(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124246
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】クリンカ生成を抑制する方法、及び、クリンカ生成抑制剤
(51)【国際特許分類】
F23J 3/00 20060101AFI20230830BHJP
F23L 7/00 20060101ALI20230830BHJP
F23G 5/44 20060101ALI20230830BHJP
F23J 1/00 20060101ALI20230830BHJP
F23J 1/08 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
F23J3/00 Z
F23C99/00 302
F23G5/44 D
F23J1/00 A
F23J1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027897
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】堀口 元規
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】奥泉 達也
(72)【発明者】
【氏名】神谷 秀博
【テーマコード(参考)】
3K065
3K161
3K261
【Fターム(参考)】
3K065AB01
3K065BA05
3K065TF08
3K065TN17
3K161AA21
3K161AA24
3K161BA08
3K161CA01
3K161HA47
3K161HA65
3K261GA09
3K261GA16
(57)【要約】
【課題】新規なクリンカ生成抑制方法及び抑制剤を提供する。
【解決手段】この方法は、燃料を燃焼するプラントにおいて燃焼排ガスと接触する機器の表面へのクリンカの生成を抑制する方法であって、燃焼排ガスに対して、水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの粉を添加する工程を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を燃焼するプラントにおいて燃焼排ガスと接触する機器の表面へのクリンカの生成を抑制する方法であって、
前記燃焼排ガスに対して、水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの粉を添加する工程を備える、方法。
【請求項2】
水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの粉を含有する、クリンカ生成抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカ生成を抑制する方法、及び、クリンカ生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高融点の金属化合物を薬剤として用いるクリンカ防止・制御法に関する技術が知られている。
【0003】
特許文献1では3~200nmの金属化合物粒子と硝酸などの水溶性爆薬化合物を水に溶解または分散させた薬剤を用いることで、添加した粒子が炉壁面や灰粒子表面に付着して滑り性のある表面へと改質し、付着性を下げることができることが開示されている。
【0004】
特許文献2では、3~10000nmの高融点金属化合物粒子を粒子状または液中に分散させて用いて付着面へ直接導入することで、灰の高融点化やクリンカの空隙率増加で付着を抑制できることが開示されている。
【0005】
特許文献3では、かさ密度が低い1~20μmのMg系化合物を利用することで、その低いかさ密度から添加剤を排ガス流れにのせて適切に付着面へと到達させることができ、焼結遅延や空隙率増加効果により付着を抑制できると開示されている。
【0006】
特許文献4では、かさ密度が低い高融点の金属化合物を用いることで、クリンカがこれを取りこんで脆くなり、付着を抑制できることが開示されている。
【0007】
特許文献5では、アルミナなどの高融点粒子の添加によりクリンカの生成を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-18704号公報
【特許文献2】特開2006-29701号公報
【特許文献3】特開2011-202835号公報
【特許文献4】特開2012-189295号公報
【特許文献5】特開2007-32916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
燃焼により生じる灰は複数の元素から構成される複雑な組成を有する。また、近年では、燃料の多様化が進んでおり、従来型の石炭だけでなくバイオマスや廃棄物を燃料として利用する試みも広がっている。そのため、灰の性状は多様化しており、付着現象もより一層複雑化している。
【0010】
そこで、燃料を燃焼するプラントにおいて燃焼排ガスと接触する表面でのクリンカの生成をより効率よく抑制する新規な方法が求められている。
【0011】
本願は上記課題に鑑みてなされたものであり、新規なクリンカ生成抑制方法及び抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態に係る方法は、燃料を燃焼するプラントにおいて燃焼排ガスと接触する機器の表面へのクリンカの生成を抑制する方法であって、前記燃焼排ガスに対して、水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの粉を添加する工程を備える。
【0013】
他の実施形態に係るクリンカ生成抑制剤は、水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの粉を含有する。
【発明の効果】
【0014】
新規なクリンカ生成抑制方法及び抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】粉体層引張試験装置のセル近傍の拡大斜視図である。
【
図2】(a)及び(b)は、それぞれ、硝酸アルミニウム粉添加Na/Si系サンプル灰及び硫酸アルミニウム粉添加Na/Al/Si系サンプル灰の引張強度の結果を示すグラフである。
【
図3】(a)及び(b)は、それぞれ、硝酸アルミニウム粉添加K/Si系サンプル灰及び硫酸アルミニウム粉添加K/Al/Si系サンプル灰の引張強度の結果を示すグラフである。
【
図4】硫酸アルミニウム粉添加Na/Si系サンプル灰の引張強度の結果を示すグラフである。
【
図5】硫酸アルミニウム粉添加K/Si系サンプル灰の引張強度の結果を示すグラフである。
【
図6】(a)及び(b)は、それぞれ、水酸化アルミニウム粉添加Na/Si系サンプル灰及び硫酸アルミニウム粉添加Na/Al/Si系サンプル灰の引張強度の結果を示すグラフである。
【
図7】(a)及び(b)は、それぞれ、水酸化アルミニウム粉添加K/Si系サンプル灰及び硫酸アルミニウム粉添加K/Al/Si系サンプル灰の引張強度の結果を示すグラフである。
【
図8】硝酸アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、水酸化アルミニウム粉をそれぞれ900℃で熱処理した後のXRDパターンを示す図である。
【
図9】900℃にて熱処理した硝酸アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、水酸化アルミニウムのTEM像である。
【
図10】硝酸アルミニウム粉を10wt%添加したサンプル灰の粉体層を900℃で引張試験し、冷却した後の写真である。
【
図11】モデル灰に対して平均粒径3μmのアルミナマイクロ粒子を添加して900℃にて引張試験した時の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について説明する。
【0017】
(クリンカ生成抑制剤)
実施形態に係るクリンカ生成抑制剤は、水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの化合物粉を含有する。
【0018】
水酸化アルミニウムとは、Al(OH)3で表される化合物である。水酸化アルミニウムの例は、ギブサイト、バイヤライトである。
【0019】
水酸化酸化アルミニウムとは、AlO(OH)で表される化合物である。酸化水酸化アルミニウムの例は、ベーマイト、ダイアスポアである。
【0020】
硫酸アルミニウムとは、Al2(SO4)3で表される化合物である。硫酸アルミニウムは、無水物であってもよいが、水和物であることが好適である。水和物の例は、14水和物、15水和物、16水和物、17水和物、18水和物、27水和物、10水和物、6水和物である。市販されている14~18水和物も使用できる。
【0021】
硝酸アルミニウムとは、Al(NO3)3で表される化合物である。硝酸アルミニウムは、無水物であってもよいが、水和物であることが好適である。水和物の例は、9水和物、8水和物、6水和物である。
【0022】
これらの化合物粉の粒径に特に限定はないが、例えば、顕微鏡による直接観察による粒径範囲は10~2000μmであることができる。
【0023】
クリンカ生成抑制剤は、上記の化合物粉のいずれかを単独で含んでもよく、任意の組み合わせの複数の化合物粉を含んでいてもよい。
【0024】
クリンカ生成抑制剤は、上記の化合物粉のみを含んでいてもよいが、分散剤などの他の成分を含んでいてもよい。
【0025】
また、クリンカ生成抑制剤は、粉以外に水、アルコールなどの液体を含むスラリーであってもよい。スラリーの場合には、界面活性剤などを含んでいてもよい。
【0026】
(クリンカ生成抑制方法)
本実施形態に係る方法は、燃料を燃焼するプラントにおいて燃焼排ガスと接触する機器の表面へのクリンカの生成を抑制する方法である。この方法では、燃焼排ガスに対して、水酸化アルミニウム粉、水酸化酸化アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉からなる群から選択される少なくとも1つの粉を添加する工程を備える。
【0027】
燃焼排ガスと接触する機器に特に限定はなく、燃焼炉、煙道、集塵機、フィルタ、熱交換器等であってよい。
【0028】
クリンカ生成抑制剤の添加量に特段の限定はない。
【0029】
例えば、燃焼ガス中の灰の質量に対して、クリンカ抑制剤中の化合物粉の質量が1質量%以上でよく、2質量%以上でもよく、5質量%以上でもよい。なお、化合物粉の質量とは、複数種の粉の混合物である場合にはその全量の意味である。
灰の質量が時間あたりの流量である場合、クリンカ生成抑制剤の供給も時間あたりの流量とすることができる。
【0030】
添加量の上限も特にないが、例えば、30質量%以下でもよく、20質量%以下でもよい。
【0031】
特に、水酸化アルミニウム粉、及び、硝酸アルミニウム粉では、添加量を増やすと付着性を低減しやすい。
【0032】
一方、硝酸アルミニウム粉では、添加量を増やしてもそれほど効果が上昇しない場合がある。
【0033】
クリンカ生成抑制剤の添加場所については特段の限定はない。クリンカ生成抑制剤は、クリンカの生成を抑制したい機器、または、その機器の上流側に添加することができ、例えば、当該機器の直前の煙道に添加するのが好ましい。ただし、その他、燃焼炉内、燃焼炉に供給する空気予熱器、減温塔、空気加熱器等に添加しても良好な添加効果を得ることができる。
【0034】
クリンカ生成場所の温度は、特に限定はないが、例えば、600~1000℃であってよく、700~1000℃であってよい。
【0035】
クリンカ生成抑制剤の添加方法は連続添加でも良いし、間欠注入でも良い。
【0036】
粉末状のクリンカ生成抑制剤を供給する場合は、コンプレッサー、ブロアなどでクリンカ低減剤を圧送することができる。液体状のクリンカ生成抑制剤を添加する場合は、スプレーノズルなどから噴霧することができる。
【0037】
燃料について特に限定はない。石油、石炭、家庭ゴミ等の廃棄物、下水汚泥、木材等のバイオマスなどが挙げられる。
【0038】
(作用機序)
アルカリ金属由来の低融点成分は、石炭から廃棄物まで幅広い燃焼灰で付着原因になりうる。これに対して本実施形態に係るアルミニウムを含む化合物粉を含むクリンカ生成抑制剤を添加することで、灰の融点を引き上げることができ、多様な燃料由来の灰を高融点化して付着を抑制できる。特に、本実施形態の化合物粉は、付着が起こる領域の温度にて粒子径がnmオーダーのアルミナナノ粒子に変化する。アルミナナノ粒子は反応性が高く、灰の高融点化反応がより効率的に進行することに加え、形成するナノ粒子は充填性が低く、クリンカを脆弱化する効果を兼ね備えている。
【0039】
したがって、あらかじめサイズを調整したアルミナナノ粒子をクリンカ生成抑制剤として使用する場合と比べ、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等を添加してプラント内部でアルミナナノ粒子を生成する本手法は、事前のサイズ調整やナノ粒子製造に伴うコストを削減でき、経済的にも優れた手法である。
【0040】
さらに、化合物粉がナノ粒子化する際に、水、窒素酸化物、硫黄酸化物などのガス成分が化合物粉から脱離する際に、空隙形成が起き、物理的にクリンカを脆弱化できる。
【0041】
すなわち、特定のアルミニウム化合物を薬剤として用いる本実施形態は、1)アルミニウム添加に伴う灰の高融点化、2)炉などのプロセス内での高反応性かつ低充填性のアルミナナノ粒子形成、3)薬剤由来の水等の分解ガス脱離時の空隙形成の3要素の相乗効果を生み出し、優れた付着抑制手法である。
【0042】
これにより、本発明は、様々な燃焼プラントの安定かつ効率的な運転に貢献できる。付着灰は石炭から廃棄物まで様々な燃料を燃やすプラントにて問題を引き起こしている。特に、熱回収プロセスにおける重要なユニットである熱交換器の伝熱面上で成長した付着灰は、エネルギー回収効率を著しく低下させる。仮に自重で脱落したとしても、大きな塊がプラント底部に落下する際にプラント内部の損傷を引き起こしかねない。大きな塊が排ガス流路で閉塞を起こすと、プラントの運転を停止し除去する必要が生じ、安定運転が著しく阻害される。本発明は、灰付着抑制に対して優れた効果を有する薬剤を添加することで、そのようなトラブルを事前に回避してプラントの安定かつ効率的な運転を実現できる。今後、化石燃料に加えてバイオマスや下水汚泥、廃棄物などを燃料として利用する試みが広がり、燃料の多様化が進むであろう。本発明は様々な燃料由来の灰付着の原因であるアルカリ金属やリン由来の低融点成分形成を、万能なアルミニウム系薬剤により抑制できる。加えて、高温場で形成されたナノ粒子や水分脱離に伴う付着層中での空隙形成効果も期待でき、組成に依存しない物理的効果で付着層を脆化させることも可能である。多様な燃料に対応できる優れた灰付着層形成抑制法である。
【実施例0043】
(モデル灰)
モデル灰として、参考文献D-2、D-3に開示されたものと同じ、粒子の高温付着現象を模擬できる高い付着性を示すモデル灰を用いた。モデル灰は、化学的に安定かつ多くの燃焼灰の構成要素であるシリカまたはカオリン(アルミニウムとケイ素の酸化物)粒子に、付着原因元素1つ(ナトリウム又はカリウム)を加えた粒子状物質である。
【0044】
モデル灰は付着原因成分が明確であることから、クリンカ生成抑制剤の効果を付着原因元素ごとに検証することを可能にする。
【0045】
モデル灰の名称は付着原因元素と安定成分との組み合わせによって、シリカを用いたものはNa/Si、K/Siと、カオリンを用いたものはNa/Al/Si、K/Al/Siと表記する。
【0046】
(クリンカ生成抑制剤)
以下の粉体を用意した。
【0047】
硝酸アルミニウム(9水和物)粉(粒径範囲600~2000μm)
硫酸アルミニウム(14~18水和物)粉(粒径範囲10~450μm)
水酸化アルミニウム(ギブサイト)粉(粒径範囲300~700μm)
粒径範囲は、顕微鏡で最小サイズと最大サイズとを直接観察して測定した。
【0048】
(評価装置)
本実施形態に係るクリンカ生成抑制剤の添加による効果を、吊り下げ型粉体層引張試験装置により測定される粉体層強度として定量評価した。この装置については添付の参考文献D-1にも詳細が記載されている。
【0049】
評価装置の斜視図を
図1に示す。この評価装置は、石英製の有底円筒形状を有する灰容器セル(直径58mm)を有している。セルの内部空間が円板形状を有し、内部空間の高さ10mm、内部空間の直径は50mmである。セルは直径方向に沿った分割面により左右(分割面に垂直な方向)に2分割できる構造となっている。一方のセルは固定部材に固定されて固定セルとされ、他方のセルは可動部材に固定されて可動セルとされ、一方のセルから引き離すことができる。
【0050】
図1に示すように、分割面と垂直な方向に可動セルが移動することにより、セル内の粉体層に対して引張試験を行うことができる。この装置には、セルを加熱することのできるヒータが設けられている。セルが石英製なので、昇温時の熱膨張の影響を著しく排除できる。
【0051】
(評価方法)
まず、モデル灰に対してクリンカ生成抑制剤を所定量加えて乾式混合して、プラント内部で形成しうる付着層を模擬したサンプル灰を調製した。以下の表に示す各クリンカ生成抑制剤の添加率は、クリンカ生成抑制剤質量/モデル灰質量により計算される。
【0052】
灰容器セルにサンプル灰を充填し、2.1 kPaで圧密することで高さ4-5 mmの粉体層を形成した(
図1)。粉体層を所定温度、例えばプラント内部で付着が発生する900°Cまで昇温速度10°C/minで加熱し、その温度で30分間保持した後に当該温度のままで粉体層の引張試験を行い、破断に要する力を高温条件で定量評価した。引張試験により得られる値は粉体層強度であり、この値が低いほど粉体層は脆く付着層が成長しにくいと判定できる。
【0053】
(結果)
硝酸アルミニウム粉を、ナトリウムを含むモデル灰(Na/Si、Na/Al/Si)またはカリウムを含むモデル灰(K/Si、K/Al/Si)に添加したサンプル灰の粉体層強度の測定結果をそれぞれ
図2の(a)及び(b)、
図3の(a)及び(b)に示した。また、クリンカ生成抑制剤としての効果を表1にまとめた。最大で81%も粉体層強度を低下させることに成功した。
【0054】
【0055】
硫酸アルミニウム粉を、ナトリウムを含むモデル灰(Na/Si)またはカリウムを含むモデル灰(K/Si)に添加したサンプル灰の粉体層強度の測定結果をそれぞれ
図4、
図5に示した。また、クリンカ生成抑制剤としての効果を表2にまとめた。最大で90%も粉体層強度を低下させることに成功し、他の薬剤と比べてさらに高い付着抑制効果を有することが確認された。
【0056】
【0057】
水酸化アルミニウム粉を、ナトリウムを含むモデル灰(Na/Si、Na/Al/Si)またはカリウムを含むモデル灰(K/Si、K/Al/Si)に添加したサンプル灰の粉体層強度の測定結果をそれぞれ
図6の(a)及び(b)、
図7の(a)及び(b)に示した。また、クリンカ生成抑制剤としての効果を表3にまとめた。最大で88%も粉体層強度を低下させることに成功した。硝酸アルミニウム薬剤とは異なり、どのモデル灰に対しても添加率が多いほど強い効果が発現することを確認した。付着の程度に応じて薬剤の添加量をコントロールすることで、効果的に付着を抑制できる。
【0058】
【0059】
クリンカ生成抑制すなわち粉体付着低減効果を考察するために、熱処理に伴う各種クリンカ生成抑制剤の形態変化を調査した。900℃熱処理後のクリンカ生成抑制剤としての、硝酸アルミニウム粉、硫酸アルミニウム粉、及び、水酸化アルミニウム粉のXRDパターンを
図8に示した。硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び水酸化アルミニウムのいずれも、900℃の熱処理後にはγ型のアルミナに変化していることが確認された。
【0060】
Scherrerの式により結晶子径を算出したところ、結晶子径4~6nmのアルミナ結晶が形成されていることが確認された。
図9に示す900℃の熱処理後のアルミニウム系薬剤のTEM観察結果からも、一次粒子径が5nm程度のナノ粒子として存在していることを確認した。表4には900℃の熱処理後の各クリンカ生成抑制剤の粒子密度、BET比表面積およびその値から算出した粒子径を示した。粒子密度は乾式密度計により測定した。BET比表面積は窒素吸脱着法により算出した。なお粒子径は、粒子が全て真球であると仮定して以下の式から算出した。
【0061】
粒子径=6÷(粒子密度×比表面積)
【0062】
【0063】
この結果から、10~16nmのナノ粒子が生成したことが示唆された。以上より、本実施形態のクリンカ生成抑制剤は高温条件下で直径が数nmのアルミナナノ粒子に変化し、1)ナノ粒子の高い反応性による灰の高融点化、2)ナノ粒子の介在による灰粒子の充填性悪化の2つの作用で灰付着層が脆化すると考えられた。
【0064】
また、モデル灰に硝酸アルミニウム粉を添加したサンプル灰の粉体層について、900℃にて引張試験を実施し、冷却した後の画像を
図10に示した。表面に凹凸や穴が観察され、これはアルミナ形成過程で脱離した窒素酸化物や水の放出に由来すると考えられる。このガスの放出際に粉体層が脆化したことも、付着抑制機構の1つになっていると考えられる。
【0065】
特許文献5では、平均粒径2~3μmのアルミナマイクロ粒子を薬剤としたクリンカ防止抑制方法が示されている。これに倣い、モデル灰に対して平均粒径3μmのアルミナマイクロ粒子を添加し、900℃にて引張試験を実施した。結果を
図11に示す。粉体層強度の低下は確認されなかった。
【0066】
なお、特許文献5の実施例と、本願の実施例の結果を比較するために、特許文献4での添加率を推定した。排ガス量12000Nm3/hと排ガス中ばいじん濃度6.0g/Nm3より、ばいじん発生量72kg/hと計算される。仮に「ばいじん=灰」と仮定し、その灰が全てクリンカー(付着層)になるとすると、付着灰の発生量72kg/h、アルミナマイクロ粒子の添加量は6.6kg/hで1時間添加し続ける操作を1日2回なので、1日トータルでは13.2kg添加となる。1時間あたりに換算すると、0.55kg/hとなる。すなわち、灰に対するアルミナマイクロ粒子の添加率は0.55÷72=0.8wt%と計算される。なお、この計算ではクリンカ発生量をかなり大きく見積もっている。
【0067】
以上より、本実施形態に係るアルミニウム系のクリンカ生成抑制剤は灰付着が起こる高温域でアルミナナノ粒子に変化し、ナノ粒子特有の高い反応性による高融点化と灰粒子層の充填性悪化の効果で付着を抑制する。さらに、ナノ粒子形成過程で脱離する水分や窒素酸化物が粉体層中に空隙を形成して脆化する効果も存在する。これらの相乗効果で灰の危機の表面への付着抑制を実現できる。
【0068】
参考文献リスト
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