IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図1
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図2
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図3
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図4
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図5
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図6
  • 特開-膜厚監視方法および膜厚監視装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122191
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】膜厚監視方法および膜厚監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 17/02 20060101AFI20230825BHJP
   G01N 5/02 20060101ALI20230825BHJP
   C23C 14/52 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
G01B17/02 A
G01N5/02 A
C23C14/52
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025738
(22)【出願日】2022-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
【テーマコード(参考)】
2F068
4K029
【Fターム(参考)】
2F068AA28
2F068BB15
2F068BB17
2F068DD05
2F068FF02
2F068GG04
2F068QQ05
2F068QQ11
2F068QQ22
4K029AA06
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA03
4K029DA12
4K029DB06
4K029EA00
(57)【要約】
【課題】水晶振動子に付着する膜の厚みおよび成膜速度を精度よく算出することができる膜厚監視方法および膜厚監視装置を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る膜厚監視方法は、成膜チャンバ内に設置された圧電結晶上の蒸着膜の厚みを、上記圧電結晶の共振周波数の時間変化に基づいて測定する成膜監視方法であって、上記圧電結晶の厚みおよび音響インピーダンス比を含む下地膜情報を取得し、上記下地膜情報と、上記圧電結晶を基本波発振させたときの第1の共振周波数と、上記圧電結晶をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、上記圧電結晶の上に形成される蒸着膜の音響インピーダンス比と上記蒸着膜の厚みとを算出する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜チャンバ内に設置された圧電結晶上の蒸着膜の厚みを、前記圧電結晶の共振周波数の時間変化に基づいて測定する成膜監視方法であって、
前記圧電結晶の厚みおよび音響インピーダンス比を含む下地膜情報を取得し、
前記下地膜情報と、前記圧電結晶を基本波発振させたときの第1の共振周波数と、前記圧電結晶をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、前記圧電結晶の上に形成される蒸着膜の音響インピーダンス比と前記蒸着膜の厚みとを算出する
成膜監視方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜監視方法であって、
算出した前記蒸着膜の音響インピーダンス比と、あらかじめ設定された前記蒸着膜の音響インピーダンス比の基準値との差が所定以上のときは、算出した前記蒸着膜の音響インピーダンス比を用いて前記蒸着膜の厚みを算出する
成膜監視方法。
【請求項3】
請求項2に記載の成膜監視方法であって、
前記基準値と前記第1の共振周波数とに基づいて算出された前記蒸着膜の膜厚と、前記基準値と前記第2の共振周波数とに基づいて算出された前記蒸着膜の膜厚との差が所定の閾値を超えたとき、算出した前記蒸着膜の音響インピーダンス比と前記基準値との差が所定以上と判定する
成膜監視方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の成膜監視方法であって、
前記下地膜情報は、前記圧電結晶の表面に形成された電極膜の厚みおよび音響インピーダンス比を含む
成膜監視方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれ1つに記載の成膜監視方法であって、
前記蒸着膜は、有機材料膜である
成膜監視方法。
【請求項6】
成膜チャンバ内に設置された圧電結晶上の蒸着膜の厚みを、前記圧電結晶の共振周波数の時間変化に基づいて測定する成膜監視装置であって、
前記圧電結晶の厚みおよび音響インピーダンス比を含む下地膜情報を取得する取得部と、
前記下地膜情報と、前記圧電結晶を基本波発振させたときの第1の共振周波数と、前記圧電結晶をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、前記圧電結晶の上に形成される蒸着膜の音響インピーダンス比と前記蒸着膜の厚みとを算出する演算部と
を具備する成膜監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中または大気中で物質の付着量を水晶振動子の共振周波数の変化量から計測し、付着物質の質量、膜厚、成膜速度など算出する膜厚監視方法および膜厚監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着装置などの成膜装置において、基板に成膜される膜の厚みおよび成膜速度を測定するために、水晶振動子を用いた微量な質量変化を計測するQCM(Quartz Crystal Microbalance)という圧電結晶を利用した技術が用いられている(例えば特許文献1参照)。この方法は、チャンバ内に配置されている水晶振動子の共振周波数が、蒸着物の付着による質量の増加によって低下することを利用する。したがって、水晶振動子の共振周波数の変化を測定することにより、膜の厚みおよび成膜速度を測定することが可能となる。
【0003】
QCMを用いた膜厚モニタには、以下の式(1)で示す計算式が用いられている。式中、ρfは膜の密度(g/cm3)、tfは膜の厚み(nm)、ρqは水晶振動子の密度(g/cm3)、tqは水晶振動子の厚さ(nm)、Zは音響インピーダンス比、fqは未成膜時の水晶振動子の周波数(Hz)、fcは成膜後の水晶振動子の周波数(Hz)である。なおカッコ内の単位は、式が成立する様に選択されればその制限は無い。
【0004】
【数1】
【0005】
上記式(1)は、Lu-Lewisの式とも称され、水晶振動子に一層膜が付いたときの計算式である。膜の音響インピーダンス比(Z)が既知の場合は、その値を用いて膜厚を計算することができる。
【0006】
これに対して、成膜される膜の音響インピーダンス比が未知の場合、例えば特許文献1および非特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1に記載の方法は、基本周波数とそのすぐ上にある副共振(一般的に基本波周波数で発振させた周波数値に対し100%~110%の範囲に存在する、振動モードが異なる共振点)の周波数を測定し、そこから膜の音響インピーダンス比を算出するものである。しかし、この方法は、算出過程にいくつかの近似が用いられるため、膜が薄い場合や音響インピーダンス比が有機材料のように大きな値の場合などには適さない。
【0007】
一方、非特許文献1に記載の方法は、3倍波、5倍波などのオーバートーン周波数でも上記式(1)が成り立つことを利用して、例えば3倍波での式と5倍波での式を連立させて音響インピーダンス比を算出するものである。この方法は、基本周波数の直ぐ上の副共振を使うより感度が高いため、膜が薄い場合でも特許文献1の方法よりも音響インピーダンス比を正しく求めることができる。しかし、非特許文献1には多層膜についての式の適用は記載されていない。
【0008】
次に、特許文献2には、膜の音響インピーダンス比が既知である材料については基本周波数を測定することで各層の膜厚を計算し、それを内部に履歴として残すことで、圧電素子への多層成膜においても膜厚・成膜速度を求める方法が開示されている。
さらに特許文献3には、成膜前と成膜後に圧電素子の重さを測り、その差から圧電素子上の層の重さを求め、その値から非線形の式を2分法などでその膜の音響インピーダンス比を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2974253号公報
【特許文献2】特許第3410764号公報
【特許文献3】特許第6355924号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】E.BENS Improved quartz crystal microbalance technique J. Appl. Phys. 56(3), 1 August 1984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、水晶振動子に付く膜が多層であり、各層の材料に音響インピーダンス比が未知のものが含まれている場合でも、各層の膜厚・成膜速度を精度よく算出することが求められている。また、音響インピーダンス比をリアルタイムで測定することで、その変化から膜質の変化や異常の有無を検知できることが好ましい。例えば、音響インピーダンス比が既知の材料を成膜する場合でも、成膜条件の違いにより蒸着膜の密度が微妙に変化することで膜厚や成膜速度の測定値に誤差が生じることがある。
【0012】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水晶振動子に付着する膜の厚みおよび成膜速度を精度よく算出することができる膜厚監視方法および膜厚監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一形態に係る膜厚監視方法は、成膜チャンバ内に設置された圧電結晶上の蒸着膜の厚みを、上記圧電結晶の共振周波数の時間変化に基づいて測定する成膜監視方法であって、
上記圧電結晶の厚みおよび音響インピーダンス比を含む下地膜情報を取得し、
上記下地膜情報と、上記圧電結晶を基本波発振させたときの第1の共振周波数と、上記圧電結晶をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、上記圧電結晶の上に形成される蒸着膜の音響インピーダンス比と上記蒸着膜の厚みとを算出する。
【0014】
算出した上記蒸着膜の音響インピーダンス比と、あらかじめ設定された上記蒸着膜の音響インピーダンス比の基準値との差が所定以上のときは、算出した上記蒸着膜の音響インピーダンス比を用いて上記蒸着膜の厚みが算出されてもよい。
【0015】
上記基準値と上記第1の共振周波数とに基づいて算出された上記蒸着膜の膜厚と、上記基準値と上記第2の共振周波数とに基づいて算出された上記蒸着膜の膜厚との差が所定の閾値を超えたとき、算出した上記蒸着膜の音響インピーダンス比と上記基準値との差が所定以上と判定されてもよい。
【0016】
上記下地膜情報は、上記圧電結晶の表面に形成された電極膜の厚みおよび音響インピーダンス比を含んでもよい。
【0017】
上記蒸着膜は、有機材料膜であってもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る膜厚監視装置は、成膜チャンバ内に設置された圧電結晶上の蒸着膜の厚みを、上記圧電結晶の共振周波数の時間変化に基づいて測定する成膜監視装置であって、取得部と、演算部とを具備する。
上記取得部は、上記圧電結晶の厚みおよび音響インピーダンス比を含む下地膜情報を取得する。
上記演算部は、上記下地膜情報と、上記圧電結晶を基本波発振させたときの第1の共振周波数と、上記圧電結晶をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、上記圧電結晶の上に形成される蒸着膜の音響インピーダンス比と上記蒸着膜の厚みとを算出する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水晶振動子に付着する膜の厚みおよび成膜速度を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係るセンサ装置を備えた成膜装置を示す概略断面図である。
図2】測定ユニットの一構成例を示すブロック図である。
図3】センサヘッドの典型的な等価回路である。
図4】水晶振動子の表面に形成された膜の模式断面図である。
図5】評価関数の一例を示す図である。
図6】上記成膜装置の制御部において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施例を説明する実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態では、成膜監視装置として、成膜装置用の膜厚センサを例に挙げて説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るセンサ装置を備えた成膜装置を示す概略断面図である。本実施形態では、成膜装置10として真空蒸着装置を例に挙げて説明する。まず、成膜装置10の基本構成について説明する。
【0023】
[成膜装置]
成膜装置10は、成膜チャンバ11と、成膜チャンバ11の内部に配置された蒸着源12と、蒸着源12と対向するステージ13と、成膜チャンバ11の内部に配置されたセンサ部としてのセンサヘッド14と、成膜チャンバ11の内部を所定の真空雰囲気に維持する真空ポンプ15と、センサヘッド14の出力に基づいて成膜レートを測定するとともに、蒸着源12を制御可能に構成された測定ユニット17とを有する。本実施形態の膜厚センサ20(膜厚監視装置)は、センサヘッド14および測定ユニット17により構成される。
【0024】
蒸着源12は、成膜材料の蒸気(粒子)を発生させることが可能に構成される。本実施形態において、蒸着源12は、電源ユニット18に電気的に接続されており、成膜材料を加熱蒸発させて蒸着粒子を放出させる蒸発源を構成する。蒸発源の種類は特に限定されず、抵抗加熱式、誘導加熱式、電子ビーム加熱式などの種々の方式が適用可能である。成膜材料は、有機材料、金属材料、金属化合物材料(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等)などであってもよい。
【0025】
ステージ13は、半導体ウエハやガラス基板等の成膜対象である基板Wを、蒸着源12に向けて保持することが可能に構成されている。
【0026】
センサヘッド14は、所定の基本周波数(固有振動数)を有する水晶振動子を内蔵する。水晶振動子の表面は、蒸着源12と対向する位置に配置され、典型的には、ステージ13の近傍に配置される。
【0027】
センサヘッド14の出力は、測定ユニット17へ供給される。測定ユニット17は、水晶振動子の共振周波数(共振点)の変化に基づいて、水晶振動子への付着物(堆積物)の質量を時系列的に測定する測定装置として構成される。測定ユニット17はさらに、蒸着膜の成膜レートを測定するとともに、当該成膜レートが所定値となるように電源ユニット18を介して蒸着源12を制御することが可能に構成される。
【0028】
成膜装置10は、シャッタ16をさらに有する。シャッタ16は、蒸着源12とステージ13との間に配置されており、蒸着源12からステージ13およびセンサヘッド14に至る蒸着粒子の入射経路を開放あるいは遮断することが可能に構成される。
【0029】
シャッタ16の開閉は、図示しない制御ユニットによって制御される。典型的には、シャッタ16は、蒸着開始時、蒸着源12において蒸着粒子の放出が安定するまで閉塞される。そして、蒸着粒子の放出が安定したとき、シャッタ16は開放される。これにより、蒸着源12からの蒸着粒子がステージ13上の基板Wに到達し、基板Wの成膜処理が開始される。同時に、蒸着源12からの蒸着粒子は、センサヘッド14へ到達し、測定ユニット17において基板W上の蒸着膜の膜厚およびその成膜レートが監視される。
【0030】
[測定ユニット]
測定ユニット17は、成膜チャンバ11内に設置された水晶振動子140上の蒸着膜の厚みを、水晶振動子140の共振周波数の時間変化に基づいて測定する成膜監視装置として構成される。
【0031】
図2は、測定ユニット17の一構成例を示すブロック図である。測定ユニット17は、発振回路41と、測定回路42と、制御部43と、記憶部44とを有する。
【0032】
測定ユニット17は、水晶振動子140の共振周波数付近を電気的に掃引することで取得される、水晶振動子140に対する発信と当該発信に対応する水晶振動子140からの受信との相関関係を用いて、水晶振動子140に付着した物質(成膜材料)の質量を測定するように構成される。
【0033】
発振回路41および測定回路42は、ネットワークアナライザとして機能する。発振回路41は、センサヘッド14の水晶振動子140へ所定周波数の正弦波信号を発信、すなわち入力することで水晶振動子140を発振させる。測定回路42は、水晶振動子140の出力信号や発振回路41から出力される入力信号を受信し、これに基づいて、水晶振動子140の共振周波数や位相などの電気的特性を測定して、制御部43へ出力するように構成される。
【0034】
水晶振動子140を構成する材料は、例えば、ATカット型水晶振動子、SCカット型水晶振動子などの圧電素子である。水晶振動子140の基本周波数は、例えば、3MHz以上6MHz以下である。なお、付着する質量が微小である場合は、質量の検出感度を高める意味で水晶振動子の基本周波数は高い値とされる。例えば気中に存在する微小質量の検出を行う際には、例えば、数十MHzの基本周波数を有する水晶振動子が選択される。
【0035】
基板Wへの成膜時は、水晶振動子140の表面にも蒸着源12からの成膜材料が付着する。水晶振動子140の表面に付着する成膜材料は、任意の時間間隔で新たに付加された質量として、水晶振動子140の振動周波数を変化させる。また、水晶振動子140の表面における付着物の質量は、付着物の密度と相関を有する。つまり、水晶振動子140の振動周波数の変化を測定すれば、水晶振動子140の表面に付着した成膜材料の膜の厚み(膜厚)を求めることができる。測定ユニット17は、発信することで水晶振動子140を加振し、加振の結果である振動波形から膜厚を間接的に測定する。
【0036】
測定ユニット17は、発信信号として所定周波数の正弦波信号を用い、加振を行う。加振された水晶振動子140は、表面に付着した堆積物を含めた系として応答する。測定ユニット17は、機械的な振動現象を含む水晶振動子140の応答を、水晶振動子140の圧電効果を介した電気的な振動波形として受信する。測定ユニット17は、受信結果である波形を記憶し、記憶された波形の解析を行う。水晶振動子140の振動波形は、記憶部44に記憶される。測定ユニット17は、波形の解析結果に含まれる膜厚を抽出して出力する。
【0037】
記憶部44は、半導体メモリ、ハードディスクドライブなどの記憶装置で構成される。記憶部44は、発振回路41により発信された所定周波数の正弦波信号をセンサヘッド14に入力したときの水晶振動子140の振動波形を含む検出系からの周波数応答を記憶する。記憶部44はさらに、後述する制御部43において実行される各種処理の制御プログラムや演算に必要な各種パラメータなどを記憶する。
【0038】
記憶部44はさらに、水晶振動子140の厚みおよび音響インピーダンス比を含む下地膜情報を記憶する。下地膜情報は、水晶振動子140の表面に形成された電極膜の厚みおよび音響インピーダンス比を含む。
【0039】
図3は、センサヘッド14の典型的な等価回路である。同図に示すように、水晶振動子140は、モーショナル容量C1、モーショナルインダクタンスL1、直列等価抵抗R1から構成される直列共振回路と、スタティック容量C0との並列回路として示される。直列共振回路は、水晶振動子140の機械振動要素を含む等価回路である。スタティック容量C0は、例えば、水晶振動子140の表裏面に形成された電極間の容量と、水晶振動子140を保持するホルダなどが有する寄生容量とを含む。直列等価抵抗R1は、水晶振動子140が振動するときの内部摩擦、機械的な損失、音響損失などの振動の損失成分を示す。一般に、直列等価抵抗R1が高いほど、水晶振動子140は、振動しにくくなる。
【0040】
ここで、蒸着膜の音響インピーダンス比が既知の場合、蒸着膜の厚みは上述のLu-Lewisの式(式(1))を用いて算出される。しかし、成膜条件によっては、蒸着膜の密度が変化する場合があり、この場合は音響インピーダンス比が既知の場合でも(蒸着膜の密度変化に応じた音響インピーダンス比の変動を受ける為に)膜厚の測定値に誤差が生じる。本実施形態の測定ユニット17は、成膜中に蒸着膜の音響インピーダンス比を測定し、音響インピーダンス比の値の変化をモニタリングすることが可能に構成される。
【0041】
図2に示すように、制御部43は、取得部431と、演算部432とを有する。取得部431は、記憶部44から上記下地膜情報を取得する。演算部432は、上記下地膜情報と、水晶振動子140を基本波発振させたときの第1の共振周波数と、水晶振動子140をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、水晶振動子140上に形成される蒸着膜の音響インピーダンス比と蒸着膜の厚みとを算出する。
なお、第1の共振周波数と第2の共振周波数は、振動モードが同一かつ奇数倍波である。第1の共振周波数と第2の共振周波数の組は全て奇数の組み合わせ、すなわち(m=1,3,5,・・)の中からいずれかが選ばれる。
【0042】
オーバートーン発振とは、基本周波数の3倍波や5倍波等のオーバートーン周波数での発振をいい、典型的には、基本周波数の3倍波が用いられる。水晶振動子140を基本波発振させたときの第1の共振周波数と水晶振動子140をオーバートーン発振させたときの第2の共振周波数とに基づいて、蒸着膜の音響インピーダンス比を算出することができる。算出した蒸着膜の音響インピーダンス比および厚みは、記憶部44へ格納される。第2の共振周波数を利用すると、水晶振動子140の基本周波数の直ぐ上の副共振を利用する方式と比較して感度を高くすることができ、蒸着膜が薄い場合でも精度よく蒸着膜の厚みを測定することができる。
【0043】
第2の共振周波数の測定頻度は、第1の共振周波数の測定頻度より低くてもよい。典型的には、第2の共振周波数の測定周期は、第1の共振周波数所定の測定周期よりも長く設定される。具体的には、第1の共振周波数の測定を所定回数行うごとに、第2の共振周波数の測定が行われる。第2の共振周波数の測定回数を少なくすることで、単位時間あたりの第1の共振周波数の測定回数の減少を抑えることができる。単位時間あたりの第2の共振周波数の測定頻度は特に限定されず、要求される膜厚の測定精度やオーバートーン周波数などに応じて任意に設定可能である。
【0044】
本実施形態では、算出した蒸着膜の音響インピーダンス比と、あらかじめ設定された蒸着膜の音響インピーダンス比の基準値との差が所定以上のときは、算出した蒸着膜の音響インピーダンス比を用いて蒸着膜の厚みを算出する。これにより、算出した蒸着膜の音響インピーダンス比に基づいて精度の高い膜厚測定が可能となる。上記基準値は、蒸着膜の音響インピーダンス比が既知の場合はその値が用いられ、その値は、文献値であってもよいし、あらかじめ実験等により測定された測定値であってもよい。
【0045】
この場合、あらかじめ設定された蒸着膜の音響インピーダンス比の基準値と第1の共振周波数とに基づいて算出された蒸着膜の膜厚と、あらかじめ設定された蒸着膜の音響インピーダンス比の基準値と第2の共振周波数とに基づいて算出された蒸着膜の膜厚との差が所定の閾値を超えたとき、算出した蒸着膜の音響インピーダンス比と基準値との差が所定以上と判定するようにしてもよい。このように、具体的な膜厚の算出値の違いに基づいて蒸着膜の音響インピーダンス比のずれを判定することで、要求される膜厚および成膜速度の測定精度を確保することができる。
【0046】
次に、演算部432において実行される演算の具体例について説明する。
【0047】
図4は、水晶振動子140の表面に形成された膜の模式断面図である。ここでは、水晶振動子140の表面に電極膜141、蒸着膜M1、M2が形成される例を説明する。なお、電極膜141は水晶振動子140の両面にあらかじめ形成された金属膜であり、ここでは、所定厚みの銀(Ag)薄膜である。
【0048】
水晶振動子140を1層目とし、これに異なる材料の膜(電極膜141、蒸着膜M1,M2、・・)が順次付くとしたとき、膜が付いていないときの水晶振動子の共振周波数をfq、膜が付いたときの共振周波数をfcとすると、i層目の膜厚tiは、式(2)で計算できる。
【0049】
【数2】
ここで、Im(rri)は複素数rriの虚数部、Re(rri)は、複素数rriの実数部である。
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、ρiは、i層目の膜の密度(特にρ1は水晶振動子140の密度)、Ziは、i層目の膜の音響インピーダンス比(特にZ1は水晶振動子140の音響インピーダンス比)、Zqは、水晶振動子140の音響インピーダンス、kαiは、波数ベクトル(特にkα1は、水晶振動子140の波数ベクトル)、riは、音響インピーダンス比が異なる膜での波の反射率である。
【0050】
式(5)に示すように、複素数rriは漸化式で表せるので、1層目から順に計算することで、i層目の膜厚が求められる。
【0051】
また、これは水晶振動子140の基本波だけでなく、オーバートーン(mまたはk=1,3,5,・・)でも成り立つ。そこで、膜が付いていないときの水晶振動子140のm倍波の共振周波数をfqm、膜が付いたときの水晶振動子140のm倍波の共振周波数をfcmとすると、基本波も含めたm倍波の膜厚の式は、fq1=fqとすると、式(6)、(7)で計算できる。
【数6】
【数7】
【0052】
ここで、基本波を含むオーバートーンの周波数のうち、異なる2つを選び、それらをk倍波およびm倍波としたとき(ただしm≠k)の膜厚をそれぞれThk(Z,N,k)、Thk(Z,N,m)で表すと、
Thk(Z,N,k)=Thk(Z,N,m)・・・(8)
となるときのZの値が、膜の音響インピーダンス比となる。
【0053】
本実施形態では、
評価関数S(Z)=Thk(Z,N,k)/Thk(Z,N,m)-1・・・(9)
とし、S(Z)=0となるZを求めることで、膜の音響インピーダンス比を求める。
例えば、Z=0.001から10の範囲で、2分法でS(Z)=0となるZを解くことができる。
なお、以上の説明では、多層膜の各膜厚を求める式(式(2))は、波を複素数による表現を用いているが、行列によって表現されてもよい。
【0054】
[適用例]
一例として、1層目(i=1)である水晶振動子140の上に、2層目(i=2)である電極膜141を介して、3層目(i=3)である有機膜を成膜したときの当該有機膜の膜厚の算出例について説明する。
【0055】
この例では、表1に示すように、水晶振動子140の単体での(電極膜141が無い状態での)基本波の共振周波数が4.0180MHz、その3倍波の共振周波数が11.8129MHzであったとする。
また、電極膜141としてAg膜が付加された水晶振動子140の基本波の共振周波数が3.9992MHz、その3倍波の共振周波数が11.7576MHzであったとする。
さらに、電極膜141の上に蒸着膜M1(図4参照)として有機膜(Alq3:トリス(8-キノリノラト)アルミニウム (tris (8-hydroxyquinolinato) aluminium))が付着したときの水晶振動子140の基本波の共振周波数が3.8841MHz、その3倍波の共振周波数が10.9540MHzであったとする。
なお、水晶振動子140の厚み(t1)を414831nm、水晶振動子140の密度(ρ1)および音響インピーダンス比(Z1)をそれぞれ2.6500g/cm3および1.000とし、電極膜142の密度(ρ2)および音響インピーダンス比(Z2)をそれぞれ10.4900g/cm3および0.529とし、蒸着膜M1の密度(ρ3)および音響インピーダンス比(Z3)をそれぞれ1.0000g/cm3および1.000とする。
【0056】
【表1】
【0057】
基本波の共振周波数に基づいて算出される電極膜141の膜厚(t2)は以下のようにして算出される。
【0058】
水晶振動子140の音響インピーダンス比(Z1)は、Z1=1.000、電極膜141の音響インピーダンス比(Z2)は、Z2=0.529であることから、式(2)~(5)より、
1=(Z1-Z2)/(Z1+Z2
=(1.000-0.529)/(1.000+0.529)
ka1=2π(fc-fq)fq
=2π(3999200-4018000)/4018000
rr2={r1+rr1 exp(-ka1)}/{1+r1・rr1 exp(-ka1)}
2=(Zq/4πfcZ2ρ2)arctan{Image(rr2 )/Real(rr2 )}
【0059】
これにより、電極膜141の膜厚(t2)が、493nmと求められる。
なお、水晶振動子140および電極膜141の音響インピーダンス比(Z1、Z2)、密度(ρ1、ρ2)、厚み(t1、t2)等はあらかじめ既知のデータとして、記憶部44(図2参照)に格納される。
【0060】
そして、基本波の共振周波数に基づいて算出される蒸着膜M1の膜厚(t3)は以下のようにして算出される。
【0061】
電極膜141の音響インピーダンス比(Z2)は、Z2=0.529、蒸着膜M1の音響インピーダンス比(Z3)は、Z3=1.000であることから、式(2)~(5)より、
2=(Z2-Z3)/(Z2+Z3
=(0.529-1.000)/(0.529+1.000)
ka2=2π(fc-fq)fq
=2π(3884100-4018000)/4018000
rr3={r2+rr2 exp(-ka2)}/{1+r2・rr2 exp(-ka2)}
3=(Zq/4πfcZ3ρ3)arctan{Image(rr3 )/Real(rr3 )}
【0062】
これにより、蒸着膜M1の膜厚(t3)が求められる。算出された第1蒸着膜の膜厚(t3)は記憶部44に格納され、蒸着膜M2の膜厚(t4)の算出に利用される。以後、同様にして、水晶振動子140の上に多層に成膜される蒸着膜M1,M2,・・・の各膜厚を算出することができる。
【0063】
なお、3倍波等のオーバートーン発振させたときの共振周波数に基づく蒸着膜M1の膜厚は、式(6)、(7)を用いて算出される。
【0064】
以上のようにして、水晶振動子140の基本波発振させたときの共振周波数(第1の共振周波数)の変化量と、水晶振動子140をオーバートーン発振させたときの共振周波数(第2の共振周波数)の変化量とに基づいて、水晶振動子140の上に形成される蒸着膜M1の膜厚が算出される。
【0065】
また、上記第1の共振周波数の変化量に基づいて算出される蒸着膜M1の膜厚と、上記第2の共振周波数の変化量に基づいて算出される蒸着膜M1の膜厚との間には、上記式(8)で示したように等価な関係にあるため、この関係を利用することで、蒸着膜M1の音響インピーダンス比を算出することができる。例えば、上記式(9)により、
評価関数S(Z)=(3倍波での膜厚)/(基本波での膜厚)-1
図5に示すようなグラフとなり、S(Z)=0となるのは、Z=5.60のときであることがわかる。このようにして第1、第2の共振周波数に基づいてそれぞれ算出される蒸着膜M1の膜厚により、当該蒸着膜M1の音響インピーダンス比が算出される。
【0066】
蒸着膜の音響インピーダンス比が未知の場合、評価関数S(Z)を用いて算出した蒸着膜の音響インピーダンス比を用いて、例えば式(2)基づいて蒸着膜の膜厚を算出することができる。一方、蒸着膜の音響インピーダンス比が既知の場合、評価関数S(Z)を用いて算出した蒸着膜の音響インピーダンス比と、あらかじめ設定された蒸着膜の音響インピーダンス比の基準値との差を判定し、その差が所定以上のときは、算出した蒸着膜の音響インピーダンス比を用いて蒸着膜の厚みを算出するようにしてもよい。これにより、成膜条件によって変動する蒸着膜の密度などにリアルタイムに追従した高精度な音響インピーダンス比を算出できるため、高精度な膜厚測定が可能となる。
【0067】
[測定ユニットの動作]
続いて、測定ユニット17の典型的な動作について説明する。図6は、制御部43において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0068】
成膜装置10による基板Wの成膜処理を開始すると、制御部43は、水晶振動子140の上に形成される膜が何層目であるかを判定する(ステップ101)。ここでは、蒸着膜M1(i=3)が水晶振動子140の上に成膜される場合(ステップ101においてYes)を例に挙げて説明する。
【0069】
制御部43は、所定周期で水晶振動子140の基本周波数付近の周波数領域を掃引することで、水晶振動子140の共振周波数(第1の共振周波数)を測定する(ステップ102においてNo、ステップ103)。ステップ102におけるカウント数nは、第1の共振周波数の測定回数であり、これが所定値(N)に達するまで第1の共振周波数が繰り返し測定される。
【0070】
制御部43は、第1の共振周波数を測定するごとに、基本周波数(2回目以降は前回測定した第1の共振周波数)からの変化量に基づいて蒸着膜M1の厚み(t3)を算出し、その値を記憶部44へ格納する(ステップ104)。
【0071】
蒸着膜M1の厚みを算出するに際して、制御部43は、記憶部44から水晶振動子140の厚み(t1)、密度(ρ1)および音響インピーダンス比(Z1)、並びに、電極膜141の厚み(t2)、密度(ρ2)および音響インピーダンス比(Z2)を含む下地膜情報を記憶部44から取得する(読み出す)。また、蒸着膜M1の密度(ρ3)および音響インピーダンス比(Z3)が既知の場合、それらの情報を基準値としてそれぞれ記憶部44から取得し、上記下地膜情報を用いて蒸着膜M1の厚み(t3)を算出する。蒸着膜M1の厚みの算出には、例えば、上記式(2)が用いられる。
【0072】
制御部43は、第1の共振周波数に基づく蒸着膜M1の厚みを上記所定の周期で算出しながら基板Wに堆積する蒸着膜M1の厚みを監視する。また、制御部43は、蒸着膜M1の厚みの時間変化から、蒸着膜M1の成膜レートを監視する。蒸着膜M1の厚みの算出は、膜厚が目標値に達するまで繰り返し実行される(ステップ105)。
【0073】
制御部43は、第1の共振周波数に基づく蒸着膜M1の厚みの算出回数が所定値Nに達したとき(ステップ102においてYes)、水晶振動子140のオーバートーン周波数(本実施形態では3倍波)付近の周波数領域を掃引することで、水晶振動子140の共振周波数(第2の共振周波数)を測定する(ステップ106)。
【0074】
制御部43は、第2の共振周波数を測定するごとに、水晶振動子140の三倍波での共振周波数(2回目以降は前回測定した第2の共振周波数)からの変化量に基づいて蒸着膜M1の厚み(t3)を算出し、その値を記憶部44へ格納する(ステップ107)。厚み(t3)の算出には、例えば、上記式(6)が用いられる。
【0075】
続いて制御部43は、算出した蒸着膜M1の厚みと水晶振動子140の第1の共振周波数に基づく最新の厚み算出値とに基づいて、蒸着膜M1の音響インピーダンス比(Z-ratio)を算出する(ステップ108)。音響インピーダンス比の算出には、例えば、上記式(8)に基づく評価関数S(Z)を用いて取得する。
【0076】
制御部43は、算出した音響インピーダンス比が、記憶部44にあらかじめ格納された当該音響インピーダンス比の基準値と比較し、その値のずれが所定範囲であるか否かを判定する(ステップ109)。算出した音響インピーダンス比と基準値との差が所定範囲の場合は(ステップ109においてYes)、記憶部44へ格納された基準値を更新せずに、引き続き蒸着膜M1の厚みの算出に当該基準値を用いる(ステップ110)。一方、算出した音響インピーダンス比と基準値との差が所定範囲を超えている場合は(ステップ109においてNo)、記憶部44へ格納された基準値を当該算出した音響インピーダンス比に更新し、次回からの蒸着膜M1の厚みの算出に当該更新した基準値を用いる(ステップ111)。これにより、成膜条件によって変動する蒸着膜の密度などにリアルタイムに追従した高精度な音響インピーダンス比を算出できるため、高精度な膜厚測定が可能となる。その後、制御部43は、カウント数nを0にリセットし(ステップ112)、ステップ105を経て再び上述の処理を繰り返し実行する。
【0077】
制御部43は、蒸着膜M1の厚み(t3)が目標値に達したと判定したとき(ステップ105においてYes)、蒸着膜M1の成膜処理を終了する。引き続き基板W上に蒸着膜M2の成膜を行う場合には、ステップ101で「i=4」に設定するとともに、蒸着膜M1の密度(ρ3)および音響インピーダンス比(Z3)を下地膜情報に加えて、再び上述の処理を実行する。
【0078】
(実施例)
本発明者は、上述した本実施形態の成膜監視方法によって成膜を行ったときの膜厚とZ-ratio(音響インピーダンス比)との関係を評価した。そのときの結果を図7に示す。
比較として、従来方式の成膜監視方法によって成膜を行ったときの膜厚とZ-ratioとの関係を併せて図7に示す。ここでは、有機膜としてAlq3、水晶振動子として基本周波数が6MHzのものを用いた。
図7において横軸は膜厚、縦軸はZ-ratioである。膜厚0は共振周波数6MHzに相当し、膜厚30μmは、共振周波数が約5.7MHzに相当する。
【0079】
図7に示すように、本実施例では3μm程度の膜厚でZ-ratioが正しく求められたが、比較例では30μm程度の膜厚でZ-ratioが実施例の値に近づくことが確認された。これはつまり、成膜当初はZ-ratioが適正値から大幅にずれこむため、精度の高い膜厚監視がほとんど不可能であるのに対し、本実施例によれば、成膜当初から適正な膜厚算出を安定に行えるため、高精度な膜厚監視を実現できることを示している。
【0080】
特に、有機材料の成膜ではメタル材料の成膜に比べて膜厚精度の要求が厳しく、成膜レートも不安定であった。このため、有機膜が例えば10μm(周波数変化量:約0.1MHz)程度になった時点で水晶振動子を新しい水晶振動子に切り替える方式が主流であり、有機膜の成膜時における水晶振動子の使用膜厚範囲は0~15μm程度であった(図中実線部分)。本実施例によれば、上述のとおり成膜当初から安定した膜厚監視を実現できるため、水晶振動子の使用膜厚範囲において安定した成膜レートで有機膜を成膜することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0082】
例えば以上の実施形態では、電極膜141が表面に形成された水晶振動子140を用いたが、これに限られず、電極膜141が表面に形成されていない水晶振動子140が用いられてもよい。この場合の下地膜情報は、水晶振動子140の厚み(t1)、密度(ρ1)および音響インピーダンス比(Z1)が該当する。
【0083】
また以上の実施形態では、蒸着膜M1が有機膜である場合を例に挙げて説明したが、勿論これに限られず、金属膜や金属化合物膜であってもよい。さらに以上の実施形態では、水晶振動子140を用いて基板上に形成される蒸着膜M1の膜厚監視方法について説明したが、基板上に異なる材料の膜を多層で成膜するときの各層の膜厚監視にも本発明は適用可能である。
【0084】
また本実施形態では図6のステップ109,111に示したように、算出した音響インピーダンス比と記憶部44にあらかじめ格納された当該音響インピーダンス比の基準値とを比較し、その値のずれ(差)が所定範囲であるか否かを判定し、その差が所定範囲を超えている場合は基準値を当該算出した音響インピーダンス比に更新するとしたが、これに後述する処理を追加しても良い。
追加する処理とは、
1)圧電結晶の上に蒸着膜が形成された条件下で、圧電結晶を基本波発振させたときの第1の共振周波数が基本波周波数の近傍である条件が成立し、
2)前記近傍にてステップ108に基づいて、音響インピーダンス比(Z-ratio)を算出し、このZ-ratioを時系列分布として記憶部44へ格納し、Z-ratioについて単位時間あたりの変動率を算出可能とする様に構成し、
3)上述したZ-ratioの変動率に対応する閾値を設け(例えば事前に記憶部44に登録しておく)、閾値の範囲内となった事が確認された後、ステップ109~111に示す処理を開始する、順序とする(当該処理が開始されない時点でのZ-ratioは固定した初期値を用い、初期値の例は物性値から求めた計算結果である)。
この1)~3)の処理を追加する事により、具体的には図7に示す膜厚0~2.5μm付近については、Z-ratioは固定した初期値が利用され、極小の蒸着膜質量の為に第2の共振周波数による測定が安定しない状況下に於いて、不要なZ-ratioの更新を防ぐ事が可能となり、より成膜当初から安定した膜厚監視をする事が実現できる。なおZ-ratio の変動率に対応する閾値は成膜条件よって決定すればよい。
【符号の説明】
【0085】
10…成膜装置
11…成膜チャンバ
12…蒸着源
14…センサヘッド
17…測定ユニット
20…膜厚センサ(膜厚監視装置)
41…発振回路
42…測定回路
43…制御部
44…記憶部
140…水晶振動子
141…電極膜
M1,M2…蒸着膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7