態を示す斜視図。
【
図5】付着物検知部10’の構成を模式的に示す図。
【
図6A】第3実施形態に係るアノード32’’の概略図。
【
図6B】
図6Aのマズル部321’’をアノード本体320’’に嵌めた状態を示す斜視図。
【
図7】付着物検知部10’’の構成を模式的に示す図。
【
図9A】マズル部321’に溶融物が付着していない状態を示す図。
【
図9B】マズル部321’に導電性の溶融物90が付着している状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、一実施形態に係る溶射装置の概略構成図である。溶射装置は、粉体搬送用ガス供給部1と、粉体供給部2(フィーダ)と、溶射ノズル3と、プラズマ発生支援ガス供給部4と、チャンバ5と、ホルダ6と、圧力調整用ガス供給部7と、排気用ポンプ8と、冷却風供給部9と、付着物検知部10とを備え、チャンバ5内のホルダ6上に保持されたターゲットTに成膜を行う。
【0019】
粉体搬送用ガス供給部1は粉体搬送用ガスを粉体供給部2に供給する。粉体搬送用ガスは、例えばアルゴン、窒素であり、その他後記プラズマ発生支援ガスと同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
粉体供給部2は粉体搬送用ガスを利用して導電性粉体を供給する。この導電性粉体に由来する材料がターゲットT上に成膜される。一例として、導電性粉体は銅粉であり、ターゲットT上に銅薄膜が形成される。
【0021】
溶射ノズル3は溶射ガンとも呼ばれ、導電性粉体を溶融してターゲットTに吹き付ける(溶射する)。溶射ノズル3は、筐体30と、カソード31(第1電極)と、アノード32(第2電極)とを有する。
【0022】
筐体30はカソード31およびアノード32を収容している。そして、粉体供給部2からカソード31へ粉体を導く粉体誘導路21が筐体30の上面を貫通している。また、筐体30の下面には開口が設けられ、ホルダ6と対向している。
【0023】
カソード31は粉体供給部2の下流側(下方)に配置される。カソード31は内部に空洞(第1空洞)が形成されており、粉体供給部2からの導電性粉体が粉体誘導路21を介して空洞を通過する。
【0024】
アノード32はカソード31の下流側(下方)においてカソード31から離間して配置される。アノード32は内部に空洞(第2空洞)が形成されている。この空洞は、カソード31の空洞の下方に位置し、かつ、筐体30の下面の開口の上方に位置する。そして、カソード31からの導電性粉体がアノード32における空洞の内側を通過する。アノード32の構成の詳細は後述する。
【0025】
プラズマ発生支援ガス供給部4はプラズマ発生支援ガスを溶射ノズル3の筐体30内に供給する。プラズマ発生支援ガスは、例えばアルゴンまたはアルゴンに水素を添加したガスである。
【0026】
チャンバ5は溶射ノズル3の下方に配置される。チャンバ5の上面には開口が設けられ、溶射ノズル3における筐体30の下面の開口に位置合わせされている。この開口の下方に、ターゲットTを保持するホルダ6が配置される。ホルダ6はXYスライダ61(ステージ)上に載置され、XYスライダ61はホルダ6を水平面内で移動させることができる。また、ホルダ6には熱電対62が設けられ、XYスライダ61の温度およびターゲットTの温度を監視する。
【0027】
特にターゲットTはその温度が高温になり過ぎると熱により破壊してしまうので、ターゲットTの温度を熱電対62でモニターし、ターゲットTを破壊する温度Tmaxに至らないようモニターする。実際は安全性を考慮してTmaxより低い温度Tsを設定し、熱電対62の温度がTsになった段階で、プラズマ溶射を停止するコントロールを行う。また、プラズマ溶射による成膜が途中の場合はプラズマ溶射を再開する必要があるので、プラズマ溶射再開するための基準温度T1を設定し、熱電対62でターゲットTの温度をモニターし、基準温度T1まで温度が下がったらプラズマ溶射を再開させる。
【0028】
チャンバ5は溶融した導電性粉体をターゲットTに溶射する際の溶射環境を適切に制御すべく、圧力調整用ガス供給部7、排気用ポンプ8および冷却風供給部9が接続される。圧力調整用ガス供給部7は、アルゴンまたはアルゴンに水素を添加したガスなどの圧力調整用ガスをチャンバ5内に供給し、チャンバ5内の圧力を一定値(例えば、300Torr)に維持する。排気用ポンプ8はチャンバ5内を真空引きする。冷却風供給部9は冷却風をチャンバ5内に配置された冷却プレート51に供給する。
なお、プラズマ発生支援ガスはアルゴンまたはアルゴンに水素を添加したガス以外のガスであってもよい。例えば、ネオン、ヘリウム、窒素等、プロセスで用いる場合に必要とされるガスであってよい。
【0029】
このような溶射装置において、溶射ノズル3の筐体30内にプラズマ発生支援ガスが供給された状態で、カソード31およびアノード32に高電位差が生じるよう電圧が印加される。これにより、カソード31とアノード32との間にアーク放電が生じる。アーク放電に起因してカソード31とアノード32との間にプラズマが生じ、その熱によって粉体供給部2からの導電性粉体が溶融(液状化)する。溶融した導電性粉体(液体粉)がターゲットT上に吹き付けられ、成膜される。
【0030】
ここで、導電性粉体を溶射する際に、その溶融物がアノード32に付着することがある。付着物が小さければそれほど問題にならないが、例えば、アノード32の空洞に大きな溶融物が付着すると溶射量が安定せず、ターゲットT上に形成される膜厚がばらつくおそれがある。さらに、アノード32の空洞を塞ぐほどの溶融物が付着すると、溶射できなくなるおそれがある。このような場合に、仮に溶射ノズル3全体を交換せざるを得ないとなると、溶射装置のメンテナンスに時間を要してしまう。
【0031】
そこで、本実施形態では、溶射装置に付着物検知部10を設け、導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知できるようにする。また、本実施形態では、溶融物が付着した場合であっても、溶射ノズル3全体を交換する必要がないようなアノード32の構成にする。以下、詳しく説明する。
【0032】
図2Aは、第1実施形態に係るアノード32の概略図である。アノード32は、アノード本体320(電極本体)と、アノード本体320に着脱可能なマズル部321とを有する。
【0033】
アノード本体320は内部が空洞320a(第3空洞)になった円柱状部分320bを有する。アノード本体320における円柱状部分320bの内面は絶縁性材料320cで形成されるが、その他は金属などの導電性材料で形成されて電極を構成する。
【0034】
マズル部321は、カソード31と反対側に設けられ、アノード本体320の空洞320aでプラズマおよび溶融した導電性粉体を射出する開口部が形成された部材である。
【0035】
マズル部321は内部が空洞321a(第2空洞)になった概略円筒状であり、アノード本体320の空洞320aに嵌められる(
図2B参照)。一例として、アノード本体320の円柱状部分320bの外面から内面に貫通するネジ穴320dが設けられ、アノード本体320の空洞320aに嵌められたマズル部321がネジ穴320dを介してネジ止めされる。
【0036】
マズル部321は、絶縁性部材321bと、絶縁性部材321bによって互いに絶縁された複数の導電性部材321cとを有する。
図2Aおよび
図2Bでは、一例として4つの互いに離間された絶縁性部材321bと、これら絶縁性部材321bの間に設けられる4つの導電性部材321cが設けられる。なお、絶縁性部材321bとしては、耐熱性があるセラミック、特に快削性セラミックなどが好適である。また、導電性部材321cとしては、耐熱性がある銅、タングステン、タンタルなどが好適である。
【0037】
マズル部321の先端面321d(
図1において、ターゲットTと対向する下端側の面)は円環状になっている。そして、先端面321dは、その内周の一部から外周の一部まで径方向に延びる概略長方形の複数の絶縁性部材321b(の下端面)と、複数の絶縁性部材321bの間に設けられる環状扇形(annular sector)の複数の導電性部材321c(の下端面)とから構成される。各絶縁性部材321bおよび各導電性部材321cはマズル部321の上面まで延びている。よって、マズル部321の水平方向断面はいずれも先端面321dと同じ構成となる。
【0038】
絶縁性部材321bおよび導電性部材321cのそれぞれは、マズル部321の内面の一部、外面の一部、下面(先端面321d)の一部および上面の一部を構成しているとも言える。なお、マズル部321の各導電性部材321cはアノード本体320の内面の絶縁性材料320cによってアノード本体320の導電性材料とは絶縁される。
【0039】
図3Aおよび
図3Bは、付着物検知部10の構成を模式的に示す図である。付着物検知部10は、マズル部321の複数の導電性部材321cにおける2以上の導電性部材321cが導通しているか否かによって、マズル部321に対する導電性粉体の溶融物の付着を検知する。
【0040】
具体的には、付着物検知部10は、各導電性部材321cに接続された導線11と、これら導線11に接続されて導電性部材321c間の導通状態をモニタするテスタ12とを有する。なお、
図1において、導線11はチャンバ5に設けられたフィードスルー52を介してチャンバ5の外部に引き出され、チャンバ5の外部に設けられたテスタ12に接続されてよい。
【0041】
図3Aに示すように、マズル部321に導電性粉体の溶融物が付着していない場合、いずれの導電性部材321c間も導通しない。これにより、マズル部321に導電性粉体の溶融物が付着していないこと(あるいは、付着しているとしても小さな付着物であること)が分かる。
【0042】
一方、
図3Bに示すように、マズル部321における複数の導電性部材321cを跨って導電性粉体の溶融物90が付着している場合、該当する導電性部材321c間が導通する。これにより、マズル部321に導電性粉体の溶融物90が付着していることが分かる。この場合、例えば制御盤(不図示)にアラームを発してもよい。
【0043】
図3Aおよび
図3Bから明らかなように、より多くの導電性部材321cを設けるほど(導電性部材321cを細かく分割するほど)、より小さな付着物を検知できる。よって、導電性部材321(電極)の数は、多い程付着物に対する感度が向上するので望ましいが、実用上は4~6個にするのが好ましい。
【0044】
このように、第1実施形態では、アノード32を、アノード本体320と、これに着脱可能なマズル部321とから構成し、マズル部321には互いに絶縁された複数の導電性部材321cが設けられる。そして、導電性部材321cどうしの導通をモニタする付着物検知部10により、導電性粉体の溶融物が複数の導電性部材321cを跨って付着した時点で、当該付着を早期に検知できる。付着が検知された場合、溶射ノズル3全体ではなく、アノード32のマズル部321のみを交換すればよく、メンテナンスの時間を短縮できる。
【0045】
(第2実施形態)
次に説明する第2実施形態は、第1実施形態におけるアノード32の変形例である。以下、第1実施形態との共通点は説明を省略または簡略化することがある。
【0046】
図4Aは、第2実施形態に係るアノード32’の概略図である。アノード32’は、アノード本体320’(電極本体)と、アノード本体320’に着脱可能なマズル部321’とを有し、マズル部321’は嵌合部33とセンサ部34を有する。センサ部34が嵌合部33の下端面(ターゲットT側の面)に取り付けられ(
図4B参照)、嵌合部33がアノード本体320の空洞320a’に嵌められる(
図4C参照)。
【0047】
アノード本体320’は第1実施形態で述べたものとほぼ同様であるが、本実施形態では空洞320a’(第3空洞)の内面に雌ネジ(不図示)が設けられている。
【0048】
マズル部321’の嵌合部33は内部が空洞33aになった概略円筒状である。嵌合部33の上部(カソード側)側面に雄ネジが設けられている。嵌合部33はマズル部321’の一部であるから、マズル部321’に雄ネジが設けられているとも言える。そして、アノード本体320’の空洞320a’に対して嵌合部33がねじ込まれことにより、アノード本体320’の空洞320a’にマズル部321’が嵌められる(
図4C参照)。また、嵌合部33は導電性材料で形成される。
【0049】
マズル部321’のセンサ部34は円環部341を有し、円環部341の外周から径方向に突出した突出部342を有してもよい。
【0050】
円環部341の外径は嵌合部33の下端面の外径とほぼ同じ大きさである(
図4B参照)。一例として、円環部341および嵌合部33の下端面にネジ穴が設けられ、これらのネジ穴を介してセンサ部34の円環部341が嵌合部33の下端面にネジ止めされる。
【0051】
円環部341は内部が空洞34a(第2空洞)になっており(開口が形成されており)、絶縁性部材423と、絶縁性部材423によって互いに絶縁された複数の導電性部材424とを有する。
図4A~
図4Cでは、一例として4つの互いに離間された絶縁性部材423と、これら絶縁性部材423の間に設けられる4つの導電性部材424が設けられる。
【0052】
詳細には、円環部341(マズル部321’の先端面とも言える)は、その内周の一部から外周の一部まで径方向に延びる概略長方形の複数の絶縁性部材423と、複数の絶縁性部材423の間に設けられる環状扇形(annular sector)の複数の導電性部材424と、円環部341の上面に設けられた絶縁性部材425とから構成される。絶縁性部材423および導電性部材424のそれぞれは、円環部341の内周面の一部、外周面の一部および下面の一部を構成し、絶縁性部材425が円環部341の上面を構成しているとも言える。なお、マズル部321’の各導電性部材424は絶縁性部材425によって嵌合部33とは絶縁される。また、突出部342は各導電性部材424から突出している。
【0053】
図5は、付着物検知部10’の構成を模式的に示す図である。付着物検知部10’の構成は概ね第1実施形態と同様であるが、導線11は突出部342に接続されてよい。突出部342を設けることで、導線11を接続しやすくなる。
【0054】
このように、第2実施形態でも、導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知できる。そして、付着が検知された場合、溶射ノズル3全体ではなく、アノード32’のマズル部321’におけるセンサ部34のみを交換すればよく、メンテナンスの時間を短縮できる。
【0055】
(第3実施形態)
次に説明する第3実施形態は、第1実施形態におけるアノード32の別の変形例である。以下、第1実施形態および第2実施形態との共通点は説明を省略または簡略化することがある。
【0056】
図6Aは、第3実施形態に係るアノード32’’の概略図である。アノード32’’は、アノード本体320’’(電極本体)と、アノード本体320’’に着脱可能なマズル部321’’とを有する。
アノード本体320’’は第2実施形態で述べたものと同様である。
【0057】
マズル部321’’は内部が空洞321a’’(第2空洞)になった概略円筒状である。マズル部321’’の上部(カソード側)側面に雄ネジが設けられている。そして、アノード本体320’’の空洞320a’’に対してマズル部321’’がねじ込まれることにより、アノード本体320’’の空洞320a’’にマズル部321’’が嵌められる(
図6B参照)。マズル部321’’は後述する絶縁性部材321b’’を除き、導電性材料で形成される。
【0058】
マズル部321’’は、絶縁性部材321b’’と、絶縁性部材321b’’によって互いに絶縁された複数の導電性部材321c’’,322とを有する。
【0059】
図6Cは、マズル部321’’を下方から見た図の一部拡大図である。また、
図6Dは、マズル部321’’の下方を分解して示す図である。マズル部321’’の先端面(下端面)は円環状になっている。そして、先端面は、その内周に1以上の凹部322a(
図6Aの例では4つ)が設けられた環状の導電性部材322(環状部)と、凹部322a内に設けられた電極部(金属電極)としての導電性部材321c’’、凹部322a内において環状の導電性部材322と導電性部材321c’’とを絶縁するように設けられた絶縁性部材321b’’とから構成される。
【0060】
具体例として、凹部322aは円の一部が切り取られた形状となっている。絶縁性部材321b’’は三日月状のスリーブである。絶縁性部材321b’’の外周は凹部322aの内径とほぼ同じ大きさであり、凹部322aの内径と嵌め合いになる。導電性部材321c’’は円の一部が直線状に切り取られた形状となっている。導電性部材321c’’の外周は絶縁性部材321b’’の内周とほぼ同じ大きさであり、絶縁性部材321b’’の内周と嵌め合いになる。各凹部322a内の絶縁性部材321b’’および導電性部材321c’’はマズル部321’’の途中あるいは上面まで延びている。導電性部材322は上方に延びて円柱状になっている。
【0061】
図7は、付着物検知部10’’の構成を模式的に示す図である。付着物検知部10’’の構成は概ね第1実施形態と同様であるが、導線11は電極部としての導電性部材321c’’のみならず導電性部材322にも接続されてよい。これにより、複数の導電性部材321c’’を跨って導電性粉体の溶融物が付着した場合のみならず、1つの導電性部材321c’’と導電性部材322とに跨って導電性粉体の溶融物が付着した場合でも、当該付着を検知できる。
【0062】
このように、第3実施形態でも、導電性粉体の溶融物の付着を早期に検知できる。そして、付着が検知された場合、溶射ノズル全体ではなく、アノード32’’のマズル部321’’のみを交換すればよく、メンテナンスの時間を短縮できる。
【0063】
以上述べた各実施形態において、
図8に示すような溶射システムを構築できる。
図8の溶射システムは、
図1に示す溶射装置に加え、コントローラ100を備えている。
【0064】
図8を参照すると、コントローラ100はマズル部321における付着量を検知する付着物検知部10によって受信した測定結果信号を受け取ることができるとともに、溶射装置の、粉体搬送用ガス供給部1、粉体供給部2、(電源ユニット3’を介して)溶射ノズル3を制御している。
【0065】
一実施例においては、付着物検知部10からの測定結果信号がマズル部321に導電性粉体溶融物が付着していることを示す場合、制御盤にアラームを発してもよい。また、コントローラ100は測定結果信号に基づいてマズル部321の交換時期を判定してもよい。
【0066】
一実施例においては、このコントローラ100は、継続的にマズル部321における付着物の有無を測定し、フィードバックループにより、カソード31およびアノード32間の高電位差が生じるような印加電圧量を制御して、単位時間あたりの導電性粉体の溶融量を制御している。
【0067】
一実施例においては、コントローラ100は、マズル部321における付着物を初めて検知した後に、粉体搬送用ガスの供給を停止して、溶射を停止処理するように粉体搬送用ガス供給部1への制御信号を出力する。そして、コントローラ100は、2回目の付着物の検知があるまでは、導電性粉体の溶融を継続するように、カソード31およびアノード32間の高電位差が生じるような印加電圧量を維持する。そして、コントローラ100は、2回目の付着物の検知信号をセンサから受け取った後に、複数のターゲットに対して連続的に処理が継続される際のその後の溶射処理を停止させてもよい。
【0068】
これにより、付着物検知部10自体が故障していることによる誤作動の場合と、正しく検知できた場合とを区別することができる。
【0069】
別の実施形態においては、コントローラ100は、予めマズル部321における付着量の許容付着量を設定しておき、許容値以下である場合には、そのまま溶射を継続してもよいと判定して、溶射を継続するように溶射装置を制御してもよい。
【0070】
なお、上述した各実施形態では、2以上の導電性部材が導通しているか否かによってマズル部に導電性粉体の溶融物の付着を検知するものであった。変形例として、導電性部材間の静電容量の変化によって溶融物の付着を検知してもよい。以下、第2実施形態で説明したアノード32’(
図4A等)を例に取って説明する。
【0071】
図9Aは、マズル部321’に溶融物が付着していない状態を示している。このとき、嵌合部33とセンサ部34における1つの導電性部材4241との間の静電容量がC1(既知の値)であるとする。静電容量C1は導電性部材4241を電極と考えた時の面積と比例する。
【0072】
図9Bは、マズル部321’に導電性の溶融物90が付着している状態を示している。このとき、テスタ12によって計測される嵌合部33aと導電性部材4241との間の静電容量はC1とは異なる値C1’となる。溶融物によって電極の面積が変動する(例えば、導電性部材4241と隣接する他の導電性部材4242とが短絡して電極の面積が大きくなる)ためである。そこで、テスタ12は、その差C1’-C1が基準値C0を超えた場合、溶融物が付着していると判定できる。
【0073】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【符号の説明】
【0074】
1 粉体搬送ガス供給部
2 粉体供給部
21 粉体誘導路
3 溶射ノズル
30 筐体
31 カソード
32,32’,32’’ アノード
320,320’,320’’ アノード本体
320a,320a’,320a’’ 空洞
320b 円柱状部分
320c 絶縁性材料
320d ネジ穴
321,321’,321’’ マズル部
321a,321a’’,34a 空洞
321b,423,425,321b’’ 絶縁性部材
321c,424,321c’’,322 導電性部材
321d 先端面
322a 凹部
33 嵌合部
33a 空洞
34 センサ部
341 円環部
342 突出部
4 プラズマ発生支援ガス供給部
5 チャンバ
51 冷却プレート
52 フィードスルー
6 ホルダ
61 XYスライダ
62 熱電対
7 圧力調整用ガス供給部
8 排気用ポンプ
9 冷却風供給部
10,10’,10’’ 付着物検知部
11 導線
12 テスタ
90 導電性粉体の溶融物