(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122756
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】粒径分布計算装置及び粒径分布計算方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20230829BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20230829BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C22B15/00 102
F27B3/28
F27D21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026441
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】夏井 俊悟
(72)【発明者】
【氏名】埜上 洋
【テーマコード(参考)】
4K001
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001AA10
4K001BA06
4K001BA10
4K001BA12
4K001GA04
4K001GB11
4K045AA04
4K045BA03
4K045DA01
4K045RB26
4K056AA02
4K056AA05
4K056BA02
4K056BB10
4K056CA04
4K056FA11
(57)【要約】
【課題】自熔炉に設けられた反応塔内を落下する複数のスラグ及びマット液滴の衝突による、マットの粒径分布の変化を高精度に算出できる粒径分布計算装置を提供する。
【解決手段】本発明の粒径分布計算装置は、反応塔の頂部から供給された製錬原料が反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグの粒径分布を計算する粒径分布計算装置であって、マット及びスラグの粒径分布を算出する第1の粒径分布算出部と、反応塔内の所定の領域を計算領域として設定する領域設定部と、計算領域内にマット及びスラグを配置して、マット及びスラグの初期状態の配置を設定する配置設定部と、ポテンシャルモデルを用いた粒子法により計算領域内に配置した初期状態のマット及びスラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算して、マット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布を算出する第2の粒径分布算出部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグの粒径分布を計算する粒径分布計算装置であって、
前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する第1の粒径分布算出部と、
前記反応塔内の所定の領域を計算領域として設定する領域設定部と、
前記計算領域内に前記マット及び前記スラグを配置して、前記マット及び前記スラグの初期状態の配置を設定する配置設定部と、
ポテンシャルモデルを用いた粒子法により前記計算領域内に配置した初期状態の前記マット及び前記スラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算して、前記マット及び前記スラグの衝突後の前記マットの粒径分布を算出する第2の粒径分布算出部と、
を備える粒径分布計算装置。
【請求項2】
前記第1の粒径分布算出部は、前記製錬原料の供給量、前記製錬原料の粒径分布、前記製錬原料の組成、前記セトラーへの到達時の前記マット中の銅の質量%及び前記反応塔内の液滴空間濃度を入力条件として用いる請求項1に記載の粒径分布計算装置。
【請求項3】
前記第1の粒径分布算出部は、前記製錬原料の組成と、前記セトラーへの到達時の前記マット中の銅の質量%から、前記マット及び前記スラグの組成及び生成量を算出する請求項2に記載の粒径分布計算装置。
【請求項4】
前記第1の粒径分布算出部は、前記マット及び前記スラグの組成から前記マット及び前記スラグの密度を推定し、前記製錬原料の密度及び供給量と、前記製錬原料の粒径分布と、前記マット及び前記スラグの生成量及び密度とから、前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する請求項3に記載の粒径分布計算装置。
【請求項5】
前記領域設定部は、前記計算領域の設定に周期境界条件を用いる請求項1~4の何れか一項に記載の粒径分布計算装置。
【請求項6】
前記配置設定部は、前記計算領域内に前記マット及び前記スラグを乱数を使用してランダムに配置する請求項1~5の何れか一項に記載の粒径分布計算装置。
【請求項7】
前記第2の粒径分布算出部は、前記粒子法にSPH法、MPS法、MPM又はDPD法を用いる請求項1~6の何れか一項に記載の粒径分布計算装置。
【請求項8】
前記第2の粒径分布算出部は、全ての前記マット及び前記スラグについて前記粒子法による計算を行って全ての前記マット及び前記スラグの位置を更新し、前記計算を終了条件を満たすまで繰り返し行う請求項1~7の何れか一項に記載の粒径分布計算装置。
【請求項9】
前記第2の粒径分布算出部は、前記計算の終了後に、連続して存在する前記マットの数を数えて前記マットの体積及び粒径に変換することで、衝突後の前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する請求項8に記載の粒径分布計算装置。
【請求項10】
反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグの粒径分布を計算する粒径分布計算方法であって、
前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する第1の粒径分布算出工程と、
前記反応塔内の所定の領域を計算領域として設定する領域設定工程と、
前記計算領域内に前記マット及び前記スラグを配置して、前記マット及び前記スラグの初期状態の配置を設定する配置設定工程と、
ポテンシャルモデルを用いた粒子法により前記計算領域内に配置した初期状態の前記マット及び前記スラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算して、前記マット及び前記スラグの衝突後の前記マットの粒径分布を算出する第2の粒径分布算出工程と、
を含む粒径分布計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径分布計算装置及び粒径分布計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化銅精鉱(銅精鉱)は、粉状の固体硫化物等であり、製錬炉の一つである自熔製錬炉(以下、自熔炉)に製錬原料として供給されることで、主にマット及びスラグの2種類の溶体を生成して分離される。
【0003】
自熔炉では、銅精鉱と、ケイ酸鉱と、重油等の補助燃料と、フラックス等の溶材等が、反応塔(反応シャフト)の頂部に設けられた精鉱バーナーより別途配送される酸素富化空気等の反応用気体と共に反応シャフト内に吹き込まれる。反応シャフト内では、銅精鉱が反応シャフト内で反応用気体と反応して2種類の溶体(マット及びスラグ)を生成し、マット及びスラグは液滴の状態で反応シャフト内を落下してセトラーで回収される。セトラー内では、マット及びスラグがこれらの比重差によって層状に分離してマット層及びスラグ層がセトラーの底部側からこの順に形成される。
【0004】
反応シャフト内を落下するマットの粒径が大きいほどスラグ層中のマットの沈降速度が大きくなり、スラグ層中のマットはマット層に移動し易くなるため、セトラーに到達する時のマットの粒径を推定することは、セトラーでのマットの回収量の増大を図る上で重要である。
【0005】
反応シャフト内における溶体の粒径分布を計算する方法として、例えば、オイラー法を用いて、精鉱粒子の粒径に従って分類された複数の粒子相の体積分率を計算し、体積分率の変化に基づいて粒子相の粒径を表現する自熔炉の燃焼シミュレーションを行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1の自熔炉の燃焼シミュレーションを行う方法では、複数の粒子相のうちの2つの粒子相で構成される全ての組み合わせについて、2つの粒子相同士の衝突確率を計算する。そして、組み合わせ内の粒径の大きい方の粒子相と粒径の小さい方の粒子相との間で衝突が起きた場合には、粒径の小さい方の粒子相の体積分率を粒径の大きい方の粒子相の体積分率に加えて、衝突による粒成長の変化を体積分率の変化で表現する。この方法では、反応シャフトの頂部側からセトラー側に行くにしたがって精鉱粒子の粒径を徐々に大きい粒径の方に体積分率を増やして精鉱粒子が成長するように表現しており、自熔炉内の熱流体計算に組み込み可能という利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法は、衝突物を粒子として取り扱っており、自熔炉の反応シャフト内に存在する溶体のふるまい、例えば、マット及びスラグからなる液滴の衝突時の変形、回転、分裂等を考慮できない。また、特許文献1の方法は、複数のマット及びスラグからなる液滴が衝突した際の、マットが合一するまでのタイムラグ等を考慮していない。そのため、特許文献1の方法は、スラグ及びマットが反応シャフト内を落下する過程で、互いに衝突することによるマットの粒径分布の変化を、詳細には把握できない。
【0009】
本発明の一態様は、自熔炉に設けられた反応塔内を落下する複数のマット及びスラグからなる液滴の衝突による、マットの粒径分布の変化を高精度に算出できる粒径分布計算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る粒径分布計算装置の一態様は、
反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグの粒径分布を計算する粒径分布計算装置であって、
前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する第1の粒径分布算出部と、
前記反応塔内の所定の領域を計算領域として設定する領域設定部と、
前記計算領域内に前記マット及び前記スラグを配置して、前記マット及び前記スラグの初期状態の配置を設定する配置設定部と、
ポテンシャルモデルを用いた粒子法により前記計算領域内に配置した初期状態の前記マット及び前記スラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算して、前記マット及び前記スラグの衝突後の前記マットの粒径分布を算出する第2の粒径分布算出部と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る粒径分布計算装置の一態様は、自熔炉に設けられた反応塔内を落下するマット及びスラグからなる液滴の衝突による、マットの粒径分布の変化を高精度に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る粒径分布計算装置が適用される自熔炉の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る粒径分布計算装置の機能を示すブロック図である。
【
図3】計算領域中のマット及びスラグの分散状態を示す図である。
【
図4】衝突前後のマットの体積の変化量を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る粒径分布計算方法を説明するフローチャートである。
【
図6】マット及びスラグの組成及び生成量の算出工程(ステップS12)を説明するフローチャートである。
【
図7】粒径分布計算装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0014】
本発明の実施形態に係る粒径分布計算装置について説明するに当たり、本実施形態に係る粒径分布計算装置が適用される自熔製錬炉(自熔炉)の構成について説明する。
【0015】
<自熔炉>
図1は、本実施形態に係る粒径分布計算装置が適用される自熔炉の概略構成を示す図である。
図1に示すように、自熔炉1は、反応塔(反応シャフト)10、セトラー20、排煙道30及び電気錬かん炉40を備える。自熔炉1は、反応シャフト10内で反応シャフト10内に供給される製錬原料SPである銅精鉱(銅品位20%~30%)からスラグとマット(銅品位60%~65%)の2種類の溶体を生成し、セトラー20において、スラグとマットとを層状に分離して、銅品位が高いマットを回収する。
【0016】
なお、製錬原料とは、抽出される目的金属を含む有価鉱物、無用鉱物(脈石)等をいい、銅精鉱等が挙げられる。本実施形態では、製錬原料が銅精鉱である場合について説明する。
【0017】
銅精鉱とは、粒径が例えば1μm~300μmの銅の鉱石であり、銅と鉄と硫黄を含む粉状の固体硫化物(Cu-Fe-S)である。
【0018】
マットは、硫化銅(Cu2S)及び硫化鉄(FeS)主成分として含む混合物であり、Cu成分を多く含む溶体である。スラグは、酸化鉄の珪酸塩(2FeO・SiO2)を主成分として含み、Fe成分を多く含む溶体である。
【0019】
反応シャフト10は、頂部が有底筒状に形成され、内部が中空な構造体である。反応シャフト10は、頂部10aに精鉱バーナー11を備える。なお、精鉱バーナー11の数は1つ以上であればよい。
【0020】
反応シャフト10では、その内部の平均温度は、例えば、1300℃程度に設定される。反応シャフト10は、銅精鉱が反応シャフト10内を落下しながら燃焼して溶解及び酸化が進行することで、2種類の溶体(マット及びスラグ)と亜硫酸ガスを生成する。
【0021】
セトラー20は、反応シャフト10の下方に設けられ、セトラー20の一端側(
図1中、左側)で反応シャフト10の下部に接続されている。セトラー20は、その内部に反応シャフト10で生成されるマット及びスラグを回収する。セトラー20内でマット及びスラグはマット及びスラグの比重差により層状に分離されており、セトラー20内では、マット層とスラグ層がセトラー20の底部側からこの順に形成される。セトラー20は、その側面に、スラグの抜き口である1つ以上のスラグホール21と、マットの抜き口である1つ以上のマットホール22を有する。
【0022】
排煙道30は、筒状に形成され、一端がセトラー20の他端側(
図1中、右側)の頂部に接続され、他端がボイラー31に接続され、反応シャフト10内で発生する高温の亜硫酸ガスをボイラー31に供給する。
【0023】
電気錬かん炉40は、セトラー20からスラグホール21を介して排出されるスラグを回収し、スラグ中に含まれる微量のマットを分離して回収する。
【0024】
自熔炉1では、銅精鉱が、ケイ酸鉱と、重油等の補助燃料と、フラックス等の溶材等と、別途配送される酸素富化空気等の反応用気体と共に、精鉱バーナー11より反応シャフト10の頂部10aから反応シャフト10内に吹き込まれる。反応シャフト10内に吹き込まれた銅精鉱は、燃料の燃焼熱、反応用気体の顕熱及び反応シャフト10の炉壁内の輻射熱等によって昇温し、製練原料中の硫黄分が瞬時に反応用気体と反応して燃焼する。製練原料中の硫黄分が燃焼することで生じる燃焼熱等によって、製練原料中の銅精鉱の粒子(精鉱粒子)の溶解及び酸化が進行することで、主に、下記式(1)及び(2)に示す反応により、2種類の溶体(マット(Cu2S-FeS)及びスラグ(FeO-SiO2))と亜硫酸ガスが生成する。
CuFeS2+O2→Cu2S-FeS+FeO+SO2・・・(1)
FeO+SiO2→FeO-SiO2 ・・・(2)
【0025】
反応シャフト10内で生成されるマット及びスラグは、セトラー20に液滴の状態で落下してセトラー20内に回収される。このとき、マット及びスラグからなる液滴(マット及びスラグ液滴)は、反応シャフト10内で衝突を繰り返し、これらの粒子径を大きくしながら落下する。セトラー20内では、マット及びスラグはこれらの比重差によって層状に分離して、マット層及びスラグ層がセトラー20の底部にこの順に形成される。
【0026】
セトラー20内のマットは、搬送先である不図示の転炉からの要求に応じて、マットホール22から適量抜き出され、セトラー20内のスラグは、スラグホール21から適宜排出される。スラグホール21より排出したスラグは、電気錬かん炉40に導入され、電極41の通電による伝熱によって加熱維持される。自熔炉スラグ層中の一部のマットはセトラー20の底部に沈殿せずにスラグと共に排出され、電気錬かん炉40での滞留時間中にさらに炉底に沈殿して、電気錬かん炉40内においてもマット層とスラグ層が形成される。電気錬かん炉40内のマットは回収され、わずかに銅分を含んだスラグのみが抜き口42から炉外に排出される。
【0027】
このようにして、自熔炉1では、銅精鉱が、スラグとマットに分けられ、回収されるマット中の銅成分を60~65%とする。
【0028】
また、反応シャフト10内で発生する高温の亜硫酸ガスは、セトラー20及び排煙道30を通って排出され、ボイラー31で冷却される。
【0029】
<粒径分布計算装置>
次に、本実施形態に係る炉内反応の計算装置について説明する。
図2は、本実施形態に係る粒径分布計算装置の機能を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係る粒径分布計算装置100は、入力部110、第1の粒径分布算出部120、領域設定部130、配置設定部140、第2の粒径分布算出部150及び出力部160を備える。
【0030】
本願発明者は、セトラー20及び電気錬かん炉40でのマット及びスラグの比重分離では、マットの粒径が大きいほど沈降速度が大きくなり、スラグからの分離が迅速に進むため、セトラー20へのマットの到達時のマットの液滴の粒径を推定することは、セトラー20又は電気錬かん炉40でのマットの回収率を高める上で重要であることに着目した。そこで、本願発明者は、2種類の溶体(マット及びスラグ)の界面張力評価にポテンシャルモデルを用いた粒子法を用いて計算することで、反応シャフト10内を落下するマット及びスラグからなる液滴の衝突によって変化したマットの粒径分布を精度良く評価できることを見出した。
【0031】
入力部110は、入力条件として、銅精鉱の供給量、銅精鉱の粒径分布、銅精鉱の組成、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%(マットグレード)及び反応シャフト10内の液滴空間濃度(溶体空間濃度)等を入力する。
【0032】
銅精鉱の供給量は、自熔炉1に供給する銅精鉱の質量流量である。銅精鉱の供給量は、反応シャフト10に銅精鉱を供給する不図示の供給手段に設けられる不図示の流量計等から把握できる。
【0033】
銅精鉱の粒径分布は、例えば、マイクロトラック粒子径分布測定装置等で測定することにより得ることができる。
【0034】
銅精鉱の組成は、例えば、Cu、Fe、S、CaO、MgO、SiO2、Al2O3等の銅精鉱の品位であり、化学分析及び蛍光X線分析等によって求められる。
【0035】
セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%は、マット中の銅品位を表し、一般に、70%以下の値である。
【0036】
反応シャフト10内の液滴空間濃度は、銅精鉱の供給量、反応用空気の供給量、反応シャフト10及び精鉱バーナー11の形状等により適宜決定される。反応シャフト10内の液滴空間濃度は、例えば、別に実施する熱流体計算での結果等から決定してもよい。
【0037】
第1の粒径分布算出部120は、マット及びスラグの粒径分布を算出する。
【0038】
第1の粒径分布算出部120は、上記の入力条件のうち、銅精鉱の組成と、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%から、反応後に生成するスラグとマットの組成及び生成量を算出する。
【0039】
第1の粒径分布算出部120は、得られたマット及びスラグの組成からマット及びスラグの密度を推定し、銅精鉱の密度及び供給量と、銅精鉱の粒径分布と、マット及びスラグの生成量及び密度とから、マット及びスラグの粒径分布を算出する。
【0040】
領域設定部130は、反応シャフト10内の所定の領域を計算領域として設定する。
【0041】
計算領域は、
図3に示すように、立方体又は直方体の解析領域とする。計算領域の大きさは、後述する液滴合一計算で粒径分布を評価するために十分な個数のマット及びスラグを含む大きさとする。例えば、計算領域の大きさは、1辺が数mm(例えば、1mm)の立方体又は直方体としてよい。
【0042】
計算領域は、自熔炉1の反応シャフト10の高さをそのまま模擬してもよいが、計算負荷の低減のため、計算領域の設定に周期境界条件を用いることが好ましい。
【0043】
配置設定部140は、計算領域内にマット及びスラグを配置して、マット及びスラグの初期状態の配置を設定する。
【0044】
配置設定部140は、計算領域内にマット及びスラグを乱数を使ってランダムに配置してよい。
【0045】
第2の粒径分布算出部150は、ポテンシャルモデルを用いた粒子法により、計算領域内に配置したマット及びスラグ液滴の初期状態から表面張力及び界面張力を考慮した溶体の流体解析を行って、マット及びスラグ液滴の運動(落下)による位置及び形状の動的変化を計算して、マット及びスラグ液滴の衝突後のマットの粒径分布を計算する。
【0046】
ポテンシャルモデルを用いた粒子法として、例えば、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法、MPS(Moving Particle Semi-implicit)法、MPM(Material Point Method)及びDPD(Dispersed Particle Dynamics)法等を使用できる。
【0047】
粒子法として、SPH法を用いる場合について説明する。
【0048】
第2の粒径分布算出部150は、周囲粒子情報の重みづけに用いるカーネル(kernel)関数Wを、下記式(I)に示すWendlandの式を用いて算出する。
【0049】
【数1】
(式中、r
ijは、計算粒子iと周囲に存在する計算粒子jの相対位置ベクトルであり、hは、影響半径であり、qは、計算粒子iと周囲粒子jの粒子間距離|r
ij|と影響半径hの比である。Wは、カーネル関数であり、qが2未満の場合(at q<2)は式(I)中の値をとり、qが2以上の場合(at q≧2)は0となる。)
【0050】
なお、本実施形態では、上記式(I)中の計算粒子iは、マット及びスラグを模擬したSPH計算粒子を意味し、以下の各式で用いる計算粒子iについても、同様に、マット及びスラグを模擬したSPH計算粒子を意味する。
【0051】
第2の粒径分布算出部150は、上記式(I)で得られるカーネル関数Wを用いて、計算粒子iの密度及び圧力を、下記式(II)及び(III)より算出する。
【0052】
【数2】
(式中、ρ
iは、計算粒子iにて表現する流体の密度であり、m
jは、周囲粒子jの質量であり、W
ijは、カーネル関数であり、p
iは、計算粒子iの圧力であり、cは、音速であり、ρ
0は、初期流体密度であり、γは、比熱比(液体の場合7.0)である。)
【0053】
第2の粒径分布算出部150は、計算粒子iの速度を、下記式(IV)により算出する。
【0054】
【0055】
ここで、表面張力Fs,iは、下記式(V)及び式(VI)により算出する。
【0056】
【数4】
(式中、F
s,iは、表面張力であり、σ
iは、計算粒子iで表す流体の表面張力係数であり、r
ijは、計算粒子iおよび周囲粒子j間の相対ベクトルであり、Eは、計算粒子iおよび周囲粒子j間のポテンシャルであり、h
sは、表面張力計算における影響半径である。)
【0057】
第2の粒径分布算出部150は、上記式(IV)により得られたuiより、下記式(VII)により計算粒子iの位置情報を更新する。
【0058】
【数5】
(式中、r
i,oldは、時間更新前の粒子iの位置ベクトルであり、r
iは、時間Δt経過後の粒子iの位置ベクトルであり、u
iは、計算粒子iの速度である。)
【0059】
第2の粒径分布算出部150は、全てのマット及びスラグについて粒子法による計算を行って全てのマット及びスラグの位置を更新する。即ち、第2の粒径分布算出部150は、上記式(I)~(VII)の計算を全てのマット及びスラグについて実施して、全てのマット及びスラグの位置を更新する。
【0060】
第2の粒径分布算出部150は、上記の計算を終了条件を満たすまで繰り返し行うことが好ましい。終了条件は、例えば、計算時間tが液滴の反応シャフト内滞留時間を超えること等である。
【0061】
第2の粒径分布算出部150は、上記の計算の終了後に、連続して存在するマットの数を数えてマットの体積及び粒径に変換することで、衝突後のマットの粒径分布を得ることが好ましい。
【0062】
出力部160は、第2の粒径分布算出部150で出力されたマットの衝突前後における粒径分布の変化に関する情報を出力する。即ち、出力部160は、第2の粒径分布算出部150で出力された溶体の衝突前のマットの粒径分布と、第2の粒径分布算出部150で出力された衝突後のマットの粒径分布とに関する情報を出力できる。
【0063】
出力部160は、第2の粒径分布算出部150で出力された、
図4に示すような、マットの衝突前後における粒径分布の変化に関する情報を表示することができる。出力部160としては、例えば、モニタ等を用いることができる。
【0064】
<粒径分布計算方法>
次に、本実施形態に係る粒径分布計算装置を用いて、本実施形態に係る粒径分布計算方法について説明する。本実施形態に係る粒径分布計算方法は、
図1に示すような構成を有する自熔炉1において、反応シャフト10の頂部10aに設けた精鉱バーナー11から供給された銅精鉱がセトラー20に向かって落下しながら反応シャフト10内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグの粒径分布を計算する。
【0065】
図5は、本実施形態に係る粒径分布計算方法を説明するフローチャートである。
図5に示すように、粒径分布計算装置100は、入力部110により、入力条件として、銅精鉱の組成、銅精鉱の供給量、銅精鉱の粒径分布、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%及び反応シャフト10内の液滴空間濃度等を入力する(入力工程:ステップS11)。
【0066】
次に、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120により、入力部110に入力条件として入力された、銅精鉱の組成と、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%から、反応後に生成するマット及びスラグの組成及び生成量を算出する(マット及びスラグの組成及び生成量の算出工程:ステップS12)。
【0067】
マット及びスラグの組成及び生成量の算出工程(ステップS12)の詳細について説明する。
図6は、マット及びスラグの組成及び生成量の算出工程(ステップS12)を説明するフローチャートである。
図6に示すように、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120により、入力部110に入力条件として入力された、銅精鉱の供給量(単位:t/h)及び組成(例えば、Cu濃度)から、銅精鉱中の各組成の供給量(単位:t/h)を算出する(銅精鉱中の各組成の供給量の算出工程:ステップS121)。
【0068】
このうち、銅精鉱中の各組成のうち、Cuの供給量(単位:t/h)は、全量がマットになると仮定する。
【0069】
次に、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120により、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%から、マット中のS量(単位:t/h)、Fe量(単位:t/h)をそれぞれ算出する(マット中のS量及びFe量の算出工程:ステップS122)。
【0070】
次に、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120により、スラグの組成及び生成量を算出する(スラグの組成及び生成量の算出工程:ステップS123)。
【0071】
スラグの組成は、銅精鉱からマットと反応シャフト10内で酸化除去されるSを除した残りの成分として算出する。
【0072】
スラグの生成量(単位:t/h)は、銅精鉱の各組成の供給量(単位:t/h)から算出する。
【0073】
次に、
図5に示すように、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120により、得られたマット及びスラグの組成から、マット及びスラグのそれぞれの密度(単位:t/m
3)を推定する(マット及びスラグの密度推定工程:ステップS13)。
【0074】
粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120により、銅精鉱の密度及び供給量と、銅精鉱の粒径分布と、マット及びスラグの生成量及び密度とから、マット及びスラグの粒径(液滴径)分布を算出する(マット及びスラグの粒径分布の算出工程:ステップS14)。
【0075】
次に、粒径分布計算装置100は、領域設定部130により、計算領域を設定する(計算領域の設定工程:ステップS15)。
【0076】
計算領域は、上述の通り、立方体又は直方体の解析領域とし、計算領域のサイズは、マット及びスラグの衝突による合一に伴い生じる衝突後のマット及びスラグの粒径分布を評価するために十分な個数の粒子(液滴)を含む大きさとする。なお、計算領域は、自熔炉1の反応シャフト10の高さをそのまま模擬してもよいが、計算負荷の低減のため、周期境界条件を適用してもよい。
【0077】
次に、粒径分布計算装置100は、配置設定部140により、作成した計算領域内に、マット及びスラグの粒径分布の算出工程(ステップS14)において算出したマット及びスラグを配置して、マット及びスラグの初期状態の配置を設定する(マット及びスラグの液滴の初期状態の設定工程:ステップS16)。
【0078】
次に、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、マット及びスラグの液滴の初期状態の設定工程(ステップS16)により設定したマット及びスラグの初期状態の配置から、ポテンシャルモデルを用いた粒子法により流体の運動方程式であるNavier-Stokes式を解く。そして、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、計算領域内に配置した初期状態のマット及びスラグの表面張力及び界面張力を評価して溶体の流体解析を行って、マット及びスラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算する(マット及びスラグの液滴の動的変化の計算工程:ステップS17)。
【0079】
粒子法としては、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法及びMPS(Moving Particle Semi-implicit)法、MPM(Material Point Method)及びDPD(Dispersed Particle Dynamics)法等を使用できる。本実施形態では、粒子法としてSPH法を用いる場合について説明する。
【0080】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、周囲粒子情報の重みづけに用いるカーネル(kernel)関数Wを、上記式(I)に示すWendlandの式を用いて算出する。
【0081】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、上記式(I)で得られるカーネル関数Wを用いて、計算粒子iの密度及び圧力を、上記式(II)及び(III)より算出する。
【0082】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、計算粒子iの速度を、上記の式(IV)により算出し、界面張力Fs,iを、上記式(V)及び(VI)により算出する。
【0083】
また、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、上記式(IV)により得られたuiを用いて、下記式(VII)により計算粒子iの位置情報を更新してよい。
【0084】
さらに、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、上記式(I)~(VII)の計算を全ての計算粒子iについて実施して、液滴を構成する全ての計算粒子iの位置を更新してよい。
【0085】
次に、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、マット及びスラグの位置又は滞留時間が、終了条件を満たすか否か判定する(終了条件の判定工程:ステップS18)。
【0086】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、全てのマット及びスラグの位置が終了条件を満たすと判定した場合(ステップS18:Yes)には、連続して存在するマット(上記式(I)~(VII)の計算粒子i)の数を数えて、マット(上記式(I)~(VII)の計算粒子i)の体積及び粒径に変換し、衝突後のマット及びスラグの粒径分布を算出する(衝突後のマット及びスラグの粒径分布の算出工程:ステップS19)。
【0087】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、衝突後のマット及びスラグの粒径分布の算出工程(ステップS19)において得られた衝突後のマット及びスラグの粒径分布を出力する(衝突後のマット及びスラグの粒径分布の出力工程:ステップS20)。
【0088】
出力方法としては、モニタ等への表示等が挙げられる。
【0089】
一方、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150により、全てのマット及びスラグの位置又は滞留時間が終了条件を満たさないと判定した場合(ステップS18:No)には、マット及びスラグの動的変化の計算工程(ステップS17)に戻り、マット及びスラグの運動によるマット及びスラグの位置及び形状の動的変化を、再度計算する。
【0090】
本実施形態に係る粒径分布計算方法は、粒径分布計算装置100を用いることで、マット及びスラグの表面張力及び界面張力を含めた力の釣り合いを考慮することができ、
図3に示すように、マット及びスラグ液滴の衝突による変形や回転、分裂等、液滴としてのふるまいを表現することができる。このため、本実施形態に係る粒径分布計算方法によれば、マット及びスラグ液滴の変形や回転に伴う衝突確率の変化や、分裂による液滴径の減少、さらにマット及びスラグの衝突時の合一までのタイムラグを精度良く評価でき、反応シャフト10内を落下する複数のスラグ及びマットからなる液滴の衝突による、マットの粒径分布の変化を高精度に算出することができる。
【0091】
<粒径分布計算装置のハードウェア構成>
次に、粒径分布計算装置のハードウェア構成の一例について説明する。
図7は、粒径分布計算装置のハードウェア構成図である。
図7に示すように、粒径分布計算装置100は、例えば、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)101と、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102及びROM(Read Only Memory)103と、補助記憶装置104と、入出力インタフェース105と、出力装置である表示装置106等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス107で相互に接続されている。なお、補助記憶装置104及び表示装置106は、外部に設けられていてもよい。
【0092】
CPU101は、粒径分布計算装置100の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU101は、ROM103又は補助記憶装置104に格納された粒径分布計算プログラムを実行して、測定収録画面と解析画面の表示動作を制御する。
【0093】
なお、本実施形態では、粒径分布計算装置100は、CPU101と共にGPU(Graphics Processing Unit)を用いてよい。GPUは、描画を高速に行うための専用のプロセッサであるが、プログラムによって動作させることもできる。GPUは、CPU101よりも高い計算速度を有するため、例えば、粒子法のシミュレーション等ではCPUの例えば100倍以上の性能を発揮できる。
【0094】
RAM102は、CPU101のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0095】
ROM103は、基本入出力プログラム等を記憶する。粒径分布計算プログラムはROM103に保存されてもよい。
【0096】
補助記憶装置104は、SSD(Solid State Drive)、及びHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、例えば、粒径分布計算プログラムや粒径分布計算装置100の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0097】
入出力インタフェース105は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースと、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとの双方を含む。
【0098】
表示装置106は、モニタディスプレイ等である。表示装置106では、測定収録画面と解析画面が表示され、入出力インタフェース105を介した入出力操作に応じて画面が更新される。
【0099】
図7に示す粒径分布計算装置100の各機能は、RAM102やROM103等の主記憶装置又は補助記憶装置104にシミュレーションソフトウェア(炉内反応の計算プログラムを含む)等を読み込ませ、RAM102、ROM103又は補助記憶装置104に格納された粒径分布計算プログラム等をCPU101により実行することにより、RAM102等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うと共に、入出力インタフェース105及び表示装置106を動作させることで実現される。
【0100】
粒径分布計算プログラムは、以下の構成のプログラムを用いることができる。
即ち、粒径分布計算プログラムは、反応塔の頂部から供給された製錬原料が前記反応塔の下方に位置するセトラーに向かって落下しながら前記反応塔内に供給される反応用気体と反応して生成されるマット及びスラグの粒径分布を計算する粒径分布計算を少なくともコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する第1の粒径分布算出工程と、
前記反応塔内の所定の領域を計算領域として設定する領域設定工程と、
前記計算領域内に前記マット及び前記スラグを配置して、前記マット及び前記スラグの初期状態の配置を設定する配置設定工程と、
ポテンシャルモデルを用いた粒子法により前記計算領域内に配置した初期状態の前記マット及び前記スラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算して、前記マット及び前記スラグの衝突後の前記マット及び前記スラグの粒径分布を算出する第2の粒径分布算出工程と、
を含む粒径分布計算を少なくともコンピュータに実行させるプログラムを用いることができる。
【0101】
粒径分布計算プログラムは、例えば、RAM102やROM103の主記憶装置又は補助記憶装置104等のコンピュータが備える記憶装置内に格納される。なお、粒径分布計算プログラムは、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、コンピュータが備える通信モジュール等により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、粒径分布計算プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM、DVD-ROM、フラッシュメモリ等の携帯可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0102】
以上の通り、本実施形態に係る粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120、領域設定部130、配置設定部140及び第2の粒径分布算出部150を備える。粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、マット及びスラグの粒径分布を算出し、領域設定部130で反応シャフト10内の計算領域を設定し、配置設定部140で、計算領域内でのマット及びスラグの初期状態の配置を設定する。そして、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150で、界面張力評価にポテンシャルモデルを用いた粒子法により計算領域内に配置した初期状態のマット及びスラグの運動による位置及び形状の動的変化を計算して、マット及びスラグの衝突時のマット及びスラグの形状変化を計算する。第2の粒径分布算出部150は、界面張力評価にポテンシャルモデルを用いた粒子法を用いることで、マット及びスラグの表面張力及び界面張力を含めた力の釣り合いを計算でき、マット及びスラグ液滴の衝突による変形や回転、分裂等、液滴としてのふるまいを表現することができる(
図3参照)。このため、第2の粒径分布算出部150は、従来法では表現できていなかった、マット及びスラグの変形や回転に伴う衝突確率の変化や、分裂による液滴径の減少、さらにマット及びスラグの衝突時の合一までのタイムラグを表現できる。これにより、第2の粒径分布算出部150は、反応シャフト10内での2種類の溶体(マット及びスラグ)の衝突に伴うマット粒径分布の変化(マットの粒成長度合い)を従来法と比べてより高精度に評価することができる(
図4参照)。
【0103】
よって、粒径分布計算装置100は、自熔炉1に設けられた反応シャフト10内を落下する複数のスラグ及びマットからなる液滴の衝突による、マットの粒径分布の変化を高精度に算出することができる。
【0104】
粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、銅精鉱の組成、銅精鉱の供給量、銅精鉱の粒径分布、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%及び反応シャフト10内の液滴空間濃度を入力条件として用いることができる。これにより、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、衝突前のマット及びスラグの粒径分布を正確に算出できる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内におけるマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布も高精度に算出することができる。
【0105】
粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、銅精鉱の組成と、セトラー20への到達時のマット中のCuの質量%から、スラグ及びマットの組成及び生成量を算出できる。これにより、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、衝突前のマット及びスラグの粒径分布を詳細に算出できる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内におけるマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布も高精度に算出することができる。
【0106】
粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、マット及びスラグの組成からマット及びスラグの密度を推定し、銅精鉱の密度及び供給量と、銅精鉱の粒径分布と、マット及びスラグの生成量及び密度とから、マット及びスラグの粒径分布を算出できる。これにより、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120で、衝突前のマット及びスラグの粒径分布をさらに正確に算出できる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内におけるマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布も、高精度に算出することができる。
【0107】
粒径分布計算装置100は、領域設定部130で、計算領域の設定に周期境界条件を用いることができる。これにより、粒径分布計算装置100は、第1の粒径分布算出部120及び第2の粒径分布算出部150のマット及びスラグの粒径分布の計算に要する負荷を軽減できる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内においてマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布の評価に要する負担を軽減することができる。
【0108】
粒径分布計算装置100は、配置設定部140で、計算領域内にマット及びスラグを乱数を使ってランダムに配置できる。これにより、粒径分布計算装置100は、配置設定部140で、計算領域内にマット及びスラグを実際の反応シャフト10内のマット及びスラグの分散状態を考慮しながら配置できる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内においてマット及びスラグの衝突前後のスラグ及びマットの粒径分布を、実際の反応シャフト10内のマット及びスラグの分散状態に近似するように算出することができる。
【0109】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150で、粒子法としてSPH法、MPS法、MPM及びDPD法等を用いることができる。これにより、粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150で、計算領域内を通過するマット及びスラグの変形や回転に伴う衝突確率の変化、分裂による液滴径の減少、さらにマット及びスラグの衝突時の合一までのタイムラグを表現できる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内においてマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布の変化を高精度に評価することができる。
【0110】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部102で、全てのマット及びスラグについて粒子法による計算を行って全てのマット及びスラグの位置を更新し、計算を終了条件を満たすまで繰り返し行うことができる。これにより、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内に供給される全ての銅精鉱から生じるマット及びスラグの衝突後の粒径分布を予測することができる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内においてマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布をさらに高精度に評価することができる。
【0111】
粒径分布計算装置100は、第2の粒径分布算出部150で、計算の終了後に、連続して存在するマットの数を数えてマットの体積及び粒径に変換することで、衝突後のマット及びスラグの粒径分布を得ることができる。これにより、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内に供給される銅精鉱から生じるマットの粒径分布を正確に得ることができる。よって、粒径分布計算装置100は、反応シャフト10内においてマット及びスラグの衝突後のマットの粒径分布をさらに高精度に評価することができる。
【0112】
粒径分布計算装置100は、上記の通り、反応シャフト10内での2種類の溶体の衝突による合一挙動を考慮して、マット及びスラグの衝突前後でのマットの粒径分布の変化を評価し、衝突後のこれらの粒径分布を得ることができるため、自熔炉1の設備改善の事前検討、自熔炉1の操業条件、自熔炉に供給される製錬原料の種類の変更による影響の調査等に有効に用いることができる。
【0113】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0114】
1 自熔炉
10 反応塔(反応シャフト)
11 精鉱バーナー
20 セトラー
30 排煙道
40 電気錬かん炉
100 粒径分布計算装置
110 入力部
120 第1の粒径分布算出部
130 領域設定部
140 配置設定部
150 第2の粒径分布算出部
160 出力部