(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123882
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】発光材料、発光インク、発光体及び発光デバイス
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230830BHJP
C09K 11/77 20060101ALI20230830BHJP
C09D 11/50 20140101ALI20230830BHJP
【FI】
C09K11/08 G
C09K11/77
C09D11/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119391
(22)【出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】ツァン テン
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
【テーマコード(参考)】
4H001
4J039
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CC11
4H001XA63
4J039AD03
4J039AD09
4J039BA21
4J039BC59
4J039BE12
4J039CA05
4J039EA27
(57)【要約】
【課題】基材上に固定された希土類錯体を含み、高い発光量子効率示す新規な発光材料を提供すること。
【解決手段】金属酸化物又は金属硫化物のうち少なくとも一方を含む基材と、基材に結合した2以上のリンカー基と、及びそれぞれのリンカー基に結合した、1つのホスフィンオキシド基を有するホスフィンオキシド配位子と、希土類イオンとを含む発光材料が開示される。1つの希土類イオンと2以上のホスフィンオキシド配位子とで希土類錯体が形成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物又は金属硫化物のうち少なくとも一方を含む基材と、
前記基材に結合した2以上のリンカー基と、
ぞれぞれの前記リンカー基に結合した、1つのホスフィンオキシド基を有するホスフィンオキシド配位子と、
希土類イオンと、
を含み、
1つの前記希土類イオンと2以上の前記ホスフィンオキシド配位子とで希土類錯体が形成されている、
発光材料。
【請求項2】
前記リンカー基が加水分解性シリル基の残基及びアリーレン基を含む、請求項1に記載の発光材料。
【請求項3】
前記基材が二酸化ケイ素を含む、請求項1又は2に記載の発光材料。
【請求項4】
当該発光材料が、前記希土類イオンと配位結合を形成している、光学活性を有する配位子を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の発光材料。
【請求項5】
前記基材が粒子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の発光材料。
【請求項6】
前記基材が平均粒径100nm以下の粒子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の発光材料。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の発光材料と、前記発光材料が分散した分散媒と、を含む、発光インク。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の発光材料を含む発光体。
【請求項9】
請求項8に記載の発光体を備える発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料、発光インク、発光体及び発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ等を含む基材上に発光性の希土類錯体を固定することが試みられている(例えば特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
特許文献1は、多孔質シリカに硝酸アルミニウム水溶液及び硝酸ユーロピウム水溶液を添加し混合後、乾燥及び焼成して得た焼成物に、シランカップリング剤で表面処理をして蛍光体を得る方法を開示する。アルミニウム及びユーロピウムはシリカ上に固定されているものの、それがどのような形式であるかは明らかでなく不均一に付着しているものと考えられる。
【0004】
非特許文献1、2は、ホスフィンオキシド配位子又はビピリジン配位子のような二座配位子が1つのリンカー基を介してシリカに結合したユーロピウム錯体含有粒子を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biju Fracis et al., Eur. J. Inorg. Chem, 2017, 3205-3213
【非特許文献2】Langmuir, 2013, 29, 5878-5888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基材上に固定された希土類錯体を含む従来の発光材料は、固定されない希土類錯体と比較して低い発光量子効率を示す傾向があった。そこで本発明の一側面は、基材上に固定された希土類錯体を含み、高い発光量子効率示す新規な発光材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、金属酸化物又は金属硫化物のうち少なくとも一方を含む基材と、前記基材に結合した2以上のリンカー基と、それぞれの前記リンカー基に結合した、1つのホスフィンオキシド基を有するホスフィンオキシド配位子と、希土類イオンとを含む発光材料を提供する。1つの前記希土類イオンと2以上の前記ホスフィンオキシド配位子とで希土類錯体が形成されている。
【0009】
本発明の別の一側面は、上記発光材料と、前記発光材料が分散した分散媒と、を含む、発光インクを提供する。
【0010】
本発明の更に別の一側面は、上記発光材料を含む発光体、及び、発光体を備える発光デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0011】
発明の一側面によれば、基材上に固定された希土類錯体を含み、高い発光量子効率示す新規な発光材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】シリカナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】シリカナノ粒子及び希土類錯体を含む発光材料の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】シリカナノ粒子及び希土類錯体を含む発光材料のEDSスペクトルである。
【
図4】発光材料又は希土類錯体のFT-IRスペクトルである。
【
図5】配位子、希土類錯体又は発光材料の励起スペクトルである。
【
図6】発光材料又は希土類錯体の発光スペクトルである。
【
図7】発光材料又は希土類錯体の発光減衰を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
一実施形態に係る発光材料は、金属酸化物又は金属硫化物のうち少なくとも一方を含む基材と、基材に結合した2以上のリンカー基と、及び該リンカー基に結合した、1つのホスフィンオキシド基を有する複数のホスフィンオキシド配位子と、複数の希土類イオンとを含む。1つの希土類イオンと2以上のホスフィンオキシド配位子とで希土類錯体が形成されている。
【0015】
下記化学式(I)は、発光材料の一例を模式的に示す。
【化1】
【0016】
式(I)中、Xは基材を示し、Lは基材X及びホスフィンオキシド配位子((Ar1)Ar2)P=O)に結合したリンカー基を示し、Ln(III)は希土類イオンを示す。Ar1及びAr2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Zは希土類イオンM(III)と配位結合を形成しているn座の配位子を示す。式(I)において、1つの希土類イオンM(III)、2つのホスフィンオキシド配位子、及び6/n個の配位子Zとで希土類錯体が形成されている。1つのリンカー基Lに結合したホスフィンオキシド基の数は、典型的には1つである。式(I)では1つの希土類錯体のみが図示されているが、通常、多数の希土類錯体がリンカー基Lを介して基材Xに結合している。本発明者らの知見によれば、2つ以上のリンカー基を介して基材X上に希土類錯体を固定することで、基材X上に希土類錯体が安定的に固定化され、基材に固定されない希土類錯体と比較して、より高い量子収率で発光することが実現できると考えられる。
【0017】
基材Xの形状は特に限定されず、例えば基材Xが粒子、フィルム又は板状体であってもよい。基材Xが粒子である場合、通常、希土類錯体が導入された発光材料も粒子状である。粒子状の発光材料は、例えば、発光インク、又は、バイオメディカル分野で用いられる蛍光粒子としての応用が期待される。基材としてのフィルムは、例えばプラスチックフィルムであってもよい。基材としての板状体は、例えばガラス板であってもよい。
【0018】
基材Xが粒子である場合、その平均粒径が1000nm以下、500nm以下、又は100nm以下であってもよく、10nm以上であってもよい。ナノオーダーの粒径を有するナノ粒子を基材Xとして有する粒子状の発光材料は、各種の分散媒に対して良好な分散性を有し易い。希土類錯体が導入された発光材料の粒子径が、1000nm以下、500nm以下、又は100nm以下であってもよく、10nm以上であってもよい。
【0019】
基材Xは金属酸化物、金属硫化物又はこれらの両方を含む。金属酸化物の例としては、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、及び酸化インジウムスズ(ITO)が挙げられる。金属硫化物の例としては、硫化亜鉛及び硫化カドミウムが挙げられる。基材Xが、ガラス体(例えば、シリカガラス、ITOガラス、フッ素ガラス)、又は結晶であってもよい。基材Xにおける金属酸化物及び金属硫化物の合計の含有量は、基材Xの質量を基準として50~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は90~100質量%であってもよい。
【0020】
リンカー基Lは、基材Xの金属酸化物又は金属硫化物と結合を形成している官能基を有する。官能基は、例えば加水分解性シリル基の残基であることができる。リンカー基Lが、ホスフィンオキシド基と結合したアリーレン基を更に有していてもよい。加水分解性シリル基の残基及びアリーレン基を含むリンカー基は、例えば下記式(1)で表される基のうち、Xを除く部分であってもよい。
【0021】
【0022】
式(1)中、Xは基材を示し、R1は2価の有機基を示し、R2は炭素数1~5、又は1~3のアルキル基を示し、Ar3はホスフィンオキシド基と結合しているアリーレン基(例えばフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基)を示す。pはSiに結合した3つの酸素原子のうち基材Xと結合しているものの数に対応する1~3の整数を示す。*はホスフィンオキシド基のリン原子と結合している部分を示す。R1は、通常、リンカー基を誘導する合成経路に由来する有機基である。例えば、R1がアミド基を含む基であってもよく、その場合のリンカー基Lの一例は下記式(1a)で表される。式(1a)中のR3はアルキレン基を示す。R3としてのアルキレン基の炭素数は、例えば、1以上又は2以上であってもよく、20以下、15以下又は10以下であってもよい。
【0023】
【0024】
式(I)中のAr1及びAr2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Ar1又はAr2としてのアリール基は、芳香族化合物から1個の水素原子を除いた残基であることができる。アリール基の具体例としては、置換又は無置換のベンゼン、置換又は無置換のナフタレン、置換又は無置換のアントラセン、又は置換又は無置換のフェナントレンから1個の水素原子を除いた残基が挙げられる。特に、Ar1及びAr2が置換又は無置換のフェニル基であってもよい。アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子であってもよい。
【0025】
発光材料に導入される希土類錯体を構成する希土類イオンは、通常、三価の希土類イオンである。希土類イオンは、発光色等に応じて、適宜選択することができる。希土類イオンは、例えば、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン、Gd(III)イオン、Sm(III)イオン、Yb(III)イオン、Nd(III)イオン、Er(III)イオン、Y(III)イオン、Dy(III)イオン、Ce(III)イオン、及びPr(III)イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることができる。高い発光強度を得る観点から、希土類イオンは、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン又はGd(III)イオンであってもよい。
【0026】
式(I)として例示される発光材料は、希土類錯体と配位結合を形成している、リンカー基Lを有するホスフィンオキシド配位子以外のn座の配位子Zを更に有する。配位子Zは二座配位子であってもよく、その例としては下記式(2)で表されるジケトン配位子が挙げられる。ジケトン配位子は、光増感作用により希土類錯体の発光強度等の更なる向上に寄与することができる。
【0027】
【0028】
式(2)中、R11及びR12は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい脂肪族基又は置換基を有していてもよい芳香族基を示し、R13は水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族基又は置換基を有していてもよい芳香族基を示し、R13がR11又はR12と結合して、置換基を有していてもよい環状基を形成していてもよい。R13は重水素原子であってもよい。
【0029】
R11、R12及びR13は、それぞれ独立にアルキル基(例えば、メチル基、tert-ブチル基)、ハロゲン化アルキル基、アリール基又はハロゲン化アリール基であってもよい。アルキル基及びハロゲン化アルキル基の炭素数は1~10であってもよい。R11、R12又はR13としてのハロゲン化アルキル基は、炭素数1~5のフルオロアルキル基(例えばトリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基)であってもよい。R11、R12又はR13としてのアリール基は、フェニル基、ナフチル基、又はチエニル基であってもよく、これらがハロゲン化されていてもよい。
【0030】
R13がR11又はR12と結合して形成される環状基は、置換基を有していてもよい環状の脂肪族基、芳香族基又はこれらの組み合わせからなる基であってもよい。
【0031】
配位子Zが光学活性を有していてもよい。光学活性を有する配位子Zを発光材料に導入することにより、発光材料に円偏光特性が付与され得る。光学活性を有する配位子Zは、例えば、下記式(20)で表されるカンファ―誘導体又はその鏡像異性体であってもよい。2種の鏡像異性体を任意の比率で組み合わせてもよい。
【0032】
【0033】
式(20)中、R21は式(2)中のR11と同義である。R22、R23及びR24はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、R25、R26、R27及びR28はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。R21、R22及びR23は置換基を有していてもよいアルキル基であってもよく、その炭素数は1~5であってもよい。R21、R22及びR23の具体例としては、メチル基が挙げられる。R24、R25、R26及びR27はそれぞれ独立に置換されていてもよいアルキル基であってもよく、その炭素数は1~5であってもよい。R24、R25、R26及びR27が水素原子であってもよい。式(20)で表されるカンファー誘導体及びその鏡像異性体の具体例としては、3-(トリフルオロアセチル)カンホラート、及び3-(パーフルオロブチリル)-(±)-カンホラートが挙げられる。
【0034】
発光材料は、例えば、基材Xの金属酸化物又は金属硫化物と結合を形成する官能基(例えば加水分解性シリル基)を含むリンカー基、及び、ホスフィンオキシド基を含むホスフィンオキシド配位子を有する化合物を、基材Xに結合させる工程と、基材Xにリンカー基を介して結合したホスフィンオキシド配位子と希土類イオンとで希土類錯体を形成させる工程とを含む方法によって得ることができる。下記式(3)は、発光材料の製造に用いることのできる、加水分解性シリル基を含むリンカー基、及びホスフィンオキシド配位子を有する化合物の一例を示す。式(3)中のR1、R2、Ar1、Ar2及びAr3は前記と同義である。
【0035】
【0036】
式(3)の化合物は、例えば、下記式(11)で表される、加水分解性シリル基及びアミノ基を有する化合物と、下記式(12)で表される、ホスフィンオキシド基及びカルボキシル基を有する化合物又はその誘導体との反応により得ることができる。式(11)及び(12)のようにアミノ基及びカルボキシル基の反応に限られず、反応により化学結合を生成し得る官能基の組み合わせを含む化合物を任意に適用することができる。
【0037】
【0038】
一実施形態に係る発光インクは、粒子状の発光材料と、発光材料が分散した分散媒とを含むことができる。発光インクを用いた印刷法等により発光体の膜を形成することができる。分散媒は特に制限されないが、例えばメタノール、エタノール、水、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、又はこれらの組み合わせであってもよい。発光インクが、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体を(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなど)、又はポリマー(ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなど)を含んでもよい。
【0039】
本実施形態に係る発光体は、上述の実施形態に係る発光材料を含む。この発光体は、各種の発光デバイス、又はセキュリティ材を構成することができる。発光デバイスの例としては、マイクロLED、交通標識及び電飾看板のような表示装置、液晶バックライト、並びに照明ディスプレイが挙げられる。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
1.合成
(1)Eu(hfa)3(H2O)2
酢酸ユーロピウム 1水和物(0.87 g, 2 mmol)を10 mLを蒸留水に溶解させた。そこに、1,1,1,5,5,5-Hexafluoro-2,4-pentandinone(0.9 mL, 6 mmol)の溶液を滴下した。室温で4時間の撹拌し、析出した黄色粉体を濾別し、メタノール/水の混合溶媒から再結晶させた。得られた結晶をトルエンで洗浄し、真空下で乾燥して、Eu(hfa)3(H2O)2を得た(収量1.12 g, 収率69%)。
IR spectrum (cm-1): ν(C=O) 1647 (s), ν(C-F) 1251-1136 (s)cm-1
1H NMR (CD3OD, 400 MHz, 300K) δ, ppm: 3.90 (s, 3H, CF3CH); 19F NMR (CD3OD,376 MHz, 300 K) δ, ppm: -80.8 (s, CF3) ppm
【0042】
(2)4-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸の合成
【化8】
【0043】
ジフェニル(p-トリル)ホスフィン(5.0 g)をシュレンク管に入れ、更にKMnO4(11.1 g)及びNaOH(0.43 M, 65 mL)を加えた。シュレンク管を90℃で15時間加熱し、高温の懸濁液をセライトを用いて濾過した。得られた溶液をジエチルエーテルで2回洗浄し、50% H2SO4を加えること固形分を析出させた。固形分を濾別し、エタノールから再結晶させた。回収された白色結晶をジエチルエーテルで洗浄し真空下で乾燥させて、4-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸を得た(収量3.1 g, 収率55%)。
IR spectrum (cm-1): ν(COO) 1705(s) and 1251(s), ν(P=O)1155(s)
1H NMR (CD3OD, 400 MHz, 300K) δ (ppm): 8.16 (m, 2H, Ar); 7.76 (m, 2H, Ar); 7.67 (m, 6H, Ar); 7.58 (m, 4H,Ar). 31P NMR (CD3OD,162 MHz, 300K) δ (ppm) : 32.1 (s)
【0044】
(3)ホスフィンオキシド配位子TPPO-Si(OEt)
3
【化9】
【0045】
4-(ジフェニルホスフィノ)安息香酸(0.61 g, 1.95 mmol)をシュレンク管に入れ、窒素雰囲気下、塩化チオニル(12mL)を加えた。室温で2時間の反応の後、過剰の塩化チオニルを除去して、単黄色の固体を得た。この固体を乾燥アセトトリル(10 mL)に溶解し、溶液にトリエチルアミン(2.16 mL, 15.34 mmol)及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン(0.49 mL, 2.05 mmol)を加え、溶液を室温で1.5時間撹拌した。溶媒を除去し、固体を水に懸濁させ、塩化メチレンで抽出した。塩化メチレン層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を除去して、暗褐色の粗生成物を得た。粗生成物を、酢酸エチルを溶出液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、TPPO-Si(OEt)3を得た(収量577 mg, 収率56%)。
Elemental analysis calcd for C28H36NO5PSi(525.66): C, 63.98; H, 6.90; N, 2.66; Found: C, 63.64; H, 6.97; N, 2.60
1H NMR (CD3OD, 400 MHz, 300K) δ (ppm): 7.94 (m, 2H, Ar), 7.54-7.78 (m, 12H, Ar) overlapping with (t, 1H, CO-NH),3.83 (t, 6H, CH2-O-Si), 3.38 (m, 2H, N-CH2CH2CH2-Si),1.72(t, 2H, -CH2-CH2-Si), 1.20 (t, 9H, CH3-CH2-O-),0.68 (t, 2H, -CH2-Si)
31P NMR (CDCl3,162 MHz, 300K) δ (ppm) : 32.1 (s)
【0046】
(4)Eu錯体(Eu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2)
【化10】
【0047】
Eu(hfa)3(H2O)2を1×10-3mbarの減圧下、135℃で4時間加熱することにより脱水させた。脱水させたEu(hfa)3(H2O)2(90mg, 0.11 mmol)をシュレンク管に入れ、窒素雰囲気下、乾燥エタノール(10 mL)を加え、その後、TPPO-Si(OEt)3(115 mg. 0.22 mmol)を加えた。形成された黄色の溶液を室温で5時間撹拌した。続いて溶媒を除去し、生成物を真空下で乾燥させて、)Eu(hfa)3[TPPO-Si(OEt)3]2を得た(収量189 mg, 収率94%)。
Elemental analysis calcd (%) for C71H75EuF18N2O16P2Si2(1824.4): C, 46.74; H, 4.14; N, 1.54; Found: C, 46.59; H, 4.38; N, 1.53
【0048】
(5)シリカナノ粒子
アンモニア溶液(28%, 9.5 mL)、トリエトキシシラン(7.0 mL)、及び無水エタノール(183 mL)を丸底フラスコに入れた。形成された溶液を45℃で1晩撹拌して、シリカナノ粒子を含む乳白色の分散液を得た。4000rpmの遠心分離によってシリカナノ粒子を回収し、無水エタノール(185mL)中に超音波法によって分散させた。
【0049】
(6)シリカナノ粒子に固定されたEu錯体を有する発光材料(SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2)
【化11】
【0050】
シリカナノ粒子のエタノール分散液(6 mL)を丸底フラスコに入れ、そこに窒素雰囲気下、TPPO-Si(OEt)3(142mg, 0.270 mmol)を徐々に加え、混合液を室温で一晩撹拌した。次いで、脱水させたEu(hfa)3(H2O)2(109 mg, 0.135 mmol)を加え、形成された反応液を室温で12時間撹拌した。シリカナノ粒子を遠心分離によって単離し、赤色の排出物が紫外光(365 nm)で観測されなくなるまでジエチルエーテルで洗浄した。洗浄後の粒子を真空下で乾燥させて、Eu錯体によって修飾された淡黄色のシリカナノ粒子(SiO2-Eu(hfa)3[TPPO-Si(O)3]2)を得た。
【0051】
2.評価
(1)粒径
Eu錯体による修飾前のシリカナノ粒子、及び、Eu錯体で修飾されたシリカナノ粒子である発光材料(SiO2-Eu(hfa)3[TPPO-Si(O)3]2)を動的光散乱法によって測定した。修飾前のシリカナノ粒子の平均粒径は36nmであり、粒子状の発光材料(SiO2-Eu(hfa)3[TPPO-Si(O)3]2)の平均粒径は53nmであった。
【0052】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM),エネルギー分散型X線分析(EDS)
修飾前のシリカナノ粒子、及び、Eu錯体で修飾されたシリカナノ粒子(SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2)を透過型電子顕微鏡によって観察した。
図1は修飾前のシリカナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真であり、
図2は、粒子状の発光材料(SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2)の透過型電子顕微鏡写真である。SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2の像において、Eu錯体に由来すると考えられる暗領域が多数観察された。さらに、SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2の像をエネルギー分散型X線分析(EDS)によって分析したところ、Eu、P、F、Si、C及びOの存在が確認され、このことからもEu錯体がシリカナノ粒子上に導入されたことが示唆された。
図3は、SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2のEDSスペクトルである。
【0053】
(3)フーリエ変換赤外分光(FT-IR)
図4は、TPPO-Si(OEt)
3、Eu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2、及びSiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2のFT-IRスペクトルである。Eu(hfa)
3(TPPO)
2及びEu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2のFT-IRスペクトルにおいて、TPPO-Si(OEt)
3の場合に観測されたP=O伸縮に由来する1184cm
-1のシグナルは観測されず、1142cm
-1のシグナルが観測され、このようなシグナルのシフトから、P=O基とEu(III)との配位結合の形成が示唆された。
【0054】
(4)熱重量分析
熱重量分析により、Eu(hfa)3[TPPO-Si(OEt)3]2及びSiO2-Eu(hfa)3[TPPO-Si(O)3]2の分解温度がそれぞれ208℃及び306℃であることが確認された。
【0055】
(5)光物理的特性
図5は、固体状態のEu(hfa)
3(H
2O)
2、Eu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2、及びSiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2の励起スペクトルである。Eu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2、及びSiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2の励起スペクトルでは、304nm及び334nmにおいてπ-π
*遷移に起因する幅広い吸収が観測された。
【0056】
図6は、固体状態のEu(hfa)
3(H
2O)
2、Eu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2、及びSiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2の発光スペクトル(励起光:356nm)である。SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2は、Eu(hfa)
3(H
2O)
2、及びEu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2と比較して顕著に強い発光を示した。
【0057】
図7は、固体状態のEu(hfa)
3(H
2O)
2、Eu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2、及びSiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2、並びに溶液中でのEu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2の発光減衰を示すグラフである。SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2は、Eu(hfa)
3(H
2O)
2、及びEu(hfa)
3[TPPO-Si(OEt)
3]
2と比較して長い発光寿命を示した。表1に各Eu錯体の光物理的特性(発光寿命τ
obs、放射速度定数k
r、無放射速度定数k
nr、4f-4f遷移の発光量子効率Φ
f-f及びトータルの発光量子収率Φ
tot)を示す。SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2は比較的大きなkrを示し、小さなknrを示した。SiO
2-Eu(hfa)
3[TPPO-Si(O)
3]
2は、2つ以上のリンカー基を用いた基材X上への希土類錯体の固定化によって、基材X上に希土類錯体が安定的に固定化することで、放射速度増大と熱失活過程の抑制が可能となり高い発光量子効率を示すと考えられる。
【0058】