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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124522
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G03G9/08 384
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028325
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 拓真
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500BA07
2H500BA32
2H500CB10
2H500CB17
2H500EA46A
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粗大粒子の存在割合を低くしながら、微小粒子の存在割合および体積平均粒径(Dv)が適切な範囲内に制御されたトナーを得ることができるトナーの製造方法を提供する。
【解決手段】コロイド分散液調製工程、液滴形成工程および重合工程を備えるトナーの製造方法であって、コロイド分散液の調製に用いる水溶性多価金属塩の水溶液(A)として、主成分としての第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量が、2000~4000重量ppmであるトナーの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水溶性多価金属塩の水溶液(A)と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)とを混合することにより、難水溶性金属化合物のコロイド分散液を調製するコロイド分散液調製工程、
(2)重合性単量体および着色剤を含有する重合性単量体組成物と、前記難水溶性金属化合物のコロイド分散液とを混合することにより、前記重合性単量体組成物の液滴を含有する懸濁液を得る液滴形成工程、および、
(3)前記懸濁液を重合反応に供することにより、着色樹脂粒子を得る重合工程、
を備えるトナーの製造方法であって、
前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)に主成分として含まれる水溶性多価金属塩を、第1の水溶性多価金属塩(a1)とした場合に、前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の少なくとも一方を含み、前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)および前記ホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量が、2000~4000重量ppmであるトナーの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)が、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)を含み、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)が、多価金属の硫酸塩または多価金属の塩化物を含む請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、前記ホウ素含有化合物(a3)の含有量が、3~60重量ppmである請求項1または2に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
前記第1の水溶性多価金属塩(a1)が、塩化マグネシウムを含む請求項1~3のいずれかに記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
前記第2の水溶性多価金属塩(a2)が、硫酸マグネシウムを含む請求項1~4のいずれかに記載のトナーの製造方法。
【請求項6】
前記第2の水溶性多価金属塩(a2)が、塩化カルシウムを含む請求項1~5のいずれかに記載のトナーの製造方法。
【請求項7】
前記ホウ素含有化合物(a3)が、ホウ酸を含む請求項1~6のいずれかに記載のトナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置、および静電印刷装置等の画像形成装置において、感光体上に形成された静電潜像を可視像化するために現像剤が用いられている。現像剤は、着色剤や帯電制御剤、離型剤等が結着樹脂中に分散した着色粒子(トナー)を主成分としている。
【0003】
トナーの製造方法は、粉砕法と重合法に大別することができる。粉砕法では、結着樹脂と着色剤とその他の添加剤成分とを溶融混練し、溶融物を粉砕し分級する方法によって、着色樹脂粒子からなるトナー(粉砕トナー)を製造する。重合法では、重合性単量体と着色剤とその他の添加剤成分とを含む重合性組成物を、懸濁重合法、乳化重合凝集法、分散重合法、溶解懸濁法などにより重合することで、着色樹脂粒子からなるトナーを製造する。
【0004】
たとえば、特許文献1には、難水溶性無機微粒子と、多価金属イオンとを含有する水系媒体を調製する調製工程、該水系媒体に、重合性単量体と、着色剤とを含有する重合性単量体組成物を加えて、該重合性単量体組成物の粒子を該水系媒体中で形成する造粒工程、および、該重合性単量体組成物の粒子に含有される該重合性単量体を重合させてトナー粒子を生成する重合工程を有するトナー粒子の製造方法であって、該調製工程において調製された水系媒体中の該多価金属イオンの含有割合が、4mmoL/L以上120mmoL/L以下であり、該難水溶性無機微粒子の個数平均粒径をD1としたとき、D1が、50nm≦D1≦250nmを満たす、ことを特徴とするトナー粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-060009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、トナーの高機能化の観点から、粒径分布が高度に制御されたトナーを得ることができる技術が求められている。具体的には、トナー中の粗大粒子の存在割合が高すぎると、現像ロールの削れ、縦筋、ベタ印字ムラ等が発生するおそれがあるため、粗大粒子の存在割合は低いことが求められる。また、得られるトナー中の、微小粒子(特に、粒径5μm未満の粒子)の存在割合が高すぎると、トナーの経時劣化が進行しやすい傾向にある一方で、微小粒子の存在割合が低すぎると、印字用紙への定着性が不足するおそれがあるため、微小粒子の存在割合は適切な範囲内に制御されていることが求められる。
【0007】
本発明の目的は、粗大粒子の存在割合を低くしながら、微小粒子の存在割合および体積平均粒径(Dv)が適切な範囲内に制御されたトナーを得ることができるトナーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、コロイド分散液調製工程、液滴形成工程および重合工程を備えるトナーの製造方法であって、コロイド分散液の調製に用いる水溶性多価金属塩の水溶液(A)として、主成分としての第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量が、2000~4000重量ppmであるトナーの製造方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、(1)水溶性多価金属塩の水溶液(A)と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)とを混合することにより、難水溶性金属化合物のコロイド分散液を調製するコロイド分散液調製工程、
(2)重合性単量体および着色剤を含有する重合性単量体組成物と、前記難水溶性金属化合物のコロイド分散液とを混合することにより、前記重合性単量体組成物の液滴を含有する懸濁液を得る液滴形成工程、および、
(3)前記懸濁液を重合反応に供することにより、着色樹脂粒子を得る重合工程、
を備えるトナーの製造方法であって、
前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)に主成分として含まれる水溶性多価金属塩を、第1の水溶性多価金属塩(a1)とした場合に、前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の少なくとも一方を含み、前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)および前記ホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量が、2000~4000重量ppmであるトナーの製造方法が提供される。
【0010】
本発明のトナーの製造方法において、前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)が、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)を含み、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)が、多価金属の硫酸塩または多価金属の塩化物を含むことが好ましい。
本発明のトナーの製造方法において、前記水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、前記ホウ素含有化合物(a3)の含有量が、3~60重量ppmであることが好ましい。
本発明のトナーの製造方法において、前記第1の水溶性多価金属塩(a1)が、塩化マグネシウムを含むことが好ましい。
本発明のトナーの製造方法において、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)が、硫酸マグネシウムを含むことが好ましい。
本発明のトナーの製造方法において、前記第2の水溶性多価金属塩(a2)が、塩化カルシウムを含むことが好ましい。
本発明のトナーの製造方法において、前記ホウ素含有化合物(a3)が、ホウ酸を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粗大粒子の存在割合を低くしながら、微小粒子の存在割合および体積平均粒径(Dv)が適切な範囲内に制御されたトナーを得ることができるトナーの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトナーの製造方法は、後述するコロイド分散液調製工程、後述する液滴形成工程および後述する重合工程を備えるトナーの製造方法であって、コロイド分散液の調製に用いる水溶性多価金属塩の水溶液(A)として、主成分としての第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量が、2000~4000重量ppmであるトナーの製造方法である。
【0013】
(1)コロイド分散液調製工程
本発明において、コロイド分散液調製工程は、水溶性多価金属塩の水溶液(A)と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)とを混合することにより、難水溶性金属化合物のコロイド分散液を調製する工程である。
【0014】
<水溶性多価金属塩の水溶液(A)>
水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、水溶性多価金属塩および水を含有する。また、水溶性多価金属塩の水溶液(A)に主成分として含まれる水溶性多価金属塩を、第1の水溶性多価金属塩(a1)とした場合に、水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の少なくとも一方を含む。さらに、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量は、2000~4000重量ppmである。
【0015】
水溶性多価金属塩としては、水溶性を示す多価金属塩であればよいが、たとえば、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム金属塩;塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム金属塩;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム金属塩;塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウムなどのバリウム塩;塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛などの亜鉛塩;などが挙げられる。なお、水溶性多価金属塩は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
第1の水溶性多価金属塩(a1)は、水溶性多価金属塩の水溶液(A)に主成分として含まれる水溶性多価金属塩である。本明細書において、「主成分として含まれる水溶性多価金属塩」とは、具体的には、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、全ての水溶性多価金属塩の合計の含有量に対して、30重量%以上を占める水溶性多価金属塩を意味する。
【0017】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)において、第1の水溶性多価金属塩(a1)は、1種単独の水溶性多価金属塩であることが好ましい。この場合、第1の水溶性多価金属塩(a1)は、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中において含有量が最も多い水溶性多価金属塩である。一方で、第1の水溶性多価金属塩(a1)は、全ての水溶性多価金属塩の合計の含有量に対して、30重量%以上をそれぞれ占めるものである限り、2種または3種の水溶性多価金属塩を含んでもよい。
【0018】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、全ての水溶性多価金属塩の含有量を100重量%とした場合における、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量は、30重量%以上であればよく、特に限定されないが、60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさらに好ましく、99重量%以上であることが特に好ましい。第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0019】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)における、第1の水溶性多価金属塩(a1)の濃度は、1~30重量%であることが好ましく、3~25重量%であることがより好ましく、6~22重量%であることがさらに好ましく、10~20重量%であることが特に好ましい。第1の水溶性多価金属塩(a1)の濃度を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0020】
第1の水溶性多価金属塩(a1)としては、上述した水溶性多価金属塩が挙げられ、これらの中でも、マグネシウム金属塩、カルシウム金属塩、およびアルミニウム金属塩が好ましく、マグネシウム金属塩およびカルシウム金属塩がより好ましく、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムがさらに好ましく、塩化マグネシウムが特に好ましい。
【0021】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の少なくとも一方を含む。
【0022】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)を含むことが好ましい。第2の水溶性多価金属塩(a2)は、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、全ての水溶性多価金属塩の合計の含有量に対して、30重量%未満を占める水溶性多価金属塩である。
【0023】
第2の水溶性多価金属塩(a2)としては、上述した水溶性多価金属塩が挙げられ、これらの中でも、多価金属の硫酸塩、塩化物、リン酸塩、硝酸塩および酢酸塩が好ましく、多価金属の硫酸塩および塩化物がより好ましく、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムがさらに好ましい。第2の水溶性多価金属塩(a2)として、これらの化合物を用いることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。なお、第2の水溶性多価金属塩(a2)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)は、ホウ素含有化合物(a3)を含むことが好ましい。
【0025】
ホウ素含有化合物(a3)としては、ホウ素を含有する化合物であればよいが、水溶性を示す化合物であることが好ましく、たとえば、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム十水和物、ペルオキソホウ酸ナトリウム、ペルオキソホウ酸ナトリウム四水和物、メタホウ酸、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム四水和物、次ホウ酸、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウム等が挙げられる。これらの中でも、ホウ酸および四ホウ酸ナトリウム十水和物が好ましく、ホウ酸がより好ましい。ホウ素含有化合物(a3)として、これらの化合物を用いることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。なお、ホウ素含有化合物(a3)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第2の水溶性多価金属塩(a2)および前記ホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量[{(a2)+(a3)}/(a1)]は、2000~4000重量ppmである。水溶性多価金属塩の水溶液(A)として、上記の組成を有するものを用いることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0027】
なお、水溶性多価金属塩の原料として、主成分としての第1の水溶性多価金属塩(a1)に加えて、第2の水溶性多価金属塩(a2)やホウ素含有化合物(a3)が微量成分として含まれたものを用いることができる。この場合には、水溶性多価金属塩の原料に含まれる微量成分の含有量を考慮して、第2の水溶性多価金属塩(a2)やホウ素含有化合物(a3)の含有量を上記範囲内に調整すればよい。
【0028】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第2の水溶性多価金属塩(a2)の含有量[(a2)/(a1)]は、特に限定されないが、1200~3999.5重量ppmであることが好ましく、1600~3999重量ppmであることがより好ましく、1900~3998重量ppmであることがさらに好ましく、1960~3997重量ppmであることが特に好ましい。第2の水溶性多価金属塩(a2)の含有量[(a2)/(a1)]を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0029】
第2の水溶性多価金属塩(a2)が、硫酸マグネシウムを含む場合、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、硫酸マグネシウムの含有量[MgSO/(a1)]は、特に限定されないが、600~2500重量ppmであることが好ましく、700~2000重量ppmであることがより好ましく、800~1800重量ppmであることがさらに好ましく、900~1500重量ppmであることが特に好ましい。硫酸マグネシウムの含有量[MgSO/(a1)]を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0030】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、ホウ素含有化合物(a3)の含有量[(a3)/(a1)]は、特に限定されないが、0.5~800重量ppmであることが好ましく、1~500重量ppmであることがより好ましく、2~200重量ppmであることがさらに好ましく、3~100重量ppmであることが特に好ましく、3~60重量ppmであることが最も好ましい。ホウ素含有化合物(a3)の含有量[(a3)/(a1)]を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0031】
ホウ素含有化合物(a3)が、ホウ酸を含む場合、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、ホウ酸の含有量[B(OH)/(a1)]は、特に限定されないが、0.5~800重量ppmであることが好ましく、1~400重量ppmであることがより好ましく、2~100重量ppmであることがさらに好ましく、3~40重量ppmであることが特に好ましい。ホウ酸の含有量[B(OH)/(a1)]を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0032】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、ホウ素含有化合物(a3)の含有量に対する、第2の水溶性多価金属塩(a2)の含有量の重量比[(a2)/(a3)]は、特に限定されないが、5~2000であることが好ましく、20~1500であることがより好ましく、40~1000であることがさらに好ましく、45~800であることが特に好ましく、50~700であることが最も好ましい。
ホウ素含有化合物(a3)の含有量に対する、第2の水溶性多価金属塩(a2)の含有量の重量比[(a2)/(a3)]を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0033】
第2の水溶性多価金属塩(a2)が、硫酸マグネシウムを含む場合、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、ホウ素含有化合物(a3)の含有量に対する、硫酸マグネシウムの含有量の重量比[MgSO/(a3)]は、特に限定されないが、2~390であることが好ましく、5~375であることがより好ましく、10~360であることがさらに好ましく、18~350であることが特に好ましく、25~340であることが最も好ましい。ホウ素含有化合物(a3)の含有量に対する、硫酸マグネシウムの含有量の重量比[MgSO/(a3)]を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0034】
<水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)>
水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)は、水溶性アルカリ金属化合物および水を含有する。
【0035】
水溶性アルカリ金属化合物としては、水溶性を示すアルカリ金属化合物であればよいが、たとえば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;リン酸三リチウム、リン酸二リチウム、リン酸一リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム等のリン酸塩;等が挙げられる。これらの中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウムおよびリン酸一ナトリウムが好ましく、水酸化ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムがより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
【0036】
コロイド分散液調製工程においては、水溶性多価金属塩の水溶液(A)と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)とを混合することにより、難水溶性金属化合物のコロイド分散液を調製する。この際において、水系媒体中において、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の第1の水溶性多価金属塩(a1)と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)中の水溶性アルカリ金属化合物とが反応することにより、その反応生成物として、水系媒体中に、難水溶性金属化合物のコロイドが生成する。
【0037】
たとえば、上述した第1の水溶性多価金属塩(a1)として水溶性マグネシウム金属塩を用い、上述した水溶性アルカリ金属化合物として、アルカリ金属水酸化物を用いる場合には、難水溶性金属化合物として、水酸化マグネシウムが生成する。
【0038】
また、たとえば、上述した第1の水溶性多価金属塩(a1)として水溶性カルシウム金属塩を用い、上述した水溶性アルカリ金属化合物として、アルカリ金属のリン酸塩を用いる場合には、難水溶性金属化合物として、リン酸三カルシウムが生成する。
【0039】
難水溶性金属化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;リン酸三カルシウム等のリン酸塩;等が挙げられる。これらの中でも、水酸化マグネシウムおよびリン酸三カルシウムが好ましく、水酸化マグネシウムがより好ましい。難水溶性金属化合物として、これらの化合物を用いることにより、得られるトナー中の難水溶性金属化合物の残存量を少なくでき、さらに、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0040】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)とを混合する際においては、得られる難水溶性金属化合物のコロイドの粒径を好適に制御することができるという観点より、水溶性多価金属塩の水溶液(A)を撹拌しつつ、該水溶液中に、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)を徐々に添加することで、混合する方法が好ましい。
【0041】
水溶性多価金属塩の水溶液(A)の使用量と、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)の使用量との比率は、特に限定されないが、水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の第1の水溶性多価金属塩(a1)に対する、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)中の水溶性アルカリ金属化合物の重量比(水溶性アルカリ金属化合物の重量/第1の水溶性多価金属塩(a1)の重量)が、0.2~1.0となる比率とすることが好ましく、0.3~0.8となる比率とすることがより好ましい。水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の第1の水溶性多価金属塩(a1)に対する、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)中の水溶性アルカリ金属化合物の重量比を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0042】
(2)液滴形成工程
本発明において、液滴形成工程は、重合性単量体および着色剤を含有する重合性単量体組成物と、上記にて得られる難水溶性金属化合物のコロイド分散液とを混合することにより、前記重合性単量体組成物の液滴を含有する懸濁液を得る工程である。
【0043】
液滴形成工程において用いる重合性単量体組成物は、重合性単量体および着色剤を含有する。
【0044】
本発明において、重合性単量体とは、重合可能な化合物をいい、重合性単量体が重合することで結着樹脂となる。得られる結着樹脂の単量体組成は、後述する重合工程において重合に供する重合性単量体の組成とおおむね同等となる。
【0045】
重合性単量体としては、重合性単量体を構成する主成分として、モノビニル単量体を使用することが好ましい。モノビニル単量体としては、たとえば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、エチルスチレンなどのスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルなどの(メタ)アクリレート系単量体;アクリル酸、およびメタクリル酸;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン;が挙げられる。これらのモノビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン系単量体、および(メタ)アクリレート系単量体が好ましく、スチレン、およびアクリル酸ブチルがより好ましい。また、得られるトナーの低温定着性をより高めることができるという点より、モノビニル単量体としては、スチレン系単量体および(メタ)アクリレート系単量体を少なくとも用いることが好ましい。
【0046】
重合性単量体組成物中の重合性単量体における、スチレン系単量体の含有割合(得られる結着樹脂における、スチレン系単量体単位の含有割合)は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは68質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、上限は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは83質量%以下、さらに好ましくは81質量%以下、特に好ましくは80質量%以下である。また、(メタ)アクリレート系単量体の含有割合は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは17質量%以上、さらに好ましくは19質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、上限は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは32質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。スチレン系単量体単位および(メタ)アクリレート系単量体の含有割合を上記範囲とすることにより、得られるトナーを、保存安定性および低温定着性に優れたものとすることができる。
【0047】
また、本発明においては、モノビニル単量体とともに、任意の架橋性の重合性単量体を用いてもよい。架橋性の重合性単量体とは、2つ以上の重合可能な官能基を持つモノマーのことをいう。架橋性の重合性単量体としては、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、およびこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールにカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N-ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等の、その他のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。架橋性の重合性単量体の使用量は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.15~2質量部、さらに好ましくは0.2~0.7質量部であり、本発明で用いる結着樹脂中における、架橋性の重合性単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.15~2質量%、さらに好ましくは0.2~0.7質量%である。
【0048】
また、重合性単量体の一部として、任意のマクロモノマーを用いてもよい。マクロモノマーとは、分子鎖の末端に重合可能な炭素-炭素不飽和結合を有するもので、数平均分子量(Mn)が、通常1,000~30,000の反応性の、オリゴマーまたはポリマーのことをいう。マクロモノマーは、マクロモノマーを重合せずに得られる重合体のTg(ガラス転移温度)よりも、高いTgを有する重合体を与えるものが好ましい。マクロモノマーの使用量は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.03~5質量部、より好ましくは0.05~1質量部である。
【0049】
本発明においては、着色剤として、カラートナー(通常、ブラックトナー、シアントナー、イエロートナー、マゼンタトナーの4種類のトナーが用いられる。)を製造する場合、ブラック着色剤、シアン着色剤、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤をそれぞれ用いることができる。
【0050】
ブラック着色剤としては、たとえば、カーボンブラック、チタンブラック、ならびに酸化鉄亜鉛、および酸化鉄ニッケル等の磁性粉等の顔料や染料を用いることができる。
【0051】
シアン着色剤としては、たとえば、銅フタロシアニン顔料、その誘導体、およびアントラキノン顔料や染料等の化合物が用いられる。具体的には、C.I.Pigment Blue2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、60等が挙げられる。
【0052】
イエロー着色剤としては、たとえば、モノアゾ顔料、およびジスアゾ顔料等のアゾ顔料、縮合多環顔料や染料等の化合物が用いられる。具体的には、C.I.Pigment Yellow3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、151、155、180、181、185、186、214、219、C.I.Solvent Yellow98、162等が挙げられる。
【0053】
マゼンタ着色剤としては、たとえば、モノアゾ顔料、およびジスアゾ顔料等のアゾ顔料、縮合多環顔料や染料等の化合物が用いられる。具体的には、C.I.Pigment Red31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、251、C.I.Solvent Violet31、47、59およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
【0054】
着色剤は、単独もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。着色剤の使用量は、重合性単量体100質量部(得られる結着樹脂100質量部)に対して、好ましくは1~10質量部である。
【0055】
重合性単量体組成物は、帯電制御剤を含有することが好ましい。帯電制御剤としては、一般にトナー用の帯電制御剤として用いられているものであれば、特に限定されないが、帯電制御剤の中でも、重合性単量体との相溶性が高く、安定した帯電性(帯電安定性)をトナー粒子に付与させることができ、これにより着色剤の分散性を向上させることができるという観点から、正帯電性または負帯電性の帯電制御樹脂が好ましく、さらに、負帯電性トナーを得る観点からは、負帯電性の帯電制御樹脂がより好ましく用いられる。
【0056】
正帯電性の帯電制御剤としては、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物およびイミダゾール化合物、ならびに、好ましく用いられる帯電制御樹脂としてのポリアミン樹脂、ならびに4級アンモニウム基含有共重合体、および4級アンモニウム塩基含有共重合体等が挙げられる。
【0057】
負帯電性の帯電制御剤としては、Cr、Co、Al、およびFe等の金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物およびアルキルサリチル酸金属化合物、ならびに、好ましく用いられる帯電制御樹脂としてのスルホン酸基含有共重合体、スルホン酸塩基含有共重合体、カルボン酸基含有共重合体およびカルボン酸塩基含有共重合体等が挙げられる。
【0058】
帯電制御樹脂の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算値で、5,000~30,000の範囲内であり、好ましくは8,000~25,000の範囲内であり、より好ましくは10,000~20,000の範囲内である。
【0059】
また、帯電制御樹脂における4級アンモニウム基やスルホン酸塩基などの官能基を有する単量体の共重合割合は、好ましくは0.5~12質量%の範囲内であり、より好ましくは1.0~6質量%の範囲内であり、さらに好ましくは1.5~3質量%の範囲内である。
【0060】
帯電制御剤の添加量は、重合性単量体100質量部(得られる結着樹脂100質量部)に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~8質量部である。帯電制御剤の添加量を上記範囲とすることにより、カブリの発生および印字汚れの発生を有効に抑制しながら、着色剤の分散性を適切に高めることできる。
【0061】
また、重合性単量体組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、一般にトナーの離型剤として用いられているものであれば、特に制限なく用いることができるが、数平均分子量(Mn)が500~1500であるものが好ましく、数平均分子量(Mn)が500~1500である脂肪酸エステル化合物が好ましい。なお、「脂肪酸エステル化合物」とは、1価アルコールおよび/または多価アルコールと、飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸とのエステル反応による生成物をいう。
【0062】
1価アルコールおよび/または多価アルコールとしては、1~4価の飽和脂肪族アルコールが好ましく、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールおよびペンタエリスリトールがより好ましく、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールがより好ましく、ベヘニルアルコールが特に好ましい。
【0063】
飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸としては、好ましくは炭素数が12~22、より好ましくは炭素数が14~18の飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸が採用される。なかでも、数平均分子量(Mn)が500~1500である脂肪酸エステル化合物が得られ易いことから、上記炭素数を有する飽和脂肪酸が特に好ましい。
【0064】
また、本発明においては、離型剤として、上述した脂肪酸エステル化合物に代えて、あるいは、脂肪酸エステル化合物とともに、脂肪酸エステル化合物以外の離型剤を用いてもよく、たとえば、低分子量ポリオレフィンワックスや、その変性ワックス;ホホバ等の植物系天然ワックス;パラフィン等の石油ワックス;オゾケライト等の鉱物系ワックス;フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス;ジペンタエリスリトールエステル等の多価アルコールエステル;等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
離型剤の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500~1500であり、より好ましくは550~1200、さらに好ましくは550~1100である。なお、離型剤の数平均分子量(Mn)は、たとえば、テトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算値にて測定することができる。
【0066】
離型剤の使用量は、重合性単量体100質量部(得られる結着樹脂100質量部)に対して、好ましくは1~30質量部であり、より好ましくは8~28質量部、さらに好ましくは12~25質量部である。離型剤の使用量を上記範囲とすることにより、得られるトナーの粒径分布を比較的均一なものとしながら、低温定着性をより高めることができる。
【0067】
また、重合性単量体組成物は、その他の添加物として、離型剤のブリードアウトを抑制するために、アクリル樹脂を含有することができる。アクリル樹脂は、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのうちの少なくともいずれか一方とアクリル酸およびメタクリル酸のうち少なくともいずれか一方を主成分とする共重合体(アクリレート系共重合体)である。酸モノマーとしては、アクリル酸が好ましい。
【0068】
さらに、重合性単量体組成物は、その他の添加物として、分子量調整剤を含有することができる。分子量調整剤としては、一般にトナー用の分子量調整剤として用いられているものであれば、特に限定されないが、たとえば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-4-チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラムジスルフィド、N,N’-ジオクタデシル-N,N’-ジイソプロピルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;等が挙げられる。これらの分子量調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。分子量調整剤の使用量は、重合性単量体100質量部(得られる結着樹脂100質量部)に対して、好ましくは0.01~10質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0069】
重合性単量体組成物は、重合性単量体、着色剤、および必要に応じて用いられるその他の添加剤を混合、溶解することにより、調製する。重合性単量体組成物を調製する際の混合は、たとえば、メディア式分散機を用いて行なう。
【0070】
次いで、上記にて得られた重合性単量体組成物と、上記にて得られる難水溶性金属化合物のコロイド分散液とを混合することにより、前記重合性単量体組成物の液滴を含有する懸濁液を得る。本発明の製造方法において、難水溶性金属化合物のコロイド分散液に含まれる、難水溶性金属化合物のコロイドは、懸濁液を得る際に、分散安定化剤として作用する。
【0071】
重合性単量体組成物と、難水溶性金属化合物のコロイド分散液との混合比は、重合性単量体組成物中の重合性単量体100質量部(得られる結着樹脂100質量部)に対して、難水溶性金属化合物のコロイド分散液中の難水溶性金属化合物が、0.1~20質量部となるような質量比が好ましく、0.2~10質量部となるような質量比がより好ましい。このような混合比とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0072】
重合性単量体組成物を、難水溶性金属化合物のコロイド分散液中に分散させ、重合開始剤を添加した後、重合性単量体組成物の液滴形成を行うことが好ましい。
【0073】
ここで、懸濁とは、水系媒体中で、重合性単量体組成物の液滴を形成させることを意味する。液滴形成のための分散処理は、たとえば、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化・分散機(プライミクス社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行なうことができる。
【0074】
重合開始剤は、重合性単量体組成物を、難水溶性金属化合物のコロイド分散液中に分散させた後、液滴形成前に添加してもよく、難水溶性金属化合物のコロイド分散液にあらかじめ添加してもよい。
【0075】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ-t-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルブタノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキシオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中で、残留重合性単量体を少なくすることができ、印字耐久性も優れることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。また、有機過酸化物の中では、開始剤効率がよく、残留する重合性単量体も少なくすることができることから、パーオキシエステルが好ましく、非芳香族パーオキシエステルすなわち芳香環を有しないパーオキシエステルがより好ましい。
【0076】
重合性単量体組成物の重合に用いられる、重合開始剤の添加量は、重合性単量体100質量部(得られる結着樹脂100質量部)に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、さらに好ましくは0.3~15質量部であり、特に好ましくは1~10質量部である。重合開始剤の添加量を上記範囲内とすることにより、得られるトナーにおける粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および得られるトナーの体積平均粒径(Dv)を、後述する、より好適な範囲内に制御することが容易となる。
【0077】
本発明において、難水溶性金属化合物以外の他の分散安定剤を用いてもよい。他の他の分散安定剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤;両性界面活性剤;等の有機化合物が挙げられる。上記分散安定化剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
(3)重合工程
本発明において、重合工程は、上記にて得られる懸濁液を重合反応に供することにより、着色樹脂粒子を得る工程である。
【0079】
懸濁液を重合反応に供する方法としては、懸濁液を加熱し、重合を開始させる方法が好ましい。重合温度は、50℃以上であることが好ましく、60~95℃であることがより好ましい。また、重合時間は、1~20時間であることが好ましく、2~15時間であることがより好ましい。
【0080】
なお、重合性単量体組成物の液滴を安定に分散させた状態で重合を行うという観点より、(3)重合工程においては、(2)液滴形成工程に引き続いて、攪拌による分散処理を行ないながら重合反応を進行させてもよい。
【0081】
このようにして得られる着色樹脂粒子に、そのまま外添剤を添加してトナーを製造してもよいが、重合工程により得られる着色樹脂粒子をコア層とし、その外側にコア層と異なるシェル層を作ることで得られる、いわゆるコアシェル型(または、「カプセル型」ともいう)の着色樹脂粒子を得てもよい。コアシェル型の着色樹脂粒子は、低軟化点の物質よりなるコア層を、それより高い軟化点を有する物質で被覆することにより、得られるトナーの保存安定性および低温定着性をより高めることができる。
【0082】
上記コアシェル型の着色樹脂粒子を製造する方法としては、特に制限はなく従来公知の方法によって製造することができるが、in situ重合法や相分離法が、製造効率の観点から好ましい。in situ重合法によるコアシェル型の着色樹脂粒子の製造法を以下に説明する。
【0083】
in situ重合法においては、着色樹脂粒子が分散している水系分散媒体中に、シェル層を形成するための重合性単量体(シェル用重合性単量体)とシェル用重合開始剤を添加し、重合を行なうことでコアシェル型の着色樹脂粒子を得ることができる。
【0084】
シェル用重合性単量体としては、上述した重合性単量体と同様のものを用いることができる。その中でも、スチレン、メチルメタクリレート等のTgが80℃を超える重合体が得られる単量体を、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することが好ましい。
【0085】
シェル用重合性単量体の重合に用いるシェル用重合開始剤としては、過硫酸カリウム、および過硫酸アンモニウム等の過硫酸金属塩;2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、および2,2’-アゾビス-(2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)等の水溶性のアゾ化合物;等の重合開始剤を挙げることができる。シェル用重合開始剤の使用量は、シェル用重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部である。
【0086】
シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60~95℃である。また、シェル層の重合時間は、好ましくは1~20時間、より好ましくは2~15時間である。
【0087】
以上のようにして、結着樹脂および着色剤を含む着色樹脂粒子を、水系媒体分散液の状態で得ることができる。
【0088】
<洗浄、濾過、脱水、および乾燥工程>
本発明の製造方法においては、上記において得られる着色樹脂粒子の水系媒体分散液に対し、常法に従い、洗浄、ろ過、脱水、および乾燥の一連の操作を、必要に応じて数回繰り返し行なうことが好ましい。
【0089】
具体的には、まず、着色樹脂粒子の水系媒体分散液中に残存する難水溶性金属化合物を除去するために、着色樹脂粒子の水系媒体分散液について、酸またはアルカリを添加し洗浄を行なうことが好ましい。難水溶性金属化合物が、酸に可溶である場合、着色樹脂粒子の水系媒体分散液へ酸を添加して、洗浄を行うことが好ましく、一方、難水溶性金属化合物が、アルカリに可溶である場合、着色樹脂粒子の水系媒体分散液へアルカリを添加して、洗浄を行うことが好ましい。
【0090】
また、難水溶性金属化合物が、酸に可溶である場合、着色樹脂粒子の水系媒体分散液へ酸を添加し、pHを、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、および蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、難水溶性金属化合物の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0091】
脱水、ろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。たとえば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。また、乾燥の方法も、特に限定されず、種々の方法が使用できる。
【0092】
以上のようにして、結着樹脂および着色剤を含む着色樹脂粒子を得ることができる。得られた着色樹脂粒子は、そのままで、あるいは着色樹脂粒子にキャリア粒子(フェライト、および鉄粉等)を混合することで、トナーとして使用してもよいが、トナーの帯電性、流動性、保存性等を調整するために、高速撹拌機(たとえば、FMミキサー(商品名、日本コークス工業社製)等)を用いて、着色樹脂粒子に外添剤を添加・混合し、1成分トナーとしてもよいし、さらには、着色樹脂粒子および外添剤、さらにはキャリア粒子を混合し、2成分トナーとしてもよい。
【0093】
外添処理を行うための攪拌機としては、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させることができる攪拌装置であれば特に限定されず、たとえば、FMミキサー(商品名、日本コークス工業社製)、スーパーミキサー(商品名、川田製作所社製)、Qミキサー(商品名、日本コークス工業社製)、メカノフュージョンシステム(商品名、ホソカワミクロン社製)、メカノミル(商品名、岡田精工社製)等の混合攪拌が可能な攪拌機を用いて外添処理を行うことができる。
【0094】
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、および酸化セリウム等からなる無機微粒子;ポリメタクリル酸メチル樹脂、シリコーン樹脂、およびメラミン樹脂等からなる有機微粒子などが挙げられる。この中でも、無機微粒子が好ましく、シリカおよび酸化チタンがより好ましく、シリカが特に好ましい。また、外添剤として、2種類以上の微粒子を併用することが好ましい。なお、これらの外添剤は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用して用いることが好ましい。
【0095】
外添剤は、着色樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは0.3~6質量部の割合、より好ましくは1.2~3質量部の割合で用いることが望ましい。
【0096】
以上のようにして、本発明の製造方法によれば、トナーを製造することができる。
【0097】
トナーの体積平均粒径(Dv)は、画像再現性の観点から、6.1~10μmであることが好ましい。トナーの体積平均粒径(Dv)が、上記範囲未満である場合には、トナーの流動性が低下し、カブリ等による画質の劣化が起り易くなる場合がある。一方、トナーの体積平均粒径(Dv)が、上記範囲を超える場合には、得られる画像の解像度が低下する場合がある。トナーの体積平均粒径(Dv)は、画像再現性の観点から、より好ましくは6.3~9.5μm、さらに好ましくは6.5~9μm、特に好ましくは6.7~8.5μmである。
【0098】
トナーにおける粗大粒子の存在割合、具体的には、トナー全体に対する、粒径が20μm超である粗大粒子の存在割合が、好ましくは1体積%以下であり、より好ましくは0.8体積%以下、さらに好ましくは0.6体積%以下である。なお、粗大粒子の存在割合の下限値は、通常、0.1体積%以上である。粗大粒子の存在割合が上記範囲内であることにより、得られるトナーが、現像ロールの削れの発生、縦筋の発生、およびベタ印字ムラの発生等を抑制することができるものとなる。
【0099】
粗大粒子の存在による、現像ロールの削れの発生、縦筋の発生、およびベタ印字ムラの発生等の不具合は、トナーの体積平均粒径(Dv)が小さいほど生じやすくなる傾向がある。そのため、トナーの体積平均粒径(Dv)が比較的小さい場合(たとえば、7.5μm以下である場合)には、粗大粒子の存在割合が0.5体積%以下であることが特に好ましい。
【0100】
トナーにおける微小粒子の存在割合、具体的には、トナー全体に対する、粒径が5μm未満である微小粒子の存在割合は、印字性能の安定性の観点から、5~38体積%であることが好ましい。微小粒子の存在割合が上記範囲未満である場合には、トナーの定着性が不足しやすくなる傾向がある一方、微小粒子の存在割合が上記範囲を超える場合には、トナー物性の経時変化が大きくなる傾向があり、印字性能の経時変化も大きくなる傾向がある。微小粒子の存在割合は、印字性能の安定性の観点から、7~36体積%であることがより好ましく、9~34体積%であることがさらに好ましく、11~32体積%であることが特に好ましい。
【0101】
また、トナーの体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比である粒径分布(Dv/Dn)は、画像再現性の観点から、好ましくは1.00~1.30あり、より好ましくは1.00~1.20である。トナーの粒径分布(Dv/Dn)が、上記範囲を超える場合には、トナーの流動性が低下し、カブリ等による画質の劣化が起り易くなる場合がある。なお、トナーの体積平均粒径(Dv)、粗大粒子の存在割合、微小粒子の存在割合および個数平均粒径(Dn)は、たとえば、粒度分析計(商品名:マルチサイザー、ベックマン・コールター製)等を用いて測定することができる。
【0102】
また、トナーの平均円形度は、画像再現性の観点から、0.960~1.000であることが好ましく、0.970~1.000であることがより好ましく、0.980~1.000であることがさらに好ましい。
【実施例0103】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準である。本実施例および比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
【0104】
<トナーの体積平均粒径(Dv)>
トナーを約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤として界面活性剤溶液(富士フイルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mLを加えた。そのビーカーへ、さらにアイソトンIIを10~30mL加え、20Wの超音波分散機で3分間分散させた後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII、測定粒子個数;100,000個の条件下で、トナーの体積平均粒径(Dv)を測定した。
【0105】
<粗大粒子および微小粒子の存在割合>
アパーチャー径を200μmに変更した以外は、上記のトナーの体積平均粒径(Dv)の測定と同様にして、粒径分布を求めた。そして、粒径が20μm超である粒子の体積比率を、粗大粒子の存在割合として求めた。また、粒径が5μm未満である粒子の体積比率を、微小粒子の存在割合として求めた。
【0106】
<粗大粒子の影響度指数>
粗大粒子の影響度指数は、上記のようにして求めた粗大粒子の存在割合(単位:体積%)を、トナーの体積平均粒径(Dv)(単位:μm)で除することにより求めた。体積平均粒径(Dv)が同程度である複数のトナーを比較する場合には、粗大粒子の影響度指数が小さいほど、粗大粒子の存在による不具合の発生(たとえば、現像ロールの削れの発生、縦筋の発生、およびベタ印字ムラの発生等)が抑制される傾向にあり、好ましい。
【0107】
<実施例1>
(1)コロイド分散液調製工程
第1の水溶性多価金属塩(a1)として塩化マグネシウムを、第2の水溶性多価金属塩(a2)として硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムを、ホウ素含有化合物(a3)としてホウ酸をそれぞれ含有する、水溶性多価金属塩の水溶液(A-1)を調製した。具体的には、塩化マグネシウムの含有量を100重量%とした場合における、硫酸マグネシウムの含有量[MgSO/(a1)]、塩化カルシウムの含有量[CaCl/(a1)]、およびホウ酸の含有量[B(OH)/(a1)]が、それぞれ、表1に記載の含有量となるように、塩化マグネシウムを25重量%濃度で含む水溶液に、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムおよびホウ酸を添加した。次いで、水溶液中の塩化マグネシウム濃度が16重量%となるように、イオン交換水を添加して希釈することで、水溶性多価金属塩の水溶液(A-1)を調製した。表1に、得られた水溶性多価金属塩の水溶液(A)中の、ホウ素含有化合物(a3)の含有量に対する、硫酸マグネシウムの含有量の重量比[MgSO/(a3)]([MgSO/B(OH)])、および、ホウ素含有化合物(a3)の含有量に対する、第2の水溶性多価金属塩(a2)の含有量の重量比[(a2)/(a3)]([(MgSO+CaCl)/B(OH)])を示す。
【0108】
また、イオン交換水に水酸化ナトリウムを溶解させることで、水酸化ナトリウムを10重量%濃度で含む水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)を調製した。
【0109】
そして、室温下で、塩化マグネシウム:水酸化ナトリウムの重量比が3:1となるような重量比で、水溶性多価金属塩の水溶液(A-1)に、水溶性アルカリ金属化合物の水溶液(B)を攪拌下で徐々に添加し、混合した後、水酸化マグネシウムのコロイド分散液(難水溶性金属化合物のコロイド分散液)を調製した。
【0110】
(2)液滴形成工程
重合性単量体としてスチレン78部、およびn-ブチルアクリレート22部、ブラック着色剤としてカーボンブラック(商品名:#25B、三菱化学社製)5部を、インライン型乳化分散機(商品名:マイルダー、大平洋機工株式会社製)を用いて分散させて、重合性単量体混合物を得た。
【0111】
次いで、上記にて得られた重合性単量体混合物に、帯電制御剤として帯電制御樹脂(4級アンモニウム基含有スチレンアクリル樹脂)1.0部、離型剤として脂肪酸エステルワックス(ベヘニルベヘネート)5.0部、マクロモノマーとしてポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(商品名:AA6、東亜合成化学工業社製)0.3部、架橋性の重合性単量体としてジビニルベンゼン0.6部、および分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン1.6部を添加し、混合、溶解させることで、重合性単量体組成物を調製した。
【0112】
そして、上記にて調製した水酸化マグネシウムのコロイド分散液に、上記にて調製した重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで攪拌した。なお、水酸化マグネシウムのコロイド分散液と、重合性単量体組成物との混合比は、重合性単量体組成物中の重合性単量体100部に対して、水酸化マグネシウムのコロイド分散液中の水酸化マグネシウムが、6.0部となるような混合比とした。次いで、攪拌後の混合液に、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシイソブチレート(日油社製、商品名:パーブチルIB)6部を添加した後、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)を用いて、15,000rpmの回転数で高剪断攪拌して、循環させながら分散させることで、重合性単量体組成物の液滴が分散してなる懸濁液を得た。
【0113】
そして、上記にて得た懸濁液を、攪拌翼を装着した反応器内に投入し、90℃に昇温し、重合反応を開始させた。重合転化率が、ほぼ100%に達したときに、シェル用重合性単量体としてメチルメタクリレート1部、およびイオン交換水10部に溶解したシェル用重合開始剤である2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド)(商品名:VA-086、和光純薬社製、水溶性)0.3部を添加した。そして、90℃で4時間反応を継続した後、水冷して反応を停止し、コアシェル型構造の着色樹脂粒子の水分散液を得た。
【0114】
上記着色樹脂粒子の水分散液に、希硫酸を添加して、pHを4.5以下にした。次いで、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水200部を加えて再スラリー化し、水洗浄処理(洗浄・濾過・脱水)を室温(25℃)で数回繰り返し行った。そして、得られた固形分を濾過分離した後、真空乾燥を行い、乾燥した着色樹脂粒子を得た。
【0115】
上記により得られた着色樹脂粒子100部に、外添剤として、環状シラザンで疎水化処理した個数平均一次粒径が7nmのシリカ微粒子0.5部、及びアミノ変性シリコーンオイルで疎水化処理した個数平均一次粒径が35nmのシリカ微粒子1部を添加し、高速攪拌機(日本コークス工業社製、商品名:FMミキサー)を用いて、混合攪拌して外添処理を行い、トナーを作製した。得られたトナーについて、上記方法に従い、体積平均粒径(Dv)、粗大粒子の存在割合、および、微小粒子の存在割合を求めた。結果を表1に示す。
【0116】
得られたトナーを用いて、評価用印刷として、連続印字(印字濃度5%)を行った後、ベタ印字(印字濃度100%)および白ベタ印字(印字濃度0%)を行った。連続印字(印字濃度5%)およびベタ印字(印字濃度100%)においては、印字が美麗であり、印字不良は見られなかった。また、白ベタ印字(印字濃度0%)においても、縦筋等の印字不良は見られなかった。よって、得られたトナーは、印字性能に優れるものであることが確認された。
【0117】
<実施例2~7,比較例1~6>
塩化マグネシウムの含有量を100重量%とした場合における、硫酸マグネシウムおよび塩化カルシウムならびにホウ酸それぞれの含有量が、表1に記載の含有量となるように、塩化マグネシウムを25重量%濃度で含む水溶液に、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムおよびホウ酸を添加することで、水溶性多価金属塩の水溶液(A-2)~(A-7)および(A’-8)~(A’-13)をそれぞれ調製した。そして、得られた水溶性多価金属塩の水溶液をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にしてトナーを作製し、実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
【0118】
実施例2~7それぞれにおいて得られたトナーを用いて、実施例1と同様に評価用印刷を行ったところ、連続印字(印字濃度5%)およびベタ印字(印字濃度100%)においては、印字が美麗であり、印字不良は見られなかった。また、白ベタ印字(印字濃度0%)においても、縦筋等の印字不良は見られなかった。よって、得られたトナーは、印字性能に優れるものであることが確認された。
【表1】
【0119】
表1に示すように、コロイド分散液調製工程、液滴形成工程、重合工程を備えるトナーの製造方法であって、コロイド分散液の調製に用いる水溶性多価金属塩の水溶液(A)として、主成分としての第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第1の水溶性多価金属塩(a1)以外の水溶性多価金属塩である第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量[{(a2)+(a3)}/(a1)]が、2000~4000重量ppmであるトナーの製造方法により、粗大粒子の存在割合を低くしながら、微小粒子の存在割合および体積平均粒径(Dv)が適切な範囲内に制御されたトナーを得ることができるものであった(実施例1~7)。
【0120】
一方、第1の水溶性多価金属塩(a1)の含有量を100重量%とした場合における、第2の水溶性多価金属塩(a2)およびホウ素含有化合物(a3)の合計の含有量[{(a2)+(a3)}/(a1)]が、多すぎる場合にも、少なすぎる場合にも、粗大粒子の存在割合を低くしながら、微小粒子の存在割合および体積平均粒径(Dv)が適切な範囲内に制御されたトナーを得ることができなかった(比較例1~6)。