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特開2023-123055熱伝導性シリコーンゴム組成物およびその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123055
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーンゴム組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20230829BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20230829BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230829BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026902
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晶
(72)【発明者】
【氏名】北川 太一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP042
4J002CP141
4J002DE076
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ016
4J002EC037
4J002EE048
4J002EX039
4J002EX069
4J002EZ008
4J002FD016
4J002FD142
4J002FD149
4J002FD158
4J002FD207
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】フィラーが高充填されていても、紫外線を用いた温和な条件下での硬化が可能で、十分な硬度を有する硬化物を与える熱伝導性シリコーンゴム組成物を提供すること。
【解決手段】(A)珪素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
(B)珪素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンシロキサン:珪素原子に結合した水素原子のモル数が(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.6~1.5倍となる量
(C)波長200~500nmの光で活性化される白金族金属触媒:(A),(B)成分の合計質量に対して、(C)成分中の白金族金属原子が0.01~1,000質量ppmとなる量、
(D)平均粒径が100μm以下である熱伝導性無機フィラー:組成物全体に対して75~95質量%
を含む熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)珪素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
(B)珪素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンシロキサン:珪素原子に結合した水素原子のモル数が(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.6~1.5倍となる量
(C)波長200~500nmの光で活性化される白金族金属触媒:上記(A)成分と(B)成分の合計質量に対して、(C)成分中の白金族金属原子が0.01~1,000質量ppmとなる量、および
(D)平均粒径が100μm以下である熱伝導性無機フィラー:組成物全体に対して75~95質量%
を含む熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記(C)成分が、(η5-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物またはビス(β-ジケトナト)白金化合物を含む請求項1記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
前記(D)成分が、アルミナ粉末である請求項1または2記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
さらに、(E)反応制御剤を含む請求項1~3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータ硬度が、1~90である請求項5記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーンゴム組成物およびその硬化物に関し、さらに詳述すると、熱伝導性無機フィラーを多量に含有していても、紫外線照射後に室温で硬化し、硬化後の物性も良好である紫外線照射型の熱伝導性シリコーンゴム組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ端末や電化製品、車をはじめとする様々な製品に内蔵されている電子機器は、その高性能化に伴い、発熱量が増大し、この熱による故障、誤動作が発生している。こうした故障や誤動作を防ぐ目的で冷却機構が搭載されているが、この際、発熱部と冷却機構との間に熱伝導性材料を設置し、これを介して発熱部から冷却機構に熱を伝えることで、冷却効率を向上させている。
従来、熱伝導性材料として、シリコーン組成物が用いられているが、このようなシリコーン組成物は、一般的に、熱伝導性フィラーを高充填することで熱伝導性の向上が図られている。
【0003】
一方、シリコーン組成物を硬化させて用いる場合、その手法として、加熱硬化が広く用いられているが、近年の地球温暖化に対する意識の高まりや工程効率化のため、硬化を室温で行うことを目的とした技術開発がなされている。特に、光照射を用いた硬化は、一般的に、材料に含まれる光活性型の触媒が紫外線の照射を受けることで架橋反応に対して高い活性化能力を発揮し、硬化を促すことから、加熱硬化を代替する手法として開発が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、紫外線の照射後に硬化が進行するシリコーンゴム組成物が提案されている。しかし、フィラーを多量に含有する熱伝導性シリコーン組成物では、フィラーによって光が遮断されてしまうため、光照射を硬化の起点に利用することは困難であった。
特許文献2には、フィラーを含有した光硬化型シリコーン組成物が提案されているが、熱伝導率に関する記載はなく、かつフィラーの含有量が50質量%程度であり、この含有量では、一般的に、十分な熱伝導率を得ることは難しい。
また、特許文献3には、光活性型触媒を含む熱伝導性シリコーングリース組成物が提案されているが、この組成物は、光照射後に増粘することを特徴としており、十分な硬度を有する硬化物は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-218495号公報
【特許文献2】特開2010-242087号公報
【特許文献3】特開2016-089127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、フィラーが高充填されていても、紫外線を用いた温和な条件下での硬化が可能で、十分な硬度を有する硬化物を与える熱伝導性シリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記(A)~(D)成分を含む組成物が、紫外光の照射後速やかに硬化し、十分な熱伝導率と硬度を有する硬化物を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. (A)珪素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
(B)珪素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンシロキサン:珪素原子に結合した水素原子のモル数が(A)成分由来のアルケニル基のモル数の0.6~1.5倍となる量
(C)波長200~500nmの光で活性化される白金族金属触媒:上記(A)成分と(B)成分の合計質量に対して、(C)成分中の白金族金属原子が0.01~1,000質量ppmとなる量、および
(D)平均粒径が100μm以下である熱伝導性無機フィラー:組成物全体に対して75~95質量%
を含む熱伝導性シリコーンゴム組成物、
2. 前記(C)成分が、(η5-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物またはビス(β-ジケトナト)白金化合物を含む1記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物、
3. 前記(D)成分が、アルミナ粉末である1または2記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物、
4. さらに、(E)反応制御剤を含む1~3のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物、
5. 1~4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゴム組成物を硬化してなる硬化物、
6. JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータ硬度が、1~90である5記載の硬化物
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシリコーン組成物は、従来の加熱工程を経ずに、紫外光を用いて硬化物を与えることができる。このような特性を有する本発明の組成物は、熱硬化工程にかかる諸経費の節約や工程短縮化に寄与するだけでなく、熱に弱い材料やデバイスの実装後でも適応可能であり、電子機器など複雑な構造物への熱伝導性シリコーン硬化物の利用にきわめて有効である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る熱伝導性シリコーンゴム組成物は、下記(A)~(D)成分を含有し、室温(23℃、以下同じ。)にて波長200~500nmの光照射後に硬化が進行するものである。
(A)珪素原子に結合したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン
(B)珪素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンシロキサン
(C)波長200~500nmの光で活性化される白金族金属触媒
(D)平均粒径が100μm以下である熱伝導性無機フィラー
【0011】
(1)(A)成分
(A)成分は、珪素原子と結合するアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分の25℃における粘度は、好ましくは0.01~100Pa・s、より好ましくは0.01~10Pa・sであり、さらに好ましくは0.05~1Pa・sである。25℃における粘度が0.01Pa・s未満であると、組成物の保存安定性が悪くなる場合があり、100Pa・sを超えると、流動性を確保できなくなる場合がある。なお、上記粘度は、B型回転粘度計(回転数6~60rpm)による測定値である。
【0012】
このようなオルガノポリシロキサンは、上記粘度とアルケニル基含有量を満たすものであれば、特に限定されるものではなく、公知のオルガノポリシロキサンを使用することができ、その構造も直鎖状でも分岐状でもよく、また異なる粘度を有する2種以上のオルガノポリシロキサンの混合物でもよい。
【0013】
珪素原子と結合するアルケニル基の炭素数は、特に限定されるものではないが、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。アルケニル基の具体例としては、ビニル、アリル、1-ブテニル、1-ヘキセニル基等が挙げられる。これら中でも、合成のし易さやコストの面からビニル基が好ましい。
なお、アルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端(片末端または両末端)、途中のいずれに存在してもよいが、柔軟性の面では、末端のみに存在することが好ましく、両末端にのみ存在することがより好ましい。
【0014】
珪素原子と結合するアルケニル基以外の基としては、特に限定されるものではないが、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の一価炭化水素基が挙げられる。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ヘキシル、n-ドデシル基等のアルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部が、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、その具体例としては、フルオロメチル、ブロモエチル、クロロメチル、3-クロロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、合成のし易さやコストの面から、90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0015】
したがって、(A)成分は、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンが好ましく、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンがより好ましい。なお、(A)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
(2)(B)成分
(B)成分は、珪素原子に結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンシロキサンである。(B)成分のオルガノハイドロジェンシロキサンの分子構造は、直鎖状、分岐状、環状または網状のいずれでもよい。また、その動粘度も特に限定されるものではないが、1~10,000mm2/sが好ましく、1~1,000mm2/sがより好ましい。なお、動粘度は、キャノン・フェンスケ型粘度計による25℃での測定値である。
【0017】
(B)成分の珪素原子に結合する水素原子以外の基としては、アルケニル基を除く、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の一価炭化水素基が挙げられ、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ヘキシル、n-ドデシル基等のアルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;2-フェニルエチル、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部が、塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、その具体例としては、フロロメチル、ブロモエチル、クロロメチル、3-クロロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基などが挙げられる。
これらの中でも、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、合成のし易さ、コストの面から、上記有機基の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0018】
本発明の(B)成分は、下記式(1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0019】
【化1】

(式中、括弧が付されたシロキサン単位の配列は、任意である。)
【0020】
式(1)において、R1は、互いに独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、その構造としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
アルキル基の具体例としては、上述した一価炭化水素基についてのアルキル基で例示した基のうち、炭素数1~6の基と同様の基が挙げられ、同様の理由から、全R1の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0021】
mは、2以上の整数、nは、正の整数、m+nは、5~100の整数、好ましくは10~50の整数を表す。m+nの値がこのような範囲であると、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが取扱いに適した粘度となり、また、電子部品に用いる場合に、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの揮発による接点不良等を抑制することができる。
m/(m+n)は、0.01~0.5が好ましく、0.05~0.4がより好ましい。このような範囲であれば、架橋が十分に進行し、初期硬化後の未反応Si-H基による余剰の架橋反応が経時で進行することを抑制できる。
【0022】
また、本発明の(B)成分は、下記式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
式(2)において、R2は、互いに独立して、炭素数1~6のアルキル基を表し、その具体例としては、R1で述べた基と同様の基が挙げられるが、この場合も、同様の理由から90%以上がメチル基であることが好ましい。
pは、5~100の整数、好ましくは10~50の整数である。このような範囲であれば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが取扱いに適した粘度となり、また、電子部品に用いる場合に、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの揮発による接点不良等を抑制することができる。
【0025】
(B)成分のオルガノハイドロジェンシロキサンの具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、(B)成分は、1種単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
【化3】
(式中、括弧が付されたシロキサン単位の配列は、任意である。)
【0027】
また、(B)成分としては、下記一般式(3)で示される環状のオルガノハイドロジェンシロキサンを使用してもよい。この化合物は、(A)成分と架橋する役割と接着性を付与する役割を持つ。
【0028】
【化4】
【0029】
式(3)において、R3は、互いに独立して、炭素数1~6のアルキル基を表す。
4は、互いに独立して、水素原子、それぞれ炭素原子もしくは炭素原子と酸素原子を介して珪素原子に結合しているエポキシ基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはトリアルコキシシリル基、エーテル結合含有一価有機基、またはアリール基含有一価有機基を表すが、R4で示される基のうち2個以上は水素原子である。qは、2~10の整数である。
【0030】
3の炭素数1~6のアルキル基としては、R1で述べた基と同様の基が挙げられるが、この場合も、同様の理由から、90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0031】
上記のとおり、R4で示される基のうち2個以上、好ましくは3個以上が水素原子であるが、2個以上が水素原子でない場合は、(A)成分等のアルケニル基と反応して架橋構造を形成することができなくなる。
また、R4における水素原子以外の基の具体例としては、3-グリシドキシプロピル、3-グリシドキシプロピルメチル、2-グリシドキシエチル、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル等のエポキシ基含有一価有機基;メタクリロキシプロピル、メタクリロキシプロピルメチル、メタクリロキシエチル、アクリロキシプロピル、アクリロキシプロピルメチル、アクリロキシエチル基等の(メタ)アクリロイル基含有一価有機基;メトキシシリルプロピル、メトキシシリルプロピルメチル、メトキシシリルエチル、トリエトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピルメチル、トリエトキシシリルエチル基等のトリアルコキシシリル基含有一価有機基;オキシアルキル、アルキルオキシアルキル、パーフルオロオキシアルキル、パーフルオロアルキルオキシアルキル等のエーテル結合含有一価有機基;フェニル、ビフェニル、ビスフェノールA残基等のアリール基含有一価有機基などが挙げられる。
qは、2~10の整数であるが、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~4の整数であり、より一層好ましくは2である。
【0032】
式(3)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの中でも、特に、下記式(4)のものが好ましい。
【0033】
【化5】
(式(4)中、R3およびR4は、上記と同じ意味を表す。)
【0034】
式(4)で示されるオルガノハイドロジェンシロキサンの具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
【化6】
【0036】
(B)成分の配合量は、(A)成分のアルケニル基の合計個数に対する(B)成分のSi-H基の合計個数の比、すなわち、[(B)成分のSi-H基の合計個数]/[(A)成分のアルケニル基の合計個数]が0.6~1.5となる量であり、0.7~1.4となる量が好ましい。このアルケニル基の合計個数に対するSi-H基の合計個数の比が0.6未満であると、硬化物が十分な網状構造をとれず、硬化後の硬度が不十分となり、1.5を超えると、硬度が高くなり過ぎる。
なお、上記式(1)および/または(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンシロキサンと上記式(3)で表される環状オルガノハイドロジェンシロキサンを併用する場合、直鎖状オルガノハイドロジェンシロキサン/環状オルガノハイドロジェンシロキサンの割合は、質量比で、1/1~20/1が好ましく、1.2/1~15/1がより好ましく、1.5/1~10/1がさらに好ましい。
【0037】
(3)(C)成分
(C)成分は、波長200~500nmの光で活性化される白金族金属触媒、すなわち、遮光下で不活性であり、かつ、波長200~500nmの光を照射することにより、室温で活性な白金族金属触媒に変化して、(A)成分中のアルケニル基と、(B)成分中の珪素原子結合水素原子とのヒドロシリル化反応を促進するための触媒である。
【0038】
このような(C)成分の具体例としては、(η5-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物、その誘導体等が挙げられる。中でも、シクロペンタジエニルトリメチル白金錯体、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金錯体、およびそれらのシクロペンタジエニル基が修飾された誘導体が好ましい。
また、ビス(β-ジケトナト)白金化合物も(C)成分として好適に用いることができる。中でも、ビス(アセチルアセトナト)白金化合物およびそのアセチルアセトナト基が修飾された誘導体が好ましい。
これらは、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分と(B)成分の質量の合計に対して、(C)成分中の白金族金属原子が0.01~1,000質量ppmとなる量であり、0.05~800質量ppmとなる量が好ましく、0.1~500質量ppmとなる量がより好ましい。0.01質量ppm未満であると、硬化が十分に進行せず、硬化物が得られなくなり、1,000質量ppmを超えると、保存安定性に問題が生じる。
【0040】
(4)(D)成分
(D)成分は、平均粒径が100μm以下である熱伝導性無機フィラーである。熱伝導性無機フィラーは、フィラー自身が高熱伝導性であり、組成物(硬化物)の熱伝導性を向上させる成分である。
熱伝導性無機フィラーの平均粒径は、硬化物の柔軟性の観点から、100μm以下であるが、物性の安定性を考慮すると、0.1~90μmが好ましく、0.1~80μmがより好ましい。なお、本発明における平均粒径は、レーザー光回折法による体積基準の粒度分布におけるD50(メジアン径)として測定した値である。
本発明において、熱伝導性無機フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、球状、不定形状等のいずれであってもよい。
【0041】
また、熱伝導性無機フィラーの熱伝導率は、特に限定されるものではないが、組成物に熱伝導性を付与することを考慮すると、10W/m・K以上が好ましく、15W/m・K以上がより好ましい。なお、上記熱伝導率は、JIS R1611:2010に基づく値である。
【0042】
(D)成分の具体例としては、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、マグネシア等の粉末が挙げられ、これらは、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、入手がし易く、組成物の物性が良好になることから、シリカ粉末およびアルミナ粉末が好ましく、高熱伝導性を付与できることからアルミナ粉末がより好ましい。
【0043】
(D)成分の配合量は、組成物全体に対して75~95質量%であり、80~90質量%が好ましい。(D)成分の配合量が75質量%未満であると、硬化物の熱伝導性が劣り、95質量%を超えると、組成物の硬化性が低下したり、得られる硬化物が脆くなったりする場合がある。
【0044】
(5)(E)成分
本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物は、組成物の硬化反応を抑え、シェルフライフ、ポットライフを延長させる目的で、(E)反応制御剤を含んでいてもよい。反応制御剤としては、(C)成分の触媒活性を抑制できるものであればよく、公知の反応制御剤を使用することができる。
その具体例としては、1-エチニル-1-シクロヘキサノール,3-ブチン-1-オール等のアセチレンアルコール化合物、各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物などが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属への腐食性の無いアセチレンアルコール化合物が好ましい。
【0045】
(E)成分を使用する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.01~5質量部であり、より好ましくは0.05~1質量部である。このような範囲であれば、硬化性を保持しながら、十分なシェルフライフおよびポットライフが得られる。
なお、反応制御剤は、シリコーンゴム組成物への分散性を良くするために、トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール等の有機溶剤で希釈して使用してもよい。
【0046】
(6)その他の成分
本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物には、上記(A)~(E)成分以外の任意の成分として、公知の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
このような添加剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート等の各種窒素化合物;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;炭酸カルシウム等の補強性;非補強性充填材;顔料、染料等の着色剤などが挙げられる。
【0047】
また、組成物の粘度を下げ、熱伝導性フィラーを高充填するために、25℃における粘度が好ましくは0.1~50Pa・s、より好ましくは0.1~10Pa・sである両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたオルガノポリシロキサンを配合することができる。なお、上記粘度は、B型回転粘度計(回転数6~60rpm)による測定値である。
このようなオルガノポリシロキサンとしては、例えば、両末端がトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等で封鎖されたジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。このようなオルガノポリシロキサンを配合する場合、その配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは1~100質量部、より好ましくは5~50質量部である。
【0048】
(7)組成物の製造方法
本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従えばよく、例えば、(A)~(D)成分、必要に応じて(E)成分およびその他の成分を混合すればよい。また、その形態は、1液タイプでも、2液タイプでもよい。
【0049】
より具体的には、1液タイプの組成物は、例えば、ゲートミキサーに、(A)成分および(D)成分を投入し、所定温度(例えば150℃)で所定時間(例えば1時間)加熱混合した後、得られた混合物を冷却する。その後、(C)成分および(E)成分を加えて所定温度(例えば25℃)にて所定時間(例えば30分)混合する。さらに、(B)成分を加えて所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば30分)混合することで得ることができる。
【0050】
一方、2液タイプの組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分の組み合わせさえ共存させなければ、任意の組み合わせで構成することができる。例えば、ゲートミキサーに、(A)成分および(D)成分を投入し、所定温度(例えば150℃)で所定時間(例えば1時間)加熱混合した後、得られた混合物を冷却する。その後、(C)成分を加えて所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば30分)混合して得られた組成物をA材とする。次に、ゲートミキサーに、(A)成分および(D)成分を投入し、所定温度(例えば150℃)で所定時間(例えば1時間)加熱混合した後、冷却する。その後、(E)成分を加えて所定温度(例えば25℃)にて所定時間(例えば30分)混合し、さらに、(B)成分を加えて、所定温度(例えば25℃)で所定時間(例えば30分)混合することで得られる組成物をB材とする。これにより、A材とB材の2液タイプの組成物を得ることができる。
なお、本発明の組成物は、1液タイプであれば冷蔵または冷凍して長期保存することができ、2液タイプであれば、常温で長期保存することができる。
【0051】
本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物の粘度は、特に限定されるものではないが、25℃において、好ましくは1~200Pa・s、より好ましくは5~100Pa・sである。25℃での粘度が、1Pa・s未満では、熱伝導性フィラーが沈降し易くなることがあり、100Pa・sを超えると、成型性が乏しくなることがある。なお、上記粘度は、B型回転粘度計(回転数2~20rpm)にて測定される。
こうして得られるシリコーン組成物は、室温においても硬化させることができるため、樹脂基材のような熱に弱い部材に対しても適応できる。
【0052】
(8)硬化物
本発明の硬化物は、上述した本発明のシリコーン組成物を硬化させて得られる。
本発明の熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化条件は、光の照射後室温で硬化可能であることが特徴であるが、白金触媒の光活性化には、波長200~500nm、好ましくは250~350nmの光が使用される。
照射強度は、硬化速度の観点から、30~2,000mW/cm2が好ましく、照射線量は、150~20,000mJ/cm2が好ましい。照射時の温度は10~50℃が好ましく、20~40℃がより好ましい。
光照射の光源としては、UV-LEDランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプ等が使用できる。
【0053】
本発明の組成物の硬化温度および時間は、特に限定されないが、光照射後に大気雰囲気下で、好ましくは10~50℃、より好ましくは20~40℃で、好ましくは1分間~30時間、より好ましくは1時間~24時間である。
【0054】
本発明の硬化物の硬度は、JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータで測定した値が、1~90であることが好ましく、10~80がより好ましく、20~70がさらに好ましい。
本発明の硬化物の熱伝導率は、ホットディスク法による25℃における測定値が、1.0W/m・K以上が好ましく、2.0W/m・K以上がより好ましい。熱伝導率の上限は、熱伝導性フィラーに用いる材料によっても変化し、特に限定されるものではないが、通常500W/m・K程度である。
【実施例0055】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0056】
実施例および比較例において使用した各成分を以下に示す。
(A)成分
・A-1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が0.06Pa・sであるジメチルポリシロキサン
・A-2:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が0.4Pa・sであるジメチルポリシロキサン
・A-3:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における粘度が0.6Pa・sであるジメチルポリシロキサン
【0057】
(B)成分
・B-1:下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン
【化7】
【0058】
・B-2:下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン
【化8】
(式中、括弧が付されたシロキサン単位の配列は、任意である。)
・B-3:下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン
【0059】
【化9】
【0060】
・B-4:下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン
【化10】
【0061】
・B-5:下記式で示されるオルガノハイドロジェンシロキサン
【化11】
【0062】
(C)成分
・C-1:メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金錯体のジメチルポリシロキサン溶液(上記A-3と同じジメチルポリシロキサンに溶解したもの。白金濃度0.3質量%)
・C-2:ビス(アセチルアセトナト)白金錯体の酢酸ブトキシエトキシエチル溶液(白金濃度0.5質量%)
・C’-3:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液(上記A-3と同じジメチルポリシロキサンに溶解したもの。白金原子として1質量%含有)
【0063】
(D)成分
・D-1:平均粒径70μmのアルミナ粉末:熱伝導率36W/m・℃
・D-2:平均粒径40μmのアルミナ粉末:熱伝導率36W/m・℃
・D-3:平均粒径10μmのアルミナ粉末:熱伝導率36W/m・℃
・D-4:平均粒径1.0μmのアルミナ粉末:熱伝導率36W/m・℃
【0064】
(E)成分(反応制御剤)
・E-1:1-エチニル-1-シクロヘキサノール
【0065】
(F)成分(その他の成分)
・F-1:トリアリルイソシアヌレート
・F-2:両末端がトリメトキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が1Pa・sであるジメチルポリシロキサン
【0066】
[実施例1~4、比較例1~3]
(A)~(F)成分を以下のように混合して熱伝導性シリコーンゴム組成物を得た。
5Lゲートミキサー(商品名;5Lプラネタリミキサー、(株)井上製作所製)に表1に示す配合量で(A)成分、(D)成分、F-2を加えて150℃で2時間加熱混合した。混合物を冷却した後に、E-1およびF-1を加えて均一になるように室温で30分混合した。次に、(C)成分を加えて室温にて30分混合した。最後に、(B)成分を加えて室温にて30分混合した。ここで、(B)成分の添加量は、(B)成分由来の珪素原子に結合した水素原子のモル数が(A)成分由来のアルケニル基のモル数の1.0倍となる量とした。
得られた組成物について以下の各物性を測定した。結果を表2に示す。
【0067】
[1]硬化性
熱伝導性シリコーンゴム組成物20gをシャーレに投入し、365nmLEDのUV照射装置を用いて表2に示す露光量を照射し、さらに、23℃の恒温恒湿室中で24時間保管し、組成物の状態を観察した。シャーレ上の組成物が硬化している場合は〇、硬化していない場合は×として評価した。
[2]熱伝導率
[1]で得られた熱伝導性シリコーンゴム組成物の硬化物の25℃における熱伝導率を、京都電子工業(株)製ホットディスク法熱物性測定装置TPA-501を用いて測定した。
[3]硬度
熱伝導性シリコーンゴム組成物を1.0mmの厚さに塗布し、365nmLEDのUV照射装置を用いて表2に示す露光量を照射し、さらに、23℃の恒温恒湿室中で24時間保管した。得られたシリコーンシートを6枚重ねて、JIS K6253に規定されるタイプAデュロメータにより硬さを測定した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示されるように、実施例1~4の熱伝導性シリコーンゴム組成物は、UV光を用いて硬化させることができ、適度な硬度と、良好な熱伝導性を有する硬化物を与えることがわかる。