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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122812
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】真空処理装置及び真空処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/58 20060101AFI20230829BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20230829BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20230829BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C23C14/58 Z
C23C14/04 A
C23C14/14 D
C23C26/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026536
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】福田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昌敏
【テーマコード(参考)】
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA02
4K029BB03
4K029BC03
4K029CA01
4K029DA04
4K029DB03
4K029DB04
4K029GA00
4K029GA03
4K029HA01
4K029JA10
4K029KA03
4K029KA09
4K044AA01
4K044AA03
4K044AA06
4K044AA16
4K044AB02
4K044BA01
4K044BB01
4K044BC14
4K044CA13
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、成膜領域と非成膜領域とを設ける技術において基材面内で所望の膜厚分布が得られる真空処理装置及び真空処理方法を提供することにある。
【解決手段】上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、マスク部材から露出させたシート状の基材の成膜面にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む被膜を形成させた上記基材に対して、上記成膜面に形成された上記被膜と、上記成膜面に形成された上記被膜の下地部分となる上記基材とを減圧雰囲気で裁断するスリット部を具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク部材から露出させたシート状の基材の成膜面にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む被膜を形成させた前記基材に対して、前記成膜面に形成された前記被膜と、前記成膜面に形成された前記被膜の下地部分となる前記基材とを減圧雰囲気で裁断するスリット部を具備する真空処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載された真空処理装置において、
減圧雰囲気で前記被膜を前記基材に形成する成膜部をさらに具備する
真空処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された真空処理装置において、
前記基材に形成された前記被膜の表面または前記スリット部によって裁断された前記被膜の切断面を改質する表面処理部をさらに具備する
真空処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載された真空処理装置において、
前記成膜部に含まれる蒸着源を収容する第1処理室と、
前記スリット部を収容する第2処理室と
前記表面処理部に適用される処理用ガスのガス雰囲気を形成する第3処理室と
を有する
真空処理装置。
【請求項5】
減圧雰囲気でシート状の基材をマスク部材から露出させて、前記マスク部材から露出させた前記基材の成膜面に対してアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む被膜を形成し、
前記成膜面に形成された前記被膜と、前記成膜面に形成された前記被膜の下地部分となる前記基材とを減圧雰囲気で裁断する
真空処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載された真空処理方法において、
前記基材に形成された前記被膜の表面または裁断された前記被膜の切断面を改質する
真空処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やスマートフォン等のモバイル機器の進展に伴い、これらの機器に搭載されるリチウム電池が注目されている。リチウム電池は、その製造工程において、リチウム金属を基材上に形成する工程が特に重要である。例えば、リチウム金属を基材上に形成する成膜装置としては、巻出しローラから巻き出された基材をメインロールに巻き付けながら、基材上に蒸発材料の薄膜を形成し、当該基材を巻取りローラにより巻き取る方式の成膜装置がある。
【0003】
このような成膜装置を扱う業界において、薄膜が形成された基材の使用用途等に応じて、成膜の過程で薄膜が形成された成膜領域と薄膜が形成されない非成膜領域とを設ける必要性が生じている。成膜領域と非成膜領域とを設ける技術においては、非成膜領域には薄膜が形成されないように蒸発材料を基材の手前で遮蔽する遮蔽板(マスク板)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5024972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、遮蔽板を用いて蒸発材料を遮蔽しても、遮蔽板と基材との間に蒸発材料が回り込んでしまい、非成膜領域にも蒸発材料が付着する場合がある。この場合、基材面内においては、所望の膜厚分布が得られないことになる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、成膜領域と非成膜領域とを設ける成膜技術において基材の面内で所望の膜厚分布が得られる真空処理装置及び真空処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、マスク部材から露出させたシート状の基材の成膜面にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む被膜を形成させた上記基材に対して、上記成膜面に形成された上記被膜と、上記成膜面に形成された上記被膜の下地部分となる上記基材とを減圧雰囲気で裁断するスリット部を具備する。
【0008】
このような真空処理装置によれば、基材の面内で所望の膜厚分布が得られることになる。
【0009】
上記の真空処理装置においては、減圧雰囲気で上記被膜を上記基材に形成する成膜部をさらに具備してもよい。
【0010】
このような真空処理装置によれば、基材の面内で所望の膜厚分布が得られることになる。
【0011】
上記の真空処理装置においては、上記基材に形成された上記被膜の表面または上記スリット部によって裁断された上記被膜の切断面を改質する表面処理部をさらに具備してもよい。
【0012】
このような真空処理装置によれば、基材の面内で所望の膜厚分布が得られ、さらに、被膜の表面酸化が抑えられる。
【0013】
上記の真空処理装置においては、上記成膜部に含まれる蒸着源を収容する第1処理室と、上記スリット部を収容する第2処理室と上記表面処理部に適用される処理用ガスのガス雰囲気を形成する第3処理室とを有してもよい。
【0014】
このような真空処理装置によれば、基材の面内で所望の膜厚分布が得られ、さらに、被膜の表面酸化が抑えられる。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理方法では、
減圧雰囲気でシート状の基材をマスク部材から露出させて、上記マスク部材から露出させた上記基材の成膜面に対してアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む被膜が形成され、
上記成膜面に形成された上記被膜と、上記成膜面に形成された上記被膜の下地部分となる上記基材とが減圧雰囲気で裁断される。
【0016】
このような真空処理方法によれば、基材の面内で所望の膜厚分布が得られることになる。
【0017】
上記の真空処理方法においては、上記基材に形成された上記被膜の表面または裁断された上記被膜の切断面を改質してもよい。
【0018】
このような真空処理方法によれば、基材の面内で所望の膜厚分布が得られ、さらに、被膜の表面酸化が抑えられる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、成膜領域と非成膜領域とを設ける成膜技術において基材の面内で所望の膜厚分布が得られる真空処理装置及び真空処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(a)、(b)は、本実施形態に係る真空処理装置の一例を示す模式図である。図1(c)は、図1(a)の破線域Pで示される基材及び基材に形成された被膜の模式的断面である。
図2図2(a)、(b)は、本実施形態に係る真空処理装置の別の一例を示す模式図である。
図3図3は、本実施形態の真空処理装置のさらに別の一例を示す模式図である。
図4図4(a)は、成膜部から主ローラの方向からマスク部材、基材、及び主ローラを見た場合の模式的平面図である。図4(b)は、主ローラの中心軸方向における基材に形成される膜厚分布を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0022】
図1(a)、(b)は、本実施形態に係る真空処理装置の一例を示す模式図である。図1(a)では、ローラ41からローラ43に向かう方向がX軸方向とされ、ローラ41~43、45のそれぞれの中心軸の方向がY軸方向とされ、X軸方向とY軸方向とに直交する方向がZ軸方向とされる。例えば、図1(a)には、Y軸方向から見た真空処理装置の概略が示される。図1(b)には、Z軸方向から見た真空処理装置の概略が示される。また、図1(c)は、図1(a)の破線域Pで示される基材及び基材に形成された被膜の模式的断面が示される。
【0023】
図1(a)、(b)に例示された真空処理装置1Aは、大気圧未満の減圧雰囲気の条件下で基材及び被膜の処理を行う。真空処理装置1Aは、ローラ41と、ローラ42と、ローラ43と、ガイドローラ45と、スリット部(スリッタ)50とを具備する。ローラ41と、ローラ42と、ローラ43と、ガイドローラ45と、スリット部50とは、図示しない真空容器に収容される。減圧雰囲気は、真空ポンプ、真空配管、継手等の排気機構(不図示)によって形成される。ローラ41、ローラ42、及びローラ43のそれぞれは、モータ等の回転駆動機構(不図示)を備える。
【0024】
図1(a)、(b)の例では、ローラ41は、巻き出し用のローラとして機能し、ローラ42、43は、巻き取り用のローラとして機能する。例えば、ローラ41、ローラ42、及びローラ43のそれぞれは、それぞれの中心軸周りに所定の回転速度で矢印方向に回転可能に構成されている。これにより、ローラ41から、ローラ42またはローラ43に向かって被膜付き基材である処理対象物90が所定の搬送速度で搬送される。
【0025】
ローラ41には、処理対象物90が予め巻き取られている。ローラ41から巻き出された処理対象物90は、スリット部50を通過すると、スリット部50によって切断線90Lを境に本体部901と、余剰部902とに分離される。図1(a)、(b)の例では、本体部901は、処理対象物90の幅方向における中央部分に相当し、余剰部902は、処理対象物90の幅方向における両端部分に相当する。本体部901には、被膜92がY軸方向において良好な厚み分布で形成されている。余剰部902は、後述するマスク部材によって被膜92の形成が抑制された遮蔽部を含む。
【0026】
スリット部50を通過した本体部901は、ガイドローラ45を介し、ローラ43の周面に架け渡され、ローラ43によって巻き取られる。一方、スリット部50を通過した余剰部902は、ガイドローラ45を介し、ローラ42の周面に架け渡され、ローラ42によって巻き取られる。
【0027】
スリット部50は、ローラ41から巻き出された処理対象物90を減圧雰囲気で裁断する。スリット部50は、基材91と、基材91に堆積して形成された被膜92とを裁断する。スリット部50は、シャー刃、レザー刃等を備えた機械的裁断手段、レーザ加工等の光学的裁断手段等を備える。例えば、スリット部50は、処理対象物90の切断線90Lの位置を境に処理対象物90を裁断する。これにより、処理対象物90は、本体部901と、一対の余剰部902とに分離される。
【0028】
処理対象物90は、図1(c)に示すように、基材91と、被膜92とを含む。基材91は、シート状且つ長尺状の基材である(厚み:50μm以下)。また、基材91は、可撓性を有する。例えば、基材91は、Cu、Al、Ni、SUS鋼等の帯状の金属箔、OPP(延伸ポリプロピレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイト)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂等の帯状のフィルムである。被膜92は、Li、Na等のアルカリ金属、または、Mg、Ca等のアルカリ土類金属を含む。被膜92は、後述するマスク部材から露出する基材91の成膜面に形成される。被膜92の厚みは、20μm以下である。処理対象物90は、例えば、リチウム電池の負極に適用される。
【0029】
なお、スリット部50に含まれる、シャー刃、レザー刃等の刃は、被膜92がアルカリ金属またはアルカリ土類金属で構成されている場合、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応しにくい材料で構成される。例えば、その材料としては、SUS鋼、Fe、Ti、Si酸化物、Al酸化物、Zr酸化物等があげられる。
【0030】
また、真空処理装置1Aは、基材91に形成された被膜92の表面またはスリット部50によって裁断された被膜92の切断面を改質する表面処理部(表面不活性処理部)をさらに具備してもよい。例えば、図2(a)、(b)は、本実施形態に係る真空処理装置の別の一例を示す模式図である。
【0031】
例えば、真空処理装置1Aは、図2(a)に示すように、処理対象物90が巻き出されるローラ41及びスリット部50と、ローラ42、43及びガイドローラ45とが仕切壁80によって区分けされる。ローラ41及びスリット部50は、処理室101に収容される。ローラ42、43及びガイドローラ45は、処理室102に収容される。処理室101と、処理室102とは、仕切壁80によって隔てられる。
【0032】
仕切壁80には、ローラ41から繰り出される処理対象物90が通過する間隙(スリット孔)80sが設けられている。ローラ41から繰り出される処理対象物90は、仕切壁80に接触することなく間隙80sを通過し、ローラ42、43のそれぞれに巻き取られる。
【0033】
また、処理室102には、ガス導入機構(不図示)によって処理用ガスが供給される。処理室102に導入された処理用ガスは、別の排気機構(不図示)によって排気される。図2(a)に示す真空処理装置1Aでは、処理室102と、ガス導入機構と、別の排気機構とによって、被膜92の表面または被膜92の切断面を改質する表面処理部が構成される。処理室102に導入される処理用ガスによって、処理室102は、処理用ガスによる所定の圧力のガス雰囲気が形成される。
【0034】
処理室102に導入される第1ガスとしては、例えば、CO、CO、CO/Ar混合ガス、CO/Ar混合ガス等があげられる。これらのガスを被膜92の表面または被膜92の切断面に晒すことで、それぞれの表面の一部が改質される。例えば、炭酸化層等の保護層が被膜92の表面または被膜92の切断面に形成される。ここで、保護層の厚みは、被膜92の厚みよりも薄い。このような表面改質を行うことにより、処理対象物90が大気開放され処理対象物90が乾燥空気に触れたとしても、被膜92の表面または被膜92の切断面では、水酸化物層あるいは窒化物層の形成が抑制される。
【0035】
また、第1ガスを用いて被膜92の表面または被膜92の切断面の表面改質を行う前に、第2ガスとしてのOまたはO/Ar混合ガスを被膜92の表面または被膜92の切断面に晒してもよい。第2ガスを用いることにより、炭酸化層の下地層として予め保護層よりも薄い極薄の酸化層が形成される。これにより、被膜92の表面または被膜92の切断面の炭酸化が促進されて、被膜92の表面または被膜92の切断面に炭酸化層が安定して形成される。また、第1ガスによる表面改質は、処理室102で行ってもよく、処理室102とは別に第2ガスによる表面改質をする専用の処理室が設けられてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、図2(b)に示すように、スリット部50は、処理室101に限らず、処理室102に設けてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、図2(c)に示すように、表面改質処理では、処理対象物90をローラ41から繰り出すことなく、例えば、処理室101においてローラ41に巻き取られた状態でダイサー刃、レーザ光等によって本体部901と余剰部902とに分離し、本体部901において露出された本体部901の側面90wに、表面改質処理を行ってもよい。
【0038】
このような処理によっても、被膜92の切断面に炭酸化層等の保護膜が形成される。また、被膜92の表面は、巻回状態であることから基材91に覆われていることになり、被膜92の表面の水酸化あるいは窒化が抑制される。
【0039】
さらに、真空処理装置は、減圧雰囲気で被膜92を基材91に形成する成膜部を具備してもよい。例えば、図3は、本実施形態の真空処理装置のさらに別の一例を示す模式図である。
【0040】
図3に示す真空処理装置1Bとして、例えば、ロール・ツー・ロール方式の真空処理装置が例示される。真空処理装置1Bは、一例であり、この例には限定されない。
【0041】
真空処理装置1Bは、真空槽10と、成膜部20と、マスク部材30と、ローラ42と、ローラ43と、ガイドローラ45と、ローラ46と、主ローラ47と、スリット部50とを具備する。また、真空処理装置1Bは、ローラ42、ローラ43、ガイドローラ45、ローラ46、主ローラ47のそれぞれをそれぞれの中心軸を中心に回転させる回転駆動機構(モータ)を備える。さらに、真空処理装置1Bは、排気機構と、ガス供給機構を具備する。基材91は、ローラ46から繰り出され、主ローラ47によって巻回搬送されてローラ42、43によって巻き取られることによって、真空槽10内で所定の搬送速度で搬送される。真空処理装置1Bでは、真空成膜と、減圧雰囲気でのスリット裁断とが両立され、膜厚均一性に優れたリチウム膜等が発火なく安全に形成可能である。
【0042】
真空槽10は、密閉構造を有する。真空槽10は、真空ポンプP4を有する排気ラインL4に接続されることにより、その内部が所定の減圧雰囲気に維持可能になる。真空処理装置1Bは、成膜室120、処理室101、処理室1021、処理室1022、回収室140を有する。成膜室120と処理室101とは、仕切壁801によって区分けされる。処理室101と、処理室1021、処理室1022及び回収室140とは、仕切壁802によって区分けされる。処理室1022と処理室1021とは、仕切壁803によって区分けされる。処理室1021と回収室140とは、仕切壁804によって区分けされる。
【0043】
仕切壁801には、主ローラ47が仕切壁801に接触せずに処理室101から、その一部が成膜室120に入り込めるように開口801hが設けられている。また、仕切壁801に開口801hが設けられることによって、主ローラ47と仕切壁801との間に間隙が形成される。この間隙は、主ローラ47に巻回搬送された基材91が処理室101と成膜室120との間を通過する間隙になる。
【0044】
また、仕切壁802には、処理対処物90が通過できる間隙802sが設けられる。仕切壁803には、処理対処物90が通過できる間隙803sが設けられる。仕切壁804には、処理対処物90が通過できる間隙804sが設けられる。
【0045】
成膜部20は、成膜室120(第1処理室)に収容される。成膜部20には、例えば、真空処理装置1Bの蒸発源が含まれる。成膜部20は、抵抗加熱式蒸発源、誘導加熱式蒸発源、または電子ビーム加熱式蒸発源等で構成される。成膜部20は、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を蒸発させる。
【0046】
成膜室120は、排気ラインL4に接続され、減圧状態を維持する。処理室101は、開口801hを介して成膜室120と連通している。成膜室120が排気されると、処理室101も排気される。また、処理室101は、排気ラインLに接続されていない。このため、成膜室120の排気中には、成膜室120よりも処理室101の方が高圧力となる圧力差が生じる。この圧力差によって、蒸気流21が間隙を通じて処理室101に侵入することが抑制される。なお、必要に応じて、処理室101も排気ラインを用いて排気してもよい。
【0047】
成膜部20と、主ローラ47との間には、マスク部材30が設置される。マスク部材30は、処理室101から成膜室120に突き出た主ローラ47の周面に沿って配置される。主ローラ47に巻回搬送される基材91は、主ローラ47とマスク部材30との間を通過する。基材91とマスク部材30との間は、例えば、1mm~10mmに設定される。成膜部20から主ローラ47の方向に基材91を見た場合、マスク部材30は、基材91の一部(例えば、両端部分)を遮蔽し、残りの部分(例えば、中央部分)を成膜部20に向けて露出させる。これにより、蒸気流21が成膜部20に向けて露出させた基材91の部分に堆積し、基材91に被膜92が形成された処理対象物90が形成される。マスク部材30の成膜部20の側から見た構成については、後述する。
【0048】
主ローラ47は、その一部が成膜室120に配置され、残りの部分が処理室101に配置される。主ローラ47は、成膜部20に対向する。主ローラ47は、ローラ46によって巻き出された基材91を巻回搬送し、被膜92が形成された基材91、すなわち処理対象物90をローラ42またはローラ43に向けて繰り出す。
【0049】
主ローラ47は、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属材料で筒状に構成される。主ローラ47の内部には、例えば、温調機構(不図示)が設けられてもよい。主ローラ47の大きさは特に限定されないが、中心軸47cの方向の幅が基材91の幅よりも大きく設定される。
【0050】
スリット部50は、処理室101(第2処理室)に収容される。スリット部50は、主ローラ47から繰り出された処理対象物90を減圧雰囲気で裁断する。上述したように、スリット部50は、処理対象物90の切断線90L(図1(b))の位置を境に処理対象物90を裁断する。これにより、処理対象物90は、本体部901と、本体部901の両側における一対の余剰部902とに分離される。
【0051】
ローラ46は、処理室101に配置される。ローラ46は、図3の例では巻き出し用のローラとして機能する。ローラ46には、基材91が予め巻回されている。基材91は、ローラ46から主ローラ47に向けて巻き出される。ローラ42及びローラ43のそれぞれは、回収室140に配置される。ローラ42の周面には、スリット部50を通過した処理対処物90の余剰部902がガイドローラ45を介して架け渡される。余剰部902は、ローラ42によって巻き取られる。ローラ43の周面には、スリット部50を通過した処理対象物90の本体部901がガイドローラ45を介して架け渡される。本体部901は、ローラ43によって巻き取られる。
【0052】
また、真空処理装置1Bにおいては、スリット部50を通過した処理対象物90(例えば、本体部901)に対して、ローラ42またはローラ43に巻き取られる前に、表面改質処理をすることができる。
【0053】
例えば、処理室1022は、第2ガス供給源S2を有するガス供給ラインL21に接続される。また、処理室1022は、真空ポンプP2を有する排気ラインL22に接続される。処理室1022には、ガス供給ラインL21から第2ガスが供給され、処理室1022は、排気ラインL22によって所定の圧力の第2ガス雰囲気に維持される。
【0054】
これにより、処理対象物90がローラ42またはローラ43に巻き取られる前であって、被膜92の表面または被膜92の切断面が炭酸化される前に、被膜92の表面または被膜92の切断面が酸化される。これにより、被膜92の表面または被膜92の切断面に極薄の酸化層が形成される。
【0055】
ここで、処理室1022は、処理室101と連通しているため、処理室1022が排気されると、排気ポンプに接続されていない処理室101も排気される。処理室1022に導入された第2ガスが真空ポンプP2によって排気されると、処理室1022の圧力よりも処理室101の圧力が高くなる圧力差が生じる。この圧力差により、第2ガスが処理室101に侵入することが抑制される。
【0056】
処理室1021は、第1ガス供給源S1を有するガス供給ラインL11に接続される。また、処理室1021は、真空ポンプP1を有する排気ラインL12に接続される。処理室1021には、ガス供給ラインL11から第1ガスが供給され、処理室1021は、排気ラインL12によって所定の圧力の第1ガス雰囲気に維持される。処理室1021の圧力は、処理室1022の圧力以上に設定してもよい。
【0057】
これにより、処理対象物90がローラ42またはローラ43に巻き取られる前であって、被膜92の表面または被膜92の切断面が酸化された後に、被膜92の表面または被膜92の切断面が炭酸化される。これにより、被膜92の表面または被膜92の切断面に炭酸化層が形成される。
【0058】
第1ガス、または第2ガスによる表面改質を実施する場合は、処理室1022、1021のいずれかに複数のガイドローラを配置して、処理室1022、1021のいずれかを通過する処理対象物90のパスを任意の長さに調整してもよい。これにより、処理室1022、1021のいずれかを通過する処理対象物90に処理ガスを晒す時間を任意の時間に設定することができる。
【0059】
このような真空処理装置1Bによれば、成膜部20における基材91への被膜92の形成と、第2ガスによる、被膜92の表面または被膜92の切断面の表面改質と、第1ガスによる、被膜92の表面または被膜92の切断面の表面改質とを連続的に行うことができる。または、成膜部20における基材91への被膜92の形成と、第2ガスによる、被膜92の表面または被膜92の切断面の表面改質とを連続的に行うことができる。
【0060】
基材91は、主ローラ47に接する接触面(裏面)91rと、接触面91rとは反対側の成膜面91dを有する。主ローラ47に巻回搬送される基材91の成膜面91dは、成膜部20に対向する。成膜面91dには、成膜部20から放出される蒸気流21が堆積して、主ローラ47上で基材91に被膜92が形成される。なお、本実施形態では、表面処理部に適用される処理用ガスのガス雰囲気を形成する、処理室1021、1022を纏めて第3処理室とする。
【0061】
図4(a)は、成膜部から主ローラの方向からマスク部材、基材、及び主ローラを見た場合の模式的平面図である。図4(b)は、主ローラの中心軸方向における基材に形成される膜厚分布を模式的に示すグラフである。図4(b)の横軸は、主ローラの中心軸方向における位置を表し、縦軸は、膜厚(規格値)を示す。P1とP2とは、基材91の幅方向における基材91の端の位置である。
【0062】
マスク部材30は、一対のマスク部301、302を有する。一対のマスク部301、302は、中心軸47cの方向に並ぶ。中心軸47cは、基材91が巻回搬送される搬送方向(矢印)に対して直交する。一対のマスク部301、302のそれぞれは、蒸着源と基材91との間に設置される。一対のマスク部301、302は、主ローラ47の中心軸47cの方向における基材91の両側部分を遮蔽する。基材91の両側部分においては、蒸発材料の基材91への付着が抑制される。
【0063】
但し、Liのような金属は、蒸気流が形成されると、比較的低重量であることから、その進行方向が等方的になる場合がある。これにより、マスク部301、302と基材91との間隙を狭く構成しても、金属蒸気がマスク部301、302のそれぞれの裏側に回り込みやすくなる。
【0064】
従って、基材91の両側部分においては、マスク部材30によって完全に蒸発材料が遮蔽されず、図4(b)に示すような膜厚分布が形成される。例えば、マスク部材30から露出された基材91の露出領域95においては、被膜92の厚み分布が優れた均一性で形成される。しかし、露出領域95の以外に部分においては、位置P1または位置P2に向かうほど被膜92の厚みが急峻に減少する。
【0065】
従って、本実施形態では、露出領域95の両端部から若干の内側に位置する位置P10と位置P20との間の領域を膜厚均一性に優れた処理対象物90の本体部901(製品部分)として、この本体部901をロータ43によって回収する。ロータ43によって回収された本体部901は、例えば、リチウム電池の一部に適用される。
【0066】
また、表面改質処理として、炭酸化処理を採用する。これにより、例えば、被膜92としてリチウム膜を適用した場合には、リチウム金属膜表面における酸化を最小限に抑えることができる。この結果、リチウムイオン伝導度の低下を抑制しつつ、電池特性の改善を図ることができる。
【0067】
本実施形態では、真空処理装置1A、1Bのほか、真空処理装置1A、1Bを用いた真空処理方法も提供される。
【0068】
例えば、減圧雰囲気でシート状の基材91をマスク部材30から露出させて、マスク部材30から露出させた基材91の成膜面91dに対してアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む被膜92が形成される。次に、成膜面91dに形成された被膜92と、成膜面91dに形成された被膜92の下地部分となる基材91とが減圧雰囲気で裁断される。また、基材91に形成された被膜92の表面または裁断された被膜92の切断面は、表面改質処理によって改質される。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、基材91については、長尺状に限らず、平面形状が矩形状の板材であってもよい。また、基材91は、可撓性基材に限らず、リジッド性基材でもよい。この場合、成膜方式は、ロール・ツー・ロール方式に限定されず、バッチ式としてもよい。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0070】
1A、1B…真空処理装置
10…真空槽
20…成膜部
21…蒸気流
30…マスク部材
41、42、43、46…ローラ
45…ガイドローラ
47…主ローラ
47c…中心軸
50…スリット部
80、801、802、803、804…仕切壁
80s、802s、803s、804s…間隙
90…処理対象物
90w…側面
90L…切断線
91…基材
91r…接触面
91d…成膜面
901…本体部
902…余剰部
92…被膜
95…露出領域
101、102、1021、1022…処理室
120…成膜室
140…回収室
801h…開口
P1、P2、P4…真空ポンプ
S1…第1ガス供給源
S2…第2ガス供給源
L11、L21…ガス供給ライン
L12、L22、L4…排気ライン
図1
図2
図3
図4