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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120818
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】溶液処理装置及び溶液処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230823BHJP
   H05H 1/30 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
C08J5/18
H05H1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023890
(22)【出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 茂仁
(72)【発明者】
【氏名】杉山 有美
(72)【発明者】
【氏名】池原 譲
【テーマコード(参考)】
2G084
4F071
【Fターム(参考)】
2G084AA24
2G084BB11
2G084CC03
2G084CC07
2G084CC19
2G084CC20
2G084CC34
2G084DD15
2G084DD22
2G084GG11
4F071AA70
4F071AG16
4F071AH19
4F071BB02
4F071BB13
4F071BC01
(57)【要約】
【課題】水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液の一部を選択的に凝集させる。
【解決手段】溶液処理装置1は、ガスを流すガス流路30を有する本体部20Aと、ガス流路30内でプラズマ放電を発生させる放電部40と、放電部40の第1電極42と第2電極44との間に電圧を印加する電源部9と、を有する。電源部9は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって放電部40に行わせ、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質において一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を有し、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液に対してプラズマを照射する溶液処理装置であって、
前記電源部が、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって前記放電部に行わせることで、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質のうち前記一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ前記他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させる
溶液処理装置。
【請求項2】
前記所定期間に前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に流れる電流の波形は、前記所定期間において正の電流値の波形と負の電流値の波形が交互に繰り返され、前記所定期間の電流値の平均が正となる波形であり、且つ前記所定期間における正のピーク電流の絶対値が負のピーク電流の絶対値よりも大きい波形である
請求項1に記載の溶液処理装置。
【請求項3】
前記放電部は、前記第1電極及び前記第2電極のうちの片方が直接又は他部材を介して前記ガス流路内の空間に面し、前記第1電極と前記第2電極との間に前記電圧を印加することに応じて前記ガス流路内で沿面放電を発生させる
請求項1又は請求項2に記載の溶液処理装置。
【請求項4】
前記ガスは、希ガスである
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の溶液処理装置。
【請求項5】
前記ガスは、ヘリウムガスである
請求項4に記載の溶液処理装置。
【請求項6】
前記溶液を収容する容器をさらに備える
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の溶液処理装置。
【請求項7】
前記容器は導電性を有し、グラウンド部に電気的に接続されている
請求項6に記載の溶液処理装置。
【請求項8】
前記容器は、導電性ガラスによって構成されている
請求項6又は請求項7に記載の溶液処理装置。
【請求項9】
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を有する溶液処理装置を用い、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液を処理する溶液処理方法であって、
前記溶液を準備する準備工程と、
前記準備工程で準備された前記溶液に対して前記溶液処理装置によってプラズマを照射する照射工程と、
を含み、
前記照射工程では、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって前記放電部に行わせることで、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質において前記一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ前記他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させる
溶液処理方法。
【請求項10】
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を有する溶液処理装置を用い、ヒト血清およびヒト血漿から水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を除く溶液処理方法であって、
前記溶液を準備する準備工程と、
前記準備工程で準備された前記溶液に対して前記溶液処理装置によってプラズマを照射する照射工程と、
を含み、
前記照射工程では、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質のうちイムノグロブリンの凝集を抑制しつつ、ハプトグロビン、トランスフェリン、IgA、a1-アンチトリプシン、a2-マクログロブリン、a1-酸性糖タンパク質、アポリポプロテインAI、アポリポプロテインAII、補体タンパク質C3、IgM、トランスサイレチン、フィブリノゲンの少なくとも1つ以上とアルブミンとを併せて選択的に凝集させて膜構造を形成する溶液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含有する溶液処理装置及びその溶液処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タンパク質水溶液の処理方法が開示されている。特許文献1で開示される処理方法では、水系溶媒にタンパク質が混合されてタンパク質水溶液が作成され、このタンパク質水溶液に対してプラズマ発生装置で発生したプラズマが照射されることでタンパク質膜が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-218245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示される処理方法では、商用交流電源からの交流電圧、即ち、正弦波のような一般的な交流電圧を昇圧して電極間に印加することで、プラズマを発生させる。しかし、このような方法によって発生したプラズマの特性は、一般的なタンパク質を含んだ溶液に照射したときに、タンパク質の性質に寄らず、全体的に凝集しやすい特性であった。ゆえに、選択的に凝集させることが必要な場合には、上記方法によって発生したプラズマの特性では効率的に凝集させることが難しかった。
【0005】
本開示は、上述した課題の少なくとも一部を解決するために、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液の一部を選択的に凝集させ得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の溶液処理装置は、
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を有し、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液に対してプラズマを照射する溶液処理装置であって、
前記溶液処理装置が、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって前記放電部に行わせることで、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質のうち前記一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ前記他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させる。
【0007】
上記の溶液処理装置では、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射するという特徴的な動作により、上記一方の電荷が優位な状態のプラズマを所定期間にわたって水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に供給することができる。このような動作により、上記一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ上記他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させることができる。
【0008】
本開示の一態様の溶液処理装置において、上記所定期間に上記水に溶解しやすいために
血液中に多く存在するタンパク質に流れる電流の波形は、上記所定期間において正の電流値の波形と負の電流値の波形が交互に繰り返され、上記所定期間の漏れ電流の値の平均が正となる波形であり、且つ上記所定期間における正のピーク電流の絶対値が負のピーク電流の絶対値よりも大きい波形であることが、より望ましい。このような電流が流れるように処理を行うことで、正に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ負に帯電したタンパク質を選択的に凝集させやすい。
【0009】
本開示の一態様の溶液処理装置において、放電部は、第1電極及び第2電極のうちの片方が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面し、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することに応じてガス流路内で沿面放電を発生させる構成であってもよい。この溶液処理装置は、放電部が沿面放電を発生させる構成であるため、より低い印加電圧で、より効率的にプラズマを照射することができる。
【0010】
本開示の一態様の溶液処理装置は、溶液を収容する容器をさらに備えていてもよい。この溶液処理装置は、容器に収容された溶液でタンパク質の凝集を生じさせうる。
【0011】
本開示の一態様の溶液処理装置において、容器は導電性を有し、グラウンド部に電気的に接続されていてもよい。この溶液処理装置は、容器に収容された溶液に対してプラズマを照射したときに容器を介してグラウンド部側に電流が流れやすくなる。よって、この溶液処理装置は、より小さい電力で、より効率的に凝集を生じさせうる。
【0012】
本開示の一態様の溶液処理装置において、容器は、容器の電位をグラウンド部の電位からオフセットさせる抵抗要素を介してグラウンド部に接続されていてもよい。この溶液処理装置は、抵抗要素の存在により、容器を介してグラウンド部側に流れる電流をコントロールすることができる。
【0013】
本開示の一態様の溶液処理装置において、容器は、導電性ガラスによって構成されていてもよい。この溶液処理装置は、容器においてある程度の抵抗を確保することができ、容器を介してグラウンド部側に流れる電流をコントロールすることができる。
【0014】
本開示の一つである溶液処理方法は、
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を有する溶液処理装置を用い、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液を処理する溶液処理方法であって、
前記溶液を準備する準備工程と、
前記準備工程で準備された前記溶液に対して前記溶液処理装置によってプラズマを照射する照射工程と、
を含み、
前記照射工程では、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって前記放電部に行わせることで、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質において前記一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ前記他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させる。
【0015】
上記の溶液処理方法は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射するという特徴的な動作により、上記一方の電荷が優位な状態のプラズマを所定期間にわたって水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に供給することができる。このような動作により、上記一方に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ上記他方に帯電したタンパク質を選択的に凝集させることができる。
【0016】
本開示の一つである溶液処理方法は、
ガスの放出口を備えるとともに前記放出口に向かって前記ガスを流すガス流路を有する本体部と、誘電体層と前記誘電体層を介して互いに対向して配置される第1電極及び第2電極とを備えるとともに前記ガス流路内でプラズマ放電を発生させる放電部と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源部と、を有する溶液処理装置を用い、ヒト血清およびヒト血漿から水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を除く溶液処理方法であって、
前記溶液を準備する準備工程と、
前記準備工程で準備された前記溶液に対して前記溶液処理装置によってプラズマを照射する照射工程と、
を含み、
前記照射工程では、前記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質のうちイムノグロブリンの凝集を抑制しつつ、ハプトグロビン、トランスフェリン、IgA、a1-アンチトリプシン、a2-マクログロブリン、a1-酸性糖タンパク質、アポリポプロテインAI、アポリポプロテインAII、補体タンパク質C3、IgM、トランスサイレチン、フィブリノゲンの少なくとも1つ以上とアルブミンとを併せて選択的に凝集させて膜構造を形成する。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る技術は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液の一部を選択的に凝集させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、第1実施形態の溶液処理装置が概略的に例示される概略図である。
図2図2は、第1実施形態の溶液処理装置における本体部が概念的に例示される斜視図である。
図3図3は、図2で例示された本体部が三分割して示される分解斜視図である。
図4図4は、図2で例示された本体部が第3方向(幅方向)中心位置にて第3方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
図5図5は、図2で例示された本体部が第1方向中心位置にて第1方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
図6図6は、図2で例示された本体部が第2方向(厚さ方向)中心位置にて第2方向と直交する方向に切断された切断面の断面概略図である。
図7図7は、第1実施形態に係る溶液処理装置において電源部が第1電極と第2電極との間に印加する電圧の波形を例示する波形図である。
図8図8は、第1実施形態に係る溶液処理装置において、図7のような波形の電圧を印加して発生したプラズマを容器内の水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に照射した場合に容器から漏れる漏れ電流の波形を例示する波形図である。
図9図9は、図1の溶液処理装置を用い、第1電極と第2電極との間に図7のような波形の電圧を印加して発生したプラズマを試料(溶液)に照射し、図8のような漏れ電流が流れるように処理した場合の処理後の試料(溶液)を示す、実験例の写真である。
図10図10は、第2実施形態の溶液処理装置が概略的に例示される概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
1.溶液処理装置の構成
第1実施形態に係る溶液処理装置1は、図1のような構成をなす。溶液処理装置1は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液に対してプラズマを照射する装置であり、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含む溶液を処理する機能を有する装置である。溶液処理装置1は、主に、プラズマ照射装置2及び容器80を備える。プラズマ照射装置2は、主に、照射ユニット3、ガス供給部7、制御部5、電源部9、などを備える。
【0020】
容器80は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含む溶液90を収容する容器である。容器80は、導電性を有し、グラウンド部98に電気的に接続されている。グラウンド部98は、自身の電位が所定のグラウンド電位(例えば0V)付近に安定的に保たれる導電部である。グラウンド部98は、金属材料などの導電性を有する材料によって構成されている。容器80は、溶液90が接触する内面部80Aとグラウンド部98とが電気的に接続されている。従って、内面部80Aの電位がグラウンド部98の電位よりも高くなっているときに内面部80A側からグラウンド部98側に電流が流れる。逆に、内面部80Aの電位がグラウンド部98の電位よりも低くなっているときにはグラウンド部98側から内面部80Aに電流が流れる。
【0021】
図1で示される代表例では、容器80は、全体が樹脂によって構成されている。但し、容器80は、自身の一部が樹脂以外の材料(例えば公知の金属材料や公知の非金属材料)によって構成されていてもよい。容器80は、溶液90に接触する内面部80Aと外面部80Bとが電気的に接続され、内面部80Aと外面部80Bとの間で電流が流れ得る。更に、容器80の外面部80Bとグラウンド部98とが短絡しており、外面部80Bがグラウンド部98の電位と同電位に保たれるようになっている。従って、内面部80Aの電位がグラウンド部98の電位よりも高くなっているときには、内面部80A側から外面部80Bを介してグラウンド部98側に電流が流れる。
【0022】
溶液90は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含有する液である。溶液90の状態は、液体状、ゼリー状、ゲル状、ゾル状のいずれであってもよく、これらの2種以上の状態のものが含まれていてもよい。つまり、本明細書において「溶液」は、液体、ゲル、ゾルのいずれも含む概念である。溶液90は、タンパク質として血液の成分を含み、例えば、血漿、赤血球、白血球、血小板などを含む。但し、溶液90には、白血球、血小板などの一部の成分が含まれていなくてもよい。具体的には、溶液90は、タンパク質としてヘモグロビンやアルブミンなどの負に帯電したタンパク質を1種類以上含み、イムノグロブリンなどの正に帯電したタンパク質を1種類以上含む。
【0023】
ガス供給部7は、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガス(以下、単にガスともいう)を供給する装置であり、例えば、照射ユニット3とガス供給部7との間に介在する可撓性の管路を介して後述するガス流路30に不活性ガスを供給する。ガス供給部7は、例えばボンベ等から供給される高圧ガスを減圧するレギュレータと、流量制御を行う制御部とを含み、制御部は、ガス流路30を流れるガスの流量を制御し得る。図1では、上記管路、上記レギュレータ、及び上記制御部などの図示が省略されている。
【0024】
電源部9は、周期的な電圧を発生させ、照射ユニット3に設けられた後述の2つの電極間に電圧を印加する装置である。電源部9は、主に制御部5と電源回路6とを備える。電源回路6は、高周波数の高電圧を発生させて導電部間に印加し得る回路であればよく、公知の様々な電源回路が採用され得る。制御部5は、電源回路6を制御し得る装置であればよく、例えば、マイクロコンピュータなどの情報処理装置を有する制御装置によって構成されている。図1の例では、電源部9の全体が、照射ユニット3の外部に設けられている。しかし、電源部9の一部又は全部が、照射ユニット3に設けられていてもよい。電源部9の詳細は、後述される。
【0025】
照射ユニット3は、プラズマを発生させて照射し得るユニットである。照射ユニット3は、主に、プラズマ照射部20と、このプラズマ照射部20を保持する保持部3Aとを備える。照射ユニット3は、使用者によって把持されつつ使用される構成であってもよく、使用者以外の手段(例えば、ロボット等)によって移動可能とされる構成であってもよく、位置が固定された移動不能な状態で使用される構成であってもよい。
【0026】
保持部3Aは、プラズマ照射部20における本体部20Aが固定される部位であり、本体部20Aを保持する機能を有する。保持部3Aは、本体部20Aを自身の内部に配置しつつ保持する構成であってもよく、本体部20Aを自身の外側に配置しつつ保持する構成であってもよい。図1の例では、保持部3Aは、ケース体として構成され、本体部20Aは、保持部3Aの内部に収容されつつ保持部3Aに対して固定されている。
【0027】
プラズマ照射部20は、誘電体バリア放電を生じさせる装置として構成されている。プラズマ照射部20は、図2のような外観であり、所定の立体形状として構成された本体部20Aを備える。図2の例では、本体部20Aは、板状且つ直方体状に構成されている。プラズマ照射部20は、本体部20Aの長手方向の端部に形成された放出口34からプラズマPを照射するように動作する。プラズマPは、いわゆる大気圧低温プラズマである。
【0028】
図3には、本体部20Aが3分割された構成が分解斜視図として概念的に示されている。本体部20Aは、厚さ方向中央部に第3誘電体層53が設けられ、第3誘電体層53よりも厚さ方向一方側に第4誘電体層54が設けられている。更に、本体部20Aは、第3誘電体層53よりも厚さ方向他方側に第1誘電体層51及び第2誘電体層52が設けられている。第1誘電体層51及び第2誘電体層52によって構成された誘電体領域の内部には、第1電極42及び第2電極44が埋め込まれている。図3には、本体部20Aが3分割された構成が概念的に示されているが、実際の構成は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54の各々が、一体的な誘電体部50(図5参照)の一部として構成されている。
【0029】
図4で示されるように、本体部20Aには、放出口34に向かってガスを流すように構成されたガス流路30が設けられている。ガス流路30は、ガスを導入する導入口32と、ガスを放出する放出口34と、導入口32と放出口34との間に設けられる中間流路36と、を有する。導入口32は、本体部20Aの後端側において本体部20Aの内部と外部とに通じる開口部である。放出口34は、本体部20Aの先端側において本体部20Aの内部と外部とに通じる開口部である。中間流路36は、導入口32と放出口34とに通じる通気路であり、導入口32と放出口34との間でガスを流す流路である。ガス流路30は、照射ユニット3の外部に設けられたガス供給部7から供給される不活性ガスを導入口32から導入し、導入口32側から導入されたガスを中間流路36内の空間を通して放出口34に誘導する誘導路となっている。図4では、ガス供給部7から供給される不活性ガスを導入口32に導くための管路7Aが二点鎖線によって概念的に示されている。
【0030】
図4で示されるように、プラズマ照射部20には放電部40が設けられている。放電部40は、ガス流路30内でプラズマ放電を発生させる部位である。放電部40は、誘電体部50と第1電極42と第2電極44とを備え、第1電極42と第2電極44とが誘電体部50の一部である第1誘電体層51を介して互いに対向して配置される。放電部40は、沿面放電部として構成され、第1電極42と第2電極44との電位差に基づく電界をガス流路30内で発生させてその内壁面に沿った沿面放電による大気圧低温プラズマを発生させる。
【0031】
本明細書では、プラズマ照射部20においてガス流路30が延びる方向が第1方向であり、第1方向と直交する方向のうち誘電体部50の厚さ方向が第2方向であり、第1方向及び第2方向と直交する方向が第3方向である。図4の例では、誘電体部50と第1電極42と第2電極44とが一体的に設けられて本体部20Aが構成され、本体部20Aの長手方向が第1方向である。図5のように、第2方向は、本体部20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面での本体部20Aの短手方向であり、本体部20Aの高さ方向且つ厚さ方向である。第3方向は、本体部20Aを第1方向と直交する平面方向に切断した切断面での本体部20Aの長手方向であり、本体部20Aの幅方向である。本明細書では、第1方向において放出口34側が本体部20Aの先端側であり、第1方向において導入口32側が本体部20Aの後端側である。
【0032】
図5で示されるように、誘電体部50は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54を備え、本体部20Aは全体として中空状に構成されている。第1誘電体層51は、中間流路36内の空間よりも第2方向(厚さ方向)他方側に配置されるとともに自身の内部に第2電極44が埋め込まれるように構成される。つまり、第1誘電体層51を介して第1電極42及び第2電極44が対向している。第2誘電体層52は、セラミック材料によって第1電極42を覆うように構成されたセラミック保護層であり、第1誘電体層51よりも中間流路36の空間側において第1電極42を覆うように配置される。第1誘電体層51及び第2誘電体層52は、中間流路36における第2方向他方側の内壁部を構成する。第4誘電体層54は、中間流路36の空間よりも第2方向(厚さ方向)一方側に配置され、中間流路36における第2方向一方側の内壁部を構成する。第3誘電体層53は、第2方向において第1誘電体層51と第4誘電体層54との間に配置され、中間流路36における第3方向一方側の側壁部及び第3方向他方側の側壁部を構成する。つまり、中間流路36は、第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54により画成されている。第1誘電体層51、第2誘電体層52、第3誘電体層53、及び第4誘電体層54の材料は、例えばアルミナなどのセラミック、ガラス材料や樹脂材料を好適に用いることができる。誘電体部50において機械的強度が高いアルミナが誘電体として用いられれば、放電部40の小型化が図られやすくなる。
【0033】
図5で示されるように、第1電極42は、誘電体部50の一部である第2誘電体層52を介して中間流路36内の空間に面する。第2電極44は、第1電極42に対して中間流路36とは反対側に設けられる。第2電極44は、第1電極42と平行に配されており、第2方向において第1電極42よりも中間流路36から離れている。図6で示されるように、第1電極42は、中間流路36に沿うように第1方向に直線状に延び、第1の幅且つ第1の厚さで第1方向の第1領域に配置されている。第2電極44は、中間流路36に沿うように第1方向に直線状に延び、第2の幅且つ第2の厚さで第1方向の第2領域に配置されている。第1電極42及び第2電極44の厚さ、幅、配置は、特に限定されない。第1電極42と第2電極44の幅や厚さの一方又は両方は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
このように構成された放電部40は、周期的に変化する電圧が第1電極42と第2電極44との間に印加されたときに中間流路36内で沿面放電を発生させる。沿面放電によって生じたプラズマは、ガス供給部7から中間流路36内に供給されたガスによって放出口34を介して外部に放出される。なお、図6の例では、第1方向の領域AR1において中間流路36が一定幅で構成され、領域AR2では、先端側に向かうにつれて中間流路36の幅が小さくなっており、放出口34付近においてガスの流速を高め得る構成となっている。従って、中間流路36で生じたプラズマが、より遠方まで届きやすくなっている。
【0035】
2.電源部の詳細
電源部9は、第1電極42と第2電極44との間に、周期的に変化する電圧を、高い周波数で印加する。第1実施形態や後述される第1実施形態以外のいずれの実施形態においても、電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する電圧の周波数は、20kHz~300kHzの範囲内であることが望ましい。また、第1実施形態や後述される第1実施形態以外のいずれの実施形態においても、電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する電圧は、第1電極42と第2電極44との間の電位差の最大値が0.5kV~10kVの範囲内となるように調整されることが望ましい。電源部9は、このような高周波の高電圧を生成し得る回路であれば、公知の様々な交流回路又は直流回路を採用し得る。なお、本明細書では、第1電極42と第2電極44との間に印加される印加電圧は、第2電極44の電位を基準とする第1電極42の電位の相対的な大きさであり、第1電極42の電位をV1とし、第2電極44の電位をV2とする場合、上記印加電圧は、V1-V2である。
【0036】
第1実施形態や後述される第1実施形態以外のいずれの実施形態においても、電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する電圧の波形は、例えば、凸波形と凹波形とが交互に繰り返されるように周期的に変化する波形である。この電圧波形は、正弦波のような曲線波形であってもよく、矩形波形、三角波形などであってもよい。
【0037】
図7には、第1態様の溶液処理装置1において電源部9が採用する電圧波形が例示されている。図7のグラフにおいて、縦軸は第1電極42と第2電極44との間に印加される印加電圧に対応し、横軸は時間(経過時間)に対応する。図7は、電源部9が印加する上記印加電圧(V1-V2)の経時的な変化を表している。図7において、凸波形は、縦軸の一方側(具体的には、電圧が大きい側)に対して凸となる波形である。凹波形は、縦軸の上記一方側に対して凹となる波形であり、縦軸の他方側(具体的には、電圧が小さい側)に対して凸となる波形である。図7に示される印加電圧の波形では、時間t1から時間t2までの1つの周期Tに上記凸波形及び上記凹波形が含まれ、このような1周期Tの電圧波形が複数周期にわたって周期的に繰り返される。なお、図7に示される印加電圧の具体的な値や時間(経過時間)の具体的な値は公的な一例を示すものであり、この内容に限定されるわけではない。
【0038】
図7に示される上記印加電圧の波形において、各周期の凸波形は、各周期の最大電圧値を含んだ電圧波形であり、各周期において最大電圧値となる時間までは電圧が上昇する上昇波形となり、最大電圧値となった時間を過ぎると電圧が下降する下降波形となる。凸波形の上昇波形には、電圧が一時的に下降する波形が含まれていてもよく、凸波形の下降波形には電圧が一時的に上昇する波形が含まれていてもよい。各凸波形のピーク電圧は、各周期における最大電圧値と0Vとの差(具体的には、最大電圧値から0Vを減じた値)である。図7では、周期Tの凸波形のピーク電圧として電圧値Va1が例示され、周期Tの次の周期の凸波形のピーク電圧として電圧値Va2が例示される。電圧値Va1、Va2のいずれも正の値である。各周期の凹波形は、各周期における最小電圧値を含んだ電圧波形であり、各周期において最小電圧値となる時間までは電圧が下降する下降波形となり、最小電圧値となった時間を過ぎると電圧が上昇する上昇波形となる。凹波形の下降波形には、電圧が一時的に上昇する波形が含まれていてもよく、凹波形の上昇波形には、電圧が一時的に下降する波形が含まれていてもよい。各凹波形のピーク電圧は、各周期における最小電圧値と0Vの差(具体的には、最小電圧値から0Vを減じた値)である。図7では、周期Tの凹波形のピーク電圧として電圧値Vb1が例示され、周期Tの前の周期の凹波形のピーク電圧として電圧値Vb0が例示される。電圧値Vb1、Va0のいずれも負の値である。
【0039】
図7に示されるように、電源部9が第1電極42と第2電極44との間に印加する印加電圧の波形は、凸波形のピーク電圧の平均値と凹波形のピーク電圧の平均値との合計値がプラスとなるプラス偏向波形である。凸波形のピーク電圧の平均値は、所定期間(例えば、予め定められた所定数の周期)における凸波形のピーク電圧の平均値Av1である。以下の説明では、平均値Av1は第1平均値Av1とも称される。凹波形のピーク電圧の平均値は、所定期間(例えば、予め定められた所定数の周期)における凹波形のピーク電圧の平均値Av2である。以下の説明では、平均値Av2は第2平均値Av2とも称される。例えば、任意の時間Teの時点における上記第1平均値Av1は、時間Teまでの上記所定数の周期(例えば、10周期)の期間における凸波形のピーク電圧の平均値である。同様に、時間Teの時点における上記第2平均値Av2は、時間Teまでの上記所定数の周期(例えば、10周期)の期間における凹波形のピーク電圧の平均値である。時間Teまでの上記所定数の周期の期間は、時間Teを終了時点とし、時間Teから上記所定数の周期(例えば、10周期)だけ遡った時間Tsを開始時点とする、時間Tsから時間Teまでの期間である。このように第1平均値Av1及び第2平均値Av2が定められれば、任意の時間Teにおいて時間Teに対応した第1平均値Av1及び第2平均値Av2が定まることになる。
【0040】
溶液処理装置1では、電源部9が第1電極42及び第2電極44に対して図7のようなプラス偏向波形となる印加電圧を加えることにより、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正に帯電したプラズマを負に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって放電部40に行わせ、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対して図8のような所定の電流波形の電流を流す。
【0041】
図8のグラフは、図7のような波形の電圧を放電部40に印加して発生したプラズマを容器80内の溶液90(具体的には溶液90内の水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質)に照射した場合に容器80から漏れる漏れ電流の経時的な変化を示すものである。図8において、縦軸は上記漏れ電流の値に対応し、横軸は時間(経過時間)に対応する。容器80から漏れる漏れ電流の方向は、容器80からグラウンド98に向かう方向が正の方向である。図8の時間t1は、図7の時間t1に対応し、図8の時間t2は、図7の時間t2に対応する。時間t1から時間t2までの周期Tにおいて図7のように印加電圧が加えられた場合の当該周期Tの漏れ電流の波形は、図8における時間t1から時間t2までの波形である。なお、図8に示される漏れ電流の具体的な値や時間(経過時間)の具体的な値は公的な一例を示すものであり、この内容に限定されるわけではない。
【0042】
図8に示されるように、上記所定期間(例えば、周期Tの所定数分の時間)に水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に流れる電流(具体的には、溶液90に含まれる水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質からグラウンド98に流れる漏れ電流)の波形は、正の電流値の波形と負の電流値の波形が交互に繰り返される波形である。更に、上記所定期間に水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に流れる電流の波形は、上記所定期間の電流値の平均が正となる波形であり、上記所定期間における正のピーク(上記所定期間において最も大きい電流値)の絶対値が負のピーク(上記所定期間において最も小さい電流値)の絶対値よりも大きい波形である。更に、上記所定期間の上記電流波形において、各周期の正のピーク電流(各周期における最も大きい電流値)を平均した平均値の絶対値は、上記所定期間における各周期の負のピーク電流(各周期における最も小さい電流値)を平均した平均値の絶対値よりも大きい。
【0043】
3.溶液処理装置の動作
図1に示される上述の溶液処理装置1は、以下で説明される溶液処理方法に用いることができる。この溶液処理方法は、溶液処理装置1を用い、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液90を処理する方法であり、主に、準備工程と、照射工程と、を含む。
【0044】
準備工程は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液90を準備する工程である。具体的には、準備工程は、上述したプラズマ照射装置2と、容器80と、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液90とを用意し、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液90を容器80内に収容するように準備する工程である。プラズマ照射装置2と容器80と溶液90とを用意する作業は、例えば、作業者が行うことができる。溶液90を容器80内に収容するように準備する作業も、作業者が行うことができる。なお、準備工程の一部又は全部の作業は、装置によって機械的に行われてもよい。また、溶液90は、どのような方法で用意されてもよい。
【0045】
照射工程は、準備工程で準備された溶液90に対して溶液処理装置1によってプラズマを照射する工程である。照射工程では、放出口34を容器80内の溶液90に向けるようにプラズマ照射部20が配置され、この状態で、プラズマ照射部20が溶液90に対して特徴的なプラズマを照射する。
【0046】
照射工程では、ガス流路30内の空間を不活性ガス(例えば、ヘリウムガスなどの希ガス)が流れるようにガス供給部7から不活性ガスが供給される。そして、照射工程では、このようにガス流路30内を不活性ガスが流れている状態で、電源部9が、上述の電圧波形となるように且つ上述の電流波形で漏れ電流が流れるように第1電極42と第2電極44との間に電圧を周期的に印加する。上述の電圧波形とは、図7で例示されるような「凸波形と凹波形とが交互に繰り返され、凸波形のピーク電圧の平均値と凹波形のピーク電圧の平均値との合計値がプラスとなるプラス偏向波形」である。上述の電流波形とは、図8で例示されるような「正の電流値の波形と負の電流値の波形が交互に繰り返され、電流値の平均が正となる波形であり、且つ正のピークの絶対値が負のピークの絶対値よりも大きい波形」である。このように、ガス流路30内において不活性ガスが流れている状態で上述の電圧波形の周期的な電圧が第1電極42と第2電極44との間に印加されると、ガス流路30内の空間では沿面放電が生じる。この沿面放電によって生じるプラズマは、正に帯電したプラズマのほうが負に帯電したプラズマよりも多い「正の荷電量が優位なプラズマ」であり、このようなプラズマが放出口34から溶液90に向けて放出される。
【0047】
このように、照射工程では、プラズマ照射部20が特徴的な電圧波形の電圧を電極間に印加してプラズマを生じさせ、電圧波形に応じた特徴的な特性のプラズマを溶液90に照射する。このようなプラズマが溶液90に照射されると、溶液90では、負に帯電したタンパク質の凝集が、正に帯電したタンパク質の凝集よりも促進される。よって、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質において正に帯電したタンパク質の凝集を負に帯電したタンパク質の凝集よりも抑制しながら負に帯電したタンパク質を選択的に凝集させることができる。例えば、溶液90において負に帯電したタンパク質であるヘモグロビンやアルブミンと正に帯電したタンパク質であるイムノグロブリンが含まれる場合、上述の照射工程では、この溶液90に対して上述のプラズマを照射することで、溶液90に含まれる水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質においてイムノグロブリンの凝集膜を形成することなく、ヘモグロビンやアルブミンの凝集膜を選択的に形成するように処理を行うことができる。
【0048】
4.評価試験
以下の説明は、本開示の効果を確認するための実験例に関する。
実験例に用いる溶液は、以下のように作製された。まず、人より採取した血液からHistopaque-1077(米国Sigma-Aldrich 社製)により、赤血球が遠心分離によって分取された。赤血球は十分に洗浄され、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate-Buffered Saline: PBS)中に希釈された。このように赤血球が希釈された溶液が、実験例の試料1である。
【0049】
実験例では、図1で示される第1実施形態の溶液処理装置1と同様の構成を有する溶液処理装置が用いられた。容器80は、樹脂製の容器が採用された。上述の方法で作製された試料1(溶液)が容器80内に収容され、その状態で上述の溶液処理装置のプラズマ照射部によって試料1(溶液)に対してプラズマが照射された。プラズマ照射部から試料1(溶液)までの照射距離は、試料1(溶液)の液面がプラズマの放出口付近に位置する距離であり、おおよそ3mm~5mmとされた。このようなプラズマの照射は、試料1の表層部において凝固が確認されるまで行われた。
【0050】
実験例は、第1実施形態の溶液処理方法で処理を行った例である。実験例では、第1電極42と第2電極44との間に印加する電圧の波形として、図7のような波形が用いられ、図8のような電流波形で漏れ電流が流れるように処理が行われた。
【0051】
実験例では、試料1(溶液)の一部にタンパク質が凝固した層(以下、凝固層という)が生じるまでプラズマが照射された後の試料1が走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察された。具体的には、処理後の試料1が、図1において切断位置Ca,Cbとして例示されるように深さ方向に沿った2位置の切断面で切断され、薄くスライスされた。そして、このようにスライスされた試料1が走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された。
【0052】
図9には、実験例の処理方法で得られた試料の写真が示される。図9のように実験例の処理方法で処理を行った試料1は、プラズマが照射された最表層にあたる領域Faにおいて赤血球が溶血して漏出した負に帯電したタンパク質(ヘモグロビン)が凝集して生じた凝固層が確認され、凝固層から外れた内部の領域Fbでは凝固層が確認されなかった。
【0053】
次に、試料1において、ヘモグロビンに代わってイムノグロブリンが希釈された溶液を試料2とし、試料2に試料1と同様の手順でプラズマ照射を行った。しかし、凝固層は形成されず、タンパク質の凝固は見られなかった。
【0054】
このように、第1実施形態に係る溶液処理方法を用いることで、タンパク質の凝集を選択的に行うことができることが確認された。
【0055】
5.第1態様の効果の例
上述した溶液処理装置1及び溶液処理方法は、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正に帯電したプラズマを負に帯電したプラズマよりも多く照射するという特徴的な動作により、正の電荷が優位な状態のプラズマを所定期間にわたって水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に供給することができる。このような動作により、正に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ負に帯電したタンパク質を選択的に凝集させることができる。
【0056】
溶液処理装置1は、第1電極42及び第2電極44のうちの片方(図5の例では第1電極42)が他部材(第2誘電体層52)を介してガス流路30内の空間に面し、第1電極42と第2電極44との間に電圧を印加することに応じてガス流路30内で沿面放電を発生させる構成である。このように、放電部40が沿面放電を発生させる構成であるため、より低い印加電圧で、より効率的にプラズマを照射することができる。
【0057】
溶液処理装置1は、容器80に収容された溶液90で水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質の凝集を生じさせうる。更に、溶液処理装置1は、容器80が導電性を有し且つグラウンド部98に対して電気的に接続されているため、容器80に収容された溶液90に対してプラズマを照射したときに容器80を介してグラウンド部98側に電流が流れやすくなる。よって、溶液処理装置1は、より小さい電力で、より効率的に水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質の凝集を生じさせうる。
【0058】
<第2実施形態>
以下の説明は、図10において例示される第2実施形態の溶液処理装置201に関する。図10の溶液処理装置201は、抵抗要素202を備えた点及び容器80の材料が異なる点が第1実施形態の溶液処理装置1と異なり、その他の点は第1実施形態の溶液処理装置1と同一である。よって、以下では、主に抵抗要素202に関する内容が重点的に説明される。
【0059】
溶液処理装置201に用いられるプラズマ照射装置2は、第1実施形態の溶液処理装置1におけるプラズマ照射装置2と同一の構成をなし、第1実施形態と同一の動作を行う。
【0060】
溶液処理装置201に用いられる容器80は、第1実施形態の溶液処理装置1における容器80と同一の構成をなす。但し、第2実施形態の容器80は、導電性ガラスによって構成されている。従って、溶液処理装置201は、容器80においてある程度の抵抗を確保することができ、容器80を介してグラウンド部98側に流れる電流をコントロールすることができる。容器80に収容される溶液90は、第1実施形態で例示された溶液90の具体例のうち、いずれの例が用いられてもよい。
【0061】
溶液処理装置201では、容器80は、抵抗要素202を介してグラウンド部98に接続されている。抵抗要素202は、容器80の電位をグラウンド部98の電位からオフセットさせる機能を有する。具体的には、抵抗要素202は可変抵抗202Aを備える。そして、導電性を有する容器80の外面部80Bとグラウンド部98との間に可変抵抗202Aが介在する。そして、外面部80Bの電位がグラウンド部98の電位よりも高いときに外面部80Bから可変抵抗202Aを介して電流が流れるようになっている。この例では、容器80から可変抵抗202Aを介してグラウンド部98に電流が流れるときに、可変抵抗202Aで生じる電圧降下に基づいて容器80の電位がグラウンド部98よりも高く設定される。
【0062】
溶液処理装置201は、第1実施形態の溶液処理装置1と同様の効果を生じさせることができる。更に、溶液処理装置201は、抵抗要素202の存在により、グラウンド部98側に流れる電流をコントロールすることができる。
【0063】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態の特徴は、次のように変更されてもよい。
【0064】
上述の実施形態では、電源部9が、溶液90に含まれる水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正に帯電したプラズマを負に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって放電部40に行わせることで、上記水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質において正に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ負に帯電したタンパク質を選択的に凝集させる。しかし、本開示に係る技術は、この例に限定されない。電源部9は、溶液90に含まれる水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し負に帯電したプラズマを正に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって放電部40に行わせることで、当該水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質において負に帯電したタンパク質の凝集を抑制しつつ正に帯電したタンパク質を選択的に凝集させてもよい。この場合、電源部9は、上記所定期間に水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に流れる電流の波形が「正の電流値の波形と負の電流値の波形が交互に繰り返され、上記所定期間の電流値の平均が負となる波形であり、且つ負のピークの絶対値が正のピークの絶対値よりも大きい波形」となるように、放電部40を動作させればよい。
【0065】
上述の実施形態では、負に帯電した水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質として、ヘモグロビンが例示されたが、例えば、赤血球、アルブミンなどであってもよい。また、上述の実施形態では、正に帯電したタンパク質としてイムノグロブリンが例示されたが、例えば、フェブリノーゲンなどであってもよい。
【0066】
上記実施形態の溶液処理装置は、図5のように、第1電極42が他部材である第2誘電体層52を介してガス流路30内の空間に面していたが、第1電極42が他部材を介さずにガス流路30内の空間に面していてもよい。つまり、第1電極42がガス流路30内の空間に露出し、第1電極42がガス流路30の内壁の一部をなすような構成であってもよい。
【0067】
上述した例では、第1電極が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面するが、第2電極が直接又は他部材を介してガス流路内の空間に面してもよい。例えば、第2電極が「他部材」である誘電体層に覆われる構成で誘電体層を介してガス流路内の空間に面していてもよい。或いは、第2電極がガス流路内の空間に露出し、第2電極がガス流路の内壁の一部をなすような構成であってもよい。いずれの場合でも、第1電極は、第2電極よりもガス流路から離れた位置に配置されていればよい。
【0068】
上述の実施形態では、容器80が樹脂や導電性ガラスによって構成されているが、容器80は、導電性を有する他の材料(例えば、金属材料)によって構成されていてもよい。或いは、容器80は、導電性を有さない材料によって構成されていてもよい。
【0069】
上述の実施形態は、容器80に収容された溶液90に対してプラズマを照射する構成であるが、この例に限定されない。例えば、「容器に収容されない水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液」に対して上述のプラズマ照射装置2によってプラズマが照射され、この溶液において凝集作用が生じるように溶液処理方法が行われてもよい。この方法では、プラズマ照射装置2を溶液処理装置として機能させることができる。そして、準備工程では、上述のプラズマ照射装置2が準備され、このプラズマ照射装置2からプラズマが照射され得る位置に水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液が配置される。そして、照射工程では、プラズマ照射装置2からプラズマが照射され得る位置に配置された溶液に対してプラズマ照射装置2によってプラズマが照射される。この例において、「容器に収容されない水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質を含んだ溶液」は、動物や人体などの表面や内部に存在する溶液などであってもよく、容器に収容されないその他の溶液であってもよい。
【0070】
第2実施形態の溶液処理装置201では、抵抗要素202として可変抵抗202Aが設けられていたが、可変抵抗202Aに代えて又は可変抵抗202Aに加えて、固定抵抗、インダクタ、コンデンサ、などの電気部品を抵抗要素として設けてもよい。抵抗要素202は、当該抵抗要素202を介して容器80からグラウンド部98へと電流が流れ得る構成であって且つ当該抵抗要素202の存在により容器80の電位をグラウンド部98の電位よりも高く設定し得る構成であればよい。例えば、抵抗要素202は、容器80の電位をグラウンド部98の電位から一定値オフセットさせた所定電位に維持するような電圧生成回路であってもよい。
【0071】
上述の実施形態では、周期的な電圧波形として、図7のような例が示されたが、周期的な電圧波形はこれらの例に限定されない。電源部9が両電極に印加する周期的な電圧の波形は、正弦波のような曲線波形であってもよく、矩形波形、三角波形などであってもよい。いずれの場合でも、水に溶解しやすいために血液中に多く存在するタンパク質に対し正又は負の一方に帯電したプラズマを他方に帯電したプラズマよりも多く照射する動作を所定期間にわたって放電部に行わせることができる波形であればよい。
【0072】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1,201 :溶液処理装置
5 :制御部
9 :電源部
20A :本体部
30 :ガス流路
34 :放出口
40 :放電部
42 :第1電極
44 :第2電極
50 :誘電体層
80 :容器
90 :溶液
98 :グラウンド部
202 :抵抗要素
P :プラズマ
図1
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