(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120915
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法
(51)【国際特許分類】
F01D 15/10 20060101AFI20230823BHJP
F01K 13/00 20060101ALI20230823BHJP
F22B 33/18 20060101ALI20230823BHJP
F22B 35/00 20060101ALI20230823BHJP
【FI】
F01D15/10 Z
F01K13/00 D
F22B33/18
F22B35/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024058
(22)【出願日】2022-02-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】大高 秀夫
【テーマコード(参考)】
3L021
【Fターム(参考)】
3L021AA05
3L021BA08
3L021DA03
3L021DA26
3L021DA38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】発電プラントの燃料から送電端までの各設備における熱収支の計算より、送電端熱効率が改善される冷却塔のファン出力、循環ポンプの出力等の補機出力条件の組み合わせを導く発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法を提供する。
【解決手段】発電機等含む主機13と冷却塔15等を含む補機とを備える発電プラント1で実現可能な送電端熱効率の予測方法であって、ボイラー11における蒸気発生量または燃料使用量と、前記補機の運転条件設定に必要な熱収支計算とから、送電端熱効率が最大となる条件を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を発生させるボイラー、前記ボイラーから排出させた蒸気によって作動する蒸気タービンおよび前記蒸気タービンの作動によって駆動する発電機を含む主機と、
前記蒸気タービンから排出させた蒸気を液化する復水器、前記復水器から排出させた温水を冷却する冷却塔を含む補機と、を備える発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法であって、
前記ボイラーにおける蒸気発生量または燃料使用量と、前記補機の運転条件設定に必要な熱収支計算とから、送電端熱効率が最大となる条件を算出する、発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項2】
前記発電プラント全体での熱収支計算を一括して行う、請求項1に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項3】
前記発電機出力の数値と前記補機動力の数値を入力項目として、前記蒸気タービン、前記復水器、前記冷却塔での熱収支を計算し、それぞれの熱収支の数値が収束した時の、燃料使用量を計算する、請求項1又は2に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項4】
前記蒸気タービンでの熱収支計算では、前記ボイラーの出口蒸気と前記タービンの排気とのエンタルピー差が、発電機出力と合致する条件における前記ボイラーの出口蒸気の流量を収束するまで計算して求める、請求項3に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項5】
前記復水器での熱収支計算では、運転データから得られる実行伝熱係数が、設計上の熱貫流率と合致する条件における前記タービンの排気温度を収束するまで計算して求める、請求項3または4に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項6】
前記冷却塔での熱収支計算では、気象データと運転データから予測される要求移動単位数が、前記冷却塔の能力移動単位数と合致する条件における冷却塔水温レンジを収束するまで計算して求める、請求項3、4または5に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項7】
前記蒸気タービン、前記復水器および前記冷却塔での熱収支計算によって得られた3つの出力数値は、異なる熱収支計算の入力数値に含まれており、互いに干渉しあっており、これらの熱収支計算の全てで熱収支が取れるまで繰り返し計算する、請求項3~6のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項8】
前記補機の動力を任意に変更させた計算を実行して、前記送電端熱効率が最大となる、燃料使用量と、補機運転条件の組み合わせを算出する、請求項1~7のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【請求項9】
前記送電端熱効率が最大条件での運転における発電プラントの出力あたりの炭酸ガス排出原単位、および売電収益を計算する、請求項1~8のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、重油、LPGガス等の燃料を用いて蒸気を生成し、発電を行う発電プラントが広く実施されている。この発電プラントでは、ボイラーで発生させた蒸気で発電機を運転して、電力を発生させている。一旦発生した蒸気を繰り返し利用するにあたり、発生した蒸気を凝縮していわゆる復水に戻すために冷却する必要がある。一方、復水器で冷却するときに、異なる水系にある冷却水を使用している。この冷却水の水系は、冷却塔を用いて冷却水を循環させて使用する方式が広く用いられている。冷却塔で大気による冷却を行うにあたり、電気を使用して冷却ファンを含む冷却塔と循環ポンプ等の設備を稼働させ、周囲の大気を利用して冷却を行なっている。このため、冷却塔と循環ポンプに要求される運転状態は、冷却塔等の運転性能だけではなく、周囲の気象条件(温度・湿度等)により変動している。
【0003】
発電プラントでは、蒸気・復水の水系にある復水の温度等の条件によりボイラー、蒸気タービン、復水器等の運転状態も変動している。これは、蒸気・復水の水系と冷却水の水系とは独立に運転しているが互いに影響を与えてていることを示している。このために、冷却水を循環させる冷却塔等の運転状況は、発電機を含む発電プラント全体の送電端熱効率、炭酸ガス排出原単位、売電収益に影響を与えている。そこで、実際の運転の前に、発電プラントにおける冷却塔、冷却ファン等の補機が発電プラントの送電端熱効率、炭酸ガス排出原単位、売電収益に与える影響を予測する発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1では、複数の補機を有するプラントにおいて前記複数の補機の動力を決定する補機動力決定装置であって、前記複数の補機の1つである第1の補機に影響を与える前記プラントの状態量に基づいて、前記複数の補機の1つである第2の補機の動力を決定する決定部を備える補機動力決定装置が開示されている。しかし、特許文献1では、発電プラントの売電額が最大となるような補機(=冷却塔ファン、ポンプとする)の運転条件を与えるものであるが、発電機出力を維持する前提ではエネルギー効率や炭酸ガス排出原単位を悪化させるという問題点がある。
【0005】
また、特許文献2では、汽力発電設備の蒸気タービンから復水器に排気される蒸気を冷却する冷却水系統設備の制御装置であって、前記冷却水系統設備は、前記復水器に排気される蒸気を冷却する冷却水を循環させる循環ポンプと、熱を放散する冷却ファンを有し、前記復水器で蒸気と熱交換した戻り冷却水を冷却する冷却塔と、を含み、前記制御装置は、第1制御部を有し、前記第1制御部は、前記復水器の器内温度が目標器内温度と一致するように、復水器入口冷却水の目標温度を設定し、復水器入口冷却水の温度が、設定した目標温度と一致するように、前記循環ポンプ及び前記冷却ファンの2つの補機うち、いずれか一方の補機の回転数をフィードバック制御する、冷却水系統設備の制御装置が開示されている。しかし、特許文献2では、タービン側の運転に影響を与えない前提で冷却塔の運転調整がなされており制御幅が小さいことから、すなわち得られるメリットが小さいという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-100669号公報
【特許文献2】特開2020-134128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明では、上記問題点に鑑みて、発電プラントの燃料投入から送電端までの各設備における熱収支の計算より、送電端熱効率が最大となる冷却塔のファン出力、循環ポンプの出力等の補機出力条件の組み合わせを導く発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、本発明の実施形態の特徴を説明する。
【0009】
(1)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、蒸気を発生させるボイラー、前記ボイラーから排出させた蒸気によって作動する蒸気タービン、前記蒸気タービンの作動によって駆動する発電器を含む主機と、前記蒸気タービンから排出させた蒸気を液化する復水器、前記復水器から排出させた温水を冷却する冷却塔を含む補機とを備える発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法であって、前記ボイラーにおける蒸気発生量または燃料使用量と、前記補機の運転条件設定に必要な熱収支計算とから、送電端熱効率が最大となる条件を算出する。
【0010】
(2)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記発電プラント全体での熱収支計算を一括して行う、(1)に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0011】
(3)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記発電機出力の数値と前記補機動力の数値を入力項目として、前記蒸気タービン、前記復水器、前記冷却塔での熱収支を計算し、それぞれの熱収支の数値が収束した時の、燃料使用量を計算する、(1)又は(2)に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0012】
(4)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記蒸気タービンでの熱収支計算では、前記ボイラーの出口蒸気と前記タービンの排気とのエンタルピー差が、発電機出力と合致する条件における前記ボイラーの出口蒸気の流量を収束するまで計算して求める、(3)に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0013】
(5)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記復水器での熱収支計算では、運転データから得られる実行伝熱係数が、設計上の熱貫流率と合致する条件における前記タービンの排気温度を収束するまで計算して求める、(3)または(4)に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0014】
(6)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記冷却塔での熱収支計算では、気象データと運転データから予測される要求移動単位数が、前記冷却塔の能力移動単位数と合致する条件における冷却塔水温レンジを収束するまで計算して求める、(3)、(4)または(5)のいずれかに記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0015】
(7)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記蒸気タービン、前記復水器および前記冷却塔での熱収支計算によって得られた3つの出力数値は、異なる熱収支計算の入力数値に含まれており、互いに干渉しあっており、これらの熱収支計算の全てで熱収支が取れるまで繰り返し計算する、(3)~(6)のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0016】
(8)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記補機の動力を任意に変更させた計算を実行して、前記送電端熱効率が最大となる、燃料使用量と、補機運転条件の組み合わせを算出する、(1)~(7)のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【0017】
(9)本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、前記送電端熱効率が最大条件での運転における発電プラントの出力あたりの炭酸ガス排出原単位、および売電収益を計算する、(1)~(8)のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法によって、発電プラントの燃料から送電端までの各設備における熱収支の計算より、送電端熱効率が最大となる冷却塔の冷却ファンの出力、循環ポンプの出力等の運転条件を導くことができる。
さらに、本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法によって、発電プラントにおける炭酸ガス排出原単位が最小となる冷却塔等の運転条件を導くことができる。
また、本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法によって、発電プラントにおける売電収益が改善される冷却塔等の運転条件を導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法が想定する発電プラントの一例の構成を示している。
【
図2】本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法のフローチャートを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明は、本発明における実施の形態の一例であって、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0021】
本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、ボイラー等を含む主機と、冷却塔等を含む補機とを備え、ボイラーにおける蒸気発生量または燃料使用量と、補機の運転条件設定に必要な熱収支計算とから、送電端熱効率を算出する。
【0022】
図1を参照して実施の形態に係る発電システムについて説明する。
図1は、本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法が想定する発電プラントの一例の構成を示している(
図1に関してのみ、番号を付して説明する。)。発電プラント1は、少なくとも、ボイラー11、蒸気タービン12、発電機13含む主機と、復水器14、冷却塔15、冷却塔15に用いられている冷却ファン17、循環ポンプ161、給水ポンプ162を含む補機とを備え、および、これらの間で冷却水、復水、蒸気を移送するパイプラインを備えている。
そのなかで、ボイラー11は、重油、LPGを燃料として、水を過熱して蒸気を発生している。ボイラー11で発生した蒸気、または、この抽気を蒸気タービン12に供給する。この供給された蒸気により、蒸気タービン12に設けられているタービン羽根を回転させ、同軸で接続している発電機13の軸が回転駆動する。発電機13における回転軸のこの回転駆動を電磁力に変換して電流を生成する。この発電機13から出た電力量が発電端電力量5であり、ボイラー11に供給する燃料のエネルギーと発電端電力量の比が、発電端熱効率を表している。
【0023】
また、蒸気タービン12から排出された蒸気は、復水器14に移送される。復水器14は、循環する冷却水と熱交換して、蒸気を復水に戻し、ボイラー11に移送し、この復水を循環させて繰り返し利用している。
復水器14で熱交換により温められた温水は、冷却塔15に移送され、冷却されて冷たい冷却水に戻している。冷却塔15には、冷却水の蒸発を促すための多数の冷却ファン17が設けられている。また、冷却塔15から復水器14に移送する冷却水の量を制御する循環ポンプ161が設けられている。発電プラント1は、冷却塔15の冷却ファン17と循環ポンプ161により冷却水の温度制御を実施している。なお、冷却塔15の冷却ファン17と循環ポンプ161は、VVVF(可変電圧周波数制御装置)で、風量、移送する水量を調整することができる。
これらの復水器14、冷却塔15の冷却ファン17、循環ポンプ161を運転するために、発電機13で製造した発電量を用いている。発電プラント1から外部に供給する電力は、発電端電気量5から、発電プラント1内の補機等の運転に必要な電力となる所内負荷7を引いた電力を、送電端電力量6と称し、そのときのボイラーに供給する燃料のエネルギーと送電端電力量の比が、送電端熱効率を表している。したがって、送電端熱効率は、冷却塔等の運転に必要な電力量である所内負荷7によって大きく異なってくる。
【0024】
発電プラント1における発電量は、最初に投入する燃料の量により発生する蒸気により、蒸気タービン12の羽根の回転状態が変わり、発電機13による発電量が影響を受けることになる。また、復水器14の蒸気圧は、冷却塔15の冷却ファン17と冷却水の移送量を制御する循環ポンプ161に影響する。このように、発電プラント1では、冷却水・復水を含む水、蒸気等によって相互に関連していて、影響を及ぼしている。
このなかで、本発明の発電プラント1で実現可能な送電端熱効率の予測方法は、ボイラー11、蒸気タービン12等の主機、復水器14、冷却塔15等の補機、さらに、これらを移送するパイプラインを含む発電プラント1を想定し、熱効率を1つに収束するように計算させて、全体として、送電端電力量、さらに、送電端熱効率が最大となる予測方法を提供する。
また、時間経過に伴って燃料価格が変動することもあり、また、売電価格も変動することがある。また、これらは、季節や気象条件により変動する。したがって、本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法は、併せて、最小の炭酸ガス排出原単位、および、売電収入を改善する予測方法を提供する。具体的に以下に説明する。
【0025】
図2は、本発明の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法を実施するフローチャートを示している。本発明では、想定した発電プラントにいて、ボイラーにおける蒸気発生量または燃料使用量と、前記補機の運転条件設定に必要な熱収支計算とから、送電端熱効率が最大となる条件を算出する。
初めに、発電プラントのシミュレーションモデルの構築をする(ステップS1)。発電プラントは、少なくとも、ボイラー、蒸気タービン、発電機を含む主機と、復水器、冷却塔等を含む補機とをこれらの個々の機器仕様とともに、発電プラントの発電量を設定する。
【0026】
次に、補機出力と気象条件の計算パラメーターを設定する(ステップ2)。補機としては、気象条件により最も影響を受ける冷却塔の熱効率を気象条件により設定する。補機として、冷却ファン、循環ポンプを含む冷却塔として熱効率を設定する。冷却塔は、高温では冷却水温度が上昇し、復水器の真空度が悪化することで、蒸気タービン効率が低下する。逆に、低温では冷却水温度が過冷却となり、真空度が高くなり過ぎて、蒸気タービンの振動が発生することがある。この冷却塔は、気象条件により変動することが知られていることから、気象条件を決定し、冷却塔の計算パラメーターとの設定をする。
【0027】
さらに、冷却塔の熱効率を、タービン、復水器に挿入して、それぞれの熱収支を計算する(ステップ3)。発電機出力の数値と補機動力の数値を入力項目として、蒸気タービン、復水器、冷却塔での熱収支を計算する。
【0028】
冷却塔の熱収支の計算は、気象データと運転データから予測される要求移動単位数が、前記冷却塔の能力移動単位数と合致する条件における冷却塔水温レンジを収束するまで計算して求める。冷却能力は、水量、風量、冷却水温度、大気温湿度など多くのパラメーターに依存している。しかし、移動単位数(NTU)という無次元数を用いると、パラメーターを減らし解析を容易にすることができる。詳細には、気象データと運転データから予測される要求移動単位数(U/NP)が冷却塔の能力移動単位数(U/NA)と合致する条件((U/NP)-(U/NA)=0)における冷却塔水温レンジ(入口出口の水温差)を収束させて行う。
要求移動単位数(U/NP)の計算には外気湿球温度、冷却水水温レンジ、冷却塔入口出口水温における飽和水蒸気比エンタルピーと湿り空気比エンタルピーを用いる。
冷却塔の能力移動単位数(U/NA)の算出には、冷却塔の設計条件より得られる塔定数、および冷却水流量とガス流量の運転データを用いる。得られた水温レンジを冷却塔効率によって補正して、冷却塔出口水温を計算する。
【0029】
要求移動単位数(U/NP)には、以下の式を用いる。
式(1):(U/NP)=Cpw×∫(1/(hs-h))dTl
Cpw:水の定圧比熱(kJ/kg)
hs:飽和水蒸比エンタルピー(kJ/kg-DA)
h :Tlにおける湿り空気比エンタルピー(kJ/kg-DA)
【0030】
冷却塔の能力移動単位数(U/NA)には、以下の式を用いる。
式(2):(U/NA)=CT×(L/G)^α
CT:塔定数(kg×℃/J)
L:循環する水量(kg/h)
G:送風量(kg-DA/h)
α:べき定数(-)
【0031】
また、蒸気タービンの熱収支は、発電プラントにおける熱収支を収束させるために、発電端起電力となる発電出力が計画発電量となる主蒸気量(ボイラー出口蒸気量)を計算する。詳細には、ボイラー出口蒸気とタービン排気のエンタルピー差が発電機出力と合致する条件でのボイラー出口蒸気流量を収束させて算出する。エンタルピー算出には各流体の流量、比エンタルピーを用い、発電機出力の算出には定格発電量、所内電力のデータを用いる。
【0032】
また、復水器の熱収支は、復水器の電熱量が設備能力通りになる排気温度を収束して算出する。ここでは、運転データから得られる実行伝熱係数Uが設計上の熱貫流率Kと合致する条件(U-K=0)におけるタービン排気温度を算出にて求め、収束させている。
実行伝熱係数Uの算出には、伝熱面の冷却面積、冷却水とタービン排気の対数平均温度差、復水器抜熱量を用いる。
熱貫流率Kの計算には冷却水の流量と復水器入口温度、復水器清浄度、チューブの材質と肉厚と外径のデータを用いる。復水器抜熱量はタービン排気のエンタルピーおよび流量にて算出する。
【0033】
ここで、実行伝熱係数Uは、以下の式を用いて計算する。
式(3):(実行伝熱係数U)=S×θm/Q
S:冷却面積(m2)
θm:対数平均温度差(℃)
Q:抜熱量(kW)
【0034】
ここで、熱貫流率Kは、以下の式を用いて計算する。
式(4):(熱貫流率K)=φ1・φ2・φ3・CC・V1/2
φ1:冷却水復水器入口水温に関する補正係数(-)
φ2:冷却管の清浄度(-)
φ3:冷却管材質および肉厚に関する補正係数(-)
CC:冷却管外径により決定する係数(-)
V:管内流速(m/s)
【0035】
次に、タービン、復水器、冷却塔の熱収支が1つに収束するまで、交互に繰り返し、それぞれの熱効率を計算する(ステップ4)。タービン、復水器、冷却塔の熱収支の計算の中で、それぞれの計算の中で出力の項目が、他の装置の計算の入力の項目に含まれているものがあり、互いに干渉しあっている。全装置で熱収支が1つにまとまるまで計算を繰り返す必要がある。
【0036】
次に、各装置とも熱収支が取れると所定の発電機の出力を得るために必要な冷却塔動力と蒸気量が示されることから、蒸気量を燃料使用量へ換算して、発電プラントの送電端熱効率を計算する(ステップ5)。これで、発電プラント全体での熱収支計算を一括して行うことができる。さらに、冷却塔等の補機の出力と気象データから算出した計算パラメーターから、必要蒸気量と送電端熱効率を計算することができる。
【0037】
次に、冷却塔の出力を変えて計算パラメーターを設定し、ステップS2~S5を繰り返し計算する(ステップ6)。ステップ5で得られる必要蒸気量と送電端熱効率は、1つの気象データと1つの冷却塔の運転条件に過ぎない。したがって、気象条件は、過去のデータから予想し構築する。これに、冷却塔の出力条件を変更し計算することで、必要蒸気量と送電端熱効率を計算することができる。
【0038】
次に、冷却塔の出力条件を変更して計算した結果から、送電端熱効率が最大となる必要蒸気量、補機である冷却塔の出力条件として冷却ファン出力、循環ポンプ出力の出力条件を算出する(ステップ7)。これによって、冷却ファン、循環ポンプの出力を任意に変えた上記計算により、送電端熱効率が最大となる冷却塔の運転条件を得ることができる。
また、このときに、同時に送電端電力量を計算することができる。この送電端電力量からの電力量によって、固定価格買取制度(FIT)を用いることで売電価格を計算することができる。
【0039】
本発明によって、発電プラントの燃料から送電端までの各設備におけるエネルギーバランス計算より、送電端熱効率が最大となる燃料使用量、冷却ファン出力として出力周波数、循環ポンプ出力として出力周波数の組み合わることが可能となり、送電端熱効率、炭酸ガス排出原単位、売電収益に関して燃料使用量まで含めた発電プラント全体を1つとして最適な冷却塔における冷却ファン、循環ポンプの運転条件を計算することができる。また、安定した運転に加えて、発電した電力により高い利益を上げることが求められており、その売電収益を提供することができる。
【実施例0040】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明の形態とその効果を詳細に説明するが、ここで挙げる実施例は本発明の形態の一例を示すものであって、下記の実施例を以って本発明の範囲や効果を制限するものではない。
この実施例は、想定した発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法を、以下に示す順序で実施した。
【0041】
送電端熱効率の予測方法の計算条件として、想定している発電プラントの構成は、次の通りである。
(1)想定発電プラントの構成(木質バイオマス発電の仮想プラント)
定格発電量:88MW
ボイラー
蒸気発生エネルギー:21MW
ボイラー効率 :80%
タービン
定格出力 :14.5MW
タービン効率 :80%
復水器
伝熱量 :28MW
清浄度 :70%
冷却塔
除熱量 :35MW
冷却塔効率 :90%
燃料コスト :10円/kg
売電価格 :30円/kWh
【0042】
(2)予測方法の計算条件
冷却ファンと冷却水の循環ポンプの出力はインバータ制御により30~60Hzの間で任意に変更可能とする。
ボイラーにおける主蒸気量は、上限値64400kg/h(6.0MPa)未満で任意に変更可能とする。
冷却ファンと循環ポンプの出力調整により復水器の冷却条件が変わってもボイラー蒸気量が調整されて発電機は定格出力を維持するものとする。ただし、蒸気量が使用量上限を超える蒸気が必要となる場合では発電機出力は下がるものとする。
冷却塔動力を含む所内電力を差し引いた残りを送電端電力とし、全量をFIT価格で売電する。
気象庁の2020年6月1日の日次平均を使用する。
【0043】
次に、ボイラー、復水器、冷却塔における熱収支を計算するパラメーターを設定する。
ボイラーは、ボイラーの仕様によるPh-熱平衡図から主蒸気の流量と、エンタルピーを設定する。この主蒸気の流量と、エンタルピーから、発電量に対する熱収支を計算することができる。復水器は、設計仕様書と外形図から熱貫流率、伝熱面仕様、設計運転条件を設定する。さらに、運転しているデータから得られる実行伝熱係数Uと、これらの設定から求められる熱貫流率Kから熱収支を計算することができる。また、冷却塔は、運行データから得られる要求移動係数(U/NP)を求め、設計仕様書より塔定数から能力移動単位数(U/NA)を計算する。この要求移動係数(U/NP)と能力移動単位数(U/NA)とが等しくなる熱収支を計算する。
【0044】
次に、冷却塔効率、乾球温度、相対湿度、大気圧の条件を入力し、蒸気タービン出力としてタービン排気温度、冷却ファン出力周波数、循環ポンプ出力周波数、復水器清浄度を入力し、熱収支を計算する。
さらに、ボイラー、復水器、冷却塔の熱収支計算を交互に行い、3か所全てが収束するまで繰り返し、計算する。
ここで、計算から得られた主蒸気量から発生する発電端電力量から、タービンから冷却塔までの動力を含む発電プラント全体の負荷となる電力を差し引いた送電端電力量から送電端熱効率を算出する。
【0045】
さらに、補機の出力条件を定格値内で変えることで、ボイラー、復水器、冷却塔の熱収支の計算し、かつ、同様に、3か所全てが収束するまで繰り返し計算する。補機としては、冷却塔のファン、循環ポンプを用いて計算する。
さらに、この計算で求めた表から、発電プラントの送電端熱効率が最大となるボイラーの蒸気量、冷却ファン出力周波数、循環ポンプ出力周波数を計算して求めることができる。
【0046】
(実施例1)
上記条件では冷却ファン・循環ポンプの出力周波数をともに30Hまで下げても発電機の電力が定格値を下回ることはなかった。任意の出力周波数でファン、ポンプを運転しても発電量不足に陥ることはないことを意味する。
表1は、送電端熱効率と冷却塔の運転条件、冷却塔のファン出力周波数(Hz)と循環ポンプ出力周波数(Hz)を示す表である。
【表1】
【0047】
表1に示すように、ボイラー、復水器、冷却塔のエネルギー収支計算を交互に行い、3か所全てが収束するまで計算し、そのときの、冷却塔が使用した冷却ファンの出力周波数と循環ポンプの出力周波数と、送電端熱効率を表わしている。実施例1で想定している発電プラントでは、例えば、冷却塔の冷却ファンの出力周波数60Hz、循環ポンプの出力周波数60Hzでの、送電端熱効率は22.82%である。
表1から、送電端熱効率が最大となる冷却塔の冷却ファン電力と循環ポンプの条件は、送電端熱効率が最大値23.05%となる冷却塔の出力条件は冷却ファン:45Hz、循環ポンプ:42Hzであった。
【0048】
【0049】
表2は、送電端電力をFIT(固定価格買取制度)価格で売電したときの、売電収益(千円/h)と冷却塔のファン出力周波数と循環ポンプの出力周波数を示す表である。表4から分かるように、送電端熱効率が最大値23.05%となる冷却塔の出力条件は冷却ファン:45Hz、循環ポンプ:42Hzであった。また、この時の売電収益は137.2千円/hと算出された。
また、表2より、売電収益が改善され最大値となるのは、冷却塔の出力条件は冷却ファン:39Hz、循環ポンプ:39Hzで、この時の売電収益は137.6千円/hと算出された。
これから、送電端熱効率が最大値と売電収益が改善され最大値となる冷却塔のファン出力と循環ポンプの出力条件が異なっていることを予測することができた。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同条件で計算を行い、冷却ファンと循環ポンプの出力範囲に以下の制約を掛けた。一般的に発電プラントの冷却塔はタービン排気温度もしくは排気圧力が設定水準に収まるよう冷却ファンと循環ポンプの出力調整がされることから、タービン排気温度に閾値を設けた。閾値は42~43℃とした。一般的な管理方法に倣い、冷却ファンと循環ポンプのどちらか一方のみの出力を調整し、他方は定格運転とした。
表3は、タービン排気温度(℃)と冷却塔の運転条件、冷却塔のファン出力周波数(Hz)と循環ポンプ出力周波数(Hz)を示す表である。
タービン排気温度が設定水準となる冷却塔出力条件を抽出すると表3に示す通りであった(破線楕円の箇所)。冷却ファンと循環ポンプの一方のみを調整する制約条件を加えると下表の通りであった(実線楕円の箇所)。
【0051】
【0052】
したがって、表3からわかるように、タービン排気温度を閾値は42~43℃の範囲内で、発電プラントにおける発電プラントの冷却ファン出力周波数、循環ポンプ出力周波数における送電端熱効率、売電収益を算出することができる。
【0053】
表4は、タービン排気温度を閾値は42~43℃の範囲内で、発電プラントにおける発電プラントの冷却ファン出力周波数、循環ポンプ出力周波数における送電端熱効率を示している。
【表4】
【0054】
表5は、タービン排気温度を閾値は42~43℃の範囲内で、発電プラントにおける発電プラントの冷却ファン出力周波数、循環ポンプ出力周波数における売電収益を示している。
【表5】
【0055】
表1と表4、表2と表5とを比較した結果をそれぞれ表6と表7に示している。
表6は、タービン排気温度を閾値は42~43℃の範囲内で、発電プラントにおける発電プラントの冷却ファン出力周波数を調整する条件における送電端熱効率と売電収益を示している。
【表6】
【0056】
表7は、タービン排気温度を閾値は42~43℃の範囲内で、発電プラントにおける発電プラントの冷却ファン出力周波数を調整する条件における出力周波数の条件と、その時の送電端熱効率と売電収益を、実施例1と比較した結果を示している。ここで、送電端熱効率は実施例1の最大値23.05%と、この時の送電端熱効率における売電収益である137.2千円/hと比較した。
表7に示すように、比較例1は実施例1よりも送電端熱効率、売電収益の両面で劣る結果となった。
【表7】
【0057】
(比較例2)
実施例1と同条件で計算を行い、売電収益が改善され最大値となる冷却ファン・循環ポンプの運転条件を抽出した
表8は、売電収益が改善され最大値となる冷却塔の運転条件、冷却塔のファン出力周波数(Hz)と循環ポンプ出力周波数(Hz)を表している。
【表8】
【0058】
表9は、売電収益が改善され最大値となる送電端熱効率と冷却塔の運転条件、冷却塔のファン出力周波数(Hz)と循環ポンプ出力周波数(Hz)を表わしている。
【表9】
【0059】
表10は、比較例2における売電収益が改善され最大値となる発電プラントの冷却ファン出力周波数を調整する条件における送電端熱効率と売電収益を示している。
【表10】
【0060】
表11は、売電収益が改善され最大値となる発電プラントの冷却ファン出力周波数を調整する条件における出力周波数の条件と、その時の送電端熱効率と売電収益を、実施例1と比較した結果を示している。
【表11】
【0061】
表11に示すように、比較例2は実施例1よりもエネルギー効率で劣る結果となったが、売電収益では、+0.4千円/hとなった。
比較例2は実施例1よりも売電収益は大きいが送電端熱効率は小さい。経済性のみを追求すると環境負荷が増大する可能性があることを示唆している。
前記復水器での熱収支計算では、運転データから得られる実行伝熱係数が、設計上の熱貫流率と合致する条件における前記タービンの排気温度を収束するまで計算して求める、請求項1に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
前記冷却塔での熱収支計算では、気象データと運転データから予測される要求移動単位数が、前記冷却塔の能力移動単位数と合致する条件における冷却塔水温レンジを収束するまで計算して求める、請求項1又は2に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。
前記蒸気タービン、前記復水器および前記冷却塔での熱収支計算によって得られた3つの出力数値は、異なる熱収支計算の入力数値に含まれており、互いに干渉しあっており、これらの熱収支計算の全てで熱収支が取れるまで繰り返し計算する、請求項1~3のいずれか1項に記載の発電プラントで実現可能な送電端熱効率の予測方法。