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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122717
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】フライ用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230829BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026374
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】堀田 聡史
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DG04
4B026DH05
4B026DL02
4B026DP03
4B026DP10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、長時間使用した場合でも劣化しにくいフライ用油脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明によって、薄膜蒸留処理をした油脂を含み、リン脂質含量が1~300ppmであるフライ用油脂組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜蒸留処理をした油脂を含む、リン脂質含量が1~300ppmであるフライ用油脂組成物。
【請求項2】
薄膜蒸留処理をした油脂が、リン脂質含量が1000~100000ppmである、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
薄膜蒸留処理をした油脂が、菜種を原料とする油脂を含む、請求項1または2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
薄膜蒸留処理をした油脂が、抽出油を薄膜蒸留処理した油脂を含む、請求項1~3のいずれかに記載の油脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフライ用油脂組成物を製造する方法であって、
薄膜蒸留処理をした油脂を、ベースとなる食用油脂に配合する工程を含む、上記方法。
【請求項6】
前記薄膜蒸留処理が、20Pa以下、130~250℃の条件で実施される、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ用油脂組成物およびその製造方法に関する。また本発明は、フライ用油脂組成物を用いた調理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食材をフライ(油ちょう)するために油脂が使用される。しかし、長時間にわたって高温でのフライ調理を続けると、熱酸化、熱分解、熱重合、加水分解などの反応が進み、着色、酸価上昇、粘度上昇、酸敗臭の発現など、油脂の劣化が生じる。
【0003】
一般に、フライ用油脂は、定期的に交換されて使用されるが、短期間での廃棄・交換は、経済的にも環境的にも負荷が大きく、フライ用油脂の劣化を抑制する技術が求められている。
【0004】
フライ用油脂の加熱劣化に関しては、油脂にリンを配合して着色や加熱臭を抑制することが知られており、リンを含む原材料として、リン酸カルシウムやリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、レシチン、完全に精製されていない油(原油、脱ガム油等)などを用いることが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-084719号公報
【特許文献2】特開2009-055897号公報
【特許文献3】特開2009-050234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、フライ調理用として長時間加熱しても熱劣化しにくいフライ用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが上記課題について鋭意検討したところ、薄膜蒸留処理を施し、リン脂質を比較的多く含有する油脂を油脂組成物に配合することによって、フライ用油脂組成物の熱劣化を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1] 薄膜蒸留処理をした油脂を含む、リン脂質含量が1~300ppmであるフライ用油脂組成物。
[2] 薄膜蒸留処理をした油脂が、リン脂質含量が1000~100000ppmである、[1]に記載の油脂組成物。
[3] 薄膜蒸留処理をした油脂が、菜種を原料とする油脂を含む、[1]または[2]に記載の油脂組成物。
[4] 薄膜蒸留処理をした油脂が、抽出油を薄膜蒸留処理した油脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の油脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のフライ用油脂組成物を製造する方法であって、薄膜蒸留処理をした油脂を、ベースとなる油脂に配合する工程を含む、上記方法。
[6] 前記薄膜蒸留処理が、20Pa以下、130~250℃の条件で実施される、[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フライ調理用として長時間加熱しても熱劣化しにくいフライ用油脂組成物が提供される。本発明のフライ用油脂組成物は、フライ調理用として長時間加熱しても、酸価の上昇、着色、油脂重合物の増加などが抑制される。
【0010】
本発明によって熱劣化しにくいフライ用油脂組成物が得られる理由の詳細は明らかでなく、本発明はこの推論に拘束されるわけではないが、薄膜蒸留処理をした油脂に比較的多く含まれるリン脂質によってフライ用油脂組成物の熱劣化が抑制されるものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るフライ用油脂組成物は、薄膜蒸留処理をした油脂が配合されておりフライ調理用として長時間加熱しても熱劣化しにくいものである。
フライ用油脂組成物(フライ油)
本発明に係る油脂組成物は、フライ(油ちょう)に用いられる油脂組成物である。本発明においてフライとは、比較的多量の食用油脂を熱媒として使用する加熱調理方法をいい、日常的に幅広く用いられるものである。本発明に係る油脂組成物は、衣をつけてフライするような場合はもちろん、衣がないような素揚げに用いることもできる。フライした食品としては、例えば、天ぷら、から揚げ、とんかつ、コロッケ、さつま揚げ、即席麺、揚げせんべい、かりんとう、フライドポテト、フライドチキン、ドーナツなどを挙げることができる。フライ調理を実施する場所は、一般家庭はもちろん、スーパーマーケットなどの店舗のバックヤード、大規模な食品工場など、多くの場所が挙げられる。本発明に係る油脂組成物を食品工場などにおいて連続して使用する場合、フライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を継ぎ足しながら使用することができる(この操作を「差し油」、「足し油」などという)。
【0012】
本発明に係るフライ用油脂組成物は食用油脂を含有する。本発明に使用する食用油脂は、特に限定されるものではなく、植物由来であるか、動物由来であるか、また、合成品であるかも問わない。本発明によれば、1種類の油脂を使用してもよいし、複数の油脂を使用してもよい。食用油脂としては、例えば、大豆油、菜種油(キャノーラ油を含む)、コーン油、ひまわり油、紅花油、綿実油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、オリーブ油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ脂、藻類油などを単独または組み合わせて使用することができる。また、水素添加油脂、グリセリンと脂肪酸のエステル化油、エステル交換油、分別油脂なども適宜使用することができる。さらに、遺伝子組換えの技術を用いて品種改良した植物から抽出したものであってもよく、例えば、菜種油、ひまわり油、紅花油、大豆油などでは、オレイン酸含量を高めた高オレイン酸タイプの品種から得られた油脂を使用することができる。好ましい食用油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、オリーブ油、ゴマ油などの植物油を挙げることができる。特に、菜種油、大豆油を主体とすることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る食用油脂には、必要に応じて通常用いられる添加剤を添加することができる。前記添加剤としては、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上、低温下での結晶抑制等を目的としたものであって、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、レシチン等の乳化剤、トコフェロール、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、茶抽出物、コエンザイムQ、オリザノール等の抗酸化剤、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等の有機酸塩類、β-カロテン等の色素、香料、シリコーンなどが挙げられる。
【0014】
本発明に係る食用油脂は、一般的な工程によって製造することができる。例えば、種子などの原料に対して圧搾または/および溶剤抽出を行うことで採油する工程(圧搾または/および溶剤抽出を行う場合、各採油工程で得られた油脂を混合してもよい)、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程、脱臭工程、脱ロウ工程などが挙げられる。
【0015】
薄膜蒸留処理した油脂
本発明に係るフライ用油脂組成物には、薄膜蒸留処理した油脂が配合されており、これによって、加熱処理された際の劣化が抑制される。
【0016】
薄膜蒸留処理は薄膜蒸留装置を用いて実施することができるが、薄膜蒸留装置を用いて高真空下で粗原油を蒸留することによって、リン脂質を残存させたまま、粗原油中の水分や粗原油中に溶存する気体を除去することが可能である。本発明においては、粗原油を薄膜蒸留処理することによって、リン脂質を含有する油脂を得ることができ、また、脱ガム処理をすることなく直接精製処理することが可能になる。
【0017】
薄膜蒸留装置は、公知の装置を制限なく使用することができ、例えば、流下型、かきとり型、遠心型などの装置を使用できる。具体的には、エバポール(大川原製作所)、Thin Film Evaporator(Luwa社)、Wiped Film Evaporator(Luwa社)、などを用いることができる。薄膜蒸留の際の真空度は、200Pa以下が好ましく、20Pa以下がより好ましく、0.1~10Paがさらに好ましく、0.5~5Paがよりさらに好ましい。また、薄膜蒸留の際の温度は、例えば、20~400℃とすることができ、50~350℃がより好ましく、100~300℃や130~250℃がさらに好ましく、150~200℃がよりさらに好ましい。
【0018】
本発明において薄膜蒸留処理する粗原油は特に制限されず、例えば、油糧原料から圧搾して得られる圧搾油、油糧原料や油糧原料を圧搾したあとの圧搾粕から溶剤抽出で得られる抽出油、またはこれらの混合物を脱ガム処理した脱ガム油を好適に使用できるが、これらを単独もしくは併用することも可能である。抽出油、脱ガム油を使用すると、劣化抑制効果が高いため、好ましい。また、抽出油を使用すると、フライ用油脂組成物を加熱した際のにおいが少ないため、より好ましい。抽出油の中でも、油糧原料を圧搾したあとの圧搾粕から溶剤抽出で得られる抽出油が、さらに好ましい。また、薄膜蒸留処理する粗原油は、吸着処理などを施して夾雑物を取り除いたものでもよい。
【0019】
油糧原料の圧搾は、例えば、エクスペラーと称する圧搾機により種子、果肉、胚芽等の原料に機械的圧力を加えて油を搾り取ることによって実施することができ、菜種では、一般に、リン脂質含量が約0.1~1.5%の圧搾油が得られる。また、溶剤抽出は、例えば、ヘキサンなどの有機溶剤を用いて油糧原料や油糧原料を圧搾したあとの圧搾粕から油分を抽出し、溶剤を除去して油を得る方法である。大豆や菜種を原料とする抽出油は、一般に、リン脂質含量が約0.5~3.0%となることが多い。
【0020】
油糧原料としては、動物性や植物性のものを制限なく使用できるが、植物性のものとしては、大豆、菜種(キャノーラ油を含む)、亜麻仁、ヒマワリ、紅花、綿実、胡麻、アーモンド、米糠、トウモロコシ、パーム、ピーナツなどが挙げられる。特に、劣化抑制効果が高いため、油糧原料として菜種(キャノーラ油を含む)を使用することが好ましい。
【0021】
本発明において、フライ用油脂組成物に配合する薄膜蒸留処理した油脂は、リン脂質の含有量が1000~100000ppmであることが好ましく、1500~50000ppmや2000~30000ppmであってもよい。ここで、リン脂質の含有量は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法 2.4.11-2013 リン脂質」に準拠してリン含量を測定し、算出すればよい。代表的なリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)が挙げられる。
【0022】
本発明に係るフライ用油脂組成物には、薄膜蒸留処理した油脂が配合されるが、フライ用油脂組成物のリン脂質含量は1~300ppmとなるように配合することが好ましく、5~250ppmや10~200ppmとなるように配合してもよい。また、本発明に係るフライ用油脂組成物は、リン含量が0.04~12ppmとなるように配合することが好ましく、0.2~10ppmや0.4~8ppmとなるように配合してもよい。リン脂質の量が多すぎると油脂組成物の風味に悪影響を与える場合がある一方、リン脂質の量が少なすぎると本発明による効果を十分に享受できない場合がある。
【0023】
本発明において、薄膜蒸留処理した油脂は、吸着処理や脱臭処理などを施したものであってもよい。吸着処理は、粗原油を吸着剤で処理することにより行うことができ、吸着剤としては、例えば、活性白土、活性炭、シリカゲル、イオン交換樹脂などが使用可能である。吸着剤の添加量は特に制限されないが、例えば、油に対して0.01~5%とすることができ、0.5~3%添加することが好ましい。また、吸着処理の温度は、例えば、20~140℃とすることができ、処理時間は1~60分で行うのが良い。また、脱臭処理は、必要に応じて、油脂の精製工程で行われるが、薄膜蒸留処理と連続で行うと真空を維持することができて好適である。脱臭処理に用いる脱臭装置は公知の装置を制限なく使用でき、例えば、100~1000Pa程度の減圧下で水蒸気を吹き込み、揮発性有臭成分を除去する。脱臭処理の温度は、例えば、20~140℃とすることができ、好ましくは80~130℃である。脱臭処理の時間は、脱臭温度に到達してから5~180分とすることができ、好ましくは30~90分である。
【0024】
本発明に係る油脂組成物は、原料を撹拌して混合することによって製造することができる。混合および撹拌は、油脂を加温した状態で実施してもよい。また、混合および攪拌は、加圧、減圧、常圧下で実施することが可能であり、ある態様では、常圧下で混合が行われる。
【0025】
本発明に係る油脂組成物を製造する装置は、特に限定されないが、例えば、攪拌機、加熱用のジャケットなどを備えた加温可能な攪拌槽、邪魔板等を備えた通常の攪拌・混合装置を用いることができる。回転数、攪拌時間などの撹拌条件は、原材料が均一に混合されれば、特に制限されない。攪拌機における攪拌翼の形状は特に制限されないが、例えば、プロペラ型、かい十字型、ファンタービン型、ディスクタービン型またはいかり型などとすることができる。
【0026】
一つの態様において、本発明は、上述のフライ用油脂組成物を用いてフライすることを含む食品の製造方法であり、また別の態様において、本発明は、フライ用油脂組成物を用いて加熱調理した食品である。
【実施例0027】
本発明を具体例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本明細書において濃度などは質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0028】
実験1.原料油脂の調製
以下の実験においては、菜種を原料とする下記の油脂を使用した。なお、油脂中のリン脂質含量は、日本油化学協会編「基準油脂分析試験法 2.4.11-2013 リン脂質」に準拠してリン含有量を測定し、それをもとにステアロイルオレオイルホスファチジルコリン(分子量:788)として百分率で算出した。
【0029】
1-1.油脂A
菜種を粗砕、圧扁し、熱処理(間接加熱)を施した後、スクリュープレスで圧搾し、さらに珪藻土で吸着ろ過して、菜種圧搾油を得た(リン含量:377ppm、リン脂質含量:9400ppm)。この菜種圧搾油について、80℃、約1.2kPaの条件で60分間、脱気・脱水処理を行い、油脂中の水分および溶存気体を除去した。次いで、薄膜蒸留処理装置(日本車輌製造、MS-1000)を用いて、170℃、1Pa、1パスの条件で、薄膜蒸留処理により脂肪酸や有臭成分を除去し、原料油脂Aを得た(リン含量:323ppm、リン脂質含量:8100ppm)。
【0030】
1-2.油脂B(薄膜蒸留処理なし)
菜種圧搾油の製造における圧搾残渣に溶剤(n-ヘキサン)を接触させ、油分を溶剤溶液として抽出した後、溶剤を除去し、さらに珪藻土で吸着ろ過して、菜種抽出油を得た(リン含量:980ppm、リン脂質含量:24500)。
【0031】
1-3.油脂C
上記の菜種抽出油(油脂B)について、80℃、約1.2kPaの条件で60分間、脱気・脱水処理を行い、油脂中の水分および溶存気体を除去した。次いで、薄膜蒸留処理装置を用いて、170℃、1Pa、1パスの条件で、薄膜蒸留処理により脂肪酸や有臭成分を除去し、原料油脂Cを得た(リン含量:1092ppm、リン脂質含量:27300ppm)。
【0032】
1-4.油脂D
菜種圧搾油と菜種抽出油(油脂B)を6:4で混合したものに、1.5%水を添加して攪拌し、ガム質を水和させた後、遠心分離機で水相を除去し、さらに珪藻土で吸着ろ過して、菜種脱ガム油を得た(リン含量:114ppm、リン脂質含量:2800ppm)。この菜種脱ガム油について、80℃、約1.2kPaの条件で60分間、脱気・脱水処理を行い、油脂中の水分および溶存気体を除去した。次いで、薄膜蒸留処理装置を用いて、170℃、1Pa、1パスの条件で、薄膜蒸留処理により脂肪酸や有臭成分を除去し、原料油脂Dを得た(リン含量:116ppm、リン脂質含量:2900ppm)。
【0033】
実験2.フライ用油脂組成物の製造と評価
下表の配合に基づいて、ベースとなる精製菜種油(昭和産業、昭和キャノーラ油、リン含量:0ppm、リン脂質含量:0ppm、シリコーン3ppm含有)に対して実験1で製造した油脂を混合してフライ用油脂組成物を調製した。次いで、調製した油脂組成物30gをガラス製試験管(容量60mL)に入れ、オイルバス中で96時間、180℃に加熱した。
【0034】
加熱後の油脂組成物について、酸価、色相、油脂重合物を下記のようにして測定した。
(酸価) 日本油化学協会編「基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価(中和滴定法)」に準拠して、サンプルの酸価を測定した。
(色相) 日本油化学協会編「基準油脂分析試験法 2.2.1.1-2013(ロビボンド法)」に準拠してサンプルの色相を評価した。ロビボンド比色計(TINTOMETER社、1インチセル)を使用し、標準色ガラスの値に基づいて「Y(黄)+R(赤)×10」の値を算出した。
(油脂重合物) 日本油化学協会編「基準油脂分析試験法 2.5.7-2013 油脂重合物(ゲル浸透クロマトグラフ法)」に準拠して、サンプルに含まれる油脂重合物を測定した。
【0035】
【表1】
【0036】
上記の表から明らかなように、薄膜蒸留処理を施した食用油脂を配合することによって加熱劣化が効果的に抑制され、酸価、色相、重合物の上昇が大幅に抑制された。また、薄膜蒸留していない油脂Bを使用したサンプル2-2は、加熱中のにおいが強かったのに対し、油脂Cを使用したサンプル2-3は加熱中のにおいが強くなく、サンプル2-1(対照)と同等のにおいの強さであった。
【0037】
実験3.フライ用油脂組成物の製造と評価
下表の配合に基づいて、ベースとなる精製菜種油(昭和産業、昭和キャノーラ油、リン含量:0ppm、リン脂質含量:0ppm、シリコーン無添加)に原料油脂を混合してフライ用油脂組成物を調製した。次いで、調製した油脂組成物40gをガラス製ビーカー(容量100mL)に入れ、オイルバス中で48時間、180℃に加熱した。
【0038】
加熱後の油脂組成物について、酸価、色相、油脂重合物を実験2と同様にして測定した。
【0039】
【表2】
【0040】
評価結果を表に示すが、本発明に基づいて薄膜蒸留処理を施した油脂を配合することによって、長時間の油ちょうによる劣化が抑えられていた。特に、油脂Cまたは油脂Dを配合すると、油脂の劣化が効果的に抑制されていた。油脂Cを配合したサンプルと油脂Dを配合したサンプルを比較すると、油脂Cを配合したサンプルの方が加熱時のにおいがより少なかった。
【0041】
実験4.フライ用油脂組成物の製造と評価
下表の配合に基づいて、ベースとなる精製菜種油(昭和産業、昭和キャノーラ油、リン含量:0ppm、リン脂質含量:0ppm、シリコーン無添加)に原料油脂を混合してフライ用油脂組成物を調製した。次いで、調製した油脂組成物30gをガラス製試験管(容量60mL)に入れ、オイルバス中で192時間、180℃に加熱した。
【0042】
【表3】
【0043】
評価結果を表に示すが、本発明に基づいて薄膜蒸留処理を施した油脂を配合することによって、長時間の油ちょうによる劣化が抑えられていた。また、薄膜蒸留処理を施した油脂を多く配合すると加熱による劣化がより抑制された一方、加熱前の油脂組成物の色相が若干濃くなる傾向があった。