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特開2023-122021タンタル酸リチウム基板及び単結晶基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122021
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】タンタル酸リチウム基板及び単結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 33/02 20060101AFI20230825BHJP
   C30B 29/30 20060101ALI20230825BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
C30B33/02
C30B29/30 B
C01G35/00 C
C01G35/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025442
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】山木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝之
(72)【発明者】
【氏名】木村 信
【テーマコード(参考)】
4G048
4G077
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD02
4G048AE05
4G077AA02
4G077AB06
4G077BC37
4G077CF10
4G077FE08
4G077FG11
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】焦電性による不具合の改善のため所定の体積抵抗率を有し、基板間の体積抵抗率のばらつきを小さく、かつ色むら不良の発生を抑制すること。
【解決手段】単結晶基板の製造方法は、チョクラルスキー法で育成した圧電性単結晶を用いて単結晶基板を製造する製造方法であって、基板の状態に加工された前記単結晶基板を還元処理する第1の還元処理工程と、前記第1の還元処理工程で還元処理された基板を再度還元処理する第2の還元処理工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法で育成した単結晶を用いて単結晶基板を製造する製造方法であって、
基板の状態に加工された前記単結晶基板を還元処理する第1還元処理工程と、前記第1還元処理工程で還元処理された基板を再度還元処理する第2還元処理工程を含むことを特徴とする単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2還元処理工程は、前記第1還元処理工程で処理された後、基板表面を表面加工する工程後に行われることを特徴とする請求項1記載の単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記第1還元処理工程と前記第2還元処理工程は、アルミニウム粉末及び酸化アルミニウム粉末の混合粉中に埋め込み還元処理することを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
タンタル酸リチウム基板であって、
同時に生産された複数の前記タンタル酸リチウム基板の体積抵抗率の平均値は、1.5×1010Ω・cm以下であり、前記体積抵抗率の標準偏差が、1.6×10Ω・cm以下であるタンタル酸リチウム基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル酸リチウム基板および単結晶基板の製造方法に係り、特に、電気的特性に優れたタンタル酸リチウム基板及び単結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶基板は、種々の用途に利用されている。例えば、タンタル酸リチウム(以下、LTと略称することがある)単結晶やニオブ酸リチウム(以下、LNと略称することがある)は、強誘電体であり、圧電性を有し、これらの単結晶を用いて製造されたタンタル酸リチウム基板やニオブ酸リチウム基板の用途は、主に、携帯電話の送受信用のデバイスに用いられる表面弾性波素子(SAWフィルター)の材料である。
【0003】
上記LT単結晶やLN単結晶は、産業的には、主にチョクラルスキー法によって育成される。例えば、LT単結晶は、チョクラルスキー法によって、酸素濃度が数%~20%程度の窒素-酸素混合ガス雰囲気の電気炉中で育成されており、通常、高融点のイリジウム坩堝が用いられ、育成後、電気炉内で所定の冷却速度で冷却された後、電気炉から取り出されて得られている。
【0004】
育成されたLT結晶は、無色透明若しくは透明度の高い淡黄色を呈している。育成後、結晶の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、更に単一分極とするためのポーリング処理、すなわち、LT結晶を室温からキュリー温度以上の所定温度まで昇温し、結晶に電圧を印加し、電圧を印加したままキュリー温度以下の所定温度まで降温した後、電圧印加を停止して室温まで冷却する一連の処理を行う。ポーリング処理後、結晶の外径を整えるために外周研削されたLT結晶(インゴットと称する)は、スライス、ラップ、ポリッシュ工程等の機械加工を経て基板となる。最終的に得られた基板はほぼ無色透明で、その体積抵抗率はおよそ1014~1015Ω・cm程度である。
【0005】
このような従来の方法で得られた基板では、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいて、LT結晶やLN結晶の特性である焦電性のため、プロセスで受ける温度変化によって電荷が基板表面にチャージアップし、これにより生ずる放電が原因となって基板表面に形成した櫛形電極が破壊され、更には基板の割れ等が発生し、素子製造プロセスでの歩留まり低下が起きている。
【0006】
そこで、LT結晶やLN結晶の上記焦電性による不具合を解消するため、導電率を増大させる技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1のアルミニウム粉末(Al粉)及び酸化アルミニウム粉末(Al粉)とからなる混合粉中に基板を埋め込んで還元処理する手法が提案されている。この還元処理は、一般には、単結晶をスライス加工して円形の基板の状態に加工される。この還元処理により、基板の体積抵抗率はおよそ1010Ω・cm~1011Ω・cm程度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4063191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、表面弾性波素子(SAWフィルター)製造プロセスにおいての歩留まり向上のため、LT結晶やLN結晶の特性である体積抵抗率をより低くしたい要求や、基板間での体積抵抗率のばらつきを小さくしたい要求がある。例えば、LT基板の体積抵抗率を1×10Ω・cm前後にしたい要求がある。
【0009】
Al粉とAl粉との混合粉中にLT結晶を埋め込んで熱処理する特許文献1の方法では、Al粉混合比を高くすることにより体積抵抗率1×10Ω・cm程度のLT基板が得られている。しかし、Al粉混合比が高くなるに従い、直径1~5mm程度の黒点(色むら、すなわち還元むら)が発生し易くなり、生産性を悪化させる問題が存在した。また、基板間の体積抵抗率のばらつきについては、Al粉混合比が高くなるに従い大きくなる傾向にある。更に、熱処理を同一条件で行っても基板間にばらつきが生じてしまうことがある。
【0010】
そこで、本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記焦電性による不具合の改善のため所定の体積抵抗率を有し、基板間の体積抵抗率のばらつきを小さく、かつ色むら不良の発生を抑制することができるタンタル酸リチウム基板と単結晶基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様によれば、チョクラルスキー法で育成した単結晶を用いて単結晶基板を製造する製造方法であって、基板の状態に加工された単結晶基板を還元処理する第1還元処理工程と、第1の還元処理工程で還元処理された基板を再度還元処理する第2還元処理工程を含むことを特徴とする単結晶基板の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の態様において、第2還元処理工程は、第1還元処理工程で処理された後、基板表面を表面加工する工程後に行われてもよい。また、第1還元処理工程と第2還元処理工程は、アルミニウム粉末及び酸化アルミニウム粉末の混合粉中に埋め込み還元処理する構成でもよい。
【0013】
本発明の態様によれば、タンタル酸リチウム基板であって、同時に生産された複数のタンタル酸リチウム基板の体積抵抗率の平均値は、1.5×1010Ω・cm以下であり、体積抵抗率の標準偏差が、1.6×10Ω・cm以下であるタンタル酸リチウム基板が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタンタル酸リチウム基板及び単結晶基板の製造方法では、焦電性による不具合の改善のため所定の体積抵抗率を有し、基板間の体積抵抗率のばらつきを小さく、かつ色むら不良の発生を継続して抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。また、以下の説明において、「A~B」との記載は、「A以上B以下」を意味する。
【0016】
まず、一般的なタンタル酸リチウム単結晶基板(LT基板)の製造方法を以下説明する。LT基板の製造方法は、主にチョクラルスキー法によって育成されたLT単結晶を用い、LT単結晶を加工することによりLT基板を得る。
【0017】
育成されたLT単結晶は、結晶の熱応力による残留歪みを取り除くため、融点に近い均熱下で熱処理を行い、その後、単一分極とするためのポーリング処理が行われる。
【0018】
LT基板の製造方法は、上記、熱処理及びポーリング処理されたLT単結晶を用い、結晶の外径を整えるための外周研削工程、ワイヤーソー等により基板の状態に加工するスライス工程、板厚を揃え表面を整えるラップ工程、基板表面を鏡面加工するポリッシュ工程等の機械加工工程を経て基板となる。最終的に得られた基板はほぼ無色透明で、その体積抵抗率はおよそ1014~1015Ω・cm程度である。還元処理工程は、LT基板の焦電性による不具合を解消するため行われ、一般的には、LT単結晶をワイヤーソー等により基板の状態に加工されたスライス工程後に行われている。
【0019】
本実施形態の圧電性単結晶の製造方法(以下、「本製造方法」と略記することがある)では、従来の還元処理(第1還元処理)に加え、第1還元処理後に第2還元処理を行うことを特徴とする。本製造方法に用いることができる単結晶基板は、例えば、タンタル酸リチウム単結晶基板(LT単結晶基板)、ニオブ酸リチウム単結晶基板(LN単結晶基板)等の圧電性を有する単結晶基板(圧電性単結晶基板)である。以下の本製造方法では、タンタル酸リチウム単結晶基板(LT基板)の事例について説明する。
【0020】
本製造方法は、単結晶基板の製造方法であって、下記の(A)から(C)の3工程を備えている。
(A)第1還元処理工程
(B)表面加工工程
(C)第2還元処理工程
以下、各工程について説明する。
【0021】
(A)第1還元処理
第1還元処理工程は、スライス工程後のワイヤーソー等により基板の状態に加工されたLT基板をAl粉とAl粉の混合粉中(以下、「混合粉」と略記することがある)に埋め込み熱処理することで還元する工程である。
【0022】
混合粉のAl粉比率は、混合粉の全体の質量を100質量%に換算したときに、好ましくは25質量%未満、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは5~20質量%の範囲である。混合粉のAl粉比率が25質量%以上では、充分な導電性を得ることができるが、Al粉比率の上昇に伴い、色むら不良の発生率が増加する傾向であった。
【0023】
なお、混合粉におけるAl粉とAl粉との混合割合は、Al粉やAl粉のロット間ばらつき、保管状態やLT基板のばらつき等により、同一条件で還元処理しても処理後の基板における体積抵抗率が変動することがある。そこで、まず、少量の単結晶基板で還元処理を実施、その体積抵抗率を確認した上で、混合粉中のAl粉比率を所定の体積抵抗率になるように調整するのが好ましい。
【0024】
処理温度は、LT基板のキュリー温度約600℃未満とする。熱処理時の雰囲気は、真空条件あるいは不活性ガスの封止でも良いし、大気圧雰囲気下で不活性ガスを連続的に給排してもよい。真空条件あるいは不活性ガスの封止した場合、加熱炉内の熱が一か所に溜まって還元ムラを起こし易いので、不活性ガスを大気圧雰囲気下の加熱炉内に連続的に給排することが好ましい。不活性ガスを連続的に供給することで炉内の熱を均一にすることができる。不活性ガスは、アルゴンガスや窒素ガス等を使用できる。加熱炉内に連続的に給排される不活性ガスの流量は、不活性ガスがアルゴンガスである場合、0.5~5L/minであることが好ましい。
【0025】
(B)表面加工工程
表面加工工程は、前工程で還元処理された基板の表面加工を行う工程である。表面加工とは、基板の加工前後において、厚み、厚みムラ、平坦度、平滑度、及び表面清浄度の少なくともいずれか一つが変化する加工を含む。例えばラップ工程(ラップ加工)やポリッシュ工程(ポリッシュ加工)がこの表面加工に該当する。表面加工として好ましくは、基板の加工前後において、厚み低下、厚みムラ減少、平坦度増加、平滑度増加、表面清浄度増加の少なくとも一つが施されることであり、より好ましくは全てが施されることである。一般的には、厚み設定と厚みムラ、平坦度等を向上させるラップ加工、その後、片面もしくは両面を鏡面加工するポリッシュ加工を経てLT基板を得ることができる。なお、本製造方法において、表面加工工程を含むか否かは任意である。
【0026】
(C)第2還元処理工程
第2還元処理工程は、前工程で表面加工された基板に対して、第1還元処理工程と同様に、基板をAl粉とAl粉の混合粉中に埋め込み熱処理することで還元する工程である。好ましい条件範囲は、第1還元処理工程と同様である。
【0027】
第2還元処理工程を行うタイミングは、第1還元処理工程後であれば、限定されない。例えば、第2還元処理工程は、第1還元処理工程と第2還元処理工程を連続して行ってもよい。また、第1還元処理工程、表面加工工程、第2還元処理工程と、表面加工工程を挟んで行ってもよい。なお、実施例に示すように第1還元処理工程、表面加工工程、第2還元処理工程を行った方が、体積抵抗率をより小さく、かつ、ばらつきを小さくすることが可能である。
【0028】
なお、還元処理工程は、上述したように、Al粉及びAl粉とからなる混合粉中に基板を埋め込んで還元処理する手法である。Al粉とAl粉のばらつきや、埋め込み時の基板間の距離等のばらつき、更に、ワイヤーソーで加工した状態の基板を還元処理するため、ワイヤーソーで加工した状態の基板の板厚のばらつき等体積抵抗率のばらつく要因は複数あり様々である。
【0029】
そこで、発明者は、複数の試験を行った結果、LT単結晶をワイヤーソー等により基板の状態に加工されたスライス工程後に行われる、第1還元工程とは別に、再度還元処理する第2還元工程を実施することで、還元処理後の体積抵抗率のばらつきを抑制させることを見出した。第1還元工程とは別に第2還元処理を行うことで、Al粉とAl粉や埋め込み時の基板間の距離は再設定され、第1還元工程のみよりも還元処理が進み、体積抵抗率のばらつきが抑えられたものと推測する。更に、第1還元処理工程、表面加工工程、第2還元処理工程の順で行った場合、第1還元処理工程、第2還元処理工程と2回の還元処理工程を連続行った場合よりも体積抵抗率のばらつきをさらに顕著に抑制させることができる。これは、表面加工工程で基板厚みを均一に加工しており、還元処理がより均一に処理できたためと推測される。
【0030】
なお、表面加工工程後、第2還元処理を行う場合、還元処置は、LT基板を混合粉内に埋め込むため、LT基板の表面に微細な傷等が発生する場合がある。このため、本製造方法では、第2還元処理後に、再度表面加工工程を行ってもよい。例えば、第1還元処置後の表面加工工程では、ラップ工程により板厚寸法を所定の値に揃え、厚みムラ減少させる加工を行い、第2還元処置後の表面加工工程では、ポリッシュ工程にて鏡面加工を行ってもよい。
【0031】
以上のように、本実施形態に係る単結晶基板の製造方法は、チョクラルスキー法で育成した単結晶を用いて単結晶基板を製造する製造方法であって、基板の状態に加工された単結晶基板を還元処理する第1還元処理工程と、第1還元処理工程で還元処理された基板を再度還元処理する第2還元処理工程を含む。なお、本実施形態の単結晶基板の製造方法において、上記以外の構成は、任意の構成である。本実施形態に係る単結晶基板の製造方法は、上記焦電性による不具合の改善のため所定の体積抵抗率を有し、基板間の体積抵抗率のばらつきを小さく、かつ色むら不良の発生を抑制することができる。
【0032】
(タンタル酸リチウム基板)
次に、本実施形態のタンタル酸リチウム基板について説明する。なお、本実施形態のタンタル酸リチウム基板の説明では、他で説明した事項については、適宜、簡略化、省略化して説明するが、本実施形態のタンタル酸リチウム基板では、本明細書中に記載の事項を適用可能である。
【0033】
本実施形態のタンタル酸リチウム基板は、上記製造方法を用いて製造されたLT基板であり、同時に複数が生産されてもよい。本実施形態のタンタル酸リチウム基板は、同時に複数が生産された基板の体積抵抗率の平均値は、1.5×1010Ω・cm以下、好ましくは1.0×1010Ω・cm以下であり、同時に生産された前記タンタル酸リチウム基板の標準偏差が、1.6×10Ω・cm以下、好ましくは1.0×10Ω・cm以下である。また、タンタル酸リチウム基板の体積抵抗率の最大値は、1.7×1010Ω・cm以下、好ましくは1.1×1010Ω・cm以下である。なお、同時に生産されたとは、同一材料から同一の製造条件で複数生産したことを意味する。
【0034】
また、同時に生産された基板の枚数、及びそれらの体積抵抗率の値(平均値、標準偏差、最大値、最小値を含む)の算出方法には、特に限定はない。例えば、還元処理は、1回に50枚から100枚同時に生産されており、この中より10枚抜き取った時の体積抵抗率をしても良い。上記製造方法で説明したように、従来の還元処理1回に対し、本発明のタンタル酸リチウム基板は、体積抵抗率をより低く、かつ、基板間での体積抵抗率のばらつきを小さくすることが可能となる。
【0035】
なお、混合粉のAl粉比率は従来条件と同様のため色むら不良の発生を抑制することができる。また、上述の製造方法において説明したように、本実施形態のタンタル酸リチウム基板は、表面加工が施されていてもよく、ラップ加工面、ポリッシュ加工面などの表面加工面を備えてもよい。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るタンタル酸リチウム基板は、タンタル酸リチウム基板であって、同時に生産された複数の前記タンタル酸リチウム基板の体積抵抗率は、体積抵抗率が1.5×1010Ω・cm以下であり、前記体積抵抗率の標準偏差が、1.6×10Ω・cm以下である。本実施形態に係るタンタル酸リチウム基板は、上記焦電性による不具合の改善のため所定の体積抵抗率を有し、基板間の体積抵抗率のばらつきを小さく、かつ色むら不良の発生を抑制して製造することができる。
【実施例0037】
以下に示す実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
コングルエント組成のLT原料を用いて、チョクラルスキー法で、直径6インチのLT単結晶育成を行った。育成雰囲気は、酸素濃度約3%の窒素-酸素混合ガスである。得られたLT結晶のインゴットは、透明な黄色であった。
【0039】
このLT結晶のインゴットに対して、熱歪み除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、外周研削、スライス、研磨を行って46.3゜RY(Rotated Y axis)のLT基板とした。得られたて46.3゜RYのLT基板は、透明な淡黄色であり、厚みは430~480μmであった。この基板に1回目の第一還元処理を施した。
【0040】
まず、Al粉とAl粉の比率(重量%)において、Al粉比率が5重量%以上25重量%未満になるようにAl粉とAl粉を計量し混合した。なお、Al粉とAl粉との比率は、少量の単結晶基板を還元処理し、体積抵抗率が1010~1011Ω・cmになるように調整した。
【0041】
次に、所定の比率で混合した混合粉を用い、還元処理を行った。ステンレス製容器に基板の状態に加工された基板を上記混合粉に埋め込み、給気口と排気口が設けられている加熱炉に入れた。一般的に市販されているアルゴンガスが給気口を介し加熱炉内に連続的に供給されると共に、排気口を介してアルゴンガスが加熱炉外へ連続的に排気されて、加熱炉内は大気圧雰囲気下に調整した。尚、加熱炉内に給排されるアルゴンガスの流量は1L/min以上に設定した。加熱炉の温度を580℃とし、アルゴンガスを供給し18時間以上の熱処理を行った。
【0042】
以上に記載した通り1回目の第1還元処理を施した後の基板に、ラップ工程及びポリッシュ工程を含む表面加工を行った。表面加工を終えた段階での厚みは340~360μmであった。
【0043】
表面加工後の基板に2回目の第2還元処理を施した。2回目の第2還元処理の条件は上記1回目の第1還元処理として記載した条件範囲内とした。
【0044】
1回50~100枚の基板について同様の方法で処理し、10枚以上の枚数の体積抵抗率を調査した。これを製造ロットが異なるLT結晶のインゴットを用いて2回行った。
【0045】
結果、処理した基板の体積抵抗率などを表1に示す。なお、色ムラ不具合の発生はなかった。
【0046】
[実施例2]
実施例1での第1還元処理を終えた基板において、表面加工を行わずに第2還元処理を行った。2回目の第2還元処理の条件は、1回目の第1還元処理として記載した条件範囲内とした。その後、表面加工工程でラップ工程及びポリッシュ工程を含む表面加工を行った。
【0047】
1回50~100枚の基板について同様の方法で処理し、10枚以上の枚数の体積抵抗率を調査した。これを製造ロットが異なるLT結晶のインゴットを用いて2回行った。
【0048】
結果、処理した基板の体積抵抗率などを表1に示す。なお、色ムラ不具合の発生はなかった。
【0049】
[比較例1]
実施例1とは異なるLT結晶のインゴットを用いて、実施例1における1回目の還元処理までと同様の工程で処理を行った。
【0050】
1回50~100枚の基板について同様の方法で処理し、10枚以上の枚数の体積抵抗率を調査した。これを製造ロットが異なるLT結晶のインゴットを用いて2回行った。
【0051】
結果、処理した基板の体積抵抗率などを表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果、2回の還元処理を実施することで、単結晶基板の還元処理後の体積抵抗率を安定させつつ従来よりも体積抵抗率が低い基板を製造することができることが確認される。特に2回の還元処理の間に表面加工を実施することで、単結晶基板の還元処理後の体積抵抗率を安定させつつ従来よりも体積抵抗率が顕著に低い基板を製造することができることが確認される。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態等で説明した態様に限定されない。上述の実施形態等で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態等で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態等で引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。