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特開2023-123278熱伝導シート、および熱伝導シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123278
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】熱伝導シート、および熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20230829BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230829BHJP
   B29D 7/01 20060101ALI20230829BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230829BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
H01L23/36 M
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29D7/01
H01L23/36 D
H05K7/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027287
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
4F071
4F213
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA34X
4F071AB18
4F071AB29
4F071AD02
4F071AD06
4F071AE22
4F071AF44
4F071AG26
4F071AH12
4F071BB04
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC12
4F213AG03
5E322FA04
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA22
5F136FA51
5F136FA63
5F136FA88
5F136GA17
(57)【要約】
【課題】セラミック粒子の配向性を適切に制御することで、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備えた熱伝導シート、およびこのような熱伝導シートの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂と非球状セラミック粒子とを含む、熱伝導シートであって、前記非球状セラミック粒子のアスペクト比が1.1以上であり、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすことを特徴とする、熱伝導シートである。
(1)X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記非球状セラミック粒子の(300)面配向度が0.03以上である。
(2)所定の方法で測定した垂直配向パラメータが26以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と非球状セラミック粒子とを含む、熱伝導シートであって、
前記非球状セラミック粒子のアスペクト比が1.1以上であり、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす、熱伝導シート。
(1)X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記非球状セラミック粒子の(300)面配向度が0.03以上である。
(2)所定の方法で測定した垂直配向パラメータが26以上である。
【請求項2】
前記非球状セラミック粒子の長軸が熱伝導シートの厚み方向に配向している、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記樹脂と、前記非球状セラミック粒子とを含む条片が並列接合されてなる、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記樹脂が、液状樹脂を含む、請求項1から3の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記熱伝導シートについて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記非球状セラミック粒子の(006)面配向度が負である、請求項1から4の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記非球状セラミック粒子が非球状アルミナ粒子を含む、請求項1から5の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項7】
前記非球状セラミック粒子の含有割合が、65体積%以下である、請求項1から6の何れかに記載の熱伝導シート。
【請求項8】
樹脂と非球状セラミック粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、
前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、
前記ロール成形では、前記組成物を、第一ロールと、前記第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる、請求項1~7の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
前記第一ロールに対する前記第二ロールの外周速度比が、1.03/1以上2/1以下である、請求項8に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
前記第一ロールと前記第二ロールとの外周速度差が、0.06m/分以上1m/分以下である、請求項8または9に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
前記第一ロールと前記第二ロールとの間隔が、1mm以上である、請求項8から10のいずれかに記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート、および熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュール等)および集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、発熱体と放熱体との間に熱伝導性が高いシート状の部材(以下、「熱伝導シート」ともいう。)を用いる。
【0004】
熱伝導シートには、放熱を促進するための高い熱伝導性が求められる。また、熱伝導シートはその多くが上述したような電子部品に用いられるため、高い電気絶縁性も兼ね備えることが求められている。
【0005】
ここで、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備えた熱伝導シートとして、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナおよび酸化マグネシウム等の、電気絶縁性を有するセラミック粒子を含む、熱伝導シートが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、非球状アルミナ粒子および樹脂を含む一次シートを、厚み方向に積層等して得られる積層体を、積層方向に対して0°から30°の角度でスライスすることで、熱伝導シートを得る方法が開示されている。このような方法で得られた熱伝導シートでは、熱伝導シートの厚み方向に対し、非球状アルミナ粒子がその長軸方向で配向し、良好な伝熱パスを形成しており、熱伝導性が向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-280496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1などに記載の従来の熱伝導シートでは、セラミック粒子の配向性の制御が不十分であり、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を両立させることについて、改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、セラミック粒子の配向性を適切に制御することで、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備えた熱伝導シート、およびこのような熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂および非球状セラミック粒子を含む熱伝導シートにおいて、非球状セラミック粒子の特定の結晶格子面の配向度を所望の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。また、本発明者は、熱伝導シートの製造方法において、樹脂および非球状セラミック粒子を含む組成物を、外周速度が異なる第一ロールと第二ロールとを用いて一次シートに成形し、一次シートを厚み方向に積層等して得られる積層体を積層方向にスライスすることにより、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、前記課題を解決することを目的とするものであり、本発明は、樹脂と非球状セラミック粒子とを含む、熱伝導シートであって、前記非球状セラミック粒子のアスペクト比が1.1以上であり、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすことを特徴とする、熱伝導シートである。
(1)X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記非球状セラミック粒子の(300)面配向度が0.03以上である。
(2)所定の方法で測定した垂直配向パラメータが26以上である。
このような熱伝導シートは、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備える。
なお、本明細書において、非球状セラミック粒子のアスペクト比は、非球状セラミック粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意の50個の非球状セラミック粒子について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値により算出できる。
また、X線回折(XRD)プロファイルは、X線回折装置を用いて得たものである。X線回折装置としては、例えば、Rigaku製の「RINT2200」を用いることができる。熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の(300)面配向度および垂直配向パラメータは、本明細書の実施例に記載の方法に従って算出する。
【0012】
本発明の熱伝導シートにおいて、前記非球状セラミック粒子の長軸が熱伝導シートの厚み方向に配向していることが好ましい。このような熱伝導シートであれば、非球状セラミック粒子の配向によって熱伝導シートの厚み方向に対して良好な伝熱パスが形成されて、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
なお、「非球状セラミック粒子の長軸が熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、下記の方法によって得られる「熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の配向角度」の値が60°から90°であることをいう(厚み方向に対して平行が90°である)。
<非球状セラミック粒子の配向角度>
熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の配向角度は、熱伝導シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察して求める。具体的には、前記断面における任意の50個の非球状セラミック粒子の長軸に50本線を引き、熱伝導シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出する。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の配向角度とする。
【0013】
本発明の熱伝導シートは、前記樹脂と、前記非球状セラミック粒子とを含む条片が並列接合されてなることが好ましい。このような熱伝導シートであれば、熱伝導シートの厚み方向に非球状セラミック粒子の長軸を配向させやすいので、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
なお、本明細書において、「条片」とは、「熱伝導シートの厚み方向に貫通する熱伝導シート構成要素」を意味するものとする。
【0014】
本発明の熱伝導シートにおいて、前記樹脂は、液状樹脂を含むことが好ましい。樹脂が液状樹脂を含むものであれば、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上できる。
【0015】
本発明の熱伝導シートについて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記非球状セラミック粒子の(006)面配向度が負であることが好ましい。このような熱伝導シートであれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の(006)面配向度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って算出する。
【0016】
本発明の熱伝導シートにおいて、前記非球状セラミック粒子が非球状アルミナ粒子を含むことが好ましい。非球状セラミック粒子が非球状アルミナ粒子を含むものであれば、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上できる。
【0017】
本発明の熱伝導シートにおいて、前記非球状セラミック粒子の含有割合が、65体積%以下であることが好ましい。熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの強度および柔軟性を向上できる。
【0018】
この発明は上記課題を解決することを目的とするものであり、本発明は、樹脂と非球状セラミック粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含み、前記ロール成形では、前記組成物を、第一ロールと、前記第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる、上記熱伝導シートの製造方法である。このような製造方法によれば、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備える熱伝導シートを製造できる。
【0019】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記第一ロールに対する前記第二ロールの外周速度比は、1.03/1以上2/1以下であることが好ましい。第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上させると同時に、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。
【0020】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記第一ロールと前記第二ロールとの外周速度差は、0.06m/分以上1m/分以下であることが好ましい。第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上させると同時に、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。
【0021】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、前記第一ロールと前記第二ロールとの間隔は、1mm以上であることが好ましい。第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、一次シートの厚みを厚くできるため、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数を削減できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セラミック粒子の配向性を制御し、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備えた熱伝導シート、およびこのような熱伝導シートの製造方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の熱伝導シートは、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用できる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として機能し得るものであり、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成できる。本発明の熱伝導シートは、本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造できる。
【0024】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂と非球状セラミック粒子とを含み、任意に、繊維状炭素材料等のその他の成分をさらに含有し得る。非球状セラミック粒子は、熱伝導性および電気絶縁性に優れているので、非球状セラミック粒子を含んだ熱伝導シートであれば、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上できる。
また、本発明の熱伝導シートに含まれる非球状セラミック粒子のアスペクト比は1.1以上である。非球状セラミック粒子のアスペクト比が1.1以上であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
そして、本発明の熱伝導シートは、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすことを必要とし、両方を満たすことが好ましい。
(1)X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した非球状セラミック粒子の(300)面配向度(以下、単に「非球状セラミック粒子の(300)面配向度」ともいう。)が0.03以上である。
(2)所定の方法で測定した垂直配向パラメータ(以下、単に「垂直配向パラメータ」ともいう。)が26以上である。
熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の(300)面配向度が、0.03以上であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。また、熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の垂直配向パラメータが、26以上である熱伝導シートであれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
なお、上記条件を満たす熱伝導シートは、原料の組成物の組成及び成形条件を調整することにより製造できる。
【0025】
<樹脂>
樹脂としては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂としては、液状樹脂及び固体樹脂のいずれも用いることができる。樹脂は、1種を単独で使用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、樹脂としては、液状樹脂と固体樹脂との双方を用いることができる。樹脂として液状樹脂と固体樹脂とを併用する場合、液状樹脂と固体樹脂との質量比は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整できる。
樹脂は、液状樹脂を含むことが好ましい。樹脂が液状樹脂を含むものであれば、熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の充填率を高めることができ、且つ、熱伝導シートと被着体との密着性を高めることができる等の理由により、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。また、非球状セラミック粒子をより良好に分散できることにより、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上できる。
【0026】
液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されず、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、本明細書において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0027】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)、ブチルゴムが挙げられる。これらの中でも特に、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
樹脂が液状樹脂を含む場合、樹脂における液状樹脂の含有割合は、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上させる観点から、30質量%以上であることが好ましい。一方、樹脂における液状樹脂の含有割合は、例えば90質量%以下であり、80質量%以下でもよく、70質量%以下でもよい。
【0029】
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されず、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0030】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸又はそのエステル、ポリアクリル酸又はそのエステル等のアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;等が挙げられる。これらの中でも特に、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体を用いることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0031】
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;等が挙げられる。これらの中でも特に、ブタジエンゴムを用いることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
樹脂が固体樹脂を含む場合、樹脂における固体樹脂の含有割合は、例えば10質量%以上であり、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよい。一方、樹脂における固体樹脂の含有割合は、特に限定されず、例えば100質量%以下であり、80質量%以下でもよく、70質量%以下でもよい。
【0033】
熱伝導シートにおける樹脂の含有割合は、35体積%以上であることが好ましく、70体積%以下であることが好ましい。熱伝導シートにおける樹脂の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導シートの強度および柔軟性を向上できる。
【0034】
<非球状セラミック粒子>
非球状セラミック粒子としては、特に限定されず、例えば、非球状窒化ホウ素粒子、非球状窒化アルミニウム粒子、非球状アルミナ粒子および非球状酸化マグネシウム粒子等を用いることが出来る。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上させる観点から、非球状アルミナ粒子、非球状窒化ホウ素粒子を用いることが好ましく、非球状アルミナ粒子を用いることがより好ましい。
【0035】
非球状セラミック粒子のアスペクト比は、1.1以上であれば、特に限定されないが、1.2以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、3.0以下であることが好ましい。非球状セラミック粒子のアスペクト比が上記範囲内であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0036】
熱伝導シートは、(1)非球状セラミック粒子の(300)面配向度が、0.03以上、および、(2)垂直配向パラメータが26以上、の少なくとも一方を満たせば、特に限定されないが、非球状セラミック粒子の(300)面配向度は、0.06以上であることが好ましく、0.20以下であることが好ましい。非球状セラミック粒子の(300)面配向度が、上記範囲内であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。また、垂直配向パラメータは、60以下であることが好ましい。垂直配向パラメータが、上記範囲内であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0037】
熱伝導シートについて、X線回折プロファイルを用いて、ロットゲーリング法により算出した前記非球状セラミック粒子の(006)面配向度(以下、単に「非球状セラミック粒子の(006)面配向度」ともいう。)が負であることが好ましい。
【0038】
熱伝導シートにおいて、非球状セラミック粒子の長軸が熱伝導シートの厚み方向に配向していることが好ましい。ここで、熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の配向角度は、熱伝導シートの厚み方向に平行な方向を90°として、60°以上であることが好ましく、90°以下であることが好ましい。非球状セラミック粒子の配向角度が、上記範囲内であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0039】
非球状セラミック粒子の体積平均粒子径は、0.5μm以上であることが好ましく、10μm以下であることが好ましい。非球状セラミック粒子の体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、非球状セラミック粒子間の接触抵抗を低減することが可能となり、結果的に熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、非球状セラミック粒子の体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、熱伝導シート中に非球状セラミック粒子を適度に充填することが可能となり、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上できる。なお、本明細書において「体積平均粒子径」は、JISZ8825に準拠して測定でき、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0040】
熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の含有割合は、65体積%以下であることが好ましく、30体積%以上であることが好ましく、45体積%以上であることがより好ましい。熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの強度および柔軟性を向上できる。また、熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性および電気絶縁性を向上できる。更に、熱伝導シート中の非球状セラミック粒子の含有割合が上記下限値以上であれば、後述するロール成形において、樹脂および非球状セラミック粒子を含む組成物に高い剪断応力を加えることができ、この結果、一次シート中の非球状セラミック粒子が良好に配向し、これを用いて得られた熱伝導シートは熱伝導性に優れる。
【0041】
非球状セラミック粒子が、アスペクト比1.8以上の非球状セラミック粒子を含む場合、非球状セラミック粒子におけるアスペクト比1.8以上の非球状セラミック粒子の含有割合は、30体積%以上であることが好ましく、50体積%以上であることがより好ましく、100体積%であることが特に好ましい。非球状セラミック粒子におけるアスペクト比1.8以上の非球状セラミック粒子の含有割合が上記範囲内であれば、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0042】
<その他の成分>
本発明の熱伝導シートは、樹脂と非球状セラミック粒子とを含み、任意に、繊維状炭素材料等のその他の成分をさらに含有し得る。本発明の熱伝導シートが含み得るその他の成分は、特に限定されないが、繊維状炭素材料であることが好ましい。繊維状炭素材料を含む熱伝導シートであれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。本発明の熱伝導シートが含み得るその他の成分は、公知のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
<繊維状炭素材料>
繊維状炭素材料としては、特に限定されず、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、黒鉛繊維、カーボンナノチューブ、などの炭素繊維を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、繊維状炭素材料は、ピッチ系炭素繊維であることが好ましい。繊維状炭素材料がピッチ系炭素繊維であれば、熱伝導シート中において繊維状炭素材料が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0044】
繊維状炭素材料のアスペクト比は、10以上であることが好ましく、1000以下であることが好ましい。繊維状炭素材料のアスペクト比が上記範囲であれば、熱伝導シート中において繊維状炭素材料が良好に配向するため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。なお、本発明において、「繊維状炭素材料のアスペクト比」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて無作為に選択した繊維状炭素材料100本の最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0045】
熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合は、30体積%以上であることが好ましく、50体積%以下であることが好ましい。熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、熱伝導シート中の繊維状炭素材料の含有割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの電気絶縁性を向上できる。
【0046】
<熱伝導シートの性状>
熱伝導シートは、樹脂および非球状セラミック粒子を含む条片が並列接合されてなることが好ましい。このような熱伝導シートであれば、熱伝導シートの厚み方向に非球状セラミック粒子の長軸を配向させやすいので、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0047】
また、熱伝導シートは、樹脂および非球状セラミック粒子を含む条片が熱伝導シートの厚み方向に対して一方の略垂直な方向(厚み方向に対する角度が略90°の方向)に並列結合された構造を有してもよい。この略垂直な方向における条片の幅は、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。上記条片の幅は後述する製造方法における一次シートの厚みに依存し得る。そのため、条片の幅が上記下限以上の熱伝導シートは、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数がより削減されている。その結果、このような熱伝導シートは、後述する積層体形成速度が向上され、生産性が向上されている。一方、条片の幅が上記上限以下の熱伝導シートは、熱伝導シート中において非球状セラミック粒子が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導性が向上されている。
【0048】
熱伝導シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.10mm以上であることがより好ましく、0.50mm以下であることが好ましく、0.40mm以下であることがより好ましく、0.35mm以下であることが更に好ましい。熱伝導シートの厚みが上記下限以上であれば、熱伝導シートの強度を向上できる。一方、熱伝導シートの厚みが上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。
【0049】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、(A)樹脂と非球状セラミック粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、(B)一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、(C)積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得るスライス工程と、を含む。
【0050】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール(以下、「第一ロールよりも外周速度が速い第二ロール」を、単に「第二ロール」と称することがある。)との間を通過させる。このような熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造できる。また、このような熱伝導シートの製造方法によれば、セラミック粒子の配向性を制御し、上述した本発明の熱伝導シートを製造できる。
【0051】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、任意で、上記(A)~(C)以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0052】
<(A)一次シート成形工程>
一次シート成形工程では、樹脂と非球状セラミック粒子とを含む組成物をロール成形してシート状に成形し、一次シートを得る。
【0053】
〔組成物〕
組成物は、樹脂と非球状セラミック粒子とを含む。樹脂及び非球状セラミック粒子としては、「熱伝導シート」の項で上述した樹脂及び非球状セラミック粒子を、上述した比率で用いることができる。
【0054】
〔組成物の調製〕
組成物は、特に限定されず、上述した成分を混合することにより調製できる。なお、上述した成分の混合は、特に制限されず、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;等の既知の混合装置を用いて行うことができる。
【0055】
混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解又は分散させて樹脂溶液として、非球状セラミック粒子、及び任意で添加されるその他の成分と混合してもよい。
【0056】
混合時間は、例えば、5分以上60分以下である。
【0057】
混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下である。
【0058】
〔組成物の成形〕
調製した組成物は、任意に脱泡及び解砕した後に、ロール成形してシート状に成形できる。このように組成物をロール成形したシート状のものを、一次シートとすることができる。
なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0059】
本発明の熱伝導シートの製造方法において、ロール成形では、組成物を、第一ロールと、第一ロールよりも外周速度が速い第二ロールとの間を通過させる。このようなロール成形によれば、高い剪断応力を加えて組成物を成形でき、この結果、一次シート中の非球状セラミック粒子が良好に配向し、これを用いて得られた熱伝導シートは熱伝導性に優れる。
【0060】
第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(「第二ロールの外周速度」/「第一ロールの外周速度」)は、1.03/1以上であることが好ましく、1.05/1以上であることがより好ましく、1.1/1以上であることが更に好ましく、2/1以下であることが好ましく、1.3/1以下であることがより好ましく、1.2/1以下であることが更に好ましい。第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる熱伝導シートの生産性を向上できる。なお、外周速度比は、ロールの径及び/又は回転速度を変更することで調整できる。
【0061】
第一ロールと第二ロールとの外周速度差(「第二ロールの外周速度」-「第一ロールの外周速度」)は、0.06m/分以上であることが好ましく、0.1m/分以上であることがより好ましく、0.2m/分以上であることが更に好ましく、1m/分以下であることが好ましく、0.7m/分以下であることがより好ましく、0.5m/分以下であることが更に好ましい。第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記下限以上であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。一方、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの外周速度差が上記上限以下であれば、一次シートの表面に発生するシワを抑制して一次シートの平滑性を向上できる。即ち、一次シートの製品不良の発生を抑制し、これを用いて得られる熱伝導シートの生産性を向上できる。なお、外周速度差は、ロールの径及び/又は回転速度を変更することで調整できる。
【0062】
第一ロールと第二ロールとの間隔は、1mm以上であることが好ましく、1.2mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることが更に好ましく、3mm以下であることが好ましく、2.8mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、組成物に剪断応力が過度に加わることを抑制して一次シートの柔軟性を向上し、その結果、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。また、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であれば、一次シートの積層数、折畳数又は捲回数を削減できる。即ち、積層体形成速度を向上し、熱伝導シートの生産性を向上できる。なお、本発明においては、高い剪断応力を加えて組成物を成形しているため、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記下限以上であっても、一次シート中の非球状セラミック粒子が良好に配向し得る。一方、第一ロールと第二ロールとの間隔が上記上限以下であれば、より高い剪断応力を加えて組成物を成形できるため、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0063】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、一次シート成形工程で得られた一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳又は捲回して、樹脂及び非球状セラミック粒子を含む一次シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、一次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、一次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、一次シートの短手方向又は長手方向に平行な軸の回りに一次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、一次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0064】
なお、積層工程では、得られた積層体を、加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。積層体を加熱しながら積層方向に加圧する二次加圧を行うことにより、積層された一次シート相互間の融着を促進することができる。
【0065】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.05MPa以上0.50MPa以下とすることができる。また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。更に、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0066】
なお、一次シートを積層、折畳又は捲回して得られる積層体では、非球状セラミック粒子が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。
【0067】
<(C)スライス工程>
スライス工程では、積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、積層体のスライス片よりなる二次シートを得る。本工程にて得られた二次シートは本発明の熱伝導シートとしてもよい。
【0068】
積層体をスライスする方法としては、特に限定されず、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。
【0069】
積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されず、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナ及びスライサー)を用いることができる。
【0070】
積層体をスライスする角度は、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【実施例0071】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、体積分率等の算出に際して、各配合成分の体積として、各配合成分の質量をそれらの理論比重で除した値を採用した。なお、実施例における各種の測定及び評価は以下の方法に従って行った。
【0072】
<XRDプロファイルの測定>
実施例、比較例で得られた熱伝導シート及び無配向サンプルとしての非球状セラミック粒子について、XRD装置(Rigaku製、「RINT2200」)を用いてX線を照射したときの2θ=20~90°の範囲でXRDプロファイルを測定した。具体的には、CuKα線を用いて電圧40kV、電流400mAという条件で測定した。なお、熱伝導シートについては、熱伝導シート表面に対してXRDプロファイルを測定した。また、「無配向サンプルとしての非球状セラミック粒子(以下、単に「無配向サンプル」ともいう)」には、各実施例、比較例で用いた原材料を乳鉢で粉末状になるまで粉砕して得た粉末状の非球状セラミック粒子を用いた。
【0073】
<ロットゲーリング法による熱伝導シートの配向度の決定>
上述のXRDプロファイルの測定によって得られたXRDプロファイルから、ロットゲーリング法に従って、熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の(300)面配向度を算出した。具体的には、下記の手順にしたがって(300)面配向度に関するロットゲーリングファクターf300を算出した。
ロットゲーリングファクターf300は、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、下記式(a)により計算した。
300=(ρ-ρ0)/(1-ρ0)・・・(a)
ここで、式(a)中のρ0は、無配向サンプルのX線の回折強度(I0)を用いて計算した。具体的に、ρ0は、無配向サンプルにおける全回折強度の和(ΣI0(hkl))に対する、(300)面の回折強度の合計(ΣI0((300)面))の割合として、下記式(b)により算出した。
ρ0=ΣI0((300)面)/ΣI0(hkl)・・・(b)
式(a)中のρは、配向サンプル(熱伝導シート)のX線の回折強度(I)を用いて計算した。具体的にρは、熱伝導シートにおける全回折強度の和(ΣI(hkl))に対する、(300)面の回折強度の合計(ΣI((300)面))の割合として、下記式(c)により算出した。
ρ=ΣI((300)面)/ΣI(hkl)・・・(c)
なお、「回折強度」とは、XRDプロファイルにおける対象の配向面のピーク高さを意味する。(300)面配向の場合、回折強度とは、(300)面に相当する2θ=68°のピーク高さを意味する。
そして、上記非球状セラミック粒子の(300)面配向度に関するロットゲーリングファクターf300と同様にして、(006)面配向度に関するロットゲーリングファクターf006を算出した。なお、(006)面配向の場合の回折強度とは、(006)面に相当する2θ=37°のピーク高さを意味する。
【0074】
<垂直配向パラメータ>
熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の垂直配向パラメータを、配向サンプル(熱伝導シート)のX線の回折強度(I)を用いて計算した。具体的に、垂直配向パラメータは、熱伝導シートにおける非球状セラミック粒子の(300)面の回折強度の合計(ΣI((300)面))を非球状セラミック粒子の(006)面の回折強度の合計(ΣI((006)面))で除して得られる値(ΣI((300)面)/ΣI((006)面))である。
【0075】
<熱伝導率測定>
熱伝導シートの主面内について、それぞれ、熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α(m/s)]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp(J/g・K)]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下における比熱を測定した。
[比重ρ(g/m)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて比重(密度)(g/m)を測定した。そして、得られた測定値を用いて下記式(4):
λ=α×Cp×ρ・・・(4)
に代入し、熱伝導シートの熱伝導率λ(W/m・K)を算出した。
【0076】
<耐絶縁破壊性>
熱伝導シートの耐絶縁破壊性は、油中試験装置(多摩電測株式会社製、製品名「TJ-20S」)を用いて測定される耐電圧試験値により評価した。具体的には、3cm角の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、当該試料を23℃のシリコーン油中に浸漬した。浸漬から1分後に、昇圧速度0.6kV/秒で電圧の印加を開始し、試料に流れる電流(検知電流)が10mAとなった際の電圧(kV)を測定した。得られた電圧(kV)の値を試料である熱伝導シートの厚み(mm)で除することで、耐電圧試験値(kV/mm)を得た。耐電圧試験値が大きいほど、熱伝導シートが耐絶縁破壊性に優れており、電気絶縁性に優れていることを示す。なお、評価がC以上であれば熱伝導シートの耐絶縁破壊性が十分に高いと言える。
A:耐電圧試験値が12kV/mm以上
B:耐電圧試験値が10kV/mm以上12kV/mm未満
C:耐電圧試験値が8kV/mm以上10kV/mm未満
D:耐電圧試験値が8kV/mm未満
【0077】
(実施例1)
<組成物の調製>
樹脂として、常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標)1312」、分解温度:336℃)65部と、常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標)3350」分解温度:375℃)65部とを準備し、非球状セラミック粒子として非球状アルミナ粒子A(キンセイマティック社製、商品名「セラフ」、体積平均粒子径:10μm、アスペクト比:1.8)750部を準備した。これらを加圧ニーダー(日本スピンドル社製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合し、組成物を得た。
【0078】
<一次シート成形工程>
次いで、得られた組成物500gを、第一ロール及び第二ロールを用いて、第一ロールと第二ロールとの間隔2mm、ロール温度25℃、シート搬出速度(第一ロールの外周速度)2m/分、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(第二ロール/第一ロール):1.15/1の条件にて圧延加工(一次加圧)してシート状にした。シートの搬送方向を同一にして、圧延加工を繰り返した。合計で圧延加工を10回行い、厚み2mmの一次シートを得た。
【0079】
<積層体形成工程>
次いで、得られた一次シートを縦50mm×横50mm×厚み2mmに裁断し、一次シートの厚み方向に25枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向に対してプレス(二次加圧)することにより、高さ約50mmの積層体を得た。
【0080】
<スライス工程>
次いで、二次加圧された積層体の積層面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層された一次シートの主面の法線方向に)スライスすることにより、非球状アルミナ粒子の長軸が厚み方向に配向した、縦50mm×横50mm×厚み0.10mmの二次シート(熱伝導シート)を得た。熱伝導シートは、熱伝導シートの厚み方向に対して垂直な方向(厚み方向に対する角度が90°の方向)に並列結合された条片により構成されている。この略垂直な方向における条片の幅は、一次シートの厚みとほぼ同じである。得られた熱伝導シートについて、上記に従って各種測定及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例2)
組成物の調製において、非球状セラミック粒子として、非球状アルミナ粒子A(キンセイマティック社製、商品名「セラフ」、体積平均粒子径:10μm、アスペクト比:1.8)375部と、非球状アルミナ粒子B(日本軽金属社製、商品名「LS-711C」、体積平均粒子径:0.5μm、アスペクト比:1.2)375部とを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例3)
組成物の調製において、非球状セラミック粒子として、非球状アルミナ粒子A(キンセイマティック社製、商品名「セラフ」、体積平均粒子径:10μm、アスペクト比:1.8)219部と、非球状アルミナ粒子B(日本軽金属社製、商品名「LS-711C」、体積平均粒子径:0.5μm、アスペクト比:1.2)510部とを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4)
組成物の調製において、樹脂として、常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)50部と、常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)50部とを使用し、非球状セラミック粒子として、非球状アルミナ粒子Aを280部使用し、繊維状炭素材料として、ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂株式会社製、ダイアリード(登録商標)K223HM)170部を使用した。また、上述したXRDプロファイルの測定、ロットゲーリング法による熱伝導シートの配向度の決定、および、垂直配向パラメータの算出における無配向サンプルとしては、粉末状の非球状セラミック粒子(繊維状炭素材料は含まず)を用いた。
上述したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
一次シート成形工程において、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比を1/1に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
組成物の調製において、非球状セラミック粒子として、非球状アルミナ粒子Bを750部使用したこと以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、実施例1~4の熱伝導シートは、熱伝導率が高いことから熱伝導性に優れ、耐電圧試験値が大きいことから電気絶縁性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、セラミック粒子の配向性を制御することで、高い熱伝導性および高い電気絶縁性を兼ね備えた熱伝導シート、およびこのような熱伝導シートの製造方法を提供できる。