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特開2023-123929生体情報を検出する装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123929
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】生体情報を検出する装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20230830BHJP
   G01S 13/32 20060101ALI20230830BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A61B5/11 110
G01S13/32
A61B5/0245 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027415
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】城本 一馬
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
5J070
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AA14
4C017AC40
4C017BC11
4C017BC16
4C038VA04
4C038VB32
4C038VB33
4C038VC20
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】本開示は、生体位置が変わる場合であっても、生体位置に追従して、生体の存在する距離ビンでの生体情報を測定可能にする事を目的とする。
【解決手段】本開示の生体情報検出装置及び生体情報検出方法は、距離ビン選択部が、電波を照射して得られた距離ビンのなかから、生体での反射波が含まれる距離ビンを選択し、生体情報検出部が、前記距離ビン選択部で選択された距離ビンを用いて、前記生体の生体情報を計測する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を照射して得られた距離ビンのなかから、生体での反射波が含まれる距離ビンを選択する距離ビン選択部と、
前記距離ビン選択部で選択された距離ビンを用いて、前記生体の生体情報を検出する生体情報検出部と、
を備える生体情報検出装置。
【請求項2】
前記距離ビン選択部は、前記生体の呼吸に相当する時間間隔を有する複数の距離ビンを用いて前記生体の存在する距離を測定し、測定された距離に相当する距離ビンを選択する、
請求項1に記載の生体情報検出装置。
【請求項3】
前記生体情報検出部は、
前記距離ビン選択部で選択された距離ビンのビート信号を周波数波形に変換し、
周波数波形から位相の変動を検出することで、
前記生体の心拍数又は脈拍を計測する、
請求項1又は2に記載の生体情報検出装置。
【請求項4】
前記距離ビン選択部は、予め定められた距離の範囲内に、前記生体での反射波が含まれる距離ビンが複数存在する場合、位相の変化が最大の距離ビンを選択する、
請求項1から3のいずれかに記載の生体情報検出装置。
【請求項5】
前記距離ビン選択部は、予め定められた距離の範囲ごとに、前記生体での反射波が含まれる距離ビンを選択する、
請求項1から4のいずれかに記載の生体情報検出装置。
【請求項6】
距離ビン選択部が、電波を照射して得られた距離ビンのなかから、生体での反射波が含まれる距離ビンを選択し、
生体情報検出部が、前記距離ビン選択部で選択された距離ビンを用いて、前記生体の生体情報を検出する、
生体情報検出方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の生体情報検出装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、呼吸、心拍又は脈拍等の生体情報を非接触により計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電波を用いた非接触型での生体情報の計測方法として、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式による微小角偏移方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。FMCW方式は、周波数変調をかけた電波を照射して、ある距離に存在する物標に反射した反射波から得られるビート信号の周波数から距離情報を得ることが可能である。また生体の存在する距離ビンでのビート信号の位相の変化から、呼吸、心拍又は脈拍に起因する振動すなわちバイタル信号を得ることができる。
【0003】
生体位置が変わると、バイタル信号を計測可能な距離ビンが変動するため、距離ビンの不一致による位相の飛び(非連続性)や信号の欠如など測定結果が不安定になる問題とされ、改善の検討がなされている。例えば特許文献1では、姿勢変化などに影響されない自己相関による周期を算出し、それを用いて呼吸の周期としている。しかし、特許文献1では、距離ビンは予め既知の距離を用いているため、姿勢の変化よりも大きな生体の移動には対応できない問題がある。仮に全ての距離ビンでレンジFFT(Fast Fourier Transformation)を行なう場合、膨大なデータ量となり、信号処理能力が追い付かない。特にバイタル信号を正確に計測する場合、その周期時間は長く、測定も長くなる為、更にデータ数が増す問題がある。
【0004】
また特許文献2の場合は、周波数掃引を行うことによって得られたFMCWの時間軸ビート信号をFFTにより周波数軸信号に変換し、特定の周波数ステップ毎に強度の変化量に移動平均などの処理を施し、そのピーク値の強度変動から呼吸の有無としている。特許文献2では、距離ビンを特定しておらず、生体の姿勢の変化や移動に対する考慮はされていない。このため、おおよその呼吸などの情報収集は出来るが、値の信頼性に乏しい問題がある。
【0005】
一般的にFMCWの場合、各距離ビンのビート信号には、人などの生体による反射波と周囲の物体からの反射波が含まれており、人などの生体の反射強度よりも金属や固定物(例えば、建物の壁、床、家具)からの反射信号の方が格段に大きい。また歩行する人などの様に動くもの等においては、動体状態で検出可能なバイタル信号は遥かに小さくなる。生体とその他環境雑音(測定したくない物)との比(D/U比)が小さいためである。このため、FMCWの計測結果から生体からの反射波を区別して微小角偏移を求める事が難しい。
【0006】
距離ビンの分解能を悪くし、多少生体位置が変わってもレンジFFTを行う距離ビンに影響がない様にする方法などが考えられる。しかし、距離分解能が悪くなり、周辺の物(例えばベッドのマットや周辺の家具など)生体以外の反射との分離が出来なくなる。また、バイタル信号がぼやけてしまうため、比較的大きな偏移の呼吸は計測できるが、小さい偏移の心拍又は脈拍は計測出来ないなど不都合が生じる。また計測結果の信頼度も低下する。
【0007】
ベッド上の人のように人が動かない事を想定したとしても、寝返りして元に戻った場合、多少の位置が変わる可能性がある。そのため、距離ビンが生体位置から外れたところで信号処理を行う事となり、計測値が正しくない値になったり、計測不能になったりする場合がある。このように、寝ている人や着座している人であっても、いつも同じ位置を保てる事はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-175031号公報
【特許文献2】特許第5848469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、生体位置が変わる場合であっても、生体位置に追従して、生体での反射波が含まれる距離ビンでの生体情報を測定可能にする事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
具体的には、本開示の生体情報検出装置及び生体情報検出方法は、
距離ビン選択部が、電波を照射して得られた距離ビンのなかから、生体での反射波が含まれる距離ビンを選択し、
生体情報検出部が、前記距離ビン選択部で選択された距離ビンを用いて、前記生体の生体情報を検出する。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、生体での反射波が含まれる距離ビンを選択し、その距離ビンを用いて生体情報を検出するため、生体位置が変わる場合であっても、生体位置に追従して生体情報を測定可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示のシステム構成例を示す。
図2】生体位置を探査する方法の説明図を示す。
図3】生体(人)が移動した時の距離ビンの遷移の一例を示す。
図4】呼吸及び心拍の周波数波形の一例を示す。
図5】呼吸による位相変化の一例を示す。
図6】心拍による位相変化の一例を示す。
図7図3に示す距離ビンでの位相の一例を示す。
図8】距離ビン選択部の構成例を示す。
図9】生体の一変化による位相偏移の一例を示す。
図10】距離ビン選択部の構成例を示す。
図11】トレンド軽減フィルタを用いた場合の位相偏移の一例を示す。
図12】生体検出の一例を示す。
図13】生体検出の一例を示す。
図14】距離分離分解能を上げ、近距離検出を行った場合の生体検出例を示す。
図15】本開示の生体情報検出装置の適用例を示す。
図16図15に示す環境で観測されたFMCWセンサの反射波のスペクトラムの一例を示す。
図17】本開示の距離分離サーチの一例を示す。
図18】波形成形部の構成例を示す。
図19】波形成形部の説明図である。
図20】トレンド軽減部から出力される出力信号の一例を示す。
図21】オーダーを上げた場合にトレンド軽減部から出力される出力信号の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
(第1の実施形態)
図1に、本開示のシステム構成例を示す。本開示のシステムは、FMCWセンサ1と、生体情報検出装置2と、を備える。生体情報検出装置2は、生体位置の距離ビン変化に追従して生体情報の計測を行う。本実施形態では、生体情報検出装置2が、AD変換部21、距離ビン選択部22、生体情報検出部26を備える。生体情報検出部26は、レンジFFT部23、波形成形部24、バイタル数値計測部25を備える。
【0015】
本開示の生体情報検出装置2はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。本開示のプログラムは、本開示に係る生体情報検出装置2に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係る生体情報検出装置2が実行する生体情報検出方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0016】
FMCWセンサ1は、FMCWを物標Tに照射し、物標Tからの反射波を受信し、照射波と反射波のビート信号を出力する。FMCWセンサ1は、一般的な構成であり、ここではセンサの構成は省略する。但し、本実施形態例では60GHz帯のFMCWセンサ1を用いる。本開示の効果は、FMCWセンサ1の周波数に関係なく効果がある。
【0017】
FMCWセンサ1から周波数チャープ信号を時間間隔で送信し、物標Tから反射される反射波との位相差を算出することで、物標Tまでの距離を算出することができる。ここで、反射波には、生体以外に静止物、いわゆる壁や家具などの配置物なども含まれる。反射波の変化を観察すると、生体が呼吸したときの体の変化が現れる。そこで、本開示の生体情報検出装置2は、AD変換部21の出力信号を用いて、生体が存在する生体位置の距離ビンを選択する距離ビン選択部22を備える。これにより、レンジFFT部23が生体の距離ビンの変化に追従して当該距離ビンのFFTを行う。波形成形部24及びバイタル数値計測部25は、レンジFFT部23で得られた周波数情報を用いて、生体情報を計測する。
【0018】
図2に、生体位置を探査する方法の説明図を示す。FMCWセンサ1のチャープ毎に得られる反射波を用いて、チャープをn番目毎に差分する。例えば、チャープ信号を、現時点のチャープで得られたビート信号とn番前のチャープ信号で得られたビート信号を差分する。生体が存在した場合、生体の位置する距離にピークが立つため、生体位置の距離ビンを選択する事が出来る。図では、チャープ間隔が4msであり、nの値が250チャープであり、この時間間隔が1sである例を示す。
【0019】
図3に、生体(人)が0.7m~1.2m移動した時の距離ビンの遷移の一例を示す。生体が移動すると距離ビンが変わっている事が判る。このように、1s間隔でチャープを差分することで、距離ビンを生体の移動に追従させることが可能である。なお、差分する時間間隔は、生体の呼吸が検出可能な任意の時間間隔であり、数ms~数秒であってもよいし、0.1秒以上5.0秒以下であってもよい。
【0020】
レンジFFT部23は、選択した距離ビンを用いて、差分しない元の信号つまりチャープ毎に得られる結果を時間順に並べ、時間毎の変化をFFTする。これにより、図4に示すような、呼吸及び心拍又は脈拍のバイタル信号が含まれる周波数波形が得られる。波形成形部24は、レンジFFT部23で得られた周波数波形を用いて、位相の変動を検出する。これにより、図5に示す呼吸の波形、及び図6に示す心拍又は脈拍の波形が得られる。バイタル数値計測部25は、波形成形部24で成形されたこれらの時間波形を用いて、呼吸、及び心拍又は脈拍数などのバイタル信号を計測する。
【0021】
図7に、図3に示す距離ビンでの位相の一例を示す。生体の移動中は、位相の変動が激しく、バイタル信号の区別が困難である。そこで、バイタル数値計測部25は、寝ている場合、椅子に座っている場合など、距離変化が少なく同じ距離に留まっている時間T1、T2、T3、T4ごとに、バイタル信号を計測する。例えば、1s毎に距離ビンを更新することで、生体の移動による位相の変動の影響を低減することができる。なお、更新時間はいくらでも良い。特に限定される値ではない。
【0022】
(第2の実施形態)
図8に、距離ビン選択部22の構成例を示す。距離ビン選択部22は、FFT処理部221、呼吸信号検出部223及び距離ビン決定部224を備える。
【0023】
FFT処理部221は、AD変換部21から得られた信号のFFT処理を行う。
呼吸信号検出部223は、FFT後のビン毎に差分する。本実施形態では、チャープ間隔は4ms毎に行う事としている。この場合、呼吸信号検出部223は、例えば、AD変換部21から得られた信号を4ms×100で400msごとに差分する。生体が存在する場合、生体の存在する距離にピークが立つ。
距離ビン決定部224は、ピークの立った距離に相当する距離ビンを選択する。これにより、生体位置の距離ビンを選択することができる。
【0024】
差分する時間間隔は、長ければ長い程、微小に動く物が強調される。差分する時間間隔が短い場合は、移動や位相変化が速い物に反応する。生体の動きを抽出する場合、生体の動体判定を呼吸とする場合、例として呼吸の周期が約0.5Hz(30BPM)であれば、差分間隔時間を0.1~1sなどと長くする。
【0025】
なお、距離ビン選択部22は、時間差分を用いても良い。この場合、距離ビン選択部22は、AD変換部21におけるポイント毎の電圧差分を行う。
【0026】
(第3の実施形態)
図9に、FMCWセンサ1をベッドのマット下に設置し、マット上に横たわる人を観測した結果を示す。実験では、厚さ8cmのマットを用い、±数10cmでの距離を限定的に観測した。仰向けの状態から寝返りを行って横向きになり、再度仰向けの状態となり、また横向きの状態になる動作を行うと、生体位置は同一箇所から多少なりとも位置が変わる。そのとき位相が飛んでいることが分かる。このように、マットに横たわる人であっても、位相が飛んでおり、距離ビンの値もこれに連動して変える必要がある。
【0027】
図10に、距離ビン選択部22の構成例を示す。距離ビン選択部22は、トレンド軽減フィルタ222をさらに備える。トレンド軽減フィルタ222は、位相遷移におけるDC除去とトレンド軽減を行う。
【0028】
図11に、トレンド軽減フィルタ222を使い、DC除去とトレンド軽減効果を加えた後の位相の一例を示す。図7に示す位相をトレンド軽減フィルタ222でフィルタリングした場合、各時間T1、T2、T3、T4において、呼吸信号が観測されていることが判る。このため、生体情報検出装置2は、トレンド軽減フィルタ222を備えることで、人が一時的に停止した時間を用いて、生体の存在する距離を測定することができる。
【0029】
図12に、本実施形態の距離ビン選択部22の動作の一例を示す。この例では、トイレなどの個室にFMCWセンサ1を設置し、人が当該個室に入室し、着座し、退室した場合の、生体位置の距離ビンの一例を示す。
【0030】
図13は、図12に示す各時点でのトレンド軽減フィルタ222の出力である。入室前は振幅変化の無い状態を示し、入室後に周期信号を得て、退室後は再度無振幅となる様子を示している。これは、生体(人)が歩行し移動し、どの距離で止まったのかの情報と、そこでの呼吸と、の両方を計測できることを表している。このように時間差分で生体の有無や距離を捉え、その距離ビンでレンジFFTを行う事で、生体が移動した場合でも連続性のあるバイタル信号を抽出する事ができる。
【0031】
したがって、本実施形態は、トレンド軽減フィルタ222を備え、生体が移動すると距離ビンが変わり、それに合わせてレンジFFTを行うため、同じ生体の連続したバイタル信号の抽出が可能となる。
【0032】
(第4の実施形態)
主に60GHz帯FMCWセンサ等では、チャープ帯域幅を広くし、距離分離分解能を上げ、更に近距離検出など行う事が可能となる。その場合、生体検出の結果となる生体スペクトラムが複数存在するときがある。例えば、椅子に着席している人の正面にFMCWセンサ1が設置されている場合、図14に示すように、足、胴体及び頭が個別に検出される。
【0033】
呼吸や心拍又は脈拍を観測した場合、人の各部での反射波は、スペクトラムの分離により複数となる。これらスペクトラムの中で呼吸などのバイタル信号が有効(又は多い)なスペクトラムを探す必要がある。反射パワーの大きい物が必ずしもバイタル信号に有効なスペクトラムとなる訳ではない。
【0034】
そこで、距離ビン決定部224は、位相変動の様子に基づいて、呼吸の検出された複数の距離ビンのうちの一番大きく位相が変化するスペクトラムの距離ビンを選択する。この場合、バイタル信号を抽出する訳ではないので、距離ビン決定部224は、数サイクル程度で距離ビンを選択することができる。このように選択された距離ビンを用いてレンジFFT部23がFFTを行う事で、より確実に生体のバイタル信号を抽出する事ができる。
【0035】
このとき複数のFMCWセンサ1を用いて、観測位置を若干変え、複数の方向から生体の呼吸を検出することで、距離ビンを選択してもよい。
【0036】
(第5の実施形態)
FMCWセンサ1で室内を観測すると、その結果のスペクトラムは、ナイキスト周波数(距離)まで様々な反射波が観測される。FMCW方式は、静止物の距離も観測される為である。図15に、図16に示す環境で観測されたFMCWセンサ1の反射波のスペクトラムの一例を示す。図16に示すように、FMCWセンサ1の検知範囲(エリア)の中に、複数のベッドB1、B2、B3が配置され、各ベッドB1、B2、B3に生体T1、T2及びT3が横たわっており、環境雑音となる物N1も存在する。この場合、単純チャープ(1回の掃引)ではどのピークが生体なのか判らない。
【0037】
ベッドの位置は概ね既知である。そこで、本実施形態では、生体位置の範囲をベッドB1、B2、B3で予め決めて、ベッドB1、B2、B3の距離の範囲毎に距離ビンを決める。例えば、図17に示すように、オフセット周波数foffset_1、foffset_2、foffset_3を決める。そして、距離ビン選択部22は、生体T1、T2及びT3のピークP1、P2、P3の距離ビンを個別に選択する。
【0038】
このように、本実施形態では、距離ビン選択部22が複数の距離ビンを選択する。レンジFFT部23は、選択された各距離ビンについて、FFTを行う。そして、波形成形部24及びバイタル数値計測部25が、選択された各距離ビンでの生体情報を計測する。
【0039】
距離ビン選択部22における生体位置の検出は複数でも対応している(制限が無い)ので、本実施形態のように、複数の生体を同時に観測処理する事ができる。また、環境雑音となる物N1を除外する事も可能となる。
【0040】
(第6の実施形態)
図18に、本実施形態の波形成形部24の構成例を示す。本実施形態の波形成形部24は、トレンド軽減部241、位相算出部242を備える。レンジFFT部23からの信号には、図4に示すように、呼吸と心拍又は脈拍の信号が含まれる。トレンド軽減部241は、入力された信号から呼吸に相当する信号を除去する。
【0041】
図19に、トレンド軽減部241の構成例を示す。トレンド除去前の信号をX(n)、トレンド除去後の信号をY(n)、トレンド成分をZ(n)とすると、トレンド成分を除去後の信号Y(n)は式(1)となる。
(数1)
Y(n)=X(n)-Z(n) (1)
【0042】
トレンド成分Z(n)は式(2)で表す事ができる。
【数2】
【0043】
係数aは、信号X(n)との最小二乗誤差が最小になる係数である。例えば、係数aは、式(3)を用いて計算することができる。
【数3】
【0044】
ここで、近似信号Z(n)は、過去Nサンプルにさかのぼったデータに対して近似をする。例えば、約2secのデータを使用することができる。
【0045】
トレンド軽減部241は、式(2)におけるオーダーを変動させることで、オーダーに応じたトレンドを除去することができる。例えば、図20に示す信号が入力された場合に、オーダーごとにトレンド軽減部241から出力される出力信号の一例を図21に示す。図21(a)はOrder=0の例、図21(b)はOrder=2の例、図21(c)はOrder=4の例を示す。Order=0では呼吸と脈拍の両方の成分が現れているが、Order=2では呼吸と脈拍の成分が同程度になり、Order=4では呼吸の成分が消せている。
【0046】
位相算出部242は、トレンド軽減部241からの出力信号を用いて、位相の時間波形を成形する。このとき、トレンド軽減部241からの出力信号が図21(a)であれば、位相算出部242は図5に示すような呼吸の位相を算出することができる。トレンド軽減部241からの出力信号が図21(c)であれば、位相算出部242は図6に示すような心拍の位相を算出することができる。
【0047】
トレンド軽減部241は、図19に示すように、最小二乗法を用いて振幅を軽減するフィルタを用いて構成することができる。このため、本実施形態の生体情報検出装置2は、トレンド軽減部241を備えることで、簡単な回路を用いて呼吸と心拍の両方のバイタル信号を計測可能になる。
【0048】
(本開示の効果)
以上説明したように、本開示は、生体位置を検出する方法と生体の微小角偏移情報を抽出する方法を合わせ持ち、生体位置の変化に追従して生体情報の計測を行うように構成している。このため、本開示によれば、生体位置が変わった場合でもレンジFFTによる微小偏移角による位相の飛び及び欠如などが無い為、生体情報の計測結果が常に得られるなどの利点がある。また、得られる値に適切なトレンド低減を設ける事で呼吸と心拍又は脈拍を同時に観測したり、環境雑音などの本来の計測目的以外の物と分離することが出来る利点がある。
【0049】
また、本開示は、生体の無い環境から生体のある環境つまり無人のベッドにセンサを向けておき人が侵入した場合、人の侵入及び距離を検出すると共に人の状態(就寝やリラックス)に応じてその生体距離ビンでのレンジFFTからバイタル情報を計測する事が可能となる。更に昨今ミリ波帯60GHz帯周波数の開放により従来よりも広帯域掃引が可能となり、距離分離分解能が数cm(周波数帯域5GHzで6cm)となる。その場合、FMCWセンサ1の電波(マイクロ波やミリ波)を照射して生体(主に人など)を見ると、電波のあたる面積が分離分解能より大きくなり、同じ生体でも距離ピークが複数得られる。例えば横たわる人呼吸により動く部位が胸部から腹部においては呼吸の状態が顕著に表れるが、人の場合、手足や頭部、顔面、まばたき、口の開閉など稼働する箇所が存在している。従ってそれらの生体判定にレンジFFT後の位相変動状況を加えて生体から反射するスペクトルから最も周期性のある変動の大きい物や、周期の状況(呼吸を想定した動き)から測定結果の最も良い場所を選択する事を行う事で、横向きの人などの計測しにくい物からバイタル情報の計測を行う事が可能になる。
【0050】
(その他の実施形態)
FMCWセンサ1は、生体検出に用いる差分時間を長くすると、超微動の生体位置を検出する事ができる。例えば、1mm/10分など、非常に低い周波数の周期信号など抽出する場合に有効となる。逆に時間を短くすると高速移動体に有効となる。この差分時間で変わる挙動を用いて選択された距離ビンにおけるレンジFFT結果の処理は、例えば差分時間を短くして高速に移動や振動する(変化する)。物体のレンジFFT結果は、その物体の振動などの周期となり、呼吸などと異なる工作機械などの動作中や非動作などの判断が出来る。また微小に動くもの例えば、タンク内の液体の水位などの距離と振動などに応用できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示は、呼吸、心拍又は脈拍といった振動で表される生体の特徴を非接触により計測することができる。また、特定小電力ミリ波帯を用いて極近接による非接触による計測を行うことができる。このため、本開示は、見守り介護遠隔監視健康状態、ヘルスケア安眠健康増進安静トイレ、居眠り発作の予兆運転手監視等の応用機器や産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1:FMCWセンサ
2:生体情報検出装置
21:AD変換部
22:距離ビン選択部
23:レンジFFT部
24:波形成形部
25:バイタル数値計測部
26:生体情報検出部
221:FFT処理部
222:トレンド軽減フィルタ
223:呼吸信号検出部
224:距離ビン決定部
241:トレンド軽減部
242:位相算出部
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