IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧 ▶ サカタインクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ビスフェノール化合物の製造方法 図1
  • 特開-ビスフェノール化合物の製造方法 図2
  • 特開-ビスフェノール化合物の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121456
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】ビスフェノール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/84 20060101AFI20230824BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C07C37/84
C07C39/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024814
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】荻野 賢司
(72)【発明者】
【氏名】兼橋 真二
(72)【発明者】
【氏名】武田 章宏
(72)【発明者】
【氏名】久永 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】横山 優香
(72)【発明者】
【氏名】安井 達哉
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC25
4H006AD15
4H006BB14
4H006BC10
4H006FC52
4H006FE13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ビスフェノール化合物の転化率と純度を向上でき、縮合反応の際に用いる溶媒を低減することができ、かつ、工業化が容易であるビスフェノール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数2~10であるアルデヒド化合物と、特定のフェノールとを当量比[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.15~0.35]で縮合反応させて反応混合物を得る縮合工程と、上記反応混合物を塩基性化合物で中和し、抽出用溶媒により抽出して粗生成物を得る抽出工程と、上記粗生成物を、メタノールを35質量%以上含む再結晶用溶媒にて再結晶を行う再結晶工程とを有し、上記縮合工程は、反応用溶媒の含有量が上記アルデヒド化合物と上記フェノールの合計含有量に対して5質量%以下の条件で縮合反応を行うビスフェノール化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の製造方法であって、
炭素数2~10であるアルデヒド化合物Aと、下記一般式(2)で表される化合物Bとを当量比[前記アルデヒド化合物A/前記化合物B=0.15~0.35]で縮合反応させて反応混合物を得る縮合工程と、
前記反応混合物を塩基性化合物で中和し、抽出用溶媒により抽出して粗生成物を得る抽出工程と、
前記粗生成物を、メタノールを35質量%以上含む再結晶用溶媒にて再結晶を行う再結晶工程とを有し、
前記縮合工程は、反応用溶媒の含有量が前記アルデヒド化合物Aと前記化合物Bの合計含有量に対して5質量%以下の条件で縮合反応を行う
ビスフェノール化合物の製造方法。
【化1】
【化2】
(一般式(1)中、Xは炭化水素に由来する炭素数が2~10である2価の連結基であり、Rは炭素数が10~18の炭化水素基であり、一般式(2)中、Rは炭素数が10~18の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記縮合工程は、触媒として酸を用いる請求項1に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記酸は、スルホン酸である請求項2に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記再結晶用溶媒は、メタノールを65質量%以上含む請求項1~3の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項5】
前記化合物Bは、カルダノール水素添加物に由来する請求項1~4の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項6】
前記アルデヒド化合物Aは、炭素数が3~7のアルデヒド化合物である請求項1~5の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(1)中、Rは、Xに対してパラ位である請求項1~6の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項8】
前記一般式(1)中、Rは、Oに対してメタ位である請求項1~6の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(1)中、Oは、Xに対してオルト位である請求項1~6の何れか一項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノール化合物は、ポリカーボネート樹脂やアクリレート樹脂等の熱可塑性樹脂の原料、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の原料の他、硬化剤、酸化防止剤、顕色剤等、殺菌剤、防かび剤、難燃剤等の添加剤として広く使用されている有用な化合物である。
そのため、ビスフェノール化合物の製造方法について様々な研究が行われている。
【0003】
例えば特許文献1では、特定のモノフェノール化合物と、ケトン化合物又はアルデヒド化合物とを酸性触媒の存在下で縮合反応させ、分取薄層クロマトグラフィー等により精製してビスフェノール化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-189526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ビスフェノール化合物の転化率や、ビスフェノール化合物の純度が低いといった課題があった。
また、特許文献1に記載のビスフェノール化合物を分取薄層クロマトグラフィーにより精製する方法では、工業規模にスケールアップするのが困難であるといった課題もあった。
更に、特許文献1に記載の方法では、縮合反応の際に溶媒を十分に用いることから、コストの面においても改善の余地があった。
【0006】
そこで本発明は、ビスフェノール化合物の転化率と純度を向上でき、縮合反応の際に用いる溶媒を低減することができ、かつ、工業化が容易であるビスフェノール化合物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の製造方法であって、炭素数2~10であるアルデヒド化合物Aと、下記一般式(2)で表される化合物Bとを当量比[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.15~0.35]で縮合反応させて反応混合物を得る縮合工程と、上記反応混合物を塩基性化合物で中和し、抽出用溶媒により抽出して粗生成物を得る抽出工程と、上記粗生成物を、メタノールを35質量%以上含む再結晶用溶媒にて再結晶を行う再結晶工程とを有し、上記縮合工程は、反応用溶媒の含有量が上記アルデヒド化合物Aと上記化合物Bの合計含有量に対して5質量%以下の条件で縮合反応を行うビスフェノール化合物の製造方法である。
【0008】
【化1】
【化2】
(一般式(1)中、Xは炭化水素に由来する炭素数が2~10である2価の連結基であり、Rは炭素数が10~18の炭化水素基であり、一般式(2)中、Rは炭素数が10~18の炭化水素基である。)
【0009】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法において、上記縮合工程は、触媒として酸を用いることが好ましい。
また、上記酸は、スルホン酸であることが好ましい。
また、上記再結晶用溶媒は、メタノールを65質量%以上含むことが好ましい。
また、上記化合物Bは、カルダノール水素添加物に由来することが好ましい。
また、上記アルデヒド化合物Aは、炭素数が3~7のアルデヒド化合物であることが好ましい。
また、上記一般式(1)中、Rは、Xに対してパラ位であってもよく、上記一般式(1)中、Rは、Oに対してメタ位であってもよく、上記一般式(1)中、Oは、Xに対してオルト位であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ビスフェノール化合物の転化率と純度を向上でき、縮合反応の際に用いる溶媒を低減することができ、かつ、工業化が容易であるビスフェノール化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、3-ペンタデシルフェノールを試料として用いた赤外吸収スペクトルである。
図2図2は、実施例1で得られた化合物を試料として用いた赤外吸収スペクトルである。
図3図3は、実施例6で得られた化合物を試料として用いた赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の製造方法であって、炭素数2~10であるアルデヒド化合物Aと、下記一般式(2)で表される化合物Bとを当量比[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.15~0.35]で縮合反応させて反応混合物を得る縮合工程と、上記反応混合物を塩基性化合物で中和し、抽出用溶媒により抽出して粗生成物を得る抽出工程と、上記粗生成物を、メタノールを35質量%以上含む再結晶用溶媒にて再結晶を行う再結晶工程とを有し、上記縮合工程は、反応用溶媒の含有量が上記アルデヒド化合物Aと上記化合物Bの合計含有量に対して5質量%以下の条件で縮合反応を行うビスフェノール化合物の製造方法である。
【0013】
【化3】
【化4】
(一般式(1)中、Xは炭化水素に由来する炭素数が2~10である2価の連結基であり、Rは炭素数が10~18の炭化水素基であり、一般式(2)中、Rは炭素数が10~18の炭化水素基である。)
【0014】
通常、炭素数が10~18の炭化水素基(長鎖アルキル基)を有するビスフェノール化合物を合成する系では、長鎖アルキル基の式量が大きいために系全体が炭化水素リッチであり低極性と考えられるため、極性を有する触媒が溶解・作用するとは考えにくく、通常であれば溶媒が必要と考える。
また、触媒が系に溶解したとしても、長鎖アルキル基の立体障害により触媒分子が反応部位に近づきにくいと考えられるので、この点においても反応が促進されにくいと考えられる。
しかしながら、本発明者らは、炭素数が10~18の炭化水素基(長鎖アルキル基)を有するビスフェノール化合物を合成する系が無溶媒であっても触媒によって縮合反応が促進されることを見出し、更に、得られたビスフェノール化合物の粗生成物を、メタノールを所定量含む再結晶用溶媒を用いて再結晶することにより、ビスフェノール化合物の転化率と純度を向上させることができ、かつ、分取薄層クロマトグラフィーを用いずに精製を行うことから工業化が容易であることを見出し、本発明を完成させた。
ただし、本発明は上記メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
(縮合工程)
本発明のビスフェノール化合物の製造方法において、縮合工程は、炭素数2~10であるアルデヒド化合物Aと、下記一般式(2)で表される化合物Bとを当量比[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.15~0.35]で縮合反応させて反応混合物を得る工程である。
【0016】
【化5】
(一般式(2)中、Rは炭素数が10~18の炭化水素基である。)
【0017】
上記炭素数2~10であるアルデヒド化合物Aとしては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、シクロヘキサンカルボキシアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-トルアルデヒド、クミンアルデヒド、2,4-ジメチルベンズアルデヒド等が挙げられる。
上記アルデヒド化合物は、炭素数が2~10であれば直鎖であっても、分岐鎖であってもよく、また環状構造を持っていてもよい。
なかでも、化合物Bとの混和性や反応性の観点から、炭素数が3~7のアルデヒド化合物であることが好ましく、プロピオンアルデヒドであることがより好ましい。
なお、上記アルデヒド化合物Aは、1種類で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0018】
上記一般式(2)で表される化合物Bは、炭素数が10~18の炭化水素基Rを有する。
としては、炭素数が10~18であれば直鎖であっても、分岐鎖であってもよいが、入手の容易性の観点から、Rは、炭素数が15であることが好ましい。
なお、上記一般式(2)で表される化合物Bは、1種類で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0019】
上記一般式(2)中、Rは、Oに対してパラ位であってもよく、上記一般式(2)中、Rは、Oに対してメタ位であってもよく、上記一般式(2)中、Rは、Oに対してオルト位であってもよいが、入手の容易性の観点から、Rは、Oに対してメタ位であることが好ましい。
【0020】
上記一般式(2)で表される化合物Bとしては、例えば、3-オクチルフェノール、3-ノニルフェノール、3-デシルフェノール、3-ドデシルフェノール、3-ペンタデシルフェノール、3-ヘキサデシルフェノール、3-オクタデシルフェノール、3-ノナデシルフェノール等のアルキルフェノールを挙げることができる。
なかでも、カルダノールから誘導されるアルキル置換モノフェノールを水素添加したものである3-ペンタデシルフェノールが好ましい。
上記カルダノールは、カシューナッツ殻液由来の成分であり、廃棄物として扱われていたカシューナッツ殻を有効利用することができる。
【0021】
上記アルデヒド化合物Aと、上記一般式(2)で表される化合物Bとの当量比は[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.15~0.35]である。
このような当量比で縮合反応を行うことにより、得られるビスフェノール化合物の転化率と純度を向上とすることができる。
上記アルデヒド化合物Aと、上記一般式(2)で表される化合物Bとの当量比は、[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.20~0.35]であることが好ましく、[上記アルデヒド化合物A/上記化合物B=0.20~0.30]であることがより好ましい。
なお、上記当量比とは、上記化合物Bのモル当量に対する上記アルデヒド化合物Aのモル当量の比を意味する。
【0022】
上記縮合工程は、触媒として酸を用いることが好ましい。
【0023】
上記触媒として用いる酸としては、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸触媒、塩酸、硫酸等の無機酸触媒、リンタングステン酸のほかに、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸ナトリウム、リンタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸等のヘテロポリ酸が好ましく挙げられる。
上記触媒は単独で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0024】
上記触媒として用いる酸としては、反応用溶媒を使用せず、入手も容易であるという観点から、スルホン酸であることが好ましく、p-トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0025】
上記触媒の使用量は、上記一般式(2)で表される化合物1モルに対して0.001~1モルであることが好ましく、0.01~0.05モルであることがより好ましい。
【0026】
上記縮合工程は、反応用溶媒の含有量が上記アルデヒド化合物Aと上記化合物Bの合計含有量に対して5質量%以下の条件で縮合反応を行う。
上記反応用溶媒の含有量は、上記アルデヒド化合物Aと上記化合物Bの合計含有量に対して2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
なお、上記反応用溶媒は、上記アルデヒド化合物Aでも、上記化合物Bでも、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物でもない溶媒である。
【0027】
上記反応用溶媒を用いる場合、上記反応用溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル系、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、その他アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
上記反応用溶媒は単独で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0028】
上記縮合反応の反応温度は、10~150℃であることが好ましく、30~130℃であることがより好ましく、50~120℃であることが更に好ましい。
なお、上記縮合反応の反応圧力については特に制限は無く、加圧、常圧、減圧のいずれでもよいが、常圧下で縮合反応が行われることが好ましい。
【0029】
上記縮合反応の反応時間は、0.5~20時間であることが好ましいが、縮合反応に用いる化合物の種類によって反応性に差があるため、この限りではない。
【0030】
上記縮合工程を行う際に用いる装置としては特に限定されず、例えば公知の還流装置を用いることができる。
【0031】
(抽出工程)
本発明のビスフェノール化合物の製造方法において、抽出工程は、上記反応混合物を塩基性化合物で中和し、抽出用溶媒により抽出して粗生成物を得る工程である。
【0032】
上記抽出工程は、例えば、以下の手順で行う。
まず上記反応混合物を室温まで冷却した後、上記反応混合物に抽出用溶媒と塩基性化合物を加え、振とうして、次いで静置させ、水相を除去して有機相を得る。
得られた有機相を水で洗浄し、洗浄後に得られた有機相を加熱や減圧蒸留することにより、有機溶媒を除去して、乾燥させることにより粗生成物を得ることができる。
【0033】
上記塩基性化合物としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の金属炭酸塩、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、トリポリリン酸5ナトリウム等のリン酸塩、イオン交換樹脂、アルミナ等の塩基性固体、アンモニア等が好ましく挙げられる。
この際、上記塩基性化合物を均一に分散させるために、水溶液として徐々に滴下することが好ましい。
なお、上記塩基性化合物は、1種類で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0034】
上記抽出用溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン等が挙げられる。
なかでも、ビスフェノール化合物に対する溶解能や、留去の容易さの観点から、ヘキサンが好ましい。
【0035】
上記抽出工程を行う方法としては特に限定されず、公知の抽出方法を用いることができる。
【0036】
(再結晶工程)
本発明のビスフェノール化合物の製造方法において、再結晶工程は、上記粗生成物を、メタノールを35質量%以上含む再結晶用溶媒にて再結晶を行う工程である。
【0037】
上記再結晶用溶媒は、メタノールを35質量%以上含む。
メタノールは、上記一般式(1)に対する溶解性が低く、上記一般式(2)に対する溶解性が高い。そのため、このような再結晶用溶媒を用いることにより上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の転化率と純度を向上することができる。また、本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、分取薄層クロマトグラフィーを用いること無く精製を行うので、工業化が容易である。
上記再結晶用溶媒は、メタノールを50質量%以上含むことが好ましく、65質量%以上含むことがより好ましく、85質量%以上含むことが更に好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましく、上記再結晶用溶媒がメタノールのみからなることが最も好ましい。
【0038】
メタノール以外の上記再結晶用溶媒としては、エタノール、水等が挙げられる。
【0039】
上記再結晶用溶媒の使用量としては、例えば、上記粗生成物の質量(100質量%)に対して、50~5000質量%であることが好ましく、100~1000質量%がより好ましく、150~500質量%が更に好ましい。
【0040】
上記再結晶工程では、上記粗生成物を55~65℃に加熱した上記再結晶用溶媒にて溶解させた後、0~20℃に冷却して静置することが好ましく、0~10℃に冷却して静置することが特に好ましい。
上記粗生成物を上記温度範囲で加熱することにより、再結晶溶媒に対する上記一般式(1)の溶解度を向上させることができ、上記一般式(1)の転化率を好適に向上させることができる。
また、このような温度で冷却することにより、上記一般式(2)の再結晶化を好適に抑制しつつ、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の再結晶化を好適に促進することができる。
なお、上記再結晶工程における静置時間としては特に限定されないが、例えば、1時間である。
【0041】
(ビスフェノール化合物)
本発明のビスフェノール化合物の製造方法により、下記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物を製造することができる。
【0042】
【化6】
(一般式(1)中、Xは炭化水素に由来する炭素数が2~10である2価の連結基であり、Rは炭素数が10~18の炭化水素基である。)
【0043】
なお、上記一般式(1)中、Rは、Xに対してパラ位であってもよく、上記一般式(1)中、Rは、Oに対してメタ位であってもよく、上記一般式(1)中、Oは、Xに対してオルト位であってもよい。
【0044】
上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物が製造できたことは、H NMRや赤外分光法等により確認することができる。
H NMRとしては、日本電子社製の製品名「ECX300」等を用いることができる。
赤外分光法としては、Thremo Fisher Scientific社製の製品名「Nicolet iN10MX」等を用いることができる。
上記赤外線分光法では、上記縮合工程に用いた一般式(2)で表される化合物Bを試料として用いた赤外吸収スペクトルと、本発明のビスフェノール化合物の製造方法により得られた化合物を試料として用いた赤外吸収スペクトルを比較し、上記一般式(2)で表される化合物Bの芳香族骨格に由来する1585cm-1付近と786cm-1付近の吸光度の減少を確認することにより、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物が得られたことを確認することができる。
【0045】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法により製造される上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物は、転化率と純度が高いものである。
具体的には、本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の転化率を25%以上、かつ、ガードナー色数を17以下とすることができる。
また、本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、分取薄層クロマトグラフィーを用いずに精製を行うことから工業化が容易である。
【0046】
ここで、上記転化率とは、縮合工程で使用した上記一般式(2)で表される化合物Bのモル当量に対する得られた上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物のモル当量により算出することができる。
具体的には、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物を1つ得るために、上記一般式(2)で表される化合物Bが2つ必要であることを考慮して、以下の式により求めることができる。
転化率=(得られた一般式(1)で表されるビスフェノール化合物のモル当量×2)/(縮合工程で使用した上記一般式(2)で表される化合物Bのモル当量)
【0047】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の転化率を27%以上、30%以上、33%以上、或いは、35%以上とすることもできる。
【0048】
上記ガードナー色数はASTM-D154(Standard Guide for Testing Varnishes)に基づき、測定する。
具体的には、得られた上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物0.2gを、アセトン0.1mlで希釈した試料を、ORBECO ANLYTICAL SYSTEMS社製「DAYLITE COMPARATOR ILLUMINATOR」にセットし、1933 GARDNER COLOR SCALEに準拠したカラースケールとの色比較を行い、試料に最も近似したガードナー標準色番号をガードナー色数とする。
【0049】
上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物においては、ガードナー色数の数値が小さいほど純度が高いことを意味し、17以下であれば十分な純度を有する(不純物が少ない)と評価することができる。
一方で、ガードナー色数が18以上である場合には、純度が十分では無いことを意味する。
従来の上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の製造方法では、ガードナー色数が18以上となっていたが、本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、ガードナー色数を17以下とすることができる。
なお、ガードナー色数17と18とでは、外観として明確な差がある。
【0050】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物のガードナー色数を16以下、15以下、14以下、或いは、13以下とすることもできる。
【実施例0051】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものである。
【0052】
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに窒素パージを施しながらカルダノール水素添加物(3-ペンタデシルフェノール)100質量部を量りとり、p-トルエンスルホン酸1.6質量部、プロピオンアルデヒド6質量部を加えた。その後、反応溶液を100℃に加熱し、還流しながら3時間攪拌を行い、反応混合物を得た(縮合工程)。
次いで、反応温度を室温に戻し、得られた反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液で中和した。水層をヘキサン(抽出用溶媒)で3回抽出した後、有機層を硫酸ナトリウムにより脱水した。その後、硫酸ナトリウムをろ過にて取り除いた後、ヘキサンをエバポレーターで留去し、粗生成物を得た(抽出工程)。
得られた粗生成物を60℃のメタノール(再結晶用溶媒、粗生成物100質量%に対して再結晶溶媒300質量%)に溶解させ、続いて5℃に冷却して1時間静置して再結晶化を行った後、ろ過をし(再結晶工程)、上記一般式(1)においてRが直鎖のC1531であり、Xが直鎖のCで表されるビスフェノール化合物35質量部を得た。
得られたビスフェノール化合物のH-NMRスペクトルを測定した。
H NMR(製品名「ECX300」、日本電子社製、300MHz,CDCl):δ=7.17(d,2H),6.71(d,2H),6.58(s,2H),4.24(t,1H), 2.44(t,4H),2.13(quin,2H),1.50(quin,4H),1.25(m,48H),0.87(t+t,6H+3H)
縮合工程に用いた3-ペンタデシルフェノールを試料として用いた赤外吸収スペクトルと、実施例1で得られた化合物を試料として用いた赤外吸収スペクトルをThremo Fisher Scientific社製の製品名「Nicolet iN10MX」により測定した。
図1は、3-ペンタデシルフェノールを試料として用いた赤外吸収スペクトルであり、図2は、実施例1で得られた化合物を試料として用いた赤外吸収スペクトルである。
図1図2との比較から、3-ペンタデシルフェノールの芳香族骨格に由来する1585cm-1と786cm-1の吸光度の減少が確認された。
H NMRと赤外吸収スペクトルの測定結果より、得られたビスフェノール化合物の構造を特定した。
【0053】
<転化率>
転化率は、本明細書に記載の方法により算出した。
すなわち、縮合工程に使用した上記一般式(2)で表される化合物Bである3-ペンタデシルフェノールのモル当量に対する、得られた上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物のモル当量に基づいて、以下の式にて転化率を算出した。
転化率=(得られた一般式(1)で表されるビスフェノール化合物のモル当量×2)/(縮合工程に使用した一般式(2)で表される化合物Bである3-ペンタデシルフェノールのモル当量)
算出した転化率が25%以上を合格と評価した。
【0054】
<ガードナー色数>
ビスフェノール化合物のガードナー色数はASTM-D154(Standard Guide for Testing Varnishes)に基づき測定した。具体的には、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物0.2gを、アセトン0.1mlで希釈した試料を、ORBECO ANLYTICAL SYSTEMS社製「DAYLITE COMPARATOR ILLUMINATOR」にセットし、1933 GARDNER COLOR SCALEに準拠したカラースケールとの色比較を行い、試料に最も近似したガードナー標準色番号をガードナー色数とした。
【0055】
(実施例2~5、比較例1~6)
アルデヒド化合物Aのモル当量、及び、再結晶用溶媒を表1、2に記載したものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、縮合工程、抽出工程、及び、再結晶工程を行った。
実施例2~5、比較例1~4では、上記一般式(1)においてRが直鎖のC1531であり、Xが直鎖のCで表されるビスフェノール化合物を得た。
比較例5、6では、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物を得ることはできなかった。
各実施例及び比較例で得られたビスフェノール化合物の転化率とガードナー色数を実施例1と同様に測定、算出し、表1、2に示した。
【0056】
(実施例6)
アルデヒド化合物Aの種類をn-ヘキシルアルデヒドに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、縮合工程、抽出工程、及び、再結晶工程を行った。
上記一般式(1)においてRが直鎖のC1531であり、Xが直鎖のC12で表されるビスフェノール化合物を得た。
得られたビスフェノール化合物のH-NMRスペクトルを測定した。
H NMR(製品名「ECX300」、日本電子社製、300MHz,CDCl):δ=7.17(d,2H),6.72(d,2H),6.57(s,2H),6.45(broad,2H),4.33(t,1H),2.44(t,4H),2.09(quin,2H),1.50(quin,4H),1.25(m,56H),0.90(t+t,6H+3H)
縮合工程に用いた3-ペンタデシルフェノールを試料として用いた赤外吸収スペクトルと、実施例6で得られた試料を用いた赤外吸収スペクトルをThremo Fisher Scientific社製の製品名「Nicolet iN10MX」により測定した。
図1は、3-ペンタデシルフェノールを試料として用いた赤外吸収スペクトルであり、図3は、実施例6で得られた化合物を試料として用いた赤外吸収スペクトルである。
図1図3との比較から、3-ペンタデシルフェノールの芳香族骨格に由来する1585cm-1と786cm-1の吸光度の減少が確認された。
H NMRと赤外吸収スペクトルの測定結果より、得られたビスフェノール化合物の構造を特定した。
実施例6で得られたビスフェノール化合物の転化率とガードナー色数を実施例1と同様に測定、算出し、表1に示した。
【0057】
(比較例7)
特開2014-189526号公報の実施例2に記載の方法により、上記一般式(1)においてRが直鎖のC1531であり、Xが直鎖のCで表されるビスフェノール化合物を得た。
上記ビスフェノール化合物の転化率を実施例1と同様に測定、算出し、表2に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例より、本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、上記一般式(1)においてRが直鎖のC1531であり、Xが直鎖のC又はC12で表されるビスフェノール化合物を転化率25%以上、かつ、ガードナー色数を17以下で得ることができた。
また、実施例より、本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、分取薄層クロマトグラフィーを用いることなく精製を行うので、工業化が容易なものである。
一方で、水添カルダノールに対するアルデヒドの当量が所定の範囲ではない比較例1~3では、ガードナー色数が18以上であり純度が不十分であった。
また、所定の再結晶用溶媒を用いなかった比較例4では転化率が低下し、比較例5、6ではビスフェノール化合物を得ることができなかった。
また、反応用溶媒を水添カルダノールとアルデヒド化合物の合計含有量に対して5質量%以上用いた比較例7では転化率が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、ビスフェノール化合物の転化率と純度を向上でき、縮合反応の際に用いる溶媒を低減することができ、かつ、工業化が容易であるビスフェノール化合物の製造方法を提供することができる。

図1
図2
図3