(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124944
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】走行ロボット
(51)【国際特許分類】
B62D 57/028 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
B62D57/028 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028823
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】515263989
【氏名又は名称】株式会社計測工業
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】芝 雄大
(72)【発明者】
【氏名】谷田 大
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 洋吾
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 翔太
(72)【発明者】
【氏名】宋▲ヒョン▼雨
(72)【発明者】
【氏名】畑中 亮太
(57)【要約】
【課題】 被走行部の下面から上面に向けた吸着走行を容易にする走行ロボットを提供する。
【解決手段】 平板状の被走行部を下面から上面に向けて走行可能な走行ロボット1であって、走行方向の前後にそれぞれ配置されて互いに回動自在に連結された本体前部11および本体後部12を有する装置本体10と、本体前部11および本体後部12にそれぞれ支持されて被走行部に磁力により吸着する前輪20および後輪30と、前輪20および後輪30をそれぞれ駆動する前輪駆動装置22および後輪駆動装置32と、後輪30と後輪駆動装置32との間に介在された後部遊星歯車機構50と、後部遊星歯車機構50の出力軸に一体的に回動可能に取り付けられて後輪30の走行面を押圧可能な後部補助脚58と、後部補助脚58の回動を規制して後部補助脚58を本体後部12に着脱可能に固定するロック機構60とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に配置された磁性を有する平板状の被走行部を下面から上面に向けて走行可能な走行ロボットであって、
走行方向の前後にそれぞれ配置されて互いに回動自在に連結された本体前部および本体後部を有する装置本体と、
前記本体前部および本体後部にそれぞれ支持されて前記被走行部に磁力により吸着する前輪および後輪と、
前記前輪および後輪をそれぞれ駆動する前輪駆動装置および後輪駆動装置と、
前記後輪と前記後輪駆動装置との間に介在された後部遊星歯車機構と、
前記後部遊星歯車機構の出力軸に一体的に回動可能に取り付けられて前記後輪の走行面を押圧可能な後部補助脚と、
前記後部補助脚の回動を規制して前記後部補助脚を前記本体後部に着脱可能に固定するロック機構とを備え、
前記後輪は、回転軸と同心状に配置された環状の内歯車を備え、
前記後部遊星歯車機構は、前記後輪駆動装置により回転駆動される太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車との間に配置された遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアとを備え、前記キャリアに前記出力軸が一体的に連結されている走行ロボット。
【請求項2】
前記前輪駆動装置、後輪駆動装置およびロック機構の作動を制御する制御装置を更に備え、
前記制御装置は、前記後部補助脚が前記本体後部に対して前記ロック機構により固定された状態で前記後輪が前記被走行部の下面を走行中に、走行不能状態を検出して前記ロック機構を解除することにより、回動した前記後部補助脚が前記下面を押圧して前記前輪を前記被走行部の上面に向けて移動させる請求項1に記載の走行ロボット。
【請求項3】
前記前輪と前記前輪駆動装置との間に介在された前部遊星歯車機構と、
前記前部遊星歯車機構の出力軸に一体的に回動可能に取り付けられた前部補助脚とを更に備え、
前記前輪は、回転軸と同心状に配置された環状の内歯車を備え、
前記前部遊星歯車機構は、前記前輪駆動装置により回転駆動される太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車との間に配置された遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアとを備え、前記キャリアに前記出力軸が一体的に連結されている請求項1または2に記載の走行ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行ロボットに関し、より詳しくは、被走行部の走行面に磁力により吸着して走行する走行ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等の構造物の壁面を走行する走行ロボットとして、例えば、特許文献1に開示された移動装置が知られている。この移動装置は、ベース部材の左右両側に固定された第1非変形部の前後に、変形部を介して第2非変形部がそれぞれ支持されており、各第2非変形部には、永久磁石を有する車輪を支持する懸架部材が取り付けられている。
【0003】
この移動装置によれば、変形部の変形によって、走行面の状況に応じて柔軟に対応しつつ移動することができ、例えば、オーバーハング部の水平な下面から垂直な側面を乗り越えて上面に移行可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の走行ロボットは、被走行部の下面から上面に向けて走行する際に、スムーズに移行できないおそれがあった。
図11は、従来の走行ロボット100の一例を示す側面図であり、前輪20および後輪30をそれぞれ支持する本体前部11および本体後部12が、回動軸13により互いに回動可能に連結されている。
【0006】
この走行ロボット100が、水平な平板状の被走行部90を下面91から上面92に向けて矢示A方向に走行する際に、前輪20および後輪30が上面92および下面91にそれぞれ吸着した状態になると、後輪30の駆動による矢示B方向の移動によって、走行ロボット100には矢示C方向のモーメントが作用する。一方、本体前部11および本体後部12には、前輪20および後輪30の回転に伴い矢示D1方向および矢示D2方向の反トルクが作用すると共に、自重による矢示D3方向の力が作用するため、走行ロボット100には、これらの合力として、矢示C方向とは逆方向である矢示E方向のモーメントが作用する。このため、矢示E方向のモーメントが矢示C方向のモーメントよりも大きくなる条件においては、走行ロボット100が走行不能になるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、被走行部の下面から上面に向けた吸着走行を容易にする走行ロボットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、水平に配置された磁性を有する平板状の被走行部を下面から上面に向けて走行可能な走行ロボットであって、走行方向の前後にそれぞれ配置されて互いに回動自在に連結された本体前部および本体後部を有する装置本体と、前記本体前部および本体後部にそれぞれ支持されて前記被走行部に磁力により吸着する前輪および後輪と、前記前輪および後輪をそれぞれ駆動する前輪駆動装置および後輪駆動装置と、前記後輪と前記後輪駆動装置との間に介在された後部遊星歯車機構と、前記後部遊星歯車機構の出力軸に一体的に回動可能に取り付けられて前記後輪の走行面を押圧可能な後部補助脚と、前記後部補助脚の回動を規制して前記後部補助脚を前記本体後部に着脱可能に固定するロック機構とを備え、前記後輪は、回転軸と同心状に配置された環状の内歯車を備え、前記後部遊星歯車機構は、前記後輪駆動装置により回転駆動される太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車との間に配置された遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアとを備え、前記キャリアに前記出力軸が一体的に連結されている走行ロボットにより達成される。
【0009】
この走行ロボットは、前記前輪駆動装置、後輪駆動装置およびロック機構の作動を制御する制御装置を更に備えることが好ましく、前記制御装置は、前記後部補助脚が前記本体後部に対して前記ロック機構により固定された状態で前記後輪が前記被走行部の下面を走行中に、走行不能状態を検出して前記ロック機構を解除することにより、回動した前記後部補助脚が前記下面を押圧して前記前輪を前記被走行部の上面に向けて移動させることができる。
【0010】
また、前記前輪と前記前輪駆動装置との間に介在された前部遊星歯車機構と、 前記前部遊星歯車機構の出力軸に一体的に回動可能に取り付けられた前部補助脚とを更に備えることが好ましく、前記前輪は、回転軸と同心状に配置された環状の内歯車を備え、前記前部遊星歯車機構は、前記前輪駆動装置により回転駆動される太陽歯車と、前記内歯車と前記太陽歯車との間に配置された遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアとを備え、前記キャリアに前記出力軸が一体的に連結されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被走行部の下面から上面に向けた吸着走行を容易にする走行ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る走行ロボットの斜視図である。
【
図2】
図1に示す走行ロボットを矢示X方向に見た斜視図である。
【
図3】
図1に示す走行ロボットを矢示Y方向に見た側面図である。
【
図4】
図1に示す走行ロボットの要部を示す分解斜視図である。
【
図5】
図4に示す要部の作動を説明するための模式図である。
【
図6】
図1に示す走行ロボットの他の要部を示す分解斜視図である。
【
図7】
図6に示す他の要部の作動を説明するための模式図である。
【
図8】
図1に示す走行ロボットの作動を示す工程図である。
【
図9】
図1に示す走行ロボットの他の作動を示す工程図である。
【
図10】
図1に示す走行ロボットの更に他の作動を示す工程図である。
【
図11】従来の走行ロボットの作動を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る走行ロボットの斜視図である。また、
図2は、
図1に示する走行ロボットを矢示X方向に見た斜視図であり、
図3は、
図1に示す走行ロボットを矢示Y方向に見た側面図である。
図1から
図3に示すように、走行ロボット1は、装置本体10、前輪20および後輪30を備えている。
【0014】
装置本体10は、走行方向の前後にそれぞれ配置された本体前部11および本体後部12を備えている。本体前部11および本体後部12は、
図3に示すように回動軸15により互いに回動自在に連結されて、走行方向に沿って屈曲可能に構成されている。本体前部11および本体後部12の互いに対向する上縁部にはストッパ13,14がそれぞれ設けられており、平面上を走行する際にストッパ13,14同士が互いに当接する。
【0015】
前輪20および後輪30は、本体前部11および本体後部12における左右両側の2か所にそれぞれ設けられており、個別に対応して設けられたモータ等からなる前輪駆動装置22および後輪駆動装置32に減速機21,31を介して接続されることで、それぞれ独立に回転駆動される。前輪20と前輪駆動装置22との間には前部遊星歯車機構40が介在されており、後輪30と後輪駆動装置32との間には後部遊星歯車機構50が介在されている。前輪20および後輪30の個数は特に制限されるものではなく、それぞれ3つ以上設けてもよい。あるいは、走行方向が一方向のみの場合には、前輪20および後輪30がそれぞれ単一であってもよい。
【0016】
図4は、後輪30および後部遊星歯車機構50の分解斜視図である。
図4に示すように、後輪30は、環状の着磁ヨーク31と、着磁ヨーク31の内周面に接触するように配置されたネオジム磁石等からなる磁石体32および樹脂製のローラ33とを備えている。着磁ヨーク31は、樹脂製プレート311をSS400等からなる2枚の磁性体312,313で挟んで構成されている。磁石体32およびローラ33は、いずれも円筒状に形成されており、着磁ヨーク31の内周に沿って、それぞれ3個ずつ連続するように配置されている。磁石体32やローラ33の個数は、複数であれば特に制限されない。また、後輪30の構成は、磁性体に対して磁力により吸着可能な他の公知の構成であってもよい。
【0017】
図5に要部断面図で示すように、磁性を有する被走行部90に着磁ヨーク31が載置されると、着磁ヨーク31の磁性体312,313の間を磁石体32が橋渡しすることで、着磁ヨーク31と被走行部90との間に磁気回路が形成され、着磁ヨーク31が被走行部90に磁力により吸着する。着磁ヨーク31は、側面視円形状に形成されているが、例えばギヤ状に形成してもよい。
【0018】
図4に示すように、後輪30は、着磁ヨーク31の内面側(
図2において2つの後輪30が互いに対向する側)に取り付けられたケーシング34と、着磁ヨーク31の外面側に配置されるホイールキャップ35と、ホイールキャップ35の中心部を貫通して延びる回転軸36とを更に備えており、
図2に示す後輪駆動装置32の駆動力が、減速機31を介して回転軸36に伝達される。ケーシング34は、後部遊星歯車機構50を収容可能に形成されており、内周面に回転軸36と同心状に配置された環状の内歯車37を備えている。ケーシング34は、着磁ヨーク31に固定されており、着磁ヨーク31と一体的に回転する。
【0019】
後部遊星歯車機構50は、回転軸36の先端部に固定されて後輪駆動装置32により回転駆動される太陽歯車51と、内歯車37と太陽歯車51との間に配置された複数の遊星歯車52と、遊星歯車52を支持するキャリア53とを備えている。キャリア53は円板状に形成されており、一方面から突出する複数の支持軸54のそれぞれに、遊星歯車52が回転可能に支持されている。各支持軸54の先端は、磁石体32またはローラ33が挿通されて、ホイールキャップ35により覆われている。キャリア53の他方面には、回転軸36と同軸状に配置されてケーシング34の中心部を貫通して延びる出力軸55が固定されている。太陽歯車51、遊星歯車52および内歯車37の歯数は特に制限されないが、一例として、太陽歯車51の歯数が18、各遊星歯車52の歯数が12、内歯車37の歯数が42である。
【0020】
図2に示すように、走行ロボット1の後部側には、各後部遊星歯車機構50の内面側にそれぞれ取り付けられた後部補助脚58と、本体後部12に設けられて後部補助脚58を着脱可能に固定するロック機構60とが設けられている。
図6に分解斜視図で示すように、後部遊星歯車機構50の出力軸55の基端部には、Dカット状の装着部551が設けられており、後部補助脚58の端部に形成されたD字状の開口581に装着部551が嵌合することにより、後部補助脚58が出力軸55に一体的に回動可能に取り付けられている。
【0021】
ロック機構60は、後部補助脚58を係止可能な係止爪61を備えており、出力軸55の回動による後部補助脚58の回動を係止爪61が規制して、後部補助脚58を本体後部12に固定する。ロック機構60は、リンク機構62を介して係止爪61を開閉させるアクチュエータ63を備えており、アクチュエータ63の作動により、後部補助脚58と係止爪63との係止を解除することができる。ロック機構60の具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、ソレノイドを利用して後部補助脚58を本体後部12に着脱する構成であってもよい。
【0022】
図1に示す前輪20および前部遊星歯車機構40は、
図4に示す後輪30および後部遊星歯車機構50とそれぞれ同様に構成されており、
図1に示す前部補助脚48は、前部遊星歯車機構40の出力軸に一体的に回動可能に取り付けられて、出力軸の回動により前輪20の走行面を押圧することができる。
図3に示すように、前部補助脚48は、本体前部11に設けられた係合突起111に係合することで、
図3に示す状態から時計回りの回動が規制される。
【0023】
図1から
図3には図示していないが、走行ロボット1には、前輪駆動装置22、後輪駆動装置32およびロック機構60の作動を制御する制御装置が設けられている。制御装置は、例えば、装置本体10(本体前部11または本体後部12)の上面に搭載することができる。装置本体10の上面には、制御装置以外に、例えば、橋梁、塔、タンク等の構造物の腐食の有無を検査する検査装置を搭載することができる。
【0024】
上記の構成を備える走行ロボット1は、磁性を有する構造物の壁面に前輪20および後輪30が磁力で吸着することにより、構造物の上面だけでなく、側面や下面も走行することができる。装置本体10は、本体前部11および本体後部12が互いに回動自在に連結されているため、例えば、走行ロボット1が水平面から垂直面に向けて走行する場合においても、確実に移行させることができる。
【0025】
図7は、後輪30が被走行部90を走行する状態を示す模式図である。以下の説明では、反時計回りを正方向、時計回りを負方向とする。
図7に示すように、後部遊星歯車機構50の太陽歯車51を負方向に回転させると、各遊星歯車52は正方向に回転しようとするため、キャリア53には負方向のトルクが作用し、内歯車37には正方向のトルクが作用する。キャリア53は、後部補助脚58が負方向に回動して被走行部90に当接すると回動不能になるため、各遊星歯車52は公転せずに自転する。これにより、内歯車37が正方向に回転し、後輪30は、後部補助脚58が被走行部90の走行面を押圧しながら、被走行部90を左方向に移動する。このとき、後輪30を支持する本体後部12(
図3参照)には、駆動力が伝達される回転軸36の回転方向とは反対方向の正方向の駆動反力によるトルクが作用する。一方、後部補助脚58がロック機構60(
図3参照)によりロックされて被走行部90に当接しない状態では、後輪30の左方向への移動中に、正方向の駆動反力よりも大きい負方向のトルクが本体後部12に作用する。前輪20が被走行部90を走行するときも上記と同様であり、前部補助脚48が被走行部90に当接する場合に正方向のトルクが本体前部11に作用し、前部補助脚48が本体前部11の係合突起111に係合した場合に負方向のトルクが本体前部11に作用する。
【0026】
本実施形態の走行ロボット1は、このような原理を利用することで、橋梁のフランジ等のように水平に配置された平板状の被走行部を下面から上面に向けて走行する際に、従来のように走行不能になるおそれがある場合においても、後述するように走行を確実に継続することができる。
【0027】
図8から
図10は、走行ロボット1の作動工程図である。以下の説明では、反時計回りを正方向、時計回りを負方向とする。まず、
図8(a)に示すように、前輪20および後輪30の駆動により、水平平板状の被走行部90の下面91を走行ロボット1が矢示方向に走行している状態では、前部補助脚48が本体前部11の係合突起111に係合し、後部補助脚58がロック機構60によりロックされることで、前部補助脚48および後部補助脚58が本体前部11および本体後部12にそれぞれ固定される。この状態では、本体前部11および本体後部12に対して、それぞれ負方向のトルクが作用する。
【0028】
図8(b)に示すように、前輪20が被走行部90の端部93に到達した際に、走行ロボット1が走行不能になった場合には、ロック機構60を解除することにより、後部補助脚58が矢示方向に回動し、
図8(c)に示すように、後部補助脚58が被走行部90の下面91に当接して押圧する。これにより、本体後部12に作用するトルクが負方向から正方向に変化するため、
図8(d)に示すように、本体後部12は被走行部90の上面92に向けて持ち上げられる。このように、走行ロボット1が走行不能になった状態から、単にロック機構を解除するだけで、継続走行を容易に促すことができる。
【0029】
上記のロック機構60の解除は、走行不能状態を目視した作業者等のマニュアル操作で行ってもよく、あるいは、走行ロボット1の制御装置が走行不能状態を検出して自動で行うこともできる。走行不能状態の検出は、例えば、前輪20および後輪30を駆動する前輪駆動装置22および後輪駆動装置32の過負荷を電流値等により検知して行うことができる。また、本体前部11および本体後部12にジャイロセンサ等の姿勢センサを別途設けて、本体前部11および本体後部12が所定の姿勢になった状態を走行不能状態とみなして検出してもよい。あるいは、被走行部90の端部93との接近を検知する圧力センサ、光センサ、磁気センサ、近接センサ等の端部検知センサを装置本体10に別途設けて、端部93に所定距離まで近づいた状態を走行不能状態とみなして検出してもよい。なお、走行ロボット1が走行不能になった場合でも、走行ロボット1の後進は不要である。
【0030】
図9(a)に示すように、前輪20が被走行部90の上面92に移動して、後輪30が端部93に到達した際に、走行ロボット1が走行不能になった場合には、後輪30の駆動を手動または自動で停止することにより、本体前部11に作用する負方向のトルクによって、
図9(b)に示すように、本体前部11が負方向に回動してストッパ13,14同士が当接する。本体前部11の回動により、前部補助脚48と係合突起111との係合状態が解除されると、前部補助脚48が被走行部90の上面92に当接して押圧する。これにより、本体前部11には正方向のトルクが作用するため、
図9(c)に示すように、後輪30が被走行部90の上面92に向けて引き上げられる。
図9(d)に示すように、後輪30が前輪20と略同じ高さまで引き上げられると、前輪20の駆動により、後輪30を被走行部90の上面92にスムーズに移動させることができる。
【0031】
図10(a)に示すように、前輪20のみの駆動によって、前輪20および後輪30が被走行部90の上面92に移動した後は、前部補助脚48と係合突起111とが再び係合して、前部補助脚48が上面92から離れる一方、後部補助脚58が回動して、
図10(b)に示すように、後部補助脚58が上面92の上方に引き上げられる。この後、ロック機構60を作動させて後部補助脚58をロックすると共に、後輪30を前輪20と共に駆動することにより、走行ロボット1を通常状態で走行させることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 走行ロボット
10 装置本体
11 本体前部
12 本体後部
20 前輪
22 前輪駆動装置
30 後輪
32 後輪駆動装置
36 回転軸
37 内歯車
40 前部遊星歯車機構
48 前部補助脚
50 後部遊星歯車機構
51 太陽歯車
52 遊星歯車
53 キャリア
55 出力軸
60 ロック機構
58 後部補助脚
90 被走行部
91 下面
92 上面
93 端部