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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122809
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】分析装置及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20230829BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026533
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】粟根 悠介
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC05
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059JJ02
(57)【要約】
【課題】試料に光を照射し、その透過光に基づいて複数の測定対象成分を分析する分析装置において、光量が大きい光源を使用しながらも、装置全体を小型化する。
【解決手段】試料に光を照射し、当該試料を透過した光を検出して、前記試料中の測定対象成分を分析する分析装置であって、前記試料に光を照射する光源と、前記試料を透過した光を検出する光検出器と、前記光源と前記光検出器との間に配置された第1光学フィルタ及び第2光学フィルタとを備え、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタが、同一光路上に配置されるとともに、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長を有する周期構造体を用いて構成されており、前記第1光学フィルタの前記分析用ピーク波長と、前記第2光学フィルタの前記分析用ピーク波長とが互いに異なるようにした分析装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に光を照射し、当該試料を透過した光を検出して、前記試料中の測定対象成分を分析する分析装置であって、
前記試料に光を照射する光源と、
前記試料を透過した光を検出する光検出器と、
前記光源と前記光検出器との間に配置された第1光学フィルタ及び第2光学フィルタとを備え、
前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタが、同一光路上に配置されるとともに、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長を有する周期構造体を用いて構成されており、
前記第1光学フィルタの前記分析用ピーク波長と、前記第2光学フィルタの前記分析用ピーク波長とが互いに異なるようにした分析装置。
【請求項2】
前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタが、前記分析用ピーク波長以外の波長域に透過率がピークとなるサイドピーク波長をそれぞれ有しており、
前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの一方が、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの他方の前記サイドピーク波長近傍に、前記分析用ピーク波長を有している請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの他方が、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの一方の前記サイドピーク波長近傍に、前記分析用ピーク波長を有している請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタに印加する電圧を制御することにより前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの透過率を制御するフィルタ制御部を更に備え、
当該フィルタ制御部が、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタに印加する電圧値を周期的に変化させることで、前記光検出器で検出される光の強度を変調させる請求項1~3のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記フィルタ制御部が、前記第1光学フィルタと前記第2光学フィルタにそれぞれ印加する電圧値を、互いに異なる周波数で変化させる、又は互いに位相差が生じるように変化させる請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記試料を透過した光を単一の前記光検出器で検出するように構成した請求項1~5のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記第1光学フィルタを構成する周期構造体と、前記第2光学フィルタを構成する周期構造体が、格子定数又は穴半径が互いに異なるものである請求項1~6のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記周期構造体がフォトニック結晶である請求項1~7のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項9】
光源から試料に光を照射し、当該試料を透過した光を光検出器で検出して、前記試料中の測定対象成分を分析する分析方法であって、
前記光源と前記光検出器との間の同一光路上に、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長を有する周期構造体を用いて構成されたものであって、当該分析用ピーク波長が互いに異なるようにした第1光学フィルタ及び第2光学フィルタとを配置する分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガス等の成分分析に用いられる分析装置及び分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、内燃機関の排ガス等の試料ガスに含まれる測定対象成分濃度を測定する分析装置としては、NDIR法を用いたものがある。
【0003】
従来、このNDIR法を用いた分析装置は、光源、光チョッパ、試料セル、光学フィルタ及び光検出器を備え、光源から試料セルに赤外光を照射し、試料セルを透過した赤外光の透過波長を光学フィルタで限定して、光検出器で検出するようにしている。この種の分析装置は、光チョッパを用いて、光源から放射された赤外光を任意の周波数でチョッピングすることにより変調し、任意の周波数の交流信号とするようにしている。そして光検出器により、その周波数成分でかつ光チョッパとタイミングが一致する信号のみを取り出すようにしている(特許文献1)。これにより、異なる周波数やタイミングで振動するノイズ成分(例えば、周囲の温度変化や機械的なノイズ等、周囲環境によるもの)を除去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-226097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような光チョッパを用いた変調方式、すなわちモータで円盤を回転させて光を機械的に遮って変調させる方式では、高速回転するモータを使用し、その回転数を高精度に制御する必要があるため、装置構成が大型になってしまう。
【0006】
光チョッパを用いることなく、光源自体をオン・オフさせることで光を変調する方式も考えられるが、光源自身に熱容量があるため、光量が大きい光源を用いる場合にはオン・オフにより変化に追従させるのが難しい。小さい光源を用いる場合にはオン・オフにより変化に追従させることができるが、その場合には光量が小さくなるという問題がある。
【0007】
また別の問題として、複数の測定対象成分を分析するためには成分毎の吸収波長に対応する複数の光学フィルタと、それに対応する複数の光検出器を並列させて配置する必要があり、装置構成が大型になってしまう。
【0008】
本発明は上述した問題を一挙に解決すべくなされたものであり、試料に光を照射し、その透過光に基づいて複数の測定対象成分を分析する分析装置において、光量が大きい光源を使用しながらも、装置全体を小型化することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る分析装置は、試料に光を照射し、当該試料を透過した光を検出して、前記試料中の測定対象成分を分析する分析装置であって、前記試料に光を照射する光源と、前記試料を透過した光を検出する光検出器と、前記光源と前記光検出器との間に配置された第1光学フィルタ及び第2光学フィルタとを備え、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタが、同一光路上に配置されるとともに、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長を有する周期構造体を用いて構成されており、前記第1光学フィルタの前記分析用ピーク波長と、前記第2光学フィルタの前記分析用ピーク波長とが互いに異なるようにしたことを特徴とする。
【0010】
このような構成であれば、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長を有する周期構造体を用いて構成した光学フィルタを用いているので、光学フィルタに印加する電圧を変化させることで測定対象成分の吸収波長に対応する光の透過と遮断を制御して変調させることができる。これにより、モータと円盤等を備える光チョッパを設ける必要がないため、装置全体を小型化できる。
しかも、分析用ピーク波長が異なる2つの光学フィルタを同一光路上に配置しているので、各光学フィルタを透過した光を検出する光検出器を共通化でき、複数の測定対象成分の分析を可能としながらも装置全体の小型化が図れる。
また、光の変調のために光源をオン・オフさせる必要もないため、光量が大きい光源を使用することが可能となる。
さらには、第1光学フィルタと第2光学フィルタのそれぞれの分析用ピーク波長が互いに異なっているので、1つの光学フィルタのみを用いる場合に比べて、分析用ピーク波長以外の波長領域における透過率を下げることができ、バックグラウンドを低減することもできる。
【0011】
また前記分析装置は、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタが、前記分析用ピーク波長以外の波長域に透過率がピークとなるサイドピーク波長をそれぞれ有しており、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの一方が、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの他方の前記サイドピーク波長近傍に、前記分析用ピーク波長を有しているのが好ましい。
このようにすれば、第1光学フィルタ及び第2光学フィルタの一方を透過した分析用ピーク波長の光を、第1光学フィルタ及び第2光学フィルタの他方においても効率よく透過させ、光検出器で検出することができる。
【0012】
前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの他方が、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの一方の前記サイドピーク波長近傍に、前記分析用ピーク波長を有しているのが好ましい。
このようにすれば、第1光学フィルタ及び第2光学フィルタのそれぞれの分析用ピーク波長の光を、効率よく光検出器で検出することができる。
【0013】
前記分析装置において、光検出器で検出される光を変調させる具体的な態様としては、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタに印加する電圧を制御することにより前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタの透過率を制御するフィルタ制御部を更に備え、当該フィルタ制御部が、前記第1光学フィルタ及び前記第2光学フィルタに印加する電圧値を周期的に変化させることで、前記光検出器で検出される光の強度を変調させるものが挙げられる。
このようにすれば、各光学フィルタに対して互いに異なる電圧信号を入力することで、光検出器において、各光学フィルタを透過した光をそれぞれ独立した光強度信号として取ることができる。これにより、2種類の測定対象成分の分析が可能となり、また一方の光学フィルタを光源のドリフト補正のためのリファレンスとして使用することもできる。さらには、各光学フィルタに印加する電圧の周波数を変更することにより、使用する検出器に合わせた周波数に設定することもできる。
【0014】
光検出器において各光学フィルタの波長毎に信号を検出するための具体的な態様として、前記フィルタ制御部が、前記第1光学フィルタと前記第2光学フィルタにそれぞれ印加する電圧値を、互いに異なる周波数で変化させる、又は互いに位相差が生じるように変化させるものが挙げられる。
【0015】
前記分析装置の具体的態様としては、前記試料を透過した光を単一の前記光検出器で検出するように構成されているのが好ましい。
このようにすれば、各光学フィルタを透過した光を検出する光検出器を共通化できる。
【0016】
前記分析装置の具体的態様としては、前記第1光学フィルタを構成する周期構造体と、前記第2光学フィルタを構成する周期構造体が、格子定数又は穴半径が互いに異なるものが挙げられる。
このようにすれば、互いの周期構造体の格子定数又は穴半径を異ならせることで、前記第1光学フィルタと前記第2光学フィルタとでその分析用ピーク波長を互いに異ならせるようにできる。
【0017】
前記周期構造体の具体的態様としては、フォトニック結晶が挙げられる。
【0018】
本発明の分析方法はまた、光源から試料に光を照射し、当該試料を透過した光を光検出器で検出して、前記試料中の測定対象成分を分析する分析方法であって、前記光源と前記光検出器との間の同一光路上に、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長を有する周期構造体を用いて構成されたものであって、当該分析用ピーク波長が互いに異なるようにした第1光学フィルタ及び第2光学フィルタとを配置することを特徴とする。
このような分析方法であれば、上記した本発明の分析装置と同様の効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べた本発明によれば、試料に光を照射し、その透過光に基づいて複数の測定対象成分を分析する分析装置において、光量が大きい光源を使用しながらも、装置全体を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の全体構成を示す図。
図2】同実施形態の光学フィルタの構成の一例を示す図。
図3】同実施形態の光学フィルタを構成するフォトニック結晶の構造を模式的に示す図。
図4】同実施形態の光学フィルタの光学特性を説明する図。
図5】同実施形態の第1光学フィルタと第2光学フィルタの配置を示す図。
図6】同実施形態の第1光学フィルタ及び第2光学フィルタの光学特性を示す図。
図7】同実施形態の第1光学フィルタ及び第2光学フィルタを変調して得られる透過スペクトル。
図8】本発明の他の実施形態に係る分析装置の全体模式図である。
図9】本発明の他の実施形態に係る分析装置の全体模式図である。
図10】本発明の他の実施形態に係る分析装置の全体模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る分析装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態の分析装置100は、例えば排ガス等の試料中に含まれる複数の測定対象成分(例えば、CO、CO、NO、NO、HC等)を、NDIR法(非分散赤外吸収法)を用いて分析するものである。
【0023】
具体的にこの分析装置100は、図1に示すように、試料が導入及び導出される試料セル1と、試料セル1内の試料に赤外光を照射する光源2と、試料を透過した赤外光を検出する光検出器3と、光源2と光検出器3との間に配置された光学フィルタ部4と、光検出器3の出力信号である光強度信号を受信し、その値に基づいて測定対象成分の濃度を算出する情報処理装置5とを備える。
【0024】
試料セル1は、前記測定対象成分の吸収波長帯域において光の吸収がほとんどない石英、フッ化カルシウム、フッ化バリウムなどの透明材質で光の入射・出射口が形成されたものである。この試料セル1には、ガスを内部に導入するためのインレットポート11と、内部のガスを排出するためのアウトレットポート12が設けられており、試料は、このインレットポート11から当該試料セル1内に導入される。
【0025】
光源2は、近赤外域から中赤外域における波長域の赤外光を照射するものである。この光源2は例えばタングステンフィラメント等を用いた白熱電球である。
【0026】
光検出器3としては、熱起電力型素子(サーモパイル等)、焦電型素子(PZT、TGS等)、抵抗型素子及びニューマチック型素子等の熱型素子を用いたもの、又は光起電力型素子(例えばHgCdTe、InGaAs、PbSe、InAsSb等)等の量子型素子を用いることができる。
【0027】
光学フィルタ部4は、測定対象成分の吸収波長域に対応する波長域の光を透過させるものであり、ここでは試料セル1と光検出器3との間の光路上に配置されている。
【0028】
情報処理装置5は、CPU、メモリ、入出力インターフェース、AD変換機等を備えた専用乃至汎用のコンピュータである。そしてこの情報処理装置5は、メモリの所定領域に格納された所定のプログラムに従ってCPUやその周辺機器が協働することで、濃度算出部51としての機能を少なくとも発揮する。
【0029】
この濃度算出部51は、光検出器3からの出力信号(光強度信号)を取得し、その光強度信号を用いて、以下の式(1)により表されるランベルト・ベールの法則に基づいて測定対象成分の濃度を算出するものである。
ここで、A:吸光度、I:入射光強度、I:透過光強度、ε:モル吸光係数、c:モル濃度、l:光路長である。
より具体的には、濃度算出部51は、試料セル1内に測定対象成分がない場合の光の強度と、測定対象成分がある場合の光強度の比の対数に基づき、測定対象成分の濃度を算出する。
【0030】
然して本実施形態の分析装置100では、光学フィルタ部4は、光学特性が互いに異なる第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42を有しており、この第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は、電圧を印加することで透過率が変化するピーク波長を有する周期構造体を用いて構成されている。本実施形態では周期構造体として、屈折率が異なる物質を光の波長と同程度の間隔で並べた周期構造を持つ人工結晶(構造体)であるフォトニック結晶4Pを用いている。
【0031】
フォトニック結晶4Pを用いて構成した第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42について説明する。図2及び3に示すように、第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42は概略板状をなすものであり、その表面と裏面には、光が入射する入射面4aと透過した光が出射する出射面4bとがそれぞれ形成されている。第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42は、入射面4a側から出射面4b側に向かって順に積層された、p型半導体層4cと、多重量子井戸層4dと、n型半導体層4eとを有している。
【0032】
本実施形態では、p型半導体層4cは、p型不純物であるBeをGaAsに添加したp-GaAsにより構成されている。n型半導体層4eは、n型不純物であるSiをGaAsに添加したn-GaAsにより構成されている。多重量子井戸層4dは、GaAsから成る層とAlGaAsからなる層とが交互に多数積層されることで構成されている。なお、p型半導体層4c、n型半導体層4e及び多重量子井戸層4dを構成する材料は、これらに限らず他のものでもよい。
【0033】
そして第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42には、その厚み方向に沿って複数の空孔4fがそれぞれ形成されている。この空孔4fは円柱状をなすものであり、p型半導体層4cの表面である入射面4aに開口するとともに、p型半導体層4c及び多重量子井戸層4dを貫通するように形成されている。入射面4aを平面視して、この複数の空孔4fは三角格子状に形成されている。この複数の空孔4fと、p型半導体層4c、多重量子井戸層4d及びn型半導体層4eとによって、三角格子型の二次元フォトニック結晶4Pが形成されている。
【0034】
また第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42には、フォトニック結晶4Pに電圧を印加するためのp型電極4gとn型電極4hとがそれぞれ設けられている。このp型電極4gとn型電極4hは、p型半導体層4cとn型半導体層4eの表面にそれぞれ形成されており、多重量子井戸層4dを挟んでp型半導体層4cとn型半導体層4eとの間に電圧を印加できるようにされている。各光学フィルタ41、42のp型電極4gとn型電極4hは、それぞれ異なる電圧源に接続されている。
【0035】
このようなフォトニック結晶4Pを用いて構成した第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42は、p型半導体層4cとn型半導体層4eとの間に電圧を印加することにより多重量子井戸層4d中の電子密度が変化し、フォトニック結晶4Pの格子定数及び空孔4fの穴径に応じた特定波長領域Rにおける光の透過率が変化するという光学特性を有する。より具体的にこの第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42は、図4の(a)に示すように、印加する電圧が大きくなる程(ここでは10V)、多重量子井戸層4d中の電子密度が小さくなることで特定波長領域Rにおける透過率が大きくなり、印加する電圧が小さくなる程(ここでは0V)、多重量子井戸層4d中の電子密度が大きくなることで特定波長領域Rにおける透過率が小さくなるという光学特性を有する。一方でこの第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42は、特定波長領域R以外の波長領域では、電圧の印加によらず透過率が略一定(すなわち、印加する電圧値を変えても透過率が大きく変化しない)という光学特性を有する。そのため、この第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42は、図4の(b)に示すように、相対的に大きな電圧を印加した状態での透過率と、相対的に小さな電圧を印加した状態での透過率との差分である差スペクトルの部分の透過率が電圧によって変調される光学フィルタとして機能する。
【0036】
本実施形態の分析装置100では、このような光学特性を有する第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42とが、試料セル1と光検出器3との間における同一光路上に順に配置されている。具体的には、図5に示すように、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は、その入射面4aが同一方向を向くようにして光路に対して直列に配置されている。試料セル1を通過した光は、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42を順に透過した後、単一の(すなわち共通の)光検出器3で検出される。
【0037】
そして第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は、そのフォトニック結晶4Pの格子定数及び空孔4fの穴径を調整することで、電圧の印加により透過率が変化する各々の特定波長領域R1、R2において透過率がピークとなるピーク波長Pa1、Pa2(分析用ピーク波長ともいう)が、測定対象成分の吸収波長にそれぞれ対応するように構成されている。具体的にこの第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は、格子定数又は空孔4fの穴径が互いに異なるフォトニック結晶4Pを用いて構成されており、図6(a)、(b)に示すように、その分析用ピーク波長Pa1、Pa2が互いに異なるように構成されており、さらにその特定波長領域が重複しないように構成されている。なお、この図6(a)、(b)は、電圧を印加した状態での第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42の透過率を示している。
【0038】
さらにこの第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42はそれぞれ、図6(a)、(b)に示すように、分析用ピーク波長Pa1、Pa2以外の波長領域(より具体的には、特定波長領域以外の波長領域)に、光の透過率がピークとなるサイドピーク波長Ps1、Ps2を1又は複数有している。そして、第1光学フィルタ41は第2光学フィルタ42のサイドピーク波長Ps2近傍にその分析用ピーク波長Pa1を有し、第2光学フィルタ42は第1光学フィルタ41のサイドピーク波長Ps1近傍にその分析用ピーク波長Pa2を有するように構成されている。ここで、「サイドピーク波長近傍」とは、サイドピーク波長Psを含み、当該サイドピーク波長Psにおける透過率の50%以上までの連続する波長範囲を意味する。なお図6では、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は特定波長領域の両側(長波長側及び短波長側)にサイドピーク波長サイドピーク波長Ps1、Ps2をそれぞれ有しているが、長波長側又は短波長側の片側のみにサイドピーク波長Ps1、Ps2を有していてもよい。
【0039】
このように各光学フィルタ41、42の一方の分析用ピーク波長Pa1、Pa2と、他方のサイドピーク波長Ps1、Ps2とを互いに重複させるように設定することで、図6(c)に示すように、光学フィルタ部4全体として、異なる2つの分析用ピーク波長Pa1、Pa2(第1分析用ピーク波長、第2分析用ピーク波長)を有することができる。そしてこの光学フィルタ部4では、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42に印加する電圧を個別に変化させることで、これら2つの分析用ピーク波長Pa1、Pa2における透過率を個別に変化させることができる。
【0040】
本実施形態の分析装置100では、情報処理装置5は、光学フィルタ部4における光の透過率を制御するフィルタ制御部52としての機能をさらに発揮する。このフィルタ制御部52は、光学フィルタ部4が有する複数(ここでは2つ)の分析用ピーク波長Pa1、Pa2における透過率を個別に制御させるものである。より具体的にこのフィルタ制御部52は、各光学フィルタ41、42の電圧源に電圧制御信号を個別に出力して印加する電圧を制御することにより、第1分析用ピーク波長Pa1及び第2分析用ピーク波長Pa2における透過率を個別に変化させるように構成されている。
【0041】
具体的にこのフィルタ制御部52は、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42のそれぞれに交流電圧を印加し、その印加される電圧値を周期的に変化させることで、光検出器3で検出される各分析用ピーク波長Pa1、Pa2に対応する光の強度を周期的に変化させるように構成されている。これにより第1光学フィルタ41は、図7の(a)に示すように、特定波長領域R1(具体的には、異なる電圧値が印加された2つの状態における第1光学フィルタ41の差スペクトル)の透過率が電圧によって変調される光学フィルタとして機能する。また、第2光学フィルタ42は、図7の(b)に示すように、特定波長領域R2(具体的には、異なる電圧値が印加された2つの状態における第2光学フィルタ42の差スペクトル)の透過率が電圧によって変調される光学フィルタとして機能する。
【0042】
ここでフィルタ制御部52は、光検出器3において、各光学フィルタ41、42を透過する光をそれぞれ独立した光強度信号として取ることができるように、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42に対して互いに異なる電圧信号を入力するように構成されている。より具体的にこのフィルタ制御部52は、それぞれに印加する電圧値を、互いに異なる周波数で変化させる、又は互いに位相差が生じるように変化させるように構成されている。なおフィルタ制御部52は、各光学フィルタ41、42に印加する交流電圧の周波数及び位相を変更できるように構成されている。ここで、「互いに位相差が生じるように電圧値を変化させる」とは、例えば、各光学フィルタ41,42に電圧を印加するタイミングや電圧値がピークとなるタイミングを互いにずらすこと等を意味する。
【0043】
そして濃度算出部51は、第1光学フィルタ41を透過した光の光強度信号と第2光学フィルタ42を透過した光の光強度信号を光検出器3からそれぞれ取得し、ランベルト・ベールの法則の原理に基づいて、各分析用ピーク波長Pa1、Pa2に吸収波長を有する測定対象成分の濃度をそれぞれ算出する。
【0044】
このように構成した本実施形態の分析装置100によれば、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長Pa1、Pa2を有する周期構造体を用いて構成した第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42を用いているので、各光学フィルタ41、42に印加する電圧を変化させることで測定対象成分の吸収波長に対応する光の透過と遮断を制御して変調させることができる。これにより、モータと円盤等を備える光チョッパを設ける必要がないため、装置全体を小型化できる。
しかも、分析用ピーク波長Pa1、Pa2が異なる2つの光学フィルタを同一光路上に配置しているので、各光学フィルタ41、42を透過した光を検出する光検出器3を共通化でき、複数の測定対象成分の分析を可能としながらも装置全体を小型化することができる。
また、光の変調のために光源2をオン・オフさせる必要もないため、光量が大きい光源2を使用することが可能となる。
さらには、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42のそれぞれの分析用ピーク波長Pa1、Pa2が互いに異なっているので、1つの光学フィルタのみを用いる場合に比べて、分析用ピーク波長以外の波長領域における透過率を下げることができ、バックグラウンドを低減することもできる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は、周期構造体としてフォトニック結晶4Pを用いて構成したものであったがこれに限らない。他の実施形態の第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42は、電圧を印加することで透過率が変化する分析用ピーク波長Pa1、Pa2を有する光学特性を備えるものであれば、フォトニック結晶4P以外の任意の周期構造体であってもよい。
【0046】
また前記実施形態では第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42はいずれも試料セル1と光検出器3との間の光路上に配置されていたがこれに限らない。他の実施形態では、例えば図8に示すように、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42の一方が光源2と試料セル1の間に配置され、他方が試料セル1と光検出器3との間に配置されてもよい。
【0047】
また他の実施形態では、例えば図9に示すように、第1光学フィルタ41と第2光学フィルタ42の両方が光源2と試料セル1の間に配置されてもよい。
【0048】
さらに他の実施形態の分析装置100では、光学フィルタ部4は、周期構造体を用いて構成された光学フィルタを3つ以上備えていてもよい。例えば他の実施形態の分析装置100は、図10に示すように、光源2と光検出器3との間に、周期構造体からなる第3光学フィルタ43を更に有していてもよい。この第3光学フィルタ43は、第1光学フィルタ41及び第2光学フィルタ42と同一光路上に配置されてもよく、異なる光路上に配置されていてもよい。
【0049】
また前記実施形態の光源2は白熱電球であったがこれに限らない。他の実施形態では、光源2はLEDであってもよい。また光源2は赤外光を発するものであったが、これに限らず他の波長域の光を発するものであってもよい。
【0050】
また前記実施形態の分析装置100は、NDIR方式のものであったがこれに限らない。他の実施形態の分析装置100は、試料に光を照射し、その透過光に基づいて試料を分析するものであれば、任意の方式のものであってよい。
【0051】
また、前記実施形態では分析する試料は排ガスであったがこれに限らない。他の実施形態では、分析対象である試料は、大気、燃焼中のガス又は化学プラント等で生じるプロセスガスなどでもよく、液体又は固体であってよい。その意味では、測定対象成分もガスのみならず液体や固体でも本発明を適用可能である。
【0052】
また他の実施形態では、「サイドピーク波長近傍」とは、サイドピーク波長を含み、当該サイドピーク波長Psとの差が±20%以内の波長範囲を意味するものであってもよい。
【0053】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0054】
100・・・分析装置
1 ・・・試料セル
2 ・・・光源
3 ・・・光検出器
41 ・・・第1光学フィルタ
42 ・・・第2光学フィルタ
4P ・・・フォトニック結晶
R ・・・特定波長領域
Pa ・・・分析用ピーク波長
Ps ・・・サイドピーク波長

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10