(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122248
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】飲食品の味を増感するための又は当該味の口中での持続性を向上するための組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230825BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20230825BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20230825BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20230825BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/10 C
A23L2/00 B
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025842
(22)【出願日】2022-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】樋爪 彩子
(72)【発明者】
【氏名】八木 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 守紘
(72)【発明者】
【氏名】生貝 達也
【テーマコード(参考)】
4B036
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LF01
4B036LH29
4B036LP07
4B047LB03
4B047LF07
4B047LF08
4B047LG43
4B047LP01
4B117LC03
4B117LG18
4B117LP01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、新規有効成分を含む、塩味増感に適した組成物を提供することを目的としている。
【解決手段】式(1):
(式中、Rは、
であって、かつ1~3個のヒドロキシ基で置換されており、アスタリスクは、エステル結合側の炭素鎖との結合部を示し、実線及び破線の二重線は、単結合又は二重結合を示している)
で表される化合物を使用することにより、飲食品の塩味だけでなく全体的な味を増感させたり、飲食品の味の口中での持続性を向上させたりすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
(1)
(式中、
Rは、
【化2】
であって、かつ1~3個のヒドロキシ基で置換されており、
アスタリスクは、エステル結合側の炭素鎖との結合部を示し、
実線及び破線の二重線は、単結合又は二重結合を示している)
で表される化合物を含む、飲食品の味の増感用組成物。
【請求項2】
前記飲食品の味が、塩味、旨味、甘味、酸味、及び苦味からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(1):
【化3】
(1)
(式中、
Rは、
【化4】
であって、かつ1~3個のヒドロキシ基で置換されており、
アスタリスクは、エステル結合側の炭素鎖との結合部を示し、
実線及び破線の二重線は、単結合又は二重結合を示している)
で表される化合物を含む、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物。
【請求項4】
Rが、
【化5】
である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物が、完熟サンショウの抽出物として配合されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を含む飲食品。
【請求項7】
減塩食品であり、請求項6に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、完熟サンショウに由来する化合物を含む、飲食品の味を増感するための又は当該味の口中での持続性を向上するための組成物、及び、当該組成物を含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりを受けて、生活習慣病の一因となり得る食塩の摂取量を減らすことが望まれている。一方で、食塩相当量の低い食品は味が物足りなく感じられるため、その塩味を増強するために、種々の研究が行われている。例えば、特許文献1には、サンショウ破砕物と、当該破砕物の辛み成分を食前の数分程度口腔内に残すための基材とを含み、所定量のサンショオールを含む、食前に用いる塩味増強剤が記載されている。また、特許文献2には、サンショウ抽出物及びフタライド類を有効成分として含有する、所定の飲食品の塩味増強剤が記載されている。そして、特許文献3には、サンショウ抽出物とアルキル基を有するスルフィド化合物とを含有する塩味増感用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5625089号公報
【特許文献2】特許第5733737号公報
【特許文献3】特開2020-142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、サンショウ抽出物中に含まれるサンショオール類が塩味増強作用又は塩味増感作用の有効成分の1つであると考えられていたが、他の有効成分については十分には研究されていなかった。そこで、本発明は、新規有効成分を含む、塩味増感に適した組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、食品原料として通常使用されている果皮の色が緑色のサンショウ(未熟サンショウ)ではなく、果皮の色が赤色の完熟サンショウの水性抽出物中には、サンショオール類以外の塩味増感作用を有する有効成分が含まれていること、及び、当該有効成分は、飲食品の塩味に限られない全体的な味を増感させたり、飲食品の味の口中での持続性を向上させたりする作用も有していることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す飲食品の味の増感用組成物、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物、及び飲食品を提供するものである。
〔1〕式(1):
【化1】
(1)
(式中、
Rは、
【化2】
であって、かつ1~3個のヒドロキシ基で置換されており、
アスタリスクは、エステル結合側の炭素鎖との結合部を示し、
実線及び破線の二重線は、単結合又は二重結合を示している)
で表される化合物を含む、飲食品の味の増感用組成物。
〔2〕前記飲食品の味が、塩味、旨味、甘味、酸味、及び苦味からなる群から選択される1種以上を含む、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕式(1):
【化3】
(1)
(式中、
Rは、
【化4】
であって、かつ1~3個のヒドロキシ基で置換されており、
アスタリスクは、エステル結合側の炭素鎖との結合部を示し、
実線及び破線の二重線は、単結合又は二重結合を示している)
で表される化合物を含む、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物。
〔4〕Rが、
【化5】
である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕前記式(1)で表される化合物が、完熟サンショウの抽出物として配合されている、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物を含む飲食品。
〔7〕減塩食品であり、前記〔6〕に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、上記式(1)で表される化合物を使用することにより、飲食品の塩味だけでなく全体的な味を増感させたり、飲食品の味の口中での持続性を向上させたりすることができる。したがって、例えば、減塩食品をより美味しく食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ビジュアルアナログスケール法(VAS法)による評価結果を示す。
【
図2】時間強度測定法(TI法)による評価結果を示す。
【
図3】完熟サンショウの水性抽出物のクロマトグラム(逆相系カラム使用)を示す。
【
図4】完熟サンショウの水性抽出物のクロマトグラム(順相系カラム使用)を示す。
【
図5】リサイクル分取HPLCのクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、飲食品の味の増感用組成物に関している。本明細書に記載の「飲食品の味の増感」とは、飲食品を口腔中に入れたときに感じる味が、当該飲食品における呈味成分の量が変わらないにもかかわらず、より強く感じられるようになることをいう。すなわち、本発明の組成物を、対象の飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食すると、当該飲食品の味をより強く感じることができる。なお、本明細書に記載の「飲食品の味」とは、飲食品が呈する味全体のことをいうが、個別の味であってもよい。すなわち、前記飲食品の味は、塩味、旨味、甘味、酸味、及び苦味からなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0009】
また、本発明は、飲食品の味の口中での持続性を向上するための組成物にも関している。本発明の組成物により飲食品の味の濃さの強度が高まり、その味が口中で長く持続するようになる。例えば、飲食品を口に入れたときに最初に感じる味(先味)に続いて感じる味(中味)と、その後の口中に残る味(後味)の強度が高まり、全体として口中での持続時間が長くなると考えられる。本発明の組成物を、対象の飲食品を口腔内に入れる前に又はそれと同時に摂食すると、当該飲食品の味を長く堪能することができる。
【0010】
本発明の組成物は、飲食品の味の増感のための又は飲食品の味の口中での持続性の向上のための有効成分として、式(1):
【化6】
(1)
(式中、
Rは、
【化7】
であって、かつ1~3個のヒドロキシ基で置換されており、
アスタリスクは、エステル結合側の炭素鎖との結合部を示し、
実線及び破線の二重線は、単結合又は二重結合を示している)
で表される化合物を含んでいる。前記式(1)で表される化合物は、サンショオール類の作用として知られている舌の痛みやしびれを引き起こしにくいため、飲食品の味を増感するため又は飲食品の味の口中での持続性を向上するために有利に使用できる。ある態様では、Rは、
【化8】
であってもよい。より具体的には、前記式(1)で表される化合物は、
【化9】
であってもよい。
【0011】
前記式(1)で表される化合物の含有量は、味の増感作用又は味の持続性向上作用が奏される限り特に制限されないが、例えば、本発明の組成物の全質量に対して約0.01~約100質量ppm(以下、単に「ppm」という。)であってもよく、好ましくは約0.1~約1ppmである。このような量で前記式(1)で表される化合物が含まれていると、味の増感作用及び味の持続性向上作用がより良好に発揮され、かつ本発明の組成物と同時又はこれと連続して摂取される飲食品の風味への影響を最小限にすることができる。
【0012】
前記式(1)で表される化合物は、完熟サンショウの抽出物、特に完熟サンショウの水性抽出物に含まれているものであり、当該抽出物から単離することができる。すなわち、ある態様では、前記式(1)で表される化合物は、完熟サンショウの抽出物(特に水性抽出物)として本発明の組成物に配合されている。換言すれば、本発明は、完熟サンショウの抽出物(特に水性抽出物)を含む、飲食品の味の増感用組成物又は飲食品の味の口中での持続性の向上のための組成物に関しているとも言える。本明細書に記載の「完熟サンショウ」とは、ミカン科サンショウ属の植物の実であって、果皮の色に赤みがかかるまで樹上で熟した実のことをいい、赤ザンショウなどと呼ばれることもある。前記ミカン科サンショウ属の植物としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、サンショウ(Zanthoxylum piperitum DC)、アサクラザンショウ(Z.piperitum DC.forma inerme Makino)及びそれから派生したとされるブドウサンショウ、ヤマアサクラザンショウ(Z.piperitum DC.forma brevispinosum Makino)、イヌザンショウ(Z.schinifolium)、並びに花椒(Z.bungeanum)などが例示され得る。
【0013】
前記水性抽出物は、前記完熟サンショウを、そのまま又は破砕・粉砕処理及び乾燥処理などを行った後に水性溶媒で抽出することにより調製することができる。その抽出手段としては、前記式(1)で表される化合物が抽出される限り特に限定されないが、例えば、溶媒抽出法、水蒸気蒸留抽出法、及び超臨界又は亜臨界抽出法などを採用してもよい。前記水性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水や、エタノール及びメタノールなどのアルコール類などを使用してもよく、これらの2種以上を混合して使用してもよい。ある態様では、前記水性抽出物は、完熟サンショウの水抽出物(特に熱水抽出物)及び/又は完熟サンショウのアルコール抽出物(特にエタノール抽出物)を含む。
【0014】
本発明の組成物により味が増感される飲食品又は口中での味の持続性が向上される飲食品は、特に限定されないが、当該飲食品が減塩食品であると、前記組成物による味の増感作用又は味の持続性向上作用をより強く感じることができる。なお、本明細書に記載の「減塩食品」とは、通常流通している一般的な態様と比較して塩分濃度が低い食品のことをいう。前記減塩食品の塩分濃度は、特に限定されないが、例えば、通常流通している一般的な態様と比較して食塩相当量で約25~約70質量%低くてもよい。
【0015】
本発明の組成物の形状は、摂食可能なものである限り特に限定されないが、例えば、液体状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、顆粒状、及びブロック状などであってもよい。具体的には、前記組成物は、お茶などの飲料、ゼリー、飴、ふりかけ、味噌汁、及び調味料などの形態であってもよい。前記組成物は、そのまま摂食してもいいし、味を強く感じたい飲食品中に配合してもよい。また、味を強く感じたい飲食品と一緒に摂食する他の飲食品中に配合して、これらを交互に摂食してもよい。
【0016】
別の態様では、本発明は、上述した本発明の組成物を含む飲食品にも関している。本発明の飲食品は、前記式(1)で表される化合物を含んでいるため、味の増感作用又は味の持続性向上作用により、たとえ味が薄い(例えば塩分濃度が低い)食品であったとしても、その味の強度を高め、口中での持続性を向上し、おいしく摂食することが可能となる。
【0017】
本発明の組成物及び飲食品は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもいいし、味の増感又は味の持続性向上のために有効な他の添加剤をさらに含んでもよい。
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0019】
〔試験例1〕
完熟ブドウサンショウ(赤色)及び未熟ブドウサンショウ(緑色)の生の実(冷凍)を10gずつ用意し、常法によりそれぞれの熱水抽出物を100gずつ調製した。各熱水抽出物中のヒドロキシαサンショールの濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定すると、完熟ブドウサンショウの熱水抽出物では34ppm、未熟ブドウサンショウの熱水抽出物では18ppmだった。これらの熱水抽出物を、ヒドロキシαサンショールの最終濃度が1.5ppmになるようにウーロン茶に添加し、このウーロン茶による味の増強効果を、9名のパネラーが評価した。すなわち、各パネラーは、いずれかの熱水抽出物を含むウーロン茶又はいずれも含まないウーロン茶(対照群)を1口(約20mL)摂取した後、塩分0.4%のかつおだしを摂取して、官能評価ソフトウェア(FIZZ、ver.2.51 c 02、BIOSYSTEMS社)により、「先味」、「味の厚み」、「後味の伸び」、「味の濃さ」、「水っぽさのなさ」、「満足度」、及び「おいしさ」をビジュアルアナログスケール法(VAS法)で評価した。また、「味の濃さ」については、同じ官能評価ソフトウェアにより時間強度測定法(TI法)でも評価した。
【0020】
なお、VAS法では、両端が短い縦線で閉じられている水平な直線をコンピューター画面上に表示し、その両端の基準を以下の表3のように設定して、パネラーの評価を直線上に縦線として記入した。そして、左端からパネラーが記入した縦線までの距離を計測し、それを線の全長で割った数値をスコアとして、ダネット検定を行った。
【表1】
【0021】
VAS法及びTI法による評価結果を
図1及び
図2にそれぞれ示す。
図1に示されているように、塩分0.4%のかつおだしは、それだけでは塩分濃度が低いため、味は薄く感じられ、水っぽいものであったが、未熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶の事前摂取により、各評価項目のスコアはいずれも上昇した。そして、完熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶の事前摂取では、先味の項目を除いてさらに高いスコアを示した。特に「味の厚み」及び「後味の伸び」の向上は、塩分濃度が低い食品をおいしく摂取するために解決しなければいけない課題であり、それらが向上した結果として「味の濃さ」、「水っぽさのなさ」、「満足度」、及び「おいしさ」も向上したことから、完熟サンショウの熱水抽出物などの水性抽出物は、飲食品の味の増感に有用であり、特に減塩食品にける塩味増感のために適していることが分かった。
【0022】
また、
図2に示されているように、サンショウの熱水抽出物を含まない対照のウーロン茶(実線)を事前摂取した場合と比較して、未熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶(破線)を事前摂取すると、味の濃さの強度が高くなり、かつ口中での味の持続時間が長くなったが、完熟サンショウの熱水抽出物を含むウーロン茶(一点破線)を事前摂取すると、口中での味の持続時間がさらに長くなった。すなわち、完熟サンショウの熱水抽出物などの水性抽出物は、味に対する感度を上げるだけでなく、口中での味の持続性も向上できることから、減塩食品の味の調整のために一層適していることが分かった。
【0023】
〔試験例2〕
完熟ブドウサンショウの実(乾燥物)を用意し、5質量部の実から常法により100質量部の40%エタノール抽出物(ヒドロキシαサンショールの濃度は260ppm)を調製した。このエタノール抽出物を、以下の条件の官能評価用中圧分取クロマトグラフィーによってフラクション1~5(
図3のFr.1~Fr.5)を分取した。
カラム:ODSカラム(ODS-SM-50C、山善社製)
移動相:水/メタノール(表4参照)
流速:30mL/分
温度:30℃
検出波長:270nm
【表2】
【0024】
標準物質を用いたHPLC分析により、フラクション3にはヒドロキシαサンショールが含まれており、フラクション4にはαサンショールが含まれていることが分かった。各フラクションの溶媒をエバポレーターで蒸発乾固し、回収した乾固物の量を測定した(表5)。そして、フラクション3の乾固物が全量ヒドロキシαサンショールであるとみなし、その1mgを1mLの60%エタノールに溶解(1000ppm)し、これを最終濃度が1.0ppmになるように水で希釈した。他のフラクションについても同様に操作し、最終的な希釈率がフラクション3と同じになるように、すなわち各乾固物の回収量の比が水溶液中の溶解量の比と一致するように、それぞれの水溶液を作製した。
【表3】
【0025】
各フラクションの水溶液を一口(約20mL)摂取した後に、塩分0.7%の味噌汁を飲み、味噌汁の先味、中味、及び後味のどこを強く感じるかを4人のパネラーが評価した。結果を表4に示す。
【表4】
【0026】
フラクション3、フラクション4、又はフラクション5を摂取した後に味噌汁を飲むと、味噌汁の先味が強くなったと感じたパネラーが多かったが、フラクション2を摂取した後に味噌汁を飲むと、味噌汁の後味が強くなったと感じたパネラーが多かった。フラクション3に含まれているヒドロキシαサンショール及びフラクション4に含まれているαサンショールは、未熟サンショウの水性抽出物にも含まれ得るものであるが、フラクション2には含まれていない。したがって、味の濃さを高め口中での味の持続性を向上する完熟サンショウに特有の効果を奏する成分は、フラクション2に含まれている可能性がある。
【0027】
〔試験例3〕
完熟ブドウサンショウの実及び未熟ブドウサンショウの実(乾燥物)を用意し、5質量部の実から常法により100質量部の40%エタノール抽出物をそれぞれ調製した。試験例2と同様の方法で官能評価用中圧分取クロマトグラフィーのフラクション2の水溶液を調製し、その濃度をヒドロキシαサンショール相当量で1.0ppm(フラクション2の乾固物に基づくと0.2ppm)になるように調整した(表5)。
【表5】
【0028】
各溶液を一口(約20mL)摂取した後に、塩分0.7%の味噌汁を飲み、味噌汁の先味、中味、及び後味のどこを強く感じるかを3人のパネラーが評価した。その結果、3人のパネラー全員が、未熟サンショウのフラクション2は味噌汁の味に影響を与えなかったが、完熟サンショウのフラクション2を摂取すると味噌汁の塩味が増強され、後味が強く感じられたと回答した。したがって、塩味を増強し、口中の味を持続させる効果は、完熟サンショウに特有のものである。
【0029】
〔試験例6〕
完熟サンショウの65%エタノール抽出物(「国産サンショウeエキス」、日本粉末薬品株式会社製)をロータリーエバポレーター(日本ビュッヒ社製)で乾固し、得られた乾固物に100%メタノールを添加した。この溶液を、順相系カラムを使用した以下の条件の中圧分取クロマトグラフィーによって分画し、試験例2(逆相系カラムを使用した試験系)のフラクション2に相当する保持時間22~25分のフラクション(
図4の枠囲い部分)を分取して、これをロータリーエバポレーターで乾固した。完熟サンショウ5g(乾燥物換算)から64.6mgの最終乾固物を取得した。
使用装置:中圧分取液体クロマトグラフYFLC W-Prep 2XY(山善株式会社製)
カラム:Si-40D
カラムサイズ:50×300mm
移動相:クロロホルム/メタノール(表2参照)
流速:45mL/分
温度:25℃
検出波長:254nm
分画モード:タイム
【表6】
【0030】
分取したフラクションの乾固物を3mLの100%メタノールに溶解し、この溶液を、以下の条件のリサイクル分取クロマトグラフィーにアプライした。そして、1回目の分離工程で保持時間23分~26分に検出された重なったピーク(
図5の枠囲い部分)についてのみ、以降のリサイクル分離工程を繰り返した。合計7回目の分離工程で分離されたピーク(
図5のピーク1~3)をそれぞれ分取し、ロータリーエバポレーターで乾固した。ピーク1~3の収量は、それぞれ3.2mg、2.0mg、及び1.1mgだった。
使用装置:LC-9110(日本分析工業社製)
カラム:Inertsil(R)ODS-3(ジーエルサイエンス社製)
カラムサイズ:20×250mm
粒子径:5μm
移動相:60%メタノール
流速:5mL/分
温度:25℃
検出波長:200nm
【0031】
〔試験例4〕
単離したピーク1~3の化合物を、終濃度が0.1ppmになるようにそれぞれ水に溶解した。化合物1~3のいずれかを含む水又は対照の単なる水を1口(約20mL)摂取した後、塩分0.4%のかつおだし汁を摂取して、対照に対する塩味の増強効果の有無を4名のパネラーが評価した。結果を表7に示す。
【0032】
【0033】
どのパネラーも、化合物1の摂取後に塩味の増強を感じ、他の化合物の摂取後には塩味の増強は感じなかった。したがって、飲食品の味の増感作用を奏する完熟サンショウの水性抽出物中の有効成分は、化合物1であることが示された。
【0034】
〔試験例5〕
3名のパネラーが、対照の単なる水を1口(約20mL)摂取した後、以下の評価対象品を摂取した。
塩味及び旨味評価用:塩分0.4%のかつおだし汁
甘味及び酸味評価用:オレンジジュース(ポンジュース、えひめ飲料社製)
苦味評価用:インスタントコーヒー(ネスカフェゴールドブレンド、ネスレ社製;製品の説明に従ってコーヒーを調製)
【0035】
水で口をゆすぎ、化合物1を1ppm含む水を1口(約20mL)摂取した後、同じ評価対象品を摂取し、塩味、旨味、甘味、酸味、及び苦味についての強度と持続性を、次の基準で評価した。結果を表8に示す。
(強度)
++:対照を摂取した後より非常に強く味を感じる
+:対照を摂取した後より強く味を感じる
-:対照を摂取した後と変わらない
(持続性)
++:対照を摂取した後より非常に長く味を感じる
+:対照を摂取した後より長く味を感じる
-:対照を摂取した後と変わらない
【0036】
【0037】
塩味、旨味、甘味、酸味、及び苦味のいずれについても、味の増感作用及び持続性向上作用が過半数のパネラーで確認された。特に、塩味及び旨味の増感作用、並びに、塩味、旨味、及び苦味の持続性向上作用は、他の味における作用よりも顕著だった。
【0038】
〔試験例6〕
化合物1をメタノールに溶解し、液体クロマトグラフィー質量分析機(LC/MS)で分析したところ、1種の化合物が単離されていること、及び、当該化合物の分子式がC12H22O4であり、分子量が230.30であることが分かった。なお、この化合物は、試験例2のフラクション2においても検出された。
【0039】
また、3mgの化合物1をD4-メタノール500μLに溶解し、NMRにて1H-NMR、13C-NMR、COSY、HMQC、及びHMBCの測定を行った。その結果、化合物1は以下の構造を有することが分かった。
【化10】
1H NMR (500MHz, METHANOL-D3) Shift = 5.41 - 5.37 (m, 1H), 4.59 (d, J=7.4 Hz, 2H), 3.23 (dd, J=1.7, 10.9 Hz, 1H), 2.36 - 2.28 (m, 1H), 2.11 - 2.05 (m, 1H), 2.01 (s, 3H), 1.77 - 1.73 (m, 1H), 1.73 (s, 3H) 1.42 - 1.34 (m, 1H), 1.17 (s, 3H), 1.12 (s, 3H)
13C NMR (500MHz, METHANOL-D3) Shift = 171.6, 142.1, 118.5, 77.5, 72.4, 61.0, 36.4, 29.0, 24.5, 23.4, 19.5, 15.1
【0040】
以上より、上記式(1)で表される化合物を使用することにより、飲食品の塩味だけでなく全体的な味を増感させたり、飲食品の味の口中での持続性を向上させたりできることが分かった。したがって、例えば、減塩食品をより美味しく食することができる。