(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124844
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】クロマトグラフィ用カラムの製造方法、被膜形成装置、及び被膜形成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/56 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G01N30/56 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027000
(22)【出願日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2022027635
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】503446992
【氏名又は名称】誠南工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】522074800
【氏名又は名称】ナノテクノロジー・インスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】藪田 勇気
(72)【発明者】
【氏名】亀井 龍真
(72)【発明者】
【氏名】柳田 剛
(72)【発明者】
【氏名】長島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 綱己
(72)【発明者】
【氏名】細見 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 潤
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓也
(72)【発明者】
【氏名】金井 真樹
(57)【要約】
【課題】細管の内壁にナノワイヤを均一に形成することができるクロマトグラフィ用カラムの製造方法を提供する。
【解決手段】クロマトグラフィ用カラムの製造方法は、酢酸亜鉛溶液、硝酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液、及び過塩素酸亜鉛溶液からなる群より選ばれる第1溶液を、細管の内壁に塗布する塗布工程(S2)と、第1溶液が塗布された細管を加熱すると共に、細管内にガスを流通させることによって、細管の内壁に酸化亜鉛の被膜を形成する被膜形成工程(S3)と、硝酸亜鉛溶液、酢酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、及び塩化亜鉛溶液からなる群より選ばれる第2溶液を、酸化亜鉛の被膜が形成された細管に通液することによって、細管の内壁に酸化亜鉛のナノワイヤを形成する通液工程(S5)とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細管の内壁にナノワイヤが形成されたクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、
酢酸亜鉛溶液、硝酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液、及び過塩素酸亜鉛溶液からなる群より選ばれる第1溶液を、前記細管の内壁に塗布する塗布工程と、
前記第1溶液が塗布された前記細管を加熱すると共に、前記細管内にガスを流通させることによって、前記細管の内壁に酸化亜鉛の被膜を形成する被膜形成工程と、
硝酸亜鉛溶液、酢酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、及び塩化亜鉛溶液からなる群より選ばれる第2溶液を、酸化亜鉛の被膜が形成された前記細管に通液することによって、前記細管の内壁に酸化亜鉛のナノワイヤを形成する通液工程とを含むことを特徴とするクロマトグラフィ用カラムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、
前記被膜形成工程において、前記細管内に酸素を含むガスを流通させることを特徴とするクロマトグラフィ用カラムの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、
前記通液工程において、ヘキサメチレンテトラミン及びポリエチレンイミンが添加された前記第2溶液を、前記細管に通液することを特徴とするクロマトグラフィ用カラムの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、
前記通液工程に先立って、前記塗布工程及び前記被膜形成工程を所定の回数繰り返すことを特徴とするクロマトグラフィ用カラムの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、
前記塗布工程に先立って、前記細管を300℃以上に加熱する加熱工程を含むことを特徴とするクロマトグラフィ用カラムの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、
前記ナノワイヤが形成された前記細管内に無機化合物を含む原料ガスを流通させることによって、前記無機化合物で前記ナノワイヤを被覆するナノワイヤ被膜工程を含むことを特徴とするクロマトグラフィ用カラムの製造方法。
【請求項7】
細管の内壁に無機化合物の被膜を形成する被膜形成装置において、
前記細管の一端が接続される第1ジョイントがガスの流通方向の下流側の端部に設けられた上流側配管、及び前記細管の他端が接続される第2ジョイントがガスの流通方向の上流側の端部に設けられた下流側配管で構成される主配管と、
一端が前記上流側配管の第1位置に接続され、他端が前記下流側配管の第2位置に接続されたバイパス配管と、
前記上流側配管の前記第1位置よりガスの流通方向の上流側にキャリアガスを供給するキャリアガス供給装置と、
前記上流側配管の前記第1位置よりガスの流通方向の上流側に前記無機化合物を含む原料ガスを供給する原料供給装置と、
前記下流側配管の前記第2位置よりガスの流通方向の下流側からガスを排気する排気装置と、
前記キャリアガス供給装置及び前記第1位置の間で前記上流側配管を開閉する第1バルブと、
前記第1位置及び前記第1ジョイントの間で前記上流側配管を開閉する第2バルブと、
前記第2ジョイント及び前記第2位置の間で前記下流側配管を開閉する第3バルブと、
前記第2位置及び前記排気装置の間で前記下流側配管を開閉する第4バルブと、
前記原料供給装置及び前記第1位置の間で前記上流側配管を開閉する第5バルブとを備えることを特徴とする被膜形成装置。
【請求項8】
請求項7に記載の被膜形成装置の前記第1ジョイント及び前記第2ジョイントに接続された細管の内壁に無機化合物の被膜を形成する被膜形成方法において、
前記第1バルブ及び前記第5バルブを閉じ、前記第2バルブ、前記第3バルブ、及び前記第4バルブを開いて、前記主配管、前記バイパス配管、及び前記細管内のガスを前記排気装置に排気させる第1工程と、
前記第2バルブ、前記第3バルブ、及び前記第4バルブを閉じ、前記第1バルブ及び前記第5バルブを開いて、前記キャリアガス及び前記原料ガスの混合ガスを前記主配管及び前記バイパス配管に供給する第2工程と、
前記第1バルブ、前記第4バルブ、及び前記第5バルブを閉じ、前記第2バルブ及び前記第3バルブを開いて、前記主配管及び前記バイパス配管内の前記混合ガスを前記第1ジョイント及び前記第2ジョイントを通じて前記細管T内に供給する第3工程と、
前記第1バルブ及び前記第5バルブを閉じ、前記第2バルブ、前記第3バルブ、及び前記第4バルブを開いて、前記主配管及び前記バイパス配管内のガスを前記排気装置に排気させる第4工程と、
前記第3バルブ、前記第4バルブ、及び前記第5バルブを閉じ、前記第1バルブ及び前記第2バルブを開いて、前記主配管、前記バイパス配管、及び前記細管内に前記キャリアガスを供給する第5工程と、
前記第1バルブ、前記第2バルブ、及び前記第5バルブを閉じ、前記第3バルブ及び前記第4バルブを開いて、前記主配管及び前記バイパス配管内のガスを前記排気装置に排気させる第6工程と、
前記第1バルブ及び前記第5バルブを閉じ、前記第2バルブ、前記第3バルブ、及び前記第4バルブを開いて、前記細管内のガスを前記排気装置に排気させる第7工程とを含むことを特徴とする被膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細管の内壁にナノワイヤが形成されたクロマトグラフィ用カラムの製造方法、被膜形成装置、及び被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィは、分析対象の混合物とカラムに充填された固定相との相互作用によって、混合物に含まれる各成分を分離して、含有率や含有比率を特定する分析手法である。ここで、カラムに充填される固定相は、クロマトグラフィの分解能や処理速度に大きな影響を与える。
【0003】
非特許文献1には、金属酸化物のナノワイヤを平面基板上に成形する技術が開示されている。そして、このようなナノワイヤをカラムの内壁に成形することができれば、分解能と処理速度とを両立した固定相として機能する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】柳田剛、他1名、“空間選択性に立脚した単結晶金属酸化物ナノワイヤの創製とナノ物性・機能デバイス”、第36回表面科学学術講演会、2017年、38巻7号、P.351-356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法で細管T内にナノワイヤを形成しようとすると、
図5の[従来例]の写真で示すように、細管Tの軸方向のうち、上流にはナノワイヤが形成されるものの、中央及び下流にはナノワイヤが形成されないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、細管の内壁にナノワイヤを均一に形成することができるクロマトグラフィ用カラムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、細管の内壁にナノワイヤが形成されたクロマトグラフィ用カラムの製造方法において、酢酸亜鉛溶液、硝酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液、及び過塩素酸亜鉛溶液からなる群より選ばれる第1溶液を、前記細管の内壁に塗布する塗布工程と、前記第1溶液が塗布された前記細管を加熱すると共に、前記細管内にガスを流通させることによって、前記細管の内壁に酸化亜鉛の被膜を形成する被膜形成工程と、硝酸亜鉛溶液、酢酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、及び塩化亜鉛溶液からなる群より選ばれる第2溶液を、酸化亜鉛の被膜が形成された前記細管に通液することによって、前記細管の内壁に酸化亜鉛のナノワイヤを形成する通液工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細管の内壁にナノワイヤを均一に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】クロマトグラフィ用カラムの製造方法のフローチャートである。
【
図2】クロマトグラフィ用カラムの製造過程における細管の内壁の状態を示す模式図である。
【
図3】加熱工程における細管の加熱温度とナノワイヤの形成結果との関係を示す図である。
【
図4】通液工程で使用される通液装置の概略図である。
【
図5】従来例及び実施例におけるナノワイヤの形成状況を比較する写真である。
【
図6】本実施形態に係る細管内のナノワイヤの形成状況を示す図である。
【
図7】本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの吸着力を示す図である。
【
図8】本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの分解能を示す図である。
【
図9】本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの分解能及び押込み圧力を示す図である。
【
図12】内壁に無機化合物の被膜を形成した細管の性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの製造方法を説明する。本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの製造方法は、細管Tの内壁に固定相としてのナノワイヤを形成する方法である。
図1は、クロマトグラフィ用カラムの製造方法のフローチャートである。
図2は、クロマトグラフィ用カラムの製造過程における細管Tの内壁の状態を示す模式図である。
【0011】
クロマトグラフィ用カラムのベースとなる細管Tは、例えば、内径寸法が50μm~200μm(例えば、100μm)で、長さが300mm~1500mm(例えば、1000mm)の中空の管である。また、細管Tは、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)製、ステンレス製、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)製などが考えられるが、本実施形態ではシリカ製の細管Tを用いることとする。
【0012】
まず、細管Tを加熱する加熱工程を実行する(S1)。加熱工程では、例えば、細管Tを載置したヒータを所定の温度まで上昇させる。また、加熱工程における細管Tの加熱温度(ヒータの設定温度)は、300℃(好ましくは、350℃)~400℃である。これにより、
図2(A)に示すように、細管Tの内壁に付着した不純物が除去される。但し、加熱工程において細管Tを加熱する方法は、前述の例に限定されない。
【0013】
図3は、加熱工程における細管Tの加熱温度とナノワイヤの形成結果との関係を示す図である。なお、細管Tの軸方向のうち、後述する塗布工程で酢酸亜鉛溶液が注入される側の端部を「上流」、軸方向の中央部を「中央」、上流と反対側の端部を「下流」と表記する。
【0014】
図3に示すように、加熱温度が200℃、250℃の場合、ナノワイヤが均一に形成されていないことが分かる。特に、細管Tの下流側では、ナノワイヤの密度が著しく低くなっている。一方、加熱温度が300℃、350℃、400℃の場合、細管Tの軸方向の全域において、ナノワイヤが均一に形成されていることが分かる。特に、加熱温度が350℃を超えると、細管Tの軸方向の全域に均一なナノワイヤが安定的に形成される。すなわち、加熱工程における加熱温度の下限値は、300℃(より好ましくは、350℃)が望ましい。一方、加熱温度の上限値は、細管Tの耐熱性に応じて決定(例えば、400℃)される。
【0015】
次に、加熱工程後の細管Tの内壁に酢酸亜鉛溶液を塗布する塗布工程を実行する(S2)。塗布工程では、例えば、酢酸亜鉛溶液を細管Tの一端から注入する。塗布工程で注入される酢酸亜鉛溶液には、例えば、エタノールアミンが添加される。各成分の濃度は、例えば、酢酸亜鉛が1mM~50M、エタノールアミンが1mM~5Mに設定される。これにより、
図2(B)に示すように、酢酸亜鉛溶液が細管Tの内壁に塗布される。但し、酢酸亜鉛溶液を塗布する方法は、前述の例に限定されず、後述する通液工程の方法を採用してもよい。
【0016】
次に、塗布工程後の細管Tの内壁に酸化亜鉛の被膜を形成する被膜形成工程を実行する(S3)。被膜形成工程では、酢酸亜鉛溶液が塗布された細管Tを加熱すると共に、細管T内にガスを流通させる。これにより、
図2(C)に示すように、塗布工程で塗布された酢酸亜鉛溶液が酸化されて、細管Tの内壁面上で酸化亜鉛の被膜となる。
【0017】
被膜形成工程では、例えば、細管Tを載置したヒータを所定の温度まで上昇させる。被膜形成工程における設定温度は、例えば、50℃~400℃(例えば、150℃)とする。また、被膜形成工程における加熱時間は、2秒~15分(例えば、10分)とする。但し、被膜形成工程において細管Tを加熱する方法は、前述の例に限定されない。
【0018】
このとき、細管Tの内部には、酢酸亜鉛溶液の溶媒であるエタノール、添加物であるエタノールアミン、酢酸亜鉛の分解生成物(主に、酢酸)などが気化(以下、これらを総称して、「気化物」と表記する。)して充満している。そのため、細管Tの内部の酸素が不足して、酢酸亜鉛溶液の酸化が阻害される。その結果、特に細管Tの中央及び下流において、酸化亜鉛の被膜が生成されにくくなる。そこで、被膜形成工程では、細管T内にガスを流通させる。ガスの成分は特に限定されないが、酸素を含んでいるのが望ましい。ガスの具体例としては、空気が挙げられる。これにより、細管Tの内部から気化物が排出されると共に、細管Tの内部に酸素が供給される。
【0019】
一例として、被膜形成工程では、細管T内に常にガスを流通させてもよい。他の例として、被膜形成工程では、所定の時間間隔で間欠的に(例えば、1分間隔で10秒間)、細管T内にガスを流通させてもよい。
【0020】
そして、塗布工程(S2)及び被膜形成工程(S3)は、所定の回数繰り返される(S4:No)。塗布工程及び被膜形成工程を繰り返す回数は、例えば、細管Tが長いほど多く、細管Tの内径が小さいほど多くしてもよい。また、被膜形成工程では、設定温度が高いほど加熱時間を短くすることができる。
【0021】
次に、塗布工程及び被膜形成工程を所定の回数繰り返した後に(S4:Yes)、細管Tに硝酸亜鉛溶液を通液する通液工程を実行する(S5)。通液工程で用いる硝酸亜鉛溶液には、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)及びポリエチレンイミン(PEI)等が添加される。各成分の濃度は、例えば、硝酸亜鉛が1mM~50mM、HMTAが1mM~50mM、PEIは0mM~5mMに設定される。これにより、
図2(D)に示すように、細管Tの内壁に酸化亜鉛の複数のナノワイヤが形成される。
【0022】
ナノワイヤは、針状または柱状の外形を呈する。また、ナノワイヤは、細管Tの内壁から径方向の内側に向かって突出している。ナノワイヤの突出長さは、例えば、1500μm~2500μm程度である。ナノワイヤの直径は、例えば、150μm~25μm程度である。
【0023】
図4は、通液工程で使用される通液装置1の概略図である。
図4に示すように、通液装置1は、収容室2と、密閉容器3、4と、ポンプ5と、バキューム6と、チューブ7、8とで構成される。なお、大きな圧力を加えることができるポンプ5を採用する場合には、バキューム6を省略することができる。また、細管Tに硝酸亜鉛溶液を通液する方法は、通液装置1を用いる方法に限定されない。
【0024】
収容室2は、内壁に酸化亜鉛の被膜が形成された細管Tと、密閉容器3、4とを収容する内部空間を有する。また、収容室2は、内部空間を所定の成長温度に維持することができる。成長温度は、例えば、40℃~100℃(例えば、95℃)に設定される。密閉容器3には、細管Tに通液される前の硝酸亜鉛溶液が貯留される。密閉容器4には、細管Tに通液された後の(すなわち、細管Tから排出された)硝酸亜鉛溶液が貯留される。ポンプ5は、チューブ7を介して密閉容器3に接続される。バキューム6は、チューブ8を介して密閉容器4に接続される。
【0025】
細管Tの一端は、密閉容器3内に挿入されて、硝酸亜鉛溶液に浸漬される。また、細管Tの他端は、密閉容器4内に挿入される。そして、ポンプ5によって密閉容器3内を加圧すると共に、バキューム6によって密閉容器4内を減圧する。これにより、密閉容器3内の硝酸亜鉛溶液が細管T内を通って、密閉容器4内に排出される。その結果、細管Tの内壁にナノワイヤが徐々に成長する。硝酸亜鉛溶液の通液時間は、例えば、3時間~8時間に設定される。通液時間は、収容室2内の成長温度が高いほど短く設定される。
【0026】
図5は、従来例及び実施例におけるナノワイヤの形成状況を比較する写真である。本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの製造方法によれば、
図5の[実施例]の写真に示すように、細管Tの軸方向の全域において、ナノワイヤが均一に形成されている。また、実施例は、従来例と比較して、特に細管Tの中央及び下流においてナノワイヤを均一に形成する効果が顕著である。
【0027】
図6は、本実施形態に係る細管T内のナノワイヤの形成状況を示す図である。より詳細には、
図6(A)は、軸方向に離間した位置A~Jにおける細管Tの内壁の写真である。
図6(B)は、位置A~Jにおけるナノワイヤの長さの分布を示している。
図6(C)は、位置A~Jにおけるナノワイヤの直径の分布を示している。位置A~Jは、1mの細管T内において、軸方向に10cmの間隔を隔てた位置である。
【0028】
図6を参照すれば明らかなように、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの製造方法によれば、軸方向に離間した位置A~Jにおけるナノワイヤの密度(
図6(A))、ナノワイヤの長さ(
図6(B))、ナノワイヤの直径(
図6(C))が均一になっていることが確認できる。
【0029】
図7は、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの吸着力を示す図である。
図7では、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラム(ZnO)と、シリカを固定相とする従来のカラム(Silica)とについて、様々な物質の吸着力を測定した結果を示している。
【0030】
図7を参照すれば明らかなように、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、安息香酸、ベンジルアミン、リン酸ベンゼンなど有機酸やアミン類に対して強い吸着力を発揮することが確認された。また、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、フェノールやベンジルアルコールに対しても一定の吸着力を発揮する。このように、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、酸及びアルカリの両方に対して、優れた分離材として期待できる。
【0031】
図8は、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの分解能を示す図である。
図8では、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラム(Nanowire array tube)と、固定相が充填されていないチューブ(Bare microtube)とについて、アミノ酸基、アルコール基、ケトン基を分離した結果を示している。
図8を参照すれば明らかなように、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、アミノ酸基、アルコール基、ケトン基を適切に分離できることが確認された。
【0032】
図9は、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムの分解能及び押込み圧力を示す図である。
図9では、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラム(Nanowire array tube)と、モノリスチューブ(Monolithic tube)とについて、アミノ酸基、アルコール基、ケトン基を分離した結果(
図9(A))と、混合液を注入するのに必要な押込み圧力を測定した結果(
図9(B))とを示している。
【0033】
図9(A)を参照すれば、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、モノリスチューブと比較して分解能が劣るものの、十分な分解能を有していることが確認された。また、
図9(B)を参照すれば、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、モノリスチューブと比較して、押込み圧力が極めて低いことが確認された。すなわち、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムによれば、混合液の分解能と処理速度とを両立することができる。
【0034】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0035】
上記の実施形態によれば、被膜形成工程で細管内にガスを流通させることによって、細管Tの軸方向の全域で、ナノワイヤを均一に形成することができる。特に、酸素を含むガスを流通させることによって、酸化亜鉛の被膜を効率的に形成することができる。
【0036】
また、上記の実施形態によれば、ヘキサメチレンテトラミンを硝酸亜鉛溶液に添加することによって、ナノワイヤを成長させる過程でのpH(水素イオン濃度)の調整及び安定化に寄与する。そして、pHを調整することによって、ナノワイヤの成長速度及び成長形態を最適化できる。また、ポリエチレンイミンを硝酸亜鉛溶液に添加することによって、ナノワイヤの成長方向の異方性が強化される。これにより、酸化亜鉛がワイヤ状に成長しやすくなる。
【0037】
また、上記の実施形態によれば、加熱工程における加熱温度を300℃以上にすることによって、塗布工程に先立って細管Tの内壁に付着した不純物を除去することができる。その結果、細管Tの全域に均一なナノワイヤを安定的に形成することができる。
【0038】
さらに、上記の実施形態によれば、細管Tの内壁から径方向の内側に突出したナノワイヤを固定相として利用することによって、細管Tの中央に十分な隙間が確保される。これにより、細管T内を混合液が通過する際の抵抗を低減することができる。その結果、混合液の分解能と処理速度とを両立することができる。なお、本実施形態に係るクロマトグラフィ用カラムは、液体クロマトグラフィのみならず、ガスクロマトグラフィにも適用することができる。
【0039】
なお、ステップS2の塗布工程において、細管Tの内壁に塗布するのは、酢酸亜鉛溶液に限定されず、硝酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液、過塩素酸亜鉛溶液などでもよい。すなわち、塗布工程では、酢酸亜鉛溶液、硝酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液、及び過塩素酸亜鉛溶液からなる群より選ばれる第1溶液を、細管Tの内壁に塗布すればよい。また、ステップS5の通液工程において、細管Tに通液するのは、硝酸亜鉛溶液に限定されず、酢酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、塩化亜鉛溶液でもよい。すなわち、通液工程では、硝酸亜鉛溶液、酢酸亜鉛溶液、硫酸亜鉛溶液、及び塩化亜鉛溶液からなる群より選ばれる第2溶液を、酸化亜鉛の被膜が形成された細管Tに通液すればよい。
【0040】
なお、クロマトグラフィの分離特性は、カラムの内壁を覆う材料によって変化する。しかしながら、
図1に示すクロマトグラフィ用カラムの製造方法で細管Tの内壁に形成できるナノワイヤの材質には限りがある。そのため、クロマトグラフィの所望の分離特性を得るには、
図1の方法で製造したクロマトグラフィ用カラムの内壁(すなわち、ナノワイヤの表面)を、別の材料で被覆すればよい。
【0041】
そこで、
図10を参照して、細管Tの内壁に無機化合物の被膜を形成する被膜形成装置10を説明する。被膜形成装置10は、細管Tの内壁に無機化合物の被膜を形成する装置である。なお、被膜形成装置10は、ナノワイヤが内壁に形成された細管Tのみならず、ナノワイヤが内壁に形成されていない(すなわち、内壁が平滑な)細管Tにも無機化合物の被膜を形成することができる。
【0042】
図10は、被膜形成装置10の概略図である。
図10に示すように、被膜形成装置10は、主配管11と、バイパス配管12と、キャリアガス供給装置13と、原料供給装置14と、排気装置15と、第1バルブ16と、第2バルブ17と、第3バルブ18と、第4バルブ19と、第5バルブ20とを備える。以下、ガスの流通方向の上流側を単に「上流側」と表記し、ガスの流通方向の下流側を単に「下流側」と表記する。
【0043】
主配管11は、キャリアガス供給装置13または原料供給装置14から供給されるガスが流通する配管である。また、主配管11は、被膜形成装置10に細管Tを接続するための配管である。主配管11は、上流側配管11aと、下流側配管11bと、第1ジョイント11cと、第2ジョイント11dとを備える。
【0044】
上流側配管11aは、キャリアガス供給装置13及び原料供給装置14と細管Tとを接続する。より詳細には、上流側配管11aは、後述する第1位置Aより上流側が二股に分岐して、それぞれがキャリアガス供給装置13及び原料供給装置14に接続されている。なお、各々が異なる無機化合物を供給する複数の原料供給装置14が接続される場合、上流側配管11aの第1位置Aより上流側をさらに分岐させればよい。また、上流側配管11aの下流側の端部には、第1ジョイント11cが設けられている。さらに、上流側配管11aは、第1ジョイント11cより上流側の第1位置Aにおいて、バイパス配管12の一端に接続されている。
【0045】
下流側配管11bは、細管Tと排気装置15とを接続する。より詳細には、下流側配管11bの上流側の端部には、第2ジョイント11dが設けられている。また、下流側配管11bの下流側の端部は、排気装置15に接続されている。さらに、下流側配管11bは、第2ジョイント11dより下流側の第2位置Bにおいて、バイパス配管12の他端に接続されている。
【0046】
第1ジョイント11c及び第2ジョイント11d(以下、これらを総称して、「ジョイント11c、11d」と表記することがある。)は、細管Tの端部が着脱される。また、ジョイント11c、11dは、細管Tとの接続部分を気密状態にする。なお、ジョイント11c、11dの構成は既に周知なので、詳細な説明は省略する。
【0047】
図10(A)に示すように、ジョイント11c、11dから細管Tを取り外すと、上流側配管11a及び下流側配管11bが切断される。一方、
図10(B)に示すように、細管Tの一端が第1ジョイント11cに接続され、細管Tの他端が第2ジョイント11dに接続されると、上流側配管11a、細管T、下流側配管11bで1本の配管が形成される。すなわち、ジョイント11c、11dに細管Tが接続されると、上流側配管11a及び下流側配管11bが細管Tを通じて連通する。
【0048】
バイパス配管12は、キャリアガス供給装置13または原料供給装置14から供給されるガスが流通する配管である。また、バイパス配管12は、一端が第1位置Aで上流側配管11aに接続され、他端が第2位置Bで下流側配管11bに接続された配管である。すなわち、バイパス配管12は、第1ジョイント11c及び第2ジョイント11dに接続された細管Tをバイパスして、上流側配管11aと下流側配管11bとを接続する配管である。
【0049】
キャリアガス供給装置13は、上流側配管11aの第1位置Aより上流側に接続されている。そして、キャリアガス供給装置13は、上流側配管11aにキャリアガスを供給する。キャリアガス供給装置13は、主配管11、バイパス配管12、及び細管Tの内圧を10000Pa(第1圧力)程度まで上昇させる程度にキャリアガスを圧送する能力を有する。キャリアガス供給装置13は、例えば、キャリアガスを圧縮して充填可能なガスボンベである。キャリアガスとしては、例えば、窒素ガスなどの不活性ガスが挙げられる。
【0050】
原料供給装置14は、上流側配管11aの第1位置Aより上流側に接続されている。そして、原料供給装置14は、上流側配管11aに原料ガスを供給する。原料供給装置14は、例えば、適切な蒸気圧を有する液体原料を充填した原料シリンダである。
【0051】
原料供給装置14から供給される原料ガスは、無機化合物を構成する金属材料を含む。被膜を構成する無機化合物としては、例えば、ZnO、HfO2、TiO2、Al2O3などが挙げられる。また、前述した無機化合物の原料となる金属材料としては、例えば、ジエチル亜鉛、テトラキス(ジメチルアミド)ハフニウム、テトラキス(ジメチルアミド)チタン、トリメチルアルミニウムなどが挙げられる。
【0052】
排気装置15は、下流側配管11bの第2位置Bより下流側に接続されている。そして、排気装置15は、主配管11からガス(空気、キャリアガス、原料ガス)を排気する。排気装置15は、主配管11、バイパス配管12、及び細管Tの内圧を20Pa~100Pa(第2圧力)程度まで下降させる程度にガスを排気する能力を有する。排気装置15は、例えば、ガスを吸引する真空ポンプである。なお、第1圧力及び第2圧力の具体的な数値は、前述の例に限定されない。但し、第2圧力は、第1圧力より十分に低い値に設定される。
【0053】
第1バルブ16~第5バルブ20(以下、これらを総称して、「バルブ16~20」と表記することがある。)は、主配管11の異なる位置に設置されている。そして、バルブ16~20は、主配管11の設置位置を開閉する。より詳細には、バルブ16~20は、主配管11を開放する開位置と、主配管11を閉塞する閉位置とに切替可能に構成されている。一例として、バルブ16~20は、作業者が手動で操作(開閉)されるものでもよい。他の例として、バルブ16~20は、コントローラから出力される制御信号によって操作(開閉)されるバルブでもよい。
【0054】
第1バルブ16は、キャリアガス供給装置13及び第1位置Aの間で上流側配管11aを開閉する。第2バルブ17は、第1位置A及び第1ジョイント11cの間で上流側配管11aを開閉する。第3バルブ18は、第2ジョイント11d及び第2位置Bの間で下流側配管11bを開閉する。第4バルブ19は、第2位置B及び排気装置15の間で下流側配管11bを開閉する。第5バルブ20は、原料供給装置14及び第1位置Aの間で上流側配管11aを開閉する。
【0055】
次に、
図11を参照して、被膜形成装置10を用いて細管Tの内壁に無機化合物の被膜を形成する方法を説明する。
図11は、被膜形成方法のフローチャートである。
図11に示す被膜形成方法は、所謂ALD(Atomic Layer Deposition)によって細管Tの内壁に無機化合物を堆積させて、被膜を形成する方法である。内壁にナノワイヤが形成された細管Tに対して実行される被膜形成方法は、ナノワイヤ被膜工程の一例である。
【0056】
なお、
図11に示す被膜形成方法は、
図10(B)に示すように、細管Tの一端が第1ジョイント11cに接続され、細管Tの他端が第2ジョイント11dに接続された状態で開始される。また、ジョイント11c、11dに接続された細管Tは、電気炉に収容されて所定の温度(例えば、250℃)に維持される。
【0057】
まず、作業者は、第1工程として、第1バルブ16及び第5バルブ20を閉じて、主配管11に対するキャリアガス及び原料ガスの供給を停止する。一方、第2バルブ17、第3バルブ18、及び第4バルブ19を開いて、排気装置15にガスを排気させる(S11)。これにより、主配管11、バイパス配管12、及び細管T内の空気が排気されて、内圧が第2圧力まで下降する。
【0058】
なお、ステップS11の状態は、所定の時間が経過するまで維持される。以降のステップS12~S17についても同様である。各ステップの状態を維持する時間は、実験またはシミュレーションによって、ガスが適切に充填または排出されるのに必要な時間が予め設定される。
【0059】
次に、作業者は、第2工程として、第2バルブ17、第3バルブ18、及び第4バルブ19を閉じ、第1バルブ16及び第5バルブ20を開いて、主配管11に対してキャリアガス及び原料ガスを供給する(S12)。一方、ステップS12では、排気装置15によるガスの排気を停止する。これにより、第1バルブ16及び第2バルブ17の間の上流側配管11a、第3バルブ18及び第4バルブ19の間の下流側配管11b、及びバイパス配管12にキャリアガス及び原料ガスの混合ガスが充填されて、内圧が第1圧力まで上昇する。一方、細管Tの内圧は、第2圧力に維持される。
【0060】
次に、作業者は、第3工程として、第1バルブ16、第4バルブ19、及び第5バルブ20を閉じて、主配管11に対するキャリアガス及び原料ガスの供給を停止する(S13)。また、ステップS13では、排気装置15によるガスの排気も停止する。さらに、ステップS13において、第2バルブ17及び第3バルブ18を開く。これにより、主配管11及びバイパス配管12の内圧(第1圧力)と、細管Tの内圧(第2圧力)との差によって、主配管11及びバイパス配管12内のキャリアガス及び原料ガスの混合ガスが、ジョイント11c、11dを通じて細管T内に充填される。これにより、細管Tの内圧は、第1圧力まで上昇する。なお、主配管11及びバイパス配管12の容積は、細管Tの容積より十分に大きいものとする。
【0061】
次に、作業者は、第4工程として、第1バルブ16及び第5バルブ20を閉じて、主配管11に対するキャリアガス及び原料ガスの供給を停止する(S14)。また、第2バルブ17、第3バルブ18、及び第4バルブ19を開いて、排気装置15にガスを排気させる。これにより、第1バルブ16及び第2バルブ17の間の上流側配管11a、第3バルブ18より下流側の下流側配管11b、バイパス配管12、及び細管T内のキャリアガス及び原料ガスの混合ガスが排気されて、内圧が第2圧力まで下降する。但し、細管Tが細くて長いためにガスの流れが悪く、細管T内からのガス排出速度が圧力の下降に伴い低下するため、細管T内の原料ガスを完全に除去することはできない。
【0062】
次に、作業者は、第5工程として、第3バルブ18、第4バルブ19、及び第5バルブ20を閉じ、第1バルブ16及び第2バルブ17を開いて、主配管11に対してキャリアガスを供給し、原料ガスの供給を停止する(S15)。一方、ステップS15では、排気装置15によるガスの排気を停止する。これにより、上流側配管11a、第3バルブ18及び第4バルブ19の間の下流側配管11b、及びバイパス配管12にキャリアガスが充填されて、内圧が第1圧力まで上昇する。さらに、第2バルブ17を開状態且つ第3バルブ18を閉状態にすることによって、細管Tには、第1ジョイント11cを通じて一端側のみからキャリアガスが進入する。その結果、細管T内の混合ガスが第2ジョイント11d側に偏る。
【0063】
次に、作業者は、第6工程として、第1バルブ16及び第5バルブ20を閉じて、主配管11に対するキャリアガス及び原料ガスの供給を停止する。また、第2バルブ17を閉じ、第3バルブ18及び第4バルブ19を開いて、排気装置15にガスを排気させる(S16)。これにより、第1バルブ16及び第2バルブ17の間の上流側配管11a、バイパス配管12、及び第2ジョイント11dより下流側の下流側配管11b(第3バルブ18より下流側の下流側配管11bを含む)内のガスが排気されて、内圧が第2圧力まで下降する。
【0064】
ここで、細くて長い細管T内はガスがスムーズに流れないので、細管T内のガスは第2ジョイント11dを通じて完全には排出されない。一方、第2バルブ17を閉じているので、第2バルブ17から第1ジョイント11cの間の内圧は第1圧力に維持される。そのため、細管T内で第2ジョイント11d側に偏って残留している混合ガスは、第2バルブ17から第1ジョイント11c内の第1圧力に維持されたキャリアガスに押されて、低速で第2ジョイント11d側に排出される。
【0065】
次に、作業者は、第7工程として、第1バルブ16及び第5バルブ20を閉じて、主配管11に対するキャリアガス及び原料ガスの供給を停止する。また、第2バルブ17、第3バルブ18、及び第4バルブ19を開いて、排気装置15にガスを排気させる(S17)。これにより、細管T内で第2ジョイント11d側に偏って残量している混合ガスは、第2ジョイント11dを通じて下流側配管11bに流出し、排気装置15によって排気される。また、第2バルブ17から細管Tの第1ジョイント11c側に残留するキャリアガスは、第2バルブ17を通じて上流側配管11a及びバイパス配管12に流出し、排気装置15によって排気される。その結果、主配管11、バイパス配管12、及び細管Tの内圧は、第2圧力まで下降する。
【0066】
次に、作業者は、ステップS12~S17の工程を所定回数繰り返したか否かを判定する(S18)。そして、作業者は、ステップS12~S17の工程を所定回数繰り返していないと判定した場合に(S18:No)、ステップS12以降の工程を再び実行する。すなわち、作業者は、最初にステップS11の工程を実行した後、ステップS12~S17の工程を所定回数繰り返す。一方、作業者は、ステップS12~S17の工程を所定回数繰り返したと判定した場合に(S18:Yes)、
図11の処理を終了する。
【0067】
なお、複数種類の原料ガスを細管Tに供給する場合、第1原料(例えば、無機化合物を構成する金属材料)を用いたステップS12~S17と、第2原料(例えば、水、酸素、オゾン、アンモニア)を用いたステップS12~S17とを交互に繰り返せばよい。
【0068】
図11のステップS13によれば、主配管11及びバイパス配管12の内圧(第1圧力)と、細管Tの内圧(第2圧力)との大きな差によって、細くて長い細管Tの全域に原料ガスを充填することができる。同様に、
図11のステップS16によれば、細管Tの上流部の内圧(第1圧力)と、細管Tの下流部の内圧(第2圧力)との大きな差圧によって、細くて長い細管Tの全域からキャリアガス及び原料ガスを排出することができる。
【0069】
すなわち、上記の被膜形成装置10及び被膜形成方法によれば、細管Tに対する原料ガスの充填及び排出を適切に行えるので、無機化合物の被膜を細管Tの全域に形成することができる。その結果、細管Tを用いたクロマトグラフィ用カラムにおいて、所望の分離特性を得ることができる。
【0070】
なお、
図11に示す被膜形成方法は、作業者が手動で実行することに代えて、被膜形成装置10に搭載されたコントローラによって実行されてもよい。コントローラは、例えば、プログラムを記憶するメモリと、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPUとで構成される。そして、コントローラは、
図11に示すタイミングで、キャリアガス供給装置13、原料供給装置14、排気装置15を駆動または停止すると共に、バルブ16~20を開閉してもよい。
【0071】
図12は、内壁に無機化合物(TiO
2)の被膜を形成した細管Tの性能を示す図である。より詳細には、
図12(A)は、内壁にTiO
2の被膜が形成された細管T(実施例)でカルボン酸を繰り返し分離した場合の保持時間の変化を示す図である。
図12(B)は、内壁にポリエチレングリコールの被膜が形成された細管T(比較例)でカルボン酸を繰り返し分離した場合の保持時間の変化を示す図である。
図12(C)は、実施例及び比較例の分離回数(1回~5回)毎の保持時間の変化を比較した図である。なお、
図12の試験では、雰囲気温度を350℃に設定した。
【0072】
図12(A)及び
図12(C)に示すように、実施例に係る細管Tによれば、クロマトグラフィを繰り返しても保持時間の変化はそれほど大きくない(すなわち、特性の変化が小さい)。一方、
図12(B)及び
図12(C)に示すように、比較例に係る細管Tによれば、クロマトグラフィを繰り返す度に保持時間の変化が大きくなる(すなわち、特性の変化が大きい)。以上のように、上記の被膜形成装置10及び被膜形成方法によれば、クロマトグラフィを繰り返すことによる特性の変化を抑えることができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…通液装置、2…収容室、3,4…密閉容器、5…ポンプ、6…バキューム、7,8チューブ、10…被膜形成装置、11…主配管、11a…上流側配管、11b…下流側配管、11c…第1ジョイント、11d…第2ジョイント、12…バイパス配管、13…キャリアガス供給装置、14…原料供給装置、15…排気装置、16…第1バルブ、17…第2バルブ、18…第3バルブ、19…第4バルブ、20…第5バルブ