(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123807
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】アルカリホスファターゼの製造方法及びそれを用いて得られるアルカリホスファターゼ、並びにその製造のためのベクター及び形質転換体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20230829BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/80 20060101ALI20230829BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20230829BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230829BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N9/16 B ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/80 Z
C12N1/15
C12N15/12
C12N15/10 200Z
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110299
(22)【出願日】2023-07-04
(62)【分割の表示】P 2019546755の分割
【原出願日】2018-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2017193624
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 隼也
(57)【要約】 (修正有)
【課題】組換えALPの生産において、糖鎖が過剰かつ不均一に付加しすぎない単一アイソフォームのALPを高い生産性と分泌性を伴って製造できるALPの製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリホスファターゼ(ALP)を生産する能力を有するアスペルギルス(Aspergillus)属形質転換体を培養する工程を含む、ALPの製造方法である。前記ALPは、N型糖鎖付加モチーフの一部に糖鎖が付加しない変異を含むALPであってよい。前記アスペルギルス属形質転換体は、ALPのN末端側に、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CDHall、GlaB、GlaBss、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする遺伝子を有してよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリホスファターゼ(ALP)を生産する能力を有するアスペルギルス(Aspergillus)属形質転換体を培養する工程を含む、ALPの製造方法。
【請求項2】
ALPは、N型糖鎖付加モチーフの一部に糖鎖が付加しない変異を含むALPである、
請求項1に記載のALPの製造方法。
【請求項3】
アスペルギルス属形質転換体は、ALPのN末端側に、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CDHall、GlaB、GlaBss、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする遺伝子を有する、
請求項1又は2に記載のALPの製造方法。
【請求項4】
アスペルギルス属形質転換体は、ALPをコードする塩基配列に対して、その5’末端側に:
以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(a)配列番号2~15のいずれかの塩基配列;
(b)配列番号2~15のいずれかの塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
(c)配列番号2~15のいずれかの塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
あるいは、
以下の(d)~(f)のいずれかの分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(d)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列からなる分泌シグナルペプチド;
(e)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
(f)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
を有する、
請求項1又は2に記載のALPの製造方法。
【請求項5】
ALPは、ALPII又はIVである、
請求項1~4のいずれか一項に記載のALPの製造方法。
【請求項6】
ALPは、以下の(i)~(iii)のいずれかのタンパク質:
(i)配列番号31又は32のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(ii)配列番号31又は32のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALP活性を有するタンパク質;
(iii)配列番号31又は32のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつALP活性を有する活性を有するタンパク質;
あるいは、
以下の(iv)~(vi)のいずれかの塩基配列によりコードされるタンパク質:
(iv)配列番号33又は34の塩基配列;
(v)配列番号33又は34の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(vi)配列番号33又は34の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、ALP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載のALPの製造方法。
【請求項7】
ALPは、3個のN型糖鎖付加モチーフのうち1個又は2個に変異を有し、変異を有する該N型糖鎖付加モチーフには糖鎖が付加していないALPIIである、
請求項1~6のいずれか一項に記載のALPの製造方法。
【請求項8】
ALPIIにおいて、N型糖鎖付加モチーフが有する変異は、配列番号31の122位、249位、251位、及び410位のうちの1個又は2個である、
請求項7に記載のALPの製造方法。
【請求項9】
ALPIIにおいて、N型糖鎖付加モチーフが有する変異は、配列番号31の122位におけるAsnからGln又はLysへの変異、249位におけるAsnからGln、Asp又はHisへの変異、251位におけるThrからCysへの変異、410位におけるAsnからGln又はLysへの変異のうちの1個又は2個である、
請求項7又は8に記載のALPの製造方法。
【請求項10】
アスペルギルス属形質転換体がショウユコウジカビ(Aspergillus sojae:アスペルギルス・ソーヤ)、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn:アスペルギルス・オリゼー)、クロコウジカビ(Aspergillus luchuensis:アスペルギルス・リュウキュウエンシス)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、又はアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)のいずれかの形質転換体である、
請求項1~9のいずれか一項に記載のALPの製造方法。
【請求項11】
アスペルギルス属形質転換体を培養した培養物から分泌画分を得る工程、及び、
分泌画分からALPを抽出する工程、
をさらに含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載のALPの製造方法。
【請求項12】
ゲルろ過法によって測定される分子量が80~150kDaである、糖鎖付加アルカリホスファターゼ(ALP)II。
【請求項13】
ALPのN末端側に対して、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CDHall、GlaBss、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する、アスペルギルス属形質転換用ベクター。
【請求項14】
ALPをコードする塩基配列に対して、その5’末端側に:
以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(a)配列番号2~15のいずれかの塩基配列;
(b)配列番号2~15のいずれかの塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
(c)配列番号2~15のいずれかの塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
あるいは、
以下の(d)~(f)のいずれかの分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(d)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列からなる分泌シグナルペプチド;
(e)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
(f)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
を有する、アスペルギルス属形質転換用ベクター。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のアスペルギルス属形質転換用ベクターを用いて形質転換された、アスペルギルス属形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリホスファターゼの製造方法及びそれを用いて得られるアルカリホスファターゼ、並びにその製造のためのベクター及び形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリホスファターゼ(以下、ALPと略称する。)は、分子生物学分野では、遺伝子組換え実験におけるDNAの脱リン酸化に用いられ、ウェスタンブロッティングの抗体の標識等に利用されている。また、産業分野では、臨床検査の免疫学的方法における標識酵素として用いられている。
効率良く均質に抗体を標識するためには、さらには、そのように標識された抗体(標識抗体)を利用して精度の良い臨床検査結果を得るためには、標識される抗体自体が、できる限り均質なものであることが好ましい。そして、そのためには、標識酵素自体も、できる限り均質なものであることが望ましい。
例えば標識抗体を均質なものとする方法として、抗体を標識する工程の後工程においては、標識された抗体と、標識されきらなかった抗体と、余剰の標識酵素とを物理的分離手法を用いて分離して、標識された抗体のみを取得する作業が必要となる。この作業において、標識酵素自体が、例えば分子量の点であるいは酵素としての性能の点で、不均一な混合物のような状態であった場合には、標識抗体も不均一な分子量及び酵素としての性能を有することとなってしまう場合がある。
【0003】
分子量に関していえば、後工程の分離段階において、特定分子量の標識抗体のみを取得してくるという対処方法があるとはいえるが、その場合でも分子量の分離には限界がある。また、後処理で目的の標識抗体画分を取得する上での歩留まりが悪化することから、やはり最初の標識酵素自体の均質性を高めることに対するニーズが存在する。
また、ALPには複数のアイソフォームが存在することも知られており、それらは比活性においてもばらつきを有しているため、例えば異なる比活性特性等を有する複数のアイソフォームの混合物からなるALP組成物を標識酵素として用いて抗体を標識したような場合においては、得られる標識抗体には活性の面での不均一性も生じてしまうこととなる。この観点からも、標識酵素自体の均質性を高めることに対するニーズが存在する。
【0004】
標識抗体の作製等に従来使用されてきたALPとしては、ウシ腸管からの抽出によって製造されるALPが挙げられる。このALPは、比活性が高く、標識酵素として有用であることから長年使用されてきているが、哺乳動物由来であるため、狂牛病等の感染症による原料輸出入制限、個体差による品質の大きなブレ等があり、安定供給性に劣るという問題が認識されている。また、ウシ腸管には複数のALPのアイソフォームが含まれており、抽出や精製を経て製造されている市販のALP製品であっても、なお複数種のアイソフォームを含む混合物であることが実情である。よって、上述の標識酵素として抗体を標識し、それを臨床検査に用いたいという目的に対しては、このALPは酵素製品としての均一性に劣るという問題を有している。
【0005】
上記の認識を踏まえ、これまでに、より均質性の高いALP製品を得るための様々な方法が検討されてきた。この方法として、例えば、ウシ腸管由来ALPを哺乳類細胞中で組換え発現させる方法が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この方法において、例えば、特定のアイソフォームをコードする遺伝子を選択し、その遺伝子のみを用いて組換え生産を行えば、発現されるタンパク質はその特定の1種のアイソフォームのみとすることができるため、比活性が大きく異なる複数のアイソフォームが混在してしまうことによる活性の不均一性を解消することができる。
【0006】
また、発現宿主としては、哺乳類細胞の代わりに酵母を宿主に採用して組換えALPを大量に生産する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。さらに、酵母で組換え生産を行う方法としては、酵母を発現宿主として得られたALPを取得後に、後工程として脱グリコシル化処理することにより、糖鎖量を低減したALPを得るという方法も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第93/18139号
【特許文献2】特許第4295386号
【特許文献3】特許第3657895号
【特許文献4】国際公開第2004/083862号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されるようなウシ腸管由来ALPの組換え発現により得られるALPは、哺乳類細胞としてCHO細胞等を発現宿主として用いているため、ALPの生産量が少ないという課題を有する。
【0009】
また、特許文献3に開示されるように酵母を発現宿主とした場合には、発現されるタンパク質に過剰に糖鎖が付加してしまうという、ハイパーグリコシレーションの課題が生じる。実際に、酵母を宿主として組換え生産したALPにおいては、ウシ腸管からの抽出によって製造されるALPに比べて、糖の付加量が極めて多く、しかもそれは不均一に多量に付加しているために、得られるALPは糖鎖の均一性の低い酵素となってしまうという課題を有する。酵素の不均一性の課題は、抗体を酵素標識する工程のみならず、ALPをコンジュゲート作製やセンサーへの応用に適用する場合にも、種々の工程におけるハンドリングの観点から課題となりえ、酵母で発現させる方法におけるALPへの糖鎖の過剰付加は産業上好ましくないと考えられる。
加えて、酵母細胞を宿主としたALP発現系においては、哺乳類細胞を宿主として発現させる時よりも生産量は多いとは言えるものの、生産されるALPはほとんど細胞外に分泌されず、細胞中に蓄積される。すなわち、ALPを取得するためには、酵母細胞を破砕して、細胞中のあらゆるその他の成分との混合状態の中から目的のALPを精製する工程を要し、製造工程上の作業効率の面でも未だ改善の余地を有する。
【0010】
特許文献4に開示される、酵母発現ALPの後処理的な脱グリコシル化処理は、酵素処理によって糖鎖付加量を減らすことができ、特許文献3に開示される糖鎖が過剰付加してしまうことによる酵母発現ALPが有する課題を一部解決する点では、好ましいと考えられる。しかし、実際には、酵素処理による糖鎖の切断はランダム的であって、必要な量の糖鎖を残しつつ脱糖鎖処理を行うことは難しく、また、処理バッチごとに均質な切断を実現することも難しい。従って、やはり、糖鎖付加状態の均質性という点では、継続的で再現性ある製品の供給には未だ課題を有するといえる。また、ALPを精製してきた後で、後工程としての酵素処理を追加し、その上で、脱グリコシル化されたALPと、脱グリコシル化されきらないALPと、脱グリコシル化用の酵素をゲルろ過等の分離工程によって、さらに分離し目的の脱グリコシル化されたALPのみを取得してこなければならないという、煩雑な脱糖鎖処理の工程が新たに必要となるという課題を有する。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、組換えALPの生産において、糖鎖が過剰かつ不均一に付加しすぎない単一アイソフォームのALPを高い生産性と分泌性を伴って製造できるALPの製造方法及びそれを用いて得られるALPII又はIV、並びにその製造のためのベクター及び形質転換体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意研究を重ねた結果、糖鎖付加されたALPを生産する能力を有するアスペルギルス属形質転換体を培養する工程を含むALPの製造方法を用いることにより、特にウシ組織由来のALPのN末端側に対して、特定のアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する、アスペルギルス属形質転換用ベクターを用いて形質転換された、アスペルギルス属形質転換体を培養するALPの製造方法を用いることにより、糖鎖が過剰かつ不均一に付加しすぎない単一アイソフォームのALPを高い生産性で発現させることができ、しかも発現されるALPは非常に効率よくアスペルギルス属形質転換体の細胞外へと分泌されることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1]
アルカリホスファターゼ(ALP)を生産する能力を有するアスペルギルス(Aspergillus)属形質転換体を培養する工程を含む、ALPの製造方法。
[2]
ALPは、N型糖鎖付加モチーフの一部に糖鎖が付加しない変異を含むALPである、
[1]に記載のALPの製造方法。
[3]
アスペルギルス属形質転換体は、ALPのN末端側に、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CDHall、GlaB、GlaBss、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする遺伝子を有する、
[1]又は[2]に記載のALPの製造方法。
[4]
アスペルギルス属形質転換体は、ALPをコードする塩基配列に対して、その5’末端側に:
以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(a)配列番号2~15のいずれかの塩基配列;
(b)配列番号2~15のいずれかの塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
(c)配列番号2~15のいずれかの塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
あるいは、
以下の(d)~(f)のいずれかの分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(d)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列からなる分泌シグナルペプチド;
(e)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
(f)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
を有する、
[1]又は[2]に記載のALPの製造方法。
[5]
ALPは、ALPII又はIVである、
[1]~[4]のいずれかに記載のALPの製造方法。
[6]
ALPは、以下の(i)~(iii)のいずれかのタンパク質:
(i)配列番号31又は32のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(ii)配列番号31又は32のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALP活性を有するタンパク質;
(iii)配列番号31又は32のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつALP活性を有する活性を有するタンパク質;
あるいは、
以下の(iv)~(vi)のいずれかの塩基配列によりコードされるタンパク質:
(iv)配列番号33又は34の塩基配列;
(v)配列番号33又は34の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(vi)配列番号33又は34の塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつ、ALP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
を有する、
[1]~[5]のいずれかに記載のALPの製造方法。
[7]
ALPは、3個のN型糖鎖付加モチーフのうち1個又は2個に変異を有し、変異を有する該N型糖鎖付加モチーフには糖鎖が付加していないALPIIである、
[1]~[6]のいずれかに記載のALPの製造方法。
[8]
ALPIIにおいて、N型糖鎖付加モチーフが有する変異は、配列番号31の122位、249位、251位、及び410位のうちの1個又は2個である、
[7]に記載のALPの製造方法。
[9]
ALPIIにおいて、N型糖鎖付加モチーフが有する変異は、配列番号31の122位におけるAsnからGln又はLysへの変異、249位におけるAsnからGln、Asp又はHisへの変異、251位におけるThrからCysへの変異、410位におけるAsnからGln又はLysへの変異のうちの1個又は2個である、
[7]又は[8]に記載のALPの製造方法。
[10]
アスペルギルス属形質転換体がショウユコウジカビ(Aspergillus sojae:アスペルギルス・ソーヤ)、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn:アスペルギルス・オリゼー)、クロコウジカビ(Aspergillus luchuensis:アスペルギルス・リュウキュウエンシス)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、又はアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)のいずれかの形質転換体である、
[1]~[9]のいずれかに記載のALPの製造方法。
[11]
アスペルギルス属形質転換体を培養した培養物から分泌画分を得る工程、及び、
分泌画分からALPを抽出する工程、
をさらに含む、
[1]~[10]のいずれかに記載のALPの製造方法。
[12]
ゲルろ過法によって測定される分子量が80~150kDaである、糖鎖付加アルカリホスファターゼ(ALP)II。
[12-1]
単離された[12]に記載のALPII。
[13]
ALPのN末端側に対して、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CDHall、GlaBss、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する、アスペルギルス属形質転換用ベクター。
[14]
ALPをコードする塩基配列に対して、その5’末端側に:
以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(a)配列番号2~15のいずれかの塩基配列;
(b)配列番号2~15のいずれかの塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
(c)配列番号2~15のいずれかの塩基配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
あるいは、
以下の(d)~(f)のいずれかの分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(d)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列からなる分泌シグナルペプチド;
(e)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
(f)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
を有する、アスペルギルス属形質転換用ベクター。
[15]
[13]又は[14]に記載のアスペルギルス属形質転換用ベクターを用いて形質転換された、アスペルギルス属形質転換体。
[16]
[1]~[11]のいずれかに記載のALPの製造方法によって得られる、糖鎖付加アルカリホスファターゼ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、糖鎖が過剰かつ不均一に付加しすぎない単一アイソフォームのALPを高い生産性と分泌性を伴って製造できるALPの製造方法が提供され、また新規なALPII、ベクター、並びに形質転換体が提供され、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例3において、各培養上清画分と各菌体内画分のALP活性測定を行い、分泌率を算出した結果と、比較例において、酵母発現での培養物のALP活性測定を行い、分泌率を算出した結果とを比較して示すグラフである。
【
図2】実施例5において、精製された各種bIAPIIのALP活性を測定し、比活性を算出した結果を示すグラフである。
【
図3】実施例10において、各培養上清画分と菌体内画分のALP活性を測定し、分泌率を算出した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のALPの製造方法(以下、本発明製造方法と略称する。)とは、ALPを生産する能力を有するアスペルギルス属形質転換体(以下、本発明形質転換体と略称する。)を培養する工程を含む製造方法である。より具体的には、ウシ腸管由来のALPを組換え発現によって製造する方法であって、ウシ腸管由来のALPを生産する能力を有する本発明形質転換体を培養する工程を含む製造方法である。
【0017】
本発明製造方法は、ALPを生産する能力を有するアスペルギルス属形質転換体を用いる点が少なくとも公知の何れのALPの製造方法とも異なっている。また、このような本発明形質転換体を用いることにより、高い分泌率及び生産性でALPを製造することが可能である。
【0018】
ALPは、既知のALPや新たに探索して得られたALPであってもよく、遺伝子工学的技術あるいは変異処理等の方法を用い、異なる理化学的性質を有するALPに改変することにより得られたALPであってもよい。例えば、既知のALPとしてはウシ(Bostaurus)腸管由来のALP〔bIAPII;Manes等,J.Biol.Chem.,273,No.36,23353-23360(1998)記載〕等が挙げられる。
【0019】
ALPは、そのN末端側に分泌シグナルペプチド、及びそのC末端側にGPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)付加シグナルペプチドを有してもよい。ALPを分泌発現させるために、GPI付加シグナルペプチドは除去してもよく、本来の分泌シグナルペプチドを残したまま用いてもよく、宿主由来の分泌シグナルペプチドをそのALP本来の分泌シグナルペプチドに代えて利用してもよい。N末端側に分泌シグナルペプチドを有するALPが本発明形質転換体内で発現された後、細胞内で分泌シグナルペプチド部分が削除され、その後、細胞から分泌シグナルペプチドを有していないALPが分泌される。一定の態様においては、上記の分泌シグナルペプチドは、N末端側に分泌シグナルペプチドとしての機能を有するペプチド部分(以下、「分泌シグナルペプチド部分」ともいう。)を有するキャリアタンパク質としてもよい。キャリアタンパク質は、C末端にリンカー(例えば、Kex2切断リンカー)が連結されたキャリアタンパク質を含むこともできる。ここで、分泌シグナルペプチド部分は、分泌シグナルペプチド自体と同じであってもよい。当該キャリアタンパク質は宿主によって効率的に分泌されるタンパク質の全部又はN末端の一部である。Kex2切断リンカーは、酵素番号EC3.4.21.61として定義されるセリンエンドペプチダーゼの切断モチーフKR(リジン-アルギニンジペプチド)をC末端に含むペプチドである。分泌経路においてタンパク質配列中に存在する切断モチーフKRのC末端側のペプチド結合がセリンエンドペプチダーゼによって分解される。キャリアタンパク質及びKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチド部分をN末端側に有するALPが本発明形質転換体内で発現された後、細胞内で分泌シグナルペプチドが削除され、その後、細胞から分泌シグナルペプチドを含まないALPが分泌される。
ALPは単離されたALPであってもよく、単離する方法としては、例えば後述する抽出する工程が挙げられる。
【0020】
本発明形質転換体において機能する分泌シグナルペプチド及びキャリアタンパク質の例としては、宿主由来セロビオースデヒドロゲナーゼ及びそのシトクロームドメイン、グルコアミラーゼ、エンドグルカナーゼ、アルカリホスファターゼ等の分泌タンパク質及びそのN末端側の一部(分泌シグナルペプチド部分)が挙げられる。
【0021】
ALPのアミノ酸配列中に含まれるN型糖鎖付加モチーフ(Asn-Xaa-Thr又はAsn-Xaa-Serのアミノ酸配列;XaaはPro以外のアミノ酸を示す。)の数はアイソフォームによって異なり、例えばbIAPIIは3個のN型糖鎖付加モチーフを有する。本発明において、ALPは、少なくとも一つのN型糖鎖付加モチーフに糖鎖が付加したALPであればよく、本来有するN型糖鎖付加モチーフが2個以上ある場合はそのうちの1つを除いたN型糖鎖付加モチーフをN型糖鎖が結合しなくなるように改変したN型糖鎖付加モチーフ改変型ALPでもよい。N型糖鎖付加モチーフに糖鎖が結合しなくなるための改変としては、N型糖鎖付加モチーフの1番目のAsn残基を別のアミノ酸に変異させる、2番目のXaa残基をProに変異させる、又は、3番目のThr/Ser残基を別のアミノ酸に変異させること等が挙げられる。
【0022】
次に、本発明形質転換体を作製するためのALPをコードする遺伝子及びそれを含むDNAの取得方法について、ウシ腸管由来のALPを例として以下に説明する。
本発明に用いるALPをコードする遺伝子を得るには、一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法を用いることができる。例えば、ウシ腸管細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNA又はmRNAを抽出する。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。
このようにして得られた染色体DNA又はcDNAのライブラリーを作製する。
次いで、ウシ腸管由来のALPのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNA又はcDNAのライブラリーからスクリーニングする方法あるいは上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法あるいは3’RACE法等の適当なポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)により、目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらを連結させて全長の目的遺伝子を含むDNAを得ることができる。
【0023】
このようにして得られたウシ腸管由来のALPをコードする遺伝子の好ましい一例として、ウシ腸管由来のALP遺伝子〔bIAPI;特許文献1又はWeissig等,Bioche.J.260,503-508(1993)〕、より好ましくは高比活性型のウシ腸管由来のALP遺伝子〔bIAPII等;特許文献2又はManes等,J.Biol.Chem.,273,No.36,23353-23360(1998)〕が挙げられる。また、ウシ腸管由来のALPのアミノ酸配列は公開されていることから、全アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドをDNAシンセサイザーにより合成して、相補鎖を会合させたうえでライゲーションして全長遺伝子を得ることもでき、全遺伝子中の一部分を合成したポリヌクレオチドを用い、部分的に相補鎖を会合させ、相補しあう部分をポリメラーゼで増幅し、全長遺伝子を得ることもできる。
【0024】
好ましい遺伝子配列はALPの遺伝子配列とアミノ酸レベルで一致するコドンを最適化したDNA配列である。コドンの最適化とは、例えばALP遺伝子配列の各コドンをサイレント突然変異によって最適化することを意味し、すなわち、アミノ酸レベルではなんら影響を与えないで選択された発現宿主により要求されるとおりに翻訳を増大させるためにDNAレベルでの変異を加えることである。これらの遺伝子は、常法通り形質転換される宿主に応じて選択される各種ベクターにクローニングされることが好ましい。
【0025】
ALPをコードする遺伝子を含む組換えベクター(組換え体DNA)は、ALPをコードする遺伝子を含むPCR増幅産物と各種ベクターとを、ALPをコードする遺伝子の発現が可能な形で結合することにより構築することができる。例えば、適当な制限酵素でALPをコードする遺伝子を含むDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な制限酵素で切断したプラスミドと連結することにより構築することができる。又は、プラスミドと相同的な配列を両末端に付加した該遺伝子を含むDNA断片と、インバースPCRにより増幅したプラスミド由来のDNA断片とを、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社)などの市販の組換えベクター作製キットを用いて連結させることにより得ることができる。各種のベクターには、形質転換体で機能するプロモーターを含み、さらに、ターミネーター、5’-非翻訳領域、3’-非翻訳領域、抗生物質耐性遺伝子、栄養要求性マーカー遺伝子が含まれてもよい。
【0026】
次に、本発明形質転換体について説明する。
本発明形質転換体は、特に限定されないが、上述したように得られた種々の組換え体DNAを用いて、アスペルギルス属菌株を形質転換又は形質導入し、種々の改変されたALP遺伝子断片を保有する組換え体DNAを含むアスペルギルス属形質転換体として得ることができる。
【0027】
本発明において、アスペルギルス属菌株とは、アスペルギルス属に属する菌株であれば特に限定されない。アスペルギルス属菌株としては、例えば、ショウユコウジカビ(Aspergillus sojae:アスペルギルス・ソーヤ)、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn:アスペルギルス・オリゼー)、クロコウジカビ(Aspergillus luchuensis:アスペルギルス・リュウキュウエンシス)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)等の菌株が挙げられる。これらの中でも、ショウユコウジカビ及びニホンコウジカビの菌株が、より確実に高い分泌率及び生産性でALPを得る観点から好ましい。
【0028】
本発明の一態様において、本発明形質転換体は、ALPのN末端側に、アスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする遺伝子を有する。アスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドとしては、例えば、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CHDHall、GlaBss、GlaB、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72が挙げられ、より優れた分泌性を得る観点から、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1~4、CDHall、GlaB、GlaBss、CelBss、CelB、SKIK_CDHss、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるものが好ましく、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1、CDHcytbKexmut2、GlaB、GlaBss、CelBss、CelB、AsAP1ss54、及びAsAP3ss72からなる群より選択されるものがより好ましく、CDHss、CDHcytbkex、CDHcytbKexmut1、CelBss、及びCelBからなる群より選択されるものがさらに好ましく、CDHss及びCDHcytbkexからなる群より選択されるものが特に好ましい。
【0029】
ここで、ALPのN末端側に分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列は、ALPのN末端側に直接的に分泌シグナルペプチドが結合されたアミノ酸配列であってもよく、ALPのN末端側にリンカー(例えば、Kex2切断リンカーをC末端に結合するキャリアタンパク質)を介する等により間接的に分泌シグナルペプチド部分が結合されたアミノ酸配列であってもよい。
【0030】
本発明形質転換体の一態様において、ALPをコードする塩基配列に対して、その5’末端側に:
以下の(a)~(c)のいずれかの塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(a)配列番号2~15のいずれかの塩基配列;
(b)配列番号2~15のいずれかの塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
(c)配列番号2~15のいずれかの塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列;
あるいは、
以下の(d)~(f)のいずれかの分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子:
(d)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列からなる分泌シグナルペプチド;
(e)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
(f)配列番号17~30のいずれかのアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチド;
を有する。
【0031】
「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された」という場合、欠失、置換若しくは付加される塩基の個数は、結果として得られる塩基配列がALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする限り特に限定されない。また、ここでの「数個」は、2以上の整数を意味し、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2個、3個又は4個である。各塩基配列における欠失、置換又は付加の位置は、結果として得られる塩基配列がALPの分泌活性を有する分泌シグナルペプチドをコードする限り、5’末端でも、3’末端でも、その中間であってもよい。
【0032】
「配列番号Xの塩基配列とY%以上の相同性を有」するとは、2つの塩基配列の一致が最大になるように整列(アライメント)させたときに、共通する塩基数の、配列番号Xに示す全塩基数に対する割合が、Y%以上であることを意味する。
【0033】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された」という場合、欠失、置換若しくは付加されるアミノ酸の個数は、結果として得られる分泌シグナルペプチドがALPの分泌活性を有する限り特に限定されない。また、ここでの「数個」は、2以上の整数を意味し、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2個、3個又は4個である。各分泌シグナルペプチドにおける欠失、置換又は付加の位置は、結果として得られる分泌シグナルペプチドがALPの分泌活性を有する限り、N末端でも、C末端でも、その中間であってもよい。
【0034】
「配列番号Xのアミノ酸配列とY%以上の相同性を有」するとは、2つの分泌シグナルペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるように整列(アライメント)させたときに、共通するアミノ酸残基数の、配列番号Xに示す全アミノ酸残基数に対する割合が、Y%以上であることを意味する。
【0035】
配列番号1の塩基配列は、ウシ腸管由来アルカリホスファターゼIV(bIAPIV)のN末端側の分泌シグナルペプチド(bIAPIVss)をコードする塩基配列である。
配列番号2の塩基配列は、麹菌セロビオースデヒドロゲナーゼ(CDH)由来の分泌シグナルペプチド(CDHss)をコードする塩基配列である。
配列番号3の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkex)をコードする塩基配列である。
配列番号4の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体1からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut1)をコードする塩基配列である。
配列番号5の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体2からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut2)をコードする塩基配列である。
配列番号6の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体3からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut3)をコードする塩基配列である。
配列番号7の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体4からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut4)をコードする塩基配列である。
配列番号8の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDHとKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチドキャリアタンパク質(CDHall)をコードする塩基配列である。
配列番号9の塩基配列は、麹菌グルコアミラーゼB由来の分泌シグナルペプチド(GlaBss)をコードする塩基配列である。
配列番号10の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌グルコアミラーゼBとKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチド(GlaB)をコードする塩基配列である。
配列番号11の塩基配列は、麹菌エンドグルカナーゼ由来の分泌シグナルペプチド(CelBss)をコードする塩基配列である。
配列番号12の塩基配列は、キャリアタンパク質である麹菌エンドグルカナーゼとKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチド(CelB)をコードする塩基配列である。
配列番号13の塩基配列は、麹菌CDH由来の分泌シグナルペプチドの開始コドン直後にSKIKのアミノ酸配列が挿入された分泌シグナルペプチド(SKIK_CDHss)をコードする塩基配列である。
配列番号14の塩基配列は、麹菌ALP由来の分泌シグナルペプチド1(AsAP1ss54)をコードする塩基配列である。
配列番号15の塩基配列は、麹菌ALP由来の分泌シグナルペプチド3(AsAP1ss72)をコードする塩基配列である。
【0036】
配列番号16のアミノ酸配列は、ウシ腸管由来アルカリホスファターゼIV(bIAPIV)のN末端側の分泌シグナルペプチド(bIAPIVss)のアミノ酸配列である。
配列番号17のアミノ酸配列は、麹菌セロビオースデヒドロゲナーゼ由来の分泌シグナルペプチド(CDHss)のアミノ酸配列である。
配列番号18のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkex)のアミノ酸配列である。
配列番号19のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体1からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut1)のアミノ酸配列である。
配列番号20のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体2からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut2)のアミノ酸配列である。
配列番号21のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体3からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut3)のアミノ酸配列である。
配列番号22のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDH由来のシトクロームbドメインとKex2切断リンカー変異体4からなる分泌シグナルペプチド(CDHcytbkexmut4)のアミノ酸配列である。
配列番号23のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌CDHとKex2切断リンカーからなる分泌シグナルペプチド(CDHall)のアミノ酸配列である。
配列番号24のアミノ酸配列は、麹菌グルコアミラーゼB由来の分泌シグナルペプチド(GlaBss)のアミノ酸配列である。
配列番号25のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌グルコアミラーゼBとKex2切断配列からなる分泌シグナルペプチド(GlaB)のアミノ酸配列である。
配列番号26のアミノ酸配列は、麹菌エンドグルカナーゼ由来の分泌シグナルペプチド(CelBss)のアミノ酸配列である。
配列番号27のアミノ酸配列は、キャリアタンパク質である麹菌エンドグルカナーゼとKex2切断配列からなる分泌シグナルペプチド(CelB)のアミノ酸配列である。
配列番号28のアミノ酸配列は、麹菌CDH由来の分泌シグナルペプチドの開始コドン直後にSKIKのアミノ酸配列が挿入された分泌シグナルペプチド(SKIK_CDHss)のアミノ酸配列である。
配列番号29のアミノ酸配列は、麹菌ALP由来の分泌シグナルペプチド1(AsAP1ss54)のアミノ酸配列である。
配列番号30のアミノ酸配列は、麹菌ALP由来の分泌シグナルペプチド3(AsAP1ss72)のアミノ酸配列である。
【0037】
本明細書においては、ALPの組換え発現に際し、分泌シグナルペプチドが細胞外にALPを分泌させるように機能することを「ALPの分泌活性」という。得られた本発明形質転換体において、分泌シグナルペプチドのALPの分泌活性を調べるには、例えば、次のように行うことができる。アスペルギルス属菌株が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、アスペルギルス属菌株の培養を効率良く行える天然培地又は合成培地に、形質転換体を接種し、温度20~42℃、好ましくは約30℃で10~120時間震盪培養しながらインキュベートする。炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース等の糖、デキストラン、デンプン等の炭水化物が挙げられる。この中でも、デキストランが好ましい。窒素源としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス等が挙げられる。中でも、酵母エキスとペプトンが好ましい。無機塩類としては、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムが挙げられる。中でも、硫酸マグネシウムが好ましい。また、培養液にはALP活性に必要な金属イオンとしてマグネシウムイオン及び亜鉛イオンを添加することが望ましい。次いで、得られる培養物を回収し、遠心分離又は遠心等により培養上清と菌体を含む残渣に分ける。残渣の菌体を細胞壁溶解酵素、界面活性剤、EDTA等の薬剤、超音波、マルチビーズショッカー等により菌体を破壊し、遠心分離等により菌体破砕上清を得る。得られる培養上清及び菌体破砕上清を使用して、ALP活性を測定する。本発明においては、培養上清画分のALP活性が確認されることを以って、ALPの分泌活性を有するという。また、ALPの分泌活性の強度は、下記式の分泌率として示すことができる。
分泌率=(培養上清総活性[U]÷(培養上清総活性[U]+菌体内画分総活性[U])×100)
本発明形質転換体のALPの分泌活性は、特に限定されないが、例えば後述の実施例におけるAPIVssを分泌シグナルペプチドとして用いた場合の分泌率と同等以上の分泌活性であることが好ましく、より具体的には後述の実施例において測定される分泌率として、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることがよりさらに好ましい。
【0038】
このようにしてALPの生産能を有する本発明形質転換体を得ることができる。本発明の一態様としての本発明形質転換体は、ALPが、N型糖鎖付加モチーフの一部に糖鎖が付加しないように、デザインされた遺伝子を有する。
より具体的には、ウシ腸管由来のALPアイソフォームII(bIAPII又はALPII)が、3個のN型糖鎖付加モチーフのうち1個又は2個に変異を有し、変異を有する該N型糖鎖付加モチーフには糖鎖が付加しないように、デザインされた遺伝子を有する。さらに具体的には、そのウシ腸管由来のALPIIにおいて、N型糖鎖付加モチーフが有する変異が、配列番号31の122位、249位、251位、及び410位のうちの1個又は2個である。より具体的には、そのウシ腸管由来のALPIIにおいて、N型糖鎖付加モチーフが有する変異は、配列番号31の122位におけるAsnからGln又はLysへの変異、249位におけるAsnからGln、Asp又はHisへの変異、251位におけるThrからCysへの変異、410位におけるAsnからGln又はLysへの変異のうちの1個又は2個である。
【0039】
このような本発明形質転換体が有する遺伝子の一例として、配列番号31の122位のAsnがGlnに、410位のAsnがGlnに置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0040】
また、本発明の一態様としての本発明形質転換体は、ALPII又はIVであるように、デザインされた遺伝子を有する。具体的なこれらのALPは、以下の(i)~(iii)のいずれかのタンパク質:
(i)配列番号31又は32のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(ii)配列番号31又は32のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつALP活性を有するタンパク質;
(iii)配列番号31又は32のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつALP活性を有する活性を有するタンパク質;
あるいは、
以下の(iv)~(vi)のいずれかの塩基配列によりコードされるタンパク質:
(iv)配列番号33又は34の塩基配列;
(v)配列番号33又は34の塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつALP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
(vi)配列番号33又は34の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつ、ALP活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;
を有する。
【0041】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された」という場合、欠失、置換若しくは付加されるアミノ酸の個数は、結果として得られるタンパク質がALP活性を有する限り特に限定されない。また、ここでの「数個」は、2以上の整数を意味し、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2個、3個又は4個である。各タンパク質における欠失、置換又は付加の位置は、結果として得られるタンパク質がALP活性を有する限り、N末端でも、C末端でも、その中間であってもよい。
【0042】
「配列番号Xのアミノ酸配列とY%以上の相同性を有」するとは、2つのタンパク質のアミノ酸配列の一致が最大になるように整列(アライメント)させたときに、共通するアミノ酸残基数の、配列番号Xに示す全アミノ酸残基数に対する割合が、Y%以上であることを意味する。
【0043】
「1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された」という場合、欠失、置換若しくは付加される塩基の個数は、結果として得られる塩基配列がALP活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されない。また、ここでの「数個」は、2以上の整数を意味し、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個、よりさらに好ましくは2個、3個又は4個である。各塩基配列における欠失、置換又は付加の位置は、結果として得られる塩基配列がALP活性を有するタンパク質をコードする限り、5’末端でも、3’末端でも、その中間であってもよい。
【0044】
「配列番号Xの塩基配列とY%以上の相同性を有」するとは、2つの塩基配列の一致が最大になるように整列(アライメント)させたときに、共通する塩基数の、配列番号Xに示す全塩基数に対する割合が、Y%以上であることを意味する。
【0045】
得られた本発明形質転換体のALP活性を調べるには、ALPの分泌活性を調べるために上述したようにALP活性を測定する。
本発明形質転換体のALP活性は、特に限定されないが、例えば形質転換前の野生株を培養して得られる分泌画分と同等以上の活性であることが好ましく、より具体的には分泌画分における後述する酵素活性値(U/ml)が10(U/ml)以上であることがより好ましい。
【0046】
配列番号31のアミノ酸配列は、ウシ腸管由来アルカリホスファターゼII(bIAPII)のアミノ酸配列である。
配列番号32のアミノ酸配列は、ウシ腸管由来アルカリホスファターゼIV(bIAPIV)のアミノ酸配列である。
【0047】
配列番号33の塩基配列は、ウシ腸管由来アルカリホスファターゼII(bIAPII)をコードする塩基配列である。
配列番号34の塩基配列は、ウシ腸管由来アルカリホスファターゼIV(bIAPIV)をコードする塩基配列である。
【0048】
次に、本発明製造方法が含み得る各工程について説明する。
本発明形質転換体を培養する工程は、特に限定されないが、本発明変異化物を固体培養法又は液体培養法のいずれで培養してもよく、液体培養法で培養することが好ましい。
【0049】
本発明形質転換体を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆、小麦麹の浸出液等の1種以上の窒素源に、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化コバルト、硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
【0050】
培養は、好ましくは20~37℃で、具体的には30℃前後で10~120時間、通気攪拌深部培養、振とう培養等により行われる。
【0051】
本発明製造方法は、本発明形質転換体を培地に培養する工程により得られる培養物から、ウシ腸管由来のALPを採取することによりウシ腸管由来のALPを製造することができる。本発明製造方法は、通常の酵素採取手段により本発明形質転換体を培養した培養物からウシ腸管由来のALPを採取することができ、好ましくは本発明形質転換体を培養した培養物から分泌画分を得る工程、及び、分泌画分からウシ腸管由来のALPを抽出する工程をさらに含むことが好ましい。
【0052】
本発明形質転換体を培養した培養物から分泌画分を得るには、例えば、培養物から細胞内画分を分離すればよく、例えば、ろ過、遠心分離等の操作により細胞内画分を分離する。本発明形質転換体は、ウシ腸管由来のALPの分泌率が高いため、細胞内画分に存在するよりも容易に抽出することが可能な分泌画分にウシ腸管由来のALPが多く存在する傾向にある。これにより、本発明製造方法は、培養物から容易にウシ腸管由来のALPを得ることができる。
【0053】
得られた分泌画分からウシ腸管由来のALPを抽出するためには、通常の酵素精製に用いられる方法が使用できる。例えば、硫安塩析法、有機溶媒沈殿法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲルろ過クロマトグラフ法、吸着クロマトグラフ法、電気泳動法等を単独で又は適宜組み合わせて行うことが好ましい。このようにして、ウシ腸管由来のALPを、SDS-PAGE的にほぼ単一のバンドを示すまでに抽出することができる。また、このような方法を適宜組み合わせて、用途に応じた精製度合の異なる標品に調整することもできる。
【0054】
また、培養工程により得られる培養物中の細胞内画分からもウシ腸管由来のALPを採取してもよい。この場合には、培養物又は分離した細胞内画分を洗菌することが好ましく、これをそのまま用いることもでき、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル等の種々の破壊手段を用いて菌体を破壊する方法、細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法、トリトンX-100等の界面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出する方法等により、菌体からウシ腸管由来のALPを採取することが好ましい。
【0055】
本発明のウシ腸管由来のALPの比活性は、好ましくは6500U/mg以上である。ALPの比活性の測定方法としては、酵素の反応により変換される基質の発色量の増減を測定する方法等が主な測定方法として挙げられる。以下に、一例として、p-ニトロフェニルリン酸の変換により生じるp-ニトロフェノールの吸光度増加を測定する方法について示す。なお、酵素力価は、p-ニトロフェニルリン酸を基質として測定したとき、1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを生成する酵素量を1Uと定義した。
A.試薬の調製
(1)試薬1:1.0M MgCl
2溶液
2.03gのMgCl
2・6H
2Oをイオン交換水に溶解し、10mlに定容する。
(2)試薬2:ジエタノールアミン(DEA)バッファー(用時調製)
52.2gDEA(Sigma―Aldrich社)を400mLイオン交換水に溶解し、0.25ml MgCl
2溶液(試薬1)を加える。その後、37℃に暖めてから、2N HClでpH9.8に調整し、イオン交換水で500mlに定容する。
(3)試薬3:0.65M p-ニトロフェニルリン酸溶液
247mg p-ニトロフェニルリン酸(Sigma―Aldrich社)を1mlのイオン交換水に溶解する。
(4)酵素希釈液
活性測定値が、0.10~0.20U/mlになるようにDEAバッファー(試薬2)で希釈する。
B.活性測定法
2.90mlのDEAバッファー(試薬2)と0.05mlのp-ニトロフェニルリン酸溶液(試薬3)を混和し、37℃で5分加温する。その後、0.05mlの酵素希釈液を添加し、混合の後、分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社)により、405nmにおける吸光度を測定する。測定値(ΔODtest)は、405nmにおける2分後から4分後の1分間あたりの吸光度変化とする。なお対照液(ΔODblank)は、酵素液の代わりに0.05mlのDEAバッファーを加える以外は前記と同様にしたものである。下記の計算式に従い、算出した値を酵素活性値(U/ml)とした。
【数1】
18.2:上記の測定条件下でのミリモル分子吸光係数(cm
2/micromole)1.0:光路長(cm)
C.比活性の算出
酵素溶液のタンパク質濃度(mg/ml)は分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社)を用いて280nmにおける吸光度を測定し、1.0OD=1.0mg/mlとして算出した。酵素活性値(U/ml)をタンパク質濃度(mg/ml)で除して、比活性(U/mg)を算出した。
【0056】
本発明において、ゲルろ過法によって測定されるALPIIの分子量は、好ましくは150kDa以下であり、より好ましくは80~150kDaであり、さらに好ましくは90~135kDaである。ゲルろ過法によって測定される分子量は、後述する実施例に記載の方法のとおり又はその方法に準じて測定される。
【0057】
本発明のアスペルギルス属形質転換用ベクターの一態様において、これは、ウシ腸管由来のALPのN末端側に対して、上述したアスペルギルス属菌由来の分泌シグナルペプチドを有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する。また、本発明のアスペルギルス属形質転換用ベクターの一態様において、これは、ウシ腸管由来のALPをコードする塩基配列に対して、その5’末端側に上述した塩基配列が結合した塩基配列からなる遺伝子を有する。本発明形質転換体は、これらの本発明のアスペルギルス属形質転換用ベクターを用いて形質転換されることにより、作製することができる。
【0058】
以下に、実施例により本発明を詳述する。
【実施例0059】
[実施例1.CDHss―bIAPIIを挿入したDNAコンストラクトの作製]
(1-1)コンストラクト用プラスミドの作製
国際公開第2016/121285号パンフレットの「[例1.遺伝子AsEgtA、AsEgtB又はAsEgtCを挿入したDNAコンストラクトの作製](3)コンストラクト用プラスミドの作製」に記載の方法と同様の方法で、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック社)に付属されているpUC19 linearized VectorのマルチクローニングサイトにあるIn-Fusion Cloning Siteに翻訳伸長因子遺伝子tef1のプロモーター配列であるPtef、アルカリプロテアーゼ遺伝子alpのターミネーター配列であるTalp、及びウリジン要求性を相補する形質転換マーカー遺伝子pyrGを連結させたコンストラクト用プラスミドを作製した。
【0060】
(1-2)遺伝子挿入DNAコンストラクトの作製
コンストラクト用プラスミドのPtef及びTalpの間に、対象遺伝子であるbIAPIIを連結させたDNAコンストラクトを次のとおりに作製した。
鋳型DNAとして上記で得られたコンストラクト用プラスミド、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施することによりコンストラクト用プラスミドのベクター断片を得た。使用したプライマーを下記に示す。増幅したベクター断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0061】
【0062】
ウシ腸管由来のアルカリホスファターゼII(bIAPII)のN末端側分泌シグナルペプチド(配列番号36)の代わりに麹菌セロビオースデヒドロゲナーゼ由来分泌シグナルペプチド(CDHss)を融合したbIAPII遺伝子を麹菌にコドン最適化したCDHss―bIAPII合成遺伝子(配列番号37)を委託合成した(Genscript社)。鋳型DNAとして上記で得られたCDHss―bIAPII合成遺伝子、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってPCRを実施し、挿入遺伝子DNA断片を得た。増幅するために使用したプライマーを下記に示す。なお、配列のうち、小文字の配列はコンストラクト用プラスミド(Ptef及びTalpの間)に連結するための付加配列を示す。増幅したDNA断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0063】
【0064】
上記のとおりに増幅したベクター断片と、CDHss―bIAPIIDNA断片とを、In-Fusion HD Cloning Kitを使用して、そのキットに添付されたプロトコールに従って連結して、CDHss―bIAPIIが挿入された遺伝子挿入DNAコンストラクト(pbIAPII)を得た。このようにして得られたDNAコンストラクトは、その上流から、pUC19由来のDNA断片とPtefのDNA断片とCDHssのDNA断片とbIAPIIのDNA断片とTalpのDNA断片とpyrGのDNA断片とpUC19由来のDNA断片とが連結されたものである。すなわち、pUC19 linearized Vector(クロンテック社)のIn-Fusion Cloning Siteに、Ptef-CDHss―bIAPII-Talp-pyrGの配列が順に連結されたDNAコンストラクトが得られた。
その後、氷水中で大腸菌コンピテントセルECOS Competent E.coli JM109(ニッポンジーン社)にDNAコンストラクト液を1/10量混合し、5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することで形質転換した。その後、50 μg/mlのアンピシリンを含むLB(Luria-Bertani)プレートへ塗り広げた。これを37℃で一晩静置培養し、コロニーを形成させた。
得られたコロニーを、50μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地で37℃、一晩振とう培養した。培養後の培養液を遠心分離して菌体を回収した。得られた菌体について、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社)を用いて、そのキットに添付されたプロトコールに従ってプラスミドDNA(DNAコンストラクト)を抽出した。
抽出したプラスミドDNA中に挿入された各DNAの塩基配列を決定することにより、CDHss―bIAPIIが挿入されたDNAコンストラクト(DNAコンストラクト名:pbIAPII)が得られたことを確認した。
【0065】
(1-3)部位特異的変異によるN型糖鎖付加モチーフ改変型ALP遺伝子挿入DNAコンストラクトの作製
N型糖鎖付加モチーフ改変型ALP_Asn122Gln(Δ1)を生成するために、CDHss―bIAPIIが挿入された遺伝子挿入DNAコンストラクト(pbIAPII)をテンプレートとし、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施した。使用したプライマーを下記に示す。増幅したDNA断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。上記のDNA断片を、In-Fusion HD Cloning Kitを使用して、そのキットに添付されたプロトコールに従って連結して、N型糖鎖付加モチーフへの変異Asn122Glnを含むCDHss―bIAPIIが挿入された遺伝子挿入DNAコンストラクト(pΔ1)を得た。以降、下記表に基づいて順次部位特的変異を導入することで各種のN型糖鎖付加モチーフ改変型ALP遺伝子挿入DNAコンストラクトを得た。
【0066】
【0067】
[実施例2.形質転換Aspergillus sojaeの作製]
(2-1)Aspergillus sojae NBRC4239株由来pyrG破壊株
各遺伝子挿入DNAコンストラクトをエタノール沈殿した後に、TEバッファーに溶解して、所望の濃度に調製したDNA溶液を、下記の手順でAspergillus sojae NBRC4239株由来pyrG破壊株(pyrG遺伝子の上流48bp、コード領域896bp、下流240bp欠損株)の形質転換に用いた。
【0068】
(2-2)Aspergillus sojae NBRC4239株由来pyrG破壊株の形質転換
500ml容三角フラスコ中の20mMウリジンを含むポリペプトンデキストリン液体培地100mlに、Aspergillus sojae NBRC4239株由来pyrG破壊株の分生子を接種し、30℃で約20時間振とう培養を行った後、菌体を回収した。回収した菌体からプロトプラストを調製した。得られたプロトプラスト及び20μgの遺伝子挿入DNAコンストラクトを用いて、プロトプラストPEG法により形質転換を行い、次いで0.5%(w/v)寒天及び1.2Mソルビトールを含むCzapek-Dox最少培地(ディフコ社;pH6)を用いて、30℃、5日間以上インキュベートし、コロニー形成能があるものとして形質転換Aspergillus sojaeを得た。
得られた形質転換Aspergillus sojaeは、ウリジン要求性を相補する遺伝子であるpyrGが導入されることにより、ウリジン無添加培地に生育できるようになることで、目的の遺伝子が導入された株として選択できた。
【0069】
[実施例3.形質転換Aspergillus sojaeの各種ALP生産]
3L容ジャーファーメンター中の液体培地(2%(w/v)ハイポリペプトン(日本製薬社)、2%(w/v)パインデックス#2(松谷化学工業社)、1%(w/v)酵母エキス(オリエンタル酵母社)、0.25%(w/v)KH
2PO
4(和光純薬工業社)、0.25%(w/v)K
2HPO
4(和光純薬工業社)、0.05%(w/v)MgSO
4・7H
2O(和光純薬工業社)、3mM MgCl
2(和光純薬工業社)、0.1mM ZnCl
2(和光純薬工業社);pH未調整)1800mlに、各種形質転換株の分生子を接種し30℃、撹拌速度250rpm、通気毎分25L、0.05MPa圧力下で培養を開始し、48時間後から撹拌速度500rpmに変更し、計5日間培養を行った。次いで、培養後の培養物をミラクロス(カルバイオケム社)でろ過分離し、培養上清と菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水で洗浄した後、菌体をペーパータオルに挟むことによって水分を押し出して湿菌体を得た。得られた湿菌体を秤量し、50mg湿菌体/mlになるようTrisバッファー(20mM Tris-HCl pH8.0、3mM MgCl
2、0.1mM ZnCl
2)を添加して、ホモジナイズ処理後、一部をジルコニアビーズと共に2mlスクリューキャップバイアルに入れ、ビーズショッカー(MS-100R、トミー精工社)を用いて2500rpm、20秒間の破砕を2回繰り返した。次いで、15000×gで5分間遠心し、得られた遠心上清を菌体内画分とした。
得られた培養上清画分と菌体内画分のALP活性測定を上述した「B.活性測定法」以下の記載に従い、分泌率(培養上清総活性[U]÷(培養上清総活性[U]+菌体内画分総活性[U])×100)を計算した(
図1)。
【0070】
[比較例.形質転換S.pombeの各種bIAPII生産]
特開2008-5734号の実施例5で得られるALP生産酵母S.pombeの培養液を同様に作製し、その培養液を遠心分離して菌体と培養上清画分に分け、続いて菌体をTrisバッファー(10mM Tris-HCl pH7.0、5mM MgCl
2、0.1mM ZnCl
2)に懸濁してビーズショッカーで菌体を破砕し、菌体内画分を取得した。得られた培養上清画分と菌体内画分について、実施例3と同様の方法でALP活性測定を行い、実施例3と同様に分泌率を計算した(
図1)。
【0071】
麹菌A.sojaeで発現した場合、各DNAコンストラクト(DNAコンストラクト名:pbIAPII、pΔ1、pΔ1k、pΔ13、及びpΔ1k3)に対応する各種bIAPII(ALP名:bIAPII、Δ1、Δ1k、Δ13、及びΔ1k3)の分泌率は75%以上と非常に高いが、酵母S.pombeで発現した場合、bIAPIIの分泌率は7%程度であった。また、酵母発現ではN型糖鎖付加モチーフの数が減るにつれて分泌率が低下していたが、麹菌発現ではN型糖鎖付加モチーフ数に依らず常に分泌率が高かった。
【0072】
[実施例4.各種ALPの精製]
培養上清を8000rpm、90分間間遠心分離して上清を回収し、限外ろ過膜AIP-1010(旭化成社)により濃縮、Trisバッファーで透析した。内液を回収し0.45μmフィルター(材質PES、ミリポア社)を通過したろ液を回収した。Trisバッファーで平衡化したQ-Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社)陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに試料を吸着させた後、1M NaClを含むTrisバッファーでグラジエント溶出した。終濃度30%になるように硫酸アンモニウムを加え、0.2μmフィルター(材質PES、ミリポア社)を通過したろ液を回収した。次いで、30%硫酸アンモニウムを含むTrisバッファーで平衡化したTOYOPearl Butyl―650C(東ソー社)疎水カラムクロマトグラフィーに試料を吸着させた後、Trisバッファーでグラジエント溶出し、限外ろ過膜アミコンウルトラ-15(分画分子量30kDa、ミリポア社)を用いて濃縮した。次いで、Trisバッファーで平衡化したHiload Superdex200pg(GEヘルスケア社)ゲルろ過カラムクロマトグラフィーにより分画精製した。
【0073】
[実施例5.比活性の測定]
精製された各種ALPのALP活性を測定し、タンパク質量を280nmの吸光度により求め、比活性を算出した(
図2)。
麹菌発現したbIAPII、Δ1、Δ1k、Δ13、及びΔ1k3は6000U/mg以上の高い比活性を示した。
【0074】
[実施例6.形質転換Aspergillus oryzaeによるbIAPII生産]
Aspergillus sojae NBRC4239株の代わりにAspergillus oryzae RIB40株を用いた以外は実施例2~5と同じ手順で、形質転換Aspergillus oryzae発現bIAPIIを調製した。
【0075】
[実施例7.分子量の測定]
精製された各種ALPの分子量をHPLC(Agilent 1220 Infinity LC、アジレント社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより測定した。0.1M NaClを含んだ100mMリン酸バッファーpH7.0で平衡化したTSK-gel G3000SW(7.5mmI.D.×30cm、東ソー社)に精製ALP溶液50μLをアプライし、カラム温度25℃、流速1mL/minで同バッファーにより溶出させ、280nmの吸光度を測定した。分子量マーカー(MW-Marker proteins、オリエンタル酵母工業社)により検量線を作成し、精製ALPの分子量を算出した(表4)。対照として、市販の酵母組換え発現ウシ腸管由来ALP(Alkaline Phosphatase recombinant highly active:Roche_ALP、Roche社)、脱糖鎖処理された酵母組換え発現ウシ腸管由来ALP(AlkalinePhosphatase recombinant highly active, Carbohydrate Reduced:Roche_ALP_CR、Roche社)、及び高比活性なウシ腸管抽出物由来ALP(ALP13G、BBI solutions社)を用いた。
【0076】
【0077】
アミノ酸配列中のN型糖鎖付加モチーフ数はbIAPIIにおいては3つ、Δ1及びΔ1kにおいては2つ、Δ13及びΔ1k3のおいては1つ含まれる。各種ALPに付加される糖鎖量はN型糖鎖付加モチーフ数に比例すると考えられ、糖鎖の量に応じて分子量も増加すると考えられる。実際、特開2008-5734号に記載の酵母S.pombeで発現されたbIAPIIの分子量は1100kDa、Δ1kの分子量は440kDa、Δ13及びΔ1k3の分子量は120kDaであり(特開2008-5734号の表5)、N型糖鎖付加モチーフ数の減少に応じてALPの分子量が低下していた。一方で、麹菌A.sojaeで発現して得られた各種ALPにおいても同様の傾向がみられ、さらに、麹菌A.sojae又はA.oryzaeで発現した各種ALPの分子量は酵母S.pombeで発現された同じN型糖鎖付加モチーフ数を有するALPよりも分子量が著しく低下していた。市販のPichia Patorisで発現されたウシ腸管由来ALP(Roche_ALP)、脱糖鎖処理されたRoche_ALP_CR、高比活性なウシ腸管由来ALP(ALP13G;BBI solutions社)の分子量はそれぞれ220kDa、145kDa、131kDaであった。市販のウシ腸管由来ALPよりも麹菌で発現した各種ALPの方が分子量は小さかった。
【0078】
[実施例8.各種分泌シグナルペプチドが融合したbIAPIVを挿入したDNAコンストラクトの作製]
(8-1)コンストラクト用プラスミドの作製
実施例1-1のCDHss―bIAPIIを挿入したDNAコンストラクト用プラスミドと同様の手順で、各種分泌シグナルペプチドが融合したbIAPIVを挿入したDNAコンストラクト用プラスミドを作製した。
【0079】
(8-2)ウシ腸管由来アルカリホスファターゼIV(bIAPIV)遺伝子挿入DNAコンストラクトの作製
コンストラクト用プラスミドのPtef及びTalpの間に、対象遺伝子であるbIAPIV遺伝子を連結させたDNAコンストラクトを次のとおりに作製した。
鋳型DNAとして上記で得られたコンストラクト用プラスミド、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施することによりコンストラクト用プラスミドのベクター断片を得た。使用したプライマーを下記に示す。増幅したベクター断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0080】
【0081】
ウシ腸管由来アルカリホスファターゼIV(bIAPIV)遺伝子(GenBankアクセッション番号配列;AAC33854)を麹菌にコドン最適化し、C末端側の膜結合シグナルペプチドをコードする領域を除いたbIAPIV合成遺伝子(配列番号60)を委託合成した(Genscript社)。鋳型DNAとして上記で得られたbIAPIV合成遺伝子、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってPCRを実施し、bIAPIV合成遺伝子DNA断片を得た。増幅するために使用したプライマーを下記に示す。なお、配列のうち、小文字の配列はコンストラクト用プラスミド(Ptef及びTalpの間)に連結するための付加配列を示す。増幅したDNA断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0082】
【0083】
上記のとおりに増幅したベクター断片と、bIAPIV合成遺伝子DNA断片とを、In-Fusion HD Cloning Kitを使用して、そのキットに添付されたプロトコールに従って連結して、bIAPIV合成遺伝子が挿入された遺伝子挿入DNAコンストラクト(pbIAPIV)を得た。このようにして得られたDNAコンストラクトは、上流から、pUC19由来のDNA断片とPtefのDNA断片とbIAPIV合成遺伝子DNA断片とTalpのDNA断片とpyrGのDNA断片とpUC19由来のDNA断片とが連結されたものである。すなわち、pUC19 linearized Vector(クロンテック社)のIn-Fusion Cloning Siteに、Ptef-bIAPIV合成遺伝子-Talp-pyrGの配列が順に連結されたDNAコンストラクトが得られた。
その後、氷水中で大腸菌コンピテントセルECOS Competent E.coli JM109(ニッポンジーン社)にDNAコンストラクト液を1/10量混合し、5分間氷水中で放置した後、42℃、45秒間処理することで形質転換した。その後、50 μg/mlのアンピシリンを含むLB(Luria-Bertani)プレートへ塗り広げた。これを37℃で一晩静置培養し、コロニーを形成させた。
得られたコロニーを、50μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地で37℃、一晩振とう培養した。培養後の培養液を遠心分離して菌体を回収した。得られた菌体について、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社)を用いて、キットに添付されたプロトコールに従ってプラスミドDNA(DNAコンストラクト)を抽出した。
抽出したプラスミドDNA中に挿入された各DNAの塩基配列を決定することにより、bIAPIV合成遺伝子が挿入されたDNAコンストラクト(pbIAPIV)が得られたことを確認した。
【0084】
(8-3)各種分泌シグナルペプチドを有するbIAPIV合成遺伝子挿入DNAコンストラクトの作製
bIAPIV合成遺伝子がコードするN末端側分泌シグナルペプチドが表3に示す分泌シグナルペプチド(Kex2切断リンカーを融合したキャリアタンパク質としての分泌シグナルペプチドを含む。)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子が挿入された種々のDNAコンストラクトを次のとおりに作製した。
【0085】
【0086】
鋳型DNAとしてpbIAPIV、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施することにより、pbIAPIVの分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が除かれた、コンストラクト用プラスミドのベクター断片を得た。使用したプライマーを下記に示す。増幅したベクター断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0087】
【0088】
国際公開第2016/121285号パンフレットの「[例1.遺伝子AsEgtA、AsEgtB又はAsEgtCを挿入したDNAコンストラクトの作製](2)Aspergillus sojae NBRC4239株の染色体DNAの抽出」と同様の操作で得られた染色体DNAを鋳型として、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってPCRを実施した。キャリアタンパク質となるセロビオースデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼB、及びエンドグルカナーゼの遺伝子(それぞれcdh、glab、及びcelb)を増幅するために使用したプライマーを下記表に示す。下表に記載の各プライマーを用いることで、各キャリアタンパク質のC末端にKex2切断配列を含むリンカー配列(配列番号61)が連結したアミノ酸配列(配列番号23、25、27)をコードするDNA断片を取得した。増幅したCDH遺伝子、GlaB遺伝子、及びCelB遺伝子のDNA断片を1%(w/v)アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0089】
【0090】
In-Fusion HD Cloning Kitを使用して、CDH遺伝子、GlaB遺伝子、及びCelB遺伝子のDNA断片と、コンストラクト用プラスミドのベクター断片とをそれぞれ連結して、CDH遺伝子、GlaB遺伝子、及びCelB遺伝子が挿入された遺伝子挿入DNAコンストラクト(pCDHall、pGlaB、及びpCelB)を得た。このようにして得られたDNAコンストラクトは、その上流から、pUC19由来のDNA断片とPtefのDNA断片と、各種キャリアタンパク質遺伝子のDNA断片と分泌シグナルペプチドをコードする塩基を含まないbIAPIV合成遺伝子DNA断片とTalpのDNA断片とpyrGのDNA断片とpUC19由来のDNA断片とが連結されたものである。すなわち、pUC19 linearized Vector(クロンテック社)のIn-Fusion Cloning Siteに、Ptef-各種キャリアタンパク質の遺伝子-Kex2切断配列を含むリンカーをコードする塩基配列-分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列を含まないbIAPIV合成遺伝子-Talp-pyrGの配列が順に連結されたDNAコンストラクト(pCDHall、pGlaB、及びpCelB)が得られた。
【0091】
得られたDNAコンストラクトを用いて、大腸菌JM109を形質転換した。その後、50μg/mlのアンピシリンを含むLB(Luria-Bertani)プレートへ塗り広げた。これを37℃で一晩静置培養し、コロニーを形成させた。
得られたコロニーを、50μg/mlのアンピシリンを含むLB液体培地で37℃、一晩振とう培養した。培養後の培養液を遠心分離して菌体を回収した。得られた菌体について、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社)を用いて、キットに添付されたプロトコールに従ってプラスミドDNA(DNAコンストラクト)を抽出した。
抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することにより、目的のDNAコンストラクト(pCDHall、pGlaB、及びpCelB)が得られたことを確認した。
【0092】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojae由来セロビオースデヒドロゲナーゼシトクロームbドメイン(CDHcytb)及びKex2切断配列を含むリンカー配列(配列番号61)からなる分泌シグナルペプチド(配列番号18)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpCDHall、配列番号71及び72のプライマー、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、CDHcytbkex-bIAPIVのコンストラクトDNA断片を得た。CDHcytbkex_bIAPIVのコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することによりDNAコンストラクト(pCDHcytbkex)が得られたことを確認した。
【0093】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojaeセロビオースデヒドロゲナーゼ由来分泌シグナルペプチド(CDHss;配列番号17)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpCDHall、配列番号73及び74のプライマー、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、CDHss-bIAPIVのコンストラクトDNA断片を得た。CDHss_bIAPIVのコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することによりDNAコンストラクト(pCDHss)が得られたことを確認した。
【0094】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojaeセロビオースデヒドロゲナーゼ由来分泌シグナルペプチド(CDHss)の開始メチオニン直後にSKIKを挿入した分泌シグナル(SKIK_CDHss;配列番号28)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpCDHss、配列番号75及び76のプライマーPCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、SKIK_CDHss-bIAPIVのコンストラクトDNA断片を得た。SKIK_CDHss-bIAPIVのコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することによりDNAコンストラクト(pSKIK_CDHss)が得られたことを確認した。
【0095】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojae由来セロビオースデヒドロゲナーゼシトクロームbドメイン(CDHcytb)及びKex2切断リンカー変異1~4を含むリンカー配列(配列番号62~65)からなる分泌シグナルペプチド(配列番号19~22)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpCDHcytbkex、配列番号77~81のプライマー、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、CDHcytbkexmut1_bIAPIV、CDHcytbkexmut2_bIAPIV、CDHcytbkexmut3_bIAPIV、CDHcytbkexmut4_bIAPIV、のコンストラクトDNA断片を得た。得られたコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することによりDNAコンストラクト(pCDHcytbkexmut1、pCDHcytbkexmut2、pCDHcytbkexmut3、pCDHcytbkexmut4)が得られたことを確認した。
【0096】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojaeグルコアミラーゼ由来分泌シグナルペプチド(配列番号24)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpbIAPIV、配列番号82及び83のプライマー、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、GlaBss_bIAPIVのコンストラクトDNA断片を得た。得られたコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することによりDNAコンストラクト(pGlaBss)が得られたことを確認した。
【0097】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojaeエンドグルカナーゼ由来分泌シグナルペプチド(CelBss;配列番号26)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpCelB、配列番号84及び85のプライマー、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、CelBss_bIAPIVのコンストラクトDNA断片を得た。CelBss_bIAPIVのコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することにより、bIAPIV遺伝子の上流にCelBssをコードする遺伝子が挿入されたDNAコンストラクト(pCelBss)が得られたことを確認した。
【0098】
次いで、bIAPIVの分泌シグナルシグナルペプチドがAspergillus sojaeアルカリホスファターゼ由来分泌シグナルペプチド(配列番号29及び30)に置き換えられたbIAPIV合成遺伝子を含むDNAコンストラクトを以下の手順で作製した。鋳型DNAとして上記で得られたpbIAPIV、PCRの酵素としてKOD-Plus-DNA Polymerase(東洋紡社)、配列番号86~89のプライマー、反応試薬として本酵素に付属のもの、装置としてT100TM サーマルサイクラー(BIO-RAD社)を使用して、本酵素に添付されたプロトコールに従ってインバースPCRを実施し、AsAP1ss_bIAPIV及びAsAP3ss_bIAPIVのコンストラクトDNA断片を得た。得られたコンストラクトDNA断片をIn-Fusion HD Cloning Kitを使用して、大腸菌JM109に形質転換した。
上述の方法でプレート培養し、得られたコロニーを培養後、菌体からプラスミドDNAを回収した。抽出したプラスミドDNA中に挿入されたDNAの塩基配列を決定することによりDNAコンストラクト(pAsAP1ss54及びpAsAP3ss72)が得られたことを確認した。
【0099】
[実施例9.形質転換Aspergillus sojaeの作製]
実施例8で得られた各種分泌シグナルペプチドを有するbIAPIV合成遺伝子を挿入したDNAコンストラクトを用い、実施例2に記載の方法に従って、Aspergillus sojae NBRC4239株由来pyrG破壊株の形質転換株を取得した。
【0100】
[実施例10.形質転換Aspergillus sojaeのフラスコ培養試験]
50mL容三角フラスコ中の液体培地(2%(w/v)ハイポリペプトン(日本製薬社)、2%(w/v)パインデックス#2(松谷化学工業社)、1%(w/v)酵母エキス(オリエンタル酵母社)、0.25%(w/v)KH
2PO
4(和光純薬工業社)、0.25%(w/v)K
2HPO
4(和光純薬工業社)、0.05%(w/v)MgSO
4・7H
2O(和光純薬工業社)、3mM MgCl
2(和光純薬工業社)、0.1mM ZnCl
2(和光純薬工業社);pH未調整)20mlに、実施例9で得られた各種形質転換株の分生子を接種し30℃、撹拌速度180rpmで培養を開始し、計3日間培養を行った。次いで、培養後の培養物をミラクロス(カルバイオケム社)でろ過分離し、培養上清と菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水で洗浄した後、菌体をペーパータオルに挟むことによって水分を押し出して湿菌体を得た。得られた湿菌体を秤量し、50mg湿菌体/mlになるようTrisバッファー(20mM Tris-HCl pH8.0、3mM MgCl
2、0.1mM ZnCl
2)を添加して、ホモジナイズ処理後、一部をジルコニアビーズと共に2mlスクリューキャップバイアルに入れ、ビーズショッカー(MS-100R、トミー精工社)を用いて2500rpm、20秒間の破砕を2回繰り返した。次いで、15000×gで5分間遠心し、得られた遠心上清を菌体内画分とした。
得られた培養上清画分と菌体内画分のALP活性測定を特開2008-5734号に記載の方法で行い、分泌率(培養上清総活性[U]÷(培養上清総活性[U]+菌体内画分総活性[U])×100)を計算した(
図3)。
【0101】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【表30】
【表31】
【表32】
【表33】
【表34】
【表35】
【表36】
【0102】
本出願は、2017年10月3日に出願された日本国特許出願2017-193624号に基づく優先権を主張するものであり、この内容はここに参照として組み込まれる。
本発明によれば、糖鎖が過剰かつ不均一に付加しすぎない単一アイソフォームのALPを高い生産性と分泌性を伴って製造できるALPの製造方法が提供され、また新規なALPII、ベクター、並びに形質転換体が提供され、産業上有用である。