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特開2023-124813リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
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  • 特開-リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124813
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20230830BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230830BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230830BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003811
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022028082
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022108027
(32)【優先日】2022-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
(72)【発明者】
【氏名】東郷 英一
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA04
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050EA23
(57)【要約】
【課題】 電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とするリチウムイオン電池電極用バインダ、並びに、それを用いたリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】 リチウムイオン電池の電極において、活物質と導電助剤と集電体とを結着させるバインダとして、キレート基含有高分子化合物を用いることで、リチウムイオン電池に優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化を付与できる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池において、活物質と導電助剤と集電体とを結着させるバインダがキレート基含有高分子化合物を含む、リチウムイオン電池電極用バインダ。
【請求項2】
キレート基が共有結合および/またはイオン結合を介して高分子化合物と結合している、請求項1に記載のバインダ。
【請求項3】
活物質、導電助剤、請求項1に記載のバインダ、及び水を含む、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー。
【請求項4】
請求項1に記載のバインダを含む、リチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極を有する、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池電極用バインダ、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、近年、電気機器等の電源として幅広く用いられている。さらに、最近は電気自動車の電源としてもその用途を拡大しつつあり、高容量化、高出力化、サイクル寿命の向上といった特性向上とともに、高い安全性が要望されている。
【0003】
リチウムイオン電池の電極は、粉末状の活物質と導電助剤とバインダを主成分とする多孔質体が集電体上に積層・結着した構造を有しており、その性能は、活物質の特性のみならず、バインダの種類によっても大きく影響されることが知られている。
【0004】
従来、正極用バインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が主流であったが、電極製造時にN-メチルピロリドン等の有機溶媒を用いるため、スラリー調製工程や電極シート塗布工程で除害設備が必要となる、電極シート乾燥工程で溶媒回収設備が必要になるといった電極製造に係る付帯設備が増加しコストアップを招く、有機溶媒の購入や回収にコストが嵩みランニングコストが増加する、正極活物質に対するPVDFの接着力が低いためバインダ添加量が増えてしまうといった欠点を有していた。
【0005】
一方、有機溶媒を用いず、水に分散・溶解可能な水系バインダとして、ポリビニルアルコールとメチルセルロースを用いること(例えば、特許文献1参照。)、キサンタンガムを用いること(例えば、特許文献2参照。)、アミロース、アミノペクチン等のデンプン型多糖を用いること(例えば、特許文献3、4参照。)、アルギン酸やアルギン酸誘導体を用いること(例えば、特許文献5、6、7、8、9参照。)が開示されている。水系バインダは電極シート製造時の除害設備が不要であり、作業環境も良好になるため好ましいが、活物質とバインダの組み合わせによっては活物質との接着力が低下する、集電体が腐食するといった問題が生じる場合もあった。
【0006】
また、正極活物質にはLiMn、LiNi0.5Mn1.5、LiNi0.5Mn0.3Co0.2、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiMn0.7Fe0.3PO等のリチウム複合酸化物が用いられることが多いが、これらリチウム複合酸化物は充放電時に活物質中のマンガンやニッケルが溶解・イオン化し、負極上に析出・堆積してサイクル特性やレート特性の低下を招くことが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53-41732号公報
【特許文献2】特開2003-68292号公報
【特許文献3】特開2008-27904号公報
【特許文献4】国際公開第2012/133120号
【特許文献5】特開平10-92415号公報
【特許文献6】特開2001-15114号公報
【特許文献7】特開2014-96238号公報
【特許文献8】特開2014-195018号公報
【特許文献9】特開2015-191862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とするリチウムイオン電池電極用バインダ、並びに、それを用いたリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー、リチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、キレート基含有高分子化合物をバインダに用いることで上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の各態様は、以下に示す[1]~[5]である。
【0011】
[1] リチウムイオン電池において、活物質と導電助剤と集電体とを結着させるバインダがキレート基含有高分子化合物を含む、リチウムイオン電池電極用バインダ。
[2] キレート基が共有結合および/またはイオン結合を介して高分子化合物に結合している、上記[1]に記載のバインダ。
[3] 活物質、導電助剤、上記[1]または[2]に記載のバインダ、及び水を含む、リチウムイオン電池電極合材層形成用スラリー。
[4] 上記[1]または[2]に記載のバインダを含む、リチウムイオン電池用電極。
[5] 上記[4]に記載の電極を有する、リチウムイオン電池。
【0012】
なお、本発明のリチウムイオン電池電極用バインダによって上記目的が達成される理由に関し、本発明者らは以下のように推察する。
【0013】
すなわち、バインダにキレート基含有高分子化合物を用いることで、正極活物質から溶出するマンガンイオンやニッケルイオンをキレート基が正極及び/または負極近傍で捕捉し、負極活物質への析出・堆積を抑制するといった効果が発現し、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とするリチウムイオン電池電極用バインダ及びリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1、実施例2、比較例1で得られたラミネートセルの充放電サイクル特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極用バインダは、キレート基含有高分子化合物を含むものである。
【0018】
キレート基とは、複数の配位座を有する配位子を指し、多価金属イオンとの間でキレートを形成できる官能基である。キレート基としては、アミノカルボン酸系のキレート基やアミノホスホン酸系のキレート基、ポリアミン系のキレート基が好適に用いられる。アミノカルボン酸系キレート官能基の若干の例としては、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン基、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、1,2‐ビス(2‐アミノフェノキシ)エタン四酢酸基、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸基、ビス(2-アミノエチル)エチレングリコール四酢酸基、トリエチレントリアミン六酢酸基等が挙げられる。アミノホスホン酸系キレート基の若干の例としては、アミノメチルホスホン酸基、ニトリロトリス(メチルホスホン酸)等が挙げられる。ポリアミン系キレート基の若干の例としては、ポリエチレンイミン基、ポリアミドアミンデンドリマー基、テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン基等が挙げられる。キレート基がカルボン酸やホスホン酸を含む場合、それらの酸性官能基はプロトン形よりもアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの一価の塩形である方が、重金属イオンとイオン交換しやすいため好ましい。
【0019】
キレート基含有高分子化合物に含まれるキレート基の量は、0.2~6mmol/gであり、好ましくは0.5~5mmol/gである。キレート基の含有量がこの範囲にあると、重金属イオンが迅速に捕捉でき、重金属イオン捕捉量も十分であるため好ましい。
【0020】
キレート基が導入される高分子化合物には、特に制限はなく、ビニルポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、多糖類、セルロースなどを用いることができるが、キレート基が導入された時点で水溶性であることが好ましいため、上記高分子化合物は親水性であることが好ましい。
【0021】
また、キレート基含有高分子化合物の分子量は、重量平均分子量で10,000~1,000,000、好ましくは50,000~1,000,000である。重量平均分子量がこの範囲にあると、十分な機械的強度が確保でき、電極塗工時の粘性も問題のない範囲に調整できるため好ましい。
【0022】
本発明で言うキレート基含有高分子化合物とは、キレート基が共有結合および/またはイオン結合を介して高分子化合物と結合しているものを指す。本発明において、キレート基がイオン結合性を介して高分子化合物と結合していることが好ましい。
【0023】
キレート基が共有結合を介して高分子化合物と結合している場合、その構造の一例は、下記一般式(1)で示される。
PS-X-A-CL (1)
(式中、PSは酸性多糖類又は塩基性多糖類を表す。Xは-O-又は-N(R)-で示される基を表し、Rは水素原子又は炭素数が1~6の炭化水素基を表す。Aは3個~30個の炭素原子を有する有機基を表し、CLはキレート基を含む炭素数が1~30の有機基を表す。)
【0024】
一般式(1)中のPSは、酸性多糖類又は塩基性多糖類を表す。酸性多糖類とは、カルボキシル基や硫酸基等の酸性を示す官能基を含有している多糖類を指し、それらの例としては、カルボキシメチルセルロース、ジェランガム、アルギン酸、硫酸化アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン酸、アラビアガム、寒天、トラガントガムやそれらの塩が挙げられる。更に、キレート基導入量を著しく低下させない範囲で、中性多糖類や他の水溶性ポリマーと混合して用いても差し支えない。これらの酸性多糖類のうち、アルギン酸、硫酸化アルギン酸やそれらの塩が耐酸化性に優れ、機械的強度も高いことから好ましく用いられる。アルギン酸の構成成分であるマンヌロン酸とグルロン酸の比率は任意であり、柔軟なゲルを生成するマンヌロン酸比率の高いアルギン酸、剛直なゲルが得られるグルロン酸比率の高いアルギン酸、いずれも用いることができる。一方、塩基性多糖類とは、アミノ基等の塩基性を示す官能基を含有している多糖類を指し、それらの例としては、キトサンが挙げられる。
【0025】
また、上記多糖類に硫酸基が導入された硫酸化多糖類も、本発明で好適に用いられる。硫酸基は、塩基性塩のみならずNaClやCaCl等の中性塩もイオン交換可能な強酸性陽イオン交換基である。硫酸基の導入位置は、多糖類構造中に含まれる水酸基の部位であり、水酸基の水素が-SOHに置換されて導入される。硫酸基の多糖類への導入量は、0.5~5.0mmol/gであることが好ましい。硫酸基導入量が上記範囲であると、キレート基導入量を維持したまま耐酸化性が向上するため好ましい。
【0026】
一般式(1)中のXは-O-又は-N(R)-で示される基を表し、Rは水素原子又は炭素数が1~6の炭化水素基を表す。炭素数が1~6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、3-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、ネオヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)中のAは、3個~30個の炭素原子を有する有機基であり、プロピレン基やブチレン基、フェニレン基といった二価の炭化水素基やそれらの炭化水素基に水酸基等が導入された基が好ましく用いられる。これらスペーサーの若干の例としては、2-ヒドロキシプロピレンや2,2-ビス[4-(ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス(2-ヒドロキシプロピルオキシ)エチル、1,3-ビス(2-ヒドロキシプロピルオキシ)ベンゼンなどが例示される。なお、本発明で用いられる有機基とは、炭素、水素の他に酸素や窒素、リン、硫黄等のヘテロ原子が含まれた基を指すものである。
【0028】
一般式(1)中のCLは、キレート基を含んでいればよく、炭素数が1~30で炭素、水素の他に酸素や窒素、リン、硫黄等のヘテロ原子を含んでいても良い。CLとしては、上記キレート基のみでも構わないが、キレート基にメチル基やエチル基やフェニル基等の炭化水素基や、酢酸エステル等のエステル基、エチルエーテル等のエーテル基、安息香酸アミド等のアミド基、トルエンスルホン酸エステル等のスルホン酸エステル基等が結合していても良い。
【0029】
キレート基が共有結合を介して高分子化合物と結合している場合、キレート基をグラフト鎖中に導入した下記一般式(2)で示される構造を有する高分子化合物も本発明で好適に用いられる。
【0030】
【化1】
【0031】
(式中、PS、Xは、上記一般式(1)におけるPS、Xと同じ意味を表す。Bはキレート基を含み4~30個の炭素原子を有するビニルモノマー残基を表し、Dはキレート基を含まない4~30個の炭素原子を有するビニルモノマー残基を表し、l、mはそれぞれ独立して10~500の整数を表す。)
【0032】
上記一般式(2)において、キレート基はグラフトポリマー鎖中に導入され、共有結合を介して酸性多糖類又は塩基性多糖類と結合している。キレート基は上記一般式(1)のキレート基含有高分子化合物のキレート基と同じものが挙げられる。一般式(2)中のBで示されるキレート官能基を有するビニルモノマー残基としては、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を有するビニルモノマー残基中のエポキシ基とアミノ基とキレート官能基を有する化合物中のアミノ基との反応生成物等が例示される。また、一般式(2)中のDで示されるキレート基を含まない4~30個の炭素原子を有するビニルモノマー残基としては、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を有するビニルモノマー残基中のエポキシ基がそのまま残存するビニルモノマー残基や、加水分解して開環したビニルモノマー残基のみならず、エポキシ基を有していないビニルモノマー残基が例示される。
【0033】
キレート基が共有結合を介して高分子化合物と結合していることは、例えばキレート基を導入する前後で増加した重量を測定することにより確認することができる。
【0034】
一方、キレート基がイオン結合を介して高分子化合物と結合している場合、アニオン性官能基を有する高分子化合物とカチオン基性官能基を有するキレート基含有化合物がイオン結合により結合されている構造が例示される。アニオン性官能基としてはカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等が挙げられる。アニオン性官能基を有する高分子化合物の具体例としては、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(イタコン酸)、ポリ(マレイン酸)、エチレン‐マレイン酸共重合体、イソブテン‐マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル‐マレイン酸共重合体、スチレン‐マレイン酸共重合体、ポリ(フマル酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)、ポリ(2-スルホエチルアクリレート)、ポリ(3-スルホプロピルメタクリレート)、ポリ(3-スルホプロピルアクリレート)、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリ(4-スルホブチルアクリレート)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリ(2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)及びこれらの共重合体からなるビニルポリマー;カルボキシメチルセルロース、ジェランガム、アルギン酸、硫酸化アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン酸、アラビアガム、寒天、トラガントガム等の酸性多糖類が挙げられる。これらのポリマーは、耐酸化性や耐還元性が許容される範囲で、他のモノマーと共重合しても差し支えない。これらの高分子化合物の中で、正極用バインダとしては耐酸化性が高い酸性多糖類が好ましく用いられ、アルギン酸や硫酸化アルギン酸がさらに好ましく用いられる。一方、負極用バインダとしては、耐還元性に優れたポリ(アクリル酸)、ポリ(スチレンスルホン酸)やそれらの共重合体、アルギン酸や硫酸化アルギン酸が好ましく用いられる。
【0035】
一方、カチオン基性官能基を有するキレート基含有化合物としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等を含むキレート基含有化合物が挙げられる。具体的な化合物としては、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)グリシン、1,2‐ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、ビス(2‐アミノエチル)エチレングリコール四酢酸、ビス(2‐アミノフェニル)エチレングリコール四酢酸、N‐(2‐ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、テトラキス(2‐ピリジルメチル)エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン六酢酸、アミノメチルホスホン酸、アミノエチルホスホン酸、アミノプロピルホスホン酸、ニトリロトリス(メチルホスホン酸)及びそれらの塩が挙げられる。上記化合物中の酢酸基やホスホン酸基は、プロトン形よりもアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの一価の塩形である方が重金属イオンとイオン交換しやすいため好ましい。
【0036】
キレート基がイオン結合を介して高分子化合物と結合していることは、例えばFT-IR測定により確認することができる。
【0037】
リチウムイオン電池電極用バインダにおいては、キレート基含有高分子化合物のみからなるものであってもよいが、他のバインダ成分を含む場合は、キレート基含有高分子化合物の含有量が10質量%以上であることが好ましい。他のバインダとしては、正極用バインダであればポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂が、負極用バインダであればポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂や、スチレン‐ブタジエン共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体等の炭化水素系エラストマーや、ポリイミド等を用いることができる。
【0038】
上記キレート基含有高分子化合物を含むバインダの配合量は、活物質、バインダ、導電助剤の合計量に対して1~20質量%であることが好ましく、3~10質量%であることがより好ましい。
【0039】
バインダは柔軟性に富むため、充放電時の電極の体積変化に追従可能であり、体積変化に伴う電極の割れやそれに伴う活物質の剥離・脱落や導電チャンネルの破壊を防止できる。更に、本発明のバインダは、電解液との親和性に優れるためイオン伝導性にも優れている点や、耐酸化性や耐還元性に優れ電極の安定性を確保できる等、リチウムイオン電池電極用バインダとして卓越した性能を有している。
【0040】
更に、バインダにおいてはキレート基が導入されており、このキレート基によって正極活物質から溶出するマンガンイオン等は正極及び/または負極近傍で捕捉され、負極活物質への析出・堆積が抑制されるため、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できる。
【0041】
本発明において、正極活物質は、リチウムイオンの挿入及び/または脱離が可能であれば特に制限はなく、例えば、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、Fe、Ni、CoO等の遷移金属酸化物や、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNiCo(1-X)、LiNiCoAl(a+b+c=1)、LiNiMn(2-X)、LiMnNiCo(a+b+c=1)、LiFePO、LiMnFe(1-X)PO等のリチウム複合酸化物が挙げられる。これらの中で、Co、Ni、Mn等の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の遷移金属とリチウムの複合酸化物が好ましく、具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiNiCo(1-X)、LiNiCoAl(a+b+c=1)、LiNiMn(2-X)、LiMnNiCo(a+b+c=1)、LiMnFe(1-X)POが挙げられる。これらのリチウム複合酸化物には、少量のフッ素、ホウ素、Al、Cr、Zr、Mo、Fe等の元素をドープしても良いし、リチウム複合酸化物の粒子表面を炭素、MgO、Al、SiO等で表面処理しても良い。
【0042】
本発明において、負極活物質は、リチウムイオンの挿入及び/または脱離が可能であれば特に制限はなく、例えば、リチウム金属、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、スズ及び/又はスズ合金、スズ酸化物、ケイ素及び/又はケイ素合金、ケイ素酸化物などが挙げられる。なお、負極活物質が合金である場合、その負極活物質には、リチウムと合金化する材料が含まれていてもよい。なお、ここで、リチウムと合金化する材料としては、例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびこれらの合金などが挙げられる。
【0043】
これら活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0044】
これら活物質の配合量は、活物質、バインダ、導電助剤の合計量に対して70~98質量%であることが好ましい。
【0045】
電極中に含まれる導電助剤についても特に制限はなく、電池特性に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンウィスカー、カーボンナノチューブ、炭素繊維粉末等の炭素材料や、Cu、Fe、Ag、Ni、Pd、Au、Pt、In、W等の金属粉末や金属繊維や、酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物が挙げられる。これら導電助剤の配合量は、上記活物質に対して1~30質量%が好ましい。
【0046】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを詳細に説明する。
【0047】
本発明の一態様であるリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーは、上記バインダ、活物質、導電助剤及び水を含むものである。該スラリーには、必要に応じてカルボキシメチルセルロース等の粘度調節剤や、酸、アルカリ等のpH調節剤を含んでいても良い。上記スラリーの固形分濃度は、特に限定されないが、スラリーの粘度、固形分の分散性、乾燥工程への負荷等を考慮して20~80質量%が好ましい。また、上記スラリー中の固形分の比率は、質量比で、正極活物質:導電助剤:バインダ=70~98:1~30:1~20が好ましい。上記スラリーの製造方法についても特に制限はなく、バインダ、活物質、導電助剤を一括で水に混合・分散・溶解させ、スラリーを作製する方法や、最初にバインダを水に溶解させ、次いで活物質と導電助剤をバインダ水溶液に添加し、混合してスラリーを作製する方法や、最初に活物質と導電助剤を混合し、次いでバインダ水溶液と混合する方法等が挙げられる。また、スラリー作製に用いるミキサーにも特に制約はなく、乳鉢、ロールミル、ボールミル、スクリューミル、振動ミル、ホモジナイザー、遊星式ミキサー等が用いられる。
【0048】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池用電極を詳細に説明する。
【0049】
本発明の一態様であるリチウムイオン電池用電極は、上記バインダを含むものである。リチウムイオン電池用電極は、上記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて得られる電極合材層と、集電体とから構成される。活物質、バインダ、導電助剤よりなる電極合材層の厚さは、10~200μmが好ましく、この厚みの電極合材層を集電体上に形成させるためには、電極合材層の目付を4~25mg/cmに設定すると良い。
【0050】
上記集電体は、電極合材層と接する面が導電性を示す導電体であればよく、銅、金、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼もしくはそれらの合金等の金属や酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物や導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電体が例示される。集電体の形状については特に制限はなく、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡体等の形状が採用可能である。集電体の厚みについても特に制限がなく、1~100μm程度であることが好ましい。
【0051】
リチウムイオン電池用電極の製造方法には特に制約はなく、上記スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させて製造することができる。スラリーの塗布方法についても制約はなく、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ディップコート、ブレードコート、ナイフコート、ワイヤーバーコート等の方法を用いることができる。乾燥方法、条件についても特に制約はなく、通常の温風循環型乾燥機や減圧乾燥機、赤外線乾燥機、マイクロ波加熱乾燥機を用いることができる。加熱温度にも制限はなく、50~150℃で加熱し乾燥することができる。更に、乾燥途中や乾燥後に電極を加圧しプレスすることで、多孔構造を均一にすることもできる。
【0052】
以下、本発明の一態様であるリチウムイオン電池を詳細に説明する。
【0053】
本発明の一態様であるリチウムイオン電池は、上記リチウムイオン電池用電極を有することを特徴とする。ここで、リチウムイオン電池として、リチウムイオン一次電池とリチウムイオン二次電池を例示できる。上記リチウムイオン電池用電極を用いることで、優れた充放電特性と長寿命化が達成された高性能なリチウムイオン電池を提供することができる。
【0054】
リチウムイオン電池は、一般的に正極、負極、セパレータ、非水電解液等から構成され、そのセル形状は、円筒形、角型、ラミネート型、コイン型が代表的である。正極は、上記の正極活物質を上記の導電助剤とともにバインダにより正極集電体上に結着させたものであり、正極活物質、バインダ、導電助剤からなる正極合材層が集電体上に形成された構造を有している。負極も正極と類似の構造を有しており、下記の負極活物質と上記の導電助剤をバインダにより負極集電体上に結着させたものである。セパレータはポリオレフィン等の多孔フィルムが一般的に用いられ、電池が熱暴走した際にシャットダウン機能を担うため、正極と負極の中間に挟み込まれる。非水電解液はLiPF等の電解質塩を環状カーボネート等の有機溶媒に溶解させたものである。電池内部は非水電解液で満たされており、リチウムイオンは、一次電池においては、放電時に負極から正極に移動し、二次電池においては、充電時には正極から負極に移動し、放電時には負極から正極に移動する。
【0055】
非水電解液も特に制約はなく、公知の材料を用いることができる。非水電解液は電解質塩を有機溶媒に溶解させたものであり、電解質塩としては、CFSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiB(C、LiPF、LiClO、LiAsF、LiCl、LiBr等が例示される。電解質塩を溶解させる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2‐ジメトキシエタン、1,2‐ジエトキシエタン、γ‐ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオキサン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。非水電解液中の電解質塩の濃度は、0.1~5mol/L、好ましくは0.5~3mol/Lの範囲で選択できる。
【0056】
セパレータに関しても特に制約はなく、公知のセパレータを用いることができる。セパレータの例としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、ポリエチレン製微多孔膜とポリプロピレン製微多孔膜との積層膜や、ポリエステル繊維、アラミド繊維、カラス繊維等からなる不織布が挙げられる。
【実施例0057】
以下に、本発明を更に詳細に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<キレート基含有高分子化合物の製造>
(参考例1)共有結合でイミノ二酢酸基を導入したアルギン酸の製造
純水50mlにアルギン酸ナトリウム(青島聚大洋藻業集団有限公司製、重量平均分子量1,300,000)0.50g(単糖ユニットとして2.5mmol)を撹拌下少量ずつ添加し、粘調な均一溶液を作製した。次いで、水酸化ナトリウム(東京化成製)0.10g(2.5mmol)を添加、溶解させた後、エピクロロヒドリン(東京化成製)3.10g(50mmol)を添加し、20℃で6時間反応させた。反応後の溶液をエタノール2Lに滴下して沈殿を生成させ、沈殿物をろ過により回収し、更にエタノールで洗浄した後、減圧乾燥して単離した。単離収量は0.43gで、水に易溶であった。上記反応生成物を0.30g秤量し、純水100mlに溶解させた。次いで、イミノ二酢酸二ナトリウム一水塩(富士フィルム和光純薬製)8.4g(43mmol)を添加、溶解させ、80℃にて2時間反応させた。反応後の水溶液は限外ろ過膜(日本ポール製、分画分子量1000)で24時間精製し、過剰量のイミノ二酢酸を除去した。精製後の水溶液をアセトン中に滴下することでポリマーを沈殿させ、濾過、回収し減圧乾燥して単離した。単離収量は0.33g、水に可溶で、水系GPCを用いて測定した重量平均分子量は370,000であった。窒素含有量は2.2重量%であり、窒素含有量から算出したキレート基含有量は1.6mmol/gであった。
【0059】
(参考例2)イオン結合でイミノ二酢酸二ナトリウム基を導入したアルギン酸の製造
純水100mlに水素イオン形アルギン酸(株式会社キミカ製、商品名キミカアシッドG)1.0g(単糖ユニットとして5.7mmol)を撹拌下少量ずつ添加し、白色糊状均一分散液を作製した。次いで、イミノ二酢酸二ナトリウム一水和物(富士フィルム和光純薬製)1.1g(5.7mmol)を、そのまま上記アルギン酸分散液に添加、撹拌した。添加に伴い分散液は徐々に透明となり、滴下終了後、透明粘調な水溶液となった。この水溶液を室温にて1時間撹拌した後、アセトン4Lに滴下し、沈殿を生成させた。得られた沈殿物はろ過により回収し、更にアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して単離した。単離収量は1.9g、元素分析で求めた窒素含有量は3.7質量%、窒素含有量から算出したキレート基含有量は2.6mmol/gであり、水に易溶であった。キレート基がアルギン酸に導入されていることを確認するため、反応前後でFT-IRスペクトルを比較した。反応前の水素イオン形アルギン酸は、1740cm-1にカルボン酸のカルボニルの伸縮振動に由来する吸収が認められたのに対し、反応後では1740cm-1の吸収が消失し、1620cm-1にカルボン酸塩のカルボニルの伸縮振動に由来する新たな吸収が認められた。このことから、アルギン酸とイミノ二酢酸がイオン結合を介して結合したことがわかる。次いで、キレート基含有高分子化合物の分子量を水系GPCで測定した。重量平均分子量は320,000であった。
【0060】
(参考例3)イオン結合でニトリロトリス(メチレンホスホン酸ナトリウム)基を導入したアルギン酸の製造
水素イオン形アルギン酸の添加量を2.0g(単糖ユニットとして11.4mmol)としたことと、イミノ二酢酸二ナトリウム一水和物に代えてニトリロトリス(メチレンホスホン酸)50%水溶液(東京化成製)5.2ml(11.4mmol)と1N水酸化ナトリウム水溶液(富士フィルム和光純薬製)68.4ml(68.4mmol)を用いたことを除いて、参考例2と同様の操作でキレート基導入アルギン酸を製造した。単離収量は6.7g、元素分析で求めた窒素含有量は1.8質量%、窒素含有量から算出したキレート基含有量は1.3mmol/gであり、水に易溶であった。キレート基がアルギン酸に導入されていることを確認するため、反応前後でFT-IRスペクトルを比較した。反応前の水素イオン形アルギン酸は、1740cm-1にカルボン酸のカルボニルの伸縮振動に由来する吸収が認められたのに対し、反応後では1740cm-1の吸収が消失し、1620cm-1にカルボン酸塩のカルボニルの伸縮振動に由来する新たな吸収が認められた。このことから、アルギン酸とイミノ二酢酸がイオン結合を介して結合したことがわかる。次いで、キレート基含有高分子化合物の分子量を水系GPCで測定した。重量平均分子量は350,000であった。
【0061】
<ラミネートセルの製造>
(実施例1)
以下の材料から正極用スラリーを調製し、正極を作製した。
正極活物質:マンガン酸リチウム
(LMO:自社で試作LiMn、結晶相:スピネル) 94質量部
導電助剤:アセチレンブラック
(AB:デンカ(株)製Li-400) 3質量部
バインダ:キレート基含有アルギン酸(参考例1) 3質量部
【0062】
参考例1で製造したキレート基含有アルギン酸3質量部を水に溶解させ、水溶液を調製した。この水溶液にLMO94質量部とAB3質量部を添加し、水を添加しながら遊星式ミキサーで撹拌して正極用スラリーを調製した。このスラリーをフィルムアプリケーターにてアルミニウム箔上に塗布し、80℃で24時間窒素下常圧乾燥し、更に、120℃4時間減圧乾燥を行い、正極を作製した。目付は1.50mAh/cmであった。なお、作製した正極を直径8mmの円柱に巻き付け、正極の外観を観察した。正極の外観は良好で、合材層のクラック、集電体からの剥離、脱落等は認められなかった。
【0063】
次に、以下の材料から負極用スラリーを調製し、負極を作製した。
負極活物質:塊状人造黒鉛
(Gr:昭和電工マテリアルズ(株)製MAG‐D) 95質量部
バインダ:ポリフッ化ビニリデン
(PVDF:ソルベイ製ソレフ5130) 5質量部
【0064】
上記PVDF5質量部をN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に溶解させ、この溶液にGr95質量部を添加し、NMPを添加しながら遊星式ミキサーで撹拌して負極用スラリーを調製した。このスラリーをフィルムアプリケーターにて銅箔上に塗布し、80℃で24時間窒素下常圧乾燥し、更に、150℃4時間減圧乾燥を行い、負極を作製した。目付は1.80mAh/cmであり、AC比は1.20であった。
【0065】
このようにして得られた正極、負極を用いて、以下のようにしてラミネートセルを作製した。すなわち、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(1/1)混合溶媒にビニレンカーボネートを1質量%となるように添加し、更に、1mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウムを溶解させて電解液とし、セパレータにはアルミナ片面コートポリエチレン製微多孔膜(Senior製)を用いた。そして、上記正極と負極をセパレータの両側に配置して積層し、電解液を注液してラミネートセルを作製した。
【0066】
(実施例2)
正極用バインダに参考例2で得られたキレート基含有高分子化合物を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0067】
(実施例3)
正極用バインダに参考例3で得られたキレート基含有高分子化合物を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0068】
(比較例1)
正極用バインダにPVDF(ソルベイ製ソレフ5130)を用いたことと、溶媒にNMPを用いて正極用スラリーを作製したことを除いて、実施例1と同様の操作にてラミネートセルを作製した。
【0069】
<充放電特性評価>
実施例1~3及び比較例1で得られたラミネートセルを用いて、下記条件にて充放電特性を評価した。
充電:定電流定電圧(CCCVモード)
放電:定電流(CCモード)
電位範囲:3.0~4.2V
Cレート:1C
温度:60℃
【0070】
上記条件下にて、充放電を100サイクル行った。結果を図1に示す。図1は、実施例1、実施例2、比較例1で得られたラミネートセルの充放電サイクル特性を示すグラフであり、サイクル数による放電容量の推移を示している。この結果より、バインダに本発明に係るキレート基含有高分子化合物を用いた実施例1及び実施例2の系は、サイクル数が増加しても放電容量の低下は少なく、安定した充放電が可能であるのに対し、バインダにPVDFを用いた比較例1の系では、サイクル数の増加に伴い放電容量の低下が認められた。なお、100サイクル後の放電容量の容量維持率は、実施例1で88.4%、実施例2で86.2%、比較例1で81.3%であった。また、実施例3のラミネートセルの充放電サイクル特性も良好であり、100サイクル後の放電容量の容量維持率は、実施例3で88.6%であった。
【0071】
<正極の製造>
(実施例4)
正極活物質としてLMOに代えてリチウム複合酸化物であるNCM523(株式会社豊島製作所製)を用いたこと、正極合剤層の組成を活物質:AB:バインダ=94:4:2に変更したことを除いて、実施例1と同様の操作で正極を作製した。得られた正極を直径8mmの円柱に巻き付け、正極の外観を観察したところ、正極の外観は良好で、合材層のクラック発生、集電体からの剥離、脱落等は認められなかった。
【0072】
(実施例5)
正極活物質としてLMOに代えて電解二酸化マンガン(EMD:東ソー株式会社製)を用いたこと、正極合剤層の組成を活物質:AB:バインダ=93:3:4に変更したことを除いて、実施例1と同様の操作で正極を作製した。得られた正極を直径8mmの円柱に巻き付け、正極の外観を観察したところ、正極の外観は良好で、合材層のクラック発生、集電体からの剥離、脱落等は認められなかった。
【0073】
<正極活物質促進劣化試験>
(実施例6)
参考例1で製造したキレート基含有高分子化合物0.05gを純水20mlに溶解させ、次いでLMO0.95gを加え、撹拌してスラリーを作製した。該スラリーを加熱してエバポレーターにて水を除去した後、得られた混合物を乳鉢で粉砕し、120℃で減圧乾燥して水を完全に除去した。グローブボックス内で、該混合物に電解液(1M LiPF、EC/DMC=1/2、キシダ化学製)15mlを加え密閉して、85℃で4日間加熱した。加熱処理後濾過により電解液を回収し、電解液中のMn量を測定したところ、1ppm未満であった。このことは、LMOから溶出したMnイオンがキレート基含有高分子化合物に捕捉されていることを示しており、キレート基含有高分子化合物を添加したラミネートセルの高い容量維持率は、Mnの負極への蓄積抑制の結果であると考えられる。
【0074】
(実施例7)
参考例1で製造したキレート基含有高分子化合物0.05gに代えて参考例2で製造したキレート基含有高分子化合物0.25gを用いたこと、LMO0.95gに代えてNCM523 4.75gを用いたこと、加熱処理日数を4日間から18日間に変更したことを除いて、実施例6と同様の条件・操作で促進劣化試験を行った。加熱処理後の電解液中のMn、Ni量はいずれも1ppm未満であった。
【0075】
(実施例8)
参考例1で製造したキレート基含有高分子化合物0.05gに代えて参考例2で製造したキレート基含有高分子化合物0.25gを用いたこと、LMO0.95gに代えてEMD4.75gを用いたこと、電解液に1M LiClO、PC/DME=1/1(富山薬品工業製)を用いたこと、加熱処理条件を85℃×4日間から80℃×30日間に変更したことを除いて、実施例6と同様の条件・操作で促進劣化試験を行った。加熱処理後の電解液中のMn量は1ppm未満であった。
【0076】
(比較例2)
キレート基含有高分子化合物を添加せずLMO1.0gを用いたことを除いて、実施例6と同様の条件・操作で促進劣化試験を行った。加熱処理後の電解液中のMn量は14ppmであり、Mnの溶出が認められた。
【0077】
(比較例3)
キレート基含有高分子化合物を添加せずNCM523 5.0gを用いたことを除いて、実施例7と同様の条件・操作で促進劣化試験を行った。加熱処理後の電解液中のMn、Ni量はそれぞれ1ppm、28ppmであり、MnおよびNiの溶出が認められた。
【0078】
(比較例4)
キレート基含有高分子化合物を添加せずEMD5.0gを用いたことを除いて、実施例8と同様の条件・操作で促進劣化試験を行った。加熱処理後の電解液中のMn量は28ppmであり、Mnの溶出が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明によれば、電極作製時の作業性に優れ、充放電特性に優れ、サイクル寿命が延長された電極を作製可能とするリチウムイオン電池電極用バインダ及びリチウムイオン電池電極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン電池用電極及びリチウムイオン電池を提供することが可能となる。
図1