(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023122850
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】多段シックナーを用いた固液分離方法及びこれを含んだニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20230829BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20230829BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20230829BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B3/44 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026601
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】大道 陽平
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001AA30
4K001BA02
4K001CA03
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】 シックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を高める方法を提供する。
【解決手段】 原料のニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施し、得られた浸出スラリーに中和剤を添加してpH調整した後、多段シックナーに導入して洗浄及び沈降分離を繰り返して固液分離する方法であって、Si品位の異なる複数種類の鉱石スラリーの各々に対して該多段シックナーのうちの最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が極大値になる凝集剤の添加比率を予め求めてデータベース化しておき、実操業の鉱石調合工程で調製した鉱石スラリーのSi品位に対応する凝集剤の添加比率を該データベースに基づいて決定し、該決定した添加比率で該最後段のシックナーに凝集剤を添加する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱石調合工程で調製した原料のニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施し、得られた浸出スラリーを予備中和工程で中和剤を添加してpH調整した後、多段シックナーに導入して洗浄及び沈降分離を繰り返して固液分離する方法であって、Si品位の異なる複数種類の鉱石スラリーの各々に対して該多段シックナーのうちの最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が極大値になる凝集剤の添加比率を予め求めてデータベース化しておき、実操業の鉱石調合工程で調製した鉱石スラリーのSi品位に対応する凝集剤の添加比率を該データベースに基づいて決定し、該決定した添加比率で該最後段のシックナーに凝集剤を添加することを特徴とする固液分離方法。
【請求項2】
Si品位が既知の複数種類のニッケル酸化鉱石を調合した後に湿式分級することで所定のSi品位を有する鉱石スラリーを調製する鉱石調合工程と、前記鉱石スラリーに対して硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施す高圧硫酸浸出工程と、前記酸浸出処理により生成した浸出スラリーに中和剤を添加してpH調整を行なう予備中和工程と、前記pH調整された浸出スラリーを多段シックナーに導入して洗浄及び重力沈降による固液分離を繰り返すことで浸出残渣を分離除去する固液分離工程とを有するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記固液分離工程において請求項1に記載の固液分離方法を採用することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記固液分離工程において前記浸出残渣を分離除去することで得た浸出液に中和剤を添加して不純物元素を中和澱物として分離除去する中和工程と、該中和澱物の分離除去により得た中和終液に硫化剤を添加して該中和終液に含まれる亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去する浄液工程と、該亜鉛硫化物の分離除去により得たニッケル回収用母液に硫化剤を添加して該ニッケル回収用母液に含まれるニッケル及びコバルトから混合硫化物を生成すると共に該混合硫化物を固液分離により回収する硫化工程とを更に有することを特徴とする、請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料のニッケル酸化鉱石を高温高圧下で酸浸出処理することにより生成される浸出スラリーを多段シックナーに導入して固液分離する方法及びこれを含んだニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料のニッケル酸化鉱石から湿式によりニッケル等の有価金属を回収する製錬法として、HPAL法(High Pressure Acid Leaching)とも称する高圧酸浸出法が知られている。この湿式製錬法では、原料のニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理することで生成したニッケル及びコバルトを含む浸出液に対して、硫化水素ガスなどの硫化剤を添加してこれらニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収するものであり、熱エネルギーを大量に消費する乾燥工程や焙焼工程等の乾式処理工程を含んでおらず、一連の湿式工程で処理することができるので、低品位のニッケル酸化鉱石に対してエネルギー消費を抑えて経済的に処理することが可能になる。
【0003】
より具体的に説明すると、高圧酸浸出法による湿式製錬法では、先ず複数種類の低品位ニッケル酸化鉱石を予め定めたNi品位及び不純物品位の規定値を満たすように混合し、得られた混合原料を水と共に湿式篩に導入して粗大物や夾雑物を除去することで、所定の粒度の混合原料を含んだ鉱石スラリーが篩下側に回収される。次に、回収した鉱石スラリーを硫酸溶液及び高圧蒸気と共にオートクレーブと称する圧力容器に導入して高温高圧下で浸出処理することで、鉱石中のニッケル等の有価金属を浸出させる。
【0004】
このようにして浸出処理された鉱石スラリーを浸出スラリーとしてオートクレーブから抜き出し、石灰石等の中和剤を添加することにより該浸出スラリーの液相に含まれている残留遊離酸を予備中和した後、シックナーに導入して重力沈降による固液分離により浸出残渣を分離除去する。これにより、粗硫酸ニッケル水溶液からなる貴液を上澄液として回収することができる。
【0005】
このようにして回収した貴液に中和処理及び浄液処理を施すことで不純物を除去した後、硫化水素ガス等の硫化剤の添加による硫化処理により該貴液に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収する。この混合硫化物の回収時には貧液が排出されるため、その一部を上記のシックナーにおいて浸出残渣の洗浄液として再利用し、残部は上記のシックナーから排出される浸出残渣と共に最終中和処理することで重金属類を所定の濃度まで除去した後、テーリングダムと呼ばれる貯留ダムに送液する。
【0006】
上記のシックナーを用いた固液分離では、直列に連結した多段シックナーを用いた連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)が一般的に採用される。この連続向流洗浄法は、上記の予備中和された浸出スラリーを最前段のシックナーに導入すると共に、上記のニッケルやコバルトをほとんど含まない貧液を最後段のシックナーに導入することで、これら浸出スラリー及び貧液を互いに向流に流して多段洗浄処理しながら固液分離するものであり、これにより該浸出スラリーに含まれる浸出残渣は、その表面部に付着しているニッケルやコバルトが洗い流された後に分離除去され、濃縮した残渣スラリーの形態で最後段のシックナーの底部から抜き出されるので、有価金属であるニッケルやコバルトの回収率を高めることができる。
【0007】
ところで、上記の連続向流洗浄法では、最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーは、前述したように最終中和処理を経てテーリングダムへ送液されるため、この残渣スラリーにニッケルなどの有価金属が含まれていると、これら有価金属は全てロスとなる。有価金属は、最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーを構成する液相側に含まれているため、この残渣スラリーの固形分濃度をできるだけ上昇させてニッケル等の有価金属の回収率を向上させることが好ましい。
【0008】
上記の残渣スラリーの固形分濃度を上昇させる方法としては、上記のシックナーによる固液分離の際に浸出スラリーに凝集剤を添加する方法を挙げることができ、凝集剤を添加することにより固形分の粒径を大きくすることができるので、シックナーの沈降分離槽における沈降分離性を高めることができる。しかしながら、シックナーによる固液分離において凝集剤を添加する場合は、添加する凝集剤の種類やその添加量の最適化、シックナー底部からの残渣スラリーの安定的な抜き出しのための適切な浸出残渣の圧密化、効率的な固液分離のための浸出残渣の粒子の粗大化などを目的とするシックナーの運転管理が必要になることがある。
【0009】
例えば特許文献1には、多段シックナーから回収される上澄液の透明度を高めるため、第1段目のシックナーのフィードウェル部に凝集剤の一部を添加すると共に、残りの凝集剤を第2段目のシックナーのオーバーフロー部に添加する技術が開示されている。また、特許文献2には、沈降分離対象となるスラリーが凝集剤と共に導入されるシックナーのフィードウェル部に特定の形状を有する整流板を設けることで、該シックナーの沈降濃縮部の偏流を抑える技術が開示されている。また、特許文献3には、鉱石スラリーが凝集剤と共に導入されるシックナーに設けたレーキの位置を上下方向に調整することで、該シックナーの沈降濃縮部の固形分濃度を上昇させる技術が開示されている。また、特許文献4には、多段シックナーの各々に凝集剤を添加すると共に、最前段のシックナーの底部から抜き出される濃縮スラリーの一部を種晶として前工程の予備中和処理に繰り返すことで、該濃縮スラリーの固形分濃度を上昇させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-061951号公報
【特許文献2】特開2010-201324号公報
【特許文献3】特開2017-144418号公報
【特許文献4】特開2021-031698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献1~4の技術を採用することにより、凝集剤の効果を十分に発揮させてシックナーにおける沈降分離性をある程度向上させることができると考えられる。しかしながら、前述した高圧酸浸出法の原料として用いるニッケル酸化鉱石はその鉱石種によりシックナーにおけるシックニング挙動が異なることがあり、特に鉱石中のSi品位がシックニング挙動に大きな影響を及ぼすことがあった。具体的には、鉱石中のSi品位が上昇すると、該鉱石を用いて調製した鉱石スラリーを高圧酸浸出処理することで得られる浸出スラリーのシックナーによる固液分離において沈降分離性が低下し、シックナー底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が低下することがあった。
【0012】
原料鉱石の調製工程では、前述したようにNi品位等を所定の範囲内に収めるために複数種類の鉱石原料を調合することがあり、原料ロットの切り替えなどで高Si品位の鉱石原料が用いられたときは、複数種類の鉱石種からなる鉱石ブレンドのSi品位が大きく変動することがあり、特にSi品位が増加する方向に変動すると凝集剤の調整が間に合わず、シックナーにおける沈降分離性が低下して上澄液に固形分が混入する問題が生ずることがあった。
【0013】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、原料のニッケル酸化鉱石をHPAL法により高圧酸浸出処理することで生成される浸出スラリーを凝集剤と共にシックナーに導入して残渣を沈降分離させる固液分離方法において、該シックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を高める方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る固液分離方法は、鉱石調合工程で調製した原料のニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施し、得られた浸出スラリーを予備中和工程で中和剤を添加してpH調整した後、多段シックナーに導入して洗浄及び沈降分離を繰り返して固液分離する方法であって、Si品位の異なる複数種類の鉱石スラリーの各々に対して該多段シックナーのうちの最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が極大値になる凝集剤の添加比率を予め求めてデータベース化しておき、実操業の鉱石調合工程で調製した鉱石スラリーのSi品位に対応する凝集剤の添加比率を該データベースに基づいて決定し、該決定した添加比率で該最後段のシックナーに凝集剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の高温加圧硫酸浸出で生成した浸出スラリーの固液分離を行なうシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を高めることができるので、有価金属であるニッケルやコバルトのロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の固液分離方法が好適に適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬法の一般的なブロックフロー図である。
【
図2】
図1の固液分離工程において好適に使用される多段シックナーのうちの任意の1段の模式的なプロセスフロー図である。
【
図3】
図1の固液分離工程において好適に採用される連続向流洗浄法の概略のプロセスフロー図である。
【
図4】本発明の実施例において最後段シックナーの底部から抜き出した残渣スラリーの固形分濃度(Solid%)と凝集剤の添加比率との関係を鉱石スラリーのSi品位をパラメータとしてプロットしたグラフである。
【
図5】
図4における残渣スラリーの固形分濃度(Solid%)の極大値と凝集剤の添加比率との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明に係る固液分離方法が好適に適用される高圧酸浸出法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬法について説明し、続けて該湿式製錬法が有する固液分離工程が行われる多段シックナーの構成及び該多段シックナーによる固液分離法について説明し、最後に本発明に係る固液分離方法の実施形態について説明する。
【0018】
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
先ず、本発明の実施形態に係る固液分離方法を含んだニッケル酸化鉱石の湿式製錬法について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す湿式製錬方法は、鉱石原料として複数種類のニッケル酸化鉱石を調合すると共に湿式分級することにより鉱石スラリーの調製を行なう鉱石調合工程S1と、該鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施す高圧硫酸浸出工程S2と、該浸出処理により生成した浸出スラリーに中和剤を添加してpH調整を行なう予備中和工程S3と、該pH調整された浸出スラリーを多段シックナーに導入して洗浄及び重力沈降を繰り返して残渣を分離除去する固液分離工程S4と、該残渣の分離除去により得た貴液としての浸出液に中和剤を添加して該浸出液に含まれる不純物元素を中和澱物として分離除去する中和工程S5と、該中和澱物の分離除去により得た中和終液に硫化剤を添加して該中和終液に含まれる亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去する浄液工程S6と、該亜鉛硫化物の分離除去により得たニッケル回収用母液に硫化剤を添加して該ニッケル回収用母液に含まれるニッケル及びコバルトから混合硫化物を生成すると共に該混合硫化物を固液分離により回収する硫化工程S7と、上記混合硫化物の回収時に排出される貧液及び上記固液分離工程S4において分離除去される浸出残渣に中和剤を添加して中和処理を行なう最終中和工程S8とから主に構成される。以下、これら一連の湿式処理工程の各々について詳細に説明する。
【0019】
(1)鉱石調合工程S1
鉱石調合工程S1では、リモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱に代表されるニッケル酸化鉱石が原料鉱石として用いられる。原料鉱石に用いるニッケル酸化鉱石は、ロット等が異なるとニッケル品位や不純物品位が異なるため、これらニッケル品位や不純物品位が所望の範囲内となるように、ロット等が異なる複数種のニッケル酸化鉱石を調合する。このようにして得た複数種類の原料鉱石の混合物(鉱石ブレンドとも称する)を粉砕機やスクリーンに導入して粒径をある程度そろえた後、湿式振動篩や回転式湿式篩等の湿式分級装置に水と共に導入する。これにより、オーバーサイズの鉱石粒子や夾雑物を篩上側から除去すると共に、所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを篩下側に回収する。
【0020】
(2)高圧硫酸浸出工程S2
高圧硫酸浸出工程S2では、上記鉱石調合工程S1で調製されたニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーを、過剰の硫酸と共に反応容器に導入し、pH0.1~1.0程度、圧力3.0~5.0MPaG程度、温度220~260℃程度の高温高圧の酸性条件下で浸出処理を行なう。これにより生じる浸出反応及び高温熱加水分解反応によって、ニッケル及びコバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化とが行われ、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーが生成される。なお、上記の反応容器には、内部が堰により複数の区画室に区画された横型円筒形状のオートクレーブと称する高温高圧反応用の圧力容器が好適に用いられる。
【0021】
(3)予備中和工程S3
上記高圧硫酸浸出工程S2では、有価金属である上記のニッケル及びコバルトの浸出率を向上させるため、該有価金属の浸出反応に必要な硫酸の化学量論量よりも過剰の硫酸がオートクレーブに導入される。そのため、オートクレーブから抜き出される浸出スラリーには、該浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が残留遊離酸の形態で含まれている。この余剰の硫酸を中和するため、予備中和工程S3では、炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を浸出スラリーに添加して該浸出スラリーのpHを例えば2.5~3.4に調整する。
【0022】
(4)固液分離工程S4
固液分離工程S4では、複数のシックナーが直列に接続された多段シックナーのうち、最前段のシックナーに上記予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを導入すると同時に、この浸出スラリーに対して向流に流れるように最後段のシックナーに洗浄液を導入する。これにより洗浄及び重力沈降を繰り返すことにより、最後段のシックナーの底部から浸出残渣を濃縮スラリーの形態で分離除去すると共に、最前段のシックナーのオーバーフローからニッケル及びコバルトのほか不純物元素としての亜鉛等を含む粗硫酸ニッケル水溶液からなる貴液としての浸出液を得る。なお、各段のシックナーでは適量の凝集剤の添加が行われ、これにより浸出スラリー中の固形分が凝集するのでその沈降分離性を高めることができる。また、上記の洗浄液には、ニッケルをほとんど含まず且つ固液分離工程S4以降の反応にほぼ悪影響を及ぼさない低pHの水溶液を用いるのが好ましく、例えば硫化工程S7から排出されるpHが1~3程度の貧液が好適に利用される。
【0023】
(5)中和工程S5
中和工程S5では、上記固液分離工程S4において上澄液として最前段のシックナーからオーバーフローにより抜き出される貴液に対して、炭酸カルシウム等の中和剤を添加してpHを好適には4以下に調整する。これにより、該貴液に含まれる3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物元素から中和澱物を生成し、これをシックナー等の固液分離手段を用いて分離除去することにより、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を回収する。
【0024】
(6)浄液工程S6
浄液工程S6では、上記中和工程S5で回収した中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで、該中和終液に含まれる亜鉛から硫化反応により亜鉛硫化物を生成し、これを固液分離手段を用いて分離除去することによりニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を回収する。上記の硫化反応による亜鉛硫化物の生成は、例えば微加圧された低圧反応槽内に該中和終液を導入すると共に、この低圧反応槽の気相部に硫化水素ガスを吹き込むことによって好適に行なうことができる。このように反応槽内の圧力を微加圧にすることにより、ニッケル及びコバルトに対して亜鉛を選択的に硫化することができ、ニッケル回収用母液としての脱亜鉛終液を効率よく生成することができる。
【0025】
(7)硫化工程S7
硫化工程S7では、上記浄液工程S6で回収した脱亜鉛終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで硫化反応を生じさせて、該硫化反応始液としての該脱亜鉛終液に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物として固定化させる。この硫化反応による混合硫化物としての固定化は、上記の亜鉛硫化物の生成時よりも高い圧力に加圧された硫化反応槽に脱亜鉛終液を導入すると共に、この硫化反応槽の気相部に硫化水素ガスを吹き込むのが好ましく、これにより、硫化反応始液中により多くの硫化水素ガスを溶解させることができるので、硫化反応を促進することができる。このようにして固定化された混合硫化物を含むスラリーは、該硫化反応槽から抜き出された後、シックナー等の固液分離手段に導入されて該混合硫化物が回収される。
【0026】
(8)最終中和工程S8
最終中和工程S8では、上記固液分離工程S4において多段シックナーの最後段の底部から排出される遊離硫酸を含んだ濃縮スラリーの形態の浸出残渣と、上記硫化工程S7において混合硫化物の回収の際に固液分離手段から排出されるマグネシウム、アルミニウム、鉄等の不純物を含んだ貧液とに中和剤を添加することで中和処理を行なう。これにより、浸出残渣に含まれる遊離硫酸がほぼ完全に中和されると共に、貧液に含まれる不純物が水酸化物として固定化されるので、環境上の問題となるスラリーが系外に廃棄されるのを防ぐことができる。上記の不純物の水酸化物及び浸出残渣を含むスラリーは、廃棄スラリー(テーリング)としてテーリングダム(廃棄物貯留場)に送液される。
【0027】
2.湿式製錬方法における固液分離工程について
(1)多段シックナーの構成
次に、上記ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に含まれる固液分離工程S4について、より詳しく説明する。固液分離工程S4においては、上記したように高圧硫酸浸出工程S2で生成した後に、予備中和工程S3で中和処理した浸出スラリーに対して、多段シックナーを用いた連続向流洗浄法(CCD法)により洗浄及び重力沈降を繰り返して残渣を濃縮スラリーの形態で分離除去する。
【0028】
具体的に説明すると、
図2に示すように、各段のシックナーは、そこでの固液分離対象となる浸出スラリー及び洗浄液としての直ぐ後段のシックナーの上澄液又は貧液を混合する撹拌混合部10と、この撹拌混合部10での混合で得た混合スラリーを導入して重力沈降による固液分離処理を行なう沈降分離部20とからなる。撹拌混合部10は、好適には円筒形状の撹拌槽11と、その内部に設けられた撹拌軸及び撹拌羽根で構成される撹拌装置12とから構成される。なお、最前段のシックナーの撹拌混合部10では、予備中和工程S3で処理された浸出スラリーが導入され、それ以外の各シックナーの撹拌混合部10では、直ぐ前段のシックナー底部から抜き出された残渣スラリーが導入される。また、最後段のシックナーの撹拌混合部10では、系外から導入される新規の洗浄水や硫化工程S7から排出される貧液が導入され、それ以外の各シックナーの撹拌混合部10では、直ぐ後段のシックナーをオーバーフローした上澄液が導入される。このように、各撹拌混合部10では浸出スラリー又は残渣スラリーに含まれる固形分の浸出残渣に付着した有価金属を含む付着水が洗い流される。
【0029】
他方、沈降分離部20は、中央部に向かって徐々に深くなる底面を有する円筒形状の沈降分離槽21と、該底面に沿って低速回転することで該底面に堆積した固形分をかき集める働きを有するレーキ22と、沈降分離槽21の上部に略同心円状に設けられた、両端部が閉口した筒状のフィードウェル23とから主に構成される。かかる構成により、上記の撹拌混合部10での撹拌混合により得た混合スラリーはフィードウェル23を介して沈降分離槽21内に導入され、ここで該混合スラリーに含まれる固形分の浸出残渣が重力沈降により固液分離される。
【0030】
上記の重力沈降により沈降分離槽21の底部に堆積した固形分の浸出残渣は、レーキ22で底部中央にかき集められた後、濃縮スラリーの形態で沈降分離槽21の該底部中央から抜き出されて、スラリーポンプ25によって後段のシックナーに移送される。一方、上記の重力沈降による固液分離により固形分が除去された浸出液は、沈降分離槽21の上端部の周縁部に設けられているオーバーフロー部24からオーバーフローして上澄液として回収される。このオーバーフロー部24は、上記周縁部に沿って好ましくは全周に亘って設けられた水平方向に湾曲する樋からなり、上記オーバーフローした上澄液を前段のシックナーの撹拌混合部10に送液させるための流路が接続している。
【0031】
上記構造を有するシックナーが、例えば5~8段程度の複数段で直列に連結して多段シックナーを構成している。すなわち、
図3に示すように、CCD法では複数のシックナーT
1~T
nが直列に接続されており、これら複数のシックナーT
1~T
nのうち、最前段のシックナーT
1には予備中和工程S3で中和処理された浸出スラリーが導入され、最後段のシックナーT
nには貧液や系外の洗浄水が導入される。
【0032】
上記複数のシックナーT1~Tnの各々においては、上記した沈降分離槽21の底部から抜き出される残渣スラリーは、最後段のシックナーTnを除いてスラリーポンプ25を介して直ぐ後段のシックナーに移送され、一方、該沈降分離槽21の上端部からオーバーフローする上澄液は、最前段のシックナーT1を除いて直ぐ前段のシックナーに移送される。上記の最後段のシックナーTnから抜き出される残渣スラリーは最終中和工程S8に移送され、一方、上記の最前段のシックナーT1の上端部からオーバーフローする上澄液は、貴液として後工程の中和工程S5に送液される。
【0033】
各段のシックナーでは、前述した撹拌混合部10による浸出スラリー又は残渣スラリーと洗浄液との混合撹拌と、その下流側の沈降分離部20による沈降分離とが行われる。例えば第1段目(最前段)のシックナーT1では、予備中和工程S3において中和処理された浸出スラリーと、後段の第2段目のシックナーT2の沈降分離槽21からオーバーフローした上澄液とが撹拌槽11内に装入されて撹拌混合される。この撹拌混合の際、浸出スラリー中の固形分に付着している有価金属を含む付着水が上記上澄液によって洗浄される。この洗浄済みスラリーと上澄液とからなる混合スラリーは撹拌槽11から連続的に排出された後、フィードウェル23を介して沈降分離槽21内に導入される。
【0034】
上記の第1段目のシックナーT1の沈降分離槽21に導入される混合スラリーには、該混合スラリー中の固形分の凝集の役割を担う凝集剤が添加される。この凝集剤は、好適にはフィードウェル23において該混合スラリーに添加される。上記凝集剤による凝集の効果によって沈降分離槽21の底部に効率的に凝集沈殿した混合スラリー中の固形分は、レーキ22にて底部中央にかき集められた後、濃縮スラリーの形態で沈降分離槽21の底部から抜き出され、スラリーポンプ25を介して後段の第2段目のシックナーT2の撹拌槽11に移送される。一方、沈降分離槽21のオーバーフロー部24にオーバーフローした上澄液は、次工程の中和工程S5に供給される。
【0035】
上記の第1段目のシックナーT1の直ぐ後段に位置する第2段目のシックナーT2では、前段の第1段目のシックナーT1の沈降分離槽21の底部から抜き出された残渣スラリーと、後段の第3段目のシックナーT3の沈降分離槽21からオーバーフローした上澄液とが撹拌槽11内に装入されて撹拌混合される。この撹拌混合の際、スラリー中の固形分に付着している有価金属を含む付着水が該上澄液によって洗浄される。この洗浄された洗浄済みスラリーと上澄液とからなる混合スラリーは撹拌槽11内から連続的に排出された後、フィードウェル23を介して沈降分離槽21内に導入される。
【0036】
この第2段目のシックナーT2においても前述した第1段目のシックナーT1と同様に凝集剤が添加される。これにより、効率的に凝集沈殿した混合スラリー中の固形分は、レーキ22にて底部中央にかき集められた後、濃縮スラリーの形態で沈降分離槽21の底部から抜き出され、スラリーポンプ25を介して後段の第3段目のシックナーT3の撹拌槽11に移送される。一方、沈降分離槽21のオーバーフロー部24にオーバーフローした上澄液は、前段の第1段目のシックナーT1の撹拌槽11にその接続配管等を経由して装入される。以降、同様にして第3段目以降のシックナーにおいて洗浄及び重力沈降による固液分離が繰り返されることで、連続的な多段向流洗浄による浸出スラリーの固液分離が行われる。
【0037】
そして、最後段のシックナーTnでは、その前段のシックナーTn-1の沈降分離槽21の底部から抜き出された残渣スラリーと好適には硫化工程S7から排出される低ニッケル濃度水溶液からなる貧液などの新規の洗浄水とが撹拌槽11内に装入されて撹拌混合される。この撹拌混合の際、スラリー中の固形分に付着している有価金属を含む付着水が洗浄水によって洗浄される。この洗浄された洗浄済みスラリーと洗浄液とからなる混合スラリーは撹拌槽11から連続的に排出された後、フィードウェル23を介して沈降分離槽21内に導入される。
【0038】
この最後段のシックナーTnにおいても前述した第1段目のシックナーT1と同様に凝集剤が添加される。これにより、効果的に凝集沈殿した混合スラリー中の固形分は、レーキ22にて底部中央にかき集められた後、濃縮スラリーの形態で沈降分離槽21の底部からスラリーポンプ25で抜き出され、浸出残渣(CCD残渣)として最終中和工程S8で残渣処理される。一方、沈降分離槽21のオーバーフロー部24にオーバーフローした上澄液は、前段のシックナーTn-1の撹拌槽11にその接続配管等を経由して導入される。
【0039】
上記のように、多段シックナーの最前段及び最後段にそれぞれ浸出スラリー及び洗浄液を導入してこれらを互いに向流で流して接触させることで、該浸出スラリーに含まれる浸出残渣に付着している可溶性ニッケルやコバルトの量を効果的に低下させることができる。その結果、ニッケル及びコバルトの回収率を向上させることができる。また、洗浄液の供給は最後段のシックナーのみでよく、つまり、該最後段以外の各段のシックナーには新規の洗浄液を供給する必要がないため、洗浄液の消費量を大幅に節約することが可能になる。
【0040】
更に、多段シックナーを採用することで貴液の清澄性を高く維持することができ、これにより後工程の中和工程S5や浄液工程S6で採用する濾過機などの固液分離装置の固液分離性が向上し、結果的に本湿式製錬プロセス全体としての生産性を向上させることができる。すなわち、貴液の清澄度が低くて多くの浮遊粒子が含まれていると、例えば濾過機ではその濾布の差圧がすぐに増大して通液流束が早い段階で低下してしまい、この濾過機がネックになってプロセス全体の処理能力が低下してしまうおそれがある。
【0041】
(2)多段シックナーによる固液分離法
上記の多段シックナーにおいては、沈降分離槽21からオーバーフローする上澄液に含まれるニッケル、コバルト等の有価金属の含有量は、最後段のシックナーTnの上澄液が全てのシックナーT1~Tnの上澄液の中で最も少ない。その理由の一つとして、前々段のシックナーTn-2の撹拌槽11において既に有価金属が十分に洗浄されている点が挙げられる。この前々段のシックナーTn-2での固液分離で得た残渣スラリーが更に前段のシックナーTn-1の撹拌槽11において洗浄されるうえ、得られた洗浄済の固形分を含む混合スラリーを前段のシックナーTn-1で固液分離することで得た残渣スラリーと新規の洗浄液との混合スラリーが最後段のシックナーTnに装入される点も理由の一つとして挙げられる。
【0042】
一方、最後段のシックナーTnの沈降分離槽21からオーバーフローする上澄液に比べて、その前段のシックナーTn-1の沈降分離槽21からオーバーフローする上澄液の方が有価金属の含有率が多くなっており、同様に、最後段のシックナーTnから前段側になるに従って上澄液に含まれる有価金属の含有率は順次高くなり、第1段目のシックナーT1からオーバーフローする上澄液の有価金属の含有率が最大となる。このようにして、第1段目のシックナーT1から粗硫酸ニッケル水溶液としてオーバーフローする上澄液に回収率95%以上でニッケル及びコバルトを回収するように操業することができる。
【0043】
また、第1段目のシックナーT1からオーバーフローする上澄液は、全段のシックナーT1~Tnにおける固液分離を経たものであるため、微粒子の沈降分離が最も進んでいる。そのため、第1段目のシックナーT1からオーバーフローする上澄液は、その濁度が全てのシックナーT1~Tnの上澄液の中で最も低く(すなわち透明度が最も高く)なっており、具体的には、この第1段目のシックナーT1の上澄液の濁度を200NTU以下に操業することができる。なお、この第1段目のシックナーT1からオーバーフローする粗硫酸ニッケル水溶液からなる上澄液の濁度は、この上澄液によって回収されるニッケル及びコバルトの回収率と負の相関関係にある。例えば、この上澄液の濁度を200NTU以下に操業することで、ニッケル及びコバルトの回収率を各々95%以上にすることができる。
【0044】
各段のシックナーにおいては、前述したように凝集剤が添加されており、これにより浸出スラリーや残渣スラリーに含まれる固形分の浸出残渣を凝集させてその沈降分離性を高めている。添加する凝集剤の種類には特に限定はないが、アニオン系又はノニオン系(弱アニオン性)の高分子凝集剤が好適に用いられる。凝集剤の総添加量についても特に限定はなく、固液分離対象となる浸出スラリーや残渣スラリーに含まれる固形分の濃度等の処理条件に応じて適宜設定することができる。一般的には、各シックナーにおいて固液分離対象となる浸出スラリー又は残渣スラリーの100質量部に対して例えば0.01~2質量部の割合で凝集剤が含まれるように添加することが好ましい。なお、後述するように、特に最後段のシックナーにおいて凝集剤の添加量を調整することが重要である。
【0045】
3.本発明に係る固液分離方法の実施形態
本発明に係る固液分離方法の実施形態は、前述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬法のように、鉱石調合工程S1で調製した原料のニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに高圧硫酸浸出工程S2で硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施し、得られた浸出スラリーに対して予備中和工程S3で中和剤を添加してpH調整を行なった後、固液分離工程S4で多段シックナーを用いて洗浄及び沈降分離を繰り返して固液分離する方法において、上記の鉱石調合工程S1で調製したSi品位の異なる複数種類の鉱石スラリーの各々に対して、固液分離工程S4で用いた多段シックナーのうち最後段のシックナーTnの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が極大値になる凝集剤の添加比率を予め求めてデータベース化しておき、実操業の鉱石調合工程S1で調製した鉱石スラリーのSi品位に対応する凝集剤の添加比率を該データベースに基づいて決定し、この決定した添加比率で最後段のシックナーに凝集剤を添加するものであり、これにより該最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を高めることができる。
【0046】
なお、上記の最後段のシックナーにおける凝集剤の添加比率は、例えば
図2に示すように、最後段の直ぐ前段のシックナーの底部から抜き出される濃縮スラリーの形態の残渣スラリーの送液ライン13にスラリー流量計31を設けると共に、最後段のシックナーのフィードウェル23に凝集剤を供給する凝集剤供給ライン26に凝集剤流量計32を設け、後者の凝集剤流量計32で測定した凝集剤の供給流量F
2を前者のスラリー流量計31で測定した浸出スラリーの送液流量F
1で除して100を掛けること(すなわちF
2/F
1×100)によって求めることができる。
【0047】
本発明に係る固液分離方法の実施形態についてより詳細に説明すると、前述したように鉱石調合工程S1で調製した原料としてのニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーを高圧硫酸浸出工程S2及び予備中和工程S3で処理し、得られた浸出スラリーを固液分離工程S4において多段シックナーに導入することで、浸出残渣をシックナー底部から抜き出すと共に貴液をオーバーフローにより回収する場合は、原料として使用するニッケル酸化鉱石の種類が異なると、高圧硫酸浸出工程S2における酸消費量や酸化還元電位(ORP)が変化するのみならず、固液分離工程S4における多段シックナーでのシックニング挙動が変化する。そのため、これら変化をできるだけ抑えるべく、鉱石調合工程S1ではSi品位が既知の複数種類のニッケル酸化鉱石を調合(ブレンド)することで調合後の鉱石スラリーに含まれる固形分の組成を、Ni品位では1.0~1.5程度、Mg及びAl品位では1.5~4.5%程度、Si品位では3.0~8.0%程度、及びC品位では0.12~0.20%程度となるように調整している。
【0048】
このように、鉱石スラリーに含まれる固形分のNi品位等を調整することで高圧硫酸浸出工程S2における酸浸出処理をある程度安定化させることができるが、この酸浸出処理で生成した浸出スラリーを予備中和工程S3でpH調整した後に固液分離工程S4で多段シックナーに導入して洗浄及び沈降分離を繰り返したとき、凝集剤の添加量によって沈降分離性が変動し、特に最後段のシックナーにおいて、固液分離対象となるスラリーの導入量に対する凝集剤の添加比率によってこの最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が顕著に変動することが分かった。
【0049】
具体的には、上記の最後段のシックナーにおいて、凝集剤の添加比率をゼロから徐々に増やすに従って最後段のシックナー底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を徐々に高めることが可能になる。しかしながら、この凝集剤の添加比率がある程度高くなると、該添加比率をそれ以上増やしても残渣スラリーの固形分濃度を高めることができなくなり、逆に残渣スラリーの固形分濃度が徐々に減少する。このように、最後段のシックナーにおいて凝集剤の添加比率を徐々に増やしたときに該最後段のシックナー底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度の変化に極大値が現われる要因としては、凝集剤の添加量が増えすぎると浸出スラリーの粘度が過度に上昇するため、凝集剤が分散するのを阻害して逆に凝集が悪くなることや、沈降分離性が低下することを挙げることができる。
【0050】
また、凝集により形成した凝集体(フロック)のサイズが大きくなり過ぎてシックナーのレーキに対してより大きな負荷がかかることも極大値が現われる要因の一つと考えられる。すなわち、レーキに過度の負荷がかかると、トルクが通常よりも増大するので回転速度が低下し、シックナーの底部中央に向けて固形分をかき集める量が減少するので、該シックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が低下すると考えられる。なお、浸出スラリーの粘度が高くなってシックナー底部からの抜出し量が低下したときは、スラリーポンプ25の吸込み側に水を導入して流動性を高める場合があり、これも残渣スラリーの固形分濃度低下の原因になりうる。
【0051】
そこで、鉱石調合工程S1において調製したSi品位の異なる複数種類の鉱石スラリーの各々に対して、高圧硫酸浸出工程S2及び予備中和工程S3で処理することで得たpH調整済みの浸出スラリーを固液分離工程S4の多段シックナーに導入し、最後段のシックナー以外の各シックナーには例えば0.5~4体積%程度の通常の添加比率で凝集剤を添加しつつ、最後段のシックナーには凝集剤の添加比率を様々に変化させた条件で運転し、これら添加比率が異なる条件下において最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を測定する。そして、例えば横軸を凝集剤の添加比率、縦軸を最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度とするグラフに、原料に使用した鉱石スラリーのSi品位をパラメータとして上記の測定データをプロットすることで、該最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が極大値になる凝集剤の添加比率を鉱石スラリーのSi品位ごとに求めることができる。この結果を例えば関係表を作成することで予めデータベース化しておく。
【0052】
そして、上記の鉱石調合工程S1、高圧硫酸浸出工程S2、予備中和工程S3、及び固液分離工程S4を少なくとも含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬法の実操業において、上記にてデータベース化しておいた例えば関係表に基づいて原料の鉱石スラリーのSi品位に対応する凝集剤の添加比率を決定し、この添加比率で最後段のシックナーに凝集剤を添加する。これにより、最後段のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度が極大値になるので、貴液の収率を最大化することができる。
【実施例0053】
Si品位の異なる複数種類のニッケル酸化鉱石を調合した後、湿式分級を行なうことで、Si品位4.8%の鉱石ブレンドからなる鉱石スラリー試料と、Si品位6.8%の鉱石ブレンドからなる鉱石スラリー試料をそれぞれ調製し、これら2種類の鉱石スラリー試料の各々を
図1に示す湿式製錬方法のブロックフローに沿って別々に湿式処理することで、ニッケルコバルト混合硫化物を生成した。
【0054】
具体的には、各鉱石スラリー試料に対して、高圧硫酸浸出工程S2では鉱石スラリーをオートクレーブに装入すると共に硫酸及び高圧蒸気を導入してpH0.5程度、圧力4.0MPaG程度、温度240℃程度で酸浸出処理を施し、これにより生成した粗硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液及び浸出残渣を含んだ浸出スラリーを予備中和工程S3において炭酸カルシウムスラリーを添加することでpHを3.1に調整した後、このpH調整された浸出スラリーを固液分離工程S4において
図2に示すような容積2000m
3のシックナーが
図3に示すように7基直列に連結した多段シックナーに導入してCCD法により洗浄及び沈降分離を繰り返して浸出残渣を分離除去した。なお、多段シックナーに導入した浸出スラリーの固形分濃度は44.8質量%であり、これを流量249m
3/hで第1段目のシックナーに導入した。一方、多段シックナーの洗浄液には硫化工程S7から排出される貧液を採用し、これを流量225m
3/hで第7段目のシックナーに導入した。
【0055】
また、凝集剤としての非イオン性ポリアクリルアミド凝集剤を、第1段目のシックナーでは添加比率4体積%、第2段目のシックナーでは添加比率1体積%、第3~6段目のシックナーでは添加比率0.5~0.8体積%でそれぞれ添加し、第7段目のシックナーには上記と同じ凝集剤を0.3~0.8体積%の添加比率の範囲内で変化させた。そして、上記のように凝集剤の添加比率がそれぞれ異なる条件下で固液分離したときの第7段目のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーをサンプリングしてその固形分濃度を測定した。この測定データを、横軸を凝集剤の添加比率、縦軸を固形分濃度とするグラフにプロットした結果を
図4に示す。
【0056】
この
図4に示すグラフから、原料に用いる鉱石スラリーのSi品位が4.8%の時には凝集剤の添加比率を0.50~0.60体積%の範囲内に、好ましくは約0.55体積%にし、鉱石スラリーSi品位が6.8%の時には凝集剤の添加比率を0.60~0.75体積%の範囲内に、好ましくは約0.68体積%にすることで、最後段である第7段目のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を最大化できることが分かる。
【0057】
更に
図5に示すように、横軸を鉱石スラリーのSi品位、縦軸を凝集剤の添加比率とするグラフに
図4の極大値のデータをプロットし、これらを内挿及び外挿することで、任意の鉱石スラリーのSi品位に対して最後段シックナーの底部から抜き出す残渣スラリーの固形分濃度を最大化可能な凝集剤の添加比率を求めることができる。この
図5のグラフに示す実線に基づいて実操業において最後段である第7段目のシックナーに凝集剤を添加したところ、従来よりも第7段目のシックナーの底部から抜き出される残渣スラリーの固形分濃度を向上させることができ、これは言い換えると該残渣スラリーの液相分に含まれる有価金属であるニッケルやコバルトの量を減少させることになるので、ニッケル回収率やコバルト回収率を向上させることができた。