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特開2023-124410有毒ナス科植物の除草用組成物及びそれを用いる除草方法
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  • 特開-有毒ナス科植物の除草用組成物及びそれを用いる除草方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124410
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】有毒ナス科植物の除草用組成物及びそれを用いる除草方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/20 20200101AFI20230830BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20230830BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20230830BHJP
   A01M 21/04 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
A01N63/20
A01N25/00 102
A01P13/00
A01M21/04 C
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028151
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】堀田 光生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克昭
(72)【発明者】
【氏名】二俣 翔
【テーマコード(参考)】
2B121
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA19
2B121CC05
2B121EA25
2B121EA26
4B065AA01X
4B065AC20
4B065CA47
4H011AB01
4H011BB21
4H011DA15
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、ワルナスビなどの有毒ナス科植物を萎凋及び/又は枯死させて排除できる新規の除草用組成物及び除草方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、ラルストニア・シュードソラナセアラム(Ralstonia pseudosolanacearum;R.シュードソラナセアラム)のレース4、シーケバー(sequevar)16に属する細菌を含む、有毒ナス科植物の除草用組成物に関する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラルストニア・シュードソラナセアラム(Ralstonia pseudosolanacearum;R.シュードソラナセアラム)のレース4、シーケバー(sequevar)16に属する細菌を含む、有毒ナス科植物の除草用組成物。
【請求項2】
前記細菌が、受領番号がNITE AP-03602である菌株(MAFF211472)、又は、その変異体であって前記有毒ナス科植物の除草作用を有するものを含む、請求項1に記載の除草用組成物。
【請求項3】
前記有毒ナス科植物が、ワルナスビ、ヨウシュチョウセンアサガオ、及びイヌホオズキからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の除草用組成物。
【請求項4】
R.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー(sequevar)16に属する細菌を有毒ナス科植物に適用する工程を含む、有毒ナス科植物の除草方法。
【請求項5】
前記細菌が、受領番号がNITE AP-03602である菌株(MAFF211472)、又は、その変異体であって前記有毒ナス科植物の除草作用を有するものを含む、請求項4に記載の除草方法。
【請求項6】
前記有毒ナス科植物が、ワルナスビ、ヨウシュチョウセンアサガオ、及びイヌホオズキからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項4又は5に記載の除草方法。
【請求項7】
前記適用工程が、前記細菌を前記有毒ナス科植物の内部に接種する工程を含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の除草方法。
【請求項8】
前記接種工程が、前記細菌を付着させた刃で前記有毒ナス科植物を傷つける工程を含む、請求項7に記載の除草方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラルストニア・シュードソラナセアラム(Ralstonia pseudosolanacearum;R.シュードソラナセアラム)のレース4シーケバー(sequevar)16に属する細菌を含む、有毒ナス科植物の除草用組成物及びそれを用いる除草方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワルナスビ(Solanum carolinense)は、ナス科の外来性有害雑草であり、家畜が採食すると中毒症状を引き起こすため、有毒であることが知られている。ワルナスビは、日本では1990年代以降に飼料畑や牧草地で繁茂し、急速に農作物や家畜に被害が拡大している。さらにこの雑草は、道路、公園、河川敷や芝生など日本各地の至る所に生育範囲を拡げており、地下深くまで根を発達させて生存し栄養繁殖するため、防除対策が難しい。
【0003】
ワルナスビなどの有毒ナス科植物の防除対策としては、これまでに化学農薬(除草剤)の使用、飼料作物での遮光により生育抑制すること、及び、捕食性昆虫の利用などが検討されてきた。しかしながら、除草剤を連用しても群落全体のワルナスビを根絶させることはできず、そのシュート(茎とその上にできる多数の葉からなる単位)の発生本数を抑制するにとどまり、飼料作物での遮光では、ワルナスビの生育を抑制できても根絶はできず、捕食性昆虫を利用しても、一旦定着したワルナスビへの防除効果が弱かった。
また、ワルナスビなどの有毒ナス科植物の防御対策としては、植物病原菌(軟腐病菌)の接種も検討されている。しかしながら、従前に知られる軟腐病菌の接種では、ワルナスビの地上部を枯らすことはできても、地下根を枯らすまでの効果はなく、さらに、非選択的に様々な植物に感染して発病させるので、実用されるには至っていない。
このように、ワルナスビなどの有毒ナス科植物を除くために様々な開発研究がなされており、例えば、特許文献1には、特定の生物農薬糸状菌固体培養物と酢酸を含有する農薬製剤組成物が記載されており、この農薬製剤組成物が対象とする多数の雑草群の1つにナス科のワルナスビが挙げられている。
【0004】
また、ナス科植物のほか200余種の植物に感染する、ラルストニア・ソラナセアラム(Ralstonia solanacearum;R.ソラナセアラム)について、その宿主範囲や地理的分布などについて研究が進められている。R.ソラナセアラムは、表現型、及び遺伝型に関して多様に分化しており、様々な類別単位が用いられている(非特許文献1を参照)。非特許文献1には、前記類別単位として、レースやシーケバーを挙げている。レースとは宿主との親和性に基づいた類別であり、R.ソラナセアラムは分離宿主及び宿主範囲の違いに基づいて5つのレースに分けられており、レース1はナス科作物など、レース3にはジャガイモやトマトなど、レース4にはショウガなどを宿主とする細菌が属する。シーケバーは、R.ソラナセアラムの病原性関連遺伝子(Endoglucanase(egl))の保存領域の塩基配列の違いに基づいてR.ソラナセアラムを細分する類別である。なお、R.ソラナセアラムに属する細菌のうち、レース4、ならびにレース1に属する細菌が、R.シュードソラナセアラムとの学名に変更されたが(非特許文献2、非特許文献3参照)、通称として旧名はいまだ使用されており、R.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16と、R.ソラナセアラムのレース4、シーケバー16とは同じ分類である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/188049号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】微生物遺伝資源利用マニュアル(12) 改訂第2版(2012) ISSN 1344-1159
【非特許文献2】International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2014), 64, 3087-3103
【非特許文献3】植物防疫 (2019), 第73巻第3号, 167-174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ワルナスビなどの有毒ナス科植物を萎凋及び/又は枯死させて除草できるが、新規の除草用組成物及び除草方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有毒ナス科植物を除草するために、ナス科植物に対して病原性を有する微生物を利用できないか考えたが、一般にはナス科植物に対して病原性を有する細菌は、ナス科農作物にも病原性を有するため、そのような微生物の利用は現実的ではなかった。しかしながら、本発明者らは、予想外にも、有毒ナス科植物に対する病原性を有しながらも、ナス科農作物の生育には影響を与えない、R.シュードソラナセアラムに属する特定の細菌を発見し、鋭意検討を重ねて本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕ラルストニア・シュードソラナセアラム(Ralstonia pseudosolanacearum;R.シュードソラナセアラム)のレース4、シーケバー(sequevar)16に属する細菌を含む、有毒ナス科植物の除草用組成物。
〔2〕前記細菌が、受領番号がNITE AP-03602である菌株(MAFF211472)、又は、その変異体であって前記有毒ナス科植物の除草作用を有するものを含む、前記〔1〕に記載の除草用組成物。
〔3〕前記有毒ナス科植物が、ワルナスビ、ヨウシュチョウセンアサガオ、及びイヌホオズキからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の除草用組成物。
〔4〕R.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー(sequevar)16に属する細菌を有毒ナス科植物に適用する工程を含む、有毒ナス科植物の除草方法。
〔5〕前記細菌が、受領番号がNITE AP-03602である菌株(MAFF211472)、又は、その変異体であって前記有毒ナス科植物の除草作用を有するものを含む、前記〔4〕に記載の除草方法。
〔6〕前記有毒ナス科植物が、ワルナスビ、ヨウシュチョウセンアサガオ、及びイヌホオズキからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記〔4〕又は〔5〕に記載の除草方法。
〔7〕前記適用工程が、前記細菌を前記有毒ナス科植物の内部に接種する工程を含む、前記〔4〕~〔6〕のいずれか1項に記載の除草方法。
〔8〕前記接種工程が、前記細菌を付着させた刃で前記有毒ナス科植物を傷つける工程を含む、前記〔7〕に記載の除草方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ワルナスビなどの有毒ナス科植物を萎凋及び/又は枯死させて除草できるが、ナスやトマトなどのナス科農作物の生育には負荷をかけない、新規の除草用組成物及び除草方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ワルナスビが繁殖している圃場でのR.シュードソラナセアラムの接種試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、有毒ナス科植物、特にワルナスビなどの除草に有効な生菌であるラルストニア・シュードソラナセアラム(R.ソラナセアラム)のレース4、シーケバー16に属する細菌を含有する除草用組成物に関する。また、本発明は当該細菌を有毒ナス科植物に適用して当該植物を除草する方法にも関する。
【0013】
<R.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌>
本発明で使用される細菌は、R.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する。
レース4の菌株は、egl遺伝子のシーケンス解析により、主に二つのシーケバー(16及び30)に分類される(非特許文献3参照)。
本発明で使用されるR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌は、egl遺伝子のシーケンス解析以外に、Horita, M. and Sakai, K.Y. (2020) Specific detection and quantification of Ralstonia pseudosolanacearum race 4 strains from Zingiberaceae plant cultivation soil by MPN‐PCR. Journal of General Plant Pathology, 86, 393-400に記載のPCR法でも確認することができる。
【0014】
本発明で使用されるR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌は、MAFF211472、MAFF211473、MAFF211474、MAFF211475、MAFF211476、MAFF211477、及びMAFF211478のいずれかの菌株であってもよい。これらの菌株は、農業生物資源ジーンバンク(MAFF)に登録され、配布が行われている。
また、本発明で使用される菌株の一つのMAFF211472は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにも寄託されている(受領番号NITE AP-03602(受領書通知年月日 2022年2月10日))。
なお、MAFF211472株の全ゲノム配列情報は、本発明者らによって公表されており(Microbiology Resource Announcements, 10, e01303-20 (2021))、MAFF211472株とレース4のシーケバー30に属する細菌やレース1の細菌との区別は容易である。
【0015】
本発明で使用するR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16は、例えば非特許文献1に記載されるような従来公知の定法により培養してもよい。また、また、公知の定法により、例えばスキムミルクとL-グルタミン酸ナトリウムを含む媒体中で凍結保存してもよい。
【0016】
<除草機序>
本発明で使用するR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌は、後述するような有毒ナス科植物などの親和性の高い植物の表面に付着し、植物体の傷口や根の表皮、茎基部などから侵入し、導管部を閉塞して通水能力を低下させて有毒ナス科植物に萎凋症状を引き起こし、枯死させる。
そして、本発明で用いられる当該細菌は、後述するワルナスビなどの有毒ナス科植物に感染して萎凋させ、枯死させることで有毒ナス科植物を除草できる一方で、ナスやトマトなどのナス科農作物の生育には影響をあたえないことから、ナス科植物のなかでも植物を選択して感染して萎凋及び/又は枯死させることを確認している。具体的には、本発明で用いられる当該細菌は、ナス科農作物の中でも例えばトマト、ナス、ピーマンの生育に負荷をかけない。
なお、本発明における除草作用には、植物体の地上部を萎凋させる、及び/又は、根を含む植物体全体を枯死させることを含む。
【0017】
<有毒ナス科植物>
本発明における除草対象の有毒ナス科植物は、家畜に毒性を有する植物であれば限定されないが、例えば、ナス科(Solanaceae)ナス属(Solanum)のワルナスビ(S.carolinense)、ケイヌホオズキ(S.sarrachoides)、オオイヌホオズキ(S.nigrescens)、アメリカイヌホオズキ(S.ptychanthum)、及びイヌホオズキ(S.nigrum)、ならびに、ナス科チョウセンアサガオ属(Datura)のチョウセンアサガオ(D.metel)、ケチョウセンアサガオ(D.innoxia)、及び、シロバナヨウシュチョウセンアサガオ(D.stramonium)などが挙げられる。
また、本発明における除草対象の有毒ナス科植物は、R.シュードソラナセアラムのレース4のシーケバー16に属する細菌と親和性がある高い植物でありうる。本発明における除草対象の有毒ナス科植物は、たとえばワルナスビ及びイヌホオズキ、ならびにこれらと類似の性質を有するヨウシュチョウセンアサガオ(The biology of Canadian weeds. 64. Datura stramonium L. Can. J. Plant Sci. 64: 979-991.1984参照)であってもよい。
上記ワルナスビなどの多年草の場合には、除草の際には根まで枯らすことがより好ましい。
【0018】
<除草方法>
本発明は、上記除草用組成物を土壌に適用する工程を含む、有毒ナス科植物の除草方法にも関する。
本発明で使用するR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌は、上述したように有毒ナス科植物の表面に付着し、傷口や根の表皮、茎基部などから侵入し、導管部を閉塞して通水能力を低下させて有毒ナス科植物に萎凋症状を引き起こし、枯死させる。したがって、前記適用工程が、前記細菌を前記有毒ナス科植物の内部に接種する工程を含んでもよい。また、ワルナスビなどの有毒ナス科植物をハサミなどの刃で切断などして傷をつけながらその傷にR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌を接種してもよい。また、当該細菌懸濁液に浸漬させることで当該細菌を付着させたハサミなどの刃を用いて、有毒ナス科植物を切断するという手法をとってもよい。また、乳酸菌発酵させた家畜飼料(ロールベールサイレージ)を作製時に使用する、乳酸菌を噴霧しながら植物を刈り取る装置に、乳酸菌の代わり又は一緒に当該R.シュードソラナセアラムを噴霧させて使用してもよい。なお、R.シュードソラナセアラムは家畜や飼料作物に病原性は無いことが知られている。
有毒ナス科植物に侵入したR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌は、その宿主植物が枯死するまで植物内で生存していてもよい。
また、有毒ナス科植物が生えた圃場に本発明で使用される細菌を1回適用した場合、適用しなかった場合と比較して、例えば40~80%程度の有毒ナス科植物個体数を枯死させ、再生不能にできる。なお、ここでいう有毒ナス科植物個体数は、シュート数に対応する。
一方で、本発明で使用するR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌は、圃場に適用して1か月程度で除草効果を発揮し、有毒ナス科植物を枯死させるので、当該菌株は適用後2か月程度で圃場から検出されなくなってもよい。
【0019】
本発明におけるR.シュードソラナセアラムの植物への施用量は、有毒ナス科植物の植生状況、除草用組成物の剤形などの諸条件に応じて適宜決定される。例えば、除草用組成物が液剤である場合、液剤中の当該R.シュードソラナセアラムの菌株の生細胞濃度は約1×107~9cfu/mLであってもよく、その液剤の施用量は100~500L/10aであってもよい。
その他、必要に応じて、具体的には、地上部散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌灌注施用、等の各処理より行われてもよいし、適宜組み合わせてもよい。より具体的な施用方法としては、各種剤形の除草用組成物を有毒ナス科植物が植生している土壌に灌注する処理、土壌に混和する処理が行われることで、本発明で使用される細菌を含む除草用組成物を有毒ナス科植物と接触させてもよい。
また、本除草用組成物を使用する場合に、地温が25℃以上である場合に、当該細菌の活動が活発になることから、より除草効果が期待される。
【0020】
<除草用組成物>
本発明の除草用組成物の態様は特に限定されないが、含まれるR.シュードソラナセアラム)のレース4、シーケバー16に属する細菌は生菌である必要があり、例えば除草用組成物の保存安定性の観点から従前の方法で凍結乾燥した態様で流通させ、使用時に従前の方法で一定濃度に培養して当該細菌の懸濁液を作製するものであってもよい。また、本発明の除草用組成物は、含まれる細菌を従前の水保存法で保存させたものを流通させてもよい。
【0021】
本発明の除草用組成物に含まれるR.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16に属する細菌の含有量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば使用時に、コロニー形成単位に換算して、1x109cfu/g以上1x1011cfu/g以下であってもよい。
本発明の除草用組成物は、ナス科農作物、例えばトマト、ナス、ピーマンには効かず、これらの作物に負荷をかけない。但し、R.シュードソラナセアラムのレース4、シーケバー16を接種したジャガイモを萎凋させるため、ジャガイモ畑の周辺では使用を控えることが望ましい。
【0022】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0023】
1.ワルナスビに除草作用を有するR.シュードソラナセアラムの菌株の選抜
R.シュードソラナセアラムに分類される、表1に記載の各菌株のワルナスビに対する除草作用を調査した。各菌株は、発病した各宿主植物から分離されたものであり、本発明者が農業生物資源ジーンバンクに寄託したものと同じである。なお、各菌株のレース4(分離宿主:ショウガ科植物)のシーケバー16及びシーケバー30は、病原性関連遺伝子(Endoglucanase(egl))のDNAシーケンス情報を基に、非特許文献1に記載の方法で調査した結果である。
各菌株を寒天培地で培養して、各菌株の懸濁液(約107cfu/ml)を調製した。ワルナスビ(6~12葉期)の地際部から数cmの茎の表面(茎基部)に当該懸濁液をのせて、この懸濁液を通して、注射針で茎の髄に達するまで刺すことで、有傷接種した。対照として滅菌水を用いて、同様にワルナスビに有傷接種した。接種後は、温室内(25℃)に当該ワルナスビを置いて、2週間程度観察することで、除草作用を調査した。各菌株の除草作用は、接種されたワルナスビの複数の葉が萎凋又は枯死したかどうかを指標とした。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示す結果から、MAFF211282株(レース1)、MAFF211268株(レース1)、及びMAFF211472株(レース4、シーケバー16)はいずれもワルナスビを萎凋、又は枯死させたが、それ以外の菌株はワルナスビの生育に影響を与えなかった。なお、萎凋又は枯死したワルナスビはいずれも、根が褐変して腐敗しており、根を切断すると、内部が黒変腐敗していた。
【0026】
2.ナス科農作物の生育への影響調査
(予備実験)
周辺のナス科農作物栽培地に接種したR.シュードソラナセアラムが土壌や雨水と一緒に移動して、農作物に被害を与えるリスクを減らす必要があるため、R.シュードソラナセアラムのナス科農作物への生育への影響を調査した。本実験では、一般的な細菌による土壌汚染が起こる場合に近い条件として、接種方法に潅注接種法を選択した。
ワルナスビ(12葉期)、トマト(9葉期、おどりこ)、ナス(8葉期、千両二号)の株元にMAFF211472株(レース4、シーケバー16)及びMAFF211282株(レース1)の懸濁液(約107cfu/ml)を約20ml灌注接種(土壌汚染させる)して、温室内(25℃)で観察することで、除草効果を調査した。各菌株の除草効果は、接種されたワルナスビにおいて複数の葉が萎凋又は枯死したかどうかを指標とした。
MAFF211472株を接種した群では、ワルナスビ個体数の全体の20%程度が萎凋、枯死したが、MAFF211472株はナス個体及びトマト個体には生育に影響がなかった。一方で、MAFF211282株を接種した群では、ワルナスビ個体数の全体の20%程度を萎凋、枯死させ、かつ、MAFF211282株はナス個体やトマト個体も萎凋又は枯死させた。
以上から、MAFF211472株は、ナス科農作物(トマト、ナス)の生育に影響がなかったことから、そのワルナスビの除草に使用しても、周囲のナス科農作物栽培に影響を与えず、除草用組成物として有望であると考えられた。また、R.シュードソラナセアラムの中でもレース4、シーケバー16に属する細菌は、ワルナスビを萎凋又は枯死させるが、ナスやトマトなどのナス科農作物の生育には影響を示さない細菌ではないかと仮説を立てた。
【0027】
(本試験)
上記予備試験で有望とされたMAFF211472株だけでなく、それ以外のレース4、シーケバー16に属する細菌について、有毒ナス科植物であるワルナスビ及びイヌホオズキの除草効果、及び、ナス科農作物等の生育への影響を調査した。
ワルナスビ(6~12葉期)及びイヌホオズキ(8~11葉期)には、上記1.で行なったのと同様に各菌株の懸濁液を茎基部に有傷接種し、トマト(大型福寿、11~13葉期)、ナス(千両二号、8~10葉期)、及びピーマン(フルーピーレッドEX、10~13葉期)には、株元に上記予備試験と同様に各菌株の懸濁液を20ml灌注接種した。接種後各植物を温室内(25℃)において3~4週間観察することで、病原性を調査した。
結果を表2に示す。レース4、シーケバー16に属する細菌であれば、MAFF211472株だけでなくいずれもワルナスビ及びイヌホオズキを萎凋又は枯死させた。そして、レース4、シーケバー16に属する細菌は、ナス、トマト及びピーマンの生育には影響がなかった。
【0028】
【表2】
【0029】
3.ワルナスビが繁殖している圃場でのR.シュードソラナセアラムの接種試験
圃場で選抜したR.シュードソラナセアラム株(MAFF211472)のワルナスビの除草防除効果を調査した。試験場所は静岡県畜産技術研究所(静岡県富士宮市猪之頭)内の圃場であった。R.シュードソラナセアラム株(MAFF211472)の接種区及び無接種区はそれぞれ、一辺2.5mの正方形状の区画(6.25m2)とし、接種区と無接種区とは2m離して互いに影響しないようにした。
まず、接種区および無接種区両方において、再生固体数、すなわち、地上部に新芽を出して生育中の状態にある個体(シュート)数を調査した。
そして、上記1.で行なったのと同様にMAFF211472株の懸濁液(約108cfu/ml)を作製した。接種区では、この懸濁液にハサミを浸漬させてワルナスビの茎基部を切断することを繰り返して接種した。無接種区では懸濁液にハサミを浸漬させないでワルナスビの茎基部を同様に切断した。
接種28日後に、再生個体数の調査をした。また、接種区及び無接種区のワルナスビを掘り起こして根の病徴を観察した。
接種区では、ワルナスビの再生個体数が接種前の1/4に減少した(図1)。接種区の土壌を堀り起こして根の様子を観察した結果、茎基部の切断接種部位から根、茎が褐変、腐敗している様子が観察された。
また、接種31日後に接種区の土壌を4点採取し、滅菌水に懸濁後、R.シュードソラナセアラムを選択的に分離する寒天培地(改変SMSA培地)に塗抹して培養した結果、いずれの地点からも接種したR.シュードソラナセアラムは検出されなかった。
圃場試験の結果、接種後のワルナスビの再生個体数が大幅に減少し、その有効性が確認できた。
また、接種したR.シュードソラナセアラムの土壌への残存は確認されず、接種したR.シュードソラナセアラムが周辺土壌に移動して伝染するリスクは低いと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、外来雑草の除草に関係する分野において、畜産農家、飼料作物栽培農家やその関係者、及び道路、公園、河川敷や芝生等を管理している自治体関係者、民間業者等に利用されることが想定される。有毒ナス科植物の除草用に開発されている微生物農薬の種類は少ない一方で、新たな技術開発に対するニーズは高いことから、本発明に基づき開発される新たな微生物農薬等の利用可能性は高い。
図1