(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124890
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】モータ装置、モータ制御方法、プログラムおよび記録媒体
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20230831BHJP
【FI】
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028743
(22)【出願日】2022-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】大石 純子
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD11
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ22
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】6相巻線を備えたスイッチトリラクタンスモータにおいて、各相の相電流を正確に制御してトルクを向上させることが可能なモータ装置、モータ制御方法、プログラムおよび記録媒体を提供する。
【解決手段】6相巻線の各相に電力を供給するスイッチインバータ部(20)と、スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御する制御部(30)とを備え、制御部(30)はスイッチインバータ部(20)から各相に供給される相電流を検知し、相電流から回転子(11)の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出し、d軸成分とq軸成分と直流成分に基づいて、6相巻線に供給する相電流をベクトル制御するモータ装置(100)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、
前記6相巻線の各相に電力を供給するスイッチインバータ部と、
前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記スイッチインバータ部から前記各相に供給される前記相電流を検知し、
前記相電流から前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出し、
前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御することを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記制御部は、前記直流成分を含めた6行6列の変換行列を用いて相座標系から前記回転座標系への変換を行い、前記直流成分を含めた6行6列の逆変換行列を用いて前記回転座標系から前記相座標系への逆変換を行うことを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記固定子に対する前記回転子の角度を検出する角度センサを備え、
前記制御部は、前記角度センサの検出結果から前記回転子の角速度を算出し、前記角度および前記角速度に基づいて前記q軸成分を導出することを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記制御部は、前記回転座標系における誘起電圧を算出し、前記誘起電圧に基づいて前記回転子の推定角速度および推定角度を算出し、前記推定角度および前記推定角速度に基づいて電圧指令値のδ軸成分およびγ軸成分を導出し、前記δ軸成分および前記γ軸成分をそれぞれ前記d軸成分および前記q軸成分として用いることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置の制御方法であって、
前記6相巻線の各相に供給される相電流を検知し、
前記相電流から、前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出し、
前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御することを特徴とするモータ装置の制御方法。
【請求項6】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置を制御するプログラムであって、
コンピュータに、
前記6相巻線の各相に供給される相電流を検知する手順と、
前記相電流から、前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出する手順と、
前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御する手順を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置を制御するプログラムを記録した記録媒体であって、
コンピュータに、
前記6相巻線の各相に供給される相電流を検知する手順と、
前記相電流から、前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出する手順と、
前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御する手順を実行させることを特徴とするプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置、モータ制御方法、プログラムおよび記録媒体に関し、特に、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータのモータ装置、モータ制御方法、プログラムおよび記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源として用いられている。また、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータも提案されている(例えば特許文献1を参照)。また、複数の相を備えた多相巻線を複数系統備えたモータ装置も提案されている。
【0003】
従来の三相巻線を2系統備えたモータ装置では、第1系統の三相巻線としてA相コイル、E相コイル、C相コイルを有し、第2系統の三相巻線としてD相コイル、B相コイル、F相コイルを有している。このような従来のモータ装置では、各相に対応したスイッチを用いて、各相の巻線に電流が流れるタイミングを交互に切替えることで、各相のコイルに適切に電流が流れて、スイッチトリラクタンスモータを回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来のモータ装置およびモータ制御方法では、各コイルに流れる相電流を検知してスイッチインバータ部の各スイッチをベクトル制御で切り替えている。また、ベクトル制御では、コイルの相座標系(ABCDEF)における電流成分と、回転子の回転座標系(d軸q軸)における電流成分とを変換行列および逆変換行列で変換して、回転子の突極に作用する磁界の変化を制御している。この際に用いられる変換行列と逆変換行列では、6相の各コイルに流れる相電流を回転座標系であるd軸成分とq軸成分に変換している。
【0006】
しかし従来のモータ制御装置およびモータ制御方法における変換では、A,C,Eの3相におけるd軸成分とq軸成分、およびB,D,Fの3相におけるd軸成分とq軸成分を算出しているため、A,C,Eの3相とB,D,Fの3相との間を流れる直流成分は制御対象とならず、6相全体での相電流を正確に制御することが困難であることを本願発明者は見出した。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、6相巻線を備えたスイッチトリラクタンスモータにおいて、各相の相電流を正確に制御してトルクを向上させることが可能なモータ装置、モータ制御方法、プログラムおよび記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、前記6相巻線の各相に電力を供給するスイッチインバータ部と、前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記スイッチインバータ部から前記各相に供給される前記相電流を検知し、前記相電流から前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出し、前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御することを特徴とする。
【0009】
このような本発明のモータ装置では、制御部が前記相電流から前記回転子の回転座標系におけるd軸成分とq軸成分と直流成分を導出し、d軸成分とq軸成分と直流成分に基づいて、6相巻線に供給する相電流をベクトル制御することで、各相の相電流を正確に制御してトルクを向上させることが可能となる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記直流成分を含めた6行6列の変換行列を用いて相座標系から前記回転座標系への変換を行い、前記直流成分を含めた6行6列の逆変換行列を用いて前記回転座標系から前記相座標系への逆変換を行う。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記固定子に対する前記回転子の角度を検出する角度センサを備え、前記制御部は、前記角度センサの検出結果から前記回転子の角速度を算出し、前記角度および前記角速度に基づいて前記q軸成分を導出する。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記回転座標系における誘起電圧を算出し、前記誘起電圧に基づいて前記回転子の推定角速度および推定角度を算出し、前記推定角度および前記推定角速度に基づいて電圧指令値のδ軸成分およびγ軸成分を導出し、前記δ軸成分および前記γ軸成分をそれぞれ前記d軸成分および前記q軸成分として用いる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明のモータ制御方法は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置の制御方法であって、前記6相巻線の各相に供給される相電流を検知し、前記相電流から、前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出し、前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御することを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明のプログラムは、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置を制御するプログラムであって、コンピュータに、前記6相巻線の各相に供給される相電流を検知する手順と、前記相電流から、前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出する手順と、前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御する手順を実行させることを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の記録媒体は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相からなる6相巻線が巻回され、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置を制御するプログラムを記録した記録媒体であって、コンピュータに、前記6相巻線の各相に供給される相電流を検知する手順と、前記相電流から、前記回転子の回転座標系におけるd軸成分と、q軸成分と、直流成分を導出する手順と、前記d軸成分と前記q軸成分と前記直流成分に基づいて、前記6相巻線に供給する前記相電流をベクトル制御する手順を実行させることを特徴とするプログラムを記録する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、6相巻線を備えたスイッチトリラクタンスモータにおいて、各相の相電流を正確に制御してトルクを向上させることが可能なモータ装置、モータ制御方法、プログラムおよび記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係るモータ装置100の構造例を示す模式図である。
【
図2】モータ装置100におけるスイッチインバータ部20の制御を示すタイミングチャートであり、スイッチインバータ部20の各相スイッチに印加される信号を示している。
【
図3】モータ部10のコイルに流れる相電流を模式的に示すグラフである。
【
図4】モータ部10における座標系の関係を示す模式図であり、
図4(a)は静止座標系であるαβ座標系とABCDEF相の相座標系の関係を示し、
図4(b)は静止座標系であるαβ座標系と回転子11の回転座標系であるdq座標系の関係を示している。
【
図5】モータ部10における回転座標系について模式的に示す図であり、
図5(a)は回転子11および固定子12におけるd軸とq軸を示し、
図5(b)は推定座標系であるγδ座標系と回転座標系であるdq座標系の関係を示している。
【
図6】第1実施形態の制御部30におけるベクトル制御について説明する制御フロー図である。
【
図7】第2実施形態の制御部30におけるベクトル制御について説明する制御フロー図である。
【
図8】推定座標系であるγδ座標系における誘起電圧オブザーバを模式的に示す制御ブロック図である。
【
図9】第2実施形態におけるセンサレス制御での推定角速度ω
Mと推定角度θ
Mの算出について説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、本実施形態に係るモータ装置100の構造例を示す模式図である。
図1に示すようにモータ装置100は、モータ部10とスイッチインバータ部20と制御部30を備えている。
【0019】
図1に示すように本実施形態のモータ部10は、回転子(ロータ)11と、回転子11の周囲に配置された固定子(ステータ)12を備えている。また、回転子11には、外周に沿って強磁性体からなるロータティース(突極)が配置されている。また固定子12は、コアバック部とその内周に突出して形成された複数のティース部13を備えている。また、各ティース部13に巻線(コイル)14が、A1相巻線~F1相巻線、A2相巻線~F2相巻線として順に巻回されている。
図1に示した例では、モータ装置100は10突極12スロットのスイッチトリラクタンスモータを構成している。モータ部10の突極数Pとスロット数Sは、10極12スロットには限定されないが、P:S=5:6の比率となっている。また、ティース部13への各相の巻回方法も集中巻きに限定されず分布巻きであってもよい。
【0020】
コアバック部は、回転子11の外側に回転子11の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部13が等間隔に突出して形成されている。コアバック部には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0021】
ティース部13は、コアバック部の内周面から回転子11に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部13は同じ長さと形状で形成されると共に等間隔に配置されており、各ティース部13の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部13およびスロットには、巻線14が巻回されており、巻線14に電流が流れることでティース部13に磁界が発生する。
【0022】
図1に示したように、各巻線14は固定子12の円周に沿って順にA1相、B1相、C1相、D1相、E1相、F1相、A2相、B2相、C2相、D2相、E2相、F2相として12スロットが配置されており、6相巻線が2周期で合計12スロットが構成されている。ここで、A1相巻線~F1相巻線とA2相巻線~F2相巻線は、対応する相を合わせてA相巻線~F相巻線を構成している。換言すると、A相巻線~F相巻線のうち第1部分巻線がA1相巻線~F1相巻線であり、第2部分巻線がA2相巻線~F2相巻線である。6相巻線であるA相巻線~F相巻線の相互の接続例としては、各巻線の一端が共通の中性点に接続され、他端がスイッチインバータ部20の各相に接続されたスター結線を用いることができる。
【0023】
上述したようにA相巻線~F相巻線が1周期6スロットを構成しており、電気角においては1周期が360度であるため、各相の間は電気角で60度の位相差とされている。また、A相とC相、C相とE相、B相とD相、D相とF相は、それぞれ電気角で120度の位相差で配置されている。したがって6相のうち、A相とE相とC相の3相の組み合わせ、およびD相とB相とF相の3相の組み合わせは、それぞれ電気角の位相差が120度の3相交流を構成している。
【0024】
スイッチインバータ部20は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に6つのスイッチ群(A群~F群)が並列に接続されている。各スイッチ群には、2つのスイッチが直列接続されており、合計12個のスイッチによって、モータ部10のA相巻線~F相巻線に対応した6相スイッチインバータのスイッチA相~スイッチF相が構成されている。ここではスイッチインバータ部20として6相スイッチインバータを用いたが、9個のスイッチを用いた改良型9スイッチインバータを用いるとしてもよい。
【0025】
各スイッチは、それぞれドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースが接地電圧側(下流側)に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に逆接続された等価回路となる。また、各スイッチは制御部30によって動作が制御される。
【0026】
制御部30は、予め定められたプログラムに従って情報処理を行い、モータ装置100の各部を制御する演算部であり、CPU(中央演算処理装置:Central Processing Unit)等で実現される。また、制御部30はモータ装置100の各部から情報を取得してプログラムに従って演算処理を行う。制御部30には、メモリー装置や入出力装置、表示装置などが接続され、プログラムやデータの記録、演算結果の出力や表示等を行うこととしてもよい。また制御部30は、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行することで本発明におけるモータ装置100の制御方法を実行する。
【0027】
制御部30は、スイッチインバータ部20からモータ部10の各相に供給される電流値と、モータ部10に設けられた角度センサの出力を検出し、検出した電流値と角度に基づいてベクトル制御を行い、スイッチインバータ部20の各スイッチに対してオン信号またはオフ信号を供給する部分である。制御部30の構成及び動作についての詳細は後述する。
【0028】
図2は、モータ装置100におけるスイッチインバータ部20の制御を示すタイミングチャートであり、スイッチインバータ部20の各相スイッチに印加される信号を示している。
図2の横軸は電気角(度)を示し、縦軸は各スイッチに印加されるオン信号とオフ信号を示している。
図2に示したように、A相~F相の各スイッチには、オン信号とオフ信号が180度(π)ずつ交互に印加される。また、A相~F相のオン信号とオフ信号は、それぞれ60度(π/3)ずつ位相がずれている。また、A相とD相、B相とE相、C相とF相は位相が180度(π)異なって互いに反転した信号が印加されている。換言すると、A相~F相の各スイッチには、A相、C相、E相と、B相、D相、F相の2つの三相交流信号が印加されている。したがって、巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2は、スイッチA相~F相で制御されることで、それぞれ2つの三相モータを備えた合計6相を有するモータとして機能する。
【0029】
図3は、モータ部10のコイルに流れる相電流を模式的に示すグラフである。
図3に示したように、A相巻線に流れる電流とD相巻線に流れる電流は、位相が同じ正弦波であり、A相は正方向に直流成分(+DC)だけオフセットされ、D相は負方向に直流成分(-DC)だけオフセットされている。したがって、A相とD相の電流値の合計は常に0となる。ここではA相とD相のみを示したが、C相とF相、E相とB相も同様である。
【0030】
次に、制御部30によるベクトル制御を説明するための座標系について、
図4、
図5を用いて説明する。
図4は、モータ部10における座標系の関係を示す模式図であり、
図4(a)は静止座標系であるαβ座標系とABCDEF相の相座標系の関係を示し、
図4(b)は静止座標系であるαβ座標系と回転子11の回転座標系であるdq座標系の関係を示している。
図5は、モータ部10における回転座標系について模式的に示す図であり、
図5(a)は回転子11および固定子12におけるd軸とq軸を示し、
図5(b)は推定座標系であるγδ座標系と回転座標系であるdq座標系の関係を示している。
図4、
図5に示したように、回転座標系のdq軸は静止座標系のαβ軸から電気角θだけ回転したものであり、推定座標系のγδ軸はdq軸とΔθだけ遅れており、その際のγ軸とα軸の差が推定角度θ
Mである。
【0031】
図6は、本実施形態の制御部30におけるベクトル制御について説明する制御フロー図である。制御部30は、モータ部10の角度と電流を検知しながら、スイッチインバータ部20を制御してモータ部10に対して電流を供給する。
図6に示すように制御部30は、変換部31と、速度PI制御部32と、電流制御部33と、逆変換部34を備えている。
【0032】
仮に、6相のスイッチトリラクタンスモータのベクトル制御を行う際に、A相とD相、B相とE相、C相とF相の2相ずつを組み合わせた後に3相ベクトル制御を行うとする。この場合には、
図2および
図3に示したように、2相の電流値は互いに正負の方向にオフセットされているため、合計電流での制御では直流成分である+DCと-DCが打ち消しあって制御対象から外れてしまうため6相全体での相電流を正確に制御することが困難になる。そこで本発明のモータ装置100および制御方法では、A相とC相とE相の3相と、B相とD相とF相の3相のそれぞれにベクトル制御を適用し、直流成分DCについても導出および制御の対象とする。
【0033】
スイッチトリラクタンスモータの回路方程式は、次の一般式で表される。ここで、vは電圧、Rは抵抗、Lはインダクタンス、iは電流、θは回転子11の角度、ωは回転子11の角速度を示している。d軸インダクタンスとq軸インダクタンスを求めるためにはdq座標系での回路方程式を求める必要がある。
【数1】
各相を流れる相電流は、直流成分をI
dcとし、振幅をI
ac1とすると、以下の電流行列で表される。電流行列には直流成分であるI
dcを含んでいるため、交流成分が同じでも直流成分が異なる相を別の電流として取り扱い、直流成分を考慮したベクトル制御を行うことができる。ここで、θ=ωtである。
【数2】
【0034】
また、相座標系から静止座標系への座標系変換と、静止座標系から回転座標系への座標系変換を行う変換行列は、次に示すものとなる。
【数3】
また、回転座標系から静止座標系への座標系変換を行い、静止座標系から相座標系への座標系変換を行う逆変換行列は、次に示すものとなる。
【数4】
上述したように、変換行列および逆変換行列は、ともに直流成分を含めた6行6列で表される。これにより、上述した6相の電流行列を変換行列と逆変換行列で演算して、直流成分を含めた正確な6相ベクトル制御を行うことができる。
【0035】
また、
【数5】
【数6】
とおくと、dq座標系での回路方程式は以下の式で表される。
【数7】
ここでv
dは電圧のd軸成分であり、v
qは電圧のq軸成分であり、v
dcは電圧の直流成分であり、i
dは電流のd軸成分であり、i
qは電流のq軸成分であり、i
dcは電流の直流成分である。
【0036】
図6に示したように制御部30では、モータ部10を流れる相電流i
a,i
b,i
c,i
d,i
e,i
fと、モータ部10の角度センサが検出した回転子11の角度θを取得する。変換部31は、取得した相電流i
a,i
b,i
c,i
d,i
e,i
fと角度θに基づいて、電流のd軸成分i
dとq軸成分i
qと直流成分i
dcを導出する。電流の各成分の導出には、上述した電流行列および変換行列が用いられる。変換部31で導出された電流のd軸成分i
dとq軸成分i
qと直流成分i
dcは、電流制御部33に伝達される。
【0037】
速度PI制御部32は、角度センサから得られた角度θの変化量から角速度ωを算出し、目標角速度ω*との比較によって目標q軸成分iq
*を導出する。速度PI制御部32で導出された目標q軸成分iq
*は、電流制御部33に伝達される。
【0038】
電流制御部33は、変換部31から供給された電流のd軸成分idとq軸成分iqと直流成分idcと、目標d軸成分id
*と目標直流成分idc
*と目標q軸成分iq
*を用いて、A相C相E相の3相とD相F相B相の3相にそれぞれベクトル制御を行う。電流制御部33によるベクトル制御によって、A相C相E相およびD相F相B相に対するdq座標軸における目標電圧のd軸成分vd1、q軸成分vq1、直流成分vdc1およびd軸成分vd2、q軸成分vq2、直流成分vdc2が決定される。電流制御部33で決定された目標電圧のd軸成分vd1、q軸成分vq1、直流成分vdc1およびd軸成分vd2、q軸成分vq2、直流成分vdc2は、逆変換部34に伝達される。
【0039】
逆変換部34は、dq座標軸における目標電圧のd軸成分vd1、q軸成分vq1、直流成分vdc1およびd軸成分vd2、q軸成分vq2、直流成分vdc2と角度θに基づいて、スイッチインバータ部20の各相スイッチの制御信号であるオン信号/オフ信号を決定する。各相スイッチに対する制御信号の決定には、上述した電流行列および逆変換行列が用いられる。逆変換部34で決定された制御信号は、スイッチインバータ部20の各相スイッチに入力される。
【0040】
上述したように、本実施形態のモータ装置100および制御方法では、制御部30がモータ部10の相電流から回転子11の回転座標系における電流のd軸成分とq軸成分と直流成分を導出し、d軸成分とq軸成分と直流成分に基づいて、6相巻線に供給する相電流をベクトル制御している。これにより、6相スイッチトリラクタンスモータにおいて、モータ部10の各相における相電流を正確に制御してトルクを向上させることが可能となる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図7を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図7は、本実施形態の制御部30におけるベクトル制御について説明する制御フロー図である。本実施形態では、モータ部10における回転子11の角度θを角度センサを用いずに推定してセンサレス制御を行う点が第1実施形態とは異なっている。
図7に示すように制御部30は、変換部31と、速度PI制御部32と、電流制御部33と、逆変換部34と、オブザーバ35を備えている。
【0042】
図7に示したように制御部30では、モータ部10を流れる相電流i
a,i
b,i
c,i
d,i
e,i
fを取得する。変換部31は、取得した相電流i
a,i
b,i
c,i
d,i
e,i
fと、オブザーバ35が導出した推定角度θ
Mに基づいて、電流の推定δ軸成分i
δと推定γ軸成分i
γと直流成分i
dcを導出する。電流の各成分の導出には、上述した電流行列および変換行列が用いられる。変換部31で導出された電流のγ軸成分i
γとδ軸成分i
δと直流成分i
dcは、オブザーバ35に伝達される。
【0043】
オブザーバ35は、
図5(b)に示したように回転座標系のdq軸と推定座標系のγδ軸の差をΔθとして、回転座標系における誘起電圧を算出する。また、推定座標系のγδ軸における推定電圧v
γ、v
δと、推定電流i
γ、i
δおよび誘起電圧に基づいて、回転子11の推定角度θ
Mおよび推定角速度ω
Mを算出する。オブザーバ35で算出された推定角度θ
Mは変換部31および逆変換部34に伝達され、推定角速度ω
Mは速度PI制御部32に伝達される。
【0044】
速度PI制御部32は、オブザーバ35で算出された推定角度θMの変化量から角速度ωMを算出し、目標角速度ω*との比較によって目標γ軸成分iγ
*を導出する。速度PI制御部32で導出された目標γ軸成分iγ
*は、電流制御部33に伝達される。
【0045】
電流制御部33は、変換部31から供給された電流のγ軸成分iγとδ軸成分iδと直流成分idcと、目標γ軸成分iγ
*と目標直流成分idc
*と目標δ軸成分iδ
*を用いて、A相C相E相の3相とD相F相B相の3相にそれぞれベクトル制御を行う。電流制御部33によるベクトル制御によって、A相C相E相およびD相F相B相に対するγδ座標軸における目標電圧のγ軸成分vdγ1、δ軸成分vδ1、直流成分vdc1およびγ軸成分vγ2、δ軸成分vδ2、直流成分vdc2が決定される。電流制御部33で決定された目標電圧のγ軸成分vγ1、δ軸成分vδ1、直流成分vdc1およびγ軸成分vγ2、δ軸成分vδ2、直流成分vdc2は、逆変換部34に伝達される。
【0046】
逆変換部34は、γδ座標軸における目標電圧のγ軸成分vγ1、δ軸成分vδ1、直流成分vdc1およびγ軸成分vγ2、δ軸成分vδ2、直流成分vdc2と推定角度θMに基づいて、スイッチインバータ部20の各相スイッチの制御信号であるオン信号/オフ信号を決定する。各相スイッチに対する制御信号の決定には、上述した電流行列および逆変換行列が用いられる。逆変換部34で決定された制御信号は、スイッチインバータ部20の各相スイッチに入力される。
【0047】
次に、オブザーバ35における推定座標系での推定角度θ
Mおよび推定角速度ω
Mの算出について説明する。本実施形態のモータ装置100をセンサレス制御するために、オブザーバ35では、[数7]に示した回路方程式を拡張誘起電圧項を含む次の形に変形して用いる。ここで、第1項から第3項までは通常の3相モータをセンサレス制御する際の拡張誘起電圧項を生成する際と同じ内容となっている。また、第4項および第5項が拡張誘起電圧項となっている。
【数8】
【0048】
図5(b)に示したように、推定座標系であるγδ軸は、回転座標系であるdq軸からΔθだけ異なるものであるため、dq座標系をΔθだけ回転させる座標変換によって、dq座標系をγδ座標系に変換する。このとき、直流成分については回転させない行列と逆行列を用いる。また、突極数をpとする。最終的に得られる推定座標系における回路方程式は以下のものとなる。得られた回路方程式における第3項および第4項は、外乱に相当している。
【数9】
【0049】
図8は、推定座標系であるγδ座標系における誘起電圧オブザーバを模式的に示す制御ブロック図である。
図8では回転座標系であるdq軸成分と、推定座標系であるγδ軸成分についての添え字は省略している。
図8に示すようにオブザーバ35は、推定電圧v
γ、v
δと外乱e
d、e
qに基づいたモータモデルによって推定電流i
γ、i
δが導出される。また、導出された推定電流i
γ、i
δは、逆モータモデルに入力され、推定電圧v
γ、v
δと逆モータモデルの算出結果との差がローパスフィルタ(K
L/T
LS+1)に入力される。ローパスフィルタの出力が推定外乱e^
d、e^
qとなる。dq座標系でのd軸の誘起電圧はゼロであるため、γδ推定座標系とdq回転座標系の角度誤差Δθは次式で求めることができる。
【数10】
【0050】
さらにオブザーバ35は、上述した[数10]で導出された角度誤差Δθを用いてPI制御を行う。
図9は、本実施形態におけるセンサレス制御での推定角速度ω
Mと推定角度θ
Mの算出について説明する制御ブロック図である。角度誤差Δθから推定角速度ω
Mと推定角度θ
Mを算出するためには、
図9(a)に示すような制御ブロックを用いればよい。しかし本実施形態のモータ装置100では、目標角度θ
refが不明なため、
図9(a)の制御ブロックは成立しない。
【0051】
ところが、角度誤差Δθは目標角度θ
refと推定角度θ
Mの差であり、Δθ=θ
ref-θ
Mであり、Δθを0にする制御を実行するため、
図9(a)は
図9(b)に書き換えることができる。さらに、
図9(b)のブロック図を展開すると、
図9(c)のブロック図となる。したがって、[数10]で求めた角度誤差Δθを用いることで、オブザーバ35では推定角速度ω
Mと推定角度θ
Mを算出することができる。また
図7に示したように、オブザーバ35が算出した推定角速度ω
Mと推定角度θ
Mを用いることで、制御部30は推定座標系における演算のみで6相スイッチトリラクタンスモータをベクトル制御により回転させることができる。
【0052】
上述したように、本実施形態のモータ装置100および制御方法では、制御部30がモータ部10の相電流から回転座標系における誘起電圧を算出し、誘起電圧に基づいて回転子11の推定角速度ωMおよび推定角度θMを算出している。また、推定角速度ωMおよび推定角度θMに基づいて、回転子11の回転座標系における電圧指令値のγ軸成分とδ軸成分と直流成分を導出し、γ軸成分とδ軸成分と直流成分に基づいて、6相巻線に供給する相電流をベクトル制御している。これにより、6相スイッチトリラクタンスモータにおいて、モータ部10が角度センサを備えていなくても、センサレス制御によって各相における相電流を制御して回転駆動させることが可能となる。
【0053】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
100…モータ装置
10…モータ部
20…スイッチインバータ部
30…制御部
11…回転子
12…固定子
13…ティース部
14…巻線
31…変換部
32…速度PI制御部
33…電流制御部
34…逆変換部
35…オブザーバ