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特開2023-121257レベル調整機構及びレベル調整システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121257
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】レベル調整機構及びレベル調整システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20230824BHJP
【FI】
C23C14/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024495
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姫路 俊明
(72)【発明者】
【氏名】若林 洋介
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029HA01
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】複数の装置が互いに接続された生産ラインにおいて、装置間の接続部に過大な負荷をかけずに、簡易的にレベル調整を行うレベル調整機構を提供する。
【解決手段】複数の装置10で構成される成膜装置において、複数の装置10の間の高さの位置関係を調整するレベル調整機構であって、複数の調整部3と、複数のマーク2と、検知部1と、高さずれ量を取得する取得部と、調整部を駆動する制御部と、を備え、制御部は、複数のマーク2のうち最も高さずれ量が大きいマークを調整マークとして選択し(A)、調整マークが設けられている調整装置、及び調整装置と隣接し接続された装置、に設けられたマークの中から、調整マークを除いて、基準マークを選択し(B)、調整マークの高さずれ量が、基準マークの高さずれ量と同じ値となるように調整部を駆動し(C)、(A)、(B)、(C)の動作を繰り返し行い、レベル調整を行うことを特徴とするレベル調整機構。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接続された複数の装置で構成される成膜装置において、複数の装置の高さを調整して前記複数の装置の間の高さの位置関係を調整するレベル調整機構であって、
前記複数の装置のそれぞれを下方から支持し、前記複数の装置の高さを調整可能な複数の調整部と、
前記複数の装置のそれぞれに設けられる複数のマークと、
前記複数のマークのそれぞれの高さを検知する検知部と、
前記検知部の検知結果を基に、前記マークの高さとそれぞれの設定値との間の高さずれ量を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記高さずれ量を基に前記調整部を駆動する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記複数のマークのうち最も前記高さずれ量が大きいマークを調整マークとして選択し(A)、
前記調整マークが設けられている調整装置、及び前記調整装置と隣接し接続された装置、に設けられたマークの中から、前記調整マークを除いて、基準マークを選択し(B)、
前記調整マークの前記高さずれ量が、前記基準マークの前記高さずれ量と同じ値となるように前記調整部を駆動し(C)、
(A)、(B)、(C)の動作を繰り返し行い、レベル調整を行うことを特徴とするレベル調整機構。
【請求項2】
前記制御部は、前記調整マークの次に前記高さずれ量が大きいマークを前記基準マークとして選択することを特徴とする請求項1に記載のレベル調整機構。
【請求項3】
前記制御部は、前記調整マークがその設定値より低い位置にある場合、それぞれの設定値より低い位置にあるマークの中から前記基準マークを選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のレベル調整機構。
【請求項4】
前記制御部は、前記複数のマークのうち最も前記高さずれ量が大きいマークが複数ある場合、それぞれを前記調整マークとして選択することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のレベル調整機構。
【請求項5】
前記制御部は、前記調整マークを複数選択した場合、すべての前記調整マークの前記高さずれ量が前記基準マークの前記高さずれ量と同じ値となるように前記調整部を動作させることを特徴とする請求項4に記載のレベル調整機構。
【請求項6】
前記調整部は、それぞれの前記装置に少なくとも3つ以上設けられ、
前記マークは、前記装置に前記調整部と同数設けられることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のレベル調整機構。
【請求項7】
前記マークは、鉛直方向から見たときに前記調整部と重なる位置に設けられることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のレベル調整機構。
【請求項8】
前記複数の装置は、ベローズで互いに接続されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のレベル調整機構。
【請求項9】
互いに接続された複数の装置で構成され、前記装置のそれぞれに前記装置の高さを調整可能な調整部とマークが設けられる成膜装置において、複数の装置の高さを調整して前記
複数の装置の間の高さの位置関係を調整するレベル調整方法であって、
前記マークの高さを測定する第1の工程と、
前記マークの高さとそれぞれの設定値との間の高さずれ量を取得する第2の工程と、
前記マークのうち最も前記高さずれ量が大きいマークを調整マークとして選択する第3の工程と、
前記調整マークが設けられている調整装置、及び前記調整装置と隣接し接続された装置、に設けられたマークの中から、前記調整マークを除いて、基準マークを選択する第4の工程と、
前記調整マークの前記高さずれ量が、前記基準マークの高さずれ量と同じ値となるように前記調整部を駆動する第5の工程と、
を含み、前記第1の工程から前記第5の工程を繰り返すことを特徴とするレベル調整方法。
【請求項10】
前記第4の工程において、前記調整マークの次に前記高さずれ量が大きいマークを前記基準マークとして選択することを特徴とする請求項9に記載のレベル調整方法。
【請求項11】
前記第4の工程において、前記調整マークがその設定値より低い位置にある場合、それぞれの設定値より低い位置にあるマークの中から前記基準マークを選択することを特徴とする請求項9又は10に記載のレベル調整方法。
【請求項12】
前記第3の工程において、複数の前記マークのうち最も前記高さずれ量が大きいマークが複数ある場合、それぞれを前記調整マークとして選択することを特徴とする請求項9~11のいずれか1項に記載のレベル調整方法。
【請求項13】
前記第3の工程において前記調整マークを複数選択した場合、前記第5の工程においてすべての前記調整マークの前記高さずれ量が前記基準マークの前記高さずれ量と同じ値となるように前記調整部を駆動することを特徴とする請求項12に記載のレベル調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産ラインのレベル調整機構及びレベル調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の装置で構成される生産ラインのレベル調整においては、それぞれの装置下部にレベルアジャスタ等のレベリング機構を複数設けて、各装置のレベルと装置間の高さ位置関係を調整する方法が一般的である。スパナ等の工具を用いて人力でレベル調整を行う場合、水準器の表示を確認しながらそれぞれのレベルアジャスタを調整する必要があるため、大きな手間である。さらには、複数のレベルアジャスタをどの順でどの程度の量を調整すべきかを定量的に把握する事は難しく、作業には熟練を要する。そこで、生産ラインのレベル調整においては、各装置の高さ情報等を利用して人の勘に頼らず自動的にレベルアジャスタを調整できることが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
成膜装置等の生産ラインにおいては、装置が重量物であるため、生産ラインを設置する建屋の床が装置重量によって徐々に沈み込み、各装置のレベル、及び装置間の位置関係が変化する可能性がある。建屋床の経時変化に対応するため、成膜装置を構成する各装置間の接続部は、装置間の取付面間距離、取付面倒れ、取付面並進ズレを吸収でき、かつ真空シール性を確保できるベローズ等で構成される。一方、建屋床の変形により沈み込んだ装置の高さを一つ一つ順番に調整すると、装置間の高さの位置関係が一時的に大きく変化するため、接続部のベローズ等に許容可動範囲以上の負荷がかかることがある。接続部への過大な負荷によって、ベローズが破損したり、成膜装置を構成する真空チャンバのシール面の平面度が維持できなかったりする場合、リークが発生し、問題となる。
【0004】
本発明は、上述のような現状を鑑みてなされたもので、複数の装置が互いに接続された生産ラインにおいて、装置間の接続部に過大な負荷をかけずに、簡易的にレベル調整を行うレベル調整機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のレベル調整機構は、
互いに接続された複数の装置で構成される成膜装置において、複数の装置の高さを調整して前記複数の装置の間の高さの位置関係を調整するレベル調整機構であって、
前記複数の装置のそれぞれを下方から支持し、前記複数の装置の高さを調整可能な複数の調整部と、
前記複数の装置のそれぞれに設けられる複数のマークと、
前記複数のマークのそれぞれの高さを検知する検知部と、
前記検知部の検知結果を基に、前記マークの高さとそれぞれの設定値との間の高さずれ量を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記高さずれ量を基に前記調整部を駆動する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記複数のマークのうち最も前記高さずれ量が大きいマークを調整マークとして選択し(A)、
前記調整マークが設けられている調整装置、及び前記調整装置と隣接し接続された装置、に設けられたマークの中から、前記調整マークを除いて、基準マークを選択し(B)、
前記調整マークの前記高さずれ量が、前記基準マークの前記高さずれ量と同じ値となるように前記調整部を駆動し(C)、
(A)、(B)、(C)の動作を繰り返し行い、レベル調整を行うことを特徴とする。
また、本発明のレベル調整方法は、
互いに接続された複数の装置で構成され、前記装置のそれぞれに前記装置の高さを調整可能な調整部とマークが設けられる成膜装置において、複数の装置の高さを調整して前記複数の装置の間の高さの位置関係を調整するレベル調整方法であって、
前記マークの高さを測定する第1の工程と、
前記マークの高さとそれぞれの設定値との間高さずれ量を取得する第2の工程と、
前記マークのうち最も前記高さずれ量が大きいマークを調整マークとして選択する第3の工程と、
前記調整マークが設けられている調整装置、及び前記調整装置と隣接し接続された装置、に設けられたマークの中から、前記調整マークを除いて、基準マークを選択する第4の工程と、
前記調整マークの前記高さずれ量が、前記基準マークの高さずれ量と同じ値となるように前記調整部を駆動する第5の工程と、
を含み、前記第1の工程から前記第5の工程を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の装置が互いに接続された生産ラインにおいて、装置間の接続部に過大な負荷をかけずに、簡易的にレベル調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】レベル調整機構を示す模式図である。
図2】調整機構の構成を示す図である。
図3】設置直後の生産ラインを示す図である。
図4】生産ラインの構成を示すブロック図である。
図5】床が1箇所沈み込んで変形した生産ラインの様子を示す図である。
図6】比較例のレベル調整が行われた生産ラインの様子を示す図である。
図7】レベル調整方法のフローチャートである。
図8】1つの装置のレベル調整が行われる様子を示す図である。
図9】生産ライン全体のレベル調整が行われる様子を示す図である。
図10】床が複数箇所沈み込んで変形した生産ラインの様子を示す図である。
図11】有機EL表示装置のインライン製造システムの模式的な構成図である。
図12】有機EL表示装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0009】
本発明は、複数の装置が互いに接続された状態で設けられる生産ラインのレベル調整システムに関するものである。なお、本説明においては、生産ラインのレベル調整とは、生産ラインを構成する各装置の高さや水平度を調整し、装置間の高さの位置関係等を適切に調整することを指す。本発明は、例えば、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置を備える成膜装置等の生産ラインに適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料膜)を形成する真空装置を含む生産ラインに望ましく適用することができる。以下、本発明を真空装置が含まれる電子デバイスの成膜装置に適用した場合を例
に説明するが、本発明が適用可能な生産ラインはこれに限られず、互いに接続された複数の装置で構成される各種生産ラインに適用可能である。
【0010】
基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、シリコンウェハ、金属などの任意の材料を選択でき、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが堆積された基板であってもよい。また、蒸着材料としても、有機材料、金属製材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択してもよい。本発明の技術は、具体的には、有機ELデバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などを製造するための生産ラインに適用可能である。その中でも、蒸着材料を蒸発させてマスクを介して基板に蒸着させることで有機発光素子を形成する有機発光素子の生産ラインは、本発明の好ましい適用例の一つである。また、以下で説明する各種装置等の同一図面内に同一もしくは対応する部材を複数有する場合には、図面中にa、bなどの添え字を付与して示す場合があるが、説明文において区別する必要がない場合には、a、bなどの添え字を省略して記述する場合がある。
【0011】
(レベル調整機構)
本発明に係る生産ラインのレベル調整機構について説明する。説明に際しては、複数の装置10が互いに接続されて構成される生産ライン200に本発明を適用した場合について説明する。ここでいう生産ライン200とは例えば後述する成膜装置300であり、装置10とは後述するマスク搬入室90やアライメント室100等の装置の総称である。
【0012】
図1は、成膜装置を構成する装置10と周辺装置を模式的に示す。本実施形態においては、装置10が複数並べて配置され、生産ラインが構成される。それぞれの装置10には、測定用のマーク2が天面側に、装置10を支持する調整機構3とアジャストフット4が底面側に設けられている。また、各装置の高さと水平度を調整し、生産ラインのレベル調整を行うレベル調整機構は、マーク2と調整機構3に加えて、マーク2の座標位置を測定する測定器1と、測定器1の測定結果に基づいて調整量を算出し各調整機構3に指示を出す演算処理部5と、を含む。
【0013】
調整機構3は、装置10の下面に複数設けられ、装置10を下面側から支持する。調整機構3は、それぞれの高さが個別に調整可能であり、装置10の高さや水平度を調整する調整部として機能する。アジャストフット4は、調整機構3と同様に装置10の下面に設けられ、装置10を下面側から支持する。アジャストフット4はバネ機構付きであり、調整機構3の高さが変化しても常に装置10を支持し続ける。アジャストフット4を設けることで、装置10を支持する調整機構3の負荷を軽減することが可能である。装置が比較的軽量で、調整機構のみで装置を十分支持できる場合には、アジャストフットは設けなくても良い。
【0014】
本実施形態においては、測定用のマーク2は、装置10の上面に調整機構3と同数設けられ、調整機構3に対応した位置にそれぞれ配置される。ここで、マーク2を調整機構3に対応した位置に配置するとは、装置10を鉛直方向から見たときにそれぞれの調整機構3と重なるようにマーク2を配置しても良いし、別の方法で配置しても良い。すなわち、それぞれのマーク2の高さの測定結果を基に、対応する調整機構3の調整値が算出可能な構成であれば良い。なお、本実施形態においては装置10に調整機構とマークを3個ずつ設ける構成としたが、本発明の適用はこれに限られず、調整機構やマークの配置位置や数は変更しても良い。ただし、各装置の水平度を調整するためにも調整機構は装置に3個以上設けられていることが望ましい。
【0015】
高さを検知する検知部としての測定器1は、測定用のマーク2の座標を正確に測定するため建屋の柱や壁際などの高い強度を有するものの近傍に配置される。測定器1は、測定
可能な距離内にある複数の装置の測定を行うことが可能であり、その測定能力や生産ラインを構成する装置の数に合わせて、配置する位置や個数を決めれば良い。測定器1及びマーク2の構成例としては、例えば測定器1から出力されるレーザー光をマーク2で反射し、その反射光によりマーク2の位置を検知するような構成が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0016】
図2は、調整機構3の構成例を示す。本実施形態の調整機構3は、装置10の下面に接する架台31と、架台31の下方に設けられる勾配ブロック32を備える。架台31と勾配ブロック32は、レール33と係合可能なスライド部材34を介して、レール33上を移動可能である。勾配ブロック32が、減速機35を介して伝達されるサーボモータ36の駆動力によって、方向D1、又は方向D2に移動し、架台31が上下方向に移動する。なお、本発明に用いる調整機構の構成はこれに限られず、例えば勾配ブロックを介さずに、サーボモータの駆動力によって装置を支持する架台を直接上下方向に移動させるような構成であっても良い。
【0017】
図3は、複数の装置10が互いに接続されて構成される生産ライン200を模式的に示す。本実施形態の生産ライン200は、図1に示した構成と同様にマーク2や調整機構3が設けられた装置10が複数台配置され、生産ラインの形態をなす。つまり、生産ライン200は、3個の調整機構3と3個のマーク2が設けられた装置10が複数台並べられて構成される。各調整機構3は、床7の上に設けられ、それぞれを個別に駆動させることで、各装置10の高さや水平度を調整可能である。調整機構3は、装置天面に設けられたマーク2の座標の測定値と設計値との差を基に算出される指令値に従って駆動される。また、生産ライン200内の各装置を区別して説明するため、図3に示す装置10にはそれぞれ異なる添え字を付与している。図3の中央に位置する装置を装置10Cとし、装置10Cより右側に位置する装置を順に装置10R1、10R2、10R3、…10Rnとし、装置10Cより左側に位置する装置を順に装置10L1、10L2、10L3、…10Lnとしている。ここで、nは4以上の自然数である。すべての装置10に設けられたマーク2は、設定値である基準高さHに位置するように配置される。なお、本実施形態においては、すべてのマーク2の基準高さが同一の位置にあるが、それぞれのマーク2ごとに異なる基準高さが設定されていても良い。
【0018】
本実施形態の装置10は真空装置を含み、各装置間は真空シール性を確保するためにベローズ8等で接続されている。ベローズ等の伸縮可能な部材を接続部に用いることにより、調整機構3による調整量が小さい場合には、各装置が接続されたまま一方の装置の高さが変動しても、接続部が破損なく変形し、真空シール性が保たれる。なお、本実施形態においては各装置が一直線上に並べられて配置されているが、本発明の適用はこれに限られず、複数の装置の配置はL字配置やU字配置、周回状配置であっても良い。また、クラスタ装置のように、1つの装置に3つ以上の装置が接続されていても良い。さらには、装置の数がより少数で、2つの装置で構成される生産ラインであっても良い。すなわち、本実施形態で示した装置の数や配置は本発明の範囲を限定するものではない。
【0019】
生産ライン200を構成する装置10は、作業員により、床面に張られた水糸などの基準位置を示す目印に合わせて配置される。基準位置に設置された装置はその後、柱6近傍に設けられた測定器1により得られる測定結果を用いて設置位置の微調整が行われる。測定器1は、レーザー光を測定用マーク2に向けて発し、戻り光からマーク2の高さ情報及び水平位置情報を取得する。演算処理部5は、測定器1が取得した水平位置情報を元に設計値との差分を移動量として作業者に指示する。作業者が水平位置を微調整後、再度測定器1による測定を実施し、取得した位置情報を元に演算処理部5の指令値に基づいて調整機構3が動作し、高さの自動調整が行われる。演算処理部5では、マーク2がそれぞれ基準高さHに位置するように調整機構3の調整値を算出する。このようにして、位置と高さ
を調整して装置が互いに接続された状態で複数配置され、生産ラインが構成される。
【0020】
図4は、本実施形態のレベル調整システムのブロック図を示す。本実施形態においては、測定器1が測定した各装置上のマーク2の高さ情報等の測定結果から演算処理部5が調整値を算出し、駆動司令部11を介して各装置の調整機構3に調整値が指示される。演算処理部5は、測定器の測定結果を基に各種値の計算等を行う取得部51と、取得部51で得られた値を基に駆動司令部11を介して調整機構3に指示を行う制御部52と、を備える。各調整機構3にはそれぞれモータ13が設けられ、モータ13の駆動により各装置10に設けられた複数の調整機構3の高さが変動する。例えば、装置10Cを支持する調整機構3を駆動するためのモータ13Ca、13Cb、13Ccは、駆動司令部11Cを介して、演算処理部5で算出された調整値に従って動作する。その他の装置10も、それぞれの装置10に対応する駆動司令部11とモータ13によって高さの調整が可能である。図4は、駆動司令部11とモータ13の符号の末尾に、それぞれの装置10に対応する添え字を付して、それぞれの駆動司令部11やモータ13を区別して示している。
【0021】
(レベル調整方法)
次に、本実施形態においてレベル調整方法がどのようにして行われるか、例示的に詳しく説明する。図5は、生産ライン200を支持する床7の一部が沈み込むように変形した様子を示す。このとき、複数の装置10の中で装置10Cが、最も深く沈み込んでおり、最も基準高さHから離れた位置にある。本発明は、このように複数の装置の高さや水平度調整して装置を据付けした後、装置重量により沈み込む床の経時変化に対し、真空装置間を接続するベローズやチャンバ自体に過大な負荷を掛けずに、生産ラインのレベルを自動調整する方法を提供するものである。
【0022】
重量物である生産装置を設置する建屋の床は、装置重量により徐々に沈み込んでいき、据え付け時に調整した各装置のレベルや高さ、装置間の位置関係は変化する。生産ライン200に設けられる真空装置の真空シール性を確保し、装置間の取付面間距離、取付面倒れ、取付面並進ズレを吸収するため、ベローズ8等で装置間を接続している。
【0023】
まずは、比較例として図5に示した状態の生産ライン200に対して、一つの装置10の高さ調整のみを行った場合について説明する。図6は、図5の状態から最も沈んでいた装置10Cのみの高さ調整を行った場合の生産ライン200の様子を示す。例えば、装置重量により沈み込んだ量を測定し、沈みこんだ量が大きい装置から順に一つ一つの装置を測定値に基づいて自動調整する場合を想定する。このような場合、図6に示すようにまず最も沈んだ装置10Cの高さが調整される。すると、装置10Cと、装置10Cに隣接する装置10R1、10L1の高さの位置関係は設計値から大きくずれうる。すると、装置間を接続するベローズ8等で構成される接続部が大きく変形し、大きな負荷がかかる。そして、ベローズ8が許容可動範囲以上に変形し、破損した場合には、リークが発生する。また、接続部だけでなく装置10自体にも大きな負荷がかかるため、真空装置においてはシール面の平面度が維持できずにリークが発生する場合もある。つまり、本実施形態のように真空装置を含む生産ラインにおいては、接続部への負荷が想定以上に高くならないように各装置のレベル調整を行う必要性が特に高い。
【0024】
次に、本実施形態のレベル調整方法について説明する。図7は、本発明におけるレベル調整方法のフローチャートを示す。本発明のレベル調整方法は、基準位置から最も離れたマークを、まずそのマークが設けられた装置、又は該装置と隣接した装置に設けられたマークの高さに合わせるように、徐々に生産ライン全体のレベルを調整する点で特徴的である。レベル調整にあたっては、まず第1の工程として、測定器1で各装置に設けられたマーク2の高さ位置が測定される[S101]。第2の工程として、演算処理部5で、基準高さHと各マーク2の高さ測定結果の差分(以下、高さずれ量と称す)が算出され、記録
される[S102]。第3の工程として、初めに調整する調整機構3を決めるため、高さずれ量が最も大きいマーク2が調整マークとして選択される[S103]。高さずれ量が最も大きいマーク2が複数ある場合は、それらすべてが調整マークとして選択される。次に、第4の工程として、調整マークが設けられた調整装置、及びその調整装置に隣接し接続された装置10の中から、調整マークの次に高さずれ量が大きいマーク2が、基準マークとして選択される[S104]。そして、演算処理部5で、調整マークの高さずれ量と基準マークの高さずれ量との差分が調整値として算出され、記録される[S105]。その後、調整マークに対応する調整機構3へ、記録された調整値が伝達され[S106]、その調整値に従って調整機構3が駆動される[S107]。S105からS107までの調整マークの高さずれ量が、基準マークの高さずれ量と同じ値となるように調整機構3を駆動する工程を第5の工程とする。調整機構3の駆動完了後、すべてのマーク2の高さずれ量が目標値以下[S108でYes]となれば、調整動作が終了する。一方、高さずれ量が目標値より大きいマーク2が残っている場合[S108でNo]には、再びS101からS107までの調整動作を繰り返す。ここで、各マーク2は厳密に基準高さHと同じ値である必要はなく、生産ラインの稼働に支障がない範囲として、高さずれ量が目標値以内にあるように調整すれば良い。このように、最も高さ設定値から離れた装置から順に、隣接する装置に合わせて徐々に高さを調整することで、装置間の接続部等に過度な負担をかけることなく生産ラインのレベル調整を行うことができる。
【0025】
次に、フローチャートに沿ってレベル調整方法が行われる様子を例示的に詳しく説明する。図8(a)は、図5に示した生産ライン200の中から、最も沈んだ位置にあるマーク2が設けられた装置10Cとそれに接続される装置10R1及び装置10L1を拡大して示す。図8(b)は、図8(a)の状態から、図7に示したフローチャートに沿ってS101からS107までのレベル調整のステップを完了した様子を示す。本実施形態において、各装置10にはそれぞれ3個ずつの調整機構3とマーク2が設けられている。図8(a)、(b)においては、装置10に設けられているそれぞれの調整機構3とそれに対応するマーク2を区別して説明するため、それぞれに異なる添え字を付している。具体的には、装置10Cには、調整機構3Ca、3Cb、3Ccとマーク2Ca、2Cb、2Ccが設けられる。同様に、装置10R1には調整機構3R1a、3R1b、3R1cとマーク2R1a、2R1b、2R1cが、装置10L1には調整機構3L1a、3L1b、3L1cとマーク2L1a、2L1b、2L1cが、設けられる。このとき、生産ライン200を構成する装置10に設けられるすべてのマーク2の中で、装置10Cに設けられたマーク2Ca、2Cb、2Ccの高さずれ量が最も大きく、基準高さHから最も離れた位置にある。これらのマーク2Cの次に高さずれ量が大きいマーク2は、装置10L1に設けられるマーク2L1cであり、マーク2L1aは高さHL1cにある。
【0026】
図8(a)の状態からレベル調整を行うにあたっては、まずすべてのマーク2の測定が行われ[S101]、マーク2のそれぞれの高さずれ量が算出され、記録される[S102]。そして、高さずれ量が最大であるマーク2Ca、2Cb、2Ccが、調整される調整マークとして選択される[S103]。次に、調整マークが設けられる調整装置である装置10Cと、装置10Cに隣接して接続する装置10L1と装置10R1と、に設けられるマーク2の中から、基準マークが選択される。本実施形態においては、調整マークの次に高さずれ量が大きいマークであるマーク2L1cが、基準マークとして選択される[S104]。次に、演算処理部5で、マーク2Ca、2Cb、2Ccの高さずれ量とマーク2L1cの高さずれ量の差分を算出し、調整値として記録する[S105]。その後、調整マークに対応する調整機構3Ca、3Cb、3Ccへ、記録された調整値が伝達され[S106]、調整機構3Ca、3Cb、3Ccがそれぞれ調整値に従って駆動される[S107]。こうして、装置10Cの高さが調整され、マーク2Ca、2Cb、2Ccがマーク2L1cと同じ高さに位置する。S101からS107までのステップを一度完了し、マーク2Ca、2Cb、2Cc、2L1cが高さHL1cに位置した様子が図8(b
)である。その後は、同じ高さに位置したマーク2Ca、2Cb、2Cc、2L1cが調整マークとして選択され、同様のレベル調整が繰り返される。
【0027】
図9(a)は、上述の方法でレベル調整が繰り返され、図8に示した装置10C、10L1、10R1に設けられたマーク2の高さ調整が完了した後の様子である。図9(b)は、図9(a)に示した状態からさらにレベル調整が繰り返され、すべてのマーク2の高さが基準高さHと同程度になり、生産ライン200のレベル調整が完了した様子を示す。このように、レベル調整としてS101からS107までのステップが繰り返されることで、接続部等に過大な負荷がかからないように各装置10の高さやレベルが調整され、図5に示した床が沈み込んだ状態からのレベル調整が完了する。なお、すべてのマーク2が同一の高さとなった後、高さずれ量が目標値以内に収まっていない場合には、すべてのマーク2の高さずれ量を減らす工程をレベル調整に加えても良い。
【0028】
次に、床7が図5に示した状態とは異なる態様で変形した場合に、レベル調整が行われる例を示す。図10(a)は、床7の2箇所が沈み込むように変形した生産ライン200の様子を示す。図10(b)は、図10(a)の状態からレベル調整が行われた様子を示す。建屋の床下の根太配置、装置重量等の様々な要因によって、床が変形する程度や位置は変わりうる。つまり、装置10の高さ調整が必要な場合としては、図5に示したような床7の1箇所が沈み込んだ場合だけではなく、図10(a)に示すような床7の複数個所が沈み込む場合も想定される。
【0029】
床の複数個所が沈み込んだ場合においても、最も沈んだマークから徐々に高さの調整がされることで、生産ライン200のレベル調整が行われる。調整マークが複数の装置10にそれぞれ設けられている場合は、一方の装置に設けられた調整マークから調整しても良いし、すべての調整マークを同じ調整値に従って同時に調整しても良い。いずれの場合においても、調整されるマーク2が設けられる装置10の、隣接する装置10との高さの位置関係が大きく変わらないように、徐々にマーク2の調整が行われるため、接続部等に過大な負荷がかからない。
【0030】
以上、上述のレベル調整方法によれば、最も沈んだ装置から順に徐々に装置の高さを調整するように、人力や人の勘によらずに自動的に生産ラインのレベル調整を行うことができる。なお、上述のレベル調整は、生産ラインの定期メンテナンス時に高さずれ量が目標値以上となっている場合に実施しても良いし、高さずれ量が目標値以上となったことをセンサが検知したときに作業者に対する警告が出るようにしてレベル調整を実施しても良い。
【0031】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、種々の変更が可能である。また、各装置にマークと調整機構が一つのみ設けられている構成においても、本発明は適用できる。そのような場合であっても、最も沈んだマークを、該マークが設けられた装置に隣接して接続する装置に設けられたマークに合わせて調整することで、接続部等に過大な負荷がかからないようにレベル調整が行える。
【0032】
また、上述の実施形態においては、調整マークと基準マークの高さずれ量の差を算出して調整機構の調整値を決定していたが、必ずしも調整は算出して決定する必要はない。例えば、事前に調整量テーブルを記憶させ、調整マークと基準マークの高さを調整量テーブルに当てはめて調整量を決定しても良い。
【0033】
また、上述の実施形態においては、調整マークの次に高さずれ量が大きいマークを基準マークとして選択していたが、異なる選択基準で基準マークを選択しても良い。例えば、調整装置に隣接した装置に設けられるマークの中から、隣接方向で調整マークに最も近い
位置に設けられたマークを基準マークとしても良い。また、別の例としては、調整値の最大値を設定した上で、調整装置及び調整装置に隣接して接続する装置に設けられるマークの中から、調整値がその最大値を超えない範囲で基準マークを選択しても良い。いずれの場合においても、隣接する装置間の高さの位置関係が大きく変わらないように、生産ラインのレベル調整を行うことができる。
【0034】
(成膜装置)
次に、本発明の好ましい適用例として、成膜装置の具体的構成について図11を参照して説明する。図11は、成膜装置の模式的な構成図であり、有機EL表示装置(有機ELパネル)をインラインで製造する生産ラインである成膜装置300を例示している。有機EL表示装置は、一般的に、回路素子を形成する回路素子形成工程と、基板上に有機発光素子を形成する有機発光素子形成工程と、形成した有機発光層上に保護層を形成する封止工程と、を経て製造される。本実施例に係る成膜装置300は有機発光素子形成工程を主に行う。
【0035】
成膜装置300は、図11に示すように、マスク搬入室90と、アライメント室100(マスク取付室)と、複数の成膜室110a、110bと、反転室111a、111bと、搬送室112と、マスク分離室113と、基板分離室114と、キャリア搬送室115と、マスク搬送室116と、基板搬入室117(基板取付室)と、を有する。成膜装置300はさらに、後述する搬送手段を有しており、基板キャリア29は搬送手段によって成膜装置300の有する各チャンバ内を通る所定の搬送経路に沿って搬送される。
【0036】
具体的には、図11の構成においては、基板キャリア29は、基板搬入室117、反転室111a、マスク搬入室90、アライメント室100(マスク取付室)、複数の成膜室110a、110b、搬送室112、マスク分離室113、反転室111b、基板分離室114、キャリア搬送室115、の順に各チャンバ内を通って搬送され、再度、基板搬入室117に戻る。一方、マスク26は、マスク搬入室90、アライメント室100(マスク取付室)、複数の成膜室110a、110b、搬送室112、マスク分離室113、の順に各チャンバ内を通って搬送され、再度、マスク搬入室90に戻る。このように、基板キャリア29とマスク26は、それぞれ所定の搬送経路(循環搬送経路)に沿って循環して搬送される。以下、各チャンバの機能について説明する。
【0037】
未成膜の基板25は、基板搬入室117から循環搬送経路に投入され、基板キャリア29に保持された状態で成膜される。その後、成膜済みの基板25は、基板分離室114から搬出される。基板搬入室117に搬入された未成膜の基板25は、まず基板搬入室117で基板キャリア29に取り付けられ、保持される。それから成膜の前に、反転室111a、マスク搬入室90を経由してアライメント室100に搬入される。
【0038】
反転室111a、111bには基板キャリア29の基板保持面の向きを鉛直方向上向きから鉛直方向下向きに、または、鉛直方向下向きから鉛直方向上向きに反転させる反転機構120a、120bが備えられている。反転手段としての反転機構120a、120bは、基板キャリア29を把持等して姿勢(向き)を変化させることができる従来既知の機構を適宜採用してよく、具体的な構成の説明は省略する。
【0039】
基板25は、基板キャリア29が保持面が鉛直方向上を向いた状態で配置されている基板搬入室117に、被成膜面が鉛直方向上を向いた状態で搬入される。搬入された基板25は、基板キャリア29の保持面の上に載置され、基板キャリア29によって保持される。その後、反転室111aにおいて、反転機構120aによって基板25を保持した基板キャリア29が反転され、基板25の被成膜面が鉛直方向下を向いた状態になる。一方、基板キャリア29がマスク分離室113から反転室111bに搬入される際には、基板2
5の被成膜面が鉛直方向下を向いた状態で搬入されてくる。搬入後、反転機構120bによって基板25を保持した基板キャリア29が反転され、基板25の被成膜面が鉛直方向上を向いた状態となる。その後、基板25は被成膜面が鉛直方向上を向いた状態で基板分離室114から搬出される。
【0040】
基板搬入室117に搬入された基板25を保持して反転された基板キャリア29がマスク搬入室90を経てアライメント室100に搬入されるのに合わせて、マスク26もマスク搬入室90からアライメント室100に搬入される。アライメント室100(マスク取付室)には、アライメント装置が搭載されている。アライメント室100では、アライメント装置が本実施例に係る基板キャリア29に載った基板25とマスク26とを高精度で位置合わせし、マスク26に基板キャリア29(基板25)が載置される。その後、基板キャリア29が載置されたマスク26を搬送ローラ(搬送手段)に受け渡し、次工程に向けて搬送を開始する。搬送手段としての搬送ローラ(不図示)は、搬送経路の両脇に搬送方向に沿って複数配置されており、それぞれ不図示のACサーボモータの駆動力により回転することで、基板キャリア29やマスク26を搬送する構成となっている。
【0041】
図11において、成膜室110a、110bでは、搬入されてきた基板キャリア29に吸着された基板25が、蒸着源(不図示)上を通過することで、基板25の被成膜面においてマスク26によって遮られる個所以外の面が成膜される。成膜室110は、真空ポンプや室圧計を備えた室圧制御部(不図示)により室圧(チャンバ内部の圧力)を調整可能である。成膜室110の内部には蒸着材料(成膜材料)を収納した蒸発源(成膜源)を配置可能であり、これにより、チャンバ内部に減圧された成膜空間が形成される。成膜空間においては、蒸発源から基板25に向けて蒸着材料が飛翔し、基板上に膜が形成される。蒸発源は、例えば、蒸着材料を収容する坩堝などの材料収容部と、蒸着材料を加熱するシースヒータなどの加熱手段を備えるものであってもよい。さらに、基板キャリア29およびマスク26と略平行な平面内で材料収容部を移動させる機構や蒸発源全体を移動させる機構を備えることで、蒸着材料を射出する射出口の位置をチャンバ内で基板25に対して相対的に変位させ、基板25上への成膜を均一化してもよい。
【0042】
成膜室110a、110bでの成膜完了後、基板キャリア29とマスク26は、マスク分離室113に到達し、マスク分離室113にて分離される。基板キャリア29から分離したマスク26は、マスク搬送室116へ搬送され、新たな基板25の成膜工程に回される。一方、基板25を保持した基板キャリア29は、反転室111b、基板分離室114へ搬送される。基板分離室114において、成膜が完了した基板25は、基板キャリア29から分離され、循環搬送経路内から回収される。基板キャリア29は、基板搬入室117に搬送され、基板搬入室117において新たな基板25が搬入、吸着される。その後、反転室111aにおいて反転された基板キャリア29は、再びアライメント室100において、マスク搬入室90から搬送されてきたマスク26上にアライメントされて載置される。
【0043】
(電子デバイスの製造方法)
次に、成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0044】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図12(a)は有機EL表示装置800の全体図、図12(b)は1画素の断面構造を表している。
【0045】
図12(a)に示すように、有機EL表示装置800の表示領域801には、発光素子を複数備える画素802がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、
ここでいう画素とは、表示領域801において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子802R、第2発光素子802G、第3発光素子802Bの組み合わせにより画素802が構成されている。画素802は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0046】
図12(b)は、図12(a)のS-S線における部分断面模式図である。画素802は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板803上に、第1電極(陽極)804と、正孔輸送層805と、発光層806R、806G、806Bのいずれかと、電子輸送層807と、第2電極(陰極)808と、を有している。これらのうち、正孔輸送層805、発光層806R、806G、806B、電子輸送層807が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層806Rは赤色を発する有機EL層、発光層806Gは緑色を発する有機EL層、発光層806Bは青色を発する有機EL層である。発光層806R、806G、806Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0047】
また、第1電極804は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層805と電子輸送層807と第2電極808は、複数の発光素子802R、802G、802Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極804と第2電極808とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極804間に絶縁層809が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層810が設けられている。
【0048】
図12(b)では正孔輸送層805や電子輸送層807は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極804と正孔輸送層805との間には第1電極804から正孔輸送層805への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極808と電子輸送層807の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0049】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0050】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極804が形成された基板(マザーガラス)803を準備する。
【0051】
第1電極804が形成された基板803の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極804が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層809を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0052】
絶縁層809がパターニングされた基板803を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板803は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層805を、表示領域の第1電極804の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層805は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層805は表示領域801よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0053】
次に、正孔輸送層805までが形成された基板803を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板803の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層806Rを成膜する。
【0054】
発光層806Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層806Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層806Bを成膜する。発光層806R、806G、806Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域801の全体に電子輸送層807を成膜する。電子輸送層807は、3色の発光層806R、806G、806Bに共通の層として形成される。
【0055】
電子輸送層807まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極808を成膜する。
【0056】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層810を成膜して、基板803への成膜工程を完了する。反転後、上述の実施形態あるいは実施例で説明したように粘着部材を基板803から剥離することで、基板キャリアから基板803を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置800が完成する。
【0057】
絶縁層809がパターニングされた基板803を成膜装置に搬入してから保護層810の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0058】
1…測定器(検知部)、2…マーク、3…調整機構(調整部)、51…取得部、52…制御部、10…装置、H…基準高さ(設定値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12