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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121772
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】機能層付き基体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/02 20060101AFI20230824BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20230824BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20230824BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
B32B3/02
C03C17/34 Z
C03C21/00 101
G09F9/00 302
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098581
(22)【出願日】2023-06-15
(62)【分割の表示】P 2019007026の分割
【原出願日】2019-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】猪口 哲郎
(57)【要約】
【課題】端部が不均一に変色することを低減する。
【解決手段】第1の主面と第2の主面を有する基体の第1の主面および端部に機能層を形成する製造方法であって、上記基体の第2の主面の少なくとも一部に、炭素含有材料を含む粘着層を有する樹脂基体を貼合する工程と、乾式成膜法によって機能層を形成する工程とを備え、上記粘着層を有する樹脂基体の外周の少なくとも一部が、上記基体の外周よりも外側に位置するように貼合され、上記粘着層を有する樹脂基体は、上記基体の外周より内側の領域の少なくとも一部に、切れ込みまたは開口部を有する、機能層付き基体の製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と第2の主面を有する基体の第1の主面および端部に機能層を形成する製造方法であって、前記基体の第2の主面の少なくとも一部に、ポリウレタン系粘着剤、アクリル系粘着剤およびシリコーン系粘着剤からなる群より選択される少なくとも1つの粘着剤を含む粘着層を有する樹脂基体を貼合する工程と、乾式成膜法によって機能層を形成する工程とを備え、前記粘着層を有する樹脂基体の外周の少なくとも一部が、前記基体の外周よりも外側に位置するように貼合され、前記粘着層を有する樹脂基体は、前記基体の外周より内側の領域の少なくとも一部に、切れ込みまたは開口部を有する、機能層付き基体の製造方法。
【請求項2】
前記切れ込みまたは開口部の少なくとも一つは、前記基体の外周から内側に0.5mm以上25mm以下の位置にある、請求項1に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項3】
前記切れ込みまたは開口部はミシン目状である、請求項1または2に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項4】
前記ミシン目の周期が5mm以上20mm以下であり、前記ミシン目の周期中の切れ込みの割合が30%以上80%以下である、請求項3に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項5】
乾式成膜法として蒸着法を用い、機能層として、密着層または防汚層を形成する、請求項1~4のいずれかに記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項6】
前記蒸着法は、加熱またはプラズマを形成する、請求項5に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項7】
乾式成膜法としてスパッタリング法を用い、密着層を形成する、請求項1~4のいずれかに記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項8】
基体はガラスである、請求項1~7のいずれかに記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項9】
前記ガラスは化学強化されている、請求項8に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項10】
前記ガラスは第2の主面に印刷部を有する、請求項8または9に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項11】
前記切れ込みまたは開口部は、前記ガラスの印刷部に位置している、請求項10に記載の機能層付き基体の製造方法。
【請求項12】
第1の主面と第2の主面を有するガラス基体と、前記ガラス基体の第1の主面および端部に、密着層と、防汚層とを順に備え、
前記第1の主面の密着層の最表層は、酸化ケイ素を主体とし、含有する炭素原子数が5×1018atoms/cm~5×1019atoms/cmとなる割合で炭素を含有する含炭素酸化ケイ素層からなり、
前記ガラス基体の端部の色のバラツキΔEが2以内である、防汚層付きガラス基体。
【請求項13】
第1の主面と第2の主面を有するガラス基体と、前記ガラス基体の第1の主面および端部に、密着層と、防汚層とを順に備え、
前記第1の主面の密着層の最表層は、酸化ケイ素を主体とし、含有する炭素原子数が5×1018atoms/cm~5×1019atoms/cmとなる割合で炭素を含有する含炭素酸化ケイ素層からなり、
前記ガラス基体の第2の主面の少なくとも一部には、ポリウレタン系粘着剤、アクリル系粘着剤およびシリコーン系粘着剤からなる群より選択される少なくとも1つの粘着剤を含む粘着層を有する樹脂基体が貼合されてあり、前記粘着層を有する樹脂基体の外周の少なくとも一部が、前記ガラス基体の外周よりも外側に位置するように貼合され、
前記ガラス基体の端部の色のバラツキΔEが2以内である、防汚層付きガラス基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能層付き基体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット型PC(Personal Computer)やスマートフォン等のモバイル機器、あるいは、液晶テレビやタッチパネルなどのディスプレイ装置(以後これらを総称して表示装置等ということがある)に対しては、ディスプレイである表示面の保護ならびに美観を高めるための保護板が用いられることが多くなっている。
さらに、意匠性から保護板の端部が露出するデザインが採用される場合があり、その場合は保護板の主面だけではなく、端部にも美観の向上が要求される。
ここで言う端部とは、保護板の厚さ方向に平行な側面部を指す。
【0003】
これら保護板には、指紋、皮脂、汗等による汚れの付着を抑制するために防汚層が形成されることが多い。さらに、防汚層の耐摩耗性を向上させるために、防汚層と保護板の間に密着層を形成する場合もある。また、表示の視認性をより高めるために、密着層に反射防止性や防眩性が付与されることもある。
【0004】
これら防汚層または密着層等(以後これらを総称して機能層と言う)は、蒸着法、スパッタリング法またはCVD法などの乾式成膜法で形成されることが多い。
【0005】
特許文献1では、密着層の最表層を、酸化ケイ素を主体とし所定の割合で炭素を含有する含炭素酸化ケイ素層からなるようにすることで、防汚層の耐摩耗性が向上することが記載されている。また、酸化ケイ素に炭素を導入する方法として、炭素含有材料からなる粘着剤を保護板の外周から露出させて付着させた状態で、密着層を構成する酸化ケイ素層の形成を行い、これにより、酸化ケイ素層を形成する際の加熱やプラズマダメージによって、粘着剤の炭素成分が揮発し、酸化ケイ素層中に取り込まれることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-125876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らは、特許文献1に記載の方法で密着層または防汚層を形成すると、保護板の端部が不均一に変色する場合があることを新たに見出した。この保護板が、端部が露出する状態でディスプレイ装置に設置される場合は実用上、美観の観点から問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題に対し鋭意検討した結果、以下の方法を用いれば、端部が不均一に変色することを低減することができることを見出した。
すなわち、第1の主面と第2の主面を有する基体の第2の主面に、炭素含有材料からなる粘着層を有する樹脂基体の外周の少なくとも一部が、上記基体の外周よりも外側に位置するように設置した状態で、上記基体の第1の主面に乾式成膜法によって機能層を形成する製造方法であって、上記粘着層を有する樹脂基体は、上記基体に接触する領域の少なくとも一部に、切れ込みまたは開口部を有する、機能層の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
この方法によれば、密着層に炭素を導入することができるのと同時に、端部が不均一に変色することが抑制された保護板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】粘着層を有する樹脂基体を基体に貼り付けた状態を概略的に示す平面図である。
図2図1に示す、粘着層を有する樹脂基体を基体に貼り付けた状態のA-A線断面図である。
図3】機能層形成時に、基体と樹脂基体の間に空気が発生した状態を概略的に示す図である。
図4図3の空気が移動し、端部に達した状態を概略的に示す図である。
図5】本実施形態において、切れ込みに空気が達した状態を概略的に示す図である。
図6】本実施形態の変形例を示す図である。
図7】本実施形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本実施形態に至った経緯についてさらに詳しく説明する。発明者らは、特許文献1に記載の方法で密着層または防汚層を形成すると、保護板の端部が不均一に変色する場合があることを新たに見出した。
【0012】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討した結果、以下が原因であることを突き止めた。すなわち、上記のように、粘着層を保護板に付着させた状態で、加熱やプラズマダメージが加えられると、保護板と粘着層が付着している部分に残留していた微小な空気が膨張し、それが成膜中に保護板の端部まで移動し放出されることで、変色が生じることを突き止めた。より具体的には、保護板の端部まで移動した空気が、密着層または防汚層の成膜中に、局所的に放出されることで、端部に成膜中の密着層または防汚層の組成や膜厚に局所的に影響をおよぼし、端部の他の領域に比べて色が変化すると推定した。
【0013】
発明者らは、上記推定をもとに、以下の方法によって、端部の変色を低減できることを見出した。すなわち、あらかじめ粘着層および樹脂基体の少なくとも一部に切れ込みまたは開口部を形成しておき、その領域が保護板の主面上にあるように、粘着層および樹脂基体を保護板に付着させて成膜を行う。そうしておけば、加熱やプラズマダメージによって生じた膨張空気は端部まで移動する途中で、上記切れ込みあるいは開口部から放出されるため、端部まで空気が到達しない。結果として、端部の変色は低減される。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様は、第1の主面と第2の主面を有する基体の第2の主面に、炭素含有材料からなる粘着層を有する樹脂基体の外周の少なくとも一部が、上記基体の外周よりも外側に位置するように設置した状態で、上記基体の第1の主面に乾式成膜法によって機能層を形成する製造方法であって、上記粘着層を有する樹脂基体は、上記基体に接触する領域の少なくとも一部に、切れ込みまたは開口部を有する、機能層の製造方法である。
【0015】
上記切れ込みまたは開口部の少なくとも一部は、上記保護板の外周部から内側に0.5mm~30mmの位置にあることが好ましい。この範囲にあれば、上記保護板の中心部から移動してきた空気は端部に到達することなく、除去される。
【0016】
本発明の第2の態様は、対向する一対の主面を有するガラス基体と、上記ガラス基体の一方の主面に、密着層と、防汚層とを順に備え、上記密着層の最表層は、酸化ケイ素を主成分とし、含有する炭素原子数が5×1018atoms/cm~5×1019atoms/cmとなる割合で炭素を含有する含炭素酸化ケイ素層からなり、上記ガラス基体の端部の色のバラツキΔEが2以内である、防汚層付きガラス基体である。
【0017】
上記態様によれば、防汚層の耐久性がよく、さらに端部の色の均一なガラス基体が得られる。
【0018】
本実施形態について、さらに詳しく説明する。
図2は粘着層を有する樹脂基体を基体に貼り付け、機能層を形成した状態を概略的に示す断面図である。基体1は、第1の主面2と、第2の主面3を有し、第2の主面3には、樹脂基体5が粘着層4を介して貼り付けられている。また、基体の第2の主面3には、印刷部8が設けられている。樹脂基体5及び粘着層4には、切れ込み6が設けられている。基体の第1の主面には、機能層7が形成される。
なお、図1図7において、粘着層4および機能層7は実際には非常に薄いが、概念の説明のため誇張して図示してある。
以下、本実施形態にかかる各構成について、詳細を説明する。
【0019】
(基体)
基体1は、透明な材料からなるものであれば、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂、またはそれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなるものが好ましく使用される。
【0020】
基体1として用いられる樹脂としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ビスフェノールAのカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0021】
基体1として用いられるガラスとしては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスからなる基体が挙げられる。
【0022】
基体1としてガラス基体を用いる場合、ガラスの組成は、成形や化学強化処理による強化が可能な組成であることが好ましく、ナトリウムを含んでいることが好ましい。
【0023】
ガラスの組成は特に限定されず、種々の組成を有するガラスを用いることができる。例えば、酸化物基準のモル%表記で、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスが挙げられる。
(i)SiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0~20%、NaOを0~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%、Yを0~5%およびZrOを0~5%含むガラス
(ii)SiOを50~74%、Alを1~10%、NaOを6~14%、KOを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrOを0~5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス
(iii)SiOを68~80%、Alを4~10%、NaOを5~15%、KOを0~1%、MgOを4~15%およびZrOを0~1%含有するガラス
(iv)SiOを67~75%、Alを0~4%、NaOを7~15%、KOを1~9%、MgOを6~14%およびZrOを0~1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71~75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0024】
基体1として、ガラス基体が好ましい。
ガラス基体の製造方法は特に限定されない。所望のガラス原料を溶融炉に投入し、1500~1600℃で加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。なお、ガラス基体の成形方法は特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等を用いることができる。
【0025】
基体1としてガラス基体を用いる場合には、得られる基体の強度を高めるために、化学強化処理を施すことが好ましい。
【0026】
化学強化処理方法は特に限定されず、ガラス基体の主面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、基体の主面近傍のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス基体の主面に圧縮応力が残留し、ガラス基体の強度が向上する。
【0027】
基体1としてのガラス基体は、以下に示す条件を満たすことが好ましい。なお、このような条件は、上記した化学強化処理を行うことで満足させることができる。
すなわち、ガラス基体の表面圧縮応力(以下、CSという。)が400MPa以上1200MPa以下であることが好ましく、700MPa以上900MPa以下であることがより好ましい。CSが400Pa以上であれば、実用上の強度として十分である。またCSが1200MPa以下であれば、自身の圧縮応力に耐えることができ、自然に破壊してしまう懸念が無い。本発明の低反射膜付き基体1をディスプレイ装置の前面基板(カバーガラス)として使用する場合、ガラス基体のCSは700MPa以上850MPa以下であることが特に好ましい。
【0028】
さらに、ガラス基体の応力層の深さ(以下、DOLという。)は15~50μmが好ましく、20~40μmがより好ましい。DOLが15μm以上であれば、ガラスカッター等の鋭利な冶具を使用しても、容易にキズがついて破壊される懸念がない。またDOLが40μm以下であれば、基体自身の圧縮応力に耐えることができ、自然に破壊してしまう懸念がない。本発明の低反射膜付き基体1をディスプレイ装置等の前面基板(カバーガラス)として使用する場合、ガラス基体のDOLは25μm以上35μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
ガラス基体は、LiOを含有している場合、化学強化処理を2回以上施すことで、さらに強度を向上させることができる。
具体的には、例えば、1回目の処理では、例えば硝酸ナトリウム塩を主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、NaとLiのイオン交換を行う。次いで2回目の処理で、例えば硝酸カリウム塩を主に含む無機塩組成物に上記ガラス基体を接触させて、KとNaのイオン交換を行う。このようにすることで、DOLが深く、表面応力の高い圧縮応力層を形成することができ、好ましい。
【0030】
基体1の厚さは、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂基体、ガラス基体等、の場合には、厚さは0.1~5mmが好ましく、0.2~2mmがより好ましい。
基体1としてガラス基体を用い、上記化学強化処理を行う場合は、これを効果的に行うために、ガラス基体の厚さは通常5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0031】
また、基体1がガラス基体である場合の寸法は、用途に応じて適宜選択できる。モバイル機器のカバーガラスとして使用する場合は、30mm×50mm~300×400mmで、厚さが0.1~2.5mmであり、ディスプレイ装置のカバーガラスとして使用する場合は50mm×100mm~2000×1500mmで、厚さが0.5~4mmであることが好ましい。
【0032】
基体1の形状は、図示するような平坦な形状のみでなく、一か所以上の屈曲部を有する基体のような曲面を有する形状であってもよい。最近では、画像表示装置を備える各種機器(テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。
【0033】
基体1が曲面を有する場合、基体1の表面は、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。表面全体が曲面で構成される場合の例として、たとえば、基体1の断面が円弧状である場合が挙げられる。
【0034】
基体1が曲面を有する場合、その曲率半径(以下、「R」ともいう。)は、基体1の用途、種類等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、25000mm以下であることが好ましく、1mm~5000mmがより好ましく、5mm~3000mmが特に好ましい。Rが上記の上限値以下であれば、平板に比較し、意匠性に優れる。Rが上記の下限値以上であれば、曲面表面へも均一に機能層7を形成できる。
【0035】
基体1は、第2の主面3に印刷部8を備えていてもよい。印刷部8は、表示パネルの外側周辺部に配置された配線回路のような、表示を見るときに視界に入り邪魔になる部分を遮蔽し、表示の視認性と美観を高める光遮蔽部であってもよいし、文字や模様等の印刷部であってもよい。
【0036】
印刷部8は、インクを印刷する方法で形成されたものである。印刷法としては、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法、インクジェット法等があるが、簡便に印刷できるうえ、種々の基体に印刷することができ、また基体のサイズに合わせて印刷することができることから、スクリーン印刷法またはインクジェット法が好ましい。
【0037】
インクは、特に限定されず用いることができる。インクとしては、セラミックス焼成体等を含む無機系インクと、染料または顔料のような色料と有機系樹脂を含む有機系インクが使用できる。
【0038】
無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等がある。印刷部は、上記セラミックスとシリカからなるインクを溶融し、所望のパターンで印刷した後、焼成して得られる。この無機系インクは、溶融、焼成工程を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
【0039】
有機系インクは、染料または顔料と有機系樹脂を含む組成物である。有機系樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、透明ABS樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマー、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。また、染料あるいは顔料は、遮光性を有するものであれば特に限定なく使用することができる。
無機系インクと有機系インクとでは、焼成温度が低いことから、有機系インクの使用が好ましい。また、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクが好ましい。
【0040】
(樹脂基体)
本実施形態の樹脂基体5は、後述する機能層7の形成時の加熱やプラズマに耐える材料であれば特に限定されず、例えば、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂が好適に用いられる。より耐熱性を有する点からは、PI樹脂またはPET樹脂が好ましく、コストの観点からはPE樹脂またはPP樹脂が好ましい。樹脂基体5としては、フィルム状であることが好ましく、上記した樹脂のフィルムが好適に用いられる。
【0041】
樹脂基体5の厚さは、特に限定されないが、5μm~500μmであることが好ましく、10μm~200μmであることさらに好ましく、15μm~100μmであることがさらに好ましい。この範囲にあることで、加熱やプラズマに十分に耐え、また機能層7形成後に基体1から樹脂基体5および後述する粘着層4を剥離しやすい。
【0042】
樹脂基体5は、少なくとも一方の主面の少なくとも一部の領域に、粘着層4を有する。
粘着層4を介して、樹脂基体5を基体1に貼り付けることで、基体1の搬送を容易にすることができ、また後述する機能層7の形成時に第2の主面3を保護したり、効率的に炭素を導入したりすることができる。
粘着層4は、コストやハンドリング性の観点から、樹脂基体5の一方の面の全域に形成されていることが好ましい。
以後、樹脂基体5と粘着層4を合わせて粘着層付き樹脂基体10と呼ぶことがある。
【0043】
粘着層4の材料としては、シリコーンゴムやシリコーンレジンを用いたシリコーン系粘着剤、1種以上のアクリル酸エステルのモノマーを重合あるいは共重合させて合成されるアクリル系粘着剤、ポリウレタンを用いたポリウレタン系の粘着剤等が挙げられる。ここで、基体1は、表示装置等に組み付けられる際、第2の主面3側で接着剤等により接着される。そのため、接着性の観点から第2の主面3は、撥水・撥油性の低い方が好ましい。このような点から、粘着層4の材料としては上記したなかでも、アクリル系、ポリウレタン系の粘着剤が好ましい。
【0044】
粘着層4の粘着力は、基体1と樹脂基体5との接着力、および機能層形成後に粘着層4および樹脂基体5を剥離する際の剥離性のバランスの点から、JIS Z 0237で規定された180度剥離・アクリル板への付着力測定での値で、0.02N/25mm~10N/25mmが好ましく、0.05N/25mm~0.5N/25mmがより好ましい。
【0045】
粘着層4の厚みは、基体1または印刷部8と樹脂基体5との接着力および剥離性の観点から、5μm~50μmであることが好ましい。
【0046】
粘着層付き樹脂基体10としては、例えば、シリコーン系粘着剤付きのポリイミドテープとして、No.6500(商品名、日立マクセル社製)等、アクリル系粘着剤付きのPETフィルムとして、RP-207(商品名、日東電工社製)、EC-9000AS(商品名、スミロン社製)等、ポリウレタン系粘着剤付きのPETフィルムとして、UA-3004AS(商品名、スミロン社製)等を使用できる。
【0047】
基体1と、粘着層付き樹脂基体10との貼合は、例えばラミネート機等を用いて、基体1を搬送しながら、第2の主面3に、粘着層付き樹脂基体10を連続的に供給、載置した後、加圧することで、貼り付けられる。この際のラミネート条件は特に限定されず、例えば基体1の搬送速度を1m/min~5m/min、加圧力は、線圧で1kgf/cm~10kgf/mの条件で行える。
【0048】
粘着層付き樹脂基体10の外周の少なくとも一部は、基体1の外周よりも外側になるように貼合される。そのようにすることで、後述する機能層7の形成時の加熱あるいはプラズマ形成によって、粘着層4から炭素が揮発し、炭素を含有する機能層7を形成することができる。
機能層7形成時に、基体1の第2の主面3を保護する観点から、樹脂基体5の外周は、全周にわたって基体1の外周よりも外側にあることが好ましい。
【0049】
粘着層付き樹脂基体10の外周であって、基体1の外周の外側に位置する部分の、粘着層付き樹脂基体10の外周と基体1の外周との距離は0.5mm~10mmが好ましく、1mm~5mmがさらに好ましい。このようにすることで、上記基体の第2の主面3または印刷部8を確実に保護でき、また機能層7に炭素を効率的に導入することができる。
【0050】
粘着層付き樹脂基体10の外周であって、基体1の外周の内側に位置する部分がある場合、粘着層付き樹脂基体10の外周と基体1の外周との距離は0.5mm~10mmが好ましく、0.5mm~3mmがさらに好ましい。このような範囲にあれば、基体1の第2の主面3または印刷部8を有効に保護できる。
【0051】
粘着層付き樹脂基体10は、基体1が貼合される領域の少なくとも一部に、切れ込みまたは開口部を有する。このようにすることで、後述する機能層7を形成する際に生じる空気が端部に達する前に除去できる。
【0052】
切れ込みまたは開口部は、基体1の第2の主面3を保護する観点から、切れ込みであることが好ましい。図1および図2では切れ込み6が示してある。
機能層7形成後の粘着層4および樹脂基体5の易剥離性の観点から、切れ込み6によって粘着層付き樹脂基体10が複数に分離しないように形成することが好ましい。より具体的には、例えばミシン目状であることが好ましい。
切れ込み6がミシン目状である場合は、周期は5mm~20mmが好ましく、7mm~15mmがさらに好ましい。また、各周期に対する切れ込みの長さの割合は、30%~80%が好ましく、45%~75%がさらに好ましい。このようにすることで、機能層7を形成中に発生した空気が確実に除去できるともに、機能層7を形成後に粘着層付き樹脂基体10を基体1から剥離するさいにミシン目で破断することを防ぐことができる。
【0053】
上記切れ込みまたは開口部は、上記基体の外周から0.5mm~25mmにあることが好ましく、1mm~15mmにあることがさらに好ましい。このようにすることで、基体1の端部と切れ込みまたは開口部との間に、空気が多量には発生せず、端部の変色が低減されるという効果が得られる。
【0054】
基体1が印刷部8を有する場合、上記切れ込みまたは開口部は印刷部8の領域にあることが好ましい。印刷部8の領域にあることで、機能層を形成中に、機能層粒子が第2の主面3側に回り込み、切れ込みまたは開口部から侵入してきたとしても、表示面からは視認できないので好ましい。
【0055】
切れ込み6の形成位置は、基体1の表示装置等への組付け方にしたがって適宜決めることができる。例えば、基体1を表示装置等に組み付けたときに、基体1の3辺が露出するデザインであれば、当該3辺の端部の変色が抑制できるように切れ込みを形成すればよい。
【0056】
端部全周の色の均一性が必要な場合は、切れ込み6は、ミシン目状で、かつ基体1の外周に沿って、基体1の全周にわたって形成されていることが好ましい。このようにすることで、膨張した空気がどの方向に移動しても、端部に達する前に除去することが可能となる。
【0057】
切れ込みまたは開口部の形成方法としては、特に限定されず、例えばカッター刃等を移動させながら、所定の形状に切れ込みまたは開口部を形成する方法や、あらかじめ所定の形状に設置されたトムソン刃等の押切刃を用いて形成する方法などが挙げられる。
【0058】
切れ込みまたは開口部の形成は、基体1と樹脂基体が貼合される前に行ってもよく、貼合してから行ってもよい。基体1に傷をつけないために、基体1と貼合する前に形成するほうが好ましい。
【0059】
本実施形態の粘着層付き樹脂基体の変形例を、図6および図7に示す。図6のように、粘着層付き樹脂基体10に、基体1の外周に沿って開口部を設置しても、空気は有効に除去される。また、図7のように粘着層付き樹脂基体10は基体1の一部に、複数貼合してもよい。
【0060】
(機能層)
機能層7は、上記基体1の第1の主面2の表面に形成される。機能層7は、単層または複数の層が積層された積層体である。機能層7としては例えば、防汚層、防眩層、反射防止層、密着層などが挙げられる。以下、各機能層について詳細を説明する。
【0061】
[防汚層]
防汚層は、表面への有機物、無機物の付着を抑制する膜、または、表面に有機物、無機物が付着した場合においても、ふき取り等のクリーニングにより付着物が容易に除去できる効果をもたらす層のことである。
防汚層は、後述する密着層の表面上に備えられることが好ましい。防汚層としては、基体1に防汚性を付与できるものであれば特に限定されないが、含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応させることで硬化させて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。
【0062】
また、防汚層の厚さは、特に限定されないが、防汚層が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、第1の主面2上の膜厚で、2nm~20nmであることが好ましく、2nm~15nmであることがより好ましく、2nm~10nmであることがさらに好ましい。第1の主面2上の膜厚が2nm以上であれば、防汚層によって基体1の第1の主面2上が均一に覆われた状態となり、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。また、第1の主面2上の膜厚が20nm以下であれば、防汚層が形成された状態での基体1のヘイズ値等の光学特性が良好である。
【0063】
防汚層を形成する組成物は、含フッ素加水分解性ケイ素化合物を含有する組成物であって、乾式成膜法による防汚層形成が可能な組成物であれば、特に制限されない。防汚層形成用組成物は含フッ素加水分解性ケイ素化合物以外の任意成分を含有してもよく、含フッ素加水分解性ケイ素化合物のみで構成されてもよい。任意成分としては、本実施形態の効果を阻害しない範囲で用いられる、フッ素原子を有しない加水分解性ケイ素化合物(以下「非フッ素加水分解性ケイ素化合物」という。)、触媒等が挙げられる。
【0064】
なお、含フッ素加水分解性ケイ素化合物、および、任意に非フッ素加水分解性ケイ素化合物を被膜形成用組成物に配合するにあたって、各化合物はそのままの状態で配合されてもよく、その部分加水分解縮合物として配合されてもよい。また、該化合物とその部分加水分解縮合物の混合物として被膜形成用組成物に配合されてもよい。
【0065】
また、2種以上の加水分解性ケイ素化合物を組み合わせて用いる場合には、各化合物はそのままの状態で被膜形成用組成物に配合されてもよく、それぞれが部分加水分解縮合物として配合されてもよく、さらには2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物として配合されてもよい。また、これらの化合物、部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物の混合物であってもよい。ただし、用いる部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物は、乾式成膜法によって形成可能な程度の重合度のものとする。以下、加水分解性ケイ素化合物の用語は、化合物自体に加えてこのような部分加水分解縮合物、部分加水分解共縮合物を含む意味で用いられる。
【0066】
本実施形態の含フッ素有機ケイ素化合物被膜の形成に用いる含フッ素加水分解性ケイ素化合物は、得られる含フッ素有機ケイ素化合物被膜が、撥水性、撥油性等の防汚性を有するものであれば特に限定されない。
【0067】
具体的には、パーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する含フッ素加水分解性ケイ素化合物が挙げられる。これらの基は加水分解性シリル基のケイ素原子に連結基を介してまたは直接結合する含フッ素有機基として存在する。市販されているパーフルオロポリエーテル基、パーフルオロアルキレン基およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物(含フッ素加水分解性ケイ素化合物)として、KP-801(商品名、信越化学工業社製)、X-71(商品名、信越化学工業社製)、KY-130(商品名、信越化学工業社製)、KY-178(商品名、信越化学工業社製)、KY-185(商品名、信越化学工業社製)、KY-195(商品名、信越化学工業社製)、Afluid(登録商標)S-550(商品名、AGC社製)、オプツール(登録商標)DSX(商品名、ダイキン工業社製)などが好ましく使用できる。上記したなかでも、KY-195、オプツールDSX、S-550を用いることがより好ましい。
【0068】
[密着層]
密着層は、防汚層の耐久性向上のために、基体1と上記防汚層の間に設置されるものである。密着層の最表層は、防汚層との密着性の観点から、酸化ケイ素を主成分とすることが好ましい。また、密着層を単数または複数の層を積層して形成することで、反射防止性能等を同時に得ることもできる。
なお、ここでいう「主成分」とは、当該層に80質量%以上含有されているものを指す。
【0069】
密着層の防汚層と接する層は、酸化ケイ素を主成分とし、5×1018atoms/cm~5×1019atoms/cmの濃度で炭素原子を含有する含炭素酸化ケイ素層であることが好ましい。密着層の防汚層と接する層が、上記した範囲の含炭素酸化ケイ素層であることで、防汚層が密着層を介して基体1に強固に密着されるため、機能層7は優れた耐摩耗性を有する。含炭素酸化ケイ素層は、6×1018atoms/cm~4×1019atoms/cmの濃度で炭素原子を含有することがより好ましい。
【0070】
含炭素酸化ケイ素層は、後述する反射防止層における、酸化ケイ素(SiO)を材料とした低屈折率層と同様の方法を用いて形成できる。例えば、上述のように、基体1の第2の主面3に、粘着層付き樹脂基体10をその外周の少なくとも一部が基体1の外周よりも外側に位置するように貼合した状態で、密着層を構成する酸化ケイ素層の形成を行う。これにより、酸化ケイ素層を形成する際の、加熱やプラズマダメージによって、粘着層付き樹脂基体10の、基体1の外周よりも外側の部分から炭素成分が揮発し、酸化ケイ素層中に取り込まれる。このようにして、炭素原子が上記所定の割合で含有された含炭素酸化ケイ素層を形成できる。この際の、炭素原子の含有量は、基体1の外周よりも外側にある粘着層付き樹脂基体10の面積等を変更することで調節できる。
【0071】
また、上述したように、加熱やプラズマに晒されることで、粘着層付き樹脂基体10に含まれる炭素成分が揮発して、酸化ケイ素層に取り込まれることから、粘着層4を構成する材料を選択することで、炭素以外の元素、例えば、フッ素(F)等を、酸化ケイ素層中に取り込ませた層を形成することも可能である。また、粘着層4以外の、酸化ケイ素層中に取り込ませようとする元素を含む材料を用い、当該材料が熱やプラズマに晒される状態で、酸化ケイ素層を形成すれば、当該元素を取り込んだ酸化ケイ素層を形成できる。
【0072】
また、密着層は、積層体からなる場合、後述する低屈折率層と高屈折率層が積層され、防汚層と接する層が含炭素酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率層として構成される低反射膜としても構成できる。この場合、当該低反射膜は、積層体からなる密着層として機能する。
【0073】
密着層が低反射膜として機能する場合には、防汚層と接する層として使用される酸化ケイ素の屈折率は炭素原子を含有しない場合、通常1.43~1.50であるが、屈折率が1.40~1.53、好ましくは1.45~1.52となる程度に不純物を含んでもよい。
【0074】
密着層の防汚層と接する層における表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で、3nm以下であることが好ましく、2nm以下であることより好ましく、1.5nm以下であることがさらに好ましい。Raが、3nm以下であれば、布等が防汚層の凹凸形状に沿って変形できるため、防汚層表面全体に略均一に荷重がかかる。そのため、防汚層の剥がれが抑制され、耐摩耗性が向上されると考えられる。
【0075】
なお、密着層の算術平均粗さ(Ra)を測定する際には、第1の主面2が凹凸形状を有する場合、当該凹凸形状を拾わないように測定領域を設定すればよい。前述の円形状の孔の径や二乗平均粗さ(RMS)が前述の好ましい範囲にあれば、測定領域を例えば凹凸の稜線を除く領域に設定するなどして、密着層のRaを測定することが可能である。
【0076】
基体1の第1の主面2が凹凸形状を有する場合、密着層の防汚層と接する層における二乗平均粗さ(RMS)は、下限値として10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。上限値として1500nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。RMSが上記範囲であれば、防汚層の剥がれが抑制され耐摩耗性が向上されるだけでなく、ギラツキ防止性や防眩性も両立できる。凹凸形状のRMSの測定に際しては、上述の密着層の算術平均粗さ(Ra)の測定とは反対に、測定領域に円形状の孔が十分多く含まれるように測定領域を選べばよい。また、上述のように、密着層や防汚層の表面粗さは十分平滑なので、密着層や防汚層がある状態で、上記の方法で測定されたRMSの値は、凹凸形状のRMSと同値であると考えてよい。
【0077】
[低反射層]
低反射層とは、反射率低減の効果をもたらし、光の映り込みによる眩しさを低減するほか、表示装置等からの光の透過率を向上でき、表示装置等の視認性を向上できる膜のことである。
本実施形態の基体1は、第1の主面2と防汚層の間に、低反射層を備えることが好ましい。低反射膜の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.9以上の高屈折率層と、波長550nmでの屈折率が1.6以下の低屈折率層とを積層した構成とすることができる。また、低屈折率層1層のみの構成でもよい。
【0078】
低反射膜における高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
【0079】
低反射性を高めるためには、低反射層は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、例えば該積層体は全体で2層以上10層以下の層が積層されていることが好ましく、2層以上8層以下の層が積層されていることがより好ましく、4層以上6層以下の層が積層されていることがさらに好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層、低屈折率層各々の層数を合計したものが上記範囲であることが好ましい。
【0080】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される低反射性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タンタル(Ta)、窒化ケイ素(Si)から選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料から選択された1種以上を好ましく使用できる。
【0081】
生産性や、屈折率の観点から、高屈折率層が酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種を主成分とする層であり、低屈折率層が酸化ケイ素を主成分とする層である構成が好ましい。
また、上述したように、低反射層の最表層を、酸化ケイ素を主成分とすることで、密着層としても用いることができる。
【0082】
[機能層の形成方法]
本実施形態の機能層7は、乾式成膜法によって形成される。乾式成膜法としては、蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法が挙げられる。その中でも、蒸着法またはスパッタリング法が好ましく用いられる。
【0083】
機能層7が複数の層からなる場合、上記した方法を組み合わせて形成してもよい。例えば、密着層をスパッタリング法で形成し、その後、防汚層を蒸着法で形成してもよい。
【0084】
防汚層を形成する場合は、蒸着法を用いることが好ましい。蒸着法の中でも、抵抗加熱方式や電子線蒸着方式が好ましく用いられる。
【0085】
密着層または低反射層を形成する場合は、蒸着法またはスパッタリング法を用いることが好ましい。より緻密な膜を得るために、蒸着法の中でも、プラズマを形成しながら蒸着するイオンアシスト蒸着や、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
スパッタリング法では、マグネトロンスパッタリング法が一般的に用いられ、その中でもパルスマグネトロンスパッタリング法、ACマグネトロンスパッタリング法および後酸化マグネトロンスパッタリング法が特に好ましい。
このような方法を使用すれば、緻密で膜厚が精密に制御された機能層を得ることができる。
【0086】
基体1に機能層7を形成する際、上記したように、基体1には粘着層付き樹脂基体10が貼合されている。基体1と粘着層付き樹脂基体10が貼合される際、基体1の第2の主面3と粘着層4との間に、目視では見えなくともわずかな空気が残留する場合がある。
【0087】
上記空気は、機能層7形成前には目視で見えない場合でも、乾式成膜法により機能層7を形成する途中に移動、合体し膨張する場合がある。特に、機能層7形成中に加熱やプラズマ形成した際、あるいは乾式成膜を行う装置に導入し、装置内を真空にした場合に、特に膨張しやすい。その結果、図3に示す空気9のようになる。
【0088】
この空気9が、機能層形成中に基体1の端部まで移動し、図4に示すように、基体1の端部から放出されると、放出された付近の端部のみ空気9の影響を受けることになり、当該端部に形成中の機能層7の膜厚や屈折率、酸化度等が局所的に変化する。結果として、空気が放出された付近の端部はその他の端部に比べて色が異なる現象が生じる。以上が従来技術で機能層7を形成した際に生じる端部の変色の推定メカニズムである。
【0089】
それに対して、本実施形態では、図1または図2に示すように、粘着層付き樹脂基体10に切れ込み6を設置している。
この場合、移動してきた空気9が切れ込み6に達すると、空気9は切れ込み6から放出されることになる。そうすると、放出された空気9は基体1の端部に到達せず、結果、端部に形成中の機能層7の膜厚や屈折率等が影響を受けることが低減され、端部全周にわたって均一な色とすることができる。
【0090】
基体1の端部の色のバラツキΔEは、2未満であることが好ましく、1未満であることがさらに好ましい。ここで、
ΔE=√[(Δa+(Δb
であり、Δa(Δb)はそれぞれ、端部におけるa(b)の最大値と最小値との差である。さらに、aおよびbはJIS Z 8781において規定されている色味(a、b)である。
【実施例0091】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0092】
基体として厚さ1.3mmの、対向する一対の主面が130mm×280mmの四角形の板状ガラスDT(ドラゴントレイル(登録商標)、AGC社製、化学強化用アルミノシリケートガラス)を用い、以下の各例の手順で、それぞれ機能層付き基体を得た。以下、当該ガラス基体の一方の主面を第1の主面、他方の主面を第2の主面、と称する。
【0093】
(実施例1)
ガラス基体に次のように(1)化学強化処理、(2)黒色印刷部の形成、(3)密着層(低反射層)の形成、(4)防汚層の形成をその順に以下の手順で行い、機能層付きガラス基体を得た。
【0094】
(1)化学強化処理
ガラス基体を、450℃に加熱・溶解させた硝酸カリウム塩にガラス基体を2時間浸漬した。その後、ガラス基体を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷することで化学強化ガラス基体を得た。こうして得られた化学強化ガラス基体の表面圧縮応力(CS)は730MPa、応力層の深さ(DOL)は30μmであった。
【0095】
(2)印刷部の形成
次いで、以下の手順により、ガラス基体の第2の主面の周辺部の四辺に、スクリーン印刷によって25mm幅の黒枠状に印刷を施し、黒色印刷部を形成した。まず、スクリーン印刷機により、黒色インク(商品名:GLSHF、帝国インキ製)を3μmの厚さに塗布した後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷部を形成した。次いで、第1の印刷部の上に、上記と同じ手順で、上記同様の黒色インクを3μmの厚さに塗布した後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷部を形成した。こうして、第1の印刷部と第2の印刷部とが積層された黒色印刷部を形成し、第2の主面の外側周辺部に印刷部を備えたガラス基体を得た。
【0096】
(3)密着層(低反射膜(AR))の形成
次に、以下の方法で、ガラス基体の第1の主面と端部に密着層を形成した。
【0097】
まず、粘着層付き樹脂基体として、134mm×284mmのポリウレタン系粘着剤付きPETフィルム(スミロン社製、UA-3000AS)を準備した。
樹脂基体の組成はPET樹脂で、厚みは38μmであった。粘着層の材質はポリウレタン系粘着剤で、厚みは5μmであった。この粘着層付き樹脂基体のアクリル板に対する粘着力は0.05N/25mmであった。
【0098】
次いで、上記粘着層付き樹脂基体に、その外周から5mm内側の部分にミシン目状の切れ込みを形成した。ミシン目の周期は7.5mmとし、ミシン目周期中で切れ込みがある長さは5mmとした。
【0099】
この粘着層付き樹脂基体を、図1のように、印刷部を備えたガラス基体の、第2の主面にラミネート機で貼合した。
貼合する際、基体の外周から樹脂基体の外周が各辺それぞれ2mmはみ出すように位置を合わせた。したがって、ミシン目はガラス基体の外周から3mm内側にある。
貼合した後、目視で観察したところ、ガラス基体と粘着層付き樹脂基体との間に気泡等は確認できなかった。
このようにして、ミシン目が基体の外周に沿って形成された粘着層付きフィルムが貼合された印刷部付きガラス基体を得た。
【0100】
これにより、密着層形成中の加熱やプラズマにより、基体からはみ出した部分から炭素含有成分が揮発し、密着層中に取り込まれる。実施例1では、粘着層の露出部分の面積は、ガラス基体の第1の主面の面積に対して4.5面積%である。
【0101】
次に、以下の工程で密着層を成膜した。まず、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、長さ1000mm×外径150mmの酸化ニオブ円筒ターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.5Pa、周波数40kHz、電力15kWの条件でACロータリーデュアルマグネトロンスパッタリングを行い、厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層(第1層)を形成した。
【0102】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをチャンバ内に導入しながら、1000mm長さ×外径150mmのシリコン円筒ターゲット(AGCセラミックス社製)を用いて、圧力0.3Pa、周波数40kHz、電力10kWでACロータリーデュアルマグネトロンスパッタリングを行い、上記高屈折率層上に厚さ35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層(第2層)を形成した。
【0103】
次いで、第1層と同様にして、第2層の低屈折率層上に厚さ115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。次いで、第2層と同様にして、厚さ80nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)層と酸化ケイ素(シリカ)層が総計4層積層された密着層(低反射膜)を形成した。当該密着層において、最表層の低屈折率層は含炭素酸化ケイ素層となる。
【0104】
(4)防汚層の形成
次に、以下の方法で防汚層を成膜した。なお、ガラス基体は粘着層付き樹脂基体に貼りつけたまま用い、第1の主面に成膜すると同時に側面にも効率的に防汚層を成膜した。まず、防汚層の材料として、フッ素含有有機ケイ素化合物膜の形成材料を、加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行い、フッ素含有有機ケイ素化合物膜の形成用組成物(以下、防汚層形成用組成物という。)とした。防汚層形成用組成物としては、KY-185(信越化学工業社製)を用いた。
【0105】
次いで、上記防汚層形成用組成物が入った加熱容器を、270℃まで加熱した。270℃に到達後は、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、密着層が形成されたガラス基体を真空チャンバ内に設置した後、上記防汚層形成用組成物が入った加熱容器に接続されたノズルから、ガラス基体の密着層(低反射膜)に向けて防汚層形成用組成物を供給し、成膜を行った。
【0106】
成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、密着層上のフッ素含有有機ケイ素化合物膜の膜厚が4nmになるまで行った。その後、真空チャンバからガラス基体を取り出した。
【0107】
(実施例2)
実施例1と同様に(1)化学強化処理、(2)黒色印刷部の形成を行ったガラス基体を用い、以下の条件で粘着層付き樹脂基体と貼合した。
まず、粘着層付き樹脂基体として136mm×286mmアクリル系粘着剤付きPETフィルム(スミロン社製、EC-9000AS)を使用した。PETフィルムの厚さは38μmであり、粘着層の厚さは6μmであった。この粘着層付き樹脂基体のアクリル板に対する粘着力は0.08N/25mmであった。
【0108】
次いで、上記粘着層付き樹脂基体に、その外周全周に沿って、外周から4mm内側の部分にミシン目状の切れ込みを形成した。ミシン目の周期は10mmとし、ミシン目周期中で切れ込みがある長さは5mmとした。
【0109】
次いで、この粘着層付き樹脂基体を、図1のように、印刷部を備えたガラス基体の、第2の主面にラミネート機で貼合した。
貼合する際、基体の外周から樹脂基体の外周が各辺それぞれ3mmはみ出すように位置を合わせた。したがって、ミシン目はガラス基体の外周から1mm内側にある。
貼合した後、目視で観察したところ、基体と粘着層付き樹脂基体との間に気泡等は確認できなかった。
このようにして、ミシン目が基体の外周に沿って形成された粘着層付きフィルムが貼合された印刷部付きガラス基体を得た。実施例2では、粘着層の露出部分の面積は、ガラス基体の第1の主面の面積に対して6.9面積%である。
【0110】
次いで、実施例1と同様にして、密着層(低反射層)を形成した。このようにして、第1の主面に密着層(低反射層)のみが形成されたガラス基体を得た。
【0111】
(実施例3)
実施例1と同様に(1)化学強化処理、(2)黒色印刷部の形成を行ったガラス基体を用い、以下の条件で粘着層付き樹脂基体と貼合した。
まず、粘着層付き樹脂基体として134mm×284mmシリコーン系粘着剤付きPIフィルムを使用した。PIフィルムの厚さは25μmであり、粘着層の厚さは35μmであった。この粘着層付き樹脂基体の粘着力は5.8N/25mmであった。
【0112】
次いで、上記粘着層付き樹脂基体に、その外周全周に沿って、外周から7mm内側の部分にミシン目状の切れ込みを形成した。ミシン目の周期は7.5mmとし、ミシン目周期中で切れ込みがある長さは5mmとした。
【0113】
次いで、この粘着層付き樹脂基体を、図1のように、印刷部を備えたガラス基体の、第2の主面にラミネート機で貼合した。
貼合する際、基体の外周から樹脂基体の外周が各辺それぞれ2mmはみ出すように位置を合わせた。したがって、ミシン目はガラス基体の外周から5mm内側にある。
貼合した後、目視で観察したところ、基体と粘着層付き樹脂基体との間に気泡等は確認できなかった。
このようにして、ミシン目が基体の外周に沿って形成された粘着層付きフィルムが貼合された印刷部付きガラス基体を得た。実施例3では、粘着層の露出部分の面積は、ガラス基体の第1の主面の面積に対して4.5面積%である。
【0114】
次いで、本実施例3では密着層を形成せずに、実施例1と同様にして防汚層を形成した。
【0115】
(実施例4)
実施例1と同様に(1)化学強化処理、(2)黒色印刷部の形成を行ったガラス基体を用い、以下の条件で粘着層付き樹脂基体と貼合した。
【0116】
まず、粘着層付き樹脂基体は実施例1と同じものを用い、ミシン目状の切れ込みを、その外周から22mm内側に形成した。ミシン目状の切れ込みの周期や切れ込みの長さは実施例1と同様にした。
次いで、実施例1と同様にして基体と粘着層付き樹脂基体をラミネート機によって貼合した。貼合する際、基体の外周から樹脂基体の外周が各辺それぞれ2mmはみ出すように位置を合わせた。したがって、ミシン目はガラス基体の外周から20mm内側にある。
【0117】
次いで、実施例1と同様にして、密着層(低反射層)および防汚層を形成した。
【0118】
(実施例5)
実施例1と同様に(1)化学強化処理、(2)黒色印刷部の形成を行ったガラス基体を用い、以下の条件で粘着層付き樹脂基体と貼合した。
【0119】
まず、粘着層付き樹脂基体として、20mm×140mmのシリコーン系粘着剤付きPIフィルム(スリオンテック社製、No6500)を2本使用した。PIフィルムの厚さは25μmであり、粘着層の厚さは30μmであった。この粘着層付き樹脂基体の粘着力は5.8N/25mmであった。
【0120】
次いで、上記粘着層付き樹脂基体に、短辺から内側7mmの位置に、短辺に平行に18mmの切れ込みを形成した。
【0121】
次いで、この粘着層付き樹脂基体を、図7のように、印刷部を備えたガラス基体の第2の主面に、ガラス基体の短辺に平行になるように貼り付けた。その際、ガラス基体の短辺と、粘着層付き樹脂基体の長辺であってガラス基体の短辺と近い側の辺は、ガラス基体の短辺から内側に2mmの位置になるように貼り付けた。また、粘着層付き樹脂基体のそれぞれの短辺は、ガラス基体の長辺から外側に5mmはみ出すように貼り付けた。したがって、切れ込みはガラス基体の長辺から内側2mmの位置にある。
貼合した後、目視で観察したところ、基体と粘着層付き樹脂基体との間に気泡等は確認できなかった。
【0122】
このようにして、図7のように粘着層付きフィルムが貼合された印刷部付きガラス基体を得た。実施例5では、粘着層の露出部分の面積は、ガラス基体の第1の主面の面積に対して1.1面積%である。
【0123】
次いで、実施例1と同様にして、密着層(低反射層)および防汚層を形成した。
【0124】
(比較例1)
粘着層付き樹脂基体に切れ込みを形成しなかった以外は実施例1と同様にして、粘着層付き樹脂基体が貼合された印刷部付き基体の第1の主面に密着層と防汚層を形成した。
【0125】
(評価)
上記のようにして得られた実施例1~5および比較例1のガラス基体に対して、以下のようにして、それぞれの項目に対して評価を行った。
【0126】
[端部の変色の有無]
ガラス基体の端部全周にわたって目視で確認し、局所的な変色があるかどうかを評価した。目視で確認する際の、環境の照度は1500ルクスとし、ガラス基体を目から30cmはなして保持した。
【0127】
[端部の色のバラツキ測定]
端部の色のバラツキは、以下のようにして評価した。まず、測定装置として、顕微分光測定器(オリンパス社製、USPM RUIII)により、分光反射率を取得した。なお、測定を行う際には、あらかじめ反射率が最大となる基体の位置を求めておいて、正反射率が取得できるように調整した。その分光反射率より色味(a、b)を求めた。
【0128】
各基体の測定部位は、以下のようにして決定した。まず、目視によって端部に変色が確認されたガラス基体は、当該変色部と変色していない部分とを選び、それぞれに対して色味を測定した。
目視によって端部に変色が確認されなかった基体は、各4辺の端部の中点部の色味を測定した。このようにして得られた色味(a、b)データに対して、各基体の色味のバラツキを
ΔE=√[(Δa+(Δb
によって求めた。ここでΔa(Δb)はそれぞれ、各基体のデータにおけるa(b)の最大値と最小値との差である。
【0129】
[密着層の最表層における炭素含有量の測定]
実施例1、2、4、5および比較例1に対して、以下のようにして密着層の最表層における炭素含有量を測定した。
まず、ガラス基体に形成された防汚層や、表面有機汚染を除去するため、酸素プラズマ処理を実施し、その後、紫外線(UV)オゾン処理を実施した。これらは、防汚層の膜厚や表面汚染の度合いによってはどちらか一方の処理でもよい。
酸素プラズマ処理では、低温灰化装置(LTA-102型、ヤナコ分析工業株式会社製)を用いた。処理条件は、高周波出力:50W、酸素流量:50ml/min、処理時間:60分である。
UVオゾン処理では、紫外線照射装置PL30-200(センエンジニアリング株式会社製)を使用し、紫外線照射装置電源としてUB2001D-20を使用した。処理条件は、紫外線波長:254nm、処理時間:10分である。
UVオゾン処理の終了後のガラス積層体について、X線光電子分光法でフッ素のピークのないことを確認することにより、表面の防汚層が除去されていることを確認した。
【0130】
次に、以下の手順に従って、SIMS(二次イオン質量分析装置)にて、密着層の最表層の炭素量の測定を行った。
(I)初めに、炭素濃度既知の標準試料をイオン注入により作製する。評価対象の膜と同じ組成の基体あるいは膜を成膜した基体を、評価対象の試料とは別に準備する。準備する標準試料は、炭素濃度の極力低いものが好ましい。ここでは、SiO膜評価用として、石英ガラス基体を用意した。
イオン注入は、IMX-3500RS(アルバック社製)を用いた。SiO膜評価用として、エネルギーを110keVとして石英ガラス基体に12Cイオンを注入する。12Cイオン注入量は1.5×1015ions/cmである。
【0131】
(II)次に、評価対象の試料と上記(I)で作製した炭素濃度既知の標準試料を同時にSIMS装置内へ搬送し、測定を行い、12Cおよび30Siの強度の深さ方向プロファイルを取得する。標準試料の深さ方向プロファイルから相対感度因子(Relative Sensitivity Factor:RSF)を求め、求めたRSFを用いて測定試料の炭素濃度のプロファイルを得る。この際、SiO膜評価用には、12Cイオン注入した石英ガラス基体のRSFを用いた測定試料の炭素濃度のプロファイルを用いた。
SIMSの測定には、ADEPT1010(アルバック・ファイ社製)を用いる。SIMSの測定条件は、一次イオン種としてCsを用い、加速電圧:5kV、電流値:50nA、入射角:試料面の法線に対して60°、一次イオンのラスターサイズ:400×400μmで一次イオン照射を行う。二次イオンの検出については、検出領域を80×80μm(一次イオンのラスターサイズの4%)、検出器のField Apertureを1に設定し、極性がマイナスの二次イオンを検出する。この際、中和銃を使用する。なお、測定精度を確保するために、装置内を極力高真空にしておくことが好ましい。今回のSIMSの測定開始前のメインチャンバーの真空度は1.6×10-7Paであった。
また、12Cイオン注入した石英ガラス基体に対する一次イオンのスパッタ(照射)レートは0.30nm/secであった。装置真空度と同様、測定精度を確保するために、極力スパッタレートの高い条件で測定を行うことが好ましい。
【0132】
次いで、(II)で得られた測定試料の炭素濃度のプロファイルの横軸を次のように、スパッタ時間から深さへ変換する。分析した後のそれぞれの標準試料の凹部(クレータ)の深さを触針式表面形状測定器(Veeco社製Dektak150)によって求め、標準試料に対する一次イオンのスパッタレートを求める。SiO膜評価用には、12Cイオン注入した石英ガラス基体のスパッタレートを用いて横軸をスパッタ時間から深さへ変換する。
次いで、上記で横軸を深さへ変換した測定試料の炭素濃度のプロファイルから、最表層の炭素濃度を次のように算出する。
【0133】
まず、最表層のSiO膜中の炭素濃度算出にあたり、上述のとおり、12Cイオン注入石英ガラス基体のスパッタレートを用いて横軸をスパッタ時間から深さへ、縦軸を12Cイオン注入した石英ガラス基体のRSFを用いて二次イオン強度から濃度へ変換したプロファイルを作成する。ここで得られたC濃度プロファイルは、SiO膜中のCに対して有効である。最表層の層には、吸着炭素が存在し、SIMSによる測定では、この吸着炭素が測定される。この吸着炭素の測定された領域を除き、最表層の30Si二次イオン強度が横ばいの停滞領域であり、かつガラス基体側の層で測定されるNbの二次イオン強度が上昇開始する手前までの領域における平均炭素濃度を炭素濃度とした。このようにして、各試料について平均炭素濃度を3回測定し、これらの平均値を、SiO膜中の炭素(C)原子濃度とした。
【0134】
実施例1~4および比較例1におけるガラス基体に対する各処理の内容および評価結果を表1にまとめて示す。
【0135】
【表1】
【0136】
表1に示すように、実施例1~5の基体の端部の変色は無いか、わずかに見える程度であり、実用上問題にはならない程度であった。また、その色バラツキも0.5以下であることが確認された。さらに、密着層(低反射層)を形成した実施例1,2および4については、密着層の最表層において、XPSによるC/Si原子数比が5.1×1018~12.1×1018(atoms/cm)であることが確認された。
【0137】
なお、実施例4で、端部にわずかに変色が見られたのは、ミシン目状の切れ込みが基体外周から20mmと、他の実施例に比べて離れていたことによると推定される。具体的には、ミシン目状の切れ込みが端部から離れると、基体端部とミシン目状の切れ込みとの間に発生したわずかな空気が端部に到達し、わずかな変色を起こしたものと推定している。
【0138】
これに対して、ミシン目状の切れ込みを形成しなかった比較例においては、端部に変色を確認し、実用上問題となる程度であった。また、端部の色バラツキもΔE=2.1と大きいものであった。
【0139】
また、実施例1~5において、切れ込みがあった部分の印刷部は、他の印刷部に比べて目視で確認できる程度に変色していた。これは、機能層を形成中に、ガラス基体の第2の主面側に、機能層粒子が回り込んでミシン目内の印刷部に付着したり、形成したプラズマが回り込んでミシン目内の印刷部表面にダメージを与えたりして、変色したものと推定される。
【0140】
また、実施例5では、機能層形成後にガラス基体の第2の主面に汚れが付着していた。対して実施例1~4には汚れは見られなかった。実施例5では粘着層付き樹脂基体がガラス基体の第2の主面の一部にだけ貼合されているので、粘着層付き樹脂基体が貼合されていない領域が機能層形成時に保護されておらず、結果汚れが付着したと推定される。したがって、実施例1~4のようにガラス基体の第2の主面の全面に粘着層付き樹脂基体が貼合されることがより好ましいことが分かった。
【0141】
さらに、実施例5では、機能層形成後に粘着層付き樹脂基体をガラス基体から剥離するときに、粘着層付き樹脂基体が切れ込みで破断した。対して実施例1~4では破断せず容易に剥離することができた。実施例5では切れ込みが18mmあり、テープ幅20mmに対して90%と長かったため、剥離力によって破断したと推定される。したがって、実施例1~4のように切れ込みと非切れ込みの割合を設定することで、容易に剥離できることが分かった。
【符号の説明】
【0142】
1:基体
2:基体の第1の主面
3:基体の第2の主面
4:粘着層
5:樹脂基体
6:切れ込み、開口部
7:機能層
8:印刷部
9:空気
10:粘着層付き樹脂基体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7