(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121725
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】抗SARS-CoV-2抗体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230824BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230824BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002891
(22)【出願日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022024417
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁 明秀
(72)【発明者】
【氏名】宮川 敬
(72)【発明者】
【氏名】笠松 誠
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対し感染を阻害する抗体、および該抗体の製造方法を提供する。
【解決手段】SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型の各レセプター・バインディング・ドメイン(RBD)をエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対して感染阻害活性を有することを特徴とする、単離された、抗SARS-CoV-2抗体を提供する。
【選択図】
図50
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型の各レセプター・バインディング・ドメイン(RBD)をエピトープとして認識し、
かつSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対して感染阻害活性を有することを特徴とする、単離された、
抗SARS-CoV-2抗体。
【請求項2】
さらにSARS-CoV-2のオミクロン型のRBDをエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2のオミクロン型に対して感染阻害活性を有する、請求項1に記載の抗SARS-CoV-2抗体。
【請求項3】
前記RBDのアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号1、2、3、4または5で示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗SARS-CoV-2抗体。
【請求項4】
前記SARS-CoV-2のオミクロン型のRBDのアミノ酸配列が、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の抗SARS-CoV-2抗体。
【請求項5】
前記抗体が、以下の(a)もしくは(b)、又はこれらとSARS-CoV-2との結合において競合する抗体である、請求項1に記載の抗体:
(a)重鎖可変領域が、
配列番号10に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号11に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号12に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ
軽鎖可変領域が、
配列番号13に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号14に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号15に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体;
(b)重鎖可変領域が、
配列番号16に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号17に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号18に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ
軽鎖可変領域が、
配列番号19に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号20に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号21に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体のタンパク質部分をコードする、単離された
DNA。
【請求項7】
以下の(c)~(g)の工程を含むことを特徴とする、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDをエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対して感染阻害活性を有する抗SARS-CoV-2抗体の製造方法;
(c)DNA免疫法により、ヒト以外の動物にSARS-CoV-2の任意の型のRBD遺伝子を含む発現ベクターを投与し、当該動物の抗体産生細胞を回収する工程;
(d)工程(c)で回収した抗体産生細胞又はそれを用いて作製したハイブリドーマの中から、工程(c)のDNA免疫法に用いたRBD遺伝子が発現するRBDタンパク質に結合性を有する抗体を分泌する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程;
(e)工程(d)で選択された抗体産生細胞又はハイブリドーマの中から、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に結合性を有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程;
(f)工程(e)で選択した抗体産生細胞又はハイブリドーマの中から、hiVNT法を用いて、ウイルス様粒子が細胞へ侵入することを阻害する効果が高い抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程;並びに
(g)工程(f)で選択された抗体産生細胞又はハイブリドーマを培養し、産生された抗体を回収する工程。
【請求項8】
工程(e)において、SARS-CoV-2のオミクロン型に結合性をさらに有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択し、
製造される抗SARS-CoV-2抗体が、SARS-CoV-2のオミクロン型のRBDをエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2のオミクロン型に対して感染阻害活性を有する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(c)において、RBD遺伝子が配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNAを含む、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
工程(e)において、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDのアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号1、2、3、4または5で示されるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(e)において、SARS-CoV-2のオミクロン型のRBDのアミノ酸配列が、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2に対して感染阻害活性を有する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2は2019年から発生したウイルスであり、ウイルス表面から突出するスパイクタンパク質と大きなRNAゲノムを特徴とするエンベロープを持った一本鎖RNAウイルスである。SARS-CoV-2の感染はこのスパイクタンパク質の部分配列(Receptor Binding Domain:以下、RBDと記す)が宿主細胞の受容体と結合することをきっかけとし、ウイルスキャプシドと宿主細胞の融合後、ウイルスが細胞へと侵入する。
SARS-CoV-2には様々な株があり、当初見いだされた野生型や、その後見いだされた変異型B.1.1.7(以下、「アルファ型」とする。)、B.1.351(以下、「ベータ型」とする。)、P.1(以下、「ガンマ型」とする。)、B.1.617.2(以下、「デルタ型」とする。)、及びBA.1(以下、「オミクロン型」とする。)等がある。特にスパイクタンパク質のアミノ酸残基に変異が起きたものの中には、自然感染またはワクチンにより獲得した抗スパイクタンパク質抗体の感染阻害活性を下げることがある。
【0003】
SARS-CoV-2に感染した時の治療方法の一つとして抗体カクテル療法が挙げられる。例えばこの手法であるREGN-COV2はプラセボに勝るウイルスロードの低減を確認している(非特許文献1)。
それ故、SARS-CoV-2の種類に関わらず感染阻害活性能のある抗体を開発することは重要である。
一方、抗体作製法として、ペプチドまたは組み換えタンパク質(大腸菌系、哺乳細胞系、無細胞系)を動物に免疫して抗体を得ることが一般的であるが、感染阻害活性を有する抗体を得ることは困難である。
【0004】
また近年では、細胞単離技術と分子生物学技術の発展により、新型コロナ感染症回復者末梢血からウイルス感染阻害活性を有する抗体を産生するB細胞を単離して、遺伝子組み換え技術によって抗体を作製することも可能となりつつあるが、末梢血のB細胞からウイルス感染阻害活性を有する抗体を効率よく得ることは困難である。
一方、抗ウイルス抗体を作製するための手法の一つとしてDNA免疫法が知られている(特許文献1、非特許文献2から4)。この手法は抗原タンパク質遺伝子を含む発現ベクターを動物に投与することにより、動物の体内で天然の立体構造を有する抗原タンパク質が発現するため、抗原タンパク質に対して高い特異性や結合力を有した抗体の作製が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.M.Weinreich et al., N.ENGL.MED.384;3(2021年)
【非特許文献2】JS.Boyle et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.94,1 4626-14631(1997年)
【非特許文献3】S.Gurunayhan et al.,Annu. Rev.Immunol.18.1.927(2000年)
【非特許文献4】D.Tang et al.,Nature 356(6365 152-154)(1992年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対し感染を阻害する抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、SARS-CoV-2のRBDを発現する遺伝子を投与したラットから作製した抗体産生ハイブリドーマから、SARS-CoV-2感染阻害活性を有するモノクローナル抗体を取得することに成功した。これらのモノクローナル抗体は、RBDをエピトープとし様々な株のSARS-CoV-2に対して同様に感染阻害能を持っていた。
【0009】
即ち、上記課題に鑑みてなされた本発明は、以下の態様を包含する。
[1]SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型の各レセプター・バインディング・ドメイン(RBD)をエピトープとして認識し、
かつSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対して感染阻害活性を有することを特徴とする、単離された、
抗SARS-CoV-2抗体。
[2]さらにSARS-CoV-2のオミクロン型のRBDをエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2のオミクロン型に対して感染阻害活性を有する、[1]に記載の抗SARS-CoV-2抗体。
[3]前記RBDのアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号1、2、3、4または5で示されるアミノ酸配列を含む、[1]又は[2]に記載の抗SARS-CoV-2抗体。
[4]前記SARS-CoV-2のオミクロン型のRBDのアミノ酸配列が、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む、[2]又は[3]に記載の抗SARS-CoV-2抗体。
[5]前記抗体が、以下の(a)もしくは(b)、又はこれらとSARS-CoV-2との結合において競合する抗体である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗体:
(a)重鎖可変領域が、
配列番号10に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号11に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号12に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ
軽鎖可変領域が、
配列番号13に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号14に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号15に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体;
(b)重鎖可変領域が、
配列番号16に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号17に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸
配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号18に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ
軽鎖可変領域が、
配列番号19に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、
配列番号20に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び
配列番号21に示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の抗体のタンパク質部分をコードする、単離されたDNA。
[7]以下の(c)~(g)の工程を含むことを特徴とする、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDをエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対して感染阻害活性を有する抗SARS-CoV-2抗体の製造方法;
(c)DNA免疫法により、ヒト以外の動物にSARS-CoV-2の任意の型のRBD遺伝子を含む発現ベクターを投与し、当該動物の抗体産生細胞を回収する工程;
(d)工程(c)で回収した抗体産生細胞又はそれを用いて作製したハイブリドーマの中から、工程(c)のDNA免疫法に用いたRBD遺伝子が発現するRBDタンパク質に結合性を有する抗体を分泌する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程;
(e)工程(d)で選択された抗体産生細胞又はハイブリドーマの中から、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に結合性を有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程;
(f)工程(e)で選択した抗体産生細胞又はハイブリドーマの中から、hiVNT法を用いて、ウイルス様粒子が細胞へ侵入することを阻害する効果が高い抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程;並びに
(g)工程(f)で選択された抗体産生細胞又はハイブリドーマを培養し、産生された抗体を回収する工程。
[8]工程(e)において、SARS-CoV-2のオミクロン型に結合性をさらに有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択し、
製造される抗SARS-CoV-2抗体が、SARS-CoV-2のオミクロン型のRBDをエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2のオミクロン型に対して感染阻害活性を有する、[7]に記載の製造方法。
[9]工程(c)において、RBD遺伝子が配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNAを含む、[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10]工程(e)において、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDのアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号1、2、3、4または5で示されるアミノ酸配列を含む、[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]工程(e)において、SARS-CoV-2のオミクロン型のRBDのアミノ酸配列が、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む、[8]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対し感染阻害活性を有する抗体を得ることができる。また、好ましい態様においては、オミクロン型に対しても感染阻害活性を有する抗体を得ることができる。その抗体は、SARS-CoV-2の治療、予防、診断及びSARS-CoV-2の感染メカニズムを解明するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1(3-4)のFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析による、遺伝子を導入していない細胞表面の結果を示す。
【
図2】
図2は、実施例1(3-4)のFACS解析による、遺伝子を導入した細胞表面に局在するRBDの結果を示す。
【
図3】
図3は、実施例2で作製した組み換えRBDの構造を示す。図の左側がN末端、右側がC末端を示す。
【
図4】
図4は、実施例3(4-6)で作製したハイブリドーマの培養上清とビオチン標識したRBDの反応性を示す。
【
図5】
図5は、実施例4(2)の組み換えRBDタンパク質とその変異株を固定化した微粒子を用いた化学発光酵素免疫測定の結果を示す。
【
図6】
図6は、実施例5のhi-VNT法による野生型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図7】
図7は、実施例5のhi-VNT法によるアルファ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図8】
図8は、実施例5のhi-VNT法によるベータ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図9】
図9は、実施例5のhi-VNT法によるガンマ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図10】
図10は、実施例5のhi-VNT法によるデルタ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図11】
図11は、実施例5のhi-VNT法による野生型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図12】
図12は、実施例5のhi-VNT法によるアルファ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図13】
図13は、実施例5のhi-VNT法によるベータ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図14】
図14は、実施例5のhi-VNT法によるガンマ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図15】
図15は、実施例5のhi-VNT法によるデルタ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図16】
図16は、実施例5のhi-VNT法による野生型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図17】
図17は、実施例5のhi-VNT法によるアルファ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図18】
図18は、実施例5のhi-VNT法によるベータ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図19】
図19は、実施例5のhi-VNT法によるガンマ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図20】
図20は、実施例5のhi-VNT法によるデルタ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図21】
図21は、実施例5のhi-VNT法による野生型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図22】
図22は、実施例5のhi-VNT法によるアルファ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図23】
図23は、実施例5のhi-VNT法によるベータ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図24】
図24は、実施例5のhi-VNT法によるガンマ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図25】
図25は、実施例5のhi-VNT法によるデルタ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図26】
図26は、実施例5のhi-VNT法による野生型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図27】
図27は、実施例5のhi-VNT法によるアルファ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図28】
図28は、実施例5のhi-VNT法によるベータ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図29】
図29は、実施例5のhi-VNT法によるガンマ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図30】
図30は、実施例5のhi-VNT法によるデルタ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図31】
図31は、比較例1の生ウイルスに対する野生型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図32】
図32は、比較例1の生ウイルスに対するアルファ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図33】
図33は、比較例1の生ウイルスに対するベータ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図34】
図34は、比較例1の生ウイルスに対するガンマ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図35】
図35は、比較例1の生ウイルスに対するデルタ型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図36】
図36は、比較例1の生ウイルスに対する野生型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図37】
図37は、比較例1の生ウイルスに対するアルファ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図38】
図38は、比較例1の生ウイルスに対するベータ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図39】
図39は、比較例1の生ウイルスに対するガンマ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図40】
図40は、比較例1の生ウイルスに対するデルタ型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図41】
図41は、比較例1の生ウイルスに対する野生型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図42】
図42は、比較例1の生ウイルスに対するアルファ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図43】
図43は、比較例1の生ウイルスに対するベータ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図44】
図44は、比較例1の生ウイルスに対するガンマ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図45】
図45は、比較例1の生ウイルスに対するデルタ型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図46】
図46は、比較例1の生ウイルスに対する野生型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図47】
図47は、比較例1の生ウイルスに対するアルファ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図48】
図48は、比較例1の生ウイルスに対するベータ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図49】
図49は、比較例1の生ウイルスに対するガンマ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図50】
図50は、比較例1の生ウイルスに対するデルタ型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図51】
図51は、比較例1の生ウイルスに対する野生型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図52】
図52は、比較例1の生ウイルスに対するアルファ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図53】
図53は、比較例1の生ウイルスに対するベータ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図54】
図54は、比較例1の生ウイルスに対するガンマ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図55】
図55は、比較例1の生ウイルスに対するデルタ型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図56】
図56は、実施例8のhi-VNT法によるオミクロン型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図57】
図57は、実施例8のhi-VNT法によるオミクロン型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図58】
図58は、実施例8のhi-VNT法によるオミクロン型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図59】
図59は、実施例8のhi-VNT法によるオミクロン型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図60】
図60は、実施例8のhi-VNT法によるオミクロン型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図61】
図61は、比較例2の生ウイルスに対するオミクロン型RBDを用いた時のREGN10933抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図62】
図62は、比較例2の生ウイルスに対するオミクロン型RBDを用いた時のREGN10987抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図63】
図63は、比較例2の生ウイルスに対するオミクロン型RBDを用いた時のm6抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図64】
図64は、比較例2の生ウイルスに対するオミクロン型RBDを用いた時のm17抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図65】
図65は、比較例2の生ウイルスに対するオミクロン型RBDを用いた時のm18抗体の感染阻害活性の結果を示す。
【
図66】
図66は、実施例10(2)の野生型RBD又はオミクロン/BA.1型RBDを固定化した微粒子を用いた化学発光酵素免疫測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「抗SARS-CoV-2抗体」は、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型の各RBDをエピトープとして認識し結合し、かつSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に対して宿主細胞への感染を阻害する活性を有する、単離された抗体であり、いわゆる中和抗体である。その中でもさらにSARS-CoV-2のオミクロン型のRBDをもエピトープとして認識し、かつSARS-CoV-2のオミクロン型に対しても感染阻害活性を有する抗体が好ましい。なお、本発明の抗SARS-CoV-2抗体がエピトープとして認識し結合するのは、各RBDの全体又は部分であって良く、通常は部分である。
本発明の抗SARS-CoV-2抗体は、抗血清、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であってよい。好ましくはモノクローナル抗体である。
本明細書において「単離された」とは、生体内に存在するものではないことを意味する。例えば、ある個体で産生され、該個体内に存在する状態の抗体は含まれない。
【0013】
本明細書において抗体とは特に限定は無く、インタクト(全長)の抗体でもよく、また
エピトープへの結合性を有する限りそのフラグメントであってもよい。
例えば、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合で相互に連結された2本の重(H)鎖、および2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子があげられる。
重鎖はそれぞれ、重鎖可変(VH)領域および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2およびCH3)を含む。重鎖定常領域は、IgG(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4)、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgE、IgM、IgDのいずれの定常領域であってもよい。
軽鎖はそれぞれ、軽鎖可変(VL)領域および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)で構成される。軽鎖定常領域は、κまたはλであってよい。
VH領域およびVL領域はさらに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域と、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる高度に保存された領域とに分類される。CDRの定義は、Kabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest 第5版)、Chothia、AbM、contactの定義が最も一般的に使用されており、本明細書中のCDRはKabatの定義に基づいている。VH領域およびVL領域はそれぞれ、3つのCDRおよび4つのFRで構成されており、これらはアミノ末端からカルボキシ末端への方向でFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番で配置されている。
【0014】
なお本発明の抗体はマウス、ラット、ヒト、ウサギ、トリ、ヤギ等由来の抗体でもよく、由来する動物種に限定されるものではない。またCDRを保存しFRを別の動物由来のアミノ酸残基に変更した改良抗体や、一つの抗体分子の中に二つの特異性を有する二重特異性抗体などであってもよい。さらにラクダ科動物由来の重鎖のみからなるVHH抗体であってもよい。
【0015】
一方、抗体のフラグメントの例としては、
(i)Fabフラグメント:VL領域、VH領域、CL1ドメインおよびCH1ドメインからなるフラグメント
(ii)F(ab’)2フラグメント:ヒンジ領域においてジスルフィド架橋で連結された2つのFabフラグメントを含むフラグメント
(iii)Fdフラグメント:VH領域およびCH1ドメインからなるフラグメント
(iv)Fvフラグメント:抗体の単一のアームのVL領域およびVH領域からなるフラグメント
が挙げられる。このうち(iv)Fvフラグメントの2つの領域であるVL領域およびVH領域は通常別々の遺伝子によってコードされているが、VL領域とVH領域とが対をなし、かつ合成リンカーを介して両領域が結合した態様(単鎖Fv(scFv))を遺伝子組換え技術を用いて作製してもよい。
【0016】
本発明の抗体は、サブクラス(例えばヒトであれば4種類:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が存在)による限定は特になく、例えば、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)や補体依存性細胞傷害活性(CDC)の必要性に応じ、適宜選択すればよい。ADCCやCDCで目的細胞を死滅させることを目的とした抗体を作製する場合はADCCやCDCが高くなるサブクラスを選択すればよく、またADCCやCDCが不要な抗体を作製する場合はADCCやCDCが低くなるサブクラスを選択すればよい。なお抗体におけるADCCやCDCの増強または減少は、抗体の定常領域のアミノ酸残基を置換および、抗体に付加する糖鎖を変更することで行なってもよい。
【0017】
本発明の抗体の好ましい態様として、抗体の重鎖CDR1~3、軽鎖CDR1~3が、それぞれ以下に示すアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。
重鎖CDR1~3の何れか1つ:配列番号10又は配列番号16に記載のアミノ酸配列
重鎖CDR1~3の他の何れか1つ:配列番号11又は配列番号17に記載のアミノ酸配列
重鎖CDR1~3の他の何れか1つ:配列番号12又は配列番号18に記載のアミノ酸配列
軽鎖CDR1~3の何れか1つ:配列番号13又は配列番号19に記載のアミノ酸配列
軽鎖CDR1~3の何れか1つ:配列番号14又は配列番号20に記載のアミノ酸配列
軽鎖CDR1~3の何れか1つ:配列番号15又は配列番号21に記載のアミノ酸配列
【0018】
本発明の抗体のより好ましい態様として、抗体の重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3が、それぞれ以下に示すアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。
重鎖CDR1:配列番号10又は配列番号16に記載のアミノ酸配列
重鎖CDR2:配列番号11又は配列番号17に記載のアミノ酸配列
重鎖CDR3:配列番号12又は配列番号18に記載のアミノ酸配列
軽鎖CDR1:配列番号13又は配列番号19に記載のアミノ酸配列
軽鎖CDR2:配列番号14又は配列番号20に記載のアミノ酸配列
軽鎖CDR3:配列番号15又は配列番号21に記載のアミノ酸配列
【0019】
本発明の抗体として別の好ましい態様としては以下の(a)又は(b)である;
(a)重鎖可変領域が配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ軽鎖可変領域が配列番号13に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体、
(b)重鎖可変領域が配列番号16に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、配列番号17に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含み、かつ軽鎖可変領域が配列番号19に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域、及び配列番号21に示されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域を含む抗体。
【0020】
また本発明の抗体のさらに好ましい態様として、抗体の重鎖CDRおよび軽鎖CDRのアミノ酸配列が、以下の(A)、(B)のいずれかである抗体が挙げられる。
(A)重鎖CDR1が配列番号10に、重鎖CDR2が配列番号11に、重鎖CDR3が配列番号12に、軽鎖CDR1が配列番号13に、軽鎖CDR2が配列番号14に、及び軽鎖CDR3が配列番号15に、それぞれ記載のアミノ酸配列を含む。
(B)重鎖CDR1が配列番号16に、重鎖CDR2が配列番号17に、重鎖CDR3が配列番号18に、軽鎖CDR1が配列番号19に、軽鎖CDR2が配列番号20に、及び軽鎖CDR3が配列番号21に、それぞれ記載のアミノ酸配列を含む。
ここで前者(A)としては、例えば後述の実施例で得られた抗体m6があげられ、後者(B)としては、例えば抗体m17があげられる。
【0021】
なお、本発明の抗体は、前述したRBDへの結合能を有している限り、前記例示したアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加が生じていてもよい。具体的には、抗体の重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2および軽鎖CDR3のアミノ酸配列は、前記例示したアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってよい。
前記同一性については、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ロー
カルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算して算出することができる。
また、前記「複数個」とは、例えば2個、3個、又は4個であってよい。
【0022】
前記アミノ酸の置換は、保守的置換が好ましい。「保守的置換」とは、抗体の機能特性(活性)を実質的に改変しないように、アミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることである。
例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合等が挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸の例として、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等が挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等が挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
また、互いに置換することができるアミノ酸残基の他の例として、バリン-ロイシン-イソロイシン間の置換、フェニルアラニン-チロシン間の置換、リシン-アルギニン間の置換、アラニン-バリン間の置換、グルタミン酸-アスパラギン酸間の置換、アスパラギン-グルタミン間の置換、なども挙げられる。
【0023】
また本発明の抗体の別の態様として、抗体の重鎖および/または軽鎖のCDR以外のアミノ酸配列を、ヒト以外の動物に由来する抗体のアミノ酸配列からヒトに由来する抗体のアミノ酸配列へと変更させた抗体(ヒト化抗体)が挙げられる。抗体のアミノ酸配列全体におけるヒト抗体のアミノ酸配列の割合を増加させることにより、当該抗体をヒト体内に適用した際に異物として排除されにくくなるというメリットが得られる。
【0024】
また本発明の抗体の別の好ましい態様として、抗体の軽鎖可変(VL)領域のアミノ酸配列が、少なくとも配列番号8又は9に記載のアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。これらは後述の実施例で得られる抗体m6とm17にそれぞれ相当する。
また本発明の抗体のさらに別の好ましい態様として、抗体の重鎖可変(VH)領域のアミノ酸配列が、少なくとも配列番号6又は7に記載のアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。これらは後述の実施例で得られる抗体m6とm17にそれぞれ相当する。
【0025】
さらに本発明の抗体は、CDR以外の領域についても前述したアミノ酸配列に限定されるものではなく、前述した保守的アミノ酸置換体も本発明の抗体に含まれる。
【0026】
また本発明の抗SARS-CoV-2抗体は、修飾することができる。ここでいう修飾は、本発明の抗体のRBDとの特異的結合活性を向上させるための修飾(例えば、グリコシル化)、及び本発明の抗体を検出する上で必要な標識のいずれをも含む。
【0027】
上記抗体標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
【0028】
また、本発明の抗体のグリコシル化は、SARS-CoV-2に対する抗体の親和性を調整するために行われてもよい。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の一以上のグリコシル化部位を変更することで達成できる。より具体的に説明すると、例えば、FR内の一以上のグリコシル化部位を構成するアミノ酸配列に一以上のアミノ酸置換を
導入して該グリコシル化部位を除去することにより、その部位のグリコシル化を喪失させることができる。このような脱グリコシル化は、SARS-CoV-2に対する抗体の親和性を増加させる上で有効である(米国特許第5714350号、及び同第6350861号)。
【0029】
本発明の抗SARS-CoV-2抗体は、野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型RBDとの解離定数が、5.0×10-9M以下、好ましくは1.0×10-9M以下、より好ましくは5.0×10-10M以下、1.0×10-10M以下、5.0×10-11M以下、1.0×10-11M以下、5.0×10-12M以下又は1.0×10-12M以下の高い親和性を有することが好ましい。また、本発明の抗SARS-CoV-2抗体は、オミクロン型RBDとの解離定数も上述と同様の高い親和性を有することが好ましい。上記解離定数は、当該分野で公知の技術を用いて測定することができる。例えば、Octetシステム(ザルトリウス社)により速度評価キットソフトウェアを用いて測定してもよい。
【0030】
「SARS-CoV-2の感染」とは、SARS-CoV-2が宿主細胞の細胞表面に結合し、宿主細胞内で増殖された後、細胞外に放出されるまでの過程をいう。したがって、本明細書において「SARS-CoV-2の感染の阻害」とは、SARS-CoV-2の感染の上記一連の過程のうち少なくとも一つを阻害又は抑制することをいう。好ましくは、SARS-CoV-2が宿主細胞の細胞表面のウイルス受容体に結合する経路及び/又は宿主細胞内にHCVゲノムが侵入する経路を阻害することである。
【0031】
また、本明細書はSARS-CoV-2との結合において本発明の抗SARS-CoV-2抗体と競合する抗体(競合抗体)をも提供する。ここで「競合する」とは、本発明の抗SARS-CoV-2抗体が結合するSARS-CoV-2上の部位と、競合抗体が結合するSARS-CoV-2上の部位とが同一であること、又は本発明の抗SARS-CoV-2抗体と競合抗体とが互いにSARS-CoV-2との結合の立体的障害となるSARS-CoV-2上の部位に結合することを意味する。すなわち、本発明における「競合抗体」は、本発明の抗SARS-CoV-2抗体と完全に又は部分的に同一のエピトープを認識する。
通常、かかる競合は、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型、及びデルタ型のいずれに対しても生じる。また、かかる競合は、SARS-CoV-2のオミクロン型に対しても生じることが好ましい。
また、競合抗体には、前述した「フラグメント」が含まれてよい。
【0032】
競合抗体を同定するには、当技術分野で通常用いられている競合アッセイが使用されてよい。例えば、競合抗体が過剰に存在する場合、本発明の抗SARS-CoV-2抗体のSARS-CoV-2に対する結合を少なくとも10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、又はそれ以上阻止する(例えば、低減させる)。
このような競合アッセイは、当業者であれば固相又は液相の系での結合測定を適宜選択して行うことが可能であり、そのような方法としてはELISA法、EIA法、表面プラズモン共鳴法、FRET法、LRET法等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
また、そのような抗原抗体結合を測定する際に、抗体等及び/又は抗原(SARS-CoV-2又はそのRBD)を酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素等で標識を行い、その標識した物質の物理的及び/又は化学的特性に適した測定方法を用いて抗原抗体反応を検出することも可能である。
【0033】
さらに本明細書は、本発明の抗SARS-CoV-2抗体、又はSARS-CoV-2との結合において前記抗体と競合する抗体の、タンパク質部分をコードする単離されたDNAをも提供する。
当技術分野の当業者であれば、本発明の抗SARS-CoV-2抗体のアミノ酸配列に基づいて、そのタンパク質部分をコードするDNA配列を定法により設計することができる。また、これを用いて公知の遺伝子工学的手法により公知の操作をすることができる。
【0034】
本発明の抗SARS-CoV-2抗体は、前述のように工程(c)~(g)を含む方法によって製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0035】
工程(c)は、DNA免疫法により、ヒト以外の動物にSARS-CoV-2のRBD遺伝子を含む発現ベクターを投与し、当該動物の抗体産生細胞を回収する工程である。このとき、RBD遺伝子は通常はSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型から選択される任意の1つの型のものであり、好ましくはSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型、デルタ型及びオミクロン型から選択される任意の1つの型のものである。また、RBD遺伝子は配列番号1~5、31の何れかで示されるアミノ酸配列をコードするDNAを含むことが好ましく、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするDNAを含むことがより好ましい。DNA免疫にて液性免疫を効果的に誘導するためには、対象抗原タンパク質を膜結合型タンパク質として細胞表面上に局在させるのが好ましい。RBDは本来分泌タンパク質であるため、RBDを細胞表面上に局在させることが好ましい。
【0036】
工程(d)は、工程(c)で回収した抗体産生細胞又はそれを用いて作製したハイブリドーマの中から、工程(c)のDNA免疫法に用いたRBD遺伝子が発現するRBDタンパク質に結合性を有する抗体を分泌する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程である。
選択の方法は、公知の方法を適宜採用することができ、例えばDNA免疫法に用いたRBD遺伝子が発現するSARS-CoV-2のRBDタンパク質を固相に固定化し、それに対して結合性を有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを、イムノアッセイにより選択することができる。またハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、DNA免疫法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地により所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行ない、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりモノクローン化を行なうことで、所望のRBDタンパク質に結合性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0037】
工程(e)は、工程(d)で選択された抗体産生細胞又はハイブリドーマの中から、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に結合性を有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程である。選択の方法は、公知の方法を適宜採用することができ、例えばSARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDタンパク質に結合性を有する抗体を選択することにより行うことができ、具体的には前記RBDタンパク質を固相にそれぞれ固定化し、それらに対して結合性を有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを、イムノアッセイにより選択することにより行うことができる。
工程(e)において、SARS-CoV-2の野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDのアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号1~5で示されるアミノ酸配列のいずれかを含むことが好ましい。より具体的には、SARS-CoV-2の野生型のRBDは配列番号1に、アルファ型のRBDは配列番号2に、ベータ型のRBDは配列番号3に、ガンマ型のRBDは配列番号4に、デルタ型のRBDは配列番号5に示される
アミノ酸配列を含むことが好ましい。
また工程(e)において、さらにSARS-CoV-2のオミクロン型に結合性を有する抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択することが好ましい。選択の方法は上述と同様に行うことができる。このとき使用するSARS-CoV-2のオミクロン型のRBDは、配列番号31に示されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0038】
工程(f)は、工程(e)で選択した抗体産生細胞又はハイブリドーマの中から、hiVNT法を用いて、ウイルス様粒子が細胞へ侵入することを阻害する効果が高い抗体を産生する抗体産生細胞又はハイブリドーマを選択する工程である。このhi-VNT法は、相互作用することによってNanoLuc発光酵素が形成されるHiBiTタグとLgBiTを用いた測定方法で、HiBiTタグをもつSARS-CoV-2スパイクタンパク質(hi-VLP)が表面に露出したウイルス様粒子が、LgBiTを安定的に発現するVeroE6/TMPRSS2細胞に侵入した量を容易に定量できる方法である(参考文献1:K. Miyakawa et al., Journal of Molecular Cell Biology, Volume 12, Issue 12, December 2020, Pages 987-990)。ウイルス様粒子が細胞に
侵入する際に、抗体を反応系に同時に添加することにより、抗体の侵入阻害活性を評価することができる。
【0039】
工程(g)は、工程(f)で選択された抗体産生細胞又はハイブリドーマを培養し、産生された抗体を回収する工程である。培養・回収の方法は公知の方法を採用することができる。
【0040】
なお、本発明の抗SARS-CoV-2抗体はタンパク質であることから、遺伝子組換えの手法により製造することもできる。例えば、これらタンパク質をコードするポリヌクレオチドをそのまま宿主細胞に導入しても製造することができ、またプロモーターやシグナルペプチドを含む発現ベクターにクローニングし、当該ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を培養することで製造することもできる。抗体や低分子化抗体をコードするポリヌクレオチドを設計する際は、形質転換させる宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌(Escherichia
coli)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。前記宿主細胞には特に限定はなく、一例として、哺乳動物細胞(CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HEK細胞、Hela細胞、COS細胞等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces octosporus、Schizosaccharomyces pombe等)、昆虫細胞(Sf9、Sf21等)、大腸菌(JM109株、BL21(DE3)株、W3110株等)や枯草菌(Bacillus subtilis、Bacillus brevis)が挙げられる。中でも、抗体分子を発現させる場合は哺乳動物細胞が好ましく、CHO細胞が特に好ましい。
【0041】
前記発現ベクターは、宿主に応じたプロモーターやシグナルペプチドを含んでいればよい。一例をあげると、哺乳動物を宿主として用いた場合、CMVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターが例示でき、さらに各種分泌
タンパク質に付加されているシグナルペプチドを組合せればよい。また宿主細胞に大腸菌を用いる場合にはT7プロモーター、trcプロモーター、lacプロモーターなどが例示でき、シグナルペプチドはPelB、DsbA、MalEおよびTorTが例示できる。また発現タンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入された宿主細胞を選択するために、必要であれば抗生物質のような薬剤マーカーを前記発現ベクターに導入してもよい。さらにCHO細胞で高発現細胞株を作製するときに行なわれる遺伝子増幅のためのマーカー(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)遺伝子)を前記発現ベクターに含んでいてもよい。
【0042】
形質転換体を培養することで発現した抗体は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどを組み合わせることで、前記形質転換体の培養物から精製・回収することができる。
【0043】
RBDを認識する抗体は、RBDそのもの、RBDの部分領域からなるオリゴペプチド、スパイクタンパク質またはその部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することでも得ることができる。
免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いるヒト以外の哺乳動物でもよく、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。
【実施例0044】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を具体的に説明するための例示であり、本発明の技術範囲を制限するものではない。
【0045】
<実施例1> DNA免疫用ベクターの構築
SARS-CoV-2野生型RBDのC末端側にGPI(glycosylphosphatidylinositol)アンカーを付加したタンパク質(以下、GPIアンカー型RBD)を発現可能なプラスミドベクターを構築した。
【0046】
(1)下記(a)のプライマーを用いて、野生型のRBDとアルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDの各cDNA(それぞれ配列番号22~26)のポリヌクレオチドを、常法に従いRT-PCR法により増幅した。
(a)GPIアンカー型RBD発現プラスミド用プライマー
Forward:配列番号27
5’-cgatgacgacaagcttcgcgttcaaccaac-3’
Reverse:配列番号28
5’-catcagtggtgaattcgaaattgacacatt-3’
【0047】
(2)Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカーのコード領域とFLAGタグのコード領域を含むプラスミドpFLAG1(SIGMA社製)のHindIII-EcoRI部位に、In-fusion(Clonetech社製)を用いて、プロトコルに従い、(1)で得られたRT-PCR増幅産物を挿入し、N末端側にFLAGタグペプチドが、C末端側にGPIアンカーがそれぞれ付加されたGPIアンカー型RBDの発現プラスミドを構築した。
【0048】
(3)(2)で構築した発現プラスミドに挿入されているポリヌクレオチドにより発現されるRBDが、想定通り細胞表面に局在していることを確認するために、一過性発現細胞である293T細胞株を用い、下記の方法で検証した。
(3-1)(2)で構築したGPIアンカー型RBD発現プラスミドを常法に従い293T細胞株へ導入した。
(3-2)前記発現プラスミドが導入された293T細胞株を、5%CO2インキュベータにて、10%FCS添加ERDF培地(極東製薬社製)を用いて、24時間・37℃で培養し、RBDを一過性発現させた。
(3-3)(3-2)で得られた培養細胞に、FLAGタグと特異的に結合するSIGMA社製マウス抗FLAG M2抗体を添加し、30分静置した。
(3-4)静置後、蛍光標識した抗マウスIgG抗体(BECKMAN COULTER社製)を添加し、さらに30分間静置後、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)解析を行なった。なお、陰性対照として遺伝子導入をしていない293T細胞株培養液を用いて同様な解析を行なった。
【0049】
FACS解析の結果を
図1及び
図2に示す。解析の結果、陰性対照である遺伝子導入をしていない場合(
図1)は蛍光標識された細胞によるシグナルの増加、いわゆるシフトが認められなかった。一方、GPIアンカー型RBD発現プラスミドを導入した場合(
図2)は蛍光標識された細胞によるシフトが認められた。本結果より、発現したFLAGタグペプチドを付加したGPIアンカー型RBDが細胞表面上に局在していることが示された。
【0050】
<実施例2> RBDタンパク質の調製
各種組換RBDの発現評価及び精製工程のため、5’末端にStrep-tagII及びFLAGタグを、3’末端にBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端側7アミノ酸からなるBNCペプチド(特開2009-240300号公報)をそれぞれコードするオリゴヌクレオチドをさらに挿入した、分泌型の野生型RBD又はアルファ型、ベータ型、ガンマ型若しくはデルタ型RBDを発現可能なプラスミドを調製した。作製した各種組換えRBDの構造を
図3に、具体的な調製方法を以下に示す。
【0051】
(1)RBDのcDNAから設計した下記(a)のプライマーを用いて、野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型のRBDに相当する各ポリヌクレオチドを、常法に従いRT-PCR法により増幅した。
(a)FLAG、BNCペプチド融合RBD発現プラスミド用プライマー
Forward:配列番号29
5’-cgatgacgacaagcttcgcgttcaaccaac-3’
Reverse:配列番号30
5’-cagaactttgcagatatcgaaattgacacatt-3’
【0052】
(2)Placental Alkaline phosphataseのGPIアンカー領域を含むプラスミドpFLAG1(SIGMA社製)のHindIII-EcoRV部位に、In-fusion(Clonetech社製)を用いて、プロトコルに従い、(1)のRT-PCR増幅産物を挿入し、各種分泌型RBD発現プラスミドを構築した。
【0053】
(3)常法に従い、(2)で構築した各種分泌型RBD発現プラスミドをExpi293F細胞株(サーモフィッシャーサイエンティフィック)により一過性に発現した。培養1週間後の培養液を遠心分離し、上清を各種分泌型RBD溶液として回収した。
【0054】
(4)(3)の回収物を配列のN末端側にあるStrep-IIタグ(IBA社製)を利用し、市販の精製キット(IBA社製)で各種のRBDのみを精製した。
【0055】
(5)ビオチン標識した各種RBDは、(4)の精製物から市販のビオチン標識キット(同仁化学,biotin labeling Kit-NH2)を用いて,作製した。
【0056】
<実施例3>DNA免疫法によるモノクローナル抗体作製
(1)<実施例1>で作製した野生型RBD遺伝子を挿入したプラスミドベクターをDNA量として100μg含むように100μLのPBS溶液にて調製し、それをWistarラットに投与することで、Wistarラットを免疫した。
【0057】
(2)初回の免疫から2日後、5日後、7日後、9日後、16日後、23日後、30日後にプラスミドを投与した後、ラットの鼠径部リンパ節及び腸骨リンパ節を採取し、B細胞を回収した。
【0058】
(3)電気融合法により(2)のB細胞とマウスミエローマ細胞(sp2/0)を融合させ、ハイブリドーマを作製した。
【0059】
(4)実施例2で作製したビオチン標識した野生型RBDを用い、反応性を示すクローンを選択した。具体的には下記に示す方法で実施した。
(4-1)Streptavidin(富士フィルム和光純薬社製)50ng(1μg/mL溶液50μL)を384穴イムノプレート(グライナー社製)に添加し、室温で1時間放置した。
(4-2)続いてTBST(0.05%Tween 20を含むTBS)により3回の洗浄後、1%のBSAを含むPBS溶液を80μL/ウェルにて各ウェルに添加し、4℃にて一昼夜保存、コーティングした。
(4-3)TBSTにより1回洗浄を行い、実施例2で作製したビオチン標識したRBD(但し、免疫に用いたRBD遺伝子が発現するRBDタンパク質に相当するもの)(1μg/mL溶液)を50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
【0060】
(4-4)TBSTにより3回洗浄を行い、ハイブリドーマ細胞の培養上清を50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
(4-5)TBSTにより3回洗浄を行なった後、ALP標識抗ラットイムノグロブリン抗体(10000倍希釈、Merck社製)およびTBSTを50μL/ウェルにて添加し、室温で1時間放置した。
(4-6)TBSTにより3回洗浄を行ない、ALPの基質である4-メチルウンベリフェリルリン酸(4-MUP)を50μL/ウェルにて添加し、蛍光強度を測定することで検出し、目的のクローンを選択した。
図4にその結果を示す。
(4-7)スクリーニング陽性ウェル中の細胞を限界希釈法によりモノクローナル化を行いハイブリドーマ1,2,4,6,8,12,17,18,22,27,28,31として樹立した。
【0061】
(5)得られたハイブリドーマを、HT培地により約10日間の培養を行った後、最終的にハイブリドーマ用培地により培養を続けた。ハイブリドーマ細胞培養培地は、10%FCS添加ERDF培地(極東製薬社製)を用いた。また、前記培地にHAT(Sigma)を添加したものをHAT培地として、HT(Sigma)を添加したものをHT培地としてそれぞれ用いた。
【0062】
(6)(5)の培養上清を回収し、MonoSpin ProG(ジーエルサイエンス株式会社製)による精製によって、ハイブリドーマ1,2,4,6,8,12,17,18,22,27,28,31からそれぞれモノクローナル抗体m1、m2、m4、m6、m8、m12、m17,m18、m22、m27、m28、m31を回収した。
【0063】
<実施例4>抗体のRBDに対する結合活性の測定
結合活性の評価は全自動化学発光酵素免疫測定装置(AIA-CL2400、東ソー(株)製)を用いて以下の方法で行った。
【0064】
(1)試薬カップの作製
2つのセルを有するカップを用いて、自動分析に用いる試薬カップを作製した。(以下、中身に即して、カップの一方のセルを微粒子側のセル、他方のセルをコンジュゲート側のセルと呼ぶ。)
配列番号1~5の野生型RBD、アルファ型、ベータ型、ガンマ型又はデルタ型を固定化した微粒子を含む溶液を微粒子側のセルに分注した。コンジュゲート側のセルには、アルカリフォスファターゼ標識したモノクローナル抗体m1、m2、m4、m6、m8、m12、m17,m18、m22、m27、m28又はm31と溶液を凍結乾燥し、アルミシールをし、抗体結合活性測定用試薬カップとした。
【0065】
(2)測定
全自動化学発光酵素免疫測定装置(AIA-CL2400、東ソー(株)製)に(1)で作製した抗体結合活性測定用試薬カップをセットし、30μLの希釈液を試薬カップの微粒子側のセルに分注し、5分間反応(一次反応)させた後、洗浄液による洗浄(B/F分離)を行い、次に希釈液で溶解したコンジュゲート側のセルの試薬(50μL)を微粒子側のセルに移し反応させた(二次反応、3分間)。二次反応の終了後、二回目の洗浄を行った。その後、酵素の基質を添加し、発光強度を測定した。結果を
図5に示す。
図5は野生型RBDへの抗体価に対する変異型RBDへの抗体価の比率を示したグラフである。
図5から明らかなように、抗体m6、m17、m18が野生型及び前記4種のどの変異型のRBDに対しても親和性が高いと評価された。
【0066】
<実施例5>hi-VNT法による抗体の感染阻害活性の測定
(1)細胞の継代とプラスミドの構築、hiVNT-SARS2による侵入量の定量
細胞の調製、プラスミドの構築、hiVNT法を用いた中和活性測定は、公知の方法に準じて行った(前記参考文献1)。抗体m6、m17、m18の細胞への感染阻害活性の測定を、各種RBD(配列番号1(野生型)、2(アルファ型)、3(ベータ型)、4(ガンマ型)及び5(デルタ型))を用いて行った。抗体の対照群として非特許文献1に記載のCasirivimab(REGN10933)、imedevimab(REGN10987)を用いた。
【0067】
図6~30に、対照の抗体としてREGN10933、及びREGN10987の、並びに取得抗体であるm6、m17、及びm18の、hi-VNT法を用いた細胞への阻害活性のグラフを示す。図から明らかなように、m6、m17が野生型及び前記4種のどの変異型のRBDに対しても細胞への感染阻害活性があると評価された。
【0068】
<比較例1>生ウイルスによる抗体の感染阻害活性の測定
生ウイルスによる抗体の感染阻害活性の測定は公知の方法に準じて行った(前記参考文献1)。これは野生型SARS-CoV-2のVeroE6/TMPRSS2細胞への感染と同時に、希釈系列を作製したm6、m17、又はm18抗体を添加することにより、抗体の感染阻害活性を定量する方法である。各RBD(配列番号1、2、3、4及び5)を用いて測定を行った。抗体の対照群として実施例5と同様にREGN10933、REGN10987を用いた。
【0069】
図31~55に対照抗体REGN10933、REGN10987、及び取得抗体であるm6、m17、m18の生ウイルスを用いた細胞への阻害活性のグラフを示す。図から明らかなように、m17が野生型及び前記4種のどの変異型のRBDに対しても細胞への感染阻害活性があると評価された。さらにm6がベータ型とデルタ型のRBDに対して細胞への感染阻害活性があると評価された。
【0070】
<実施例6>中和力価(NT50)の計算
実施例5及び比較例1における、NT50の計算は以下の計算式に従った。
【0071】
【0072】
なお、RLUとは、相対発光量(Relative Light Unit)である。表1に実施例5により算出されたNT50を、表2に比較例1により算出されたNT50の結果を示す。
【0073】
【0074】
【0075】
以上の結果から、抗体m6はベータ型とデルタ型に対して、抗体m17はどの型に対しても高い中和活性のある抗体であることが明らかとなり、実施例1~5に記載の抗体の製造方法により、SARS-CoV-2野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型の感染阻害活性を持つ抗体を取得することが示された。
【0076】
<実施例7>モノクローナル抗体m6、m17の遺伝子配列
(1)実施例3にて取得したモノクローナル抗体m6、m17の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の遺伝子配列を以下の方法により決定した。
(1-1)抗体のサブクラス
それぞれの抗体のハイブリドーマの培養上清を用いて、RAT MONOCLONAL
ANTIBODY ISOTYPING TEST KIT(BIO-RAD製)により、抗体のサブクラスを確認した。アイソタイプの解析の結果、すべての抗体がH鎖がIgG2b、L鎖がκであることが示された。
(1-2)遺伝子配列の解析結果をもとに、m6、m17の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の遺伝子配列を特定した(syd Labs社に委託)。m6の翻訳した重鎖可変領域、軽鎖可変領域をそれぞれ配列番号6、8に、m17の翻訳した重鎖可変領域、軽鎖可
変領域をそれぞれ配列番号7、9に示す。
【0077】
<実施例8>hi-VNT法によるオミクロン/BA.1変異株に対する抗体の感染阻害活性の測定
実施例5と同様の方法によって細胞の調製、プラスミドの構築、hi-VNT法を用いた測定を行った。具体的には、抗体m6、m17、m18の感染阻害活性の測定を、オミクロン/BA.1変異株のRBD(配列番号31)を用いて行った。抗体の対照群として非特許文献1に記載のCasirivimab(REGN10933)、imedevimab(REGN10987)を用いた。
【0078】
図56~60に、対照の抗体としてREGN10933、及びREGN10987の、並びに取得抗体であるm6、m17、及びm18の、hi-VNT法を用いた細胞への阻害活性のグラフを示す。図から明らかなように、m6、m17がオミクロン/BA.1変異株のRBDに対して細胞への感染阻害活性があると評価され、m18は細胞への感染阻害活性はあるもののかなり低いと評価された。
【0079】
<比較例2>生ウイルスによるオミクロン/BA.1変異株に対する抗体の感染阻害活性の測定
比較例1と同様の方法によって、生ウイルスによる抗体の感染阻害活性の測定を行った。抗体m6,m17、m18の感染阻害活性の測定を、オミクロン/BA.1変異株のRBD(配列番号31)を用いて行った。抗体の対照群として実施例5と同様にREGN10933、REGN10987を用いた。
【0080】
図61~65に対照抗体REGN10933、REGN10987、及び取得抗体であるm6、m17、m18の生ウイルスを用いた細胞への阻害活性のグラフを示す。図から明らかなように、m6とm17がオミクロン/BA.1変異株のRBDに対して細胞への感染阻害活性があると評価された。
【0081】
<実施例9>中和力価(NT50)の計算
実施例8及び比較例2における、NT50の計算は実施例6と同様の方法によって行った。
表3に実施例8により算出されたNT50を、表4に比較例2により算出されたNT50の結果を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
以上の結果から、抗体m6、m17はオミクロン/BA.1変異株に対しても中和活性のある抗体であることが明らかとなり、実施例1~5に記載の抗体の製造方法により、SARS-CoV-2オミクロン/BA.1変異株の感染阻害活性を持つ抗体を取得することが示された。
【0085】
<実施例10>抗体のオミクロン/BA.1型RBDに対する結合活性の測定
結合活性の評価は全自動化学発光酵素免疫測定装置(AIA-CL2400、東ソー(株)製)を用いて以下の方法で行った。
【0086】
(1)試薬カップの作製
2つのセルを有するカップを用いて、自動分析に用いる試薬カップを作製した。(以下、中身に即して、カップの一方のセルを微粒子側のセル、他方のセルをコンジュゲート側のセルと呼ぶ。)
野生型RBD(配列番号1)又はオミクロン/BA.1型RBD(配列番号31)を固定化した微粒子を含む溶液を微粒子側のセルに分注した。コンジュゲート側のセルには、アルカリフォスファターゼ標識したモノクローナル抗体m1、m2、m4、m6、m8、m12、m17,m18、m22、m27、m28又はm31と溶液を凍結乾燥し、アルミシールをし、抗体結合活性測定用試薬カップとした。
【0087】
(2)測定
全自動化学発光酵素免疫測定装置(AIA-CL2400、東ソー(株)製)に(1)で作製した抗体結合活性測定用試薬カップをセットし、30μLの希釈液を試薬カップの微粒子側のセルに分注し、5分間反応(一次反応)させた後、洗浄液による洗浄(B/F分離)を行い、次に希釈液で溶解したコンジュゲート側のセルの試薬(50μL)を微粒子側のセルに移し反応させた(二次反応、3分間)。二次反応の終了後、二回目の洗浄を行った。その後、酵素の基質を添加し、発光強度を測定した。
【0088】
結果を
図66に示す。
図66は野生型RBDへの抗体価に対するオミクロン/BA.1型RBDへの抗体価の比率を示したグラフである。
図66から明らかなように、抗体m6、m17はオミクロン/BA.1型のRBDに対しても親和性があることが明らかとなった。
本発明のSARS-CoV-2野生型、アルファ型、ベータ型、ガンマ型及びデルタ型に感染阻害活性を有する抗体は、SARS-CoV-2感染の治療及び予防用の医薬として使用することができる。