(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123966
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/51 20060101AFI20230830BHJP
C04B 35/44 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C04B35/51
C04B35/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027479
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵多
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓士
(57)【要約】
【課題】厳しい組成管理が求められるガーネット構造のセラミックスにおいても再現性良く高度な透明化が可能な希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】Sc、Y及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の酸化物粉末、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末についてそれぞれの不活性ガス雰囲気下、1100℃における質量減少率に基づいて各酸化物粉末の使用質量を補正して秤量し、これらを出発原料として用いて希土類ガーネット型透明セラミックスを製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発原料としてSc、Y及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の酸化物粉末と、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末とを用いて、下記式(1)
(A1
1-x-yA2
xScy)3(B1-zScz)5O12 (1)
(式(1)中、A1、A2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素であり、Bは第13族元素から選ばれる1種であり、0≦x≦0.4、0≦y<0.08、0≦z<0.16であり、z=0のとき、y=0であり、z>0のとき、y>0である。)
で表される複合酸化物の焼結体である希土類ガーネット型透明セラミックスを製造する希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、
上記出発原料として、Y及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を下記式(2-1)、(2-2)で求められる質量mA1、mA2だけ秤量し、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を下記式(2-3)で求められる質量mBだけ秤量し、酸化スカンジウム粉末を下記式(2-4)で求められる質量mScだけ秤量して用いる希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
mA1=3/2×(1-x-y)MA1/MG×W×100/(100-aA1) (2-1)
mA2=3/2×xMA2/MG×W×100/(100-aA2) (2-2)
mB=5/2×(1-z)MB/MG×W×100/(100-aB) (2-3)
mSc=(3y/2+5z/2)(MSc/MG)×W×100/(100-aSc) (2-4)
(式中、MA1、MA2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MBは第13族元素から選ばれる1種の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MScは酸化スカンジウムのモル質量(g/mol)であり、MGは式(1)で表される複合酸化物のモル質量(g/mol)であり、Wは上記出発原料の予定合計質量(g)であり、aA1、aA2は上記出発原料のY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aBは上記出発原料の第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aScは上記出発原料の酸化スカンジウム粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)である。x、y、zは上記と同じである。)
【請求項2】
上記式(1)におけるBがAlである請求項1に記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項3】
上記焼結体が焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する請求項1又は2に記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項4】
上記式(1)におけるA1がTbであり、0.6≦1-x-y≦1である請求項1~3のいずれか1項に記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項5】
上記出発原料を用いて成形した後、得られた成形体を脱脂し、焼結して複合酸化物の焼結体を得る請求項1~4のいずれか1項に記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは古くからタイル、陶器等、生活の必需品として広く用いられている。セラミックスの多くは不透明であるが、近年、光学的に等方な結晶構造を有し、気泡を徹底的に除去し、かつ粒界等への異相の発生を極限まで抑制することにより、単結晶に匹敵する透明度を有する透明セラミックスを作製することが可能となった。透明セラミックスは、レーザー材料、シンチレータ材料、蛍光体、磁気光学素子、高耐久性窓等に展開され、単結晶とは異なる新たな光学材料として期待されている。
【0003】
また、透明セラミックスは光学的に等方な結晶構造を有する必要があり、C型希土類構造やガーネット構造、パイロクロア構造、スピネル構造が透明セラミックスとなる例として挙げられる。その中で特にガーネット構造は、YAG:Ce蛍光体、TGG磁気光学素子、Nb:YAGレーザーなど、幅広い分野に応用されている。一方、ガーネット構造は、A3B5O12の組成からわずかなずれも許されず、ストイキオ組成から0.2%ほどずれると光の透過率が低下するという文献も存在している(X.W. Ba, et al., J. Eur. Ceram. Soc. 35(2015)3127-3136(非特許文献1))。ガーネット構造の組成通りに秤量し、調合することが、高度に透明なガーネット型セラミックスを作る第一歩となる。
【0004】
ここで、ガーネット型透明セラミックスの製造方法は、大別して2通りに分けられる。
特開2019-199386号公報(特許文献1)では、YAGセラミックスの高品質化を、各種原料粉末を混合し、成形、焼結処理を施すことにより達成している。
また、特許第6438588号公報(特許文献2)では、粉末の混合ではなく、各種元素の前駆体溶液を共沈プロセスで合成することで高透過率ガーネット型透明セラミックスの合成を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-199386号公報
【特許文献2】特許第6438588号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】X.W. Ba, et al., J. Eur. Ceram. Soc. 35(2015)3127-3136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のセラミックスの製造において、各種原料粉末は、その粉末固有の比表面積を有し、表面に吸着している水分量が異なる。また水分量だけでなく、その粉末の合成方法により、有機物、窒化物、硫化物等の主成分とは関係のない成分(不純物成分)が含まれていることもある。更に、例えばTb酸化物は、常温ではTb2O3の状態は不安定であり、Tb4O7の状態で販売されているが、そのTb酸化物が真にTb4O7であるという保証がなく、製造メーカ、製造方法、あるいは保管方法によってその組成は大きく変わってしまうことがある。そのため、そのような原料粉末を目標組成通りに秤量して用いても製造される焼結体において組成がずれてしまい、透明にならない、あるいは高透過率が得られないという事態が発生する。このような場合、各種粉末の秤量を試行錯誤の上、決定すれば高度に透明なガーネット型透明セラミックスを製造することは可能であるが、同じ比表面積の粉末など全く同じ粉末を再度得ることは困難であり、ある一種類の原料粉末の在庫が切れて新しい粉末に切り替えた場合など製造ロットの異なる原料粉末を用いるときには、再度秤量条件を調整する必要があった。
また、特許文献2における共沈プロセスでのメリットは、完全に均一な粉末を得ることができることだけでなく、粉末の混合のように表面吸着水等の影響を考える必要はないことである。しかしながら、前駆体溶液の濃度測定の誤差、秤量の誤差により、完全に所望通りの組成となる保証がなかった。結局、上記原料粉末の混合による製造の場合と同じように試行錯誤の上で透明化が図れる条件を詰めていくしか方法はなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、厳しい組成管理が求められるガーネット構造のセラミックスにおいても再現性良く高度な透明化が可能な希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法を提供する。
1.
出発原料としてSc、Y及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の酸化物粉末と、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末とを用いて、下記式(1)
(A1
1-x-yA2
xScy)3(B1-zScz)5O12 (1)
(式(1)中、A1、A2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素であり、Bは第13族元素から選ばれる1種であり、0≦x≦0.4、0≦y<0.08、0≦z<0.16であり、z=0のとき、y=0であり、z>0のとき、y>0である。)
で表される複合酸化物の焼結体である希土類ガーネット型透明セラミックスを製造する希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、
上記出発原料として、Y及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を下記式(2-1)、(2-2)で求められる質量mA1、mA2だけ秤量し、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を下記式(2-3)で求められる質量mBだけ秤量し、酸化スカンジウム粉末を下記式(2-4)で求められる質量mScだけ秤量して用いる希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
mA1=3/2×(1-x-y)MA1/MG×W×100/(100-aA1) (2-1)
mA2=3/2×xMA2/MG×W×100/(100-aA2) (2-2)
mB=5/2×(1-z)MB/MG×W×100/(100-aB) (2-3)
mSc=(3y/2+5z/2)(MSc/MG)×W×100/(100-aSc) (2-4)
(式中、MA1、MA2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MBは第13族元素から選ばれる1種の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MScは酸化スカンジウムのモル質量(g/mol)であり、MGは式(1)で表される複合酸化物のモル質量(g/mol)であり、Wは上記出発原料の予定合計質量(g)であり、aA1、aA2は上記出発原料のY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aBは上記出発原料の第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aScは上記出発原料の酸化スカンジウム粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)である。x、y、zは上記と同じである。)
2.
上記式(1)におけるBがAlである1に記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
3.
上記焼結体が焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する1又は2に記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
4.
上記式(1)におけるA1がTbであり、0.6≦1-x-y≦1である1~3のいずれかに記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
5.
上記出発原料を用いて成形した後、得られた成形体を脱脂し、焼結して複合酸化物の焼結体を得る1~4のいずれかに記載の希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料として出発粉末を混合して複合酸化物の焼結体からなる透明セラミックスを製造する際に、各出発原料粉末についてあらかじめ測定したセラミックス組成に関与しない吸着物の量に基づいて使用質量を補正することによりセラミックスの組成に対応した必要量を正確に秤量することができるので再現性良く高度に透明化された希土類ガーネット型透明セラミックスを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明で製造した透明セラミックスをファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法について説明する。
【0013】
本発明に係る希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法は、出発原料としてSc、Y及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも1種の酸化物粉末と、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末とを用いて、下記式(1)
(A1
1-x-yA2
xScy)3(B1-zScz)5O12 (1)
(式(1)中、A1、A2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素であり、Bは第13族元素から選ばれる1種であり、0≦x≦0.4、0≦y<0.004、0≦z<0.004であり、z=0のとき、y=0であり、z>0のとき、y>0である。)
で表される複合酸化物の焼結体である希土類ガーネット型透明セラミックスを製造する希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、
上記出発原料として、Y及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を下記式(2-1)、(2-2)で求められる質量mA1、mA2だけ秤量し、第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を下記式(2-3)で求められる質量mBだけ秤量し、酸化スカンジウム粉末を下記式(2-4)で求められる質量mScだけ秤量して用いることを特徴とするものである。
mA1=3/2×(1-x-y)MA1/MG×W×100/(100-aA1) (2-1)
mA2=3/2×xMA2/MG×W×100/(100-aA2) (2-2)
mB=5/2×(1-z)MB/MG×W×100/(100-aB) (2-3)
mSc=(3y/2+5z/2)(MSc/MG)×W×100/(100-aSc) (2-4)
(式中、MA1、MA2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MBは第13族元素から選ばれる1種の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MScは酸化スカンジウムのモル質量(g/mol)であり、MGは式(1)で表される複合酸化物のモル質量(g/mol)であり、Wは上記出発原料の予定合計質量(g)であり、aA1、aA2は上記出発原料のY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aBは上記出発原料の第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aScは上記出発原料の酸化スカンジウム粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)である。x、y、zは上記と同じである。)
【0014】
(希土類ガーネット型透明セラミックス)
本発明で製造される希土類ガーネット型透明セラミックス(以下、単に透明セラミックスということがある)は、下記式(1)で表される複合酸化物の透明焼結体である。
(A1
1-x-yA2
xScy)3(B1-zScz)5O12 (1)
(式(1)中、A1、A2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素であり、Bは第13族元素から選ばれる1種であり、0≦x≦0.4、0≦y<0.004、0≦z<0.004であり、z=0のとき、y=0であり、z>0のとき、y>0である。)
【0015】
なお、式(1)で表されるガーネット結晶構造において元素A1、A2、Scが配位する側、即ち式(1)の左側の括弧内に入る側をAサイト、元素B、Scが配位する側、即ち式(1)の右側の括弧内に入る側をBサイトと称する。
【0016】
ここで、実際に製造されるセラミックスにおけるAサイト、Bサイトの組成比(即ち、3:5)のずれは、許容されない。製造されるセラミックスにおいて組成比が多少ずれても透明化することはあるが、その透明度は悪くなる。セラミックスのガーネット構造はその組成が所望通りでなければ高度な透明化を実現できないため、式(1)を必ず満たす必要がある。
【0017】
また、本発明で製造される透明セラミックスは、少なくともテルビウム(Tb)とアルミニウム(Al)を含有したガーネット型複合酸化物の焼結体であることが好ましい。この場合、上記式(1)における元素BがAlである。更に、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有していることがより好ましい。
【0018】
また、上記式(1)におけるA1がTbであり、0.6≦1-x-y≦1であることが好ましい。式(1)のAサイトにおいて、Tbが40mоl%以上含まれる場合は、得られた透明セラミックスが磁気光学素子として使用される。Tbは鉄(Fe)を除く常磁性元素群の中で最大のベルデ定数を有する元素であり、ファイバーレーザーで使用する波長1064nm領域で吸収が存在しないため、この波長域の光アイソレータ用材料に用いるには最も適している元素である。ただし、Tbは空気中の酸素と容易に反応し、4価Tbが発生する。この4価Tbは吸光性を有するため、できる限り排除することが望ましい。この4価Tbを完全に排除するには、4価Tbが発生しない結晶構造を狙う必要があり、ガーネット構造となる組成を狙うことが最も好ましい。
【0019】
式(1)のAサイトにTbが含まれる場合おいて、Tbだけでも透明化は可能であるが、より透明化を容易にするためにTbを他元素で置換してもよい。Tbから置換される元素はYまたはランタノイドの群から選ばれる少なくとも1種類が好ましく、使用波長帯に吸収が存在しないという観点からYまたはLu、Laが好ましく、コストと安定性の観点からはYが最も好ましい。Yはガーネット構造を安定化させる元素であり、置換すればするだけ安定化し、製造が容易となる。しかし、入れすぎてしまうとベルデ定数が小さくなりすぎてしまい、TGGよりもベルデ定数が小さくなってしまう。そのため、Yは、Tb100モル%に対して0モル%以上40モル%以下となる範囲で置換することが好ましい。
【0020】
式(1)のBサイトにおいては、第13族元素から選ばれる1種(元素B)が入るが、上述のとおりAlが好ましい。第13族のGaは揮発性が高く、焼結途中で揮発して量が減ってしまうため特別な対応が必要となるが、Alは焼結途中で揮発することもなく、また熱伝導率も高いので、最も好ましい。
【0021】
ここで、構成元素がTb、Y、ランタノイド元素及び13族元素だけからなる複合酸化物では各原料の微妙な秤量誤差によってガーネット構造を呈さない場合があり、光学用途に使用可能な透明セラミックスを安定に製造することが難しい。そこで、本発明では構成元素としてスカンジウム(Sc)を添加することにより各原料の微妙な秤量誤差による組成ずれを解消することが好ましい。Scは、ガーネット構造を有する酸化物中でAサイトにも、Bサイトにも固溶することができる中間的なイオン半径を有する材料であり、Tb、Y、ランタノイド元素からなる希土類元素と13族元素との配合比が秤量時のばらつきによって化学量論比からずれた場合に、ちょうど化学量論比に合うように、そしてこれにより結晶子の生成エネルギーを最小にするように、自らAサイト(Tb、Y、ランタノイド元素からなる希土類サイト)とBサイト(13族元素からなるサイト)への分配比を調整して固溶することのできるバッファ材料である。
【0022】
Scの含有量はAサイトでは0モル%以上0.08モル%未満が好ましく、Bサイトでは0モル%以上0.16モル%未満が好ましい。Scを添加しなくても高度に透明化する場合は特に添加する必要もないが、安定生産の観点からはある程度添加したほうが好ましい。一方、前記含有量上限以上であると透明化することはより容易にはなるが、高価なScを多量に使用することになり、コスト的に採算が合わなくなるので好ましくない。
【0023】
以上のことを踏まえると、本発明で製造する透明セラミックスは、下記式(1’)で表される複合酸化物の透明焼結体であることが好ましい。
(Tb1-x’-y’Yx’Scy’)3(Al1-z’Scz’)5O12 (1’)
(式中、0.05≦x’≦0.4、0≦y’<0.08、0.52≦1-x’-y’<0.95、0≦z’<0.16、0.001<y’+z’<0.2である。)
【0024】
式(1’)中、x’の範囲は0.05≦x’≦0.4であり、0.1≦x’≦0.4が好ましく、0.2≦x’≦0.4が更に好ましい。x’がこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。
【0025】
式(1’)中、y’の範囲は0≦y’<0.08であり、0.001<y’<0.04が好ましく、0.002<y’<0.04がより好ましい。y’がこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができるため好ましい。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止できるため好ましい。
【0026】
式(1’)中、1-x’-y’の範囲は0.52≦1-x’-y’<0.95であり、0.6≦1-x’-y’<0.8がより好ましい。1-x’-y’がこの範囲にあると大きなベルデ定数を確保できると共に波長1064nmにおいて高い透明性が得られる。
【0027】
(1’)式中、z’の範囲は0≦z’<0.16であり、0.001<z’<0.004がより好ましく、0.02≦z’<0.004が更に好ましい。z’がこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができるため好ましい。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止できるため好ましい。
【0028】
(1’)式中、y’+z’の範囲は0.001<y’+z’<0.2であり、0.002<y’+z’<0.03がより好ましく、0.003<y’+z’<0.025が更に好ましい。y’+z’がこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができるため好ましい。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止できるため好ましい。
【0029】
本発明で製造される透明セラミックスは、上記式(1)又は式(1’)で表される複合酸化物を主成分として含有し、副成分として、焼結助剤の役割をはたすSiO2を金属Si換算で0.1質量%を限度として、それ以下の範囲で含有する。焼結助剤としてSiO2を微量添加すると、ペロブスカイト型の異相やアルミナ異相等の析出が抑制されるため、常磁性ガーネット型透明セラミックスの透明性が更に向上する。さらに、微量添加されたSiO2は1400℃以上での焼結中にガラス化して液相焼結効果をもたらし、ガーネット型セラミックス焼結体の緻密化を促進することができる。
【0030】
ところで、「主成分として含有する」とは、上記式(1)又は式(1’)で表される複合酸化物を90質量%以上含有することを意味する。式(1)又は式(1’)で表される複合酸化物の含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
【0031】
本発明で製造される透明セラミックスは、上記の主成分と副成分とで構成されるが、本発明の作用効果を阻害しない範囲で更に他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、鉄(Fe)、クロム(Cr)等の重金属、あるいは様々な不純物群(不可避的成分)として、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、燐(P)等が典型的に例示できる。
その他の元素の含有量は、焼結体において100ppm以下であることが好ましい。
【0032】
ところで、透明セラミックス製造用原料粉末の準備に当たって、各種酸化物粉末を混合する方法と、水溶液から化学反応を利用して均一な酸化物粉末を合成する方法があるが、本発明は前者の各種酸化物粉末を混合する製造方法に関連する。各種酸化物粉末は、その比表面積に応じた吸着水分、出発原料の合成方法に由来する残留有機物や窒化物といった構成酸化物以外の成分を含んでおり、その比率は酸化物粉末ごとに異なる。その構成酸化物以外の成分の影響により、目標組成通りに酸化物粉末を秤量しても製造されるセラミックスにおいて組成ずれが生じてしまい、高度な透明化に至らない。
そこで本発明では、上記のような希土類ガーネット型透明セラミックスを以下のようにして製造する。
【0033】
[希土類ガーネット型透明セラミックスの製造方法]
(出発原料)
本発明で用いる出発原料としては、上記式(1)を構成する元素のそれぞれの単一酸化物粉末、例えば式(1’)で表される複合酸化物の場合、テルビウム、イットリウム、スカンジウム、アルミニウムの各酸化物粉末(即ち、酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末)を利用する。これらをガーネット型複合酸化物用原料粉末という。該ガーネット型複合酸化物用原料粉末の純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。以下、式(1’)で表される複合酸化物に対応した酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末を用いる場合を例にとり説明する。
【0034】
本発明では、出発原料としての酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末を上記式(1’)で表される複合酸化物の組成となるように精密秤量するが、上述したように、これら出発原料の酸化物粉末には構成酸化物以外の成分が含まれていることから、出発原料の酸化物粉末それぞれにおける構成酸化物以外の成分の含有量を考慮して秤量する。具体的には以下のことを行う。
【0035】
(酸化物粉末の1100℃における質量減少率(構成酸化物以外の成分の含有量)の測定)
本発明において、出発原料の酸化物粉末における上記構成酸化物以外の成分の含有量(重量比率)を測定する方法として、不活性雰囲気下での熱重量変化率の測定を行うことが好ましい。熱重量変化率の測定方法は、熱重量分析装置(TG装置)を用いてin-situに測定する方法、焼成炉を利用して1000℃以上で焼成する前後の重量比較から測定する方法とあるが、構成酸化物以外の成分の重量を正確に測定する必要があるため、TG装置を使用し測定することが最も好ましい。雰囲気は不活性雰囲気下が好ましく、アルゴン、窒素、ヘリウムが例示されるが、正確に重量変化率を測定できれば特に限定されない。
【0036】
ここで、TG装置を用いた重量減少率(質量減少率)は、室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの重量変化(質量減少)から算出することが好ましい。1100℃より低い温度では、残留吸着水分や、Tb4O7の場合には、残留酸素が残ってしまい、正しい重量変化をとらえることができず、組成が合わなくなってしまうおそれがある。1100℃より高い温度、例えば1300℃の質量減少は大半の酸化物では1100℃と大差ないが、Ga2O3のような揮発性の高い酸化物では、1300℃では揮発に伴う余計な質量減少を観測することがある。本発明者らが希土類ガーネットの骨格元素の酸化物すべての質量減少率の測定を精度よく測定可能な温度を調査した結果、1100℃が最も好ましい加熱温度と判明した。即ち、本発明でいう「1100℃における質量減少率」とは、出発原料である酸化物粉末を不活性雰囲気下で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの該酸化物粉末の室温(20±10℃)における質量(100%)に対する質量減少の割合(%)のことである。
【0037】
本発明では、出発原料として使用する全ての酸化物粉末(酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末)それぞれについて上記1100℃における質量減少率を測定する。
【0038】
(使用質量の算出)
上記のように測定した出発原料として使用する酸化物粉末それぞれの質量減少率を用いて、使用質量を算出する。なお、酸化物粉末における酸化物の分子構造は必ずA1
2O3、A2
2O3、B2O3、Sc2O3として計算するものとする。例えば、Tb酸化物はTb4O7の形で販売されていることが多いが、本計算においてはTb4O7では成立しないため、Tb2O3で計算する必要がある。
【0039】
即ち、上記出発原料として、「Y及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末」の使用質量mA1、mA2を下記式(2-1)、(2-2)から求める。また、「第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末」の使用質量mBを下記式(2-3)から求める。更に、「酸化スカンジウム粉末」の使用質量mScを下記式(2-4)から求める。
mA1=3/2×(1-x-y)MA1/MG×W×100/(100-aA1) (2-1)
mA2=3/2×xMA2/MG×W×100/(100-aA2) (2-2)
mB=5/2×(1-z)MB/MG×W×100/(100-aB) (2-3)
mSc=(3y/2+5z/2)(MSc/MG)×W×100/(100-aSc) (2-4)
(式中、MA1、MA2はY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MBは第13族元素から選ばれる1種の酸化物のモル質量(g/mol)であり、MScは酸化スカンジウムのモル質量(g/mol)であり、MGは式(1)で表される複合酸化物のモル質量(g/mol)であり、Wは上記出発原料の予定合計質量(g)であり、aA1、aA2は上記出発原料のY及びランタノイド元素から選ばれる互いに異なる元素の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aBは上記出発原料の第13族元素から選ばれる1種の酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aScは上記出発原料の酸化スカンジウム粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)である。x、y、zは上記式(1)におけるx、y、zと同じである。)
【0040】
なお、式(1)で示される複合酸化物において、元素A2を含まない場合(x=0)、mA2=0となり、Scを含まない場合(y=z=0)、mSc=0となる。
【0041】
上記出発原料として、酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末を用いる場合は、酸化テルビウム粉末の使用質量mTb、酸化イットリウム粉末の使用質量mY、酸化アルミニウム粉末の使用質量mAL、酸化スカンジウム粉末の使用質量mScは以下の式から求められる。
mTb=3/2×(1-x’-y’)MTb/MG×W×100/(100-aTb)
mY=3/2×x’MY/MG×W×100/(100-aY)
mAL=5/2×(1-z’)MAL/MG×W×100/(100-aAl)
mSc=(3y’/2+5z’/2)(MSc/MG)×W×100/(100-aSc)
(式中、MTb、MYはTb、Yの酸化物のモル質量(MTb=365.8(g/mol)、MY=225.8(g/mol))であり、MALはAlの酸化物のモル質量(MAL=102.0(g/mol))であり、MScは酸化スカンジウムのモル質量(MSc=137.9(g/mol))であり、MGは式(1’)で表される複合酸化物のモル質量(g/mol)であり、Wは上記出発原料の予定合計質量(g)であり、aTb、aYは上記出発原料のTb、Yの酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aAlは上記出発原料のAl酸化物粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)であり、aScは上記出発原料の酸化スカンジウム粉末を不活性ガス雰囲気中で室温(20±10℃)から1100℃まで加熱したときの質量減少率(%)である。x’、y’、z’は上記式(1’)におけるx’、y’、z’と同じである。)
【0042】
(秤量)
上記のようにして求めた使用質量に基づいて、出発原料である酸化物粉末それぞれを精密秤量する。このとき、小数点第4位まで測定可能な精密天秤を用いるとよい。
【0043】
(混合工程)
秤量した出発原料である酸化物粉末を均一に混ぜる、また必要に応じて凝集して二次粒子となった粉末を一次粒子の状態まで粉砕するために、混合処理を施す。混合処理は湿式、乾式と存在するが、均一に混ぜることができれば特に限定されない。また、湿式においてはボールミル、ジェットミル、ビーズミル、超音波分散、ホモジナイザー処理が例示され、その分散媒は水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、またはそれらを任意の割合に混合した分散媒が例示される。混合処理の効率を上げるために有機分散剤を添加してもよく、ポリエチレングリコール系分散剤、スルホン酸系分散剤、リン酸系分散剤が例示される。その後の成形工程の保形性を高めるために必要なバインダーは、この混合処理の段階で添加する。バインダー構造は分散媒に溶ける構造を選択することが必須であり、分散媒が水の場合、ポリビニルアルコール系バインダーが例示され、エタノール等の低級アルコールの場合、ポリビニルブチラールやポリ酢酸ビニル、あるいはそれらの共重合体が例示される。添加量はその後の成形工程で保形性が保たれる限り特に限定されない。
【0044】
なお、焼結助剤としてSiO2を添加する場合、SiO2原料は、例えばオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、又はシリコンの酸化物粉末などのSiO2原料が好ましい。その添加量は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)であれば、SiO2換算で原料粉末(ガーネット型複合酸化物用原料粉末+焼結助剤)全体において0ppm超1,000ppm以下(0質量%超0.1質量%以下)となる量であり、シリコンの酸化物粉末(SiO2粉末)であれば、原料粉末(ガーネット型複合酸化物用原料粉末+焼結助剤)全体において0ppm超1,000ppm以下(0質量%超0.1質量%以下)となる量であることが好ましい。添加量が1,000ppm超では過剰に含まれるSiによる結晶欠陥により微量な光吸収が発生するおそれがある。シリコンの酸化物粉末(SiO2粉末)の場合、その一次粒子径は特に限定されないが、1μm未満の微粉を用いると出発原料中に焼結助剤を均質に分散させられるため好ましい。
【0045】
(成形工程)
混合処理後に所定の形状となるように成形を施す。成形方法にも湿式、乾式とあるが、所定の形状に成形されれば特に限定されない。湿式には鋳込み成形、遠心鋳込み成形、押出成形、テープ成形が例示され、乾式では乾式一軸プレス成形、および冷間静水圧加圧(CIP(Cold Isostatic Pressing))成形が例示される。これら成形方法は2種類以上を組み合わせてもよく、乾式一軸プレス成形後のCIP成形や、鋳込み成形後のCIP成形を施してもよい。成形後の真密度に対する相対密度は、45%以上65%以下が好ましく、50%以上60%以下がより好ましい。
【0046】
本発明では、上記混合工程において精密秤量した出発原料としての酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末と、焼結助剤であるSiO2原料とを湿式混合してスラリーとした後、該スラリーをスプレードライ処理して顆粒状原料とし、該顆粒状原料を用いて成形することが好ましい。この場合、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。
【0047】
(脱脂工程)
得られた成形体にはバインダー等の有機物が多量に含まれているため、脱脂処理を施す。脱脂は酸素18vol%以上の雰囲気で施すのが好ましく、また脱脂温度及び時間は有機物が完全に分解できる条件を選択すれば、特に限定はされないが、250℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、400℃以上が更に好ましい。脱脂温度の上限は、緻密化が進行しない温度が好ましく、1000℃以下が好ましい。脱脂時間は1時間以上24時間以下が好ましい。
【0048】
(焼結工程)
脱脂済の成形体を透明化するため、焼結処理を施す。焼結による透明化の方法として、大気圧下での焼結だけで透明化する方法と、相対密度93%以上99%以下に大気圧下で予備焼結し、その後に熱間等方圧プレス(HIP)処理を施すことで透明化する方法があるが、本発明においてはいずれの手法を使用してもよい。焼結温度は目的の焼結密度、あるいは高度に透明化が可能となれば特に限定されない。また、焼結の雰囲気は、透明化とした際に気泡が残らない条件であれば特に限定されず、真空下、酸素雰囲気下、大気下が例示される。HIP処理を施す場合には、圧媒はアルゴン、窒素、1vol%以下の酸素を含むアルゴンが好ましく、圧力は100MPa以上200MPa以下が好ましい。
【0049】
(アニール工程)
得られた焼結体は多少の酸素欠損を含んでいる場合があるため、酸素量が15vol%以上の雰囲気下でアニール処理を施す必要がある。アニール温度は酸素欠陥がなくなるのならば特に限定はされないが、1200℃以上1500℃以下が好ましい。1200℃未満では酸素欠陥を除去するだけの熱が足りず、一方1500℃超では、アニールにより気泡が再発生してしまうことがあり、好ましくない。アニール時間も酸素欠陥がなくなるまで行えばよく、20時間以上100時間以下が好ましい。
【0050】
(加工工程)
本発明の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た焼結体(希土類ガーネット型透明セラミックス)について、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/8以下が好ましく、λ/10以下が特に好ましい。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。
【0051】
以上のようにして、再現性良く高度に透明化された希土類ガーネット型透明セラミックスが得られる。また、出発原料として酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末及び酸化アルミニウム粉末を用いて式(1’)で表される常磁性ガーネット型複合酸化物の焼結体からなるものであって、実装長20mmでの波長1064nmの光の吸収や散乱が最小限に抑えられた、高出力用のファラデー回転子として使用可能な透明セラミックスが得られる。
【0052】
[磁気光学デバイス]
更に、本発明で得られた上記希土類ガーネット型透明セラミックスは磁気光学材料として利用することを想定しているため、該常磁性ガーネット型透明セラミックスにその光学軸と平行に磁場を印加したうえで、偏光子、検光子とを互いにその光学軸が45度ずれるようにセットして磁気光学デバイスを構成利用することが好ましい。即ち、本発明の磁気光学材料は、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9~1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
【0053】
図1は、本発明で得られた透明セラミックスからなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。
図1において、光アイソレータ100は、本発明で得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスからなるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、その光学軸上に偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
【0054】
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
【実施例0055】
以下に、実施例、比較例及び参考例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
[試験例1]
(出発原料の1100℃における質量減少率の測定)
本実施例で出発原料として用いる各種の酸化物粉末について、(株)リガク製の熱重量・示唆熱分析装置(Thermo Plus Evo)を用いて、1100℃における質量減少率を測定した。即ち、白金容器に酸化物粉末を入れ、投入した粉末の重量を、小数点第4位まで測定できる精密天秤にて測定した。正確に重量を測定したのち、出発原料を入れた白金容器を熱重量・示唆熱分析装置にセットした。雰囲気はHe下で行い、15℃/分の昇温速度で室温(20℃)から1200℃まで加熱した後、室温まで空冷し、その間の熱重量(TG)測定を行った。測定データから、1100℃における質量減少率を取得し、その値をa(%)とした。
【0057】
測定した酸化物粉末の明細を以下に示す。
・Tb4O7(微粉):信越化学工業(株)製、比表面積大タイプ、粒径180nm、純度99.9質量%
・Y2O3(微粉):信越化学工業(株)製、比表面積大タイプ、粒径180nm、純度99.9質量%
・Sc2O3:信越化学工業(株)製、粒径3μm、純度99.9質量%
・CeO2:信越化学工業(株)製、比表面積大タイプ、粒径180nm、純度99.9質量%
・Lu2O3:信越化学工業(株)製、比表面積大タイプ、粒径180nm、純度99.9質量%
・Dy2O3:信越化学工業(株)製、比表面積大タイプ、粒径180nm、純度99.9質量%
・Al2O3:大明化学(株)製、タイミクロン、粒径300nm、純度99.9質量%
・Tb4O7(粗粉):信越化学工業(株)製、標準タイプ、粒径3μm、純度99.9質量%
・Y2O3(粗粉):信越化学工業(株)製、標準タイプ、粒径3μm、純度99.9質量%
【0058】
表1に、本発明で用いる出発原料(酸化物粉末)の1100℃における質量減少率を示す。表1より、出発原料の種類によって1100℃における質量減少率の値は大きく異なり、それぞれ固有の比表面積、吸着成分を有していることが分かった。
【0059】
【0060】
[実施例1]
上記出発原料のうち、Tb4O7(微粉)、Y2O3(微粉)、Sc2O3、CeO2、Lu2O3、Dy2O3、Al2O3を用いて、以下の手順で透明セラミックスを作製した。
【0061】
(秤量及び原料調製工程)
目標組成ごとに、上記試験例1で測定した1100℃における質量減少率a(%)を用いて以下のように使用質量を求めた。なお、いずれも出発原料の予定合計質量W=50gとした
【0062】
(1)目標組成:Tb3Al5O12
(実施例1-1)
mTb(微粉)=3/2×MTb/MG1-1×W×100/(100-aTb(微粉))=36.63(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-1×W×100/(100-aAl)=16.24(g)
(比較例1-1)
m’Tb(微粉)=3/2×MTb/MG1-1×W=34.14(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-1×W=15.86(g)
(MTb=365.8、MAL=102.0、MG1-1=803.7、aTb(微粉)=6.8、aAl=2.2)
【0063】
(2)目標組成:Y3Al5O12
(実施例1-2)
mY(微粉)=3/2×MY/MG1-2×W×100/(100-aY(微粉))=31.91(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-2×W×100/(100-aAl)=21.96(g)
(比較例1-2)
m’Y(微粉)=3/2×MY/MG1-2×W=28.53(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-2×W=21.48(g)
(MY=225.8、MAL=102.0、MG1-2=593.6、aY(微粉)=10.6、aAl=2.2)
【0064】
(3)目標組成:(Tb0.8Y0.2)3Al5O12
(実施例1-3)
mTb(微粉)=3/2×0.8×MTb/MG1-3×W×100/(100-aTb(微粉))=30.92(g)
mY(微粉)=3/2×0.2×MY/MG1-3×W×100/(100-aY(微粉))=4.97(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-3×W×100/(100-aAl)=17.12(g)
(比較例1-3)
m’Tb(微粉)=3/2×0.8×MTb/MG1-3×W=28.81(g)
m’Y(微粉)=3/2×0.2×MY/MG1-3×W=4.45(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-3×W=16.74(g)
(MTb=365.8、MY=225.8、MAL=102.0、MG1-3=761.7、aTb(微粉)=6.8、aY(微粉)=10.6、aAl=2.2)
【0065】
(4)目標組成:(Tb0.6Y0.4)3Al5O12
(実施例1-4)
mTb(微粉)=3/2×0.6×MTb/MG1-4×W×100/(100-aTb(微粉))=24.54(g)
mY(微粉)=3/2×0.4×MY/MG1-4×W×100/(100-aY(微粉))=10.53(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-4×W×100/(100-aAl)=18.11(g)
(比較例1-4)
m’Tb(微粉)=3/2×0.6×MTb/MG1-4×W=22.87(g)
m’Y(微粉)=3/2×0.4×MY/MG1-4×W=9.41(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-4×W=17.72(g)
(MTb=365.8、MY=225.8、MAL=102.0、MG1-4=719.7、aTb(微粉)=6.8、aY(微粉)=10.6、aAl=2.2)
【0066】
(5)目標組成:(Tb0.6Y0.38Sc0.02)3(Al0.998Sc0.002)5O12
(実施例1-5)
mTb(微粉)=3/2×0.6×MTb/MG1-5×W×100/(100-aTb(微粉))=25.08(g)
mY(微粉)=3/2×0.38×MY/MG1-5×W×100/(100-aY(微粉))=10.22(g)
mAL=5/2×0.998×MAL/MG1-5×W×100/(100-aAl)=18.47(g)
mSc=(3×0.02/2+5×0.002/2)(MSc/MG1-5)×W×100/(100-aSc)=0.35(g)
(比較例1-5)
m’Tb(微粉)=3/2×0.6×MTb/MG1-5×W=23.38(g)
m’Y(微粉)=3/2×0.38×MY/MG1-5×W=9.14(g)
m’AL=5/2×0.998×MAL/MG1-5×W=17.99(g)
m’Sc=(3×0.02/2+5×0.002/2)(MSc/MG1-5)×W=0.34(g)
(MTb=365.8、MY=225.8、MAL=102.0、MSc=137.9、MG1-5=704.2、aTb(微粉)=6.8、aY(微粉)=10.6、aAl=2.2、aSc=1.4)
【0067】
(6)目標組成:(Y0.999Ce0.001)3Al5O12
(実施例1-6)
mY(微粉)=3/2×0.999×MY/MG1-6×W×100/(100-aY(微粉))=31.87(g)
mCe=3/2×0.001×MCe/MG1-6×W×100/(100-aCe)=0.04(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-6×W×100/(100-aAl)=21.95(g)
(比較例1-6)
m’Y(微粉)=3/2×0.999×MY/MG1-6×W=28.49(g)
m’Ce=3/2×0.001×MCe/MG1-6×W=0.04(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-6×W=21.47(g)
(MY=225.8、MCe=328.2、MAL=102.0、MG1-6=593.8、aY(微粉)=10.6、aCe=5.9、aAl=2.2)
【0068】
(7)目標組成:Lu3Al5O12
(実施例1-7)
mLu=3/2×MLu/MG1-7×W×100/(100-aLu)=36.31(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-7×W×100/(100-aAl)=15.30(g)
(比較例1-7)
m’Lu=3/2×MLu/MG1-7×W=35.04(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-7×W=14.97(g)
(MLu=398.0、MAL=102.0、MG1-7=851.9、aLu=3.5、aAl=2.2)
【0069】
(8)目標組成:Dy3Al5O12
(実施例1-8)
mDy=3/2×MDy/MG1-8×W×100/(100-aDy)=35.45(g)
mAL=5/2×MAL/MG1-8×W×100/(100-aAl)=16.01(g)
(比較例1-8)
m’Dy=3/2×MDy/MG1-8×W=34.35(g)
m’AL=5/2×MAL/MG1-8×W=15.66(g)
(MDy=373.0、MAL=102.0、MG1-8=814.4、aDy=3.1、aAl=2.2)
【0070】
(9)目標組成:Tb3.014Al4.986O12
(参考例1)
mTb(微粉)=3.014/2×MTb/MG1-9×W=34.22(g)
mAL=4.986/2×MAL/MG1-9×W=15.79(g)
(MTb=365.8、MAL=102.0、MG1-9=805.4)
【0071】
目標組成ごとに、出発原料を上記のようにして求めた使用質量分を秤量した。秤量は小数点第4位まで測定可能な精密天秤を用いた。
秤量した出発原料(酸化物粉末)をボールミル容器に投入した。その後、酸化物粉末の濃度が30質量%となるようにエタノールを入れ、分散剤としてポリエチレングリコールを0.01質量%、焼結助剤としてTEOS(キシダ化学(株)製)をSi換算で100ppmとなるように添加した。次いで、ボールミル容器に直径2mmのアルミナボールをいれ、回転台にセットし、ボールミル混合を20時間行った。
得られたスラリーにバインダーとしてポリビニルアルコール系バインダー((株)クラレ製)を粉末量に対して1.5質量%分を添加し、さらに4時間ボールミル混合をした。
最後にスラリーとアルミナボールとを分離し、スプレードライによって原料を顆粒化した。
【0072】
(成形工程)
前工程で得られた顆粒を円筒状金型に充填し、乾式一軸プレス成形によって所定の形状となるように成形した。成形体の形状は直径8mm×長さ40mmの円柱形状である。次いで、一軸プレス成形体について圧力198MPaの条件でCIP処理を施し、成形体の相対密度を60%とした。
(脱脂工程)
得られたCIP成形体を270℃、3時間の条件で脱脂した。なお、有機物の除去の確認及び脱脂による酸素吸収量の測定は上記TG分析により決定した。有機物の分解は400℃までの重量減少により判断し、また酸素吸収量は400℃付近の重量上昇量で比較した。
(焼結工程)
予備焼結処理-HIP処理の2段階焼結工程により行った。即ち、まず上記の脱脂済み成形体を真空焼結炉にセットし、真空度1×10-4Pa、昇温速度100℃/h、1600℃2時間保持の条件で予備焼結処理を行った。予備焼結後の密度はいずれのサンプルも93%以上となった。続いて透明化を図るために、予備焼結体サンプルについて圧力198MPaのAr雰囲気下、1600℃、3時間の条件でHIP処理を施した。HIP後のサンプルは透明化しているが、酸素欠陥による黒色化が見られるので、大気中1450℃、30時間の酸化アニール処理を行った。酸化アニール後のサンプルはいずれも無色透明となった。
(研磨・加工工程)
アニール処理済みのHIP焼結体サンプルを外径5mmとなるように円筒研削し、さらに長さ20mmとなるように光学研磨を施した。その際、研磨面精度はλ/8(λ=633nm)となるように加工条件を調整した。
【0073】
以上のようにして得られた透明セラミックスサンプルについて以下の評価を行った。
(透過率測定)
光学研磨された透明セラミックスサンプルの透明性として、JIS K7136:2000を参考に測定した。即ち、積分球に光を通過する入口開口と出口開口を設け、入口開口部に試料(透明セラミックスサンプル)を設置する。出口開口部に反射板を取り付けることにより、試料から出射された光をすべて積分球で検知することが可能となり、この検知した出射光の強度と試料に入射する光強度の比から全光線透過率を測定した。装置は日本分光社製の分光光度計(V-670)を用い、付属されている積分球を使用して測定した。その際、照射する光のスポット径は3mmとなるようにピンホールを設けた。なお、測定波長は1064nmに固定した。
以上の結果を表2に示す。
【0074】
【0075】
以上の結果、実施例1-1~1-8のように、出発原料について1100℃における質量減少率(a(%))により補正した使用質量で秤量した場合はすべて高度に透明なものとなった。一方、比較例1-1~1-8のように、出発原料について1100℃における質量減少率(a(%))による補正をすることなく従来とおりに求めた使用質量分を秤量した場合は、セラミックスの組成のずれによるみられる透過率の低下が認められた。なお、参考例1のように、出発原料について1100℃における質量減少率(a(%))による補正をしなくても、目標組成を理想的な比率からずらすことにより高度に透明なセラミックスを得ることが可能である。これらの結果から、出発原料の酸化物粉末に吸着した水分等の影響により、目標としていた組成とは異なる組成のセラミックスができていることを示唆している。なお、ここでいう高度に透明というのは、透過率が82%以上であることを指している。また、備考欄の「異相あり」は倍率100倍の光学顕微鏡観察により異相が認められたことを意味する(以下、同じ)。
【0076】
[実施例2]
実施例1-1、比較例1-1において、出発原料のTb酸化物粉末を、Tb4O7(粗粉)として以下のように使用質量を求め、それ以外は実施例1-1、比較例1-1と同様にして透明セラミックスサンプルを作製した。また、参考例1において、出発原料のTb酸化物粉末を、Tb4O7(粗粉)とし、それ以外は参考例1と同様にして透明セラミックスサンプルを作製した。その結果を表3に示す。
・目標組成:Tb3Al5O12
(実施例2)
mTb(粗粉)=3/2×MTb/MG2×W×100/(100-aTb(粗粉))=35.12(g)
mAL=5/2×MAL/MG2×W×100/(100-aAl)=16.22(g)
(比較例2)
m’Tb(粗粉)=3/2×MTb/MG2×W=34.14(g)
m’AL=5/2×MAL/MG2×W=15.86(g)
(MTb=365.8、MAL=102.0、MG2=803.7、aTb(粗)=2.8、aAl=2.2)
・目標組成:Tb3.014Al4.986O12
(参考例2)
mTb(粗粉)=3.014/2×MTb/MG1-9×W=34.22(g)
mAL=4.986/2×MAL/MG1-9×W=15.79(g)
(MTb=365.8、MAL=102.0、MG1-9=805.4)
【0077】
【0078】
以上の結果、実施例2では高度に透明化できたのに対し、比較例2では透過率が低くなった。また、参考例2では、参考例1で高度に透明化した目標組成(秤量条件)にもかかわらず、透過率が悪くなっている。出発原料の酸化物粉末における吸着水分量等の差により、参考例1と参考例2との間で差が生じたものと考えられる。
このように、本発明の製造方法によれば、出発原料の酸化物粉末の種類やロットが変わっても、再現性良く高度に透明なガーネット型セラミックスを作製することが可能となる。
【0079】
[実施例3]
上記実施例1-3、1-4、並びに比較例1-3、1-4において、Tb酸化物粉末、Y酸化物粉末の組み合わせをそれぞれ、Tb4O7(微粉)-Y2O3(粗粉)、Tb4O7(粗粉)-Y2O3(微粉)に変更して以下のように使用質量を求め、それ以外は実施例1-3、1-4、比較例1-3、1-4と同様にして透明セラミックスサンプルを作製した。
(1)目標組成:(Tb0.8Y0.2)3Al5O12
(実施例3-1)
mTb(微粉)=3/2×0.8×MTb/MG3(1)×W×100/(100-aTb(微粉))=30.92(g)
mY(粗粉)=3/2×0.2×MY/MG3(1)×W×100/(100-aY(粗粉))=4.60(g)
mAL=5/2×MAL/MG3(1)×W×100/(100-aAl)=17.12(g)
(比較例3-1)
m’Tb(微粉)=3/2×0.8×MTb/MG3(1)×W=28.81(g)
m’Y(粗粉)=3/2×0.2×MY/MG3(1)×W=4.45(g)
m’AL=5/2×MAL/MG3(1)×W=16.74(g)
(実施例3-2)
mTb(粗粉)=3/2×0.8×MTb/MG3(1)×W×100/(100-aTb(粗粉))=29.64(g)
mY(微粉)=3/2×0.2×MY/MG3(1)×W×100/(100-aY(微粉))=4.97(g)
mAL=5/2×MAL/MG3(1)×W×100/(100-aAl)=17.12(g)
(比較例3-2)
m’Tb(粗粉)=3/2×0.8×MTb/MG3(1)×W=28.81(g)
m’Y(微粉)=3/2×0.2×MY/MG3(1)×W=4.45(g)
m’AL=5/2×MAL/MG3(1)×W=16.74(g)
(MTb=365.8、MY=225.8、MAL=102.0、MG3(1)=761.7、aTb(微粉)=6.8、aTb(粗粉)=2.8、aY(微粉)=10.6、aY(粗粉)=3.4、aAl=2.2)
【0080】
(2)目標組成:(Tb0.6Y0.4)3Al5O12
(実施例3-3)
mTb(微粉)=3/2×0.6×MTb/MG3(2)×W×100/(100-aTb(微粉))=24.54(g)
mY(粗粉)=3/2×0.4×MY/MG3(2)×W×100/(100-aY(粗粉))=9.74(g)
mAL=5/2×MAL/MG3(2)×W×100/(100-aAl)=18.11(g)
(比較例3-3)
m’Tb(微粉)=3/2×0.6×MTb/MG3(2)×W=22.87(g)
m’Y(粗粉)=3/2×0.4×MY/MG3(2)×W=9.41(g)
m’AL=5/2×MAL/MG3(2)×W=17.72(g)
(実施例3-4)
mTb(粗粉)=3/2×0.6×MTb/MG3(2)×W×100/(100-aTb(粗粉))=23.53(g)
mY(微粉)=3/2×0.4×MY/MG3(2)×W×100/(100-aY(微粉))=10.53(g)
mAL=5/2×MAL/MG3(2)×W×100/(100-aAl)=18.11g)
(比較例3-4)
m’Tb(粗粉)=3/2×0.6×MTb/MG3(2)×W=22.87(g)
m’Y(微粉)=3/2×0.4×MY/MG3(2)×W=9.41(g)
m’AL=5/2×MAL/MG3(2)×W=17.72(g)
(MTb=365.8、MY=225.8、MAL=102.0、MG3(2)=719.7、aTb(微粉)=6.8、aTb(粗粉)=2.8、aY(微粉)=10.6、aY(粗粉)=3.4、aAl=2.2)
【0081】
上記のようにして得られた透明セラミックスサンプルについて、上記透過率を測定すると共に、以下のようにアイソレータ搭載を前提としてベルデ定数を測定した。
(ベルデ定数)
Tbを含むガーネット型透明セラミックスは磁気光学効果を有するため、アイソレータ用材料として用いることができる。得られた透明セラミックスがアイソレータとして使用可能か調査するために、ベルデ定数を測定した。
図1に示すように、得られた各セラミックスサンプルを外径32mm、内径6mm、長さ40mmのネオジム-鉄-ボロン磁石の中心に挿入し、その両端に偏光子を挿入した後、IPGフォトニクスジャパン(株)製ハイパワーレーザー(ビーム径1.6mm)を用いて、両端面から、波長1064nmのハイパワーレーザー光線を入射して、ファラデー回転角θを決定した。ファラデー回転角θは出射側の偏光子を回転させた時に、最大の透過率を示す角度とした。以下の式に基づき、ベルデ定数を算出した。なお、サンプルに印加される磁界の大きさ(H)は、上記測定系の寸法、残留磁束密度(Br)及び保持力(Hc)からシミュレーションにより算出した値を用いた。
θ=V×H×L
(式中、θはファラデー回転角(Rad)、Vはベルデ定数(Rad/(T・m))、Hは磁界の大きさ(T)、Lはファラデー回転子の長さ(この場合、0.020m)である。)
以上の結果を、実施例1-1、1-3、1-4、1-5、2、並びに比較例1-1、1-3、1-4、1-5、2の透明セラミックスサンプルについて測定したベルデ定数の結果と共に以下に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
いずれの場合も実施例と比較例とでベルデ定数が同じとはならなかった。これは、比較例において出発原料についての1100℃における質量減少率(a(%))による補正がないことにより、目標組成からTbとそのほかの元素とのバランスがくずれることとなり実施例のベルデ定数と差異を生じたものと思われる。即ち、従来の製造方法では、目標組成を理想の比率に固定した場合、出発原料のTb酸化物粉末やそのほかの酸化物粉末の種類(比表面積など)の影響によりベルデ定数がばらつくことが予想されるが、ベルデ定数がばらついてしまうと、アイソレータの品質に影響し、戻り光の消光比が悪化する可能性もあるため、好ましくない。
以上のように、本発明によれば、透明セラミックスの高度透明化だけでなく、磁気光学素子としての性能を保証する上でも有効である。
【0085】
なお、これまで本発明を上述した実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。