(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124592
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びNaMgF3フィラー
(51)【国際特許分類】
C08L 27/20 20060101AFI20230830BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230830BHJP
C01F 5/28 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08L27/20
C08K3/013
C01F5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028458
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】山路 晃広
(72)【発明者】
【氏名】中田 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】吉川 岳
(72)【発明者】
【氏名】堀田 翔平
【テーマコード(参考)】
4G076
4J002
【Fターム(参考)】
4G076AA05
4G076AA18
4G076AB04
4G076AC04
4G076BA38
4G076BA46
4G076CA02
4G076CA26
4G076DA02
4G076DA11
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002DB006
4J002DM006
4J002FD016
4J002GP00
4J002GQ00
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】透明性に優れたTHV樹脂組成物を提供する。
【解決手段】透明性に優れたTHV樹脂組成物は、フッ素樹脂、及びNaMgF
3フィラーを含み、前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位A、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位B、及びフッ化ビニリデン由来の構成単位Cを含む。前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Aのモル比(A)が0.25以上であることが好ましく、前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Cのモル比(C)が0.60以下であることが好ましい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂、及びNaMgF3フィラーを含み、
前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位A、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位B、及びフッ化ビニリデン由来の構成単位Cを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Aのモル比(A)が0.25以上であり、
前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Cのモル比(C)が0.60以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記NaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)が400μm以下である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
体積基準による累積90%粒径(D90)が400μm以下であるNaMgF3フィラー。
【請求項5】
NaMgF3を下記式で定めるXが1.0以下となるまで粉砕することによって得られる請求項4に記載のNaMgF3フィラー。
X=R/G
(式中Rは、粉砕後のNaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)(μm)を示す。Gは粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)(μm)を示す。)
【請求項6】
NaMgF3を下記式で定めるXが1.0以下となるまで粉砕するNaMgF3フィラーの製造方法。
X=R/G
(式中Rは、粉砕後のNaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)(μm)を示す。Gは粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)(μm)を示す。)
【請求項7】
粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)が400μm以上である請求項6に記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
【請求項8】
粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)が10000μm未満である請求項6又は7に記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
【請求項9】
粉砕前のNaMgF3が多結晶体である請求項6~8のいずれかに記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
【請求項10】
NaMgF3の融液を、温度900~1100℃の範囲を冷却速度5℃/hr以上1000℃/hr以下で冷却することによって前記粉砕前のNaMgF3を得る請求項6~9のいずれかに記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
【請求項11】
前記粉砕前のNaMgF3が、NaMgF3の融液を冷却固化することによって得られるものであり、融液調製時の雰囲気ガスが、不活性ガスとフッ化炭素ガスの混合ガスである請求項6~10のいずれかに記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでにLED(Light Emitting Diode)等の発光素子を備えた発光装置は数多く存在しており、発光素子の酸素や水蒸気等との接触による劣化を防ぐために発光素子は樹脂により封止されている。
【0003】
例えば非特許文献1には、CF3末端を有するパーフルオロ(4-ビニルオキシ-1-ブテン)(BVE)系重合体は深紫外線に対する耐久性に優れるため、深紫外AlGaN系LEDの封止に用いることができることが記載されている。また封止用フッ素樹脂を非相溶成分と共に用いることも知られており、特許文献1には、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びビニリデンフルオライド(VdF)を少なくとも含むフッ素ポリマー(THV)をLED素子の封止に用いることが記載されている。また特許文献2には、フッ素樹脂と熱伝導率が1.5W/mK以上である熱伝導材とを含有する樹脂組成物は波長変換部材や封止部材等に好適に用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-51876号公報
【特許文献2】特開2014-145012号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shoko Nagai et al., “Development of highly durable deep-ultraviolet AlGaN-based LED multichip array with hemispherical encapsulated structures using a selected resin through a detailed feasibility study”, Japanese Journal of Applied Physics、2016年、55巻、082101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びビニリデンフルオライド(VdF)を含むフッ素樹脂(THV樹脂)は、紫外線に対する耐久性が優れており、また高出力の可視光に対する耐久性にも優れている。さらにTHV樹脂は、基材に対する密着性にも優れており、発光素子の封止樹脂として極めて優れた適性を有する。またフィラーと共に用いることで、封止樹脂の熱安定性を向上させることができる。しかし、熱伝導材などのフィラーをTHV樹脂に混ぜると、フィラー表面での光の散乱が生じ、THV樹脂組成物の透明性が低下しやすくなる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透明性に優れたTHV樹脂組成物を提供すること、及び該樹脂組成物に用いるのに有効なフィラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできた本発明の樹脂組成物およびフィラーは、以下の構成からなる。
[1] フッ素樹脂、及びNaMgF3フィラーを含み、
前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位A、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位B、及びフッ化ビニリデン由来の構成単位Cを含む樹脂組成物。
[2] 前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Aのモル比(A)が0.25以上であり、
前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Cのモル比(C)が0.60以下である[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記NaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)が400μm以下である[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 体積基準による累積90%粒径(D90)が400μm以下であるNaMgF3フィラー。
[5] NaMgF3を下記式で定めるXが1.0以下となるまで粉砕することによって得られる[4]に記載のNaMgF3フィラー。
X=R/G
(式中Rは、粉砕後のNaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)(μm)を示す。Gは粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)(μm)を示す。)
[6] NaMgF3を下記式で定めるXが1.0以下となるまで粉砕するNaMgF3フィラーの製造方法。
X=R/G
(式中Rは、粉砕後のNaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)(μm)を示す。Gは粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)(μm)を示す。)
[7] 粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)が400μm以上である[6]に記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
[8] 粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)が10000μm未満である[6]又は[7]に記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
[9] 粉砕前のNaMgF3が多結晶体である[6]~[8]のいずれかに記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
[10] NaMgF3の融液を、温度900~1100℃の範囲を冷却速度5℃/hr以上1000℃/hr以下で冷却することによって前記粉砕前のNaMgF3を得る[6]~[9]のいずれかに記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
[11] 前記粉砕前のNaMgF3が、NaMgF3の融液を冷却固化することによって得られるものであり、融液調製時の雰囲気ガスが、不活性ガスとフッ化炭素ガスの混合ガスである[6]~[10]のいずれかに記載のNaMgF3フィラーの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性に優れたTHV樹脂組成物、及び該組成物に用いるのに有効なフィラーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は紫外線発光素子の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は本発明の樹脂組成物の固化物により紫外線発光素子が封止される前の紫外線発光装置の一例の概略断面図である。
【
図3】
図3は本発明の樹脂組成物の固化物により紫外線発光素子が封止された紫外線発光装置の一例の概略断面図である。
【
図4】
図4は本発明の樹脂組成物の固化物により紫外線発光素子が封止された紫外線発光装置の別の例の概略断面図である。
【
図5】
図5は本発明のNaMgF
3フィラーを製造するときの雰囲気ガスの影響を示すグラフである。
【
図6】
図6は本発明のNaMgF
3フィラーの屈折率とその波長分散性を示すグラフである。
【
図7】
図7は本発明の樹脂組成物から得られるシートの光線透過率を示すグラフである。
【
図8】
図8は本発明の樹脂組成物から得られるシートのTG-DTA測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、フッ素樹脂としてのTHV樹脂とNaMgF3フィラーとを含む樹脂組成物に関する。THV樹脂は、透明性が良好であり、紫外光、高出力可視光などの高エネルギー光に対する耐久性やその発熱に対する耐久性に優れている。そしてNaMgF3フィラーは、前記THV樹脂と屈折率が近く、また前記THV樹脂の熱安定性を向上する作用も有する。そのためこれらTHV樹脂とNaMgF3フィラーを含む樹脂組成物は、透明性に優れたものとなる。
【0012】
1.フッ素樹脂(THV樹脂)
THV樹脂は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位A、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位B、及びフッ化ビニリデン由来の構成単位Cを含む。THV樹脂としては、前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Aのモル比(A)は0.25以上であり、前記構成単位A、前記構成単位B、及び前記構成単位Cの合計に対する前記構成単位Cのモル比(C)が0.60以下であるものが好ましい。これらモル比(A)、モル比(C)が所定の範囲を満足する様に構成単位A、構成単位B、構成単位Cの割合を調整することで、基材に対する密着性がさらに向上し、さらには波長250~600nmの広域に亘ってNaMgF3フィラーと屈折率の一致性が高くなって、各種の波長の光に対して光りの取り出し効率を向上できる。
【0013】
構成単位A、構成単位B、及び構成単位Cの合計に対する構成単位Aのモル比(A)は、密着性の観点から、好ましくは0.28以上、より好ましくは0.30以上である。一方、構成単位Aのモル比(A)の上限は、透明性の観点から、例えば、0.75以下、より好ましくは0.60以下、更に好ましくは0.50以下である。
【0014】
構成単位A、構成単位B、及び構成単位Cの合計に対する構成単位Cのモル比(C)は、密着性の観点から、好ましくは0.58以下、より好ましくは0.56以下である。一方、構成単位Cのモル比(C)の下限は、例えば、0.20以上、好ましくは0.30以上、より好ましくは0.40以上、より更に好ましくは0.50以上である。モル比(C)を所定値以上にすることによって、有機溶媒に対する溶解性が向上するため、フッ素樹脂溶液で発光素子を封止するときの樹脂溶液の塗布回数を低減できる。
【0015】
構成単位A、構成単位B、及び構成単位Cの合計に対する構成単位Bのモル比(B)は、樹脂の溶解性の観点から、例えば、0.05以上、好ましくは0.07以上、より好ましくは0.09以上である。一方、構成単位Bのモル比(B)は、樹脂の耐熱性の観点から、例えば、0.50以下、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.20以下である。
【0016】
モル比(C)のモル比(A)に対する比(モル比(C)/モル比(A))は、0.20以上、3.50以下であることが好ましい。モル比(C)/モル比(A)を上記範囲に制御することによって、密着性が向上する傾向となる。また、高温加熱時の樹脂の着色を防止できる。モル比(C)/モル比(A)の下限は、より好ましくは0.50以上、更に好ましくは1.00以上、更により好ましくは1.30以上、特に好ましくは1.45以上、最も好ましくは1.50以上である。一方、モル比(C)/モル比(A)の上限は、より好ましくは3.00以下、更に好ましくは2.50以下、更により好ましくは2.00以下である。
【0017】
モル比(B)のモル比(A)に対する比(モル比(B)/モル比(A))は、密着性向上の観点から、例えば、0.10以上、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.24以上、より更に好ましくは0.28以上であり、例えば、0.80以下、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.50以下、より更に好ましくは0.40以下である。
【0018】
THV樹脂の各構成単位のモル比は、後記する実施例に記載のNMR測定により求めることができる。モル比の算出に当たっては、例えばEric B. Twum et al., “Multidimensional 19F NMR Analyses of Terpolymers from Vinylidene Fluoride (VDF)-Hexafluoropropylene (HFP)-Tetrafluoroethylene (TFE)”, Macromolecules、2015年、48巻、11号、p.3563-3576を参照することができる。
【0019】
前記THV樹脂は、テトラフルオロエチレン由来の構成単位A、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位B、及びフッ化ビニリデン由来の構成単位C以外の他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、例えばエチレン由来の構成単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル由来の構成単位、クロロトリフルオロエチレン由来の構成単位等が挙げられる。
【0020】
THV樹脂の全構成単位に対する構成単位A、構成単位B、及び構成単位Cの合計モル比は、例えば、0.70以上、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.90以上、より更に好ましくは0.95以上、特に好ましくは1である。構成単位A、構成単位B、及び構成単位Cの合計モル比が1に近くなるほど、光安定生や熱安定性と密着性を高いレベルでバランスさせることができる。
【0021】
THV樹脂の屈折率とNaMgF3フィラーの屈折率との差は、紫外領域(例えば波長250~365nm)において小さいことが好ましく、紫外線領域から可視光領域(例えば、波長250~600nm)の広域に亘って小さいことが特に好ましい。これにより、NaMgF3フィラーとTHV樹脂の界面での光の散乱を抑制でき、樹脂組成物の透明性を維持することができ、発行素子からの光の取り出し効率を向上できる。なお光取出し効率とは、発光素子で発生した光が発光素子の外部に取り出される効率のことである。
【0022】
紫外線領域でのTHV樹脂とNaMgF3フィラーの屈折率差は最大で、例えば、0.30以下、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下である。また紫外線領域から可視光領域の広域でのTHV樹脂とNaMgF3フィラーの屈折率差は、例えば、0.30以下、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下である。
【0023】
THV樹脂の屈折率は、例えば、1.34超、好ましくは1.35以上、より好ましくは1.355以上である。一方、THV樹脂の屈折率の上限は、例えば、1.39以下であり、好ましくは1.38以下であり、より更に好ましくは1.37以下であり、特に好ましくは1.365以下であり、最も好ましくは1.360以下である。なおこの段落での屈折率は、ナトリウムのD線(589nm)に対する値である。
【0024】
THV樹脂の重量平均分子量は50,000以上、1,000,000以下であることが好ましい。重量平均分子量を50,000以上とすることにより融解時の粘度を高くすることができるため、LED点灯時の封止樹脂の形状変化を抑制することができる。本発明のフッ素樹脂の重量平均分子量の下限は、より好ましくは100,000以上、更に好ましくは200,000以上、更により好ましくは250,000以上、特に好ましくは300,000以上である。一方、THV樹脂の重量平均分子量を1,000,000以下とすることにより溶解性が良くなる。THV樹脂の重量平均分子量の上限は、より好ましくは800,000以下、更に好ましくは500,000以下、更により好ましくは450,000以下、特に好ましくは400,000以下である。なお、重量平均分子量は標準ポリスチレン換算値である。
【0025】
THV樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよく、ランダム共重合体であることが好ましい。ランダム共重合体では、構成単位A及び構成単位Cの結晶化度が抑制され、透明性が上がりやすい。
【0026】
THV樹脂の融点は、例えば、90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、より更に好ましくは115℃以上である。融点が高いほど、THV樹脂を紫外線発光素子などの高エネルギーの発光素子の封止に用いても、発光素子の発熱による封止樹脂の溶融を防止できる。またTHV樹脂の融点は、例えば、278℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下、より更に好ましくは150℃以下、特に好ましくは130℃以下である。THV樹脂の融点が低いほど、樹脂の加熱溶融による発光素子の封止が容易になる。また一般的なハンダ材であるAu-Sn(20質量%)の融点が278℃であり、THV樹脂の融点が278℃以下であると、封止のための加熱によるバンプの溶融を防止できる。THV樹脂の融点は、カタログ値でもよく、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、昇温速度10℃/分で-50℃から200℃の温度まで変化させることで得られる融解曲線から求まる融解ピーク温度(Tm)を融点としてもよい。
【0027】
2.NaMgF3フィラー
2.1 NaMgF3フィラーの特性
NaMgF3フィラーは、前記THV樹脂の熱安定性を高めることができ、またTHV樹脂と屈折率が近い。さらには所定の組成のTHV樹脂とは波長250~600nmの広域に亘って屈折率の一致性が高い。そのため、THV樹脂とNaMgF3フィラーを含む樹脂組成物を発光素子の封止材として用いると、光の取り出し効率を高めることができる。
【0028】
NaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)は、例えば、400μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、より更に好ましくは50μm以下である。粒径D90が小さいほど、NaMgF3フィラーの単結晶性が上がり、結晶粒界での光散乱が少なくなり、またTHV樹脂中での分散性が向上するため、NaMgF3フィラーを混ぜたTHV樹脂の光透過性が向上する。NaMgF3フィラーの粒径D90は、例えば、0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上である。NaMgF3フィラーを小さくし過ぎないことで、THV樹脂とNaMgF3フィラーとの間での光散乱を抑制できる。
【0029】
NaMgF3フィラーの体積基準による累積100%粒径(最大粒径)は、例えば、500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。D90を小さくするだけでなく、最大粒径も小さくすることで、NaMgF3フィラーを混ぜたTHV樹脂の光透過性がさらに向上する。
【0030】
前記NaMgF3フィラーの粒径は、ビデオマイクロスコープでフィラー(粒子)を観察することによって決定できる。
またNaMgF3フィラーは、多結晶であってもよいが、実質的に単結晶であることが好ましい。NaMgF3は複屈折を有しているため、粒界で光が散乱するが、NaMgF3を単結晶にすることで透明性をさらに高めることができる。なお粒径が小さくなると、フィラーが単結晶であるか否かを直接的に決定できなくなる。本発明では、結晶粒サイズが400μm超であるNaMgF3を粒径400μm以下に粉砕することで、400μm以下のNaMgF3フィラーが単結晶になることをプロセス的に担保している。
【0031】
2.2 単結晶NaMgF3フィラーの製造方法
実質的に単結晶となるNaMgF3フィラーは、原料NaMgF3を下記式で定めるXが1.0以下となるまで粉砕することによって製造できる。原料NaMgF3が単結晶である場合には、粉砕後のNaMgF3フィラーも単結晶である。また原料NaMgF3が多結晶であっても、NaMgF3は粒内強度よりも粒界強度の方が低く、粉砕するとまず粒界に沿って割れが生じるため、結晶粒サイズよりも小さく粉砕すると得られるフィラーは単結晶になる。
X=R/G
(式中Rは、粉砕後のNaMgF3フィラーの体積基準による累積90%粒径(D90)(μm)を示す。Gは、粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)(μm)を示す。)
【0032】
なお粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)を算出するため、電子後方散乱回折法(EBSD)によって多結晶NaMgF3の粒界マップ(粒界定義角=15°)を作成する。粒界マップの作成に当たっては、<110>軸周りに90°の粒界を除去する処理(クリーンアップ処理)も行う。得られた粒界マップで定められる各結晶粒について、その面積Skと、全結晶粒の合計面積を100%とした時の各結晶粒の占有面積率Rk(%)とを求め、各結晶粒について計算される積(Sk×Rk/100)を全結晶粒について総和した値(Σ(Sk×Rk/100))を平均結晶粒面積として求めた。算出された平均結晶粒面積から円相当径を算出し、その円相当径を平均結晶粒サイズ(平均結晶粒径)とした。
【0033】
原料NaMgF3は多結晶であることが好ましい。前記NaMgF3フィラーの製造方法は、従来、価値がないとされていた多結晶MaMgF3フィラーにも利用できるものであり、簡便に単結晶NaMgF3を製造できる点で優れている。原料NaMgF3が多結晶体であることは、前記EBSDで粒界を調べることにより確認でき、またμXRDでデバイ-シェラー環が観察されることによっても確認できる。
【0034】
粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)は、例えば、400μm以上、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上である。この平均結晶粒サイズ(面積平均)以下にNaMgF3を粉砕することで、原料NaMgF3が多結晶であっても、単結晶NaMgF3を得ることができる。また粉砕前のNaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)は、例えば、10000μm未満、好ましくは7000μm以下、より好ましくは5000μm以下である。平均結晶粒サイズ(面積平均)が小さいほど、原料NaMgF3の粒成長を待つ時間が短くなって生産性を高めることができる。
【0035】
原料NaMgF3の粉砕は、公知の種々の方法に従って行うことが可能であり、例えば、粉砕容器内に原料NaMgF3および粉砕メディアを投入したのち、粉砕容器を振動させたり、回転させることで行うことができる。粉砕容器を振動または回転させることにより、原料NaMgF3が粉砕メディアと共に撹拌されて混合されると共に、粉砕される。粉砕容器を振動または回転させるためには、例えば振動ミル、ボールミル、遊星ミル、高速回転粉砕機などのピンミルなどのような通常の粉砕機を用いることができる。
【0036】
粉砕メディアとしては、例えば、アルミナボール、ジルコニアボール、窒化珪素ボール、窒化炭素ボール、ガラスビーズ、ナイロン被覆鉄芯ボールなどが挙げられ、ジルコニアボールが好ましい。粉砕メディアの直径は、例えば、1mm以上、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上であり、例えば、20mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下である。
【0037】
原料NaMgF3を粉砕するにあたっては、粉砕助剤、解膠剤などの添加剤を加えてもよい。粉砕助剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、トリエタノールアミンなどのアミン類、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸類、カーボンブラック、グラファイトなどの炭素材料などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0038】
2.3 多結晶NaMgF3の製造方法
多結晶NaMgF3を粉砕する場合、該多結晶NaMgF3は、NaMgF3の融液を冷却するときに、温度900~1100℃の範囲の冷却速度をコントロールすることで製造できる。NaMgF3の融点は1050℃であり、この前後の温度範囲での冷却速度のコントロールが多結晶化のために重要である。そして温度900~1100℃の範囲を、例えば冷却速度5℃/hr以上1000℃/hr以下で冷却することによって多結晶NaMgF3を製造できる。この様な速い冷却速度で多結晶NaMgF3を製造し、次いで上述の工程で粉砕して単結晶化すれば、冷却速度の制御によって単結晶NaMgF3を直接製造する場合よりも効率よく単結晶NaMgF3を製造できる。前記冷却速度は、例えば、10℃/hr以上でもよく、30℃/hr以上でもよく、50℃/hr以上でもよく、100℃/hr以上でもよい。
【0039】
一方、温度900~1100℃の範囲の冷却速度は、例えば、1000℃/hr以下とする。冷却速度の上限を定めることで、多結晶NaMgF3の平均結晶粒サイズ(面積平均)が小さくなり過ぎることを防止できる。冷却速度は、800℃/hr以下でもよく、600℃/hr以下でもよい。
【0040】
温度900℃未満の冷却速度(例えば、温度300~900℃の冷却速度)は特に限定されず、生産効率の観点から、例えば、100℃/hr以上、好ましくは150℃/hr以上である。なお設備の損傷を防止する観点から、例えば、1000℃/hr以下、好ましくは500℃/hr以下であり、設備コストを抑える観点からキャスト法がより好ましい。
【0041】
NaMgF3の融液の調製と冷却固化(冷却結晶化)には公知の融液成長法が採用でき、例えば、チェコラルスキー(CZ)法、フローティングゾーン(FZ)法、ブリッジマン(VB)法、キャスト法などが挙げられ、好ましくはブリッジマン(VB)法、キャスト法などである。
【0042】
前記NaMgF3の融液は、NaFとMgF2とを混合して1050℃以上に加熱することによって調製できる。NaFは、MgF2 1.00モルに対して、例えば、1.00~1.10モル、好ましくは1.01~1.05とする。NaFを小過剰にすることで、NaFが揮発してもNaFの不足を防止できる。
【0043】
NaMgF3の融液の調製と冷却固化の雰囲気ガスは、不活性ガス、気体スカベンジャー、またはこれらの混合ガスであるのが好ましく、不活性ガスと気体スカベンジャーの混合ガスであることがより好ましい。気体スカベンジャーを使用することで、真空排気操作によっても除去できない酸素、水分による影響を避けることができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウムなどが挙げられ、アルゴンが好ましい。気体スカベンジャーとしては、四フッ化メタン(CF4)、フッ化カルボニルなどのフッ化炭素ガスが使用できる。
【0044】
雰囲気ガス中の気体スカベンジャーの体積は、不活性ガスとフッ化炭素ガスの体積の合計(100%)に対して、例えば、1%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、より更に好ましくは15%以上、特に好ましくは25%以上であり、例えば、100%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下である。気体スカベンジャーの割合が高いほど、NaMgF3の透明性を高めることができる。
【0045】
3.樹脂組成物
樹脂組成物中のNaMgF3フィラーの量は、THV樹脂とNaMgF3フィラーの合計体積に対して、例えば、1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、より更に好ましくは15体積%以上である。NaMgF3フィラーの割合が高いほど、THV樹脂の熱分解が防止される。また樹脂組成物の熱伝導性も高くなる。一方、NaMgF3フィラーの量は、例えば、60体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。NaMgF3フィラーの量が少ないほど、樹脂組成物と基材との密着性が向上する。
【0046】
樹脂組成物は、前記THV樹脂以外のフッ素樹脂(以下、他のフッ素樹脂という場合がある)を含有していてもよい。他のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、クロロトリフルオロエチレン重合体(PCTFE)、本発明の上記構成単位Aと構成単位Cの所定比率を満たさないテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(THV)等の結晶性フッ素樹脂;テフロンAF(商標;三井・ケマーズフロロプロダクツ社製)、サイトップ(商標;AGC社製)などの非晶質フッ素樹脂などが挙げられ、結晶性フッ素樹脂が好ましい。これら他のフッ素樹脂は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
他のフッ素樹脂の量は、THV樹脂100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0質量部である。
【0047】
また樹脂組成物は、NaMgF3フィラー以外のフィラー(以下、他のフィラーという)を含有していてもよい。他のフィラーとしては、例えば、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、氷晶石、Na3AlF6、Na5AlF13などの金属フッ化物;金属酸化物、金属リン酸塩、金属炭酸塩、金属スルホン酸塩、金属硝酸塩、金属窒化物、窒化ホウ素などの無機フィラーが挙げられ、フッ化マグネシウムなどの金属フッ化物などの無機フィラーが好ましい。これら他のフィラーは1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
他のフィラーの量は、前記NaMgF3フィラー100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0質量部である。
【0048】
樹脂組成物は、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、可塑剤、変色防止剤、酸化防止剤、補強剤、無機充填剤、レベリング剤、粘度調整剤、光安定剤、水分吸収剤、顔料、染料、蛍光材料などがあげられる。
【0049】
樹脂組成物(固形分)に対する全フッ素樹脂(THV樹脂と他のフッ素樹脂の合計)及び全無機フィラー(NaMgF3フィラー及び他のフィラーの合計)の合計含量は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることが更により好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。これにより、フッ素樹脂の密着性向上効果とフィラーによる耐熱性向上効果が発揮され易くなる。
【0050】
樹脂組成物は、フッ素樹脂とフィラーを混合することによって製造できる。フッ素樹脂とフィラーの混合は、例えば、溶融混錬であってもよいし、フッ素樹脂を溶融した状態でフィラーと混合してもよいし、フッ素樹脂を溶解又は分散する溶媒の存在下でフィラーと混合してもよい。樹脂組成物は、固形物であることが好ましいが、流動物であってもよく、流動物は溶媒を含んでいてもよい。
【0051】
溶媒としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、グリコールエーテルに酢酸基を付加したグリコールエステル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルエーテル、グリコールエーテル、テロラヒドロフラン等のエーテル類系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;N-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム系溶媒;等が挙げられる。このうちエステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、エステル系溶媒がより好ましい。これら有機溶媒は1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
溶媒を用いる場合、溶媒は、フッ素樹脂100質量部に対して、例えば、100質量部以上、好ましくは200質量部以上、より好ましくは400質量部以上、より更に好ましくは600質量部以上である。溶媒が多くなるほど、フッ素樹脂の溶解又は分散が容易になる。一方、溶媒の量は、フッ素樹脂100質量部に対して、例えば、5000質量部以下、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、より更に好ましくは100質量部以下である。溶媒の量が少ないほど、樹脂組成物で発光素子を封止するときの塗布回数を減らすことができる。
【0053】
樹脂組成物は、例えば、フッ素樹脂の融点以下に温度を下げたり、溶媒を揮発させることによって固化物(樹脂成形体)にできる。樹脂組成物は、高エネルギー光を用いたときの光や熱に対する耐久性に優れ、基板に対する密着性にも優れ、光の取り出し効率にも優れるため、発光素子の封止に好適に用いることができる。
【0054】
4.発光装置
前記樹脂組成物は、紫外光、高出力可視光などの高エネルギー光を出す発光装置の封止材に好適である。以下では、
図1~4を参照しながら、紫外線発光素子を例にとって発光装置について説明する。
【0055】
図1は、紫外線発光素子の一例を模式的に示す断面図である。
図2は、樹脂組成物の固化物により封止される前の紫外線発光装置の一例(以下、紫外線発光素子実装パッケージという場合がある)を模式的に示す断面図であり、
図3は、樹脂組成物の固化物により封止された紫外線発光装置の一例を模式的に示す断面図であり、
図4は、樹脂組成物の固化物により封止された紫外線発光装置の別の例を模式的に示す断面図である。
【0056】
4.1 発光素子
図1の例の紫外線発光素子2はフリップチップタイプの素子であり、下側面の一部にアノード側のp電極10を備え、該p電極10の上にp層12が形成されている。更に紫外線発光素子2の下側面の別の一部に、カソード側のn電極11を備え、n電極11の上にn層14が形成されている。これらn電極11とn層14は、前記p電極10とp層12よりも上方にシフトして形成されており、上方に存在するn層14と下方に存在するp層12との間に活性層13が形成されている。更に上方に存在するn層14のさらに上に基板15が存在する。
【0057】
n層14としては、例えばSi含有AlGaN層が挙げられる。p層12としては、例えばMg含有GaN層が挙げられる。このp層12は、必要に応じて電子ブロック層などと積層構造にしてもよい。活性層13は、例えばAlGaN層が挙げられる。
【0058】
p電極10、p層12からn層14、n電極11に向けて順方向電流を流すことにより活性層13におけるバンドギャップエネルギに応じた発光が生じる。バンドギャップエネルギは、活性層13の例えばAlNモル分率を調整することにより、GaNとAlNが取り得るバンドギャップエネルギ(約3.4eVと約6.2eV)の範囲内で制御することができ、発光波長が約200nmから約365nmまでの紫外線発光を得ることができる。
【0059】
紫外線発光素子2の発光ピーク波長は、例えば、340nm以下である。発光ピーク波長が340nm以下であることにより殺菌効果が発揮され易くなるため、殺菌用の発光装置に紫外線発光素子2を用いることができる。発光ピーク波長は、好ましくは310nm以下であり、より好ましくは300nm以下であり、290nm以下又は280nm以下であってもよい。また発光ピークは、例えば、240nm以上、好ましくは250nm以上であり、260nm以上であってもよい。
【0060】
なお基板15として、サファイア基板、窒化アルミニウム基板等が挙げられる。p電極10の素材としてNi/Au、n電極11の素材として、Ti/Al/Ti/Au等が挙げられる。また図示していないがp電極10とn電極11の間の露出面は、短絡を防止するためにSiO2等の保護絶縁膜により被覆されていても良い。
【0061】
4.2 発光素子実装パッケージ
次に紫外線発光素子実装パッケージについて説明する。
図2の紫外線発光素子実装パッケージ6は、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al
2O
3)等のセラミックス等で形成された基材4を有し、この基材4上には配線(図示せず)が形成され、該配線上には、Au、Au-Sn(20質量%)合金等の金属製のバンプ5が形成されている。そしてバンプ5を介して、配線(図示せず)と紫外線発光素子2のp電極10、n電極11とがそれぞれ電気接続できるように固定されている。この紫外線発光素子実装パッケージ6を上記樹脂組成物の固化物で封止することで、
図3、
図4に示す紫外線発光装置1a、1bが形成される。
【0062】
図3の紫外線発光装置1aは、
図2に示した紫外線発光素子実装パッケージ6の紫外線発光素子2が上記の樹脂組成物の固化物3aで封止され、かつその表面に、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス等で形成された集光レンズ7が形成されたものである。集光レンズ7によって光取出し効率を向上することができるが、該集光レンズ7は必ずしも設ける必要はない。
【0063】
図4の紫外線発光装置1bは、上記の樹脂組成物の固化物3bで形成される封止部材が上方に盛り上がって、レンズ形状になっている点で
図3の紫外線発光装置1aと異なる。
【0064】
図3や
図4の紫外線発光装置1a、1bの封止は、上記樹脂組成物を適当な溶媒に溶解した溶液を塗布、乾燥する工程を1回以上繰り返すことによって行うことができる。溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、テトラヒドロフランなどの環状エーテル、N-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム類が挙げられる。
【0065】
塗布液中の樹脂組成物の濃度は、例えば、1質量%以上である。濃度を高くするほど、塗布回数を減らすことができる。好ましい濃度は5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上である。また前記濃度は、例えば、50質量%以下である。濃度を低くするほど、塗布液の粘性の向上を防ぐことができ、処理精度を高めることができる。好ましい濃度は40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。なお
図4の紫外線発光装置1bを形成する場合、レンズ部の形成段階では、粘度の比較的高い塗布溶液にすることが好ましい。
【0066】
図3や
図4の紫外線発光装置1a、1bの封止は、上記樹脂組成物を適当な温度に加熱して溶融し、溶融物を紫外線発光素子2上に流し込むことによっても製造できる。また上記樹脂組成物をシート形状にして紫外線発光素子2上に配置し、加熱によってシートを溶融することによっても製造できる。溶融のための加熱温度は、前記フッ素樹脂(特にTHV樹脂)の融点以上であり、融点+10℃以上が好ましく、融点+20℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は、例えば、270℃であり、より好ましくは200℃であり、更により好ましくは150℃である。
【0067】
また
図3や
図4の紫外線発光装置1a、1bの封止は、前記樹脂組成物をシート状に成形し、該シートを紫外線発光素子実装パッケージの紫外線発光素子実装側に積層した後、該シートを融点以上に加熱して溶融し、冷却することによっても行うこともできる(以下この封止方法を「溶融封止法」という場合がある)。
【0068】
溶融封止法を行う場合のシートの加熱温度は、前記フッ素樹脂(特にTHV樹脂)の融点より10℃以上高い温度が好ましく、融点より20℃以上高い温度がより好ましい。加熱温度の上限は、例えば、278℃であり、より好ましくは250℃であり、更により好ましくは200℃であり、特に好ましくは150℃である。上記の加熱温度であれば、熱による紫外線発光素子実装パッケージの劣化などを抑制することができる。
【0069】
前記シートの加熱は、大気中などの酸素含有雰囲気下で行ってもよいが、窒素雰囲気中、アルゴン雰囲気中などの不活性ガス雰囲気下で行う方が好ましい。さらにフッ素樹脂の加熱は、大気圧下で行ってもよいが、真空中などの減圧下で行うことも好ましい。減圧下でフッ素樹脂を加熱すると、封止後の樹脂中に残存する気泡が低減されて透明性が向上する。
【0070】
なお、前記シートは、フッ素樹脂とフィラーが混合されたペレットを作製して、プレス、もしくは必要に応じて熱をかけながらプレスを行うことにより作製することができる。また、溶融状態のフッ素樹脂にフィラーを混合し、押出成形により作製することもできる。上記ペレットは、フッ素樹脂とフィラーの混合体を細かく切断することにより得ることができる。フッ素樹脂とフィラーの混合体は、熱により溶融状態になったフッ素樹脂にフィラーを混ぜ込む方法、及びフッ素樹脂を溶媒に溶解させて溶液とした後、フィラーを混合し、溶媒を乾燥させる方法、フッ素樹脂とフィラーと溶媒とを混合して、混合溶液にフッ素樹脂に対する貧溶媒を加え、フィラーを巻き込んだ状態でフッ素樹脂を析出させ、乾燥させる方法等により得ることができる。このうちフィラーを巻き込んだ状態でフッ素樹脂を析出させる方法が好ましい。
【0071】
本発明の樹脂組成物を1.0mm厚のシートに形成した際の波長265nmにおける光の透過率は、8%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であり、また波長350nmにおける光の透過率は、15%以上であることが好ましく、より好ましくは35%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上であり、また波長500nmにおける光の透過率は、20%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、更に好ましくは60%以上、特に好ましくは75%以上である。これにより封止部の透明性が向上し、紫外線発光素子からの光取出し効率を向上することができる。なお、光の透過率は高いほど好ましいが、波長265nmにおける光の透過率は、例えば80%以下であってもよく、波長350nmにおける光の透過率は、例えば90%以下であってもよく、波長500nmにおける光の透過率は、例えば95%以下であってもよい。
【実施例0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0073】
1.THV樹脂(フッ素樹脂)
実施例では、以下のTHV221AZを使用した。本欄では、THV221AZの特性をDAI-ELG-501NKと比較する。
(1)スリーエムジャパン株式会社製のダイニオンTHV221AZ粉末(以下、THV221AZと呼ぶ)
(2)ダイキン工業株式会社製のDAI-EL G-501NK(以下、DAI-EL G-501NKと呼ぶ)
【0074】
1.1組成
各フッ素樹脂について、下記条件でNMR測定を行い、構成単位A、構成単位B、構成単位Cの各モル比を求めた。その結果を表1に示す。
測定装置:JEOL ECZ-400
試料:約60mg/0.8ml ACT-d6
IS:4-クロロベンゾドリフルオリド 0.01mL
測定モード:1H、19F
緩和時間:1H 30秒、19F 20秒
構成単位Bのユニット数:CF3の積分比を3で除して算出(CF3積分比/3)
構成単位Cのユニット数:CH2の積分比を2で除して算出(CH2積分比/2)
構成単位Aのユニット数:CF2の合計積分比より、構成単位B由来のCF2と構成単位C由来のCF2を差し引いたものを4で除して算出(CF2合計積分比-構成単位Cのユニット数×2-構成単位Bのユニット数×2)/4
【0075】
【0076】
1.2密着性
Al基板上に耐熱テープ(厚み0.19mm、ガラスクロステープ)でダムを作り縦3.5cm×横4.0cmの領域を複数作製した。更にフッ素樹脂であるTHV221AZ又はDAI-EL G-501NKのそれぞれを酢酸プロピルに添加して、濃度が9質量%の酢酸プロピル溶液を調製して樹脂組成物1、樹脂組成物2を得た。次いで、樹脂組成物1、樹脂組成物2をそれぞれ400μlずつ異なる上記領域に入れた後、200℃、3時間、加熱して、冷却することによりフッ素樹脂の固化物を得た。得られた固化物に対して、カッターとカッタガイドを用いて切込を入れて、それぞれ1mm角の基盤目を100個作り、基盤目を全て覆うようにスコッチ(登録商標)メンディングテープ(3M社製の「810-3-18」)を貼り付けた。その後、Al基板に対して上方向にスコッチテープを剥がし、固化物の剥がれの有無をデジタルマイクロスコープ(20倍)で観察した。THV221AZを用いた樹脂組成物1では剥がれがなく、DAI-EL G-501NKを用いた樹脂組成物2では剥がれがあった。
【0077】
2.フィラー
<実施例1:NaMgF3 ブリッジマン法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径1インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の可動ロッド上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0078】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に可動ロッドにて坩堝を1.2mm/hourの速度で降下させた(冷却速度:10℃/hr)。5時間後の降下距離60mmの位置(温度1050℃)で引き下げを停止し、6時間かけて高周波の出力を0まで徐々に下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。粉末X線回折で育成した結晶の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDの視野の広さを変えてデバイ-シェラー環の形成の有無を調べることにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが400μm超であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズを評価した。EBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)は1mm以上(EBSDの測定視野内で粒界は観察されず)であった。
【0079】
製造した多結晶NaMgF3を、体積基準による累積90%粒径(D90)がEBSDにより求めた平均結晶粒サイズ以下になるように、以下に示す条件にて湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとした。NaMgF3フィラーの粒径(D90)がEBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)以下であり、また400μm以下であることは、ビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番:VHX-2000)で確認した。
【0080】
前記実施例での分析及び処理条件は以下の通りである(特に断りのない限り、以下の例でも同様である)。
(1)粉末X線回折
メーカー:スペクトリス株式会社
装置名:X'Pert PRO (商品名)
X線:CuKα線
スキャン:θ-2θ法
印加電圧:45kV
印加電流:40mA
【0081】
(2)μXRD測定条件
メーカー:RIGAKU
装置名:RINT RAPID
管電流・管電圧:40KV 30mA
測定時間等;測定視野に伴って、測定時間を変化
測定視野:800μmφ⇒測定時間;5分
300μmφ⇒測定時間;35分
100μmφ⇒測定時間;5時間20分
30μmφ⇒測定時間;60時間
【0082】
(3)EBSD測定条件
装置:FE-SEM 日立製作所製 SU-70
EBSD:TSLソリューションズ社製
測定条件:観察倍率 50倍又は100倍
試料調整:鏡面研磨処理
粒界定義角:15°
クリーンアップ処理:<110>軸周りに90°の粒界を除去
平均結晶粒サイズ:Σ(Sk×Rk/100)(Skは各結晶粒の面積を示す。Rkは全結晶粒の合計面積を100%としたときの各結晶粒の占有面積率(%)を示す。Σは全結晶粒についてSk×Rk/100の総和をとることを示す)を平均結晶粒面積として求めた。算出された平均結晶粒面積から円相当径を算出し、その円相当径を平均結晶粒サイズとした。
【0083】
(4)粉砕条件
粉砕装置:ボールミルANZ-51S(日陶科学株式会社製)
容器:250mlアイボーイ(アズワン株式会社製 品番5-002-03)
メディア:400g ジルコニアボール 5mmφ(アズワン株式会社製 品番:2-9191-16)
NaMgF3粉末:60g
溶媒:イソプロピルアルコール(ナカライテクス株式会社製) 100g
回転数:126rpm
粉砕時間:4時間
【0084】
<実施例2:NaMgF3 キャスト法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径2インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の台上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0085】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に融液全体が固化する温度(1050℃)をまたぐ形で1100℃から室温まで冷却速度500℃/hrになるように徐々に高周波出力を下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。粉末X線回折で育成した結晶の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDの視野の広さを変えてデバイ-シェラー環の形成の有無を調べることにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが400μm超であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズを評価した。EBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)は731μmであった。
【0086】
製造した多結晶NaMgF3を、体積基準による累積90%粒径(D90)がEBSDにより求めた平均結晶粒サイズ以下になるように湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとした。NaMgF3フィラーの粒径(D90)がEBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)以下であり、また400μm以下であることは、ビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番VHX-2000)で確認した。
【0087】
<実施例3:NaMgF3 キャスト法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径2インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の台上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0088】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に融液全体が固化する温度(1050℃)をまたぐ形で1100℃から室温まで冷却速度170℃/hrになるように徐々に高周波出力を下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。粉末X線回折で育成した結晶の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDの視野の広さを変えてデバイ-シェラー環の形成の有無を調べることにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが400μm超であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズを評価した。EBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)は1450μmであった。
【0089】
製造した多結晶NaMgF3を、体積基準による累積90%粒径(D90)がEBSDにより求めた平均結晶粒サイズ以下になるように湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとした。NaMgF3フィラーの粒径(D90)がEBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)以下であり、また400μm以下であることは、ビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番VHX-2000)で確認した。
【0090】
<実施例4:NaMgF3 キャスト法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径2インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の台上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0091】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に融液全体が固化する温度(1050℃)をまたぐ形で1100℃から900℃まで冷却速度100℃/hrになるように徐々に高周波出力を下げた。その後、90分で高周波出力を0まで徐々に下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。粉末X線回折で育成した結晶の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDの視野の広さを変えてデバイ-シェラー環の形成の有無を調べることにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが400μm超であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズを評価した。EBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)は1681μmであった。
【0092】
製造した多結晶NaMgF3を、体積基準による累積90%粒径(D90)がEBSDにより求めた平均結晶粒サイズ以下になるように湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとした。NaMgF3フィラーの粒径(D90)がEBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)以下であり、また400μm以下であることは、ビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番VHX-2000)で確認した。
【0093】
<実施例5:NaMgF3 キャスト法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径2インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の台上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0094】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に融液全体が固化する温度(1050℃)をまたぐ形で1100℃から900℃まで冷却速度40℃/hrになるように徐々に高周波出力を下げた。その後、90分で高周波出力を0まで徐々に下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。粉末X線回折で育成した結晶の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが400μm以上であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズを評価した。EBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)は3000μm以上であった。
【0095】
製造した多結晶NaMgF3を、体積基準による累積90%粒径(D90)がEBSDにより求めた平均結晶粒サイズ以下になるように湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとした。ビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番VHX-2000)で確認したNaMgF3フィラーの粒度分布(体積基準)を以下に示す。
累積100%粒径(D100)(最大粒径):114μm
累積90%粒径(D90):26μm
累積50%粒径(D50):9μm
累積10%粒径(D10):3μm
【0096】
<実施例6:NaMgF3 キャスト法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径2インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の台上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0097】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に融液全体が固化する温度(1050℃)をまたぐ形で900℃まで冷却速度20℃/hrで徐々に高周波出力を下げた。その後、90分で高周波出力を0まで徐々に下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。粉末X線回折で育成した結晶の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDの視野の広さを変えてデバイ-シェラー環の形成の有無を調べることにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが400μm超であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズ(面積平均)を評価した。EBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)は8000μmであった。
【0098】
製造した多結晶NaMgF3を、体積基準による累積90%粒径(D90)がEBSDにより求めた平均結晶粒サイズ以下になるように湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとした。NaMgF3フィラーの粒径(D90)がEBSDで求めた平均結晶粒サイズ(面積平均)以下であり、また400μm以下であることは、ビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、型番VHX-2000)で確認した。
【0099】
<製造例1:ブリッジマン法でバルク体作製>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径1インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の可動ロッド上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を9:1、8:2、又は7:3の割合(体積比)でそれぞれ混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0100】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF
3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後に可動ロッドにて坩堝を1.2mm/hourの速度で降下させた(冷却速度:10℃/hr)。5時間後の降下距離60mmの位置(温度1050℃)で引き下げを停止し、6時間かけて高周波の出力を0まで徐々に下げた。冷却後、坩堝を傾けて育成結晶を取り出した。透過率を測定するために、表面を研磨して厚さを2mm(Ar:CF
4が8:2又は7:3の場合)又は1mm(Ar:CF
4が9:1の場合)とし、クラック等がない部位で200~600nmの全光線透過率を測定した。
結果を
図5に示す。
図5に示される様に、Ar:CF
4のCF
4の比率が高いほど、透過率が高い。NaMgF
3中への微量不純物(酸素、水分など)のコンタミネーションが減ったためと思われる。
【0101】
製造例1で得られたNaMgF
3バルク体(Ar:CF
4=7:3)の屈折率の波長分散性を以下の条件で調べ、THV221AZの屈折率の波長分散性と比較した。結果を
図6に示す。
[測定方法]
バルク体からの反射光の偏光状態の変化を測定し、試料の光学定数を計算により求めた。バルク体を300mmR-Thetaステージにセットし、入射角:50,60,70度で測定波長:200nm~600nmにてΔ(位相差)とφ(振幅反射率)を測定した。Δ(位相差)とφ(振幅反射率)のスペクトルを計算モデルから算出された(Δ、φ)と比較し、測定値(Δ、φ)に近づくように誘電関数や膜厚を変化させてフィッティングを行った。得られたフィッティング結果の屈折率の波長分散を
図6に示す。
【0102】
装置名
・高速分光エリプソメータ―
M-2000(J.A.Woollam社製)
回転補償子型(RCE:Rotating Compensator Ellipsometer)
300mm R-Theta ステージ
【0103】
測定条件
・入射角:50,60,70度
・測定波長:200nm~600nm
・解析ソフト:WVASE32
・ビーム径:2mm×8mm程度
【0104】
3.樹脂組成物
<実施例7:THV樹脂及び単結晶NaMgF3フィラー含有樹脂組成物シート作成>
<樹脂溶液(THV221AZ溶液)の作成>
ウォーターバスに置いたセパラブルフラスコに、酢酸ブチル(富士フイルム和光純薬社製)160gを測り入れ、攪拌しながら、ウォーターバスを85℃まで昇温した。攪拌しながら、THV221AZを少しずつ40g加えて溶解させ、樹脂溶液を作製した。得られた溶液を120℃、3時間加熱し、残分から固形分濃度を求めたところ19.5質量%であった。
【0105】
<ペレットの作製>
上記で作製した濃度19.5質量%の樹脂溶液35gを、容量250mlのプラスチック製容器に入れ、そこにフィラーとして実施例5にて製造した単結晶NaMgF3フィラーを2.76g添加した。樹脂の密度を1.95g/cm3、NaMgF3フィラーの密度を3.06g/cm3として計算すると、フィラーの濃度は20体積%である。この溶液を、あわとり練太郎ARV-310を用いて、回転数2000rpmで2分間混合する操作を3回実施して、溶液とフィラーとを混合し、そこにマグネットスターラーを入れて攪拌してフィラーが均一に溶液中に舞っている状態を維持しながら、イソプロピルアルコール(IPA、ナカライテクス社製)70gを一気に入れたところ、フィラーと一部の溶媒を巻き込みながら、樹脂が一気にゲル化して析出した。
【0106】
ゲル化した塊状の試料を取り出し、該試料からスターラーを取り出した後、アルミカップの上に置いて、常温で乾燥させた。4時間程度乾燥させたところで、乾燥を促進させるためにハサミを用いておおよそ3cm角ぐらいのサイズに切り、その後、一晩乾燥させた。一晩経過後の試料をハサミで5mm角程度に切り、100℃に設定したホットプレートの上で3時間乾燥させた。
【0107】
その後、試料をPFA製のシャーレに移し、真空乾燥機中で200℃で3時間静置して、試料を脱泡および乾燥した。温度200℃での乾燥中、試料は溶融しており、乾燥機から取り出した後は冷却されて塊になった。得られた塊状の試料を再度、ハサミを用いて2mm角程度のサイズに切り、ペレットとした。
【0108】
<シートの作成>
厚さ5mm、15cm角のSUS板の上に厚さ0.1mm、15cm角のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムを積層し、PTFEフィルムの上に、中心に5cm角の貫通孔を備える厚さ1.0mm、15cm角のSUS板を積層した。次いで上記ペレットを、上記5cm角の貫通孔の中に5.2g入れた。更に厚さ0.1mm、15cm角のPTFEフィルムと、厚さ5mm、15cm角のSUS板とを順に積層して金型を組立てた。次いで、プレス機の温度を200℃に設定し、加圧せずにプレス機の上下板を金型の上下の上記SUS板に接触させた状態で3分保持してペレットを溶融させた。その後50MPaの圧力で2分間加圧した。加圧後に金型を取り出して、別途、水を通した2枚のSUS板で金型を挟んで十分に冷却して、金型を分解して1mm厚みのフィラー含有フッ素樹脂シートE1を得た。
【0109】
<実施例8:THV樹脂及び多結晶NaMgF3フィラー含有樹脂組成物シート作成>
<多結晶NaMgF3 急冷法>
NaF粉末(純度99.9%)とMgF2粉末(純度99.9%)をモル比で1.02:1.00となるよう秤量した。これらの原料粉末を、乳鉢ですりつぶしながら乾式混合した。得られた混合粉末を、テーパーのついた直径2インチのカーボン坩堝に充填し、坩堝の上にカーボン製の蓋を置いた。高周波誘導加熱炉の真空チャンバー内の台上に蓋をした前記坩堝を設置し、高周波コイルの中心に坩堝が配置されるようにした。坩堝と高周波コイルの間には断熱材として円筒形の多孔質カーボンを設置した。
真空ポンプを用いてチャンバー内を1×10-3Pa以下まで真空にしながら、高周波誘導加熱により坩堝自体を400℃程度に加熱した。その後、アルゴンとCF4を7:3の割合で混合したガスを導入し、チャンバー内を大気圧にした。
【0110】
高周波の出力を上げ、坩堝自体をNaMgF3の融点直上(1100℃程度)まで加熱し、1時間保持した後、ステレンス板(常温)に融液全体を流しだし、固化した(冷却速度:1×102~1×105℃/秒)。粉末X線回折で固化物の回折角と回折強度を調べることにより、NaMgF3単相であることを確認し、μXRD及びEBSD(電子線後方散乱解析)により多結晶NaMgF3の結晶粒サイズを評価した。μXRDの視野の広さを変えてデバイ-シェラー環の形成の有無を調べることにより、多結晶NaMgF3の結晶粒サイズが数十μm未満であることを定性的に確認し、EBSDにより定量的に結晶粒サイズを評価した。EBSDで求めた結晶粒サイズ(面積平均)は70μm程度であった。
【0111】
実施例1と同じ条件で湿式ボールミルにて粉砕し、NaMgF3フィラーとし、ビデオマイクロスコープ(キーエンス社製、型番VHX-2000)にて観察したところ、70μmを超える粒子の存在を多数確認した。面積平均結晶粒サイズ(面積平均)(70μm)より粒径が大きいNaMgF3フィラーには複数の粒界が存在する。この粒径が大きいNaMgF3フィラー1個をビデオマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、型番VHX-2000)で観察したところ、実施例1~6の単結晶NaMgF3フィラーの方が透明性に優れていた。
【0112】
<シートの作成>
実施例5で得られた単結晶NaMgF3フィラーに代えて、上記急冷法で得られた多結晶NaMgF3フィラーを用いた以外は実施例7と同じ方法でフィラー濃度が20体積%であるシートを作成した。
【0113】
<比較例1:THV樹脂及び単結晶Al2O3フィラー含有樹脂組成物シート作成>
実施例5で得られた単結晶NaMgF3フィラーに代えて単結晶性酸化アルミニウム(住友化学社製,型番:AA-3)を用いた以外は実施例7と同じ方法でフィラー濃度が20体積%であるシートを作製した。酸化アルミニウムの密度は、3.97g/cm3としてフィラー濃度を計算した。
【0114】
<参考例1:THV樹脂シート作成>
フィラーを加えない以外は実施例7と同じ方法でシートを作成した。
【0115】
<光線透過率の測定>
前記実施例、比較例、及び参考例で得られたシートについて、株式会社島津製作所社製のUV-3600を用いて、波長250~600nmの光線透過率を測定した。結果を
図7に示す。
アタッチメント:積分球 ISR-3100
バックグラウンド測定:大気
【0116】
図7に示す通り、シートの透過率は広い波長領域(250~600nm)に渡って単結晶NaMgF
3(実施例7)が単結晶Al
2O
3(比較例1)よりも優れていた。THV樹脂の屈折率1.36とNaMgF
3の屈折率は一致していることにより、フィラーがNaMgF
3のときは樹脂とフィラーとの界面の散乱損失を抑制できる。単結晶Al
2O
3は、単結晶NaMgF
3と同様にフィラー自身は透明であるが、単結晶Al
2O
3ではフィラーの屈折率が大きく異なる(NaMgF
3:1.36、Al
2O
3:1.7、THV樹脂:1.36)ので、樹脂とフィラーとの界面での散乱損失が大きくなったことを図の結果は反映している。
【0117】
<実施例9(THV221AZ/NaMgF3=80/20)>
<樹脂溶液(THV221AZ溶液)の作成>
ウォーターバスに置いたセパラブルフラスコに、酢酸ブチル(富士フイルム和光純薬社製)160gを測り入れ、攪拌しながら、ウォーターバスを85℃まで昇温した。攪拌しながら、THV221AZを少しずつ40g加えて溶解させ、樹脂溶液を作製した。得られた溶液を120℃、3時間加熱し、残分から固形分濃度を求めたところ19.5質量%であった。
【0118】
<THV粉末1の作成>
上記で作製した濃度19.5質量%の樹脂溶液35gを、容量250mlのプラスチック製容器に入れ、そこにフィラーとして実施例5にて製造した単結晶NaMgF3フィラーを2.76g添加した。樹脂の密度を1.95g/cm3、NaMgF3フィラーの密度を3.06g/cm3として計算すると、フィラーの濃度は20体積%である。この溶液を、あわとり練太郎ARV-310を用いて、回転数2000rpmで2分間混合する操作を3回実施して、溶液とフィラーとを混合し、そこにマグネットスターラーを入れて攪拌してフィラーが均一に溶液中に舞っている状態を維持しながら、イソプロピルアルコール(IPA、ナカライテクス社製)70gを一気に入れたところ、フィラーと一部の溶媒を巻き込みながら、樹脂が一気にゲル化して析出した。
ゲル化した塊状の試料を取り出し、該試料からスターラーを取り出した後、アルミカップの上に置いて、常温で4時間乾燥させ粉末状態とした。
【0119】
<実施例10(THV221AZ/NaMgF3=70/30)>
<樹脂溶液(THV221AZ溶液)の作成>
ウォーターバスに置いたセパラブルフラスコに、酢酸ブチル(富士フイルム和光純薬社製)160gを測り入れ、攪拌しながら、ウォーターバスを85℃まで昇温した。攪拌しながら、THV221AZを少しずつ40g加えて溶解させ、樹脂溶液を作製した。得られた溶液を120℃、3時間加熱し、残分から固形分濃度を求めたところ19.5質量%であった。
【0120】
<THV粉末2の作成>
上記で作製した濃度19.5質量%の樹脂溶液35gを、容量250mlのプラスチック製容器に入れ、そこにフィラーとして実施例5にて製造した単結晶NaMgF3フィラーを4.59g添加した。樹脂の密度を1.95g/cm3、NaMgF3フィラーの密度を3.06g/cm3として計算すると、フィラーの濃度は30体積%である。この溶液を、あわとり練太郎ARV-310を用いて、回転数2000rpmで2分間混合する操作を3回実施して、溶液とフィラーとを混合し、そこにマグネットスターラーを入れて攪拌してフィラーが均一に溶液中に舞っている状態を維持しながら、イソプロピルアルコール(IPA、ナカライテクス社製)70gを一気に入れたところ、フィラーと一部の溶媒を巻き込みながら、樹脂が一気にゲル化して析出した。
ゲル化した塊状の試料を取り出し、該試料からスターラーを取り出した後、アルミカップの上に置いて、常温で4時間乾燥させ粉末状態とした。
【0121】
<TG-DTA測定>
THV221AZ 7.361mg、THV粉末1(THV221AZ/NaMgF
3=80/20) 7.777mg、又はTHV粉末2(THV221AZ/NaMgF
3=70/30) 6.528mg)をアルミパンに測り採り、熱重量分析装置TGDTA6200(Seiko Instrument社製)を用いて、空気気流下において、10℃/minの昇温速度で50℃から500℃まで昇温を実施した。結果を
図8に示す。
【0122】
図8に示す通り、単結晶NaMgF
3を配合した樹脂粉末は、単結晶NaMgF
3を配合しない例に比べて、耐熱性が向上した。