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特開2023-121626強磁性粉末、電磁ノイズ抑制部材及び電磁ノイズ抑制シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121626
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】強磁性粉末、電磁ノイズ抑制部材及び電磁ノイズ抑制シート
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/147 20060101AFI20230824BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20230824BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20230824BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20230824BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230824BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230824BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20230824BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01F1/147
H01F1/20
H01F1/26
H05K9/00 M
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F1/05
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025073
(22)【出願日】2022-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省戦略的情報通信研究開発推進事業 (SCOPE)「5G移動通信等の通信品質安定化に資する高SHF帯対応電磁干渉抑制体の研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セペリ アミン ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】大久保 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】ペリン トズマン
(72)【発明者】
【氏名】タン シン
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
(72)【発明者】
【氏名】田丸 慎吾
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA16
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC08
4K018BD05
4K018CA09
4K018HA08
4K018KA43
5E041AA11
5E041CA13
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN15
5E321AA23
5E321BB32
5E321BB60
5E321GG05
5E321GG11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯の電磁ノイズを抑制する材料を提供する。
【解決手段】強磁性FeB系粉末は、原子比で、Fe66.67+x33.33-x(ただし、-15≦x≦15)の組成を有し、CuAl型結晶構造を主相とする単結晶粉末からなり、単結晶粉末の平均粒子径は0.5μm以上300μm未満であるか又は原子比で、(Fe1-yCo66.67+xB33.33-x(ただし、-15≦x≦15、0<y≦0.3)の組成を有し、CuAl型結晶構造を主相とする単結晶粉末からなり、前記単結晶粉末の平均粒子径は0.5μm以上300μm未満である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子比で、Fe66.67+x33.33-x(ただし、-15≦x≦15)の組成を有し、
CuAl型結晶構造を主相とする単結晶粉末からなり、
前記単結晶粉末の平均粒子径は0.5μm以上300μm未満である、
強磁性FeB系粉末。
【請求項2】
原子比で、(Fe1-yCo66.67+xB33.33-x(ただし、-15≦x≦15、0<y≦0.3)の組成を有し、
CuAl型結晶構造を主相とする単結晶粉末からなり、
前記単結晶粉末の平均粒子径は0.5μm以上300μm未満である、
強磁性FeB系粉末。
【請求項3】
平均粒径が0.5μm以上3μm未満である、請求項1又は2に記載の強磁性FeB系粉末。
【請求項4】
12GHz以上32GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す、請求項3に記載の強磁性FeB系粉末。
【請求項5】
平均粒径が3μm以上10μm未満である、請求項1又は2に記載の強磁性FeB系粉末。
【請求項6】
8GHz以上25GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す、請求項5に記載の強磁性FeB系粉末。
【請求項7】
平均粒径が10μm以上300μm未満である、請求項1又は2に記載の強磁性FeB系粉末。
【請求項8】
5GHz以上15GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す、請求項7に記載の強磁性FeB系粉末。
【請求項9】
粉末が絶縁材料中に含有されてなる電磁ノイズ抑制部材であって、前記粉末が、請求項1~8のいずれか一項に記載の粉末であり、絶縁材料中で磁気的に整列している、電磁ノイズ抑制部材。
【請求項10】
3GHz以上35GHz以下の周波数範囲において電磁ノイズを吸収する、請求項9に記載された電磁ノイズ抑制部材。
【請求項11】
請求項9又は10に記載された電磁ノイズ抑制部材を含む、電磁ノイズ抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギガヘルツ範囲の高周波領域のノイズ吸収材料として機能する強磁性FeB系粉末、並びに電磁ノイズ抑制部材及びシートに関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の到来と、人工知能やビックデータの活用が進む中、電子デバイスの役割はますます重要になってきている。電子デバイスが進化を遂げ、さらにその応用範囲が拡大するにつれて、抑制すべき電磁(EM)ノイズやこれに伴う電子部品同士間の電磁干渉の増加が問題となっている。特に、最先端の電子デバイスの分野では、小型化・高性能化を図るため、高周波化・高密度化が進んでおり、電子デバイスの誤動作の要因となる電磁ノイズ対策が求められている。このような問題を克服する一つの方法として、従来、電子デバイスからノイズとして発生する電磁ノイズを吸収することができるノイズ抑制材料が開発され、提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、EMC規格を満たすために、100~400MHz近傍でのノイズ減衰効果の優れた、厚さの薄い(例えば、0.4mm以下の)複合磁性体及びシート状物品の製造方法等を提供することを目的することが開示され、かかる目的のもと、軟磁性金属相と軟磁性金属相の間に介在する絶縁相とからなる複合磁性体であって、複合磁性体は、扁平状軟磁性金属粉とその表面に形成された絶縁膜とを含む磁性粉末が圧接接合され、絶縁膜が絶縁相を構成し、かつ扁平状軟磁性金属粉が軟磁性金属相を構成することを特徴とする複合磁性体を提供することが開示されている。また、特許文献1には、扁平状軟磁性金属粉として、パーマロイ(Fe-Ni合金)、スーパーパーマロイ(Fe-Ni-Mo合金)、センダスト(Fe-Si-Al合金)、Fe-Si合金、Fe-Co合金、Fe-Cr合金、Fe-Cr-Si合金が挙げられることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、透磁率が十分に高いノイズ抑制用磁性シートを作製可能な扁平状軟磁性材料及びその製造方法を提供することを目的とすることが開示され、50%粒子径D50(μm)が、保持力Hc(A/m)と嵩密度BD(Mg/m)との積の1.5倍以上を満足する扁平状軟磁性材料を提供することが開示されている。また、特許文献2の実施例には、そのような扁平状軟磁性材料として、各種アトマイズ法で作製したFe-Si-Al(Si=8~11質量%、Al=5~7質量%)系合金粉末(センダスト粉末)を熱処理して、平均結晶粒径を少なくとも6.6μm以上とし、得られた磁性シートを、インピーダンスアナライザを用いて、1MHzの周波数の磁気シート特性(透磁率μ’)を評価したことが開示されている。
【0005】
特許文献3には、誘電率の損失を高周波側で小さくすることで発熱を抑制しつつ、低周波から高周波まで広い範囲でノイズ抑制能力を持ったノイズ抑制体が得られるノイズ抑制用複合磁性分を提供することを目的とすることが開示され、鉄粉、Fe-Si合金粉又はFe-Si-Al合金粉から選ばれる金属粉に、TiO、CaTiO、SrTiO又はフェライトから選ばれる高誘電率微粒子とバインダー樹脂とを被覆することを特徴とするノイズ抑制用複合磁性粉を提供することが開示されている。また、特許文献3の実施例には、そのような磁性粉から得られた成型体を、インピーダンス/マテリアル・アナライザー並びに誘電体測定電極及び磁性材料測定電極を用いて、1MHzから1GHzの周波数範囲で掃引し、複素透磁率、複素誘電率、透磁率損失及誘電率損失を測定したことが開示されている。
【0006】
特許文献4には、周波数が100kHzから20MHzの領域においてノイズを抑制できる磁性部材に適したFeB相を含む、磁性部材用粉末が開示されている。この磁性部材用粉末は、組成がB:5.0質量%以上8.0質量%以下、並びに残部:Fe及び不可避的不純物からなるものであるか、或いは更にCr、Mn、Co及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上:0質量%以上25質量%以下を含んでいてもよい。この粉末の平均粒径D50は、20μm以上150μm以下が好ましく、アトマイズによって製造されるため、多結晶粉末になっている。
しかしながら、上記のいずれの文献に記載された材料も、せいぜい1MHzから最大で1GHzの範囲の周波数帯を低周波帯ないし高周波帯と位置付けて磁気特性を評価し、それらの周波数帯に応じた電磁ノイズ抑制材料を開示しているにすぎず、従来技術において、それよりも高いギガヘルツ範囲であって広範な周波数帯の電磁ノイズを抑制する材料は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0012652号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2117017号
【特許文献3】米国特許出願公開第2016/0044838号
【特許文献4】WO2020/066779号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景技術の項で説明した従来の問題点を解消するためになされたものであって、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯の電磁ノイズを抑制する材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の強磁性材料について鋭意検討を進めた結果、意外なことに、特定の条件を満たす強磁性FeB系粉末を用いた場合に、当該粉末が絶縁材料中に含有されてなる電磁ノイズ抑制部材が、従来技術がなし得ることができなかった、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯をカバーする電磁ノイズ抑制材料として機能することを見出すに至り、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 原子比で、Fe66.67+x33.33-x(ただし、-15≦x≦15)の組成を有し、
CuAl型結晶構造を主相とする単結晶粉末からなり、
前記単結晶粉末の平均粒子径は0.5μm以上300μm未満である、
強磁性FeB系粉末。
[2] 原子比で、(Fe1-yCo66.67+xB33.33-x(ただし、-15≦x≦15、0<y≦0.3)の組成を有し、
CuAl型結晶構造を主相とする単結晶粉末からなり、
前記単結晶粉末の平均粒子径は0.5μm以上300μm未満である、
強磁性FeB系粉末。
[3] 平均粒径が0.5μm以上3μm未満である、[1]又は[2]に記載の強磁性FeB系粉末。
[4] 12GHz以上32GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す、[3]に記載の強磁性FeB系粉末。
[5] 平均粒径が3μm以上10μm未満である、[1]又は[2]に記載の強磁性FeB系粉末。
[6] 8GHz以上25GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す、[5]に記載の強磁性FeB系粉末。
[7] 平均粒径が10μm以上300μm未満である、[1]又は[2]に記載の強磁性FeB系粉末。
[8] 5GHz以上15GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す、[7]に記載の強磁性FeB系粉末。
[9] 粉末が絶縁材料中に含有されてなる電磁ノイズ抑制部材であって、前記粉末が、[1]~[8]のいずれかに記載の粉末であり、絶縁材料中で磁気的に整列している、電磁ノイズ抑制部材。
[10] 3GHz以上35GHz以下の周波数範囲において電磁ノイズを吸収する、[9]に記載された電磁ノイズ抑制部材。
[11] [9]又は[10]に記載された電磁ノイズ抑制部材を含む、電磁ノイズ抑制シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の特定の条件を満たす強磁性FeB系粉末は、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯において強磁性共鳴(FMR)ピークを示すことから、当該粉末が絶縁材料中に含有されてなる本発明の電磁ノイズ抑制部材は、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯の電磁ノイズを効率よく吸収して抑制するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ジェットミル粉砕した単結晶の粒子の平均直径(D)サイズの測定のデモンストレーションを示す図である。高解像度SE-SEM画像、当該画像に粒径を描画したもの、及び当該粒径を描画したSEM画像から測定した平均粒径分布をプロットした図を示す。
図2】異なる平均粒径を有する単結晶FeB系粉末の二次電子SEM画像であり、平均粒径は、a)44μm、b)4.3μm、c)1.2μmである。各SEM画像から測定した平均粒径分布の図を、当該SEM画像内に挿入した。
図3】異なる組成を有する、ジェットミル粉砕したFeB系粉末の二次電子SEM画像であり、合金粉末の組成は、(a)FeB、(b)(Fe0.9Co0.1B、(c)(Fe0.8Co0.2B、(d)(Fe0.7Co0.3Bである。各SEM画像から測定した平均粒径分布の図を、当該SEM画像内に挿入した。
図4】FeB粉末のX線回折(XRD)パターン、及びFeB粒子のTEM画像であり、(a)は、鋳造後(as-cast)のFeB粉末、及びジェットミル粉砕した(jet-milled)FeB粉末のXRDパターン、(b)は、ジェットミル粉砕したFeB粒子の微細構造を示す明視野(BF)TEM画像である。
図5】異なる組成を有するFeB系粉末(平均粒径d<3μm)のXRDパターンである。粉末の組成は、(a)FeB、(b)(Fe0.9Co0.1B、(c)(Fe0.8Co0.2B、(d)(Fe0.7Co0.3Bである。
図6】異なる平均粒径を有する、ジェットミル粉砕したFeB粒子の、周波数に対する磁化率の実部(χ’)及び虚部(χ’’)を示す図である。平均粒径dは、d<3μm、3μm≦d<10μm、10μm≦d、の3種類であり、これらについてプロットした。磁化率は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、0mTバイアス磁場(μ)下で測定した。
図7】バイアス磁場を変化させて測定した、ジェットミル粉砕したFeB粒子(平均粒径d<3μm)の、周波数に対する磁化率の実部(χ’)及び虚部(χ’’)を示す図である。バイアス磁場(μ)は、0mT、200mT、400mT及び600mTの4種類であり、これらについてプロットした。磁化率は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、0~600mTの範囲内でバイアス磁場(μ)を変化させて測定した。
図8】異なる組成を有し、磁気的に整列している(且つ、絶縁材料中で固定されている)ジェットミル粉砕した単結晶のFeB系粒子(平均粒径d<3μm)の、周波数に対する磁化率の実部(χ’)及び虚部(χ’’)を示す図である。粒子の組成は、(a)FeB、(b)(Fe0.9Co0.1B、(c)(Fe0.8Co0.2B、(d)(Fe0.7Co0.3Bである。磁化率は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、0mTバイアス磁場(μ)下で測定した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
<FeB系粉末の組成>
本発明の強磁性粉末は、単結晶FeB系粉末である。本発明において、「FeB系」という用語には、FeBそのものの他、原子比で、Fe66.67+x33.33-x(ただし、-15≦x≦15)の組成を有する化合物も含まれ、さらに、原子比で、(Fe1-yCo66.67+xB33.33-x(ただし、-15≦x≦15、0<y≦0.3)の組成を有する化合物も含まれる。FeB系粉末が、本発明が解決しようとする前記課題を解決するための作用・機能を発揮し得る組成を主たる組成として備えている限り、微量の不純物を含んでも差し支えない。すなわち、かかる微量の不純物を含むことのみを理由として、当該化合物が本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0015】
<粉末の粒径、粒径分布、並びに平均粒径の測定方法>
本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、平均粒径が、好ましくは0.5μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以上3μm未満であり、最も好ましくは0.8μm以上2.2μm以下である。ジェットミル粉砕法によって、単結晶粉末を得られる平均粒径の上限値は300μmであり、300μmを超えると多結晶粉末になり得る。ジェットミル粉砕法によって、単結晶粉末を得られる平均粒径の下限値は0.5μmであり、平均粒径0.5μmよりも細かな単結晶粉末を得るのは、工業的に困難である。また、本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、平均粒径が3μm以上10μm未満であってもよく、平均粒径が10μm以上300μm未満であってもよい。
本明細書において、粉末の平均粒径は、SEM画像から粉末の粒径(直径)分布を測定することにより求めた平均粒径であると定義する。SEM画像は、二次電子モードで得られた高解像度SEM画像である。粉末の平均粒径の分布がどのようにプロットされるかを図1に示す。まず、測定対象の粉末から得られた高解像度SEM画像上に各粒子の直径(粒径)が線で描画され、これに基づいて粉末の平均粒径の分布が測定され、プロットされている。
【0016】
<粉末の調製方法>
強磁性FeB系粉末の平均粒径が微細なものとなるように調整するには、ジェットミル粉砕を用いるのが好ましい。
一例として、ジェットミル粉砕して平均粒径が微細なものとなるように調整したFeB粉末の二次電子SEM画像を、図2に示す。b)が平均粒径4.3μm、c)が平均粒径1.2μmである。比較のために、ジェットミル粉砕を用いずに、機械的に粉砕して平均粒径を44μmにしたFeB系粉末の二次電子SEM画像を、a)に示す。
また、一例として、ジェットミル粉砕して平均粒径が微細なものとなるように調整した、異なる組成を有するFeB系粉末の二次電子SEM画像を、図3に示す。
ジェットミル粉砕を用いて平均粒径を調整する場合、NガスやHeガスなどの様々なタイプの粉砕ガスを使用して、ジェットミル粉砕中の入口圧力(例えば、0.2~1.0MPa)を変更することができる。
このように、平均粒径を調整し、制御するために、ジェットミル粉砕プロセスを予め最適化して実施することが好ましい。
なお、本明細書に記載されているFeB系化合物と同一組成のものについては、上記の粉砕方法でなく、化学的方法などの他の方法を用いて所望の平均粒径に調整してもよい。
図2に示した粉砕後の粉末は、主に等軸形状である。プレートレット又はロッド形状など他の形状の粉末も、同様の材料の化合物で使用することができる。
【0017】
<粉末の結晶構造>
本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、CuAl型結晶構造を主相とする。
一例として、図4(a)に、鋳造後(as-cast)のFeB粉末、及びジェットミル粉砕した(jet-milled)FeB粉末のXRDプロファイルを示す。
FeB粉末の主相は、ジェットミル粉砕後もCuAl型結晶構造(体積分率97%以上)のままであった。なお、図4(a)から、鋳造後(as-cast)の粉砕前のFeB粉末のXRDピークに比べて、ジェットミル粉砕したFeB粉末のXRDピークがわずかに広がっていることが読み取れるが、これは、ジェットミル粉砕中に粉末の粒径が減少し、粒子の表面にわずかな表面が生じたことに起因すると考えられる。
【0018】
<粉末の結晶性>
本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、好ましくは単結晶粉末を含み、最も好ましくは単結晶粉末である。
一例として、図4(b)に、ジェットミル粉砕したFeB粒子の微細構造を示す明視野(BF)TEM画像を示す。図4(b)は、単一のジェットミル粉砕されたFeB粒子から得られた明視野(BF)-TEM画像の例を示しており、ジェットミル粉砕された粉末が単結晶であることを示している。
【0019】
<電磁ノイズ抑制部材及び電磁ノイズ抑制シート>
本発明の強磁性FeB系粉末は、絶縁材料(絶縁マトリックス、例えばエポキシ樹脂など)中で固定することにより、絶縁材料中で磁気的に整列している強磁性粉末とすることができ、これを電磁ノイズ抑制部材として用いることができる。電磁ノイズ抑制部材を用いてこれを含む電磁ノイズ抑制シートとして活用することもできる。
FeB粒子が多結晶の場合、磁化の方向が揃わないので、メガヘルツ帯の電磁ノイズ遮蔽が充分得られない。これに対して、FeB粒子が単結晶の場合、磁化の方向が揃うので、メガヘルツ帯の電磁ノイズ遮蔽が充分得られる。
【0020】
<磁化率の測定>
本発明の強磁性FeB系粉末は、磁気的に整列され、絶縁マトリックス(例えば、エポキシ樹脂)に固定して、磁化率を測定することができる。磁化率を測定することにより、特定の周波数範囲に生じる強磁性共鳴(FMR)ピークを測定することができる。これらの測定及び得られた特性の関係は、当業者には周知である。磁化率の測定は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて測定することができる。TC-Permによる測定と装置の詳細な説明は、S. Tamaru et al. “Broadband and high-sensitivity permeability measurements on asingle magnetic particle by transformer coupled permeameter” J. Magn. Magn. Mater.501 (2020) 166434に記載されており、本明細書に組み込まれる。
【0021】
<強磁性共鳴(FMR)ピークを示す周波数範囲>
本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、12GHz以上32GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す。また、本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、8GHz以上25GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す。また、本発明の一実施形態では、強磁性FeB系粉末は、5GHz以上15GHz以下の範囲に強磁性共鳴(FMR)ピークを示す。また、本発明の一実施形態では、電磁ノイズ抑制部材及び/又は電磁ノイズ抑制シートは、3GHz以上35GHz以下の周波数範囲において電磁ノイズを吸収し、好ましくは、8GH以上35GHz以下の範囲、より好ましくは、12GHz以上35GHz以下の範囲において、電磁ノイズを吸収することが期待される。
【実施例0022】
以下、実施例に基づき、本発明の強磁性FeB系粉末の調製及びその特性について、更に詳しく説明する。なお、これらの記載は本発明の実施形態の例示であって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
<粉末の調製>
FeB系合金として、誘導溶解プロセスを用いて、FeB合金を作製した。次いで、当該合金を、Ar雰囲気中で、大きな粒子(約200μmのサイズ)と衝突させることにより、粗粉砕した。この粗粉砕した粉末を、ジェットミルプロセスを用いて、さらに微粉砕した。ジェットミルプロセスには、Ar充填グローブボックス(Po<2ppm)内に設置したSeishin Enterprise Co.,Ltd製のA-Oジェットミルを使用した。平均粒径が3μm以上の粉末を調製する場合は、0.2~1.0MPaの圧力で、窒素(純度99.9%)を粉砕ガスとして用いるところ、本実施例1では、さらに微細化して平均粒径が3μm未満の粉末を調製するため、粉砕ガスを窒素(純度99.9%)からヘリウム(純度99.9%)に代えて、さらにジェットミル粉砕を行い、得られたFeB粉末を以下の測定に供した。
<粉末の平均粒径>
上述した手順に従って、FeB粉末の平均粒径を、SEM画像から粉末の粒径(直径)分布を測定することにより求めた。図2(c)及び図3(a)に示すとおり、平均粒径は、1.2μmであった。
<粉末の結晶構造及び結晶性>
図4(a)に示すとおり、FeB粉末(平均粒径1.2μm)は、ジェットミル粉砕後もCuAl型結晶構造(体積分率97%以上)のままであった。また、図4(b)に示すとおり、ジェットミル粉砕後のFeB粉末は単結晶であることがわかった。
【0024】
<磁化率等の測定>
以下の他の例と併せて、まとめて後述する。
【0025】
[実施例2]
FeB系合金として、誘導溶解プロセスを用いて、(Fe0.9Co0.1B合金を作製し、ジェットミル粉砕により、得られた(Fe0.9Co0.1B粉末の平均粒径を1.1μmとした以外は、実施例1と同様にして、(Fe0.9Co0.1B粉末を得て、以下の測定に供した。SEM画像から測定した平均粒径分布を図3(b)に示す。
図5(b)に示すとおり、(Fe0.9Co0.1B粉末(平均粒径1.1μm)は、実施例1と同じくCuAl型結晶構造を有していた。すなわち、FeB系化合物で、FeをCoで部分的に置換しても結晶構造は変化せず、同じCuAl型結晶構造が生じることが示された。
【0026】
[実施例3]
FeB系合金として、誘導溶解プロセスを用いて、(Fe0.8Co0.2B合金を作製し、ジェットミル粉砕により、得られた(Fe0.8Co0.2B粉末の平均粒径を1.3μmとした以外は、実施例1と同様にして、(Fe0.8Co0.2B粉末を得て、以下の測定に供した。SEM画像から測定した平均粒径分布を図3(c)に示す。
図5(c)に示すとおり、(Fe0.8Co0.2B粉末(平均粒径1.3μm)は、実施例1と同じくCuAl型結晶構造を有していた。すなわち、FeB系化合物で、FeをCoで部分的に置換しても結晶構造は変化せず、同じCuAl型結晶構造が生じることが示された。
【0027】
[実施例4]
FeB系合金として、誘導溶解プロセスを用いて、(Fe0.7Co0.3B合金を作製し、ジェットミル粉砕により、得られた(Fe0.7Co0.3B粉末の平均粒径を1.5μmとした以外は、実施例1と同様にして、(Fe0.7Co0.3B粉末を得て、以下の測定に供した。SEM画像から測定した平均粒径分布を図3(b)に示す。
図5(d)に示すとおり、(Fe0.7Co0.3B粉末(平均粒径1.5μm)は、実施例1と同じくCuAl型結晶構造を有していた。すなわち、FeB系化合物で、FeをCoで部分的に置換しても結晶構造は変化せず、同じCuAl型結晶構造が生じることが示された。
【0028】
[実施例5]
ジェットミル粉砕により、得られたFeB粉末の平均粒径を4.3μmとした以外は、実施例1と同様にして、FeB粉末を得て、以下の測定に供した。SEM画像から測定した平均粒径分布を図2(b)に示す。
【0029】
[実施例6]
ジェットミル粉砕により、得られたFeB粉末の平均粒径を44μmとした以外は、実施例1と同様にして、FeB粉末を得て、以下の測定に供した。SEM画像から測定した平均粒径分布を図2(a)に示す。
【0030】
[磁化率等の測定及び評価結果]
実施例1~4、及び実施例5~6において、平均粒径を特定して得られたFeB系粉末を、上述した手順に従って、絶縁マトリックス(エポキシ樹脂)に固定して、磁化率を測定し、特定の周波数範囲に生じる強磁性共鳴(FMR)ピークを測定した。結果を図6図8に示す。
【0031】
図6は、異なる平均粒径を有する、ジェットミル粉砕したFeB粒子の、周波数に対する磁化率の実部(χ’)及び虚部(χ’’)を示す図である。平均粒径dは、実施例1のd<3μm、実施例5の3μm≦d<10μm、及び実施例6の10μm≦d、の3種類であり、これらについてプロットした。磁化率は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、バイアス磁場を適用せずに(すなわち、0mTバイアス磁場(μ)下で)、測定した。
図6のχ’’プロットからわかるように、実施例5(平均粒径d=4.3μm、3μm≦d<10μm)のFeB粉末は、8~25GHzをカバーする幅広い強磁性共鳴(FMR)ピークを与えることが示された。一方で、これよりも平均粒径が小さい実施例1(平均粒径d=1.2μm、d<3μm)のFeB粉末は、より高周波数側にシフトした12~35GHzをカバーする幅広い強磁性共鳴(FMR)ピークを与えることが示された。これに対して、実施例1及び実施例5よりも平均粒径が大きい実施例6(平均粒径d=44μm)、10μm≦d)のFeB粉末の場合、FMRのピークの位置は、より低周波数側の5~15GHzの範囲にとどまった。
以上の結果を表1にまとめた。
【表1】
【0032】
図7は、バイアス磁場を変化させて測定した、ジェットミル粉砕した実施例1(平均粒径d=1.2μm、d<3μm)のFeB粉末の、周波数に対する磁化率の実部(χ’)及び虚部(χ’’)を示す図である。バイアス磁場(μ)は、0mT、200mT、400mT及び600mTの4種類であり、これらについてプロットした。磁化率は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、0~600mTの範囲内でバイアス磁場(μ)を変化させて測定した。
図7のχ’’プロットからわかるように、12~35GHzの周波数範囲でのFMRピークは、0mTバイアス磁場(μ)の場合に(すなわち、バイアス磁場を適用しない場合に)、観察することができる。また、図7のχ’’プロットから、このFMRピークは、200~600mTの小さなバイアス磁場を印加することで、より高周波数側の領域にシフトすることがわかった。なお、本測定では、ベクトルネットワークアナライザーの制限により、測定周波数の上限は44GHzに制限されていることに留意されたい。
【0033】
図8は、異なる組成を有する、ジェットミル粉砕したFeB系粒子(平均粒径d<3μm)の、周波数に対する磁化率の実部(χ’)及び虚部(χ’’)を示す図である。粒子の組成は、(a)FeB、(b)(Fe0.9Co0.1B、(c)(Fe0.8Co0.2B、(d)(Fe0.7Co0.3Bである。磁化率は、トランス結合型透磁率測定装置(TC-Perm)を用いて、バイアス磁場を適用せずに(すなわち、0mTバイアス磁場(μ)下で)、測定した。
図8のχ’’プロットからわかるように、平均粒径が3μm未満である実施例1~4の粉末、すなわち、実施例1の(Fe1-yCoxB(ただし、y=0)粉末、実施例2の(Fe1-yCoxB(ただし、y=0.1)粉末、実施例3の(Fe1-yCoxB(ただし、y=0.2)粉末、及び実施例4の(Fe1-yCoxB(ただし、y=0.3)粉末は、いずれも、12~32GHzをカバーする幅広い強磁性共鳴(FMR)ピークを与えることが示された。このような粉末を、電磁ノイズ抑制部材及び/又は電磁ノイズ抑制シートに用いることにより、3GHz以上35GHz以下の周波数範囲において電磁ノイズを吸収し、好ましくは、8GH以上35GHz以下の範囲、より好ましくは、12GHz以上35GHz以下の範囲において、電磁ノイズを吸収することが期待される。 以上の結果を表2にまとめた。
【表2】
【0034】
以上の通り、実施例の結果から、本発明の特定の条件を満たす強磁性FeB系粉末は、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯において強磁性共鳴(FMR)ピークを示すことから、当該粉末が絶縁材料中に含有されてなる本発明の電磁ノイズ抑制部材は、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯の電磁ノイズを効率よく吸収して抑制するという優れた効果を発揮し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の強磁性FeB系粉末は、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯において強磁性共鳴(FMR)ピークを示すことから、当該粉末が絶縁材料中に含有されてなる本発明の電磁ノイズ抑制部材は、ギガヘルツ範囲であって広範な高い周波数帯の電磁ノイズを効率よく吸収して抑制するという優れた効果を発揮し、実用に供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8