(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122235
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】凍結乾燥状態の検体前処理試薬および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230825BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230825BHJP
G01N 33/82 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
G01N33/50 T
G01N33/48 A
G01N33/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025815
(22)【出願日】2022-02-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宗宮 孝安
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045BA01
2G045BB03
2G045DA57
(57)【要約】
【課題】煩雑な測定操作を必要とせず、かつ測定再現性が良好な、体外診断薬等に使用される凍結乾燥状態の検体前処理試薬を提供する。
【解決手段】アルカリ剤もしくは還元剤と賦形剤を含有する水溶液を容器内に分注した後に凍結させ、その凍結状態を維持したまま、前記容器に還元剤もしくはアルカリ剤のうち、先に添加したものとは異なる剤と賦形剤とを含有する水溶液をさらに分注した後に、凍結乾燥することを特徴とする凍結乾燥状態の検体前処理試薬を提供することにより、前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤と賦形剤を含む水溶液を容器に分注した後に凍結させ、
その凍結状態を維持したまま、前記容器に還元剤と賦形剤とを含有する水溶液をさらに分注した後に、凍結乾燥することを特徴とする、凍結乾燥状態の検体前処理試薬。
【請求項2】
還元剤と賦形剤を含む水溶液を容器に分注した後に凍結させ、
その凍結状態を維持したまま、前記容器にアルカリ剤と賦形剤とを含有する水溶液をさらに分注した後に、凍結乾燥することを特徴とする、凍結乾燥状態の検体前処理試薬。
【請求項3】
前記賦形剤が糖類である、請求項1または2に記載の検体前処理試薬。
【請求項4】
前記糖類が、スクロース、マンニトールから選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の検体前処理試薬。
【請求項5】
同一容器に2つの収納穴がある前記容器に収納されている凍結乾燥試薬であって、
一方の穴に、請求項1から4のいずれか1項に記載の検体前処理試薬と、
もう一方の穴に中和剤が凍結乾燥状態で収納されている検体前処理試薬。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の検体前処理試薬を用いた、ビタミン類の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外診断薬等に使用される凍結乾燥状態の、ビタミン類の遊離に使用する検体前処理試薬であって、アルカリ剤と還元剤を含有した凍結乾燥試薬を、二段分注にて作製することにより煩雑な測定操作を必要とせず、かつ測定再現性を向上させることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
体外診断薬等に使用される検体前処理試薬は、液状形態である検体前処理液として、臨床検査等の分野で広く利用されている。この液状形態である検体前処理液はそのまま使用できる点で測定者への負担は軽いものの、体積と重さの点で運送面においては不利である。また通常はバルク品として供給および使用されているので、環境温度や環境湿度の影響を受けやすい。つまり、開封された状態で使用されるので濃縮の影響を避けることができず、使用継続時間毎に検体前処理液中の有効成分濃度が変動し、使用継続時間毎に正確な測定値から変動していくことが危惧される。
【0003】
また、ビタミン類にはビタミンD代謝産物、ビタミンB12及び葉酸などの小分子がある。血液中のそれらの小分子は、その大部分が特異的又は非特異的に蛋白質、脂質などと結合しているため、それらの小分子を測定するには、小分子を前記タンパク質等から遊離する必要がある。なお、ビタミン類にはそれぞれ特異的な結合タンパク質が存在し、血液中での安定性に貢献している。例えば、ビタミンDバインディングプロテイン(DBP)、ハプトコリンや内因子などが良く知られている。
【0004】
従来知られているビタミン類の結合タンパク質等からの遊離方法として、アルカリ処理と還元処理が報告されており、特にアルカリ剤として水酸化ナトリウム水溶液を用いられる場合が多い。また、変性した結合タンパク質の安定化をはかるために、還元剤としてジチオトレイトール(DTT)を用いる場合が多い。しかしながら、還元剤は水溶液中、特にアルカリ水溶液中では還元力が低下するため、凍結乾燥して保存し、且つアルカリ剤とは別の容器に保存されている。そのためビタミン類の結合タンパク質等からの遊離を実施する前には還元剤とアルカリ剤のどちらか一方又は双方を水などで溶解した後に、それらを混合してから遊離に用いる方法が一般的である。しかし、そのような従来法では、煩雑であり、ビタミン類の結合タンパク質等からの遊離の再現性を低下させ、ビタミン類の測定精度を悪化させるといった問題を有している。よってこれらの問題を解決するための方法が提案されている。
【0005】
特許文献1では、自動分析装置で使用する凍結乾燥状態の検体前処理試薬が報告されている。しかしながら特許文献1においては、検体前処理試薬の組成や製法に関しては、何ら記載されていない。凍結乾燥形態の各種試薬においては、賦形剤としての糖類や蛋白質などが使用されている。糖類や蛋白質などが少ない場合には形状を維持することが困難であり、輸送中に凍結乾燥物が剥離、破砕され容器の壁や蓋に付着することに起因して測定時の有効成分濃度が変動してしまい、正確な測定値から逸脱することが問題となっている。糖類や蛋白質などが多い場合には形状を維持することが可能となるが、その成分や濃度が適切でない場合には再溶解した後の溶解性が悪く、その結果、測定再現性が悪くなり測定対象成分を高精度に測定することが妨げられることが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨床検査の分野において、試薬の測定時における再現性は種々の試薬で求められている。そこで本発明の目的は、煩雑な操作を必要とせず、かつ測定再現性が良好な、体外診断薬等に使用される凍結乾燥状態の検体前処理試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、凍結乾燥状態の検体前処理試薬の製法を最適化することにより、煩雑な操作を必要とせず、かつ測定再現性が良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は以下のとおりである。
(1)アルカリ剤と賦形剤を含有する水溶液を容器に分注した後に凍結させ、
その凍結状態を維持したまま、前記容器に還元剤と賦形剤とを含む水溶液をさらに分注した後に、凍結乾燥することを特徴とする、凍結乾燥状態の検体前処理試薬。
(2)還元剤と賦形剤を含有する水溶液を容器に分注した後に凍結させ、
その凍結状態を維持したまま、前記容器にアルカリ剤と賦形剤とを含む水溶液をさらに分注した後に、凍結乾燥することを特徴とする、凍結乾燥状態の検体前処理試薬。
(3)前記賦形剤が糖類である、(1)または(2)に記載の検体前処理試薬。
(4)前記糖類が、スクロース、マンニトールから選択される、(1)から(3)のいずれか1つに記載の検体前処理試薬。
(5)同一容器に2つの収納穴がある前記容器に収納されている凍結乾燥試薬であって、
一方の穴に、(1)から(4)のいずれか1つに記載の検体前処理試薬と、
もう一方の穴に中和剤が凍結乾燥状態で収納されている検体前処理試薬。
(6)(1)から(5)のいずれか1つに記載の検体前処理試薬を用いた、ビタミン類の測定方法。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の検体前処理試薬は、測定対象である小分子をタンパク質や脂質等から遊離するために使用される。使用にあたって、溶解液を加えて溶解させて検体前処理液として使用する。
【0012】
本発明の検体前処理試薬が用いられる測定対象としては、特に限定されるものではないが、例えば25-ヒドロキシビタミンD、ビタミンB12又は葉酸等があげられる。
【0013】
本発明における凍結乾燥状態の検体前処理試薬は、第一の成分と賦形剤を含む水溶液を容器内に分注した後に凍結させ、その凍結状態を維持したまま、前記容器に第二の成分と賦形剤とを含む水溶液をさらに分注した後に(二段分注ともいう)、凍結乾燥することにより、製造することができる。この製造方法により、第一の成分と第二の成分が液状状態で混ざり合うことなく、底側に第一の成分を含有する凍結乾燥ケーキを形成し、上面に第二の成分を含有する凍結乾燥ケーキを形成することとなり、還元剤のアルカリ剤による劣化を防ぐことができる。第一の成分としてアルカリ剤を選択し、第二の成分として還元剤を選択してもよく、またその逆、つまり、第一の成分として還元剤を選択し、第二の成分としてアルカリ剤を選択してもよい。
【0014】
本発明においてアルカリ剤としては強アルカリ性のものが好ましく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどがあげられる。アルカリ剤は1種類のみ用いてもよく、2種類以上組み合わせても構わない。
【0015】
本発明において還元剤としては、アルカリ剤により変性したサンプルの安定化をはかれるものであればよく、ジチオトレイトール(DTT)やTris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride(TCEP-HCl)などがあげられる。還元剤は1種類のみ用いてもよく、2種類以上組み合わせても構わない。
【0016】
本発明において賦形剤としては糖類や蛋白質が好ましく、中でも糖類が好ましい。糖類としてはスクロース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、ガラクチトール、リビトール等が好ましく、中でもスクロース、マンニトールが好ましい。糖類は1種類のみ用いてもよく、2種類以上組み合わせても構わない。
【0017】
本発明の凍結乾燥状態の検体前処理試薬には、緩衝液の構成成分が含まれていても構わない。また界面活性剤や塩類が含まれていても構わない。それらは特に限定されるものではないが、界面活性剤であればアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を使用することができる。緩衝液の構成成分としては、例えばTris、MOPSO、MOPSやMES、リン酸、炭酸等の構成成分をあげることができ、塩類としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛等を使用することができる。凍結乾燥状態の検体前処理試薬にはこれら以外にも、必要に応じて他の試薬成分等を共存させることもできる。
【0018】
本発明によりビタミン類などの小分子を測定する際には、測定環境を整えるため、中和剤を加えて免疫反応を開始するのが好ましい。中和剤としてはリン酸、クエン酸などがあげられる。この中和剤も液状状態ではなく、凍結乾燥の形態で提供するのが、濃縮や中和剤の劣化による試薬性能の変質を防止する観点からもより好ましい。中和剤の種類や濃度は、アルカリ剤の濃度や免疫反応の至適pHを考慮し、適宜決めることができる。
【0019】
さらに容器が複数の穴を有する容器である場合には、一方の穴に本発明のアルカリ剤と還元剤とを二段分注にて作製した凍結乾燥試薬、他方の穴に前記中和剤の凍結乾燥として提供することができる。容器の穴の数に限定は無いが、2穴容器とすると一方の穴にアルカリ剤と還元剤との凍結乾燥試薬、もう一方の穴に中和剤の凍結乾燥という構成となるので、提供試薬の小型化や自動分析装置での操作を行う上でより好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の凍結乾燥状態の検体前処理試薬は、アルカリ剤と還元剤を含有した凍結乾燥試薬を、二段分注にて作製することにより、還元剤のアルカリ剤による劣化を抑制し、かつ煩雑な測定操作を必要としないものである。そのため、本発明の凍結乾燥状態の検体前処理試薬を体外診断薬等に用いれば、精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例の2穴容器を用いた凍結乾燥試薬の構成を示した図である。
【実施例0022】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、免疫測定装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-CL2400、東ソー社製を用い、免疫測定用試薬として当該装置用のCL AIA-PACK 25-OH Vitamin Dを用い、1ステップディレイ競合法により各測定を行った。なお、各検体前処理試薬は後述したようにして調製した。
【0023】
(実施例1~5、比較例1)
表1に示した通りに各種溶液を調製した。詳細は以下の通りである。
【0024】
純水に水酸化ナトリウムを加えて、0.3mol/Lの濃度とした。さらに5%(重量/容量)のスクロールを加えて、2穴を有する試薬容器の一方の穴に分注し、-70℃で一時間凍結した。なお、この試薬容器は、同等の穴を2穴有するものである。さらに表1で示した組成の糖類と還元剤であるTCEP-HClを含有する溶液を調製して、前記試薬容器の先に水酸化ナトリウム溶液を分注したのと同一の穴に分注し(二段分注)、-70℃でさらに一時間凍結した。
【0025】
次いで、純水にリン酸二水素カリウムを加えて、0.2mol/Lの濃度とした。さらに、10%(重量/容量)のマンニトール、0.01%(重量/容量)Tween20を加えて、上記のアルカリ剤と還元剤を分注したのと異なる穴に分注し、-70℃でさらに一時間凍結した後。凍結乾燥を行った。
【0026】
なお、比較例1においては、アルカリ剤のみの構成となり、還元剤は分注せずに凍結乾燥を行った。
【0027】
【0028】
(測定再現性試験)
25-ヒドロキシビタミンD濃度30ng/mLであるヒト血清を検体として、実施例1~5、比較例1にて調製した凍結乾燥状態の検体前処理試薬に溶解液(アジ化ナトリウムを含む分注水)を30μL加えて溶解し、検体前処理液を調製した。それを用いて検体を前処理し、25-ヒドロキシビタミンD濃度を測定した。これら一連の操作は前記自動免疫測定装置で行った。検体の前処理操作は装置上の自動前処理で実施した。前処理をした後にプ25-ヒドロキシビタミンD濃度を測定する一連の操作を45回繰り返して、25-ヒドロキシビタミンD測定値の平均値を求めた。さらにその測定値を基に、測定再現性を算出した。結果を表2に示す。
【0029】
【0030】
表2から明らかなように、比較例1においては、CV8.6%と再現性が悪い結果となった。これは水酸化ナトリウムで血中の結合タンパク質を変性させて、25-ヒドロキシビタミンDを遊離させるが、還元剤が未添加であることから、変性した結合タンパク質の安定化がはかれず、測定結果に影響を及ぼしたことが原因と考えられる。
【0031】
それに対して、実施例1~5、においては、二段目に添加した糖類の濃度に関わらす、CV1.6%から2.7%と良好な測定再現性を示した。これは還元剤を二段分注にて凍結乾燥を行ったことにより、測定直前までアルカリ剤と還元剤が混ざり合うことなく、還元剤の性能が劣化することなく、適切に変性した結合タンパク質の安定化をはかることができたからであると考えられる。