(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121966
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】熱伝導性積層絶縁基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20230825BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20230825BHJP
H01L 23/15 20060101ALI20230825BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20230825BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230825BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230825BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H01L23/14 C
H01L23/12 C
H05K1/03 630J
B32B7/027
B32B18/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025356
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】茂木 弘
(72)【発明者】
【氏名】内田 修
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 篤
(72)【発明者】
【氏名】茂木 正樹
【テーマコード(参考)】
4F100
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AA12B
4F100AA13A
4F100AA17A
4F100AA18A
4F100AA19A
4F100AA20A
4F100AD00A
4F100AD03B
4F100AD04B
4F100AD05A
4F100AK52B
4F100AN02B
4F100AR00B
4F100BA02
4F100DE01A
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ082
4F100EJ08B
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4F100EJ42A
4F100JJ01A
4F100JK07B
5F136BB04
5F136FA14
5F136FA16
5F136FA18
5F136FA53
5F136FA82
5F136GA31
(57)【要約】
【課題】熱抵抗値が小さく、熱伝導性に優れる熱伝導性積層絶縁基板を提供することを目的とする。
【解決手段】弾性層を有する熱伝導性積層絶縁基板であって、前記熱伝導性積層絶縁基板は、熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に直接、前記弾性層が積層されているものである熱伝導性積層絶縁基板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性層を有する熱伝導性積層絶縁基板であって、
前記熱伝導性積層絶縁基板は、熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に直接、前記弾性層が積層されているものであることを特徴とする熱伝導性積層絶縁基板。
【請求項2】
前記熱伝導性セラミックス絶縁基板は、金属酸化物および金属窒化物から選ばれる1種以上の熱伝導性粉末、及びバインダー樹脂を含むスラリーの焼結体からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性積層絶縁基板。
【請求項3】
前記熱伝導性粉末は、アルミナ粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末のうち1種以上を含むものであることを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性積層絶縁基板。
【請求項4】
前記スラリーは、焼結助剤として、シリカ、マグネシアおよび酸化イットリウムのうち1種以上を更に含むものであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の熱伝導性積層絶縁基板。
【請求項5】
前記弾性層は、液状シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性積層絶縁基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導性積層絶縁基板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成する方法が知られている。
【0003】
一方、高い熱伝導率を有するダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)などから構成されるセラミックス基板は、単独ではその硬さのため電子部品などとの接触界面における応力に追従できず、接触熱抵抗が高くなり、セラミックスの高放熱性を生かすことができない。
【0004】
応力緩衝層として、シリコーンゴムシートを金属基板やセラミックス基板に接着剤を用いて接着した積層型の回路基板が提案されている(特許文献1)。しかしながら、接着剤を介してシリコーンゴムシートを積層したセラミックス基板は、安定した密着性が得られなかったり、プレス時に流れや膨張によるシリコーンゴムシートの剥離に伴う欠陥を生じ、熱抵抗が大きくなるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、接着剤を介してシリコーンゴムシートを積層したセラミックス基板は、安定した密着性が得られなかったり、プレス時に流れや膨張によるシリコーンゴムシートの剥離に伴う欠陥を生じ、熱抵抗が大きくなるといった問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、熱抵抗値が小さく、熱伝導性に優れる熱伝導性積層絶縁基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、
弾性層を有する熱伝導性積層絶縁基板であって、
前記熱伝導性積層絶縁基板は、熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に直接、前記弾性層が積層されているものである熱伝導性積層絶縁基板を提供する。
【0009】
このような熱伝導性積層絶縁基板であれば、熱抵抗値が小さく、熱伝導性に優れる熱伝導性積層絶縁基板を提供できる。
【0010】
また、前記熱伝導性セラミックス絶縁基板は、金属酸化物および金属窒化物から選ばれる1種以上の熱伝導性粉末、及びバインダー樹脂を含むスラリーの焼結体からなるものであることが好ましい。
【0011】
このような熱伝導性セラミックス絶縁基板を有する熱伝導性積層絶縁基板であれば、熱伝導率がより大きい熱伝導性積層絶縁基板を提供できる。
【0012】
また、前記熱伝導性粉末は、アルミナ粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末のうち1種以上を含むものであることが好ましい。
【0013】
このような熱伝導性セラミックス絶縁基板を有する熱伝導性積層絶縁基板であれば、熱伝導率がより大きい熱伝導性積層絶縁基板を提供できる。
【0014】
また、前記スラリーは、焼結助剤として、シリカ、マグネシアおよび酸化イットリウムのうち1種以上を更に含むものであることが好ましい。
【0015】
このような焼結助剤を用いて焼結した熱伝導性セラミックス絶縁基板を有する熱伝導性積層絶縁基板であれば、熱伝導率がより大きい熱伝導性積層絶縁基板を提供できる。
【0016】
また、前記弾性層は、液状シリコーンゴム組成物の硬化物であることが好ましい。
【0017】
このような弾性層を有する熱伝導性積層絶縁基板であれば、弾性変形能を有するため効率よく熱を伝達することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の熱伝導性積層絶縁基板であれば、熱抵抗値が小さく、接触熱抵抗が抑制され、熱伝導性に優れるため、電子部品などからの発熱が熱伝導性積層絶縁基板に素早く伝わり、放熱することができる熱伝導性積層絶縁基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の熱伝導性積層絶縁基板の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、熱抵抗値が小さく、熱伝導性に優れる熱伝導性積層絶縁基板が求められていた。
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、下記の熱伝導性積層絶縁基板であれば、上記課題を達成でき、回路基板として好適なものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
即ち、本発明は、
弾性層を有する熱伝導性積層絶縁基板であって、
前記熱伝導性積層絶縁基板は、熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に直接、前記弾性層が積層されているものである熱伝導性積層絶縁基板である。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[熱伝導性積層絶縁基板]
図1に示したように、本発明の熱伝導性積層絶縁基板10は、熱伝導性セラミックス絶縁基板1の表面に直接、弾性層2が積層されているものである。すなわち、本発明の熱伝導性積層絶縁基板10は、熱伝導性セラミックス絶縁基板1と弾性層2の間に接着剤層はない。
【0025】
[熱伝導性セラミックス絶縁基板]
熱伝導性セラミックス絶縁基板としては、金属酸化物および金属窒化物から選ばれる1種以上の熱伝導性粉末、及びバインダー樹脂を含むスラリーの焼結体からなるものを用いることができる。
【0026】
上記熱伝導性粉末は、電気絶縁性を有し、熱伝導性を示すものであれば特に限定されるものではないが、金属酸化物および金属窒化物等の熱伝導性粉末が好ましく、なかでも、アルミナ粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ケイ素粉末がより好ましい。
【0027】
上記バインダー樹脂としては特に限定されないが、ブチラール樹脂が好ましく、例えば、積水化学工業(株)製エスレックB等の市販品を使用してもよい。
【0028】
また、前記スラリーは、焼結を促進し、安定化させるための焼結助剤を更に含んでもよく、上記焼結助剤としては、シリカ、マグネシア、酸化イットリウム等が好適に使用できる。
【0029】
前記スラリーは、上記の成分以外に溶剤、可塑剤、分散剤等を含んでいてもよく、上記溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールが好ましい。また、上記可塑剤としてはフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等が使用できる。
【0030】
[熱伝導性セラミックス絶縁基板の製造方法]
熱伝導性セラミックス絶縁基板は、例えば、熱伝導性粉末、バインダー樹脂、ならびに必要に応じて焼結助剤、溶剤、およびその他の成分をボールミルポット内で混合し、得られたスラリーをドクターブレード法でシート状に成形し、所定の寸法に切断後、脱脂工程、焼結工程を経て製造することができる。
【0031】
脱脂工程は、100~800℃での加熱により行うことが好ましく、焼結工程は、1,500℃~2,000℃の温度で、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行う事が好ましい。
【0032】
熱伝導性セラミックス絶縁基板の熱伝導率は、100W/m・k以上が好ましく、より好ましくは150W/m・k以上である。熱伝導率の上限については特に限定されないが、通常、500W/m・k程度である。
【0033】
[弾性層]
本発明の熱伝導性積層絶縁基板は、熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に、接着剤等を介さず直接、弾性層が積層されているものである。
【0034】
弾性層としては、例えば、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム等の弾性体を用いることができるが、中でも、液状シリコーンゴム組成物の硬化物を用いることが好ましい。
【0035】
液状シリコーンゴム組成物としては、硬化時に副生成物がない点、短時間で硬化する点から、自己接着タイプの付加硬化型液状シリコーンゴムが好ましい。
【0036】
また、熱伝導率が1.0W/m・K以上である液状シリコーンゴム組成物が好ましく、より好ましくは3.0W/m・K以上のものである。このような液状シリコーンゴム組成物としては、特に限定されないが、例えば窒化アルミニウム等の熱伝導性充填剤を含むものが挙げられ、電子部品などから発生した熱を、弾性層を介してより容易に伝えることができる。
【0037】
熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面へ弾性層を積層する方法としては、液状シリコーンゴム組成物を熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面にスクリーン印刷などでコーティングし、硬化させればよく、これにより、接着剤などを介さず直接、弾性層を形成することができる。
【0038】
液状シリコーンゴム組成物の硬化は、公知の条件で行えばよく、特に限定されないが、付加硬化型シリコーンゴム組成物の場合の一例としては、100~180℃において10分~5時間の条件で硬化させることが出来る。
【実施例0039】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
なお、動粘度はキャノン・フェンスケ粘度計を用いて測定した25℃における値であり、得られた熱伝導性積層絶縁基板の熱抵抗値は、ASTM D5470に従って50℃/100psiの条件で測定した。
【0041】
[実施例1]
窒化アルミニウム粉末97質量%と酸化イットリウム粉末3質量%とからなる混合物100質量部に、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製エスレックB)10質量部、エタノール60質量部及びフタル酸ジオクチル12質量部を添加した後、ボールミル中で50時間混練してスラリーを作製した。
【0042】
次いで、得られたスラリーを真空脱泡機で処理して溶剤を一部飛散させ、動粘度30,000mm2/sとしたスラリーから、ドクターブレードを用いて厚さ0.7mmのグリーンシートを作製し、このグリーンシートから100×100mmを切り出し、大気中で700℃で脱脂処理を行い、次いで窒素ガス中で1,850℃で焼結した。得られた焼結体の両面を研磨し、厚さ0.7mmの熱伝導性セラミックス絶縁基板を作製した。
【0043】
得られた熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に液状シリコーンゴム組成物(信越化学工業(株)製KE1867、熱伝導率:2.2W/m・k)をスクリーン印刷で塗布し、150℃で硬化させ、厚さ0.45mmの弾性層を形成した(厚さ0.45mm)。得られた熱伝導性積層絶縁基板の熱抵抗値は1.5cm2・k/Wであった。
【0044】
[実施例2]
酸化アルミニウム粉末96質量%、シリカ粉末3質量%及びマグネシア粉末1質量%とからなる混合物100質量部に、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製エスレックB)8質量部、エタノール60質量部及びフタル酸ジオクチル12質量部を添加した後、ボールミル中で50時間混練してスラリーを作製した。
【0045】
次いで、得られたスラリーを真空脱泡機で処理して溶剤を一部飛散させ、動粘度30,000mm2/sとしたスラリーから、ドクターブレードを用いて厚さ0.7mmのグリーンシートを作製し、このグリーンシートから100×100mmを切り出し、大気中で700℃で脱脂処理を行い、次いで窒素ガス中で1,630℃で焼結した。得られた焼結体の両面を研磨し、厚さ0.7mmの熱伝導性セラミックス絶縁基板を作製した。
【0046】
得られた熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に液状シリコーンゴム組成物(信越化学工業(株)製KE1867、熱伝導率:2.2W/m・k)をスクリーン印刷で塗布し、150℃で硬化させ、厚さ0.45mmの弾性層を形成した(厚さ0.45mm)。得られた熱伝導性積層絶縁基板の熱抵抗値は2.3cm2・k/Wであった。
【0047】
[実施例3]
窒化ケイ素粉末95質量%と酸化イットリウム粉末5質量%とからなる混合物100質量部に、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製エスレックB)10質量部、エタノール60質量部及びフタル酸ジオクチル12質量部を添加した後、ボールミル中で50時間混練してスラリーを作製した。
【0048】
次いで、得られたスラリーを真空脱泡機で処理して溶剤を一部飛散させ、動粘度30,000mm2/sとしたスラリーから、ドクターブレードを用いて厚さ0.7mmのグリーンシートを作製し、このグリーンシートから100×100mmを切り出し、大気中で700℃で脱脂処理を行い、次いで窒素ガス中で1,850℃で焼結した。得られた焼結体の両面を研磨し、厚さ0.7mmの熱伝導性セラミックス絶縁基板を作製した。
【0049】
得られた熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に液状シリコーンゴム組成物(信越化学工業(株)製KE1867、熱伝導率:2.2W/m・k)をスクリーン印刷で塗布し、150℃で硬化させ、厚さ0.45mmの弾性層を形成した(厚さ0.45mm)。得られた熱伝導性積層絶縁基板の熱抵抗値は2.0cm2・k/Wであった。
【0050】
[比較例1]
実施例1と同様の方法により得られた熱伝導性セラミックス絶縁基板の表面に、予めシリコーンゴム組成物(信越化学工業(株)製TC-45A、熱伝導率:0.8W/m・k)を厚さ0.45mmに成形したシリコーンゴムシートをエポキシ樹脂系接着剤を用いて接着し、熱伝導性積層絶縁基板を作製した。得られた熱伝導性積層絶縁基板の熱抵抗値は4.5cm2・k/Wであった。
【0051】
比較例1の熱伝導性積層絶縁基板の熱抵抗値は4.5cm2・k/Wであった。一方、実施例1~3の熱抵抗値は1.5~2.3cm2・k/Wであったことから、本発明の熱伝導性積層絶縁基板は、接着剤を用いた熱伝導性積層絶縁基板よりも熱抵抗値が低いことが示された。また、熱抵抗値が低いほど熱伝導率は高いことから、本発明の熱伝導性積層絶縁基板は、熱伝導性に優れることが示された。
【0052】
以上の結果より、本発明であれば、熱抵抗値が小さいため、接着剤等を用いた従来の熱伝導性積層絶縁基板よりも接触熱抵抗が抑制され、熱伝導性に優れる熱伝導性積層絶縁基板を得られることが示された。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。