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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124740
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】麺類又はベーカリー製品用改質剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20230830BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230830BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20230830BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20230830BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A21D13/00
A21D6/00
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028714
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】樋口 創
(72)【発明者】
【氏名】川村 悠貴
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LC02
4B023LC05
4B023LE26
4B023LG06
4B023LP07
4B032DB02
4B032DB20
4B032DB32
4B032DG02
4B032DK15
4B032DK21
4B032DP02
4B032DP06
4B046LA02
4B046LC01
4B046LC17
4B046LG16
4B046LG20
4B046LG29
(57)【要約】
【課題】風味や食感などが改善された、麺類やベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉と水のみを含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、以下の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤などを提供する。
(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中位粒子径が150~380μm、
(b)澱粉損傷量が20質量%以下、及び
(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、以下の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤。
(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中位粒子径が150~380μm、
(b)澱粉損傷量が20質量%以下、及び
(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%。
【請求項2】
請求項1に記載の改質剤を含有する、麺類又はベーカリー製品用組成物。
【請求項3】
前記改質剤が、麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部となるように含有される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の改質剤、又は請求項2若しくは3に記載の組成物が用いられた、麺類又はベーカリー製品。
【請求項5】
原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、以下の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤を麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部添加する添加工程を含む、麺類又はベーカリー製品の製造方法。
(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中位粒子径が150~380μm、
(b)澱粉損傷量が20質量%以下、及び
(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%。
【請求項6】
原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、以下の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤を麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部添加する添加工程を含む、麺類又はベーカリー製品の改質方法。
(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中位粒子径が150~380μm、
(b)澱粉損傷量が20質量%以下、及び
(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類又はベーカリー製品用改質剤、麺類又はベーカリー製品用組成物、及び麺類又はベーカリー製品、麺類又はベーカリー製品の製造方法、並びに麺類又はベーカリー製品の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類やベーカリー製品の食感等を向上させるために、これらの主原料である小麦粉や、副原料、添加剤などについて様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、乾燥パスタ粉砕物を含有する穀粉原料を用いて製麺することを特徴とする麺類の製造法が開示されている。また、特許文献2には、小麦粉に水を加え、混錬した生地を、圧力を加え組織を密にした後乾燥し、粉砕した穀物粉であって、ベーカリー製品、ドーナツ類、揚げ物類よりなる群より選ばれる小麦加工食品の物性改良のために配合する穀物粉が開示されており、特許文献3には、穀物に水を加え混錬した生地を乾燥し粉砕した粉砕物及び増粘多糖類を含有することを特徴とするベーカリー製品が開示されている。更に、特許文献4には、小麦粉を品温82~97℃で5~60秒間湿熱処理することを特徴とする麺類用小麦粉の製造方法により得られる麺類用小麦粉が開示されており、特許文献5には、処理デュラム小麦粉のグルテンバイタリティを100としたときにそのグルテンバイタリティが70~95であり、且つ未処理デュラム小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときにそのグルテン膨潤度が105~130であることを特徴とする熱処理デュラム小麦粉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-291430号公報
【特許文献2】特開2007-116907号公報
【特許文献3】特開2013-179889号公報
【特許文献4】特開2007-97495号公報
【特許文献5】特開平9-220049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、麺類やベーカリー製品に求められる要求が多様化しており、従来技術では、麺類の場合、小麦粉の味・風味が感じられ、かつ、中心の適度な硬さやつゆ馴染み、茹で伸び耐性を付与することに対して更なる改善が求められており、ベーカリー製品の場合、小麦粉の味・風味が感じられ、かつ、食感や外観を良好にすることに対して更なる改善が求められている。
【0006】
このような実情のもと、本技術では、風味や食感などが改善された、麺類やベーカリー製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、下記の(a)~(c)の特徴を有する改質剤を用いることで、風味や食感などが改善された、麺類やベーカリー製品が提供できることを見出し、本技術を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本技術では、まず、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、以下の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤を提供する。
(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中位粒子径が150~380μm、
(b)澱粉損傷量が20質量%以下、及び
(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%。
また、前記改質剤を含有する、麺類又はベーカリー製品用組成物も提供する。該組成物は、前記改質剤を、麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部となるよう含んでいてもよい。
更に、前記改質剤、又は前記組成物が用いられた、麺類又はベーカリー製品も提供する。
【0009】
また、本技術では、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、上記の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤を麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部添加する添加工程を含む、麺類又はベーカリー製品の製造方法も提供する。
【0010】
更に、本技術では、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、上記の(a)から(c)の特徴を有する、麺類又はベーカリー製品用改質剤を麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部添加する添加工程を含む、麺類又はベーカリー製品の改質方法も提供する。
【0011】
なお、本技術でいう「改質」とは、味、風味、テクスチャーを含む食感、匂い、外観、物性、品質等の飲食品に関わるあらゆる事項が改善されることを意味する広い概念である。
【発明の効果】
【0012】
本技術によれば、風味や食感などが改善された、麺類やベーカリー製品を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
<麺類又はベーカリー製品用改質剤>
本技術に係る麺類又はベーカリー製品用改質剤(以下、単に「本技術に係る改質剤」とも称する。)は、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、且つ、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性されている、以下の(a)から(c)の特徴を有する。
(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中位粒子径が150~380μm、
(b)澱粉損傷量が20質量%以下、及び
(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%。
【0015】
本技術に係る改質剤を用いることで、風味や食感などが改善された、麺類又はベーカリー製品を提供することができる。具体的には、本技術に係る改質剤を用いることで、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れた麺類を提供することができる。特に、茹で又は蒸し調理された後、冷蔵又は冷凍で保存及び/又は流通され、喫食前に再加熱される麺類においても、ここに記載された効果を発揮することができる。また、本技術に係る改質剤を用いることで、製パン性に問題なく、味・風味に優れ、食感や外観等が改善されたベーカリー製品を提供することができる。例えば、ピザではもちもちした食感になり、食パンではトーストを電子レンジ加熱した際の沈みが小さく食感も良好になり、シューでは硬さが維持される。
本技術に係る改質剤を麺類、ベーカリー製品に用いる方法に特に制限はなく、例えば、製造原料の一つとして生地調製時に添加してもよいし、打ち粉(手粉)として用いてもよい。後述するとおり、製造原料の一つとして生地調製時に添加することが好ましい。
以下、本技術に係る改質剤について、詳細に説明する。
【0016】
(1)原料
北米産デュラム小麦とは、北米を産地とするデュラム小麦であり、本技術に係る改質剤は、当該北米産デュラム小麦から得られた小麦粉(セモリナ、ファリナを含む。)を含む小麦粉を含有する。すなわち、北米産デュラム小麦から得られた小麦粉以外にも、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉等の小麦粉が原料に含まれていてもよい。好ましくは原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉(セモリナ、ファリナを含む。)を含む小麦粉と水のみを含有することであり、より好ましくは北米産デュラム小麦から得られた小麦粉がセモリナであることである。これらにより、小麦粉の自然な甘みや香りをより付与することができる。また、他の好ましい態様では、北米産デュラム小麦から得られた小麦粉が、原料に含まれる原料粉100質量部のうち20質量部以上であり、より好ましくは50質量部以上であり、70質量部以上、80質量部以上としてもよい。原料粉における北米産デュラム小麦から得られた小麦粉の割合が増えるほど、麺類又はベーカリー製品に対して小麦粉の自然な甘みや香りをより強く付与できる。
【0017】
なお、北米産デュラム小麦から小麦粉を製造する方法としては、常法に従って実施され、例えば、精選した小麦粒を加水・調質(テンパリング)した後、ブレーキング工程、リダクション工程等を行ってもよい。また、ピーリング工程や一般的な粉砕機(石臼、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等)を用いた粉砕工程、分級工程を必要に応じて組合せてもよい。
【0018】
(2)粒度
本明細書において、粒子径735μm以上の粒子の割合、粒子径215μm以上の粒子の割合、中位粒子径は、体積基準の粒子径累積分布から決定することができ、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS(日本レーザー製)を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準の粒子径分布を得て、735μm以上の粒子径を有する粒子又は215μm以上の粒子径を有する粒子の体積基準の割合を算出する。また、粒子径分布における体積基準での積算分析曲線の50%に相当する粒子径を中位粒子径として算出する。
【0019】
本技術に係る改質剤は、粒子径735μm以上の粒子が2%以下であり、好ましくは1%以下であり、0.5%以下、0.3%以下であってもよい。2%を超えると、製麺性、製パン性が悪くなる。また、粒子径215μm以上の粒子が25%以上であり、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上であり、45%以上、50%以上、55%以上であってもよい。粒子径215μm以上の粒子をこの範囲に調整することで、麺類又はベーカリー製品に対して小麦粉の自然な甘みや香りをより強く付与できる。一方、25%未満であると、麺類又はベーカリー製品に対しての小麦粉の自然な甘みや香りの付与が弱く、また、麺類では中心の硬さを向上させる効果も弱くなり、ベーカリー製品では、例えばピザにおいてもちもちした食感を付与させる効果が弱くなるなど、改質効果も弱くなる。
【0020】
また、本技術に係る改質剤は、中位粒子径が150~380μmであり、好ましくは180~360μmであり、より好ましくは200~360μmである。中位粒子径が380μmを超えると、製麺性、製パン性が悪くなる。また、150μm未満であると、麺類又はベーカリー製品に対しての小麦粉の自然な甘みや香りの付与が弱く、また、麺類では中心の硬さを向上させる効果も弱くなり、ベーカリー製品では、例えばピザにおいてもちもちした食感を付与させる効果が弱くなるなど、改質効果も弱くなる。
【0021】
(3)損傷澱粉量
本明細書において、「損傷澱粉量(質量%)」とは、本発明に係る改質剤中のα-アミラーゼによって分解される澱粉の含有量をAACC Method 76-31に従って測定し、算出された値である。具体的には、Starch Damage Assay Kit(MegaZyme製)を用いて、各試料100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベートしたα-アミラーゼ溶液(Aspergillus oryzae由来、50unit/mL)を1mL添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理する。次いで、クエン酸-リン酸水溶液(pH2.5)を5ml添加して反応を停止させ、遠心分離(1000g、5分間)して上清を得る。この上清0.1mLにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来、2unit/0.1mL)を添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定し、得られた吸光度から生成したグルコース量を算出し、試料中に含まれる損傷澱粉量を算出する。
【0022】
本技術に係る改質剤は、損傷澱粉量が20質量%以下であり、20質量%を超えると、吸水性が高く、水など液体材料と混合した際にべたつくなど二次加工適性が低下する場合がある。損傷澱粉量の好ましい範囲は4~20質量%であり、より好ましくは5~15質量%であり、更に好ましくは5.5~12質量%であり、より更に好ましくは5.7~10.5質量%であり、特に好ましくは5.8~10質量%である。
【0023】
(4)酢酸可溶たん白質含量
本明細書において、「酢酸可溶たん白質含量(質量%)」とは、本発明に係る改質剤中の酢酸に溶解するたん白質の含有量を下記の操作工程により測定し、算出された値である。
(i)試料2gを、100mL容量の三角フラスコに入れる。
(ii)上記(i)に0.05N酢酸を40mL加えて、振盪する(25℃、130rpm、60分間)。
(iii)三角フラスコの内容物を遠沈管に移して遠心分離(5000rpm、5分間)し、上層の液相と下層の残渣とに分離する。
(iv)上記で分離した上層を濾紙(Whatman、No.42)で吸引濾過して濾液を回収する。
(v)上記(ii)の三角フラスコに、0.05N酢酸40mLを入れてフラスコ壁面についた残渣を洗い流すように軽く撹拌し、内容物を遠沈管に移して遠心分離(5000rpm、5分間)し、上層の液相と下層の残渣とに分離する。
(vi)分離した上層の液相を濾紙(Whatman、No.42)で吸引濾過して回収した濾液を上記(iv)で回収した濾液と混合する。
(vii)濾液をイオン交換水にて100mLにメスアップする。
(viii)上記の操作で回収した濾液(小麦粉酢酸抽出液)は25mLを、試料は0.5gを、それぞれ分解に供する。分解は、ケルダール分析用分解促進剤(KJELTABS:フォス社製)1錠及び濃硫酸15mLを加えて、ケルダール分解器(ダイジェスター)にセットして行う。具体的には、小麦粉の酢酸抽出液の分解は250℃から加温し、30分毎に50℃ずつ420℃になるまで加温し、420℃になってから90分間加温して分解する。また、小麦粉の分解は420℃で150分加温し分解する。
(ix)分解により得られた試料それぞれに、イオン交換水を30mL加え、ケルダール蒸留滴定装置(スーパーケル1500/1550、アクタック社製)にセットして蒸留及び滴定を行う。
(x)下式に基づき、小麦粉酢酸抽出液と小麦粉の窒素量をそれぞれ求めた後、酢酸可溶たん白質含量(%)を算出する。
【0024】
【数1】
【0025】
本技術に係る改質剤は、酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%である。5質量%未満であると、二次加工適性が低下する場合がある。また、25質量%を超えると、改質効果が低下する場合がある。酢酸可溶たん白質含量の好ましい範囲は10~24質量%であり、より好ましくは12~23質量%であり、更に好ましくは14~22質量%であり、特に好ましくは15~21質量%である。
【0026】
(5)製造例
本技術に係る改質剤は、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、当該原料に含まれるたん白質の一部が変性され、前記酢酸可溶たん白質含量となり、かつ、前記粒子径、損傷澱粉量の範囲であれば、特に製造方法は限定されない。例えば、たん白質の一部を変性させる方法としては、加熱等であってよく、加熱方法も乾熱加熱や湿熱加熱、もしくは、その両方であってもよい。また、前記粒子径を満たす方法としては、所望の粒子径になるようにロールミル、ピンミル、気流式粉砕機等を用いて粉砕してもよく、篩や分級機等を用いて整粒してもよく、これらの方法を組み合わせてもよい。例えば、北米産デュラム小麦から得られた小麦粉単独、又は、必要に応じて他の小麦粉を含む原料粉100質量部に、20~40質量部、好ましくは23~35質量部の水を加え、混捏して生地を調製し、30~110℃、好ましくは50~100℃、より好ましくは60~90℃の環境下で生地の水分含量が8~17質量%、好ましくは9~15質量%、より好ましくは10~14質量%になるまで加熱する。その後、乾燥物を粉砕して篩に供すことによって得ることができる。
【0027】
<麺類又はベーカリー製品用組成物>
本技術に係る組成物は、上述した本技術に係る改質剤を含有する。本技術に係る組成物は、麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり、本技術に係る改質剤が1~18質量部となるように麺類又はベーカリー製品に含有される。本技術に係る組成物100質量部当たり本技術に係る改質剤を1~95質量部含有されていてもよい。具体的には、例えば、本技術に係る組成物100質量部当たり本技術に係る改質剤を50質量部含有される組成物を、麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり、当該組成物を10質量部含有するように添加することで、麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり、本技術に係る改質剤が5質量部となるように用いることができる。
また、本技術に係る組成物は、上述した改質剤が、麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部含有されることが好ましく、穀粉100質量部当たり1.2~16質量部含有されることがより好ましく、穀粉100質量部当たり1.5~14質量部含有されることが更に好ましく、1.8~12質量部、2~10質量部であってもよい。これにより、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れた麺類を製造することができ、製パン性に問題なく、味・風味に優れ、食感や外観等が改善されたベーカリー製品を製造することができる。
本技術に係る組成物は、上述した改質剤に加えて、本技術の効果を損なわない限り、穀粉やその他の原料が含有されていてよい。目的の麺類やベーカリー製品の種類に応じて適宜選択される。例えば、穀粉としては、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉)、デュラム小麦粉、米粉、そば粉、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉、あわ粉、大豆粉、及びホワイトソルガム粉等が挙げられる。また、本発明における穀粉には、澱粉類(小麦澱粉、大麦澱粉、ライ麦澱粉、エンバク澱粉などの麦類澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、豆類澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、ヒシ澱粉、クリ澱粉、サゴ澱粉、ナガイモ澱粉、レンコン澱粉、クワイ澱粉、ワラビ澱粉、ユリネ澱粉、アミロメイズ澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的及び/又は化学的に加工を施した加工澱粉)も含むものとする。
【0028】
また、その他の原料としては、調製する麺類又はベーカリー製品の種類によっても相違するが、必要に応じて、各種の副材料を含むことができる。例えば、食塩やその他の塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等);イーストフード(例えば、無機フード、有機フード、酵素系フード等);油脂類(例えば、ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油(例えば、オリーブオイル、菜種油、大豆油、紅花油等)、粉末油脂、折り込み油脂等);糖類(例えば、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等の糖類;ソルビト-ル、マルチトール、パラチニット、還元水飴等の糖アルコール;デキストリン;オリゴ糖等);乳製品(例えば、牛乳、粉乳類(脱脂粉乳を含む。)、クリーム類、チーズ類、ヨーグルト等);卵製品;増粘剤(例えば、キサンタンガム、グアガム、アルギン酸エステル、ペクチン、タマリンドシードガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、ガラクトマンナン、ジェランガム等の増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール等);膨張剤(例えば、重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等);乳化剤(例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等);酵素類;製パン改良剤;かんすい;調味料;保存料;アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸等);着色料、又は香料等を用いることもできる。
【0029】
<麺類>
本明細書における麺類とは、中華麺やスパゲッティ、マカロニなどのパスタ類に用いられる麺線や麺帯はもちろん、餃子やしゅうまいなどに用いられる麺皮類を包含する概念である。具体的には、例えば、中華麺、焼きそば、うどん、和そば、素麺、冷や麦、冷麺、ビーフン、きしめんなどの麺線や麺帯はもちろん、餃子皮、しゅうまい皮、ワンタン皮、春巻皮などに用いられる麺皮類が挙げられる。上述したように、本発明によれば、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れた麺類を製造することができる。
【0030】
また、本明細書において、麺類は、調理前の麺類と調理済の麺類の両方を包含する概念である。調理済の麺類を調製する場合は、麺帯や麺線などの未調理の麺類を、湯の中で茹でるなどして調理すればよい。麺類の調理方法は特に制限されないが、茹でて調理することはもちろん、油ちょうや蒸し、電子レンジなどによって調理してもよく、喫食可能になるまで麺類をα化すればよい。また、麺類の形態も特に限定されず、生麺、乾麺(半乾燥麺を含む。)、茹で麺、蒸し麺、揚げ麺、冷蔵麺(チルド麺)、冷凍麺、即席麺、調理麺、LL(ロングライフ)麺のいずれにも適用できる。特に、茹で又は蒸し調理された後、冷蔵又は冷凍で保存及び/又は流通され、喫食前に再加熱される麺類であることが好ましい。本技術に係る組成物は、麺類の中心の硬さや茹で伸びにおいて改善効果があるため、特に麺類の加熱調理後の中心の硬さや茹で伸びが課題となる冷蔵麺又は冷凍麺において、より効果を発揮することができる。
本発明に係る麺類は、上述した本技術に係る改質剤、又は本技術に係る組成物を、製造原料の一部又は全部として製造することで得られる。本発明において、麺生地は、通常の麺生地の調製方法に準じて調製することができる。例えば、上述した組成物に、水、塩などを配合して混練し、麺生地を調製することができる。また、中華麺の麺生地を調製する場合には、更に、かんすいなどを配合してもよい。
麺生地を調製する際の水の量は、麺類の種類にもよるが、通常は、麺類に用いられる穀粉100質量部に対し、水25~50質量部とすることが好ましく、水28~45質量部とすることがより好ましい。当該質量比において、穀粉に含まれる水分は「水」ではなく「穀粉」を構成するものとする。
本発明に係る麺類は、圧延製麺、ロール式製麺、押出式製麺などの公知の製麺方法によって製造することができる。本発明の一つの態様において、麺生地は、圧延され、所望の厚さの麺帯とされる。当該圧延は、麺生地を圧延ロールに通すことで行われる。次いで、製麺機などを用いて麺帯を切り出して麺線とし、この麺線を所望の長さに切断することにより生麺を得ることができる。また、型抜き機などを用いて麺帯から麺皮を得ることができる。
本発明の一つの態様において、麺生地を引き伸ばしたり撚ったりして麺線を得てもよく、また、麺生地を穴などから押し出して麺類を製造してもよい。一般に、スパゲッティやマカロニなどの麺類は、麺生地を押し出して製造することが多い。また本発明においては、機械を用いて製麺してもよく、機械を用いずに手延べや手打ちによって製麺してもよい。
例えば、上記生麺を茹でることによって茹で麺が得られ、蒸煮することによって蒸し麺が得られ、調湿乾燥法などにより乾燥すれば乾麺が得られる。また、例えば、蒸煮又は茹で処理を行った後、フライ用バスケットあるいは乾燥用バスケットに一食ずつ成形充填し、フライあるいは高温熱風乾燥処理すれば即席乾麺が得られる。
【0031】
<ベーカリー製品>
本明細書におけるベーカリー製品とは、パン類、ケーキ、洋菓子類、和菓子類などが挙げられる。パン類としては、食事パン(例えば、食パン、ライ麦パン、フランスパン、乾パン、バラエティブレッド、ロールパン等)、調理パン(例えば、ホットドッグ、ハンバーガー、ピザパイ等)、菓子パン(例えば、ジャムパン、アンパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュ、コロネ等)、蒸しパン(例えば、肉まん、中華まん、あんまん等)、特殊パン(例えば、グリッシーニ、イングリッシュマフィン、ナン等)などが挙げられる。ケーキとしては、例えば、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキなどが挙げられる。なお、洋菓子には、シュー、ワッフル、ドーナツ、クレープ、パイ、ビスケット、カステラ、マドレーヌ、クッキー、サブレなども含まれる。また、和菓子には、どら焼き、饅頭、たい焼き、回転焼きなどが含まれる。上述したように、本発明によれば、製パン性に問題なく、味・風味に優れ、食感や外観等が改善されたベーカリー製品を製造することができる。例えば、ピザではもちもちした食感になり、食パンではトーストを電子レンジ加熱した際の沈みが小さく食感も良好になり、シューでは硬さが維持される。
【0032】
また、本発明に係るベーカリー製品は、上述した本技術に係る改質剤、又は本技術に係る組成物を、製造原料の一部又は全部として製造することで得られる。本発明において、例えば、中種法、ストレート法、ノータイム法、発酵種法、湯種法、冷凍生地法等の公知の方法で生地を調製し、また、バッター生地を調製し、その生地を必要に応じて発酵させ、成形し、常法に従って加熱(焼成、油ちょう、蒸し、マイクロ波加熱等)することでベーカリー製品を製造することができる。加熱条件等は、製造するベーカリー製品に応じて適宜設定することができる。
【0033】
<麺類又はベーカリー製品の製造方法、麺類又はベーカリー製品の改質方法>
本技術に係る麺類又はベーカリー製品の製造方法(以下、単に「本技術に係る製造方法」とも称する。)、或いは本技術に係る麺類又はベーカリー製品の改質方法(以下、単に「本技術に係る改質方法」と称する。)は、上述した本技術に係る改質剤を添加する添加工程を含む。
【0034】
本技術に係る製造方法、或いは本技術に係る改質方法において、上述した本技術に係る改質剤を添加する方法や、添加するタイミングについては、特に限定されない。例えば、慣用的に採用される調理方法や改質方法に基づいて、従来配合している製造原料に代えて、又はその一部とともに、上述した本技術に係る改質剤を製造原料の一つとして添加し、麺類又はベーカリー製品に対して所定量添加するようにすればよい。
【0035】
添加工程において、前記改質剤は麺類又はベーカリー製品に用いられる穀粉100質量部当たり1~18質量部添加する。好ましくは穀粉100質量部当たり1.2~16質量部、より好ましくは1.5~14質量部、更に好ましくは1.8~12質量部、より更に好ましくは2~10質量部添加してもよい。これにより、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れた麺類や、製パン性に問題なく、味・風味に優れ、食感や外観等が改善されたベーカリー製品を提供できる。
【実施例0036】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0037】
<実験例1:改質剤の調製>
実験例1では、下記表1に示すように、異なる原料粉から改質剤を調製した。
各原料粉100質量部に水28質量部を加えて混捏し、生地を調製した。その生地を、80℃の環境下で生地の水分含量が13質量%になるまで加熱した。その後、加熱した生地を、ピンミルを用いて条件を変更して粉砕した。なお、強力粉は、キングスター(昭和産業)を用いた。
各改質剤の粒度、損傷澱粉量、及び酢酸可溶たん白質含量をあわせて下記表1に記載する。なお、粒度、損傷澱粉量、及び酢酸可溶たん白質含量は、上述した方法により測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
<実験例2:うどんへの応用とその評価(1)>
実験例2では、麺類の一例として、うどんを製造し、評価した。
【0040】
(1)うどんの製造
横型ピンミキサーを用いて、実験例1で調製した改質剤を中力粉(北海道、昭和産業)、加工澱粉(SF-800、昭和産業)、グルテン(B-パウダーグル、昭和産業)と下記表2に示す配合(質量部)で混合し、その組成物100質量部に対して、塩4質量部、水40質量部を添加して混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを製造した。調理済のうどんをゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱した。
【0041】
(2)評価
10人の専門パネルによって製麺性、麺類の味・風味、中心の硬さ、つゆ馴染み、茹で伸び耐性を評価した。評価方法は、製麺性については、下記の基準に基づいて2段階で実施し、合議で決定した。麺類の味・風味、中心の硬さ、つゆ馴染み、茹で伸び耐性については、下記の基準に基づいて5段階で実施し、平均点を算出した。なお、製麺性は、生麺の製造時に評価し、麺類の味・風味、中心の硬さ、つゆ馴染みは、電子レンジで再加熱した直後の麺類を評価し、茹で伸び耐性は、再加熱した10分後の麺類を評価した。
【0042】
[製麺性]
2:製麺性に問題なし
1:麺帯の表面に荒れが生じる(製麺性が悪い)
【0043】
[味・風味]
5:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が非常に強く感じられる(非常に良好)
4:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が強く感じられる(良好)
3:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味がやや強く感じられる(やや良好)
2:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が同程度に感じられる(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が弱い(劣る)
【0044】
[中心の硬さ]
5:対象区(参考例)に比べ、中心が硬く、非常に良好
4:対象区(参考例)に比べ、中心がやや硬く、良好
3:対象区(参考例)に比べ、中心がわずかに硬く、やや良好
2:対象区(参考例)に比べ、中心の硬さが同程度で、やや劣る
1:対象区(参考例)に比べ、中心が軟らかく、劣る
【0045】
[つゆ馴染み]
5:対象区(参考例)に比べ、つゆ馴染みが非常に良好である
4:対象区(参考例)に比べ、つゆ馴染みが良好である
3:対象区(参考例)に比べ、つゆ馴染みがやや良好である
2:対象区(参考例)に比べ、つゆ馴染みが同程度である(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、つゆ馴染みが劣る
【0046】
[茹で伸び耐性]
5:対象区(参考例)に比べ、粘弾性が非常に良好である
4:対象区(参考例)に比べ、粘弾性が良好である
3:対象区(参考例)に比べ、粘弾性がやや良好である
2:対象区(参考例)に比べ、粘弾性が同程度である(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、粘弾性が劣る
【0047】
(3)結果
結果を、下記表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
(4)考察
上記表2の結果から、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中心粒子径が150~380μmであり、(b)澱粉損傷量が20質量%以下であり、(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%である、改質剤(製造例1~4)を用いたうどん(実施例1~4)は、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れていた。一方、粒子径735μm以上の粒子が2%を超え、中心粒子径が380μmを超えている改質剤(製造例5)を用いたうどん(比較例1)は、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れていたが、製麺性に問題があった。粒子径215μm以上の粒子が25%未満で、中心粒子径が150μm未満である改質剤(製造例6)を用いたうどん(比較例2)は、製麺性に問題なく、つゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れていたが、味・風味や、中心の硬さの評価が低かった。原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含まず、トルコ産デュラム小麦から得られた小麦粉を用いた改質剤(製造例7)を用いたうどん(比較例3)は、製麺性に問題なく、中心の硬さ、つゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れていたが、味・風味の評価が低かった。
【0050】
<実験例3:うどんへの応用とその評価(2)>
実験例3では、麺類の一例として、実験例2と同様に、うどんを製造し、評価した。
【0051】
(1)うどんの製造方法
下記表3に記載する材料を用い、上述した方法と同様の方法にて、うどんを製造した。
【0052】
(2)評価
製造したうどんについて評価した。評価基準、評価方法は、実験例2と同様とした。
【0053】
(3)結果
結果を、下記表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
(4)考察
上記表3の結果から、本発明に係る改質剤(製造例1、4)を穀粉100質量部当たり1~18質量部添加したうどん(実施例1及び5~8)は、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れていた。一方、本発明に係る改質剤(製造例1)を穀粉100質量部当たり20質量部添加したうどん(比較例4)は、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、つゆ馴染みの観点からも優れていたが、中心の硬さ、茹で伸び耐性の評価が低かった。
【0056】
<実験例4:中華麺への応用とその評価>
実験例4では、麺類の一例として、中華麺を製造し、評価した。
【0057】
(1)中華麺の製造
横型ピンミキサーを用いて、実験例1で調製した改質剤(製造例1、4)を中力粉(北海道、昭和産業)、乾燥卵白(乾燥卵白MタイプNo.200、キューピータマゴ)と下表4に示す配合(質量部)で混合し、その組成物100質量部に、塩1質量部、かんすい1質量部、水35質量部を添加して混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切り刃:角20番)、麺線の厚みが1.5mmの生麺(中華麺)を製造した。
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済の中華麺を製造した。調理済の中華麺をゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱した。
【0058】
(2)評価
製造した中華麺について評価した。評価基準、評価方法は、実験例2と同様とした。
【0059】
(3)結果
結果を、下記表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
(4)考察
上記表4の結果から、本発明に係る改質剤(製造例1、4)を穀粉100質量部当たり1~18質量部添加した中華麺(実施例9~13)は、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、中心の硬さやつゆ馴染み、茹で伸びの観点からも優れていた。一方、本発明に係る改質剤(製造例1)を穀粉100質量部当たり20質量部添加した中華麺(比較例5)は、製麺性に問題なく、味・風味に優れ、つゆ馴染みの観点からも優れていたが、中心の硬さ、茹で伸び耐性の評価が低かった。
【0062】
<実験例5:ピザへの応用とその評価>
実験例5では、ベーカリー製品の一例として、ピザを製造し、評価した。
【0063】
(1)ピザの製造
実験例1で調製した改質剤(製造例1、4~7)を強力粉(紫ネオン、昭和産業)と下表5に示す配合(質量部)で混合し、その組成物100質量部に、塩2.9質量部、パン酵母(生)(カネカイーストレッド、カネカ)0.03質量部、水59質量部を添加して、低速で15分間ミキシングし、生地を作製した。生地は20分間フロアタイムをとり、220gに分割し、丸めを行った後、18℃で12時間発酵熟成させた。次いで、直径25cmの円状に成形し、ピザソースを塗布し、チーズをのせ、ピザ窯(500℃)で90秒焼成してピザを製造した。
【0064】
(2)評価
10人の専門パネルによって製パン性、ベーカリー製品の味・風味、食感を評価した。評価方法は、製パン性については、下記の基準に基づいて2段階で実施し、合議で決定した。ベーカリー製品の味・風味、食感については、下記の基準に基づいて5段階で実施し、平均点を算出した。なお、製パン性は、焼成前の生地製造時に評価し、ベーカリー製品の味・風味、食感は、焼成した直後のベーカリー製品を評価した。
【0065】
[製パン性]
2:製パン性に問題なし
1:生地の表面に荒れが生じる、又は、生地を成形しにくい(製パン性が悪い)
【0066】
[味・風味]
5:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が非常に強く感じられる(非常に良好)
4:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が強く感じられる(良好)
3:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味がやや強く感じられる(やや良好)
2:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が同程度に感じられる(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、小麦粉の自然な味・風味が弱い(劣る)
【0067】
[食感(ピザ)]
5:対象区(参考例)に比べ、非常にもちもちした食感である(非常に良好)
4:対象区(参考例)に比べ、もちもちした食感である(良好)
3:対象区(参考例)に比べ、ややもちもちした食感である(やや良好)
2:対象区(参考例)に比べ、もちもちした食感が同程度である(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、もちもちした食感が劣る
【0068】
(3)結果
結果を、下記表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
(4)考察
上記表5の結果から、原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含む小麦粉を含有し、(a)粒子径735μm以上の粒子が2%以下、粒子径215μm以上の粒子が25%以上、且つ、中心粒子径が150~380μmであり、(b)澱粉損傷量が20質量%以下であり、(c)酢酸可溶たん白質含量が5~25質量%である、改質剤(製造例1、4)を穀粉100質量部当たり1~18質量部添加したピザ(実施例14~16)は、製パン性に問題なく、味・風味に優れ、食感も優れていた。一方で、粒子径735μm以上の粒子が2%を超え、中心粒子径が380μmを超えている改質剤(製造例5)を用いたピザ(比較例7)は、味・風味に優れ、食感も優れていたが、製パン性に問題があった。粒子径215μm以上の粒子が25%未満で、中心粒子径が150μm未満である改質剤(製造例6)を用いたピザ(比較例8)は、製パン性は問題ないが、味・風味や、食感の評価が低かった。原料として北米産デュラム小麦から得られた小麦粉を含まず、トルコ産デュラム小麦から得られた小麦粉を用いた改質剤(製造例7)を用いたピザ(比較例9)は、製パン性に問題なく、食感も優れていたが、味・風味の評価が低かった。また、本発明に係る改質剤(製造例1)を、穀粉100質量部当たり20質量部添加したピザ(比較例6)は、味・風味に優れていたが、製パン性に問題があり、食感の評価も低かった。
【0071】
<実験例6:食パンへの応用とその評価>
実験例6では、ベーカリー製品の一例として、食パンを製造し、評価した。
【0072】
(1)食パンの製造
実験例1で調製した改質剤(製造例1)を用いて、下記表6に示した材料の配合で、以下の方法で食パンを調製した。なお、強力粉(クオリテ、昭和産業)、パン酵母(生)(カネカイーストレッド、カネカ)、イーストフード(Cオリエンタルフード、オリエンタル酵母工業)、脱脂粉乳(明治脱脂粉乳、明治)、ショートニング(エンブレム、ミヨシ油脂)を用いた。
(1)中種の材料をボウルに入れ、ミキサーの低速で3分間、中速で2分間ミキシングして中種を調製した。中種の捏上温度は24℃であった。
(2)中種を28℃、相対湿度75%の条件下で4時間発酵させた後、ショートニング以外の本捏の材料を添加し、ミキサーの低速で3分間、中速で5分間ミキシングした。
(3)上記(2)にショートニングを添加し、更にミキサーの低速で2分間、中速7分間ミキシングして生地を調製した。生地の捏上温度は27±0.5℃に調整した。
(4)上記(3)で調製した生地を28℃、相対湿度75%の条件下で20分間のフロアタイムをとった後、一個220gに分割して丸め、ベンチタイムを20分間とった。
(5)上記(4)の生地をミニモルダー(オシキリ製)にて圧延後、U字形に成形し、6個を三斤食パン型に詰め、38℃、相対湿度85%の条件下でホイロを50~55分間とった後、210℃のオーブンで38分間焼成し、食パンを得た。
製造した食パンは、トースト後に具材を挟んだサンドウィッチを、電子レンジ等で再加熱し喫食する形態を想定し、1日後に14mm厚にスライスし、2枚重ねてジェットオーブンで2分30秒間加熱し、常温にて1日保管後、電子レンジを用いて1500Wで10秒間加熱した。
【0073】
(2)評価
製造した食パンについて評価した。評価基準、評価方法は、食感の評価基準を除き、実験例5と同様とした。食パンの評価では、トースト後のレンジ耐性を下記の基準に基づいて2段階で実施し、合議で決定した。なお、製パン性は、焼成前の生地製造時に評価し、味・風味、外観は、電子レンジ加熱後の食パンを評価した。
【0074】
[トースト後のレンジ耐性(食パン)]
2:対象区(参考例)に比べ、電子レンジ加熱後の沈みが小さく、食感も良好
1:対象区(参考例)に比べ、電子レンジ加熱後の沈みが同程度か大きい
【0075】
(3)結果
結果を、下記表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
(4)考察
上記表6の結果から、本発明に係る改質剤(製造例1)を穀粉100質量部当たり1~18質量部添加した食パン(実施例17)は、製パン性に問題なく、味・風味に優れ、トースト後のレンジ耐性も優れていた。
【0078】
<実験例7:シュー生地への応用とその評価>
実験例7では、ベーカリー製品の一例として、シュー生地を製造し、評価した。
【0079】
(1)シュー生地の製造
実験例1で調製した改質剤(製造例1)を用いて、下記表7に示した材料の配合で、以下の方法でシューを調製した。なお、薄力粉(ル・ガトー、昭和産業)、牛乳(おいしい牛乳、明治)、バター(無塩バター、雪印メグミルク)を用いた。
(1)水、牛乳、バター、塩、砂糖を鍋に投入し、沸騰させる。
(2)火を止め、上記(1)に小麦粉及び改質剤を加え、よく混合する。
(3)上記(2)に全卵を数回に分けて投入し、捏ね上げてシュー生地を調製する。
(4)シュー生地を絞り袋に入れ、天板に30g/1個(直径約6cm)で、間隔を開けて絞り出した。霧吹きで生地に水を吹きかけた後、天板をオーブンに入れ、190℃で20分間、次いで170℃で15分間焼成し、シューを得た。
【0080】
(2)評価
製造したシューは、3日後に味・風味、食感を評価した。評価基準、評価方法は、味・風味については、実験例5と同様とした。食感については、下記の基準に基づいて5段階で実施し、平均点を算出した。
【0081】
[食感(シュー)]
5:対象区(参考例)に比べ、硬さがある(非常に良好)
4:対象区(参考例)に比べ、やや硬さがある(良好)
3:対象区(参考例)に比べ、わずかに硬さがある(やや良好)
2:対象区(参考例)に比べ、硬さが同程度である(やや劣る)
1:対象区(参考例)に比べ、硬さが劣る
【0082】
(3)結果
結果を、下記表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
(4)考察
上記表7の結果から、本発明に係る改質剤(製造例1)を穀粉100質量部当たり1~18質量部添加したシュー(実施例18)は、味・風味に優れ、食感も優れていた。