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  • 特開-永久磁石型電動機の停止方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121317
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】永久磁石型電動機の停止方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 3/24 20060101AFI20230824BHJP
   H02P 3/06 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H02P3/24 D
H02P3/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024591
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】西村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊哉
【テーマコード(参考)】
5H530
【Fターム(参考)】
5H530AA07
5H530BB35
5H530CC01
5H530CD21
5H530CD34
5H530CE12
5H530CF02
5H530CF17
5H530DD03
(57)【要約】
【課題】次に電動機を始動するときに、ローターの初期位置を検出する動作を不要として、電動機を速やかに始動させることができる電動機の停止方法を提供する。
【解決手段】本方法は、定常運転中の永久磁石型電動機1のローター15の回転速度を低下させる減速動作を実行し、ローター15の回転速度がしきい値を下回った後に、永久磁石型電動機1のステーター巻線17に直流電流を流して、ローターの位置15を固定させる直流励磁動作を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常運転中の永久磁石型電動機を停止させる方法であって、
定常運転中の前記永久磁石型電動機のローターの回転速度を低下させる減速動作を実行し、
前記ローターの回転速度がしきい値を下回った後に、前記永久磁石型電動機のステーター巻線に直流電流を流して、前記ローターの位置を固定させる直流励磁動作を実行する、方法。
【請求項2】
前記直流励磁動作は、前記ローターの回転速度がしきい値を下回った後であって、かつ前記ローターの回転速度が0になる前に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ローターの回転速度がしきい値を下回った後であって、かつ前記直流励磁動作の前に、前記ステーター巻線に電流を流して、前記ステーター巻線によって発生される磁界の方向を連続的または間欠的に変化させる先行励磁動作をさらに実行する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記直流励磁動作の後であって、かつ前記永久磁石型電動機を次に始動する前に、前記ステーター巻線に直流電流を流す始動準備動作をさらに実行する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPM(Surface Permanent Magnet)モーターやIPM(Interior Permanent Magnet)モーターなどの永久磁石をローターに備えた永久磁石型電動機の停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石型電動機を停止状態から始動する際は、ローターの初期位置に対して適切な電流を流す必要があるため、初期位置の検出が必要となる。電動機が停止している状態では、ローターの回転に起因する起電力が発生していないため、ローターの位置を検出するための技術が従来から提案されている。
【0003】
ローターの角度によってインダクタンスが変わらない電動機であれば、ローターの角度に依らず、磁路の形状は磁路中心線から見て対称となる。このため、直交する巻線間の相互誘導は存在しない。しかし、ローターの角度によってインダクタンスが変わる場合、角度によっては磁路の形状が磁路中心線から見て対称とはならず、結果、直交する巻線間に相互誘導が生ずる。この性質を利用すると、突極性がある(d軸インダクタンスとq軸インダクタンスが異なる)電動機の場合、交番磁界を発生するように巻線を励磁すると、ローター角度によっては交番磁界の直交方向の巻線に起電力が現れる。この起電力の大きさはローター位置に応じて変化する。
【0004】
交番磁界の方向とローターのd軸が一致している場合は、d軸に直交する両巻線それぞれの磁路の形状は磁路中心線から見て対称となる。このため、相互誘導は生じず、相互誘導による起電力は観測されない。また、交番磁界の方向とローターのd軸が一致する角度を境に相互誘導の極性が変化するため、観測される起電力の位相もこの角度を境に反転する。
【0005】
よって、電動機の駆動周波数より十分高い周波数で交番磁界を与え、交番磁界を回転させながら直交方向の起電力が最小となる角度を探れば、ローターのd軸の位置を推定できる。ただし、d軸の磁極の方向までは特定できないため、次いでd軸方向に正負両方向のパルス電圧を加え、磁気飽和に起因する正負の応答電流の差から磁極方向を特定する。このような動作シーケンスを実行すれば、ローター初期位置を推定でき、電動機の適切な始動が達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-39227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の動作シーケンスは、ローター初期位置の検出にある程度の時間を要するため、例えば0.1~1秒程度の電動機の始動遅れが生じる。このような始動の遅れは、電動機の用途によっては運転上の弊害を引き起こすことがある。例えば、電動機を給水装置のポンプに連結した場合、電動機の始動遅れは給水圧力の変動に繋がることがある。
【0008】
そこで、本発明は、次に電動機を始動するときに、ローターの初期位置を検出する動作を不要として、電動機を速やかに始動させることができる電動機の停止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、定常運転中の永久磁石型電動機を停止させる方法であって、定常運転中の前記永久磁石型電動機のローターの回転速度を低下させる減速動作を実行し、前記ローターの回転速度がしきい値を下回った後に、前記永久磁石型電動機のステーター巻線に直流電流を流して、前記ローターの位置を固定させる直流励磁動作を実行する、方法が提供される。
【0010】
一態様では、前記直流励磁動作は、前記ローターの回転速度がしきい値を下回った後であって、かつ前記ローターの回転速度が0になる前に実行される。
一態様では、前記方法は、前記ローターの回転速度がしきい値を下回った後であって、かつ前記直流励磁動作の前に、前記ステーター巻線に電流を流して、前記ステーター巻線によって発生される磁界の方向を連続的または間欠的に変化させる先行励磁動作をさらに実行する。
一態様では、前記方法は、前記直流励磁動作の後であって、かつ前記永久磁石型電動機を次に始動する前に、前記ステーター巻線に直流電流を流す始動準備動作をさらに実行する。
【発明の効果】
【0011】
電動機を運転状態から停止するプロセスにおいて、ローターの停止位置が特定された状態で電動機を停止しておけば、次に電動機を始動する際にはローター位置を推定する必要がなくなる。このため、始動時にローターの初期位置推定のプロセスを省略でき、結果として、電動機を遅延なく速やかに始動できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電動機システムの一実施形態を示す模式図である。
図2】永久磁石型電動機の一実施形態を示す断面図である。
図3】直流励磁動作を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、電動機システムの一実施形態を示す模式図である。電動機システムは、永久磁石型電動機1と、この永久磁石型電動機1に可変周波数の電流を供給するインバータ3と、インバータ3の動作を制御する電流制御部5と、インバータ3から永久磁石型電動機1に流れる電流を測定する電流測定装置7を備えている。
【0014】
電流測定装置7は電流制御部5に接続されており、電流の測定値は電流制御部5に送られるようになっている。電流制御部5は、電流の測定値と、図示しない上位の動作制御部からの速度指令値に基づいて、永久磁石型電動機1に供給すべき電流の電流指令値を生成し、電流指令値をインバータ3に与えるように構成されている。電流制御部5の例としては、ベクトル制御部が挙げられる。インバータ3は、電流指令値に従って電流(本実施形態では、三相交流電流)を生成し、永久磁石型電動機1に電流を供給する。
【0015】
図2は、図1に示す永久磁石型電動機1の一実施形態を示す断面図である。図2に示すように、永久磁石型電動機1は、永久磁石12を有するローター15と、回転磁界を生成するためのステーター16を備えている。永久磁石12はローター15に固定されており、ローター15と一体に回転する。ステーター16は、ローター15を囲むように配置された複数のステーター巻線17およびステーターコア18を有している。ステーター巻線17は、ステーターコア18の複数の歯18aにそれぞれ装着されている。
【0016】
ステーター巻線17は、図1に示すインバータ3に電気的に接続されている。インバータ3から供給される電流がステーター巻線17を流れると、ステーター16は回転磁界を生成する。永久磁石12を有するローター15は、回転磁界により回転される。永久磁石型電動機1は、ポンプなどの負荷に連結される。
【0017】
本実施形態の永久磁石型電動機1は、永久磁石12がローター15内に埋設されたIPM(Interior Permanent Magnet)モーターである。しかしながら、本発明はIPMモーターに限定されず、例えば、永久磁石がローターの表面に配置されたSPM(Surface Permanent Magnet)モーターであってもよい。以下の説明では、永久磁石型電動機1を単に電動機1と称することがある。
【0018】
以下、電動機1を停止させる動作について説明する。電流制御部5は、インバータ3を介して電動機1の動作を制御する。より具体的には、電流制御部5は、図示しない上位の動作制御部から停止指令を受けると、インバータ3に指令を発して、定常運転中の電動機1のローター15の回転速度を低下させる減速動作を実行する。さらに、電流制御部5は、減速動作の結果、ローター15の回転速度がしきい値を下回った後に、インバータ3に指令を発して、ステーター巻線17に直流電流を流して、ローター15の位置を固定させる直流励磁動作を実行する。ここで、ローター15の位置とは、ステーター16に対するローター15の相対的な角度である。
【0019】
電動機1の定常運転とは、電動機1に連結されている負荷(例えば、ポンプ)をその意図した目的を達成できる態様で運転させるときの運転状態である。例えば、給水ポンプに連結された電動機1の定常運転は、ポンプが液体を目標圧力で目標点に移送するときの電動機1の運転状態である。一例では、定常運転中の電動機1は、その定格速度で運転される。
【0020】
ローター15が回転している状態から停止するシーケンス(減速・停止するシーケンス)において、ローター15の回転速度がしきい値を下回った後に、一定方向の直流電流でステーター巻線17を励磁して(すなわち直流励磁動作を実行して)、ローター15を停止させる。直流励磁を続けておけば、図3に示すように、ローター15のd軸は、ステーター巻線17が発生する磁界Mの方向に引きつけられた状態でローター15が停止することになる。つまり、ローター15のd軸の方向が特定された状態でローター15の回転が停止される。したがって、電動機1の次の始動に際してはローター15の初期位置推定が不要となる。
【0021】
ローター15の回転速度がしきい値を下回った時点の判定は、公知の技術を用いることができる。例えば、電動機1の端子電圧の大きさを監視することでローター15の回転速度を検出することができる。端子電圧の検出に電圧センサを用いてもよい。あるいは、インバータ3の変調度(通流率)から電動機1の端子電圧を検出してもよい。他の例では、電動機1の端子電圧や巻線電流の周波数を検出することでもローター15の回転速度を検出できる。
【0022】
上述した直流励磁動作は、ローター15の回転速度がしきい値を下回った後であって、かつ0に到達する前に開始されることが望ましい。ローター15の回転速度が完全に0でない時に、ある方向の直流励磁を実施すれば、ローター15が少し回転した後に直流励磁の方向にローター15のd軸が向いたところでローター15が停止する。
【0023】
直流励磁動作中においても、電圧センサの検出値、または、電流制御部5が動作中の変調度(通流率)、または、電圧・電流の周波数からローター15の回転速度情報を得ることができる。このためローター15の回転速度を監視してローター15の停止が確認されたら直流励磁を止めてもよい。ただし、速度ゼロを検出することが難しい、または実用的でないことがある。したがって、一実施形態では、電流制御部5は、回転速度がしきい値に達した時点から設定時間が経過したときに直流励磁動作を開始し、予め設定された励磁時間が経過したときに直流励磁動作を停止するようにしてもよい。
【0024】
一方、ローター15の回転速度がしきい値を下回った後、直流励磁動作を開始する前にすでにローター15が停止している場合もありうる。例えば、電動機1に連結されている負荷が一時的に高くなった場合などである。この場合は、上記と違ってローター15の停止位置が把握できていないので、一定方向の直流励磁を実施してもローター15の角度によってはトルクが発生しないことがあり、ローター15のd軸を引きつけて捉えることができない場合がある。
【0025】
そこで、一実施形態では、ローター15の回転速度がしきい値を下回った後であって、かつ直流励磁動作の前に、電流制御部5は、インバータ3に指令を発して、ステーター巻線17に電流を流して、ステーター巻線17によって発生される磁界の方向を連続的または間欠的に変化させる先行励磁動作を実行する。具体的には、電流制御部5は、インバータ3に指令を発して、直流励磁の方向を連続的または間欠的に回転(変化)させてオープンループでトルクを発生させ、ローター15をわずかに回転させる先行励磁動作を行い、その後、一定方向に直流励磁を行って励磁を終了する。こうすることで、ローター15の停止位置が特定された状態での停止を達成できる。
【0026】
電動機1の停止時に負荷側からローター15が回されない用途であれば、上記の動作により電動機1を停止しておけばローター15の位置を見失うことはない。しかし、電動機1の停止時にローター15がわずかに回されてしまうこともありうる。例えば、電動機1に連結されたファンが空気の流れでわずかに回り、ローター15の位置がずれることもある。
【0027】
そこで、一実施形態では、直流励磁動作の後であって、かつ電動機1を次に始動する前に、電流制御部5はインバータ3に指令を発してステーター巻線17に直流電流を流す始動準備動作をさらに実行する。例えば、適当な時間間隔で、直流励磁を繰り返し行う始動準備動作を実行することで、わずかに回されてしまったローター15の磁極位置を修正してローター15の位置を完全に特定できる状態を保つことができる。ただし、この短時間の始動準備動作の間に、電動機1の始動指令が発生する可能性がある。もし、この始動準備動作中に電動機1の始動指令を電流制御部5が受けた場合は、電流制御部5はこの始動準備動作を即座にとりやめる必要があり、この始動準備動作中もトルク指令などを監視している必要がある。
【0028】
上述したそれぞれの実施形態によれば、電動機1の停止時のローター15のd軸の位置が把握できる。そのため、次に電動機1を始動する場合に、例えば高周波電流を流してのインダクタンス計測に基づくローター15の初期位置推定などは必要ない。初期位置推定に時間を要しないため、d軸と直交するq軸上の磁界を発生させることで速やかに電動機1を始動することができる。また、突極性がない永久磁石型電動機においても初期位置が把握できる利点がある。
【0029】
電動機1が停止した後、次に電動機1を始動するまでの間に、何らかの理由でローター15の位置がずれてしまう場合もありうる。そこで、直流励磁動作を実施して電動機1を停止した後であって、かつ電動機1を次に始動する前に、電流制御部5はステーター巻線17に直流電流を流す始動準備動作をさらに実行してもよい。すなわち、電動機1を始動する前に、電流制御部5はインバータ3に指令を発してステーター巻線17に直流電流を流して、ローター15のd軸の位置を確実に定めた後に、q軸上の励磁を開始するシーケンスを実施する。このような始動準備動作により確実にローター15のq軸を捉えることができる。この始動準備動作はわずかな時間を要するが、従来の初期位置推定に比べればその時間は短い。したがって、電動機1を速やかに始動させることができる。
【0030】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 永久磁石型電動機
3 インバータ
5 電流制御部
7 電流測定装置
12 永久磁石
15 ローター
16 ステーター
17 ステーター巻線
18 ステーターコア
図1
図2
図3