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  • 特開-過酸化水素の定量方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122531
(43)【公開日】2023-09-01
(54)【発明の名称】過酸化水素の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/08 20060101AFI20230825BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184842
(22)【出願日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2022025829
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】志賀 大樹
(57)【要約】
【課題】メタバナジン酸を用いて、過酸化水素を定量できる技術を提供する。
【解決手段】過酸化水素を含む対象溶液とメタバナジン酸水溶液とを混合して混合液を得る工程と、混合液をバナジウム核核磁気共鳴分光分析し、過酸化水素およびメタバナジン酸の化学反応により生成される過酸化バナジン酸のピーク強度Iを得る工程と、ピーク強度Iから、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出する工程と、を有する、過酸化水素の定量方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含む対象溶液とメタバナジン酸水溶液とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液をバナジウム核核磁気共鳴分光分析し、過酸化水素およびメタバナジン酸の化学反応により生成される過酸化バナジン酸のピーク強度Iを得る工程と、
前記ピーク強度Iから、前記対象溶液中の過酸化水素濃度を算出する工程と、を有する、過酸化水素の定量方法。
【請求項2】
前記対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている、請求項1に記載の過酸化水素の定量方法。
【請求項3】
前記混合液を得る工程では、前記混合液のpHを6以上8以下に調整する、請求項1に記載の過酸化水素の定量方法。
【請求項4】
前記ピーク強度Iを得る工程では、過酸化水素を含まないメタバナジン酸水溶液のピーク強度Iを同時に得て、
前記過酸化水素濃度を算出する工程では、前記ピーク強度Iを基準とした前記ピーク強度Iから、前記対象溶液中の過酸化水素濃度を算出する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の過酸化水素の定量方法。
【請求項5】
前記ピーク強度Iを得る工程では、pHを2以上5以下に調整した過酸化水素を含まないメタバナジン酸水溶液を二重管の内管または外管の一方に封入し、かつ、前記混合液を前記二重管の内管または外管の他方に封入し、前記二重管をバナジウム核核磁気共鳴分光分析する、請求項4に記載の過酸化水素の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素を定量する方法としては、例えば、ヨウ化カリウムを用いた比色法等が知られている。また、特許文献1には、過酸化水素を含む試料溶液を、白金を担持した過酸化水素分解触媒と接触させた後の処理液中の溶存酸素濃度を光酸素センサで測定し、その溶存酸素濃度から試料溶液中の過酸化水素濃度を定量する過酸化水素の定量方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-127830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、メタバナジン酸を用いて、過酸化水素を定量できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、
過酸化水素を含む対象溶液とメタバナジン酸水溶液とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液をバナジウム核核磁気共鳴分光分析し、過酸化水素およびメタバナジン酸の化学反応により生成される過酸化バナジン酸のピーク強度Iを得る工程と、
前記ピーク強度Iから、前記対象溶液中の過酸化水素濃度を算出する工程と、を有する、過酸化水素の定量方法である。
【0006】
本発明の第2の態様は、
前記対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている、上記第1の態様に記載の過酸化水素の定量方法である。
【0007】
本発明の第3の態様は、
前記混合液を得る工程では、前記混合液のpHを6以上8以下に調整する、上記第1の態様に記載の過酸化水素の定量方法である。
【0008】
本発明の第4の態様は、
前記ピーク強度Iを得る工程では、過酸化水素を含まないメタバナジン酸水溶液のピーク強度Iを同時に得て、
前記過酸化水素濃度を算出する工程では、前記ピーク強度Iを基準とした前記ピーク強度Iから、前記対象溶液中の過酸化水素濃度を算出する、上記第1から第3のいずれか1つの態様に記載の過酸化水素の定量方法である。
【0009】
本発明の第5の態様は、
前記ピーク強度Iを得る工程では、pHを2以上5以下に調整した過酸化水素を含まないメタバナジン酸水溶液を二重管の内管または外管の一方に封入し、かつ、前記混合液を前記二重管の内管または外管の他方に封入し、前記二重管をバナジウム核核磁気共鳴分光分析する、上記第4の態様に記載の過酸化水素の定量方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタバナジン酸を用いて、過酸化水素を定量できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る、過酸化水素の定量方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、本発明の実施例に係る、バナジウム核核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
図3図3は、本発明の実施例に係る、対象溶液中の過酸化水素濃度と、過酸化バナジン酸のピーク強度Iとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の第1実施形態>
(1)過酸化水素の定量方法
まず、本実施形態の過酸化水素の定量方法について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の過酸化水素の定量方法の一例を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の過酸化水素の定量方法は、例えば、溶液準備工程S101と、核磁気共鳴分光分析工程S102と、過酸化水素濃度算出工程S103と、を有している。
【0014】
(溶液準備工程S101)
溶液準備工程S101は、例えば、過酸化水素を含む対象溶液とメタバナジン酸水溶液(本実施形態では、メタバナジン酸ナトリウム水溶液)とを混合して混合液を得る工程である。
【0015】
本実施形態で用いるメタバナジン酸水溶液について説明する。メタバナジン酸水溶液は、pHによって形態が変化する。pHが6以上8以下では、テトラバナジン酸イオンが主成分であり、pHが2以上5以下では、デカバナジン酸イオンが主成分となる。メタバナジン酸水溶液を得るためのメタバナジン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸セシウム、メタバナジン酸アンモニウム等を用いることができる。本実施形態では、メタバナジン酸ナトリウムを使用する場合について説明する。
【0016】
溶液準備工程S101では、例えば、重水を含む溶媒にメタバナジン酸塩を溶解させて、メタバナジン酸水溶液を得ることが好ましい。これにより、核磁気共鳴分光分析工程S102にて、過酸化バナジン酸のピーク強度Iを正確に得ることができる。
【0017】
溶液準備工程S101では、例えば、混合液のpHを6以上8以下に調整することが好ましい。これにより、核磁気共鳴分光分析工程S102にて、混合液の測定を中性領域で行うことができるため、デカバナジン酸イオンのピーク強度を基準としてテトラバナジン酸イオンの過酸化バナジン酸イオンへの変化を検知することが可能となる。また、アルカリ性領域で析出するような金属イオンが含まれている場合でも、簡便に測定を行うことが可能となる。なお、pHの調整は、例えば、塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を添加することで行うことができる。
【0018】
本実施形態では、対象溶液中に、有色である金属イオン(例えば、銅イオン、クロムイオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、過マンガン酸イオン等)が1g/L以上60g/L以下含まれていてもよい。ヨウ化カリウムを用いた比色法等では、溶液の色の変化によって過酸化水素を定量するため、対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている場合、過酸化水素濃度を正しく測定できない可能性がある。これに対し、本実施形態では、核磁気共鳴分光分析工程S102で得る過酸化バナジン酸のピーク強度Iから過酸化水素濃度を算出するため、対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている場合でも問題なく測定することができる。
【0019】
(核磁気共鳴分光分析工程S102)
核磁気共鳴分光分析工程S102は、例えば、溶液準備工程S101にて得た混合液をバナジウム核核磁気共鳴分光分析し、過酸化水素およびメタバナジン酸の化学反応により生成される過酸化バナジン酸のピーク強度Iを得る工程である。なお、本実施形態においては、核磁気共鳴分光分析によって得られるスペクトルのピーク面積をピーク強度としてもよい。
【0020】
ここで、核磁気共鳴分光分析の原理について説明する。核磁気共鳴分光分析は、磁場中に置かれた物質に外部からラジオ波を照射すると、共鳴を起こし、エネルギーの吸収が起きることから、この吸収量を電気的に計測する手法である。共鳴を起こすラジオ波の周波数は観測する原子核の種類によって異なり、9.4テスラの磁場中では、原子量51(バナジウム中の天然同位体存在比が99.75%)のバナジウム核の共鳴周波数は105MHzである。また、バナジウムは五価、四価、三価、二価、一価、マイナス一価の価数をとるが、バナジウム核核磁気共鳴分光分析では、主に五価を検出することができる。バナジウム核核磁気共鳴分光分析から得られる情報は、原子が置かれている環境によってスペクトルの横軸が分かれて検出される。また、その環境に置かれている原子の存在量が検出されたピーク面積として検出される。得られるスペクトルは、ラジオ波を照射し電気的計測を繰り返すことでノイズが低減されるため、微量の過酸化バナジン酸を検出することが可能となる。
【0021】
メタバナジン酸は過酸化水素と化学反応し、過酸化バナジン酸を生成することが知られている。過酸化バナジン酸は、VO(O 3-、VO(O 3-、VOH(O 2-等、複数の形態が存在することが確認されているため、各ピークの帰属は行わず、核磁気共鳴分光分析によって得られるスペクトルにおける、-610~-740ppmのピークを一括して過酸化バナジン酸のピークとしてピーク強度Iを計測してもよい。つまり、-610~-740ppmの範囲に検出されるすべてのピーク面積を合算して、ピーク強度Iとしてもよい。
【0022】
核磁気共鳴分光分析工程S102では、ピーク強度Iと同時に、過酸化水素を含まないメタバナジン酸水溶液(以下、基準メタバナジン酸水溶液ともいう)のピーク強度Iを得ることが好ましい。これにより、ピーク強度Iを基準として、ピーク強度Iを計測することができる。具体的には、例えば、基準メタバナジン酸水溶液を二重管の内管または外管の一方に封入し、かつ、溶液準備工程S101で得た混合液を該二重管の内管または外管の他方に封入し、該二重管をバナジウム核核磁気共鳴分光分析すればよい。また、基準メタバナジン酸水溶液のpHは、2以上5以下に調整することが好ましい。これにより、基準メタバナジン酸水溶液からは、デカバナジン酸のピークがスペクトルの-500~-520ppmの範囲に検出されるため、混合液中のメタバナジン酸のピークとの区別が容易となり、ピーク強度Iを正確に得ることができる。
【0023】
(過酸化水素濃度算出工程S103)
過酸化水素濃度算出工程S103は、例えば、核磁気共鳴分光分析工程S102にて得たピーク強度Iから、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出する工程である。
【0024】
過酸化水素濃度算出工程S103では、核磁気共鳴分光分析工程S102にて得たピーク強度Iを基準としたピーク強度Iから、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出することが好ましい。これにより、過酸化水素を正確に定量することが可能となる。
【0025】
以上の工程により、メタバナジン酸を用いて、対象溶液に含まれる過酸化水素を定量することができる。
【0026】
(2)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0027】
(a)本実施形態の過酸化水素の定量方法は、溶液準備工程S101と、核磁気共鳴分光分析工程S102と、過酸化水素濃度算出工程S103と、を有している。これにより、メタバナジン酸を用いて、過酸化水素を定量することができる。
【0028】
ここで、バナジウムは、核磁気共鳴分光分析を行った際の感度が高い元素であり、メタバナジン酸は、過酸化水素との反応性を有している。さらに、過酸化水素およびメタバナジン酸の化学反応により生成される過酸化バナジン酸は、核磁気共鳴分光分析のスペクトルにおいて、メタバナジン酸のピーク(-550~-590ppm)とは離れたピーク(-610~-740ppm)として検出される。そのため、メタバナジン酸を用いることによって、過酸化水素を簡便、かつ、高精度に定量することが可能となる。
【0029】
(b)本実施形態の過酸化水素の定量方法では、対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれていてもよい。ヨウ化カリウムを用いた比色法等では、溶液の色の変化によって過酸化水素を定量するため、対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている場合、過酸化水素濃度を正しく測定できない可能性がある。これに対し、本実施形態では、核磁気共鳴分光分析工程S102で得る過酸化バナジン酸のピーク強度Iから過酸化水素濃度を算出するため、対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている場合でも問題なく測定することができる。
【0030】
(c)本実施形態の溶液準備工程S101では、混合液のpHを6以上8以下に調整することが好ましい。これにより、核磁気共鳴分光分析工程S102にて、混合液の測定を中性領域で行うことができるため、例えば、対象溶液中に、酸性またはアルカリ性領域で析出するような金属イオンが含まれている場合でも、簡便に測定を行うことが可能となる。なお、pHの調整は、例えば、塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を添加することで行うことができる。
【0031】
(d)本実施形態の核磁気共鳴分光分析工程S102では、ピーク強度Iと同時に、基準メタバナジン酸水溶液のピーク強度Iを得て、過酸化水素濃度算出工程S103では、ピーク強度Iを基準としたピーク強度Iから、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出することが好ましい。これにより、過酸化水素を正確に定量することが可能となる。
【0032】
(e)本実施形態の核磁気共鳴分光分析工程S102では、pHを2以上5以下に調整した基準メタバナジン酸水溶液を二重管の内管または外管の一方に封入し、かつ、溶液準備工程S101で得た混合液を該二重管の内管または外管の他方に封入し、該二重管をバナジウム核核磁気共鳴分光分析することが好ましい。これにより、基準メタバナジン酸水溶液からは、デカバナジン酸のピークがスペクトルの-500~-520ppmの範囲に検出されるため、混合液中のメタバナジン酸のピークとの区別が容易となり、ピーク強度Iを正確に得ることができる。
【0033】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0034】
例えば、上述の実施形態では、溶液準備工程S101において、混合液のpHを6以上8以下に調整する場合について説明したが、対象溶液に含まれているイオンの種類等に応じて、混合液のpHを上記範囲外に調整してもよい。具体的には、例えば、混合液のpHを2以上5以下に調整し、基準メタバナジン酸水溶液のpHを6以上8以下に調整してもよい。
【実施例0035】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0036】
(メタバナジン酸ナトリウム水溶液の調整)
メタバナジン酸ナトリウム(関東化学製)0.12gを10mLメスフラスコに秤量し、重水1mLを加え、標線まで純水を満たした後、数時間放置し、メタバナジン酸ナトリウム100mmol/L水溶液を調整した。その後、塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を適量添加し、pHを7.0および4.0に調整しながら、重水:純水=1:9の混合液でメタバナジン酸ナトリウム100mmol/L水溶液を10倍希釈し、pH7.0のメタバナジン酸ナトリウム10mmol/L水溶液(試料A)、および、基準メタバナジン酸水溶液としてのpH4.0のメタバナジン酸ナトリウム10mmol/L水溶液(試料B)を調整した。
【0037】
(過酸化水素を含む対象溶液の調整)
過酸化水素水30%(富士フィルム和光純薬製試薬特級)を純水で希釈し、過酸化水素濃度が、30ppmの対象溶液(試料C)、60ppmの対象溶液(試料D)、90ppmの対象溶液(試料E)、150ppmの対象溶液(試料F)、240ppmの対象溶液(試料G)、300ppmの対象溶液(試料H)、および、360ppmの対象溶液(試料I)を調整した。
【0038】
(ニッケルイオンおよび過酸化水素を含む対象溶液の調整)
硫酸ニッケル・6水和物(関東化学製特級)17.9gを100mLメスフラスコに秤量し、標線まで純水を満たした後、数時間放置し、ニッケルイオン濃度が40g/Lの硫酸ニッケル水溶液を調整した。その後、ニッケルイオン濃度40g/Lの硫酸ニッケル水溶液を純水で2倍希釈する際に所定量の過酸化水素を加え、ニッケルイオン濃度が20g/L、かつ、過酸化水素濃度が、0ppmの対象溶液(試料J)、30ppmの対象溶液(試料K)、60ppmの対象溶液(試料L)、90ppmの対象溶液(試料M)、150ppmの対象溶液(試料N)、240ppmの対象溶液(試料O)、300ppmの対象溶液(試料P)、および、360ppmの対象溶液(試料Q)を調整した。
【0039】
また、硫酸ニッケル・6水和物(関東化学製特級)53.7gを100mLメスフラスコに秤量し、標線まで純水を満たした後、数時間放置し、ニッケルイオン濃度が120g/Lの硫酸ニッケル水溶液を調整した。その後、ニッケルイオン濃度120g/Lの硫酸ニッケル水溶液を純水で2倍希釈する際に所定量の過酸化水素を加え、ニッケルイオン濃度が60g/L、かつ、過酸化水素濃度が、0ppmの対象溶液(試料R)、30ppmの対象溶液(試料S)、60ppmの対象溶液(試料T)、90ppmの対象溶液(試料U)、150ppmの対象溶液(試料V)、240ppmの対象溶液(試料W)、300ppmの対象溶液(試料X)、および、360ppmの対象溶液(試料Y)を調整した。
【0040】
(バナジウム核核磁気共鳴スペクトルの測定)
試料Aと、純水または試料C~試料Yとを、それぞれ1mLずつ混合し、二重管の外管としてのNMR試料管(5mmφ)に採取した。さらに、試料Bを入れた試料管を二重管の内管として挿入し、日本電子製JNM-ECZ400R/M3を用いてバナジウム核核磁気共鳴スペクトルを測定した。以下、例えば、試料Aおよび試料Cの混合液を二重管の外管に入れたサンプルを、(試料A+試料C)のように示す。
【0041】
(試料A+試料H)、(試料A+試料C)、および、(試料A+純水)を測定して得られたスペクトルを図2に示す。図2に示すように、過酸化水素を含む対象溶液およびメタバナジン酸水溶液の混合液を外管に入れた(試料A+試料H)および(試料A+試料C)は、-610~-740ppmの範囲に過酸化バナジン酸のピークが検出された。一方、純水およびメタバナジン酸水溶液を外管に入れた(試料A+純水)は、-610~-740ppmの範囲にピークは検出されなかった。以上より、過酸化水素およびメタバナジン酸の化学反応によって、過酸化バナジン酸が生成され、過酸化バナジン酸のピーク強度Iを得ることができることを確認した。また、過酸化バナジン酸のピークは、メタバナジン酸のピーク(-550~-590ppm)とは離れた範囲に検出されるため、過酸化バナジン酸のピーク強度Iを計測しやすいことを確認した。
【0042】
また、図2に示すように、(試料A+試料H)、(試料A+試料C)、および、(試料A+純水)のいずれにおいても、-500~-520ppmの範囲に、内管に入れた基準メタバナジン酸水溶液(デカバナジン酸)由来のピークが検出された。以上より、二重管を用いることで、基準メタバナジン酸水溶液(デカバナジン酸)のピーク強度Iを、ピーク強度Iと同時に得ることができることを確認した。また、基準メタバナジン酸水溶液のpHを調整することで、デカバナジン酸のピークが-500~-520ppmの範囲に検出されるため、混合液中のメタバナジン酸のピークとの区別が容易となり、ピーク強度Iを正確に得ることができることを確認した。
【0043】
バナジウム核核磁気共鳴スペクトルを測定した各サンプルにおいて、-500~-520ppmの範囲に検出された基準メタバナジン酸水溶液(デカバナジン酸)のピーク強度I(ピーク面積)を1000として、-610~-740ppmの範囲に検出された過酸化バナジン酸のピーク強度I(ピーク面積)を計測した。その結果を表1および図3に示す。また、比較のために、上述の各サンプルに対して、ヨウ化カリウムを用いた比色法(共立理化学研究所製共立パックテスト過酸化水素 型式:WAK-H)によって、過酸化水素の定量を行った。その結果を比較例として表1に示す。なお、比較例においては、過酸化水素の定量ができたものを○、できなかったものを×として示した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1および図3に示すように、対象溶液中の過酸化水素濃度と、過酸化バナジン酸のピーク強度Iとの間には、強い正の相関関係(共存元素無の場合、y=9.0538x+25.394、R=0.9948)が見られ、検量線を作成することができた。つまり、このような検量線を用いて、過酸化バナジン酸のピーク強度Iから、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出できることを確認した。また、例えば、過酸化水素濃度が未知である対象溶液に対して、所定量の過酸化水素水を加え、ピーク強度Iの増加から、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出してもよい。また、表1に示すように、ヨウ化カリウムを用いた比色法では、対象溶液中にニッケルイオン(有色である金属イオン)が1g/L以上60g/L以下含まれている場合、溶液の色の変化を正しく認識できないため、過酸化水素の定量ができなかった。これに対し、表1および図3に示すように、本発明に係る実施例においては、対象溶液中にニッケルイオンが1g/L以上60g/L以下含まれている場合も、対象溶液中の過酸化水素濃度と、過酸化バナジン酸のピーク強度Iとの間には、強い正の相関関係(ニッケルイオン濃度20g/Lの場合、y=6.1887x+31.419、R=0.9877、また、ニッケルイオン濃度60g/Lの場合、y=1.4029x-30.19、R=0.9739)が見られ、検量線を作成することができた。以上より、対象溶液中に、有色である金属イオンが1g/L以上60g/L以下含まれている場合でも、対象溶液中の過酸化水素濃度を算出できることを確認した。
【符号の説明】
【0046】
S101 溶液準備工程
S102 核磁気共鳴分光分析工程
S103 過酸化水素濃度算出工程
図1
図2
図3