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特開2023-123008動物プランクトンの飼育設備及び動物プランクトンの飼育方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123008
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】動物プランクトンの飼育設備及び動物プランクトンの飼育方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/20 20170101AFI20230829BHJP
【FI】
A01K61/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026818
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 歩美
(72)【発明者】
【氏名】川岸 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 亮人
(72)【発明者】
【氏名】永田 恵里奈
(72)【発明者】
【氏名】江口 充
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA34
2B104AA35
2B104BA08
2B104CA01
2B104CB29
2B104EB04
(57)【要約】
【課題】ワムシ等の動物プランクトンの増殖を促進し、ユープロテスの増殖を抑制することで間接的に動物プランクトンの飼育を効率化できる、動物プランクトンの飼育設備及び飼育方法を提供することを課題とする。
【解決手段】動物プランクトンの培養水21を収容する培養水槽10と生分解性樹脂22を有する動物プランクトンの飼育設備1を用いて、培養水槽10内に生分解性樹脂22と共に動物プランクトンを含む培養水21を収容した状態で動物プランクトンを飼育する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物プランクトンの培養水を収容する培養水槽と生分解性樹脂を有する、動物プランクトンの飼育設備。
【請求項2】
ワムシを飼育する飼育設備である、請求項1に記載の飼育設備。
【請求項3】
前記生分解性樹脂がポリブチレンサクシネートアジペート共重合体である、請求項1又は請求項2に記載の飼育設備。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の飼育設備を用い、前記培養水槽内に前記生分解性樹脂と共に動物プランクトンを含む培養水を収容した状態で動物プランクトンを飼育する、動物プランクトンの飼育方法。
【請求項5】
前記培養水1Lあたりの前記生分解性樹脂の重量が、0.5~300g/Lである、請求項4に記載の動物プランクトンの飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂を用いた動物プランクトンの飼育設備及び動物プランクトンの飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栽培漁業や養殖等で行われる魚類の種苗生産において、仔魚の餌となる動物プランクトン、特にワムシは初期生物飼料として不可欠である。初期生物飼料であるワムシ培養の可否が魚類種苗生産の鍵を握っており、その安定的な培養が欠かせない。ワムシを効率的に培養するためには、水槽内でワムシを高密度で維持する高密度培養が望ましく、高密度培養が可能な培養装置や方法が提案されている。
【0003】
特許文献1では、ワムシ等の動物プランクトンの高密度培養あるいは連続培養を良好に行うことが可能な培養装置が開示されている。培養槽の内壁に堆積したフロックと、フロックから発生する硫化水素等がワムシの培養を阻害しているため、フロックを効率的に除去する設備が提案されている。
【0004】
特許文献2では、ワムシ類の高密度培養を阻害する要因は、高密度培養に伴うワムシ類とその餌料等による酸素消費による酸素欠乏、及びワムシ類から生産される非解離アンモニアの増加にあるとして、培養液中の溶存酸素濃度やpHを調整して非解離アンモニア濃度を抑制する方法が記載されている。また、特許文献2では、5000~10000個体(N)/mL以上の高密度連続大量培養が可能となることが記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの特許文献に記載の装置や方法を用いても、様々な要因によりワムシの安定的な培養は難しい。
例えば、ワムシ給餌を行う場合、養殖魚の日齢20日前後までの期間に魚の斃死が起きてしまうことがある。その原因の一つとして、ワムシの培養水からの病原菌の混入が考えられている。また、ワムシの培養では、餌のクロレラを捕食する競合生物であるユープロテス(繊毛虫の一種)等の他の生物の大量発生や水質の悪化などにより、ワムシの培養不良が起きることがある。大きな個体のユープロテスは、ワムシの数を計測する際の邪魔になり、正しい飼育管理ができなくなるという問題もある。そのため、ユープロテスが増加した場合には新たな水槽の立ち上げを実施することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-350531号公報
【特許文献2】特開平7-079659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ワムシ等の動物プランクトンの増殖を促進し、ユープロテスの増殖を抑制することで間接的に動物プランクトンの飼育を効率化できる、動物プランクトンの飼育設備及び飼育方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、動物プランクトンの飼育において生分解性樹脂を含む培養水を収容した培養水槽を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]の態様を要旨とする。
[1]動物プランクトンの培養水を収容する培養水槽と生分解性樹脂を有する、動物プランクトンの飼育設備。
[2]ワムシを飼育する飼育設備である、[1]に記載の飼育設備。
[3]前記生分解性樹脂がポリブチレンサクシネートアジペート共重合体である、[1]又は[2]に記載の飼育設備。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の飼育設備を用い、前記培養水槽内に前記生分解性樹脂と共に動物プランクトンを含む培養水を収容した状態で動物プランクトンを飼育する、動物プランクトンの飼育方法。
[5]前記培養水1Lあたりの前記生分解性樹脂の重量が、0.5~300g/Lである、[4]に記載の動物プランクトンの飼育方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワムシ等の動物プランクトンの増殖を促進し、ユープロテスの増殖を抑制することで間接的に動物プランクトンの飼育を効率化できる、動物プランクトンの飼育設備及び飼育方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の一例の動物プランクトンの飼育設備を示した模式図である。
図2】実施形態の他の例の動物プランクトンの飼育設備を示した模式図である。
図3】実施形態の他の例の動物プランクトンの飼育設備を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<動物プランクトンの飼育設備>
本発明の動物プランクトンの飼育設備は、動物プランクトンを飼育するための設備であって、特にワムシの飼育に有用である。
以下、本発明の動物プランクトン飼育設備について、一例を示し、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の動物プランクトンの飼育設備1(以下、単に「飼育設備1」とも記載する。)は、培養水槽10と、散気管11と、ブロワ12と、抜液管13と、抜液バルブ14と、動物プランクトンの餌タンク15(以下、単に「餌タンク15」とも記載する。)と、動物プランクトンの餌供給ポンプ16(以下、単に「餌供給ポンプ16」とも記載する。)と、を備えている。
【0013】
飼育設備1においては、培養水槽10内に散気管11が設置されており、培養水槽10の外部に設置されたブロワ12と散気管11が配管で接続されている。また、培養水槽10に抜液管13が接続され、抜液管13に抜液バルブ14が設けられている。さらに、餌供給ポンプ16が設けられた配管によって培養水槽10と餌タンク15が接続されている。
【0014】
培養水槽10は、動物プランクトンの培養水21を収容するものである。培養水槽10としては、培養水21を収容できるものであれば特に限定されない。
培養水槽10の形状は、特に限定されず、例えば、有底四角筒状等の有底多角筒状、有底円錐台筒状、有底円筒状、お椀形状、ウェルプレート状を例示できる。培養水槽10の上部は、開放されていてもよく、閉塞されていてもよい。
培養水槽10の寸法は、特に限定されず、適宜設計することができる。
【0015】
培養水槽10の材質としては、動物プランクトンの培養に適したものであれば特に限定されず、例えばプラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリスチレン等)、金属(ステンレス、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタン、金、銀、白金等)又はその酸化物、ガラスを例示できる。培養水槽10の材質としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明の動物プランクトンの飼育設備1は、動物プランクトンの培養水21を収容する培養水槽10と生分解性樹脂22を有する。
培養水槽10内には生分解性樹脂22が収容されていることが好ましい。これにより、培養時の培養水21には動物プランクトンと共に生分解性樹脂22が含まれるため、それによって動物プランクトンの増殖が促進される。また、ユープロテスの増殖が抑制されるため、間接的に動物プランクトンの飼育を効率化することができる。なお、生分解性樹脂22は、図3の様に培養水槽10の外に生分解性樹脂充填槽100を設けて生分解性樹脂充填槽100内に生分解性樹脂22を収容し、培養水槽10と生分解性樹脂充填槽100の間で培養水21を循環させてもよい。
【0017】
生分解性樹脂22としては、特に限定されず、公知の生分解性樹脂を使用できる。例えば、PLA(ポリ乳酸)系、PBS(ポリブチレンサクシネート)系、PCL(ポリカプロラクトン)系、PHB(ポリヒドロキシ酪酸)系等の樹脂を例示できる。これらの中でも、ユープロテスの増殖を抑制する効果が高い点から、PBS系の樹脂が好ましく、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート共重合体)がより好ましい。
【0018】
生分解性樹脂22の形状は、特に限定されず、例えば、ロッド状、ペレット状、バルク状(矩形状、球状、立体網目状等)、フレーク状、粒子状、繊維状を例示できる。これらの中でも、培養水槽10への充填のし易さの点から、生分解性樹脂22の形状は、ロッド状、立体網目状、フレーク状、粒子状、繊維状が好ましい。
【0019】
生分解性樹脂22の形状が粒子状の場合、ユープロテスの増殖を抑制する効果が良好である点から、生分解性樹脂22の短径及び長径はそれぞれ0.5mm以上7mm以下が好ましい。また、生分解性樹脂22の形状が繊維状の場合、同様の理由から、繊維状の生分解性樹脂22の繊維断面の直径は1μm以上3000μm以下が好ましい。
生分解性樹脂22としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
図1に示す例では、ブロワ12と接続された散気管11が培養水槽10内に設置されているため、培養時に培養水21に酸素を供給し、培養水21中の溶存酸素濃度を培養に適した濃度に維持することができる。このように、本発明では、ブロワと接続された散気管を培養水槽内に設置することが好ましい。
【0021】
散気管11の形状は、培養水21中の溶存酸素濃度を培養に適した濃度に維持できるものであればよく、例えば公知の散気管を制限なく使用することができる。散気管11の具体例としては、例えば、ノズル形状の単管、先端に金網が設置された単管、表面に複数の穴を有する単管、膜分離フィルターを先端に有する散気管を例示できる。これらの中でも、培養水中に小さな気泡を効率的に拡散できる点、及び、動物プランクトンがフロックを形成して硫化水素を発生することを抑制できる点から、表面に複数の穴を有する単管、膜分離フィルターを先端に有する散気管が好ましい。
【0022】
培養水槽10内の散気管11の設置位置は、培養水21中に酸素を均一に供給できる位置であれば特に限定されない。酸素を培養水全体に効率的に供給できる点では、散気管11の設置位置は、培養水槽10の底面付近が好ましい。
【0023】
散気管11から培養水21に供給する気体としては、例えば、酸素、酸素と窒素の混合気体、空気を例示できる。これらの中でも、動物プランクトンの消費酸素を簡便に供給できる点から、空気が好ましい。
【0024】
ブロワ12としては、動物プランクトンが消費する酸素を培養水21に充分に供給でき、且つ培養水21中の溶存酸素濃度を培養に適した濃度に維持できるものであればよく、例えば公知のブロアを特に制限なく使用することができる。ブロワ12の具体例としては、多翼ファン、ターボファン等の通常の水処理装置における散気システムで使用されるブロワを例示できる。
【0025】
図1に示す例では、抜液バルブ14が設けられた抜液管13が培養水槽10に接続されているため、培養水槽10内の培養水量を調整することができ、また培養水を効率的に抜液することができる。このように、本発明では、抜液バルブが設けられた抜液管が培養水槽に接続されていることが好ましい。
【0026】
抜液管13の設置位置は、培養水槽10から培養水21を抜液できる位置であれば特に限定されない。培養水を効率的に抜液できる点では、抜液管13の設置位置は、培養水槽10の底面部、側胴部が好ましい。
【0027】
図1に示す例では、餌供給ポンプ16が設けられた配管によって培養水槽10が餌タンク15と接続されているため、餌の供給量を調整しながら培養水槽10に供給することができ、培養水21の水質悪化を低減できる。このように、本発明では、餌供給ポンプが設けられた配管によって培養水槽が餌タンクと接続されていることが好ましい。
【0028】
<動物プランクトンの飼育方法>
本発明の動物プランクトンの飼育方法は、本発明の動物プランクトンの飼育設備を用いて動物プランクトンを飼育する方法である。以下、本発明の動物プランクトンの飼育方法の一例として、前記した飼育設備1を用いた方法について説明する。
【0029】
飼育設備1を用いた動物プランクトンの飼育方法では、培養水槽10内に動物プランクトンの培養水21を供給し、動物プランクトンとともに生分解性樹脂22を含む培養水21を収容した状態で培養を実施する。
培養水槽10への培養水21、生分解性樹脂22、動物プランクトンの供給順序は、特に限定されない。例えば、生分解性樹脂22が予め収容された培養水槽10に動物プランクトンを含む培養水21を供給してもよく、培養水槽10に動物プランクトンを含む培養水21を供給した後に生分解性樹脂22を添加してもよい。培養水槽10に培養水21を供給し、生分解性樹脂22を添加した後に動物プランクトンを加えてもよい。
動物プランクトンの飼育は、バッチ式で行ってもよく、培養水槽10に培養水21を連続的に添加しつつ連続的に抜液する連続添加方式であってもよい。
【0030】
培養水21としては、動物プランクトンを培養できるものであればよく、例えば、滅菌水、滅菌海水、滅菌河川水、塩分を調整した滅菌水、滅菌していない水、滅菌していない海水、滅菌していない河川水を例示できる。培養水21としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
動物プランクトンの増殖を促進することを目的に、ナンノクロロプシスや濃縮淡水クロレラ等を培養水21に添加してもよい。
【0031】
本発明で培養する動物プランクトンとしては、特に限定されず、例えば、ワムシ(Brachionus plicatilis sp.complex)、アルテミア(Artemia sp.)を例示できる。これらの中でも、魚類の種苗生産において仔魚の良好な餌となり、仔魚の発育を短期間で行える点から、ワムシが好ましい。
【0032】
生分解性樹脂による動物プランクトンの増殖促進効果、及びユープロテスの増殖抑制効果が良好となる点では、培養時における培養水槽10内の培養水1Lあたりの生分解性樹脂の重量は、0.5g/L以上が好ましく、5.0g/L以上がより好ましい。また、培養水槽10内の動物プランクトンの飼育スペースを充分に確保しやすい点では、前記生分解性樹脂の重量は、300g/L以下が好ましく、100g/L以下がより好ましい。前記生分解性樹脂の重量の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば0.5~300g/Lが好ましく、5.0~100g/Lがより好ましい。
【0033】
飼育設備1を用いる方法では、餌供給ポンプ16によって供給量を調整しながら、餌タンク15から動物プランクトンの餌を培養水槽10内の培養水21に供給することができる。動物プランクトンの餌は断続的に供給してもよく、連続的に供給してもよい。
【0034】
動物プランクトンの培養環境(培養条件)、例えば培養温度、培養水のpH、溶存酸素濃度、培養時間等は、培養する動物プランクトンの種類に応じて適宜設定することができる。
【0035】
以上説明したように、本発明では、生分解性樹脂と共に動物プランクトンを含む培養水を培養水槽に収容した状態で培養を行う。生分解性樹脂により、ワムシ等の動物プランクトンの増殖を促進することができ、またユープロテスの増殖を抑制することで間接的に動物プランクトンの飼育を効率化することができる。
【0036】
なお、本発明の飼育設備及び飼育方法は、飼育設備1、及び飼育設備1を用いた飼育方法には限定されない。
例えば、本発明の動物プランクトンの飼育設備は、図2に例示した動物プランクトンの飼育設備2(以下、単に「飼育設備2」とも記載する。)であってもよい。図2における図1と同じ部分は同符号を付して説明を省略する。飼育設備2は、給水ポンプ18が設けられた配管によって培養水槽10に給水タンク17が接続され、抜液管13の培養水槽10と反対側に収穫水槽19が接続されている以外は、飼育設備1と同様の構成である。
【0037】
飼育設備2では、培養水槽10に給水タンク17が接続されているため、培養水槽10内の培養水量を容易に調整することができる。また、収穫水槽19が設置されていることで、培養後の動物プランクトンを回収することができる。
【0038】
本発明の飼育設備は、培養水槽内に位置する撹拌翼を有する撹拌手段を備えていてもよい。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施の形態は、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。以下の記載において、特に断りがない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0040】
<試験材料>
実施例及び比較例で使用した試験材料を以下に示す。
・滅菌海水
鹿児島県奄美大島の自然環境から海水を採取し、塩分を3%に調整してオートクレーブ滅菌し、さらに0.2μmフィルターでろ過して滅菌海水を得た。
【0041】
・ワムシ
近畿大学水産養殖技術生産センターすさみ事業場で培養したワムシを実体顕微鏡で観察しながらピックアップし、滅菌海水で11回洗浄(1011倍希釈)して培養水由来の細菌を除去した。
【0042】
・ユープロテス
近畿大学水産養殖技術生産センターすさみ事業場でワムシ培養水に共存しているユープロテスを倒立顕微鏡(IX-70;オリンパス株式会社製)で観察しながらピックアップした。
【0043】
・クロレラ
ワムシとユープロテスの培養を維持するため、栄養源としてクロレラV12(クロレラ工業株式会社製)を使用した。
【0044】
・PBSA
生分解性樹脂として、立体網目状のPBSA(三菱ケミカル株式会社製)を70%エタノール水溶液で15分間以上殺菌し、滅菌海水で5回洗浄後、十分に乾燥させたものを使用した。
【0045】
<ワムシの数及びユープロテスの数の計測>
ワムシの数及びユープロテスの数は、ルゴール溶液(I:30g/L、KI:50g/L、NaCl:7g/L)で固定し、倒立顕微鏡を用いて計数した。
【0046】
<実施例1>
培養容器として、12ウェルマイクロプレートを用いた。各ウェルにワムシの培養水3mLと滅菌海水2mLを添加して混合し、さらにPBSAを25mg(PBSA濃度:5g/L)添加した(n=3)。各ウェルの培養前のワムシの平均数は22個体/ウェル(4.4個体/mL)であった。
各ウェルに対してクロレラV12を毎日1μL添加し、温度26℃、回転数35rpmの条件で10日間振とう培養を行った。
【0047】
<実施例2>
PBSAの添加量を250mg(PBSA濃度:50g/L)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でワムシの培養を行った。
【0048】
<比較例1>
PBSAの添加量を0mg(PBSA濃度:0g/L)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でワムシの培養を行った。
【0049】
実施例1、2及び比較例1における培養後の培養水1mLあたりのワムシの個体数を計測し、培養後のワムシの増加率を算出した結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、PBSAを添加していない比較例1では培養前後のワムシ数がほぼ同数で増加が見られなかったのに対し、生分解性樹脂であるPBSAを添加した実施例1、2ではワムシ数が増加した。この結果から、生分解性樹脂であるPBSAはワムシの増殖を促進させるといえる。
【0052】
<実施例3>
培養容器として、12ウェルマイクロプレートを用いた。各ウェルに滅菌海水を5mL添加し、それぞれにワムシを5個体(1個体/mL)入れた。各ウェルに入れる前のワムシは滅菌海水で3回洗浄し、培養水の細菌数を減らした。次いで、各ウェルにPBSAを2.5mg(PBSA濃度:0.5g/L)添加した(n=3)。各ウェルに対してクロレラV12を毎日1μL添加し、温度26℃、回転数35rpmの条件で10日間振とう培養を行った。
【0053】
<実施例4~7>
PBSAの添加量を12.5mg(PBSA濃度:2.5g/L)、25mg(PBSA濃度:5g/L)、125mg(PBSA濃度:25g/L)、250mg(PBSA濃度:50g/L)に変更した以外は、実施例3と同様の方法でワムシの培養を行った。
【0054】
<比較例2>
PBSAの添加量を0mg(PBSA濃度:0g/L)に変更した以外は、実施例3と同様の方法でワムシの培養を行った。
【0055】
実施例3~7及び比較例2における培養後の培養水1mLあたりのワムシの個体数を計測し、培養後のワムシの増加率を算出した結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示すように、生分解性樹脂であるPBSAを添加した実施例3~7は、PBSAを添加していない比較例1に比べてワムシの増加率が高かった。また、実施例3~7を比較すると、PBSAの添加量が多いほどワムシ数の増加率が高かった。この結果から、生分解性樹脂による動物プランクトンの増殖の促進効果には量依存性があることが示唆された。
【0058】
<実施例8>
培養容器として、12ウェルマイクロプレートを用いた。各ウェルにユープロテスの培養水2mLと滅菌海水3mLを添加して混合し、PBSAを250mg(PBSA濃度:50g/L)添加した(n=6)。各ウェルの培養前のユープロテスの数の平均値は1178cells/mLであった。
各ウェルに対してクロレラV12を2日毎に1μL添加し、温度26℃、回転数35rpmの条件で10日間振とう培養を行った。
【0059】
<比較例3>
PBSAの添加量を0mg(PBSA濃度:0g/L)に変更した以外は、実施例8と同様の方法で培養を行った。
【0060】
実施例8及び比較例3における培養後の培養水1mLあたりのユープロテスの数を計測し、平均値を算出した結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示すように、PBSAを添加していない比較例3では、ユープロテスの数の平均値が培養前の1178cells/mLから3127cells/mLまで増加した。これに対し、生分解性樹脂であるPBSAを添加した実施例8では、培養後のユープロテスの数の平均値がわずか0.8cells/mLであった。この結果から、生分解性樹脂であるPBSAを添加するとユープロテスの増殖を大幅に抑制できることが示唆された。
【0063】
<実施例9>
培養容器として、24ウェルマイクロプレートを用いた。各ウェルにユープロテス培養水1mLと滅菌海水1mLを添加して混合し、PBSAを10mg(PBSA濃度:5g/L)添加した(n=4)。各ウェルの培養前のユープロテスの数の平均値は54cells/mLであった。
培養開始時に、滅菌海水で10倍希釈したクロレラV12を各ウェルに4μL添加し、26℃で4日間静置培養した。
【0064】
<実施例10~12>
PBSAの添加量を20mg(PBSA濃度:10g/L)、50mg(PBSA濃度:25g/L)、100mg(PBSA濃度:50g/L)に変更した以外は、実施例9と同様の方法で静置培養を行った。
【0065】
<比較例4>
PBSAの添加量を0mg(PBSA濃度:0g/L)に変更した以外は、実施例9と同様の方法で静置培養を行った。
【0066】
実施例9~12及び比較例4における培養後の培養水1mLあたりのユープロテスの数を計測し、平均値を算出した結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に示すように、PBSAを添加していない比較例4では、ユープロテスの数の平均値が培養前の54cells/mLから1.7倍の89.7cells/mLまで増加した。これに対し、生分解性樹脂であるPBSAを添加した実施例9~12では、PBSAの添加量が多いほどユープロテスの増殖が抑制され、PBSAを25g/L以上添加すると培養後のユープロテスの数の平均値は1.0cell/mL以下となった。
【符号の説明】
【0069】
1…動物プランクトンの飼育設備、10…培養水槽、11…散気管、12…ブロワ、13…抜液管、14…抜液バルブ、15…動物プランクトンの餌タンク、16…動物プランクトンの餌供給ポンプ、17…給水タンク、18…給水ポンプ、19…収穫水槽、21…培養水、22…生分解性樹脂、100…生分解性樹脂充填槽。
図1
図2
図3