(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121489
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20230824BHJP
B42D 25/324 20140101ALI20230824BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022024855
(22)【出願日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤井 里絵
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HA04
2C005HB02
2C005HB09
2C005HB10
2C005HB13
2C005JB25
2H113AA06
2H113BA05
2H113BA09
2H113BA27
2H113BB02
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA37
2H113CA39
2H113CA44
(57)【要約】
【課題】潜像印刷物におけるモアレの発生を低減して潜像画像の視認性を向上させる。
【解決手段】レリーフ模様を表す凹凸形状部1が所定の長さX1で形成された基材に、凹凸形状部1に対して万線画線2を傾斜させて印刷してなる潜像印刷物であって、凹凸形状部1の長さをX1(mm)、凹凸形状部1の基準配列ピッチをYp(mm)、凹凸形状部1に対する万線画線2の傾斜角度をθ1(度)とした場合に、θ1=degrees(atan2(X1,Yp))を満たす。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レリーフ模様を表す凹凸形状部が所定の長さで形成された基材に、前記凹凸形状部に対して万線画線及び/又は網点画線を傾斜させて印刷してなる潜像印刷物であって、
前記凹凸形状部の長さをX1(mm)、前記凹凸形状部の基準配列ピッチをYp(mm)、前記凹凸形状部に対する前記万線画線及び/又は前記網点画線の傾斜角度をθ1(度)とした場合に、
θ1=degrees(atan2(X1,Yp))
を満たす、潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物の一つに、銀行券、株券、有価証券、通行券、パスポート、カード等の貴重印刷物がある。貴重印刷物は、その性質上、偽造や改ざんされないことが要求される。そのための偽造防止策としては、特殊インキによる印刷、ホログラム、スレッド、微小文字印刷等がある。
【0003】
また、貴重印刷物の偽造防止技術として、例えば特許文献1には「部分的に角度を異にすることによって図柄を表した各種万線模様、又はレリーフ模様、又は双方の模様のいずれかのエンボスによって形成された凹凸形状を有する素材に、素材の色及び無色透明以外の異なった他の色のインキによって、一定な間隔を持つ各種万線画線、又は網点画線、又は双方の画線のいずれかを前述の凹凸形状の図柄以外の部分を構成する部分に対して平行又は傾斜を持たせて印刷した特殊潜像模様形成体」に関する技術が記載されている。
【0004】
上述した特殊潜像模様形成体は、観察者が特殊潜像模様形成体を反射光下で傾けて観察した場合に、万線画線等の一部が凹凸形状に隠蔽され、万線画線等の他部が凹凸形状に隠蔽されない状態になる。このため、観察者から見て、万線画線等の色彩が視認される領域と視認されない領域が現れ、これによって生じる濃淡差により、観察者による潜像画像の視認が可能になる。よって、上述のように観察者が特殊潜像模様形成体を傾けて観察した場合に、潜像画像が視認できるか否かによって真偽を判別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された従来の技術では、万線模様等を形成する凹凸形状を有する部分(以下、「凹凸形状部」という。)の角度を部分的に異にすることによって図柄を表しているが、これ以外にも、凹凸形状の位相(凹凸のピッチ)を部分的に異にすることによっても図柄を表すことができる。ただし、凹凸形状部と万線画線等との刷り合わせが設計通りに行われない場合は、両者の相対位置がずれるため、次のような事象が生じる。印刷物を傾けて観察した場合、設計上は凹凸形状部の陰になって視認されないはずの画線が視認できてしまう、あるいは、設計上は凹凸形状部の陰にならずに視認されるはずの画線が視認できなくなってしまうといった事象が生じる。こうした事象が生じると、設計で想定している濃淡差が生じないため、潜像画像を視認できなくなるおそれがある。
【0007】
そのような事象を防ぐための技術として、凹凸形状部と万線画線等を平行に配置するのではなく、凹凸形状部に対して万線画線等を傾斜させて配置する技術がある。この技術によれば、刷り合わせのずれによって潜像画像が視認できなくなる事象を低減することができる。一方で、規則的に配置される万線画線等を凹凸形状部に重ね合わせて印刷する場合は、モアレと呼ばれる干渉縞が発生する。モアレの発生は潜像画像の視認性の低下につながる。
【0008】
本発明の目的は、モアレの発生を低減して潜像画像の視認性を向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、レリーフ模様を表す凹凸形状部が所定の長さで形成された基材に、凹凸形状部に対して万線画線及び/又は網点画線を傾斜させて印刷してなる潜像印刷物であって、凹凸形状部の長さをX1(mm)、凹凸形状部の基準配列ピッチをYp(mm)、凹凸形状部に対する万線画線及び/又は網点画線の傾斜角度をθ1(度)とした場合に、θ1=degrees(atan2(X1,Yp))を満たす潜像印刷物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モアレの発生を低減して潜像画像の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の比較形態に係る潜像印刷物を説明するための図である。
【
図2】凹凸形状部の細部を説明するための図である。
【
図3】潜像印刷物を正面と斜めから観察した場合の見え方の違いを説明する図である。
【
図4】凹凸形状部と万線画線の位置関係を説明する図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る潜像印刷物の構成を説明するための図である。
【
図7】凹凸形状部の長さと万線画線の傾斜角度との関係を説明するための図である。
【
図8】凹凸形状部の基準配列ピッチと万線画線の傾斜角度との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明の比較形態について説明する。
図1は、本発明の比較形態に係る潜像印刷物を説明するための図であって、
図1Aは、本発明の比較形態に係る潜像印刷物に形成された凹凸形状部を正面から見た図、
図1Bは、本発明の比較形態に係る潜像印刷物に形成された万線画線を正面から見た図である。
【0014】
図1Aに示すように、凹凸形状部1は、X方向にX1(mm)の長さを有し、Y方向にY1(mm)の幅を有する。すなわち、凹凸形状部1は、X1×Y1の面積を有する矩形の領域に形成されている。この矩形の領域において、X方向に沿う黒い部分は凸部であり、X方向に沿う白い部分は凹部である。つまり、凹凸形状部1は、凸部と凹部がY方向に交互に並んだ万線模様を表している。なお、
図1Aにおいては、説明の便宜上、凹凸形状部1の凸部を黒色、凹部を白色で示しているが、実際には凹部及び凸部は潜像印刷物の基材と同じ色になる。
【0015】
凹凸形状部1は、上記矩形の領域内にYp(mm)の基準配列ピッチで形成されている。凹凸形状部1の基準配列ピッチYpは、Y方向で隣り合う凸部(又は凹部)の間隔で規定される。凹凸形状部1は、部分的に凹凸形状の位相を異にすることにより、「NPB」の文字の図柄を表している。具体的には、
図2に示すように、凹凸形状部1は、Y方向における凹凸形状の配列ピッチを部分的に基準配列ピッチYpよりも広くしたり狭くしたりすることにより、「NPB」の文字の図柄を表している。このことから、凹凸形状部1の基準配列ピッチYpは、上記矩形の領域において、「NPB」の文字の図柄を表す部分以外の部分で規定される配列ピッチであるとも言える。
【0016】
なお、凹凸形状部1を構成する凸部と凹部は、いずれも潜像印刷物の基材と同じ色を呈している。例えば、潜像印刷物の基材が白色の用紙である場合は、凹凸形状部1を構成する凸部と凹部も用紙と同じ白色になる。このため、潜像印刷物を正面から観察しても「NPB」の文字の図柄は視認されない。
【0017】
一方で、
図1Bに示すように、万線画線2は、X方向にX2(mm)の長さを有し、Y方向にY2(mm)の幅を有する。すなわち、万線画線2は、X2×Y2の面積を有する矩形の領域に形成されている。この矩形の領域において、X方向に沿う黒い部分は、万線画線2を構成する画線である。すなわち、万線画線2は、X方向に平行な複数の画線によって構成されている。万線画線2を構成する複数の画線は、Y方向に一定の配列ピッチYp2(mm)で並んでいる。万線画線2の配列ピッチYp2は、上述した凹凸形状部1の基準配列ピッチYpと同じである。また、万線画線2の長さX2は、凹凸形状部1の長さX1と同じであり、万線画線2の幅Y2は、凹凸形状部1の幅Y1と同じである。
【0018】
ここで、凹凸形状部1は、潜像印刷物の基材に形成され、万線画線2は、基材の色との違いを識別可能な色、典型的には基材とは異なる有色の色材を用いた印刷によって潜像印刷物の基材に形成される。潜像印刷物の基材は、例えば用紙であり、色材は、例えばインクである。ただし、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0019】
潜像印刷物の基材に凹凸形状部1を形成する方法としては、例えば、すき入れ、エンボス加工などを挙げることができる。また、潜像印刷物の基材に万線画線2を形成する方法としては、例えば、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などを挙げることができる。凹凸形状部1及び万線画線2が形成される潜像印刷物は、特定の価値を有する貴重印刷物である。貴重印刷物には、例えば、銀行券、株券、有価証券、小切手、商品券、入場券、乗車券、通行券、金融カードなど種々の印刷物が含まれる。
【0020】
潜像印刷物の基材に凹凸形状部1と万線画線2を形成する場合は、凹凸形状部1が形成される矩形の領域に対して、万線画線2が形成される矩形の領域が位置ずれなく重なり合うように、凹凸形状部1と万線画線2を刷り合わせる必要がある。この刷り合わせが設計通りに行われた場合は、潜像印刷物の見え方が次のようになる。まず、潜像印刷物を正面から観察した場合は、
図3Aに示すように、潜像画像である図柄は視認されず、万線画線2のみが視認される。これに対し、潜像印刷物を傾けて斜めから観察した場合は、
図3Bに示すように、万線画線2の形成領域内に、潜像画像である「NPB」の文字の図柄が視認される。その理由は次のとおりである。
【0021】
図4は、凹凸形状部と万線画線の位置関係を説明する図である。
図4に示すように、潜像印刷物の基材3には、凸部1aと凹部1bを有する凹凸形状部1が形成されている。また、潜像印刷物の基材3には、凹凸形状部1の形成領域と万線画線2の形成領域が互いに重なり合うように、万線画線2を構成する複数の画線2aが印刷によって形成されている。そして、凹凸形状部1の凹凸形状が基準配列ピッチYp(
図1参照)と同じピッチで形成された部分では、
図4Aに示すように、凸部1aの頂部に画線2aが形成されている。このため、潜像印刷物の基材3の表面(凹凸形状部1が形成されている面)を斜めから観察した場合は、万線画線2の画線2aが凹凸形状部1の陰にならずに視認される。
【0022】
これに対し、凹凸形状部1の凹凸形状が基準配列ピッチYpと異なるピッチで形成された部分では、
図4Bに示すように、凸部1aの頂部からずれた位置に画線2aが形成されている。このため、潜像印刷物の基材3を斜めから観察した場合は、万線画線2の画線2aが凹凸形状部1の陰になって視認されない。したがって、潜像印刷物を傾けて観察した場合は、設計で想定している濃淡差が生じるため、「NPB」の文字の図柄を認識することができる(
図3B参照)。
【0023】
ただし、本発明の比較形態においては、
図1A及び
図1Bに示すように、凹凸形状部1と万線画線2を平行に配置している。このため、凹凸形状部1と万線画線2の刷り合わせが設計通りに行われずにY方向にずれた場合は、視認されるはずの画線2aが視認できなくなったり、視認されないはずの画線2aが視認できてしまったりして、設計で想定している濃淡差が生じず、潜像画像を視認できなくなるおそれがある。
【0024】
そこで、本発明の比較形態の応用例として、凹凸形状部1に対して万線画線2を傾斜させて配置することが考えられる。このような配置にすれば、凹凸形状部1と万線画線2を刷り合わせるときに両者の相対位置がY方向にずれた場合でも、設計で想定している濃淡差が生じやすくなるため、潜像画像が視認できなくなる事象を低減することができる。
しかしながら、規則的に配置される万線画線2を凹凸形状部1に対して傾けて印刷した場合は、モアレと呼ばれる干渉縞が発生する。
【0025】
図5は、モアレの発生を示す図であり、
図5Aは、凹凸形状部1に対する万線画線2の傾斜角度(以下、単に「傾斜角度」ともいう。)を第1角度に設定した場合、
図5Bは、傾斜角度を第1角度よりも大きい第2角度に設定した場合、
図5Cは、傾斜角度を第2角度よりも大きい第3角度に設定した場合を示している。
図5A~
図5Cに示すように、モアレMの発生数は、凹凸形状部1に対する万線画線2の傾斜角度を大きくするほど増える。また、モアレの発生数が増えると、その分だけ潜像画像の視認性が低下する。
【0026】
そこで、本発明の実施形態においては、凹凸形状部1に対する万線画線2の傾斜角度を適切な角度に設定することにより、モアレの発生を低減することとした。以下、傾斜角度の適切な角度について、
図6を参照して具体的に説明する。
まず、凹凸形状部1は、
図6Aに示すように、X方向にX1(mm)の長さを有し、Y方向にY1(mm)の幅を有する、矩形の領域に形成されている。そして、凹凸形状部1の基準配列ピッチはYp(mm)である。つまり、凹凸形状部1に関しては、上述した比較形態の場合と同じである。
【0027】
一方、万線画線2については、
図6Bに示すように、万線画線2を構成する各々の画線2aが、凹凸形状部1の凸部1aに対して角度θ1だけ傾いて配置されている。すなわち、凹凸形状部1に対する万線画線2の傾斜角度は、θ1(度)である。凹凸形状部1と万線画線2が形成された潜像印刷物においては、上記の傾斜角度θ1が次の(1)式を満たす。
θ1=degrees(atan2(X1,Yp)) …(1)
【0028】
ここで、例えば、凹凸形状部1の長さX1が35(mm)、凹凸形状部1の基準配列ピッチYpが0.4(mm)であった場合は、万線画線2を傾斜させるときの適切な角度がθ1=0.65478(度)となる。
【0029】
このように傾斜角度θ1を規定することにより、凹凸形状部1の凸部1aと万線画線2の画線2aとが交差する箇所は一箇所のみとなる。モアレは、凸部1aと画線2aが交差する箇所で発生する。このため、凸部1aと画線2aが交差する箇所を一箇所に抑えることにより、モアレの発生を低減することができる。したがって、本発明の実施形態によれば、潜像画像の視認性を向上させることができる。
【0030】
上記(1)式においては、凹凸形状部1の長さX1と、凹凸形状部1の基準配列ピッチYpとをパラメーターとして、傾斜角度θ1を規定している。このため、上記(1)式を満たす傾斜角度θ1の大きさは、凹凸形状部1の長さX1及び/又は基準配列ピッチYpによって変わる。
【0031】
例えば、
図7A~
図7Dに示すように、凹凸形状部1の基準配列ピッチYpは同一であっても、凹凸形状部1の長さX1a,X1bが異なる場合(X1a<X1b)は、上記(1)式を満たす傾斜角度θa,θbの大きさが異なる(θa>θb)。言い換えると、上記(1)式を満たす傾斜角度θ1は、凹凸形状部1の長さX1が長くなるほど小さくなる。
【0032】
また、
図8A~
図8Dに示すように、凹凸形状部1の長さX1は同一であっても、凹凸形状部1の基準配列ピッチYpa,Ypbが異なる場合(Ypa<Ypb)は、上記(1)式を満たす傾斜角度θc,θdの大きさが異なる(θc<θd)。言い換えると、上記(1)式を満たす傾斜角度θ1は、凹凸形状部1の基準配列ピッチYpが広くなるほど大きくなる。
【0033】
なお、上記実施形態においては、凹凸形状部1の凸部1aと万線画線2の画線2aとのなす角度によって傾斜角度θ1を規定しているが、凹凸形状部1の凹部1b(
図4参照)と万線画線2の画線2aとのなす角度によって傾斜角度θ1を規定してもよい。
【0034】
また、上記比較形態及び実施形態においては、凹凸形状部1が万線模様を表しているが、これに限らず、凹凸形状部は万線模様及びレリーフ模様のうち少なくともいずれか一方の模様を表すものであればよい。
【0035】
また、上記比較形態及び実施形態においては、潜像印刷物の基材3に万線画線2を印刷によって形成しているが、これに限らず、万線画線の代わりに網点画線を印刷によって形成してもよいし、万線画線と網点画線の両方を印刷によって形成してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…凹凸形状部
2…万線画線
3…基材
X1…凹凸形状部の長さ
Yp…凹凸形状部の基準配列ピッチ
θ1…傾斜角度