(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122674
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】ニッケル原料の分析方法およびニッケル製錬方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/2022 20190101AFI20230829BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20230829BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20230829BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20230829BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230829BHJP
C25C 1/08 20060101ALI20230829BHJP
G01N 25/20 20060101ALI20230829BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20230829BHJP
【FI】
G01N33/2022
C22B23/00 102
C22B3/10
C22B3/20
C22B3/44 101Z
C25C1/08
G01N25/20 A
G01N23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026314
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
【テーマコード(参考)】
2G001
2G040
2G055
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001BA18
2G001CA01
2G001LA02
2G001NA08
2G001NA11
2G001NA13
2G001NA17
2G040AA02
2G040BA02
2G040BA25
2G040CA02
2G040CA08
2G040CA16
2G040CA22
2G040CA29
2G040DA02
2G040EA02
2G040HA11
2G040HA16
2G040ZA05
2G055AA05
2G055BA01
2G055CA11
2G055CA27
2G055FA02
2G055FA04
2G055FA05
2G055FA09
4K001AA19
4K001BA07
4K001DB04
4K001DB18
4K001DB22
4K058AA04
4K058AA14
4K058BA17
4K058BB04
4K058CA05
4K058FC05
(57)【要約】
【課題】硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料でも簡単かつ迅速にSO
4を定量できる分析方法を提供する。
【解決手段】ニッケル原料の分析方法は、X線回折法および熱重量・示差熱同時分析によりニッケル原料に含まれる結晶水とSO
4とのモル比を特定するモル比特定工程と、熱重量・示差熱同時分析によりニッケル原料の結晶水含有率を特定する結晶水含有率特定工程と、モル比と結晶水含有率とからSO
4含有率を求めるSO
4含有率特定工程とを有する。硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料でもSO
4を定量できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料の分析方法であって、
X線回折法および熱重量・示差熱同時分析により前記ニッケル原料に含まれる結晶水とSO4とのモル比を特定するモル比特定工程と、
熱重量・示差熱同時分析により前記ニッケル原料の結晶水含有率を特定する結晶水含有率特定工程と、
前記モル比と前記結晶水含有率とからSO4含有率を求めるSO4含有率特定工程と、を備える
ことを特徴とするニッケル原料の分析方法。
【請求項2】
前記ニッケル原料はニッケル硫化物を含み、
前記SO4含有率をSO4由来の硫黄含有率に換算する換算工程と、
中和滴定法または誘導結合プラズマ発光分光分析により前記ニッケル原料の全硫黄含有率を定量する全硫黄含有率定量工程と、
前記全硫黄含有率から前記SO4由来の硫黄含有率を減算して前記ニッケル硫化物由来の硫黄含有率を求める硫黄含有率特定工程と、を備える
ことを特徴とする請求項1記載のニッケル原料の分析方法。
【請求項3】
蛍光X線分析または誘導結合プラズマ発光分光分析により前記ニッケル原料に含まれる重元素を定量する重元素定量工程を備える
ことを特徴とする請求項1または2記載のニッケル原料の分析方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の分析方法により、ニッケル原料のSO4含有率を特定する分析工程と、
前記ニッケル原料を浸出処理して粗塩化ニッケル水溶液を得る浸出工程と、
前記粗塩化ニッケル水溶液を浄液して得られる塩化ニッケル水溶液を電解液として用い、電解採取法により電気ニッケルを製造する電解工程と、
前記電解工程から排出された電解廃液と炭酸化剤とを反応させて炭酸ニッケルを生成し、固液分離により得られた排水を系外に排出する炭酸ニッケル製造工程と、を備え、
前記炭酸ニッケル製造工程において、前記SO4含有率に基づいて前記排水の排出量を調整する
ことを特徴とするニッケル製錬方法。
【請求項5】
前記電解液の硫酸イオン濃度が28~32g/Lとなるように、前記排水の排出量を調整する
ことを特徴とする請求項4記載のニッケル製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル原料の分析方法およびニッケル製錬方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ニッケル原料の組成を特定するための分析方法、およびニッケル原料を製錬してニッケルを回収するニッケル製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルを回収する湿式製錬プロセスとして、ニッケル原料を塩素浸出し、得られた浸出液から不純物を除去する浄液工程などを経て、電解工程で電気ニッケルを回収する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
湿式製錬プロセスに用いられるニッケル原料の主成分はニッケル硫化物である。しかし、原料の産地によっては硫酸ニッケル水和物が混在することがある。この種のニッケル原料を用いた場合、系内の硫酸イオンが増加するため、塩化浴で行なわれる電解採取においてつぎの問題が生じる恐れがある。1)電気ニッケルの外観異常(ピンホール)が発生するリスクが上昇する。2)不溶性アノード電極が劣化する。3)電解電圧が上昇し、電力使用量が増加する。
【0005】
そこで、ニッケル原料を処理する前に、ニッケル原料に含まれるSO4を定量する必要がある。ニッケル原料がニッケル硫化物および金属ニッケルで構成される場合には、成分分析に一般的に用いられる蛍光X線分析(XRF)および誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で組成を特定できる。しかし、これらの分析方法は水素および酸素などの軽元素を測定できないためSO4の定量ができない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料でも簡単かつ迅速にSO4を定量できる分析方法を提供することを目的とする。
または、本発明は、硫酸ニッケル水和物を含むニッケル原料を用いても電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じにくいニッケル製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のニッケル原料の分析方法は、硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料の分析方法であって、X線回折法および熱重量・示差熱同時分析により前記ニッケル原料に含まれる結晶水とSO4とのモル比を特定するモル比特定工程と、熱重量・示差熱同時分析により前記ニッケル原料の結晶水含有率を特定する結晶水含有率特定工程と、前記モル比と前記結晶水含有率とからSO4含有率を求めるSO4含有率特定工程と、を備えることを特徴とする。
第2発明のニッケル原料の分析方法は、第1発明において、前記ニッケル原料はニッケル硫化物を含み、前記SO4含有率をSO4由来の硫黄含有率に換算する換算工程と、中和滴定法または誘導結合プラズマ発光分光分析により前記ニッケル原料の全硫黄含有率を定量する全硫黄含有率定量工程と、前記全硫黄含有率から前記SO4由来の硫黄含有率を減算して前記ニッケル硫化物由来の硫黄含有率を求める硫黄含有率特定工程と、を備えることを特徴とする。
第3発明のニッケル原料の分析方法は、第1または第2発明において、蛍光X線分析または誘導結合プラズマ発光分光分析により前記ニッケル原料に含まれる重元素を定量する重元素定量工程を備えることを特徴とする。
第4発明のニッケル製錬方法は、請求項1~3のいずれかに記載の分析方法により、ニッケル原料のSO4含有率を特定する分析工程と、前記ニッケル原料を浸出処理して粗塩化ニッケル水溶液を得る浸出工程と、前記粗塩化ニッケル水溶液を浄液して得られる塩化ニッケル水溶液を電解液として用い、電解採取法により電気ニッケルを製造する電解工程と、前記電解工程から排出された電解廃液と炭酸化剤とを反応させて炭酸ニッケルを生成し、固液分離により得られた排水を系外に排出する炭酸ニッケル製造工程と、を備え、前記炭酸ニッケル製造工程において、前記SO4含有率に基づいて前記排水の排出量を調整することを特徴とする。
第5発明のニッケル製錬方法は、第4発明において、前記電解液の硫酸イオン濃度が28~32g/Lとなるように、前記排水の排出量を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料でもSO4を定量できる。
第2発明によれば、SO4由来の硫黄とニッケル硫化物由来の硫黄とを分けて定量できる。
第3発明によれば、ニッケルなどの重元素を定量できる。
第4発明によれば、ニッケル原料のSO4含有率に基づいて排水の排出量を調整することで、電解液の硫酸イオン濃度を適した範囲にでき、電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じにくい。
第5発明によれば、電解液の硫酸イオン濃度を28~32g/Lとすることで、電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(分析方法)
本発明の一実施形態に係る分析方法は、ニッケル原料の組成を特定するための方法である。ニッケル原料は、少なくとも、硫酸ニッケル水和物を含む。硫酸ニッケル水和物として、一水和物、二水和物、四水和物、六水和物および七水和物が知られている。いずれの形態の硫酸ニッケル水和物がニッケル原料に含まれてもよい。
【0011】
硫酸ニッケル水和物はSO4および結晶水(H2O)を含む。以下に説明する(1)~(3)の工程を行なうことにより、SO4および結晶水を定量できる。
【0012】
(1)モル比特定工程
モル比特定工程では、ニッケル原料に含まれる結晶水とSO4とのモル比Nを特定する。モル比Nは結晶水に対するSO4の物質量の比率として表すことができる。例えば、硫酸ニッケル六水和物(NiSO4・6H2O)のモル比Nは1/6である。モル比NはX線回折法(XRD)により特定できる。
【0013】
X線回折法によりニッケル原料を分析すると、硫酸ニッケル水和物の形態(結晶水の数)を特定できる。X線回折法により硫酸ニッケル水和物の形態(結晶水の数)を特定した後、特定した形態の硫酸ニッケル水和物の標準試料およびニッケル原料を熱重量・示差熱同時分析(TG-DTA)により分析する。標準試料およびニッケル原料について、熱重量・示差熱同時分析して得られた両者の重量変化温度、および吸熱または発熱のピーク温度を比較、照合することで、X線回折法により特定された硫酸ニッケル水和物の形態(結晶水の数)を確認できる。結晶水の数からモル比Nを特定できる。
【0014】
なお、ニッケル原料に結晶水の数が異なる複数種類の硫酸ニッケル水和物が混在してもよい。この場合、モル比特定工程では、複数種類の硫酸ニッケル水和物の個別のモル比Niを特定する。
【0015】
(2)結晶水含有率特定工程
結晶水含有率特定工程では、上記熱重量・示差熱同時分析の結果からニッケル原料の結晶水含有率RH2Oを特定する。ニッケル原料の結晶水含有率RH2Oは、特定した形態の硫酸ニッケル水和物の標準試料およびニッケル原料を熱重量・示差熱同時分析し、得られた結晶水の離脱温度におけるニッケル原料の重量減少そのものから特定できる。結晶水含有率RH2Oは重量基準になる。
【0016】
なお、ニッケル原料に結晶水の数が異なる複数種類の硫酸ニッケル水和物が混在する場合でも、熱重量・示差熱同時分析により、それぞれの種類の硫酸ニッケル水和物に由来する結晶水含有率を特定できる。各種類の結晶水含有率Riの総和を結晶水含有率RH2Oとすればよい。
【0017】
また、ニッケル原料に結晶水の数が異なる複数種類の硫酸ニッケル水和物が混在する場合、ニッケル原料全体の平均的なモル比Nは、各硫酸ニッケル水和物の結晶水含有率Riから各硫酸ニッケル水和物のモル比Niを求め、それらの加重平均により特定できる。例えば、六水和物の結晶水含有率Ri(=R6)が10%(=0.1)、二水和物の結晶水含有率Ri(=R2)が6%(=0.06)であるとする。このときの平均的なモル比Nの逆数は、(1/N)=(0.1÷6/(0.1÷6+0.06÷2))×6+(0.06÷2/(0.1÷6+0.06÷2))×2=3.45となる。
【0018】
(3)SO4含有率特定工程
SO4含有率特定工程では、モル比Nと結晶水含有率RH2OとからSO4含有率RSO4を求める。式(1)に示すように、結晶水含有率RH2Oに係数k1およびモル比Nを乗ずればSO4含有率RSO4が得られる。係数k1は、硫黄(S)、酸素(O)および水素(H)の原子量から求められる値であり、5.34である。このように、硫酸ニッケル水和物を含有するニッケル原料でもSO4を定量できる。
RSO4=k1×N×RH2O ・・・(1)
【0019】
一般的に、SO4を定量するには、重量法、滴定法などの化学分析が選択される。しかしこれらの分析方法は熟練者による複雑な操作を伴う。本実施形態の分析方法によれば、測定に特殊な技能を要さない汎用的な手法である、X線回折法および熱重量・示差熱同時分析を用いる。そのため、簡単かつ迅速にSO4を定量できる。
【0020】
ニッケル原料はニッケル硫化物を含んでもよい。ニッケル硫化物として、硫化ニッケル(NiS)、二硫化三ニッケル(Ni3S2)、四硫化三ニッケル(Ni3S4)および六硫化七ニッケル(Ni7S6)が知られている。いずれのニッケル硫化物がニッケル原料に含まれてもよい。
【0021】
ニッケル原料にニッケル硫化物が含まれる場合、以下に説明する(4)~(5)の工程を行なうことにより、ニッケル硫化物由来の硫黄を、SO4由来の硫黄と分けて定量できる。
【0022】
(4)換算工程
換算工程では、SO4含有率RSO4をSO4由来の硫黄含有率RS-SO4に換算する。式(2)に示すように、SO4含有率RSO4に係数k2を乗ずればSO4由来の硫黄含有率RS-SO4が得られる。係数k2は、硫黄(S)および酸素(O)の原子量から求められる値であり、0.334である。
RS-SO4=k2×RSO4 ・・・(2)
【0023】
(5)全硫黄含有率定量工程
全硫黄含有率定量工程では、ニッケル原料の全硫黄含有率RSを定量する。全硫黄含有率RSはSO4由来の硫黄とニッケル硫化物由来の硫黄とを合わせた全体の硫黄含有率である。全硫黄含有率RSは中和滴定法または誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により特定できる。
【0024】
(6)硫黄含有率特定工程
硫黄含有率特定工程では、式(3)に示すように、全硫黄含有率RSからSO4由来の硫黄含有率RS-SO4を減算してニッケル硫化物由来の硫黄含有率RS-NiSを求める。このように、SO4由来の硫黄とニッケル硫化物由来の硫黄とを分けて定量できる。
RS-NiS=RS-RS-SO4 ・・・(3)
【0025】
ニッケル原料は、硫酸ニッケル水和物、ニッケル硫化物のほか、金属ニッケル(Ni0)を含んでもよい。また、ニッケル原料はニッケル以外の金属元素などの不純物を含んでもよい。以下に説明する(7)の工程を行なうことにより、ニッケル原料に含まれるニッケル元素などの重元素を定量できる。
【0026】
(7)重元素定量工程
重元素定量工程では、蛍光X線分析(XRF)または誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)によりニッケル原料に含まれる重元素を定量する。なお、本明細書において重元素とは、蛍光X線分析または誘導結合プラズマ発光分光分析により定量可能な元素をいう。蛍光X線分析および誘導結合プラズマ発光分光分析は、一般に、ネオンよりも原子番号が大きい元素を定量できる。
【0027】
ニッケル原料には、ニッケルのほか、コバルト、鉄、銅などの金属元素が含まれることが多い。これらの重元素を定量できる。
【0028】
なお、重元素定量工程を行なうタイミングは、特に限定されない。すなわち、上記(1)モル比特定工程から(3)硫酸根含有率特定工程まで、または(1)モル比特定工程から(6)硫黄含有率特定工程までの一連の流れの中で、前でも、途中でも、後でも、いつ実施してもよい。ただし、一般的な手順としては、(1)モル比特定工程の前に重元素定量工程を行なう。すなわち、全成分分析をした後に、さらに硫黄に関して詳細分析を行なう。
【0029】
(ニッケル製錬方法)
つぎに、
図1に基づき、本発明の一実施形態に係るニッケル製錬方法を説明する。
ニッケル製錬に用いられるニッケル原料の主成分はニッケル硫化物である。ニッケル原料には金属ニッケルが含まれてもよい。また、ニッケル原料には硫酸ニッケル水和物が含まれてもよい。ニッケル原料として、ニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスドサルファイド)、硫酸ニッケル含有硫化物原料を用いることができる。
【0030】
ニッケルマットは乾式製錬により得られる。具体的には、ニッケルマットは硫鉄ニッケル鉱を熔錬することで得られる。ニッケルマットの主成分は二硫化三ニッケル(Ni3S2)および金属ニッケル(Ni0)である。
【0031】
ニッケル・コバルト混合硫化物は湿式製錬により得られる。具体的には、低品位ラテライト鉱、リモナイト鉱などのニッケル酸化鉱石を加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)し、浸出液から鉄などの不純物を除去した後、硫化水素ガスを浸出液に吹き込んで硫化反応によりニッケル・コバルト混合硫化物を得る。ニッケル・コバルト混合硫化物の主成分は硫化ニッケル(NiS)である。
【0032】
硫酸ニッケル含有硫化物原料として、四硫化三ニッケル(Ni3S4)および硫酸ニッケル水和物の混合物が挙げられる。
【0033】
まず、前記の分析方法により、ニッケル原料の組成を特定する(分析工程)。特に、硫酸ニッケル水和物を含むニッケル原料の組成を特定する。ここでは、少なくとも、SO4含有率RSO4を特定すればよい。
【0034】
ニッケル・コバルト混合硫化物の一部と後述のセメンテーション残渣とからなるスラリーを塩素浸出工程に供給して塩素浸出する。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる金属が実質的に全て液中に浸出される。塩素浸出工程から排出されたスラリーは浸出液と浸出残渣とに固液分離される。浸出液は不純物を含む塩化ニッケル水溶液(粗塩化ニッケル水溶液)である。
【0035】
ニッケルマットは、粉砕工程において粉砕した後、レパルプしてマットスラリーとし、セメンテーション工程に供給する。また、セメンテーション工程には、ニッケル・コバルト混合硫化物の残部および硫酸ニッケル含有硫化物原料も供給される。セメンテーション工程には塩素浸出工程で得られた浸出液が供給されている。浸出液には回収目的金属であるニッケルおよびコバルトのほか、不純物として銅、鉄、鉛、マンガン、亜鉛、砒素、クロムなどが含まれている。
【0036】
浸出液には2価の銅クロロ錯イオンが含まれている。セメンテーション工程では、浸出液とニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物、および硫酸ニッケル含有硫化物原料とを接触させて、銅とニッケルとの置換反応を行なう。これにより、ニッケルマット、ニッケル・コバルト混合硫化物、および硫酸ニッケル含有硫化物原料中のニッケルが液に置換浸出され、浸出液中の銅イオンが硫化銅(Cu2S)または金属銅(Cu0)の形態で析出する。固液分離により得られたセメンテーション残渣は塩素浸出工程に供給される。
【0037】
なお、塩素浸出工程およびセメンテーション工程は、特許請求の範囲に記載の「浸出工程」に相当する。
【0038】
セメンテーション工程から得られたセメンテーション終液は脱鉄工程に供給される。脱鉄工程では、セメンテーション終液(粗塩化ニッケル水溶液)に酸化剤および中和剤を添加して酸化中和反応を生じさせ、鉄を水酸化物として固定化し、濾過機を用いて固液分離することで除去する。ここで、酸化剤として、例えば塩素ガスが用いられる。また、中和剤として炭酸ニッケルスラリーが用いられる。脱鉄工程においてセメンテーション終液に含まれる不純物である鉄、砒素およびクロムが澱物として除去される。
【0039】
脱鉄工程から得られた脱鉄終液を抽出始液として溶媒抽出工程に供給する。溶媒抽出工程では、抽出始液に含まれるコバルトを溶媒抽出により分離し、粗塩化ニッケル水溶液(抽出残液)と粗塩化コバルト水溶液とを得る。
【0040】
粗塩化コバルト水溶液は浄液工程を経てさらに不純物が除去されて高純度塩化コバルト水溶液となる。高純度塩化コバルト水溶液を電解液とした電解採取により電気コバルトが製造される。
【0041】
抽出残液は脱鉛工程に供給され、不純物である鉛が除去される。脱鉛工程では、抽出残液に酸化剤および中和剤を添加して酸化中和反応を生じさせ、鉛を沈澱物として固定化し、濾過機を用いて固液分離することで除去する。ここで、酸化剤として、例えば塩素ガスが用いられる。また、中和剤として炭酸ニッケルスラリーが用いられる。脱鉛工程において粗塩化ニッケル水溶液に含まれる不純物である鉛、コバルト、鉄および銅が澱物として除去される。なお、微量の鉛を沈殿物として固定化する条件では、ニッケルも沈澱し易い。そこで、脱鉛工程で得られる沈殿物である脱鉛澱物は、ニッケル原料としてリサイクルされる。
【0042】
脱鉛工程から得られた脱鉛終液を脱亜鉛工程に供給する。脱亜鉛工程では、脱鉛終液に残留した微量の亜鉛を陰イオン交換樹脂に吸着させることで除去する。
【0043】
脱亜鉛工程から得られた高純度塩化ニッケル水溶液は電解給液としてニッケル電解工程に供給される。ニッケル電解工程では電解採取により電気ニッケルが製造される。
【0044】
ニッケル電解工程において電解槽から排出される電解廃液(アノライトとも称される。)はニッケル濃度が低下した塩化ニッケル水溶液である。電解廃液の一部は炭酸ニッケル製造工程に供給される。電解廃液の残部は、濃縮後、電解給液として電解槽に繰り返される。
【0045】
炭酸ニッケル製造工程では、電解廃液(塩化ニッケル水溶液)と炭酸化剤とを反応させて炭酸ニッケルを生成する。炭酸化剤として、例えば、炭酸ナトリウムが用いられる。炭酸ニッケルを含むスラリーを炭酸ニッケルと排水とに固液分離する。炭酸ニッケルは、レパルプ後に、脱鉄工程および脱鉛工程において中和剤として用いられる。排水は系外に排出される。
【0046】
(炭酸ニッケル製造工程)
つぎに、炭酸ニッケル製造工程を詳説する。
炭酸ニッケル製造工程は、
図2に示す炭酸ニッケルの製造設備AAを用いて実施される。製造設備AAは、反応槽1、固液分離装置2、およびシックナー3を有する。
【0047】
塩化ニッケル水溶液および炭酸化剤は反応槽1に供給され、撹拌される。これにより、塩化ニッケル水溶液と炭酸化剤とが反応し、炭酸ニッケルが生成される。塩化ニッケル水溶液はニッケル電解工程の電解廃液である。炭酸化剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどが用いられる。なお、反応槽1の数は1つでもよいし、複数でもよい。複数の反応槽1を直列に接続してもよいし、並列に接続してもよい。
【0048】
反応槽1への炭酸化剤の供給量は、スラリーの液相分のpHが6~9、好ましくは7となるよう調整される。このpH領域では炭酸ニッケルが固形物として安定であり、炭酸ニッケルを効率よく生成できるからである。
【0049】
反応槽1から排出されたスラリーは固液分離装置2に供給される。固液分離装置2において、スラリーが炭酸ニッケルと濾液とに固液分離される。これにより、炭酸ニッケルが得られる。固液分離装置2としては、特に限定されないが、デカンターなどの遠心分離機、オリバーフィルターなどの真空脱水機、フィルタープレスなどの加圧脱水機などを用いることができる。
【0050】
固液分離装置2から排出された濾液はシックナー3に供給される。シックナー3では濾液に含まれる炭酸ニッケルの微粒子を沈降させる。シックナー3のアンダーフローは反応槽1に供給される。アンダーフローには炭酸ニッケルの微粒子が含まれており、この微粒子が反応槽1に供給されることになる。
【0051】
シックナー3のオーバーフローは排水として処理される。すなわち、排水は排水処理された後に、系外に排出される。排水には硫酸イオンが含まれる。したがって、排水の排出とともに、硫酸イオンを系外に排出することができる。
【0052】
前述のごとく、硫酸ニッケル水和物を含むニッケル原料を用いた場合、系内の硫酸イオンが増加するため、電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じることがある。そこで、分析工程においてニッケル原料のSO4含有率RSO4を特定する。そして、炭酸ニッケル製造工程においてSO4含有率RSO4に基づいて排水の排出量を調整する。これにより、硫酸イオンの系外への排出量を調整して、系内、特に電解液の硫酸イオン濃度を適した範囲にする。
【0053】
具体的には、硫酸ニッケル水和物を含むニッケル原料のSO4含有率RSO4に基づいて推定される系内へのSO4持込み量が多くなれば、排水の排出量を増加させる。一方、推定される系内へのSO4持込み量が少なくなれば、排水の排出量を低減できる。
【0054】
ここで、ニッケル電解工程に供給される電解液の硫酸イオン濃度が28~32g/Lとなるように、排水の排出量を調整することが好ましい。そうすれば、電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じにくい。
【0055】
このように、ニッケル原料のSO4含有率RSO4に基づいて排水の排出量を調整することで、電解液の硫酸イオン濃度を適した範囲できる。そのため、電解採取において硫酸イオンに起因する問題が生じにくい。
【実施例0056】
つぎに、実施例を説明する。
ニッケル原料をサンプリングしてX線回折法で分析したところ、硫酸ニッケル六水和物がメインの回折ピークとして検出された。つぎに、熱重量・示差熱同時分析を行なったところ、熱重量変化の挙動が純粋な硫酸ニッケル六水和物と酷似していることが確認された。これらの結果より、ニッケル原料には硫酸ニッケル六水和物が含まれることが確認された。
【0057】
熱重量・示差熱同時分析の結果から結晶水含有率RH2Oを求めたところ、21.4重量%であった。結晶水に対するSO4のモル比N=1/6として、結晶水含有率RH2OからSO4含有率RSO4を求めたところ、19.0重量%となった。
【0058】
つぎに、中和滴定法によりニッケル原料の全硫黄含有率RSを特定したところ、21.4重量%であった。SO4含有率RSO419.0重量%をSO4由来の硫黄含有率RS-SO4に換算すると、6.3重量%である。全硫黄含有率RS21.4重量%からSO4由来の硫黄含有率RS-SO46.3重量%を差し引いて、ニッケル硫化物由来の硫黄含有率RS-NiSは15.1重量%と求められた。