(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124658
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】情報処理方法、情報処理装置、プログラム及び排水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20230830BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20230830BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20230830BHJP
【FI】
C02F3/12 H
C02F3/12 B
C02F3/12 U
G06Q10/04
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028556
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518347532
【氏名又は名称】株式会社片岡バイオ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】内田 中
(72)【発明者】
【氏名】池下 淳
(72)【発明者】
【氏名】中筋(今田) 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】大久保(長谷川) 絵美
【テーマコード(参考)】
4D028
5L049
【Fターム(参考)】
4D028AA02
4D028AA03
4D028CB00
4D028CC01
4D028CC04
4D028CE03
5L049AA04
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける汚泥又は排水を最適化することができる情報処理方法等を提供する。
【解決手段】情報処理方法は、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する処理をコンピュータが実行する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【請求項2】
前記特性モデルに基づいて、前記特性が所定条件を満たす前記排水処理システムにおける運転条件を特定する
請求項1に記載の情報処理方法。
【請求項3】
前記排水情報は前記排水を構成する排水構成物の組成を含むか及び/又は前記汚泥情報は前記汚泥を構成する汚泥構成物の組成を含む
請求項1又は請求項2に記載の情報処理方法。
【請求項4】
排水処理システムにおける余剰汚泥を削減する汚泥分解菌が前記菌として添加される前記排水処理システムにおける、汚泥あたりの負荷に対する汚泥引抜率又は汚泥生成率の変化を示す前記特性モデルを生成する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項5】
前記特性モデルは、下記式で表される
【数1】
[式中、MLSSは汚泥濃度であり、Vは槽容積であり、ΔCは処理炭素量であり、aは汚泥転換率であり、Bは汚泥分解速度である。]
請求項4に記載の情報処理方法。
【請求項6】
排水処理システムにおける汚泥の沈降性を向上する沈降性向上菌が前記菌として添加される前記排水処理システムにおける、汚泥あたりの有効菌量に対する汚泥密度の変化を示す前記特性モデルを生成する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項7】
前記特性モデルは、下記式で表される
【数2】
[式中、Δρは汚泥密度変化であり、k2は汚泥密度増加係数である。]
請求項6に記載の情報処理方法。
【請求項8】
排水処理システムにおける排水中の悪臭物質を分解する悪臭物質分解菌が前記菌として添加される前記排水処理システムにおける、汚泥あたりの負荷に対する悪臭物質分解率の変化を示す前記特性モデルを生成する
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項9】
前記特性モデルは、下記式で表される
【数3】
[式中、U3outは排水処理システムから流出する排水中の悪臭物質濃度であり、U3inは排水処理システムに流入する排水中の悪臭物質濃度であり、MLSSは汚泥濃度であり、Vは槽容積であり、U3は排水中の悪臭物質濃度であり、Tは滞留時間であり、k3は悪臭物質分解反応係数である。]
請求項8に記載の情報処理方法。
【請求項10】
排水処理システムにおける排水中の難分解物質を分解する難分解物質分解菌が前記菌として添加される前記排水処理システムにおける、汚泥あたりの負荷に対する難分解物質分解率の変化を示す前記特性モデルを生成する
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項11】
前記特性モデルは、下記式で表される
【数4】
[式中、U4outは排水処理システムから流出する排水中の難分解物質濃度であり、U4inは排水処理システムに流入する排水中の難分解物質濃度であり、MLSSは汚泥濃度であり、Vは槽容積であり、U4は排水中の難分解物質濃度であり、Tは滞留時間であり、k4は難分解物質分解反応係数である。]
請求項10に記載の情報処理方法。
【請求項12】
複数の前記特性モデルに基づいて、複数の前記特性モデルそれぞれにおける特性が所定条件を満たす前記排水処理システムにおける運転条件を特定する
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の情報処理方法。
【請求項13】
活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する生成部を備える
情報処理装置。
【請求項14】
活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する
処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを取得し、
排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報を入力した場合に前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する推算モデルに、取得した前記排水情報及び前記汚泥情報を入力して、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する
処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
出力された前記パラメータを適用した前記特性モデルに基づいて、前記排水処理システムにおける運転条件を特定する
請求項15に記載のプログラム。
【請求項17】
前記パラメータは、前記排水処理システムにより処理された有機汚濁物量に対する余剰汚泥の発生量を表す汚泥転換率、及び汚泥分解菌の添加による効果を表す汚泥分解速度を含み、
前記特性モデルは、下記式で表される
【数5】
[式中、MLSSは汚泥濃度であり、Vは槽容積であり、ΔCは処理炭素量であり、aは汚泥転換率であり、Bは汚泥分解速度である。]
請求項15又は請求項16のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項18】
前記排水処理システムにおける前記菌の使用量を取得し、
取得した前記菌の使用量が所定値以上となった場合、前記菌の使用量に関する使用情報を出力する
請求項15から請求項17のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項19】
活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを取得し、
排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報を入力した場合に前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する推算モデルに、取得した前記排水情報及び前記汚泥情報を入力して、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【請求項20】
活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを取得する取得部と、
排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報を入力した場合に前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する推算モデルに、取得した前記排水情報及び前記汚泥情報を入力して、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する出力部とを備える
情報処理装置。
【請求項21】
活性汚泥法を用いた排水処理を実行する排水処理装置と、前記排水処理装置を制御する情報処理端末とを備える排水処理システムであって、
前記情報処理端末は、
前記排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを出力し、
出力した前記排水情報及び前記汚泥情報に応じた前記排水処理システムにおける運転条件を取得し、
取得した前記運転条件に基づく制御情報を前記排水処理装置へ出力し、
前記排水処理装置は、
前記情報処理端末から出力された前記制御情報に応じて排水処理を実行する
排水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理方法、情報処理装置、プログラム及び排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場、化学工場等から排出される排水や公共下水の処理システムとして、活性汚泥法を用いた排水処理システムが広く適用されている。活性汚泥法を用いた排水処理システムにおいては、処理槽内に処理対象の排水を流入させつつ、この処理槽内に存在する多種類の好気性微生物(活性汚泥)に対して酸素を供給する曝気処理を行う。処理槽内の排水中に含まれる有機汚濁物が好気性微生物の作用によって分解されることにより、排水が浄化される。排水処理に用いた活性汚泥の一部は処理槽へ返送され再び使用されるが、再使用量を超える余剰汚泥は、系外へ排出し処理される。
【0003】
排水中の有機汚濁物量は、季節や日間によって大きく変動する。このような活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水処理を効果的に行うよう、排水処理システムの運転を制御するための技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の活性汚泥処理装置は、排水処理システムにおける汚泥又は排水を最適化することに関して考慮されていない。
【0006】
本開示の目的は、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける汚泥又は排水を最適化することができる情報処理方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る情報処理方法は、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する処理をコンピュータが実行する。
【0008】
本開示の一態様に係る情報処理装置は、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する生成部を備える。
【0009】
本開示の一態様に係るプログラムは、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とに基づいて、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルを生成する処理をコンピュータに実行させる。
【0010】
本開示の一態様に係るプログラムは、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを取得し、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報を入力した場合に前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する推算モデルに、取得した前記排水情報及び前記汚泥情報を入力して、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する処理をコンピュータに実行させる。
【0011】
本開示の一態様に係る情報処理方法は、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを取得し、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報を入力した場合に前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する推算モデルに、取得した前記排水情報及び前記汚泥情報を入力して、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する処理をコンピュータが実行する。
【0012】
本開示の一態様に係る情報処理装置は、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを取得する取得部と、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報を入力した場合に前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する推算モデルに、取得した前記排水情報及び前記汚泥情報を入力して、前記排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを出力する出力部とを備える。
【0013】
本開示の一態様に係る排水処理システムは、活性汚泥法を用いた排水処理を実行する排水処理装置と、前記排水処理装置を制御する情報処理端末とを備える排水処理システムであって、前記情報処理端末は、前記排水処理システムにおける排水及び前記排水に添加される菌の情報を含む排水情報と、前記排水処理システムにおける汚泥の汚泥情報とを出力し、出力した前記排水情報及び前記汚泥情報に応じた前記排水処理システムにおける運転条件を取得し、取得した前記運転条件に基づく制御情報を前記排水処理装置へ出力し、前記排水処理装置は、前記情報処理端末から出力された前記制御情報に応じて排水処理を実行する排水処理システムである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、活性汚泥法を用いた排水処理システムにおける汚泥又は排水を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る情報処理システムの概要図である。
【
図2】情報処理システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】排水処理システムDBのレコードレイアウトを例示する図である。
【
図4】排水・汚泥情報DBのレコードレイアウトを例示する図である。
【
図6】情報処理システムにより実行される処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】第2実施形態における特性グラフを説明する説明図である。
【
図9】第2実施形態の情報処理システムにより実行される処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】第3実施形態における特性グラフを説明する説明図である。
【
図11】第3実施形態の情報処理システムにより実行される処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】第4実施形態における特性グラフを説明する説明図である。
【
図13】第4実施形態の情報処理システムにより実行される処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】第5実施形態の情報処理システムの構成を示すブロック図である。
【
図16】第5実施形態の情報処理システムにより実行される処理手順を示すフローチャートである。
【
図17】第6実施形態の情報処理システムにより実行される処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る情報処理方法、情報処理装置、プログラム及び排水処理システムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
以下に記載する実施形態に示すシーケンスは限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各処理手順はその順序を変更して実行されてもよく、また並行して複数の処理が実行されてもよい。各処理の処理主体は限定されるものではなく、矛盾の無い範囲で、各装置の処理を他の装置が実行してもよい。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る情報処理システム100の概要図である。情報処理システム100は、情報処理装置1を主たる装置として備える。情報処理装置1は、インターネット等のネットワークNを介し複数の排水処理システム200と通信可能に接続されている。各排水処理システム200は、情報処理端末2と、活性汚泥法を用いた排水処理を実行する排水処理装置3とを備える。
【0018】
情報処理装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な装置であり、例えばサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、量子コンピュータ等である。情報処理装置1は、例えば情報処理システム100により提供される排水処理システム管理サービスのサービス事業者により管理される。情報処理装置1は、排水処理システム管理サービスを利用するユーザ(排水処理事業者)の排水処理システム200に関する情報を取得し、取得した情報に応じて排水処理システム200の特性を示す特性モデルを生成する。情報処理装置1は、生成した特性モデルに基づいて、排水処理システム200に応じた管理情報をユーザへ提供する。
【0019】
情報処理端末2は、ユーザが用いる情報処理端末2であり、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等である。情報処理端末2は、例えば排水処理装置3を含む工場内に設けられるローカルコンピュータである。情報処理端末2は、排水処理システム200に関する各種情報を情報処理装置1へ送信し、排水処理システム200に応じた管理情報を情報処理装置1から受信する。情報処理端末2は、排水処理装置3の運転を制御するための制御装置としての機能を有するものであってもよい。又は、排水処理装置3の運転を制御する制御装置は、情報処理端末2とは別個の装置として設けられ、情報処理端末2は通信部等を介して制御装置と通信することにより、当該制御装置を介して各種情報の送受信を実行し、運転を制御するものであってもよい。情報処理装置1は、排水処理システム管理サービスを利用する複数のユーザそれぞれに対応する複数の情報処理端末2と通信接続されていてよい。なお、情報処理装置1と情報処理端末2とは別個の装置である構成に限定されず、共通する1台の情報処理装置であってもよい。情報処理装置1が排水処理装置3を含む工場内に設けられていてもよい。
【0020】
排水処理装置3は、工場から排出される排水を処理するための処理装置を備える。排水処理システム200は、細菌や原生動物、後生動物等を含む複合微生物系である活性汚泥(以下、単に汚泥とも称する)を用いて排水処理を行う。排水処理システム200では、後述する余剰汚泥の問題を解消するため、処理工程において各種菌が添加される。なお排水処理システム200の処理対象は工場排水に限定されず、例えば公共下水を処理するための処理システムであってもよい。
【0021】
排水処理装置3は、例えば処理槽31、処理前沈殿槽32a、処理後沈殿槽32bを含む。以下の説明において、処理前沈殿槽32a及び処理後沈殿槽32bを区別して説明する必要がない場合には、単に沈殿槽32とも記載する。なお排水処理装置3の構成は例示であり限定されるものではない。
図1では、1つの処理槽31を備える排水処理装置3を示したが、処理槽31は複数段により構成されてもよい。処理前沈殿槽32aは省略されてもよい。また排水処理装置3にはさらに、処理槽31の前に、不図示の前処理槽が備えられていてもよい。
【0022】
処理前沈殿槽32aは、有機汚濁物を含む排水(以下、原水とも称する)が流入される槽である。処理前沈殿槽32aは、原水を緩やかに流入させて、比較的粒子の小さいゴミなどを沈殿させる。処理前沈殿槽32aにより処理された被処理水は、送水ラインを通して処理槽31へ送水される。被処理水は、その一定量が連続的に処理槽31へ送水されてよい。
【0023】
処理槽31は、不図示の曝気手段を備え、処理槽31内に存在する汚泥により、処理前沈殿槽32aから送水される被処理水を好気処理する。処理槽31には、各種菌を含む培養液が添加される。培養液は、例えばタンクに保持されており、ポンプを用いて連続的に所定量ずつ処理槽31へ添加される。なお菌の形態は、液状に限定されず、粉体、製剤等であってもよい。また菌の添加態様も限定されず、排水処理装置3の系内において適宜添加されてよい。例えば、処理後沈殿槽32b又は送水ラインにおいて菌が添加されてもよく、排水処理装置3が不図示の前処理槽を備える場合には、前処理槽において菌が添加されてもよい。
【0024】
処理槽31は、不図示のブロアが供給する空気や酸素等の気体を用いて、処理槽31内に散気を行い、貯留されている汚泥を曝気する。汚泥中の菌を含む好気性微生物は、溶存酸素を水中から取り込み、餌として取り入れた被処理水中の有機汚濁物を酸化分解する。処理槽31により処理された被処理水は、送水ラインを通して処理後沈殿槽32bへ送水される。
【0025】
処理後沈殿槽32bは、処理槽31から送水される被処理水を所定時間静置し、汚泥を自然沈降させる。これにより、被処理水を上澄み液と汚泥とに固液分離させる。上澄み液は、最終的な処理水として放流される。沈降した汚泥の一部は、処理槽31へ返送し循環使用される。汚泥の残部は、系外へ引き抜き、脱水や乾燥等が行われた後焼却して処分される、或いは土壌改質剤や土木建築材料等へリサイクルされるなどの処理が行われる。本明細書において、汚泥とは、排水処理システム200における汚泥のうち、循環使用されず、系外へ引き抜かれる汚泥を意味する。なお、処理後沈殿槽32bは沈殿槽形式に限定されず、例えば膜分離装置等であってもよい。
【0026】
処理槽31及び処理後沈殿槽32bには、各槽内の排水や汚泥の状態を計測する各種計測器が設けられている。
【0027】
処理槽31に設けられる計測器には、例えば温度計、pH計、ORP計、DO計、MLSS計、TOC計等が含まれる。温度計は、処理槽31内の温度を計測する計測器である。pH計は、処理槽31内における被処理水のpHを計測する計測器である。ORP計は、処理槽31内における被処理水のORP(Oxidation Reduction Potential:酸化還元電位)を計測する計測器である。DO計は、処理槽31内における被処理水のDO(Dissolved Oxygen:溶存酸素)濃度を計測する計測器である。MLSS計は、処理槽31内における処理水のMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids:活性汚泥浮遊物質)濃度を計測する計測器である。TOC計は、処理槽31内における被処理水のTOC(Total Organic Carbon:有機体炭素)を計測する計測器である。TOCは、処理槽31内の処理水中に存在する有機汚濁物中の炭素の量を意味し、処理水中の有機汚濁物の程度の指標となる。
【0028】
処理槽31にはまた、処理槽31に流入する被処理水の状態を計測する計測器が設けられている。被処理水の状態を計測する計測器には、例えば流量計、温度計、pH計、窒素計、リン計等が含まれる。流量計は、被処理水の流量を計測する計測器である。温度計は、被処理水の温度を計測する計測器である。pH計は、被処理水のpHを計測する計測器である。窒素計は、被処理水における窒素濃度を計測する計測器である。リン計は、被処理水におけるリン濃度を計測する計測器である。これらの計測器は、処理槽31に接続する送水ラインに設けられてもよい。
【0029】
処理後沈殿槽32bに設けられる計測器には、例えば流量計、界面計、MLSS計等が含まれる。流量計は、処理後沈殿槽32bにおける返送流量を計測する計測器である。流量計は、処理後沈殿槽32bにおける余剰汚泥の引き抜き量を計測するものであってもよい。界面計は、処理後沈殿槽32bの固液界面位置を計測する計測器である。MLSS計は、処理後沈殿槽32b内における処理水のMLSS濃度を計測する計測器である。
【0030】
上述のように、処理後沈殿槽32bにて発生する汚泥のうち、処理槽31へ返送されない余剰汚泥は焼却処分される。余剰汚泥の処理には手間とコストを要する。余剰汚泥の状態に関する問題を解消し、余剰汚泥の状態を最適化することで、余剰汚泥の処理に要する手間とコストを低減することができる。本実施形態において、余剰汚泥の状態に関する問題とは余剰汚泥の量であり、余剰汚泥の量を低減することで、余剰汚泥の処理に要する手間とコストの低減を図る。
【0031】
余剰汚泥の状態に関する問題を解消する手法として、排水処理システム200では、菌の添加を用いる。排水処理システム200における排水に、余剰汚泥の状態に作用する菌を添加することで、余剰汚泥の状態を好適に変化させることができる。
【0032】
排水処理システム200に添加される菌は、汚泥分解菌を含む。汚泥分解菌とは、余剰汚泥となりうる汚泥に対する分解能を有する菌を意味する。菌は、複合される菌の種類に応じて、複数種類に分類されてよい。例えば、汚泥分解菌X1、汚泥分解菌X2、…、の複数種類に分類される。汚泥分解菌を排水に添加することで、余剰汚泥の生成率を低減し、余剰汚泥の発生を抑制(余剰汚泥を削減)することができる。
【0033】
本実施形態では、汚泥分解菌を排水処理システム200に添加する例を説明するが、排水処理システム200に添加し得る菌は、汚泥分解菌に限定されない。菌は、汚泥又は排水の状態に関する問題に応じて複数用意され、適宜選択的に添加されてよい。菌は、1種を単独で又は2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0034】
従来、このような菌を用いた排水処理システム200においては、菌の添加による効果の評価が困難であり、菌の添加に関する各種条件の調整は、オペレータの経験や勘に委ねられていた。本情報処理システム100では、汚泥又は排水の状態に対し上述のような菌添加の効果を定量的に評価することのできる特性モデルを生成する。生成した特性モデルを用いて菌添加の効果を定量的に評価し、評価結果に基づいて、菌添加の効果を好適に発揮させることのできる排水処理システム200の運転条件を特定し、ユーザへ提供する。
【0035】
図2は、情報処理システム100の構成を示すブロック図である。情報処理装置1は、制御部11、記憶部12、通信部13、表示部14及び操作部15等を備える。情報処理装置1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであってもよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0036】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等を備える演算処理装置である。制御部11は、内蔵するROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリを用い、ROMや記憶部12に格納された各種コンピュータプログラムを実行し、上述したハードウェア各部の動作を制御する。制御部11は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0037】
記憶部12は、ハードディスク又はSSD(Solid State Drive )等の不揮発性記憶装置を備える。記憶部12には各種のコンピュータプログラム及びデータが記憶される。記憶部12は、複数の記憶装置により構成されていてもよく、情報処理装置1に接続された外部記憶装置であってもよい。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムには、特性モデルの生成に関する処理をコンピュータに実行させるためのプログラム1Pが含まれる。
【0038】
記憶部12に記憶されるデータには、特性モデル121が含まれる。特性モデル121は、排水処理システム200の特性を示す特性モデルである。排水処理システム200の特性とは、排水処理システム200の余剰汚泥に係る特性であってよい。特性モデル121は、例えばモデル式又は近似線等により定義される。特性モデル121は、各特性に応じたパラメータを含む。特性モデル121は、パラメータを未定義の基本モデル式として記憶され、ユーザごとにパラメータが適宜決定されるものであってもよい。特性モデル121の詳細は後述する。
【0039】
記憶部12にはまた、排水処理システムDB(Data Base :データベース)122、及び排水・汚泥情報DB123が記憶されている。
【0040】
記憶部12に記憶されるコンピュータプログラム(コンピュータプログラム製品)は、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体1Aにより提供されてもよい。記録媒体1Aは、CD-ROM、USBメモリ、SD(Secure Digital)カード等の可搬型メモリである。制御部11は、図示しない読取装置を用いて、記録媒体1Aから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部12に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。プログラム1Pは、単一のコンピュータ上で、または1つのサイトにおいて配置されるか、もしくは複数のサイトにわたって分散され、通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0041】
通信部13は、ネットワークNを介した通信に関する処理を行うための通信デバイスを備える。制御部11は通信部13を通して、情報処理端末2との間で各種情報の送受信を行う。
【0042】
表示部14は、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のディスプレイ装置を備える。表示部14は、制御部11からの指示に従い、各種の情報を表示する。
【0043】
操作部15は、ユーザの操作を受け付けるインタフェースであり、例えばキーボード、ディスプレイ内蔵のタッチパネルデバイス、スピーカ及びマイクロフォン等を備える。操作部15は、ユーザからの操作入力を受け付け、操作内容に応じた制御信号を制御部11へ送出する。
【0044】
情報処理端末2は、制御部21、記憶部22、通信部23、表示部24、操作部25及び入出力部26等を備える。
【0045】
制御部21は、CPU、GPU等を備える演算処理装置である。制御部11は、内蔵するROM又はRAM等のメモリを用い、ROMや記憶部22に格納された各種コンピュータプログラムを実行し、上述したハードウェア各部の動作を制御することによって、排水処理システム200における制御情報を取得する処理を実行する。
【0046】
記憶部22は、ハードディスク又はSSD等の不揮発性記憶装置を備える。記憶部22には各種のコンピュータプログラム及びデータが記憶される。記憶部22に記憶されるコンピュータプログラムには、排水処理システム200における運転条件の取得に関する処理をコンピュータに実行させるためのプログラム2Pが含まれる。
【0047】
記憶部22に記憶されるコンピュータプログラム(コンピュータプログラム製品)は、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体2Aにより提供されてもよい。記録媒体2Aは、CD-ROM、USBメモリ、SDカード等の可搬型メモリである。制御部21は、図示しない読取装置を用いて、記録媒体2Aから所望のコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部22に記憶させる。代替的に、上記コンピュータプログラムは通信により提供されてもよい。プログラム2Pは、単一のコンピュータ上で、または1つのサイトにおいて配置されるか、もしくは複数のサイトにわたって分散され、通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0048】
通信部23は、ネットワークNを介した通信に関する処理を行うための通信デバイスを備える。制御部21は通信部23を通して、情報処理装置1との間で各種情報の送受信を行う。
【0049】
表示部24は、液晶パネル、有機ELディスプレイ等のディスプレイ装置を備える。表示部24は、制御部21からの指示に従い、各種の情報を表示する。
【0050】
操作部25は、ユーザの操作を受け付けるインタフェースであり、例えば例えばキーボード、ディスプレイ内蔵のタッチパネルデバイス、スピーカ及びマイクロフォン等を備える。操作部25は、ユーザからの操作入力を受け付け、操作内容に応じた制御信号を制御部21へ送出する。
【0051】
入出力部26は、外部装置を接続するための入出力I/F(インタフェース)である。入出力部26には、上述の各種センサを備える排水処理装置3が接続されている。制御部21は、入出力部26を介し、排水処理装置3から出力される各種データを受け付けるとともに、排水処理装置3の運転を制御するための制御情報を排水処理装置3へ出力する。
【0052】
図3は、排水処理システムDB122のレコードレイアウトを例示する図である。排水処理システムDB122は、排水処理システム管理サービスにて管理する排水処理システム200に関する情報を格納するデータベースである。排水処理システムDB122には、例えば、排水処理システムID、ユーザID、排水種類、排水情報ID、汚泥情報ID、特性モデル情報、運転条件情報、及び管理情報等が関連付けられて格納されている。
【0053】
排水処理システムIDは、排水処理システム200の識別情報である。ユーザIDは、排水処理システム200のユーザの識別情報である。排水種類は、排水処理システムの処理対象となる排水の種類であり、例えば化学プラント、食品工場等を含む。排水情報IDは、排水処理システム200から受け付けた排水情報の識別情報である。汚泥情報IDは、排水処理システム200から受け付けた汚泥情報の識別情報である。特性モデル情報は、排水情報及び汚泥情報に基づいて生成された特性モデルに関する情報である。特性モデル情報は、例えばモデル式、特定されたパラメータの値を含む。
【0054】
運転条件情報は、特性モデルに応じて特定された排水処理システム200の運転条件に関する情報を含む。運転条件には、排水処理システム200の運転に係る各種操作内容、制御量(設定値)が含まれる。また運転条件には、排水処理システム200に添加する菌に関する情報(例えば菌の種類及び添加量)が含まれてよい。運転条件情報には、例えば、添加する菌の種類、菌の添加量、排水処理システム200における排水のBOD、TOC、排水の流量、処理槽31の汚泥濃度MLSS、処理槽31への返送流量、余剰汚泥の引抜量、処理後沈殿槽32bの界面位置等の制御量等が記憶される。
【0055】
管理情報は、排水処理システム200を管理するための情報を含む。例えば管理情報には、排水処理システム200における菌を管理するための情報が記憶される。
図3に示す例において、管理情報には菌の在庫量、次回の発注日、発注量が含まれている。
【0056】
情報処理装置1は、情報処理端末2から受信した排水情報及び汚泥情報に基づいて特性モデル、運転条件情報、及び管理情報を導出する度、導出した各種情報を排水処理システムDB122に記憶する。
【0057】
図4は、排水・汚泥情報DB123のレコードレイアウトを例示する図である。排水・汚泥情報DB123は、排水処理システム200の排水情報及び汚泥情報を格納するデータベースである。排水・汚泥情報DB123には、例えば、排水情報を識別する排水情報ID、排水情報、汚泥情報を識別する汚泥情報ID、及び汚泥情報等が関連付けられて格納されている。なお排水処理システムDB122と排水・汚泥情報DB123とは、両データベースに共に含まれる項目である排水情報ID及び汚泥情報IDにより、関連付けが設定されている。
【0058】
排水情報は、排水処理システム200における排水に関する情報であり、当該排水に添加される菌に関する情報を含む。排水情報には、例えば排水の採取日、流量、BOD、TOC、TN(Total nitrogen:全窒素)、TP(Total phosphorus:全リン)、SS(Suspended Solids:浮遊物質)、液比重、SS密度、悪臭物質濃度、難分解物質濃度、その他各成分等が含まれてよい。その他各成分とは、排水中の他の各成分に関する情報を含み、例えば排水中における固形分及び/又は固形分全体の濃度(量)、排水中における有機化合物及び/又は無機化合物の各成分の濃度等を含んでよい。排水中における有機化合物及び/又は無機化合物の各成分としては、例えば塩分(例えば塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素塩等)、アルコール(例えばメタノール、エタノール等)、有機酸、脂肪酸、糖類、タンパク質等が挙げられる。
【0059】
汚泥情報は、排水処理システム200における汚泥(活性汚泥)に関する情報である。汚泥情報には、例えば、汚泥の採取日、MLSS、死菌率、酸素消費速度(例えば内生呼吸時の酸素消費速度、BOD分解のための酸素消費速度等)、菌叢、SV(Sludge volume :汚泥沈殿率)、SVI(Sludge Volume Index :汚泥容量指標)、糸状性細菌の含量、フロックサイズ、原生動物種・数、有機化合物/無機化合物比率、汚泥中における有機化合物及び/又は無機化合物の各成分の濃度等を含んでよい。汚泥中における有機化合物及び/又は無機化合物の各成分としては、例えば糖類、タンパク質、脂質等が挙げられる。
【0060】
上述の排水情報及び汚泥情報は、排水処理システム200における各種センサの計測値及び運転条件の設定値、並びにこれらの解析データとして取得することができる。なお各データの測定方法及び算出方法は公知なので、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。情報処理装置1は、情報処理端末2を介し排水情報及び汚泥情報を受信することにより、排水・汚泥情報DB123の排水情報及び汚泥情報を収集する。
図4に示す排水情報及び汚泥情報は一例であり、排水・汚泥情報DB123に記憶される情報は限定されるものではない。排水情報及び汚泥情報にはそれぞれ、後述する特性モデルやその生成方法に応じ、適宜の項目に係るデータがそれぞれ記憶される。
【0061】
以下、本実施形態の特性モデル及びその生成方法について説明する。以下では、菌として汚泥分解菌を排水処理システム200に添加した場合における、排水処理システム200の汚泥引抜率を示す特性モデルについて説明する。
【0062】
汚泥分解菌を添加しない場合において、排水処理システム200における余剰汚泥生成量(余剰汚泥量の変化)は、排水処理システム200における汚泥の生成量(増殖量)から汚泥の分解量を差し引くことで得られる。すなわち、排水処理システム200における余剰汚泥生成量ΔMLSS×V[kg/d]は、パラメータa、bを用いて下記式(1)で表すことができる。
【0063】
【0064】
式(1)中、MLSSは処理槽31の汚泥濃度[kg/m3]、Vは処理槽31の容積[m3]、ΔCは処理槽31での処理炭素量[kg/d]である。aは汚泥転換率であり、排水処理システム200により処理された有機汚濁物量に対する余剰汚泥の発生量を表す。bは汚泥自己酸化率[1/d]である。
【0065】
処理槽31に汚泥分解菌を添加した場合、処理槽31における汚泥量は、汚泥分解菌の添加に応じてさらに分解量が増加(変化)する。ここで、新たなパラメータとして、汚泥分解菌の添加による効果を表す汚泥分解速度B[1/d]を導入する。汚泥分解速度Bは、汚泥分解菌の添加による効果を加味した処理槽31の汚泥自己酸化率に対応する。
【0066】
処理槽31に汚泥分解菌を添加した場合における、処理槽31の余剰汚泥生成量ΔMLSS×V[kg]は、パラメータa、Bを用いて、下記式(2)で表すことができる。
【0067】
【0068】
式(2)中、MLSSは処理槽31の汚泥濃度[kg/m3]、Vは処理槽31の容積[m3]、ΔCは処理槽31での処理炭素量[kg/d]である。aは汚泥転換率、Bは汚泥分解速度[1/d]である。
【0069】
従って、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bが定まれば、式(2)で表される特性モデルを用いて余剰汚泥生成量を計算できる。
【0070】
ここで式(2)を変形すると、下記式(3)が得られる。
【0071】
【0072】
式(3)中、ΔMLSS×V/ΔCは処理した炭素あたりの汚泥増加量、すなわち汚泥引抜率、ΔC/MLSS×Vは処理槽31の汚泥あたりの負荷を示す。汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bが定まれば、式(3)で表される特性モデルを用いて汚泥引抜率を計算できる。
【0073】
図5は、特性グラフを説明する説明図である。
図5に式(3)の特性グラフを実線で示す。特性グラフの縦軸は汚泥引抜率、横軸は処理槽31の汚泥あたりの負荷である。比較として、汚泥分解菌を添加しない場合の特性グラフを破線で示す。汚泥分解菌を添加する場合、汚泥分解菌を添加しない場合よりも汚泥引抜率が低下する方向に特性グラフが移動する。汚泥引抜率の低下量は、汚泥分解菌の添加による効果に対応する。なお
図5に示した特性グラフは単なる例示である。
【0074】
式(3)及び
図5より、汚泥あたりの負荷(汚泥負荷)が小さい程、菌添加による汚泥削減効果(汚泥引抜率の減少割合)が大きくなることが分かる。従って、上記特性モデルにて示される汚泥引抜率と汚泥負荷との相関関係に基づいて、汚泥負荷を下げるよう、排水処理システム200の運転条件を制御することにより、汚泥引抜率を低下させる(菌添加による効果を得る)ことができる。
【0075】
上述の通り、汚泥負荷に対する汚泥引抜率の変化を示す特性モデルは、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを用いて表すことができる。特性モデルにおける汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bは、排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報の実験データに基づいて算出することができる。以下、パラメータの算出方法の一例を説明する。
【0076】
情報処理装置1は、排水処理システム200における実測データに基づき得られる複数点のそれぞれ異なる汚泥負荷と、各汚泥負荷に対する汚泥滞留時間とに基づいて、特性モデルのフィッティング計算を行うことにより、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを算出する。実測データは、実際の排水処理システム200にて得られるものであってもよく、あるいは実機をスケールダウンしたラボ実験により得られるものであってもよい。
【0077】
まず、排水処理システム200における排水情報を取得する。取得する排水情報には、例えば排水の流量、排水のBOD又はTOCが含まれる。また、排水に添加される菌の種類(本実施形態では汚泥分解菌)及び添加量の設定情報を取得する。さらに汚泥情報として、複数点のそれぞれ異なる汚泥濃度MLSSの設定情報を取得する。汚泥濃度MLSSの設定は、汚泥負荷の設定に対応する。汚泥負荷は、排水のBOD又はTOCに対し流量を乗じた値を、処理槽31の汚泥濃度MLSSで除算することにより得られる。排水処理システム200におけるBOD又はTOC及び流量を一定とすると、処理槽31の汚泥濃度MLSSを変化させることで、複数点のそれぞれ異なる汚泥負荷を設定することができる。
【0078】
設定した菌添加条件下、各汚泥負荷となるよう排水処理システム200による排水処理を実行し、処理時における実測データを収集する。収集される実測データには、例えば排水の流量、排水のBOD又はTOC、汚泥増加量(汚泥引抜量)、処理槽31の汚泥濃度MLSS、汚泥密度、処理後沈殿槽32bにおける汚泥体積等が含まれる。得られた実測データに基づいて、各汚泥負荷に対する汚泥滞留時間を算出する。各実測データの測定方法及び汚泥滞留時間の算出方法は公知の手法を用いてよい。
【0079】
各汚泥負荷に対する汚泥滞留時間に基づいて、上述した式(3)のフィッティング計算を行うことにより、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを算出する。このようにして、排水情報及び汚泥情報に応じた汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを含む特性モデルを生成することができる。
【0080】
上記では、排水情報及び汚泥情報を用いて特性モデルを生成したが、特性モデルの定義内容に応じては、特性モデルの生成にあたり排水情報のみが用いられるものであってもよい。また、式(2)の特性モデルに基づき生成される特性グラフは、汚泥あたりの負荷に対する汚泥引抜率の変化を示すものに限定されず、汚泥あたりの負荷に対する汚泥生成率の変化を示すものであってもよい。
【0081】
さらに、情報処理装置1は、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の特性が所定条件を満たす運転条件を特定する。詳細には、情報処理装置1は、生成した特性モデルに基づいて、排水処理システム200の特性が所定条件を満たす汚泥負荷を特定する。情報処理装置1は、特定した汚泥負荷と、特定した汚泥負荷を満たすための運転条件(運転条件の操作内容、操作内容を満たすための各操作変数の制御量等)とを対応付けた運転条件テーブルに記憶する情報に基づいて、特定した汚泥負荷を満たすための運転条件を特定する。
【0082】
具体的には、情報処理装置1は、排水処理システム200の汚泥引抜率又は汚泥生成率を所定値まで下げるための、排水処理システム200の汚泥負荷の閾値(閾値の範囲)を特定する。情報処理装置1は、汚泥負荷を特定した閾値(閾値の範囲内)まで下げるための運転条件を特定する。
【0083】
排水処理システム200の汚泥負荷を下げるための運転条件としては、例えば、系内汚泥保留量を上げる、排水BOD又はTOCを下げる、処理排水量を下げる等が挙げられる。情報処理装置1は、排水処理システム200に応じた運転条件を適宜選択し、選択した運転条件に応じた制御量を導出する。例えば、系内汚泥保留量を上げる場合には、汚泥濃度MLSSを上げればよい。情報処理装置1は、汚泥負荷の閾値に応じて決定される汚泥濃度MLSSの目標値に基づいて、返送流量、引抜汚泥量、及び処理後沈殿槽32bの界面位置等の制御量(設定値)を導出する。
【0084】
運転条件を特定するための汚泥負荷の下限値は、排水処理システム200における制約条件に応じて設定されてよい。制約条件には、例えば、処理槽31におけるブロア能力が含まれる。ブロア能力の上限に応じて汚泥濃度MLSSの上限値が変化するため、汚泥濃度MLSSの上限値に伴い汚泥負荷の下限値が定まる。
【0085】
情報処理装置1は、特性モデルに応じた運転条件を特定するための特定ルールや排水処理システム200の制約条件を予め記憶部12に記憶しておき、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の運転条件を特定する。
【0086】
情報処理装置1は、運転条件としてさらに、添加する菌の種類及び添加量を特定してもよい。この場合、特性モデルの生成時において、汚泥負荷に加え、添加する菌の種類及び添加量を変化させて実測データを取得する。実測データに基づいて、汚泥引抜率又は汚泥生成率をより低下させることができる菌の種類及び添加量を選択し、当該菌の種類及び添加量を用いた場合の特性モデルを適用することで、菌の種類及び添加量を特定する。なお、運転条件として、菌の種類又は添加量のいずれか一方を特定してもよい。
【0087】
図6は、情報処理システム100により実行される処理手順を示すフローチャートである。以下の処理は、情報処理装置1の記憶部12に記憶されるプログラム1Pに従って制御部11により実行されるとともに、情報処理端末2の記憶部22に記憶されるプログラム2Pに従って制御部21により実行される。
【0088】
情報処理端末2の制御部21は、運転条件の要求にあたり、排水処理システム200の情報を情報処理装置1へ送信する(ステップS101)。排水処理システム200の情報には、例えば、情報処理端末2に接続される排水処理システム200に係る槽構成等の設備構成、各槽における設定値等の運転情報、排水処理システムID等が含まれる。
【0089】
情報処理装置1の制御部11は、排水処理システム200の情報を受信する(ステップS102)。なお制御部11は、操作部15を介し入力を受け付けることにより排水処理システム200の情報を取得してもよい。
【0090】
また制御部11は、排水情報を取得する(ステップS103)。排水情報には、例えば排水の流量、排水のBOD又はTOC、菌の種類及び添加量が含まれる。制御部11は、例えば操作部15を介し入力を受け付けることにより、ユーザの排水処理システム200における実際の排水及び汚泥を分析して得られる排水情報を取得してよい。制御部11はさらに、排水に添加される菌の種類及び添加量の設定情報の入力を受け付けることにより、菌の種類及び添加量を取得する。制御部11は、実験施設のサーバ等との通信により排水情報を取得してもよい。
【0091】
制御部11は、汚泥情報の設定を取得する(ステップS104)。制御部11は、複数点のそれぞれ異なる汚泥濃度MLSSの設定入力を受け付けることにより、汚泥情報を取得してよい。制御部11は、後述する実測データを取得することで、汚泥情報の設定を取得してもよい。
【0092】
制御部11は、取得した排水情報及び汚泥情報に応じた実測データを取得する(ステップS105)。制御部11は、ラボ実験における実測データの入力を受け付けることにより、実測データを取得してよい。
【0093】
制御部11は、取得した実測データを用いて、特性モデルにおけるパラメータを算出し(ステップS106)、算出したパラメータを含む特性モデルを生成する(ステップS107)。具体的には、制御部11は、複数の汚泥負荷それぞれに対する汚泥滞留時間に基づいて、上述した基本モデル式である式(3)のフィッティング計算を行うことにより、パラメータとして汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを算出する。制御部11は、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを含む、汚泥負荷に対する汚泥引抜率の変化を示す特性モデルを生成する。制御部11は、汚泥負荷に対する汚泥生成率の変化を示す特性モデルを生成してもよい。
【0094】
制御部11は、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の汚泥引抜率又は汚泥生成率が所定条件を満たす汚泥負荷を特定する(ステップS108)。詳細には、制御部11は、特性モデルに基づいて、汚泥引抜率又は汚泥生成率が予め設定される閾値未満となる汚泥負荷の閾値を特定する。制御部11は、排水処理システム200の汚泥負荷が特定した閾値未満となる運転条件を特定する(ステップS109)。
【0095】
制御部11は、排水情報、汚泥情報、特性モデル及び運転条件を排水処理システムDB122及び排水・汚泥情報DB123にそれぞれ記憶する(ステップS110)。
【0096】
制御部11は、生成した特性モデルを示す特性グラフ、及び特定した運転条件を含む画面を生成し、生成した特性グラフ及び運転条件を含む画面を、排水処理システム200のユーザに対応する情報処理端末2へ出力する(ステップS111)。
【0097】
情報処理端末2の制御部21は、特性グラフ及び運転条件を含む画面を受信する(ステップS112)。制御部21は、受信した画面を表示部24へ表示し(ステップS113)、ユーザへ提示する。
【0098】
制御部21は、受信した運転条件に基づいて、運転条件を変更するための制御情報を排水処理装置3へ出力し(ステップS114)、一連の処理を終了する。排水処理装置3は、制御情報に応じて運転を行い、排水処理を実行する。
【0099】
上述のフローチャートにおける各処理の主体は限定されるものではなく、例えば情報処理装置1が実行する処理の一部を情報処理端末2が実行してもよい。
【0100】
図7は、画面の表示例を示す説明図である。情報処理端末2の制御部21は、情報処理装置1から受信した画面情報に基づいて、
図7に示す画面を表示する。画面には、例えば運転条件欄241、特性グラフ欄242、及び排水・汚泥情報欄243等が含まれる。
【0101】
運転条件欄241は、運転条件の制御量(設定値)を一覧で示す一覧表を含む。一覧表には、特性モデルに基づいて推奨される運転条件、及び運転条件を実現するための各操作変数の設定値が含まれる。
図7に示す例において、運転条件は汚泥濃度MLSSの増加であり、汚泥濃度MLSSを目標値まで増加させるために変更すべき設定値として、エアー流量、返送流量、界面位置、引抜量に係る設定値が表示されている。情報処理装置1は、特性モデルに基づいて特定した運転条件及び制御量を運転条件欄241に一覧表示する。
【0102】
図7の例では、添加する菌の種類及び量、排水の流量、並びにTOCは変更されていないが、例えば汚泥濃度MLSSの増加に加え、菌の添加条件や排水量の減少等の複数の操作に関する運転条件が導出された場合には、上記項目に係る設定値も変更されてよい。情報処理装置1は、導出した全ての運転条件を反映する一覧表を生成する。
【0103】
特性グラフ欄242は、生成した特性モデルに係る特性グラフを表示する。情報処理装置1は、算出した汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを適用した特性モデルを示す特性グラフを生成し、特性グラフ欄242に表示する。情報処理装置1は、制御目標として特定した汚泥負荷を特性グラフ上にプロットする。特性グラフ欄242には、生成した特性モデルのモデル式、算出した汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bがさらに表示されている。
【0104】
排水・汚泥情報欄243は、特性モデルの生成及び運転条件の特定に用いた排水情報及び汚泥情報を表示する。このように、現在の排水情報及び汚泥情報、特性モデル及び運転条件等が関連付けて画面に表示されることで、効率的に情報を認識できる。
【0105】
本実施形態によれば、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報に基づいて生成される特性モデルにより、余剰汚泥の生成率を低減するための運転条件を特定することができる。特性モデルは、汚泥分解菌の添加による効果を表す汚泥分解速度Bを用いて定義され、汚泥分解菌の添加による排水処理システムの特性(効果)を示す。この特性モデルにより、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報に対し、汚泥分解菌の添加による効果を定量的に評価することができる。特性モデルの評価に基づいて、菌添加による効果を発現させるための好適な運転条件を提示できる。ユーザは、情報処理端末2を用いて、提示される運転条件に従い排水処理を実行することで、効率的且つ効果的に排水処理システムを稼働させ、排水処理システムにおける余剰汚泥の状態を最適化することができる。
【0106】
(第2実施形態)
第2実施形態では、菌として沈降性向上菌を添加する場合の特性モデルについて説明する。以下では主に第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0107】
第2実施形態では、排水に添加される菌として沈降性向上菌を用いる。沈降性向上菌とは、汚泥の沈降性を向上又は維持する菌を意味する。汚泥分解菌の場合と同様に、沈降性向上菌の添加による効果を表すパラメータを含む特性モデルを用いて、沈降性向上菌の添加による効果を計算することができる。
【0108】
排水処理システム200における汚泥の状態に関する問題として、汚泥の沈降性が挙げられる。汚泥の沈降性を向上することにより、処理後沈殿槽32bにおける被処理水の固液分離を良好に進めることができ、処理槽31へ返送される汚泥濃度を向上することができる。従って余剰汚泥量の削減、排水処理性の向上が可能となる。沈降性向上菌の添加により、汚泥の沈降性を好適に変化させることができる。
【0109】
情報処理装置1は、沈降性向上菌を添加した場合における、汚泥密度の変化を示す特性モデルを用いて、排水処理システム200における沈降性向上菌の効果を評価する。汚泥密度が大きい程、汚泥の沈降性に優れることを意味する。
【0110】
沈降性向上菌が添加される排水処理システム200における、汚泥あたりの有効菌量に対する汚泥密度の変化を示す特性モデルは、パラメータk2を用いて、下記式(4)で表すことができる。
【0111】
【0112】
式(4)中、Δρは汚泥密度変化[kg/m3]である。k2は、処理槽31における汚泥中の汚泥密度増加係数[kg/m3]であり、沈降性向上菌の添加による効果を表す。汚泥密度増加係数k2は、有効菌量に応じて変動する値であってもよい。
【0113】
上記特性モデルは、傾きを汚泥密度増加係数k2とする特性グラフにて示される。
図8は、第2実施形態における特性グラフを説明する説明図である。
図8に、式(4)の特性グラフを実線で示す。特性グラフの縦軸は汚泥密度変化Δρ、横軸は汚泥あたりの沈降性向上菌の有効菌量である。なお
図8に示した特性グラフは単なる例示であり、添加菌量と汚泥密度増加係数k2との関係性は、沈降性向上菌の種類等に応じて異なることは勿論である。
【0114】
図8の例において、一定の有効菌量までは、有効菌量が大きい程汚泥密度変化Δρが大きくなることが分かる。一定の有効菌量を超えるとそれ以上は汚泥密度変化量が変わらない。ここで、汚泥密度ρが大きい程、余剰汚泥の沈降性が向上する。従って、有効菌量を前記一定の有効菌量に近い量となるよう、排水処理システム200の運転条件を制御することにより、汚泥密度ρ(汚泥密度変化Δρ)を増加させ、汚泥の沈降性を向上させる(菌添加による効果を得る)ことができる。
【0115】
図9は、第2実施形態の情報処理システム100により実行される処理手順を示すフローチャートである。
図6と共通する処理については同一のステップ番号を付しその詳細な説明を省略する。
【0116】
情報処理システム100は、ステップS101~ステップS107の処理を実行し、特性モデルを生成する。ステップS103において、情報処理装置1の制御部11は、例えば、沈降性向上菌の種類及び添加量を含む排水情報を取得する。ステップS104において、制御部11は、例えば、汚泥のSV及びSVIを含む汚泥情報を取得する。
【0117】
ステップS106において、制御部11は、ユーザの排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報を用いて、複数の実測データに基づくフィッティング計算により、パラメータとして汚泥密度増加係数k2を算出する。ステップS107において、制御部11は、汚泥密度増加係数k2を含む、汚泥あたりの有効菌量に対する汚泥密度変化Δρを示す特性モデルを生成する。
【0118】
制御部11は、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の汚泥密度変化Δρが所定条件を満たす有効菌量を特定する(ステップS201)。詳細には、制御部11は、汚泥密度変化Δρが予め設定される閾値以上となるよう、排水処理システム200の有効菌量の閾値(閾値の範囲)を特定する。制御部11は、汚泥密度ρが閾値以上となる有効菌量を特定してもよい。制御部11は、排水処理システム200の有効菌量が特定した閾値以上(閾値の範囲内)となる運転条件を特定する(ステップS109)。
【0119】
以降、情報処理システム100は、ステップS110~ステップS114の処理を実行し、特定した運転条件に基づく排水処理システム200の制御を行う。
【0120】
本実施形態によれば、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報に基づいて、沈降性向上菌を添加した場合における、汚泥密度(汚泥の沈降性)を示す特性モデルを生成できる。特性モデルを用いて汚泥の沈降性を向上するための運転条件を特定することができ、特定された運転条件に応じて排水処理を実行することで、排水処理システムにおける汚泥の状態を最適化することができる。
【0121】
(第3実施形態)
第3実施形態では、菌として悪臭物質分解菌を添加する場合の特性モデルについて説明する。以下では主に第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0122】
第3実施形態では、排水に添加される菌として悪臭物質分解菌を用いる。悪臭物質分解菌とは、排水中の悪臭物質に対する分解能を有する菌を意味する。
【0123】
排水処理システム200における排水(処理水)の状態に関する問題として、排水中の悪臭物質量が挙げられる。排水中の悪臭物質の分解率を向上することにより、排水中の悪臭物質量を低減することができる。情報処理装置1は、悪臭物質分解菌を添加した場合における、悪臭物質分解率を示す特性モデルを用いて、排水処理システム200における悪臭物質分解菌の効果を評価する。悪臭物質分解率とは、排水処理システム200における悪臭物質の分解率を意味する。悪臭物質分解率が大きい程、排水処理システム200から流出する排水(処理水)中に含まれる悪臭物質量が少ないことを意味する。
【0124】
排水処理システム200における悪臭物質分解率は、排水処理システム200から流出する排水(処理水)中の悪臭物質分解菌量から、排水処理システム200へ流入する排水中の悪臭物質分解菌量を差し引くことで得られる。悪臭物質分解菌が添加される排水処理システム200における、悪臭物質分解菌の有効菌単位量あたりの負荷に対する悪臭物質分解率の変化を示す特性モデルは、パラメータk3を用いて、下記式(5)で表すことができる。
【0125】
【0126】
式(5)中、U3outは排水処理システム200から流出する排水中の悪臭物質濃度[mol/m3]であり、U3inは排水処理システム200に流入する排水中の悪臭物質濃度[mol/m3]であり、MLSSは汚泥濃度[kg/m3]であり、Vは処理槽31の容積[m3]であり、U3は排水中の悪臭物質濃度[mol/m3]であり、Tは滞留時間[hr](=処理槽31の容積V[m3]/排水量A[m3/hr])である。k3は、処理槽31における悪臭物質分解反応係数[1/kg/hr]であり、悪臭物質分解菌の添加による効果を表す。悪臭物質分解反応係数k3は、有効菌量に応じて変動する値であってもよい。悪臭物質分解率は、(U3out-U3in)A/(U3in)Aで示される。
【0127】
上記特性モデルは、傾きが悪臭物質分解反応係数k3に依存する特性グラフにて示される。
図10は、第3実施形態における特性グラフを説明する説明図である。
図10に、式(5)の特性グラフを実線で示す。特性グラフの縦軸は悪臭物質分解率、横軸は汚泥あたりの負荷である。比較として、悪臭物質分解菌を添加しない場合の特性グラフを破線で示す。悪臭物質分解菌を添加する場合、悪臭物質分解菌を添加しない場合よりも悪臭物質分解率が大きくなる方向に特性グラフが移動する。なお
図10に示した特性グラフは単なる例示である。
【0128】
式(5)及び
図10より、汚泥あたりの負荷が小さい程、悪臭物質分解率が大きくなることが分かる。従って、汚泥あたりの負荷を下げるよう、排水処理システム200の運転条件を制御することにより、悪臭物質分解率を向上させ、悪臭物質量を低減させる(菌添加による効果を得る)ことができる。
【0129】
なお、処理槽31が複数段により構成される場合においては、第1段目(第1槽目)から順に、各段(各槽)における悪臭物質分解率を算出するとよい。この場合において、汚泥を含まない槽を備えるときは、当該汚泥を含まない槽における悪臭物質分解率は、式(5)における汚泥濃度MLSSを省略した式により算出できる。処理槽31の前に設けられる前処理槽に悪臭物質分解菌を添加する場合にも同様に、特性モデルは、式(5)における汚泥濃度MLSSを省略した式で定義できる。
【0130】
図11は、第3実施形態の情報処理システム100により実行される処理手順を示すフローチャートである。
図6と共通する処理については同一のステップ番号を付しその詳細な説明を省略する。
【0131】
情報処理システム100は、ステップS101~ステップS107の処理を実行し、特性モデルを生成する。ステップS103において、情報処理装置1の制御部11は、例えば、悪臭物質分解菌の種類、悪臭物質分解菌の添加量、排水の流量、及び排水中の悪臭物質濃度を含む排水情報を取得する。ステップS104において、制御部11は、例えば、汚泥濃度MLSSを含む汚泥情報を取得する。
【0132】
ステップS106において、制御部11は、ユーザの排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報を用いて、複数の実測データに基づくフィッティング計算により、パラメータとして悪臭物質分解反応係数k3を算出する。ステップS107において、制御部11は、悪臭物質分解反応係数k3を含む、汚泥あたりの負荷に対する悪臭物質分解率の変化を示す特性モデルを生成する。
【0133】
制御部11は、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の悪臭物質分解率が所定条件を満たす汚泥あたりの負荷を特定する(ステップS301)。詳細には、制御部11は、悪臭物質分解率が予め設定される閾値以上となるよう、排水処理システム200の負荷の閾値(閾値の範囲)を特定する。制御部11は、排水処理システム200の負荷が特定した閾値未満(閾値の範囲内)となる運転条件を特定する(ステップS109)。
【0134】
以降、情報処理システム100は、ステップS110~ステップS114の処理を実行し、特定した運転条件に基づく排水処理システム200の制御を行う。
【0135】
本実施形態によれば、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報に基づいて、悪臭物質分解菌を添加した場合における、悪臭物質分解率を示す特性モデルを生成できる。特性モデルを用いて排水中の悪臭物質量を低減するための運転条件を特定することができ、特定された運転条件に応じて排水処理を実行することで、排水処理システムにおける排水の状態を最適化することができる。
【0136】
(第4実施形態)
第4実施形態では、菌として難分解物質分解菌を添加する場合の特性モデルについて説明する。以下では主に第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0137】
第4実施形態では、排水に添加される菌として難分解物質分解菌を用いる。難分解物質分解菌とは、排水中の難分解性物質に対する分解能を有する菌を意味する。
【0138】
排水処理システム200における排水(処理水)の状態に関する問題として、排水中の難分解物質量が挙げられる。情報処理装置1は、難分解物質分解菌を添加した場合における、難分解物質分解率を示す特性モデルを用いて、排水処理システム200における難分解物質分解菌の効果を評価する。難分解物質分解率とは、排水処理システム200における難分解物質の分解率を意味する。難分解物質分解率が大きい程、排水処理システム200から流出する排水(処理水)中に含まれる難分解物質量が少ないことを意味する。
【0139】
排水処理システム200における難分解物質分解率は、排水処理システム200から流出する排水(処理水)中の難分解物質分解菌量から、排水処理システム200へ流入する排水中の難分解物質分解菌量を差し引くことで得られる。難分解物質分解菌が添加される排水処理システム200における、難分解物質分解菌の有効菌単位量あたりの負荷に対する難分解物質分解率の変化を示す特性モデルは、パラメータk4を用いて、下記式(6)で表すことができる。
【0140】
【0141】
式(6)中、U4outは排水処理システム200から流出する排水中の難分解物質濃度[mol/m3]であり、U4inは排水処理システム200に流入する排水中の難分解物質濃度[mol/m3]であり、MLSSは汚泥濃度[kg/m3]であり、Vは処理槽31の容積[m3]であり、U4は排水中の難分解物質濃度[mol/m3]であり、Tは滞留時間[hr](=処理槽31の容積V[m3]/排水量A[m3/hr])である。k4は、処理槽31における汚泥中の有効菌単位量あたりの難分解物質分解反応係数[1/kg/hr]であり、難分解物質分解菌の添加による効果を表す。難分解物質分解反応係数k4は、有効菌量に応じて変動する値であってもよい。難分解物質分解率は、(U4out-U4in)A/(U4in)Aで示される。
【0142】
上記特性モデルは、その傾きが難分解物質分解反応係数k4に依存する特性グラフにて示される。
図12は、第4実施形態における特性グラフを説明する説明図である。
図12に、式(6)の特性グラフを実線で示す。特性グラフの縦軸は難分解物質分解率、横軸は汚泥あたりの負荷である。比較として、難分解物質分解菌を添加しない場合の特性グラフを破線で示す。難分解物質分解菌を添加する場合、難分解物質分解菌を添加しない場合よりも難分解物質分解率が大きくなる方向に特性グラフが移動する。なお
図12に示した特性グラフは単なる例示である。
【0143】
式(6)及び
図12より、汚泥あたりの負荷が小さい程、難分解物質分解率が大きくなることが分かる。従って、汚泥あたりの負荷を下げるよう、排水処理システム200の運転条件を制御することにより、難分解物質分解率を向上させ、難分解物質量を低減させる(菌添加による効果を得る)ことができる。
【0144】
図13は、第4実施形態の情報処理システム100により実行される処理手順を示すフローチャートである。
図6と共通する処理については同一のステップ番号を付しその詳細な説明を省略する。
【0145】
情報処理システム100は、ステップS101~ステップS107の処理を実行し、特性モデルを生成する。ステップS103において、情報処理装置1の制御部11は、例えば、難分解物質分解菌の種類、難分解物質分解菌の添加量、排水の流量、及び排水中の難分解物質濃度を含む排水情報を取得する。ステップS104において、制御部11は、例えば、汚泥濃度MLSSを含む汚泥情報を取得する。
【0146】
ステップS106において、制御部11は、ユーザの排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報を用いて、複数の実測データに基づくフィッティング計算により、パラメータとして難分解物質分解反応係数k4を算出する。ステップS107において、制御部11は、難分解物質分解反応係数k4を含む、汚泥あたりの負荷に対する難分解物質分解率の変化を示す特性モデルを生成する。
【0147】
制御部11は、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の難分解物質分解率が所定条件を満たす汚泥あたりの負荷を特定する(ステップS401)。詳細には、制御部11は、難分解物質分解率が予め設定される閾値以上となるよう、排水処理システム200の負荷の閾値(閾値の範囲)を特定する。制御部11は、排水処理システム200の負荷が特定した閾値未満(閾値の範囲内)となる運転条件を特定する(ステップS109)。
【0148】
以降、情報処理システム100は、ステップS110~ステップS114の処理を実行し、特定した運転条件に基づく排水処理システム200の制御を行う。
【0149】
本実施形態によれば、排水処理システムにおける排水情報及び汚泥情報に基づいて、難分解物質分解菌を添加した場合における、難分解物質分解率を示す特性モデルを生成できる。特性モデルを用いて、排水中の難分解物質量を低減するための運転条件を特定することができ、特定された運転条件に応じて排水処理を実行することで、排水処理システムにおける排水の状態を最適化することができる。
【0150】
上述の各実施形態にて説明した複数の特性モデルは、適宜組み合わせて用いることができる。排水処理システム200には、汚泥又は排水の状態に応じ、汚泥分解菌、沈降性向上菌、悪臭物質分解菌及び難分解物質分解菌から選択される複数の菌を添加し得る。この場合、情報処理装置1は、添加される菌の種類に応じた複数の特性モデルそれぞれを用いて、複数の特性モデルそれぞれにおける排水処理システム200の特性が所定条件を満たすような運転条件を特定する。特定した運転条件を総合して、最適な運転条件を導出する。
【0151】
例えば、情報処理装置1は、第1の特性モデルに基づいて排水処理システム200の特性が所定条件を満たす第1の運転条件を特定する。また、情報処理装置1は、第2の特性モデルに基づいて排水処理システム200の特性が所定条件を満たす第2の運転条件を特定する。情報処理装置1は、第1の運転条件及び第2の運転条件の両方を満たす操作内容、制御量等を含む運転条件を決定する。複数の運転条件を提案する場合、予め設定される各運転条件(操作内容、操作変数等)の優先順位に従い、運転条件を順次決定してもよい。これにより、各菌の添加態様に応じた統合的な評価が可能となる。
【0152】
(第5実施形態)
第5実施形態では、推算モデルを用いて特性モデルにおけるパラメータを出力する。以下では主に第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0153】
図14は、第5実施形態の情報処理システム100の構成を示すブロック図である。第5実施形態の情報処理装置1は、記憶部12に、推算モデル124を記憶している。推算モデル124は、機械学習により生成された機械学習モデルである。推算モデル124は、人工知能ソフトウェアの一部を構成するプログラムモジュールとしての利用が想定される。情報処理装置1は、推算モデル124を用いて特性モデルにおけるパラメータを出力する。
【0154】
図15は、推算モデル124の概要を示す説明図である。推算モデル124は、所定の訓練データを学習済みのモデルである。推算モデル124は、排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報を入力として、排水処理システム200の特性を示す特性モデルのパラメータを出力する。推算モデル124は予め、情報処理装置1又は外部装置において、ニューラルネットワークを用いた深層学習によって構築される。記憶部12には、例えば特性モデルの種類ごとに生成された複数の推算モデル124が記憶されている。
【0155】
以下では、菌として汚泥分解菌を排水処理システム200に添加した場合における、排水処理システム200の汚泥生成率を示す特性モデルにおけるパラメータ、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを出力する推算モデル124について説明する。
【0156】
情報処理装置1は、所定の訓練データを学習する機械学習を行って推算モデル124を事前に生成しておく。そして情報処理装置1は、情報処理端末2から取得した排水情報及び汚泥情報を推算モデル124に入力し、特性モデルのパラメータを出力する。
【0157】
推算モデル124は、排水情報及び汚泥情報を入力する入力層と、パラメータを出力する出力層と、特徴量を抽出する中間層(隠れ層)とを備える。中間層は、入力データの特徴量を抽出する複数のノードを有し、各種パラメータを用いて抽出された特徴量を出力層に受け渡す。入力層に、検出値が入力された場合、学習済みパラメータによって中間層で演算が行なわれ、出力層から、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bに関する出力情報が出力される。
【0158】
推算モデル124へ入力される入力情報は、ユーザの排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報である。排水情報は、排水処理システム200における排水を構成する排水構成物の組成に関する情報を含む。推算モデル124の入力となり得る排水情報には、
図4に示した排水情報と同様のデータが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態において、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを出力する推算モデル124へ入力される排水情報は、TN、TP、SS、その他各成分を含んでよい。
【0159】
汚泥情報は、排水処理システム200における汚泥を構成する汚泥構成物の組成に関する情報を含む。推算モデル124の入力となり得る汚泥情報には、
図4に示した汚泥情報と同様のデータが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態において、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを出力する推算モデル124へ入力される汚泥情報は、死菌率、菌叢、SV、SVI、糸状性細菌の含量、フロックサイズ、原生動物種・数、有機化合物/無機化合物比率、糖/タンパク質含量を含んでよい。
【0160】
推算モデル124から出力される出力情報は、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bである。出力層は、設定されている汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bに各々対応するノードを含み、各汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bに対する確度をスコアとして出力する。情報処理装置1は、スコアが最も高い汚泥転換率a及び汚泥分解速度B、あるいはスコアが閾値以上である汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを出力層の出力値とすることができる。なお出力層は、それぞれの汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bの確度を出力する複数の出力ノードを有する代わりに、最も確度の高い汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを出力する1個の出力ノードを有してもよい。
【0161】
情報処理装置1の制御部11は、過去に収集した大量の排水情報及び汚泥情報に、既知のパラメータが付与された情報群を訓練データとして予め収集して推算モデル124を学習する。情報処理装置1は、例えば排水処理システムDB122及び排水・汚泥情報DB123に蓄積した情報に基づいて訓練データを生成してよい。情報処理装置1は、排水情報ID及び汚泥情報IDに基づいて、排水・汚泥情報DB123に記憶する排水情報及び汚泥情報に対し、排水処理システムDB122に記憶する実測データに基づくパラメータをラベル付けすることで生成される訓練データを取得する。
【0162】
情報処理装置1は、取得した訓練データに基づいて、排水情報及び汚泥情報を入力した場合に、排水情報及び汚泥情報に応じたパラメータを出力するよう、例えば誤差逆伝播法を用いて、推算モデル124を構成する各種パラメータ及び重み等を学習する。このようにして、排水情報及び汚泥情報に対し、排水処理システムの特性を示す特性モデルのパラメータを適切に推算可能に学習された推算モデル124を構築することができる。
【0163】
情報処理装置1は、他の各特性モデルにおけるパラメータについても同様に推算モデル124を構築する。すなわち、情報処理装置1は、排水情報及び汚泥情報を入力した場合に、汚泥密度増加係数k2、悪臭物質分解反応係数k3、難分解物質分解反応係数k4それぞれを出力する推算モデル124を構築する。なお推算モデル124へ入力される排水情報及び汚泥情報は、予測対象のパラメータに応じて適宜に変更され得る。
【0164】
推算モデル124はさらに、ユーザの排水処理システム200に応じて複数用意されることが好ましい。具体的には、推算モデル124は、排水処理システム200の処理対象となる排水の種類に応じて複数用意されるとよい。例えば、化学プラントにおける排水と、食品工場における排水とでは、排水構成物の組成が大きく異なる。従って、排水の種類ごとに推算モデル124を構築することで、より好適にパラメータを推算することができる。
【0165】
また推算モデル124は、ユーザの排水処理システム200ごとに、個々に用意されてもよい。情報処理装置1は、例えば、上述のような訓練データを用いて排水の種類ごとに推算モデル124を構築した後、各ユーザの排水処理システム200における排水情報及び汚泥情報を用いてさらにファインチューニングを行う。情報処理装置1は、排水処理システム200の排水処理システムIDと、個々の推算モデル124とを対応付けて記憶部12に記憶する。これにより、効率的且つ好適に、個々の排水処理システム200に対するパラメータを推算することができる。
【0166】
推算モデル124の構成は限定されるものではなく、排水情報及び汚泥情報に応じたパラメータを認識可能であればよい。推算モデル124は、サポートベクタマシン、回帰木等、他の学習アルゴリズムで構築された学習モデルであってよい。推算モデル124は、時系列で取得した排水情報及び汚泥情報を入力とするのもであってもよい。時系列データを用いる場合、推算モデル124は、LSTM(Long Short Term Memory)、Transformer等であってもよい。推算モデル124は、ルールベースの手法によりパラメータを出力するものであってもよい。
【0167】
図16は、第5実施形態の情報処理システム100により実行される処理手順を示すフローチャートである。以下では、菌として汚泥分解菌を排水処理システム200に添加した場合における、排水処理システム200の汚泥生成率を示す特性モデルを生成する。
【0168】
情報処理端末2の制御部21は、排水処理システム200の情報、排水情報、及び汚泥情報を情報処理装置1へ送信する(ステップS501)。排水情報及び汚泥情報には、特性モデルの生成に必要な各項目に対するデータが含まれる。
【0169】
情報処理装置1の制御部11は、排水処理システム200の情報、排水情報、及び汚泥情報を受信する(ステップS502)。
【0170】
制御部11は、記憶部12に記憶する複数の推算モデル124のうち、生成する特定モデルに応じた推算モデル124を選択する(ステップS503)。なお排水の種類ごとに推算モデル124が用意されている場合には、制御部11は、排水処理システムDB122に記憶する情報に基づいて、排水処理システム200の情報に含まれる排水処理システムIDに対応付けられる排水種類を特定する。制御部11は、特定した排水種類に応じた推算モデル124を選択する。また、ユーザの排水処理システム200ごとに推算モデル124が用意されている場合には、制御部11は、排水処理システムIDに対応付けられる推算モデル124を選択する。
【0171】
制御部11は、受信した排水情報及び汚泥情報を推算モデル124に入力する(ステップS504)。制御部11は、推算モデル124から出力される特性モデルのパラメータ、汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを取得する(ステップS505)。制御部11は、取得した汚泥転換率a及び汚泥分解速度Bを含む特性モデルを生成する(ステップS506)。
【0172】
制御部11は、生成した特性モデルを用いて、排水処理システム200の汚泥生成率又は汚泥引抜率が所定条件を満たす汚泥負荷の閾値を特定し(ステップS507)、汚泥負荷が特定した閾値未満(閾値の範囲内)となる運転条件を特定する(ステップS508)。制御部11は、排水情報、汚泥情報、特性モデル及び運転条件を排水処理システムDB122及び排水・汚泥情報DB123にそれぞれ記憶する(ステップS509)。
【0173】
以降、情報処理システム100は、
図6に示すステップS111~ステップS114の処理を実行し、特定した運転条件に基づく排水処理システム200の制御を行う。
【0174】
上記では、情報処理装置1によりパラメータの導出等を実行する例を説明したが、各処理の主体は限定されるものではない。例えば、情報処理端末2に推算モデル124が記憶され、情報処理端末2側でパラメータを導出してもよい。
【0175】
情報処理システム100は、定期的な間隔で上述の処理を繰り返し実行することにより、排水情報及び汚泥情報を定期的に収集し、特性モデルにおけるパラメータを適宜更新することが好ましい。情報処理装置1は、所定期間ごとに情報処理端末2から排水情報及び汚泥情報を取得し、排水・汚泥情報DB123に記憶する。情報処理装置1は、所定期間ごとの排水情報及び汚泥情報に基づいて、所定期間ごとのパラメータを導出する。また情報処理装置1は、導出した所定期間ごとのパラメータを適用した特性モデルに基づいて、所定期間ごとの運転条件を特定し、情報処理端末2へ送信する。排水処理システム200における排水や、排水を処理する処理槽31等の装置の状態は、季節要因があり、処理時期によって大きく変化する。従って、所定期間ごとにパラメータを更新し、運転条件を見直すことで、長期間に亘り継続して排水処理システム200の状態を好適に維持することができる。
【0176】
本実施形態によれば、推算モデル124を用いて、特性モデルのパラメータを容易に取得することができる。排水情報及び汚泥情報を取得するのみで、ラボ実験等を行う必要なく、ユーザの排水処理システム200に応じた特性モデルを生成することができるため、特性モデルの生成に係る工数を低減し、情報処理システム100の利便性を高めることができる。
【0177】
(第6実施形態)
第6実施形態では、菌の管理情報を出力する。以下では主に第1実施形態との相違点を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0178】
図17は、第6実施形態の情報処理システム100により実行される処理手順を示すフローチャートである。
【0179】
情報処理端末2の制御部21は、排水処理システム200に添加する菌の使用状況を情報処理装置1へ送信する(ステップS601)。菌の使用状況には、例えば菌の使用日及び使用量が含まれる。制御部21は、排水処理システム200に菌が添加される度、使用状況を送信してもよく、所定間隔ごとに、当該期間における使用状況を送信してもよい。
【0180】
情報処理装置1の制御部11は、菌の使用状況を受信する(ステップS602)。制御部11は、受信した菌の使用状況に基づいて、ユーザの排水処理システム200における菌の使用量が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS603)。制御部11は、例えば所定の基準日(例えば前回の菌の発注日、充填日等)以降における菌の使用量の合計が、予め設定される所定値以上であるか否かを判定する。制御部11は、菌の使用量に基づく在庫量が予め設定される所定値未満であるか否かを判定してもよい。
【0181】
使用量が所定値未満であると判定した場合(ステップS603:NO)、制御部11は、ステップS607に処理を進める。使用量が所定値以上であると判定した場合(ステップS603:YES)、制御部11は、使用量が所定値以上である旨を報知するための使用情報を情報処理端末2へ送信する(ステップS604)。
【0182】
情報処理端末2の制御部21は、使用情報を受信する(ステップS605)。制御部21は、受信した使用情報を表示部24へ表示する(ステップS606)。制御部21は、音声アラート等により使用情報を出力してもよい。
【0183】
情報処理装置1の制御部11は、菌の使用状況に基づいて、次回の菌の発注日、発注量等を含む菌の発注情報を特定する(ステップS607)。制御部11は、特性モデルを用いて特定した運転条件における菌に関する情報を加味して、菌の使用量を推定し、発注情報を特定するとよい。制御部11は、特定した菌の発注情報を情報処理端末2へ送信する(ステップS608)。なお制御部11は、菌の使用量が所定値以上となったタイミングにて、上記発注情報を情報処理端末2へ送信してもよい。
【0184】
情報処理端末2の制御部21は、菌の発注情報を受信する(ステップS609)。制御部21は、受信した菌の発注情報を表示部24へ表示し(ステップS610)、一連の処理を終了する。
【0185】
本実施形態によれば、情報処理装置1により、菌の使用状況が管理される。菌の発注に関する情報に加え、菌の使用量が多い場合には通知が出力されることで、菌の在庫切れを防止することができる。排水処理システム200のオペレーションに加え、菌の管理を行うことで、排水処理システム200の状態をより好適に維持することができる。
【符号の説明】
【0186】
100 情報処理システム
1 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
13 通信部
14 表示部
15 操作部
121 特性モデル
122 排水処理システムDB
123 排水・汚泥情報DB
1P プログラム
1A 記録媒体
2 情報処理端末
21 制御部
22 記憶部
23 通信部
24 表示部
25 操作部
26 入出力部
2P プログラム
2A 記録媒体
3 排水処理装置(排水処理システム)
31 処理槽
32a(32) 処理前沈殿槽
32b(32) 処理後沈殿槽