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特開2023-12310アセタール化合物及びその製造方法、並びに該アセタール化合物からのアルデヒド化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012310
(43)【公開日】2023-01-25
(54)【発明の名称】アセタール化合物及びその製造方法、並びに該アセタール化合物からのアルデヒド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/20 20060101AFI20230118BHJP
   C07C 43/305 20060101ALI20230118BHJP
   C07C 47/30 20060101ALI20230118BHJP
   C07C 45/42 20060101ALI20230118BHJP
   C07C 41/54 20060101ALI20230118BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20230118BHJP
   C07C 47/40 20060101ALI20230118BHJP
   C07D 317/12 20060101ALI20230118BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
C07C41/20
C07C43/305 CSP
C07C47/30
C07C45/42
C07C41/54
C07C41/30
C07C47/40
C07D317/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115868
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB05
4H006AC11
4H006AC22
4H006AC43
4H006AC81
4H006BA25
4H006BB11
4H006BB14
4H006BB25
4H006BD70
4H006BE20
4H006GN35
4H006GP01
4H039CA40
4H039CB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有害試薬を使用せずとも、短工程かつ工業的に可能な精製手段を用い、Pseudococcus viburni(一般名:Obsucure Mealybug)の性フェロモンである(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの製造中間体である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを製造する方法、及び該2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの製造の為の製造中間体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるアセタール化合物(1)を水素添加反応に付すことにより下記一般式(2)で表されるアセタール化合物(2)を得る工程を少なくとも含む、化合物(2)の製造方法、化合物(2)を加水分解反応に付すことを含む下記式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの製造方法を提供する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアセタール化合物を水素添加反応に付すことにより、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物を得る工程を少なくとも含む、前記アセタール化合物(2)の製造方法。
【化1】
(上記一般式(1)及び(2)中、Rは、互いに独立して、炭素数1~6の一価の炭化水素基、又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12の二価の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の、アセタール化合物(2)の製造方法と、該アセタール化合物(2)を加水分解反応に付すことにより、下記式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程とを少なくとも含む、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化2】
【請求項3】
前記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)において、4種のジアステレオマーのうち、下記式(3”)で表される(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドのジアステレオマー比(dr)が50%以上である、請求項2に記載の、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化3】

(上記式(3”)中、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【請求項4】
下記一般式(4)で表されるビニルエーテル化合物と下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、前記アセタール化合物(1)を得る工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化4】
(上記一般式(4)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。);
OH (XA)(式中、Rは、上記で定義した通りである);
HOR-ROH (XB)(式中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである)
【請求項5】
下記式(5)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(6)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、前記ビニルエーテル化合物(4)を得る工程をさらに含む、請求項4に記載の、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化5】
(上記一般式(6)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項6】
下記式(7)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドと下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、前記アセタール化合物(1)を得る工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化6】
OH (XA)(式中、Rは、上記で定義した通りである。);
HOR-ROH (XB)(式中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【請求項7】
下記式(5)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(6)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、前記ビニルエーテル化合物(4)を得る工程、及び、前記ビニルエーテル化合物(4)を加水分解反応に付すことにより、前記2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)を得る工程をさらに含む、請求項6に記載の2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化7】
(上記一般式(6)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項8】
下記一般式(α)で表されるアセタール化合物。
【化8】
(式中、Rは、互いに独立して、炭素数1~6の一価の炭化水素基、又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12の二価の炭化水素基を表し、実線及び点線で表される結合は一重結合又は二重結合を表す。)
【請求項9】
請求項8に記載の一般式(α)において実線及び点線で表される結合が二重結合である、下記一般式(1)で表されるアセタール化合物。
【化9】
(式中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【請求項10】
請求項8に記載の一般式(α)において実線及び点線で表される結合が一重結合である、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物。
【化10】
(式中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの新規なアセタール化合物及びそれらの製造方法に関する。本発明はまた、該アセタール化合物からの、アルデヒド化合物、すなわち2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド、の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常、雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察及び地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure and kill又はAttract and kill)、誘引感染法(Lure and infect又はAttract and infect)及び交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。昆虫1個体から抽出できる性フェロモンはごく微量であることから、天然由来の性フェロモンを交信攪乱等に利用することは難しく、性フェロモンの利用にあたっては必要量の性フェロモン原体を人工的に製造することが、基礎研究のために、更には応用のために必要とされる。
【0003】
Pseudococcus viburni(一般名:Obsucure Mealybug、以下、「OMB」と略する。)は、主にアメリカ大陸に分布し、ブドウを始めとする種々の作物に被害を与えるため、経済的に非常に重要な害虫である。近年、OMBの分布が広がっており、地理的な拡散の確認も重要となっている。OMBの性フェロモンは、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物の一つである(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートであることが報告されている(下記の非特許文献1)。また、合成された(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのラセミ体を用いたオスの誘引試験において、合成品が天然フェロモンと同等の誘引活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
OMBの性フェロモンの合成例としては、例えば、イソブチル=メタクリレートを出発原料とし、Nazarov環化反応を用いた合成が挙げられる(非特許文献1)。また、非特許文献1の改良合成法も報告されている(下記の非特許文献2及び3)。即ち、ジブロモメタン、亜鉛及び塩化チタン(IV)を用いたケトンのメチレン化反応を用いて収率を向上させている。これら2つの非特許文献では、いずれも2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを合成中間体として用いており、特に、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの4種のジアステレオマーのうち(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドからは、天然のOMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートを容易に合成可能であることが示されている。この他、(-)-パントラクトンを出発原料とし、タンデム共役付加-環化付加反応を鍵とした光学活性体の合成も報告されている(下記の非特許文献4)。工業生産を企図した製造方法としては、若森らによるα-ハロテトラメチルシクロヘキサノンのファヴォルスキー(Favorskii)転位反応を利用した方法が公開されている(下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-210469号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Millarら,J.Chem.Ecol.,31,2999(2005)
【非特許文献2】J.Millarら,Tetrahedron Lett.,48,6377(2007)
【非特許文献3】J.Millarら,Tetrahedron Lett.,52,4224(2011)
【非特許文献4】D.Reddyら,Tetrahedron Lett.,51,5291(2010)
【非特許文献5】Bull.Soc.Chim.Fr.,2981(1970)及びJ.Am.Chem.Soc.,113,8062(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の合成法は短工程であるものの、目的物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの精製に、ガスクロマトグラフィー分取を用いているため、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの大量合成には大きな困難を伴う。また、非特許文献2及び3に記載の合成法は、中間体の精製において、高コストかつスケールアップに難のあるシリカゲルカラムクロマトグラフィー法が必要である上に、合成中間体の2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの合成にあたり、変異原性を有するジブロモメタンの使用及び強毒性の六価クロムを用いた酸化反応が必要であるため、工業スケールでの実施が難しい。さらに、非特許文献4では、目的物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの合成に、(-)-パントラクトンから17工程もの工程数を要する上に、共役付加反応に-78℃の極低温を用いていること及び酸化反応に爆発性の高い高原子価ヨウ素試薬を用いていることから、工業スケールでの実施が難しい。
【0008】
一方、特許文献1には、より工業的な合成法が記載されているが、ファヴォルスキー転位反応よりも、さらに位置選択的な製造方法が求められていた。
【0009】
このように、従来の製造方法では、有害試薬の使用、工程数、中間体及び/又は目的物の分離或いは精製の手段等の理由から、十分量の(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートを工業的に製造することは非常に困難であり、また反応選択性についても改善の余地があると考えられた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、有害試薬を使用せずとも、短工程かつ工業的に可能な精製手段を用い、OMB性フェロモンである(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの重要製造中間体である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを製造する方法を提供することを目的とする。
【0011】
好ましくは、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの4種のジアステレオマーのうち、天然のOMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有しかつそのラセミ体へ容易に変換可能な(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドのジアステレオマー比(dr)を50%以上とすることができる立体選択的な製造方法を提供することを目的とする。ここで、ジアステレオマー比(dr)とは、注目するジアステレオマー1種のモル数を、存在する全ジアステレオマーの合計モル数で割り、%で表したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、新規化合物である2つのアセタール化合物が2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの製造において有用な中間体であることを見出した。
【0013】
また、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、上記中間体を経由することにより、有害試薬を使用せずとも、短工程で工業的に2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを製造できることを見出した。
【0014】
さらに、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの4種のジアステレオマーのうち、天然のOMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有しかつそのラセミ体へ容易に変換可能な(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドのジアステレオマー比(dr)を50%以上とすることができることを見出した。
【0015】
本発明の一つの態様によれば、下記一般式(1)で表されるアセタール化合物の水素添加反応により、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物を得る工程を少なくとも含む、アセタール化合物(2)の製造方法を提供できる。
【化1】
(上記一般式(1)及び(2)中、Rは、互いに独立して、炭素数1~6の一価の炭化水素基又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12の二価の炭化水素基を表す。)
【0016】
本発明の別の態様によれば、アセタール化合物(2)の上記の製造方法と、該アセタール化合物(2)を加水分解反応に付すことにより、下記式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程とを少なくとも含む、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化2】
【0017】
また、本発明のその他の態様によれば、上記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)において、4種のジアステレオマーのうち、下記式(3”)で表される(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドのジアステレオマー比(dr)が50%以上である、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化3】
(上記式(3”)中、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0018】
また、本発明のその他の態様によれば、下記一般式(4)で表されるビニルエーテル化合物と下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、上記アセタール化合物(1)を得る工程をさらに含む、上記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化4】
(上記一般式(4)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。);
OH (XA)(式中、Rは、上記で定義した通りである);
HOR-ROH (XB)(式中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである)
【0019】
さらに、本発明のその他の態様によれば、下記式(5)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(6)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、上記ビニルエーテル化合物(4)を得る工程をさらに含む、上記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化5】
(上記一般式(6)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【0020】
また、本発明のその他の態様によれば、下記式(7)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドと下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、上記アセタール化合物(1)を得る工程をさらに含む、上記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化6】
【0021】
また、本発明のその他の態様によれば、下記式(5)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(6)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、上記ビニルエーテル化合物(4)を得る工程、及び、該ビニルエーテル化合物(4)を加水分解反応付すことにより、上記2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)を得る工程をさらに含む、上記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化7】
(上記一般式(6)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【0022】
さらに、本発明のその他の態様によれば、下記一般式(α)で表される新規なアセタール化合物を提供できる。
【化8】
(式中、Rは、互いに独立して、炭素数1~6の一価の炭化水素基、又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12の二価の炭化水素基を表し、実線及び点線で表される結合は一重結合又は二重結合を表す。)
【0023】
さらに、本発明のその他の態様によれば、上記一般式(α)において、実線及び点線で表される結合が二重結合である、下記一般式(1)で表される新規なアセタール化合物を提供できる。
【化9】
(上記一般式(1)中、Rは、上記一般式(α)で定義した通りである。)
【0024】
また、本発明のその他の態様によれば、上記一般式(α)において、実線及び点線で表される結合が一重結合である、下記一般式(2)で表される新規なアセタール化合物を提供できる。
【化10】
(上記一般式(2)中、Rは、上記一般式(α)で定義した通りである。)
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、重要農業害虫であるOMBの性フェロモンとして、発生予察及び防除等への応用が期待される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの重要製造中間体である(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを、安全に、効率的、選択的かつ工業的に製造できる。また、本発明によれば、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドの製造に有用な中間体である上記アセタール化合物(1)及び上記アセタール化合物(2)も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中の中間体、試薬及び目的物の化学式において、構造上、エナンチオ異性体又はジアステレオ異性体等の立体異性体が存在しうるものがあるが、特に記載がない限り、いずれの場合も各化学式はこれらの異性体のすべてを表すものとする。また、これらの異性体は、単独であってもよく又は混合物であってもよい。
【0027】
本発明者らは、以下に説明するように、上記目的化合物である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の合成計画を考察した。
下記の逆合成解析の反応式は、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)のうち、OMB性フェロモンのラセミ体の製造中間体となる(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)を1つの例として示したものである。
【0028】
【化11】
(上記一般式(2’)及び(1)中、Rは、互いに独立して、炭素数1~6の一価の炭化水素基、又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12の二価の炭化水素基を表す。上記一般式(4)中、Rは、炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。上記一般式(6)中、Rは、上記で定義した通りである。)
【0029】
上記の逆合成解析の反応式中、白抜き矢印は逆合成解析(Retrosynthetic analysis)におけるトランスフォームを表す。
【0030】
(工程E’)
上記(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)は、一般式(2’)で表される(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタールを酸の存在下で加水分解反応に付すことにより合成可能であると考えた。アルデヒド生成後、酸性の反応条件下ではアルデヒドの立体異性化が起こり、熱力学的に安定な1,2-トランス(trans)体に収束し、目的化合物である(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)が主成すると予想した。
【0031】
(工程D’)
(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール(2’)は、一般式(1)で表されるアセタール化合物を還元反応に付すことにより、好ましくは二重結合への水素添加反応に付すことより合成可能であると考えた。一般に、水素添加反応では、二重結合に対して二つの水素原子が同じ面から付加するシン(syn)付加が優先する場合が多いため、2,3位のジメチル基については望む立体配置を有するシス(cis)体が主成すると予想した。
【0032】
(工程C1’)
上記アセタール化合物(1)は、式(7)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドをアセタール化反応に付すことにより合成可能であると考えた。
【0033】
(工程C2’)
また、上記アセタール化合物(1)は、一般式(4)で表されるビニルエーテル化合物をアセタール化反応に付すことによっても合成可能であると考えた。
【0034】
(工程B’)
上記2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)は、ビニルエーテル化合物(4)を加水分解反応に付すことにより合成可能であると考えた。該ビニルエーテル化合物(4)の加水分解においてアルデヒドを生じると、環内の二重結合は、アルデヒドのカルボニル基との共役により熱力学的により安定となる1,2位間へ、原料での2,3位間から容易に異性化すると考えられた。
【0035】
(工程A’)
上記ビニルエーテル化合物(4)は、公知のケトンでありかつ式(5)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと一般式(6)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより合成可能であると考えた。
【0036】
そして、上記逆合成解析の反応式を考慮すると、本発明の一つの実施態様に従う化学反応式は、下記の通りに示される。
【化12】
(上記式中、Rは、互いに独立して、炭素数1~6の一価の炭化水素基又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12の二価の炭化水素基を表し、Rは、炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0037】
(工程A)上記化学反応式中に示される通り、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(5)と、リンイリド化合物(6)とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、ビニルエーテル化合物(4)が得られる。
(工程B)次に、工程Aに従って得られたビニルエーテル化合物(4)を加水分解反応に付すことにより、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)が得られる。
(工程C1)工程Bに従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)を酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、目的化合物であるアセタール化合物(1)が得られる。
(工程C2)工程Aに従って又はその他の方法に従って得られたビニルエーテル化合物(4)を酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、アセタール化合物(1)が得られる。
(工程D)工程C1もしくはC2に従って得られたアセタール化合物(1)を水素添加反応に付すことにより、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール(2)が得られる。
(工程E)工程Dに従って得られた2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール(2)を加水分解反応付すことにより、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)が得られる。
【0038】
以下に、本発明の実施の形態の一例として、上記逆合成解析に基づく上記工程A~Eを、工程D、工程E、工程A、工程B、そして工程C1及び工程C2の順に詳細に説明する。
【0039】
[1]工程D
以下に、下記一般式(2)で表されるアセタール化合物を得る工程Dについて説明する。該アセタール化合物(2)は、下記の化学反応式に示されている通り、下記一般式(1)で表されるアセタール化合物を水素添加反応に付すことにより得られる。
【化13】
(上記一般式(1)及び(2)中、Rは互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【0040】
まず、工程Dの出発物質である下記一般式(1)で表されるアセタール化合物について、以下に説明する。
【化14】
【0041】
一般式(1)において、Rは、互いに独立して、炭素数1~6、好ましくは1~4の一価の炭化水素基、又は二つのRが互いに結合してR-Rとして炭素数2~12、好ましくは2~4の二価の炭化水素基を表す。
一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基などの直鎖状の飽和炭化水素基;イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基及びイソブチル基などの分枝状の飽和炭化水素基;シクロヘキシル基などの環状の飽和炭化水素基;並びに、アリル基などの不飽和炭化水素基が挙げられ、収率及び/又は経済性の観点からメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基が好ましい。
-Rの二価の炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、1,2-デカンジイル基、トリメチレン基、2,3-ブタンジイル基及び1,2-シクロヘキサンジイル基が挙げられ、収率及び/又は経済性の観点からエチレン基、プロピレン基及びトリメチレン基が好ましい。
【0042】
アセタール化合物(1)の具体例としては、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジエチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジプロピル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジブチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジペンチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジヘキシル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジイソブチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジアリル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=プロピレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ブチレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ヘキシレン=アセタール及び2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=トリメチレン=アセタールが挙げられ、製造容易性の観点から、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジエチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジプロピル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジブチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=プロピレン=アセタール及び2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=トリメチレン=アセタールが好ましい。
アセタール化合物(1)の製造方法については、後述の工程A、工程B、工程C1及び工程C2において説明する。
【0043】
次に、工程Dの目的物質であるアセタール化合物(2)について、以下に説明する。
【化15】
(一般式(2)中、Rは、互いに独立して、上記一般式(1)において定義した通りである。)
【0044】
該アセタール化合物(2)の具体例としては、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジエチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジプロピル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジブチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジペンチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジヘキシル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジイソブチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジアリル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=エチレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=プロピレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ブチレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ヘキシレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=トリメチレン=アセタールが挙げられ、製造容易性の観点から、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジエチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジプロピル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジブチル=アセタール、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=プロピレン=アセタール、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=トリメチレン=アセタールが好ましい。
【0045】
上記水素添加反応は、該アセタール化合物(1)に、水素添加触媒と必要に応じて溶媒とを加え、水素を作用させることにより行うことができる。また、該水素添加反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0046】
該水素添加触媒としては、例えば、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、白金、イリジウム、銅及び鉄等の金属(金属触媒とも云う)並びにこれら金属を含む金属酸化物(金属酸化物触媒とも云う);水酸化パラジウム、水酸化ロジウムなどの金属水酸化物;塩化パラジウム、塩化ルテニウム及び塩化ロジウム等の金属ハロゲン化物;並びに、塩化白金酸及びクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の金属錯体化合物等が挙げられる。
また、該水素添加触媒としては、上記に例示した金属触媒又は金属酸化物触媒が担体に担持されていてもよく、その場合の担体としては、カーボン、アルミナ、ゼオライト及びシリカゲル等が挙げられ、該担体としてカーボンが好ましく、該担体がカーボンである場合の具体例はロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン、ルテニウム=カーボン、白金=カーボン及び水酸化パラジウム=カーボンが挙げられる。特に好ましくは、ロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン及び水酸化パラジウム=カーボンである。
該水素添加触媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該水素添加触媒は、市販されているものを用いることができる。
【0047】
該水素添加触媒の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、経済性の観点からはなるべく少量が好ましく、該アセタール化合物(1)1モルに対して、好ましくは0.00001~10モル、より好ましくは0.00001~1モル、さらに好ましくは0.00001~0.5モルである。
【0048】
該水素添加反応に溶媒を用いる場合、該溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジエチレングリコール=モノメチル=エーテル及びトリエチレングリコール=モノメチル=エーテル等のアルコール類;ジエチル=エーテル、ジ-n-ブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;ギ酸、酢酸及びトリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;並びに水を挙げることができる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
【0049】
該溶媒の使用量としては、アセタール化合物(1)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~100,000質量部、更に好ましくは0.1質量部~10,000質量部である。
【0050】
該水素添加反応における水素圧は、常圧~5MPaが好ましい。
該水素添加反応の反応温度は、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、好ましくは-20℃~150℃、より好ましくは0℃~100℃である。
該水素添加反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常5分間~240時間が好ましい。
【0051】
該水素添加反応得られたアセタール化合物(2)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0052】
なお、OMB性フェロモンのラセミ体の製造中間体を製造する場合においては、下記式に示す通り、アセタール化合物(2)における2位と3位のジメチル基がシス(cis)配置である、下記の一般式(2’)で表されるアセタール化合物が好ましい。該アセタール化合物(2’)を優先的に製造するためには、上記水素添加触媒として、ロジウム、パラジウム等の金属若しくはこれら金属を含む金属酸化物、又はこれら金属触媒若しくは金属酸化物触媒をカーボン、アルミナ、ゼオライト若しくはシリカゲル等の担体に担持した触媒を用いることが好ましく、取扱い容易性、反応性及び/又は経済性の観点から金属触媒若しくは金属酸化物触媒をカーボンの担体に担持した触媒が特に好ましく、具体的にはロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン又は水酸化パラジウム=カーボンを用いることが、立体選択性と収率を両立する観点からさらに特に好ましい。
一般に、これらの水素添加触媒を用いた水素添加反応では、二重結合に対して二つの水素原子が同じ面から付加するシン(syn)付加が優先する場合が多いため、2,3位のジメチル基については望む立体配置を有するシス体が主成するものと考えられる。
なお、工程Dで得られたアセタール化合物(2’)の2,3-ジメチル基の相対立体配置は次工程である工程Eでも保持されるため、工程Dでの立体選択性を高めることが、目的物のジアステレオマー比を向上する上で非常に重要である。
【化16】
(上記一般式(1)及び(2’)中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【0053】
[2]工程E
以下に、下記一般式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程Eについて説明する。該2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)は、下記の化学反応式に示されている通り、工程Dで得られたアセタール化合物(2)を加水分解反応に付すことにより得られる。
【化17】
(上記一般式(2)中、Rは、互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【0054】
工程Eの出発物質であるアセタール化合物(2)については、上記[1]において説明した通りである。
【0055】
次に、工程Eの目的物質である下記の2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)について、以下に説明する。
【化18】
【0056】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)には、4種のジアステレオマーが存在し、具体的には下記の通りである:(1R,2R,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2R,3R)-体ともいう);(1R,2S,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2S,3R)-体ともいう);(1R,2S,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2S,3S)-体ともいう);並びに、下記式(3”)で表される(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2R,3S)-体(3”)ともいう)。該(1R,2R,3S)-体(3”)は、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する。
【化19】
(上記式(3)中、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0057】
ここで、非立体選択的に合成した場合、得られた合成物における、天然のOMB性フェロモンと同じ(1R,2R,3S)-体(3”)のジアステレオマー比の期待値は25%dr程度となってしまう。そして、該(1R,2R,3S)-体(3”)をOMB性フェロモンに変換した際にも活性成分比率が低く、大部分の成分は不活性成分となってしまい、性能への悪影響が懸念される。そして、同じ量の活性成分を製造する場合、例えばジアステレオマー比が半分になると総製造量は倍必要であり、工業的経済性の面からもジアステレオマー比が高い方が有利である。
そこで、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)としては、(1R,2R,3S)-体(3”)のジアステレオマー比(dr)が好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上である。
【0058】
上記加水分解反応は、該アセタール化合物(2)に、水と、必要に応じて酸及び/又は溶媒とを加えることにより行うことができる。また、該水素添加反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0059】
該加水分解反応における水の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定でき、該アセタール化合物(2)1モルに対して、好ましくは0.1~100,000モル、より好ましくは0.5~10,000モル、さらに好ましくは1~1,000モルである。
【0060】
該加水分解反応に用いる酸としては、大量入手可能な市販の酸が好ましく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機酸類又はこれらの塩類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等の有機酸類又はこれらの塩類;テトラフルオロホウ酸リチウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化錫、四塩化チタン、四臭化チタン及びトリメチルシリル=ヨージド等のルイス酸類;アルミナ、シリカゲル及びチタニア等の酸化物;各種陽イオン交換樹脂;並びに、モンモリロナイト等の鉱物を挙げることができるが、経済性及び/又は反応性等の観点から、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸及びp-トルエンスルホン酸が好ましい。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸は、市販されているものを用いることができる。
【0061】
該酸の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、経済性の観点からはなるべく少量が好ましく、該アセタール化合物(2)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0062】
上記逆合成解析の工程E’にも記載の通り、発明者らは、アルデヒド生成後、酸性の反応条件ではアルデヒドの立体異性化が起こり、熱力学的に安定な1,2-trans体に収束し、望む(1R,2R,3S)-体(3”)が主成することを予想し、実際その通りであった。そのため、該加水分解反応では、OMBの性フェロモンのラセミ体の製造中間体である(1R,2R,3S)-体(3”)を製造する観点から、酸を用いることが好ましい。
【0063】
該加水分解反応には水以外の溶媒を使用してもよい。
該溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;アセトン、メチル=エチル=ケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられ、好ましくは、ジエチル=エーテル及びテトラヒドロフランなどのエーテル類、並びに該エーテル類を含む混合溶媒である。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量としては、該アセタール化合物(2)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0064】
該加水分解反応の反応温度は、反応条件に拠るが、好ましくは-78~160℃、より好ましくは-50~140℃、さらに好ましくは-30~120℃である。
該加水分解反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0065】
該加水分解反応においては、反応の副生成物であるアルコール化合物R-OH(Rは、上記一般式(1)において定義した通りである)を、留出等の方法によって、反応系外に除去しながら該加水分解反応を行ってもよい。
【0066】
該加水分解反応により得られた2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0067】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の可能な4種のジアステレオマーのうち、特に、下記式(3”)で表される(1R,2R,3S)-体は産業上の利用価値が非常に高い。これは、(1R,2R,3S)-体(3”)が、前述の通り、OMBのオスの誘引活性がすでに確認されている(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートへ容易に変換可能なためである。
【化20】
(上記式(3”)中、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0068】
本発明の製造方法によれば、例えば、アセタール化合物(1)を反応基質として水素添加反応、好ましくは、水素添加触媒として、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、白金、若しくはこれらを含む酸化物、又はこれら金属又は金属酸化物触媒をカーボン、アルミナ、ゼオライト若しくはシリカゲル等の担体に担持した触媒を用い、好ましくは、取扱い容易性、反応性及び/又は経済性の観点から、金属触媒若しくは金属酸化物触媒をカーボンの担体に担持した触媒を用い、具体的にはロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン、ルテニウム=カーボン、白金=カーボン又は水酸化パラジウム=カーボンを用いる水素添加反応を行うことにより、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の可能な4種のジアステレオマーのうち、天然のOMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(1R,2R,3S)-体(3”)を50%dr以上の選択性で立体選択的かつ容易に製造できる。
また、工程Dの水素添加反応及び任意的に、工程Eの加水分解反応の反応条件の調整等により、(1R,2R,3S)-体(3”)のジアステレオマー比(dr)が60%以上であるようにすることも可能である。
【0069】
[3]工程A
以下に、下記一般式(4)で表されるビニルエーテル化合物を得る工程Aについて説明する。該ビニルエーテル化合物(4)は、下記の化学反応式に示されている通り、下記式(5)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(6)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより得られる。
【化21】
(上記一般式中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表す。Phはフェニル基を表す。波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0070】
工程Aの出発物質である2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(5)は既知化合物であり、例えば、Bull.Soc.Chim.Fr.,2981(1970)及びJ.Am.Chem.Soc.,113,8062(1991)に記載の方法に従って、1工程で容易に製造可能である。
【0071】
次に、リンイリド化合物(6)について以下に説明する。
【化22】
【0072】
上記一般式(6)中、Rは、炭素数1~15、好ましくは1~7、より好ましくは1~4の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。
一般式(6)における一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ウンデシル基及びペンタデシル基などの直鎖状の飽和炭化水素基;イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基及びイソブチル基などの分枝状の飽和炭化水素基;シクロヘキシル基などの環状の飽和炭化水素基;アリル基などの不飽和炭化水素基;フェニル基などのアリール基;並びに、ベンジル基及びフェネチル基などのアラルキル基が挙げられ、メチル基、エチル基、フェニル基及びベンジル基が好ましい。また、これらの炭化水素基の水素原子の一部が置換されていてもよく、その場合の置換基としては、ハロゲン基、炭素数1~4のアルコキシ基、アルキルチオ基、トリアルキルシリル基が好ましく、置換された炭化水素基としてより具体的には、2-(トリメチルシリル)エチル基、2-メトキシエチル基、2-(メチルチオ)エチル基、クロロフェニル基及びメトキシフェニル基が挙げられる。
【0073】
該リンイリド化合物(6)の具体例としては、(メトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(エトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(プロポキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(ブトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(デシルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(ペンタデシルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(イソプロポキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(シクロヘキシルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(アリルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(フェノキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(ベンジルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、トリフェニル[2-(トリメチルシリル)エトキシメチレン]ホスホラン、[(2-メトキシエトキシ)メチレン]トリフェニルホスホラン、[2-(メチルチオ)エトキシメチレン]トリフェニルホスホラン、[(4-クロロフェノキシ)メチレン]トリフェニルホスホラン及び[(4-メトキシフェノキシ)メチレン]トリフェニルホスホラン等が挙げられ、原料入手及び/又は製造コスト等の観点から、(メトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(エトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(フェノキシメチレン)トリフェニルホスホラン及び(ベンジルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン等が好ましい。
【0074】
該リンイリド化合物(6)の製造方法は特に限定されないが、該リンイリド化合物(6)は、例えば、下記の反応式に示される通り、トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)を塩基の存在下で脱ハロゲン化水素反応させることによって得られる。
【化23】
(上記一般式(101)中、Rは、上記一般式(6)において定義した通りである。Xはハロゲン原子を表し、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。Phはフェニル基を示す。)
【0075】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の具体例としては、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(メトキシメチルトリフェニルホスホニウム)ヨージド、(エトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(ブトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(ペンタデシルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(イソプロポキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(シクロヘキシルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(アリルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(フェノキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(ベンジルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、トリフェニル[2-(トリメチルシリル)エトキシメチレン]ホスホニウムクロリド、[(2-メトキシエトキシ)メチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、[2-(メチルチオ)エトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、[(4-クロロフェノキシ)メチル)トリフェニルホスホニウムクロリド及び[(4-メトキシフェノキシ)メチル)トリフェニルホスホニウムクロリド等が挙げられる。
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)は、市販のものを用いてもよいし、あるいは、下記一般式(102)で表されるハロゲン化物とトリフェニルホスフィン(PPh)との4級ホスホニウム化反応により調製してもよい。
【0076】
【化24】
(上記一般式中、R、X及びPhは、上記で定義した通りである。)
【0077】
ハロゲン化物(102)の具体例としては、クロロメチル=メチル=エーテル、ブロモメチル=メチル=エーテル、ヨードメチル=メチル=エーテル、クロロメチル=エチル=エーテル、ブチル=クロロメチル=エーテル、クロロメチル=ペンタデシル=エーテル、クロロメチル=イソプロピル=エーテル、クロロメチル=シクロヘキシル=エーテル、アリル=クロロメチル=エーテル、クロロメチル=フェニル=エーテル、ベンジル=クロロメチル=エーテル、2-メトキシエトキシメチルクロリド、クロロメチル=2-(トリメチルシリル)エチル=エーテル、クロロメチル=2-(メチルチオ)エトキシメチル=エーテル、クロロメチル=4-クロロフェニル=エーテル及びクロロメチル=4-メトキシフェニル=エーテル等が挙げられる。
【0078】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)を調製する際、該反応を加速させるために、金属ハロゲン化物及び/又は四級オニウム塩を添加してもよい。
該金属ハロゲン化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム及び臭化カリウム等が挙げられる。
該四級オニウム塩としては、テトラエチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルホスホニウム=ブロミド、テトラエチルアンモニウム=ヨージド、テトラブチルアンモニウム=ヨージド及びテトラブチルホスホニウム=ヨージド等が挙げられる。
【0079】
また、該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)を調製する際、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム若しくは炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム若しくは炭酸カリウム等の炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等の水酸化物塩;又は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、キノリン、ピロリジン、ピペリジン、コリジン、ルチジン若しくはモルホリン等の有機塩基類を加えて、塩基性寄りで反応を行ってもよい。
【0080】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の調製は、溶媒中で行うことが好ましい。
該溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量としては、ハロゲン化物(102)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0081】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)調製の反応温度は、用いる原料に応じて好適な条件を選択できるが、通常、-10℃~180℃、好ましくは0℃~160℃、さらに好ましくは10℃~140℃で行うことが好ましい。
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)調製の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~60時間が好ましい。
【0082】
該リンイリド化合物(6)の調製に用いる塩基としては、例えば、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、ナトリウム=t-ブトキシド、ナトリウム=t-アミロキシド、リチウム=メトキシド、リチウム=エトキシド、リチウム=t-ブトキシド、リチウム=t-アミロキシド、カリウム=メトキシド、カリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及びカリウム=t-アミロキシド等の金属アルコキシド類;メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、塩化メチルマグネシウム、ナトリウム=アセチリド及びジムシルナトリウム等の有機金属試薬;ナトリウム=アミド;リチウム=アミド、リチウム=ジイソプロピルアミド、リチウム=ヘキサメチルジシラジド、ナトリウム=ヘキサメチルジシラジド、カリウム=ヘキサメチルジシラジド及びリチウム=ジシクロヘキシルアミド等の金属アミド類;並びに、水素化ナトリウム、水素化カリウム及び水素化カルシウム等の金属水素化物類を挙げることができる。
該塩基は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよく、基質であるトリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の種類及び/又は反応性及び/又は反応収率等を考慮して選択できる。また、該塩基は、市販されているものを用いることができる。
【0083】
該リンイリド化合物(6)の調製に用いる塩基の使用量としては、上記トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)1モルに対して、好ましくは0.7モル~5モルである。
該リンイリド化合物(6)の調製に用いる溶媒としては、該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の調製における溶媒と同じものを使用することができる。
【0084】
該リンイリド化合物(6)の調製における反応温度は、好ましくは-78~50℃、より好ましくは-78℃~35℃である。
該リンイリド化合物(6)の調製における反応時間は、5分間~18時間が好ましいが、試薬の安定性を考慮し、5分間~10時間がより好ましい。
【0085】
次に、工程Aの目的物質である下記のビニルエーテル化合物(4)について説明する。
【化25】
(一般式(4)中、Rは、上記一般式(6)において定義した通りであり、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0086】
該ビニルエーテル化合物(4)の具体例としては、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(エトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(プロポキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ブトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ペンタデシルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(イソプロポキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(シクロヘキシルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(アリルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(フェノキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ベンジルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[2-(トリメチルシリル)エトキシメチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[(2-メトキシエトキシ)メチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[2-(メチルチオ)エトキシメチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[(4-クロロフェノキシ)メチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン及び4-[(4-メトキシフェノキシ)メチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテンが挙げられ、原料入手及び/又は製造コスト等の観点から、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(エトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(フェノキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン及び4-(ベンジルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテンが好ましい。
【0087】
上記ウィッティッヒ反応は、溶媒中、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(5)を加えることにより行うことができる。また、該ウィッティッヒ反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0088】
該ウィッティッヒ反応における2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(5)の使用量としては、上記リンイリド化合物(6)の理論量1モルに対して、0.1モル~5モル、好ましくは0.2モル~3モルである。
【0089】
該ウィッティッヒ反応における溶媒としては、上記トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の調製における溶媒と同じ溶媒を使用することができる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量としては、該リンイリド化合物(6)の理論量1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0090】
該ウィッティッヒ反応の反応温度は、-78℃~50℃が好ましく、-50℃~35℃がより好ましい。
該ウィッティッヒ反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~24時が好ましい。
【0091】
該ウィッティッヒ反応において得られたビニルエーテル化合物(4)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次の工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点からは、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0092】
なお、該ウィッティッヒ反応において得られるビニルエーテル化合物(4)には、環外二重結合の幾何異性に由来して、E体及びZ体の2種の幾何異性体がある。そのために、該ビニルエーテル化合物(4)は通常2種の混合物として存在するが、該幾何異性体を分離する必要することなしに、該混合物のままで問題なく次工程に用いることができる。
【0093】
[4]工程B
以下に、下記式(7)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドを得る工程Bについて説明する。該2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)は、下記の化学反応式に示されている通り、工程Aで得られたビニルエーテル化合物(4)を加水分解することにより得られる。
【化26】
(上記一般式中、Rは、上記で定義した通りである。波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0094】
工程Bの出発物質であるビニルエーテル化合物(4)については、上記[3]において説明した通りである。
【0095】
次に、工程Bの目的物質である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)は、下記式(7)により表される。
【化27】
【0096】
上記加水分解反応は、該ビニルエーテル化合物(4)に、水と、必要に応じて酸及び/又は溶媒とを加えることにより行うことができる。また、該加水分解反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0097】
該加水分解反応における水の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定でき、該ビニルエーテル化合物(4)1モルに対して、好ましくは0.1~100,000モル、より好ましくは0.5~10,000モル、さらに好ましくは1~1,000モルである。
【0098】
該加水分解反応に用いる酸としては、大量入手可能な市販の酸が好ましく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機酸類又はこれらの塩類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等の有機酸類又はこれらの塩類;テトラフルオロホウ酸リチウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化錫、四塩化チタン、四臭化チタン及びトリメチルシリル=ヨージド等のルイス酸類;アルミナ、シリカゲル及びチタニア等の酸化物;各種陽イオン交換樹脂;並びに、モンモリロナイト等の鉱物を挙げることができるが、経済性及び/又は反応性等の観点から、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸及びp-トルエンスルホン酸が好ましい。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸は、市販されているものを用いることができる。
【0099】
該酸の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、経済性の観点からはなるべく少量が好ましく、該ビニルエーテル化合物(4)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0100】
該加水分解反応には水以外の溶媒を使用してもよい。
該溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;アセトン、メチル=エチル=ケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられ、好ましくは、ジエチル=エーテル及びテトラヒドロフランなどのエーテル類、又は該エーテル類を含む混合溶媒である。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量としては、該ビニルエーテル化合物(4)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0101】
該加水分解反応の反応温度は、反応条件に拠るが、好ましくは-78~160℃、より好ましくは-50~140℃、さらに好ましくは-30~120℃である。
該加水分解反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0102】
該ビニルエーテル化合物(4)の加水分解においてアルデヒドを生じると、元々は2位の二重結合が、アルデヒドのカルボニル基との共役によって熱力学的により安定となる1位へと容易に異性化し、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)が主成すると考えられる。
【0103】
また、該加水分解反応においては、反応の副生成物であるアルコールROHと、原料であるビニルエーテル化合物(4)又は生成物である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)との反応により、望まないアセタール化合物が副生する場合がある。その場合には、該望まないアセタール化合物の副生抑制のため、反応により生じたアルコールROHを、留出等の方法によって、反応系外に除去しながら該加水分解反応を行ってもよい。
【0104】
該加水分解反応により得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次の工程に用いてもよい。あるいは、混在する可能性がある二重結合の位置異性体等の不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0105】
[5]工程C1及び工程C2
以下に、下記一般式(1)で表されるアセタール化合物を得る工程C1及びC2について説明する。
該アセタール化合物(1)は、下記の化学反応式に示されている通り、工程C1と工程C2の2通りの方法で得ることができ、工程C1では、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)と下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応により得られる。また、工程C2では、ビニルエーテル化合物(4)と下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応により得られる。
【化28】
(上記一般式中、R及びRは上記で定義した通りである。)
OH (XA)(式中、Rは互いに独立して、上記で定義した通りである。);
HOR-ROH (XB)(式中、Rは互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【0106】
工程C1の出発物質である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)については、上記[4]において説明した通りである。
工程C2の出発物質であるビニルエーテル化合物(4)については、上記[3]において説明した通りである。
【0107】
工程C1及び工程C2の目的物質であるアセタール化合物(1)は、上記[1]において説明した通りである。
【0108】
上記アセタール化反応では、必要に応じて溶媒を加えることにより行うことができる。また、該アセタール化反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。好ましい反応条件は、工程C1及び工程C2ともに共通であり、以下に詳述する。
【0109】
該アセタール化反応に用いるアルコール化合物は、次の一般式(XA)又は(XB)で表される。
OH (XA)又は、
HOR-ROH (XB)。
一般式(XA)において、Rは、上記一般式(1)において定義した通りである。
一般式(XB)において、Rは互いに独立して、上記一般式(1)において定義した通りである。
OH(XA)の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、1-ペンタノール、イソアミルアルコール、1-ヘキサノール及びアリルアルコールが挙げられる。反応性の観点から、1級アルコールがより好ましく、具体的にはメタノール及びエタノールが特に好ましい。
HOR-ROH(XB)の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、2,3-ブタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール及び1,2-ドデカンジオールが挙げられ、反応性の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール及びトリメチレングリコールが好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。
該アルコール化合物(XA)又は(XB)の使用量としては、該ビニルエーテル化合物(4)又は2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)1モルに対して、好ましくは1~100,000モル、より好ましくは2~10,000モル、さらに好ましくは5~1,000モルである。
【0110】
該アセタール化反応に用いる酸としては、大量入手可能な市販の酸が好ましく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機酸類又はこれらの塩類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等の有機酸類又はこれらの塩類;テトラフルオロホウ酸リチウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化錫、四塩化チタン、四臭化チタン及びトリメチルシリル=ヨージド等のルイス酸類;アルミナ、シリカゲル及びチタニア等の酸化物;各種陽イオン交換樹脂;並びに、モンモリロナイト等の鉱物を挙げることができるが、経済性及び/又は反応性等の観点から、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸及びp-トルエンスルホン酸が好ましい。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸は、市販されているものを用いることができる。
【0111】
該酸の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、経済性の観点からはなるべく少量が好ましく、基質である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)又は該ビニルエーテル化合物(4)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0112】
該アセタール化反応に溶媒を使用する場合、該溶媒としては、例えば、水;ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、t-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量としては、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)又は該ビニルエーテル化合物(4)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0113】
該アセタール化反応の反応温度は、反応条件に拠るが、好ましくは-20~120℃、より好ましくは0~100℃である。
該アセタール化反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0114】
該アセタール化反応により得られたアセタール化合物(1)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次の工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【実施例0115】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下において、「純度」は、特に明記しない限り、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた面積百分率を示し、「生成比」は、GC分析によって得られた面積百分率の相対比を示す。
また「収率」は、GC分析によって得られた面積百分率を基に算出した収率を示す。
各実施例において、反応のモニタリング及び収率の算出は、基本的に次のGC条件に従って行った。
GC条件: GC装置:SHIMADZU GC-2014,キャピラリーカラム:DB-5、内径0.25mm×膜厚0.25μm×長さ30m、キャリアーガス:He、検出器:FID、カラム温度:80℃→+5℃/分昇温、注入口:230℃。
なお、原料、生成物及び中間体の純度として、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた値を用い、%GCと表記する。
収率は、原料及び生成物の純度(%GC)を考慮して、以下の式に従い計算した。
収率(%)={[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]÷[ (反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]}×100。
なお、「粗収率」とは、精製せずに算出した収率をいう。
化合物のスペクトル測定のためのサンプルは、必要に応じて粗生成物を精製した。
以下の化学構造式中、Meはメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。
【0116】
[実施例1]
4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(4A)(4:R=メチル基)の合成
【0117】
【化29】
【0118】
カリウムtert-ブトキシド183g及びテトラヒドロフラン847gの混合物を窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド588gを加えて100分間撹拌し、リンイリド(6A)(6:R=メチル基)を調製した。2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(5)121g(98.0%GC)及びテトラヒドロフラン480gの混合物を加えて、一晩撹拌した。溶媒を留去し、ヘキサンにて可溶分を抽出し、そしてヘキサンを留去して、粗生成物を得た。減圧蒸留により精製を行い、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(4A)116g(98.3%GC、収率80%)を環外二重結合の幾何異性である幾何異性体混合物(生成比:E体/Z体=75/25)として得た(沸点73-75℃/1.0kPa)。
【0119】
4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(4A)
淡黄色油状物(Yellowish oil)。
IR(D-ATR):ν=2954、2928、2862、2830、1705、1668、1461、1376、1358、1328、1251、1223、1135、1090、982、802cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):
主要異性体(E体):δ=0.96(6H、s)、1.54(3H、s)、1.58(3H、d、J=0.8Hz)、2.21(2H、d、J=2.3Hz)、3.53(3H、s)、5.98(1H、tq、J=2.3、0.8Hz)ppm。
少量異性体(Z体):δ=0.93(6H、s)、1.54(3H、s)、1.79(3H、d、J=0.8Hz)、2.13(2H、d、J=1.5Hz)、3.44(3H、s)、5.76(1H、tq、J=1.5、0.8Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):E/Z幾何異性体混合物、δ=9.40、9.64、10.08、13.16、26.62、27.25、41.28、42.58、43.81、44.41、59.08、59.40、122.26、125.01、127.56、129.18、136.64、137.01、143.19、145.38ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、41、53、65、77、91、105、119、136、151、166(M+)。
【0120】
[実施例2]
2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)の合成
【0121】
【化30】
【0122】
実施例1に従って得られた4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(4A)20.0g(98.3%GC)、ヘキサン40g、テトラヒドロフラン40g及び20%塩酸65gの混合物を窒素雰囲気下、6時間撹拌した。有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物を得た。該粗生成物を減圧蒸留により精製して、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)11.7g(95.1%GC、収率62%)を得た(沸点61℃/0.45kPa)。
【0123】
2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)
淡褐色油状物(Brownish oil)。
IR(D-ATR):ν=2960、2869、2719、1663、1633、1440、1377、1340、1256、1228、1210cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=1.03(3H、s)、0.97(3H、d、J=7.7Hz)、8.72(3H、s)、2.06(3H、m)、2.25(1H、m、※d、J=15.6Hzを含む)、2.32(1H、m、※d、J=15.6Hzを含む)、2.35(1H、m、※q、J=7.7Hzを含む)、9.98(1H、s)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):δ=11.86、12.88、23.25、28.65、39.89、43.28、55.53、136.41、165.40、188.70ppm。
GC-MS(EI,70eV):27、41、55、67、81、95、109、123、137、152(M+)。
【0124】
[実施例3]
2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール(1A)(1:R=メチル基)の合成
【0125】
【化31】
【0126】
実施例1に従って得られた4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(4A)1.00g(98.3%GC)、メタノール5.70g、20%塩酸0.11g及びヘキサン5.0gの混合物を窒素雰囲気下、64時間撹拌した。反応液をヘキサンで希釈し、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物として、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール(1A)0.97g(59.9%GC、粗収率50%)を得た。
【0127】
2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール(1A)
褐色油状物(Brown oil)。
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=0.93(3H、s)、1.01(3H、s)、1.50(3H、m)、1.58(1H、dd、J=13.0、3.8Hz)、1.62(3H、m)、1.74(1H、dd、J=13.0、8.4Hz)、2.78(1H、m)、3.34(3H、s)、3.38(3H、s)、4.20(1H、d、J=6.5Hz)ppm。
GC-MS(EI,70eV):31、47、65、75、91、107、123、135、151、167、181、198(M+)。
【0128】
[実施例4]
2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B、1:R-R=エチレン基)の合成
【0129】
【化32】
【0130】
実施例1に従って得られた4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(4A)10.0g(98.3%GC)、エチレングリコール20.0g、20%塩酸11.0g、ヘキサン20g及びテトラヒドロフラン20gの混合物を窒素雰囲気下、20時間撹拌した。反応液をヘキサンで希釈、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物を得た。該粗生成物を減圧蒸留により精製して、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B)7.38g(95.8%GC、収率61%)を得た(沸点95-97℃/1.0kPa)。
【0131】
2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B)
淡黄色油状物(Yellowish oil)。
IR(D-ATR):ν=2953、2864、2748、1665、1444、1396、1377、1359、1322、1208、1160、1135、1107、1059、1036、968、944cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=0.94(3H、s)、1.02(3H、s)、1.51(3H、m)、1.57(1H、dd、J=12.6、6.9Hz)、1.64(3H、m)、1.75(1H、dd、J=12.6、8.4Hz)、2.77(1H、m)、3.81-4.03(4H、m)、4.84(1H、d、J=4.6Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):δ=9.54、13.15、26.84、27.67、39.48、45.39、50.11、64.65、65.17、106.08、127.91、141.84ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、45、55、73、91、107、123、135、151、165、181、196(M+)。
【0132】
[実施例5]
2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B、1:R-R=エチレン基)の合成
【0133】
【化33】
【0134】
実施例2に従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)0.50g(85.5%GC)、エチレングリコール5.20g、20%塩酸0.51g及びヘキサン2.0gの混合物を窒素雰囲気下、6時間撹拌した。反応液をヘキサンで希釈し、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物として、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B)0.48g(75.0%GC、収率66%)を得た。
【0135】
該得られた2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B)の各種スペクトルデータは、実施例4で得られた各種スペクトルデータと同じであった。
【0136】
[実施例6]
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール(2A、2:R=メチル基)及び2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(2B、2:R-R=エチレン基)の合成
【0137】
【化34】
【0138】
実施例4に従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B)1.00g(95.8%GC)、メタノール15g及び5%パラジウム=カーボン0.23gを圧力容器(autoclave)に仕込み、水素ガスを封入して、12時間撹拌した。固形分を濾別し、溶媒を留去して、粗生成物として、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=ジメチル=アセタール(2A)と2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(2B)との混合物を褐色油状物として0.89g得た。
【0139】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドジメチルアセタール(2A)
褐色油状物(Brown oil)。
IR(D-ATR):ν=2954、2872、2829、1455、1376、1190、1139、1123、1106、1059、966cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):主要異性体、δ=1.52(3H、d、J=7.3Hz)、0.81(3H、s)、0.94(3H、s)、0.96(3H、d、J=6.9Hz)、1.24(1H、dd、J=12.6、9.6Hz)、1.54-1.64(2H、m)、1.90-2.01(2H、m)、3.31(3H、s)、3.35(3H、s)、4.15(1H、d、J=7.3Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):主要異性体、δ=10.17、17.81、23.33、29.24、38.37、41.04、43.12、46.12、47.45、52.80、54.03、109.40ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、41、55、65、75、85、97、109、121、137、153、169、181、199。
【0140】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドエチレンアセタール(2B)
淡褐色油状物(Brownish oil)。
IR(D-ATR):ν=2955、2872、1459、1388、1377、1151、1089、1064、1036、962、943cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):主要異性体、δ=0.77(3H、d、J=7.3Hz)、0.83(3H、s)、0.95(3H、s)、0.98(3H、d、J=7.3Hz)、1.31(1H、dd、J=12.6、9.9Hz)、1.58-1.67(2H、m)、1.86(1H、m)2.10(1H、m)、3.80-3.88(2H、m)、3.90-4.20(2H、m)、4.76(1H、d、J=5.4Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):主要異性体、δ=10.12、17.69、23.40、29.21、37.46、41.22、42.24、46.21、48.82、64.76、64.99、107.87ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、45、55、73、83、97、109、121、136、153、168、183、197。
【0141】
[実施例7]
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の合成
【0142】
【化35】
実施例6において得られた粗生成物に、ヘキサン2.0g、テトラヒドロフラン2.0g、20%塩酸2.7gを加えて、窒素雰囲気下、17時間撹拌した。苛性ソーダにて中和、水層を除去し、そして次に、再度20%塩酸2.7gを加えて、窒素雰囲気下、18時間撹拌した。再度苛性ソーダにて中和し、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物として2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)0.66g(80.0%GC)を得た。
【0143】
2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテンカルバルデヒド=エチレン=アセタール(1B)より、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の粗収率は70%であった。
GC分析より、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)中の(1R,2R,3S)-体(3”)(OMB性フェロモンと同じ相対立体配置)のジアステレオマー比は62.8%drであった。
【0144】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)
淡黄色油状物(Yellowish oil)。
IR(D-ATR):ν=2959、2872、2707、1723、1663、1456、1379cm-1
GC-MS(EI,70eV):29、41、55、69、83、97、98、109、123、139、154(M+)。
【0145】
[比較合成例]
(2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(5’)からの、(2S,3S)-4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチルシクロペンタン(103)の合成
【0146】
【化36】
【0147】
(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド4.46gとテトラヒドロフラン10gとの混合物を窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら、カリウムtert-ブトキシド1.35gを加えた。20分間撹拌し、そして次に、(2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(5’)1.50g(85.6%GC)とトルエン10gとの混合物を加えた。室温に昇温し、10時間撹拌した。水及びジエチルエーテルを加え、有機層を分離し、そして次に、分液洗浄、ろ過、乾燥、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物として、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチルシクロペンタン1.41g(75.8%GC,粗収率63.5%)を得た。
【0148】
該得られた生成物は、基質である(2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(5’)の2位のメチル基がエピ化(epimerization)し、その後にウィッティッヒ反応に付されることにより生成する(2S,3S)-体(103)であり、一方、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(2S,3R)-体(4’)はGC-MS分析で存在が確認できなかった。
【0149】
なお、相対立体配置については、本反応生成物を、非特許文献1に記載の方法に従って、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートへ変換し、非特許文献3に記載の物性データと比較することにより確認した。
【産業上の利用可能性】
【0150】
上記の結果より、本発明の製造方法を適用すれば、重要農業害虫であるOMBの性フェロモンとして、発生予察及び防除等への応用が期待される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの重要製造中間体である(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを、既存の方法と比較して、安全、効率的、選択的かつ工業的に製造可能であり、産業上の利用価値が非常に高いことが示された。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
【非特許文献1】J.Millarら,J.Chem.Ecol.,31,2999(2005)
【非特許文献2】J.Millarら,Tetrahedron Lett.,48,6377(2007)
【非特許文献3】J.Millarら,Tetrahedron Lett.,52,4224(2011)
【非特許文献4】D.Reddyら,Tetrahedron Lett.,51,5291(2010)
【非特許文献5】Bull.Soc.Chim.Fr.,2981(1970)
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.,113,8062(1991)
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
また、本発明のその他の態様によれば、下記式(7)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドと下記一般式(XA)又は(XB)で表されるアルコール化合物とを酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、上記アセタール化合物(1)を得る工程をさらに含む、上記2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化6】
OH (XA)(式中、R は、上記で定義した通りである。);
HOR -R OH (XB)(式中、R は、互いに独立して、上記で定義した通りである。)
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
(工程E’)
上記(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)は、一般式(2’)で表される(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール化合物を酸の存在下で加水分解反応に付すことにより合成可能であると考えた。アルデヒド生成後、酸性の反応条件下ではアルデヒドの立体異性化が起こり、熱力学的に安定な1,2-トランス(trans)体に収束し、目的化合物である(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)が主成すると予想した。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
(工程D’)
(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール化合物(2’)は、一般式(1)で表されるアセタール化合物を還元反応に付すことにより、好ましくは二重結合への水素添加反応に付すことより合成可能であると考えた。一般に、水素添加反応では、二重結合に対して二つの水素原子が同じ面から付加するシン(syn)付加が優先する場合が多いため、2,3位のジメチル基については望む立体配置を有するシス(cis)体が主成すると予想した。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
(工程A)上記化学反応式中に示される通り、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(5)と、リンイリド化合物(6)とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、ビニルエーテル化合物(4)が得られる。
(工程B)次に、工程Aに従って得られたビニルエーテル化合物(4)を加水分解反応に付すことにより、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)が得られる。
(工程C1)工程Bに従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(7)を酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、目的化合物であるアセタール化合物(1)が得られる。
(工程C2)工程Aに従って又はその他の方法に従って得られたビニルエーテル化合物(4)を酸の存在下でアセタール化反応に付すことにより、アセタール化合物(1)が得られる。
(工程D)工程C1もしくはC2に従って得られたアセタール化合物(1)を水素添加反応に付すことにより、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール化合物(2)が得られる。
(工程E)工程Dに従って得られた2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドアセタール化合物(2)を加水分解反応付すことにより、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)が得られる。