(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121010
(43)【公開日】2023-08-30
(54)【発明の名称】触媒組成物、触媒担持体、燃料電池用カソード電極および燃料電池ならびに触媒組成物の製造方法および触媒担持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/92 20060101AFI20230823BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230823BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20230823BHJP
B01J 35/08 20060101ALI20230823BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230823BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20230823BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230823BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230823BHJP
【FI】
H01M4/92
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 K
B01J35/08 B
B01J37/02 101Z
B01J31/28 M
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024199
(22)【出願日】2022-02-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/高温低加湿作動を目指した革新的低白金化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 稔
(72)【発明者】
【氏名】大門 英夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀男
(72)【発明者】
【氏名】朝日 将史
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA21C
4G169BA36A
4G169BA36C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC31A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC69A
4G169BC69C
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD01C
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD04C
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD06C
4G169BD08A
4G169BD08B
4G169BD08C
4G169BD15A
4G169BD15B
4G169BD15C
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE16C
4G169BE21A
4G169BE21B
4G169BE21C
4G169BE34A
4G169BE34B
4G169BE34C
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18Y
4G169EC14Y
4G169EC15Y
4G169EE01
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB14
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC09
4G169FC10
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018BB13
5H018BB16
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE08
5H018EE16
5H018EE18
5H018HH00
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高温、強酸性の環境においても、長期間に渡って高いORR活性を示す白金系触媒を備えた触媒組成物、触媒担持体、燃料電池用カソード電極および燃料電池ならびに触媒組成物の製造方法および触媒担持体の製造方法を提供する。
【解決手段】白金系触媒と、その白金系触媒に修飾された塩とを備えた触媒組成物であって、前記塩は、下記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとからなる、
触媒組成物。
(式中、R
1、R
2、R
3は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金系触媒と、その白金系触媒に修飾された塩とを備えた触媒組成物であって、前記塩は、下記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとからなる、
触媒組成物。
(式中、R
1、R
2、R
3は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される塩は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに前記塩を2.74mmol投入し、これらの酸性水溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の量に対して50%以上が前記酸性水溶液と分離する難溶性を示す、
請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
白金系触媒と、その白金系触媒に修飾された塩とを備えた触媒組成物であって、前記塩は、下記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとからなる塩である、
触媒組成物。
(式中、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示す。)
【請求項4】
前記一般式(2)で表される塩は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに前記塩を2.74mmol投入し、これらの酸性水溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の量に対して50%以上が前記酸性水溶液と分離する難溶性を示す、
請求項3記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記Rf1および/またはRf2のパーフルオロアルキルの炭素数が4以上である、
請求項1から4のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項6】
白金系触媒と、その白金系触媒に修飾された塩とを備えた触媒組成物であって、前記塩は、下記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとからなる塩である、
触媒組成物。
(式中、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。Rf
3は、パーフルオロアルキルを示す。)
【請求項7】
前記一般式(3)で表される塩は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに前記塩を2.74mmol投入し、これらの酸性水溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の量に対して50%以上が前記酸性水溶液と分離する難溶性を示す、
請求項6記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記Rf3のパーフルオロアルキルの炭素数が4より大きい、
請求項6または7記載の触媒組成物。
【請求項9】
白金系触媒と、その白金系触媒に修飾された塩とを備えた触媒組成物であって、前記塩は、下記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルカルボン酸アニオンとからなる塩である、
触媒組成物。
(式中、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。Rf
4は、パーフルオロアルキルを示す。)
【請求項10】
前記一般式(4)で表される塩は、純水20mlに前記塩を構成する2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体を2.0mmol投入して80℃まで加温し、その後、パーフルオロアルキルカルボン酸を2.0mmolと純水20mlあるいは純水30mlとを投入したとき、1.0mmol以上の前記塩が水溶液と分離する難溶性を示す、
請求項9記載の触媒組成物。
【請求項11】
前記Rf4のパーフルオロアルキルの炭素数が4より大きい、
請求項9または10記載の触媒組成物。
【請求項12】
前記白金系触媒が、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄又は銅を含有するコア粒子と、前記コア粒子の表面に形成された白金シェルとからなる白金コアシェル触媒である、
請求項1から11のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項13】
前記白金系触媒が、白金と、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄又は銅とを含有する白金合金触媒である、
請求項1から11のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の触媒組成物が多孔質炭素材料を担体として担持されていることを特徴とする触媒担持体。
【請求項15】
請求項1から13のいずれかに記載の触媒組成物または請求項14に記載の触媒担持体を含む燃料電池用カソード電極。
【請求項16】
燃料電池用アノード電極と、請求項15記載の燃料電池用カソード電極とを備えた燃料電池。
【請求項17】
前記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩、前記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩、前記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、または、前記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンからなる塩のいずれかを極性溶媒に溶解させた修飾用溶液を、白金系触媒に接触させ、前記極性溶媒を留去して白金系触媒に前記塩を修飾させる、
触媒組成物の製造方法。
(一般式(1)~(4)において、R
1、R
2、R
3、R
4は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。Rf
1、Rf
2、Rf
3、Rf
4は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示す。)
【請求項18】
前記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩を、一般式(5)で表される1,3,5-トリアジン誘導体と、一般式(6)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩とを、60℃以上でpH3以下の酸性水溶液に投入することによって生成した、
請求項17記載の触媒組成物の製造方法。
(一般式(5)、(6)において、R
1、R
2、R
3は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示し、Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。)
【請求項19】
前記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩を、一般式(7)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体と、一般式(8)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩とを、60℃以上でpH3以下の酸性水溶液に投入することによって生成した、
請求項17記載の触媒組成物の製造方法。
(一般式(7)、(8)において、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示し、Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。)
【請求項20】
前記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩を、前記一般式(9)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体と、一般式(10)で表されるパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩とを、60℃以上でpH3以下の酸性水溶液に投入することによって生成した、
請求項17記載の触媒組成物の製造方法。
(一般式(9)、(10)において、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示し、Rf
3は、パーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。)
【請求項21】
前記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンからなる塩を、一般式(11)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体を、一般式(12)で表されるパーフルオロアルキルカルボン酸を含む60℃以上の水溶液に投入することによって生成した、
請求項17記載の触媒組成物の製造方法。
(一般式(11)、(12)において、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示し、Rf
4は、パーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。)
【請求項22】
請求項17~21のいずれかに記載の触媒組成物の製造方法を用いた触媒担持体の製造方法であって、
前記修飾用溶液を、多孔質炭素材料からなる担体に前記白金系触媒を担持させた未修飾触媒担持体に接触させる、
触媒担持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元反応活性の高い触媒組成物、触媒担持体、燃料電池用カソード電極および燃料電池ならびに触媒組成物の製造方法および触媒担持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、アノードで水素の酸化反応を、カソードで酸素の還元反応を起こすことにより、高効率に電気エネルギーを取り出し、生成物は水のみであるため、クリーンなエネルギー変換デバイスとして着目されている。PEFCのアノードとカソードでは化学反応を促進させるため、触媒として白金(Pt)が使用されている。白金を用いた触媒は、触媒活性と電気伝導性が高く、また、周辺環境の状態や周辺環境に存在する物質による腐食を受けにくいという利点を有している。
【0003】
一方、白金触媒をPEFCに用いる場合、白金触媒上の酸素ガスの還元反応は水素ガスの酸化反応に比べて活性化エネルギーが大きく、PEFCの電圧低下の大きな要因となっている。そのため、白金を用いた触媒の酸素還元反応(ORR)活性を高めることが重要な課題になっている。
また、PEFCのカソードは高温(約80℃)で、かつ、強酸性(pH約1)の極めて厳しい環境であり、さらに、カソード電位が0.6V~1.0V vs.reversible hydrogen electrode(RHE)の範囲で変動するため、通常環境で安定な白金が酸化還元される。したがって、PEFCのカソードで使用される白金触媒では、その表面で白金酸化物の生成と、生成した白金酸化物の還元が繰り返し生じている。このような白金触媒表面の化学的状態変化に伴い、PEFCカソードの白金触媒は溶解と再析出を繰り返して粒径が増加し(オストワルド成長)、さらに、白金触媒粒子が移動・凝集することで粒径が増大し、白金触媒の表面積が減少してORR活性が低下することが知られており、PEFCで使用される白金触媒の耐久性を高めることは極めて重要な課題である。したがって、これまで白金触媒のORR活性と耐久性を高める検討が、様々な方向から行われてきた。
【0004】
非特許文献1には、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンとからなる疎水性イオン性液体(プロトン性イオン液体)で表面を修飾した白金系触媒が開示されている。非特許文献1には、この疎水性イオン性液体で修飾した白金系触媒と未修飾白金系触媒のサイクリックボルタモグラム(CV)の比較から、疎水性イオン液体で白金系触媒を修飾することにより電位範囲0.7V~1.0V vs.RHEで白金の酸化反応が抑制され、リニアスイープボルタモグラム(LSV)測定から、疎水性イオン液体で修飾した白金系触媒のORR活性が向上することが開示されている。さらに、非特許文献1では、疎水性イオン液体で修飾した白金系触媒の耐久性を電位幅0.6V~0.96V vs.RHEの電位サイクル試験で調べた結果、白金系触媒を疎水性イオン液体で修飾することにより、その耐久性が向上することが開示されている。
【0005】
非特許文献2には、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンとからなる疎水性イオン液体(非プロトン性イオン液体)で修飾した白金触媒が開示されている。この非特許文献2においても、CVとLSV測定から電位範囲0.7V~1.0V vs.RHEで白金の酸化反応が抑制され、ORR活性が向上することが開示されている。非特許文献2では、白金触媒の単位重量当たりのORR活性(ORR質量活性)が、疎水性イオン液体で修飾することにより、330A/g-Pt(at 0.9V vs.RHE)から1010A/g-Pt(at 0.9V vs.RHE)に向上することが記載されている。さらに、非特許文献2では、疎水性イオン液体で修飾した白金触媒の耐久性を電位幅0.4V~1.1V vs.RHEの電位サイクル試験で調べた結果、未修飾の白金触媒に比べて耐久性が向上することが開示されている。
このように、非特許文献1と2には、疎水性のプロトン性あるいは非プロトン性イオン液体で白金系触媒を修飾することにより、白金系触媒のORR活性と耐久性が向上することが開示されている。しかし、白金系触媒の実用触媒に向けては、さらなるORR活性と耐久性の向上が必要である。
【0006】
特許文献1には、glassy carbon(GC)電極に塗布した白金触媒上に、メラミン化合物、チオシアヌル酸化合物、並びにメラミン化合物若しくはチオシアヌル酸化合物をモノマーとする重合体によりなる群から選ばれる、少なくとも1種を担持させた電気化学的酸素還元用触媒が開示されている。そして、メラミン化合物等を吸着(担持)させた白金触媒のLSV測定から、メラミン等を吸着させていない白金触媒に比べてORR活性が向上することが記載されている。また、同様の報告が、非特許文献3に開示されている。
非特許文献4には、GC電極に塗布したパラジウムコア-白金シェル触媒を、メラミン、または、テトラ(t-ブチル)テトラアザポルフィンで修飾することが開示されている。非特許文献4に開示された白金コアシェル触媒のCVとLSVから、メラミンまたはテトラ(t-ブチル)テトラアザポルフィンで修飾した白金コアシェル触媒では電位0.7V~1.0V vs.RHEで白金の酸化が抑制され、ORR活性が向上することが開示されている。特に、メラミンで修飾した白金コアシェル触媒のORR質量活性が、3625A/g-Pt(at 0.9V vs.RHE)まで向上することが記載されている。
特許文献2には、glassy carbon(GC)電極に塗布した白金触媒上に、メラミン化合物をモノマーとする重合体及びチオールメラミン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種と含有した電気化学的酸素還元用触媒が開示されている。そして、メラミン化合物等を吸着(担持)させた白金触媒のLSV測定から、メラミン等を吸着させていない白金触媒に比べてORR活性が向上することが記載されている。また、0.6V~1.0V vs.RHEの電位サイクルに後の劣化が未修飾白金触媒に比べて向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報WO2019/221156
【特許文献2】国際公開公報WO2021/090746
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Snyder et al., Nature Material., 9, 904 (2010)
【非特許文献2】G. R. Zhang et al., Angew. Chem., Int. Ed. 55, 2257 (2016)
【非特許文献3】M. Asahi et al., J. Electrochem. Soc., 166, F498 (2019)
【非特許文献4】S. Yamazaki et al., ACS Catalysis, 10, 14567-14580 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、特許文献1および非特許文献3、4のメラミンあるいはメラミン化合物等で修飾した白金系触媒では、未修飾触媒に比べ、電位0.7V~1.0V vs.RHEで白金の酸化反応が抑制され、ORR活性が向上している。しかし、メラミン、あるいはメラミン化合物は水に溶解する性質があり、例えばメラミンの水への溶解度は、20℃において3.1g/Lである。さらに、PEFCのカソード環境は温度約80℃、pH約1の強酸性であるため、弱塩基性を示すメラミンあるいはメラミン化合物の溶解度が、20℃での水への溶解度(3.1g/L)に比べて大きく増加すると考えられる。そして、PEFCカソードでは酸素の還元反応によって水が生成するため、白金系触媒をメラミンあるいはメラミン化合物で修飾しても、カソードで生成する水に溶解し、徐々に脱離すると考えられる。したがって、長期間に渡ってメラミンあるいはメラミン化合物の修飾による、Pt系触媒の高活性化効果を維持することは困難と考えられる。
本発明は、このような問題に鑑みたものであり、PEFCのカソード環境、すなわち、約80℃の高温、かつ、pH約1の強酸性の環境においても、長期間に渡って高いORR活性を示す、白金系触媒を備えた触媒組成物、触媒担持体、燃料電池用カソード電極および燃料電池ならびに触媒組成物の製造方法および触媒担持体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、特許文献1等で開示されたメラミンあるいはメラミン化合物等で修飾した白金系触媒のORR活性が向上することに着目し、メラミンあるいはメラミン化合物等で修飾した白金系触媒がPEFCのカソード環境、すなわち、温度約80℃でpH約1の強酸性環境においても、長期間に渡ってその修飾効果を維持できる白金系触媒組成物の作製を目的とした。本発明では、メラミン骨格を有する1,3,5-トリアジン誘導体あるいは2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体に着目し、これらのメラミン誘導体と、パーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩あるいはパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩あるいはパーフルオロアルキルカルボン酸金属塩を、80℃、pH1の酸性水溶液中で混合反応させた。その結果、メラミン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、あるいは、メラミン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、あるいは、メラミン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンからなる塩が生成した。生成したこれらの塩は、温度80℃、pH1の強酸性環境で難溶性を示し、PEFCのカソード環境で長期間に渡って存在する耐久性を有していることが見出された。さらに、生成したこれらの塩で修飾された白金系触媒は、未修飾触媒に比べて高いORR活性を示すことが見出された。
【0011】
本発明の触媒組成物は、白金系触媒と、その白金系触媒を修飾する塩とを備えた触媒組成物である。前記塩は、下記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとからなる塩、または、下記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとからなる塩、または、下記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとからなる塩、または、下記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルカルボン酸アニオンとからなる塩であることを特徴としている。式中、R1、R2、R3、R4は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示し、Rf
1、Rf
2、Rf
3、Rf
4は、同一又は異なったパーフルオロアルキルを示す。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
本発明において、「白金系触媒に修飾された塩」とは、塩が白金系触媒に吸着または担持された状態を言う。特に、白金系触媒を塩が溶解されている液体に浸漬後、液体成分を留去、あるいは乾燥蒸発させ、塩が白金系触媒に含浸担持された状態を言う。
【0012】
本発明の触媒組成物であって、前記一般式(1)~(3)で表される塩は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlにいずれかの塩を2.74mmol(小数点第3位を四捨五入)投入し、これらの酸性水溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の量に対して50%以上が析出し、前記酸性水溶液と分離する難溶性を示すものが好ましい。
本発明の触媒組成物であって、前記一般式(4)で表される塩は、純水20mlに前記塩のカチオンを構成する2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体を2.0mmol投入して80℃まで加温し、その後、前記塩のカチオンを構成するパーフルオロアルキルカルボン酸を2.0mmolと純水20ml、あるいは、前記塩のカチオンを構成するパーフルオロアルキルカルボン酸を2.0mmolと純水30mlを投入したとき、1.0mmol以上の前記塩が析出し、水溶液と分離する難溶性を示すものが好ましい。
【0013】
本発明の触媒組成物であって、前記一般式(1)または(2)で表される塩において、Rf1および/またはRf2のパーフルオロアルキルの炭素数が4以上であるものが好ましく、前記一般式(3)または(4)で表される塩においては、Rf3またはRf4のパーフルオロアルキルの炭素数が4より大きいものが好ましい。
【0014】
本発明の触媒組成物であって、前記白金系触媒が、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄又は銅を含有するコア粒子と、前記コア粒子の表面に形成された白金シェルとからなる白金コアシェル触媒であるもの、あるいは、前記白金系触媒が、白金と、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄又は銅とを含有する白金合金触媒であるものが好ましい。
本発明の触媒担持体は、本発明の触媒組成物が多孔質炭素材料を担体として担持されていることを特徴としている。
【0015】
本発明の燃料電池用カソード電極は、本発明の触媒組成物または本発明の触媒担持体を含むことを特徴としている。
本発明の燃料電池は、燃料電池用アノード電極と、本発明の燃料電池用カソード電極とを備えたことを特徴としている。
【0016】
本発明の触媒組成物の製造方法は、前記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩、前記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩、前記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、または、前記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンからなる塩のいずれかを極性溶媒に溶解させた修飾用溶液を、白金系触媒に接触させ、前記極性溶媒を留去することにより白金系触媒に前記塩を修飾させることを特徴としている。
【0017】
本発明の触媒組成物の製造方法であって、前記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩を、下記一般式(5)で表される1,3,5-トリアジン誘導体と、下記一般式(6)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩とを、60℃以上でpH3以下の酸性水溶液に投入することによって生成させるのが好ましい。なお、下記一般式(5)の式中、R
1、R
2、R
3は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。また下記一般式(6)の式中、Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。
【化5】
【化6】
【0018】
本発明の触媒組成物の製造方法であって、前記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩を、下記一般式(7)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体と、下記一般式(8)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩とを、60℃以上でpH3以下の酸性水溶液に投入することによって生成させるのが好ましい。なお、下記一般式(7)の式中、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。また下記一般式(8)の式中、Rf
1、Rf
2は、同一または異なったパーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。
【化7】
【化8】
【0019】
本発明の触媒組成物の製造方法であって、前記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩を、下記一般式(9)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体と、下記一般式(10)で表されるパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩とを、60℃以上でpH3以下の酸性水溶液に投入することによって生成させるのが好ましい。なお、下記一般式(9)の式中、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。また下記一般式(10)の式中、Rf
3は、パーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。
【化9】
【化10】
【0020】
本発明の触媒組成物の製造方法であって、前記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンからなる塩を、一般式(11)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体を、一般式(12)で表されるパーフルオロアルキルカルボン酸を含む60℃以上の水溶液に投入することによって生成させるのが好ましい。なお、一般式(11)の式中、R
4は、置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基を示す。また一般式(12)の式中、Rf
4は、パーフルオロアルキルを示し、Xは金属原子を示す。
【化11】
【化12】
【0021】
本発明の触媒担持体の製造方法は、本発明の触媒組成物の製造方法を用いた触媒担持体の製造方法であって、前記修飾用溶液を多孔質炭素材料に前記白金系触媒を担持させた未修飾触媒担持体に、接触させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の触媒組成物は、白金系触媒を、メラミン骨格を有する1,3,5-トリアジン誘導体カチオン、あるいは、2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、あるいは、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、あるいは、パーフルオロアルキルカルボン酸アニオンからなる塩で修飾しているため、電位0.7V~1.0V vs.RHEにおいて白金表面の酸化を抑制し、ORR活性を高めることができる。さらに、本発明の触媒組成物に用いられる塩は、60℃以上、かつ、pH3以下の強酸性水溶液に対して難溶性を示すため、PEFCが作動する高温で強酸性の環境においも、塩の修飾状態を維持することができる。したがって、本発明の触媒組成物はORR活性が高く、かつ、その高いORR活性を持続できる固体高分子燃料電池(PEFC)のカソード電極として好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の触媒組成物を含んだカソード電極の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の触媒組成物に用いられる塩の生成方法の一例を示す工程図である。
【
図3】
図3a、
図3bは、それぞれ実施例1の触媒組成物のサイクリックボルタモグラムおよびリニアスイープボルタモグラムである。
【
図4】
図4a、
図4bは、それぞれ実施例2の触媒組成物のサイクリックボルタモグラムおよびリニアスイープボルタモグラムである。
【
図5】
図5a、
図5bは、それぞれ実施例3の触媒組成物のサイクリックボルタモグラムおよびリニアスイープボルタモグラムである。
【
図6】
図6a、
図6bは、それぞれ実施例4の触媒組成物のサイクリックボルタモグラムおよびリニアスイープボルタモグラムである。
【
図7】
図7a、
図7bは、それぞれ実施例5の触媒組成物のサイクリックボルタモグラムおよびリニアスイープボルタモグラムである。
【
図8】
図8a、
図8bは、それぞれ比較例1の触媒組成物のサイクリックボルタモグラムおよびリニアスイープボルタモグラムである。
【
図9】
図9aは塩の残存率の算出方法を示す概略図であり、
図9bは実施例1~5および比較例1の残存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
「燃料電池用カソード触媒1」
燃料電池用カソード触媒(触媒担持体)1は、
図1の模式図に示すように、多孔質炭素担体10と、触媒組成物とを備えている。触媒組成物は、多孔質炭素担体10に担持された白金系触媒粒子20と、その白金系触媒粒子20を修飾する塩30とを備えている。なお、塩30は、担体10の一部表面にも修飾されている。しかし、塩30は、白金系触媒粒子20のみに修飾されていてもよく、本発明の触媒担持体は、両方の概念を含むものである。
図1において、符号「I」は、イオノマーを示す。イオノマーIは、公知のものが用いられ、例えば、ナフィオン(登録商標)などが使用される。
【0025】
この燃料電池用カソード触媒1を備えた燃料電池は、対極となるアノード触媒(図示せず)において、下記反応式(式1)で示した水素の酸化反応が進行し、プロトンと電子が生成する。生成したプロトンはイオン交換膜(図示せず)を通り、イオノマーIから白金系触媒粒子20に供給される。なお、プロトンは、イオノマーIから白金系触媒粒子20に直接供給されるだけでなく、プロトン伝導性を有する塩30を介しても、白金系触媒粒子20にも供給されると考えられる。一方、下記反応式(式1)で発生した電子は外部回路から多孔質炭素担体10を介し、白金系触媒粒子20に供給される。大気中の酸素ガスは、ガス拡散によって拡散層とマイクロポーラス層を通過し、カソード触媒層に存在する白金系触媒粒子20に供給される。酸素ガスはイオノマーIおよび/または塩30を介して白金系触媒粒子20に供給され、カソード電極1において、下式反応式(式2)に示す酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction:ORR)が起こって水が生成される。
H2 → 2H+ + 2e- ・・・(式1)
1/2O2 + 2H+ + 2e- → H2O ・・・(式2)
【0026】
「多孔質炭素担体10」
多孔質炭素担体10としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。特に、メソ孔領域の細孔径(2~50nm)を有する多孔質炭素材料が白金系触媒粒子の担体として適している。多孔質炭素担体10は、白金系触媒粒子を高担持率で担持するため、比表面積が500~2000m2/g、特に、1000m2/g以上であることが好ましい。
【0027】
「白金系触媒粒子20」
白金系触媒粒子20は、白金、あるいは、白金と白金以外の金属を含むものであれば特に限定されるものではない。白金と白金以外の金属を含むものとしては、例えば、白金以外の金属からなるコアと、そのコアの表面に形成された白金からなるシェルとを有するコアシェル構造を有する白金コアシェル触媒、あるいは、白金と、白金以外の金属との合金を含む白金合金触媒とが挙げられる。白金コアシェル触媒は、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄又は銅を含有するコアと、コア粒子表面に形成された白金シェルとから構成され、特に、コア金属がパラジウムであるものが好ましい。白金合金触媒は、白金と、パラジウム、コバルト、ニッケル、鉄又は銅の白金以外の金属とからなる合金であり、特に、白金以外の金属がコバルトまたはニッケルであるものが好ましい。
白金系触媒粒子20は、粒子状として多孔質炭素担体10に担持させるのが好ましい。その粒子径としては、20nm以下、好ましくは、10nm以下、特に好ましくは6nm以下である。白金系触媒粒子20の粒子径は、ORRに寄与する面積を増やすため、小さい方が好ましい。しかし、粒子径が2nmより小さい場合、PEFCカソードで生じる電位変動(0.6~1.0V vs.RHE)により、オストワルド成長が進行して粒子径が大きくなりやすい。このため、白金系触媒粒子20の粒子径としては、2nmより大きいものが好ましい。
【0028】
「塩30」
塩30の第1の態様は、上記一般式(1)で表され、1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとから構成されたものである。
上記一般式(1)で表される塩30は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに、第1の態様の塩30を2.74mmol投入し、これらの酸性溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の一部が前記酸性水溶液と分離する難溶性を示すものである。特に、投入した前記塩の量に対して50%以上、60%以上、70%以上、特に80%以上が酸性水溶液と分離するものが好ましい。詳しくは、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに、上記一般式(5)で表される1,3,5-トリアジン誘導体2.74mmolを投入して80℃まで昇温させ、80℃に保ちながら上記一般式(6)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩2.74mmolを投入したとき、生成する上記一般式(1)で表される1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとから構成された塩30の一部が、上記酸性水溶液に溶解せずに分離する難溶性を有する、つまり、酸性水溶液中に析出するものである。なお、上記酸性水溶液で生成した上記一般式(1)で表される塩30が、投入した塩または各前駆体のモル数に対して50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、特に80モル%以上が溶解せず、80℃の上記酸性水溶液と分離するものが好ましい。
【0029】
塩30の第2の態様は、上記一般式(2)で表され、2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとから構成されたものである。
上記一般式(2)で表される塩30は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに、第2の態様の塩30を2.74mmol投入し、これらの酸性水溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の一部が酸性水溶液と分離する難溶性を示すものである。特に、投入した塩の量に対して50%以上、60%以上、70%以上、特に80%以上が酸性水溶液と分離するものが好ましい。詳しくは、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに、上記一般式(7)で表される2,4-ジアミノ-トリアジン誘導体2.74mmolを投入して80℃まで昇温させ、80℃に保ちながら上記一般式(8)で表されるパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩2.74mmolを投入したとき、生成する上記一般式(2)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンとから構成された塩30の一部が上記酸性水溶液に溶解せずに分離する難溶性を有するもの、つまり、酸性水溶液中にて析出するものである。なお、酸性水溶液で生成した上記一般式(2)で表される塩30が、投入した各前駆体のモル数に対して50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、特に80モル%以上が溶解せず、80℃の上記酸性水溶液と分離するものが好ましい。
【0030】
塩30の第3の態様は、上記一般式(3)で表され、2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとから構成されたものである。
上記一般式(3)で表される塩30は、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに、第3の態様の塩30を2.74mmol投入し、これらの酸性溶液の温度を80℃にしたとき、投入した前記塩の一部が酸性水溶液と分離する難溶性を示すものである。特に、投入した塩の量に対して50%以上、60%以上、70%以上、特に80%以上が酸性水溶液と分離するものが好ましい。詳しくは、pH1の過塩素酸水溶液100mlあるいはpH1の硝酸水溶液100mlに、上記一般式(9)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体2.74mmolを投入して80℃まで昇温させ、80℃に保ちながら上記一般式(10)で表されるパーフルオロアルキルスルホン酸金属塩2.74mmolを投入したとき、生成する上記一般式(3)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとから構成された塩30の一部が上記酸性水溶液に溶解せずに分離する難溶性を有するもの、つまり、酸性水溶液中にて析出するものである。なお、酸性水溶液で生成した上記一般式(3)で表される塩30が、投入した各前駆体のモル数に対して50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、特に80モル%以上が溶解せず、80℃の上記酸性水溶液と分離するものが好ましい。
【0031】
塩30の第4の態様は、上記一般式(4)で表され、2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンとから構成されたものである。
上記一般式(4)で表される塩30は、純水20mlに上記一般式(11)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体2.0mmolを投入して80℃まで加温し、80℃に保ちながら上記一般式(12)で表されるパーフルオロアルキルカルボン酸2.0mmolおよび純水20mlあるいは純水30mlを投入したとき、生成する上記一般式(4)で表される2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンとから構成された塩30の一部が上記酸性水溶液に溶解せずに分離する難溶性を有するもの、つまり、酸性水溶液中にて析出するものである。なお、酸性水溶液で生成した上記一般式(4)で表される塩30が、1.0mmol以上、1.2mmol以上、1.4mmol以上、特に1.6mmol以上が溶解せず、80℃の上記酸性水溶液と分離するものが好ましい。
【0032】
塩30の担持量は、特に限定されるものではないが、触媒全体を100重量%としたとき、100重量%以下、50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。
【0033】
「1,3,5-トリアジン誘導体カチオン」
上記一般式(1)で表される塩30のカチオンを形成する1,3,5-トリアジン誘導体カチオンにおいて、R1、R2、R3は、同一または異なった置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、それ以外の塩基性官能基が挙げられる。
置換アミノ基としては、アミノ基の1つの水素原子が炭化水素基で置換されたものやアミノ基の2つの水素原子が炭化水素基で置換されたものが好ましく挙げられる。特に、炭素数1~10、さらには炭素数1~6の直鎖又は分岐のアルキル基あるいはアリル基で置換されたものが好ましく挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、トリル基等のアニール基(特に炭素数6~20、さらに炭素数6~18のアニール基)が挙げられる。また、アリール基は、例えば、イミダゾール基などの窒素を含む複員環やアミノ基等の置換基を1~6個(特に1~3個)有することもできる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の低級アルキル基(特に炭素数1~10、さらに1~6の直鎖又は分岐鎖アルキル基)が挙げられる。また、このアルキル基は、例えば、イミダゾール基などの窒素を含む複員環やアミノ基等の置換基を1~6個(特に1~3個)有することもできる。
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチルアリル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等の低級アルケニル基(特に炭素数2~10、さらに炭素数2~6の直鎖又は分岐鎖アルケニル基)が挙げられる。また、このアルケニル基は、例えば、イミダゾール基などの窒素を含む複員環やアミノ基等の置換基を1~6個(特に1~3個)有することもできる。
塩基性官能基としては、イミダゾール基などの窒素を含む複員環を含む官能基が好ましく挙げられる。
【0034】
1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとしては、特に、上記一般式(2)の中で示した2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジンカチオンが好ましい。ここでR4は、上述したような置換または非置換のアミノ基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、あるいは、その他の塩基性官能基が好ましく挙げられる。
【0035】
「パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン」
パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンは、上記一般式(1)と(2)の中で示したものである。式中、Rf1、Rf2は、同一または異なったパーフルオロアルキルが挙げられる。Rf1、Rf2の少なくとも一方のパーフルオロアルキルの炭素数が2以上、3以上、好ましくは4以上である。特に、両方のパーフルオロアルキルの炭素数が4以上であることが好ましい。なお、塩30がPEFCのカソード環境である温度約80℃、pH約1の強酸性環境で残存するには、上述した1,3,5-トリアジン誘導体カチオンだけでは困難であり、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンと塩を形成することで、残存性が向上する。このとき、使用するパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンの片側の炭素数が2以上、3以上、特に、4以上で残存性が顕在化する。一方、炭素数が10以上で残存性が飽和するため、経済的観点を考慮すると、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンの片側の炭素数は10以下であることが好ましい。
【0036】
「パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン」
パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンは、上記一般式(3)の中で示したものである。式中、Rf3は、パーフルオロアルキルである。なお、上記一般式(3)で示した塩30がPEFCのカソード環境である温度約80℃、pH約1の強酸性の環境で残存するには、上述した2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンだけでは困難であり、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンと塩を形成することで、残存性が向上する。そして、使用するパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンの炭素数が5以上、6以上、7以上、特に8以上で残存性が顕在化するため好ましい。一方、炭素数が18以上になると残存性が飽和することから、経済的観点を考慮すると、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンの炭素数は18以下であることが好ましい。
【0037】
「パーフルオロアルキルカルボン酸アニオン」
パーフルオロアルキルカルボン酸アニオンは、上記一般式(4)の中で示したものである。式中、Rf4は、パーフルオロアルキルである。なお、上記一般式(4)で示した塩30がPEFCのカソード環境である温度約80℃、pH約1の強酸性の環境で残存するには、上述した2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン誘導体カチオンだけでは困難であり、パーフルオロアルキルカルボン酸アニオンと塩を形成することで、残存性が向上する。そして、使用するパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンの炭素数が5以上、6以上、7以上、特に8以上で残存性が顕在化するため好ましい。一方、炭素数が18以上になると残存性が飽和することから、経済的観点を考慮すると、パーフルオロアルキルカルボン酸アニオンの炭素数は18以下であることが好ましい。
【0038】
このように燃料電池用カソード触媒(触媒担持体)1は、白金系触媒粒子20をメラミン骨格を有する1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、あるいはパーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、あるいはパーフルオロアルキルカルボン酸アニオンから構成される塩30で修飾しているため、白金系触媒表面の酸化を抑制してORR活性を高めることができる。さらに、本発明による塩は温度80℃、かつ、pH約1の強酸性水溶液で難溶性を示すため、高温、かつ、強酸性環境であるPEFCカソードに用いても、本発明による塩の修飾効果を長期に渡って維持することができる。
なお、本発明の触媒担持体は、
図1の燃料電位用カソード触媒1に限定されるものではない。例えば、
図1の燃料電池用カソード触媒(触媒担持体1)は、多孔質炭素材料からなる担体10を備えた触媒担持体から構成されているが、導電性を示す他の多孔質材料からなる担体に触媒組成物を担持させた触媒担持体から構成させてもよい。また燃料電池用カソード触媒として、担体を備えていなくてもよい。例えば、担体を用いずに白金系触媒を電極として、その白金系触媒に塩を修飾した触媒組成物としてもよい。
【0039】
「触媒組成物の製造方法」
本発明の触媒組成物の製造方法は、下記の工程1から工程4を有する。
「工程1」
上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30を合成する。
「工程2」
上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30を酸性水溶液から分離する。
[工程3]
上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30を極性溶媒に溶解させて修飾用溶液を調製する。
[工程4]
工程3で調整した修飾用溶液を白金系触媒に接触させ、その後、極性溶媒を留去して塩30を白金系触媒に修飾する。
【0040】
工程1は、上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30を合成する工程である。
一般式(1)から(3)のいずれかで表される塩30は、pH3以下の酸性水溶液中で合成する。
塩の合成に使用する酸性水溶液は、pH3以下、pH2以下、特にpH1以下の酸性水溶液が好ましい。また60℃以上、70℃以上、特に80℃以上に加温した酸性水溶液がさらに好ましい。例えば、80℃に加温したpH約1の過塩素酸水溶液、あるいは、80℃に加温したpH約1の硝酸水溶液が挙げられる。酸性水溶液をpH3以下とすることにより、1,3,5-トリアジン誘導体のカチオン化させることができる。特に、酸性溶液を60℃以上とすることにより、1,3,5-トリアジン誘導体のカチオン化を一層促進させることができる。
例えば、一般式(1)~一般式(3)で表される塩の生成方法(工程1)としては、各塩のカチオンを構成する1,3,5-トリアジン誘導体と、各塩のアニオンを構成するパーフルオロアルキルスルホニルイミド金属塩またはパーフルオロアルキルスルホン酸塩を、60℃以上でpH3以下の過塩素酸水溶液あるいは、60℃以上でpH3以下の硝酸水溶液中で混合することが好ましく挙げられる。
一方、一般式(4)で表される塩30は、塩のカチオンを構成する1,3,5-トリアジン誘導体を、塩のアニオンを構成するパーフルオロアルキルカルボン酸を含む60℃以上、70℃以上、特に80℃以上の水溶液に投入することが好ましく挙げられる。このとき、パーフルオロアルキルカルボン酸を含む水溶液のpHは3以下、2以下、好ましくは1以下である。
【0041】
なお、本発明の燃料電池用カソード触媒組成物において、白金系触媒を修飾する塩は、PEFCの作動環境である高温(80℃)、強酸性(pH約1)の環境で残存する必要がある。したがって、本発明によるカソード触媒組成物において、白金系触媒を修飾する塩の合成には、60℃以上に加温したpH3以下の酸性水溶液(特に、過塩素酸水溶液、あるいは、の硝酸水溶液)を用いている。この合成環境は、上述したPEFCの作動環境を模擬している。このPEFCの作動環境を模擬した合成環境において、上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30のカチオンおよびアニオンを酸性水溶液に等モル投入したとき、塩が酸性水溶液中で生成分離し、難溶性を示すことがPEFCの作動環境で残存するために極めて重要である。ここで、分離生成した塩の難溶性とは、所定量の酸性水溶液に投入した前駆体それぞれのモル数の50%以上の塩が、酸性水溶液中で分離生成することを意味する。
上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30のカチオンおよびアニオンの酸性水溶液中の濃度は、酸性水溶液中に塩を分離生成させることができれば、特に限定されるものではない。例えば、濃度の下限としては5mM以上、10mM以上、好ましくは20mM以上である。(濃度単位「M」は、「mol/l」を示す、以下同様)。濃度の上限としては、1000mM以下、500mM以下、好ましくは100mM以下である。なお、金属カチオン(X+)としては、特に限定されるものではないが、リチウムやカリウム等のアルカリ金属が好ましい。
【0042】
工程2は、酸性水溶液で分離生成した一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩を分離する工程である。
例えば、塩を酸性水溶液から濾別し、乾燥する方法が挙げられる。この場合、塩の合成が強酸性条件で行われるため、生成した塩を純水中に再分散して撹拌と濾別を繰り返し、濾液のpHが中性域(例えば、pH6~7)になるまで5~6回繰り返して行うことが好ましい。そして、濾液のpHが中性域に達した後、分離生成した塩を大気中、60℃で一昼夜乾燥させる。
また例えば、塩をジクロロメタンに溶解させて酸性水溶液から分離し、ジクロロメタンを蒸発させる方法も挙げられる。この場合、酸性水溶液で塩を分離生成後、酸性水溶液にジクロロメタン(CH2Cl2)を加えて生成した塩をジクロロメタン相に溶解させ、その後、上澄み液を取り除き、塩が溶解したジクロロメタン相に純水を加えて撹拌後、上澄み液を取り除く操作を5~6回繰り返し、上澄み液のpHが中性域(pH6~7)になるまでこの操作を繰り返して行う。上澄み液のpHが中性域に達した後、ジクロロメタン相を大気中、60℃で一昼夜加温することにより、ジクロロメタンが蒸発し、目的の塩が得られる。
【0043】
工程3は、上記一般式(1)から(4)のいずれかで表される塩30を極性溶媒に溶解させて修飾用溶液を調製する工程である。詳しくは、洗浄乾燥した塩30を極性溶媒に溶解させる。
極性溶媒としては、1,3,5-トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩が溶解する極性溶媒であれば、特に限定されるものではない。例えば、使用する極性溶媒として、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノールなどのアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が挙げられる。
修飾用溶液に溶解させる塩の濃度は、特に限定されるものではない。
【0044】
工程4は、工程3で調整した修飾用溶液を白金系触媒に接触させ、その後、極性溶媒を留去して塩30を白金系触媒に修飾する工程である。
白金系触媒は、白金、あるいは、白金と白金以外の金属を含むものであればその形状は特に限定されるものではないが、粒子状のものが好ましく挙げられる。そして、白金と白金以外の金属を含むものとしては、上述したように白金コアシェル触媒、あるいは、白金合金触媒が好ましく挙げられる。
修飾用溶液を白金系触媒に接触させる方法としては、修飾用溶液に白金系触媒を浸漬させる方法や、白金系触媒に修飾用溶液を塗布する方法や、白金系触媒に修飾用溶液を噴霧する方法等が挙げられる。
修飾用溶液に白金系触媒を浸漬させて、極性溶媒を留去する方法としては、例えば、所定容量の極性溶媒に、所定重量の白金触媒または白金触媒を多孔質炭素材料に担持させたものと塩を加え、10~30分間超音波分散を行い、その後、エバポレーターに装着し、減圧下、極性溶媒を留去することにより、白金系触媒に塩を含浸担持して修飾することができる。エバポレーターを用い、減圧下、極性溶媒を留去する時間は、白金系触媒に塩を含浸担持することができれば、特に限定されるものではない。例えば、留去する時間の下限としては、1時間以上、好ましくは3時間以上である。留去する時間の上限としては、特に限定されないが、10時間以下、好ましくは5時間以下である。
修飾用溶液を白金系触媒に塗布して、極性溶媒を留去する方法としては、例えば、白金系触媒に、修飾用溶液を塗布し、加熱等によって極性溶媒を留去することにより、白金系触媒に塩を修飾することができる。
含浸担持させる塩の重量としては、触媒全体を100重量%としたとき、10~100重量%が好ましく、50重量%以下、特に20重量%以下が好ましい。
【0045】
なお工程4において、多孔質炭素材料に白金系触媒を担持させた未修飾触媒担持体を修飾用溶液に接触させ、その後、極性溶媒を留去して塩30を白金系触媒に修飾することによって、本発明の触媒組成物の製造方法を用いた本発明の触媒担持体の製造方法となる。未修飾触媒担持体を修飾用溶液に接触させる方法としては、上述したように修飾用溶液に未修飾触媒担持体を浸漬させる方法や、未修飾触媒担持体に修飾用溶液を塗布する方法や、未修飾触媒担持体に修飾用溶液を噴霧する方法等が挙げられる。
しかし、本発明の触媒担持体は、上記製造方法に限定されるものではなく、本発明の触媒組成物を製造し、その後、担体に担持させることによって製造してもよい。
【実施例0046】
[塩の選択]
200mlのビーカーに、pH1の過塩素酸水溶液を100ml入れ、この酸性水溶液に、下記一般式(13)~下記一般式(18)に示したメラミンあるいは1,3,5-トリアジン誘導体のいずれか一つを2.744mmol投入し、拡散しながら80℃に加温した。次に、80℃に加温した酸性水溶液に、下記一般式(19)~下記一般式(23)に示したパーフルオロアルキルスルホン酸リチウム金属塩、あるいは、パーフルオロアルキルスルホニルイミドリチウム金属塩のいずれか一つを2.744mmol投入した(表1、試料1~30)。これらの試料を10分間撹拌後、固形物塩が生成した場合にはその塩を濾別し、純水300mlに分散して10分間撹拌し、濾別した。この操作を濾液のpHが中性域(pH6~7の間)になるまで5回繰り返した。洗浄した塩を、60℃のオーブンを用い、大気中で一昼夜乾燥後、得られた塩の重量を測定した(
図2参照)。80℃で固形物塩が確認できた試料については、その塩の収量から収率を算出し、表1に纏めた。ここで収率は、得られた塩の収量を塩の式量で除した値を、2.744×10
-3(合成に使用した1,3,5-トリアジン誘導体とパーフルオロアルキルスルホン酸リチウム金属塩あるいはパーフルオロアルキルスルホニルイミドリチウム金属塩のモル数)で割った値に100%をかけた値であり、表1の試料1~30については、この値が50%以上の場合、80℃の酸性水溶液と分離して難溶性を示すことを意味する。
試験管に純水20mlを入れ、下記一般式(13)あるいは下記一般式(18)に示したメラミンのいずれか一つを2.0mmol投入し、攪拌しながら80℃に加温した。次に、80℃に加温した溶液に、下記一般式(24)のパーフルアルキルカルボン酸2.0mmolと純水20ml、あるいは下記一般式(25)のパーフルオロアルキルカルボン酸2.0mmolと純水30mlのいずれか一つを投入した(表1、試料31~34)。これらの試料を10分~30分間撹拌後、固形物塩が生成した場合にはその塩を濾別し、沸騰水200mlで洗浄した。洗浄した塩を60℃のオーブンを用い、一昼夜真空乾燥後、得られた塩の重量を測定した。80℃で固形物塩が確認できた試料については、その塩の収量から収率を算出し、表1に纏めた。ここで収率は、得られた塩の収量を塩の式量で除した値を、2.0×10
-3(合成に使用した1,3,5-トリアジン誘導体とパーフルオロアルキルカルボン酸のモル数)で割った値に100%をかけた値であり、表1の試料31~34については、この値が50%以上の場合、80℃の酸性水溶液と分離して難溶性を示すことを意味する。
【0047】
【化13】
「ブチルメラミン」
【化14】
「ベンゾグアナミン」
【化15】
「イミゾイド含有1,3,5トリアジン誘導体」
【化16】
「ジエチルメラミン」
【化17】
「ジアリルメラミン」
【化18】
「メラミン」
【化19】
「ノナフルオロブタンスルホン酸・リチウム」
【化20】
「ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸・リチウム」
【化21】
「ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド・リチウム」
【化22】
「ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド・リチウム」
【化23】
「ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド・リチウム」
【化24】
「ノナフルオロペンタン酸」
【化25】
「ヘプタデカフルオロノナン酸」
【0048】
【0049】
表1に示すように、試料2、5、7、10、12,14、15、17、20、22、25、30、31、32、34において、塩が確認できた。特に、試料2、5、12、14、15、17、20、22、25、32、34の11個の組合せからなる塩は、収率が50%以上であり、温度80℃、pH約1の強酸性環境において難溶性が高いことがわかった。
【0050】
[実施例1~5、比較例1]
[白金コアシェル触媒の作製]
本発明では、高活性な白金系触媒として、孔径2~50nmにメソ孔を有する多孔質炭素担体であるLION製のKetjen Black EC-600JD(KB-600JD)上に、Ptコアシェル触媒粒子を担持して使用した。500mgのKB-600JDを純水150mlに加え、10分間超音波分散した。この分散液に、Pd金属として担持率が50wt%になるようPd前駆体塩を加え、その後、エバポレーターを用いて水分を留去した。得られた固形物を回収し、大気中、60℃のオーブンで一昼夜乾燥した。乾燥した固形物をアルミナボートに入れて管状炉に設置し、Ar雰囲気下、400℃で4時間熱還元してPd/KB-600JDコアを得た。
得られたPd/KB-600JDコアを600mg、純水が800ml入ったセパラブルフラスコに加え、10分間超音波分散した。その後、撹拌しながら窒素ガスを500ml/分でバブリングし、氷浴を用いて分散液の温度を5℃に冷却した。分散液の温度が5℃になった時点で4Mの硫酸水溶液を30g加え、分散液のpHを0.85に調整した。その後、Ptシェルの前駆体であるK2PtCl4を1モノレーヤー相当加え、5℃で30分間撹拌後、水浴を用いて分散液の温度を70℃に昇温し、70℃で3時間撹拌してPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒を合成した。このコアシェル触媒の平均粒径は、5.1nmであった。
【0051】
[塩の修飾]
[実施例1]
ブチルメラミン(上記一般式(13))とリチウム・ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(Li
+[NFSI]
-)(上記一般式(23))を用いて合成したブチルメラミンカチオンと[NFSI]
-アニオンからなる塩1(下記一般式(26))を、その濃度が100μMになるようアセトンに溶解させ、塩修飾用のアセトン溶液1を調整した(表1の試料5の組合せ)。直径6mmのglassy carbon(GC)電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒(Pt金属として塗布量は14.1μg/cm
2)(未修飾触媒担持体)を、この塩修飾用アセトン溶液30ml中に、300rpmで攪拌しながら10分間浸漬した。その後、GC電極を塩修飾用アセトン溶液から取り出し、アセトンで5秒間洗浄し、塩1で修飾された電極触媒(触媒担持体)(実施例1)を作製した。
【化26】
【0052】
[実施例2]
ジアリルメラミン(上記一般式(17))とリチウム・ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(Li
+[NFSI]
-)(上記一般式(23))を用いて合成したジアリルメラミンカチオンと[NFSI]
-アニオンからなる塩2(下記一般式(27))を、その濃度が100μMになるようアセトンに溶解させ、塩修飾用のアセトン溶液2を調整した(表1の試料25の組合せ)。直径6mmのglassy carbon(GC)電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒(Pt金属として塗布量は14.1μg/cm
2)(未修飾触媒担持体)を、この塩修飾用アセトン溶液30ml中に、300rpmで攪拌しながら10分間浸漬した。その後、GC電極を塩修飾用アセトン溶液から取り出し、アセトンで5秒間洗浄し、塩2で修飾された電極触媒(触媒担持体)(実施例2)を作製した。
【化27】
【0053】
[実施例3]
ジエチルメラミン(上記一般式(16))とリチウム・ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(Li
+[NFSI]
-)(上記一般式(23))を用いて合成したジエチルメラミンカチオンと[NFSI]
-アニオンからなる塩3(下記一般式(28))を、その濃度が100μMになるようアセトンに溶解させ、塩修飾用のアセトン溶液3を調整した(表1の試料20の組合せ)。直径6mmのglassy carbon(GC)電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒(Pt金属として塗布量は14.1μg/cm
2)(未修飾触媒担持体)を、この塩修飾用アセトン溶液30ml中に、300rpmで攪拌しながら10分間浸漬した。その後、GC電極を塩修飾用アセトン溶液から取り出し、アセトンで5秒間洗浄し、塩3で修飾された電極触媒(触媒担持体)(実施例3)を作製した。
【化28】
【0054】
[実施例4]
イミゾイド含有メラミン1,3,5トリアジン誘導体(上記一般式(15))とリチウム・ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(Li
+[NFSI]
-)(上記一般式(23))を用いて合成したイミゾイド含有メラミン1,3,5トリアジン誘導体カチオンと[NFSI]
-アニオンからなる塩4(下記一般式(29))を、その濃度が100μMになるようアセトンに溶解させ、塩修飾用のアセトン溶液4を調整した(表1の試料15の組合せ)。直径6mmのglassy carbon(GC)電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒(Pt金属として塗布量は14.1μg/cm
2)(未修飾触媒担持体)を、この塩修飾用アセトン溶液30ml中に、300rpmで攪拌しながら10分間浸漬した。その後、GC電極を塩修飾用アセトン溶液から取り出し、アセトンで5秒間洗浄し、塩4で修飾された電極触媒(触媒担持体)(実施例4)を作製した。
【化29】
【0055】
[実施例5]
ジエチルメラミン(上記一般式(16))とヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸・リチウム(上記一般式(20))を用いて合成したジエチルメラミンカチオンとヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸アニオンからなる塩5(下記一般式(30))を、その濃度が100μMになるようアセトンに溶解させ、塩修飾用のアセトン溶液5を調整した(表1の試料17の組合せ)。直径6mmのglassy carbon(GC)電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒(Pt金属として塗布量は14.1μg/cm
2)(未修飾触媒担持体)を、この塩修飾用アセトン溶液30ml中に、300rpmで攪拌しながら10分間浸漬した。その後、GC電極を塩修飾用アセトン溶液から取り出し、アセトンで5秒間洗浄し、塩5で修飾された電極触媒(触媒担持体)(実施例5)を作製した。
【化30】
【0056】
[比較例1]
メラミン(上記一般式(18))を、その濃度が100μMになるよう過塩素酸水溶液に溶解させ(メラミンはアセトンに不溶のため、1Mの過塩素酸水溶液を使用)、塩修飾用の過塩素酸水溶液6を調整した。直径6mmのglassy carbon(GC)電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒(Pt金属として塗布量は14.1μg/cm2)(未修飾触媒担持体)を、この修飾用過塩素酸水溶液30ml中に、300rpmで攪拌しながら10分間浸漬した。その後、GC電極を修飾用過塩素酸水溶液から取り出し、純水で5秒間洗浄し、メラミンカチオンと過塩素酸アニオンで修飾された電極触媒(触媒担持体)(比較例1)を作製した。
【0057】
「CV測定およびLSV測定」
実施例1~5および比較例1の塩またはメラミンで修飾する前のGC電極(未修飾触媒担持体)を、25℃、アルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に浸漬し、対極に白金線、参照電極に可逆水素電極(RHE)を用いた三極式セルを用い、サイクリックボルタンメトリー(CV)を測定した。CV測定時の電位幅は0.05V~1.2V vs.RHE、電位掃引速度は50mV/秒である。CVの測定前に触媒表面を清浄化するため、電位幅0.05V~1.2V vs.RHE、電位掃引速度100mV/秒で70サイクル電位掃引を繰り返した。次いで、酸素ガスを0.1Mの過塩素酸水溶液に30分間バブリングして酸素飽和させ、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)を測定した。LSV測定時の電位幅は0.05V~1.2V vs.RHE、電位掃引速度は10mV/秒、GC電極の回転数は1600rpmで正方向に掃引してLSVを測定した。
未修飾触媒担持体の電気化学測定(CVとLSV)が終わった後、実施例1~5および比較例1の塩またはメラミンで修飾したGC電極(触媒担持体)について、同様の方法でCVとLSV測定を行った。
実施例1~5および比較例1のGC電極について、触媒担持体の電気化学測定(CVとLSV)が終わった後、各電極を温度80℃、アルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬した。その後、純水でGC電極を洗浄し、再度、各電極を25℃、0.1Mの過塩素水溶液に浸漬し、同様の条件でCVとLSVを測定した。
実施例1~5および比較例1のCVの結果を
図3~8の(a)に、LSVの結果を
図3~8の(b)に示す。各図面において、「修飾前」は、Pt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒をメラミンで修飾させる前の実施例1~5および比較例1の未修飾触媒担持体のCVとLSVであり、「修飾後」は、Pt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒をメラミンで修飾した実施例1~5の触媒担持体のCVとLSVであり、「80℃、1時間後」は、実施例1~5の塩および比較例1の触媒担持体を80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬した後のCVとLSVである。
【0058】
「CV結果」
比較例1のメラミンを修飾したGC電極(触媒担持体)のCVでは(
図8(a))、0.7V~1.0V vs.RHEにおいて観測される白金の酸化電流が未修飾触媒担持体に比べて減少しており、メラミン修飾により白金の酸化が抑制されたことがわかる。しかし、80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬すると、0.7V~1.0V vs.RHEにおいてメラミン修飾前のGC電極(未修飾触媒担持体)に近い白金の酸化電流が観測された。これは、Ptコアシェル触媒を修飾していたメラミンが、80℃、0.1Mの過塩素酸水溶液あるいは触媒層中に溶解脱離したためと考えられる。実施例1~5においても(
図3~
図7の(a))、80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬すると、修飾後に比べて電位0.7V~1.0V vs.RHEにける白金の酸化電流は増加したが、その増加の度合いはメラミンに比べて小さい。したがって、0.7V~1.0Vvs.RHEのCV変化から、実施例1~5では比較例1のメラミンに比べ、80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬した後も、白金の酸化が抑制されていると考えられる。
【0059】
「LSV結果」
比較例1のメラミン修飾後のGC電極(触媒担持体)のLSV(
図8(b))は、メラミン修飾前のGC電極(未修飾触媒担持体)に比べて高電位側にシフトし、Ptコアシェル触媒のORR活性が向上した。一方、80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬させると、LSVが修飾後に比べて低電位側にシフトしており、ORR活性が低下した。これは、前述したCVの変化(
図8(a))から、メラミンが80℃の過塩素酸水溶液あるいは触媒層中に溶解脱離したためと考えられる。
実施例1~5の塩で修飾したGC電極(触媒担持体)のLSV(
図3~
図7(b)の修飾後)は、修飾前のGC電極に比べて高電位側にシフトしており、実施例1~5の塩で修飾することにより、Ptコアシェル触媒のORR活性が向上することがわかる。また、実施例1~5の塩で修飾したPtコアシェル触媒においても、80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬させると、比較例1と同様に、LSVが低電位側に移動しており(
図3~
図7(b)の80℃、1時間後)、ORR活性が低下した。したがって、実施例1~5の塩においても、その一部は80℃、0.1Mの過塩素酸水溶液あるいは触媒層中に溶解脱離したと考えられる。
図8(a)のCVに示したように、比較例1のメラミンで修飾したGC電極を80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬した場合、0.7V~1.0V vs.RHEでの白金の酸化電流が修飾前の酸化電流に近くなるまで増加しており、メラミンが溶解脱離したことを示している。しかし、Pt系触媒を高活性化させる効果は、メラミンが最も大きい(表2参照)。80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬すると、メラミンの大部分は溶解脱離するが、メラミンの高活性化効果が大きいため、微量に残存するメラミンにより、ORR活性が実施例1~5に比べて大きく減少しなかったと考えられる。
【0060】
実施例1~5および比較例1のCVにおいて、0.5V~1.0 V vs.RHEで観測される白金の酸化電流を積分して電気量を求めた。修飾後の電気量を「S1」、80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素水溶液に1時間浸漬した後の電気量を「S2」とし、塩またはメラミンの残存率Rを下記(式3)で定義した。
R=1-(S2-S1)/S1 (式3)
図9(a)に示すように、
図3~
図8の各CVの0.5V~1.0Vvs.RHEで観測される白金の酸化電流を、修飾後と80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素水溶液に1時間浸漬後についてそれぞれ積分し、修飾後の電気量「S1」と高温耐久性試験後の電気量「S2」を求めた。
図9(b)に、塩の残存率Rを上記(式3)で算出した結果を示す。比較例1のメラミンの残存率が0.662であるのに対し、実施例1~5の塩の残存率は0.755~0.800であり、本発明によるトリアジン誘導体カチオンと、パーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオン、あるいは、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオンとからなる塩で触媒を修飾することにより、80℃、0.1Mの過塩素酸中での残存率が高まることがわかる。
【0061】
表2に、実施例1~5および比較例1において、「塩の選択」で述べた収率(表1参照)、下記(式3)で求めた修飾物の残存率、修飾前、修飾後および80℃のアルゴンガスで飽和した0.1Mの過塩素酸水溶液に1時間浸漬した後のORR質量活性を示す。ORR質量活性の算出では、各LSVにおいて、0.4 V vs.RHEでの拡散限界電流ILと0.9V vs.RHEでのORR電流Iを求め、下記(式4)から活性化支配電流Ikを算出し、このIkをGC電極上のPt重量(14.1μg/cm2)で除することにより0.9V vs.RHEでのORR質量活性を求めた。
Ik=I×IL/(I-IL)) (式4)
比較例1のメラミンの収率は0であり、80℃、pH1の過塩素酸水溶液に可溶である。一方、実施例1~5の塩の収率は60%以上であり、80℃、pH1の過塩素酸水溶液で難溶性を有している。このため、実施例1~5の塩の残存率は、比較例1のメラミンよりも高い値を示している。実施例1~5の塩で修飾したPtコアシェル触媒のORR質量活性は、全ての塩において修飾前のORR質量活性に比べて向上している。したがって、本発明によるトリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、あるいは、トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩で触媒を修飾することにより、Ptコアシェル触媒のORR質量活性が高まることがわかる。さらに、実施例1~5の塩で修飾した触媒を80℃、0.1Mの過塩素酸水溶液(@J)に1時間浸漬した後においても、それらのORR質量活性は未修飾触媒に比べて高い値を示している。したがって、本発明によるトリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、あるいは、トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩で修飾されたPt系触媒では、PEFCカソードの高温(約80℃)、強酸性pH約1)の環境において、高いORR活性が長期間に渡って維持されると考えられる。
【0062】
【表2】
※メラミンは80℃、0.1Mの過塩素酸中で無色透明であり、難溶性の塩を全く生成しないため、収率は0である。
【0063】
「触媒の耐久性」
Ptコアシェル触媒やPt合金触媒では、その高いORR活性は表面Pt層の下層に存在するPdやCo等の非dsによる歪効果と電子的効果によってもたらされている。PEFCカソードでは、加速と減速により電位が0.6V~1.0V vs.RHEで変動するため、
図3(a)~
図7(a)に示したCVから、この電位範囲においてPt表面層が酸化還元することがわかる。この酸化還元により、触媒粒子のオストワルド成長と移動凝集が起こり、触媒粒径が増加して表面積が減少する結果、Pt系触媒のORR質量活性が低下する。また、この酸化還元に伴って表面Pt層の下層に存在するPdやCo等の非Pt金属が酸化溶出することで、ORR質量活性が低下する。
図3(a)~
図7(a)に示したCVから、本発明によるトリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、あるいは、トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩で修飾されたPtコアシェル触媒では、0.7V~1.0V vs.RHEで白金表面の酸化が抑制される。したがって、本発明によるトリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、あるいは、トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩でPt系触媒を修飾することにより、PdやCo等の非Pt金属の酸化溶出が抑制され、耐久性の向上も期待できる。
【0064】
実施例3で得られた、ジエチルメラミンカチオンとビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオンからなる塩3(上記一般式28)をアセトンに溶解して修飾溶液を作製し、GC電極に塗布したPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒上に、触媒重量に対して10wt%になるよう塗布し、Pt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒を塩3で修飾した。この塩3で修飾したGC電極を使用し、加速耐久性試験(Accelerated Durability Test:ADT)を行った。ADTは0.6V(3秒)~1.0V(3秒)vs.RHEの矩形波電位サイクルで、アルゴンガスで飽和した80℃の0.1Mの過塩素酸水溶液中、10,000サイクル行う加速耐久性試験である。比較対象として、塩3で修飾していないPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒についてもADTを行った。ADT前後の触媒について、TEM-EDXによりPtとPdの組成を分析し、ADT前後の組成変化からPdコアの酸化溶出率を算出した(Ptは酸化溶出していないとして算出)。
表3に、ADT前後でのPt/Pd/KB-600JDコアシェル触媒のPtとPd組成およびPdコアの酸化溶出率を示す。未修飾の触媒では、ADTによりPdコアが64%酸化溶出した。一方、塩3で10wt%修飾した触媒では、Pdコアの酸化溶出率は44%であり、塩3の修飾によってPdコアの酸化溶出率が20ポイント減少しており、塩3の修飾によりPt/Pd/KB-600JDコアシェルの耐久性が向上することがわかった。これは、
図3(a)~
図7(a)に示した塩修飾によるCVの変化から、本発明によるトリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、あるいは、トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩で修飾することにより、0.7V~1.0V vs.RHEの電位範囲で白金表面の酸化が抑制されたためである。
【0065】
【0066】
これらの結果から、Pt系触媒を本発明によるトリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホン酸アニオンからなる塩、あるいは、トリアジン誘導体カチオンとパーフルオロアルキルスルホニルイミドアニオンからなる塩で修飾することにより、高いORR質量活性を長期間に渡って維持できると同時に、Pt系触媒の耐久性も高められる。